説明

内視鏡の可変絞り装置

【課題】簡単な構成であって内視鏡の対物光学系に採用することができる程度に容易に小型化することができ、しかも中間開度(絞り値)を正確に得ることができる内視鏡の可変絞り装置を提供すること。
【解決手段】伸縮性のある材料によりドーナツ状の形状に形成されてその内径が開口絞りになる膨縮自在なドーナツ状バルーン7と、そのドーナツ状バルーン7内の圧力を制御するためのバルーン内圧制御手段10とを備え、バルーン内圧制御手段10によりドーナツ状バルーン7内の圧力を高めるとドーナツ状バルーン7の内径が小さくなり、ドーナツ状バルーン7内の圧力を下げるとドーナツ状バルーン7の内径が大きくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は内視鏡の可変絞り装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内視鏡の挿入部は内視鏡検査を受ける人の苦痛をできるだけ小さくするために、可能な限り細く形成するのが望ましい。そのため、大半の内視鏡において、対物光学系の開口絞りは開度を可変できない固定絞りが採用されている。
【0003】
しかし、蛍光観察等のように極端に暗い被写体や、遠近さまざまな条件の被写体を鮮明に観察するためには、被写体の状態に対応して絞りの開度を可変にする必要がある。そこで、例えば液晶を用いて光の透過と遮断を行う液晶絞りや、静電力で絞り羽根を開閉駆動する可変絞り等が考案されている(例えば、特許文献1、2)。
【特許文献1】特開平2−46423
【特許文献2】特開平10−33462
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、液晶絞りの場合は透過部分の光透過率が低いので暗い被写体の観察に適さない。また、静電力で絞り羽根を開閉駆動する可変絞りは、絞り羽根部分の構成が複雑になり、しかも中間開度(絞り値)を正確に得ることが困難である。
【0005】
本発明は、簡単な構成であって内視鏡の対物光学系に採用することができる程度に容易に小型化することができ、しかも中間開度(絞り値)を正確に得ることができる内視鏡の可変絞り装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本発明の内視鏡の可変絞り装置は、内視鏡の挿入部の先端に内蔵された対物光学系に用いられる可変絞り装置であって、伸縮性のある材料によりドーナツ状の形状に形成されてその内径が開口絞りになる膨縮自在なドーナツ状バルーンと、そのドーナツ状バルーン内の圧力を制御するためのバルーン内圧制御手段とを備え、バルーン内圧制御手段によりドーナツ状バルーン内の圧力を高めるとドーナツ状バルーンの内径が小さくなり、ドーナツ状バルーン内の圧力を下げるとドーナツ状バルーンの内径が大きくなるように構成したものである。
【0007】
なお、ドーナツ状バルーンが不透明な黒色の材料で形成されているとよく、ドーナツ状バルーンが外径方向に膨らむのを規制する膨張規制手段がドーナツ状バルーンの外周部に設けられているとよい。
【0008】
また、ドーナツ状バルーンが、平行に配置された一対の透明板の間に挟み込まれた状態に配置されていてもよく、或いは、ドーナツ状バルーンの内径寄りの部分が伸縮性のある材料のみで形成され、外径寄りの部分には伸縮性のない硬質部材がドーナツ状バルーンの膨縮を規制する状態に設けられていてもよい。
【0009】
バルーン内圧制御手段はドーナツ状バルーン内に液体を注入/排出するものであってもよく、その液体は不透明な黒色の液体であるとよい。そして、液体の圧力を計測する液体圧計測手段が設けられていて、その液体圧計測手段で計測された圧力に対応してバルーン内圧制御手段の動作が制御されるようにしてもよい。その場合、液体圧計測手段がドーナツ状バルーンの外周部に設けられていてもよく、バルーン内圧制御手段側に設けられていてもよい。
【0010】
また、対物光学系により投影された観察像を撮像する固体撮像素子が設けられていて、その固体撮像素子から出力される撮像信号の輝度情報に対応してバルーン内圧制御手段が動作するようにしてもよい。
【0011】
また、対物光学系による観察領域の明るさを計測するための明るさ計測手段が設けられていて、その明るさ計測手段で計測された明るさに対応してバルーン内圧制御手段が動作するようにしてもよい。その場合、明るさ計測手段が、対物光学系による観察方向に向けて内視鏡の挿入部の先端に配置されているとよい。
【0012】
なお、バルーン内圧制御手段は、挿入部の基端に連結された操作部に配置されていてもよいが、挿入部の先端に内蔵されていてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、伸縮性のある材料により形成されたドーナツ状バルーンの内径を開口絞りにしたので、簡単な構成であって内視鏡の対物光学系に採用することができる程度に容易に小型化することができ、バルーン内圧制御手段でドーナツ状バルーン内の圧力を制御することにより、中間開度(絞り値)を正確に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
内視鏡の挿入部の先端に内蔵された対物光学系に用いられる可変絞り装置であって、伸縮性のある材料によりドーナツ状の形状に形成されてその内径が開口絞りになる膨縮自在なドーナツ状バルーンと、そのドーナツ状バルーン内の圧力を制御するためのバルーン内圧制御手段とを備え、バルーン内圧制御手段によりドーナツ状バルーン内の圧力を高めるとドーナツ状バルーンの内径が小さくなり、ドーナツ状バルーン内の圧力を下げるとドーナツ状バルーンの内径が大きくなるように構成されている。
【実施例】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。
図1は本発明の第1の実施例の内視鏡の可変絞り装置を示しており、内視鏡の挿入部1の基端には操作部2が連結されている。
【0016】
挿入部1の先端面には、観察像を取り入れるための観察窓3の他、図示されていない照明窓等が配置され、挿入部1の先端に内蔵された対物光学系4による観察像の投影面に固体撮像素子5の撮像面が配置されている。6は固体撮像素子5の駆動回路である。
【0017】
対物光学系4に用いられている開口絞りは、伸縮性のある材料によりドーナツ状の形状に形成された膨縮自在なドーナツ状バルーン7により形成されていて、その内径が開口絞りになっている。ドーナツ状バルーン7は、不透明な黒色の薄肉のシリコンゴム等で形成されている。
【0018】
ドーナツ状バルーン7には可撓性のチューブからなる連通管8の先端が連通接続されていて、その連通管8の基端は、操作部2内に配置されたシュリンジ11に接続されている。一つながりに連通しているドーナツ状バルーン7、連通管8及びシュリンジ11内には、例えば墨汁又は黒色インク等のような不透明な黒色の液体が充填されている。液体としては、ゲル状及びゼリー状等のような半固体状のものも含まれる。そのような半固体状の液体は、収縮率が小さいので、制御に係る圧力をスムーズに伝達することができる。
【0019】
12は、シュリンジ11を駆動するアクチュエータであり、シュリンジ11とアクチュエータ12とにより、ドーナツ状バルーン7内に液体を注入/排出してドーナツ状バルーン7内の圧力を制御するためのバルーン内圧制御手段10が形成されている。13は、アクチュエータ12の駆動回路であり、これらはいずれも操作部2に設けられている。
【0020】
14は、ドーナツ状バルーン7内の液体の圧力を計測する圧力センサ(液体圧計測手段)であり、この実施例では、ドーナツ状バルーン7側ではなくてシュリンジ11側に配置されている。
【0021】
そして、圧力センサ14からの出力信号が制御回路15に入力されて、その制御回路15から出力される制御信号がアクチュエータ12の駆動回路13に入力され、圧力センサ14で計測された液体の圧力に対応してバルーン内圧制御手段10の動作が制御される。具体的には、例えば圧力センサ14からの出力値が一定に保たれるようにバルーン内圧制御手段10の動作が制御される。
【0022】
50は、固体撮像素子5から出力された撮像信号を処理するビデオプロセッサであり、そこに内蔵された撮像信号処理回路51においては、取得した撮像信号の輝度情報から、圧力センサ14の出力目標値を決定するための信号を制御回路15に対して出力する。
【0023】
このように構成された実施例の内視鏡の可変絞り装置においては、バルーン内圧制御手段10によりドーナツ状バルーン7内の圧力を高めるとドーナツ状バルーン7が膨らむが、ドーナツ状バルーン7の外周部に設けられている対物鏡筒が、ドーナツ状バルーン7が外径方向に膨らむのを規制する膨張規制手段9として機能するので、図2に例示されるようにドーナツ状バルーン7の内径が小さくなり、開口絞りが小さく絞られた状態になる。
【0024】
そして、ドーナツ状バルーン7内の圧力を下げると、図1に示されるようにドーナツ状バルーン7内径が大きくなって、開口絞りが広がった状態になり、圧力センサ14で計測された液体の圧力に対応してバルーン内圧制御手段10の動作を制御することにより、正確な中間開度(絞り値)を得ることができる。
【0025】
図3は、本発明の第2の実施例の内視鏡の可変絞りを示しており、ドーナツ状バルーン7が、平行に配置された一対の透明板17の間に挟み込まれた状態に配置されている。このように構成することにより、ドーナツ状バルーン7が厚み方向に全く膨縮せず、ドーナツ状バルーン7の外周部も透明板17の延長部分で外側から囲んで膨張規制手段9として機能させることにより、ドーナツ状バルーン7が内径方向のみに膨縮するので、可変絞りとして非常に効率よく作動する。
【0026】
図4は、本発明の第3の実施例の内視鏡の可変絞りを示しており、ドーナツ状バルーン7の内径寄りの部分は伸縮性のある材料のみで形成され、外径寄りの部分には伸縮性のない硬質部材18がドーナツ状バルーン7の膨縮を規制する状態に設けられている。この実施例の硬質部材18はドーナツ状バルーン7の内面に一体的に固着されている。このように構成しても、ドーナツ状バルーン7が内径部分付近のみで膨縮するので、可変絞りとして効率よく作動する。
【0027】
図5は、本発明の第4の実施例の内視鏡の可変絞り装置を示しており、液体圧計測手段である圧力センサ14をドーナツ状バルーン7の外周部に設けたものである。このようにすると、ドーナツ状バルーン7内の液体の圧力をより正確に計測することができる。
【0028】
図6は、本発明の第5の実施例の内視鏡の可変絞り装置を示しており、対物光学系4による観察領域の明るさを計測するための光量センサ19(明るさ計測手段)を、対物光学系4による観察方向に向けて挿入部1の先端に配置し、光量センサ19からの出力信号を制御回路15に入力させるようにしたものである。このように構成することにより、光量センサ19で計測された明るさに対応してバルーン内圧制御手段10を動作させてドーナツ状バルーン7の開度(絞り値)を制御することができる。
【0029】
図7は、本発明の第6の実施例の内視鏡の可変絞り装置を示しており、バルーン内圧制御手段10であるシュリンジ11とアクチュエータ12を挿入部1の先端に内蔵したものである。シュリンジ11やアクチュエータ12等を超小型化できるようになれば、このようなレイアウトも挿入部1の先端径を殆ど大きくすることなく可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1の実施例の内視鏡の可変絞り装置のブロック図である。
【図2】本発明の第1の実施例の内視鏡の可変絞り装置の先端部分のブロック図である。
【図3】本発明の第2の実施例の可変絞りの側面断面図である。
【図4】本発明の第3の実施例の可変絞りの側面断面図である。
【図5】本発明の第4の実施例の内視鏡の可変絞り装置の先端部分のブロック図である。
【図6】本発明の第5の実施例の内視鏡の可変絞り装置のブロック図である。
【図7】本発明の第6の実施例の内視鏡の可変絞り装置のブロック図である。
【符号の説明】
【0031】
1 挿入部
2 操作部
4 対物光学系
5 固体撮像素子
7 ドーナツ状バルーン
9 膨張規制手段
10 バルーン内圧制御手段
11 シュリンジ
12 アクチュエータ
14 圧力センサ(液体圧計測手段)
15 制御回路
17 透明板
18 硬質部材
19 光量センサ(明るさ計測手段)
51 撮像信号処理回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内視鏡の挿入部の先端に内蔵された対物光学系に用いられる可変絞り装置であって、
伸縮性のある材料によりドーナツ状の形状に形成されてその内径が開口絞りになる膨縮自在なドーナツ状バルーンと、そのドーナツ状バルーン内の圧力を制御するためのバルーン内圧制御手段とを備え、
上記バルーン内圧制御手段により上記ドーナツ状バルーン内の圧力を高めると上記ドーナツ状バルーンの内径が小さくなり、上記ドーナツ状バルーン内の圧力を下げると上記ドーナツ状バルーンの内径が大きくなるように構成したことを特徴とする内視鏡の可変絞り装置。
【請求項2】
上記ドーナツ状バルーンが不透明な黒色の材料で形成されている請求項1記載の内視鏡の可変絞り装置。
【請求項3】
上記ドーナツ状バルーンが外径方向に膨らむのを規制する膨張規制手段が上記ドーナツ状バルーンの外周部に設けられている請求項1又は2記載の内視鏡の可変絞り装置。
【請求項4】
上記ドーナツ状バルーンが、平行に配置された一対の透明板の間に挟み込まれた状態に配置されている請求項1、2又は3記載の内視鏡の可変絞り装置。
【請求項5】
上記ドーナツ状バルーンの内径寄りの部分が伸縮性のある材料のみで形成され、外径寄りの部分には伸縮性のない硬質部材が上記ドーナツ状バルーンの膨縮を規制する状態に設けられている請求項1、2又は3記載の内視鏡の可変絞り装置。
【請求項6】
上記バルーン内圧制御手段が上記ドーナツ状バルーン内に液体を注入/排出するものである請求項1ないし5のいずれかの項に記載の内視鏡の可変絞り装置。
【請求項7】
上記液体が不透明な黒色の液体である請求項6記載の内視鏡の可変絞り装置。
【請求項8】
上記液体の圧力を計測する液体圧計測手段が設けられていて、その液体圧計測手段で計測された圧力に対応して上記バルーン内圧制御手段の動作が制御される請求項6又は7記載の内視鏡の可変絞り装置。
【請求項9】
上記液体圧計測手段が上記ドーナツ状バルーンの外周部に設けられている請求項8記載の内視鏡の可変絞り装置。
【請求項10】
上記液体圧計測手段が上記バルーン内圧制御手段側に設けられている請求項8記載の内視鏡の可変絞り装置。
【請求項11】
上記対物光学系により投影された観察像を撮像する固体撮像素子が設けられていて、その固体撮像素子から出力される撮像信号の輝度情報に対応して上記バルーン内圧制御手段が動作する請求項1ないし10のいずれかの項に記載の内視鏡の可変絞り装置。
【請求項12】
上記対物光学系による観察領域の明るさを計測するための明るさ計測手段が設けられていて、その明るさ計測手段で計測された明るさに対応して上記バルーン内圧制御手段が動作する請求項1ないし10のいずれかの項に記載の内視鏡の可変絞り装置。
【請求項13】
上記明るさ計測手段が、上記対物光学系による観察方向に向けて上記内視鏡の挿入部の先端に配置されている請求項12記載の内視鏡の可変絞り装置。
【請求項14】
上記バルーン内圧制御手段が、上記挿入部の基端に連結された操作部に配置されている請求項1ないし13のいずれかの項に記載の内視鏡の可変絞り装置。
【請求項15】
上記バルーン内圧制御手段が、上記挿入部の先端に内蔵されている請求項1ないし13のいずれかの項に記載の内視鏡の可変絞り装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−69575(P2009−69575A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−238928(P2007−238928)
【出願日】平成19年9月14日(2007.9.14)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】