説明

内燃機関の燃料噴射制御装置

【課題】噴射モードの切り換え時のトルク段差を抑制できる燃料噴射制御装置を提供する。
【解決手段】燃焼室に燃料を直接噴射する燃料噴射バルブ118を備えた火花点火式内燃機関EGの燃料噴射制御装置11において、吸気行程の中期から後期の期間に第1回目の燃料噴射を行う第1噴射モードと、吸気行程の前期から中期の期間にのみ燃料噴射を行う第2噴射モードとを切り換える制御信号を出力する。第2噴射モードから第1噴射モードへの切り換え時に、吸気行程の中期から後期の期間にのみ燃料噴射を行う制御信号を出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の燃料噴射制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高負荷又は高回転領域における混合気の均質性を高めるために、吸気行程の中期に燃料噴射を行ったのち、圧縮行程の中期以降に少なくとも2回の燃料噴射を行う火花点火式直噴エンジンが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−256630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術では噴射モードを切り換える際にトルク段差が生じるという問題がある。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、噴射モードの切り換え時のトルク段差を抑制できる燃料噴射制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、吸気行程の前期から中期の期間にのみ燃料噴射を行う第2噴射モードから、吸気行程の中期から後期に第1回目の燃料噴射を行ったのち圧縮行程の前期から中期に第2回目の燃料噴射を行う第1噴射モードへの切り換え時に、吸気行程の中期から後期の期間にのみ燃料噴射を行うことによって上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、第2噴射モードから第1噴射モードへの切り換え時に燃料噴射時期及び分割比が徐々に切り換えられるので、噴射モードの切り換え時のトルク段差を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施の形態を適用した内燃機関を示すブロック図である。
【図2】図1に示す内燃機関の燃料噴射タイミングを示すタイムチャートである。
【図3】図1に示す内燃機関の第1回目の噴射量と第2回目の噴射時期との関係を示す制御マップである。
【図4】図1に示す内燃機関の第1噴射モードと第2噴射モードとの切換時の燃料噴射タイミングを示すタイムチャートである。
【図5】図1に示す内燃機関の燃料噴射時期とサージトルクとの関係を示すグラフである。
【図6】図1に示す内燃機関の燃料噴射時期と出力トルクとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0010】
図1は、本発明の一実施の形態を適用した火花点火式直噴エンジンEGを示すブロック図であり、エンジンEGの吸気通路111には、エアーフィルタ112、吸入空気流量を検出するエアフローメータ113、吸入空気流量を制御するスロットルバルブ114およびコレクタ115が設けられている。
【0011】
スロットルバルブ114には、当該スロットルバルブ114の開度を調整するDCモータ等のアクチュエータ116が設けられている。このスロットルバルブアクチュエータ116は、運転者のアクセルペダル操作量等に基づき演算される要求トルクを達成するように、エンジンコントロールユニット11からの駆動信号に基づき、スロットルバルブ114の開度を電子制御する。また、スロットルバルブ114の開度を検出するスロットルセンサ117が設けられて、その検出信号をエンジンコントロールユニット1へ出力する。なお、スロットルセンサ117はアイドルスイッチとしても機能させることができる。
【0012】
燃料噴射バルブ118は、燃焼室123に臨ませて設けられている。燃料噴射バルブ118は、エンジンコントロールユニット11において設定される駆動パルス信号によって開弁駆動され、図外の燃料ポンプから圧送されてプレッシャレギュレータにより所定圧力に制御された燃料を、運転要求に応じた噴射量となるように所定のタイミングで筒内に直接噴射する。本例における燃料噴射時期の詳細は後述する。
【0013】
シリンダ119と、当該シリンダ内を往復移動するピストン120の冠面と、吸気バルブ121及び排気バルブ122が設けられたシリンダヘッドとで囲まれる空間が燃焼室123を構成する。点火プラグ124は、各気筒の燃焼室123に臨んで装着され、エンジンコントロールユニット11からの点火信号に基づいて吸入混合気に対して点火を行う。
【0014】
一方、排気通路125には、排気中の特定成分、たとえば酸素濃度を検出することにより排気、ひいては吸入混合気の空燃比を検出する空燃比センサ126が設けられ、その検出信号はエンジンコントロールユニット11へ出力される。この空燃比センサ126は、リッチ・リーン出力する酸素センサであっても良いし、空燃比をリニアに広域に亘って検出する広域空燃比センサであってもよい。
【0015】
また、排気通路125には、排気を浄化するための排気浄化触媒127が設けられている。この排気浄化触媒127としては、ストイキ(理論空燃比,λ=1、空気重量/燃料重量=14.7)近傍において排気中の一酸化炭素COと炭化水素HCを酸化するとともに、窒素酸化物NOxの還元を行って排気を浄化することができる三元触媒、或いは排気中の一酸化炭素COと炭化水素HCの酸化を行う酸化触媒を用いることができる。
【0016】
排気通路125の排気浄化触媒127の下流側には、排気中の特定成分、たとえば酸素濃度を検出し、リッチ・リーン出力する酸素センサ128が設けられ、その検出信号はエンジンコントロールユニット11へ出力される。ここでは、酸素センサ128の検出値により、空燃比センサ126の検出値に基づく空燃比フィードバック制御を補正することで、空燃比センサ126の劣化等に伴う制御誤差を抑制する等のために(いわゆるダブル空燃比センサシステム採用のために)、下流側酸素センサ128を設けて構成したが、空燃比センサ126の検出値に基づく空燃比フィードバック制御を行なわせるだけで良い場合には、酸素センサ128を省略することができる。
【0017】
なお、図1において129はマフラである。
【0018】
エンジンEGのクランク軸130にはクランク角センサ131が設けられ、エンジンコントロールユニット11は、クランク角センサ131から機関回転と同期して出力されるクランク単位角信号を一定時間カウントすることで、又は、クランク基準角信号の周期を計測することで、機関回転速度Neを検出することができる。
【0019】
エンジンEGの冷却ジャケット132には、水温センサ133が当該冷却ジャケットに臨んで設けられ、冷却ジャケット131内の冷却水温度Twを検出し、これをエンジンコントロールユニット11へ出力する。
【0020】
さて、背景技術の欄で触れたとおり、直噴エンジンの低回転高負荷領域では混合気の均質性が悪く燃焼変動が大きいが、本発明者が探求したところ以下の事項が判明した。
【0021】
図5に示す「△」のプロットは、スロットルバルブ114を全開とし、吸気行程及び圧縮行程のうちクランク角度CAが0〜230°ATDCの範囲において、10°間隔でストイキ(空気過剰率λ=1)の燃料を1回噴射したときのサージトルクを測定した結果を示すグラフである。
【0022】
これによると、低回転高負荷領域では、P1で示すCA=40〜50°ATDCの期間で燃料噴射するのが最もサージトルクが小さく運転性が良好であることが理解されるが、P2で示すCA=90〜130°ATDCの期間に燃料噴射してもこれと同等の小さいサージトルクとなることが確認された。このCA=90〜130°ATDCといった吸気行程の中期から後期の期間は、筒内のタンブル流を壊さない均質性の充分に高い領域と考えられるからである。
【0023】
また、P3で示すCA=190〜220°ATDCの期間に燃料噴射してもサージトルクが小さくなることが確認された。このCA=190〜220°ATDCという圧縮行程の前期から中期の期間は、シリンダ容積が大きい故、空気と燃料の混合体積が大きく均質性が高い領域と考えられるからである。
【0024】
そこで、本発明者は、CA=90°ATDCの時期(固定)に第1回目の燃料噴射(ストイキ)を行ったのち、CA=160〜260°ATDCの範囲において、10°間隔で第2回目の燃料噴射を行ったときのサージトルクを測定した。第1回目の燃料噴射量と第2回目の燃料噴射量との分割比は7:3とした。図5に示す「○」のプロットがこの結果を示すグラフである。
【0025】
これによると、CA=90°ATDCで行う第1回目の燃料噴射に対し、P4で示すCA=180〜240°ATDC、より好ましくはCA=200〜230°ATDC、さらにより好ましくはCA=210〜220°ATDCの期間に第2回目の燃料噴射を行うとサージトルクが約25%小さくなることが確認された。これは、上述したようにCA=180〜240°ATDCという圧縮行程の前期から中期の期間は、シリンダ容積が大きい故、空気と燃料の混合体積が大きく均質性が高い領域と考えられるからである。
【0026】
したがって、低回転高負荷領域において、CA=90〜130°ATDCという吸気行程の中期から後期の期間に第1回目の燃料噴射を行ったのち、CA=180〜240°ATDCという圧縮行程の前期から中期の期間に第2回目の燃料噴射を行うと、すなわち均質燃焼するようなタイミングで2度の燃料噴射を行うことで、サージトルクが小さくなり運転性が向上する。
【0027】
またこうした燃料噴射時期の制御はサージトルク、すなわち燃焼変動の改善だけでなく出力の向上にも寄与する。すなわち、低回転高負荷領域では、高回転領域に比べてノック余裕度が小さいために、点火時期が最小点火進角値MBTから離れた時期に設定される。このため、燃焼変動が大きくなるだけでなく出力も低下するといった問題があるが、上記の時期に第1回目と第2回目の燃料噴射を行うことで燃焼変動だけでなく出力も向上する。
【0028】
図6に示す「△」のプロットは、スロットルバルブ114を全開とし、吸気行程及び圧縮行程のうちクランク角度CAが50〜250°ATDCの範囲において、10°間隔でストイキ(空気過剰率λ=1)よりリッチの燃料を1回噴射したときの出力トルクを測定した結果を示すグラフである。
【0029】
これによると、CA=100°ATDCの時期に燃料噴射を行うと出力トルクが最大となることが確認されたので、第1回目の燃料噴射時期をCA=100°ATDC(固定)で行ったのち、CA=150〜260°ATDCの範囲において、10°間隔で第2回目の燃料噴射を行ったときの出力トルクを測定した。第1回目の燃料噴射量と第2回目の燃料噴射量との分割比は7:3とした。図6に示す「○」のプロットがこの結果を示すグラフである。
【0030】
これによると、P5で示すCA=180〜240°ATDCの時期に第2回目の燃料噴射を行うと、出力トルクが約5%向上することが確認された。
【0031】
以上の知見に基づき、本例では以下の制御を実行する。
【0032】
図2は本例の直噴エンジンEGの燃料噴射タイミングを示すタイムチャートであり、運転状態に応じて第1噴射モードと第2噴射モードとを選択し、切り換える。同図の上に示す第1噴射モードは、図5及び図6を参照して説明したように、吸気行程の中期から後期の期間に第1回目の燃料噴射を行い、続く圧縮行程の前期から中期の期間に第2回目の燃料噴射を行うモードであり、これにより均質燃焼が行われる。
【0033】
この第1噴射モードは、たとえば低回転高負荷の運転条件の際に実行される。言い換えると、低回転高負荷以外の運転条件の際に第1噴射モードの実行を禁止する。これにより、第1噴射モードによって必ずしも燃焼変動の抑制あるいは出力トルクの向上が得られない運転条件では第1噴射モードを禁止して、燃焼変動あるいは出力トルクの改善を図る。第1噴射モードを禁止する低回転高負荷以外の運転条件では、たとえば第2噴射モードを実行する。
【0034】
第1噴射モードにおける第1回目の燃料噴射量と第2回目の燃料噴射量との分割比は運転条件に応じて適宜設定することができるが、本例では図3に示すように、第1回目の燃料噴射量の分割比を大きくするほど第2回目の燃料噴射時期を遅角させることとしている。図3は直噴エンジンEGの第1回目の噴射量と第2回目の噴射時期との関係を示す制御マップである。
【0035】
これにより増量された第1回目の燃料により均質性が低下するおそれもあるが、第2回目の噴射をリタードさせることで両噴射間隔が長くなるので、燃料の均質性が低下するのを抑制することができる。
【0036】
これに対し、たとえば低回転高負荷以外の運転状態では図2の下に示す第2噴射モードを選択する。第2噴射モードは吸気行程の前期から中期の期間に1回だけ燃料噴射を行うモードであり、これにより均質燃焼が行われる。
【0037】
そして、第1噴射モードから第2噴射モードへ切り換える場合、又は第2噴射モードから第1噴射モードへ切り換える場合は、燃料噴射時期を図2に示すように直接切り換えることもできるが、本例では切り換え時のトルク段差を抑制するために図4に示すように制御する。
【0038】
図4は、直噴エンジンEGの第1噴射モードと第2噴射モードとの切換時の燃料噴射タイミングを示すタイムチャートであり、一番上が第2噴射モードの燃料噴射時期を示し、一番下が第1噴射モードの燃料噴射時期を示す。
【0039】
そしてたとえば、第2噴射モードから第1噴射モードへ切り換える場合は、まず上から二番目及び三番目に示すように吸気行程の前期から中期の期間に行われている1回のみの燃料噴射の時期を第1噴射モードの第1回目の噴射時期まで遅角し、次いで上から四番目に示すように第1噴射モードと同様に吸気行程にて第1回目の燃料噴射を行ったのち圧縮行程で第2回目の燃料噴射を行う。このとき、燃料噴射量に変更がない場合は、第2回目の燃料噴射量の分割比を徐々に増加させる。
【0040】
逆に第1噴射モードから第2噴射モードへ切り換える場合は、一番下及び下から二番目に示すように第2回目の燃料噴射量の分割比を徐々に減少させ、下から三番目に示すように第2噴射モードと同じ1回のみの燃料噴射に移行したのち、下から四番目及び一番上に示すように吸気行程における1回のみの燃料噴射時期を進角させる。
【0041】
このように第1噴射モードと第2噴射モードとを燃料噴射時期及び分割比について徐々に切り換えることで切り換え時のトルク段差の発生を抑制することができる。
【0042】
以上のとおり、本例の直噴エンジンEGによれば、特に低回転高負荷における混合気の均質性が高くなってサージトルクが小さくなり、運転性が向上する。また、ノックが改善され出力トルクも向上する。
【0043】
上記エンジンコントロールユニット11は本発明に係る制御手段に相当する。
【符号の説明】
【0044】
EG…エンジン(内燃機関)
11…エンジンコントローラ
111…吸気通路
112…エアーフィルタ
113…エアフローメータ
114…スロットルバルブ
115…コレクタ
116…スロットルバルブアクチュエータ
117…スロットルセンサ
118…燃料噴射バルブ
119…シリンダ
120…ピストン
121…吸気バルブ
122…排気バルブ
123…燃焼室
124…点火プラグ
125…排気通路
126…空燃比センサ
127…排気浄化触媒
128…酸素センサ
129…マフラ
130…クランク軸
131…クランク角センサ
132…冷却ジャケット
133…水温センサ
134…温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室に燃料を直接噴射する燃料噴射バルブを備えた火花点火式内燃機関の燃料噴射制御装置において、
吸気行程の中期から後期の期間に第1回目の燃料噴射を行うとともに、圧縮行程の前期から中期の期間に第2回目の燃料噴射を行う第1噴射モードと、吸気行程の前期から中期の期間にのみ燃料噴射を行う第2噴射モードとを切り換える制御信号を出力する制御手段を備え、
前記制御手段は、前記第2噴射モードから前記第1噴射モードへの切り換え時に、吸気行程の中期から後期の期間にのみ燃料噴射を行う制御信号を出力する燃料噴射制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料噴射制御装置において、
前記制御手段は、前記第1噴射モードのとき、クランク角度90〜130°ATDCの期間に前記第1回目の燃料噴射を行うとともに、クランク角度180〜240°ATDCの期間に前記第2回目の燃料噴射を行う制御信号を出力する燃料噴射制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の燃料噴射制御装置において、
前記制御手段は、前記第1噴射モードのとき、前記第2回目の燃料噴射量に対する前記第1回目の燃料噴射量の分割比を大きくするほど前記第2回目の燃料の噴射時期を遅角させる制御信号を出力する燃料噴射制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−92159(P2013−92159A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−31648(P2013−31648)
【出願日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【分割の表示】特願2009−162535(P2009−162535)の分割
【原出願日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】