説明

内視鏡用把持装置

【課題】アンカー後端が患者の体内壁に到達しても煩雑な切開剥離操作を強いられることなく、病変部をさらに牽引でき、鉗子挿入口から鉗子チャンネル内に挿入できる小型のアンカーを有する内視鏡用把持装置を得る。
【解決手段】対象部位を把持する把持部材61と、貫通孔31が形成された複数の小アンカー30a、bを備え、内視鏡の鉗子チャンネル17内に挿通可能なアンカー部30と、弾性部材からなる保持部を有する移動規制部材32と、前記アンカー30の貫通穴に挿通されて、小アンカー30a、b同士を連結し、一端が把持部材61に他端が保持部に押入保持され、さらに把持部材61と移動規制部材32とを連結する連結部材90を備え、アンカー部30により把持部材61を牽引する内視鏡用把持装置10であって、保持部は、連結部材90に保持力以上の力の場合、連結部材90に対して相対移動し、保持力以下では、同位置を保持する内視鏡用把持装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡観察下で病変部を切除する際に、アンカーと把持部材を用いて、患者の病変部を把持牽引するための内視鏡用把持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内視鏡を用いた手術の一態様として、磁界によって誘導可能な磁気アンカーとこの磁気アンカーに連結部材で連結した把持部材とを有する内視鏡用把持装置を用いて、病変部を牽引しながらその病変部を切除する手法が知られている。
【特許文献1】特開2004-357816号公報
【特許文献2】特開2004-337490号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上述の手法では、病変部の切開剥離操作中に、病変部の牽引が進んで磁気アンカー後端が患者の体内壁に到達してしまうと、病変部をそれ以上牽引することができなくなり、施術の続行に支障が生じていた。
【0004】
これに対して、磁気アンカー後端に掛着部材を設け、これを連結部材に掛着することによって、牽引方向における磁気アンカー及び連結部材の長さを小さくして、牽引量を確保する装置が提案されていた(特許文献1)。しかしながら、この装置では、別の把持鉗子を用いて掛着部材を連結部材に掛着する作業が必要となるため、操作者は煩雑な切開剥離操作を強いられることになる。
【0005】
一方、磁界によって磁気アンカーを牽引する場合には、磁気アンカーが十分な磁気吸引力を受けるために一定以上の体積が必要となる。そのため、十分な体積を得ようとすると、磁気アンカーが大きくなる。そのような磁気アンカーは、内視鏡の鉗子挿入口から挿入することができないため、患者の負担が大きくなっていた。
【0006】
そこで本発明は、アンカー後端が患者の体内壁に到達しても煩雑な切開剥離操作を強いられることなく、病変部をさらに牽引することができ、鉗子挿入口から鉗子チャンネル内に挿入することができる小型のアンカーを有する内視鏡用把持装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の内視鏡用把持装置は、対象物内部の対象部位を把持する把持部材と、
貫通孔が形成された複数の小アンカーを備え、内視鏡の鉗子チャンネル内に挿通可能なアンカー部と、弾性部材からなる保持部を有する移動規制部材と、複数の小アンカーの貫通穴に挿通されて、複数の小アンカー同士を連結するとともに、一端が把持部材に連結され、他端が保持部に押入保持されることにより、前記アンカー部を介して把持部材と移動規制部材とを連結する連結部材と、を備え、アンカー部に与えられる動力により把持部材を牽引する内視鏡用把持装置であって、保持部は、連結部材が延びる方向において保持部による連結部材を保持する力よりも大きな力が掛けられたときは、連結部材に対して相対移動し、掛けられた力が連結部材の保持力以下のときには、連結部材に対する位置を保持することを特徴とする。
【0008】
保持部には、連結部材を押入されるスリットが形成されることが好ましい。
【0009】
保持部には、または、連結部材を押入される十字状のスリットが形成されることが好ましい。
【0010】
保持部には、さらに内径が連結部材の外径よりも小さな貫通孔が形成され、この貫通孔に連結部材が押入されてもよい。
【0011】
保持部から延出する連結部材の他端は、連結部材を牽引するための牽引部とされることが好ましい。
【0012】
連結部材の他端には、または、連結部材と別体として形成された、連結部材を牽引するための牽引部が連結されることが好ましい。
【0013】
牽引部は、リング状とすることが好ましい。
【0014】
牽引部は、またはフック状とすることもできる。
【0015】
連結部材と牽引部の間には、移動規制部材が連結部材から抜けることを防ぐための抜け止め部を設けることが好ましい。
【0016】
上記の内視鏡用把持装置は、内視鏡の鉗子チャンネル内に挿通可能な導入管と、把持部材を保持し該把持部材との軸方向の相対位置で開き角を制御する把持部材保持筒と、導入管内に牽引操作可能に挿通された操作ワイヤと、この操作ワイヤ先端の牽引フックと、把持部材のワイヤ掛止部との間に掛け止められて両者を接続するループワイヤと、導入管内に配置された、把持部材とアンカー部を導入管から押し出す押出部材とを有し、この押出部材によりアンカー部と把持部材とを導入管から押し出し、操作ワイヤを介してループワイヤを引くことによりループワイヤを切断して柔軟連結部材で接続されているアンカー部と把持部材を導入管から自由とする内視鏡用把持装置であって、アンカー部が牽引されるとき、牽引部をアンカー部と同方向に牽引しながら移動規制部材を把持部材側に押し込むことによって、アンカー部と把持部材の間隔を短くすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によると、アンカー部と把持部材との間隔を容易に調節することにより病変部を十分牽引することができ、かつ、鉗子挿入口から鉗子チャンネル内に挿入することができるアンカー部を有する内視鏡用把持装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明に係る内視鏡用把持装置10の実施形態について説明する。
図1、図2は、内視鏡100に、内視鏡用把持装置10を挿通した状態を示している。内視鏡100は、操作者が把持する操作部11とこの操作部11から延びて患者体内に挿入される挿入部12とを有し、挿入部12は、その先端部に、操作部11に設けた湾曲操作装置13の操作に応じて上下及び左右方向に湾曲される湾曲部12aを有している。
【0019】
湾曲部12a先端には、図示しない観察窓(対物窓)と照明窓が設けられている。観察窓を介して得られる画像は操作部11近傍に設けた接眼部14から観察することができる。操作部11の接眼部14付近からライトガイド可撓管16が延びて、このライトガイド可撓管16の先端には光源装置(不図示)に接続可能なコネクタ15が設けられている。光源装置の照明光は、ライトガイド可撓管16、操作部11、及び挿入部12の内部を挿通しているライトガイド(不図示)を介して湾曲部12a先端の照明窓に送られる。また、操作部11と挿入部12の間には、内視鏡用把持装置10等の処置具を挿入するための鉗子挿入口17aを有する鉗子チャンネル17(図2)が設けられており、鉗子挿入口17aから鉗子チャンネル17内に挿通された処置具(内視鏡用把持装置10)は湾曲部12aの先端から突出する。
【0020】
図3に示すように、内視鏡用把持装置10は、中空円筒状の導入管20と、この導入管20の先端に嵌められて磁気吸引可能な磁気アンカー(アンカー部)30とを有している。導入管20の内側には、導入管20の内周面に沿う中空円筒状の押出管21が導入管20の延びる(延長)方向に相対移動可能に配置されている。押出管21の先端には、略円筒状の押出部材40が接着剤、はんだ、ロウ付けなどの固定手段によって固定されている。
【0021】
押出部材40には、押出管21の先端が固定される段部41と、この段部41より前方の前方部分42と、段部41より後方の後方部分43とを有しており、前方部分42の外径は導入管20の内径とほぼ同一である。一方、後方部分43は、前方部分42より外径が小さく、前方部分42の内径とほぼ同一である。後方部分43の外周に押出管21を固定すると、押出管21の外周と前方部分42の外周がほぼ同一面となる。
【0022】
押出管21の内側には、操作者が牽引可能な操作ワイヤ50が挿通されている。操作ワイヤ50の先端には、牽引フック51が接着剤、はんだ、ロウ付けなどの接合手段によって固定されている。
【0023】
磁気アンカー30と押出部材40の間には、把持鉗子ユニット60が配置されている。
把持鉗子ユニット60は、金属材料または樹脂材料からなる可撓性を有する略U字状の把持クリップ(把持部材)61と、この把持クリップ61の後部が挿入される略円筒形の把持部材保持筒70とを有している。把持クリップ61は、所定の形状に成形した板材料を略U字形状に曲折して形成することができる。
【0024】
すなわち、把持クリップ61は、対向する長い板状部材61a1、61a2と、これらの板状部材61a1、61a2に連なるワイヤ掛止部61fを有している。把持クリップ61の先端部には、それぞれ内側へ屈曲させた爪部61b1、61b2が形成されている。
【0025】
板状部材61a1、61a2の長手方向の前方には、板状部材61a1、61a2よりも外方へ突出した凸部61c1、61c2と、この凸部61c1、61c2の前方端から再び外方へ広がる傾斜部61d1、61d2と、傾斜部61d1、61d2の前方端から爪部61b1、61b2へ延びる平面先端部61e1、61e2とが設けられている。
【0026】
把持部材保持筒70は、押出部材40の前方部分42の先端が押し当てられる段差部71と、この段差部71の前方の大径部72と、この大径部72に連なり段差部71の後方の小径部73とを有しており、例えば、ステンレスパイプ、プラスチックチューブ、または超弾性合金により形成することができる。大径部72には、把持クリップ61のワイヤ掛止部61fと板状部材61a1、61a2が挿入されている。小径部73には、軸方向に延びる軸方向スリット73aが形成されている。この軸方向スリット73aは、後端部が開放されている。小径部73は、その内径が大径部72の内径と同一であり、外周面が押出部材40の前方部分42の内周面に当接して、小径部73が前方部分42に嵌合されている。
【0027】
押出部材40に把持部材保持筒70を挿入すると、前方部分42の先端が段差部71に当接し、把持部材保持筒70の挿入端を規制している。
【0028】
把持部材保持筒70に把持クリップ61を挿入すると、把持クリップ61の爪部61b1、61b2はこれらが離れる方向に付勢されているため、把持クリップ61の外面が把持部材保持筒70の内周面に常に当接する。すなわち、把持クリップ61を把持部材保持筒70に進退させると(軸方向に移動させると)、把持クリップ61は、その形状に従って爪部61b1、61b2の開き角を自在に変化させることができる。したがって、爪部61b1、61b2(把持クリップ61)によって、患者(対象物)内部の病変部(対象部位)130を自在に把持することができる。
【0029】
把持クリップ61と牽引フック51の間には、これらを接続するループワイヤ80が掛け止められており、このループワイヤ80の一端部が牽引フック51に係止し、他端部が把持クリップ61のワイヤ掛止部61fに当接している。ループワイヤ80は、所定以上の強い力で牽引したときに切断する材料であり、例えば合成樹脂材料、または金属材料から構成することができる。
【0030】
磁気アンカー30は、略円柱状で、外径が内視鏡100の鉗子挿入口17aの内径よりも小さな2つの小アンカー30a、30bからなり、鉗子チャンネル17内を容易に挿通可能である。小アンカー30a、30bは、導入管20の延長方向に隣り合わせて配置されている。このように、磁気アンカー30を2つの小アンカー30a、30bに分け、かつ、これらを直列に連結したことによって、外部からの磁気吸引に十分な総体積を得ながら、鉗子チャンネル17内に挿通することができる。磁気アンカー30は、強磁性体からなり、例えば、純鉄、鉄合金のほか、プラチナマグネット、希土類磁石、テルビウム・ディスプロシウム・鉄合金などの磁石を用いることができる。したがって、操作者は、患者の体外から磁気力を与えることによって磁気アンカー30を吸引制御することができる。
【0031】
小アンカー30a、30bには、それぞれの軸線上に貫通孔31が形成されている。把持鉗子ユニット60側に配置される小アンカー30aには、アンカー小径部30a1が形成されている。アンカー小径部30a1の直径は、導入管20の内径と同一であるため、小アンカー30aを導入管20先端に嵌めることができる。小アンカー30bの小アンカー30aとは反対の端面には、弾性材料からなる移動規制部材(保持部)32が配置されている。移動規制部材32の中央には、スリット32aが形成されている。
【0032】
小アンカー30a、30b(磁気アンカー30)の貫通孔31と移動規制部材32のスリット32aには、柔軟性を有し、延びる方向に伸縮することのない連結部材90が押入される。図4(a)は、スリット32aが閉じた状態を示し、図4(b)は、連結部材90をスリット32aに押入した状態を示している。連結部材90を押入れると、スリット32aは、移動規制部材32の弾性力によって連結部材90を押入保持することができる。連結部材90は、スリット32aに押入れられた先端に円環部(牽引部)33が形成される。
【0033】
移動規制部材32は、スリット32aの貫通方向(連結部材90が延びる方向)に外力が掛けられたとき、その外力が連結部材90を保持する力(連結部材90と移動規制部材32の摩擦力)よりも大きな力である場合には連結部材90に対して相対移動し、外力が連結部材90の保持力以下の場合には連結部材90に対する位置を保持するように設計されている。すなわち、磁気アンカー30が磁気力で牽引されるとき、移動規制部材32は磁気アンカー30が受ける磁気力に相当する外力を受けるが、この磁気力では移動することはない。病変部130の牽引に必要な磁気力は、一概には規定できないが、例えば、その磁気力の最大値を0.2Nとして設定したときは、移動規制部材32(スリット32a)による連結部材90の保持力(連結部材90と移動規制部材32の摩擦力)は、0.2N以上であることが好ましい。
【0034】
なお、移動規制部材32には、スリット32aの代わりに、複数のスリットを交差させて形成したもの、例えば、十字状のスリットを形成することもできる。また、内径が連結部材90の外径よりも小径な貫通穴であってもよい。
さらに、移動規制部材は、一方向の移動を許し、他方向の移動を規制する逆止弁構造を備えることもできる。図17、図18は、逆止弁構造を備える移動規制部材32Aの一例を示している。移動規制部材32Aは、この移動規制部材32Aを貫通する断面楕円形の貫通穴32A2と円環部33側へ突出する凸部32A1とを有している。貫通穴32A2は、磁気アンカー30側の開口径が連結部材90の外径よりも大きく、円環部33側の開口径が連結部材90の外径よりも小さい。したがって、移動規制部材32Aは、外力を与えられないとき、連結部材90に対して位置が保持されるが、円環部33側から、移動規制部材32Aが連結部材90を保持する力よりも大きな外力を与えられたとき、連結部材90に対して磁気アンカー30とともに把持クリップ61側に相対移動する。一方、磁気アンカー30(把持クリップ61)側から外力を与えられたとき、連結部材90に対して位置が保持される。
【0035】
連結部材90は、把持クリップ61のワイヤ掛止部61fの内側に通されて、軸方向スリット73aを介して把持部材保持筒70(把持鉗子ユニット60)外に配置された後に、磁気アンカー30の貫通孔31と移動規制部材32のスリット32aに挿通されて、移動規制部材32に押入れられる。すなわち、連結部材90は、一端が把持クリップ61に連結されて、他端が移動規制部材32に押入保持されている。したがって、連結部材90は、把持クリップ61と磁気アンカー30を連結し、同時に小アンカー30a、30b同士を連結することができる。この連結部材90は、例えば、手術用縫合糸、釣糸、金属製ワイヤを使用することができる。
したがって、磁気アンカー30を磁気力(動力)によって吸引制御すると、操作者は把持クリップ61を所望の方向に牽引することができる(図10)。
【0036】
移動規制部材32から延出する連結部材90の他端は、連結部材90を牽引するための円環部(牽引部)33とされている。この円環部33は、操作者が容易に連結部材90を牽引することができるように形成された指掛け部分である。移動規制部材32と円環部33の間には、移動規制部材32の抜け止め部34が設けられている。
【0037】
抜け止め部34と円環部33は、連結部材90の一部を変形することによって一体に形成することができる。すなわち、連結部材90の他端を移動規制部材32のスリット32aに押入れた後、この挿入端で第一の結び目を形成する。この結び目を抜け止め部34とすることができる。さらに間隔をあけて第二の結び目を形成すると、第一の結び目と第二の結び目の間に環状の円環部33を形成することができる。
【0038】
図2、図3、及び図5から図10は、磁気アンカー30と把持鉗子ユニット60の体内への導入操作、把持クリップ61による病変部130の把持操作、磁気アンカー30(病変部130)の牽引操作を示している。
まず、患者の体内に磁気アンカー30と把持鉗子ユニット60を導入する前に、把持鉗子ユニット60と磁気アンカー30を導入管20内に配置する。すなわち、把持鉗子ユニット60と磁気アンカー30は、連結部材90を介して連結された状態で導入管20内に挿入される。挿入の際には、あらかじめ把持クリップ61内に通されたループワイヤ80を、導入管20内に挿通された操作ワイヤ50の先端に固定された牽引フック51に掛け止める。この状態で、把持部材保持筒70の小径部73を押出部材40内に挿入する。この挿入動作は、把持部材保持筒70の段差部71と前方部分42の先端とが突き当たることによって、把持部材保持筒70の挿入が規制されて終了する。
【0039】
次に、小アンカー30aのアンカー小径部30a1を導入管20の先端に嵌合させる。連結部材90は、磁気アンカー30を把持クリップ61の前方に配置することを妨げないだけの十分な長さを有しているため、挿入動作完了時には磁気アンカー30、把持鉗子ユニット60(把持クリップ61および把持部材保持筒70)が一直線上に配置される。
【0040】
把持鉗子ユニット60と磁気アンカー30の体内への導入は、体内に内視鏡100の挿入部12を導入することによって行う。挿入部12の湾曲部12a内には、導入管20が挿通されており、導入管20の先端には磁気アンカー30が配置され、この磁気アンカー30の後方に把持鉗子ユニット60が配置されている。把持鉗子ユニット60は、把持クリップ61の爪部61b1、61b2を磁気アンカー30に向けて配置されている。
【0041】
把持クリップ61と磁気アンカー30の患者の体内への導入は以下のように行う。まず、内視鏡100の挿入部12を患者の体内に挿入する。その後、内視鏡100の先端から導入管20の先端部を体内に露出させる。押出部材40により磁気アンカー30と把持鉗子ユニット60とを導入管20から押し出す(図5)。すなわち、押出部材40を挿入方向側へ押し込むと、把持鉗子ユニット60が前方へ押される。その後、把持鉗子ユニット60の把持クリップ61の先端が磁気アンカー30の後端に当接する。この状態から、さらに押出部材40を前方に付勢すると、導入管20の先端に嵌合している磁気アンカー30が外れる。
把持鉗子ユニット60は、導入管20の先端から患者の体内に露出し、把持クリップ61および把持部材保持筒70が導入管20の延長方向において、一直線上に配置される。磁気アンカー30は、重力によって下方に垂れ下がる。したがって、操作者(術者)は接眼部14によって病変部130を確認し、湾曲部12aの先端が病変部130に対向するように内視鏡100を操作すれば、導入管20も病変部130に対向するため、術者は、容易に把持クリップ61の先端を病変部130に向けることができる。
【0042】
把持クリップ61の病変部130への把持操作は以下のように行う。まず、平面先端部61e1、61e2を開くために、操作ワイヤ50を牽引して凸部61c1、61c2を把持部材保持筒70内に引き込む。把持部材保持筒70内に引き込まれた凸部61c1、61c2は、把持部材保持筒70の内周面に当接するため、互いに近づく方向に撓む。凸部61c1、61c2がこのように撓むことによって、平面先端部61e1、61e2は互いに離間して、図6に示すように、把持部材保持筒70から露出した把持クリップ61の先端側が開くことになる。
【0043】
このように開いた把持クリップ61を、把持クリップ61と把持部材保持筒70の相対位置が変化しないようにして、病変部130に向けて進行させる。把持クリップ61の先端が所望の位置に来たところで把持クリップ61を閉じることによって、病変部130を把持クリップ61で把持することができる。
把持クリップ61を閉じるためには、操作ワイヤ50を牽引して把持クリップ61の傾斜部61d1、61d2を把持部材保持筒70内に引き込む。把持部材保持筒70内に引き込まれた傾斜部61d1、61d2は、把持部材保持筒70の内周面に当接するため、互いに近づく方向に撓み、これに伴って平面先端部61e1、61e2は互いに近づくように動く。したがって、図7に示すように、把持部材保持筒70から露出した把持クリップ61の先端側が閉じることになる。このようにして、把持鉗子ユニット60および磁気アンカー30の病変部130への把持操作は完了する。
【0044】
図8に示すように、把持鉗子ユニット60および磁気アンカー30の分離動作は、以下のように行う。操作ワイヤ50を介してループワイヤ80を強く引くと、ループワイヤ80が切断される。したがって、ループワイヤ80によって導入管20内に拘束されていた磁気アンカー30と把持鉗子ユニット60は、導入管20から自由となる。その後、ループワイヤ80が牽引フック51に係り止められた状態において、押出管21、押出部材40、及び操作ワイヤ50を導入管20内に後退させることによって、これらを回収する(図9)。
【0045】
病変部130は、患者の体外から磁気アンカー30に磁気吸引力を及ぼすことにより牽引される(図10)。病変部130は、持ち上げられ、高周波メスなどの切開具によって切除することができる。
【0046】
一方、切開剥離操作が進むに従って、磁気アンカー30が病変部130に対向する患者の体内壁に到達してしまうことがある。そのような場合には、十分な牽引操作ができず、病変部130の切開操作が困難になることがある。その際に、操作者は、磁気アンカー30と把持クリップ61との距離を短くし、牽引空間を確保することができる。以下に、その操作を説明する。
【0047】
まず、先端部が開閉可能な把持鉗子161を内部に備えるガイドチューブ120を患者体内に挿入する。ガイドチューブ120を操作し、その先端を円環部33に対向させる。把持鉗子161を押出して、把持鉗子161の爪部161a1、161a2を開く。爪部161a1、161a2のいずれか一方が円環部33に通ったときに爪部161a1、161a2を閉じて、把持鉗子161で円環部33を磁気アンカー30の牽引方向と同方向に牽引を開始する。把持鉗子161をガイドチューブ120に引き込み(ガイドチューブ120を磁気アンカー30に対して押し出し)、ガイドチューブ120の先端を移動規制部材32に当接させる(図11)。把持鉗子161で円環部33を牽引したまま、ガイドチューブ120を磁気アンカー30に対して押し込むと、移動規制部材32のスリット32aの保持力(スリット32aと連結部材90の間の摩擦力)に対向して移動規制部材32(磁気アンカー30)を把持クリップ61側に移動させることができる(図12)。
【0048】
操作者の所望の位置でガイドチューブ120の押し込みをやめると、移動規制部材32は、再びその保持力によって連結部材90に保持される。このように、移動規制部材32を所望の位置に配置した後、ガイドチューブ120を引き戻して、把持鉗子161を患者体内に露出させる。そして、爪部161a1、161a2を開き、円環部33を外す。その後、把持鉗子161をガイドチューブ120内に収納して、これらガイドチューブ120と把持鉗子161を体内から引き出す。
以上のような操作を行うと、図13に示すように、磁気アンカー30と把持クリップ61の距離が短くなるため、磁気アンカー30は病変部130と対向する体内壁との距離が相対的に長くなる。したがって、磁気アンカー30の牽引空間を確保することができるため、操作者は磁気アンカー30を磁気力によって牽引し、切開操作を再開することができる。そして、磁気アンカー30は、磁気力によって牽引されても移動規制部材32によって移動が規制されるため、磁気アンカー30と把持クリップ61との距離が長くなる(元に戻る)ことはない。
【0049】
図14は、2つの把持鉗子ユニット60、260で病変部130を把持する一態様を示している。まず、上記のように、把持鉗子ユニット60で病変部130を把持する。次に、別の把持鉗子ユニット260の把持クリップ261を開き、この把持クリップ261に把持鉗子ユニット60の円環部33を掛ける。その状態のまま、把持クリップ261で病変部130の所望の位置を把持する。このように、2つの把持鉗子ユニット60、260を用いることによっても、操作者は磁気アンカー30と体内壁との距離を相対的に長くすることができる。したがって、磁気アンカー30の牽引空間を確保することができる。
また、複数の把持鉗子ユニット60、260を用いることによって、切開操作を容易に行うこともできる。
【0050】
図15は、連結部材90の他端に、連結部材90とは別体に設けた円環部の一態様を示している。この円環部33Aは、一連のリング状である。図16は、連結部材90とは別体に設けた円環部の別の態様を示している。この円環部33Bは、連結部材90に一連の紐を通してその両端を結ぶことによって形成される環状である。このように、円環部は連結部材とは別体に設けることができる。なお、円環部(牽引部)の形状は、リング状に代えて、フック状であってもよい。
【0051】
本実施形態の内視鏡用把持装置10の変形例について説明する。上記実施形態では、把持クリップ61を把持部材保持筒70内へ牽引する牽引操作のみで爪部61b1、61b2の開閉が可能な把持鉗子ユニット60を用いた。この把持鉗子ユニット60に代えて、把持部材保持筒70を用いない簡便なクリップ361を用いることができる。図19に示すように、クリップ361は、板状部材をU状に折り曲げて対とした本体部361aの先端に、間隔可変の一対の先端部361bを設けたものである。本体部361aは、その中央部に固定したラチェット部361cにより間隔を調整可能であり、ラチェット機構によって間隔調整後はその位置に固定される。ラチェット部361cは、対をなす本体部361aが間隔を縮める方向に弾性変形するときにはその変形を妨げず、かつ、間隔調整後の狭間隔に保持する機能を有する(図20参照)。
【0052】
クリップ361は、連結部材90によって磁気アンカー30に予め連結されている。クリップ361と磁気アンカー30の患者体内への導入、及び病変部130の把持操作は、上記実施形態の内視鏡用把持装置10の操作ワイヤ50、押出部材40、及び把持部材保持筒70を用いずに行うこともできる。以下に、その操作を説明する。
導入管20内にクリップ361を挿入し、上記実施形態と同様にして導入管20先端に磁気アンカー30を嵌合させる。その後、導入管20を内視鏡100の鉗子挿入口17aに挿入し、内視鏡100先端から導入管20先端を露出させる。次に、磁気アンカー30及びクリップ361を患者体内に押し出す押出部材によって、クリップ361、磁気アンカー30及び連結部材90を導入管20から押し出し、これらを患者体内に導入する。患者体内に導入後、クリップ361は、このクリップ361とは異なる、内視鏡100の鉗子挿入口17aに挿入される把持鉗子等によって爪を開いた状態で把持され、病変部130の所定位置に配置される。把持鉗子等によりクリップ361のラチェット部361cを締めることによって先端部361bが閉じられて病変部130の一部を把持した状態でその位置に固定される。クリップ361の牽引操作は、上記実施形態と同様にして行うことができる。
【0053】
本実施形態の内視鏡用把持装置10の変形例としては、さらに、先端部が常時閉じるように付勢されているクリップを用いることもできる。このクリップは、患者体内に導入後、把持鉗子等によってクリップの付勢力に抗して先端部を開いた状態で把持される。その後、病変部130の所定位置でクリップから把持鉗子等を離すと、クリップは、その先端部を閉じる付勢力によって病変部130の一部を把持した状態で所定の位置に固定される。以後の操作は、上記実施形態と同様にして行うことができる。
【0054】
なお、本実施形態の内視鏡用把持装置10のアンカー部は、磁気力によって把持クリップ61を牽引するが、本発明の内視鏡用把持装置のアンカー部は、自重(重力)によって把持クリップ61を牽引するタイプであってもよい。重力で牽引する場合には、磁気アンカー30に代えて非磁性体からなるアンカー部を用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施形態に係る内視鏡の全体構成を示す概観図である。
【図2】本発明の実施形態に係る内視鏡用把持装置を図1の内視鏡の鉗子挿入口に挿入した部分断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る内視鏡用把持装置を示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係る内視鏡用把持装置の移動規制部材の正面図であり、(a)は連結部材押入前の状態を示し、(b)は連結部材押入後の状態を示している。
【図5】本発明の実施形態に係る把持鉗子ユニットおよびアンカー部を導入管の外部に露出させた状態を示す図である。
【図6】本発明の実施形態に係る把持クリップが開いた状態を示す一部断面図である。
【図7】本発明の実施形態に係る把持クリップが対象部位を把持した状態を示す一部断面図である。
【図8】本発明の実施形態に係るループワイヤの一部が切断された状態を示す側面図である。
【図9】本発明の実施形態に係る把持鉗子ユニットとアンカー部が導入管から自由とされた状態を示す側面図である。
【図10】本発明の実施形態に係るアンカー部が牽引されている状態を示す図である。
【図11】本発明の内視鏡用把持装置の牽引部を牽引した状態を示す図である。
【図12】本発明の内視鏡用把持装置のアンカー部を把持鉗子ユニット側に押し込んだ状態を示す図である。
【図13】本発明の実施形態に係るアンカー部が把持鉗子ユニット側に押し込まれた後に動力により牽引されている状態を示す図である。
【図14】本発明の実施形態に係る内視鏡用把持装置の別な態様を示す図である。
【図15】本発明の実施形態に係る内視鏡用把持装置の牽引部の別の態様を示す図である。
【図16】本発明の実施形態に係る内視鏡用把持装置の牽引部のさらに別の態様を示す図である。
【図17】本発明の実施形態に係る内視鏡用把持装置の別の態様の移動規制部材を用いた図3に対応する図である。
【図18】本発明の実施形態に係る内視鏡用把持装置の別の態様の移動規制部材の斜視図である。
【図19】本発明の実施形態に係る内視鏡用把持装置の把持クリップの変形例を示す図である。
【図20】図19のXX−XXに沿う断面図である。
【符号の説明】
【0056】
10 内視鏡用把持装置
11 操作部
12 挿入部
12a 湾曲部
13 湾曲操作装置
14 接眼部
15 コネクタ
16 ライトガイド可撓管
17 鉗子チャンネル
17a 鉗子挿入口
20 導入管
21 押出管
30 磁気アンカー(アンカー部)
30a 小アンカー
30b 小アンカー
30a1 アンカー小径部
31 貫通孔
32 移動規制部材
32a スリット
33 円環部(牽引部)
33A 円環部
33B 円環部
34 抜け止め部
40 押出部材
41 段部
42 前方部分
43 後方部分
50 操作ワイヤ
51 牽引フック
60 把持鉗子ユニット
61 把持クリップ(把持部材)
61a1 板状部材
61a2 板状部材
61b1 爪部
61b2 爪部
61c1 凸部
61c2 凸部
61d1 傾斜部
61d2 傾斜部
61e1 平面先端部
61e2 平面先端部
61f ワイヤ掛止部
70 把持部材保持筒
71 段差部
72 大径部
73 小径部
73a 軸方向スリット
80 ループワイヤ
90 連結部材
100 内視鏡
120 ガイドチューブ
130 病変部(対象部位)
161 把持鉗子
161a1 爪部
161a2 爪部
260 把持鉗子ユニット
261 把持クリップ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物内部の対象部位を把持する把持部材と、
貫通孔が形成された複数の小アンカーを備え、内視鏡の鉗子チャンネル内に挿通可能なアンカー部と、
弾性部材からなる保持部を有する移動規制部材と、
前記複数の小アンカーの貫通穴に挿通されて、前記複数の小アンカー同士を連結するとともに、一端が前記把持部材に連結され、他端が前記保持部に押入保持されることにより、前記アンカー部を介して前記把持部材と前記移動規制部材とを連結する連結部材と、
を備え、前記アンカー部に与えられる動力により前記把持部材を牽引する内視鏡用把持装置であって、
前記保持部は、前記連結部材が延びる方向において前記保持部による前記連結部材を保持する力よりも大きな力が掛けられたときは、前記連結部材に対して相対移動し、掛けられた力が前記連結部材の保持力以下のときには、前記連結部材に対する位置を保持することを特徴とする内視鏡用把持装置。
【請求項2】
請求項1記載の内視鏡用把持装置において、前記保持部には、前記連結部材を押入されるスリットが形成されている内視鏡用把持装置。
【請求項3】
請求項1記載の内視鏡用把持装置において、前記保持部には、前記連結部材を押入される十字状のスリットが形成されている内視鏡用把持装置。
【請求項4】
請求項1記載の内視鏡用把持装置において、前記保持部には、内径が前記連結部材の外径よりも小さな貫通孔が形成され、この貫通孔に前記連結部材が押入される内視鏡用把持装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項記載の内視鏡用把持装置において、前記保持部から延出する前記連結部材の他端は、前記連結部材を牽引するための牽引部とされている内視鏡用把持装置。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか1項記載の内視鏡用把持装置において、前記連結部材の他端には、前記連結部材と別体として形成された、前記連結部材を牽引するための牽引部が連結されている内視鏡用把持装置。
【請求項7】
請求項5または6記載の内視鏡用把持装置において、前記牽引部は、リング状である内視鏡用把持装置。
【請求項8】
請求項5または6記載の内視鏡用把持装置において、前記牽引部は、フック状である内視鏡用把持装置。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項記載の内視鏡用把持装置において、前記連結部材と前記牽引部の間には、前記移動規制部材が前記連結部材から抜けることを防ぐための抜け止め部が設けられている内視鏡用把持装置。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項記載の内視鏡用把持装置において、内視鏡の鉗子チャンネル内に挿通可能な導入管と、
前記把持部材を保持し該把持部材との軸方向の相対位置で開き角を制御する把持部材保持筒と、
前記導入管内に牽引操作可能に挿通された操作ワイヤと、
この操作ワイヤ先端の牽引フックと、前記把持部材のワイヤ掛止部との間に掛け止められて両者を接続するループワイヤと、
前記導入管内に配置された、前記把持部材とアンカー部を該導入管から押し出す押出部材と、
を有し、
該押出部材により前記アンカー部と把持部材とを導入管から押し出し、操作ワイヤを介してループワイヤを引くことにより該ループワイヤを切断して前記柔軟連結部材で接続されているアンカー部と把持部材を導入管から自由とする内視鏡用把持装置であって、
前記アンカー部が牽引されるとき、前記牽引部をアンカー部と同方向に牽引しながら前記移動規制部材を把持部材側に押し込むことによって、前記アンカー部と把持部材の間隔を短くする内視鏡用把持装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate


【公開番号】特開2007−61535(P2007−61535A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−254711(P2005−254711)
【出願日】平成17年9月2日(2005.9.2)
【出願人】(000000527)ペンタックス株式会社 (1,878)
【出願人】(590001452)国立がんセンター総長 (80)
【Fターム(参考)】