説明

内燃機関用点火装置

【課題】イグナイタのサーマルシャットオフ回路が作動する前に、点火コイルの1次コイルが溶損するという事故を防止する。
【解決手段】本発明は、点火コイルの1次コイルの抵抗値を0.7Ω以下にしたものである。イグナイタの放熱板が銅若しくはアルミニウムの場合には、点火コイルの1次コイルの抵抗値を0.6Ω以下にしたものである。
【効果】使用環境条件やECU異常時に、半導体スイッチング素子だけでなく、点火コイルも保護でき、安全な点火コイルを供給することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は内燃機関の点火プラグに火花放電を発生させるために各気筒の点火プラグごとに点火コイルが配備されたいわゆる独立点火型内燃機関用点火装置に関する。ことに、内燃機関用電子制御装置(ECU)から出力される点火制御信号に応じて点火コイルに流れる一次電流を半導体スイッチング素子によって通電,遮断制御することにより、前記点火コイルの二次側に高電圧を発生させる内燃機関用点火装置であって、前記半導体スイッチング素子が形成されたイグナイタチップが前記点火コイル部と一緒に樹脂ケース内に取付けられたものに関する。
【背景技術】
【0002】
特開平8−335522号公報には、イグナイタチップの発熱を検知して、異常発熱を感知した際に、イグナイタの半導体スイッチング素子を強制的に遮断するサーマルシャットオフ回路(温度検知機能)を備えたイグナイタが記載されている。また、このようなイグナイタを点火コイルと共に、樹脂ケース内に搭載する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−335522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
サーマルシャットオフ回路を備えたイグナイタを点火コイルと共に、樹脂ケースに装着したものでは、ECUから異常信号がイグナイタに入力されて半導体スイッチング素子が連続通電となると、チップの発熱が検知温度以上に達するのでこの異常発熱を検知し、半導体スイッチング素子への通電を強制的に遮断する。
【0005】
これによって、イグナイタの発熱を許容温度以下に保護できるが、イグナイタチップの発熱が検知温度に達するまでは連続通電となっており、その間点火コイルの一次コイルが発熱するため、コイル部(具体的には一次コイル,二次コイル,鉄心を言う)の仕様によってはイグナイタのチップの温度がサーマルシャットオフ回路の動作する温度に達する前に一次コイルの発熱が点火コイルの許容耐熱温度を超えて、点火コイルが溶損する恐れがある。
【0006】
また、点火コイルの使用環境条件によっては連続通電となった場合でもイグナイタの発熱が小さく、チップが発熱を検知する温度まで上がらず、温度検知機能が動作しない場合があり、その際にコイル部の発熱が大きくなり、点火コイルの許容耐熱温度を超えて、点火コイルが溶損する場合がある。
【0007】
本発明の目的は、イグナイタのサーマルシャットオフ回路が作動する前に、点火コイルの1次コイルが溶損するという事故を防止するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記目的を達成するために、点火コイルの1次コイルの抵抗値を0.7Ω以下にしたものである。
【0009】
イグナイタの放熱板が銅若しくはアルミニウムの場合には、点火コイルの1次コイルの抵抗値を0.6Ω以下にしたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、使用環境条件やECU異常時に、半導体スイッチング素子だけでなく、点火コイルも保護でき、安全な点火コイルを供給することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のエンジンのプラグホール上部に配置されるタイプの点火コイル上面図である。
【図2】図1の点火コイルのA−A断面を示す図である。
【図3】コイル部及びスイッチング素子の消費電力を表す図である。
【図4】本発明者が実験により求めたイグナイタの放熱板12に使用する材料は熱可塑性合成樹脂(詳しくはPBT)とし、コイル部の一次コイル抵抗を変えた条件で、サーマルシャットオフ回路が動作した時のコイル部の発熱温度、もしくはサーマルシャットオフ回路が動作せずにコイル部の発熱が飽和した時の発熱温度を表した図である。
【図5】本発明者が実験により求めたイグナイタの放熱板12に使用する材料は銅及びアルミとし、コイル部の一次コイル抵抗を変えた条件で、サーマルシャットオフ回路が動作した時のコイル部の発熱温度、もしくはサーマルシャットオフ回路が動作せずにコイル部の発熱が飽和した時の発熱温度を表した図である。
【図6】本発明者が実験により求めた一次コイル巻層を二層及び三層とした時のコイル部の一次コイル抵抗を変えた条件で、サーマルシャットオフ回路が動作した時のコイル部の発熱温度、もしくはサーマルシャットオフ回路が動作せずにコイル部の発熱が飽和した時の発熱温度を表した図である。
【図7】本発明のエンジンのプラグホール内に収容されるタイプの点火コイル断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、チップの発熱を検知して異常発熱時に通電を強制的に遮断する温度検知機能を備えたイグナイタを搭載した点火コイルにおいて、点火コイルが連続通電してもチップの発熱が検知温度以上に達して温度検知機能が動作し、その際に点火コイルの発熱は許容耐熱温度以下となり、点火コイルが破損しないため、点火コイル異常発熱による破損を保護することが可能となる。また、使用環境条件により、チップの発熱が小さく、イグナイタで温度検知機能が動作しない場合はコイル部の発熱も小さく、許容温度以下となることが可能となり、点火コイルが破損しないため、点火コイル異常発熱による破損を保護することが可能となる。
【実施例1】
【0013】
図1,図2には、本発明に係る内燃機関用点火コイルの一実施例が示されている。図1は本発明の内燃機関用点火コイルの外観上面図、図2は図1に図示の内燃機関用点火コイルのA−A線断面図である。
【0014】
図2において、内燃機関用点火コイル1は、内燃機関の各シリンダのプラグホールに装着されて点火プラグに直結し使用される独立点火形の内燃機関用点火コイルである。この内燃機関用点火コイル1は、鉄心6を有し、この鉄心6は、E字状に形成されており、磁気回路が構成されている。この鉄心6は、0.2〜0.7mmの珪素鋼板を積層して磁路を形成している。そして、この鉄心6は、センタ鉄心部6Aと、サイド鉄心部6Bとによって構成されている。
【0015】
そして、このセンタ鉄心部6Aは、図2に示す如く、一端が矩形の枠状に形成されるサイド鉄心部6Bの一側に配設され、他端が矩形の枠状に形成されるサイド鉄心部6Bの他側と空隙部6Cを設けて配置されている。このセンタ鉄心部6Aは、図2に示す如く、一次ボビン2に収納されている。この鉄心6の外周側に配設されセンタ鉄心部6Aが収納されている一次ボビン2は、熱可塑性合成樹脂により形成されている。この一次ボビン2の上には、一次コイル3が巻装され、一次ボビン2の上に収納されている。この一次コイル3は、線径0.3〜1.0mm程度のエナメル線を一層当たり数十回ずつ、数層にわたり合計百ないし三百回程度一次ボビン2に積層巻されて形成されている。
【0016】
また、この一次ボビン2の外周には、空隙をもって、二次ボビン4が配設されている。この二次ボビン4は、一次ボビン2と同様に熱可塑性合成樹脂によって成形されており、この二次ボビン4には複数個の巻溝が形成されている。この二次ボビン4の上には、二次コイル5が巻装され、一次ボビン2の上に収納されている。この二次コイル5は、線径0.03〜0.1mm程度のエナメル線を用いて合計五千ないし三万回程度二次ボビン4に分割巻されて形成されている。このように、一次ボビン2は、二次ボビン4の内側に挿入された状態となっている。この一次ボビン2に巻装された一次コイル3,二次ボビン4に巻装された二次コイル5は、コイルケース7に収納されている。
【0017】
また、一次コイル3に供給する電力は、端子8を介して供給され、この端子8には、図示していないが、コネクタが接続されるようになっている。一方、二次コイル5には、高圧端子9が接続されている。この二次コイル5には、一次コイル3の通電及び自動車のECU(図示せず)から送られてくる点火信号に対しスイッチング素子11で遮断を行い、点火プラグに火花放電を発生させるための高電圧が誘起される。この二次コイル5に誘起された高電圧は、高圧端子9を介して点火プラグに供給され、この二次コイル5に誘起された高電圧の供給を受け、点火プラグは、火花放電を発生させる。
【0018】
そして、この一次ボビン2に巻装された一次コイル3,二次ボビン4に巻装された二次コイル5が収容されているコイルケース7には、熱硬化性樹脂で構成される絶縁用樹脂(具体的には、エポキシ樹脂)10が封入されている。この絶縁用樹脂(具体的には、エポキシ樹脂)10は、コイルケース7の内側と、一次ボビン2に巻装された一次コイル3,二次ボビン4に巻装された二次コイル5との隙間に充填され、この絶縁用樹脂(具体的には、エポキシ樹脂)10を硬化させて一次コイル3,二次コイル5との絶縁を行っている。このようにコイルケース7内には、この絶縁用樹脂(具体的には、エポキシ樹脂)10によって一次コイル3,二次コイル5,一次ボビン2,二次ボビン4が絶縁され、固定されて一体化して収容されている。ここで、スイッチング素子11はセンタ鉄心6Aの長手方向及び一次コイル3,二次コイル5の巻回し方向に対し、垂直方向となるように配置している。さらに鉄心6とスイッチング素子11の間は1mm以上空け、隙間にはコイルケース7の壁もしくは絶縁用樹脂で埋めている。これはスイッチング素子11がコイル部の発熱の、またコイル部がスイッチング素子11の発熱の影響を受けにくくさせるためである。
【0019】
本発明の点火コイルに搭載するスイッチング素子11は、スイッチング回路部を絶縁ゲート形バイポーラトランジスタ(IGBT)で構成し、その保護機能として電流制限機能及び、チップの発熱を検知して異常発熱時に通電を強制的に遮断するサーマルシャットオフ回路(温度検知機能)をIGBTのチップに集約したイグナイタとしている。また、スイッチング素子11の違いによるコイルの発熱は変わらないため、IGBTではなく通常のパワートランジスタを搭載した場合でも問題ない。さらにスイッチング素子にはスイッチング素子の発熱を抑制及びコイルケース7との位置決めをするために放熱板12が取付けられている。
【0020】
サーマルシャットオフ回路は連続通電等によるチップの熱破壊を防止するために設けている。図3に一次電流波形,コレクタ・エミッタ間電圧,イグナイタの消費電力の関係を示す。チップの発熱は消費電力及びイグナイタの熱抵抗の積算で決まり、消費電力P1は一次電流(I1)とコレクタ・エミッタ間電圧(VCE)の積算で求めることができる。即ち、
P1=∫VCE×I1dt …(1)
となる。通常動作時(t1領域)はコレクタ・エミッタ間電圧(VCE)が1〜5Vと低いため、チップの発熱はチップを破壊する温度には至らない。例えばt1=2ms,周期20ms時のチップの発熱は2W程度である。しかしながら、図3に示すように電流制限領域(t2領域)ではコレクタ・エミッタ間電圧(VCE)が急激に上がり(約8V)、発熱は約50W以上となり、このためチップの発熱は上昇する。このときにサーマルシャットオフ回路はチップの発熱を検出し、チップの破壊に至る前に通電信号を強制的に遮断する機能である。また、イグナイタの熱抵抗はチップサイズ、放熱板12の材料やサイズ、イグナイタ周囲の構造によって異なる。特に放熱板12の材料に起因され、熱伝導率の高い銅材と熱伝導率の低い熱可塑性合成樹脂とでは1.2〜3倍程度熱抵抗が異なる。
【0021】
また、点火コイルの消費電力P2は一次コイル3の抵抗をR1(0.3〜1.5Ω)とした場合、
P2=R1×∫I12dt …(2)
となる。例えば図3の通常動作領域時の発熱はt1=2ms,周期20ms時の場合、約2W程度となり、コイル部の発熱は小さい。しかし、図に示すように電流制限領域(t2領域)ではイグナイタのチップと同様にコイル部の発熱は約50W以上となり、使用環境条件によっては数秒でコイル部の許容温度を超えて破損する。
【0022】
本実施例においては、サーマルシャットオフ回路を設けたイグナイタを点火コイルに搭載しているため、連続通電となった場合にはイグナイタ及びコイル部共に発熱が大きくなるが、イグナイタのチップ温度がある温度に達するとサーマルシャットオフ回路により強制的に通電をカットするため、イグナイタを確実に保護することができる。しかしながら、使用環境条件及びコイル部の仕様によってはコイル部の発熱がイグナイタの発熱よりも大きく、イグナイタで通電を強制的に遮断する前にコイル部が破損する場合がある。また、イグナイタの発熱が小さく、チップが発熱を検知する温度まで上がらず、温度検知機能が動作しない場合もあり、その際にコイル部の発熱が大きくなり、点火コイルの許容耐熱温度を超えて、点火コイルが破損する場合がある。ここで言う最も厳しいとされる使用環境条件は以下の2点である。
・使用環境温度が低い場合(例−40℃)
・バッテリ電圧が低い場合(6V)
【0023】
使用環境温度が低い場合、コイル部よりも外側に配置され、周温の影響を受けやすいイグナイタは放熱性がよく発熱は常温時よりも低くなる。それに対し、コイル部は発熱する一次コイルの周囲には鉄心やエポキシ樹脂が充填されているため、周温に左右されずに発熱してしまう。
【0024】
また、バッテリは通常であれば12〜14Vのバッテリ電圧が一次コイルに供給されるが、充電不足などによりバッテリ電圧が6V程度となった場合、一次コイルに流れる一次電流は6A程度となり、一次電流値が低いため、イグナイタの電流制限機能が動作しない。さらにバッテリ電圧が低いため、コレクタ・エミッタ間電圧(VCE)も1〜3V程度と低く、この時のイグナイタの消費電力P1は6A×3V=18W程度である。それに対し、コイル部での消費電力P2は1Ω×6A×6A=36Wとなるため、コイル部の発熱が大きくなってしまう。
【0025】
また、コイル部の仕様によっても発熱は大きく異なる。上記に記したようにバッテリ電圧が6Vの時でも一次コイル抵抗が0.5Ωの場合は消費電力P2が0.5Ω×6A×6A=18Wとなり、一次抵抗が1Ω時の半分の発熱となる。
【0026】
このように使用環境条件及びコイル部の仕様により、連続通電となった場合にイグナイタを保護できてもコイル部を保護できない条件ができるため、本実施例では使用環境が厳しい条件(仕様環境温度:−40℃、バッテリ電圧:6V)で連続通電となった場合でもイグナイタだけでなく、コイル部も確実に許容温度以下となるコイル部の仕様を提案する。
【0027】
具体的には
・コイル部の発熱となる一次コイル抵抗を小さくする
・イグナイタの放熱板12は一次コイル抵抗に合わせて材料を変更する
・一次コイル3は巻層が二層以下に巻回させる
上記について説明する。
【0028】
一次コイル抵抗は(2)式に記載されているように一次コイル抵抗が小さくなることでコイルの消費電力を下げることができる。一次コイル抵抗を1Ωから0.5Ωに下げることで消費電力を半分にすることが可能となる。
【0029】
また、一次コイル抵抗が高い場合でもイグナイタの放熱のために取付けられる放熱板12の放熱性を悪くさせることで、イグナイタが急激に発熱し、サーマルシャットオフ回路を早く動作させることで、コイル部の発熱を下げることが可能となる。
【0030】
さらに、一次コイル3の巻層を多くすると一次コイル内部の熱がこもりやすく、発熱が大きくなる。例えば四層とした場合、二層目と三層目は一層目と四層に挟まれているため、熱を逃がすことができず、発熱が大きくなる。それに対し、一次コイル3の巻層を二層とした場合は一層,二層とも片側は開放されており、放熱性が上がるため、一次コイルの発熱は巻層を三層以上とした時よりも下がる。
【0031】
本願発明者は上述した内容について実証すべく実験を行った。
【0032】
図4〜図6は、この時の実験結果を示す図である。また、実験を行った際の環境条件はもっとも厳しい以下の条件で行った。
・環境温度:−40℃
・バッテリ電圧:6V
・連続通電
【0033】
また、実験で使用するイグナイタの放熱板12は表面積が500mm2のものを使用した。
【0034】
図4はイグナイタの放熱板12に使用する材料は熱可塑性合成樹脂(詳しくはPBT)とし、コイル部の一次コイル抵抗を変えた条件で、サーマルシャットオフ回路が動作した時のコイル部の発熱温度、もしくはサーマルシャットオフ回路が動作せずにコイル部の発熱が飽和した時の発熱温度を表した図である。この図より、一次コイル抵抗が0.5Ω,0.6Ωの時はサーマルシャットオフ回路が動作し、コイル部の発熱は許容耐熱温度以下である。また、0.7Ωの時はサーマルシャットオフ回路が動作しないが、コイル部の発熱は許容耐熱温度以下で飽和した。さらに一次コイル抵抗が0.8Ωの時にはコイル部の発熱が許容温度を超える結果となった。イグナイタの放熱板12を取付け無い場合においても、図示していなが、PBTと熱硬化性樹脂(詳しくはエポキシ樹脂)の熱伝導率はほぼ同じため、結果は変わらない。したがって、イグナイタの放熱板12に熱可塑性合成樹脂(詳しくはPBT)もしくは放熱板無しとした場合には、一次コイル抵抗は0.7Ω以下とすることで、連続通電時でもコイル部の発熱を許容耐熱温度以下にさせることが可能である。
【0035】
図5はイグナイタの放熱板12に使用する材料は銅及びアルミとし、コイル部の一次コイル抵抗を変えた条件で、サーマルシャットオフ回路が動作した時のコイル部の発熱温度、もしくはサーマルシャットオフ回路が動作せずにコイル部の発熱が飽和した時の発熱温度を表した図である。この図より、一次コイル抵抗が0.5Ωの時はサーマルシャットオフ回路が動作し、コイル部の発熱は許容温度以下である。また、0.6Ωの時はサーマルシャットオフ回路が動作しないが、コイル部の発熱は許容耐熱温度以下で飽和した。さらに一次コイル抵抗が0.7Ωの時には許容耐熱温度を超える結果となった。イグナイタの放熱板材料の違いは熱伝導率の差より放熱性の良い銅材の方がアルミ材に比べてイグナイタの放熱性がよく、アルミ材の場合は銅材に比べてサーマルシャットオフ回路が動作するまでに時間がかかるため、コイル部の発熱は若干上昇するが、大きな差は見られなかった。したがって、イグナイタの放熱板12に銅もしくはアルミ材とした場合には一次コイル抵抗は0.6Ω以下とすることで、連続通電時でもコイル部の発熱を低減し許容耐熱温度以下にさせることが可能である。
【0036】
図6はコイル部の一次コイル巻層を二層及び三層とした時のコイル部の一次コイル抵抗を変えた条件で、サーマルシャットオフ回路が動作した時のコイル部の発熱温度、もしくはサーマルシャットオフ回路が動作せずにコイル部の発熱が飽和した時の発熱温度を表した図である。この図より一次コイルの巻層を二層巻とした方がコイル部の発熱を抑えることができる。したがって、コイル部の発熱を低減させるために一次コイルの巻層を二層巻以下とした。
【0037】
以上の結果よりサーマルシャットオフ回路を備えたイグナイタを採用する場合のコイル部の仕様は下記となる。
・一次コイル3の巻層を二層とし、一次コイル抵抗が0.7Ω以下とした場合はイグナ
イタの放熱板12は熱可塑性合成樹脂もしくは放熱板無しとする。
・一次コイル3の巻層を二層とし、一次コイル抵抗が0.6Ω以下とした場合はイグナ
イタの放熱板の材料は上記の熱可塑性合成樹脂もしくは放熱板無し及び銅もしくはア
ルミ材とする。
【0038】
上記のコイル部の仕様にすることで、使用環境が厳しい条件(仕様環境温度:−40℃、バッテリ電圧:6V)で連続通電となった場合でも、イグナイタだけでなく、コイル部も確実に許容耐熱温度以下とすることができる。
【0039】
なお、本実施例はコイル部がエンジンに搭載された際にプラグホールの上部に配置する点火コイルについて説明したが、図7に示すようなコイル部がプラグホール内に収容されるタイプの点火コイルにおいても、連続通電のような過渡的な発熱時には一次コイル抵抗でコイル部の発熱は決まるため、発熱量は同様の結果となり、本発明が適応できる。
【0040】
本実施例に係る内燃機関用点火コイルは、内燃機関の各シリンダのプラグホールに装着されて点火プラグに直結し使用される独立点火形の内燃機関用点火コイルであって、サイド鉄心部とセンタ鉄心部とによって磁気回路を構成し、センタ鉄心部は一端がサイド鉄心部に配設され、他端がサイド鉄心部と空隙部を設けて配置されて磁路が形成され、センタ鉄心部が収納された一次ボビンの上に一次コイルを巻装して収納し、一次ボビンと空隙をもって配置される二次ボビンの上に二次コイルを巻装して収納され、一次ボビンと二次ボビンとを間隔をもって配置してコイルケース内に収容し、コイルケース内に絶縁用樹脂を封入して一体化してなり、点火コイルに流れる一次電流を通電,遮断制御するスイッチング素子は、チップの発熱を検知して異常発熱時に通電を強制的に遮断する温度検知機能を備えたイグナイタを搭載する内燃機関用点火コイルにおいて、一次コイルの抵抗値を0.7Ω以下としたことによりを提供することにある。
【産業上の利用可能性】
【0041】
上記実施例では、プラグホールの上端部に点火コイルを横置き(つまりプラグホールに軸線に対して点火コイルの長手方向軸線が直角方向になるような方向)にした、いわゆるプラグトップ型の内燃機関用点火装置について説明したが、これにとらわれることなく、点火コイル部がプラグホールの中に配置され、点火コイルの上端部に、イグナイタが装着される、いわゆるスティック型あるいは筒型、あるいはペンシル型の点火装置にも利用できる。
【符号の説明】
【0042】
1 内燃機関用点火コイル
2 一次ボビン
3 一次コイル
4 二次ボビン
5 二次コイル
6 鉄心
7 コイルケース
8 端子
9 高圧端子
10 絶縁用樹脂
11 スイッチング素子
12 放熱板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関用電子制御装置(ECU)から出力される点火制御信号に応じて点火コイルに流れる一次電流を半導体スイッチング素子によって通電,遮断制御することにより、前記点火コイルの二次側に高電圧を発生させる内燃機関用点火装置であって、
前記半導体スイッチング素子が形成されたイグナイタチップが前記点火コイル部に一体に取付けられており、さらに前記イグナイタチップの発熱を検知して異常発熱時に前記半導体スイッチング素子への通電を強制的に遮断するサーマルシャットオフ機能を備えたものにおいて、
前記点火コイルの前記一次コイルの抵抗値を0.7Ω以下とした内燃機関用点火装置。
【請求項2】
請求項1に記載したものにおいて、
前記イグナイタは放熱板上に取付けられており、この放熱板は熱可塑性合成樹脂もしくは熱硬化性樹脂材で形成された内燃機関用点火装置。
【請求項3】
請求項1に記載したものにおいて、
前記イグナイタは銅もしくはアルミ材製の放熱板上に取付けられており、且つ、前記点火コイルの前記一次コイルの抵抗値を0.6Ω以下とした内燃機関用点火装置。
【請求項4】
請求項1に記載したものにおいて、
前記半導体スイッチング素子は絶縁ゲート形バイポーラトランジスタ(IGBT)で構成され、
前記イグナイタは前記絶縁ゲート形バイポーラトランジスタ(IGBT)に流れる電流の上限値を制限する電流制限機能部を有する内燃機関用点火装置。
【請求項5】
請求項1に記載したものにおいて、
前記スイッチング素子はパワートランジスタで構成され、
前記イグナイタは前記パワートランジスタに流れる電流の上限値を制限する電流制限機能部を有する内燃機関用点火装置。
【請求項6】
請求項1に記載したものにおいて、
前記点火コイルは中心に積層鋼板製のセンタコアが設けられ、その周りに一次コイルと二次コイルからなる前記点火コイルが配置されており、
コネクタが一体に形成された樹脂ケース内に前記センタコアと前記点火コイルの組体は収納されており、
前記イグナイタは前記樹脂ケースの内壁部で、前記センタコアの長手方向軸心に対して交わる平面部に前記センタコアの端部対面して取付けられており、
前記点火コイルおよびセンタコアの端部と前記イグナイタとの間には熱可塑性合成樹脂もしくは熱硬化性樹脂が充填されている内燃機関用点火装置。
【請求項7】
請求項1に記載したものにおいて、前記一次コイルは巻層が二層以下である内燃機関用点火装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−255539(P2010−255539A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−107264(P2009−107264)
【出願日】平成21年4月27日(2009.4.27)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】