説明

内燃機関の排気浄化装置

【課題】酸素イオン伝導材を触媒材料として使用した内燃機関の排気浄化装置において、一酸化炭素の排出を抑制する。
【解決手段】ディーゼルエンジンの排気管に備えられ、排気中のPMを捕集するフィルタ状の担体に酸化触媒4が担持されて形成されたDPFにおいて、酸化触媒4を、粒体状の酸素吸蔵材5と該酸素吸蔵材5の周囲を覆う膜状の酸素イオン伝導材6とを含んで構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気浄化装置に係り、詳しくは、ディーゼルエンジンの排気中に含まれるPM(パティキュレートマター:粒子状物質)を捕集、除去する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンには、排気中に含まれるカーボンを主成分とするPMを捕集、除去するため、排気浄化装置としてDPF(ディーゼルパティキュレートフィルタ)が広く用いられている。このようなDPFでは、PMが堆積すると捕集機能が低下するとともに圧損が増加してしまう。そこで、DPFにPMの酸化作用を促進させる触媒を担持し、PMを酸化(燃焼)させて二酸化炭素として排出させることでPMを除去し、DPFを再生することが行われている。DPFに用いられる触媒としては、従来からプラチナが広く採用されている。また、安定した酸化反応を図るために、セリアやジルコニア等の酸素吸蔵材も触媒に添加されているのが一般的である。
【0003】
しかしながら、近年、プラチナの価格が高騰していることから、対処方法としてプラチナに代わる材料が研究されており、例えばペロブスカイト型酸化物のような酸素イオン伝導材が触媒材料として提案されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2007−224747号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような酸素イオン伝導材では、プラチナと比較すると酸化性能が劣り、特に高温域においてPMが完全に酸化せずに一酸化炭素が発生する虞がある。
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、酸素イオン伝導材を触媒材料として使用した、排気中の粒子状物質を捕集する内燃機関の排気浄化装置において、十分な酸化性能が得られ、一酸化炭素の排出を抑制する排気浄化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、内燃機関の排気通路に備えられ、排気中の粒子状物質を捕集するフィルタ状の担体に酸化触媒が担持されて形成された内燃機関の排気浄化装置において、酸化触媒を、粒体状の酸素吸蔵材と該酸素吸蔵材の周囲に面接触して担持された酸素イオン伝導材とを含んで構成することを特徴とする。
また、請求項2の発明は、請求項1において、酸化触媒を、粒体状の酸素吸蔵材と該酸素吸蔵材の周囲を覆う膜状の酸素イオン伝導材とを含んで構成することを特徴とする。
【0006】
また、請求項3の発明は、請求項1または2において、酸素イオン伝導材の表面に、内部の酸素吸蔵材まで達するクラックを形成することを特徴とする。
また、請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれかにおいて、酸素吸蔵材の外径を5μm以下にするとともに、酸素イオン伝導材の厚さまたは外径を酸素吸蔵材の外径の30%以下にすることを特徴とする。
【0007】
また、請求項5の発明は、請求項1〜3のいずれかにおいて、酸素吸蔵材の外径が、体積÷表面積×6で示されることを特徴とする。
また、請求項6の発明は、請求項1〜3のいずれかにおいて、酸素イオン伝導材の体積が、酸素吸蔵材の体積の3倍以下であることを特徴とする。
また、請求項7の発明は、請求項1〜4のいずれかにおいて、酸素イオン伝導材を、ペロブスカイト型酸化物にすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の請求項1の内燃機関の排気浄化装置によれば、担体に捕集されたカーボンを主成分とする粒子状物質は、酸素イオン伝導材から酸素が供給されて酸化し、二酸化炭素となって排出し担体から除去される。酸素イオン伝導材には酸素吸蔵材から酸素が供給されるので、酸素イオン伝導材における酸素不足が解消され、連続的に粒子状物質の酸化除去が可能となる。特に本願では、酸素吸蔵材の周囲に酸素イオン伝導材が面接触して担持されているので、酸素吸蔵材と酸素イオン伝導材との接触面積が大きく確保され、酸素吸蔵材から酸素イオン伝導材への酸素の供給が効率よく行われる。したがって、酸素イオン伝導材に付着した粒子状物質を効率的に酸化させることが可能となり、粒子状物質を十分に除去しつつ、高温域であっても粒子状物質の不完全な酸化を防止して一酸化炭素の排出を抑制することができる。
【0009】
また、本発明の請求項2の内燃機関の排気浄化装置によれば、酸素吸蔵材の周囲を酸素イオン伝導材が覆う膜状に形成されているので、酸素吸蔵材と酸素イオン伝導材との接触面積がより大きく確保され、酸素吸蔵材から酸素イオン伝導材への酸素の供給をより効率的に行うことができる。
また、本発明の請求項3の内燃機関の排気浄化装置によれば、酸素吸蔵材まで達するクラックを通過して、排気が酸素吸蔵材に直接触れることが可能となるので、排気中の酸素が酸素吸蔵材に効率よく補給される。したがって、酸素吸蔵材から酸素イオン伝導材を介して粒子状物質に酸素を供給しても酸素不足となることを抑制できる。
【0010】
また、本発明の請求項4の内燃機関の排気浄化装置によれば、酸素吸蔵材から酸素イオン伝導材への酸素の供給が効率よく行われる酸化触媒を実現することができる。
また、本発明の請求項5の内燃機関の排気浄化装置によれば、幾何学的な粒子形状をもつ酸素吸蔵材であっても酸素イオン伝導材への酸素の供給が効率よく行われる酸化触媒を実現することができる。
【0011】
また、本発明の請求項6の内燃機関の排気浄化装置によれば、酸素吸蔵材と酸素イオン伝導材の体積比が適切となり酸素イオン伝導材への酸素の供給が効率よく行われる酸化触媒を実現することができる。
また、本発明の請求項7の内燃機関の排気浄化装置によれば、酸素イオン伝導材がペロブスカイト型酸化物であるので、プラチナ等の高価な材料を用いずにコストを抑制した排気浄化装置が実現可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面に基づき本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の排気浄化装置が適用されたエンジン(内燃機関)1の排気系の概略構成図である。
エンジン1はディーゼルエンジンであって、その排気管2には、DPF3が介装されている。DPF3は、例えば、ハニカム状の担体3aの通路の上流側及び下流側を交互にプラグ3bで閉鎖して形成され、排気中のPMを捕集する機能を有している。担体3aは、コージライト等から形成された多孔質の構造であって、その壁面には酸化触媒が担持されて酸化触媒層が形成されている。
【0013】
図2は本発明の第1の実施形態に係る酸化触媒4の構成を示す模式図である。担体3aに担持される酸化触媒4は、酸素吸蔵材5及び酸素イオン伝導材6を含んで構成されている。酸素吸蔵材5は、酸素を吸蔵、排出する機能を有し、例えばCeO、Ce-Zr-Bi、Ce-Prといったセリア系化合物が用いられている。酸素イオン伝導材6は、酸素を有し、隣接の物質に対し酸素イオンの受け渡しが容易に行なわれる物質であって、例えば、LaSrMnO3、LaSrFeO3、LaBaFeO3、LaBaMnO3といったアルカリ土類を含有するペロブスカイト型複合酸化物が用いられている。
【0014】
本発明の第1の実施形態では、図2に示すように、酸化触媒4は、粒状の酸素吸蔵材5の周囲を酸素イオン伝導材6が薄膜状に覆うように形成されている。酸素吸蔵材5の直径は例えば5μm程度に、より好ましくは1〜2μm程度にし、酸素イオン伝導材6の厚さは酸素吸蔵材5の直径の1パーセント程度に設定すればよい。
また、酸素吸蔵材の粒子形状が球とならない場合には、体積÷表面積×6で示される値を粒子外径として用いることがよい。体積は、ピクノメーター法(気相置換法)で計測される真密度を使い、表面積は、BET法を用いた比表面積でよい。
【0015】
図3は、酸化触媒4の表層部分の拡大図である。
上記のような構成の酸化触媒4を有するDPF3では、図3に示すように、排気中の酸素は、酸素イオン伝導材6を介して酸素吸蔵材5に吸蔵される。一方、酸素イオン伝導材6の表面に付着したカーボンを主成分とするPM7は、酸素イオン伝導材6から酸素が供給されて酸化する。したがって、DPF3に堆積したPM7は二酸化炭素となって排出され、DPF3から除去されることとなる。また、酸素イオン伝導材6からPMに酸素が供給されることで酸素イオン伝導材6の酸素が消費されるが、酸素イオン伝導材6には酸素吸蔵材5から酸素が供給されるので、酸素不足が回避され、連続的な酸化が可能となる。
【0016】
本実施形態では、特に酸素吸蔵材5の周囲を酸素イオン伝導材6が覆うように構成されることで、酸素吸蔵材5と酸素イオン伝導材6との接触面積が十分に確保され、酸素吸蔵材5から酸素イオン伝導材6への酸素の供給が効率良く行われる。したがって、酸化機能を十分に確保しつつ、PM7の不完全な酸化を防止してCOの排出を抑制することができる。
【0017】
図4は、DPF3におけるPM(カーボン)の燃焼特性を示すグラフであり、詳しくは触媒温度に応じたCO及びCOの合計排出量、COの排出量(排気中の成分比)を示している。
本グラフ中には、上記の第1の実施形態の他に、比較例として従来技術の酸化触媒を用いたDPFにおける燃焼特性も2種類図示している。図5は、第1の比較例である従来技術の酸化触媒10の構成を示す模式図である。図5に示すように、従来技術の酸化触媒10では、酸素吸蔵材5だけではなく酸素イオン伝導材6も粒体形状となっており、酸素吸蔵材5と酸素イオン伝導材6とは接触しているもののその接触面積は本実施形態の酸化触媒4と比較すれば大幅に小さい。したがって、この酸化触媒10では、酸素吸蔵材5と酸素イオン伝導材6との間の酸素の供給を効率よく行うことが困難である。第2の比較例は、酸化触媒として酸素イオン伝導材6のみ用いた場合である。
【0018】
図4に示すように、本実施形態のDPF3では、高温域であっても、COの発生量が第1の比較例及び第2の比較例より大幅に低く殆どないことからPMが完全燃焼していることが判明される。また、酸素イオン伝導材6が粒体である第1の従来例のようにCO+COの発生量が低下することもなく、酸化性能が十分に確保されることが判明される。
また、本実施形態では、酸素吸蔵材5の周囲を酸素イオン伝導材6が覆うように構成されることで、酸素イオン伝導材6が粒体である従来例(第1の比較例)と比較して酸化触媒4の体積を低減させることができる。したがって、DPF3における圧力損失を低減させることができる。
【0019】
更に、本実施形態では、耐熱性の高い酸素イオン伝導材6で被覆すれば耐熱性の低い酸素吸蔵材5を採用することができるので、材料費のコストダウンを図ることができる。
図6は本発明の第2の実施形態に係る酸化触媒20の構成を示す模式図である。
本発明の第2の実施形態に係る酸化触媒20では、第1の実施形態の酸化触媒4に対して、更に酸素イオン伝導材6にクラック21が数か所形成されている。クラック21はその最深部が酸素吸蔵材5にまで達している。
【0020】
このように形成することで、本実施形態では、排気が酸素吸蔵材5に直接接触することが可能となるので、排気から酸素吸蔵材5への酸素供給がより効率的になり、酸化触媒20における酸化能力を向上させることができる。
次に、上記酸化触媒4、20の形成方法について説明する。
以上の実施形態のように酸素吸蔵材5の周囲を酸素イオン伝導材6が覆うように形成するには、有機錯体法を利用すればよい。
【0021】
有機錯体法は、低分子量の金属錯体とアルキルアミンを含む水溶液からコーティング膜を形成する公知の技術である。具体的には、金属塩化物水溶液にエチレンジアミン四酢酸、トリブチルアミン及び過酸化水素水を混ぜて金属錯体のトリブチルアンモニウム塩を生成する。そして、これにエタノールを混ぜて有機錯体溶液を生成し、この溶液をフローコートし焼成することで、金属酸化物の薄膜が生成される。したがって、この有機錯体法を利用することで、酸素吸蔵材の周囲に薄膜状の酸素イオン伝導材が覆う酸化触媒を容易に製造することができる。
【0022】
また、錯体溶液にポリエチレングリコールなど有機物を混合すれば、焼成時に有機物が燃焼して、酸素イオン伝導材にクラックを形成させることができる。これにより、上記の第2の実施形態を容易に実現させることができる。
なお、酸素吸蔵材5の周囲を酸素イオン伝導材6が均一に覆う必要はなく、酸素吸蔵材5が一部露出するようにしてもよい。このようにすれば、上記の酸化触媒20と同様に排気から酸素吸蔵材5への酸素供給をより効率的にすることができる。
【0023】
また、図7に示すように、酸素吸蔵材5の周囲を粒状の酸素イオン伝導材6が担持されるように形成してもよい。この場合、酸素イオン伝導材6が酸素吸蔵材5に対して面接触するように形成すれば、酸素吸蔵材5と酸素イオン伝導材6との間の酸素の供給を効率よく行うことができる。
酸素イオン伝導材6は、上記のペロブスカイト型酸化物に限定するものではなく、例えば不定比化合物であるペロブスカイト型酸化物(LaGaO)、不規則型パイクロア酸化物(LnZr)といった酸素イオン授受が積極的に行われる物質であれば本願発明に採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の排気浄化装置が適用されたエンジンの排気系の概略構成図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る酸化触媒の構成を示す模式図である。
【図3】酸化触媒の表層部分の拡大図である。
【図4】DPFにおけるPMの燃焼特性を示すグラフである。
【図5】従来技術の酸化触媒の構成を示す模式図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る酸化触媒の構成を示す模式図である。
【図7】本発明の他の実施形態に係る酸化触媒の構成を示す模式図である。
【符号の説明】
【0025】
1 エンジン
2 排気管
3 DPF
3a 担体
4 酸化触媒
5 酸素吸蔵材
6 酸素イオン伝導材
7 クラック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に備えられ、排気中の粒子状物質を捕集するフィルタ状の担体に酸化触媒が担持されて形成された内燃機関の排気浄化装置において、
前記酸化触媒は、粒体状の酸素吸蔵材と該酸素吸蔵材の周囲に面接触して担持された酸素イオン伝導材とを含んで構成されることを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【請求項2】
前記酸素イオン伝導材は、前記酸素吸蔵材の周囲を覆う膜状に形成されることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項3】
前記酸素イオン伝導材の表面には、内部の前記酸素吸蔵材まで達するクラックが形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項4】
前記酸素吸蔵材の外径は5μm以下であるとともに、
前記酸素イオン伝導材の厚さまたは外径は前記酸素吸蔵材の外径の30%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項5】
前記酸素吸蔵材の外径とは、下記計算式にて表される値であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の内燃機関の排気浄化装置。
酸素吸蔵材の外径 = 粒子体積 V(cm3/g)÷ 粒子表面積 S(cm2/g)×6
【請求項6】
前記酸素イオン伝導材の体積が、前記酸素吸蔵材の体積の3倍以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項7】
前記酸素イオン伝導材は、ペロブスカイト型酸化物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の内燃機関の排気浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−195797(P2009−195797A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−38722(P2008−38722)
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】