説明

内燃機関の制御装置

【課題】この発明は、内燃機関の制御装置に関し、内燃機関のドライバビリティの悪化を抑制しつつ、シリンダ壁面への燃料付着に起因する未燃HCの排出やオイル希釈を良好に抑制することを目的とする。
【解決手段】多気筒型の内燃機関の各気筒に対してそれぞれ備えられ、各気筒内に燃料を直接噴射可能な燃料噴射弁12を備える。シリンダ壁面温度Tbnを気筒毎に推定したうえで、各気筒に対してトルク発生のために噴射される燃料噴射量Qvnを、シリンダ壁面温度Tbnが低い気筒の方が、シリンダ壁面温度Tbnが高い気筒よりも少なくなるように設定する。そして、設定された各気筒の燃料噴射量Qvnのうちの最大値と最小値との差ΔQvnが所定値ΔQvreqよりも大きい場合に、前記差ΔQvが前記所定値ΔQvreq以内となるように、各気筒に噴射される燃料噴射量Qvnを補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関の制御装置に係り、特に、気筒内に燃料を直接噴射可能な燃料噴射弁を備える圧縮着火式の内燃機関を制御するうえで好適な内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1には、ディーゼルエンジンの制御装置が開示されている。この従来の制御装置では、排気ガスの集合部における排気ガス温度の変動に基づいて気筒毎の温度を推定するようにしている。そのうえで、推定された温度とマップ値との差の絶対値が所定値以上である場合には、推定された筒内温度が高い気筒に対してはポスト燃料噴射量を増加させ、推定された筒内温度が低い気筒に対してはポスト燃料噴射量を減少させるようにしている。上記従来の制御装置は、このような制御によって、筒内温度の低い気筒においてオイル希釈の進行抑制を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−203425号公報
【特許文献2】特開平1−237339号公報
【特許文献3】特開昭62−135620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載の技術のようにポスト燃料噴射量の調整に対してではなく、内燃機関へのトルク要求に基づくトルクを発生させるための燃料噴射量の調整に対して、シリンダ壁面への燃料付着に起因する未燃HCの排出抑制等の目的のために、気筒間または所定のグループ気筒間で燃料噴射量を異ならせる場合には、内燃機関のドライバビリティが悪化しないように配慮することが必要である。
【0005】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、内燃機関のドライバビリティの悪化を抑制しつつ、シリンダ壁面への燃料付着に起因する未燃HCの排出やオイル希釈を良好に抑制することのできる内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、内燃機関の制御装置であって、
多気筒型の内燃機関の各気筒に対してそれぞれ備えられ、各気筒内に燃料を直接噴射可能な燃料噴射弁と、
前記内燃機関のシリンダ壁面温度を、運転中の複数の気筒のうちの各気筒毎に、または運転中の複数の気筒を少なくとも2つに分けて得られるグループ気筒毎に推定するシリンダ壁温推定手段と、
運転中の前記複数の気筒のうちの各気筒または運転中の前記グループ気筒内の各気筒に対して前記内燃機関のトルク発生のために噴射される燃料噴射量を、前記シリンダ壁温推定手段により推定された前記シリンダ壁面温度が低い気筒またはグループ気筒内の各気筒の方が、前記シリンダ壁温推定手段により推定された前記シリンダ壁面温度が高い気筒またはグループ気筒内の各気筒よりも少なくなるように設定する燃料噴射量設定手段と、
前記燃料噴射量設定手段により設定された各気筒または前記グループ気筒内の各気筒に噴射される燃料噴射量のうちの最大値と最小値との差が所定値よりも大きい場合に、前記差が前記所定値以内となるように、各気筒または前記グループ気筒内の各気筒に噴射される燃料噴射量を補正する気筒間燃料噴射量補正手段と、
を備えることを特徴とする。
【0007】
また、第2の発明は、第1の発明において、
前記燃料噴射量設定手段は、
前記内燃機関へのトルク要求に基づいて、各気筒または前記グループ気筒内の各気筒で発生させるべきトルクに応じた要求燃料噴射量を算出する要求燃料噴射量算出手段と、
前記シリンダ壁温推定手段により推定された前記シリンダ壁面温度が低い気筒または前記グループ気筒内の各気筒では燃料噴射量を前記要求噴射量に対して減少させ、かつ、この燃料噴射量の減少によって運転中の前記複数の気筒での前記要求燃料噴射量の合計値が変化しないように、前記シリンダ壁温推定手段により推定された前記シリンダ壁面温度が高い気筒または前記グループ気筒内の各気筒では燃料噴射量を前記要求噴射量に対して増加させる気筒間燃料噴射量調整手段と、
を含むことを特徴とする。
【0008】
また、第3の発明は、第1または第2の発明において、
前記シリンダ壁温推定手段により推定された前記シリンダ壁面温度が所定の判定温度以下となる気筒が存在する場合に、前記燃料噴射量設定手段および前記気筒間燃料噴射量補正手段による、各気筒または前記グループ気筒内の各気筒に噴射される燃料噴射量の設定および補正を行うことを特徴とする。
【0009】
また、第4の発明は、第1乃至第3の発明の何れかにおいて、
運転中の前記複数の気筒のうちの各気筒または運転中の前記グループ気筒内の各気筒に対して実行されるポスト噴射によるポスト燃料噴射量を、前記シリンダ壁温推定手段により推定された前記シリンダ壁面温度が低い気筒またはグループ気筒内の各気筒の方が、前記シリンダ壁温推定手段により推定された前記シリンダ壁面温度が高い気筒またはグループ気筒内の各気筒よりも少なくなるように設定するポスト燃料噴射量設定手段を更に備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
第1および第2の発明によれば、運転中の各気筒または運転中のグループ気筒内の各気筒に噴射される燃料噴射量のうちの最大値と最小値との差を所定値以下に制限することにより、内燃機関のドライバビリティに実質的な影響を及ぼさないようにしつつ、シリンダ壁面温度に応じた各気筒の燃料噴射量の調整により、シリンダ壁面への燃料付着に起因する未燃HCの排出やオイル希釈を良好に抑制できるようになる。
【0011】
第3の発明によれば、何れかの気筒においてシリンダ壁面温度が低いために、シリンダ壁面への燃料付着に起因する未燃HCの排出が懸念される温度条件下において、内燃機関のドライバビリティに実質的な影響を及ぼさないようにしつつ、シリンダ壁面への燃料付着に起因する未燃HCの排出やオイル希釈を効果的に抑制できるようになる。
【0012】
第4の発明によれば、ポスト噴射の実行時に、シリンダ壁面への燃料付着に起因するオイル希釈を効果的に抑制できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態1のシステム構成を説明するための図である。
【図2】内燃機関の軽負荷運転時および高負荷運転時におけるそれぞれの課題について説明するための図である。
【図3】本発明の実施の形態1において実行されるルーチンのフローチャートである。
【図4】本発明の実施の形態1の(トルク発生のための)燃料噴射制御の具体的な内容を説明するための図である。
【図5】シリンダブロック内に形成された冷却水経路と、各気筒のシリンダ壁面温度の一例を表した図である。
【図6】燃料噴射弁により噴射されて筒内に放射状に広がる燃料の噴霧をピストン側から見た図である。
【図7】本発明の実施の形態2において実行されるルーチンのフローチャートである。
【図8】ポスト噴射時のオイル希釈レベルの推定手法を説明するための図である。
【図9】本発明の実施の形態2のポスト噴射制御の具体的な内容を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施の形態1.
[実施の形態1のシステム構成]
図1は、本発明の実施の形態1のシステム構成を説明するための図である。図1に示すシステムは、多気筒型の内燃機関10を備えている。ここでは、内燃機関10は、一例として、4サイクルのディーゼル機関(圧縮着火内燃機関)10であり、車両に搭載され、その動力源とされているものとする。本実施形態の内燃機関10は、#1〜#4の4つの気筒を有する直列4気筒型であるが、本発明における内燃機関の気筒数および気筒配置はこれに限定されるものではない。
【0015】
内燃機関10の各気筒には、燃料を筒内に直接噴射する燃料噴射弁12が設置されている。各気筒の燃料噴射弁12は、共通のコモンレール14に接続されている。コモンレール14内には、サプライポンプ16によって加圧された高圧の燃料が貯留されている。そして、このコモンレール14から各気筒の燃料噴射弁12へ燃料が供給される。各気筒から排出される排気ガスは、排気通路20の排気マニホールド18によって集合され、排気通路20に流入する。
【0016】
内燃機関10は、ターボ過給機22を備えている。ターボ過給機22は、排気ガスの排気エネルギによって作動するタービン22aと、タービン22aと一体的に連結され、タービン22aに入力される排気ガスの排気エネルギによって回転駆動されるコンプレッサ22bとを有している。
【0017】
ターボ過給機22のタービン22aは、排気通路20の途中に配置されている。タービン22aよりも下流側の排気通路20には、排気ガスを浄化可能な排気浄化装置24が設置されている。排気浄化装置24は、一例として、NOxの浄化のための触媒とともに粒子状物質PMを除去するためのパティキュレートフィルタ(DPF)を含むDPNR(Diesel Particulate NOx Reduction)触媒、および酸化触媒によって構成されている。
【0018】
内燃機関10の吸気通路26の入口付近には、エアクリーナ28が設けられている。エアクリーナ28を通って吸入された空気は、ターボ過給機22のコンプレッサ22bで圧縮された後、インタークーラ30で冷却される。インタークーラ30を通過した吸入空気は、吸気通路26の吸気マニホールド32により分配された後に各気筒に流入する。吸気通路26におけるインタークーラ30と吸気マニホールド32との間には、吸気絞り弁34が設置されている。また、吸気通路26におけるエアクリーナ28の下流近傍には、吸入空気量を検出するエアフローメータ36が設置されている。吸気通路26における吸気絞り弁34の下流には、吸気圧力(過給圧)を検知するための吸気圧力センサ38が配置されている。
【0019】
更に、図1に示すシステムは、ECU(Electronic Control Unit)40を備えている。ECU40の入力部には、上述したエアフローメータ36および吸気圧力センサ38に加え、エンジン回転数を検知するためのクランク角センサ42、および、エンジン冷却水温度(より具体的には、冷却水のエンジン入口温度)を検知するための水温センサ44等の内燃機関10の運転状態を検知するための各種センサが電気的に接続されている。また、ECU40の入力部には、内燃機関10が搭載された車両のアクセル開度を検知するためのアクセル開度センサ46が電気的に接続されている。更に、ECU40の出力部には、上述した燃料噴射弁12、サプライポンプ16および吸気絞り弁34等の内燃機関10の運転を制御するための各種のアクチュエータが電気的に接続されている。ECU40は、上述した各種センサの出力に基づき、所定のプログラムに従って各種アクチュエータを作動させることにより、内燃機関10の運転状態を制御するものである。
【0020】
[実施の形態1の制御]
(シリンダ壁面への噴射燃料の付着に起因する課題について)
本実施形態の内燃機関(ディーゼルエンジン)10のように、筒内に燃料を直接噴射する燃料噴射弁12を備える多気筒型の内燃機関では、筒内に噴射された燃料がシリンダ壁面に付着することに起因する、未燃HC排出およびオイル希釈を良好に抑制することが要求される。このような要求は、過給を利用して内燃機関の排気量のダウンサイジングを行い、かつ、その際にシリンダボアの径を縮小する手法を採用した場合において、より顕著となる。
【0021】
図2は、内燃機関10の軽負荷運転時および高負荷運転時におけるそれぞれの課題について説明するための図である。
より具体的には、図2(A)は、軽負荷運転時における未燃HC(THC)濃度とNOxの質量流量MNOxとの関係を示している。図2(A)より、軽負荷運転時には、NOxの質量流量MNOxが同一となる条件で比較した際に、燃料噴射弁12より噴射される燃料噴霧の貫徹力が高い場合よりも、当該貫徹力が低い場合の方が未燃HCの排出が多くなることが分かる。このように、噴射燃料の低貫徹力化によってシリンダ壁面に噴霧を到達させなくすることは、軽負荷運転時において未燃HCの排出を抑制するうえで有効であり、更には、軽負荷運転時か否かを問わず、オイル希釈を抑制するうえで有効である。
【0022】
一方、図2(B)は、高負荷運転時におけるスモーク排出レベルとNOxの質量流量MNOxとの関係を示している。図2(B)より、高負荷運転時には、NOxの質量流量MNOxが同一となる条件で比較した際に、高貫徹力時の方が低貫徹力時よりも、スモーク排出レベルが低くなることが分かる。その理由は、高負荷時にスモークの排出を抑制するためには、空気と燃料との混合を促進するために、高貫徹力の噴霧が要求されるからである。
【0023】
従って、軽負荷運転時の未燃HCの排出抑制とオイル希釈抑制と、高負荷運転時のスモーク排出抑制とを両立させるためには、噴霧の貫徹力の設定に頼らずに、未燃HC排出やオイル希釈を抑制できる技術が必要となる。
【0024】
(実施の形態1の制御の具体的な内容について)
図3は、本発明の実施の形態1の制御を実現するために、ECU40が実行する制御ルーチンを示すフローチャートである。尚、本ルーチンは、内燃機関10のサイクル毎に繰り返し実行されるものとする。また、図4は、本発明の実施の形態1の(トルク発生のための)燃料噴射制御の具体的な内容を説明するための図である。
【0025】
図3に示すルーチンでは、先ず、水温センサ44を用いて取得されるエンジン冷却水温度(エンジン入口温度)に基づいて、各気筒のシリンダ壁面温度Tbの推定値が算出される(ステップ100)。図5は、シリンダブロック48内に形成された冷却水経路50と、各気筒のシリンダ壁面温度の一例を表した図である。
【0026】
内燃機関10の内部を循環する冷却水は、シリンダブロック48内に形成された冷却水経路50内にウォーターポンプ(W/P)52によって導入される。冷却水は、図5(A)中に示す矢印の向きで、冷却水経路50内を流通する。冷却水は、図5(A)に示すように各気筒の周囲を吸気側から排気側に向かって通過していくことによって徐々に暖められていく。また、図5(A)中に「高温部」として示すように、隣接する気筒間のシリンダ壁面温度は高くなる。これらの要因により、シリンダ壁面温度Tbn(nは気筒番号)は、気筒によって異なるものとなる。一例としては、図5(B)に示すように、入口に近い吸気(IN)側の#1気筒近傍の部位に対して、冷却水が#4気筒側に向かうにつれ、シリンダ壁面温度が基本的に高くなっていく。また、排気(EX)側の部位は、吸気側の部位に対して、シリンダ壁面温度が高くなっている。
【0027】
図5を参照して説明したような各気筒のシリンダ壁面温度Tbnの傾向は、予め実験等に把握することができる。具体的には、ECU40には、そのような気筒間のシリンダ壁面温度の高低の関係が、冷却水のエンジン入口温度と関連付けて記憶されている。本ステップ100では、そのような関係を参照して、水温センサ44を用いて取得される冷却水温度(エンジン入口温度)に従って、各気筒のシリンダ壁面温度Tbnが算出される。図4(A)は、そのようにして算出された各気筒のシリンダ壁面温度Tbnの一例である。
【0028】
次に、上記ステップ100において算出された各気筒のシリンダ壁面温度Tbnの中に、所定の判定温度Tref以下の値があるか否かが判定される(ステップ102)。本ステップ102における判定温度Trefは、シリンダ壁面への燃料付着による未燃HCの排出が懸念される温度条件であるか否かを判断するための温度閾値として予め設定された値である。
【0029】
上記ステップ102において何れかの気筒のシリンダ壁面温度Tbnが上記判定温度Tref以下であると判定された場合には、次いで、アクセル開度センサ46を用いて取得されるアクセル開度(すなわち、内燃機関10へのトルク要求度)に基づいて、現在のアクセル開度に応じた要求トルクを得るために各気筒において噴射すべき要求燃料噴射量Qreqが算出される(ステップ104)。具体的には、本ステップ104では、各気筒で同等のトルクが発生するようにするため、図4(B)に示すように、各気筒で均等な値として要求燃料噴射量Qreqが算出される。
【0030】
次に、上記ステップ100において算出された各気筒のシリンダ壁面温度Tbnに応じて、各気筒の燃料噴射量Qvnが算出される(ステップ106)。具体的には、本ステップ106では、シリンダ壁面温度Tbnが判定温度Trefよりも低い気筒(図4の例では、#1および#4気筒)の燃料噴射量Qv1およびQv4を要求燃料噴射量Qreqに対して減少させる補正が、図4(C)に示すように行われる。そして、このような補正後に4気筒合計の燃料噴射量が要求燃料噴射量Qreqに気筒数(ここでは、4)を乗じた値から変化しないようにするために、他の気筒(図4の例では、#2および#3気筒)の燃料噴射量Qv2およびQv3を要求燃料噴射量Qreqに対して増加させる補正が、図4(C)に示すように行われる。
【0031】
次に、各気筒の燃料噴射量Qvnの中の最大値と最小値との差である、気筒間の噴射量差ΔQvが算出される(ステップ108)。図4の例の場合には、#2、3気筒の燃料噴射量Qv2、Qv3が最大値に該当し、#1気筒の燃料噴射量Qv1が最小値に該当するので、図4(C)に示すようにこれらの差が気筒間の噴射量差ΔQvとして算出される。
【0032】
次に、上記ステップ108において算出された気筒間の噴射量差ΔQvが所定の判定値ΔQvreqよりも大きいか否かが判定される(ステップ110)。本ステップ110における判定値ΔQvreqは、今回算出された気筒間の噴射量差ΔQvが存在する場合における内燃機関10のドライバビリティ悪化が、許容レベルではないか否かを判断するための閾値として予め設定された値である。
【0033】
上記ステップ110の判定が成立する場合、つまり、今回算出された気筒間の噴射量差ΔQvによる内燃機関10のドライバビリティ悪化が許容レベルではないと判断できる場合には、今回算出された気筒間の噴射量差ΔQvが上記判定値(許容値)ΔQvreq以下となるように、上記ステップ106において算出された各気筒の燃料噴射量Qvnの調整が実行される(ステップ112)。図4の例では、図4(D)に示すように、#2、3気筒の燃料噴射量Qv2、Qv3を所定量だけ減らすとともに、これらの減量分の合計値相当の燃料量だけ#1気筒の燃料噴射量Qv1を増やす処理が実行される。
【0034】
以上説明した図3に示すルーチンの処理によれば、何れかの気筒のシリンダ壁面温度Tbnが判定温度Tref以下であることで、シリンダ壁面への燃料付着による未燃HCの排出が懸念される温度条件(冷間時)であると判断できる場合には、シリンダ壁面温度Tbnに応じて、各気筒の燃料噴射量Qvnが補正される。具体的には、シリンダ壁面温度Tbnが判定温度Tref以下となる気筒の燃料噴射量Qvnが相対的に減らされるとともに、その結果として4気筒合計での燃料噴射量としては減少しないように他の気筒の燃料噴射量Qvnが増やされる。そして、そのようにして算出される各気筒の燃料噴射量Qvnの気筒間の噴射量差ΔQvが判定値ΔQvreq以下となるように制限される。
【0035】
以上のような制御によれば、気筒間の噴射量差ΔQvの制限を行うことにより、内燃機関10のドライバビリティに実質的な影響を及ぼさないようにしつつ、シリンダ壁面温度Tbnが判定温度Tref以下となる気筒の燃料噴射量Qvnを相対的に減らすことにより、シリンダ壁面への燃料付着に起因する未燃HCの排出およびオイル希釈を効果的に抑制できるようになる。また、これにより、噴霧の貫徹力の設定に頼らずに、軽負荷運転時の未燃HC排出とオイル希釈が抑制できるようになる。
【0036】
尚、上述した実施の形態1においては、ECU40が、上記ステップ100の処理を実行することにより前記第1の発明における「シリンダ壁温推定手段」が、上記ステップ104および106の処理を実行することにより前記第1の発明における「燃料噴射量設定手段」が、上記ステップ108〜112の処理を実行することにより前記第1の発明における「気筒間燃料噴射量補正手段」が、それぞれ実現されている。
また、上述した実施の形態1においては、ECU40が、上記ステップ104の処理を実行することにより前記第2の発明における「要求燃料噴射量算出手段」が、上記ステップ106の処理を実行することにより前記第2の発明における「気筒間燃料噴射量調整手段」が、それぞれ実現されている。
【0037】
実施の形態2.
本実施形態のシステムのハードウェア構成としては、図1を参照して上述したものが用いられるものとする。そのうえで、本実施形態のシステムは、上述した実施の形態1の制御(すなわち、トルク発生のための燃料噴射量に対する制御)に加え、以下に示すようにポスト噴射を実施する際の燃料噴射量(以下、単に「ポスト燃料噴射量」と略する)に対する制御を行うというものである。
【0038】
内燃機関10の運転中には、排気浄化装置24に含まれる触媒の昇温(もしくはNOx触媒に吸蔵したNOxの還元)を図る目的で、必要に応じて、ポスト噴射(排気系に未燃燃料を供給するための燃料噴射)が行われるようになっている。このようなポスト噴射の実行時にも、以下に説明するように、シリンダ壁面への燃料付着に起因するオイル希釈が課題となる。排気系に燃料を添加するための排気燃料添加弁を備えることとすれば、このようなオイル希釈の問題を回避することができる。しかしながら、排気燃料添加弁の追加は、コストの増加を招き、また、搭載上の制約によってすべての車種によって搭載できるわけでもない。
【0039】
図6は、燃料噴射弁12により噴射されて筒内に放射状に広がる燃料の噴霧をピストン側から見た図である。
図6中に「ベース」と付して示す状態に対し、同図中に「低雰囲気圧」と付して示す状態(筒内の雰囲気圧力が低い状況下)では、噴霧が成長する際に空気の抵抗力が小さくなるため、図6に示すように噴霧が良く広がるようになる。ポスト噴射は、膨張行程後期(すなわち、筒内の雰囲気圧力が低い時期)に行われる。このため、ポスト噴射の実行時には、シリンダ壁面に燃料が付着し易くなる。
【0040】
また、図6中に「大噴射量」と付して示すように、噴射される燃料量が多い状況下では、噴霧の有する運動量が大きいため、噴霧が良く広がるようになる。また、噴射される燃料量が多い状況下では、シリンダ壁面に付着する燃料の絶対量が多くなる。特に、軽負荷運転時は、筒内温度が相対的に低く、また、触媒の昇温のためにより多くの燃料が必要になる運転条件であるため、シリンダ壁面への燃料付着がし易くなる。
【0041】
そこで、本実施形態では、ポスト噴射を利用して触媒の昇温を行うシステムにおいて、ポスト噴射の実行によって燃料がシリンダ壁面に付着することでオイル希釈を引き起こし易い運転条件下(すなわち、筒内の雰囲気圧力および雰囲気温度が低い条件や(トルク発生のための)燃料噴射量が多い条件)において、以下に示すような制御を行うようにした。
【0042】
図7は、本発明の実施の形態2の制御を実現するために、ECU40が実行する制御ルーチンを示すフローチャートである。尚、本ルーチンは、内燃機関10のサイクル毎に繰り返し実行されるものとする。また、図8は、ポスト噴射時のオイル希釈レベルの推定手法を説明するための図であり、図9は、本発明の実施の形態2のポスト噴射制御の具体的な内容を説明するための図である。
【0043】
図7に示すルーチンでは、先ず、ポスト噴射の実行時であるか否かが判定される(ステップ200)。本ステップ200の判定は、例えば、触媒の温度を内燃機関10の運転履歴に基づいて推定したり、別途温度センサを備えて取得するようにしたうえで、取得した触媒の温度が所定の温度よりも低いかどうかを判断することによって実行することができる。
【0044】
上記ステップ200においてポスト噴射の実行時であると判定された場合には、次いで、ポスト噴射の実行によってシリンダ壁面への燃料付着に起因するオイル希釈を引き起こし易い運転条件下であるか否かが判定される(ステップ202)。
【0045】
筒内の雰囲気圧力および雰囲気温度(シリンダ壁面温度)が低いほど、シリンダ壁面への燃料付着量が多くなる。また、(トルク発生のための)燃料噴射量は、内燃機関10の負荷が低いほど少なくなる。このため、(トルク発生のための)燃料噴射量が少ない運転条件ほど、筒内の雰囲気圧力および雰囲気温度が低くなる。また、エンジン回転数が低いほど、単位時間当たりの燃焼による発熱量が低くなるので、触媒の昇温のために要求されるポスト燃料噴射量が多くなる。
【0046】
従って、図8に示すように、(トルク発生のための)燃料噴射量が少なく、かつ、エンジン回転数が低い側の運転領域において、シリンダ壁面への燃料付着量が多くなり、オイル希釈を引き起こし易い運転条件であると判断することができる。ECU40には、図8に示すようなオイル希釈を引き起こし易い運転領域を表す情報(マップ等)が記憶されている。本ステップ202では、このような情報と、アクセル開度センサ46を用いて取得されるアクセル開度に基づいて算出される燃料噴射量と、クランク角センサ42を用いて算出されるエンジン回転数とに基づく判定が実行される。
【0047】
上記ステップ202の判定が成立する場合には、次いで、上記ステップ100と同様の処理によって、図9(A)に示すように、各気筒のシリンダ壁面温度Tbnが算出される(ステップ204)。次いで、今回の触媒の昇温要求度に応じた、各気筒に噴射すべき要求ポスト燃料噴射量Qpstreqが算出される(ステップ206)。具体的には、本ステップ206では、図9(B)に示すように、各気筒で均等な値として要求ポスト燃料噴射量Qpstreqが算出される。また、触媒の昇温要求度が高いほど、要求ポスト燃料噴射量Qpstreqがより高い値として算出される。
【0048】
次に、上記ステップ204において算出された各気筒のシリンダ壁面温度Tbnに応じて、各気筒のポスト燃料噴射量Qpstnが算出される(ステップ208)。具体的には、本ステップ208では、シリンダ壁面温度Tbnが所定の判定温度よりも低い気筒(図9の例では、#1および#4気筒)のポスト燃料噴射量Qpst1およびQpst4を要求ポスト燃料噴射量Qpstreqに対して減少させる補正が、図9(C)に示すように行われる。そして、このような補正後に4気筒合計のポスト燃料噴射量が要求ポスト燃料噴射量Qpstreqに気筒数(ここでは、4)を乗じた値から変化しないようにするために、他の気筒(図9の例では、#2および#3気筒)のポスト燃料噴射量Qpst2およびQpst3を要求ポスト燃料噴射量Qpstreqに対して増加させる補正が、図9(C)に示すように行われる。
【0049】
以上説明した図7に示すルーチンの処理によれば、シリンダ壁面温度Tbnが判定温度以下となる気筒のポスト燃料噴射量Qpstnを相対的に減らすことにより、基本的にシリンダ壁面への燃料付着の発生し易いポスト噴射の実行時においても、そのようなシリンダ壁面への燃料付着に起因するオイル希釈を効果的に抑制できるようになる。
【0050】
尚、上述した実施の形態2においては、ECU40が上記図7に示すルーチンの一連の処理を実行することにより前記第4の発明における「ポスト燃料噴射量設定手段」が実現されている。
【0051】
ところで、上述した実施の形態1および2においては、気筒毎にシリンダ壁面温度Tbnを推定したうえで、シリンダ壁面温度Tbnに応じて各気筒のトルク発生のための燃料噴射量Qvnまたは各気筒のポスト燃料噴射量Qpstnを気筒毎に設定するようにしている。しかしながら、本発明は、上記の手法に限定されるものではない。すなわち、上記の手法に代え、運転中の複数の気筒を少なくとも2つに分けて得られる、所定の1つ以上の気筒からなるグループ気筒(4気筒型エンジンであれば、例えば、隣接する2気筒)毎にシリンダ壁面温度Tbnを推定したうえで、シリンダ壁面温度Tbnに応じて各気筒のトルク発生のための燃料噴射量Qvnまたは各気筒のポスト燃料噴射量Qpstnを上記グループ気筒毎に設定してもよい。
【0052】
また、上述した実施の形態1および2においては、4気筒型エンジンである内燃機関10の全気筒運転時に、上記の燃料噴射量Qvnまたはポスト燃料噴射量Qpstnの制御を行うようにしている。しかしながら、本発明における制御の対象となる「運転中の複数の気筒」は、内燃機関が備える全気筒に限らず、内燃機関が備える一部の気筒であってもよい。すなわち、本発明の制御は、一部の気筒を用いて減筒運転を行う際に実施されるもものであってもよい。
【符号の説明】
【0053】
10 内燃機関
12 燃料噴射弁
14 コモンレール
16 サプライポンプ
20 排気通路
22 ターボ過給機
24 排気浄化装置
26 吸気通路
30 インタークーラ
34 吸気絞り弁
36 エアフローメータ
40 ECU(Electronic Control Unit)
42 クランク角センサ
44 水温センサ
46 アクセル開度センサ
48 シリンダブロック
50 冷却水経路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多気筒型の内燃機関の各気筒に対してそれぞれ備えられ、各気筒内に燃料を直接噴射可能な燃料噴射弁と、
前記内燃機関のシリンダ壁面温度を、運転中の複数の気筒のうちの各気筒毎に、または運転中の複数の気筒を少なくとも2つに分けて得られるグループ気筒毎に推定するシリンダ壁温推定手段と、
運転中の前記複数の気筒のうちの各気筒または運転中の前記グループ気筒内の各気筒に対して前記内燃機関のトルク発生のために噴射される燃料噴射量を、前記シリンダ壁温推定手段により推定された前記シリンダ壁面温度が低い気筒またはグループ気筒内の各気筒の方が、前記シリンダ壁温推定手段により推定された前記シリンダ壁面温度が高い気筒またはグループ気筒内の各気筒よりも少なくなるように設定する燃料噴射量設定手段と、
前記燃料噴射量設定手段により設定された各気筒または前記グループ気筒内の各気筒に噴射される燃料噴射量のうちの最大値と最小値との差が所定値よりも大きい場合に、前記差が前記所定値以内となるように、各気筒または前記グループ気筒内の各気筒に噴射される燃料噴射量を補正する気筒間燃料噴射量補正手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記燃料噴射量設定手段は、
前記内燃機関へのトルク要求に基づいて、各気筒または前記グループ気筒内の各気筒で発生させるべきトルクに応じた要求燃料噴射量を算出する要求燃料噴射量算出手段と、
前記シリンダ壁温推定手段により推定された前記シリンダ壁面温度が低い気筒または前記グループ気筒内の各気筒では燃料噴射量を前記要求噴射量に対して減少させ、かつ、この燃料噴射量の減少によって運転中の前記複数の気筒での前記要求燃料噴射量の合計値が変化しないように、前記シリンダ壁温推定手段により推定された前記シリンダ壁面温度が高い気筒または前記グループ気筒内の各気筒では燃料噴射量を前記要求噴射量に対して増加させる気筒間燃料噴射量調整手段と、
を含むことを特徴とする請求項1記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記シリンダ壁温推定手段により推定された前記シリンダ壁面温度が所定の判定温度以下となる気筒が存在する場合に、前記燃料噴射量設定手段および前記気筒間燃料噴射量補正手段による、各気筒または前記グループ気筒内の各気筒に噴射される燃料噴射量の設定および補正を行うことを特徴とする請求項1または2記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
運転中の前記複数の気筒のうちの各気筒または運転中の前記グループ気筒内の各気筒に対して実行されるポスト噴射によるポスト燃料噴射量を、前記シリンダ壁温推定手段により推定された前記シリンダ壁面温度が低い気筒またはグループ気筒内の各気筒の方が、前記シリンダ壁温推定手段により推定された前記シリンダ壁面温度が高い気筒またはグループ気筒内の各気筒よりも少なくなるように設定するポスト燃料噴射量設定手段を更に備えることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−83203(P2013−83203A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−223797(P2011−223797)
【出願日】平成23年10月11日(2011.10.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】