説明

内燃機関用点火制御装置

【課題】二次電圧の高圧化および点火応答時間の短縮と、遮断ノイズ低減との両立を図る。
【解決手段】一次コイル11への通電と遮断を制御するメインIGBT31(点火用スイッチング素子)と、メインIGBT31のコレクタCmとゲートGm間に接続され、コレクタCmの電圧をゲートGmへ印加して帰還させるか否かを制御するサブIGBT32(帰還用スイッチング素子)と、を備える。そして、メインIGBT31のオフ作動に伴いコレクタCmに生じた遮断ノイズ電圧により、サブIGBT32のコレクタCs(帰還入力端子)とゲートGs(帰還導通制御端子)間に存在する寄生コンデンサCparaが充電され、この充電によりゲートGsの制御電圧が上昇してサブIGBT32はオン作動し、かつ、寄生コンデンサCparaが放電することにより前記制御電圧が下降してサブIGBT32はオフ作動するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に搭載された点火コイルの一次コイルへの通電と遮断を制御する、内燃機関用点火制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の点火装置は、一次コイルへの通電をIGBT(点火用スイッチング素子)で遮断することにより、二次電圧を昇圧して火花放電させる構成が一般的であるが、一次コイルの通電を遮断させることに伴い、電気ノイズ(遮断ノイズ)が生じる。
【0003】
この遮断ノイズは、一次電流I1の遮断速度I1/dtを遅くすることで低減できる。そこで従来では、IGBTのゲートへの通電オフを開始した後、IGBTのコレクタ電位がゲート電位よりも所定以上高くなった時に、IGBTのコレクタからゲートへ帰還電流を流す回路(帰還回路)を設けている(特許文献1参照)。これによれば、ゲート通電オフの後、帰還電流によりゲート電位が持ち上げられるので、ゲート通電オフを開始してからゲート電圧がゼロになるまでのゲート電圧低下速度が遅くなる。そのため、前記遮断速度I1/dtを遅くすることができ、ひいては遮断ノイズの低減を実現できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3917865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の帰還回路では、遮断ノイズが瞬時的に発生した後においても帰還電流を流すようになるので、遮断速度I1/dtを遅くする期間が過剰に長くなっていると言える。その結果、遮断ノイズを確実に低減できるものの、遮断速度I1/dtが遅いことに起因して二次電圧が低くなり、火花放電安定化の妨げとなる。また、このように遮断速度I1/dtが遅くなると、IGBTのゲートへの通電をオフしてから火花放電が為されるまでに要する時間(点火応答時間)が長くなる。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、二次電圧の高圧化および点火応答時間の短縮と、遮断ノイズ低減との両立を図った内燃機関用点火制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について記載する。
【0008】
請求項1記載の発明では、点火コイルを構成する一次コイルへの通電と遮断を制御する点火用スイッチング素子と、前記点火用スイッチング素子の入力端子と導通制御端子との間に接続され、前記入力端子の電圧を前記導通制御端子へ印加して帰還させるか否かを制御する帰還用スイッチング素子と、を備える。
【0009】
そして、前記点火用スイッチング素子のオフ作動に伴い前記入力端子に生じた遮断ノイズ電圧により、前記帰還用スイッチング素子の帰還入力端子および帰還導通制御端子間に存在する寄生コンデンサが充電され、この充電により前記帰還導通制御端子の制御電圧が上昇して前記帰還用スイッチング素子はオン作動するように構成され、かつ、前記寄生コンデンサが放電することにより前記制御電圧が下降して前記帰還用スイッチング素子はオフ作動するように構成されていることを特徴とする。
【0010】
以下、点火用スイッチング素子および帰還用スイッチング素子にIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)を採用した図1の例を参照して、上記発明について説明する。
【0011】
上記発明は、点火用スイッチング素子(メインIGBT31)の入力端子(コレクタCm)から導通制御端子(ゲートGm)へ帰還電流を流すにあたり、帰還用スイッチング素子(サブIGBT32)の寄生コンデンサCparaを次のように利用したものである。
【0012】
すなわち、メインIGBT31のオフ作動に伴い、一次コイルによって誘起される遮断ノイズ電圧がコレクタCmに生じるが、この遮断ノイズ電圧により寄生コンデンサCparaが充電され、この充電により帰還導通制御端子(ゲートGs)の制御電圧が上昇してサブIGBT32はオン作動するように構成されている。
【0013】
そのため、メインIGBT31のオフ作動に伴いサブIGBT32がオン作動して、メインIGBT31のコレクタCmからゲートGmへ帰還電流が流れる。その結果、ゲートGmの電位が持ち上げられてゲートGmの電圧低下速度が遅くなり、ひいては一次電流の遮断速度I1/dtが遅くなる。よって、遮断ノイズの低減を図ることができる。
【0014】
さらに上記発明では、寄生コンデンサCparaが充電された後、寄生コンデンサCparaが放電することによりサブIGBT32のゲートGsの制御電圧が下降して、サブIGBT32はオフ作動するように構成されている。
【0015】
そのため、遮断ノイズが生じると寄生コンデンサCparaの充電によりサブIGBT32がオン作動して帰還電流が流れ、その後直ぐに寄生コンデンサCparaが放電することにより、サブIGBT32がオフ作動して帰還電流が流れなくなる。したがって、遮断ノイズが生じている瞬間だけ帰還電流が流れるようになるので、一次電流の遮断速度I1/dtを遅くする期間を、遮断ノイズの発生時に合わせることができる。そのため、遮断ノイズの発生終了以降にも帰還電流を流す従来の手法に比べて、二次電圧の高圧化および点火応答時間の短縮を図ることができる。
【0016】
以上により、上記発明によれば、遮断ノイズの発生時に合わせて帰還電流を流すので、二次電圧の高圧化および点火応答時間の短縮と、遮断ノイズ低減との両立を図ることができる。
【0017】
請求項2記載の発明では、前記寄生コンデンサのうち前記帰還導通制御端子の側から、前記帰還用スイッチング素子の帰還出力端子へ放電されるよう構成されており、前記帰還導通制御端子および前記帰還出力端子間に接続され、前記寄生コンデンサからの前記放電を抑制する放電抑制手段を備えることを特徴とする。
【0018】
ここで、上記放電抑制手段を備えずに帰還導通制御端子と帰還出力端子をショートすると、サブIGBT32のコレクタ側に遮断ノイズ電圧が印加されても、寄生コンデンサCparaのゲート側の電荷が蓄えられることなくそのまま放電していくおそれがある。すると、寄生コンデンサCparaへの充電が十分に為されなくなり、サブIGBT32のゲートGsにおける制御電圧を十分に上昇できなくなり、サブIGBT32を確実にオン作動させることが困難になる。この点を鑑みた上記発明によれば、放電抑制手段(例えば図1に例示する抵抗R2)を備えることにより、寄生コンデンサCparaへの充電を十分にして、サブIGBT32のゲートGsにおける制御電圧を十分に上昇できるようになるので、サブIGBT32を確実にオン作動させることが可能になる。
【0019】
ちなみに、放電抑制手段は抵抗R2に限られるものではなく、例えばスイッチング素子を放電抑制手段として採用してもよく、この場合には、寄生コンデンサCparaへの充電期間にはスイッチング素子(放電抑制手段)をオフ作動し、放電期間にはオン作動させればよい。
【0020】
請求項3記載の発明では、前記点火用スイッチング素子と前記帰還用スイッチング素子が、同一のチップ上に形成されていることを特徴とする。また、請求項4記載の発明では、前記点火用スイッチング素子と前記帰還用スイッチング素子が、同一のヒートシンク上に配置されていることを特徴とする。
【0021】
ここで、寄生コンデンサを利用した請求項1記載の発明に反して、メインIGBT31のコレクタ−ゲート間に実際のコンデンサおよび抵抗を設けることによっても、遮断ノイズ電圧により前記コンデンサに充電して帰還電流を流すようにでき、ひいては遮断ノイズの発生時に合わせて帰還電流を流すようにできることを本発明者らは見出した。しかしながら、このようにコンデンサを設ける構成にすると、メインIGBT31と同一のチップ上に前記コンデンサを形成することは困難となる。
【0022】
これに対し、サブIGBT32の寄生コンデンサCparaを利用した請求項1記載の発明によれば、上記請求項3記載の如く、メインIGBT31と同一のチップ上にサブIGBT32を形成することを容易に実現でき、ひいては内燃機関用点火制御装置の搭載スペースを小さくできる。また、上記請求項4記載の如く、メインIGBT31とサブIGBT32を同一のヒートシンク上に配置することを容易に実現でき、ひいては内燃機関用点火制御装置の搭載スペースを小さくできる。
【0023】
請求項5記載の発明では、前記導通制御端子から、前記帰還用スイッチング素子を通じて、前記入力端子へ電流が流れることを制限する制限手段を備えることを特徴とする。
【0024】
ここで、上記発明に反して、制限手段を廃止すると、メインIGBT31のゲートGmの電位がコレクタCmの電位より高くなった時に、ゲートGmからサブIGBT32を通じてコレクタCmへ電流が逆流することが懸念される。この点を鑑み、上記発明では、導通制御端子から、前記帰還用スイッチング素子を通じて、前記入力端子へ電流が流れることを制限する制限手段(例えば図5に例示するダイオード33)を備えるので、上記懸念を解消できる。
【0025】
ちなみに、制限手段はダイオード33に限られるものではなく、例えばスイッチング素子を制限手段として採用してもよく、この場合には、メインIGBT31のゲートGmの電位がコレクタCmの電位より高くなった時にスイッチング素子(制限手段)をオフ作動し、それ以外の時にはオン作動させればよい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる点火制御装置と、当該制御装置の制御対象である点火装置を示す回路図。
【図2】図1のサブIGBT32の作動を説明する図。
【図3】第1実施形態において、遮断ノイズ発生の一瞬だけ帰還電流を流すように作動した時の各種変化を示すタイムチャート。
【図4】図3(b)(c)の拡大図。
【図5】本発明の第2実施形態にかかる点火制御装置を示す回路図。
【図6】本発明の第3実施形態にかかる点火制御装置を示す構成図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を具体化した各実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付しており、同一符号の部分についてはその説明を援用する。また、以下に説明する各実施形態は、車両に搭載された内燃機関の点火装置を制御対象としている。
【0028】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態にかかる点火制御装置と、当該制御装置の制御対象である点火装置を示す回路図である。点火装置は、一次コイル11および二次コイル12を有して構成される点火コイル10、および点火プラグ13を備える。そして、車両に搭載された直流のバッテリ20から一次コイル11へ通電し、その通電を遮断することにより、二次コイル12に誘起電圧(二次電圧V2)を生じさせて、その二次電圧V2を点火プラグ13に印加して火花放電させる。なお、バッテリ20からは車両に搭載された各種電気機器21へも電力供給されるよう、各種電気機器21および点火装置は並列接続されている。
【0029】
一次コイル11への通電と遮断の切り替えは、メインIGBT31(点火用スイッチング素子)により制御される。そして、メインIGBT31のオンオフ作動は、モノシリック集積回路(MICチップ40)が有するゲート駆動回路41から出力されるゲート信号により制御される。また、ゲート駆動回路41は、電子制御ユニット(ECU50)から出力される点火信号により制御される。
【0030】
ECU50は、内燃機関の出力回転速度や内燃機関の負荷等に応じて目標点火時期を算出し、その目標点火時期に点火コイル10で火花放電することとなるよう、点火信号をゲート駆動回路41へ出力する。
【0031】
点火信号は5Vのパルス信号であり、点火信号のパルスの立ち上がりタイミングで、ゲート駆動回路41はゲート信号を出力し、抵抗R1により電圧調整されたゲート信号(ゲート電圧VGm)がメインIGBT31のゲートGm(導通制御端子)へ印加される。その結果、メインIGBT31のコレクタCm(入力端子)からエミッタEm(出力端子)へ電流I1が流れるようにメインIGBT31はオン作動し、一次コイル11へバッテリ20から供給される電流(一次電流I1)が流れる。
【0032】
一方、点火信号のパルスの立ち下がりタイミングで、ゲート駆動回路41はゲート信号の出力を停止し、ゲートGmへ印加されていたゲート電圧VGmが遮断される。その結果、メインIGBT31はオフ作動して一次電流I1が遮断され、二次電圧V2が点火プラグ13へ印加されて火花放電する。
【0033】
なお、点火制御装置には、一次電流I1が所定値以上にならないように制限する電流制限回路42が備えられており、図1に示す例では、電流制限回路42とゲート駆動回路41を同一のモノシリック集積回路(MICチップ40)上に設けている。また、メインIGBT31は、以下に説明するサブIGBT32および抵抗R2(放電抑制手段)と同一の集積回路(IGBTチップ30)上に設けられている。そして、IGBTチップ30およびMICチップ40は同一の筐体に収容されてイグナイタIgを構成しており、このイグナイタIgと点火コイル10は、1つの組付体(点火コイルアッシーAs)としてユニット化されている。
【0034】
また、イグナイタIgはノイズ除去用のコンデンサCを備えており、このコンデンサCは、イグナイタIgの外部から伝播してくるノイズを除去するよう機能するとともに、イグナイタIgの内部で生じたノイズを除去して外部へ伝播することを抑制するよう機能する。
【0035】
サブIGBT32は、メインIGBT31のコレクタCmとゲートGmの間に接続され、コレクタCmの電圧(つまり一次コイル11に印加される一次電圧V1)をゲートGmへ印加して帰還させるか否かを制御する。
【0036】
つまり、サブIGBT32のゲートGs(帰還導通制御端子)への印加電圧(ゲート電圧VGs)が閾値Vth以上になると、サブIGBT32のコレクタCs(帰還入力端子)からエミッタEs(帰還出力端子)へ電流Iretが流れるようにサブIGBT32はオン作動する。その結果、メインIGBT31のコレクタCmからゲートGmへ帰還電流Iretが流れる。一方、サブIGBT32のゲート電圧VGsが閾値Vth未満になると、サブIGBT32はオフ作動して帰還電流Iretが遮断される。
【0037】
ここで、メインIGBT31へのゲート信号をオフして一次コイル11への一次電流I1を遮断すると、その遮断した一瞬だけ、メインIGBT31のコレクタCmに大きな電圧が遮断ノイズとして生じる。すると、電気機器21および点火コイル10等にバッテリ20から電力供給する電気経路上に存在する寄生コイルLpara、及び先述したコンデンサCにより遮断ノイズがLC共振して、点火コイルアッシーAsに接続されるワイヤハーネスW等を流れて各種の電気機器21へ伝播することが懸念される。
【0038】
このような遮断ノイズは、一次コイル11の遮断速度を遅くして一次電圧(つまりメインIGBT31のコレクタ電圧VCm)の低下速度を遅くすることで低減できる。そこで、ゲート信号をオフして一次電流I1を遮断する一瞬だけ帰還電流Iretを流すことで、メインIGBT31のゲート電圧VGmの低下速度を遅くする。これにより、コレクタ電圧VCm(一次電圧V1)の遮断時の低下速度を遅くすることができ、ひいては遮断ノイズの低減を実現できる。
【0039】
但し、一次電圧V1の低下速度を遅くする期間を長くするほど、二次電圧V2が低くなり、点火プラグ13での火花放電安定化の妨げとなる。また、このように遮断速度を遅くする期間を長くするほど、点火信号をパルスオフさせてゲート信号をオフしてから、点火プラグ13で火花放電するまでに要する時間(点火応答時間)が長くなり、目標点火時期で火花放電させることを高精度で制御できなくなる。
【0040】
したがって、一次電流I1を遮断する一瞬だけサブIGBT32をオン作動させて帰還電流Iretを流すようにすれば、二次電圧V2の高圧化および点火応答時間の短縮と、遮断ノイズ低減との両立を図ることができる。そこで本実施形態では、以下に説明する寄生コンデンサCparaおよび抵抗R2により、遮断の一瞬だけサブIGBT32のゲート電圧VGsを印加してオン作動させることを実現させている。
【0041】
すなわち、図1および図2に示すように、サブIGBT32のゲートGsとエミッタEsの間には、抵抗R2が接続されている。また、図1では図示を省略しているが、図2に示すように、サブIGBT32のコレクタCsとゲートGsの間には、寄生コンデンサCparaが存在している。
【0042】
そのため、メインIGBT31をオフ作動させると、その瞬間に生じた遮断ノイズ電圧(コレクタCm,Csの電圧)により寄生コンデンサCparaが充電されることとなる(図2(a)参照)。ちなみに、抵抗R2を廃止してゲートGsとエミッタEsをショートさせると、寄生コンデンサCparaのうちゲートGs側の電荷はエミッタEsへそのまま移動するだけであり、サブIGBT32のゲート電圧VGsを高くすることができない。よって、遮断ノイズ電圧によりコレクタCm,Csの電圧が高くなってもサブIGBT32はオン作動しない。
【0043】
一方、遮断ノイズ電圧が無くなり、コレクタCm,Csの電圧が低下していくと、寄生コンデンサCparaから放電されることとなる(図2(b)参照)。具体的には、寄生コンデンサCparaに充電された電荷が、抵抗R2により制限されながらエミッタEsへ徐々に移動していく。つまり、ゲート電圧VGsは徐々に低下していく。
【0044】
したがって、抵抗R2の抵抗値が大きいほど、遮断ノイズが無くなった後におけるサブIGBT32のゲート電圧VGsの低下速度が遅くなり、その結果、メインIGBT31のゲート電圧VGmの低下速度が遅くなり、一次コイル11の遮断速度が遅くなる。つまり、抵抗R2の抵抗値を調整することで、ゲート電圧VGsの低下速度を調整でき、ひいてはゲート電圧VGmの低下速度を調整して一次コイル11の遮断速度を調整できると言える。要するに、二次電圧V2の高圧化および点火応答時間の短縮と、遮断ノイズ低減とのバランスを最適にする前記抵抗値を試験等により決定して、抵抗R2を選定すればよい。
【0045】
図3は、上述の如く遮断ノイズ発生の一瞬だけ帰還電流Iretを流すように作動した時のタイムチャートである。図中の(a)はECU50から出力される点火信号、(b)はメインIGBT31のゲート電圧VGm、(c)はメインIGBT31のコレクタ電圧VCm、(d)は一次電流I1、(e)はワイヤハーネスWを流れる電流Iw、(f)はイグナイタIgに設けられたバッテリ供給端子の電圧VB、(g)は二次電圧V2の変化を示す。
【0046】
先ず、t1時点で点火信号のパルスオンがECU50から出力されると((a)参照)、ゲート電圧VGmは徐々に上昇していく((b)参照)、そして、ゲート電圧VGmがバッテリ電圧+Bに達したt2時点で、メインIGBT31がオン作動して、コレクタCmからエミッタEmへ一次電流I1が流れはじめる。つまり、t2時点でコレクタ電圧(一次電圧V1)は接地電圧とほぼ同じ電位にまで低下し((c)参照)、一次電流I1および電流Iwは上昇を開始する((d)(e)参照)。
【0047】
その後、t3時点で点火信号のパルスオンがECU50から出力されると((a)参照)、ゲート電圧VGmは徐々に下降していきく((b)参照)。そして、ゲート電圧VGmが所定の閾値まで低下したt4時点で、メインIGBT31がオフ作動を開始するとともに、一次電圧V1に遮断ノイズNが発生する((c)参照)。
【0048】
図4は図3(b)(c)の拡大図であり、図中の(h)はサブIGBT32のゲート電圧VGs、(i)はサブIGBT32の作動状態変化を示す。そして、遮断ノイズNが生じたt4時点で、寄生コンデンサCparaが充電されてサブIGBT32のゲート電圧VGsが持ち上げられて((h)参照)、サブIGBT32がオン作動を開始する((i)参照)。その後、寄生コンデンサCparaからの放電に伴いゲート電圧VGsが下降していき、ゲート電圧VGsが所定の閾値Vthにまで低下したt5時点で、サブIGBT32はオフ作動に切り替わる。
【0049】
したがって、遮断ノイズNが生じたt4時点から、寄生コンデンサCparaの放電がある程度為されるt5時点までの期間に、メインIGBT31のゲートGmに帰還電流Iretが流れ込むこととなり、前記期間t4〜t5におけるゲート電圧VGmの低下速度(一次電流I1の遮断速度(I1/dt))を遅くしている。
【0050】
ちなみに、先述した特許文献1等に記載の従来手法による帰還電流の流し方では、図4中の点線に示すように、遮断ノイズNが無くなった後のt6時点までサブIGBT32をオン作動させてしまい、帰還電流を流す期間t4〜t6が過剰に長くなっていると言える。
【0051】
以上により、本実施形態によれば、寄生コンデンサCparaおよび抵抗R2により、遮断ノイズNの電圧でサブIGBT32をオン作動させるようにできるので、遮断ノイズNが発生している瞬間(t4〜t5の期間)だけ帰還電流Iretを流すようにできる。
【0052】
よって、遮断ノイズNが発生していない時にまで帰還電流Iretを流す特許文献1記載の装置に比べ、一次電流I1の遮断速度を速くすることができるので、二次電圧V2を高圧化して火花放電の安定化を図ることができる。また、点火信号をパルスオフさせるt3時点から、二次電圧V2がピークに達するt7時点までに要する応答遅れ(点火応答時間)を短縮でき、目標点火時期で火花放電させることを高精度で制御できる。
【0053】
それでいて、遮断ノイズNが発生している瞬間t4〜t5については、帰還電流Iretが流れて一次電流I1の遮断速度が遅くなるので、遮断ノイズ低減を図ることができる。具体的には、ワイヤハーネスWの電流Iwおよびバッテリ供給端子の電圧VBが、図3(e)(f)に示すように遮断ノイズNのLC共振により脈動する度合いを低減できる。以上により、二次電圧V2の高圧化および点火応答時間の短縮と、遮断ノイズ低減との両立を図ることができる。
【0054】
しかも、抵抗R2の抵抗値を調整することで、帰還電流Iretが流れる期間t4〜t5の終了時期t5を容易に調整できるので、遮断ノイズNが発生している瞬間だけ帰還電流Iretが流れるようにすることを容易に実現できる。
【0055】
(第2実施形態)
図5に示す本実施形態では、サブIGBT32のエミッタEsとメインIGBT31のゲートGmとの間に、ダイオード33(制限手段)を接続させている。なお、ダイオード33を設けた以外の点については、本実施形態にかかる点火制御装置は上記第1実施形態と同じである。
【0056】
上記ダイオード33は、メインIGBT31のコレクタCmからゲートGmへ帰還電流Iretを流すことを許容し、その逆向きの電流(図5中の符号Ia参照)を流すことは阻止する向きに接続されている。具体的には、ダイオード33のアノード側がエミッタEsに接続され、カソード側がゲートGmに接続されている。
【0057】
以上により、本実施形態によれば、メインIGBT31のゲートGmの電位がコレクタCmの電位よりも高くなったとしても、ダイオード33が備えられているので、メインIGBT31のゲートGmからコレクタCmへ、サブIGBT32を通じて電流Iaが流れることを阻止できる。
【0058】
(第3実施形態)
図6(a)に示す本実施形態では、メインIGBT31を構成する集積回路(IGBTチップ30)上に、サブIGBT32を設けている。したがって、メインIGBT31に取り付けられているヒートシンク31Hは、サブIGBT32の放熱にも利用される。なお、図6では図示を省略しているが、抵抗R2およびダイオード33の少なくとも一方はIGBTチップ30上に設けられている。
【0059】
ここで、本発明者らは、寄生コンデンサCparaに替えてコンデンサを実装させることを検討した。しかし、コンデンサはIGBTチップ30上に設けることが困難であるため、IGBTチップ30とは別にコンデンサの収容スペースが必要になるので、イグナイタIgの大型化を招く。
【0060】
これに対し、寄生コンデンサCparaを利用した本発明によれば、本実施形態の如く、サブIGBT32をメインIGBT31と同一のチップ30上に設けることを容易に実現できるので、イグナイタIgの小型化を図ることができる。さらに本実施形態によれば、メインIGBT31のヒートシンク31HをサブIGBT32の放熱にも利用するので、サブIGBT32専用のヒートシンクを備えさせる場合に比べて、イグナイタIgの小型化を促進できる。
【0061】
図6(b)は、図6(a)の変形例を示す図であり、メインIGBT31を構成するICチップ30Aと、サブIGBT32を構成するICチップ30Bとを別々に設けている。この場合、抵抗R2はサブIGBT32と同一のICチップ30B上に設けることが望ましい。
【0062】
なお、このように別々のICチップ30A,30Bを設けた場合であっても、図6(b)に示すように、両方のICチップ30A,30Bを共通のヒートシンク31Hで放熱させて、イグナイタIgの小型化を図ることが望ましい。
【0063】
(他の実施形態)
本発明は上記実施形態の記載内容に限定されず、以下のように変更して実施してもよい。また、各実施形態の特徴的構成をそれぞれ任意に組み合わせるようにしてもよい。
【0064】
・上記各実施形態では、点火用スイッチング素子および帰還用スイッチング素子に絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)を採用しているが、これらのスイッチング素子の少なくとも一方に、金属酸化物半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)を採用してもよい。
【0065】
・上記各実施形態では、放電抑制手段に抵抗R2を採用しているが、例えばスイッチング素子を放電抑制手段として採用してもよい。この場合には、遮断ノイズN発生時にはスイッチング素子(放電抑制手段)をオフ作動させて寄生コンデンサCparaへ充電させ、遮断ノイズN発生終了後または発生期間中に、スイッチング素子オン作動させて寄生コンデンサCparaの放電を開始させればよい。
【0066】
・上記各実施形態では、制限手段にダイオード33を採用しているが、例えばスイッチング素子を制限手段として採用してもよい。この場合には、メインIGBT31のゲートGmの電位がコレクタCmの電位より高くなった時に、スイッチング素子(制限手段)をオフ作動させて図5中の符号Iaに示す逆流を防ぎ、それ以外の時にはオン作動させればよい。
【符号の説明】
【0067】
11…一次コイル、30…IGBTチップ、31…メインIGBT(点火用スイッチング素子)、31H…ヒートシンク、32…サブIGBT(帰還用スイッチング素子)、33…ダイオード(制限手段)、Cm…コレクタ(点火用スイッチング素子の入力端子)、Gm…ゲート(点火用スイッチング素子の導通制御端子)、Cs…コレクタ(帰還用スイッチング素子の帰還入力端子)、Gs…ゲート(帰還用スイッチング素子の帰還導通制御端子)、Cpara…寄生コンデンサ、Iret…帰還電流、R2…抵抗(放電抑制手段)、VGs…ゲート電圧(制御電圧)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
点火コイルを構成する一次コイルへの通電と遮断を制御する点火用スイッチング素子と、
前記点火用スイッチング素子の入力端子と導通制御端子との間に接続され、前記入力端子の電圧を前記導通制御端子へ印加して帰還させるか否かを制御する帰還用スイッチング素子と、
を備え、
前記点火用スイッチング素子のオフ作動に伴い前記入力端子に生じた遮断ノイズ電圧により、前記帰還用スイッチング素子の帰還入力端子および帰還導通制御端子間に存在する寄生コンデンサが充電され、この充電により前記帰還導通制御端子の制御電圧が上昇して前記帰還用スイッチング素子はオン作動するように構成され、
かつ、前記寄生コンデンサが放電することにより前記制御電圧が下降して前記帰還用スイッチング素子はオフ作動するように構成されていることを特徴とする内燃機関用点火制御装置。
【請求項2】
前記寄生コンデンサのうち前記帰還導通制御端子の側から、前記帰還用スイッチング素子の帰還出力端子へ放電されるよう構成されており、
前記帰還導通制御端子および前記帰還出力端子間に接続され、前記寄生コンデンサからの前記放電を抑制する放電抑制手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関用点火制御装置。
【請求項3】
前記点火用スイッチング素子と前記帰還用スイッチング素子が、同一のチップ上に形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の内燃機関用点火制御装置。
【請求項4】
前記点火用スイッチング素子と前記帰還用スイッチング素子が、同一のヒートシンク上に配置されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の内燃機関用点火制御装置。
【請求項5】
前記導通制御端子から、前記帰還用スイッチング素子を通じて、前記入力端子へ電流が流れることを制限する制限手段を備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の内燃機関用点火制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−11181(P2013−11181A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−142779(P2011−142779)
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】