説明

内燃機関用潤滑油組成物

【課題】酸化寿命が十分に長く、且つ排気ガス後処理装置の性能を長期にわたって十分に維持することが可能な内燃機関用潤滑油組成物を提供すること。
【解決手段】本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、飽和分を90質量%以上含有し、且つ該飽和分に占める環状飽和分の割合が40質量%以下であり、粘度指数が110以上であり、ヨウ素価が2.5以下である潤滑油基油に、組成物全量を基準として、リン元素換算で0.02〜0.08質量%のリン系摩耗防止剤、0.5〜3質量%の無灰酸化防止剤、及び3〜12質量%の無灰分散剤を配合してなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用潤滑油組成物に関し、詳しくは、ガソリンエンジン、メタノール含有燃料対応エンジン、ガスエンジン等の潤滑油として好適な内燃機関用潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関用潤滑油にはアルキルジチオリン酸亜鉛に代表されるリン系摩耗防止剤が配合されている。特に、アルキルジチオリン酸亜鉛は、エンジン部品の摩耗を防止すると共に、酸化防止剤としての機能も併せ持つ潤滑油用添加剤であり、内燃機関用潤滑油の分野でも長年にわたって主要な添加剤の一つとして使用されている(例えば、特許文献1を参照。)。
【特許文献1】特開平4−36391号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、内燃機関を搭載する車両には、排気ガス中の硫黄酸化物やパティキュレートマター等の有害物質を浄化・捕集する目的で、三元触媒やパティキュレートフィルター等の排ガス後処理装置が取り付けられているが、使用される潤滑油の一部が燃焼室に入り、その燃焼物が排気ガスに混入して排気ガス後処理装置の性能を低下させることがある。特に、上記のアルキルジチオリン酸亜鉛は、リン及び亜鉛を含む化合物であるため、リン分が三元触媒を被毒させ、また、亜鉛分が硫酸灰分となってフィルターを閉塞させるという負の効果も持っている。
【0004】
なお、排気ガス後処理装置の性能低下を抑制する手段として、内燃機関用潤滑油におけるリン系摩耗防止剤の配合量を低減する方法が考えられる。しかし、アルキルジチオリン酸亜鉛のように酸化防止剤としての機能を併せ持つ添加剤を減量すると、潤滑油の酸化寿命の低下により更油期間が短縮され、廃油量が増大するという地球環境保全の点から望ましくない問題が生じる。
【0005】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、酸化寿命が十分に長く、且つ排気ガス後処理装置の性能を長期にわたって十分に維持することが可能な内燃機関用潤滑油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために、飽和分を90質量%以上含有し、且つ該飽和分に占める環状飽和分の割合が40質量%以下であり、粘度指数が110以上であり、ヨウ素価が2.5以下である潤滑油基油に、組成物全量を基準として、リン元素換算で0.02〜0.08質量%のリン系摩耗防止剤、0.5〜3質量%の無灰酸化防止剤、及び3〜12質量%の無灰分散剤を配合してなることを特徴とする内燃機関用潤滑油組成物を提供する。
【0007】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物に含まれる潤滑油基油は、飽和分の含有量及び当該飽和分に占める環状飽和分の割合、並びに粘度指数及びヨウ素価がそれぞれ上記条件を満たすものであるため、それ自体が熱・酸化安定性に優れる。更に、当該潤滑油基油は、添加剤が配合された場合に、当該添加剤を安定に溶解保持しつつその機能をより高水準で発現させることができるものである。そして、このように優れた特性を有する潤滑油基油に、リン系摩耗防止剤(以下、場合により「(A)成分」という。)、無灰酸化防止剤(以下、場合により「(B)成分」という。)及び無灰分散剤(以下、場合により「(C)成分」という。)をそれぞれ上記範囲内となるように配合することによって、十分に長い酸化寿命を達成することができると共に、排気ガス後処理装置の性能を長期にわたって十分に維持することができるようになる。
【0008】
また、本発明の内燃機関用組成物に含まれる潤滑油基油は、飽和分の含有量及び当該飽和分に占める環状飽和分の割合、並びに粘度指数及びヨウ素価がそれぞれ上記条件を満たすものであるため、それ自体が粘度−温度特性及び摩擦特性に優れている。更に、当該潤滑油基油は、上述のように添加剤の溶解性及び効き目の点で優れており、摩擦調整剤が配合された場合には摩擦低減効果を高水準で得ることができるものである。したがって、このように優れた潤滑油基油を含む本発明の内燃機関用潤滑油組成物によれば、摺動部における摩擦抵抗や撹拌抵抗などに起因するエネルギー損失を低減し、十分な省エネルギー化を図ることができる。
【0009】
更に、従来の潤滑油基油の場合は低温粘度特性の改善と揮発防止性の確保との両立が困難であったが、本発明にかかる潤滑油基油によれば低温粘度特性と揮発防止性との双方を高水準でバランスよく達成することができる。したがって、本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、酸化寿命の向上、排気ガス後処理装置の性能の維持及び省エネルギー化に加えて、低温時始動性の改善の点でも有用である。
【0010】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、上記のように優れた性能を有するため、排気ガス後処理装置が搭載された車両の内燃機関の潤滑油として好適に使用される。ここで、本発明の内燃機関用潤滑油組成物の硫酸灰分が1.2質量%以下であると、排気ガス後処理装置の性能をより長期にわたって維持することができるため好ましい。
【発明の効果】
【0011】
以上の通り、本発明によれば、酸化寿命が十分に長く、且つ排気ガス後処理装置の性能を長期にわたって十分に維持することが可能な内燃機関用潤滑油組成物が実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0013】
本発明では、飽和分を90質量%以上含有し、且つ該飽和分に占める環状飽和分の割合が40質量%以下であり、粘度指数が110以上であり、ヨウ素価が2.5以下である潤滑油基油(以下、単に「本発明にかかる潤滑油基油」という。)が用いられる。
【0014】
本発明にかかる潤滑油基油は、飽和分の含有量及び当該飽和分に占める環状飽和分の割合、並びに粘度指数及びヨウ素価が上記条件を満たすものであれば特に制限されない。具体的には、原油を常圧蒸留及び/又は減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理のうちの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて精製したパラフィン系鉱油、あるいはノルマルパラフィン系基油、イソパラフィン系基油などのうち、飽和分の含有量及び当該飽和分に占める環状飽和分の割合、並びに粘度指数及びヨウ素価が上記条件を満たすものが挙げられる。これらの潤滑油基油は、1種を単独で用いてもよく、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
本発明にかかる潤滑油基油の好ましい例としては、以下に示す基油(1)〜(8)を原料とし、この原料油及び/又はこの原料油から回収された潤滑油留分を、所定の精製方法によって精製し、潤滑油留分を回収することによって得られる基油を挙げることができる。
(1)パラフィン基系原油及び/又は混合基系原油の常圧蒸留による留出油
(2)パラフィン基系原油及び/又は混合基系原油の常圧蒸留残渣油の減圧蒸留による留出油(WVGO)
(3)潤滑油脱ろう工程により得られるワックス(スラックワックス等)及び/又はガストゥリキッド(GTL)プロセス等により得られる合成ワックス(フィッシャートロプシュワックス、GTLワックス等)
(4)基油(1)〜(3)から選ばれる1種又は2種以上の混合油及び/又は当該混合油のマイルドハイドロクラッキング処理油
(5)基油(1)〜(4)から選ばれる2種以上の混合油
(6)基油(1)、(2)、(3)、(4)又は(5)の脱れき油(DAO)
(7)基油(6)のマイルドハイドロクラッキング処理油(MHC)
(8)基油(1)〜(7)から選ばれる2種以上の混合油。
【0016】
なお、上記所定の精製方法としては、水素化分解、水素化仕上げなどの水素化精製;フルフラール溶剤抽出などの溶剤精製;溶剤脱ろうや接触脱ろうなどの脱ろう;酸性白土や活性白土などによる白土精製;硫酸洗浄、苛性ソーダ洗浄などの薬品(酸又はアルカリ)洗浄などが好ましい。本発明では、これらの精製方法のうちの1種を単独で行ってもよく、2種以上を組み合わせて行ってもよい。また、2種以上の精製方法を組み合わせる場合、その順序は特に制限されず、適宜選定することができる。
【0017】
更に、本発明にかかる潤滑油基油としては、上記基油(1)〜(8)から選ばれる基油又は当該基油から回収された潤滑油留分について所定の処理を行うことにより得られる下記基油(9)又は(10)が特に好ましい。
(9)上記基油(1)〜(8)から選ばれる基油又は当該基油から回収された潤滑油留分を水素化分解し、その生成物又はその生成物から蒸留等により回収される潤滑油留分について溶剤脱ろうや接触脱ろうなどの脱ろう処理を行い、または当該脱ろう処理をした後に蒸留することによって得られる水素化分解鉱油
(10)上記基油(1)〜(8)から選ばれる基油又は当該基油から回収された潤滑油留分を水素化異性化し、その生成物又はその生成物から蒸留等により回収される潤滑油留分について溶剤脱ろうや接触脱ろうなどの脱ろう処理を行い、または、当該脱ろう処理をしたあとに蒸留することによって得られる水素化異性化鉱油。
【0018】
また、上記(9)又は(10)の潤滑油基油を得るに際して、好都合なステップで、必要に応じて溶剤精製処理及び/又は水素化仕上げ処理工程を更に設けてもよい。
【0019】
また、上記水素化分解・水素化異性化に使用される触媒は特に制限されないが、分解活性を有する複合酸化物(例えば、シリカアルミナ、アルミナボリア、シリカジルコニアなど)又は当該複合酸化物の1種類以上を組み合わせてバインダーで結着させたものを担体とし、水素化能を有する金属(例えば周期律表第VIa族の金属や第VIII族の金属などの1種類以上)を担持させた水素化分解触媒、あるいはゼオライト(例えばZSM−5、ゼオライトベータ、SAPO−11など)を含む担体に第VIII族の金属のうち少なくとも1種類以上を含む水素化能を有する金属を担持させた水素化異性化触媒が好ましく使用される。水素化分解触媒及び水素化異性化触媒は、積層又は混合などにより組み合わせて用いてもよい。
【0020】
水素化分解・水素化異性化の際の反応条件は特に制限されないが、水素分圧0.1〜20MPa、平均反応温度150〜450℃、LHSV0.1〜3.0hr−1、水素/油比50〜20000scf/bとすることが好ましい。
【0021】
本発明にかかる潤滑油基油の製造方法の好ましい例としては、以下に示す製造方法Aが挙げられる。
【0022】
すなわち、本発明にかかる製造方法Aは、
NH脱着温度依存性評価においてNHの全脱着量に対する300〜800℃でのNHの脱着量の分率が80%以下である担体に、周期律表第VIa族金属のうち少なくとも1種類と、第VIII族金属のうち少なくとも1種類とが担持された水素化分解触媒を準備する第1工程と、
水素化分解触媒の存在下、スラックワックスを50容量%以上含む原料油を、水素分圧0.1〜14MPa、平均反応温度230〜430℃、LHSV0.3〜3.0hr−1、水素油比50〜14000scf/bで水素化分解する第2工程と、
第2工程で得られた分解生成油を蒸留分離して潤滑油留分を得る第3工程と、
第3工程で得られた潤滑油留分を脱ろう処理する第4工程と
を備える。
【0023】
以下、上記製造方法Aについて詳述する。
【0024】
(原料油)
上記製造方法Aにおいては、スラックワックスを50容量%以上含有する原料油が用いられる。なお、本発明でいう「スラックワックスを50容量%以上含有する原料油」とは、スラックワックスのみからなる原料油と、スラックワックスと他の原料油との混合油であってスラックワックスを50容量%以上含有する原料油との双方が包含される。
【0025】
スラックワックスは、パラフィン系潤滑油留分から潤滑油基油を製造する際、溶剤脱ろう工程で副生するワックス含有成分であり、本発明においては該ワックス含有成分をさらに脱油処理したものもスラックワックスに包含される。スラックワックスの主成分はn−パラフィン及び側鎖の少ない分岐パラフィン(イソパラフィン)であり、ナフテン分や芳香族分は少ない。原料油の調製に使用するスラックワックスの動粘度は、目的とする潤滑油基油の動粘度に応じて適宜選定することができるが、本発明にかかる潤滑油基油として低粘度基油を製造するには、100℃における動粘度が2〜25mm/s程度、好ましくは2.5〜20mm/s程度、より好ましくは3〜15mm/s程度の、比較的低粘度のスラックワックスが望ましい。また、スラックワックスのその他の性状も任意であるが、融点は、好ましくは35〜80℃、より好ましくは45〜70℃、さらに好ましくは50〜60℃である。また、スラックワックスの油分は、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは25質量%以下、特に好ましくは10質量%以下であり、また、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上である。また、スラックワックスの硫黄分は、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下であり、また、好ましくは0.001質量%以上である。
【0026】
ここで、十分に脱油処理されたスラックワックス(以下、「スラックワックスA」という。)の油分は、好ましくは0.5〜10質量%、より好ましくは1〜8質量%である。また、スラックワックスAの硫黄分は、好ましくは0.001〜0.2質量%、より好ましくは0.01〜0.15質量%、さらに好ましくは0.05〜0.12質量%である。一方、脱油処理されないか、あるいは脱油処理が不十分であるスラックワックス(以下、「スラックワックスB」という。)の油分は、好ましくは10〜60質量%、より好ましくは12〜50質量%、さらに好ましくは15〜25質量%である。また、スラックワックスBの硫黄分は、好ましくは0.05〜1質量%、より好ましくは0.1〜0.5質量%、さらに好ましくは0.15〜0.25質量%である。なお、これらスラックワックスA、Bは、水素化分解/異性化触媒の種類や特性に応じて、脱硫処理が施されたものであってもよく、その場合の硫黄分は、好ましくは0.01質量%以下、より好ましくは0.001質量%以下である。
【0027】
上記製造方法Aにおいては、上記スラックワックスAを原料として用いることで、飽和分の含有量及び当該飽和分に占める環状飽和分の割合、並びに粘度指数及びヨウ素価が上記条件を満たす本発明にかかる潤滑油基油を好適に得ることができる。また、上記製造方法Aによれば、油分や硫黄分が比較的高く、比較的粗悪で安価なスラックワックスBを原料として用いても、粘度指数が高く、低温特性及び熱・酸化安定性に優れた付加価値の高い潤滑油基油を得ることができる。
【0028】
原料油がスラックワックスと他の原料油との混合油である場合、当該他の原料油としては、混合油全量に占めるスラックワックスの割合が50容量%以上であれば特に制限されないが、原油の重質常圧蒸留留出油及び/又は減圧蒸留留出油の混合油が好ましく用いられる。
【0029】
また、原料油がスラックワックスと他の原料油との混合油である場合、高粘度指数の基油を製造するという観点から、混合油に占めるスラックワックスの割合は、70容量%以上がより好ましく、75容量%以上が更により好ましい。当該割合が50容量%未満では、得られる潤滑油基油において芳香族分、ナフテン分などの油分が増大し、潤滑油基油の粘度指数が低下する傾向にある。
【0030】
一方、スラックワックスと併用される原油の重質常圧蒸留留出油及び/又は減圧蒸留留出油は、製造される潤滑油基油の粘度指数を高く保つため、300〜570℃の蒸留温度範囲に60容量%以上の留出成分を有する留分であることが好ましい。
【0031】
(水素化分解触媒)
上記製造方法Aでは、NH脱着温度依存性評価においてNHの全脱着量に対する300〜800℃でのNHの脱着量の分率が80%以下である担体に、周期律表第VIa族金属のうち少なくとも1種類と、第VIII族金属のうち少なくとも1種類とが担持された水素化分解触媒が用いられる。
【0032】
ここで、「NH脱着温度依存性評価」とは、文献(Sawa M., Niwa M., Murakami Y., Zeolites 1990,10,532、Karge H. G., Dondur V.,J.Phys.Chem. 1990,94,765など)に紹介されている方法であり、以下のようにして行われる。先ず、触媒担体を、窒素気流下400℃以上の温度で30分以上前処理し、吸着分子を除去した後に、100℃でNHを飽和するまで吸着させる。次いで、その触媒担体を100〜800℃まで10℃/分以下の昇温速度で昇温してNHを脱着させ、脱着により分離されたNHを所定温度ごとにモニターする。そして、NHの全脱着量(100〜800℃での脱着量)に対する、300℃〜800℃でのNHの脱着量の分率を求める。
【0033】
上記製造方法Aで用いられる触媒担体は、上記のNH脱着温度依存性評価においてNHの全脱着量に対する300〜800℃でのNHの脱着量の分率が80%以下のものであり、好ましくは70%以下、より好ましくは60%以下である。かかる担体を用いて水素化分解触媒を構成することで、分解活性を支配する酸性質が十分に抑制されるので、水素化分解により原料油中のスラックワックス等に由来する高分子量n−パラフィンの分解異性化によるイソパラフィンの生成を効率よく且つ確実に行うことができ、且つ、生成したイソパラフィン化合物の過度の分解を充分に抑制することができるようになる。その結果、適度に枝分かれした化学構造を有する粘度指数の高い分子を、適度な分子量範囲で十分量与えることができる。
【0034】
このような担体としては、アモルファス系であり且つ酸性質を有する二元酸化物が好ましく、例えば、文献(「金属酸化物とその触媒作用」、清水哲郎、講談社、1978年)などに例示されている二元酸化物が挙げられる。
【0035】
中でも、アモルファス系複合酸化物であってAl、B、Ba、Bi、Cd、Ga、La、Mg、Si、Ti、W、Y、ZnおよびZrから選ばれる元素の酸化物2種類の複合による酸性質二元酸化物を含有することが好ましい。これらの酸性質二元酸化物の各酸化物の比率などを調整することにより、前記のNH吸脱着評価において、本目的に適した酸性質の担体を得ることができる。なお、当該担体を構成する酸性質二元酸化物は上記のうちの1種類であっても2種類以上の混合物であってもよい。また、当該担体は、上記酸性質二元酸化物からなるものであってもよく、あるいは当該酸性質二元酸化物をバインダーで結着させた担体であってもよい。
【0036】
さらに、当該担体は、アモルファス系シリカ・アルミナ、アモルファス系シリカ・ジルコニア、アモルファス系シリカ・マグネシア、アモルファス系シリカ・チタニア、アモルファス系シリカ・ボリア、アモルファス系アルミナ・ジルコニア、アモルファス系アルミナ・マグネシア、アモルファス系アルミナ・チタニア、アモルファス系アルミナ・ボリア、アモルファス系ジルコニア・マグネシア、アモルファス系ジルコニア・チタニア、アモルファス系ジルコニア・ボリア、アモルファス系マグネシア・チタニア、アモルファス系マグネシア・ボリアおよびアモルファス系チタニア・ボリアから選ばれる少なくとも1種類の酸性質二元酸化物を含有することが好ましい。当該担体を構成する酸性質二元酸化物は上記のうちの1種類であっても2種類以上の混合物であってもよい。また、当該担体は、上記酸性質二元酸化物からなるものであってもよく、あるいは当該酸性質二元酸化物をバインダーで結着させた担体であってもよい。かかるバインダーとしては、一般に触媒調製に使用されるものであれば特に制限はないが、シリカ、アルミナ、マグネシア、チタニア、ジルコニア、クレーから選ばれるかまたはそれらの混合物などが好ましい。
【0037】
上記製造方法Aにおいては、上記の担体に、周期律表第VIa族の金属(モリブデン、クロム、タングステンなど)のうち少なくとも1種類と、第VIII族の金属(ニッケル、コバルト、パラジウム、白金など)のうち少なくとも1種類とが担持されて水素化分解触媒が構成される。これらの金属は、水素化能を担うものであり、酸性質担体によってパラフィン化合物が分解または枝分かれする反応を終結させ、適度な分子量と枝分かれ構造を有するイソパラフィンの生成に重要な役割を担っている。
【0038】
水素化分解触媒における金属の担持量としては、第VIa族金属の担持量が金属1種類当たり5〜30質量%であり、第VIII族金属の担持量が金属1種類当たり0.2〜10質量%であることが好ましい。
【0039】
さらに、上記製造方法Aで用いられる水素化分解触媒においては、第VIa族金属の1種類以上の金属としてモリブデンを5〜30質量%の範囲で含み、また、第VIII族金属の1種類以上の金属としてニッケルを0.2〜10質量%の範囲で含むことがより好ましい。
【0040】
上記の担体と第VIa族金属の1種類以上と第VIII属金属の1種類以上の金属とで構成される水素化分解触媒は、硫化した状態で水素化分解に用いることが好ましい。硫化処理は公知の方法により行うことができる。
【0041】
(水素化分解工程)
上記製造方法Aにおいては、上記の水素化分解触媒の存在下、スラックワックスを50容量%以上含む原料油を、水素分圧が0.1〜14MPa、好ましくは1〜14MPa、より好ましくは2〜7MPa;平均反応温度が230〜430℃、好ましくは330〜400℃、より好ましくは350〜390℃;LHSVが0.3〜3.0hr−1、好ましくは0.5〜2.0hr−1;水素油比が50〜14000scf/b、好ましくは100〜5000scf/bで水素化分解する。
【0042】
かかる水素化分解工程においては、原料油中のスラックワックスに由来するn−パラフィンを分解する過程でイソパラフィンへの異性化を進行させることにより、流動点が低く、かつ粘度指数の高いイソパラフィン成分を生ぜしめるのであるが、同時に、原料油に含まれている高粘度指数化の阻害因子である芳香族化合物を単環芳香族化合物、ナフテン化合物及びパラフィン化合物に分解し、また、高粘度指数化の阻害因子である多環ナフテン化合物を単環ナフテン化合物やパラフィン化合物に分解することができる。なお、高粘度指数化の点からは、原料油中に高沸点で粘度指数の低い化合物が少ない方が好ましい。
【0043】
また、反応の進行度合いを評価する分解率を下記式:
(分解率(容量%))=100−(生成物中の沸点が360℃以上の留分の割合(容量%))
のように定義すると、分解率は3〜90容量%であることが好ましい。分解率が3容量%未満では、原料油中に含まれる流動点の高い高分子量n−パラフィンの分解異性化によるイソパラフィンの生成や、粘度指数の劣る芳香族分や多環ナフテン分の水素化分解が不十分となり、また、分解率が90容量%を超えると潤滑油留分の収率が低くなり、それぞれ好ましくない。
【0044】
(蒸留分離工程)
次いで、上記の水素化分解工程により得られる分解生成油から潤滑油留分を蒸留分離する。この際、軽質分として燃料油留分も得られる場合がある。
【0045】
燃料油留分は脱硫、脱窒素が十分に行われ、また、芳香族の水素化も十分に行われた結果得られる留分である。このうち、ナフサ留分はイソパラフィン分が多く、灯油留分は煙点が高く、また、軽油留分はセタン価が高い等、燃料油としていずれも高品質である。
【0046】
一方、潤滑油留分における水素化分解が不十分である場合には、その一部を再度水素化分解工程に供してもよい。また、所望の動粘度の潤滑油留分を得るため、潤滑油留分を更に減圧蒸留してもよい。なお、この減圧蒸留分離は次に示す脱ろう処理後に行ってもよい。
【0047】
蒸発分離工程において、水素化分解工程で得られる分解生成油を減圧蒸留することにより、70Pale、SAE10、SAE20と呼ばれる潤滑油基油を好適に得ることができる。
【0048】
原料油としてより低粘度のスラックワックスを使用した系は、70PaleやSAE10留分を多く生成するのに適しており、原料油として上記範囲で高粘度のスラックワックスを使用した系はSAE20を多く生成するのに適している。しかし、高粘度のスラックワックスを用いても、分解反応の進行程度によっては70Pale、SAE10を相当量生成する条件を選ぶこともできる。
【0049】
(脱ろう工程)
上記の蒸留分離工程において、分解生成油から分留した潤滑油留分は流動点が高いので、所望の流動点を有する潤滑油基油を得るために脱ろうする。脱ろう処理は溶剤脱ろう法又は接触脱ろう法などの通常の方法で行うことができる。このうち、溶剤脱ろう法は一般にMEK、トルエンの混合溶剤が用いられるが、ベンゼン、アセトン、MIBK等の溶剤を用いてもよい。脱ろう油の流動点を−10℃以下にするために溶剤/油比1〜6倍、ろ過温度−5〜−45℃、好ましくは−10〜−40℃の条件で行うことが好ましい。なお、ここで除去されるろう分は、スラックワックスとして、水素化分解工程に再び供することができる。
【0050】
上記製造方法においては、脱ろう処理に溶剤精製処理及び/又は水素化精製処理を付加してもよい。これらの付加する処理は潤滑油基油の紫外線安定性や酸化安定性を向上させるために行うもので、通常の潤滑油精製工程で行われている方法で行うことができる。
【0051】
溶剤精製の際には、溶剤として一般にフルフラール、フェノール、N−メチルピロリドン等を使用し、潤滑油留分中に残存している少量の芳香族化合物、特に多環芳香族化合物を除去する。
【0052】
また、水素化精製はオレフィン化合物や芳香族化合物を水素化するために行うもので、特に触媒を限定するものではないが、モリブデン等の第VIa族金属のうち少なくとも1種類と、コバルト、ニッケル等の第VIII族金属のうち、少なくとも1種類を担持したアルミナ触媒を用いて、反応圧力(水素分圧)7〜16MPa、平均反応温度300〜390℃、LHSV0.5〜4.0hr−1の条件下で行うことができる。
【0053】
また、本発明にかかる潤滑油基油の製造方法の好ましい例としては、以下に示す製造方法Bが挙げられる。
【0054】
すなわち、本発明にかかる製造方法Bは、
触媒の存在下、パラフィン系炭化水素を含有する原料油を水素化分解及び/又は水素化異性化する第5工程と、
第5工程で得られる生成物又はその生成物から蒸留等により回収される潤滑油留分を脱ろう処理する第6工程と、
を備える。
【0055】
以下、上記製造方法Bについて詳述する。
【0056】
(原料油)
上記製造方法Bにおいては、パラフィン系炭化水素を含有する原料油が用いられる。なお、本発明でいう「パラフィン系炭化水素」とは、パラフィン分子の含有率が70質量%以上の炭化水素をいう。パラフィン系炭化水素の炭素数は特に制限されないが、通常、10〜100程度のものが用いられる。また、パラフィン系炭化水素の製法は特に制限されず、石油系及び合成系の各種パラフィン系炭化水素を用いることができるが、特に好ましいパラフィン系炭化水素としては、ガストゥリキッド(GTL)プロセス等により得られる合成ワックス(フィッシャートロプシュワックス(FTワックス)、GTLワックス等)が挙げられ、中でもFTワックスが好ましい。また、合成ワックスは、炭素数が好ましくは15〜80、より好ましくは20〜50のノルマルパラフィンを主成分として含むワックスが好適である。
【0057】
原料油の調製に使用するパラフィン系炭化水素の動粘度は、目的とする潤滑油基油の動粘度に応じて適宜選定することができるが、本発明にかかる潤滑油基油として低粘度基油を製造するには、100℃における動粘度が2〜25mm/s程度、好ましくは2.5〜20mm/s程度、より好ましくは3〜15mm/s程度の、比較的低粘度のパラフィン系炭化水素が望ましい。また、パラフィン系炭化水素のその他の性状も任意であるが、パラフィン系炭化水素がFTワックス等の合成ワックスである場合、その融点は、好ましくは35〜80℃、より好ましくは50〜80℃、さらに好ましくは60〜80℃である。また、合成ワックスの油分は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下である。また、合成ワックスの硫黄分は、好ましくは0.01質量%以下、より好ましくは0.001質量%以下、さらに好ましくは0.0001質量%以下である。
【0058】
原料油が上記合成ワックスと他の原料油との混合油である場合、当該他の原料油としては、混合油全量に占める合成ワックスの割合が50容量%以上であれば特に制限されないが、原油の重質常圧蒸留留出油及び/又は減圧蒸留留出油の混合油が好ましく用いられる。
【0059】
また、原料油が上記合成ワックスと他の原料油との混合油である場合、高粘度指数の基油を製造するという観点から、混合油に占める合成ワックスの割合は、70容量%以上がより好ましく、75容量%以上が更により好ましい。当該割合が70容量%未満では、得られる潤滑油基油において芳香族分、ナフテン分などの油分が増大し、潤滑油基油の粘度指数が低下する傾向にある。
【0060】
一方、合成ワックスと併用される原油の重質常圧蒸留留出油及び/又は減圧蒸留留出油は、製造される潤滑油基油の粘度指数を高く保つため、300〜570℃の蒸留温度範囲に60容量%以上の留出成分を有する留分であることが好ましい。
【0061】
(触媒)
製造方法Bで用いられる触媒は特に制限されないが、アルミノシリケートを含有する担体に、活性金属成分として周期律表第VI属b金属及び第VIII属金属から選ばれる1種以上が担持された触媒が好ましく用いられる。
【0062】
アルミノシリケートとは、アルミニウム、珪素及び酸素の3元素で構成される金属酸化物をいう。また、本発明の効果を妨げない範囲で他の金属元素を共存させることもできる。この場合、他の金属元素の量はその酸化物としてアルミナ及びシリカの合計量の5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましい。共存可能な金属元素としては、例えばチタン、ランタン、マンガン等を挙げることができる。
【0063】
アルミノシリケートの結晶性は、全アルミニウム原子中の4配位のアルミニウム原子の割合で見積もることができ、この割合は27Al固体NMRにより測定することができる。本発明で用いられるアルミノシリケートとしては、アルミニウム全量に対する4配位アルミニウムの割合が50質量%以上のものが好ましく、70質量%以上のものがより好ましく、80質量%以上のものがさらに好ましい。以下、アルミニウム全量に対する4配位アルミニウムの割合が50質量%以上のアルミノシリケートを「結晶性アルミノシリケート」という。
【0064】
結晶性アルミノシリケートとしては、いわゆるゼオライトを使用することができる。好ましい例としては、Y型ゼオライト、超安定性Y型ゼオライト(USY型ゼオライト)、β型ゼオライト、モルデナイト、ZSM−5などが挙げられ、中でもUSYゼオライトが特に好ましい。本発明では結晶性アルミノシリケートの1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0065】
結晶性アルミノシリケートを含有する担体の調製方法としては、結晶性アルミノシリケート及びバインダーの混合物を成型し、その成型体を焼成する方法が挙げられる。使用するバインダーについては特に制限はないが、アルミナ、シリカ、シリカアルミナ、チタニア、マグネシアが好ましく、中でもアルミナが特に好ましい。バインダーの使用割合は特に制限されないが、通常、成型体全量基準で5〜99質量%が好ましく、20〜99質量%がより好ましい。結晶性アルミノシリケート及びバインダーを含有する成型体の焼成温度は、430〜470℃が好ましく、440〜460℃がより好ましく、445〜455℃がさらに好ましい。また、焼成時間は特に制限されないが、通常1分〜24時間、好ましくは10分から20時間、より好ましくは30分〜10時間である。焼成は空気雰囲気下で行ってもよいが、窒素雰囲気下などの無酸素雰囲気下で行うことが好ましい。
【0066】
また、上記担体に担持される第VI属b金属としてはクロム、モリブデン、タングステン等が、第VIII属金属としては、具体的には、コバルト、ニッケル、ロジウム、パラジウム、イリジウム、白金等がそれぞれ挙げられる。これらの金属は、1種類を単独で用いてもよく、あるいは2種類以上を組み合わせて用いてもよい。2種類以上の金属を組み合わせる場合、白金、パラジウム等の貴金属同士を組み合わせてもよく、ニッケル、コバルト、タングステン、モリブデン等の卑金属同士を組み合わせてもよく、あるいは貴金属と卑金属とを組み合わせてもよい。
【0067】
また、金属の担体への担持は、金属を含む溶液への担体の含浸、イオン交換等の情報により行うことができる。金属の担持量は、適宜選択することができるが、触媒全量基準で、通常0.05〜2質量%であり、好ましくは0.1〜1質量%である。
【0068】
(水素化分解/水素化異性化工程)
上記製造方法Bにおいては、上記触媒の存在下、パラフィン系炭化水素を含有する原料油を水素化分解/水素化異性化する。かかる水素化分解/水素化異性化工程は、固定床反応装置を用いて行うことができる。水素化分解/水素化異性化の条件としては、例えば温度は250〜400℃、水素圧は0.5〜10MPa、原料油の液空間速度(LHSV)は0.5〜10h−1がそれぞれ好ましい。
【0069】
(蒸留分離工程)
次いで、上記の水素化分解/水素化異性化工程により得られる分解生成油から潤滑油留分を蒸留分離する。なお、製造方法Bにおける蒸留分離工程は製造方法Aにおける蒸留分離工程と同様であるため、ここでは重複する説明を省略する。
【0070】
(脱ろう工程)
次いで、上記の蒸留分離工程において分解生成油から分留した潤滑油留分を脱ろうする。かかる脱ろう工程は、溶剤脱ろう又は接触脱ろう等の従来公知の脱ろうプロセスを用いて行うことができる。ここで、分解/異性化生成油中に存在する沸点370℃以下の物質が脱ろうに先立ち高沸点物質から分離されていない場合、分解/異性化生成油の用途に応じて、全水素化異性化物を脱ろうしてもよく、あるいは沸点370℃以上の留分を脱ろうしてもよい。
【0071】
溶剤脱ろうにおいては、水素化異性化物を冷却ケトン及びアセトン、並びにMEK、MIBKなどのその他の溶剤と接触させ、さらに冷却して高流動点物質をワックス質固体として沈殿させ、その沈殿をラフィネートである溶剤含有潤滑油留分から分離する。さらに、ラフィネートをスクレープトサーフィス深冷器で冷却してワックス固形分を除去することができる。また、プロパン等の低分子量炭化水素類も脱ろうに使用可能であるが、この場合は分解/異性化生成油と低分子量炭化水素とを混合し、少なくともその一部を気化して分解/異性化生成油をさらに冷却してワックスを沈殿させる。ワックスは、ろ過、メンブランまたは遠心分離等によりラフィネートから分離する。その後、溶剤をラフィネートから除去し、ラフィネートを分留して、目的の潤滑油基油を得ることができる。
【0072】
また、接触脱ろう(触媒脱ろう)の場合は、分解/異性化生成油を、適当な脱ろう触媒の存在下、流動点を下げるのに有効な条件で水素と反応させる。接触脱ろうでは、分解/異性化生成物中の高沸点物質の一部を低沸点物質へと転化させ、その低沸点物質をより重い基油留分から分離し、基油留分を分留し、2種以上の潤滑油基油を得る。低沸点物質の分離は、目的の潤滑油基油を得る前に、あるいは分留中に行うことができる。
【0073】
脱ろう触媒としては、分解/異性化生成油の流動点を低下させることが可能なものであれば特に制限されないが、分解/異性化生成油から高収率で目的の潤滑油基油を得ることができるものが好ましい。このような脱ろう触媒としては、形状選択的分子篩(モレキュラーシーブ)が好ましく、具体的には、フェリエライト、モルデナイト、ZSM−5、ZSM−11、ZSM−23、ZSM−35、ZSM−22(シータワン又はTONとも呼ばれる)、シリコアルミノホスフェート類(SAPO)などが挙げられる。これらのモレキュラーシーブは、触媒金属成分と組み合わせて使用することが好ましく、貴金属と組み合わせることがより好ましい。好ましい組合せとしては、例えば白金とH−モルデナイトとを複合化したものが挙げられる。
【0074】
脱ろう条件は特に制限されないが、温度は200〜500℃が好ましく、水素圧は10〜200バール(1MPa〜20MPa)がそれぞれ好ましい。また、フロースルー反応器の場合、H処理速度は0.1〜10kg/l/hrが好ましく、LHSVは0.1〜10−1が好ましく、0.2〜2.0h−1がより好ましい。また、脱ろうは、分解/異性化生成油に含まれる、通常40質量%以下、好ましくは30質量%以下の、初留点が350〜400℃である物質をこの初留点未満の沸点を有する物質へと転換するように行うことが好ましい。
【0075】
以上、本発明にかかる潤滑油基油の好ましい製造方法である製造方法A及び製造方法Bについて説明したが、本発明にかかる潤滑油基油の製造方法はこれらに限定されない。例えば、上記製造方法Aにおいて、スラックワックスの代わりにFTワックス、GTLワックス等の合成ワックスを用いてもよい。また、上記製造方法Bにおいて、スラックワックス(好ましくはスラックワックスA、B)を含有する原料油を用いてもよい。さらに、製造方法A、Bのそれぞれにおいて、スラックワックス(好ましくはスラックワックスA、B)と、合成ワックス(好ましくはFTワックス、GTLワックス)とを併用してもよい。
【0076】
なお、本発明にかかる潤滑油基油を製造する際に使用される原料油が、上記のスラックワックス及び/又は合成ワックスと、これらのワックス以外の原料油との混合油である場合、スラックワックス及び/又は合成ワックスの含有量は原料油全量基準で50質量%以上であることが好ましい。
【0077】
また、本発明にかかる潤滑油基油を製造するための原料油としては、スラックワックス及び/又は合成ワックスを含有する原料油であって、油分が好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは25質量%以下である原料油が好ましい。
【0078】
また、本発明にかかる潤滑油基油における飽和分の含有量は、潤滑油基油全量を基準として、前述の通り90質量%以上であり、好ましくは93質量%以上、より好ましくは95質量%以上であり、また、当該飽和分に占める環状飽和分の割合は、前述の通り40質量%以下であり、好ましくは0.1〜40質量%、0.5〜30質量%、より好ましくは1〜25質量%、更に好ましくは1.5〜20質量%、一層好ましくは1.5〜15質量%、特に好ましくは1.5〜10質量%である。飽和分の含有量及び当該飽和分に占める環状飽和分の割合がそれぞれ上記条件を満たし、更に粘度指数及びヨウ素価がそれぞれ特定条件を満たすことにより、粘度−温度特性及び熱・酸化安定性を達成することができ、また、当該潤滑油基油に添加剤が配合された場合には、当該添加剤を潤滑油基油中に十分に安定的に溶解保持しつつ、当該添加剤の機能をより高水準で発現させることができる。更に、本発明によれば、潤滑油基油自体の摩擦特性を改善することができ、その結果、摩擦低減効果の向上、ひいては省エネルギー性の向上を達成することができる。
【0079】
なお、飽和分の含有量が90質量%未満であると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性が不十分となる。また、飽和分に占める環状飽和分の割合が40質量%を超えると、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下してしまう。更に、飽和分に占める環状飽和分の割合が0.1質量%未満であると、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に、当該添加剤の溶解性が低下して潤滑油基油中に溶解保持される当該添加剤の有効量が低下し、当該添加剤の機能を有効に得ることができなくなる傾向にある。また、飽和分の含有量は100質量%でもよいが、製造コストの低減及び添加剤の溶解性の向上の点から、好ましくは99.9質量%以下、より好ましくは99.5質量%以下、更に好ましくは99質量%以下、特に好ましくは98.5質量%以下である。
【0080】
本発明にかかる潤滑油基油において、その飽和分に占める環状飽和分の割合が40質量%以下であることは、飽和分に占める非環状飽和分が60質量%以上であることと等価である。ここで、非環状飽和分には直鎖パラフィン分及び分枝パラフィン分の双方が包含される。本発明にかかる潤滑油基油に占める各パラフィン分の割合は特に制限されないが、分枝パラフィン分の割合は、潤滑油基油全量基準で、好ましくは55〜99質量%、より好ましくは57.5〜96質量%、更に好ましくは60〜95質量%、一層好ましくは70〜92質量%、特に好ましくは80〜90質量%である。潤滑油基油に占める分枝パラフィン分の割合が前記条件を満たすことにより、粘度−温度特性及び熱・酸化安定性をより向上させることができ、また、当該潤滑油基油に添加剤が配合された場合には、当該添加剤を十分に安定的に溶解保持しつつ、当該添加剤の機能を一層高水準で発現させることができる。また、潤滑油基油に占める直鎖パラフィン分の割合は、潤滑油基油全量基準で、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下、さらに好ましくは0.2質量%以下である。直鎖パラフィン分の割合が上記条件を満たすことで、より低温粘度特性に優れた潤滑油基油を得ることができる。
【0081】
また、本発明にかかる潤滑油基油において、飽和分に占める1環飽和分及び2環以上の飽和分の含有量はそれらの合計が40質量%以下である限りにおいて特に制限されないが、飽和分に占める2環以上の飽和分の割合は、0.1質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、3質量%以上であることがさらに好ましく、5質量%以上であることが特に好ましく、また、40質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることが更に好ましく、11質量%以下であることが特に好ましい。また、飽和分に占める1環飽和分の割合は0質量%であってもよいが、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは3質量%以上、特に好ましくは4質量%以上であり、また、好ましくは40質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは15質量%以下、特に好ましくは11質量%以下である。
【0082】
また、本発明にかかる潤滑油基油において、環状飽和分に含まれる1環飽和分の質量(M)と2環以上の飽和分の質量(M)との比(M/M)は、好ましくは20以下、より好ましくは3以下、更に好ましくは2以下、特に好ましくは1以下である。また、M/Mは0であってもよいが、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.3以上、更に好ましくは0.5以上である。M/Mが上記条件を満たすことにより、粘度−温度特性と熱・酸化安定性とを一層高水準で両立することができる。
【0083】
また、本発明にかかる潤滑油基油において、環状飽和分に含まれる1環飽和分の質量(M)と2環飽和分の質量(M)との比(M/M)は、好ましくは3以下、より好ましくは1.5以下、更に好ましくは1.3以下、特に好ましくは1.2以下である。また、M/Mは0であってもよいが、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.3以上、更に好ましくは0.5以上である。M/Mが上記条件を満たすことにより、粘度−温度特性と熱・酸化安定性とを一層高水準で両立することができる。
【0084】
なお、本発明でいう飽和分の含有量とは、ASTM D 2007−93に準拠して測定される値(単位:質量%)を意味する。
【0085】
また、本発明でいう飽和分に占める環状飽和分、1環飽和分、2環以上の飽和分及び非環状飽和分の割合とは、それぞれASTM D 2786−91に準拠して測定されるナフテン分(測定対象:1環〜6環ナフテン、単位:質量%)及びアルカン分(単位:質量%)を意味する。
【0086】
また、本発明でいう潤滑油基油中の直鎖パラフィン分とは、前記ASTM D 2007−93に記載された方法により分離・分取された飽和分について、以下の条件でガスクロマトグラフィ分析を行い、当該飽和分に占める直鎖パラフィン分を同定・定量したときの測定値を、潤滑油基油全量を基準として換算した値を意味する。なお、同定・定量の際には、標準試料として炭素数5〜50の直鎖パラフィンの混合試料が用いられ、飽和分に占める直鎖パラフィン分は、クロマトグラムの全ピーク面積値(希釈剤に由来するピークの面積値を除く)に対する各直鎖パラフィンに相当に相当するピーク面積値の合計の割合として求められる。
(ガスクロマトグラフィ条件)
カラム:液相無極性カラム(長さ25mm、内径0.3mmφ、液相膜厚さ0.1μm)
昇温条件:50℃〜400℃(昇温速度:10℃/min)
キャリアガス:ヘリウム(線速度:40cm/min)
スプリット比:90/1
試料注入量:0.5μL(二硫化炭素で20倍に希釈した試料の注入量)
【0087】
また、潤滑油基油中の分枝パラフィン分の割合とは、前記飽和分に占める非環状飽和分と前記飽和分に占める直鎖パラフィン分との差を、潤滑油基油全量を基準として換算した値を意味する。
【0088】
なお、飽和分の分離方法、あるいは環状飽和分、非環状飽和分等の組成分析の際には、同様の結果が得られる類似の方法を使用することができる。例えば、上記の他、ASTM D 2425−93に記載の方法、ASTM D 2549−91に記載の方法、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)による方法、あるいはこれらの方法を改良した方法等を挙げることができる。
【0089】
また、本発明にかかる潤滑油基油における芳香族分は、飽和分の含有量及び当該飽和分に占める環状飽和分の割合、並びに粘度指数及びヨウ素価が上記条件を満たすものであれば特に制限されないが、潤滑油基油全量を基準として、好ましくは7質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは4質量%以下、特に好ましくは3質量%以下であり、また、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1質量%以上、特に好ましくは1.5質量%以上である。芳香族分の含有量が上記上限値を超えると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性、更には揮発防止性及び低温粘度特性が低下する傾向にあり、更に、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。また、本発明にかかる潤滑油基油は芳香族分を含有しないものであってもよいが、芳香族分の含有量を上記下限値以上とすることにより、添加剤の溶解性を更に高めることができる。
【0090】
なお、本発明でいう芳香族分とは、ASTM D 2007−93に準拠して測定された値を意味する。芳香族分には、通常、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンの他、アントラセン、フェナントレン及びこれらのアルキル化物、更にはベンゼン環が四環以上縮合した化合物、ピリジン類、キノリン類、フェノール類、ナフトール類等のヘテロ原子を有する芳香族化合物などが含まれる。
【0091】
また、本発明にかかる潤滑油基油の粘度指数は、前述の通り110以上である。粘度指数が前記下限値未満であると、粘度−温度特性及び熱・酸化安定性、更には揮発防止性が低下する傾向にある。なお、本発明にかかる潤滑油基油の粘度指数の好ましい範囲は潤滑油基油の粘度グレードによるため、その詳細については後述する。
【0092】
また、本発明にかかる潤滑油基油のヨウ素価は、前述の通り2.5であり、好ましくは1.5以下、より好ましくは1以下、更に好ましくは0.8以下であり、また、0.01未満であってもよいが、それに見合うだけの効果が小さい点及び経済性との関係から、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.1以上、さらに好ましくは0.5以上である。潤滑油基油のヨウ素価を2.5以下とすることで、熱・酸化安定性を飛躍的に向上させることができる。なお、本発明でいう「ヨウ素価」とは、JIS K 0070「化学製品の酸価、ケン化価、ヨウ素価、水酸基価及び不ケン化価」の指示薬滴定法により測定したヨウ素価を意味する。
【0093】
本発明にかかる潤滑油基油のその他の性状は、飽和分の含有量及び当該飽和分に占める環状飽和分の割合、並びに粘度指数及びヨウ素価が上記条件を満たすものであれば特に制限されないが、本発明の潤滑油は以下に示す各種性状を有することが好ましい。
【0094】
本発明にかかる潤滑油基油は、下記式(2)で表される条件を満たすことが好ましい。
1.435≦n20−0.002×kv100≦1.453 (2)
[式中、n20は潤滑油基油の20℃における屈折率を示し、kv100は潤滑油基油の100℃における動粘度(mm/s)を示す。]
【0095】
更に、本発明にかかる潤滑油基油が飽和分を95質量%以上含有し、且つ該飽和分に占める環状飽和分の割合が0.1〜15質量%、好ましくは1〜10質量%である潤滑油である場合、n20−0.002×kv100は、好ましくは1.435〜1.450、より好ましくは1.440〜1.449、更に好ましくは1.442〜1.448、特に好ましくは1.444〜1.447である。このような性状を有する潤滑油基油を製造するには、水素化分解及び/又は水素化異性化工程に導入する原料として、前記した合成ワックス及び/又はスラックワックスを主成分とする原料を使用することが好ましく、前記した合成ワックス及び/又はスラックワックスAを主成分とする原料を使用することがより好ましい。また、この場合、前記した潤滑油基油に占める分枝パラフィンの割合は、より好ましくは95〜99質量%、さらに好ましくは97〜99質量%であり、前記したスラックワックスAを原料として得られる潤滑油基油の場合、潤滑油基油に占める分枝パラフィンの割合は、より好ましくは82〜98質量%、さらに好ましくは90〜95質量%である。
【0096】
また、本発明にかかる潤滑油基油が飽和分を90質量%以上含有し、且つ該飽和分に占める環状飽和分の割合が5〜40質量%、好ましくは10〜25質量%である潤滑油基油である場合、n20−0.002×kv100は、1.435〜1.453であり、好ましくは1.440〜1.452、より好ましくは1.442〜1.451、更に好ましくは1.444〜1.450である。このような性状を有する潤滑油基油を製造するには、水素化分解及び/又は水素化異性化工程に導入する原料として、前記した合成ワックス及び/又はスラックワックスを主成分とする原料を使用することが好ましく、前記したスラックワックスBを主成分とする原料を使用することがより好ましい。また、この場合、前記した潤滑油基油に占める分枝パラフィンの割合は、より好ましくは54〜95質量%、さらに好ましくは58〜92質量%、さらに好ましくは70〜90質量%、特に好ましくは80〜90質量%である。
【0097】
20−0.002×kv100を前記範囲内とすることにより、粘度−温度特性及び熱・酸化安定性を一層高水準で両立することができ、また、当該潤滑油基油に添加剤が配合された場合には、当該添加剤を潤滑油基油中に十分に安定的に溶解保持しつつ、当該添加剤の機能をより高水準で発現させることができる。更に、n20−0.002×kv100を前記範囲内とすることにより、潤滑油基油自体の摩擦特性を改善することができ、その結果、摩擦低減効果の向上、ひいては省エネルギー性の向上を達成することができる。
【0098】
なお、n20−0.002×kv100が前記上限値を超えると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性が不十分となり、更には、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。また、n20−0.002×kv100が前記下限値未満であると、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に、当該添加剤の溶解性が不十分となり、潤滑油基油中に溶解保持される当該添加剤の有効量が低下するため、当該添加剤の機能を有効に得ることができなくなる傾向にある。
【0099】
なお、本発明でいう20℃における屈折率(n20)とは、ASTM D1218−92に準拠して20℃において測定される屈折率を意味する。また、本発明でいう100℃における動粘度(kv100)とは、JIS K 2283−1993に準拠して100℃において測定される動粘度を意味する。
【0100】
また、本発明にかかる潤滑油基油の%Cは、好ましくは80以上、より好ましくは82〜99、更に好ましくは85〜95、特に好ましくは87〜93である。潤滑油基油の%Cが上記下限値未満の場合、粘度−温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性が低下する傾向にあり、更に、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。また、潤滑油基油の%Cが上記上限値を超えると、添加剤の溶解性が低下する傾向にある。
【0101】
また、本発明にかかる潤滑油基油の%Cは、好ましくは3〜19、より好ましくは5〜15、更に好ましくは7〜13、特に好ましくは7.5〜12である。潤滑油基油の%Cが上記上限値を超えると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性が低下する傾向にある。また、%Cが上記下限値未満であると、添加剤の溶解性が低下する傾向にある。
【0102】
また、本発明にかかる潤滑油基油の%Cは、好ましくは5以下、より好ましくは2以下、より好ましくは1.5以下、更に好ましくは1以下である。潤滑油基油の%Cが上記上限値を超えると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性が低下する傾向にある。また、本発明にかかる潤滑油基油の%Cは0であってもよいが、%Cを0.1以上とすることにより、添加剤の溶解性を更に高めることができる。
【0103】
更に、本発明にかかる潤滑油基油における%Cと%Cとの比率は、%C/%Cが5以上であることが好ましく、6以上であることがより好ましく、7以上であることが更に好ましい。%C/%Cが上記下限値未満であると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性及び摩擦特性が低下する傾向にあり、更に、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。また、%C/%Cは、35以下であることが好ましく、20以下であることがより好ましく、14以下であることがさらに好ましく、13以下であることが特に好ましい。%C/%Cを上記上限値以下とすることにより、添加剤の溶解性を更に高めることができる。
【0104】
なお、本発明でいう%C、%C及び%Cとは、それぞれASTM D 3238−85に準拠した方法(n−d−M環分析)により求められる、パラフィン炭素数の全炭素数に対する百分率、ナフテン炭素数の全炭素数に対する百分率、及び芳香族炭素数の全炭素数に対する百分率を意味する。つまり、上述した%C、%C及び%Cの好ましい範囲は上記方法により求められる値に基づくものであり、例えばナフテン分を含まない潤滑油基油であっても、上記方法により求められる%Cが0を超える値を示すことがある。
【0105】
また、本発明にかかる潤滑油基油における硫黄分の含有量は、その原料の硫黄分の含有量に依存する。例えば、フィッシャートロプシュ反応等により得られる合成ワックス成分のように実質的に硫黄を含まない原料を用いる場合には、実質的に硫黄を含まない潤滑油基油を得ることができる。また、潤滑油基油の精製過程で得られるスラックワックスや精ろう過程で得られるマイクロワックス等の硫黄を含む原料を用いる場合には、得られる潤滑油基油中の硫黄分は通常100質量ppm以上となる。本発明にかかる潤滑油基油においては、熱・酸化安定性の更なる向上及び低硫黄化の点から、硫黄分の含有量が100質量ppm以下であることが好ましく、50質量ppm以下であることがより好ましく、10質量ppm以下であることが更に好ましく、5質量ppm以下であることが特に好ましい。
【0106】
また、コスト低減の点からは、原料としてスラックワックス等を使用することが好ましく、その場合、得られる潤滑油基油中の硫黄分は50質量ppm以下が好ましく、10質量ppm以下であることがより好ましい。なお、本発明でいう硫黄分とは、JIS K 2541−1996に準拠して測定される硫黄分を意味する。
【0107】
また、本発明にかかる潤滑油基油における窒素分の含有量は、特に制限されないが、好ましくは5質量ppm以下、より好ましくは3質量ppm以下、更に好ましくは1質量ppm以下である。窒素分の含有量が5質量ppmを超えると、熱・酸化安定性が低下する傾向にある。なお、本発明でいう窒素分とは、JIS K 2609−1990に準拠して測定される窒素分を意味する。
【0108】
また、本発明にかかる潤滑油基油の動粘度は、飽和分の含有量及び当該飽和分に占める環状飽和分の割合、並びに粘度指数及びヨウ素価がそれぞれ上記条件を満たす限りにおいて特に制限されないが、その100℃における動粘度は、好ましくは1.5〜20mm/s、より好ましくは2.0〜11mm/sである。潤滑油基油の100℃における動粘度が1.5mm/s未満の場合、蒸発損失の点で好ましくない。また、100℃における動粘度が20mm/sを超える潤滑油基油を得ようとする場合、その収率が低くなり、原料として重質ワックスを用いる場合であっても分解率を高めることが困難となるため好ましくない。
【0109】
本発明においては、100℃における動粘度が下記の範囲にある潤滑油基油を蒸留等により分取し、使用することが好ましい。
(I)100℃における動粘度が1.5mm/s以上3.5mm/s未満、より好ましくは2.0〜3.0mm/sの潤滑油基油
(II)100℃における動粘度が3.0mm/s以上4.5mm/s未満、より好ましくは3.5〜4.1mm/sの潤滑油基油
(III)100℃における動粘度が4.5〜20mm/s、より好ましくは4.8〜11mm/s、特に好ましくは5.5〜8.0mm/sの潤滑油基油。
【0110】
また、本発明にかかる潤滑油基油の40℃における動粘度は、好ましくは6.0〜80mm/s、より好ましくは8.0〜50mm/sである。本発明においては、40℃における動粘度が下記の範囲にある潤滑油留分を蒸留等により分取し、使用することが好ましい。
(IV)40℃における動粘度が6.0mm/s以上12mm/s未満、より好ましくは8.0〜12mm/sの潤滑油基油
(V)40℃における動粘度が12mm/s以上28mm/s未満、より好ましくは13〜19mm/sの潤滑油基油
(VI)40℃における動粘度が28〜50mm/s、より好ましくは29〜45mm/s、特に好ましくは30〜40mm/sの潤滑油基油。
【0111】
上記潤滑油基油(I)及び(IV)は、飽和分の含有量及び当該飽和分に占める環状飽和分の割合、並びに粘度指数及びヨウ素価がそれぞれ上記条件を満たすことで、粘度グレードが同じ従来の潤滑油基油と比較して、特に、低温粘度特性に優れ、粘性抵抗や撹拌抵抗を著しく低減することができる。また、流動点降下剤を配合することにより、−40℃におけるBF粘度を2000mPa・s以下とすることができる。なお、−40℃におけるBF粘度とは、JPI−5S−26−99に準拠して測定された粘度を意味する。
【0112】
また、上記潤滑油基油(II)及び(V)は、飽和分の含有量及び当該飽和分に占める環状飽和分の割合、並びに粘度指数及びヨウ素価がそれぞれ上記条件を満たすことで、粘度グレードが同じ従来の潤滑油基油と比較して、特に、低温粘度特性、揮発防止性及び潤滑性に優れる。例えば、潤滑油基油(II)及び(V)においては、−35℃におけるCCS粘度を3000mPa・s以下とすることができる。
【0113】
また、上記潤滑油基油(III)及び(VI)は、飽和分の含有量及び当該飽和分に占める環状飽和分の割合、並びに粘度指数及びヨウ素価がそれぞれ上記条件を満たすことで、粘度グレードが同じ従来の潤滑油基油と比較して、低温粘度特性、揮発防止性、熱・酸化安定性及び潤滑性に優れる。
【0114】
本発明にかかる潤滑油基油の粘度指数は、潤滑油基油の粘度グレードにもよるが、上記潤滑油基油(I)〜(VI)のいずれの場合にも粘度指数を110以上とすることができる。上記潤滑油(I)及び(IV)の粘度指数は、好ましくは110〜135、より好ましくは115〜130、さらに好ましくは120〜130である。また、上記潤滑油基油(II)及び(V)の粘度指数は、好ましくは125〜160、より好ましくは130〜150、更に好ましくは135〜150である。また、上記潤滑油基油(III)及び(VI)の粘度指数は、好ましくは135〜180、より好ましくは140〜160である。粘度指数が前記下限値未満であると、粘度−温度特性及び熱・酸化安定性、更には揮発防止性が低下する傾向にある。また、粘度指数が前記上限値を超えると、低温粘度特性が低下する傾向にある。
【0115】
なお、本発明でいう粘度指数とは、JIS K 2283−1993に準拠して測定された粘度指数を意味する。
【0116】
また、本発明にかかる潤滑油基油の20℃における屈折率は、潤滑油基油の粘度グレードにもよるが、例えば、上記潤滑油基油(I)及び(IV)の20℃における屈折率は、好ましくは1.440〜1.461、より好ましくは1.442〜1.460、更に好ましくは1.445〜1.459である。また、上記潤滑油基油(II)及び(V)の20℃における屈折率は、好ましくは1.450〜1.465、より好ましくは1.452〜1.463、更に好ましくは1.453〜1.462である。また、上記潤滑油基油(III)及び(VI)の20℃における屈折率は、好ましくは1.455〜1.469、より好ましくは1.456〜1.468、更に好ましくは1.457〜1.467である。屈折率が前記上限値を超えると、その潤滑油基油の粘度−温度特性及び熱・酸化安定性、更には揮発防止性及び低温粘度特性が低下する傾向にあり、また、当該潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。
【0117】
また、本発明にかかる潤滑油基油の流動点は、潤滑油基油の粘度グレードにもよるが、例えば、上記潤滑油基油(I)及び(IV)の流動点は、好ましくは−10℃以下、より好ましくは−12.5℃以下、更に好ましくは−15℃以下である。また、上記潤滑油基油(II)及び(V)の流動点は、好ましくは−10℃以下、より好ましくは−15℃以下、更に好ましくは−17.5℃以下である。また、上記潤滑油基油(III)及び(VI)の流動点は、好ましくは−10℃以下、より好ましくは−12.5℃以下、更に好ましくは−15℃以下である。流動点が前記上限値を超えると、その潤滑油基油を用いた潤滑油全体の低温流動性が低下する傾向にある。なお、本発明でいう流動点とは、JIS K 2269−1987に準拠して測定された流動点を意味する。
【0118】
また、本発明にかかる潤滑油基油の−35℃におけるCCS粘度は、潤滑油基油の粘度グレードにもよるが、例えば、上記潤滑油基油(I)及び(IV)の−35℃におけるCCS粘度は、好ましくは1000mPa・s以下である。また、上記潤滑油基油(II)及び(V)の−35℃におけるCCS粘度は、好ましくは3000mPa・s以下、より好ましくは2400mPa・s以下、更に好ましくは2200mPa・s以下、特に好ましくは2000mPa・s以下である。また、上記潤滑油基油(III)及び(VI)の−35℃におけるCCS粘度は、好ましくは15000mPa・s以下、より好ましくは10000mPa・s以下、更に好ましくは8000mPa・s以下である。−35℃におけるCCS粘度が前記上限値を超えると、その潤滑油基油を用いた潤滑油全体の低温流動性が低下する傾向にある。なお、本発明でいう−35℃におけるCCS粘度とは、JIS K 2010−1993に準拠して測定された粘度を意味する。
【0119】
また、本発明にかかる潤滑油基油の15℃における密度(ρ15、単位:g/cm)は、潤滑油基油の粘度グレードによるが、下記式(3)で表されるρの値以下であること、すなわちρ15≦ρであることが好ましい。
ρ=0.0025×kv100+0.820 (3)
[式中、kv100は潤滑油基油の100℃における動粘度(mm/s)を示す。]
【0120】
なお、ρ15>ρとなる場合、粘度−温度特性及び熱・酸化安定性、更には揮発防止性及び低温粘度特性が低下する傾向にあり、また、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。
【0121】
例えば、上記潤滑油基油(I)及び(IV)のρ15は、好ましくは0.825g/cm以下、より好ましくは0.820g/cm以下である。また、上記潤滑油基油(II)及び(V)のρ15は、好ましくは0.835g/cm以下、より好ましくは0.830g/cm以下である。また、上記潤滑油基油(III)及び(VI)のρ15は、好ましくは0.840g/cm以下、より好ましくは0.835g/cm以下である。
【0122】
なお、本発明でいう15℃における密度とは、JIS K 2249−1995に準拠して15℃において測定された密度を意味する。
【0123】
また、本発明にかかる潤滑油基油のアニリン点(AP(℃))は、潤滑油基油の粘度グレードによるが、下記式(4)で表されるAの値以上であること、すなわちAP≧Aであることが好ましい。
A=4.1×kv100+97 (4)
[式中、kv100は潤滑油基油の100℃における動粘度(mm/s)を示す。]
【0124】
なお、AP<Aとなる場合、粘度−温度特性及び熱・酸化安定性、更には揮発防止性及び低温粘度特性が低下する傾向にあり、また、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。
【0125】
例えば、上記潤滑油基油(I)及び(IV)のAPは、好ましくは108℃以上、より好ましくは110℃以上、更に好ましくは112℃以上である。また、上記潤滑油基油(II)及び(V)のAPは、好ましくは113℃以上、より好ましくは116℃以上、更に好ましくは118℃以上、特に好ましくは120℃以上である。また、上記潤滑油基油(III)及び(VI)のAPは、好ましくは125℃以上、より好ましくは127℃以上、更に好ましくは128℃以上である。なお、本発明でいうアニリン点とは、JIS K 2256−1985に準拠して測定されたアニリン点を意味する。
【0126】
また、本発明にかかる潤滑油基油のNOACK蒸発量は、特に制限されないが、例えば、上記潤滑油基油(I)及び(IV)のNOACK蒸発量は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは25質量%以上、更に好ましくは30以上であり、また、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下、更に好ましくは42質量%以下である。また、上記潤滑油基油(II)及び(V)のNOACK蒸発量は、好ましくは6質量%以上、より好ましくは8質量%以上、更に好ましくは10質量%以上であり、また、好ましくは20質量%以下、より好ましくは16質量%以下、更に好ましくは15質量%以下、特に好ましくは14質量%以下である。また、上記潤滑油基油(III)及び(VI)のNOACK蒸発量は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上であり、また、好ましくは8質量%以下、より好ましくは6質量%以下、更に好ましくは4質量%以下である。NOACK蒸発量が前記下限値の場合、低温粘度特性の改善が困難となる傾向にある。また、NOACK蒸発量がそれぞれ前記上限値を超えると、潤滑油基油を内燃機関用潤滑油等に用いた場合に、潤滑油の蒸発損失量が多くなり、それに伴い触媒被毒が促進されるため好ましくない。なお、本発明でいうNOACK蒸発量とは、ASTM D 5800−95に準拠して測定された蒸発損失量を意味する。
【0127】
また、本発明にかかる潤滑油基油の蒸留性状は、ガスクロマトグラフィ蒸留で、初留点(IBP)が290〜440℃、終点(FBP)が430〜580℃であることが好ましく、かかる蒸留範囲にある留分から選ばれる1種又は2種以上の留分を精留することにより、上述した好ましい粘度範囲を有する潤滑油基油(I)〜(III)及び(IV)〜(VI)を得ることができる。
【0128】
例えば、上記潤滑油基油(I)及び(IV)の蒸留性状に関し、その初留点(IBP)は、好ましくは260〜360℃、より好ましくは300〜350℃、更に好ましくは310〜350℃である。また、10%留出温度(T10)は、好ましくは320〜400℃、より好ましくは340〜390℃、更に好ましくは350〜380℃である。また、50%留出点(T50)は、好ましくは350〜430℃、より好ましくは360〜410℃、更に好ましくは370〜400℃である。また、90%留出点(T90)は、好ましくは380〜460℃、より好ましくは390〜450℃、更に好ましくは400〜440℃である。また、終点(FBP)は、好ましくは420〜520℃、より好ましくは430〜500℃、更に好ましくは440〜480℃である。また、T90−T10は、好ましくは50〜100℃、より好ましくは55〜85℃、更に好ましくは60〜70℃である。また、FBP−IBPは、好ましくは100〜250℃、より好ましくは110〜220℃、更に好ましくは120〜200℃である。また、T10−IBPは、好ましくは10〜80℃、より好ましくは15〜60℃、更に好ましくは20〜50℃である。また、FBP−T90は、好ましくは10〜80℃、より好ましくは15〜70℃、更に好ましくは20〜60℃である。
【0129】
また、上記潤滑油基油(II)及び(V)の蒸留性状に関し、その初留点(IBP)は、好ましくは300〜380℃、より好ましくは320〜370℃、更に好ましくは330〜360℃である。また、10%留出温度(T10)は、好ましくは340〜420℃、より好ましくは350〜410℃、更に好ましくは360〜400℃である。また、50%留出点(T50)は、好ましくは380〜460℃、より好ましくは390〜450℃、更に好ましくは400〜460℃である。また、90%留出点(T90)は、好ましくは440〜500℃、より好ましくは450〜490℃、更に好ましくは460〜480℃である。また、終点(FBP)は、好ましくは460〜540℃、より好ましくは470〜530℃、更に好ましくは480〜520℃である。また、T90−T10は、好ましくは50〜100℃、より好ましくは60〜95℃、更に好ましくは80〜90℃である。また、FBP−IBPは、好ましくは100〜250℃、より好ましくは120〜180℃、更に好ましくは130〜160℃である。また、T10−IBPは、好ましくは10〜70℃、より好ましくは15〜60℃、更に好ましくは20〜50℃である。また、FBP−T90は、好ましくは10〜50℃、より好ましくは20〜40℃、更に好ましくは25〜35℃である。
【0130】
また、上記潤滑油基油(III)及び(VI)の蒸留性状に関し、その初留点(IBP)は、好ましくは320〜480℃、より好ましくは350〜460℃、更に好ましくは380〜440℃である。また、10%留出温度(T10)は、好ましくは420〜500℃、より好ましくは430〜480℃、更に好ましくは440〜460℃である。また、50%留出点(T50)は、好ましくは440〜520℃、より好ましくは450〜510℃、更に好ましくは460〜490℃である。また、90%留出点(T90)は、好ましくは470〜550℃、より好ましくは480〜540℃、更に好ましくは490〜520℃である。また、終点(FBP)は、好ましくは500〜580℃、より好ましくは510〜570℃、更に好ましくは520〜560℃である。また、T90−T10は、好ましくは50〜120℃、より好ましくは55〜100℃、更に好ましくは55〜90℃である。また、FBP−IBPは、好ましくは100〜250℃、より好ましくは110〜220℃、更に好ましくは115〜200℃である。また、T10−IBPは、好ましくは10〜100℃、より好ましくは15〜90℃、更に好ましくは20〜50℃である。また、FBP−T90は、好ましくは10〜50℃、より好ましくは20〜40℃、更に好ましくは25〜35℃である。
【0131】
潤滑油基油(I)〜(VI)のそれぞれにおいて、IBP、T10、T50、T90、FBP、T90−T10、FBP−IBP、T10−IBP、FBP−T90を上記の好ましい範囲に設定することで、低温粘度の更なる改善と、蒸発損失の更なる低減とが可能となる。なお、T90−T10、FBP−IBP、T10−IBP及びFBP−T90のそれぞれについては、それらの蒸留範囲を狭くしすぎると、潤滑油基油の収率が悪化し、経済性の点で好ましくない。
【0132】
なお、本発明でいう、IBP、T10、T50、T90及びFBPとは、それぞれASTM D 2887−97に準拠して測定される留出点を意味する。
【0133】
また、本発明にかかる潤滑油基油における残存金属分は、製造プロセス上余儀なく混入する触媒や原料に含まれる金属分に由来するものであるが、かかる残存金属分は十分除去されることが好ましい。例えば、Al、Mo、Niの含有量は、それぞれ1質量ppm以下であることが好ましい。これらの金属分の含有量が上記上限値を超えると、潤滑油基油に配合される添加剤の機能が阻害される傾向にある。
【0134】
なお、本発明でいう残存金属分とは、JPI−5S−38−2003に準拠して測定される金属分を意味する。
【0135】
また、本発明にかかる潤滑油基油によれば、飽和分の含有量及び当該飽和分に占める環状飽和分の割合、並びに粘度指数及びヨウ素価がそれぞれ上記条件を満たすことにより、優れた熱・酸化安定性を達成することができるが、その動粘度に応じて以下に示すRBOT寿命を示すことが好ましい。例えば、上記潤滑油基油(I)及び(IV)のRBOT寿命は、好ましくは300min以上、より好ましくは320min以上、更に好ましくは330min以上である。また、上記潤滑油基油(II)及び(V)のRBOT寿命は、好ましくは350min以上、より好ましくは370min以上、更に好ましくは380min以上である。また、上記潤滑油基油(III)及び(VI)のRBOT寿命は、好ましくは400min以上、より好ましくは410min以上、更に好ましくは420min以上である。RBOT寿命がそれぞれ前記下限値未満の場合、潤滑油基油の粘度−温度特性及び熱・酸化安定性が低下する傾向にあり、更に、潤滑油基油に添加剤が配合された場合には当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。
【0136】
なお、本発明でいうRBOT寿命とは、潤滑油基油にフェノール系酸化防止剤(2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール;DBPC)を0.2質量%添加した組成物について、JIS K 2514−1996に準拠して測定されたRBOT値を意味する。
【0137】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物においては、上記本発明にかかる潤滑油基油を単独で用いてもよく、また、本発明にかかる潤滑油基油を他の基油の1種又は2種以上と併用してもよい。なお、本発明にかかる潤滑油基油と他の基油とを併用する場合、それらの混合基油中に占める本発明にかかる潤滑油基油の割合は、30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることが更に好ましい。
【0138】
本発明にかかる潤滑油基油と併用される他の基油としては、特に制限されないが、鉱油系基油としては、例えば100℃における動粘度が1〜100mm/sの溶剤精製鉱油、水素化分解鉱油、水素化精製鉱油、溶剤脱ろう基油などが挙げられる。
【0139】
また、合成系基油としては、ポリα−オレフィン又はその水素化物、イソブテンオリゴマー又はその水素化物、イソパラフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ジエステル(ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート等)、ポリオールエステル(トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等)、ポリオキシアルキレングリコール、ジアルキルジフェニルエーテル、ポリフェニルエーテル等が挙げられ、中でも、ポリα−オレフィンが好ましい。ポリα−オレフィンとしては、典型的には、炭素数2〜32、好ましくは6〜16のα−オレフィンのオリゴマー又はコオリゴマー(1−オクテンオリゴマー、デセンオリゴマー、エチレン−プロピレンコオリゴマー等)及びそれらの水素化物が挙げられる。
【0140】
ポリα−オレフィンの製法は特に制限されないが、例えば、三塩化アルミニウム又は三フッ化ホウ素と、水、アルコール(エタノール、プロパノール、ブタノール等)、カルボン酸またはエステルとの錯体を含むフリーデル・クラフツ触媒のような重合触媒の存在下、α−オレフィンを重合する方法が挙げられる。
【0141】
また、本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、(A)成分として、リン系摩耗防止剤を含有する。リン系摩耗防止剤としては、構成元素として硫黄を含まないリン系摩耗防止剤、リン及び硫黄の双方を含む摩耗防止剤(リン−硫黄系摩耗防止剤)などが挙げられる。
【0142】
構成元素として硫黄を含まないリン系摩耗防止剤としては、リン酸、亜リン酸、リン酸エステル類(リン酸モノエステル類、リン酸ジエステル類及びリン酸トリエステル類を含む)、亜リン酸エステル類(亜リン酸モノエステル類、亜リン酸ジエステル類及び亜リン酸トリエステル類を含む)、及びこれらの塩(アミン塩又は金属塩)が挙げられる。リン酸エステル類及び亜リン酸エステル類としては、通常炭素数2〜30、好ましくは炭素数3〜20の炭化水素基を有するものが用いられる。
【0143】
また、リン−硫黄系極圧剤としては、チオリン酸、チオ亜リン酸、チオリン酸エステル類(チオリン酸モノエステル類、チオリン酸ジエステル類、チオリン酸トリエステル類を含む)、チオ亜リン酸エステル類(チオ亜リン酸モノエステル類、チオ亜リン酸ジエステル類、チオ亜リン酸トリエステル類を含む)、及びこれらの塩、並びにジチオリン酸亜鉛等が挙げられる。チオリン酸エステル類及びチオ亜リン酸エステル類としては、通常炭素数2〜30、好ましくは炭素数3〜20の炭化水素基を有するものが用いられる。
【0144】
リン系摩耗防止剤としては、下記一般式(4−a)で表されるリン化合物、下記一般式(4−b)で表されるリン化合物、及びそれらの金属塩(但し、タングステン塩は除く)又はアミン塩から選ばれる少なくとも1種のリン系摩耗防止剤が好ましい。
【0145】
【化1】


[式中、Rは炭素数1〜30の炭化水素基を示し、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を示し、X、X及びXはそれぞれ酸素原子又は硫黄原子を示し、pは0又は1を示す。]
【0146】
【化2】


[式中、Rは炭素数1〜30の炭化水素基を示し、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を示し、X、X、X及びXはそれぞれ酸素原子又は硫黄原子を示し、qは0又は1を示す。]
【0147】
上記一般式(4−a)、(4−b)中、R〜Rで表される炭素数1〜30の炭化水素基としては、具体的には、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキル置換シクロアルキル基、アリール基、アルキル置換アリール基、及びアリールアルキル基を挙げることができる。
【0148】
上記アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等のアルキル基(これらアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい)を挙げることができる。
【0149】
上記シクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等の炭素数5〜7のシクロアルキル基を挙げることができる。また上記アルキルシクロアルキル基としては、例えば、メチルシクロペンチル基、ジメチルシクロペンチル基、メチルエチルシクロペンチル基、ジエチルシクロペンチル基、メチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基、メチルエチルシクロヘキシル基、ジエチルシクロヘキシル基、メチルシクロヘプチル基、ジメチルシクロヘプチル基、メチルエチルシクロヘプチル基、ジエチルシクロヘプチル基等の炭素数6〜11のアルキルシクロアルキル基(アルキル基のシクロアルキル基への置換位置も任意である)を挙げることができる。
【0150】
上記アルケニル基としては、例えば、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基等のアルケニル基(これらアルケニル基は直鎖状でも分枝状でもよく、また二重結合の位置も任意である)を挙げることができる。
【0151】
上記アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基等のアリール基を挙げることができる。また上記アルキルアリール基としては、例えば、トリル基、キシリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、ヘプチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ウンデシルフェニル基、ドデシルフェニル基等の炭素数7〜18のアルキルアリール基(アルキル基は直鎖状でも分枝状でもよく、またアリール基への置換位置も任意である)を挙げることができる。
【0152】
上記アリールアルキル基としては、例えばベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基、フェニルペンチル基、フェニルヘキシル基等の炭素数7〜12のアリールアルキル基(これらアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい)を挙げることができる。
【0153】
上記R〜Rで表される炭素数1〜30の炭化水素基は、炭素数1〜30のアルキル基又は炭素数6〜24のアリール基であることが好ましく、更に好ましくは炭素数3〜18、更に好ましくは炭素数4〜12のアルキル基である。
【0154】
一般式(4−a)で表されるリン化合物としては、例えば、上記炭素数1〜30の炭化水素基を1つ有する亜リン酸モノエステル、モノチオ亜リン酸モノエステル、ジチオ亜リン酸モノエステル、(ヒドロカルビル)亜ホスホン酸、(ヒドロカルビル)モノチオ亜ホスホン酸、(ヒドロカルビル)ジチオホスホン酸;上記炭素数1〜30の炭化水素基を2つ有する亜リン酸ジエステル、モノチオ亜リン酸ジエステル、ジチオ亜リン酸ジエステル、(ヒドロカルビル)亜ホスホン酸モノエステル、(ヒドロカルビル)モノチオ亜ホスホン酸モノエステル、(ヒドロカルビル)ジチオ亜ホスホン酸モノエステル;上記炭素数1〜30の炭化水素基を3つ有する亜リン酸トリエステル、モノチオ亜リン酸トリエステル、ジチオ亜リン酸トリエステル、(ヒドロカルビル)亜ホスホン酸ジエステル、(ヒドロカルビル)モノチオ亜ホスホン酸ジエステル、(ヒドロカルビル)ジチオ亜ホスホン酸ジエステル;及びこれらの混合物などが挙げられる。
【0155】
本発明において、一般式(4−a)で表される化合物としては、X〜Xの少なくとも1つが酸素原子である化合物が好ましく、X〜Xの全てが酸素原子である化合物、すなわち下記一般式(4−c)で表される化合物がより好ましい。
【0156】
【化3】


[式中、Rは炭素数1〜30の炭化水素基を示し、R及びRは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を示し、pは0又は1を示す。]
【0157】
一般式(4−b)で表されるリン化合物としては、例えば、上記炭素数1〜30の炭化水素基を1つ有するリン酸モノエステル、モノチオリン酸モノエステル、ジチオリン酸モノエステル、(ヒドロカルビル)ホスホン酸、(ヒドロカルビル)モノチオホスホン酸、(ヒドロカルビル)ジチオホスホン酸;上記炭素数1〜30の炭化水素基を2つ有するリン酸ジエステル、モノチオリン酸ジエステル、ジチオリン酸ジエステル、(ヒドロカルビル)ホスホン酸モノエステル、(ヒドロカルビル)モノチオホスホン酸モノエステル、(ヒドロカルビル)ジチオホスホン酸モノエステル;上記炭素数1〜30の炭化水素基を3つ有するリン酸トリエステル、モノチオリン酸トリエステル、ジチオリン酸トリエステル、(ヒドロカルビル)ホスホン酸ジエステル、(ヒドロカルビル)モノチオホスホン酸ジエステル(ヒドロカルビル)ジチオホスホン酸ジエステル;及びこれらの混合物などが挙げられる。
【0158】
本発明において、一般式(4−b)で表される化合物としては、X〜Xの少なくとも2つが酸素原子である化合物が好ましく、X〜Xの全てが酸素原子である化合物、すなわち下記一般式(4−d)で表される化合物がより好ましい。
【0159】
【化4】


[式中、Rは炭素数1〜30の炭化水素基を示し、R及びRは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を示し、qは0又は1を示す。]
【0160】
また、一般式(4−a)又は(4−b)で表されるリン化合物の金属塩又はアミン塩は、一般式(4−a)又は(4−b)で表されるリン化合物に、金属酸化物、金属水酸化物、金属炭酸塩、金属塩化物等の金属塩基、アンモニア、炭素数1〜30の炭化水素基又はヒドロキシル基含有炭化水素基のみを分子中に有するアミン化合物等の窒素化合物などを作用させて、残存する酸性水素の一部又は全部を中和することにより得ることができる。
【0161】
上記金属塩基における金属としては、具体的には、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム、バリウム等のアルカリ土類金属、亜鉛、銅、鉄、鉛、ニッケル、銀、モリブデン、マンガン等の重金属等が挙げられる。これらの中ではカルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属、モリブデン及び亜鉛が好ましく、亜鉛が特に好ましい。
【0162】
なお、上記リン化合物の金属塩は、金属の価数あるいはリン化合物のOH基又はSH基の数に応じてその構造が異なり、したがって、リン化合物の金属塩の構造については何ら限定されない。例えば、酸化亜鉛1molとリン酸ジエステル(OH基が1つの化合物)2molを反応させた場合、下記式(4−e)で表わされる構造の化合物が主成分として得られると考えられるが、ポリマー化した分子も存在していると考えられる。
【0163】
【化5】


[式中、Rはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を示す。]
【0164】
また、例えば、酸化亜鉛1molとリン酸モノエステル(OH基が2つの化合物)1molとを反応させた場合、下記式(4−f)で表わされる構造の化合物が主成分として得られると考えられるが、ポリマー化した分子も存在していると考えられる。
【0165】
【化6】


[式中、Rは水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を示す。]
【0166】
また、上記窒素化合物としては、具体的には、上記タングステン−アミン錯体の説明において例示されたモノアミン、ジアミン、ポリアミン、アルカノールアミン等が挙げられる。また、N−ヒドロキシエチルオレイルイミダゾリン等の複素環化合物、アミン化合物へのアミンアルキレンオキシド付加物等を用いることもできる。
【0167】
これら窒素化合物の中でもデシルアミン、ドデシルアミン、トリデシルアミン、ヘプタデシルアミン、オクタデシルアミン、オレイルアミン及びステアリルアミン等の炭素数10〜20のアルキル基又はアルケニル基を有する脂肪族アミン(これらは直鎖状でも分枝状でもよい)が好ましい例として挙げることができる。
【0168】
本発明において、上記リン系摩耗防止剤は、1種を単独で用いてもよく、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0169】
本発明にかかるリン系摩耗防止剤としては、上記一般式(4−c)又は(4−d)で表されるリン化合物又はその金属塩が好ましく、中でも、炭素数3〜18のアルキル基又はアリール基を2個有する亜リン酸ジエステルと亜鉛又はカルシウムとの塩、炭素数3〜18のアルキル基又はアリール基、好ましくは炭素数6〜12のアルキル基を3個有する亜リン酸トリエステル、炭素数3〜18のアルキル基又はアリール基を1個有するリン酸のモノエステルと亜鉛又はカルシウムとの塩、炭素数3〜18のアルキル基又はアリール基を2個有するリン酸のジエステルと亜鉛又はカルシウムとの塩、あるいは炭素数3〜18のアルキル基又はアリール基、好ましくは炭素数6〜12のアルキル基を3個有するリン酸トリエステル、炭素数1〜18のアルキル基又はアリール基を1個有する(ヒドロカルビル)亜ホスホン酸と亜鉛又はカルシウムとの塩、炭素数1〜18のアルキル基又はアリール基を2個有する(ヒドロカルビル)亜ホスホン酸モノエステルと亜鉛又はカルシウムとの塩、炭素数1〜18のアルキル基又はアリール基を3個有する(ヒドロカルビル)亜ホスホン酸ジエステル、炭素数1〜18のアルキル基又はアリール基を1個有する(ヒドロカルビル)ホスホン酸と亜鉛又はカルシウムとの塩、炭素数1〜18のアルキル基又はアリール基を2個有する(ヒドロカルビル)ホスホン酸モノエステルと亜鉛又はカルシウムとの塩、炭素数1〜18のアルキル基又はアリール基を3つ有する(ヒドロカルビル)ホスホン酸ジエステルが好ましい。
【0170】
上記の(ヒドロカルビル)(亜)ホスホン酸、その金属塩、(ヒドロカルビル)(亜)ホスホン酸モノエステル、その金属塩、並びに(ヒドロカルビル)(亜)ホスホン酸ジエステルとしては、油溶性及び極圧性の点から、炭化水素基の合計炭素数が12〜30であることが好ましく、14〜24であることがより好ましく、16〜20であることが更に好ましい。
【0171】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物において、リン系摩耗防止剤の含有量は、組成物全量を基準として、リン元素換算で、前述の通り0.02〜0.08質量%であり、好ましくは0.02〜0.06質量%、特に好ましくは0.04〜0.05質量%である。リン系摩耗防止剤の含有量が、リン元素換算で0.02質量%未満の場合は、摩耗防止性が不十分となる傾向にある。他方、リン系摩耗防止剤の含有量がリン元素換算で0.08質量%を超えると、排気ガス後処理装置の性能を長期間維持することが困難となる。
【0172】
また、本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、(B)成分として、無灰酸化防止剤を含有する。無灰酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤やアミン系酸化防止剤等の潤滑油に一般的に使用されている連鎖停止型の無灰酸化防止剤が使用可能である。
【0173】
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−イソプロピリデンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−ノニルフェノール)、2,2’−イソブチリデンビス(4,6−ジメチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール)、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール、2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノール、2,6−ジ−tert−α−ジメチルアミノ−p−クレゾール、2,6−ジ−tert−ブチル−4(N,N’−ジメチルアミノメチルフェノール)、4,4’−チオビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−チオビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルベンジル)スルフィド、ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)スルフィド、2,2’−チオ−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、トリデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクチル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、3−メチル−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル置換脂肪酸エステル類等を好ましい例として挙げることができる。これらは1種を単独で用いてもよく、あるいは2種以上を混合して用いてもよい。
【0174】
アミン系酸化防止剤としては、例えば、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキルフェニル−α−ナフチルアミン、及びジアルキルジフェニルアミンを挙げることができる。これらは1種を単独で用いてもよく、あるいは2種以上を混合して用いてもよい。
【0175】
更に、上記フェノール系酸化防止剤とアミン系酸化防止剤は組み合せて使用してもよい。
【0176】
本発明の内燃潤滑油組成物における無灰酸化防止剤の含有量は、組成物全量を基準として、前述の通り0.5〜3質量%であり、好ましくは0.8〜2質量%である。無灰酸化防止剤の含有量が0.5質量%未満であると、酸化寿命が不十分となる。また、無灰酸化防止剤の含有量が3質量%を超えても、含有量に見合う酸化寿命の向上効果が得られない。
【0177】
また、本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、(C)成分として、無灰分散剤を含有する。無灰分散剤を更に含有することが好ましい。かかる無灰分散剤としては、ポリオレフィンから誘導されるアルケニルコハク酸イミド、アルキルコハク酸イミド及びそれらの誘導体が挙げられる。代表的なコハク酸イミドは、高分子量のアルケニル基もしくはアルキル基で置換されたコハク酸無水物と、1分子当り平均4〜10個(好ましくは5〜7個)の窒素原子を含むポリアルキレンポリアミンとの反応により得ることができる。高分子量のアルケニル基もしくはアルキル基は、数平均分子量が700〜5000のポリブテン(ポリイソブテン)であることが好ましく、数平均分子量が900〜3000のポリブテン(ポリイソブテン)であることがより好ましい。
【0178】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物において好ましく用いられるポリブテニルコハク酸イミドとしては、例えば、下記一般式(5−a)又は(5−b)で表される化合物が挙げられる。
【0179】
【化7】

【0180】
【化8】

【0181】
一般式(5−a)又は(5−b)におけるPIBはポリブテニル基を示し、高純度イソブテンあるいは1−ブテンとイソブテンの混合物をフッ化ホウ素系触媒あるいは塩化アルミニウム系触媒で重合させて得られるポリブテンから得られるものであり、ポリブテン混合物中において末端にビニリデン構造を有するものが通常5〜100mol%含有される。また、スラッジ抑制効果に優れる点からnは2〜5の整数、好ましくは3〜4の整数であることが望ましい。
【0182】
一般式(5−a)又は(5−b)で表されるコハク酸イミドの製造法としては特に制限はないが、例えば、上記ポリブテンを塩素化したもの、好ましくは上記高純度イソブテンをフッ化ホウ素系触媒で重合させた高反応性ポリブテン(ポリイソブテン)、より好ましくは塩素やフッ素が充分除去されたポリブテンを無水マレイン酸と100〜200℃で反応させて得られるポリブテニルコハク酸を、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等のポリアミンと反応させることにより得ることができる。なお、ビスコハク酸イミドを製造する場合は、該ポリブテニルコハク酸をポリアミンの2倍量(モル比)反応させれば良く、モノコハク酸イミドを製造する場合は、該ポリブテニルコハク酸とポリアミンを等量(モル比)で反応させれば良い。これらの中では、スラッジ分散性に優れる点から、ポリブテニルビスコハク酸イミドであることが好ましい。
【0183】
なお、上記製造法において用いられるポリブテンには、製造過程の触媒に起因する微量のフッ素分や塩素分が残留し得るので、吸着法や十分な水洗等の適切な方法によりフッ素分や塩素分が十分除去されたポリブテンを用いることが好ましい。フッ素や塩素の含有量としては、好ましくは50質量ppm以下、より好ましくは10質量ppm以下、更に好ましくは5質量ppm以下、特に好ましくは1質量ppm以下である。
【0184】
また、ポリブテンと無水マレインとの反応によりポリブテニルコハク酸無水物を得る工程では、従来、塩素を用いる塩素化法が適用されることが多い。しかし、この方法では、コハク酸イミド最終製品中に多量の塩素(例えば約2000〜3000ppm)が残留する結果となる。一方、塩素を用いない方法、例えば上記高反応性ポリブテンを用いた場合及び/又は熱反応法では、最終製品中に残る塩素を極めて低いレベル(例えば0〜30ppm)に抑えることができる。従って、潤滑油組成物中の塩素含有量を0〜30重量ppmの範囲の量に抑えるためには、上記塩素化法を用いず、上記高反応性ポリブテンを用いる方法及び/又は熱反応法によって得られたポリブテニルコハク酸無水物を用いることが好ましい。
【0185】
また、ポリブテニルコハク酸イミドの誘導体としては、上記一般式(5−a)又は(5−b)で表される化合物に、ホウ酸等のホウ素化合物や、アルコール、アルデヒド、ケトン、アルキルフェノール、環状カーボネート、有機酸等の含酸素有機化合物を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和又はアミド化した、いわゆる変性コハク酸イミドとして用いることができる。特に、ホウ酸等のホウ素化合物との反応で得られるホウ素含有アルケニル(もしくはアルキル)コハク酸イミドは、熱・酸化安定性の面で有利である。
【0186】
一般式(5−a)又は(5−b)で表される化合物に作用させるホウ素化合物としては、ホウ酸、ホウ酸塩、ホウ酸エステル類等が挙げられる。ホウ酸としては、具体的には例えばオルトホウ酸、メタホウ酸及びテトラホウ酸等が挙げられる。ホウ酸塩としては、ホウ酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩又はアンモニウム塩等が挙げられ、より具体的には、例えばメタホウ酸リチウム、四ホウ酸リチウム、五ホウ酸リチウム、過ホウ酸リチウム等のホウ酸リチウム;メタホウ酸ナトリウム、二ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム、五ホウ酸ナトリウム、六ホウ酸ナトリウム、八ホウ酸ナトリウム等のホウ酸ナトリウム;メタホウ酸カリウム、四ホウ酸カリウム、五ホウ酸カリウム、六ホウ酸カリウム、八ホウ酸カリウム等のホウ酸カリウム;メタホウ酸カルシウム、二ホウ酸カルシウム、四ホウ酸三カルシウム、四ホウ酸五カルシウム、六ホウ酸カルシウム等のホウ酸カルシウム;メタホウ酸マグネシウム、二ホウ酸マグネシウム、四ホウ酸三マグネシウム、四ホウ酸五マグネシウム、六ホウ酸マグネシウム等のホウ酸マグネシウム;及びメタホウ酸アンモニウム、四ホウ酸アンモニウム、五ホウ酸アンモニウム、八ホウ酸アンモニウム等のホウ酸アンモニウム等が挙げられる。また、ホウ酸エステルとしては、ホウ酸と好ましくは炭素数1〜6のアルキルアルコールとのエステル等が挙げられ、より具体的には例えば、ホウ酸モノメチル、ホウ酸ジメチル、ホウ酸トリメチル、ホウ酸モノエチル、ホウ酸ジエチル、ホウ酸トリエチル、ホウ酸モノプロピル、ホウ酸ジプロピル、ホウ酸トリプロピル、ホウ酸モノブチル、ホウ酸ジブチル、ホウ酸トリブチル等が挙げられる。上記ホウ素化合物を作用させたコハク酸イミド誘導体は、耐熱性、酸化安定性に優れることから好ましく用いられる。
【0187】
また、一般式(5−a)又は(5−b)で表される化合物に作用させる含酸素有機化合物としては、具体的には、例えば、ギ酸、酢酸、グリコール酸、プロピオン酸、乳酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸等の炭素数1〜30のモノカルボン酸や、シュウ酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の炭素数2〜30のポリカルボン酸若しくはこれらの無水物、又はエステル化合物、炭素数2〜6のアルキレンオキサイド、ヒドロキシ(ポリ)オキシアルキレンカーボネート等が挙げられる。このような含酸素有機化合物を作用させることで、例えば、一般式(5−a)又は(5−b)で表される化合物におけるアミノ基又はイミノ基の一部又は全部が次の一般式(5−c)で示す構造になると推定される。
【0188】
【化9】

【0189】
上記一般式(5−c)中のRは水素原子、炭素数1〜24のアルキル基、炭素数1〜24のアルケニル基、炭素数1〜24アルコキシ基、又は−O−(RO)Hで表されるヒドロキシ(ポリ)オキシアルキレン基を示し、Rは炭素数1〜4のアルキレン基、mは1〜5の整数を示す。これらの中ではアミノ基又はイミノ基の全てにこれら含酸素有機化合物を作用させたものを主成分とするポリブテニルビスコハク酸イミドがスラッジ分散性に優れるため好ましく用いられる。そのような化合物は、例えば一般式(5−a)で表される化合物1モルに対し(n−1)モルの含酸素有機化合物を作用させることで得られる。このような含酸素有機化合物を作用させたコハク酸イミド誘導体は、スラッジ分散性に優れ、特にヒドロキシ(ポリ)オキシアルキレンカーボネートを作用させたものが好ましい。
【0190】
本発明で用いられる無灰分散剤としてのポリブテニルコハク酸イミド及び/又はその誘導体の重量平均分子量は、好ましくは3000以上、より好ましくは5000以上、更に好ましくは6500以上、一層好ましくは7000以上、特に好ましくは8000以上である。重量平均分子量が5000未満では、非極性基のポリブテニル基の分子量が小さくスラッジの分散性に劣り、また、酸化劣化の活性点となる恐れのある極性基のアミン部分が相対的に多くなって酸化安定性に劣るため、本願発明のような長寿命化効果は得られないと考えられる。一方、低温粘度特性の悪化を防止する観点から、ポリブテニルコハク酸イミド及び/又はその誘導体の重量平均分子量は、20000以下であることが好ましく、15000以下であることが特に好ましい。なお、ここでいう重量平均分子量とは、ウォーターズ製の150−CALC/GPC装置に東ソー製のGMHHR−M(7.8mmID×30cm)のカラムを2本直列に使用し、溶媒としてはテトラヒドロフラン、温度23℃、流速1mL/分、試料濃度1質量%、試料注入量75μL、検出器示差屈折率計(RI)で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量を意味する。
【0191】
なお、本発明では、無灰分散剤として、上記のコハク酸イミド及び/又はその誘導体の他、アルキル又はアルケニルポリアミン、アルキル又はアルケニルベンジルアミン、アルキル又はアルケニルコハク酸エステル、マンニッヒ塩基及びこれらの誘導体等を使用することができる。
【0192】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物における無灰分散剤の含有量は、組成物全量を基準として、前述の通り3〜12質量%であり、好ましくは4〜10質量%である。無灰分散剤の含有量が3質量%未満であると燃焼生成物の分散性が不十分となり、また、12質量%を超えると粘度−温度特性が不十分となる。
【0193】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、上記の潤滑油基油、リン系摩耗防止剤、無灰酸化防止剤及び無灰分散剤のみからなるものであってもよいが、その性能を更に向上させるために、必要に応じて以下に示す各種添加剤を更に含有してもよい。
【0194】
また、本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、その摩擦特性を更に改善できる点から、摩擦調整剤を含有することが好ましい。摩擦調整剤としては、潤滑油用の摩擦調整剤として通常用いられる任意の化合物が使用可能であり、例えば、炭素数6〜30のアルキル基又はアルケニル基、特に炭素数6〜30の直鎖アルキル基又は直鎖アルケニル基を分子中に少なくとも1個有する、アミン化合物、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、脂肪酸、脂肪族アルコール、脂肪族エーテル、ヒドラジド(オレイルヒドラジド等)、セミカルバジド、ウレア、ウレイド、ビウレット等の無灰摩擦調整剤等が挙げられる。
【0195】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物における摩擦調整剤の含有量は、組成物全量を基準として、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.3質量%以上であり、また、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下、更に好ましくは1質量%以下である。摩擦調整剤の含有量が前記下限値未満であると、その添加による摩擦低減効果が不十分となる傾向にあり、また、前記上限値を超えると、リン系摩耗防止剤などの効果が阻害されやすく、あるいは添加剤の溶解性が悪化する傾向にある。
【0196】
また、本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、清浄性の点から、金属系清浄剤を更に含有することが好ましい。かかる金属系清浄剤としては、アルカリ土類金属スルホネート、アルカリ土類金属フェネート及びアルカリ土類金属サリシレートから選ばれる少なくとも1種のアルカリ土類金属系清浄剤を用いることが好ましい。
【0197】
アルカリ土類金属スルホネートとしては、分子量300〜1,500、好ましくは400〜700のアルキル芳香族化合物をスルホン化することによって得られるアルキル芳香族スルホン酸のアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩及び/又はカルシウム塩であり、カルシウム塩が好ましく用いられる。上記アルキル芳香族スルホン酸としては、具体的にはいわゆる石油スルホン酸や合成スルホン酸等が挙げられる。ここでいう石油スルホン酸としては、一般に鉱油の潤滑油留分のアルキル芳香族化合物をスルホン化したものやホワイトオイル製造時に副生する、いわゆるマホガニー酸等が用いられる。また合成スルホン酸としては、例えば洗剤の原料となるアルキルベンゼン製造プラントから副生したり、ポリオレフィンをベンゼンにアルキル化することにより得られる、直鎖状や分枝状のアルキル基を有するアルキルベンゼンをスルホン化したもの、あるいはジノニルナフタレン等のアルキルナフタレンをスルホン化したもの等が用いられる。またこれらアルキル芳香族化合物をスルホン化する際のスルホン化剤としては特に制限はないが、通常、発煙硫酸や無水硫酸が用いられる。
【0198】
アルカリ土類金属フェネートとしては、アルキルフェノール、アルキルフェノールサルファイド、アルキルフェノールのマンニッヒ反応物のアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩及び/又はカルシウム塩が挙げられ、例えば下記の一般式(6−a)、(6−b)、(6−c)で表される化合物を挙げることができる。
【0199】
【化10】

【0200】
【化11】

【0201】
【化12】

【0202】
上記一般式(6−a)〜(6−c)中、R、R10、R11、R12、R13及びR14は同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数4〜30、好ましくは6〜18の直鎖又は分枝のアルキル基を示し、M、M及びMはそれぞれアルカリ土類金属、好ましくはカルシウム及び/又はマグネシウムを示し、xは1又は2を示す。上式中、R、R10、R11、R12、R13及びR14としては、具体的には、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基、ペンタコシル基、ヘキサコシル基、ヘプタコシル基、オクタコシル基、ノナコシル基、トリアコンチル基等が挙げられ、これらは直鎖でも分枝でもよい。これらはまた1級アルキル基、2級アルキル基又は3級アルキル基でもよい。
【0203】
アルカリ土類金属サリシレートとしては、アリキルサリチル酸のアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩及び/又はカルシウム塩が挙げられ、例えば下記の一般式(6−d)で表されるものを挙げることができる。
【0204】
【化13】

【0205】
上記一般式(6−d)中、R15は炭素数1〜30、好ましくは6〜18の直鎖又は分枝のアルキル基を示し、nは1〜4の整数、好ましくは1又は2を示し、Mはアルカリ土類金属、好ましくはカルシウム及び/又はマグネシウムを示す。R15としては、具体的には、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基、ペンタコシル基、ヘキサコシル基、ヘプタコシル基、オクタコシル基、ノナコシル基、トリアコンチル基等が挙げられ、これらは直鎖でも分枝でもよい。これらはまた1級アルキル基、2級アルキル基又は3級アルキル基でもよい。
【0206】
また、アルカリ土類金属スルホネート、アルカリ土類金属フェネート及びアルカリ土類金属サリシレートとしては、上記のアルキル芳香族スルホン酸、アルキルフェノール、アルキルフェノールサルファイド、アルキルフェノールのマンニッヒ反応物、アリキルサリチル酸等を直接、マグネシウム及び/又はカルシウムのアルカリ土類金属の酸化物や水酸化物等のアルカリ土類金属塩基と反応させたり、又は一度ナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩としてからアルカリ土類金属塩と置換させること等により得られる中性(正塩)アルカリ土類金属スルホネート、中性(正塩)アルカリ土類金属フェネート及び中性(正塩)アルカリ土類金属サリシレートだけでなく、中性アルカリ土類金属スルホネート、中性アルカリ土類金属フェネート及び中性アルカリ土類金属サリシレートと過剰のアルカリ土類金属塩やアルカリ土類金属塩基を水の存在下で加熱することにより得られる塩基性アルカリ土類金属スルホネート、塩基性アルカリ土類金属フェネート及び塩基性アルカリ土類金属サリシレートや、中性アルカリ土類金属スルホネート、中性アルカリ土類金属フェネート及び中性アルカリ土類金属サリシレートの存在下で、アルカリ土類金属の水酸化物と炭酸ガス又はホウ酸とを反応させることにより得られる過塩基性(超塩基性)アルカリ土類金属スルホネート、過塩基性(超塩基性)アルカリ土類金属フェネート及び過塩基性(超塩基性)アルカリ土類金属サリシレートも含まれる。
【0207】
本発明においては、上記の中性アルカリ土類金属塩、塩基性アルカリ土類金属塩、過塩基性(超塩基性)アルカリ土類金属塩及びこれらの混合物等を用いることができる。これらの中でも、長期間に渡る清浄性を維持する観点から、過塩基性カルシウムスルホネートと過塩基性カルシウムフェネートとを組み合わせたもの、あるいは過塩基性カルシウムサリシレートを使用することが好ましく、過塩基性カルシウムサリシレートを使用することが特に好ましい。金属系清浄剤は、通常、軽質潤滑油基油等で希釈された状態で市販されており、また入手可能であるが、一般的に、その金属含有量が1.0〜20質量%、好ましくは2.0〜16質量%のものを用いるのが望ましい。本発明で用いるアルカリ土類金属系清浄剤の全塩基価は任意であるが、通常、全塩基価が500mgKOH/g以下、好ましくは150〜450mgKOH/gのものを用いるのが望ましい。なおここでいう全塩基価は、JISK2501(1992)の「石油製品及び潤滑油−中和価試験方法」の7.に準拠して測定される過塩素酸法による全塩基価を意味している。
【0208】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物における金属系清浄剤の含有量は任意であるが、組成物全量基準で、0.1〜10質量%、好ましくは0.5〜8質量%、より好ましくは1〜5質量%含有するのが望ましい。この含有量が10質量%を超える場合は、その含有量に見合うだけの効果が得られないため好ましくない。
【0209】
また、本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、粘度−温度特性を更に改善できる点から、粘度指数向上剤を含有することが好ましい。かかる粘度指数向上剤としては、非分散型又は分散型ポリメタクリレート類、分散型エチレン−α−オレフィン共重合体又はその水素化物、ポリイソブチレン又はその水素化物、スチレン−ジエン水素化共重合体、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体及びポリアルキルスチレン等が挙げられ、中でも重量平均分子量が10,000〜1,000,000、好ましくは100,000〜900,000、より好ましくは150,000〜500,000、さらに好ましくは180,000〜400,000の非分散型粘度指数向上剤及び/または分散型粘度指数向上剤が好ましく用いられる。
【0210】
非分散型粘度指数向上剤としては、具体的には、下記一般式(7−a)、(7−b)及び(7−c)で表される化合物の中から選ばれるモノマー(以下、「モノマー(M−1)」という)の単独重合体又はモノマー(M−1)の2種以上の共重合体あるいはその水素化物等が例示できる。一方、分散型粘度指数向上剤としては、具体的には、一般式(7−d)及び(7−e)で表される化合物の中から選ばれるモノマー(以下、「モノマー(M−2)」という)の2種以上の共重合体又はその水素化物に酸素含有基を導入したものや、一般式(7−a)〜(7−c)で表される化合物の中から選ばれるモノマー(M−1)の1種又は2種以上と一般式(7−d)及び(7−e)で表される化合物の中から選ばれるモノマー(M−2)の1種又は2種以上との共重合体、あるいはその水素化物等が例示できる。
【0211】
【化14】

【0212】
上記一般式(7−a)中、R16は水素原子又はメチル基を示し、R17は水素原子又は炭素数1〜18のアルキル基を示す。R17で表される炭素数1〜18のアルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、及びオクタデシル基等(これらアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい)等が例示できる。
【0213】
【化15】

【0214】
上記一般式(7−b)中、R18は水素原子又はメチル基を示し、R19は水素原子又は炭素数1〜12の炭化水素基を示す。R19で表される炭素数1〜12の炭化水素基としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基等のアルキル基(これらアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい);シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等の炭素数5〜7のシクロアルキル基;メチルシクロペンチル基、ジメチルシクロペンチル基、メチルエチルシクロペンチル基、ジエチルシクロペンチル基、メチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基、メチルエチルシクロヘキシル基、ジエチルシクロヘキシル基、メチルシクロヘプチル基、ジメチルシクロヘプチル基、メチルエチルシクロヘプチル基、ジエチルシクロヘプチル基等の炭素数6〜11のアルキルシクロアルキル基(これらアルキル基のシクロアルキル基への置換位置は任意である);
ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基等のアルケニル基(これらアルケニル基は直鎖状でも分枝状でもよく、二重結合の位置も任意である);
フェニル基、ナフチル基等のアリール基:トリル基、キシリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基等の炭素数7〜12のアルキルアリール基(これらアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよく、またアリール基への置換位置も任意である);ベンシル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基、フェニルペンチル基、フェニルヘキシル基等の炭素数7〜12のアリールアルキル基(これらアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい);等が例示できる。
【0215】
【化16】

【0216】
上記一般式(7−c)中、X及びXは、それぞれ個別に、水素原子、炭素数1〜18のアルコキシ基(−OR20:R20は炭素数1〜18のアルキル基)又は炭素数1〜18のモノアルキルアミノ基(−NHR21:R21は炭素数1〜18のアルキル基)を示す。
【0217】
【化17】

【0218】
上記一般式(7−d)中、R22は水素原子又はメチル基を示し、R23は炭素数1〜18のアルキレン基を示し、Yは窒素原子を1〜2個、酸素原子を0〜2個含有するアミン残基又は複素環残基を示し、mは0又は1である。R23で表される炭素数1〜18のアルキレン基としては、具体的には、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、へプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ウンデシレン基、ドデシレン基、トリデシレン基、テトラデシレン基、ペンタデシレン基、ヘキサデシレン基、ヘプタデシレン基、及びオクタデシレン基等(これらアルキレン基は直鎖状でも分枝状でもよい)等が例示できる。また、Yで表される基としては、具体的には、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基、アニリノ基、トルイジノ基、キシリジノ基、アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基、モルホリノ基、ピロリル基、ピロリノ基、ピリジル基、メチルピリジル基、ピロリジニル基、ピペリジニル基、キノニル基、ピロリドニル基、ピロリドノ基、イミダゾリノ基、及びピラジノ基等が例示できる。
【0219】
【化18】

【0220】
上記一般式(7−e)中、R24は水素原子又はメチル基を示し、Yは窒素原子を1〜2個、酸素原子を0〜2個含有するアミン残基又は複素環残基を示す。Yで表される基としては、具体的には、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基、アニリノ基、トルイジノ基、キシリジノ基、アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基、モルホリノ基、ピロリル基、ピロリノ基、ピリジル基、メチルピリジル基、ピロリジニル基、ピペリジニル基、キノニル基、ピロリドニル基、ピロリドノ基、イミダゾリノ基、及びピラジノ基等が例示できる。
【0221】
モノマー(M−1)の好ましい例としては、具体的には、炭素数1〜18のアルキルアクリレート、炭素数1〜18のアルキルメタクリレート、炭素数2〜20のオレフィン、スチレン、メチルスチレン、無水マレイン酸エステル、無水マレイン酸アミド及びこれらの混合物等が例示できる。
【0222】
モノマー(M−2)の好ましい例としては、具体的には、ジメチルアミノメチルメタクリレート、ジエチルアミノメチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、2−メチル−5−ビニルピリジン、モルホリノメチルメタクリレート、モルホリノエチルメタクリレート、N−ビニルピロリドン及びこれらの混合物等が例示できる。
【0223】
なお、上記(M−1)化合物の中から選ばれる1種又は2種以上のモノマーと(M−2)化合物の中から選ばれる1種又は2種以上のモノマーとの共重合体の共重合モル比は、一般に、モノマー(M−1):モノマー(M−2)=80:20〜95:5程度である。またその製法も任意であるが、通常、ベンゾイルパーオキシド等の重合開始剤の存在下でモノマー(M−1)とモノマー(M−2)をラジカル溶液重合させることにより容易に共重合体が得られる。
【0224】
上述した粘度指数向上剤の中でも、低温流動性により優れる点から、ポリメタクリレート系粘度指数向上剤が好ましい。
【0225】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物における粘度指数向上剤の配合量は、組成物全量基準で、好ましくは0.1〜15質量%、より好ましくは0.5〜5質量%である。粘度指数向上剤の含有量が0.1質量%未満の場合、その添加による粘度−温度特性の改善効果が不十分となる傾向にあり、また、15質量%を超える場合、初期の極圧性を長期間維持しにくくなる傾向にある。
【0226】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物においては、その性能をさらに向上させる目的で、必要に応じて、上記添加剤の他にさらに、(A)成分以外の摩耗防止剤、(B)成分以外の酸化防止剤、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、流動点降下剤、ゴム膨潤剤、消泡剤、着色剤等の各種添加剤を単独で又は数種類組み合わせて配合しても良い。
【0227】
(A)成分以外の摩耗防止剤としては、ジチオカーバメート、亜鉛ジチオカーバメート、モリブデンジチオカーバメート、ジスルフィド類、硫化オレフィン類、硫化油脂類等の硫黄系摩耗防止剤が挙げられる。
【0228】
(B)成分以外の酸化防止剤としては、例えば、銅系、モリブデン系等の金属系酸化防止剤が挙げられる。
【0229】
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、及びイミダゾール系化合物等が挙げられる。
【0230】
防錆剤としては、例えば、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、及び多価アルコールエステル等が挙げられる。
【0231】
抗乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、及びポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤等が挙げられる。
【0232】
金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール又はその誘導体、1,3,4−チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4−チアジアゾリル−2,5−ビスジアルキルジチオカーバメート、2−(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、及びβ−(o−カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリル等が挙げられる。
【0233】
流動点降下剤としては、潤滑油基油の性状に応じて公知の流動点降下剤を任意に選択することができるが、重量平均分子量が50,000を超え150,000以下、好ましくは、80,000〜120,000のポリメタクリレートが好ましい。
【0234】
消泡剤としては、潤滑油用の消泡剤として通常用いられる任意の化合物が使用可能であり、例えば、ジメチルシリコーン、フルオロシリコーン等のシリコーン類が挙げられる。これらの中から任意に選ばれた1種類あるいは2種類以上の化合物を任意の量で配合することができる。
【0235】
着色剤としては、通常用いられる任意の化合物が使用可能であり、また任意の量を配合することができるが、通常その配合量は、組成物全量基準で0.001〜1.0質量%である。
【0236】
これらの添加剤を本発明の潤滑油組成物に含有させる場合、その含有量は組成物全量基準で、(A)成分以外の摩耗防止剤では0.01〜2質量%、(B)成分以外の酸化防止剤では0.01〜2質量%、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤ではそれぞれ0.005〜5質量%、金属不活性化剤では0.005〜1質量%、流動点降下剤では、0.05〜1質量%、消泡剤では0.0005〜1質量%、着色剤では0.001〜1.0質量%の範囲で通常選ばれる。
【0237】
また、本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、上述の通り硫黄を構成元素として含む添加剤を含有し得るが、潤滑油組成物の全硫黄含有量(潤滑油基油及び添加剤に起因する硫黄分の合計量)は、添加剤の溶解性、並びに高温酸化条件における硫黄酸化物の生成に起因する塩基価の消耗を抑制する点から、好ましくは0.05〜0.3質量%であり、より好ましくは0.08〜0.25質量%、さらに好ましくは0.1〜0.2質量%、特に好ましくは0.12〜0.18質量%である。
【0238】
また、本発明の内燃機関用潤滑油組成物の100℃における動粘度は、通常、4〜24mm/sであるが、焼付きや磨耗を抑制する油膜厚さを保持する点、並びに撹拌抵抗の増加を抑制する点から、好ましくは5〜18mm/s、より好ましくは6〜15mm/s、さらに好ましくは7〜12mm/sである。
【0239】
また、本発明の内燃機関用潤滑油組成物の硫酸灰分は、排気ガス後処理装置の性能の維持の点から、好ましくは1.2質量%以下であり、より好ましくは1.0質量%以下、更に好ましくは0.9質量%以下であり、また、エンジン清浄性や酸化安定性を高いレベルで維持するために、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.4質量%以上、さらに好ましくは0.7質量%以上、特に好ましくは0.8質量%以上である。なお、本発明でいう硫酸灰分とは、JIS K 2272−1985の「原油及び石油製品の灰分並びに硫酸灰分試験方法」の「5.硫酸灰分の試験方法」に準拠して測定される硫酸灰分量を意味する。
【0240】
上記の構成を有する本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、酸化寿命が十分に長く、且つ排気ガス後処理装置の性能を長期にわたって十分に維持することが可能なものであり、更に粘度−温度特性、摩擦特性及び揮発防止性に優れるものである。このように優れた特性を有する本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、二輪車、四輪車、発電用、舶用等のガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、含酸素化合物含有燃料対応エンジン、ガスエンジン等の内燃機関用潤滑油として好適に用いられ、特に、排気ガス後処理装置を装着した内燃機関、具体的には、三元触媒が搭載された車両のガソリンエンジン用潤滑油、ディーゼルパティキュレートフィルター(DPF)が搭載された車両のディーゼルエンジン用潤滑油などの用途において優れた効果を発揮する。また、低硫黄燃料、例えば、硫黄分が50質量ppm以下、さらに好ましくは30質量ppm以下、特に好ましくは10質量ppm以下のガソリンや軽油や灯油、あるいは硫黄分が1質量ppm以下の燃料(LPG、天然ガス、硫黄分を実質的に含有しない水素、ジメチルエーテル、アルコール、GTL(ガストゥリキッド)燃料等)を用いる内燃機関用潤滑油として特に好ましく使用することができる。
【実施例】
【0241】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0242】
[潤滑油基油の製造]
(基油1)
溶剤精製基油を精製する工程において減圧蒸留で分離した留分を、フルフラールで溶剤抽出した後で水素化処理し、次いで、メチルエチルケトン−トルエン混合溶剤で溶剤脱ろうした。かかる溶剤脱ろうの際に除去されたスラックワックスをさらに脱油して得られたワックス分(以下、「WAX1」という。)を、潤滑油基油の原料として用いた。WAX1の性状を表1に示す。
【0243】
【表1】

【0244】
次に、水素化分解触媒の存在下、水素分圧5MPa、平均反応温度350℃、LHSV1hr−1の条件下で、WAX1の水素化分解を行った。水素化分解触媒としては、アモルファス系シリカ・アルミナ担体(シリカ:アルミナ=20:80(質量比))にニッケル3質量%及びモリブデン15質量%が担持された触媒を硫化した状態で用いた。
【0245】
次に、上記の水素化分解で得られた分解生成物を常圧蒸留することにより潤滑油留分26容量%を得た。この潤滑油留分について、メチルエチルケトン−トルエン混合溶剤を用いて、溶剤/油比4倍、ろ過温度−25℃の条件で溶剤脱ろうを行い、目的の潤滑油基油(以下、「基油1」という。)を得た。基油1の各種性状及び性能評価試験結果を表2に示す。また、従来の高粘度指数基油である基油2についての各種性状及び性能評価試験結果を表2に併せて示す。
【0246】
【表2】

【0247】
[実施例1〜3、比較例1、2]
実施例1〜3においては、基油1、並びに以下に示す添加剤を用いて、表3に示す組成を有する潤滑油組成物を調製した。また、比較例1、2においては、基油2、並びに以下に示す添加剤を用いて、表3に示す組成を有する潤滑油組成物を調製した。
(リン系摩耗防止剤)
A1:ジアルキルジチオリン酸亜鉛(リン含有量:7.2質量%、アルキル基:第2級ブチル基又は第2級ヘキシル基の混合物)
A2:モノ及びジアルキルリン酸亜鉛(リン含有量:10.0質量%、アルキル基:第1級オクチル基)
(無灰酸化防止剤)
B1:アルキルジフェニルアミン(アルキル基:ブチル基又はオクチル基)
B2:4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)
(無灰分散剤)
C1:ポリブテニルコハク酸イミド(ポリブテニル基の数平均分子量:1300、窒素含有量:1.8質量%)
C2:ホウ酸変性ポリブテニルコハク酸イミド(ポリブテニル基の数平均分子量:1300、窒素含有量:1.8質量%、ホウ素含有量:0.77質量%)
(金属系清浄剤)
D1:カルシウムサリシレート
D2:カルシウムスルホネート
((A)成分以外の摩耗防止剤)
E1:モリブデンジチオカーバメート
(摩擦調整剤)
F1:グリセリンモノオレート
(腐食防止剤)
G1:ベンゾトリアゾール
(その他)
H1:粘度指数向上剤、流動点降下剤、消泡剤等を含むパッケージ
【0248】
[硫酸灰分の測定]
実施例1〜3及び比較例1、2の潤滑油組成物について、JIS K 2272−1985に準拠して硫酸灰分を測定した。得られた結果を表3に示す。
【0249】
[NOx吸収試験]
日本トライボロジー会議予稿集1992、10、465に準拠した方法にて試験油にNOx含有ガスを吹き込み、強制劣化させたとき塩基価(塩酸法)及び酸価の経時変化を測定した。本試験における試験温度は140℃、NOx含有ガス中のNOx濃度は1200ppm、O濃度は85%とした。NOxガスの吹き込み開始から96時間後の酸価増加量を表3に示す。表中、酸価増加量が小さいものほど、内燃機関で使用されるようなNOx存在下においても酸化寿命が長いことを示している。
【0250】
【表3】

【0251】
表3に示したように、実施例1〜3の潤滑油組成物は、硫酸灰分及び酸価増加量がいずれも小さい値を示した。これらの結果から、実施例1〜3の潤滑油組成物は、酸化寿命が十分に長く、且つ排気ガス後処理装置の性能を長期にわたって十分に維持することが可能な潤滑油組成物であることがわかる。
【0252】
一方、比較例1、2の潤滑油組成物は、実施例1〜3の潤滑油組成物と比較して、硫酸灰分及び酸化増加量のいずれも大きい値を示した。比較例1の潤滑油組成物の場合、硫酸灰分が多く、また、酸化防止機能を有するジチオリン酸亜鉛(A1)の含有量が実施例1、2よりも多いにもかかわらず酸価増加量が大きくなっており、十分な酸化防止性が得られていないことがわかる。また、ジチオリン酸亜鉛(A1)の含有量が実施例1、2の潤滑油組成物と同様である比較例2の潤滑油組成物の場合は、硫酸灰分は同程度であるが、酸価増加量が大きく、十分な酸化防止性が得られていないことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
飽和分を90質量%以上含有し、且つ該飽和分に占める環状飽和分の割合が40質量%以下であり、粘度指数が110以上であり、ヨウ素価が2.5以下である潤滑油基油に、組成物全量を基準として、
リン元素換算で0.02〜0.08質量%のリン系摩耗防止剤、
0.5〜3質量%の無灰酸化防止剤、及び
3〜12質量%の無灰分散剤
を配合してなることを特徴とする内燃機関用潤滑油組成物。
【請求項2】
排気ガス後処理装置が搭載された車両の内燃機関の潤滑油として使用され、且つ硫酸灰分が1.2質量%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の内燃機関用潤滑油組成物。



【公開番号】特開2008−13683(P2008−13683A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−187078(P2006−187078)
【出願日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【出願人】(590000455)財団法人石油産業活性化センター (249)
【Fターム(参考)】