説明

内燃機関

【課題】内燃機関において、ノッキングの発生を抑制するために、長期の使用に耐え、かつ低コストな排気促進手段を実現する。
【解決手段】ピストン頂面14aにピストン頂面との間で閉鎖空間cを形成可能にバネ性をもつ金属製膜体32が張設されている。閉鎖空間cとクランク室側空間sとに連通する連通孔34がピストン隔壁14cに穿設されている。金属製膜体32は燃焼室fと閉鎖空間cとの圧力差によって燃焼室f側に膨出可能に構成されている。金属製膜体32は、圧縮工程及び燃焼・膨張工程で、燃焼室fの圧力増加によってピストン頂面14aに圧接し、排気行程で燃焼室fの圧力低下によって燃焼室f側に膨出し、燃焼室f内の残留排気ガスを排気弁28から排出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関において、排気行程において燃焼室に排気を残留させないようにして燃焼室内温度を抑え、ノッキングを抑制可能にした内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の燃焼室では、ピストンの上死点位置より上方に、間隙容積が形成される。そのため、内燃機関の排気行程では、どうしても燃焼室間隙容積分の排気ガスが残留してしまう。この残留排気ガスは吸気行程で再度取り込まれ、混合気温度を上昇させる。このことがノッキングを助長する大きな要因となっている。一方で、昨今、燃費低減ニーズが高まってきており、これに対し、圧縮比を高めることにより、燃焼効率を向上させる方策が追求されている。ところが、圧縮比を高めると、ノッキングが発生しやすくなるため、このノッキングを如何に抑えるかが重要な課題となっている。
【0003】
特許文献1に、ノッキングの発生を抑えるため、排気行程後の燃焼室内に残留する排気ガス量を低減するエンジンの排気促進手段が開示されている。特許文献1に開示された排気促進手段の第1の手段を、図6により説明する。図6はピストン部分を示す。図6において、ピストン100の頂部に凹部102が形成されている。凹部102には、ピストン100の頂部からその一部が突出可能な突出部材104が収容されている。突出部材104は、凹部102から突出可能な柱状部106と、凹部102に収容されたフランジ部108とからなる。突出部材104とピストンヘッド壁面との間に、シール部材112が介装されている。
【0004】
凹部102の内部には、柱状部106を燃焼室側に付勢するばね110が設けられている。また、凹部102とピストン100の底部側外面とを連通する複数の孔114が穿設されている。ばね110のばね力F1は、圧縮工程時に発生する燃焼室の圧縮力F2、又は燃焼・膨張工程時に燃焼室に発生する燃焼圧により押圧力F3より小さく設定されている。そのため、突出部材104は、圧縮工程時及び燃焼・膨張工程時には凹部102の内部に押し下げられる。排気行程時には、燃焼室内の圧力はばね力F1を下回るので、突出部材104が燃焼室に突出し、燃焼室の容積を減少させる。そのため、排気ガスは積極的に燃焼室から押し出される。
【0005】
これによって、燃焼室に残留する排気ガス量が低減されるので、残留排気ガスによる圧縮混合気の温度上昇に起因したノッキングの発生を抑制できる。特許文献1には、排気促進手段の第2案として、第1案の構成に加えて、排気行程時に凹部102に潤滑油を供給し、ばね力F1に加えて油圧を負荷することで、突出部材104をピストン頂面から確実に突出させるようにした構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−224787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示された排気促進手段のうち第1案は、ピストンヘッド部の隔壁に突出部材104を設けることで、ピストンヘッド部の容積及び重量が増加する。そのため、ピストンを内蔵するシリンダの容積が増加すると共に、ピストンを作動させるために余分な動力を必要とするという問題がある。また、高温雰囲気に曝されるばね110及びシール部材112の経年劣化の問題もある。また、第2案は、凹部102に潤滑油を供給する供給手段を付設する必要があり、構成が複雑かつ高コストになるという問題がある。
【0008】
本発明は、かかる従来技術の課題に鑑み、内燃機関において、ノッキングの発生を抑制するために、ピストンの容積及び重量を増加させず、かつ低コストな排気促進手段を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成するため、本発明の内燃機関は、シリンダブロックと吸気弁及び排気弁を備えたシリンダヘッドとで形成されるシリンダと、シリンダ内をシリンダの軸線に沿って摺動するピストンの頂面とで燃焼室を形成する内燃機関において、ピストン頂面にピストン頂面との間で閉鎖空間を形成可能に張設され、燃焼室と該閉鎖空間との圧力差によって燃焼室側に膨出可能な可撓性金属膜体と、ピストンに設けられ、ピストンを挟んで燃焼室の反対側に位置するクランク室側空間と閉鎖空間とを連通する連通孔とを備えているものである。
【0010】
本発明では、可撓性金属膜体の両側面に燃焼室の圧力とクランク室側空間の圧力を付加させる。このため、燃焼室圧力が高い圧縮工程及び燃焼・膨張工程では、可撓性金属膜体がピストン頂面に接した位置に位置し、燃焼室圧力が低下する排気行程では、燃焼室側に膨出した位置に位置する。これによって、排気行程において、燃焼室間隙容積を低減し、燃焼室内の排気ガスを排気ポートに排出させるようにする。そのため、吸気工程における混合気温度の上昇を抑え、ノッキングの発生を抑えることができる。また、可撓性金属膜体をピストン頂面に張設しただけの構成であるので、ピストンの容積及び重量の増加を招かず、かつ低コストで実現できる。
【0011】
排気行程において、理想的には、可撓性金属膜体をシリンダヘッド内面に接触するまで膨出させ、燃焼室間隙容積を実質零とすればよい。これによって、燃焼室に残留する排気ガスを実質零とすることができる。なお、圧縮工程や燃焼・膨張工程では、燃焼室圧力が高いので、可撓性金属膜体をピストン頂面に接した形状に維持できるので、通常と変わらないピストン作用を維持できる。
【0012】
本発明において、可撓性金属膜体が、燃焼室圧力が高い圧縮工程及び燃焼・膨張工程においてピストン頂面に接し、燃焼室圧力が低い排気行程において、燃焼室側に膨出してシリンダヘッドの内面に接する2つの形状に変化可能なバネ性を有するようにするとよい。例えば、可撓性金属膜体をバネ鋼等で製作することで、可撓性金属膜体の両面に付加される圧力の差で、前記2形状を形成させる。従って、可撓性金属膜体を装着しただけの簡素かつ低コスト化な手段で、ノッキングの発生を抑止できる。排気行程で、燃焼室の圧力低下によってシリンダヘッド内面に接する形状とすることで、燃焼室に残留する排気ガスを実質零にできる。これによって、ノッキング抑制効果を向上できる。
【0013】
本発明において、前記連通孔に接続され、かつピストンの軸線上でクランク室側空間に開口する開口部を有する短軸筒状空間と、該短軸筒状空間に摺動可能に設けられ、前記開口部からクランク室側空間に突出するカム受け部を備えた短軸筒状摺動体と、ピストンとクランクシャフトとを連結する連接棒の小端部の外周面に突設されカム受け部に当接し、クランク角に対応して短軸筒状摺動体の摺動位置を制御するカムと、を備え、圧縮行程及び排気行程において、カムで短軸筒状摺動体を上方へ押し出し、可撓性金属膜体を燃焼室側へ膨出させるように構成するとよい。
【0014】
かかる構成では、短軸筒状摺動体をピストン頂面側に移動させることで、短軸円筒状空間の気体を閉鎖空間に圧入させ、可撓性金属膜体を燃焼室側に膨出できる。そして、前記カムによって、クランク角に対応して短軸筒状摺動体の摺動位置を設定位置に制御することで、排気行程における可撓性金属膜体の膨出位置を正確かつ確実に制御できる。これによって、排気行程後期にピストンが上死点に到達したタイミングで、燃焼室に残留する排気ガス量を正確に制御できる。そのため、ノッキングを効果的に抑制できる。
【0015】
本発明の内燃機関において、排気弁が開状態のときピストンが上死点に到達する弁動作タイミングとするとよい。これによって、排気弁が開状態のとき燃焼室間隙容積を最小にできるので、燃焼室間隙容積に残留する排気ガスを排気ポートに確実に排出できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、シリンダブロックと吸気弁及び排気弁を備えたシリンダヘッドとで形成されるシリンダと、シリンダ内をシリンダの軸線に沿って摺動するピストンの頂面とで燃焼室を形成する内燃機関において、ピストン頂面にピストン頂面との間で閉鎖空間を形成可能に張設され、燃焼室と該閉鎖空間との圧力差によって燃焼室側に膨出可能な可撓性金属膜体と、ピストンに設けられ、ピストンを挟んで燃焼室の反対側に位置するクランク室側空間と閉鎖空間とを連通する連通孔とを備え、排気行程において燃焼室の圧力低下によって可撓性金属膜体を燃焼室側に膨出させ、燃焼室内の残留排気ガスを排気弁から排出させるようにしたので、排気行程において、燃焼室に残留する排気ガス量を低減でき、これによって、吸気工程における混合気温度の上昇を抑え、ノッキングの発生を効果的に抑えることができる。また、これを可撓性金属膜体をピストン頂面に装着しただけの簡素かつ低コストな手段で実現でき、ピストンの容積及び重量を増加させないので、シリンダ容積や動力の増加を招かない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明をガソリンエンジンに適用した第1実施形態に係り、(A)は排気行程初期を示し、(B)は上死点到達時を示す正面視断面図である。
【図2】第1実施形態で、クランク角とバルブリフトとの関係を示す線図である。
【図3】本発明をガソリンエンジンに適用した第2実施形態に係り、(A)は排気行程初期を示し、(B)は排気行程中期を示し、(C)は上死点到達時を示す正面視断面図である。
【図4】本発明をガソリンエンジンに適用した第3実施形態に係る正面視断面図である。
【図5】第3実施形態のピストン頂面の平面図である。
【図6】従来のエンジンのピストン部分を示す正面視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではない。
【0019】
(実施形態1)
本発明を4サイクルガソリンエンジンに適用した第1実施形態を図1及び図2に基づいて説明する。図1において、ガソリンエンジン10Aは、シリンダブロック12に形成された円筒形のシリンダボアにピストン14が摺動自在に配置されている。ピストン14はピストンピン16を介して連接棒18に連結されている。シリンダヘッド20には給気ポート22及び排気ポート24が設けられている。シリンダヘッド20の内面20aとピストン頂面14aで囲まれた空間に燃焼室fが形成されている。吸気ポート22が燃焼室fに開口する開口部に吸気弁26が設けられ、排気ポート24が燃焼室fに開口する開口部に排気弁28が設けられている。
【0020】
ピストン外周面14bには、3列にリング溝が形成され、該リング溝に夫々ピストンリング30a、30b及び30cが嵌合されている。ピストン頂面14aの全面には、バネ鋼からなるバネ性をもつ膜体32が装着されている。膜体32の周縁部32aは、ピストン頂面14a近傍のピストン外周面14bに刻設されたリング溝に密嵌されている。膜体32は、周縁部32aがピストン14の外周面14bに固着されたことで、膜体32の背面とピストン頂面14aとの間で閉鎖空間c(図1(B)参照)を形成できる。
【0021】
燃焼室fとクランク室側空間sとを仕切るピストン隔壁14cに、閉鎖空間cとクランク室側空間sとに連通する連通孔34が穿設されている。連通孔34のクランク室側開口34aは複数個設けられ、軸中心を囲んで円弧状に配置されている。連通孔34の閉鎖空間側開口34bは、軸中心に1個配置されている。バネ鋼からなる膜体32は、燃焼室fの圧力が高い圧縮工程及び燃焼・膨張工程において、ピストン頂面14aに接する位置(図1(A)参照)に位置し、燃焼室fの圧力が低い排気行程において、シリンダヘッド内面20aや、吸気弁26及び排気弁28の下面にほとんど接する位置(図1(B)参照)に位置する2つの形状に変化する性質をもつ。
【0022】
図1(A)及び(B)は、ピストン14がシリンダブロック12の下方から上昇していく排気行程を順を追って示している。図1(B)はピストン14が上死点に到達した時点を示す。排気行程が進行するにつれて、排気弁28は徐々に上昇し、排気ポート開口部の開口面積は徐々に小さくなる。図1(A)では、燃焼室fの圧力がクランク室側空間sの圧力より高く、膜体32はピストン頂面14aに圧接されている。
【0023】
燃焼室fの圧力が徐々に低下し、ピストン14が上死点付近に達し、クランク室側空間sと燃焼室fとの圧力差がある閾値を超えると、図1(B)に示すように、膜体32は、バネ鋼がもつバネ性によって、シリンダヘッド内面20aや、吸気弁26及び排気弁28の下面にほとんど接する位置に変化する。
【0024】
排気行程及び吸気工程を過ぎ、ガソリンエンジン10Aが圧縮工程に移行し、燃焼室fの圧力が高まる。クランク室側空間sと燃焼室fとの圧力差が前記閾値以下になると、膜体32は図1(A)に示す位置に戻る。
【0025】
図2は、本実施形態に係るガソリンエンジン10Aのクランク角θと吸気弁26及び排気弁28のリフト量との関係を示す線図である。図中、aは吸気弁26のリフト曲線であり、bは排気弁28のリフト曲線である。図2に示すように、ガソリンエンジン10Aでは、ピストン14が上死点にあるとき、排気弁28が開状態となっている弁動作タイミングをもっている。
【0026】
本実施形態によれば、圧縮工程及び燃焼・膨張工程において、クランク室側空間sと燃焼室fとの圧力差が設定された閾値以下のとき、膜体32はピストン頂面14aに接しているので、通常のピストンの構成と変わらず、通常と変わらないピストン作用を発揮できる。排気行程に移行し、ピストン14が上死点付近に達し、クランク室側空間sと燃焼室fとの圧力差が閾値を超えると、膜体32は、そのバネ性により、シリンダヘッド内面20aや、吸気弁26及び排気弁28の下面にほとんど接する位置に変化するので、燃焼室f内の残留排気ガスをほとんど排気ポート24に排出することができる。
【0027】
そのため、次の吸気工程における混合気温度の上昇を抑え、ノッキングの発生を効果的に抑えることができる。また、圧縮工程及び燃焼・膨張工程では、膜体32がピストン頂面14aに接しているので、通常のピストン作用を損なうことがない。なお、膜体32を構成する材質として、バネ鋼以外にCo−Ni合金等を用いてもよい。本実施形態では、膜体32をピストン頂面14aに装着しただけの簡単かつ低コストな構成で、ノッキングを効果的に抑制できる。そのため、ピストン14の容積及び重量を増加させないので、シリンダ容積や動力の増加を招かない。
【0028】
(実施形態2)
次に、本発明を4サイクルガソリンエンジンに適用した第2実施形態を図3に基づいて説明する。図3に示す本実施形態のガソリンエンジン10Bにおいて、図1に示すガソリンエンジン10Aと同一の部材には同一符号を付している。同一符号を付した部材又は部位については、ここでの説明を省略する。本実施形態では、耐熱性及び可撓性をもつ金属製の膜体40が、ピストン頂面14aに張設されている。膜体40は、例えば、アルミ箔、ステンレス箔等で製作される。膜体40の外周縁40aは、第1実施形態と同様に、ピストン頂面14a近傍のピストン外周面14bに刻設されたリング溝に密嵌固定されている。
【0029】
ピストン隔壁14cに燃焼室fとクランク室側空間sとを連通する連通孔34が設けられている。そして、ピストン隔壁14cの内部に、連通孔34に連通して短軸円筒状空間41が設けられている。短軸円筒状空間41は、中央部でクランク室側空間sに開口する円形の開口部42を有する。短軸円筒状空間41に短軸円筒状摺動体44が収容されている。短軸円筒状摺動体44は、短軸円筒状空間41を上下に2分割している。
【0030】
短軸円筒状摺動体44の中央部の下面には、円筒形状のカム受け部46が一体に形成されている。カム受け部46は開口部42に挿入され、その下端部はクランク室側空間sに突出している。一方、ピストンピン16の外周面にはカム48が突設されている。排気行程において、カム48は、クランク角に応じて設定された上昇量だけカム受け部46を押し上げ、カム受け部46と共に、短軸円筒状摺動体44を所定量だけ押し上げる。短軸円筒状摺動体44が上昇することで、クランク室側空間sの空気が連通孔34aから短軸円筒状摺動体下方の短軸円筒状空間41に流入する。一方、短軸円筒状摺動体44より上方の空気が閉鎖空間cに流入し、膜体40は燃焼室f側へ膨出する。
【0031】
図3中、破線dは、クランク角θに対する膜体40の燃焼室f側への膨出タイミングを示している。排気行程の上死点(クランク角θ=720°)において、膜体40の膨出度が最大となるように、カム48の設置位置及び形状が設定されている。排気行程において、短軸円筒状摺動体44が上昇するにつれて、膜体40の膨出度は大きくなるが、ピストン14が上死点に達した時点で、膜体40は、シリンダヘッド内面20aや、給気弁26及び排気弁28の下面にほとんど接する位置まで膨出する。そのため、排気行程において燃焼室fの残留排気ガスをほとんどなくすことができる。従って、次の吸気工程で、混合気温度の上昇を防ぎ、ノッキングの抑制効果を向上できる。
【0032】
また、カム48によってクランク角θに対応して短軸円筒状摺動体44を上昇させるようにしているので、排気行程における膜体40の膨出タイミングを精度良くかつ安定して制御できる。なお、短軸円筒状摺動体44の上昇時期及び上昇量は、カム48の位置及び形状を変更するだけで簡単に変更できる。
【0033】
(実施形態3)
次に、本発明を4サイクルガソリンエンジンに適用した第3実施形態を図4及び図5に基づいて説明する。図4に示すように、本実施形態に係るガソリンエンジン10Cは、吸気弁26及び排気弁28を夫々2個ずつ設けている。また、膜体50は第2実施形態と同一の材質からなる可撓性金属膜体である。膜体50はピストン頂面14aの全領域に設けられておらず、ピストン頂面14aの中央領域だけに設けられている。即ち、ピストン頂面14aの中央領域を囲むように、リング溝14dを刻設し、膜体50の周縁部50aがリング溝14dに密嵌固定されている。
【0034】
これによって、膜体50とピストン頂面14aとの間に閉鎖空間cを形成している。膜体50で覆われるピストン頂面14aの中央部に、第1実施形態と同様の連通孔34の開口部34aが開口している。その他の構成は、第1実施形態と同一である。かかる構成によって、排気行程において、燃焼室fと閉鎖空間cとの圧力差により、膜体50が燃焼室f側へ膨出する。これによって、閉鎖空間cにクランク室側空間sから気体が流入する。膜体50の動作は第1実施形態と同一である。
【0035】
本実施形態によれば、排気行程で膜体50を燃焼室f側に膨出させることで、燃焼室間隙容積に残留した排気ガスを排気ポート24に排出する。これによって、次の吸気工程での混合気温度を低減し、ノッキングの発生を抑制できる。さらに、本実施形態によれば、膜体50をピストン頂面14aの中央領域のみに限定配置しているので、膜体50の動作と吸気弁26及び排気弁28の動作との干渉を低減できる。従って、吸気弁26及び排気弁28の存在によって膜体50の動作が制限されるのを緩和できる。
【0036】
前記第1実施形態から第3実施形態まで、すべて本発明を4サイクルガソリンエンジンに適用した実施形態であるが、本発明は4サイクルディーゼルエンジンにも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明によれば、簡単かつ低コスト化な手段で、排気行程における燃焼室の残留排気ガスを低減でき、これによって、ノッキングの発生を抑制できる。
【符号の説明】
【0038】
10A、10B、10C ガソリンエンジン
12 シリンダブロック
14 ピストン
14a ピストン頂面
14b ピストン外周面
14c ピストン隔壁
14d リング溝
16 ピストンピン
18 連接棒
20 シリンダヘッド
20a シリンダヘッド内面
22 吸気ポート
24 排気ポート
26 吸気弁
28 排気弁
30a、30b、30c ピストンリング
32、40、50 膜体(可撓性金属膜体)
32a、40a、50a 周縁部
34 連通孔
34a クランク室側開口
34b 閉鎖空間側開口
41 短軸円筒状空間
42 開口部
44 短軸円筒状摺動体
46 カム受け部
48 カム
a 吸気弁開度曲線
b 排気弁開度曲線
c 閉鎖空間
f 燃焼室
s クランク室側空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダブロックと吸気弁及び排気弁を備えたシリンダヘッドとで形成されるシリンダと、該シリンダ内をシリンダの軸線に沿って摺動するピストンの頂面とで燃焼室を形成する内燃機関において、
前記ピストン頂面に該ピストン頂面との間で閉鎖空間を形成可能に張設され、前記燃焼室と該閉鎖空間との圧力差によって燃焼室側に膨出可能な可撓性金属膜体と、
前記ピストンに設けられ、前記ピストンを挟んで前記燃焼室の反対側に位置するクランク室側空間と前記閉鎖空間とを連通する連通孔と、を備えていることを特徴とする内燃機関。
【請求項2】
前記可撓性金属膜体が、燃焼室圧力が高い圧縮工程及び燃焼・膨張工程においてピストン頂面に接し、燃焼室圧力が低い排気行程において、前記燃焼室側に膨出して前記シリンダヘッドの内面に接する2つの形状に変化可能なバネ性を有することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関。
【請求項3】
前記連通孔に接続され、かつ前記ピストンの軸線上で前記クランク室側空間に開口する開口部を有する短軸筒状空間と、
該短軸筒状空間に摺動可能に設けられ、前記開口部から前記クランク室側空間に突出するカム受け部を備えた短軸筒状摺動体と、
前記ピストンとクランクシャフトとを連結する連接棒の小端部の外周面に突設され前記カム受け部に当接し、クランク角に対応して前記短軸筒状摺動体の摺動位置を制御するカムと、を備え、
圧縮行程及び排気行程において、前記カムで前記短軸筒状摺動体を上方へ押し出し、前記可撓性金属膜体を燃焼室側へ膨出させるように構成したことを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関。
【請求項4】
前記排気弁が開状態のとき前記ピストンが上死点に到達する弁動作タイミングとしたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかの項に記載の内燃機関。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−24140(P2013−24140A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−159860(P2011−159860)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】