説明

内燃機関及びそのピストン上死点位置の調整方法

【課題】圧縮比のバラツキを容易に調整する。
【解決手段】内燃機関1の複リンク式のピストンクランク機構2は、偏心軸部9に圧入された筒状の偏心スリーブ21を有している。そして、所定の負荷に対応する圧縮比範囲内において、コントロールリンク7とロアリンク6を連結する第2連結ピン17の中心と偏心軸部9の中心C1とを結ぶ直線L2に対して、偏心スリーブ21の偏心方向が垂直となるように設定されている。これによって、ピストン上死点位置調整量を偏心スリーブ21の回転角に容易に変換可能となり、ピストン上死点位置を容易に調整することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピストンの上死点位置を変化させて圧縮比を可変させることが可能な複リンク式ピストンクランク機構を備えた内燃機関及びそのピストン上死点位置の調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、ピストンに揺動自由に連結された第1リンクと、この第1リンクに回動自在に連結されると共に、クランクシャフトのクランクピンに回転自由に装着された第2リンクと、偏心軸部を有するコントロールシャフトと、第2リンクに連結ピンを介して回転自由に連結されると共に、コントロールシャフトの偏心軸部に揺動可能に連結された第3リンクと、を備え、機関運転状態に応じてコントロールシャフトを回転して偏心軸部を位置を変更して内燃機関の圧縮比を可変制御する内燃機関の可変圧縮比機構において、各気筒毎に独立して圧縮比を調整可能な調整手段が前記第3リンクの下部に設けられたものが開示されている。
【0003】
この特許文献1においては、第3リンクの下部に、ネジ溝が形成されたボルト穴が設けられ、そのボルト穴に調整ボルトが螺合していると共に、第3リンクの下部に一対の半割構造の偏心スリーブ軸受が設けられている。そして、この偏心スリーブ軸受の外周と調整ボルトの先端が係合しており、調整ボルトを回転させて前進後退させることて偏心スリーブ軸受が回転するので、第3リンクと第2リンクとを連結する連結ピンと、第3リンクの下部の揺動中心間の距離の微調整が可能となり、圧縮比の微調整が可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−69027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この特許文献1においては、ピストンの上死点位置を調整する際に、その際の設定圧縮比や偏心スリーブの角度姿勢についてまでは言及されておらず、ピストンの上死点位置の調整が容易に行えない虞がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明は、内燃機関のピストンとクランクシャフトとを連結する複数のリンク部材と、内燃機関本体に回転可能に支持されるとともにその回転中心から偏心した偏心軸部を備えた制御軸と、前記複数のリンク部材のうちの1つと連結ピンを介して一端が連結されるとともに他端が偏心スリーブを介して前記制御軸に揺動可能に連結されるコントロールリンクと、を有し、負荷と圧縮比を関連付けて設定し、前記制御軸の回転位置に応じた前記偏心軸部の位置によって前記ピストンの上死点位置を変化させて圧縮比を制御する内燃機関において、所定の負荷に対応する圧縮比範囲内において、前記連結ピンの中心と前記偏心軸部の中心とを結ぶ直線に対して、前記偏心スリーブの偏心方向が垂直となるように設定されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、偏心スリーブの回転に伴うピストン上下位置の変化割合が線形特性となる領域で圧縮比のバラツキを調整することができる。そのため、ピストン上死点位置を調整するにあたって、ピストン上死点位置調整量を偏心スリーブの回転角に容易に変換可能となり、ピストン上死点位置を容易に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明が適用された内燃機関の概略構成を模式的に示した説明図。
【図2】ピストンクランク機構におけるコントロールリンクと制御軸の連結部分を拡大拡大して示した説明図。
【図3】ピストンクランク機構に用いられる偏心スリーブを示す説明図であり、(a)は左側面図、(b)は正面図、(c)は右側面図。
【図4】ピストンクランク機構において、コントロールリンクによるロアリンクの運動拘束条件が変化することを模式的に示した説明図。
【図5】偏心スリーブの回転角とピストンの高さ変化の関係を模式的に示した説明図。
【図6】ピストンクランク機構において、第2連結ピンの中心と偏心軸部の中心とを結ぶ直線に対して偏心スリーブの偏心方向が垂直となる状態を模式的に示した説明図。
【図7】本発明の第1実施形態を模式的に示した説明図。
【図8】本発明の第1実施形態において、最も圧縮比が小さい状態なった状態を模式的に示した説明図。
【図9】本発明の第2実施形態における内燃機関を吸排気系を模式的に示した説明図。
【図10】本発明の第2実施形態を模式的に示した説明図。
【図11】本発明の他の実施形態を模式的に示した説明図であって、(a)は第1実施形態の中圧縮比・中負荷域の状態における偏心軸部の中心C1が低圧縮比側、高圧縮比側に、それぞれ45°回転可能な設定としたもの、(b)は第1実施形態における偏心軸部の中心C1の回転角度範囲のうち、低圧縮比側の90°を回転角度範囲としたもの、(c)は第1実施形態における偏心軸部の中心C1の回転角度範囲のうち、低圧縮比側の90°を回転角度範囲としたものである。
【図12】本発明の第3実施形態を模式的に示した説明図。
【図13】本発明の第4実施形態を模式的に示した説明図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は、本発明が適用された内燃機関1の概略構成を模式的に示した説明図である。
【0010】
内燃機関1は、ピストン3の上死点位置を変化させて圧縮比を可変させることが可能な複リンク式のピストンクランク機構2を備えている。
【0011】
ピストンクランク機構2は、ピストン3とクランクシャフト4とを連結するアッパリンク5及びロアリンク6と、アッパリンク5及びロアリンク6の動きを規制するコントロールリンク7と、コントロールリンク7の基端が揺動可能に連結される偏心軸部9を有する制御軸8と、から大略構成されている。
【0012】
ピストン3は、シリンダブロック10に形成されたシリンダ11内を摺動可能に配置されており、アッパリンク5の一端(図1における上端)にピストンピン12を介して揺動可能に連結されている。
【0013】
アッパリンク5は、他端(図1における下端)が、第1連結ピン13を介してロアリンク6の一端部に回転可能に連結されている。
【0014】
ロアリンク6は、その中央部においてクランクシャフト4のクランクピン14に回転可能に取り付けられている。
【0015】
クランクシャフト4は、複数のジャーナル部15とクランクピン14とを備えており、シリンダブロック10のクランク軸受ブラケット16によってシリンダブロック10にジャーナル部15が回転可能に支持されている。クランクピン14は、ジャーナル部15から所定量偏心しており、ここにロアリンク6が回転自在に連結されている。
【0016】
ロアリンク6の運動を拘束するコントロールリンク7は、一端(図1における上端)が第2連結ピン17を介してロアリンク6の他端部に回動可能に連結され、他端(図1おける下端)が内燃機関本体の一部となるシリンダブロック10に揺動可能に支持されている。コントロールリンク7の他端は、内燃機関の圧縮比の変更のために、その揺動支点18の位置が内燃機関本体に対して変位可能となっている。具体的には、クランクシャフト4と平行に延びた制御軸8を備え、この制御軸8に偏心して設けられた偏心軸部9にコントロールリンク7の他端が回転可能に嵌合している。つまり、揺動支点18は偏心軸部9の中心位置である。
【0017】
制御軸8は、クランク軸受ブラケット16と制御軸軸受ブラケット19との間に回転可能に支持される主軸受部20(後述の図2を参照)と、この主軸受部20に対して所定量だけ偏心した偏心軸部9と、を有している。また、制御軸8の一端には、電気モータ等のアクチュエータ(図示せず)が取り付けられている。
【0018】
制御軸8の偏心軸部9の周囲(外周)には、図2及び図3に示すように、略円筒状の継ぎ目の無い偏心スリーブ21が圧入されている。偏心スリーブ21は、機関運転中に偏心軸部9に対して相対回転することのない十分な圧入代に基づく圧入によって固定される。
【0019】
この偏心スリーブ21は、偏心軸部9に圧入される筒状部22と、筒状部22の一端に形成された回転角度調整部23と、を有している。筒状部22は、偏心軸部9の外周面と対向する内周面24に対して、コントロールリンク7の他端側に取り付けられたすべり軸受(メタル)25と回転可能に嵌合する外周面26が、所定量eだけ偏心するよう形成されている。回転角度調整部23は、筒状部22の一端の全周に鍔状に形成された凸部であって、偏心スリーブ21を軸方向から見て、外形が6角形となるように形成されている。
【0020】
内燃機関1においては、圧縮比の変更のために、前記アクチュエータにより制御軸8を回転駆動すると、コントロールリンク7の揺動支点18となる偏心軸部9の中心位置が機関本体に対して移動する。これにより、図4に示すように、コントロールリンク7によるロアリンク6の運動拘束条件が変化して、クランク角に対するピストン3の行程位置が変化し、ひいては圧縮比が変更されることになる。図4において、各リンクが実線で示される状態のときピストン3の上死点位置が最も高い位置となって最も高い圧縮比が得られ状態となる。また、図4において、各リンクが破線で示される状態のときピストン3の上死点位置が最も低い位置となって最も低い圧縮比が得られる状態となる。内燃機関1は運転条件に応じて圧縮比が設定されており、特に負荷に応じては、負荷が低負荷から高負荷へと増大するときに、圧縮比は高圧縮比から低圧縮比に低下するように設定されている。すなわち、低負荷の負荷範囲では高圧縮比の圧縮比範囲が対応し、中負荷の負荷範囲では中圧縮比の圧縮比範囲が対応し、高負荷の負荷範囲では低圧縮比の圧縮比範囲が対応する。
【0021】
このピストンクランク機構2おいて、例えば、内燃機関の組み立て工程中に圧縮比の調整を行う場合には、全てのリンク部品(アッパリンク5、ロアリンク6、コントロールリンク7)を組み付けた後、制御軸8を回転しないように固定し、各気筒のピストン3の高さを測定し、測定した高さと、その時の制御軸8の角度に対応する所定のピストン高さとの比較から各気筒の偏心スリーブ21の必要回転角度を算出し、治具を偏心スリーブ21の回転角度調整部23に係合させて、各気筒の偏心スリーブ21を回転させ、ピストン3の高さを調整する。
【0022】
ここで、偏心スリーブ21の回転角とピストン3の高さ変化の関係は、図5に示すような関係になっている。制御軸8を固定し、偏心スリーブ21のみを回転させた場合、偏心スリーブ21の回転に伴い、偏心軸部9に対する偏心スリーブ21の角度が図5中のAで示される角度になったとき(状態Aのとき)ピストン3の高さ位置が最も高く、偏心軸部9に対する偏心スリーブ21の角度が図5中のCで示される角度になったとき(状態Cのとき)ピストン3の高さ位置が最も低くなる。
【0023】
そして、この状態Aから状態Cへの過程で、偏心スリーブ21の回転角に対してピストン3の高さの変化割合が線形に近い領域Aが存在し、この領域Aの略中央において、本実施形態では、偏心軸部9に対する偏心スリーブ21の角度が図5中のBで示される角度(状態B)となる。つまり、ピストン3の高さ調整量の中央値付近において、偏心軸部9に対する偏心スリーブ21の角度が図5中のBで示される角度(状態B)となる。
【0024】
このような線形に近い領域Aでは、ピストン3の高さを調整する際に、要求されるピストン高さの調整量を偏心スリーブ21の回転角度に精度よく変換可能となり、偏心スリーブ21の回転角度管理が可能となることからピストン高さを調整することによる圧縮比ばらつきの調整作業が容易になる。
【0025】
そのため、本実施形態では、偏心軸部9に対する偏心スリーブ21の角度が状態Aから状態Cとなるまでの範囲の中から、図5中の状態B付近で示される角度にあるときに圧縮比のばらつきを調整するものとする。つまり、本実施形態においては、圧縮比ばらつきを調整する際の偏心軸部9に対する偏心スリーブ21の角度の状態としては、状態Aや状態Cを使用しないようにする。
【0026】
そして、本発明の第1実施形態においては、図7に示すように、第2連結ピン17の中心と偏心軸部9の中心C1とを結ぶ直線L2、すなわちコントロールリンク7から伝わる荷重の作用方向に対して、偏心スリーブ21の偏心方向が垂直となる状態が、中圧縮比に対応する(設定される)中負荷範囲内にあるときに現れるように偏心スリーブ21の偏心方向が設定され、このような設定の下でピストン上死点位置の調整を行う事としている。尚、ピストン上死点位置を調整した後においては、実際の偏心スリーブの偏心方向が気筒毎あるいはエンジン毎に異なるものとなり得るが、各部品のばらつき中心が設計値通りになっているとすれば、偏心スリーブの偏心方向の平均を採った場合、少なくとも中圧縮比が設定される中負荷範囲内にあるときの偏心スリーブの偏心方向の平均値が、第2連結ピン17の中心と偏心軸部9の中心C1とを結ぶ直線L2とほぼ垂直になるといえる。
【0027】
このような設定によれば、加速時等の過渡時に通過することになって圧縮比の設定精度が要求されると共に、僅かな圧縮比ずれでもノックキングを生じさせかねない中圧縮比の状態において、偏心スリーブ21の回転に伴うピストン3上下位置の変化割合が線形特性で、かつピストン上死点位置調整量に対する偏心スリーブ21の回転角が大きい状態で、ピストン上死点位置を調整することができる。そして、機関運転中、コントロールリンク7から伝わる荷重で生じるモーメントによって偏心スリーブ21が偏心軸部9に対して相対回転する(ずれる)のを防ぐため、偏心スリーブ21の偏心量を比較的小さく抑えたとしても、ピストン上死点位置の調整量が犠牲(過小)にならずに済む。
【0028】
また、この第1実施形態においては、図7に示す状態、すなわち2連結ピン17の中心と偏心軸部9の中心C1とを結ぶ直線L2に対して、偏心スリーブ21の偏心方向が垂直となる状態から、制御軸8の回転によって偏心軸部9の中心C1が低圧縮比側に90°、高圧縮比側に90°、それぞれ回転可能に設定されている。すなわち機関運転中、偏心軸部9の中心C1は、制御軸8の回転によって図7に示す状態から、図7中に示す偏心軸部9の中心C1の軌跡上に沿って、運転領域が低圧縮比・高負荷域となる側には最大90°回転可能(反時計回り)に設定され、運転領域が高圧縮比・低負荷域となる側には最大90°回転可能(時計回り)に設定されている。
【0029】
そして、第1実施形態においては、図7に示す状態から偏心軸部9の中心C1を低圧縮比側に90°回転させた状態において、偏心軸部の中心C1と偏心スリーブ21の外径中心C2と制御軸8の主軸受部20の中心C3とが略直線状に並び、かつこれら3つの点が燃焼荷重の発生に伴いコントールリンク7に作用する荷重Fの作用方向と略一致するように設定されている。
【0030】
すなわち、スロットル開度が全開となる高負荷で、燃焼荷重が大きくなる最低圧縮比状態(上死点位置におけるピストン高さが最も低い状態)のときに、図8に示すように、制御軸8を軸方向から見て、偏心軸部の中心C1と偏心スリーブ21の外径中心C2と制御軸8の主軸受部20の中心C3とを通る直線L3(図8中の破線)が、コントロールリンク7を介して偏心スリーブ21の外径中心C2に作用する荷重Fの方向と略一致するように設定されている。
【0031】
これにより、特に燃焼荷重が大きくなる運転状態のときに、偏心スリーブ21に作用するトルクを低減することが可能となっている。
【0032】
また、本実施形態では、図6に示すように、制御軸8を軸方向から見て、偏心スリーブ21の外径中心C2よりも偏心軸部9の中心C1がピストン3の往復軸線L0側に位置し、かつ偏心軸部9の中心C1と偏心スリーブ21の外径中心C2とを通る直線L1が、第2連結ピン17の中心と偏心軸部9の中心C1とを通る直線L2に対して略直交する状態のときに圧縮比のばらつきを調整するものとする。換言すれば、偏心スリーブ21の外径中心C2よりも偏心軸部9の中心C1がピストン3の往復軸線L0側に位置し、かつ第2連結ピン17の中心と偏心軸部9の中心C1とを結ぶ直線L2に対して偏心スリーブ21の偏心方向が垂直となる状態で、偏心スリーブ21を偏心軸部9に対して回転させ、ピストン上死点位置を調整して圧縮比のばらつきを調整する。尚、図6中のC3は、制御軸8の主軸受部20の中心である。
【0033】
偏心軸部9の中心C1と偏心スリーブ21の外径中心C2とを通る直線L1が、第2連結ピン17の中心と偏心軸部9の中心C1とを通る直線L2に対して略直交する状態としては、図5中の状態Bのほかに、図5中の状態Cから更に偏心スリーブ21を回転(図5における右側に回転)させてピストン高さが中間の高さになった状態も考えられる。つまり、偏心軸部9の中心C1よりも偏心スリーブ21の外径中心C2がピストン3の往復軸線L0側に位置した状態も考えられる。しかしながら、偏心軸部9の中心C1よりも偏心スリーブ21の外径中心C2がピストン3の往復軸線L0側に位置した状態に成っていると、本実施形態のように偏心スリーブ21の外径中心C2よりも偏心軸部9の中心C1がピストン3の往復軸線L0側に位置している場合に比べて、ピストン3が下死点位置にあるときにコントロールリンク7の他端がピストン3の往復軸線側に位置することになり、コントロールリンク7とロアリンク6との挟角が相対的に小さくなって、各リンクの強度を確保するための肉厚が取りにくくなる。
【0034】
そのため、本実施形態のように、偏心軸部9に対する偏心スリーブ21の角度が状態Cから状態Aとなる過程を使用しないように設定し、偏心スリーブ21の外径中心C2よりも偏心軸部9の中心C1がピストン3の往復軸線L0側に位置しているように設定することにより、下死点付近において、コントロールリンク7と、コントロールリンク7の状態と連結されるロアリンク6の干渉を緩和することができ、ピストンクランク機構2のリンクジオメトリを設定するに当たっての設計自由度を相対的に大きくすることができる。
【0035】
以下、本発明の他の実施形態について説明する。尚、上述した第1実施形態と同一の構成要素については同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0036】
第2実施形態は、本発明をターボ過給機を備えた内燃機関に適用したものである。この第2実施形態における内燃機関1は、上述した第1実施形態と略同一構成となっているが、図9に示すように、ターボ過給機30を備えている。ターボ過給機30は、吸気通路34に位置するコンプレッサ31と、排気通路35に位置するタービン32とを同軸上に連結した構成であり、運転条件に応じて過給圧を制御するために、タービン32の上流側から排気の一部をバイパスさせる排気バイパス弁33を備えている。
【0037】
そして、この第2実施形態においては、図10に示すように、第2連結ピン17の中心と偏心軸部9の中心C1とを結ぶ直線L2に対して、偏心スリーブ21の偏心方向が垂直となる状態が、中圧縮比・中負荷の状態となるように設定されているが、このときの中負荷とは、スロットル全開で自然吸気の状態(NA−WOT)である。
【0038】
尚、この第2実施形態においては、図10に示す状態、すなわち第2連結ピン17の中心と偏心軸部9の中心C1とを結ぶ直線L2に対して、偏心スリーブ21の偏心方向が垂直となる状態から、制御軸8の回転によって偏心軸部9の中心C1が低圧縮比側に90°、高圧縮比側に90°、それぞれ回転可能に設定されている。すなわち、偏心軸部9の中心C1は、制御軸8の回転によって図10に示す状態から、図10中に示す偏心軸部9の中心C1の軌跡上に沿って、運転領域が低圧縮比・過給域となる側には最大90°回転可能(反時計回り)に設定され、運転領域が高圧縮比・低負荷域となる側には最大90°回転可能(時計回り)に設定されている。
【0039】
このような第2実施形態においては、過給遅れがあるので実際の機関負荷の増大には遅れが生じ、圧縮比制御用のアクチュエータの応答性が問題になることはなく(過渡的に制御精度が低下して圧縮比ばらつきが表面化することがない)、圧縮比の設定精度が要求されるのは、高負荷ではなく中負荷となる。そこで、圧縮比ばらつきの影響が高い過渡運転時のノッキング発生回避のために、スロットル全開で自然吸気状態の中負荷に相当する状態で圧縮比の調整を行えるので、過渡運転時のノッキングを効果的に抑制することが可能となる。尚、この第2実施形態においても、上述した第1実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0040】
尚、上述した第1、第2実施形態においては、図7あるいは図10に示す状態、すなわち第2連結ピン17の中心と偏心軸部9の中心C1と結ぶ直線L2に対して、偏心スリーブ21の偏心方向が垂直となる状態から、偏心軸部9の中心C1が低圧縮比側、高圧縮比側に、それぞれ同じ回転角度(90°)だけ回転可能に設定されているが、低圧縮比側への回転角度と、高圧縮比側への回転角度は必ずしもを同じにする必要はなく、例えば、低圧縮比側に15°、高圧縮比側に60°、回転可能に設定することも可能である。
【0041】
また、上述した第1、第2実施形態においては、制御軸8の偏心軸部9の回転角度範囲は180°となっているが、制御軸8の偏心軸部9の回転角度範囲は180°に限定されるものではなく、例えば、図11に示すように90°に設定することも可能である。
【0042】
図11(a)は、上述した第1、第2実施形態の中圧縮比・中負荷域の状態における制御軸8の偏心軸部9の中心C1が低圧縮比側、高圧縮比側に、それぞれ45°回転可能な設定としたものである。
【0043】
図11(b)は、上述した第1、第2実施形態における制御軸8の偏心軸部9の中心C1の回転角度範囲のうち、上側半分、すなわち低圧縮比側の90°を回転角度範囲(偏心軸部9が第2連結ピン17寄りにあって偏心方向がL2にほぼ沿う状態から偏心方向がL2に対してほぼ垂直な状態になるまでの角度範囲)とし、かつその回転角度範囲の中央の回転角度位置において、第2連結ピン17の中心と偏心軸部9の中心C1とを結ぶ直線L2に対して、偏心スリーブ21の偏心方向が垂直となる状態となるよう設定したものである。
【0044】
図11(c)は、上述した第1、第2実施形態における制御軸8の偏心軸部9の中心C1の回転角度範囲のうち、下側半分、すなわち(偏心軸部9が第2連結ピン17から離れた側にあって偏心方向がL2にほぼ沿う状態から偏心方向がL2に対してほぼ垂直な状態になるまでの角度範囲)高圧縮比側の90°を回転角度範囲とし、かつその回転角度範囲の中央の回転角度位置において、第2連結ピン17の中心と偏心軸部9の中心C1とを結ぶ直線L2に対して、偏心スリーブ21の偏心方向が垂直となる状態となるよう設定したものである。
【0045】
次に、本発明の第3実施形態について説明する。この第3実施形態における内燃機関は、上述した第1実施形態の内燃機関と略同一構成となっているが、図12に示すように、低負荷に対応する圧縮比範囲において、第2連結ピン17の中心と偏心軸部9の中心C1とを結ぶ直線L2に対して、偏心スリーブ21の偏心方向が垂直となるように設定され、この状態で偏心スリーブ21を偏心軸部9に対して回転させ、ピストン上死点位置を調整する。
【0046】
尚、この第3実施形態においては、制御軸8の回転によって、図12に示す状態、すなわち第2連結ピン17の中心と偏心軸部9の中心C1とを結ぶ直線L2に対して、偏心スリーブ21の偏心方向が垂直となる状態から、偏心軸部9の中心C1が低圧縮比側に90°回転可能に設定されている。すなわち、偏心軸部9の中心C1は、図12に示す状態から、図12中に示す偏心軸部9の中心C1の軌跡上に沿って、運転領域が低圧縮比・高負荷域となる側に最大90°回転可能(反時計回り)に設定されている。
【0047】
このような第3実施形態においては、僅かな圧縮比ずれでも圧縮比に大きく影響する高圧縮比に相当する状態において、偏心スリーブ21の回転に伴うピストン上下位置の変化割合が線形特性で、かつピストン上死点位置調整量に対する偏心スリーブ21の回転角が大きい状態で、ピストン上死点位置を調整することができる。
【0048】
図13は、本発明の第4実施形態を示している。この第4実施形態における内燃機関は、上述した第1実施形態の内燃機関と略同一構成となっているが、高負荷に対応する圧縮比範囲において、第2連結ピン17の中心と偏心軸部9の中心C1とを結ぶ直線L2に対して、偏心スリーブ21の偏心方向が垂直となるように設定され、この状態で偏心スリーブ21を偏心軸部9に対して回転させ、ピストン上死点位置を調整する。
【0049】
尚、この第4実施形態においては、制御軸8に回転によって、図13に示す状態、すなわち第2連結ピン17の中心と偏心軸部9の中心C1とを結ぶ直線L2に対して、偏心スリーブ21の偏心方向が垂直となる状態から、偏心軸部9の中心C1が高圧縮比側に90°回転可能に設定されている。すなわち、偏心軸部9の中心C1は、図13に示す状態から、図13中に示す偏心軸部9の中心C1の軌跡上に沿って、運転領域が高圧縮比・低負荷域となる側に最大90°回転可能(反時計回り)に設定されている。
【0050】
このような第4実施形態においては、圧縮比ずれがノックキングを生じさせかねない高負荷に対応する低圧縮比に相当する状態において、偏心スリーブ21の回転に伴うピストン上下位置の変化割合が線形特性で、かつピストン上死点位置調整量に対する偏心スリーブ21の回転角が大きい状態で、ピストン上死点位置を調整することができる。
【符号の説明】
【0051】
1…内燃機関
2…ピストンクランク機構
3…ピストン
4…クランクシャフト
5…アッパリンク
6…ロアリンク
7…コントロールリンク
8…制御軸
9…偏心軸部
10…シリンダブロック
11…シリンダ
12…ピストンピン
13…第1連結ピン
14…クランクピン
15…ジャーナル部
16…クランク軸受ブラケット
17…第2連結ピン
18…揺動支点
19…制御軸軸受ブラケット
21…偏心スリーブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のピストンとクランクシャフトとを連結する複数のリンク部材と、内燃機関本体に回転可能に支持されるとともにその回転中心から偏心した偏心軸部を備えた制御軸と、前記複数のリンク部材のうちの1つと連結ピンを介して一端が連結されるとともに他端が偏心スリーブを介して前記制御軸に揺動可能に連結されるコントロールリンクと、を有し、負荷と圧縮比を関連付けて設定し、前記制御軸の回転位置に応じた前記偏心軸部の位置によって前記ピストンの上死点位置を変化させて圧縮比を制御する内燃機関において、
前記偏心スリーブは、その内径中心に対して外径中心が偏心し、前記内燃機関の運転中は、前記偏心軸部と相対移動することがないように偏心軸部に固定され、
所定の負荷に対応する圧縮比範囲内において、前記連結ピンの中心と前記偏心軸部の中心とを結ぶ直線に対して、前記偏心スリーブの偏心方向が垂直となるように設定されていることを特徴とする内燃機関。
【請求項2】
前記所定の負荷は中負荷であることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関。
【請求項3】
内燃機関は過給機を備え、前記中負荷は、スロットル全開で自然吸気状態の中負荷であることを特徴とする請求項2に記載の内燃機関。
【請求項4】
前記所定の負荷は、低負荷であることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関。
【請求項5】
前記所定の負荷は、高負荷であることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関。
【請求項6】
所定の負荷に対応する圧縮比範囲において、前記偏心スリーブの外径中心よりも前記偏心軸部の中心が、前記ピストンの往復軸線側に位置するよう設定されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の内燃機関。
【請求項7】
前記連結ピンの中心と前記偏心軸部の中心とを結ぶ直線に対して、前記偏心スリーブの偏心方向が垂直となる状態において、前記偏心スリーブを前記偏心軸部に対して回転させ、ピストン上死点位置を調整することを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の内燃機関のピストン上死点位置の調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−31809(P2012−31809A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−173386(P2010−173386)
【出願日】平成22年8月2日(2010.8.2)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】