説明

内燃機関の燃料噴射装置

【課題】内燃機関の燃料噴射装置に関し、燃料の燃焼反応を効果的に向上する。
【解決手段】インジェクタIのノズルボディ30内に針弁33が軸方向に移動可能に収容され、コモンレールからノズルボディ30内に供給された高圧燃料が、針弁33の軸方向への移動によりノズルボディ30の先端側に形成された噴孔31から噴射される内燃機関の燃料噴射装置であって、ノズルボディ30の先端部に電圧を印加する高圧電源装置10と、高圧燃料の噴射に同期させてノズルボディ30の先端部に電圧が印加されるように高圧電源装置10を制御するコントロールユニット20とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の燃料噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、コモンレールに畜圧した高圧燃料をインジェクタのノズル室及び、針弁の背圧を発生させる圧力制御室に供給し、電磁弁を用いて圧力制御室の圧力を増減することで、燃料の噴射と停止とを切替える燃料噴射装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。このような燃料噴射装置においては、噴射された燃料は燃焼室内の高温・高圧の空気と混合することで燃焼される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−186646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に開示された燃料噴射装置では、燃料が噴射される噴孔の面積を可変とすることで、エンジン燃焼に適した噴霧パターンの形成を可能としている。しかしながら、このような噴孔面積の変更による噴霧パターンの調整は、噴射された燃料の燃焼反応を間接的に制御するものであり、燃焼反応を効果的に促進させる上では自由度が低いとも考えられる。
【0005】
本発明はこのような点に鑑みてなされたもので、その目的は、噴孔内で燃料に形成されるキャビテーション気泡に電力を供給し、炭化水素分子の分解及び、活性化学種の生成を促進することで、燃料の燃焼反応を効果的に向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の目的を達成するため、本発明の内燃機関の燃料噴射装置は、インジェクタのノズルボディ内に針弁が軸方向に移動可能に収容され、高圧燃料供給手段から前記ノズルボディ内に供給された高圧燃料が、前記針弁の軸方向への移動により前記ノズルボディの先端側に形成された噴孔から噴射される内燃機関の燃料噴射装置であって、前記ノズルボディの先端部に電圧を印加して、前記噴孔の内壁周りに電界を形成する電圧印加手段と、高圧燃料の噴射に同期させて前記ノズルボディの先端部に電圧が印加されるように前記電圧印加手段を制御する制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0007】
また、前記ノズルボディの中間部に、前記ノズルボディの先端部を電気的に絶縁する絶縁体を設けてもよい。
【0008】
また、前記ノズルボディ内に供給される高圧燃料の燃料圧力を検出する燃料圧力センサをさらに備え、前記制御手段は、前記燃料圧力センサの検出値が、前記噴孔を通過する高圧燃料にキャビテーションが生じる所定の燃料圧力に達した場合にのみ、高圧燃料の噴射に同期させて前記ノズルボディの先端部に電圧が印加されるように前記電圧印加手段を制御してもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の内燃機関の燃料噴射装置によれば、噴孔内で燃料に形成されるキャビテーション気泡に電力を供給し、炭化水素分子の分解及び、活性化学種の生成を促進することで、燃料の燃焼反応を効果的に向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に係る内燃機関の燃料噴射装置の全体構成を示す模式的な部分断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る内燃機関の燃料噴射装置において、噴孔内にキャビテーション気泡が生じた状態を示す模式的な図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図1、2に基づいて、本発明の一実施形態に係る内燃機関の燃料噴射装置について説明する。同一の部品には同一の符号を付してあり、それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0012】
本実施形態の燃料噴射装置は、内燃機関としての図示しないディーゼルエンジン(以下、単にエンジンという)に適用されるもので、図1に示すように、燃焼室内に燃料を噴射するインジェクタIと、電圧を印加する電圧印加手段としての高圧電源装置10と、制御手段としてのコントロールユニット20と、燃料圧力センサ21とを備えている。
【0013】
インジェクタIは、先端側に噴孔31が形成された中空状のノズルボディ30と、ノズルボディ30の中空部32内に軸方向に移動可能に収容された針弁33とを備え構成されている。また、ノズルボディ30の中間部には、ノズルボディ30の先端部をノズルボディ30の上部及びシリンダヘッドCHから電気的に絶縁する絶縁体34が環状に介装されている。この絶縁体34は、例えばセラミックス等の絶縁材料で形成されている。
【0014】
ノズルボディ30の中空部32の下部には、噴孔31を介してエンジンの燃焼室と連通するノズル室35が形成され、このノズル室35の内側壁には後述する弁本体44の円錐面が着座するシート面36が設けられている。また、中空部32の上部には圧力制御室37が形成され、これら圧力制御室37およびノズル室35には供給油路38を介して高圧燃料供給手段としてのコモンレール(不図示)から高圧燃料が導入される。さらに、圧力制御室37には、圧力制御室37の高圧燃料を排出するための排出路39が接続され、圧力制御室37の上方には排出路39を開閉するための電磁弁40が設けられている。
【0015】
針弁33は、略円柱状に形成されており、圧力制御室37内の高圧燃料から下向きの圧力を受けるサーボピストン41と、ノズル室35内の高圧燃料から上向きの圧力を受けると共に、スプリング42から下向きの付勢力を受けるノズルピストン43とを有する。また、ノズルピストン43の下部には、シート面36に着座する円錐面を有する弁本体44が接続されている。
【0016】
すなわち、電磁弁40が排出路39を閉鎖して、圧力制御室37及びスプリング42による下向きの力がノズル室35による上向きの力よりも大きくなると、針弁33は下方に移動するように構成されている。このように、針弁33が下方に移動すると、弁本体44の円錐面がシート面36に着座して噴孔31は閉塞される。一方、電磁弁40が排出路39を開放して、圧力制御室37及びスプリング42による下向きの力がノズル室35による上向きの力よりも小さくなると、針弁33は上方に移動する。このように、針弁33が上昇して弁本体44の円錐面がシート面36から離間すると、噴孔31は開放されて噴孔31から高圧燃料が噴射されるように構成されている。
【0017】
燃料圧力センサ21は、燃料の噴射圧力に相当するコモンレール(不図示)に畜圧された燃料圧力を検出するもので、電気配線を介してコントロールユニット20に接続されている。
【0018】
高圧電源装置10は、電界形成電極としてのノズルボディ30の先端部と、接地電極としての接地点11とに電気的に接続されている。この高圧電源装置10によりノズルボディ30の先端部と接地点11との間に所定周波数の交流電圧が印加されると、噴孔31の内壁周りに電界が形成されるように構成されている。なお、図示の関係で特に示されてはいないが、接地点11は針弁33に設けられた接地電位を有する電極やシリンダヘッドCHに設けられた接地電位を有する電極で構成することができる。
【0019】
コントロールユニット20は、運転状態に応じて燃料噴射量や燃料噴射時期等の各種制御を行うもので、公知のCPUやROM、RAM、入力ポート、出力ポート等を備え構成されている。この各種制御を行うために、コントロールユニット20には、何れも図示しないエンジン回転センサやアクセル開度センサ等の出力信号がA/D変換された後に入力される。
【0020】
また、コントロールユニット20は、高圧電源装置10と電気的に接続されており、高圧電源装置10による交流電圧の印加を制御する。具体的には、インジェクタIによる燃料噴射と同期してノズルボディ30の先端部と接地点11との間に所定周波数の交流電圧が印加されるように、インジェクタIの電磁弁40への通電と同時に高圧電源装置10に作動信号を出力するように構成されている。なお、印加される交流電圧の周波数は、例えば実験等で作成した高圧燃料の燃料圧力と印加されるべき交流電圧の周波数との関係を示すマップ(不図示)を予めコントロールユニット20に記憶させておき、このマップと燃料圧力センサ21の検出値とに基づいて決定してもよい。また、噴孔31内にキャビテーション気泡が生じる所定の燃料圧力を実験等で予め求めておき、燃料圧力センサ21の検出値がこのキャビテーション気泡が生じる所定の燃料圧力に達した場合にのみ、高圧電源装置10による電圧の印加が行われるように構成してもよい。
【0021】
次に、本実施形態に係る内燃機関の燃料噴射装置による作用について説明する。
【0022】
電磁弁40が通電されて排出路39を開放すると、針弁33の上方への移動に伴い噴孔31が開放されて、ノズル室35内の高圧燃料は噴孔31から燃焼室へと噴射される。このように、噴孔31が開放される燃料の噴射期間中においては、高圧燃料の噴孔31への流れ込みにより、噴孔31の内壁面には高速流に伴うキャビテーション気泡が生じる(図2参照)。
【0023】
ここで、本実施形態の内燃機関の燃料噴射装置によれば、燃料の噴射期間中、すなわち電磁弁40への通電と同時に、高圧電源装置10により電界形成電極としてのノズルボディ30の先端部と接地電極としての接地点11との間に所定周波数の交流電圧が印加される。すなわち、噴孔31の内壁周りに電界が形成され、キャビテーション気泡内に電力が供給されることになる。このように、キャビテーション気泡内に電力が供給されると、気泡内は液体中に比べて密度が低く衝突頻度も低いため、電子は衝突によるエネルギー損失を受けることなく、電界により効果的に加速される。そして、高速の電子は、気泡内の燃料分子を分解してイオン化することで増加され、活性化学種を生成すると共に、生成された活性化学種は気泡の崩壊に伴って燃焼室内に放出されることになる。
【0024】
したがって、噴孔31のキャビテーション気泡内に電力を供給して、このキャビテーション気泡内にプラズマが生成されることで、炭化水素分子の分解及び、活性化学種の生成を促進することが可能となり、燃料の燃焼反応を効果的に向上することができる。
【0025】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変形して実施することが可能である。
【0026】
例えば、上述の実施形態において、高圧電源装置10は所定周波数の交流電圧を印加するものとして説明したが、直流電圧やパルス電圧を印加するものであってもよい。
【0027】
また、本実施形態の内燃機関の燃料噴射装置は、ディーゼルエンジンに適用されるものとして説明したが、例えばガソリンエンジン等の他の内燃機関にも広く適用することが可能である。
【符号の説明】
【0028】
10 高圧電源装置(電圧印加手段)
20 コントロールユニット(制御手段)
21 燃料圧力センサ
30 ノズルボディ
31 噴孔
33 針弁
34 絶縁体
I インジェクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インジェクタのノズルボディ内に針弁が軸方向に移動可能に収容され、高圧燃料供給手段から前記ノズルボディ内に供給された高圧燃料が、前記針弁の軸方向への移動により前記ノズルボディの先端側に形成された噴孔から噴射される内燃機関の燃料噴射装置であって、
前記ノズルボディの先端部に電圧を印加して、前記噴孔の内壁周りに電界を形成する電圧印加手段と、
高圧燃料の噴射に同期させて前記ノズルボディの先端部に電圧が印加されるように前記電圧印加手段を制御する制御手段と、を備えた
ことを特徴とする内燃機関の燃料噴射装置。
【請求項2】
前記ノズルボディの中間部に、前記ノズルボディの先端部を電気的に絶縁する絶縁体を設けた請求項1に記載の内燃機関の燃料噴射装置。
【請求項3】
前記ノズルボディ内に供給される高圧燃料の燃料圧力を検出する燃料圧力センサをさらに備え、
前記制御手段は、前記燃料圧力センサの検出値が、前記噴孔を通過する高圧燃料にキャビテーションが生じる所定の燃料圧力に達した場合にのみ、高圧燃料の噴射に同期させて前記ノズルボディの先端部に電圧が印加されるように前記電圧印加手段を制御する請求項1又は2に記載の内燃機関の燃料噴射装置。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2013−50085(P2013−50085A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188965(P2011−188965)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】