説明

内燃機関の排気浄化装置

【課題】アンモニアを還元剤として添加するNOx触媒を備え、NOx触媒へのアンモニアの添加量を適切に制御することができる内燃機関の排気浄化装置を提供する。
【解決手段】NOx中のNO2比率に基づき、まず、SCR触媒16上で生起されるNO2及びNOとアンモニアとの反応によるNO+NO2反応浄化量を算出し、反応後にNO2が残存するときにはNO2とアンモニアとの反応によるNO2反応浄化量を算出する一方、反応後にNOが残存するときにはNOとアンモニアとの反応によるNO反応浄化量を算出する。各反応浄化量の上限を触媒温度から求めた各反応での最大NOx浄化量no+no2NOXmax, noNOXmax, no2NOXmaxにより制限し、制限後のNO+NO2反応浄化量に対してNO2反応浄化量またはNO反応浄化量を加算して全体のNOx浄化量を求め、これに対応するアンモニア添加量を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は内燃機関の排気浄化装置に係り、詳しくは尿素(アンモニア(NH3))を還元剤として添加して排ガス中のNOxをNOx触媒で浄化する排気浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、内燃機関(エンジン)の排気通路にNOx浄化用のNOx触媒を配した車両が実用化されている。特に、ディーゼルエンジンでは、燃焼がリーン空燃比の下で実施されるため、排気中の酸素(O2)量が多く、ガソリンエンジンで実用化されている三元触媒は機能せず、種々のディーゼルエンジン用NOx触媒が開発されている。
その一つとして、最近では、定地式ディーゼルエンジンで実用化されている還元剤としてアンモニアを添加する構成のアンモニア添加式NOx触媒(選択還元型SCR触媒であり、以下、SCR触媒と称する)が車両用に開発されつつある。この種のSCR触媒では、触媒上に添加されたアンモニアによってNOxが窒素(N2)及びH2Oに還元されるように反応が進行する。
【0003】
アンモニア添加量の過剰は、NOx浄化に消費されなかった余剰アンモニアが大気中に排出される所謂アンモニアスリップを生じ、アンモニア添加量の不足は、NOx浄化率の低下を生じる。そこで、これらの不具合を防止すべく、アンモニア添加量を適切に制御するための種々の手法が提案されている。例えば、SCR触媒の温度とNOx浄化率との間の相関性に着目し、その特性に従って予め設定した浄化率マップに基づき触媒温度からアンモニア添加量を算出したり、或いは触媒温度と排気流量とからアンモニア添加量を算出したりする技術がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−127256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、SCR触媒のNOx浄化反応は浄化率という単純な比率を用いて触媒温度や排気流量から正確に特定できる性質のものではなく、例えば同一触媒温度でもエンジンの回転速度や負荷に応じて変動し、それに伴って添加すべき最適なアンモニア添加量も変化する。このため、特許文献1に記載された排気浄化装置では適切な量のアンモニアをSCR触媒に供給できない場合があり、アンモニア添加量が過剰なときのアンモニアスリップに起因して無用なアンモニア消費を促進させたり、逆にアンモニア添加量の不足によりNOx浄化率が低下したりして、今ひとつ改良の余地があった。
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、アンモニアを還元剤として添加するSCR触媒を備え、SCR触媒へのアンモニア添加量を浄化率に基づき制御するのではなく、化学反応に基づいて各種SCR反応の試験結果をアレニウスの式で解き、それらから求めた反応可能な浄化量に基づいてアンモニア添加量を適切に制御することができる内燃機関の排気浄化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1の発明は、内燃機関の排気通路に介装され、排ガス中のNOxを浄化可能なNOx触媒と、NOx触媒の排気上流側に設けられ、NOx触媒に還元剤としてアンモニアを添加するアンモニア添加手段と、NOx触媒に到達するNOx中のNO2比率を判定するNO2比率判定手段と、NO2比率判定手段により判定されたNO2比率に基づき、NOxとアンモニアとの異なる反応式に従った複数の反応からNOx触媒上で生起される反応を特定し、特定した反応によりNOx触媒上で浄化されるNOx量を算出するNOx浄化量算出手段と、NOx浄化量算出手段により特定されたNOxとアンモニアとの反応によりNOx触媒上で浄化可能な最大NOx量をNOx触媒の温度と排ガス流量とに基づき算出する最大NOx浄化量算出手段と、最大NOx浄化量算出手段により算出された最大NOx浄化量を上限としてNOx浄化量算出手段により算出されたNOx浄化量を制限し、制限後のNOx浄化量に基づきアンモニア添加手段によるアンモニアの添加量を算出する添加量算出手段とを備えたものである。または、それぞれの反応から求められた浄化量を予め算出しマップ化してもよい。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1において、NOxとアンモニアとが反応するときの複数の反応として、NO2及びNOとアンモニアとのNO+NO2反応、NO2とアンモニアとのNO2反応、NOとアンモニアとのNO反応が予め設定され、NOx浄化量算出手段が、NO2比率に基づきNO+NO2反応によるNOx浄化量をNO+NO2反応浄化量として算出し、NO2比率に基づきNO+NO2反応後にNO2が残存すると判定したときには、残存したNO2のNO2反応によるNOx浄化量をNO2反応浄化量として算出する一方、NO2比率に基づきNO+NO2反応後にNOが残存すると判定したときには、残存したNOのNO反応によるNOx浄化量をNO反応浄化量として算出し、最大NOx浄化量算出手段が、NO+NO2反応により浄化可能な最大NOx浄化量、及びNO2反応またはNO反応により浄化可能な最大NOx浄化量を算出し、添加量算出手段が、NO+NO2反応浄化量をNO+NO2反応による最大NOx浄化量で制限する共に、NO2反応浄化量をNO2反応による最大NOx浄化量で制限するか、またはNO反応浄化量をNO反応による最大NOx浄化量で制限し、制限後のNO+NO2反応浄化量に制限後のNO2反応浄化量またはNO反応浄化量を加算して全体のNOx浄化量を算出するものである。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1または2において、排気通路の上記NOx触媒の排気上流側には、排ガス中のパティキュレートを捕集するフィルタ、及びフィルタの排気上流側で排ガス中のNOからNO2を生成する前段酸化触媒が介装され、NO2比率判定手段が、前段酸化触媒の排気上流側に設けられた上流側NOxセンサにより検出されたNOx量、及びフィルタの排気下流側に設けられた下流側NOxセンサにより検出されたNOx量のそれぞれの差分に基づきNOx中のNO2比率を判定するものである。または精度は低下するが、前段酸化触媒の反応を予め数値化し、NO2比率を求めてもよい。
請求項4の発明は、請求項1乃至3において、排気通路を流通する排ガス中のO2量に基づき、O2との反応により消費されるアンモニア量を算出するアンモニア消費量算出手段を備え、添加量算出手段が、アンモニア消費量算出手段により算出されたアンモニア消費量に基づきアンモニア添加量を増加側に補正するものである。
請求項5の発明は、請求項1乃至4において、添加量算出手段が、最大NOx浄化量に基づく制限に加えて、NOx触媒に到達するNOx量を上限としてNOx浄化量を制限するものである。
【発明の効果】
【0009】
以上説明したように請求項1の発明の内燃機関の排気浄化装置によれば、NOx触媒に到達するNOx中のNO2比率をNO2比率判定手段により判定し、この判定したNO2比率に基づき、排ガス中のNOxとアンモニアとの複数の反応からNOx触媒上で生起される反応をNOx浄化量算出手段により特定して、この反応により浄化されるNOx量を算出する一方、触媒温度に基づき最大NOx浄化量算出手段により算出された最大NOx量を上限としてNOx浄化量を制限し、制限後のNOx浄化量に基づきアンモニア添加手段が添加すべきアンモニア添加量を添加量算出手段により算出するようにした。
【0010】
このようにNOx触媒上で実際に生起されるNOxとアンモニアとの反応をNO2比率から特定し、この反応に基づきNOx浄化量を算出しているため、NOx触媒上で浄化される現実に即したNOx浄化量を求めることができる。よって、このNOx浄化量から正確なアンモニア添加量を算出して、常に適切な量のアンモニアをNOx浄化のためにNOx触媒上に供給でき、アンモニア添加量の過不足による不具合を未然に防止することができる。
【0011】
請求項2の発明の内燃機関の排気浄化装置によれば、請求項1に加えて、まず、NO2比率に基づきNO+NO2反応によるNO+NO2反応浄化量を算出し、NO+NO2反応後にNO2が残存すると判定したときには、残存したNO2のNO2反応によるNO2反応浄化量を算出する一方、NO+NO2反応後にNOが残存すると判定したときには、残存したNOのNO反応によるNO反応浄化量を算出し、これらのNO+NO2反応浄化量、NO2反応浄化量、NO反応浄化量を対応する最大NOx浄化量で制限した上で、NO+NO2反応浄化量にNO2反応浄化量またはNO反応浄化量を加算して全体のNOx浄化量を算出するようにした。
【0012】
NOx触媒上では、NO+NO2反応が最も早く生起され、次いでNO2反応が早く、NO反応が最も遅い。このため、まずNO+NO2反応によるNO+NO2反応浄化量を算出し、NO+NO2反応後にNO2とNOとの何れが残存するかに応じてNO2反応によるNO2反応浄化量、またはNO反応によるNO反応浄化量を算出し(残存しない場合は0)、算出したNO2反応浄化量またはNO反応浄化量をNO+NO2反応浄化量に加算すれば、より現実に即したNOx浄化量を求めることができる。
【0013】
請求項3の発明の内燃機関の排気浄化装置によれば、請求項1または2に加えて、前段酸化触媒の排気上流側に設けられた上流側NOxセンサによるNOx値量、及びフィルタの排気下流側に設けられた下流側NOxセンサによるNOx値量に基づき、それぞれの値の差分からNO2比率判定手段がNO2比率を判定するようにした。
このように、NO2比率を判定するための検出情報として、前段酸化触媒の排気上流側の基本的にNO2を含まないエンジンアウトのNOx量、及びフィルタの排気下流側のNO2を含み実際にNOx触媒に到達するNOx量を用いるため、正確なNO2比率、ひいては一層正確なアンモニア添加量を算出することができる。
【0014】
請求項4の発明の内燃機関の排気浄化装置によれば、請求項1乃至3に加えて、アンモニア消費量算出手段により算出されたアンモニア消費量に基づき、添加量算出手段がアンモニア添加量を増加側に補正するようにした。このように、O2との反応により消費されるアンモニア量を考慮してアンモニア添加量を補正するため、一層正確なアンモニア添加量を算出することができる。
請求項5の発明の内燃機関の排気浄化装置によれば、請求項1乃至4に加えて、NOx触媒に到達するNOx量を上限としてNOx浄化量を制限するようにした。実際にNOx触媒に到達するNOx量がNOx浄化量未満であれば、NOx触媒上で浄化されるNOx量もNOx触媒に到達するNOx量となるため、一層正確なNOx浄化量を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施形態の内燃機関の排気浄化装置を示す全体構成図である。
【図2】ECUが実行する尿素噴射量算出ルーチンを示すフローチャートである。
【図3】センサ出力比からNO2比率を算出するためのNO2比率演算マップを示す図である。
【図4】NO2比率を前段酸化触媒の温度毎に表示した試験結果を示す特性図である。
【図5】各反応での最大NOx浄化量をSCR触媒の温度毎に表示した試験結果を示す特性図である。
【図6】ECUが実行するNOx浄化量算出ルーチンを示すフローチャートである。
【図7】ECUが実行するNO+NO2反応浄化量算出ルーチンを示すフローチャートである。
【図8】ECUが実行するNO反応・NO2反応浄化量算出ルーチンを示すフローチャートである。
【図9】NO2比率が25%のときの反応順序を示す模式図である。
【図10】NO2比率が75%のときの反応順序を示す模式図である。
【図11】NO2比率が50%のときの反応順序を示す模式図である。
【図12】NOxに対する尿素水の当量比とNOx浄化率との関係の試験結果を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を具体化した内燃機関の排気浄化装置の一実施形態を説明する。
図1は本実施形態の内燃機関の排気浄化装置を示す全体構成図であり、内燃機関1は直列6気筒ディーゼル機関として構成されている。内燃機関1の各気筒には燃料噴射弁2が設けられ、各燃料噴射弁2は共通のコモンレール3から加圧燃料を供給され、機関の運転状態に応じたタイミングで開弁して各気筒の筒内に燃料を噴射する。
内燃機関1の吸気側には吸気マニホールド4が装着され、吸気マニホールド4に接続された吸気通路5には、上流側よりエアクリーナ6、ターボチャージャ7のコンプレッサ7a、インタクーラ8が設けられている。また、内燃機関1の排気側には排気マニホールド9が装着され、排気マニホールド9には上記コンプレッサ7aと同軸上に連結されたターボチャージャ7のタービン7bを介して排気通路10が接続されている。
【0017】
内燃機関1の運転中にエアクリーナ6を経て吸気通路5内に導入された吸気はターボチャージャ7のコンプレッサ7aにより加圧された後にインタクーラ8、吸気マニホールド4を経て各気筒に分配され、各気筒の吸気行程で筒内に導入される。筒内では所定のタイミングで燃料噴射弁2から燃料が噴射されて圧縮上死点近傍で着火・燃焼し、燃焼後の排ガスは排気マニホールド9を経てタービン7bを回転駆動した後に排気通路10を経て外部に排出される。
上記排気通路10には円筒状の上流側ケーシング11及び下流側ケーシング12が設けられ、両ケーシング11,12は小径の筒状をなす絞り部13により連結されている。上流側ケーシング11内には前段酸化触媒14及びDPF(ディーゼルパティキュレートフィルタ)15が収容され、下流側ケーシング12内には選択還元型SCR触媒(アンモニア添加式NOx触媒)16及び後段酸化触媒17が収容され、絞り部13には尿素水噴射用の噴射ノズル18(アンモニア添加手段)が設置されている。
【0018】
噴射ノズル18の先端は絞り部13内の中心に位置し、噴射ノズル18の基端は絞り部13の外周に設置された電磁弁19に接続されている。電磁弁19には図示しない尿素タンクから所定圧の尿素水が供給されており、尿素水は電磁弁19の開閉に応じて噴射ノズル18の先端から放射状に噴射される。
一方、車室内には、図示しない入出力装置、制御プログラムや制御マップ等の記憶に供される記憶装置(ROM,RAM等)、中央処理装置(CPU)、タイマカウンタ等を備えたECU(エンジン制御ユニット)31が設置されている。
【0019】
ECU31の入力側には、前段酸化触媒14の上流側に設置されてエンジンアウトのNOx量e/gNOXを検出する上流側NOxセンサ20、DPF15の下流側に設置されてDPFアウトのNOx量、換言すればSCR触媒16に到達するNOx量inNOXを検出する下流側NOxセンサ21、及びSCR触媒16の上流側に設置されてSCR触媒16に流入する排ガスの温度を検出する温度センサ22などの各種センサ類が接続され、ECU31の出力側には、上記燃料噴射弁2及び噴射ノズル18の電磁弁19などの各種デバイス類が接続されている。
例えばECU31は、エンジン回転速度Ne及びアクセル操作量θaccから図示しないマップに従って燃料噴射量を設定し、エンジン回転速度Ne及び燃料噴射量から図示しないマップに従って燃料噴射時期を設定し、これらの燃料噴射量及び燃料噴射時期に基づいて燃料噴射弁2を駆動制御して内燃機関1を運転する。
【0020】
内燃機関1の運転中において、内燃機関1から排出された排ガスは排気マニホールド9及び排気通路10を経て上流側ケーシング11内に導入され、前段酸化触媒14を経てDPF15を流通する際に含有しているPM(パティキュレートマター)を捕集される。その後、排ガスは絞り部13内を流通する過程で噴射ノズル18から噴射された尿素水と混合し、排気熱及び排ガス中の水蒸気により尿素水は加水分解されてアンモニア(NH3)を生成する。そして、生成されたアンモニアによりSCR触媒16上で排ガス中のNOxが無害なNに還元されてNOxの浄化が行われる一方、このときの余剰アンモニアが後段酸化触媒17によりNOに酸化されて処理される。
【0021】
また、前段酸化触媒14では排ガス中のNO(一酸化窒素)から酸化反応によりNO(二酸化窒素)が生成され、生成されたNO2の酸化反応によりDPF15に捕集されたPMが連続的に焼却除去されてDPF15の再生が図られる(連続再生)。この連続再生作用は、排気温が低い低速走行では十分に得られずにDPF15のPM捕集量は次第に増加する。その対策として、ECU31は現在のDPF15上のPM捕集量を逐次推定し、PM捕集量が予め設定された所定値を越えると、ポスト噴射により排気通路10に未燃燃料を供給して前段酸化触媒14上で酸化反応させ、このときの反応熱によりDPF15上のPMを強制的に燃焼させる(強制再生)。
【0022】
ところで、従来技術として説明した特許文献1の発明では、触媒温度とNOx浄化率との相関性に基づき設定した浄化率マップを用いてアンモニア添加量を算出しているが、同一触媒温度でもエンジンの回転速度や負荷に応じて最適なアンモニア添加量が相違することから、アンモニア添加量の過不足を生じるという問題があった。
本発明者は、SCR触媒16上でNOxとアンモニアが主に3種の反応式の内の何れかに従って反応し、SCR触媒16の温度やエンジンアウトのNOx量などの諸条件が同一であったとしても、SCR触媒16上で生起されるNOxとアンモニアとの反応に応じてNOx浄化量が相違してくること、及びNOxとアンモニアとが何れの反応式に従って反応するかは、SCR触媒16上に到達するNOx中のNO2比率NO2ratio(NOx中でNO2が占める割合=NO2/NOx)に依存することを見出した。
【0023】
そこで、本発明では、NO2比率NO2ratioに基づきSCR触媒16上で生起されるNOxとアンモニアとの反応を特定し、それぞれの反応により浄化されるNOx浄化量を算出し、算出したNOx浄化量を加算した値に対応してアンモニア添加量を算出しており、以下、当該アンモニア添加量の算出処理について詳述する。
ECU31は内燃機関1の運転中に図2に示す尿素噴射量算出ルーチンを所定の制御インターバルで実行している。まず、ステップS2で各種センサの検出情報を入力し、続くステップS4で上流側NOxセンサ20と下流側NOxセンサ21との出力比inNOX/e/gNOXを算出する。その後、ステップS6で図3に示すNO2比率演算マップに従ってセンサ出力比inNOX/e/gNOXからNOx中のNO2比率NO2ratioを算出する。
【0024】
ここで、エンジンアウトのNOxは基本的にNO2を含まず、前段酸化触媒14上でNO2が生成され、そのNO2の一部がDPF15上で連続再生のために消費され、残りのNO2がNOxに含まれてSCR触媒16上に到達する。例えば前段酸化触媒14のNO2生成量は温度に応じて変化するため、図4に示すようにNO2比率NO2ratioは前段酸化触媒14の温度に依存することになり、同様に前段酸化触媒14の劣化状態もNO2生成量、ひいてはNO2比率NO2ratioに影響を及ぼす。また、前段酸化触媒14のNO2生成量が同一であったとしても、エンジンアウトのNOx量が増減すればNO2比率NO2ratioは変化する。
【0025】
このような種々の要因によりNO2比率NO2ratioの正確な推定は困難となるが、NO2比率NO2ratioに応じて上記のようにSCR触媒16上での反応も変化することから、正確なNO2比率NO2ratioを求めることはNOx浄化量算出のための必須の要件となる。そこで、上記ステップS8では、基本的にNO2を含まないエンジンアウトのNOx量e/gNOX、及びNO2を含み実際にSCR触媒16に到達するNOx量inNOXに基づきNO2比率NO2ratioを求めている。
図3のマップ特性は、NOxセンサ20,21の出力に対するNO2比率NO2ratioの影響を試験により検証して設定されたものである。即ち、NOxセンサ20,21の出力は排ガス中のNOx量が一定であってもNO2比率NO2ratioの増加(NOx中でのNO2の共存)に伴って誤差を生じて次第に低下する特性があり、誤差を含まないNOx分析計の値との比(センサ出力/分析計の値)もNO2比率NO2ratioの増加と共に低下する特性となる。
【0026】
図3のマップは、このようなセンサ出力とNOx分析計の値との比を縦軸とし、NO2比率NO2ratioを横軸として特性を設定されたものであり、縦軸をセンサ出力比inNOX/e/gNOXに代えることにより、センサ出力比inNOX/e/gNOXから正確なNO2比率NO2ratioを導き出している。
ただし、NO2比率NO2ratioの算出に用いる検出情報は上記NOx量inNOX,e/gNOXに限ることはなく、例えば、これらの検出情報に加えて前段酸化触媒14から排出されるNOx量docNOXを用いるようにしてもよい。本実施形態では、以上のステップS4,6の処理を実行するときのECU31がNO2比率判定手段として機能する。
【0027】
その後、ステップS8でNOx浄化量NOXを算出する。当該算出処理は、上記したようにNO2比率NO2ratioに基づきSCR触媒16上で生起されるNOxとアンモニアとの反応を特定し、その反応により浄化されるNOx量としてNOx浄化量NOXを算出するものであるが、詳細は後述する。
ステップS10では、ステップS8で算出したNOx浄化量NOXのNOxを過不足なく浄化できるアンモニア添加量を算出し、続くステップS12では算出したアンモニア添加量をSCR触媒16上に供給可能な尿素水添加量を算出した後、ルーチンを終了する。なお、尿素水添加量の算出はこれに限ることはなく、例えばNOx浄化量NOXから尿素水添加量を直接算出するようにしてもよい。
そして、このような手順で算出された尿素水添加量に基づきECU31により電磁弁19の開度が制御され、噴射ノズル18から排ガス中に規定量の尿素水が噴射される。
【0028】
次に、上記ステップS8で実行されるNOx浄化量NOXの算出処理について説明するが、それに先立ってSCR触媒16上で生起されるNOxとアンモニアとの反応について述べる。
SCR触媒16上でのNOxとアンモニアとの反応は、主に以下の3種の反応式(1)〜(3)に従って生起される。
2NO+2NO2+4NH3 →4N2+6H2O ……(1)
NO2とNH3とは当mol反応であり、最も反応が早く、以下、この反応をNO+NO2反応と称する。
3NO2+4NH3 →3.5N2+6H2O ……(2)
NO+NO2反応に次いで反応が早く、NO2とNH3とは当mol反応ではなくNH3が4/3倍必要となる。以下、この反応をNO2反応と称する。
4NO+4NH3 →4N2+6H2O ……(3)
最も遅い反応であり、以下、この反応をNO反応と称する。
これらの反応をアレニウスの式を用いて解いた。
【0029】
図5は以上の各反応により浄化できる最大NOx量をSCR触媒16の温度毎に表示した試験結果を示す特性図である。同図では、NO+NO2反応による最大NOx浄化量をno+no2NOXmaxで示し、NO2反応による最大NOx浄化量をno2NOXmax、NO反応による最大NOx浄化量をnoNOXmaxで示している。何れの反応でも触媒温度の上昇に伴って最大NOx浄化量が増加する傾向にあり、且つ触媒温度に関わらず最大NOx浄化量は常にNO+NO2反応が最も多く、次いでNO2反応が多く、NO反応が最も少ない。
以上のようなSCR触媒16上での各反応の特性をふまえた上で、上記ステップS8のNOx浄化量NOXの算出処理を図6に従って説明する。
【0030】
まず、ステップS22でNO+NO2反応によるNOx浄化量(以下、NO+NO2反応浄化量no+no2NOXと称する)を算出する。続くステップS24ではNO2反応によるNOx浄化量(以下、NO2反応浄化量no2NOXと称する)またはNO反応によるNOx浄化量(以下、NO反応浄化量noNOXと称する)を算出する。なお、以下に述べるようにNO+NO2反応がどのようなNO2比率NO2ratioに基づき生起されるかに応じて、NO2反応及びNO反応は何れも生起されないか何れか一方のみが選択的に生起され、それに応じてNO2反応浄化量no2NOX及びNO反応浄化量noNOXは共に0、若しくは何れか一方が0となる。
【0031】
その後、ステップS26でNO+NO2反応浄化量no+no2NOXとNO2反応浄化量no2NOXまたはNO反応浄化量no2NOXとを加算して全体のNOx浄化量NOXを求め、続くステップS28で下流側NOxセンサ21により検出されたSCR触媒16に到達するNOx量inNOXを上限として制限した後、ルーチンを終了する。
ステップS26で求めたNOx浄化量NOXは現在の触媒温度で各反応により浄化されるNOx量の総量であるが、実際にSCR触媒16に到達するNOx量がそれ未満であれば、SCR触媒16上で浄化されるNOx量も到達NOx量inNOXとなるため、ステップS28の制限処理を実行しているのである。
【0032】
上記ステップS22でNO+NO2反応浄化量no+no2NOXの算出処理を開始すると、ECU31は図7のステップS32に移行し、NO2比率NO2ratioを判定する。NO2比率NO2ratioが50%以下と判定したときにはステップS34に移行し、次式(4)に従ってNO+NO2反応浄化量no+no2NOXを算出する。
no+no2NOX=NO2ratio×2×inNOX ……(4)
続くステップS36では、現在のSCR触媒16の温度においてNO+NO2反応により浄化可能な最大NOx量no+no2NOXmaxを算出する。最大NOx浄化量no+no2NOXmaxは図5に示したNO+NO2反応による浄化特性から求めることができる。実際には、当該特性における触媒温度と最大NOx浄化量との関係を表す実験式を予め設定しておき、その実験式に基づき触媒温度から最大NOx浄化量no+no2NOXmaxを算出している。
【0033】
なお、触媒温度は種々の算出手法が周知であり、例えば予め実施した試験によりSCR触媒16に流入する排ガス温度と触媒温度との関係を設定し、その特性に基づき温度センサ22により検出された排ガス温度から触媒温度を推定する。
その後ステップS38では、最大NOx浄化量no+no2NOXmaxによりNO+NO2反応浄化量no+no2NOXの上限を制限した後、ルーチンを終了する。ステップS34で最大NOx浄化量no+no2NOXmaxを超えるNO+NO2反応浄化量no+no2NOXが算出されたとしても、実際の反応は最大NOx浄化量no+no2NOXmaxに留まり、それ以上の反応は起こらないため、このような場合を想定して最大NOx浄化量no+no2NOXmaxによる制限が行われる。
【0034】
また、上記ステップS32でNO2比率NO2ratioが50%を超えると判定したときにはステップS40に移行し、次式(5)に従ってNOx中のNO比率NOratio(NOx中でNOが占める割合=NO/NOx)を算出し、続くステップS42で次式(6)に従ってNO+NO2反応浄化量no+no2NOXを算出する。
NOratio=1.0−NO2ratio ……(5)
no+no2NOX=NOratio×2×inNOX ……(6)
その後、ステップS36,38を経てNO+NO2反応浄化量no+no2NOXの上限を制限してルーチンを終了する。
【0035】
一方、上記ステップS24でNO反応・NO2反応浄化量の算出処理を開始すると、ECU31は図8のステップS52に移行し、NO2比率NO2ratioを判定する。NO2比率NO2ratioが50%のときにはそのままルーチンを終了する。即ち、この場合にはNO+NO2反応によりNO2とNOが全て反応し、NO2反応及びNO反応が共に生起されないことを受けて、NO反応浄化量noNOX及びNO2反応浄化量no2NOXは何れも設定されない(noNOX=no2NOX=0)。
また、ステップS52でNO2比率NO2ratioが50%未満であると判定したときには、ステップS54に移行する。この場合にはNO+NO2反応後にNOが残存していることから、以降の処理では残存しているNOのNO反応により浄化されるNOx量であるNO反応浄化量noNOXを算出する。
【0036】
まず、ステップS54で次式(7)に従ってNO+NO2反応後のNOx中のNO比率NOratioを算出し、続くステップS56で次式(8)に従ってNO反応浄化量noNOXを算出する。
NOratio=1.0−NO2ratio×2 ……(7)
noNOX=NOratio×inNOX ……(8)
続くステップS58では、現在の触媒温度においてNO反応により浄化可能な最大NOx量noNOXmaxを算出する。この最大NOx浄化量noNOXmaxも上記した最大NOx浄化量no+no2NOXmaxと同じく、図5のNO反応による浄化特性から設定した実験式に基づき触媒温度に対応する値として算出される。その後ステップS60では、最大NOx浄化量noNOXmaxによりNO反応浄化量noNOXの上限を制限した後、ルーチンを終了する。
【0037】
また、ステップS52でNO2比率NO2ratioが50%を超えると判定したときには、ステップS62に移行する。この場合にはNO+NO2反応後にNO2が残存していることから、以降の処理では残存しているNO2のNO2反応により浄化されるNOx量であるNO2反応浄化量no2NOXを算出する。
まず、ステップS62で次式(9)に従ってNO+NO2反応後のNOx中のNO2比率NO2ratioを算出し、続くステップS64で次式(10)に従ってNO2反応浄化量no2NOXを算出する。
NO2ratio=1.0−NOratio×2 ……(9)
noNOX=NOratio×inNOX ……(10)
【0038】
続くステップS66では、現在の触媒温度においてNO2反応により浄化可能な最大NOx量no2NOXmaxを算出する。この最大NOx浄化量no2NOXmaxも上記した最大NOx浄化量no+no2NOXmaxと同じく、図5のNO2反応による浄化特性から設定した実験式に基づき触媒温度に対応する値として算出される。その後ステップS68では、最大NOx浄化量no2NOXmaxによりNO2反応浄化量no2NOXの上限を制限した後、ルーチンを終了する。
本実施形態では、図7のステップS32,34,40,42、図8のステップS52,54,56,62,64を実行するときのECU31がNOx浄化量算出手段として機能し、図7のステップS36、図8のステップS58,66を実行するときのECU31が最大NOx浄化量算出手段として機能し、図7のステップS38、図8のステップS60,68、図6のステップS26,28、図2のステップS10を実行するときのECU31が添加量算出手段として機能する。
【0039】
以上のようにしてNO+NO2反応浄化量no+no2NOX、NO2反応浄化量no2NOX、NO反応浄化量noNOXが算出され、図6のステップS26では、これらの値を加算して全体のNOx浄化量NOXが求められ、このNOx浄化量NOXに基づき図2のステップS10でアンモニア添加量が、ステップS12で尿素水添加量が算出される。
次に、以上のECU31の処理に基づくNOx浄化量NOXの算出処理を、NO2比率NO2ratioに応じて場合分けして説明する。
今、仮にSCR触媒16に到達したときの排ガス中のNOx量がαg/hであり、図5の特性図において触媒温度がXのとき、NO+NO2反応による最大NOx浄化量no+no2NOXmaxがαg/h、NO2反応による最大NOx浄化量no2NOXmaxがβg/h、NO反応による最大NOx浄化量noNOXmaxがγg/hであるものとする。なお、図9〜10は、全NOx量に対するNO2及びNOの比率を反応順序と共に表した模式図である。
【0040】
まず、図9に示すようにNOx中のNO2比率NO2ratioが25%である場合を説明する。NOx中のNOに対してNO2が不足しているため、図中にハッチングで示すように、最初に最も早いNO+NO2反応に従って25%に相当するNO2が同量のNOと反応する。これに対応して図7のステップS34では、NO+NO2反応浄化量no+no2NOXとしてα/2g/hが算出される。
なお、NO+NO2反応による最大NOx浄化量no+no2NOXmaxはαg/hであるため、ステップS38ではNO+NO2反応浄化量no+no2NOXに対する制限は行われない。
【0041】
NO+NO2反応後にはNOがα/2g/h残存しているため、図8のステップS56ではNO反応浄化量noNOXとしてα/2g/hが算出される。NO反応による最大NOx浄化量noNOXmaxはγ(<α/2)g/hであるため、アンモニアとの反応により浄化されるのはα/2g/hの内のγg/hのみとなり、これを受けてステップS60ではNO反応浄化量noNOXがγg/hに制限される。
結果としてNO+NO2反応及びNO反応により合計でα/2+γg/hのNOxを浄化できる。
【0042】
次に、図10に示すようにNOx中のNO2比率NO2ratioが75%である場合を説明する。NOx中のNO2に対してNOが不足しているため、図中にハッチングで示すように、最初にNO+NO2反応に従って25%に相当するα/4g/hのNOが同量のNO2と反応する。これに対応して図7のステップS42では、NO+NO2反応浄化量no+no2NOXとしてα/2g/hが算出される。なお、最大NOx浄化量no+no2NOXmaxによる制限が行われないことは上記と同様である。
【0043】
NO+NO2反応後にはNO2がα/2g/h残存しているため、図8のステップS64ではNO2反応浄化量no2NOXとしてα/2g/hが算出される。しかし、NO2反応による最大NOx浄化量no2NOXmaxはβ(<α/2)g/hであるため、アンモニアとの反応により浄化されるのはα/2g/hの内のβg/hのみとなり、これを受けてステップS68ではNO2反応浄化量no2NOXがβg/hに制限される。結果としてNO+NO2反応及びNO2反応により合計でα/2+βg/hのNOxを浄化できる。
【0044】
次に、図11に示すようにNOx中のNO2比率NO2ratioが50%である場合を説明する。NOx中のNO2及びNOは反応に対して過不足ないため、図中にハッチングで示すように、NO+NO2反応に従って50%に相当するα/2g/hのNOが同量のNO2と反応する。これに対応して図7のステップS34では、NO+NO2反応浄化量no+no2NOXとしてαg/hが算出される。NO+NO2反応浄化量no+no2NOXはNO+NO2反応による最大NOx浄化量no+no2NOXmaxであるαg/hと一致するため、ステップS38ではNO+NO2反応浄化量no+no2NOXに対する制限は行われない。
NO+NO2反応により全てのNOxが浄化され、その後、NO2反応及びNO反応は何れも生起されない。結果としてNO+NO2反応だけでαg/hのNOxを浄化でき、図8ではNO反応浄化量noNOXやNO2反応浄化量no2NOXの算出処理は行われず、図6のステップS26で全体のNOx浄化量NOXとしてαg/hが算出され、NOx浄化率は100%となる。
【0045】
以上のように本実施形態の内燃機関1の排気浄化装置では、排ガスに含まれるNOx中のNO2比率NO2ratioに基づき、SCR触媒16上でNOxとアンモニアとが反応式(1)〜(3)の内の何れに従って反応するかを特定し、生起される各反応によるNOx浄化量no+no2NOX, noNOX, no2NOXを算出して、これらのNOx浄化量NOXの上限を触媒温度から求めた最大NOx浄化量no+no2NOXmax, noNOXmax, no2NOXmaxに基づき制限した上で、制限後のNOx浄化量no+no2NOX, noNOX, no2NOXを加算して全体のNOx浄化量NOXを算出し、このNOx浄化量NOXに基づきアンモニア添加量、ひいては尿素添加量を算出するようにした。
【0046】
このようにSCR触媒16上で実際に生起されるNOxとアンモニアとの反応をNO2比率NO2ratioから特定し、この反応に基づきNOx浄化量NOXを算出しているため、SCR触媒16上で浄化される現実に即したNOx浄化量NOXを求めることができ、このNOx浄化量NOXから正確なアンモニア添加量、ひいては正確な尿素添加量を算出して、常に適切な量のアンモニアをNOx浄化のためにSCR触媒16上に供給することができる。よって、アンモニア添加量の過不足による不具合、例えばアンモニアスリップによる無用なアンモニアの消費、或いはアンモニア添加量の不足によるNOx浄化率の低下などの不具合を未然に防止することができる。
【0047】
また、NO2比率NO2ratioを算出するための検出情報として、基本的にNO2を含まないエンジンアウトのNOx量e/gNOX、及びNO2を含み実際にSCR触媒16に到達するNOx量inNOXを用いており、しかも、NO2比率NO2ratioの増加に応じて次第に出力低下するNOxセンサ20,21の特性を利用し、この特性に基づき設定した図3のNO2比率演算マップに従ってセンサ出力比inNOX/e/gNOXからNO2比率NO2ratioを求めている。よって、常に正確なNO2比率NO2ratioを算出でき、ひいては当該NO2比率NO2ratioに基づきSCR触媒16上での反応を適切に特定して、NOx浄化量MOXの算出処理を一層適切なものとすることができる。
【0048】
ところで、本発明者は、NOxに対する尿素水の当量比とNOx浄化率との関係を試験により検証した結果、NOx浄化率に対してNOxに対する尿素水の当量比が必ずしも整合しないことを見出した。
この試験結果を図12に示すが、破線で示すように理論的にはNOxに対する尿素水の当量比1.0で100%のNOx浄化率が得られるはずにも拘わらず、実際にはNOx浄化率100%を達成するには、実線で示すように当量比を1.05〜1.15まで増加(アンモニア増方向)する必要があることが判る。このような現象の要因は、噴射ノズル18から噴射された尿素水の一部がアンモニアとしてSCR触媒16に到達するまでに排ガス中のO2(酸素)との反応で消費され、実際にNOx浄化に貢献するアンモニアが目減りするためであると推測される。
【0049】
このときのO2とアンモニアとの反応としては、以下のものがある。
3O2+4NH3 →2N2+6H2O ……(11)
4O2+4NH4 →2N2O+6H2O ……(12)
5O2+4NH3 →4NO+6H2O ……(13)
7O2+4NH4 →4NO2+6H2O ……(14)
4NO+3O2+4NH3 →4N2O+6H2O ……(15)
2との反応により消費されるアンモニアの量は、排ガス中のO2量に応じて変化する。そこで、予め試験を実施して排ガス中に含まれるO2量とO2反応により消費されるアンモニア量との関係を設定しておき、例えば内燃機関1の運転状態に基づき排ガス中のO2量を推定し、推定したO2量からアンモニア消費量を算出して、図2のステップS10で求めたアンモニア添加量にアンモニア消費量を加算すればよい。或いは、図12の特性に基づきNOx浄化率100%を達成するための当量比を内燃機関1の運転領域毎に設定し(例えば上記1.05〜1.15の範囲内で設定)、運転領域に対応した当量比を図2のステップS8で求めたアンモニア添加量に乗算してもよい。
【0050】
何れの場合もアンモニア添加量が増加補正されることによりO2との反応によるアンモニアの消費分が補われるため、一層正確なアンモニア添加量を算出することができる。この別例では、上記したO2量からアンモニア消費量を算出する処理、或いは図12の特性に基づき当量比を算出する処理を実行するときのECU31がアンモニア消費量算出手段として機能し、求めたアンモニア消費量や当量比に基づきアンモニア添加量を増加補正する処理を実行するときのECU31が添加量算出手段として機能する。
【0051】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態ではコモンレール式ディーゼル機関1を対象とした排気浄化装置に具体化したが、内燃機関1の種別はこれに限ることはなく、例えばコモンレールを備えないディーゼル機関、或いは希薄燃焼を行うガソリン機関などに適用するようにしてもよい。
また、上記実施形態では、前段酸化触媒14及びDPF15を備えたが、これらを省略してもよいし、上流側NOxセンサ20により検出されるNOx量e/gNOXに代えて、内燃機関1の運転状態に基づきNOx量e/gNOXを求めてNO2比率NO2ratioの算出に用いるようにしてもよい。
【0052】
また、上記実施形態では、NOx中のNO2比率NO2ratioに基づきSCR触媒16上の反応を特定したが、NO2比率NO2ratioと相関するNO比率NOratio(=1.0−NO2ratio)からも反応を特定でき、この場合も実質的にはNO2比率NO2ratioを指標とする処理と相違ない。よって、本発明は、このようなNO2比率NO2ratio代えてNO比率NOratioを指標としてSCR触媒16上の反応を特定する場合も含むものとする。
【符号の説明】
【0053】
1 内燃機関、
14 前段酸化触媒
15 DPF(フィルタ)
16 SCR触媒(NOx触媒)
18 噴射ノズル(アンモニア添加手段)
31 ECU(NO2比率判定手段、NOx浄化量算出手段、
最大NOx浄化量算出手段、添加量算出手段、アンモニア消費量算出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に介装され、排ガス中のNOxを浄化可能なNOx触媒と、
上記NOx触媒の排気上流側に設けられ、該NOx触媒に還元剤としてアンモニアを添加するアンモニア添加手段と、
上記NOx触媒に到達するNOx中のNO2比率を判定するNO2比率判定手段と、
上記NO2比率判定手段により判定されたNO2比率に基づき、上記NOxとアンモニアとの異なる反応式に従った複数の反応から上記NOx触媒上で生起される反応を特定し、該特定した反応により上記NOx触媒上で浄化されるNOx量を算出するNOx浄化量算出手段と、
上記NOx浄化量算出手段により特定されたNOxとアンモニアとの反応により上記NOx触媒上で浄化可能な最大NOx量を上記NOx触媒の温度に基づき算出する最大NOx浄化量算出手段と、
上記最大NOx浄化量算出手段により算出された最大NOx浄化量を上限として上記NOx浄化量算出手段により算出されたNOx浄化量を制限し、該制限後のNOx浄化量に基づき上記アンモニア添加手段によるアンモニアの添加量を算出する添加量算出手段と
を備えたことを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【請求項2】
上記NOxとアンモニアとが反応するときの複数の反応として、NO2及びNOとアンモニアとのNO+NO2反応、NO2とアンモニアとのNO2反応、NOとアンモニアとのNO反応が予め設定され、
上記NOx浄化量算出手段は、上記NO2比率に基づき上記NO+NO2反応によるNOx浄化量をNO+NO2反応浄化量として算出し、上記NO2比率に基づき上記NO+NO2反応後にNO2が残存すると判定したときには、残存したNO2の上記NO2反応によるNOx浄化量をNO2反応浄化量として算出する一方、上記NO2比率に基づき上記NO+NO2反応後にNOが残存すると判定したときには、残存したNOの上記NO反応によるNOx浄化量をNO反応浄化量として算出し、
上記最大NOx浄化量算出手段は、上記NO+NO2反応により浄化可能な最大NOx浄化量、及びNO2反応またはNO反応により浄化可能な最大NOx浄化量を算出し、
上記添加量算出手段は、上記NO+NO2反応浄化量をNO+NO2反応による最大NOx浄化量で制限する共に、上記NO2反応浄化量をNO2反応による最大NOx浄化量で制限するか、または上記NO反応浄化量をNO反応による最大NOx浄化量で制限し、制限後のNO+NO2反応浄化量に制限後のNO2反応浄化量またはNO反応浄化量を加算して全体のNOx浄化量を算出することを特徴とする請求項1記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項3】
上記排気通路の上記NOx触媒の排気上流側には、排ガス中のパティキュレートを捕集するフィルタ、及び該フィルタの排気上流側で排ガス中のNOからNO2を生成する前段酸化触媒が介装され、
上記NO2比率判定手段は、上記前段酸化触媒の排気上流側に設けられた上流側NOxセンサにより検出されたNOx量、及び上記フィルタの排気下流側に設けられた下流側NOxセンサにより検出されたNOx量に基づき上記NOx中のNO2比率を判定することを特徴とする請求項1または2記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項4】
上記排気通路を流通する排ガス中のO2量に基づき、該O2との反応により消費されるアンモニア量を算出するアンモニア消費量算出手段を備え、
上記添加量算出手段は、上記アンモニア消費量算出手段により算出されたアンモニア消費量に基づき上記アンモニア添加量を増加側に補正することを特徴とする請求項1乃至3の何れか記載の内燃機関の排気浄化装置。
【請求項5】
上記添加量算出手段は、上記最大NOx浄化量に基づく制限に加えて、上記NOx触媒に到達するNOx量を上限として上記NOx浄化量を制限することを特徴とする請求項1乃至4の何れか記載の内燃機関の排気浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−87628(P2012−87628A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−232554(P2010−232554)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【出願人】(303002158)三菱ふそうトラック・バス株式会社 (1,037)
【Fターム(参考)】