説明

内燃機関の燃料噴射制御装置

【課題】触媒での排気浄化を良好に行いつつ、ドライバビリティや騒音の悪化を防止する。
【解決手段】プレ噴射への配分割合ratioを1.0とし補正後プレ噴射量Qpmodを算出する(S10)。補正後プレ噴射量Qpmodがプレ単独補正下限Qpsminより大きければ、プレ噴射への配分割合ratioを1.0とし、補正後メイン噴射量Qmmodを補正前メイン噴射量Qmとする(S12,S14-S16)。プレ単独補正下限Qpsmin以下であれば、補正後プレ噴射量Qpmodを算出する(S12,S18)。プレ噴射量下限Qpminより大きければ、補正後メイン噴射量Qmmodを算出する(S20,S22)。プレ噴射量下限Qpmin以下であれば、補正後プレ噴射量Qpmodをプレ噴射量下限Qpminとし、プレ噴射への配分割合ratioと補正後メイン噴射量Qmmodを算出する(S20,S24-S26)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の燃料噴射制御装置に係り、特に、筒内ポスト噴射に伴うトルク増加の補正を行う技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ディーゼルエンジンでは、エンジンの運転状態に応じて燃料噴射弁からの燃料噴射時期及び燃料噴射量を調整する燃料噴射制御が行われている。また、ディーゼルエンジンの排気系には、エンジンからの排気に含まれる微粒子状物質(PM)を捕集するディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)や、炭化水素(THC)、窒素酸化物(NOx)を捕集或いは酸化還元する酸化触媒(DOC)、NOxトラップ触媒(NTC)等が備えられている。そして、これらの酸化触媒及びNOxトラップ触媒が、高い浄化率を得るためには触媒を所定の活性温度以上に昇温する必要がある。触媒が活性温度よりも低温である状態では触媒の浄化率が極めて低くなり、排気浄化機能が十分に発揮されないこととなる。さらに、NOxトラップ触媒での排気浄化機能の発揮においては触媒上或いは周辺部を還元雰囲気とすることも求められる。
【0003】
そこで、エンジンの膨張行程後期から排気行程において燃料噴射弁より燃料を噴射する所謂ポスト噴射を行い、排気系に未燃燃料を供給して酸化触媒やNOxトラップ触媒の触媒上或いは周辺部で未燃燃料を燃焼させ、触媒を活性温度以上に昇温させるとともに還元雰囲気を作り出す燃料噴射制御が知られている。
しかしながら、例えばエンジンの冷間始動直後のように排気系に存在する熱エネルギが少ないような場合には、酸化触媒やNOxトラップ触媒の触媒上或いは周辺部で未燃燃料を十分に燃焼させることができないことがある。
【0004】
そこで、未燃燃料の着火性を向上させる手法として、例えばポスト噴射の以前に噴射されるメイン噴射での燃料噴射量を増量し、燃焼室内から排出される排気の温度を上昇させて排気系を酸化触媒やNOxトラップ触媒の触媒上或いは周辺部で未燃燃料を燃焼可能な温度としている。
しかしながら、メイン噴射での噴射量は、エンジンの出力トルクに大きく影響を及ぼすため、このようにメイン噴射での燃料噴射量を増量すると、エンジンのトルクが増大し、ドライバビリティが悪化することとなる。
【0005】
このようなことから、噴射された燃料の燃焼エネルギがエンジントルクに変換されることなく、大部分が排気の熱エネルギとして得られるようメイン噴射の実行後にポスト噴射に先行して燃料を噴射し燃焼させるエキゾーストヒート噴射を実施し、エキゾーストヒート噴射がエンジントルクに変換されるような場合には、同行程のメイン噴射の噴射量を減量することで、エンジントルクの増大を抑制しつつ、排気系を昇温させる技術が開発されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第WO2009/090941 A1号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本願発明者の実験によると、図7に示すように、ポスト噴射なし(図中黒塗り記号)に対して膨張行程後期に燃料を噴射するポスト噴射を行うことでも(白抜き記号)、プレ噴射或いはメイン噴射の熱発生量が増加することが確認された。これは、特許文献1で示されたエキゾーストヒート噴射が主噴射の熱エネルギにより同一サイクル内で着火・燃焼することによるエンジントルクへの変換とは異なる理由によるものである。即ち、膨張行程後期で噴射されるポスト噴射を行うと噴射された燃料の全てが排気行程で排出されず、燃料の一部が筒内に残存し次行程に持ち越され次行程のメイン噴射以前のプレ噴射或いはメイン噴射で燃焼される持ち越し燃料の発生が確認された。
【0008】
このように、持ち越し燃料の発生は、次行程のプレ噴射及びメイン噴射の熱発生量を増加させ、熱発生量の増加はエンジンのトルクの上昇や燃焼音の増加に繋がり、ポスト噴射の有無でトルク変化が発生しドライバビリティを悪化させるとともに騒音を増大させることとなる。
本発明は、この様な問題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、触媒での排気浄化を良好に行いつつ、ドライバビリティや騒音の悪化を防止することのできる内燃機関の燃料噴射制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、請求項1の内燃機関の燃料噴射制御装置では、排気浄化手段を有する圧縮自己着火式内燃機関の1サイクル中に、燃料噴射手段からプレ噴射、前記プレ噴射よりも噴射量の多いメイン噴射及び排気系に未燃燃料を供給するポスト噴射を含む複数回の燃料噴射を順に実施可能な内燃機関の燃料噴射制御装置において、前記ポスト噴射量に基づき、前記ポスト噴射の次行程への持ち越し燃料によるトルク増加量を算出し、前記トルク増加量に基づき少なくとも次行程の前記プレ噴射量を補正するトルク補正手段を備えることを特徴とする。
【0010】
また、請求項2の内燃機関の燃料噴射制御装置では、請求項1において、前記トルク補正手段は、前記ポスト噴射量より算出される前記トルク増加量に基づいて、前記持ち越し燃料の全てが前記プレ噴射により噴射された燃料の燃焼時に燃焼可能である場合には、前記トルク増加量に応じて前記プレ噴射量を補正することを特徴とする。
また、請求項3の内燃機関の燃料噴射制御装置では、請求項1或いは2において、前記トルク補正手段は、前記トルク増加量に基づき次行程の前記プレ噴射量と前記メイン噴射量とを補正可能であって、前記ポスト噴射量より算出される前記トルク増加量に基づいて、前記持ち越し燃料の全てが前記プレ噴射により噴射された燃料の燃焼時に燃焼不可能である場合には前記プレ噴射量に加え前記メイン噴射量の補正を行うことを特徴とする。
【0011】
また、請求項4の内燃機関の燃料噴射制御装置では、請求項1乃至3のいずれか1項において、前記トルク補正手段は、前記トルク増加量に基づき次行程の前記プレ噴射量と前記メイン噴射量とを補正可能であって、噴射量補正後の前記プレ噴射により噴射された燃料が燃焼可能である場合には前記プレ噴射量の補正によるトルク補正量をメイン噴射量の補正によるトルク補正量以上とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、ポスト噴射量に基づき、ポスト噴射の次行程への持ち越し燃料によるトルク増加量を算出し、当該トルク増加量に基づき持ち越し燃料の影響が表れ易い次行程のプレ噴射量を補正するようにしているので、持ち越し燃料によるトルク増加量に基づきプレ噴射量を補正して、プレ噴射で発生するトルクを減少させ、ポスト噴射の持ち越し燃料によるトルク増加を抑制させることができる。これにより、ポスト噴射による排気浄化手段の制御を行い排気浄化を良好に行いつつ、持ち越し燃料でのトルク増加によるドライバビリティや騒音の悪化を防止することができる。
【0013】
また、請求項2の発明によれば、ポスト噴射量より算出されるトルク増加量に基づいて、持ち越し燃料の全てがプレ噴射の期間中に燃焼可能である場合にはプレ噴射量のみ補正を行うようにしている。
このように、持ち越し燃料の全てがプレ噴射の燃焼期間中に燃焼可能である場合にトルク変化への寄与度が大きいプレ噴射を補正することで、例えば持ち越し燃料によるトルク増加に対して少ない噴射量の補正量で対応することができる。
【0014】
また、請求項3の発明によれば、持ち越し燃料の全てがプレ噴射の期間中に燃焼不可能である場合にプレ噴射量に加えメイン噴射量を補正することで、プレ噴射量を確保してプレ噴射の燃焼を確実に行うことが可能となり、メイン噴射の着火遅れを抑制することができる。よって、メイン噴射の着火遅れにより燃焼が急激に行われることに伴う燃焼音の悪化を防止することができる。
【0015】
また、請求項4の発明によれば、噴射量補正後のプレ噴射により噴射された燃料が燃焼可能である場合にはプレ噴射量の補正によるトルク補正量をメイン噴射量の補正によるトルク補正量以上としており、プレ燃焼が成立する範囲においてなるべくトルク補正への影響が大きなプレ噴射量の補正量を大きくすることで、同じトルク増加量に対する補正であっても噴射量の補正量を小さくすることができるので噴射量の制御を容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る内燃機関の燃料噴射制御装置が適用されたエンジンの概略構成図である。
【図2】ECUが実行する燃料噴射制御のフローチャートである。
【図3】ポスト噴射量とトルク増加量の関係を示す図である。
【図4】トルク増加量とプレ噴射補正量の関係を示す図である。
【図5】トルク増加量とメイン噴射量補正量の関係を示す図である。
【図6】トルク補正後のプレ噴射量での各噴射への配分割合を示す図である。
【図7】プレ噴射量と各噴射での熱発生量の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
図1は、内燃機関の燃料噴射制御装置が適用されたエンジンの概略構成図である。
図1に示すように、エンジン(内燃機関)1は、多気筒の筒内直接噴射式内燃機関(例えばコモンレール式ディーゼルエンジン)であり、詳しくは、コモンレールに蓄圧された高圧燃料を各気筒の燃料噴射ノズル(燃料噴射手段)2に供給し、任意の噴射時期及び噴射量で当該燃料噴射ノズル2から各気筒の燃焼室3内に噴射可能な構成を成している。
【0018】
エンジン1の各気筒には、上下摺動可能なピストン4が設けられている。そして、当該ピストン4は、コンロッド5を介してクランクシャフト6に連結されている。また、クランクシャフト6の一端部には回転速度を検出するクランク角センサ7と図示しないフライホイールが設けられている。
燃焼室3には、インテークポート8とエキゾーストポート9とが連通されている。
【0019】
インテークポート8には、燃焼室3と当該インテークポート8との連通と遮断を行うインテークバルブ10が設けられている。また、エキゾーストポート9には、燃焼室3と当該エキゾーストポート9との連通と遮断とを行うエキゾーストバルブ11が設けられている。
インテークポート8の上流には、最上流から吸入された新気中のゴミを取り除くエアークリーナ12、排気のエネルギを利用し吸入された新気を圧縮するターボチャージャ13の図示しないコンプレッサハウジングと、圧縮され高温となった新気を冷却するインタークーラ14と、新気の流量を調整する電子制御スロットルバルブ15と、吸入した空気を各気筒に分配するインテークマニフォールド16とがそれぞれ連通するように設けられている。また、電子制御スロットルバルブ15には、スロットルバルブの開き度合を検出するスロットルポジションセンサ17が備えられている。
【0020】
エアークリーナ12の下流でありターボチャージャ13のコンプレッサハウジングの上流には、燃焼室3に吸入される新気の量を検出するエアーフローセンサ18が通路内に突出するように設けられている。また、燃焼室3に吸入される吸入空気の圧力を検出するブーストセンサ19と、該吸入空気の温度を検出する吸気温度センサ20とがインテークマニフォールド16内に突出するように設けられている。
【0021】
エキゾーストポート9の下流には、各気筒から排出される排気をまとめるエキゾーストマニフォールド21と、ターボチャージャ13に排気を導入する図示しないタービンハウジングと、排気管22とが連通するように設けられている。
排気管22には、上流から順番に排気中の炭化水素(THC)或いは一酸化炭素(CO)等の被酸化成分を酸化する酸化触媒(排気浄化手段)23と、排気中の窒素酸化物(NOx)を吸蔵還元するNOxトラップ触媒(排気浄化手段)24と、排気中の黒鉛を主成分とする微粒子状物資(PM)を捕集し燃焼させるディーゼルパティキュレートフィルタ(排気浄化手段)25とが連通するように設けられている。
【0022】
NOxトラップ触媒24は、排気中のNOxを一時的に吸蔵し、排気をリッチ空燃比とするNOxパージ処理を行うことで吸蔵したNOxを還元してNOxを浄化する。さらに、NOxトラップ触媒24は、排気中の硫黄分(S)を吸着し、NOxの浄化性能が悪化することから、排気をリッチ空燃比として吸着した硫黄分を脱離するSパージ処理を行う必要がある。また、ディーゼルパティキュレートフィルタ25は、リッチ空燃比とした排気を酸化触媒23で酸化し高温の排気として、当該高温の排気を流入させることで堆積したPMを燃焼除去するPM燃焼処理を行うことでPMによる詰まりを解消する。
【0023】
排気管22のターボチャージャ13の下流にあたり、排気の温度を検出する排気温度センサ26が排気管22内に突出するように設けられている。
排気管22のNOxトラップ触媒24の下流でありディーゼルパティキュレートフィルタ25の上流には、排気中の酸素比率である酸素濃度を検出するA/Fセンサ27が通路内に突出するように設けられている。
【0024】
インテークマニフォールド16とエキゾーストマニフォールド21には、それぞれが連通するように排気の一部を吸気へ戻すEGR通路28が設けられている。また、EGR通路28には、排気が吸気に戻る量、即ちEGR量を調整するEGRバルブ29と、吸気へ戻す排気を冷やすEGRクーラ30とが設けられている。
そして、燃料噴射ノズル2、クランク角センサ7、スロットルポジションセンサ17、エアーフローセンサ18、ブーストセンサ19、吸気温度センサ20、排気温度センサ26、A/Fセンサ27及びEGRバルブ29等の各種装置や各種センサ類は、エンジン1の総合的な制御を行うための制御装置であって入出力装置、記憶装置(ROM、RAM、不揮発性RAM等)、タイマ及び中央演算処理装置(CPU)等を含んで構成される電子コントロールユニット(ECU)(トルク補正手段)40と電気的に接続されており、当該ECU40は各種センサ類からの各情報に基づき各種装置を作動制御する。
【0025】
ECU40の入力側には、クランク角センサ7、スロットルポジションセンサ17、エアーフローセンサ18、ブーストセンサ19、吸気温度センサ20、排気温度センサ26及びA/Fセンサ27等のセンサ類が電気的に接続されており、これら各種装置及び各種センサ類からの検出情報が入力される。
一方、ECU40の出力側には、燃料噴射ノズル2及びEGRバルブ29が電気的に接続されている。
【0026】
これより、ECU40は、各センサの検出値に基づき、燃料噴射ノズル2からのプレ噴射、メイン噴射及びアフタ噴射の燃料噴射量及び噴射時期及びEGRバルブ29の開度を最適に制御する。また、ECU40は、各センサの検出値に基づき、車両の運転状況を判別し排気中の硫黄分或いはNOxのNOxトラップ触媒24への吸着量、或いはディーゼルパティキュレートフィルタ25に堆積したPMの堆積量を判別して、硫黄或いはNOxのパージ処理或いはPMの燃焼処理を行うべく排気をリッチ空燃比とするために膨張行程後期に燃料を燃焼室3に噴射するポスト噴射を制御する。
【0027】
次にECU40での燃料噴射制御について説明する。
図2は、ECU40が実行する燃料噴射制御のフローチャートである。また、図3は、ポスト噴射量とトルク増加量の関係を示す図であり、横軸はポスト噴射量を、縦軸はトルク増加量ΔTを示す。図4は、トルク増加量とプレ補正量の関係を示す図であり、横軸はトルク増加量ΔTを、縦軸はプレ補正量、詳しくは次行程のプレ噴射での噴射量の補正量を示す。図5は、トルク増加量とメイン補正量の関係を示す図であり、横軸はトルク増加量ΔTを、縦軸はメイン補正量、詳しくは次行程のメイン噴射での噴射量の補正量を示す。また、図3、4及び5は、それぞれ予め試験等で確認されECU40に記憶されている。図6は、補正後のプレ噴射量での各噴射への配分割合を示す図であり、横軸は補正後プレ噴射量Qpmodを、縦軸は上段がプレ噴射への配分割合ratioを、下段がメイン噴射への配分割合(1-ratio)を示す。図中のプレ噴射量下限Qpminは安定したプレ燃焼を行うことのできる下限のプレ噴射量を、プレ単独補正下限Qpsminはポスト噴射の持ち越し燃料をプレ噴射の期間中に燃えきることのできる下限のプレ噴射量を示す。また、図6は、予め試験にて図7のようなプレ噴射量変化によるプレ噴射及びメイン噴射での熱発生量より設定されるものである。
【0028】
図2に示すルーチンは、NOxパージ処理、Sパージ処理或いはPM燃焼処理時のポスト噴射の実施毎に行われる。
図2に示すように、ステップS10では、プレ噴射への配分割合ratioを1.0と仮定し下記式(1)にプレ噴射への配分割合ratioに1.0を代入して、補正後プレ噴射量Qpmodを算出する。そして、ステップS12に進む。
【0029】
Qpmod=Qp−ΔT×ratio/ΔTqp・・・・・・・・・・(1)
Qpmod:補正後プレ噴射量
Qp:補正前プレ噴射量
ΔT:ポスト噴射の持ち越し燃料によるトルク増加量(ポスト噴射量に基づいて図3を用いて求められる。)
ΔTqp:プレ補正量単位当たりのトルク増加量(図4中の傾きの逆数に相当し、あらかじめ算出される。)
ステップS12では、ステップS10で算出された補正後プレ噴射量Qpmodがプレ単独補正下限Qpsminより大きいか、否かを判別する。判別結果が真(Yes)で補正後プレ噴射量Qpmodがプレ単独補正下限Qpsminより大きければ、補正後プレ噴射量Qpmodでポスト噴射の持ち越し燃料をプレ噴射の期間中に燃えきることができる図4(I)の範囲であるとして、ステップS14に進む。判別結果が否(No)で補正後プレ噴射量Qpmodがプレ単独補正下限Qpsmin以下であれば、補正後プレ噴射量Qpmodでポスト噴射の持ち越し燃料をプレ噴射の期間中に燃えきることのできない、即ちポスト噴射の持ち越し燃料をメイン噴射の期間まで持ち越してしまう図4(II)或いは(III)の範囲であるとして、ステップS18に進む。
【0030】
ステップS14では、プレ噴射への配分割合ratioを1.0とする。そして、ステップS16に進む。
ステップS16では、ポスト噴射の持ち越し燃料をプレ噴射の期間中で燃えきることができるとして、補正後メイン噴射量Qmmodを補正前メイン噴射量Qmとする。即ち、メイン噴射量Qmは補正しない。そして、本ルーチンをリターンする。
【0031】
また、ステップS18では、上記式(1)と下記式(2)より補正後プレ噴射量Qpmodを算出する。そして、ステップS20に進む。
ratio=Qpmod×α+β・・・・・・・・・・(2)
α:図4の範囲(II)の傾き(定数)
β:図4の範囲(II)の切片(定数)
ステップS20では、ステップS18で算出された補正後プレ噴射量Qpmodがプレ噴射量下限Qpminより大きいか、否かを判別する。判別結果が真(Yes)で補正後プレ噴射量Qpmodがプレ噴射量下限Qpminより大きければ、図4(II)の範囲であるとして、ステップS22に進む。判別結果が否(No)で補正後プレ噴射量Qpmodがプレ噴射量下限Qpmin以下であれば、図4(III)の範囲であるとして、ステップS24に進む。
【0032】
ステップS22では、上記式(2)よりプレ噴射への配分割合ratioを算出し、当該プレ噴射への配分割合ratioとステップS18にて算出した補正後プレ噴射量Qpmodと下記式(3)より補正後メイン噴射量Qmmodを算出する。そして、本ルーチンをリターンする。
Qmmod=Qm−ΔT×(1-ratio)/ΔTqm・・・・・・・・・・(3)
Qmmod:補正後メイン噴射量
Qm:補正前メイン噴射量
ΔTqm:メイン補正量単位当たりのトルク増加量(図5中の傾きの逆数に相当し、あらかじめ算出される。)
ステップS24では、補正後プレ噴射量Qpmodをプレ噴射量下限Qpminとする。そして、ステップS26に進む。
【0033】
ステップS26では、下記式(4)よりプレ噴射への配分割合ratioを算出する。そして、算出されたプレ噴射への配分割合ratioと上記式(3)より補正後メイン噴射量Qmmodを算出する。そして、本ルーチンをリターンする。
ratio=(Qp−Qpmod)×ΔTqm/ΔT・・・・・・・・・・(4)
このように本発明の内燃機関の燃料噴射制御では、予め試験等で確認されたポスト噴射量とトルク増加量ΔTとの関係より、ポスト噴射の次行程への燃料の持ち越しによるトルク増加量ΔTを算出する。そして式(1)にプレ噴射への配分割合ratio=1.0としてエンジン1より出力されるトルクを一定に保つための補正後プレ噴射量Qpmodを算出する。補正後プレ噴射量Qpmodがプレ単独補正下限Qpsminより大きければ、ポスト噴射の持ち越し燃料が補正後プレ噴射量Qpmodでプレ噴射の期間中に燃えきることができるとして、補正後プレ噴射量Qpmodを次行程でのプレ噴射量とする。また、補正後プレ噴射量Qpmodがプレ単独補正下限Qpsmin以下でポスト噴射の持ち越し燃料を補正後プレ噴射量Qpmodでプレ噴射の期間中に燃えきることができないとして、式(1)と式(2)より再度補正後プレ噴射量Qpmodを算出する。再度補正後プレ噴射量Qpmodがプレ噴射量下限Qpminより大ければ、式(3)より補正後メイン噴射量Qmmodを算出し、再度算出した補正後プレ噴射量Qpmodと算出した補正後メイン噴射量Qmmodを次行程のプレ噴射量とメイン噴射量とする。また、再度補正後プレ噴射量Qpmodがプレ噴射量下限Qpmin以下であれば、式(4)よりプレ噴射への配分割合ratioを算出して、補正後メイン噴射量Qmmodを算出し、プレ噴射量下限Qpminと算出した補正後メイン噴射量Qmmodを次行程のメイン噴射量とする。そして、次行程のプレ噴射量は、安定したプレ燃料を行うことのできるプレ噴射量下限Qpminとしている。
【0034】
即ち、ポスト噴射の持ち越し燃料よりトルク増加量を算出し、補正後プレ噴射量Qpmodがプレ単独補正下限Qpsminより大きく、持ち越し燃料が補正後プレ噴射量Qpmodでプレ噴射の期間中に全て燃え切ることができれば、プレ噴射量のみトルク補正を行う。また、持ち越し燃料が補正後プレ噴射量Qpmodでプレ噴射の期間中に全て燃え切ることができず、補正後プレ噴射量Qpmodがプレ噴射の燃焼が不安定となるプレ噴射量下限Qpmin以下であれば、プレ噴射量をプレ噴射量下限Qpminとし、プレ噴射量に基づきメイン噴射量のトルク補正を行う。また、補正後プレ噴射量Qpmodがプレ単独補正下限Qpsminとプレ噴射量下限Qpminとの範囲内にあれば、図6に基づきプレ噴射量とメイン噴射量のトルク補正を行うようにしている。
【0035】
従って、ポスト噴射量に基づき、ポスト噴射の次行程への持ち越し燃料によるトルク増加量を算出し、当該トルク増加量に基づき次行程のプレ噴射量とメイン噴射量とを補正するようにしており、持ち越し燃料によるトルク増加量でプレ噴射量とメイン噴射量とを補正することでプレ噴射とメイン噴射とで発生するトルクを減少させて、ポスト噴射の持ち越し燃料によるトルク増加を補正する。このようにポスト噴射の持ち越し燃料によるトルク増加量に基づいてプレ噴射量とメイン噴射量を補正した上で、ポスト噴射によるNOxパージ処理、Sパージ処理或いはPM燃焼処理を行うことで、NOxトラップ触媒24或いはディーゼルパティキュレートフィルタ25での排気浄化を良好に行いつつ、持ち越し燃料でのトルク増加によるドライバビリティや騒音の悪化を防止することができる。
【0036】
また、本実施形態では、ポスト噴射量より算出されるトルク増加量に基づいて、持ち越し燃料の全てがプレ噴射の期間中に燃焼可能であるか、またプレ噴射量がプレ噴射の燃焼が不安定とならないかを判別し、持ち越し燃料の全てがプレ噴射の期間中に燃焼可能である場合には、トルク変化への寄与度が大きいプレ噴射を優先的に補正するようにしている。これにより、例えば持ち越し燃料によるトルク増加に対して少ない噴射量の補正量で対応することができる。
【0037】
また、持ち越し燃料の全てがプレ噴射の期間中に燃焼不可能である場合にプレ噴射量に加えメイン噴射量を補正するようにしているので、プレ噴射の燃焼が微弱とならないようにプレ噴射量を確保することができる。よって、プレ噴射の燃焼が確実に行われ、メイン噴射の着火遅れを抑制することが可能となり、メイン噴射の着火遅れによる急激な燃焼に伴う燃焼音の悪化を防止することができる。
【0038】
以上で発明の実施形態の説明を終えるが、発明の形態は本実施形態に限定されるものではない。
例えば、図3、4及び5では、噴射量とトルク増加量を比例関係で表しているが、これに限定されるものではなく、例えば他の関数あるいはマップ等により噴射量とトルク増加量の関係を定義してもよい。
【0039】
また、例えば、本実施形態では、持ち越し燃料の全てをプレ噴射の期間中に燃焼が可能である場合には、図4(I)のようにプレ噴射のみを補正するようにしているが、これに限定されるものではなく、例えば、プレ噴射の補正量によるトルク補正量がメイン噴射の補正量によるトルク補正量以上となるように、プレ噴射とメイン噴射との双方を補正するようにしてもよい。このように、トルク増加への影響が大きなプレ噴射量の補正量を大きくすることで、同じトルク増加量に対する補正であっても噴射量の補正量を小さくすることができるので噴射量の制御を容易にすることができる。
【符号の説明】
【0040】
1 エンジン(内燃機関)
2 燃料噴射ノズル(燃料噴射手段)
23 酸化触媒(排気浄化手段)
24 NOxトラップ触媒(排気浄化手段)
25 ディーゼルパティキュレートフィルタ
40 ECU(トルク補正手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気浄化手段を有する圧縮自己着火式内燃機関の1サイクル中に、燃料噴射手段からプレ噴射、前記プレ噴射よりも噴射量の多いメイン噴射及び排気系に未燃燃料を供給するポスト噴射を含む複数回の燃料噴射を順に実施可能な内燃機関の燃料噴射制御装置において、
前記ポスト噴射量に基づき、前記ポスト噴射の次行程への持ち越し燃料によるトルク増加量を算出し、前記トルク増加量に基づき少なくとも次行程の前記プレ噴射量を補正するトルク補正手段を備えることを特徴とする内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項2】
前記トルク補正手段は、前記ポスト噴射量より算出される前記トルク増加量に基づいて、前記持ち越し燃料の全てが前記プレ噴射により噴射された燃料の燃焼時に燃焼可能である場合には、前記トルク増加量に応じて前記プレ噴射量を補正することを特徴とする、請求項1に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項3】
前記トルク補正手段は、前記トルク増加量に基づき次行程の前記プレ噴射量と前記メイン噴射量とを補正可能であって、前記ポスト噴射量より算出される前記トルク増加量に基づいて、前記持ち越し燃料の全てが前記プレ噴射により噴射された燃料の燃焼時に燃焼不可能である場合には前記プレ噴射量に加え前記メイン噴射量の補正を行うことを特徴とする、請求項1或いは2に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
【請求項4】
前記トルク補正手段は、前記トルク増加量に基づき次行程の前記プレ噴射量と前記メイン噴射量とを補正可能であって、噴射量補正後の前記プレ噴射により噴射された燃料が燃焼可能である場合には前記プレ噴射量の補正によるトルク補正量をメイン噴射量の補正によるトルク補正量以上とすることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−96359(P2013−96359A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242110(P2011−242110)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】