説明

内燃機関の排気浄化システム

【課題】本発明は、還元剤添加弁から供給される還元剤を排気浄化用触媒の全体に行き渡らせることを課題とする。
【解決手段】本発明は、上記した課題を解決するために、内燃機関の排気通路に配置される排気浄化用触媒と、排気浄化用触媒より上流の排気通路に配置され排気の流れ方向と交差する方向へ還元剤を噴射する還元剤添加弁と、を備えた内燃機関の排気浄化システムにおいて、還元剤添加弁は、該還元剤添加弁の近傍に供給される還元剤に比べ、遠方に供給される還元剤の粒子径が大きくなるように、還元剤を供給するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気通路へ還元剤を供給する排気浄化システムに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の排気通路に選択還元型触媒を設けるとともに、該選択還元型触媒より上流の排気通路に尿素添加弁を設けた排気浄化システムが知られている。このような排気浄化システムにおいて、尿素添加弁から供給された尿素水を分散させるための分散板を設けた構成が知られている(たとえば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−032472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、排気浄化システムが乗用車などに適用される場合は、搭載スペースの制約によって尿素添加弁と選択還元型触媒との距離が短くなる可能性がある。そのような場合は、尿素添加弁の配置が制限されるため、尿素添加弁から供給された還元成分(尿素水や、尿素水が排気中で加水分解して生成されるアンモニア(NH)など)が排気と均質に混合される前に選択還元型触媒へ到達(流入)する可能性がある。
【0005】
その結果、還元成分が選択還元型触媒の全体へ行き渡らなくなる可能性もある。これに対し、上記した従来の技術のように分散板が設けられると、排気の圧力損失が増加する可能性がある。
【0006】
本発明は、上記したような実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、還元剤添加弁から供給される還元剤を排気浄化用触媒の全体に行き渡らせることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記した課題を解決するために、内燃機関の排気通路に配置される排気浄化用触媒と、排気浄化用触媒より上流の排気通路に配置され排気の流れ方向と交差する方向へ還元剤を噴射する還元剤添加弁と、を備えた内燃機関の排気浄化システムにおいて、還元剤添加弁は、該還元剤添加弁の近傍に供給される還元剤に比べ、遠方に供給される還元剤の粒子径が大きくなるように、還元剤を供給するようにした。言い換えると、本発明の還元剤添加弁は、該還元剤添加弁から噴射される還元剤の一部が残りの還元剤より径大な粗大粒子となるように還元剤を噴射するようにした。
【0008】
詳細には、本発明は、内燃機関の排気通路に配置された排気浄化用触媒と、
前記排気浄化用触媒より上流の排気通路に配置され、排気の流れ方向と交差する方向へ還元剤を噴射する還元剤添加弁と、
を備えた内燃機関の排気浄化システムにおいて、
前記還元剤添加弁は、還元剤の一部を残りの還元剤より径大な粒子にして排気通路へ噴射するようにした。
【0009】
このような構成によれば、還元剤添加弁から排気通路へ供給(噴射)される還元剤は、粒子径が小さな還元剤(以下、「微粒還元剤」と称する)と、微粒還元剤より粒子径が大きな還元剤(以下、「粗大還元剤」と称する)と、を含むことになる。
【0010】
微粒還元剤は、慣性質量が小さいため、排気中の貫徹力が小さくなる(飛距離が短くなる)。一方、粗大還元剤は、慣性質量が大きいため、排気中の貫徹力が大きくなる(飛距離が長くなる)。したがって、微粒還元剤は還元剤添加弁の近傍に集まり易く、粗大還元剤は還元剤添加弁の遠方に集まり易い。
【0011】
ここで、還元剤添加弁と排気浄化用触媒との距離が短い場合、言い換えれば、還元剤添加弁の搭載スペースが狭い場合などは、排気の流れ方向と交差する方向へ還元剤を噴射するように還元剤添加弁を配置する可能性が高い。
【0012】
上記した配置が採用された場合に、還元剤添加弁から微粒還元剤のみ(或いは、多量の微粒還元剤と微量の粗大還元剤)が供給されると、排気浄化用触媒の径方向において還元剤添加弁に近い領域に多量の還元剤が供給され、還元剤添加弁から離れた領域に少量の還元剤が供給されることになる。その結果、排気浄化用触媒の径方向における還元剤の濃度分布が不均一となる。つまり、還元剤添加弁から供給される還元剤が排気浄化用触媒の全体に行き渡らなくなる。還元剤が排気浄化用触媒全体に行き渡らなくなると、排気浄化用触媒が還元剤の供給量に見合った浄化性能を発揮することができない可能性もある。
【0013】
これに対し、還元剤添加弁から排気通路へ微粒還元剤と粗大還元剤とが供給されると、排気浄化用触媒の径方向において還元剤添加弁に近い領域には微粒還元剤が供給され、還元剤添加弁から離れた領域には粗大還元剤が供給されるようになる。よって、排気浄化用触媒の径方向における還元剤の濃度分布を均一に近づけることができる。その結果、還元剤添加弁から供給される還元剤を排気浄化用触媒の全体へ行き渡らせることが可能となる。
【0014】
なお、粗大還元剤は、微粒還元剤に比して気化し難いため、液相のまま排気浄化用触媒に到達する事態が懸念される。特に、還元剤としてアンモニア由来の還元剤(たとえば、尿素やカルバミン酸アンモニウムなどの水溶液)が用いられる場合は、粗大還元剤が加水分解されないまま排気浄化用触媒に到達する事態が懸念される。しかしながら、粗大還元剤の飛行距離が長くなると、粗大還元剤が排気の熱に曝される時間が長くなる。その結果、粗大還元剤が液相のまま排気浄化用触媒へ到達する事態を回避することも可能となる。
【0015】
したがって、上記した方法によって還元剤が排気浄化用触媒全体に行き渡るようになると、排気浄化用触媒が還元剤の供給量に見合った浄化性能を発揮することができる。
【0016】
ところで、排気の流速が低い場合などは、微粒還元剤の飛距離が長くなる可能性がある。そのような場合は、排気浄化用触媒の径方向における還元剤添加弁近傍の領域に供給される還元剤の量が過少となる可能性がある。よって、排気の流速が低い場合であっても、微粒還元剤を還元剤添加弁の近傍に留まらせる必要がある。
【0017】
そこで、本発明に係わる還元剤添加弁は、排気通路の径方向に対して広角に還元剤を噴射(広角噴射)するようにしてもよい。
【0018】
還元剤が広角噴射されると、排気通路の径方向における還元剤の飛距離を短くすることができる。よって、排気の流速が低い場合であっても、微粒還元剤が還元剤添加弁の近傍に留まるようになる。
【0019】
また、還元剤が広角噴射されると、噴霧の中心付近において噴霧から剥離した還元剤の粒子が相互に結合して粗大化し易くなる。その結果、還元剤添加弁が広角に還元剤を添加すると、粗大還元剤の量が増加する。よって、還元剤添加弁から微粒還元剤と粗大還元剤
を供給させることが可能となる。
【0020】
還元剤添加弁から微粒還元剤と粗大還元剤を供給させる他の方法、言い換えると、還元剤添加弁から噴射される粗大還元剤の量を増加させる他の方法としては、還元剤添加弁から噴射される粗大還元剤の量を増加させない場合に比して、還元剤添加弁の開弁動作速度(還元剤添加弁が閉弁状態から全開状態へ移行する速度)を低下させる方法を用いることができる。
【0021】
その場合、本発明の内燃機関の排気浄化システムは、還元剤添加弁から噴射される還元剤の一部を残りの還元剤より粗大にする場合は粗大にしない場合に比べ、還元剤添加弁の開弁動作速度を低下させる制御部を更に備えるようにしてもよい。
【0022】
還元剤添加弁の開弁動作期間中は開弁動作完了後(全開期間)に比べ、噴孔に作用する噴射圧力(還元剤の圧力)が低くなり易い。特に、ニードルの移動により開閉される還元剤添加弁においては、ニードルが全閉位置から全開位置へ移動するまでの期間は、ニードルが全開位置へ移動した後に比べ、噴孔に作用する噴射圧力が低くなる。還元剤添加弁の噴孔に作用する噴射圧力が低いときは高いときに比して、還元剤の粒子径が大きくなり易い。これに対し、従来では開弁動作時(全閉状態から開き始めるとき)の駆動電流(突入電流)を高くする等して開弁動作期間の短縮を図っているが、本発明では開弁動作期間を長引かせるようにしてもよい。その場合、還元剤添加弁から噴射される粗大還元剤の量が増加するため、還元剤添加弁から供給される微粒還元剤の量と粗大還元剤の量を同等に近づけることができる。
【0023】
還元剤添加弁から噴射される粗大還元剤の量を増加させる他の方法としては、1回当たりの還元剤噴射期間(還元剤添加弁が連続して還元剤を噴射する期間)を短くする方法を用いることもできる。
【0024】
その場合、本発明に係わる内燃機関の排気浄化システムは、還元剤添加弁から噴射される還元剤の一部を残りの還元剤より粗大にする場合は粗大にしない場合に比べ、還元剤添加弁の1回当たりの還元剤噴射期間を短くさせる制御部を更に備えるようにしてもよい。
【0025】
還元剤添加弁の1回当たりの還元剤噴射期間が短くされると、還元剤噴射期間において開弁動作期間が占める割合が高くなる。前述したように、還元剤添加弁の開弁動作期間中は全開期間中に比して粗大還元剤の量が多くなり易い。言い換えると、還元剤添加弁の開弁動作期間中は全開期間中に比して微粒還元剤の量が少なくなり易い。よって、還元剤噴射期間において開弁動作期間が占める割合が高められると、還元剤噴射期間中に還元剤添加弁から噴射される粗大還元剤の量と微粒還元剤の量とを同等に近づけることができる。
【0026】
なお、1回当たりの還元剤噴射期間が短縮されると、排気浄化用触媒へ供給される還元剤の量が不足する場合がある。そのような場合は、制御部は、還元剤添加弁から複数回に分けて還元剤を添加させることにより、1回当たりの還元剤噴射期間の短縮を図りつつ排気浄化用触媒へ供給される還元剤の量を確保するようにしてもよい。
【0027】
また、還元剤添加弁から供給すべき還元剤の目標量である目標供給量が所定量より多くなる場合は、還元剤噴射期間を短縮させずに、目標供給量の還元剤を還元剤添加弁から連続して噴射させてもよい。すなわち、還元剤の目標供給量が所定量より多くなる場合は、1回当たりの還元剤噴射期間を増加させることにより、目標供給量の還元剤を還元剤添加弁から連続的に噴射させるようにしてもよい。
【0028】
ここで、1回当たりの還元剤噴射期間が長期化すると、還元剤噴射期間の途中から微粒
還元剤が相互に結合して粒子径の大きな還元剤が生成されるようになる。そのため、1回当たりの還元剤噴射期間が長期化されると、粗大還元剤の量を増加させることができる。なお、ここでいう「所定量」は、1回の還元剤噴射期間において還元剤添加弁から噴射される粗大還元剤の量と微粒還元剤の量とが同等になる程度に還元剤噴射期間が長くなると考えられる最少の目標供給量に相当する。
【0029】
そこで、本発明に係わる内燃機関の排気浄化システムは、還元剤の目標供給量が所定量より多くなるときに、還元剤添加弁から噴射される還元剤の一部を残りの還元剤より粗大にする場合は粗大にしない場合に比べ、還元剤添加弁の1回当たりの還元剤噴射期間を長くさせる制御部を更に備えるようにしてもよい。
【0030】
還元剤添加弁の1回当たりの還元剤噴射期間が長くされると、還元剤噴射期間の途中から還元剤の粒子同士が相互に結合して粗大化し易い。よって、還元剤添加弁の1回当たりの還元剤噴射期間が長くされると、還元剤添加弁から噴射される粗大還元剤の量を増加させることができる。その結果、還元剤添加弁から噴射される微粒還元剤の量と粗大還元剤の量とを同等に近づけることができる。
【0031】
還元剤添加弁から噴射される粗大還元剤の量を増加させる他の方法としては、還元剤添加弁の噴射圧力を低下させる方法を用いることもできる。
【0032】
その場合、本発明に係わる内燃機関の排気浄化システムは、還元剤添加弁から噴射される還元剤の一部を残りの還元剤より粗大にする場合は粗大にしない場合に比べ、還元剤添加弁の噴射圧力を低下させる制御部を更に備えるようにしてもよい。
【0033】
還元剤添加弁の噴射圧力が低いときは高いときに比べ、該還元剤添加弁から噴射される還元剤の粒子径が大きくなる。よって、還元剤添加弁の噴射圧力が低下させられると、該還元剤添加弁から噴射される粗大還元剤の量を増加させることができる。その結果、還元剤添加弁から噴射される微粒還元剤の量と粗大還元剤の量とを同等に近づけることができる。
【0034】
また、本発明に係わる内燃機関の排気浄化システムは、還元剤添加弁から噴射される還元剤の飛行経路上に配置され、還元剤添加弁から噴射される微粒還元剤が衝突するとともに粗大還元剤が通過する衝突板を更に備えるようにしてもよい。
【0035】
上記した衝突板によれば、還元剤添加弁から噴射された微粒還元剤は衝突板に衝突するため、微粒還元剤がより確実に還元剤添加弁の近傍に留まるようになる。一方、還元剤添加弁から噴射された粗大還元剤は衝突板に衝突しないため、粗大還元剤がより確実に還元剤の遠方へ到達するようになる。その結果、排気浄化用触媒の径方向における還元剤添加弁に近い領域に微粒還元剤が供給されるとともに、還元剤添加弁から離れた領域に粗大還元剤が供給されるようになる。
【0036】
ここで、本発明に係わる内燃機関の排気浄化システムは、上記した衝突板を通過した粗大還元剤と衝突する分散板を更に備えるようにしてもよい。
【0037】
上記した分散板によれば、粗大還元剤が還元剤添加弁の遠方へ到達した時点で分散板に衝突して微粒化されることになる。微粒化された還元剤は排気の熱を受けて気化し易くなる。よって、還元剤としてアンモニア由来の還元剤が使用された場合などに、粗大還元剤がより確実に加水分解されるようになる。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、還元剤添加弁から供給される還元剤を排気浄化用触媒の全体に行き渡らせることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明を適用する内燃機関の排気系の概略構成を示す図である。
【図2】還元剤添加弁から微粒還元剤が噴射されたときの選択還元型触媒の径方向における還元剤の濃度分布を模式的に示す図である。
【図3】(a)は還元剤添加弁の先端部の水平断面図であり、(b)は還元剤の先端部の垂直断面図である。
【図4】還元剤の噴射開始直後における噴霧の状態を模式的に示す図である。
【図5】還元剤の噴射終了直前における噴霧の状態を模式的に示す図である。
【図6】還元剤添加弁のニードル位置と還元剤の粒子径分布との関係を経時的に示す図である。
【図7】還元剤添加弁に印加される駆動電流の変化を示す図である。
【図8】還元剤添加弁のニードル位置と粗大還元剤の量との関係を経時的に示す図である。
【図9】還元剤添加弁の噴射圧力と還元剤の粒子径との関係を示す図である。
【図10】還元剤添加弁の近傍における排気通路の構成を示す図である。
【図11】衝突板に対する還元剤の流れを模式的に示す図である。
【図12】衝突板の他の構成例を示す図である。
【図13】衝突板を2枚設ける場合の構成例を示す図である。
【図14】衝突板を2枚設ける場合の他の構成例を示す図である。
【図15】衝突板を2枚設ける場合の他の構成例を示す図である。
【図16】還元剤添加弁及び衝突板を第1触媒ケーシングに設ける構成例を示す図である。
【図17】還元剤添加弁及び衝突板を第2触媒ケーシングに設ける構成例を示す図である。
【図18】パティキュレートフィルタと選択還元型触媒が同一の触媒ケーシングに収容される例を示す図である。
【図19】防着板の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明の具体的な実施形態について図面に基づいて説明する。本実施形態に記載される構成部品の寸法、材質、形状、相対配置等は、特に記載がない限り発明の技術的範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0041】
<実施例1>
先ず、本発明の第1の実施例について図1乃至図5に基づいて説明する。図1は、本発明を適用する内燃機関の排気系の概略構成を示す図である。図1に示す内燃機関1は、圧縮着火式の内燃機関(ディーゼルエンジン)であるが、希薄燃焼運転(リーンバーン運転)可能な火花点火式の内燃機関(ガソリンエンジン)であってもよい。
【0042】
図1において、内燃機関1には、排気通路2が接続されている。排気通路2は、内燃機関1の気筒内から排出される既燃ガス(排気)を流通させるための通路である。排気通路2の途中には、第1触媒ケーシング3と第2触媒ケーシング4が上流側から直列に配置されている。
【0043】
第1触媒ケーシング3は、筒状のケーシング内に酸化触媒とパティキュレートフィルタを内装している。その際、酸化触媒は、パティキュレートフィルタの上流に配置される触媒担体に担持されてもよく、或いはパティキュレートフィルタに担持されてもよい。
【0044】
第2触媒ケーシング4は、筒状のケーシング内に、選択還元型触媒が担持された触媒担体を収容したものである。触媒担体は、たとえば、コーディライトやFe−Cr−Al系の耐熱鋼から成るハニカム形状の横断面を有するモノリスタイプの基材に、アルミナ系又はゼオライト系の活性成分(担体)をコーティングしたものである。さらに、触媒担体には、酸化能を有する貴金属触媒(たとえば、白金(Pt)やパラジウム(Pd)等)が担持されている。なお、第2触媒ケーシング4の内部において、選択還元型触媒より下流には酸化触媒を担持した触媒担体が配置されるようにしてもよい。その場合の酸化触媒は、後述する還元剤添加弁5から選択還元型触媒へ供給される還元剤のうち、選択還元型触媒をすり抜けた還元剤を酸化するための触媒である。
【0045】
第1触媒ケーシング3と第2触媒ケーシング4との間の排気通路2には、アンモニア由来の還元剤を排気中へ添加(噴射)するための還元剤添加弁5が取り付けられている。還元剤添加弁5は、ニードルの移動により開閉される噴孔を有する弁装置である。還元剤添加弁5は、ポンプ50を介して還元剤タンク51に接続されている。ポンプ50は、還元剤タンク51に貯留されている還元剤を吸引するとともに、吸引された還元剤を還元剤添加弁5へ圧送する。還元剤添加弁5は、ポンプ50から圧送されてくる還元剤を排気通路2内へ噴射する。なお、還元剤添加弁5の開閉タイミングやポンプ50の吐出圧力は、電子制御ユニット(ECU)6によって電気的に制御されるようになっている。
【0046】
ここで、還元剤タンク51に貯留される還元剤は、アンモニア由来の還元剤である。アンモニア由来の還元剤としては、尿素やカルバミン酸アンモニウムなどの水溶液を用いることができる。本実施例では、アンモニア由来の還元剤として尿素水溶液を用いるものとする。
【0047】
還元剤添加弁5から尿素水溶液が噴射されると、該尿素水溶液が排気とともに第2触媒ケーシング4へ流入する。その際、尿素水溶液が排気の熱を受けて熱分解又は加水分解される。尿素水溶液が熱分解又は加水分解されると、アンモニア(NH)が生成される。このようにして生成されたアンモニア(NH)は、選択還元型触媒に吸着又は吸蔵される。選択還元型触媒に吸着又は吸蔵されたアンモニア(NH)は、排気中に含まれる窒素酸化物(NOx)と反応して窒素(N)や水(HO)を生成する。つまり、アンモニア(NH)は、窒素酸化物(NO)の還元剤として機能する。その際、選択還元型触媒の広い範囲においてアンモニア(NH)が吸着されていると、選択還元型触媒における窒素酸化物(NO)の浄化率を高めることができる。
【0048】
ところで、第1触媒ケーシング3と第2触媒ケーシング4との間隔が狭い場合、言い換えれば、パティキュレートフィルタと選択還元型触媒との間隔が狭い場合には、還元剤添加弁5は、排気通路2の径方向(排気通路2の軸方向に対して垂直な方向)に沿って配置される可能性がある。また、近年では、還元剤と排気を均質に混合させるために還元剤添加弁5から噴射される還元剤の微粒化が図られている。
【0049】
しかしながら、還元剤添加弁5から排気通路2の径方向へ向かって微粒化された還元剤が噴射されると、還元剤が選択還元型触媒へ流入する際の径方向における濃度分布が不均一になる可能性がある。たとえば、図2に示すように、第2触媒ケーシング4の径方向において、還元剤添加弁5に近い領域(図2中の領域A)には多量の還元剤が供給され、還元剤添加弁5から離れた領域(図2中の領域B)には微量の還元剤が供給される。これは、微粒化された還元剤(微粒還元剤)は、慣性質量が小さく、排気中における貫徹力(飛行距離)が短くなるためである。
【0050】
図2に示したように、選択還元型触媒の径方向における還元剤の供給量が不均一になる
と、還元剤の供給量が過多となる領域においてアンモニア(NH)が選択還元型触媒をすり抜けるアンモニアスリップが発生したり、還元剤の供給量が過少となる領域においてNOの浄化が十分に行われなくなったりする可能性がある。つまり、選択還元型触媒が還元剤の供給量に見合ったNO浄化率を発揮することができなくなる可能性がある。
【0051】
これに対し、還元剤添加弁5と選択還元型触媒との間に還元剤と排気との混合を促進させる混合器を配置する方法も考えられるが、図1に示す例のように還元剤添加弁5が選択還元型触媒の直上流に配置される場合には混合器を配置することが困難となる。
【0052】
そこで、本実施例の内燃機関の排気浄化システムにおいては、還元剤添加弁5から微粒還元剤に加え、微粒還元剤より粒子径が大きい粗大還元剤を噴射させるようにした。言い換えれば、本実施例の内燃機関の排気浄化システムは、還元剤添加弁5から噴射される粗大還元剤の量を増加させるようにした。
【0053】
詳細には、還元剤添加弁5として、図3に示すように、半球状若しくは円錐状に形成された先端部を有し、該先端部に断面矩形のスリット状の噴孔5aが形成された噴射弁を用いるようにした。その際、噴孔5aの長さLは、還元剤添加弁5の軸方向に対する噴霧の広がり(噴霧角α)が可及的に広くなるように設定される。
【0054】
このように構成された還元剤添加弁5によれば、図4に示すように、還元剤の噴射開始直後において、噴霧の中心付近(還元剤添加弁5の軸心を通る仮想直線の近傍)に位置する還元剤の微粒子は、相互に結合して粗大粒子を形成する。つまり、噴霧の中心付近に粗大還元剤が形成され、噴霧の外縁付近に微粒還元剤が形成される。
【0055】
ここで、微粒還元剤は、慣性質量が小さい上に、排気通路2の径方向(還元剤添加弁5の軸方向)に対して斜めに進むため、径方向における微粒還元剤の飛行距離が短くなる。一方、粗大還元剤は、慣性質量が大きい上に、排気通路2の径方向と略平行に進むため、径方向における粗大還元剤の飛行距離が長くなる。
【0056】
したがって、還元剤の噴射開始からある程度の時間が経過すると、図5に示すように、排気通路2の径方向において、還元剤添加弁5の近傍の領域に微粒還元剤が留まるとともに、還元剤添加弁5の遠方の領域に粗大還元剤が到達するようになる。その結果、第2触媒ケーシング4の径方向における還元剤添加弁5に近い領域(図2中の領域A)には微粒還元剤が供給され、還元剤添加弁5から離れた領域(図2中の領域B)には粗大還元剤が供給されるようになる。すなわち、還元剤が選択還元型触媒へ流入する際の径方向における濃度分布を均一に近づけることができる。なお、粗大還元剤は微粒還元剤に比して気化及び加水分解され難いが、粗大還元剤の飛行距離が微粒還元剤の飛行距離より長くなるため、粗大還元剤が排気の熱に曝される時間は微粒還元剤が排気の熱に曝される時間より長くなる。その結果、粗大還元剤が液相のまま選択還元型触媒へ流入する事態を回避することができる。
【0057】
還元剤が選択還元型触媒へ流入する際の径方向における濃度分布が均一に近づくと、前記した領域Aにおけるアンモニアスリップを減少させることができるとともに、前記した領域BにおけるNO浄化率を高めることが可能になる。さらに、還元剤が選択還元型触媒の全体へ均等に行き渡るようになるため、選択還元型触媒が還元剤の供給量に見合ったNO浄化率を発揮することができるようになる。
【0058】
なお、本実施例では、パティキュレートフィルタと選択還元型触媒が個別の触媒ケーシングに収容される例について述べたが、1つの触媒ケーシング内にパティキュレートフィルタと選択還元型触媒が収容されるようにしてもよい。その場合、還元剤添加弁5は、パ
ティキュレートフィルタと選択還元型触媒との間に位置する触媒ケーシングに取り付けられればよい。
【0059】
<実施例2>
次に、本発明の第2の実施例について図6乃至図7に基づいて説明する。ここでは、前述した第1の実施例と異なる構成について説明し、同様の構成については説明を省略する。
【0060】
前述した第1の実施例では、スリット状の噴孔を有する還元剤添加弁5から広角噴射を行わせることにより、粗大還元剤の量を増加させる例について述べたが、本実施例では、還元剤添加弁5の開弁動作速度を低下させることにより、粗大還元剤の量を増加させる例について述べる。
【0061】
ニードルの移動により開閉される噴孔を有する噴射弁は、還元剤添加弁5の開弁動作期間(ニードルが全閉位置から全開位置へ移動する期間)中に粗大還元剤を噴射し易くなる。そのため、従来では、還元剤添加弁5の開弁動作速度(ニードルの移動速度)を高めることにより粗大還元剤の噴射量を低減させている。これに対し、本実施例の内燃機関の排気浄化システムにおいては、還元剤添加弁5の開弁動作速度を低下させることにより、粗大還元剤の量を増加させるようにした。
【0062】
図6は、ニードルの位置と還元剤の粒子径分布との関係を経時的に示す図である。図6中の上図において、実線で囲まれた領域はニードルの移動速度が遅い場合(図6中の下図において実線で示すニードルの位置に対応)の還元剤の粒子径分布を示し、一点鎖線で囲まれた領域はニードルの移動速度が速い場合(図6中の下図において一点鎖線で示すニードル位置に対応)の還元剤の粒子径分布を示す。
【0063】
図6中の下図において、ニードルの移動速度が速い場合(図6中の下図の一点鎖線)の開弁動作期間T1は、ニードルの移動速度が遅い場合(図6中の下図の実線)の開弁動作期間t2より短くなるため、粒子径の小さな還元剤が多くなるとともに、粒子径の大きな還元剤が少なくなる。すなわち、ニードルの移動速度が速い場合は、粗大還元剤の量が微粒還元剤の量に比して少なくなる。
【0064】
これに対し、ニードルの移動速度が遅い場合(図6中の下図の実線)の開弁動作期間T2は、ニードルの移動速度が速い場合(図6中の下図の一点鎖線)の開弁動作期間t1より長くなるため、粒子径の大きな還元剤が多くなるとともに、粒子径の小さな還元剤が減少する。すなわち、ニードルの移動速度が遅い場合は、粗大還元剤の量が微粒還元剤の量に近づくことになる。
【0065】
したがって、ニードルの移動速度が遅い場合は早い場合に比べ、粗大還元剤の量が増加するとともに、微粒還元剤の量が減少することになる。
【0066】
そこで、ECU6は、粗大還元剤を増加させる場合は増加させない場合に比して、ニードルの移動速度が遅くなるように、還元剤添加弁5を制御するようにした。具体的には、ECU6は、還元剤添加弁5の開弁開始時に該還元剤添加弁5に印加される駆動電流を徐々に増加させるようにしてもよい。その際、還元剤添加弁5の開弁開始時における駆動電流の増加速度は、粗大還元剤の量が微粒還元剤の量と同等になるように決定されることが望ましく、そのような駆動電流の増加速度は予め実験などを利用した適合作業により求めておくことが望ましい。このようにECU6が還元剤添加弁5の開弁動作速度を制御することにより本発明に係わる制御部が実現される。
【0067】
なお、ECU6は、図7に示すように、還元剤添加弁5の開弁開始時における突入電流(図7中の一点鎖線)の印加を停止、或いは突入電流を減少させることにより、ニードルの移動速度を低下させるようにしてもよい。
【0068】
このような方法により還元剤添加弁5の駆動電流が制御されると、還元剤添加弁5から噴射される微粒還元剤の量と粗大還元剤の量とを同等に近づけることができる。その結果、還元剤が選択還元型触媒へ流入する際の径方向における還元剤の濃度分布を均一にすることが可能になる。よって、選択還元型触媒の全体へ還元剤を行き渡らせることができる。
【0069】
なお、本実施例において使用することができる還元剤添加弁5は、ニードルの移動により開閉される噴孔を有するものであればよい。ただし、前述した第1の実施例で述べたようなスリット状の噴孔を有する還元剤添加弁において開弁動作速度を低下させるようにしてもよい。その場合、微粒還元剤が還元剤添加弁5の近傍により確実に留まり易くなるとともに、粗大還元剤が還元剤添加弁5の遠方へより確実に到達し易くなる。
【0070】
<実施例3>
次に、本発明の第3の実施例について図8に基づいて説明する。ここでは前述した第2の実施例と異なる構成について説明し、同様の構成については説明を省略する。
【0071】
前述した第2の実施例では、還元剤添加弁5の開弁動作速度を低下させることにより、粗大還元剤の量を増加させる例について述べたが、本実施例では、還元剤添加弁5の1回当たりの還元剤噴射期間(還元剤添加弁5が連続して還元剤を添加する期間)を短縮するようにした。
【0072】
還元剤添加弁5から噴射される還元剤の粒子径は、該還元剤添加弁5の開弁動作期間中に大きくなる傾向がある。たとえば、図8に示すように、1回当たりの還元剤噴射期間において還元剤添加弁5から噴射される粗大還元剤の量は、開弁動作期間T中に多くなる傾向がある。そのため、1回当たりの還元剤噴射期間が短縮されると、還元剤噴射期間において開弁動作期間が占める割合が高くなる。その結果、1回当たりの還元剤噴射期間中に還元剤添加弁5から噴射される粗大還元剤の量を増加させることができる。
【0073】
そこで、ECU6は、選択還元型触媒へ還元剤を供給する際に、1回当たりの還元剤噴射期間を短縮するようにした。具体的には、ECU6は、還元剤添加弁5に対して駆動電流を連続的に印加する期間を短縮するようにした。その際、駆動電流の印加期間の長さは、1回当たりの還元剤噴射期間中に還元剤添加弁5から噴射される粗大還元剤の量と微粒還元剤の量とが同等になるように定められることが好ましく、そのような印加期間は予め実験などを用いた適合作業により求めておくことが望ましい。
【0074】
ところで、1回当たりの還元剤噴射期間が短縮されると、1回の還元剤噴射期間に選択還元型触媒へ供給される還元剤の量が少なくなる。そのため、選択還元型触媒へ供給される還元剤の量が目標供給量より少なくなる場合も考えられる。これに対し、ECU6は、1回当たりの還元剤噴射期間に選択還元型触媒へ供給可能な還元剤の量が目標供給量より少なくなる場合に、目標供給量の還元剤を複数回に分けて還元剤添加弁5から噴射させてもよい。その場合、1回当たりの還元剤噴射期間を短縮しつつ、目標供給量の還元剤を選択還元型触媒へ供給することができる。
【0075】
また、還元剤の目標供給量が所定量より多くなる場合は、ECU6は、還元剤噴射期間を短縮させずに、目標供給量の還元剤を還元剤添加弁5から連続して噴射させるようにしてもよい。すなわち、ECU6は、還元剤の目標供給量が所定量を超える場合は、1回当
たりの還元剤噴射期間を増加させることにより、目標供給量の還元剤を還元剤添加弁5から連続的に噴射させるようにしてもよい。
【0076】
ここで、1回当たりの還元剤噴射期間が長期化すると、還元剤噴射期間の途中から微粒還元剤が相互に結合して粒子径の大きな還元剤が生成されるようになる。そのため、1回当たりの還元剤噴射期間が長期化されると、粗大還元剤の量を増加させることができる。なお、前記した所定量は、1回の還元剤噴射期間において還元剤添加弁5から噴射される粗大還元剤の量と微粒還元剤の量とが同等になる程度に還元剤噴射期間が長くなると考えられる最少の目標供給量である。
【0077】
以上述べた実施例によれば、前述した第2の実施例と同様の効果を得ることができる。なお、本実施例において使用することができる還元剤添加弁5は、ニードルの移動により開閉される噴孔を有するものであればよい。ただし、前述した第1の実施例で述べたようなスリット状の噴孔を有する還元剤添加弁において1回当たりの還元剤噴射期間を短縮させるようにしてもよい。その場合、微粒還元剤が還元剤添加弁5の近傍により確実に留まり易くなるとともに、粗大還元剤が還元剤添加弁5の遠方へより確実に到達し易くなる。
【0078】
<実施例4>
次に、本発明に係わる内燃機関の排気浄化システムの第4の実施例について図9に基づいて説明する。ここでは前述した第2の実施例と異なる構成について説明し、同様の構成については説明を省略する。
【0079】
前述した第2の実施例では、還元剤添加弁5の開弁動作速度を低下させることにより、粗大還元剤の量を増加させる例について述べたが、本実施例では、還元剤添加弁5の噴射圧力(ポンプ50の吐出圧力)を低下させるようにした。
【0080】
図9に示すように、還元剤添加弁5の噴射圧力が低いときは高いときに比して、還元剤添加弁5から噴射される還元剤の粒子径が大きくなる傾向がある。よって、ECU6は、還元剤添加弁5から還元剤を噴射させる際に、ポンプ50の吐出圧力を低下させることにより、還元剤添加弁5の噴射圧力を低下させるようにした。その際のポンプ50の吐出圧力は、還元剤添加弁5から噴射される粗大還元剤の量と微粒還元剤の量とが同等になるように定められることが好ましく、そのような吐出圧力は予め実験などを用いた適合作業により求めておくようにしてもよい。
【0081】
以上述べた実施例によれば、前述した第2の実施例と同様の効果を得ることが可能となる。なお、本実施例において使用することができる還元剤添加弁5は、ニードルの移動により開閉される噴孔を有するものであればよい。ただし、前述した第1の実施例で述べたようなスリット状の噴孔を有する還元剤添加弁において還元剤添加弁5の噴射圧力を低下させるようにしてもよい。その場合、微粒還元剤が還元剤添加弁5の近傍により確実に留まり易くなるとともに、粗大還元剤が還元剤添加弁5の遠方へより確実に到達し易くなる。
【0082】
<実施例5>
次に、本発明に係わる内燃機関の排気浄化システムの第5の実施例について図10乃至図19に基づいて説明する。ここでは、前述した第1の実施例と異なる構成について説明し、同様の構成については説明を省略する。
【0083】
前述した第1の実施例と本実施例との相違点は、還元剤添加弁5から噴射された還元剤のうち、微粒還元剤と干渉し且つ粗大還元剤と干渉しない衝突板が排気通路2に配置される点にある。
【0084】
図10は、還元剤添加弁の近傍における排気通路の構成を示す図である。なお、図10中において、前述した第1の実施例と同様の構成要素には同一の符号が付されている。
【0085】
第1触媒ケーシング3と第2触媒ケーシング4との間の排気通路2には、該排気通路2の軸方向に延在する板状の衝突板7が設けられている。衝突板7は、該衝突板7の表面が還元剤添加弁5と対向するように配置されている。その際、排気通路2の径方向における衝突板7の位置は、排気通路2の中心付近に定められる。また、排気通路2の軸方向における衝突板7の位置は、還元剤添加弁5の位置より下流側にオフセットされる。
【0086】
ここで、還元剤添加弁5から噴射された微粒還元剤は、排気中における貫徹力が小さいため、下流側へ流されつつ排気通路2の径方向へ進むことになる。そのため、微粒還元剤は、図11中の実線の矢印が示すように、衝突板7に衝突し、還元剤添加弁5の近傍に留まるようになる。一方、還元剤添加弁5から噴射された粗大還元剤は、排気中における貫徹力が大きいため、還元剤添加弁5の噴孔が指向する方向へ略直線的に進む。そのため、粗大還元剤は、図11中の一点鎖線の矢印が示すように、衝突板7に衝突せず、還元剤添加弁5の遠方に到達する。
【0087】
したがって、上記した衝突板7によれば、還元剤添加弁5から噴射された還元剤のうち、微粒還元剤を還元剤添加弁5の近傍により確実に留まらせることができるとともに、粗大還元剤を還元剤添加弁5の遠方までより確実に到達させることができる。その結果、第2触媒ケーシング4の径方向における還元剤添加弁5に近い領域(前述した図2中の領域A)には微粒還元剤が供給され、還元剤添加弁5から離れた領域(前述した図2中の領域B)には粗大還元剤が供給されるようになる。すなわち、還元剤が選択還元型触媒へ流入する際の径方向における濃度分布を均一に近づけることができる。
【0088】
なお、衝突板7の構成及び配置は、図10及び図11に示した例に限られるものではなく、微粒還元剤が衝突し且つ粗大還元剤が通過する限り、如何なる構成及び配置であってもよい。
【0089】
たとえば、図12に示すように、複数の貫通孔8が設けられた衝突板9を還元剤添加弁5と対向する位置に配置するようにしてもよい。その際、貫通孔8は、還元剤添加弁5から噴射される粗大還元剤の飛行経路上に配置されるものとする。このような衝突板9によれば、微粒還元剤が衝突板9に衝突し、粗大還元剤が貫通孔8を通過するようになる。その結果、排気通路2の径方向における還元剤添加弁5の近傍に微粒還元剤が留まるとともに、還元剤添加弁5の遠方に粗大還元剤が到達するようになる。
【0090】
また、排気通路2の径が大きい場合には、図13に示すように、2枚の衝突板10,11を設けるようにしてもよい。その場合、2枚の衝突板10,11のうち、還元剤添加弁5に近い方の衝突板10には、粗大還元剤を通過させるための貫通孔100が設けられるようにしてもよい。また、2枚の衝突板10,11のうち、還元剤添加弁5から離れた方の衝突板11には、前記衝突板10の貫通孔100を通過した粗大還元剤の一部のみを通過させる貫通孔110が設けられるようにしてもよい。これら衝突板10,11によれば、還元剤添加弁5と衝突板10との間の領域に微粒還元剤を留まらせることができるとともに、衝突板10と衝突板11との間の領域に粗大還元剤の一部を留まらせることができる。その結果、排気通路2の径方向における還元剤の濃度分布を均一にすることができる。なお、衝突板11は、本発明に係わる分散板に相当するものである。
【0091】
2枚の衝突板を排気通路2に設ける場合において、何れか一方の衝突板には貫通孔を設けずに、排気通路2の軸方向における長さを他方の衝突板より短くなるようにしてもよい
。たとえば、図14に示すように、2枚の衝突板10,11のうち、還元剤添加弁5から離れた方の衝突板11には貫通孔が設けられず、且つ該衝突板11の長さが衝突板10の長さより短くされてもよい。また、図15に示すように、2枚の衝突板10,11のうち、還元剤添加弁5に近い方の衝突板10には貫通孔が設けられず、且つ該衝突板10の長さが衝突板11の長さより短くされてもよい。
【0092】
上記した図13乃至15において、衝突板が2枚設けられる例を示したが、衝突板の枚数は2枚に限られるものではない。要するに、排気通路2の径方向における還元剤の濃度分布が均一になる限り、3枚以上の衝突板が排気通路2に設けられてもよい。
【0093】
また、還元剤添加弁5が第1触媒ケーシング3に取り付けられる場合は、図16に示すように、パティキュレートフィルタ30より上流の部位において還元剤添加弁5の先端が上流側に傾斜されてもよい。さらに、パティキュレートフィルタ30と還元剤添加弁5との間の第1触媒ケーシング3には、第1触媒ケーシング3の内径と略同等の外径を有し、且つ多数の貫通孔120を有する円板状の衝突板12が配置されてもよい。このような構成によれば、還元剤添加弁5から噴射された還元剤が選択還元型触媒へ流入するまでの飛行距離が長くなるため、還元剤の加水分解(特に粗大還元剤の加水分解)を促進させることができる。
【0094】
次に、還元剤添加弁5が第2触媒ケーシング4に取り付けられる場合は、図17に示すように、選択還元型触媒40より上流の部位において還元剤添加弁5の先端が上流側に傾斜されるようにしてもよい。さらに、還元剤添加弁5より上流の第2触媒ケーシング4には、該第2触媒ケーシング4の内径と略動径の外径を有し、且つ多数の貫通孔130を有する円板状の衝突板13が配置されてもよい。このような構成によれば、還元剤添加弁5が選択還元型触媒40の直上流に配置される場合であっても、還元剤添加弁5から噴射された還元剤が選択還元型触媒40に流入するまでの飛行距離を長くすることができる。その結果、還元剤の加水分解(特に粗大還元剤の加水分解)を促進させることができる。
【0095】
なお、前述した図17に示したように第2触媒ケーシング4内に還元剤が噴射される場合、或いは図18に示すようにパティキュレートフィルタ30と選択還元型触媒40が1つの触媒ケーシング400に収容される場合は、還元剤添加弁5から噴射された還元剤の一部(たとえば、粗大還元剤)が触媒ケーシング4,400の内壁面に付着する可能性がある。また、パティキュレートフィルタ30や選択還元型触媒40は、触媒ケーシング4,400内にアルミナマットなどの保持部材401を介して保持されるため、選択還元型触媒40の外径は触媒ケーシング4,400の内径より小さくなる。その結果、触媒ケーシング4.400の内壁面に付着した還元剤は、選択還元型触媒40へ流入し難くなる。
【0096】
よって、選択還元型触媒40が収容される触媒ケーシング4,400に還元剤添加弁5が取り付けられる場合は、還元剤添加弁5から噴射された還元剤が触媒ケーシング4,400の内壁面に付着することを防止するための防着板を触媒ケーシング4,400内に配置するようにしてもよい。たとえば、図19に示すように、触媒ケーシング4,400の内径より径小な外径を有する筒状の防着板14が触媒ケーシング4,400に取り付けられるようにしてもよい。好ましくは、防着板14は、該防着板14の内径が選択還元型触媒40の外径以下となるように形成されてもよい。その場合、粗大還元剤が触媒ケーシング4,400の内壁面に付着する事態を回避することができるため、還元剤添加弁5から噴射された還元剤の略全てを選択還元型触媒40へ流入させることが可能となる。
【符号の説明】
【0097】
1 内燃機関
2 排気通路
3 第1触媒ケーシング
4 第2触媒ケーシング
5 還元剤添加弁
5a 噴孔
6 ECU
7 衝突板
8 貫通孔
9 衝突板
10 衝突板
11 衝突板
12 衝突板
13 衝突板
14 防着板
30 パティキュレートフィルタ
40 選択還元型触媒
50 ポンプ
51 還元剤タンク
100 貫通孔
110 貫通孔
120 貫通孔
130 貫通孔
400 触媒ケーシング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に配置された排気浄化用触媒と、
前記排気浄化用触媒より上流の排気通路に配置され、排気の流れ方向と交差する方向へ還元剤を噴射する還元剤添加弁と、
を備えた内燃機関の排気浄化システムにおいて、
前記還元剤添加弁は、還元剤の一部を残りの還元剤より粗大な粒子にして排気通路へ噴射する内燃機関の排気浄化システム。
【請求項2】
請求項1において、前記還元剤添加弁は、前記排気通路の径方向に対して広角に還元剤を噴射する内燃機関の排気浄化システム。
【請求項3】
請求項1または2において、前記還元剤添加弁から噴射される還元剤の一部を残りの還元剤より粗大にする場合は粗大にしない場合に比べ、前記還元剤添加弁の開弁動作速度を低下させる制御部を更に備える内燃機関の排気浄化システム。
【請求項4】
請求項1または2において、前記還元剤添加弁から噴射される還元剤の一部を残りの還元剤より粗大にする場合は粗大にしない場合に比べ、前記還元剤添加弁の1回当たりの還元剤噴射期間を短くさせる制御部を更に備える内燃機関の排気浄化システム。
【請求項5】
請求項1または2において、前記還元剤添加弁から供給すべき還元剤の目標量である目標供給量が所定量より多くなるときに、前記還元剤添加弁から噴射される還元剤の一部を残りの還元剤より粗大にする場合は粗大にしない場合に比べ、前記還元剤添加弁の1回当たりの還元剤噴射期間を長くさせる制御部を更に備える内燃機関の排気浄化システム。
【請求項6】
請求項1または2において、前記還元剤添加弁から噴射される還元剤の一部を残りの還元剤より粗大にする場合は粗大にしない場合に比べ、前記還元剤添加弁の噴射圧力を低下させる制御部を更に備える内燃機関の排気浄化システム。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか1項において、前記還元剤添加弁から噴射される還元剤の飛行経路上に配置され、前記還元剤添加弁から噴射される微小粒子の還元剤が衝突するとともに粗大粒子の還元剤が通過する衝突板を更に備える内燃機関の排気浄化システム。
【請求項8】
請求項7において、前記衝突板を通過した粗大粒子の還元剤が衝突する分散板を更に備える内燃機関の排気浄化システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2013−36332(P2013−36332A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−170158(P2011−170158)
【出願日】平成23年8月3日(2011.8.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】