内燃機関の潤滑装置
【課題】内燃機関の潤滑システム内で使用され潤滑油との間で物質を交換する反応体を、迅速に昇温させる。
【解決手段】内燃機関1の排気通路51からの排気を吸気通路26に循環させるEGR通路53と、前記内燃機関1のシリンダヘッド室内に配置され前記内燃機関の潤滑油との間で物質を交換するイオン交換樹脂からなる機能部材44と、前記EGR通路53から分岐し、且つ前記機能部材44と熱交換可能に設置されたEGR分岐路56と、前記EGR通路53から前記EGR分岐路56に排気を選択的に導入するEGR分岐弁57を備える。ECU70は、前記機能部材44またはその近傍の温度が予め定められた低温基準値よりも低いときに、前記EGR分岐弁57を制御して前記EGR分岐路56に排気を導入させる。
【解決手段】内燃機関1の排気通路51からの排気を吸気通路26に循環させるEGR通路53と、前記内燃機関1のシリンダヘッド室内に配置され前記内燃機関の潤滑油との間で物質を交換するイオン交換樹脂からなる機能部材44と、前記EGR通路53から分岐し、且つ前記機能部材44と熱交換可能に設置されたEGR分岐路56と、前記EGR通路53から前記EGR分岐路56に排気を選択的に導入するEGR分岐弁57を備える。ECU70は、前記機能部材44またはその近傍の温度が予め定められた低温基準値よりも低いときに、前記EGR分岐弁57を制御して前記EGR分岐路56に排気を導入させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の潤滑油との間で所定の物質を交換する反応体を備えた潤滑装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、内燃機関の潤滑システム内で使用する化学フィルターを開示する。特許文献1の記載によれば、この化学フィルターは、潤滑システム内のオイルフィルターのハウジング内に配置されるか、またはそのオイルフィルターのバイパス部分に配置されており、潤滑油との間で所定のイオンを交換可能なイオン交換材料を有することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2008−540123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、イオン交換材料のような反応体は動作に適した温度領域を有し、温度が低すぎる場合には効率が低下してしまう。
【0005】
そこで本発明は、反応体を迅速に昇温させるための新規な手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、
内燃機関の排気通路からの排気を吸気通路に循環させるEGR通路と、
前記内燃機関のシリンダヘッド室内に配置され前記内燃機関の潤滑油との間で物質を交換する反応体を含む機能部材と、
前記EGR通路から分岐し、且つ前記反応体と熱交換可能に設置されたEGR分岐路と、
前記EGR通路から前記EGR分岐路に排気を選択的に導入するEGR分岐弁と、
前記EGR分岐弁を制御するEGR分岐弁制御手段と、を備え、
前記EGR分岐弁制御手段は、前記機能部材またはその近傍の温度が予め定められた低温基準値よりも低いときに、前記EGR分岐弁を制御して前記EGR分岐路に排気を導入させることを特徴とする内燃機関の潤滑装置である。
【0007】
この態様では、EGR分岐路からの熱が反応体に作用するので、シリンダヘッド室内に配置された反応体を好適に昇温させることができる。また、EGR分岐路がEGR通路から分岐しているので、分岐点までの通路をEGR通路と共用できる。
【0008】
好適には、前記機能部材は、前記シリンダヘッドのヘッドカバーの内側に配置され、前記EGR分岐路は、前記ヘッドカバーに固定または前記ヘッドカバーと一体的に形成されている。この態様では、簡易な構成によって本発明に所期の効果を得ることができる。
【0009】
好適には、前記内燃機関を冷却する冷却水通路が、前記反応体と熱交換可能に設置されている。この態様では、シリンダヘッド室内に配置された反応体の過剰な昇温を抑制することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1実施形態に係るエンジンシステムの概念図である。
【図2】(a)〜(e)は反応体であるイオン交換樹脂を備えた機能部材の構成例を示す斜視図である。
【図3】第1実施形態における排気ガス再循環系と冷却系の構成を示す模式図である。
【図4】第1実施形態において実行される機能部材温度制御に係る処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施形態を添付図面に基づいて詳述する。図1に、本発明の第1実施形態のエンジンシステムが概念的に示されている。エンジン本体10は、直列4気筒ディーゼルエンジンであるが、他の形式でもよい。エンジン本体10は、シリンダブロック12と、ピストン14と、クランクケース16と、シリンダヘッドブロック18と、シリンダヘッドブロック18を上方から覆うヘッドカバー20と、オイルパン22とを備える。シリンダヘッドブロック18とヘッドカバー20とにより、シリンダヘッド室21が区画形成される。
【0012】
吸気通路26には、スロットルバルブ24が配置され、スロットルバルブ24の下流側の吸気通路26dとシリンダヘッド室21内とは、PCV(Positive Crankcase Ventilation)通路28によって連通されている。スロットルバルブ24の上流側の吸気通路26uと、シリンダヘッド室21内とは、大気通路30によって連通されている。ヘッドカバー20には、PCV通路28を開閉するPCVバルブ32が固定されている。PCVバルブ32は、吸気負圧の大きさに応じて開閉し、流量を変える。
【0013】
シリンダブロック12とシリンダヘッドブロック18には、シリンダヘッド室21内とクランクケース16内とを連通するオイル落とし通路34が設けられている。オイル落とし通路34を通じて、動弁系の潤滑を終えたオイルがシリンダヘッドブロック18上からオイルパン22へ向けて落とされ、また、クランクケース16内のブローバイガスがシリンダヘッド室21内に向けて上昇する。ブローバイガスにはオイルミストが含まれる。
【0014】
図1において黒塗り矢印および白抜き矢印で示されるように、エンジンの軽負荷時には、PCVバルブ32が開かれ、クランクケース16内のブローバイガスはオイル落とし通路34、シリンダヘッド室21内、PCV通路28を順に通じて吸気通路26に戻され、その後、燃焼室で燃焼される(黒塗り矢印)。このときシリンダヘッド室21内には大気通路30を通じて大気が導入され(白抜き矢印)、この大気はシリンダヘッド室21内のブローバイガスを適宜希釈する。他方、図示しないが、エンジンの高負荷時には、PCVバルブ32が閉じられ、シリンダヘッド室21内のブローバイガスは大気通路30を通じて吸気通路26に戻される。シリンダヘッド室21内には、図示しないが、ブローバイガスからオイルを分離して回収するためのオイルセパレータ室が区画形成されている。
【0015】
さらに、エンジン本体10は、ストレーナおよびオイルポンプを備え、オイルパン22内のオイルはストレーナを通じてオイルポンプによって汲み上げられる(吸引される)。こうして汲み上げられたオイルは、オイルフィルターを介して、エンジン本体10内に形成された油路(各供給部位に対応した複数の油路を含む。)を通じて、エンジン本体10内の各部、例えばカムシャフトジャーナル、クランクジャーナル、コンロッド、ピストン14に供給される。こうして各部に供給された潤滑油つまりオイルは、自らの自重によりオイルパン22に戻る。なお、バッフルプレート42が設けられているが、省かれてもよい。
【0016】
ところで、ヘッドカバー20はエンジンからの熱が伝達されにくく、且つその外面が外気によって冷却されるので、ヘッドカバー20の内面には、結露を主要因とする凝縮水が生じやすい。このため、ヘッドカバー室21内、例えば上記オイルセパレータ室には、ブローバイガス中に含まれているNOx、HCおよび水分の相互反応により、硝酸水HNO3などの酸性物質が生成しやすい。
【0017】
このような酸性物質を含む不要成分の生成を抑制するために、エンジンの潤滑経路内、特にシリンダヘッド室21内に、反応体であるイオン交換樹脂を備えた機能部材44を備えている。機能部材44は、ヘッドカバー20の内面に密着して配置されている。
【0018】
機能部材44における反応体であるイオン交換樹脂は、エンジンオイルから所定のイオン(イオン成分)を除去するべく吸着する機能と、別の所定のイオンを放出する機能とを有する。イオン交換樹脂としては、アニオン(陰イオン)性イオン交換樹脂およびカチオン(陽イオン)性イオン交換樹脂の両方が用いられる。そのようなイオン交換樹脂としては、例えば、三菱化学社製ダイヤイオン(登録商標)シリーズ、ローム・アンド・ハース社製アンバーライト(登録商標)シリーズのものを用いることができる。イオン交換樹脂としては強酸性、弱酸性、強塩基性または弱塩基性のものを用いることができ、これらに限定されない。機能部材44のイオン交換樹脂は、アニオン性イオン交換樹脂およびカチオン性イオン交換樹脂のうちの一方のみから構成されてもよい。イオン交換樹脂は、ビーズ状または膜状など、種々の形状を有し得る。
【0019】
本実施形態では、アニオン性イオン交換樹脂として、ブローバイガス中のNOxと水とにより生じ得る硝酸イオン(NO3-)、ブローバイガス中のSOxと水とにより生じ得る硫酸イオン(SO42-)を吸着する機能を有する材料が用いられる。このようなアニオン性イオン交換樹脂は、これらの陰イオンを吸着し、例えば代わりの陰イオンとして水酸化物イオン(OH-)を放出する。
【0020】
なお、オイル中から除去することが望まれる陰イオンには、硝酸イオン(NO3-)、硫酸イオン(SO42-)のほかに、例えば、ブローバイガスから生じ得る酢酸イオン(CH3COO-)、同様にブローバイガスから生じ得るギ酸イオン(HCOO-)、塩化物イオン(Cl-)、クロム酸イオン(CrO42-)がある。アニオン性イオン交換樹脂としては、これらを含む群またはこれらからなる群から選択された少なくとも1つのイオンを吸着する機能を有する材料が用いられ得る。他方、アニオン性イオン交換樹脂から放出されるイオンは、オイルの劣化を促進しないものであるとよく、好ましくは、オイルの劣化を抑制するものであるとよい。
【0021】
本実施形態ではまた、カチオン性イオン交換樹脂として、オイル中からCaイオン(Ca2+)を吸着する機能を有する機能を有する材料が用いられる。Caイオンは、機能部材44とは別途にスラッジ生成を抑制するためにオイル供給系統に設置されたCa成分を含むオイル劣化抑制剤が消費されることで生じ得る。また、オイル中に添加剤としてカルシウムスルホネートが添加されている場合には、このカルシウムスルホネートからCaイオンが生じ得る。このようなカチオン性イオン交換樹脂は、陽イオンであるCaイオン(Ca2+)を吸着し、水素イオンおよび/またはNaイオンを放出する。
【0022】
なお、オイル中から除去することが望まれる陽イオンには、Caイオン(Ca2+)のほかに、例えば、Al3+、Fe2+、Fe3+、Cr3+、Pb2+、Ni2+、Cu2+、Mg2+、Ti+がある。これらの陽イオンは、オイルへの添加剤、例えばZnDTP(ジアルキルジチオりん酸亜鉛)から生じたり、エンジンの構成部材の磨耗および/または溶出により生じたりする。特に、エンジンの摺動部の摩耗によりエンジンオイル中に生じるCuイオン、Alイオン、Feイオン等は、除去されることが望まれる。カチオン性イオン交換樹脂としては、これらを含む群またはこれらからなる群から選択された少なくとも1つの陽イオンを吸着する機能を有する材料が用いられ得る。他方、カチオン性イオン交換樹脂から放出されるイオンは、オイルの劣化を促進しないものであるとよく、好ましくは、オイルの劣化を抑制するものであるとよい。
【0023】
イオン交換樹脂は、当該イオン交換樹脂を保持しつつ外部のオイルとの間の物質流通を許容する保持部材に保持されるのが好ましい。この場合に、機能部材44は、保持部材と、これに保持されるイオン交換樹脂とから構成される。
【0024】
保持部材としては、例えば、パンチングメタルを函状に形成してなるケース46a(図2(a))、金属や樹脂のメッシュを函状に形成してなるケース46b(図2(b))、金属や樹脂のメッシュにより形成された袋状のケース46c(図2(c))、金属や樹脂のメッシュからなる内筒46diと外筒46dcとの間に収納領域を有する二重筒状のケース46d(図2(d))を用いることができ、ケース内にイオン交換樹脂が収容される。保持部材は発泡体や繊維体などの多孔質材料であってもよい。
【0025】
また、イオン交換樹脂は、それ自体で或いは適宜のバインダ中に分散した形で、基材となる板46eやフィルムの上に積層されることができ(図2(e))、その場合にはイオン交換樹脂層44eが積層された基材を、部品に接着その他の方法で固定することができる。さらに、イオン交換樹脂はそれ自体で或いは適宜のバインダ中に分散した形で、部品に直接塗布されることができ、その場合にはイオン交換樹脂層自体が機能部材44となる。
【0026】
エンジン本体10の排気通路51と吸気通路26とを接続するように、排気ガス再循環(EGR、Exhaust Gas Recirculation)通路53が配置されている。EGR通路53は、排気通路51における酸化触媒52よりも上流側(例えば、排気マニホールド)と、吸気通路26におけるスロットル弁24よりも下流側(例えば、吸気マニホールド)とを接続している。EGR通路53の周りには、冷却水との熱交換によって排気を冷却するためのEGRクーラ54が配置されている。EGR通路53の下流側の端部となる吸気通路26との接続点には、排気の流通を制御するためのEGR弁55が設けられている。
【0027】
EGR通路53から分岐して排気を流通させるために、EGR分岐路56が設けられている。EGR分岐路56は、その中間部においてヘッドカバー20の外面に固定されており、これによってシリンダヘッド室21内の機能部材44と熱交換可能にされている。EGR分岐路56の中間部は、ヘッドカバー20の内面に固定されていても良く、また例えば一体成形やバルジ加工などの手段により、ヘッドカバー20または機能部材44と一体的に形成されていてもよい。図3に示されるように、EGR分岐路56は、ヘッドカバー20の外面において機能部材44に対応する位置に、ヘッドカバー20の内面における機能部材44の長手方向に沿って配置されている。
【0028】
EGR分岐路56は、EGRクーラ54よりも上流側において、EGR通路53から分岐している。EGR分岐路56の始点となる分岐点には、EGR分岐路56に排気を選択的に導入するためのEGR分岐弁57が設けられている。EGR分岐弁57は、EGR通路53からの排気の供給先として、EGR弁55に向かう主経路と、EGR分岐路56を通じて排気通路に戻る分岐経路とのいずれかを選択する。
【0029】
EGR通路53の上流側の端部は、排気通路51における圧損部材(すなわち、流体抵抗によりその上流側と下流側との間で圧力差を生じさせる構造体)である酸化触媒52よりも上流側に接続されている。他方、EGR分岐路56の下流側の端部は、排気通路51における酸化触媒52よりも下流側に接続されている。酸化触媒52の前後の圧力差により、排気はEGR通路53からEGR分岐路56を経由して排気通路51に戻される。このように排気の流通を許容しつつ圧力差を生じさせるための圧損部材は、複数であってもよく、他の種類の触媒装置であってもよく、またターボチャージャのタービンであってもよい。他方、EGR分岐路56の下流側の端部は、再びEGR通路53に合流してもよく、また吸気通路26に接続されていてもよい。
【0030】
エンジン本体10を冷却するための冷却系は、ラジエータ61、冷却水通路62、およびEGRクーラ54を含んで構成されている。冷却水通路62は、エンジン本体10のウォータジャケット63(図1参照)に連通している。冷却水通路62から分岐し冷却水を流通させるために、冷却水分岐路64が設けられている。冷却水分岐路64は、その中間部においてヘッドカバー20の外面に固定されており、これによってヘッドカバー20の内面かつシリンダヘッド室21内に固定された機能部材44と熱交換可能にされている。冷却水分岐路64の中間部は、ヘッドカバー20の内面に固定されていても良く、また例えば一体成形やバルジ加工などの手段により、ヘッドカバー20または機能部材44と一体的に形成されていてもよい。図3に示されるように、冷却水分岐路64は、ヘッドカバー20の外面において機能部材44に対応する位置に、ヘッドカバー20の内面における機能部材44の長手方向に沿って配置されている。
【0031】
冷却水分岐路64の始点となる分岐点には、冷却水分岐路64に冷却水を選択的に導入するための冷却水分岐弁65が設けられている。冷却水分岐弁65は、冷却水通路62からの冷却水の供給先として、冷却水が冷却水分岐路64を通らず直接にエンジン本体10のウォータジャケット63、EGRクーラ54およびラジエータ61に向かう主経路と、冷却水分岐路64を通ってこれらの部材に向かう分岐経路とのいずれかを選択する。すなわち冷却水分岐路64は、それが選択された場合にはウォータジャケット63、EGRクーラ54およびラジエータ61に直列に接続される。
【0032】
シリンダヘッドブロック18には、エンジン水温を検出するための水温センサ66が配置されている。ヘッドカバー20には、シリンダヘッド室21内の機能部材44またはその近傍の温度を検出するためのヘッドカバー温度センサ67が配置されている。なお温度センサは機能部材44に固定してもよく、温度センサの設置点は機能部材44の温度を好適に検出して本発明の目的を達成できる程度に機能部材44の近傍であればよい。
【0033】
装置は更に、EGR分岐弁57および冷却水分岐弁65を制御する手段として機能する電子制御ユニット(ECU)70を備える。ECU70は、CPU、ROM、RAM、A/D変換器、入力インタフェース、出力インタフェース等を含む周知のワンチップマイクロコンピュータとして構成されている。入力インタフェースには、上述した水温センサ66およびヘッドカバー温度センサ67のほか、エンジン回転速度を検出可能にするクランク角センサ、エンジン負荷を検出可能にするアクセルペダルセンサを含む各種センサ類が電気的に接続されている。出力インタフェースには、上述したEGR弁55,EGR分岐弁57,冷却水分岐弁65を含む各種アクチュエータ類が電気的に接続されている。各種センサ類からの出力信号(検出信号)に基づき、予め設定されたプログラムに従ってエンジン本体10の運転ないし作動がなされるように、ECU70は出力インタフェースから電気的に燃料噴射弁(不図示)、およびスロットルバルブ24を駆動するスロットルアクチュエータを含む各種アクチュエータ類に、作動信号(駆動信号)を出力する。ECU70のROMには、後述する基準温度A,Bを含む各種の基準値および初期値が格納されている。
【0034】
以上のとおり構成された第1実施形態の動作について説明する。図4の処理ルーチンは、エンジン本体10の運転中に亘って所定時間ごとに繰返し実行される。図4において、まずECU70は、水温センサ66により検出されるエンジン水温、およびヘッドカバー温度センサ67により検出されるヘッドカバー内温度をそれぞれ読み込む(S10)。
【0035】
次にECU70は、現在のエンジン水温が、予め定められた基準温度Aよりも低いかを判断する(S20)。この基準温度Aは、エンジン水温の高温側基準値であって、潤滑油温が機能部材44の動作温度領域から高温側に外れるときのエンジン水温またはこれよりもやや低い値に設定されている。
【0036】
ステップS20で肯定、すなわちエンジン水温が基準温度Aより低い場合には、ECU70は冷却水分岐弁65を制御して、冷却水主経路、すなわち冷却水が冷却水分岐路64を通らず直接にウォータジャケット63、EGRクーラ54およびラジエータ61に向かう経路を、冷却水の供給先として選択する(S30)。
【0037】
次にECU70は、現在のヘッドカバー内温度が、予め定められた基準温度Bよりも低いかを判断する(S40)。この基準温度Bは、ヘッドカバー内温度の低温側基準値であって、機能部材44の温度が機能部材44の動作温度領域から低温側に外れるときのヘッドカバー内温度またはこれよりもやや高い値に設定されている。
【0038】
ステップS40で肯定、すなわちヘッドカバー内温度が基準温度Bより低い場合には、ECU70はEGR分岐弁57を制御して、EGR分岐路、すなわちEGR分岐弁57からの排気がEGR分岐路56を通じて排気通路に戻る経路を選択する(S50)。この場合には、排気からの熱によってヘッドカバー20を介して、機能部材44が昇温させられる。
【0039】
ステップS40で否定、すなわちヘッドカバー内温度が基準温度B以上の場合には、ECU70はEGR分岐弁57を制御して、EGR主経路、すなわちEGR分岐弁57からの排気がEGR分岐路56を通ることなくEGRクーラ54およびEGR弁55に向かう経路を選択する(S70)。この場合には、排気からの熱によって機能部材44が昇温させられることはない。
【0040】
なおステップS20で否定、すなわちエンジン水温が基準温度A以上である場合には、ECU70は冷却水分岐弁65を制御して、冷却水分岐経路、すなわち冷却水が冷却水分岐路64を通ってウォータジャケット63、EGRクーラ54およびラジエータ61に向かう経路を、冷却水の供給先として選択する(S60)。この場合には、冷却水によってヘッドカバー20を介して、機能部材44が冷却され、次に、EGR分岐弁57の制御によりEGR主経路が選択されて(S70)、シリンダヘッド室21内の過度の昇温が回避される。
【0041】
以上のとおり、本実施形態では、EGR通路53から分岐して排気を流通させ、シリンダヘッド室21内の機能部材44と熱交換可能に設置されたEGR分岐路56と、EGR分岐路56に排気を選択的に導入するEGR分岐弁57と、EGR分岐弁57を制御するEGR分岐弁制御手段(ECU70)とを備え、ECU70は、シリンダヘッド室21内すなわちヘッドカバー20内の温度が予め定められた低温基準値である基準温度Bよりも低いときに、EGR分岐弁57によってEGR分岐路56に排気を導入させる。その結果、EGR分岐路56からの熱が機能部材44に作用するので、シリンダヘッド室21内に配置された機能部材44を迅速に昇温させることができる。また、EGR分岐路56がEGR通路53から分岐しているので、分岐点までの通路をEGR通路53と共用できる。
【0042】
また本実施形態では、機能部材44がヘッドカバー20の内側に配置され、EGR分岐路56はヘッドカバー20に固定またはヘッドカバー20と一体的に形成されているので、簡易な構成によって本発明に所期の効果を得ることができる。
【0043】
また本実施形態では、エンジン本体10を冷却する冷却水通路の一部である冷却水分岐路64が、シリンダヘッド室21内の機能部材44と熱交換可能に設置されているので、機能部材44の過剰な昇温を抑制することが可能になる。また、機能部材44の温度が高くなる運転状態のときにのみ冷却水分岐路64を選択するようにしたので、他の運転状態における無駄な放熱を抑制できる。
【0044】
また本実施形態では、EGR通路53とEGR分岐路56との分岐点が、EGRクーラ54よりも上流側に配置されているので、排気の熱量を好適に利用することができる。
【0045】
以上、本発明を上記実施形態に基づいて説明した。しかし、本発明は、それら実施形態に限定されず、他の実施形態を許容する。例えば、本発明は、上記実施形態や変形例の全体的な組み合わせまたは部分的な組み合わせを、矛盾しない範囲において許容する。本発明には、特許請求の範囲によって規定される本発明の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が含まれる。
【0046】
例えば、EGR分岐路56および冷却水分岐路64を選択するかを決定する際に参照する機能部材またはその近傍の温度は、水温センサ66およびヘッドカバー温度センサ67の両方から取得したが、いずれか一方から取得してもよいし、運転状態に関連する任意のパラメータに基づいて推定してもよい。冷却水分岐路64、ならびに冷却水分岐弁65の制御に係る構成は省略してもよく、その限りにおいて本発明に所期の効果を得ることができる。
【0047】
本発明における反応体は、イオン交換樹脂に限定されない。イオン交換樹脂、無機イオン交換体、キレート樹脂および/または合成吸着剤を反応体として用いることが可能である。反応体として、所定の成分を吸着する機能を有する種々の物質や、所定の成分を吸着する機能と別の所定の成分を放出する機能とを有する種々の物質を用いることができる。
【0048】
反応体は潤滑油との間で物質を交換、すなわち吸着と放出の少なくとも一方を行うことのできる物質を広く含む。反応体によって吸着除去されるべき成分は、上記したような硝酸イオン、硫酸イオン等の酸に限らず、また、オイル・燃量および添加物に由来する成分のほか、エンジンの構成部材の磨耗および/または溶出によりオイル中に生じた不要成分または不純物を広く含む。吸着されるべき成分は、上記イオンに限定されず、また、イオン以外の成分をも含み得る。オイルへ反応体から放出されるべき成分は、エンジンオイルに無害である成分またはオイルへの添加剤として機能する有用成分であるとよい。放出されるべき成分は、上記イオンに限定されず、イオン以外の成分も含み得る。このような反応体を用いて、オイル中の不要成分または不純物を除去できるので、オイル中にそのような不要成分または不純物を供給する可能性のある種々の材料および/または薬剤等の物質を、酸化防止剤、金属系洗浄剤、摩擦調整剤、無灰分散剤、pH調整剤としてオイルに加えることも可能になる。
【符号の説明】
【0049】
10 エンジン本体
12 シリンダブロック
18 シリンダヘッド
20 ヘッドカバー
21 シリンダヘッド室
44 機能部材
53 EGR通路
56 EGR分岐路
57 EGR分岐弁
62 冷却水通路
64 冷却水分岐路
65 冷却水分岐弁
70 ECU
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の潤滑油との間で所定の物質を交換する反応体を備えた潤滑装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、内燃機関の潤滑システム内で使用する化学フィルターを開示する。特許文献1の記載によれば、この化学フィルターは、潤滑システム内のオイルフィルターのハウジング内に配置されるか、またはそのオイルフィルターのバイパス部分に配置されており、潤滑油との間で所定のイオンを交換可能なイオン交換材料を有することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2008−540123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、イオン交換材料のような反応体は動作に適した温度領域を有し、温度が低すぎる場合には効率が低下してしまう。
【0005】
そこで本発明は、反応体を迅速に昇温させるための新規な手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、
内燃機関の排気通路からの排気を吸気通路に循環させるEGR通路と、
前記内燃機関のシリンダヘッド室内に配置され前記内燃機関の潤滑油との間で物質を交換する反応体を含む機能部材と、
前記EGR通路から分岐し、且つ前記反応体と熱交換可能に設置されたEGR分岐路と、
前記EGR通路から前記EGR分岐路に排気を選択的に導入するEGR分岐弁と、
前記EGR分岐弁を制御するEGR分岐弁制御手段と、を備え、
前記EGR分岐弁制御手段は、前記機能部材またはその近傍の温度が予め定められた低温基準値よりも低いときに、前記EGR分岐弁を制御して前記EGR分岐路に排気を導入させることを特徴とする内燃機関の潤滑装置である。
【0007】
この態様では、EGR分岐路からの熱が反応体に作用するので、シリンダヘッド室内に配置された反応体を好適に昇温させることができる。また、EGR分岐路がEGR通路から分岐しているので、分岐点までの通路をEGR通路と共用できる。
【0008】
好適には、前記機能部材は、前記シリンダヘッドのヘッドカバーの内側に配置され、前記EGR分岐路は、前記ヘッドカバーに固定または前記ヘッドカバーと一体的に形成されている。この態様では、簡易な構成によって本発明に所期の効果を得ることができる。
【0009】
好適には、前記内燃機関を冷却する冷却水通路が、前記反応体と熱交換可能に設置されている。この態様では、シリンダヘッド室内に配置された反応体の過剰な昇温を抑制することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1実施形態に係るエンジンシステムの概念図である。
【図2】(a)〜(e)は反応体であるイオン交換樹脂を備えた機能部材の構成例を示す斜視図である。
【図3】第1実施形態における排気ガス再循環系と冷却系の構成を示す模式図である。
【図4】第1実施形態において実行される機能部材温度制御に係る処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施形態を添付図面に基づいて詳述する。図1に、本発明の第1実施形態のエンジンシステムが概念的に示されている。エンジン本体10は、直列4気筒ディーゼルエンジンであるが、他の形式でもよい。エンジン本体10は、シリンダブロック12と、ピストン14と、クランクケース16と、シリンダヘッドブロック18と、シリンダヘッドブロック18を上方から覆うヘッドカバー20と、オイルパン22とを備える。シリンダヘッドブロック18とヘッドカバー20とにより、シリンダヘッド室21が区画形成される。
【0012】
吸気通路26には、スロットルバルブ24が配置され、スロットルバルブ24の下流側の吸気通路26dとシリンダヘッド室21内とは、PCV(Positive Crankcase Ventilation)通路28によって連通されている。スロットルバルブ24の上流側の吸気通路26uと、シリンダヘッド室21内とは、大気通路30によって連通されている。ヘッドカバー20には、PCV通路28を開閉するPCVバルブ32が固定されている。PCVバルブ32は、吸気負圧の大きさに応じて開閉し、流量を変える。
【0013】
シリンダブロック12とシリンダヘッドブロック18には、シリンダヘッド室21内とクランクケース16内とを連通するオイル落とし通路34が設けられている。オイル落とし通路34を通じて、動弁系の潤滑を終えたオイルがシリンダヘッドブロック18上からオイルパン22へ向けて落とされ、また、クランクケース16内のブローバイガスがシリンダヘッド室21内に向けて上昇する。ブローバイガスにはオイルミストが含まれる。
【0014】
図1において黒塗り矢印および白抜き矢印で示されるように、エンジンの軽負荷時には、PCVバルブ32が開かれ、クランクケース16内のブローバイガスはオイル落とし通路34、シリンダヘッド室21内、PCV通路28を順に通じて吸気通路26に戻され、その後、燃焼室で燃焼される(黒塗り矢印)。このときシリンダヘッド室21内には大気通路30を通じて大気が導入され(白抜き矢印)、この大気はシリンダヘッド室21内のブローバイガスを適宜希釈する。他方、図示しないが、エンジンの高負荷時には、PCVバルブ32が閉じられ、シリンダヘッド室21内のブローバイガスは大気通路30を通じて吸気通路26に戻される。シリンダヘッド室21内には、図示しないが、ブローバイガスからオイルを分離して回収するためのオイルセパレータ室が区画形成されている。
【0015】
さらに、エンジン本体10は、ストレーナおよびオイルポンプを備え、オイルパン22内のオイルはストレーナを通じてオイルポンプによって汲み上げられる(吸引される)。こうして汲み上げられたオイルは、オイルフィルターを介して、エンジン本体10内に形成された油路(各供給部位に対応した複数の油路を含む。)を通じて、エンジン本体10内の各部、例えばカムシャフトジャーナル、クランクジャーナル、コンロッド、ピストン14に供給される。こうして各部に供給された潤滑油つまりオイルは、自らの自重によりオイルパン22に戻る。なお、バッフルプレート42が設けられているが、省かれてもよい。
【0016】
ところで、ヘッドカバー20はエンジンからの熱が伝達されにくく、且つその外面が外気によって冷却されるので、ヘッドカバー20の内面には、結露を主要因とする凝縮水が生じやすい。このため、ヘッドカバー室21内、例えば上記オイルセパレータ室には、ブローバイガス中に含まれているNOx、HCおよび水分の相互反応により、硝酸水HNO3などの酸性物質が生成しやすい。
【0017】
このような酸性物質を含む不要成分の生成を抑制するために、エンジンの潤滑経路内、特にシリンダヘッド室21内に、反応体であるイオン交換樹脂を備えた機能部材44を備えている。機能部材44は、ヘッドカバー20の内面に密着して配置されている。
【0018】
機能部材44における反応体であるイオン交換樹脂は、エンジンオイルから所定のイオン(イオン成分)を除去するべく吸着する機能と、別の所定のイオンを放出する機能とを有する。イオン交換樹脂としては、アニオン(陰イオン)性イオン交換樹脂およびカチオン(陽イオン)性イオン交換樹脂の両方が用いられる。そのようなイオン交換樹脂としては、例えば、三菱化学社製ダイヤイオン(登録商標)シリーズ、ローム・アンド・ハース社製アンバーライト(登録商標)シリーズのものを用いることができる。イオン交換樹脂としては強酸性、弱酸性、強塩基性または弱塩基性のものを用いることができ、これらに限定されない。機能部材44のイオン交換樹脂は、アニオン性イオン交換樹脂およびカチオン性イオン交換樹脂のうちの一方のみから構成されてもよい。イオン交換樹脂は、ビーズ状または膜状など、種々の形状を有し得る。
【0019】
本実施形態では、アニオン性イオン交換樹脂として、ブローバイガス中のNOxと水とにより生じ得る硝酸イオン(NO3-)、ブローバイガス中のSOxと水とにより生じ得る硫酸イオン(SO42-)を吸着する機能を有する材料が用いられる。このようなアニオン性イオン交換樹脂は、これらの陰イオンを吸着し、例えば代わりの陰イオンとして水酸化物イオン(OH-)を放出する。
【0020】
なお、オイル中から除去することが望まれる陰イオンには、硝酸イオン(NO3-)、硫酸イオン(SO42-)のほかに、例えば、ブローバイガスから生じ得る酢酸イオン(CH3COO-)、同様にブローバイガスから生じ得るギ酸イオン(HCOO-)、塩化物イオン(Cl-)、クロム酸イオン(CrO42-)がある。アニオン性イオン交換樹脂としては、これらを含む群またはこれらからなる群から選択された少なくとも1つのイオンを吸着する機能を有する材料が用いられ得る。他方、アニオン性イオン交換樹脂から放出されるイオンは、オイルの劣化を促進しないものであるとよく、好ましくは、オイルの劣化を抑制するものであるとよい。
【0021】
本実施形態ではまた、カチオン性イオン交換樹脂として、オイル中からCaイオン(Ca2+)を吸着する機能を有する機能を有する材料が用いられる。Caイオンは、機能部材44とは別途にスラッジ生成を抑制するためにオイル供給系統に設置されたCa成分を含むオイル劣化抑制剤が消費されることで生じ得る。また、オイル中に添加剤としてカルシウムスルホネートが添加されている場合には、このカルシウムスルホネートからCaイオンが生じ得る。このようなカチオン性イオン交換樹脂は、陽イオンであるCaイオン(Ca2+)を吸着し、水素イオンおよび/またはNaイオンを放出する。
【0022】
なお、オイル中から除去することが望まれる陽イオンには、Caイオン(Ca2+)のほかに、例えば、Al3+、Fe2+、Fe3+、Cr3+、Pb2+、Ni2+、Cu2+、Mg2+、Ti+がある。これらの陽イオンは、オイルへの添加剤、例えばZnDTP(ジアルキルジチオりん酸亜鉛)から生じたり、エンジンの構成部材の磨耗および/または溶出により生じたりする。特に、エンジンの摺動部の摩耗によりエンジンオイル中に生じるCuイオン、Alイオン、Feイオン等は、除去されることが望まれる。カチオン性イオン交換樹脂としては、これらを含む群またはこれらからなる群から選択された少なくとも1つの陽イオンを吸着する機能を有する材料が用いられ得る。他方、カチオン性イオン交換樹脂から放出されるイオンは、オイルの劣化を促進しないものであるとよく、好ましくは、オイルの劣化を抑制するものであるとよい。
【0023】
イオン交換樹脂は、当該イオン交換樹脂を保持しつつ外部のオイルとの間の物質流通を許容する保持部材に保持されるのが好ましい。この場合に、機能部材44は、保持部材と、これに保持されるイオン交換樹脂とから構成される。
【0024】
保持部材としては、例えば、パンチングメタルを函状に形成してなるケース46a(図2(a))、金属や樹脂のメッシュを函状に形成してなるケース46b(図2(b))、金属や樹脂のメッシュにより形成された袋状のケース46c(図2(c))、金属や樹脂のメッシュからなる内筒46diと外筒46dcとの間に収納領域を有する二重筒状のケース46d(図2(d))を用いることができ、ケース内にイオン交換樹脂が収容される。保持部材は発泡体や繊維体などの多孔質材料であってもよい。
【0025】
また、イオン交換樹脂は、それ自体で或いは適宜のバインダ中に分散した形で、基材となる板46eやフィルムの上に積層されることができ(図2(e))、その場合にはイオン交換樹脂層44eが積層された基材を、部品に接着その他の方法で固定することができる。さらに、イオン交換樹脂はそれ自体で或いは適宜のバインダ中に分散した形で、部品に直接塗布されることができ、その場合にはイオン交換樹脂層自体が機能部材44となる。
【0026】
エンジン本体10の排気通路51と吸気通路26とを接続するように、排気ガス再循環(EGR、Exhaust Gas Recirculation)通路53が配置されている。EGR通路53は、排気通路51における酸化触媒52よりも上流側(例えば、排気マニホールド)と、吸気通路26におけるスロットル弁24よりも下流側(例えば、吸気マニホールド)とを接続している。EGR通路53の周りには、冷却水との熱交換によって排気を冷却するためのEGRクーラ54が配置されている。EGR通路53の下流側の端部となる吸気通路26との接続点には、排気の流通を制御するためのEGR弁55が設けられている。
【0027】
EGR通路53から分岐して排気を流通させるために、EGR分岐路56が設けられている。EGR分岐路56は、その中間部においてヘッドカバー20の外面に固定されており、これによってシリンダヘッド室21内の機能部材44と熱交換可能にされている。EGR分岐路56の中間部は、ヘッドカバー20の内面に固定されていても良く、また例えば一体成形やバルジ加工などの手段により、ヘッドカバー20または機能部材44と一体的に形成されていてもよい。図3に示されるように、EGR分岐路56は、ヘッドカバー20の外面において機能部材44に対応する位置に、ヘッドカバー20の内面における機能部材44の長手方向に沿って配置されている。
【0028】
EGR分岐路56は、EGRクーラ54よりも上流側において、EGR通路53から分岐している。EGR分岐路56の始点となる分岐点には、EGR分岐路56に排気を選択的に導入するためのEGR分岐弁57が設けられている。EGR分岐弁57は、EGR通路53からの排気の供給先として、EGR弁55に向かう主経路と、EGR分岐路56を通じて排気通路に戻る分岐経路とのいずれかを選択する。
【0029】
EGR通路53の上流側の端部は、排気通路51における圧損部材(すなわち、流体抵抗によりその上流側と下流側との間で圧力差を生じさせる構造体)である酸化触媒52よりも上流側に接続されている。他方、EGR分岐路56の下流側の端部は、排気通路51における酸化触媒52よりも下流側に接続されている。酸化触媒52の前後の圧力差により、排気はEGR通路53からEGR分岐路56を経由して排気通路51に戻される。このように排気の流通を許容しつつ圧力差を生じさせるための圧損部材は、複数であってもよく、他の種類の触媒装置であってもよく、またターボチャージャのタービンであってもよい。他方、EGR分岐路56の下流側の端部は、再びEGR通路53に合流してもよく、また吸気通路26に接続されていてもよい。
【0030】
エンジン本体10を冷却するための冷却系は、ラジエータ61、冷却水通路62、およびEGRクーラ54を含んで構成されている。冷却水通路62は、エンジン本体10のウォータジャケット63(図1参照)に連通している。冷却水通路62から分岐し冷却水を流通させるために、冷却水分岐路64が設けられている。冷却水分岐路64は、その中間部においてヘッドカバー20の外面に固定されており、これによってヘッドカバー20の内面かつシリンダヘッド室21内に固定された機能部材44と熱交換可能にされている。冷却水分岐路64の中間部は、ヘッドカバー20の内面に固定されていても良く、また例えば一体成形やバルジ加工などの手段により、ヘッドカバー20または機能部材44と一体的に形成されていてもよい。図3に示されるように、冷却水分岐路64は、ヘッドカバー20の外面において機能部材44に対応する位置に、ヘッドカバー20の内面における機能部材44の長手方向に沿って配置されている。
【0031】
冷却水分岐路64の始点となる分岐点には、冷却水分岐路64に冷却水を選択的に導入するための冷却水分岐弁65が設けられている。冷却水分岐弁65は、冷却水通路62からの冷却水の供給先として、冷却水が冷却水分岐路64を通らず直接にエンジン本体10のウォータジャケット63、EGRクーラ54およびラジエータ61に向かう主経路と、冷却水分岐路64を通ってこれらの部材に向かう分岐経路とのいずれかを選択する。すなわち冷却水分岐路64は、それが選択された場合にはウォータジャケット63、EGRクーラ54およびラジエータ61に直列に接続される。
【0032】
シリンダヘッドブロック18には、エンジン水温を検出するための水温センサ66が配置されている。ヘッドカバー20には、シリンダヘッド室21内の機能部材44またはその近傍の温度を検出するためのヘッドカバー温度センサ67が配置されている。なお温度センサは機能部材44に固定してもよく、温度センサの設置点は機能部材44の温度を好適に検出して本発明の目的を達成できる程度に機能部材44の近傍であればよい。
【0033】
装置は更に、EGR分岐弁57および冷却水分岐弁65を制御する手段として機能する電子制御ユニット(ECU)70を備える。ECU70は、CPU、ROM、RAM、A/D変換器、入力インタフェース、出力インタフェース等を含む周知のワンチップマイクロコンピュータとして構成されている。入力インタフェースには、上述した水温センサ66およびヘッドカバー温度センサ67のほか、エンジン回転速度を検出可能にするクランク角センサ、エンジン負荷を検出可能にするアクセルペダルセンサを含む各種センサ類が電気的に接続されている。出力インタフェースには、上述したEGR弁55,EGR分岐弁57,冷却水分岐弁65を含む各種アクチュエータ類が電気的に接続されている。各種センサ類からの出力信号(検出信号)に基づき、予め設定されたプログラムに従ってエンジン本体10の運転ないし作動がなされるように、ECU70は出力インタフェースから電気的に燃料噴射弁(不図示)、およびスロットルバルブ24を駆動するスロットルアクチュエータを含む各種アクチュエータ類に、作動信号(駆動信号)を出力する。ECU70のROMには、後述する基準温度A,Bを含む各種の基準値および初期値が格納されている。
【0034】
以上のとおり構成された第1実施形態の動作について説明する。図4の処理ルーチンは、エンジン本体10の運転中に亘って所定時間ごとに繰返し実行される。図4において、まずECU70は、水温センサ66により検出されるエンジン水温、およびヘッドカバー温度センサ67により検出されるヘッドカバー内温度をそれぞれ読み込む(S10)。
【0035】
次にECU70は、現在のエンジン水温が、予め定められた基準温度Aよりも低いかを判断する(S20)。この基準温度Aは、エンジン水温の高温側基準値であって、潤滑油温が機能部材44の動作温度領域から高温側に外れるときのエンジン水温またはこれよりもやや低い値に設定されている。
【0036】
ステップS20で肯定、すなわちエンジン水温が基準温度Aより低い場合には、ECU70は冷却水分岐弁65を制御して、冷却水主経路、すなわち冷却水が冷却水分岐路64を通らず直接にウォータジャケット63、EGRクーラ54およびラジエータ61に向かう経路を、冷却水の供給先として選択する(S30)。
【0037】
次にECU70は、現在のヘッドカバー内温度が、予め定められた基準温度Bよりも低いかを判断する(S40)。この基準温度Bは、ヘッドカバー内温度の低温側基準値であって、機能部材44の温度が機能部材44の動作温度領域から低温側に外れるときのヘッドカバー内温度またはこれよりもやや高い値に設定されている。
【0038】
ステップS40で肯定、すなわちヘッドカバー内温度が基準温度Bより低い場合には、ECU70はEGR分岐弁57を制御して、EGR分岐路、すなわちEGR分岐弁57からの排気がEGR分岐路56を通じて排気通路に戻る経路を選択する(S50)。この場合には、排気からの熱によってヘッドカバー20を介して、機能部材44が昇温させられる。
【0039】
ステップS40で否定、すなわちヘッドカバー内温度が基準温度B以上の場合には、ECU70はEGR分岐弁57を制御して、EGR主経路、すなわちEGR分岐弁57からの排気がEGR分岐路56を通ることなくEGRクーラ54およびEGR弁55に向かう経路を選択する(S70)。この場合には、排気からの熱によって機能部材44が昇温させられることはない。
【0040】
なおステップS20で否定、すなわちエンジン水温が基準温度A以上である場合には、ECU70は冷却水分岐弁65を制御して、冷却水分岐経路、すなわち冷却水が冷却水分岐路64を通ってウォータジャケット63、EGRクーラ54およびラジエータ61に向かう経路を、冷却水の供給先として選択する(S60)。この場合には、冷却水によってヘッドカバー20を介して、機能部材44が冷却され、次に、EGR分岐弁57の制御によりEGR主経路が選択されて(S70)、シリンダヘッド室21内の過度の昇温が回避される。
【0041】
以上のとおり、本実施形態では、EGR通路53から分岐して排気を流通させ、シリンダヘッド室21内の機能部材44と熱交換可能に設置されたEGR分岐路56と、EGR分岐路56に排気を選択的に導入するEGR分岐弁57と、EGR分岐弁57を制御するEGR分岐弁制御手段(ECU70)とを備え、ECU70は、シリンダヘッド室21内すなわちヘッドカバー20内の温度が予め定められた低温基準値である基準温度Bよりも低いときに、EGR分岐弁57によってEGR分岐路56に排気を導入させる。その結果、EGR分岐路56からの熱が機能部材44に作用するので、シリンダヘッド室21内に配置された機能部材44を迅速に昇温させることができる。また、EGR分岐路56がEGR通路53から分岐しているので、分岐点までの通路をEGR通路53と共用できる。
【0042】
また本実施形態では、機能部材44がヘッドカバー20の内側に配置され、EGR分岐路56はヘッドカバー20に固定またはヘッドカバー20と一体的に形成されているので、簡易な構成によって本発明に所期の効果を得ることができる。
【0043】
また本実施形態では、エンジン本体10を冷却する冷却水通路の一部である冷却水分岐路64が、シリンダヘッド室21内の機能部材44と熱交換可能に設置されているので、機能部材44の過剰な昇温を抑制することが可能になる。また、機能部材44の温度が高くなる運転状態のときにのみ冷却水分岐路64を選択するようにしたので、他の運転状態における無駄な放熱を抑制できる。
【0044】
また本実施形態では、EGR通路53とEGR分岐路56との分岐点が、EGRクーラ54よりも上流側に配置されているので、排気の熱量を好適に利用することができる。
【0045】
以上、本発明を上記実施形態に基づいて説明した。しかし、本発明は、それら実施形態に限定されず、他の実施形態を許容する。例えば、本発明は、上記実施形態や変形例の全体的な組み合わせまたは部分的な組み合わせを、矛盾しない範囲において許容する。本発明には、特許請求の範囲によって規定される本発明の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が含まれる。
【0046】
例えば、EGR分岐路56および冷却水分岐路64を選択するかを決定する際に参照する機能部材またはその近傍の温度は、水温センサ66およびヘッドカバー温度センサ67の両方から取得したが、いずれか一方から取得してもよいし、運転状態に関連する任意のパラメータに基づいて推定してもよい。冷却水分岐路64、ならびに冷却水分岐弁65の制御に係る構成は省略してもよく、その限りにおいて本発明に所期の効果を得ることができる。
【0047】
本発明における反応体は、イオン交換樹脂に限定されない。イオン交換樹脂、無機イオン交換体、キレート樹脂および/または合成吸着剤を反応体として用いることが可能である。反応体として、所定の成分を吸着する機能を有する種々の物質や、所定の成分を吸着する機能と別の所定の成分を放出する機能とを有する種々の物質を用いることができる。
【0048】
反応体は潤滑油との間で物質を交換、すなわち吸着と放出の少なくとも一方を行うことのできる物質を広く含む。反応体によって吸着除去されるべき成分は、上記したような硝酸イオン、硫酸イオン等の酸に限らず、また、オイル・燃量および添加物に由来する成分のほか、エンジンの構成部材の磨耗および/または溶出によりオイル中に生じた不要成分または不純物を広く含む。吸着されるべき成分は、上記イオンに限定されず、また、イオン以外の成分をも含み得る。オイルへ反応体から放出されるべき成分は、エンジンオイルに無害である成分またはオイルへの添加剤として機能する有用成分であるとよい。放出されるべき成分は、上記イオンに限定されず、イオン以外の成分も含み得る。このような反応体を用いて、オイル中の不要成分または不純物を除去できるので、オイル中にそのような不要成分または不純物を供給する可能性のある種々の材料および/または薬剤等の物質を、酸化防止剤、金属系洗浄剤、摩擦調整剤、無灰分散剤、pH調整剤としてオイルに加えることも可能になる。
【符号の説明】
【0049】
10 エンジン本体
12 シリンダブロック
18 シリンダヘッド
20 ヘッドカバー
21 シリンダヘッド室
44 機能部材
53 EGR通路
56 EGR分岐路
57 EGR分岐弁
62 冷却水通路
64 冷却水分岐路
65 冷却水分岐弁
70 ECU
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路からの排気を吸気通路に循環させるEGR通路と、
前記内燃機関のシリンダヘッド室内に配置され前記内燃機関の潤滑油との間で物質を交換する反応体を含む機能部材と、
前記EGR通路から分岐し、且つ前記反応体と熱交換可能に設置されたEGR分岐路と、
前記EGR通路から前記EGR分岐路に排気を選択的に導入するEGR分岐弁と、
前記EGR分岐弁を制御するEGR分岐弁制御手段と、を備え、
前記EGR分岐弁制御手段は、前記機能部材またはその近傍の温度が予め定められた低温基準値よりも低いときに、前記EGR分岐弁を制御して前記EGR分岐路に排気を導入させることを特徴とする内燃機関の潤滑装置。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関の排気装置であって、
前記機能部材は、前記シリンダヘッドのヘッドカバーの内側に配置され、
前記EGR分岐路は、前記ヘッドカバーに固定または前記ヘッドカバーと一体的に形成されていることを特徴とする内燃機関の潤滑装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の内燃機関の排気装置であって、
前記内燃機関を冷却する冷却水通路が、前記反応体と熱交換可能に設置されていることを特徴とする内燃機関の潤滑装置。
【請求項1】
内燃機関の排気通路からの排気を吸気通路に循環させるEGR通路と、
前記内燃機関のシリンダヘッド室内に配置され前記内燃機関の潤滑油との間で物質を交換する反応体を含む機能部材と、
前記EGR通路から分岐し、且つ前記反応体と熱交換可能に設置されたEGR分岐路と、
前記EGR通路から前記EGR分岐路に排気を選択的に導入するEGR分岐弁と、
前記EGR分岐弁を制御するEGR分岐弁制御手段と、を備え、
前記EGR分岐弁制御手段は、前記機能部材またはその近傍の温度が予め定められた低温基準値よりも低いときに、前記EGR分岐弁を制御して前記EGR分岐路に排気を導入させることを特徴とする内燃機関の潤滑装置。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関の排気装置であって、
前記機能部材は、前記シリンダヘッドのヘッドカバーの内側に配置され、
前記EGR分岐路は、前記ヘッドカバーに固定または前記ヘッドカバーと一体的に形成されていることを特徴とする内燃機関の潤滑装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の内燃機関の排気装置であって、
前記内燃機関を冷却する冷却水通路が、前記反応体と熱交換可能に設置されていることを特徴とする内燃機関の潤滑装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図2】
【図3】
【図4】
【公開番号】特開2011−247187(P2011−247187A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−121650(P2010−121650)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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