説明

内燃機関の制御装置

【課題】空燃比フィードバック制御におけるリーン側への制御異常の発生が疑われる状態においても空燃比リッチ制御を適正に実行させ、エミッションと燃料消費を良好に制御することができる内燃機関の制御装置を提供する。
【解決手段】ECU24は、燃料カット制御の終了時点から開始する空燃比リッチ制御において、空燃比フィードバック制御にて算出されるアイドル運転時の空燃比学習値に基づき、空燃比フィードバック制御におけるリーン側への制御異常の発生見込みの程度を推定する。そして、ECU24は、推定された制御異常の発生見込みの程度が小さいときには、第1実行期間の終了時点で空燃比リッチ制御の実行を終了する。一方、推定された制御異常の発生見込みの程度が大きいときには、第1実行期間よりも短い第2実行期間の終了時点で空燃比リッチ制御の実行を終了する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関における燃料カット制御の終了時点から、内燃機関の運転状態に応じて設定された期間だけ空燃比リッチ制御を実行するようにした内燃機関の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
空燃比リッチ制御は、燃料カット制御によって三元触媒中に吸蔵された過剰な酸素を放出させるために、燃料カット制御の終了時点から所定期間だけ排気空燃比をリッチ化するものである。従来、この種の技術としては、例えば特許文献1〜3に開示されるものがある。特許文献1の構成においては、燃料カット制御の終了時点から開始される空燃比リッチ制御の実行期間がエンジン回転速度及び吸気圧に応じて設定される。この構成により、エンジンの運転状態に応じて空燃比リッチ制御の実行期間が制限され、燃料カット制御の実行に基づくエミッションの悪化が適切に抑制されるとしている。
【0003】
また、特許文献2の構成においては、触媒下流側の空燃比センサの検出値がリッチとなり、かつ、燃料カット制御の終了時点からの経過時間が所定時間に達した時点で空燃比リッチ制御が終了される。この構成により、触媒中の吸蔵酸素が十分に放出された時点で空燃比リッチ制御が終了され、エミッションの悪化が抑制されるとしている。
【0004】
また、特許文献3の構成においては、燃料カット制御の終了時点から開始される空燃比リッチ制御の実行期間が、触媒の劣化度に応じて設定される。この構成により、触媒中の余分な吸蔵酸素を放出させるために必要な期間だけ空燃比リッチ制御が実行され、無駄な燃料消費が抑制されるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−189397号公報(公報第5〜7頁、第5図)
【特許文献2】特開2005−69187号公報(公報第8,9頁、第4図)
【特許文献3】特開2005−233115号公報(公報第9頁、第3図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、空燃比フィードバック制御において空燃比がリーン側へずれてしまう制御異常が発生すると、燃料カット制御の実行終了後に開始される空燃比リッチ制御によっても排気空燃比がリッチとならず、三元触媒中の吸蔵酸素が放出されない状態となる。空燃比がリーン側へずれてしまう制御異常とは、空燃比フィードバック制御における空燃比の目標値に対して、実際の空燃比の値がリーン側にずれた状態にあることをいう。この制御異常は、例えば燃料噴射弁に詰まりが生じた場合や、燃料噴射弁に燃料を圧送する燃料ポンプの供給圧低下により実際の燃料噴射量が目標値未満となっている場合、あるいは、エアフロメータの誤差により実際の吸気量が検出された吸気量を上回っている場合等に発生する。このような場合には、空燃比リッチ制御が無駄な燃料消費に繋がるため、空燃比リッチ制御の実行は好ましくない。
【0007】
しかも、空燃比フィードバック制御におけるリーン側への制御異常が発生している状態では、三元触媒の上流側で検出される排気空燃比や、三元触媒の下流側で検出される酸素濃度がリッチ側の値とならず、これらの検出値や、これらの検出値から推定される三元触媒の酸素吸蔵量に基づいて空燃比リッチ制御を終了することもできなくなる。
【0008】
そこで、空燃比フィードバック制御において空燃比がリーン側へずれてしまう制御異常が発生したときには、空燃比リッチ制御の実行を禁止することが考えられる。しかしながら、この制御異常の発生を確実に判断することは容易でない。例えば、そうした制御異常の判断方法の一つとしては次のようなものがある。すなわち、空燃比フィードバック制御では、恒常的な空燃比のずれを空燃比学習値として算出するようにしている。この空燃比学習値のリーン側へのずれが異常に大きければ、空燃比の目標値に対して検出値がリーン側へ定常的に大きくずれていることになり、空燃比フィードバック制御において空燃比がリーン側へずれてしまう制御異常の発生見込み(発生の可能性)は大きいと推定することができる。
【0009】
しかし、上記制御異常の発生見込みが大きいにも拘らず実際には排気空燃比がリッチとなっており、空燃比リッチ制御を適正に実行することができる場合があることが判明している。このような場合に空燃比リッチ制御を禁止すると、放出可能な吸蔵酸素を三元触媒から放出させることができないためにエミッションの悪化を招く。従って、リーン側への空燃比フィードバック制御異常の発生見込みについてその程度がある程度高いと推定される状況であっても、そのような制御異常が実際には発生していないときには空燃比リッチ制御を実行して三元触媒の吸蔵酸素を放出させることが好ましい。
【0010】
以上のように、リーン側への空燃比フィードバック制御異常の発生を確実に推定し、この結果に基づいて空燃比リッチ制御を適正に実行させることが好ましいが、そのような技術の提案は従来なされていない。
【0011】
この発明の目的は、空燃比フィードバック制御におけるリーン側への制御異常の発生が疑われる状態においても空燃比リッチ制御を適正に実行させ、エミッションと燃料消費を良好に制御することができる内燃機関の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に記載の発明は、燃料カット制御の実行終了時点から空燃比リッチ制御を実行するとともに、内燃機関の運転状態に応じて設定された実行期間の終了後に空燃比リッチ制御を終了する内燃機関の制御装置において、空燃比フィードバック制御にて算出される空燃比学習値に基づいて同空燃比フィードバック制御におけるリーン側への制御異常の発生見込みの程度を推定するリーン異常推定手段と、前記制御異常の発生見込みの程度が大きいほど空燃比リッチ制御の前記実行期間を短くする実行期間設定手段とを備えたことを特徴とする。
【0013】
請求項2に記載の発明は、前記空燃比学習値は、内燃機関のアイドル運転時に算出された値であることを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、前記実行期間設定手段は、前記空燃比学習値が予め設定された判定値未満のときには、前記空燃比リッチ制御の前記実行期間として第1実行期間を設定し、前記空燃比学習値が前記判定値以上のときには、前記実行期間として前記第1実行期間よりも短い第2実行期間を設定することを特徴とする。
【0014】
請求項4に記載の発明は、前記空燃比リッチ制御中の排気空燃比がリッチであるか否かを判断する排気空燃比判断手段を備え、前記実行期間設定手段は、前記空燃比学習値が前記判定値以上であり、さらに前記排気空燃比がリッチであると判断されるときに、前記実行期間として前記第2実行期間を設定することを特徴とする。
【0015】
(作用)
この発明によれば、リーン側への空燃比フィードバック制御異常の発生見込みについてその程度が大きいほど、空燃比リッチ制御が適正に実行される可能性が小さいと判断されて、空燃比リッチ制御の実行期間が短くされるため、燃料消費の増大が抑制される。逆に、リーン側への制御異常の発生見込みについてその程度が小さいと推定されるときには、実際に空燃比リッチ制御が適正に実行される可能性が大きいと判断して、空燃比リッチ制御の実行期間が長くされ、これにより三元触媒の回復が図られる。このように同構成によれば、空燃比フィードバック制御におけるリーン側への制御異常の発生見込みの程度に応じて、空燃比リッチ制御の実行期間が可変設定されるため、空燃比リッチ制御を適正に実行させることが可能となり、もってエミッションと燃料消費とを良好に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1実施形態の内燃機関の制御装置を示す構成図。
【図2】空燃比リッチ制御のフローチャート。
【図3】空燃比リッチ制御のフローチャート。
【図4】空燃比リッチ制御のフローチャート。
【図5】空燃比リッチ制御のタイムチャート。
【図6】第2実施形態における空燃比リッチ制御についてその一部を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1実施形態)
以下、この発明を具体化した第1実施形態について、図1〜図5を参照して説明する。
図1に示すように、内燃機関としてのエンジン10には、クランクシャフト11のクランク角を検出するクランク角センサ12が設けられている。また、エンジン10の吸気通路13には、エアクリーナ14、スロットルバルブ15、及び燃料噴射弁18が上流側から順に設けられるとともに、エアクリーナ14の近傍にはエアフロメータ16が、スロットルバルブ15にはスロットル開度センサ17がそれぞれ設けられている。エアフロメータ16は、吸気通路13に吸入されるエアの吸気量を検出し、スロットル開度センサ17は、スロットルバルブ15のスロットル開度を検出する。また、エンジン10の排気通路19には、三元触媒20が設けられるとともに、空燃比センサ22及び酸素センサ23が順に設けられている。空燃比センサ22は、三元触媒20の上流側における排気ガスの排気空燃比を検出し、酸素センサ23は、三元触媒20の下流側における排気ガスの酸素濃度に基づき、排気空燃比が理論空燃比よりもリッチであるかリーンであるかを判断することのできる値を出力する。
【0018】
上記各センサが出力する信号は、電子制御装置(以下、ECU(Electric Control Unit)という)24に入力され、このECU24によって燃料噴射弁18の動作が制御される。ECU24はコンピュータよりなり、その記憶部24aに格納されている制御プログラムに基づいて燃料噴射制御を実行する。ECU24は、燃料噴射制御として、エンジン10の運転中の空燃比フィードバック制御、減速時の燃料カット制御、及び燃料カット制御終了後の空燃比リッチ制御を実行する。この実施形態では、空燃比センサ22及びECU24が排気空燃比判断手段を構成し、ECU24がリーン異常推定手段及び実行期間設定手段を構成している。
【0019】
ECU24は、上記空燃比フィードバック制御は、周知の制御であり、機関運転状態に基づいて設定される目標空燃比AFpと空燃比センサ22にて検出される実際の排気空燃比AFrとが一致するように、燃料噴射弁18から噴射される燃料噴射量の補正量を算出する制御である。この空燃比フィードバック制御では、目標空燃比AFpと排気空燃比AFrとの偏差に応じてフィードバック補正量FHが算出される。また、フィードバック補正量FHが所定値以上になると空燃比学習値Gが更新され、この空燃比学習値Gには、恒常的な空燃比のずれが反映される。また、酸素センサ23にて検出される信号に基づいてサブフィードバック補正量SFHが算出される。そして、フィードバック補正量FH、空燃比学習値G、及びサブフィードバック補正量SFHに基づいて空燃比補正量AHが算出され、この空燃比補正量AHに相当する分の燃料量が、空燃比フィードバック制御における燃料噴射量の補正量として設定される。なお、空燃比学習値Gは、エンジン10の運転領域に対応させて複数の値が算出される。例えば高負荷高回転領域に対応した空燃比学習値Gや、低負荷低回転領域に対応した空燃比学習値G、あるいはアイドル運転領域に対応した空燃比学習値G等が算出され、それらの値はECU24内の記憶部24aに保存される。
【0020】
また、ECU24は、燃料カット制御として、スロットル開度と、クランク角の加速度から取得されるエンジン回転速度とに基づいて、エンジン10の燃料供給が不要な運転状態を判定し、この運転状態のときに燃料噴射弁18からの燃料噴射を停止する。この燃料カット制御は、車両走行中におけるアクセルオフ時、すなわち減速時や、エンジン回転速度の最大許容回転速度への到達時等に実行される。
【0021】
また、ECU24は、空燃比リッチ制御として、燃料カット制御の実行が終了した時点から所定期間だけ、三元触媒20に吸蔵された酸素量に基づいて空燃比フィードバック制御における目標空燃比AFpを理論空燃比よりもリッチ側に設定し、この制御により三元触媒20中の吸蔵酸素を放出させてその浄化性能を回復させる処理を行う。すなわち、燃料カット制御中は、燃料を含まない空気が三元触媒20に流れ込むため、三元触媒20は、過剰な酸素を吸蔵して窒素酸化物(NOx)に対する還元作用が低下した状態となる。そこで、燃料カット制御の終了後には上記空燃比リッチ制御を行って燃料噴射量を増量することにより空燃比のリッチ化を図り、未燃焼燃料を含む(リッチな)排気ガスを三元触媒20に送りこむ。そして、この排気ガス中の未燃焼燃料によって三元触媒20から吸蔵酸素を放出させ、その還元作用を回復させる。
【0022】
次に、上記空燃比リッチ制御について、図2、図3、及び図4に示すフローチャートと、図5に示すタイムチャートとを参照して説明する。この空燃比リッチ制御は、所定時間毎の割り込み処理として繰り返し実行される。
【0023】
(燃料カット制御中)
図2に示すように、空燃比リッチ制御においては、先ずステップ(以下、Sと略記する)100において、燃料カット制御が実行中であるか否かが判断される。そして、燃料カット制御の実行中であればS100において肯定判定がなされ、次に図3に示すS102において、エアフロメータ16により検出された吸気量から次式(1)を用いて、燃料カット制御中に三元触媒20に吸蔵される酸素の量である酸素吸蔵量OSAが算出・積算される。
【0024】
OSA=Σ0.23×Ga … (1)
ここで、
0.23 … 空気中の酸素の割合
Ga … 吸気量(g/s)
すなわち、燃料カット制御中にこのS102の処理が繰り返し実行される毎に、燃料カット制御により三元触媒20に吸蔵されていく酸素の積算量が算出・更新される。
【0025】
S102の実行後、次にS103において、積算された酸素吸蔵量OSAが、予め設定されている酸素吸蔵量判定値αを越えたか否かが判定される。この酸素吸蔵量判定値αは、三元触媒20における最大酸素吸蔵量の例えば約半分の量であり、排気ガス中の炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)及び窒素酸化物(NOx)の全てを三元触媒20が最も効率良く浄化できるときの酸素吸蔵量である。
【0026】
S103において否定判定されたときには、今回の燃料カット制御中に三元触媒20に吸蔵された酸素量は酸素吸蔵量判定値αを越えておらず、空燃比リッチ制御の実行による三元触媒20の浄化性能の回復は不要であると判断され、この処理はそのまま終了される。
【0027】
一方、S103において肯定判定されたときには、次にS104において、後述のS107において空燃比リッチ制御による空燃比のリッチ化を実行するためのリッチ実行フラグがオフからオンに切り替えられた後、この処理は終了される。空燃比リッチ制御による空燃比のリッチ化は、燃料カット制御の終了後において上記リッチ実行フラグがオンに設定されている場合に開始される。そして、このS104以降に実行される後述のS105〜S110,S201〜S207の処理は、開始された空燃比リッチ制御を終了させるための処理である。
【0028】
(燃料カット制御終了後)
図2のフローチャートにおいて燃料カット制御の終了後には、前記S100において否定判定がなされ、次に、S101において、現在、空燃比のリッチ化が実行されているか否かが判定される。ここでの判定は、上記リッチ実行フラグがオンに設定されている場合に肯定判定され、同リッチ実行フラグがオフに設定されている場合には否定判定される。そして、リッチ実行フラグがオフに設定されている場合には、本処理は一旦終了される。
【0029】
一方、リッチ実行フラグがオンに設定されている場合には、次にS105の処理が実行される。このS105では、エアフロメータ16による吸気量Gaの検出値から、次式(2)を用いて三元触媒20における酸素吸蔵量OSAの酸素減算量ΔOSAが求められる。すなわち、燃料カット制御の終了後に空燃比リッチ制御が実行されると、三元触媒20から吸蔵酸素が徐々に放出される。そこで、S105では、吸蔵酸素の放出による単位時間当たりの酸素減算量ΔOSAが求められる。
【0030】
ΔOSA= Ga ×(AFr - AFs)/(AFr ×Ka) … (2)
ここで、
Ga … 吸気量
AFr … 実際の排気空燃比
AFs … 理論空燃比
Ka … 換算係数
S105の実行後、次にS106において、前回処理時点の酸素吸蔵量OSAと、上記酸素減算量ΔOSAとから次式(3)を用いて、三元触媒20の現時点の酸素吸蔵量OSAが求められる。
【0031】
今回のOSA ← 前回のOSA + ΔOSA … (3)
次に、S107において、リッチ実行フラグがオンであるか否かが判定される。そして、S107で否定判定され、空燃比リッチ制御の実行要求がないと判断される場合にはこの処理は終了される。一方、S107での肯定判定により、空燃比リッチ制御の実行要求があると判断される場合には、次にS108が実行される。
【0032】
S108においては、S106にて求められた現時点の酸素吸蔵量OSAが、前記酸素吸蔵量判定値α以下であるか否かが判定される。そして、S108での肯定判定により、空燃比リッチ制御の実行により三元触媒20から吸蔵酸素の一部が放出され、その酸素吸蔵量OSAが酸素吸蔵量判定値αまで減少したと判断される。この場合、次にS109において、リッチ実行フラグがオンからオフに切り替えられ、さらに、S110において、空燃比フィードバック制御における目標空燃比AFpが理論空燃比に設定された後、この処理は終了される。このS109,S110の実行により、空燃比のリッチ化が終了される。
【0033】
一方、前記S108で否定判定されたときには、次にS111において、酸素センサ23の出力値が、排気ガスがリッチであるか否かを判定するために予め設定されているリッチ判定値β以上であるか否かが判定される。このS111で肯定判定される場合には、空燃比リッチ制御の実行により三元触媒20から十分な量の吸蔵酸素が放出されたため、吸蔵酸素の放出が緩慢になったことで、酸素センサ23の出力値はリッチ判定値β以上になったと判断される。そして、この場合は、S108における肯定判定時と同様に、S109,S110が実行され、空燃比のリッチ化が終了される。
【0034】
上記S111で否定判定されるときには、次に、図4のフローチャートに示すS201において、空燃比フィードバック制御において算出されたアイドル運転時の空燃比学習値Gが、予め設定されている判定値γ以上であるか否かが判定される。このS201以降の処理は、空燃比リッチ制御が実行されているにも拘らず、空燃比センサ22や酸素センサ23により排気空燃比のリッチ化が検出できない場合に、空燃比リッチ制御を終了するために実行される処理である。
【0035】
すなわち、空燃比フィードバック制御において、空燃比が理論空燃比よりもリーン側にずれる制御異常が発生したときには、空燃比リッチ制御において空燃比センサ22や酸素センサ23による排気空燃比の検出値がリッチ側の値とならず、S105における酸素減算量ΔOSAの算出や、S111におけるリッチ状態の検出が不可能となる。このため、それらの検出結果に基づいて空燃比リッチ制御を終了することができなくなる。また、リーン側への空燃比フィードバック制御異常が発生していなくても、空燃比センサ22や酸素センサ23の検出誤差により排気空燃比のリッチ化が検出できない場合がある。このような場合にも、空燃比センサ22や酸素センサ23の検出結果に基づいて空燃比リッチ制御を終了することができなくなる。そこで、S201以降の処理では、空燃比センサ22や酸素センサ23の検出値によらずに空燃比リッチ制御を終了させる処理が実行される。
【0036】
このS201において否定判定される、すなわち空燃比学習値Gが判定値γ未満であると判定される場合には、空燃比学習値Gがリーン側の値になっていないと判断することができ、これにより、空燃比フィードバック制御においてリーン側への制御異常が生じている見込みの程度は小さいと判断される。この場合、次にS202において、仮想吸気量GAvとして第1仮想吸気量GAv1(例えば1.0g/sなど)が設定される。
【0037】
一方、S201において肯定判定される、すなわち空燃比学習値Gが判定値γ以上であると判定される場合には、空燃比学習値Gがリーン側の値になっていると判断することができ、これにより空燃比フィードバック制御においてリーン側への制御異常が発生している見込みの程度が大きいと判断される。この場合、次のS203において、実際の排気空燃比AFrが理論空燃比よりもリッチ側の値であるか否かが判定される。S203において肯定判定されたとき、すなわち排気空燃比AFrがリッチであったときには、リーン側への空燃比フィードバック制御異常の見込みの程度は大きいと判断されたものの、実際の空燃比はリッチ化されていると判断される。そして、上記S202が実行され、仮想吸気量GAvとして上記第1仮想吸気量GAv1が設定される。
【0038】
一方、S203において否定判定されたとき、すなわち排気空燃比がリーンであったときには、次にS204において、仮想吸気量GAvとして第2仮想吸気量GAv2が設定される。この第2仮想吸気量GAv2としては、前記第1仮想吸気量GAv1よりも大きな値(例えば2.0g/sなど)が設定される。
【0039】
こうしてS202、またはS204にて仮想吸気量GAvが設定されると、次にS205において、次式(4)により酸素吸蔵量の仮想減算量ΔOSAvが算出される。なお、この式(4)は、前記式(2)において、吸気量Gaを仮想吸気量GAvに、酸素減算量ΔOSAを仮想減算量ΔOSAvに、実際の排気空燃比AFrを仮想リッチ空燃比AFrvに、換算係数Kaを換算係数Kbにそれぞれ変更した式になっている。
【0040】
ΔOSAv= GAv ×(AFrv - AFs)/(AFrv ×Kb) … (4)
ここで、
GAv … 仮想吸気量
AFrv … 仮想リッチ空燃比
AFs … 理論空燃比
Kb … 換算係数
上記仮想リッチ空燃比AFrvは、空燃比リッチ制御の実行により排気空燃比がリッチになっていると仮定した値であり、例えば、「13.5」といった値などが設定されている。また、仮想吸気量GAvとしては、S202またはS204にて設定される第1仮想吸気量GAv1または第2仮想吸気量GAv2のいずれかが設定される。
【0041】
こうして仮想減算量ΔOSAvが算出されると、S206では、次式(5)により仮想酸素吸蔵量OSAvが算出される。なお、この式(5)は、前記式(3)において、酸素吸蔵量OSAを仮想酸素吸蔵量OSAvに、酸素減算量ΔOSAを仮想減算量ΔOSAvにそれぞれ変更した式になっている。
【0042】
今回のOSAv ← 前回のOSAv + ΔOSAv … (5)
ちなみに、最初にS205が実行されるときの前回の仮想酸素吸蔵量OSAvとしては、適宜設定された初期固定値(例えば600mg)が設定される。
【0043】
次に、S207において、S206で求められた現時点の仮想酸素吸蔵量OSAvが、前記酸素吸蔵量判定値α以下であるか否かが判定される。そして、S207における否定判定時には、次にS208(図2に図示)が実行されることにより、空燃比のリッチ化が継続されて、本処理は一旦終了される。
【0044】
一方、S207において、仮想酸素吸蔵量OSAvが酸素吸蔵量判定値α以下であり、肯定判定されると、次に前記S109,S110の処理が実行され、空燃比のリッチ化が終了される。
【0045】
以上説明したように、上記空燃比リッチ制御によれば、空燃比のリッチ化により酸素吸蔵量OSAが酸素吸蔵量判定値α以下となった場合、または酸素センサ23の出力値がリッチ判定値β以上となった場合に空燃比リッチ制御による空燃比のリッチ化が終了される。
【0046】
また、上記空燃比リッチ制御によれば、仮想酸素吸蔵量OSArが酸素吸蔵量判定値α以下となった場合にも空燃比リッチ制御による空燃比のリッチ化が終了される。そのため、空燃比フィードバック制御において、空燃比が理論空燃比よりもリーン側にずれる制御異常が発生したと見込まれる場合であっても、空燃比リッチ制御を適正に実行させることが可能となり、もってエミッションと燃料消費とを良好に制御することができる。
【0047】
仮想酸素吸蔵量OSArが酸素吸蔵量判定値α以下となった場合に、空燃比リッチ制御による空燃比のリッチ化を終了させるようにした作用効果について、図5を併せ参照して説明する。
【0048】
なお、図5では、上記S201以降の処理が行われるときの仮想酸素吸蔵量OSArの変化態様を示している。また、同図5において実線に示す空燃比リッチ制御の実行態様は、式(4)における仮想吸気量GAvとして上記第1仮想吸気量GAv1が設定された場合の変化態様を示す。そして、同図5において二点鎖線に示す空燃比リッチ制御の実行態様は、式(4)における仮想吸気量GAvとして上記第2仮想吸気量GAv2が設定された場合の変化態様を示す。
【0049】
この図5に示すように、時刻t1において、それまで実行されていた燃料カット制御が中止されると、空燃比リッチ制御が開始される。そしてこの時刻t1においては、仮想酸素吸蔵量OSArとして初期固定値が設定される。そして、上記式(4)から求められる仮想減算量ΔOSAvに基づき、時間経過とともに仮想酸素吸蔵量OSArが減少されていき、酸素吸蔵量判定値α以下になると空燃比リッチ制御は終了される。
【0050】
ここで、リーン側への空燃比フィードバック制御異常が発生したとする見込みの程度が小さく(S201での否定判定)、空燃比リッチ制御が有効に実行される見込みが大きいと判断されたとき、または実際の排気空燃比AFrがリッチであるとき(S203での肯定判定)には、式(4)における仮想吸気量GAvとして上記第1仮想吸気量GAv1が設定される。この第1仮想吸気量GAv1は上記第2仮想吸気量GAv2よりも小さい値であるため、式(4)における仮想吸気量GAvとして第2仮想吸気量GAv2が設定されるときよりも仮想減算量ΔOSAvは小さい値になる。従って、上記式(5)にて算出される仮想酸素吸蔵量OSArが酸素吸蔵量判定値α以下になるまでの期間も長くなる。そのため、空燃比リッチ制御が実行される期間(図5に示す第1実行期間T1:時刻t1から時刻t3の期間)は長くなり、三元触媒20の酸素吸蔵量OSAの減少を図ることができる。
【0051】
一方、リーン側への空燃比フィードバック制御異常が発生したとする見込みの程度が大きく(S201での肯定判定)、空燃比リッチ制御が有効に実行される見込みが小さいと判断されるときであって、実際の排気空燃比AFrがリッチでないとき(S203での否定判定)には、式(4)における仮想吸気量GAvとして、上記第1仮想吸気量GAv1よりも大きい値が設定されている第2仮想吸気量GAv2が設定される。そのため、式(4)における仮想吸気量GAvとして第1仮想吸気量GAv1が設定されるときよりも仮想減算量ΔOSAvは大きい値になる。従って、上記式(5)にて算出される仮想酸素吸蔵量OSArが酸素吸蔵量判定値α以下になるまでの期間は短くなり、空燃比リッチ制御が実行される期間(図5に示す第2実行期間T2:時刻t1から時刻t2の期間)は、上記第1実行期間T1に比して短くなる。このように空燃比リッチ制御の実行期間が短くなることにより、燃料消費の増大が抑えられる。また、仮に制御異常ではなく空燃比センサ22や酸素センサ23に検出誤差があった場合でも、少なくとも空燃比リッチ制御が実行されるため、同空燃比リッチ制御の実行を禁止してしまう場合と比較して三元触媒20の酸素吸蔵量OSAの減少を図ることができる。
【0052】
以上詳述したこの実施形態は、以下の各効果を有する。
(1)ECU24は、燃料カット制御の終了時点から開始する空燃比リッチ制御において、空燃比フィードバック制御にて算出された空燃比学習値Gに基づいて、リーン側への空燃比フィードバック制御異常の発生見込みの程度を推定する。そして、ECU24は、その推定された発生見込みの程度が大きいほど、空燃比リッチ制御が適正に実行される可能性が小さいと判断し、上記仮想吸気量GAvとして第2仮想吸気量GAv2を設定する。これにより空燃比リッチ制御の実行期間が短くされるため(上記第2実行期間T2)、燃料消費の増大が抑制される。逆に、リーン側への制御異常の発生見込みについてその程度が小さいと推定されるときには、実際に空燃比リッチ制御が適正に実行される可能性が大きいと判断し、上記仮想吸気量GAvとして第1仮想吸気量GAv1を設定する。これにより空燃比リッチ制御の実行期間が長くされるため(上記第1実行期間T1)、三元触媒の回復が十分に図られる。このように空燃比フィードバック制御におけるリーン側への制御異常の発生見込みの程度に応じて、空燃比リッチ制御の実行期間が可変設定されるため、空燃比リッチ制御を適正に実行させることが可能となり、もって燃料カット制御終了後のエミッションと燃料消費とを良好に制御することができる。
【0053】
(2)空燃比リッチ制御は、主に減速時の燃料カット制御が終了した後に行われることが多く、この燃料カットの復帰以降は、機関運転状態がアイドル運転状態になることが多い。そこで、上記実施形態では、空燃比リッチ制御の実行に際して、アイドル運転時に算出された空燃比学習値Gに基づき、リーン側への空燃比フィードバック制御異常の発生見込みの程度を推定するようにしており、これによりリーン側への空燃比フィードバック制御異常の発生の有無を精度良く推定することができる。
【0054】
(3)ECU24は、空燃比学習値Gが予め設定された判定値γ未満のときには、仮想吸気量GAvとして第1仮想吸気量GAv1を設定することにより、空燃比リッチ制御の実行期間が上記第1実行期間T1となるようにする。一方、空燃比学習値Gが判定値γ以上のときには、仮想吸気量GAvとして第2仮想吸気量GAv2を設定することにより、空燃比リッチ制御の実行期間が第1実行期間T1よりも短い第2実行期間T2となるようにする。従って、簡単なロジックにより、空燃比リッチ制御の実行期間を適切に設定することができるため、ECU24における処理負荷の増大を抑制することができる。
【0055】
(4)ECU24は、空燃比センサ22の検出値に基づいて空燃比リッチ制御中の排気空燃比がリッチであるか否かを判断する。そして、ECU24は、空燃比学習値Gが所定の判定値γ以上であり、かつ、酸素センサ23の出力値がリッチを示すときには、仮想吸気量GAvとして第1仮想吸気量GAv1を設定することにより、空燃比リッチ制御の実行期間は第2実行期間T2よりも長い第1実行期間T1にされる。従って、リーン側への空燃比フィードバック制御異常の発生についてその見込みの程度が高いと判定される場合であっても、実際の排気空燃比がリッチになっているのであれば、空燃比リッチ制御の実行期間は長くされる。このため、三元触媒20の酸素吸蔵量OSAの減少を十分に図ることができ、もって三元触媒20の浄化性能を十分に回復させることができる。
【0056】
(第2実施形態)
次に、この発明を具体化した第2実施形態について、図6に示すフローチャートを参照して説明する。この実施形態については、前記第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0057】
前記第1実施形態では、仮想吸気量GAvを可変設定することにより、空燃比リッチ制御の実行期間を変更するようにしたが、本実施形態では、空燃比学習値Gに基づいてカウント値を可変設定することにより、空燃比リッチ制御の実行期間を変更するようにしている。
【0058】
この実施形態においては、第1実施形態の空燃比リッチ制御におけるS201〜S207の処理に代えて、図6のフローチャートに示すS301〜S305の処理を行う。
まず、S111における否定判定の次に実行するS301において、この後に実行するS303で設定されるカウントフラグがオンであるか否かを判定する。このS301で否定判定されたときには、次にS302において、アイドル運転時に算出された空燃比学習値Gに応じて、空燃比リッチ制御の実行期間を決定するためのカウント値Kが設定される。このカウント値Kの設定は、ECU24の記憶部24aに記憶されたマップを用いて行われ、このマップは、空燃比学習値Gが大きいほど、すなわち、空燃比フィードバック制御におけるリーン側への制御異常の発生見込みの程度が大きいほど大きなカウント値Kを設定するようになっている。
【0059】
次に、S303にて上記カウントフラグがオフからオンに変更され、次に上述したS208が実行されることにより、空燃比のリッチ化が継続される。
一方、前記S301において肯定判定されたときには、次に実行されるS304において、前回でのカウント値Kから1だけ差し引いた値が今回の新たなカウント値Kとして算出される。なお、このS304が初回に実行されるときの前回でのカウント値Kは、上記S302で設定されたカウント値Kである。そして、次に実行されるS305においては、S304で減算された今回のカウント値Kが0となったか否かが判定される。S305において否定判定されたときには、空燃比リッチ制御の実行期間がカウント値Kに対応した期間に達していないと判断される。この場合には、上述したS208が実行され、空燃比のリッチ化が継続される。
【0060】
一方、S305において肯定判定されたときには、空燃比リッチ制御の実行期間がカウント値Kに対応した期間に達したと判断される。この場合、上述したS109,S110が実行され、空燃比のリッチ化が終了される。
【0061】
以上詳述したこの実施形態は、前記第1実施形態における(1),(2)に記載の各効果と下記の効果とを有する。
(5)ECU24は、空燃比学習値Gに基づいてカウント値Kを設定し、このカウント値Kの大小により空燃比リッチ制御の実行期間を制御する。従って、第1実施形態とは異なり、リーン側への空燃比フィードバック制御異常の発生見込みの程度に応じて、空燃比リッチ制御の実行期間を細かく設定することができる。このため、空燃比リッチ制御をさらに適正に実行させることができ、燃料カット制御終了後のエンジン10のエミッションと燃料消費をより一層適切に設定することができる。
【0062】
(他の実施形態)
・第1実施形態において、S203の処理を省略し、S201の処理のみに基づいて仮想吸気量GAvの設定を行う、すなわち空燃比リッチ制御の実行期間を設定することもできる。
【0063】
・上述した酸素吸蔵量OSAの算出態様は一例であり、他の態様にて算出するようにしてもよい。また、上述した酸素減算量ΔOSAの算出態様も一例であり、他の態様にて算出するようにしてもよい。
【0064】
・空燃比リッチ制御では、アイドル運転時に算出された空燃比学習値Gを用いるようにしたが、この他の運転領域において算出された空燃比学習値Gを用いるようにしてもよい。
【0065】
・上記仮想吸気量GAvを機関負荷に応じて可変設定するようにしてもよい。例えば機関負荷に基づいて排気の流量が多いと判断することができるときほど、仮想吸気量GAvを大きくするようにしてもよい。
【符号の説明】
【0066】
10…内燃機関としてのエンジン10、18…燃料噴射弁、22…排気空燃比判断手段を構成する空燃比センサ、24…排気空燃比判断手段を構成するリーン異常推定手段及び実行期間設定手段としての電子制御装置、AFr…排気空燃比、G…空燃比学習値、T1…第1実行期間、T2…第2実行期間。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料カット制御の実行終了時点から空燃比リッチ制御を実行するとともに、内燃機関の運転状態に応じて設定された実行期間の終了後に空燃比リッチ制御を終了する内燃機関の制御装置において、
空燃比フィードバック制御にて算出される空燃比学習値に基づいて同空燃比フィードバック制御におけるリーン側への制御異常の発生見込みの程度を推定するリーン異常推定手段と、
前記制御異常の発生見込みの程度が大きいほど空燃比リッチ制御の前記実行期間を短くする実行期間設定手段とを備えたことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記空燃比学習値は、内燃機関のアイドル運転時に算出された値であることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記実行期間設定手段は、前記空燃比学習値が予め設定された判定値未満のときには、前記空燃比リッチ制御の前記実行期間として第1実行期間を設定し、前記空燃比学習値が前記判定値以上のときには、前記実行期間として前記第1実行期間よりも短い第2実行期間を設定することを特徴とする請求項1または2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記空燃比リッチ制御中の排気空燃比がリッチであるか否かを判断する排気空燃比判断手段を備え、
前記実行期間設定手段は、前記空燃比学習値が前記判定値以上であり、さらに前記排気空燃比がリッチであると判断されるときに、前記実行期間として前記第2実行期間を設定することを特徴とする請求項3に記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−209830(P2010−209830A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−58033(P2009−58033)
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】