説明

円すいころ軸受用保持器の製造方法及び円すいころ軸受

【課題】コンパクト化を図ることができる金型装置にて安定して高品質の保持器を製造することができ、また、大径側に軸受内輪に係合する引っ掛け構造の形成も可能であり、しかも、強度低下及び応力集中を防止できる円すいころ軸受およびこの円すいころ軸受に用いることが可能な円すいころ軸受用保持器の製造方法を提供する。
【解決手段】円すいころ軸受は、大径側環状部34aと、小径側環状部34bと、大径側環状部34aと小径側環状部34bとを連結する柱部34cとを備える。周方向に隣合う柱部間に形成されるポケット34dに円すいころ23が収容されるとともに、大径側環状部側が引っ掛け構造部Mを介して円すいころ内輪21に係合可能とされる。金型装置は、周方向に隣合う柱部間のポケット34dを成形するポケット成形用コア43を備える。ポケット成形用コア43の内外径方向の出し入れを可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円すいころ軸受用保持器の製造方法及び円すいころ軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車におけるエンジンの駆動力は、トランスミッション、プロペラシャフト、デファレンシャル、ドライブシャフトの何れか又は全てを含む動力伝達系を介して車輪に伝達される。
【0003】
この動力伝達系では、シャフトを支持する軸受として、ラジアル荷重に対する負荷能力が高く、耐衝撃性にも優れる円すいころ軸受を使用する場合が多い。円すいころ軸受は、一般的には、図8に示すように、外周側に円すい状の軌道面1を有する内輪2と、内周側に円すい状の軌道面3を有する外輪4と、内輪2と外輪4との間に転動自在に配された複数の円すいころ5と、円すいころ5を円周所定間隔に保持する保持器6とを備える。
【0004】
保持器6は、一対の環状部6a、6bと、環状部6a、6bを連結する柱部6cとを備え、周方向に沿って隣合う柱部6c間に形成されるポケット6dに前記円すいころ5が収容される。
【0005】
このため、荷重が作用した場合には、円すいころ5がその大端側に押圧される。この荷重を受けるべく、内輪2の大径側には外径側へ突出する鍔部7が設けられている。また、この軸受を機械等に組込むまでの間に円すいころ5が小端側へ脱落しないようにするために、内輪2の小端側にも突出する鍔部8が設けられる。
【0006】
近年、車内空間の拡大化に伴いエンジンルームの縮小化、エンジンの高出力化、燃費向上のためのトランスミッションの多段化などが進む中、そこに使用される円錐ころ軸受の使用環境は年々厳しくなってきている。その使用環境の中で軸受の寿命を満足する為には、軸受の長寿命化が必要であった。
【0007】
上記背景に対して、ころ本数を増やすかころ長さを長くすることによって、同一寸法で負荷容量を現状よりも上げて、軸受の長寿命化を図ることができる。しかしながら、現在の構造では、前記したように、軸受組立上の理由により内輪にはその軌道面の小径側に鍔部(小鍔)8を設けていた。このため、円すいころ5の長さ寸法を大きくすることに対してこの鍔部8による規制がある。また、各円すいころ5は前記したように保持器6にて支持されて、周方向に沿って隣合う円すいころ5間に保持器6の柱部6cが介在されることになる。このため、ころ本数を増加されるころに対しても柱部6cによる規制がある。このように、従来においては負荷容量を上げるのに限界があった。
【0008】
従来には、内輪2において小径側の鍔部(小鍔)を省略したものがある(特許文献1及び特許文献2)。内輪2において小径側の鍔部8を省略すれば、その省略した分だけ円すいころの軸方向長さを大きくとることができ、負荷容量の増加を図ることができる。しかしながら、内輪2において小径側の鍔部8を省略すれば、機械等に組込むまでの間に円すいころ5が小端側へ脱落する。そこで、図10に示すように、円すいころ5が落下しないように、大径側の鍔部7に係合する引っ掛け部(引っ掛け片)14を保持器6に設けている。なお、特許文献1では、保持器は樹脂製であり、特許文献2では保持器は鉄製である。
【特許文献1】実開昭58−165324号公報
【特許文献2】特開2002−54638号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
保持器が鉄製である場合、引っ掛け部14を形成するための折曲工程を必要として、製造工程が増加して、製造コスト高となるとともに、製造時間が長くなる。また、鉄製保持器では摩耗粉が生じ、この摩耗粉によって潤滑性の低下を招くおそれがある。
【0010】
このため、近年では、前記した鉄製の問題点を生じない樹脂製が用いられる。樹脂製の保持器を製造する場合には、通常、図9に示すように、軸方向に割れる2つの金型15、16を用い、2金型合わせによる射出成形が行われる。この場合、2つに金型15,16を図9に示すように、保持器軸方向に沿って相反する方向にスライド(平行移動)させることになる。
【0011】
また、引っ掛け部14を有する保持器では、図11に示すように、引っ掛け部14の内端縁14aの径寸法Dを、小径側環状部6bの最大外径D1よりも大きく設定する必要がある。すなわち、引っ掛け部14の内径部(内端縁)14aを小径側環状部6bの外径端部9よりも外径側に位置させる必要がある。また、円すいころ軸受において、接触角(外輪の軌道面角度)が小さい設計の場合、必然的に小径側環状部外径と大径側環状部内径との寸法差が小さくなる。このため、前記のように、図11に示すように、2金型合わせによる射出成形を行う場合に、引っ掛け部の径寸法設計に制約を受けるようになる。場合によっては、引っ掛け部による係合構造が成立しなくなるおそれがある。
【0012】
なお、引っ掛け部の寸法制約を自由にするため、小径側環状部6bにおいて、引っ掛け部を設けるポケット部に対応する部位を省略したり、この部位に切欠部を設けたりすることが提案できる。しかしながら、このような省略部位を設けたり、切欠部を設けたりすれば、保持器の強度が低下するとともに、応力集中が起こって破損するおそれがある。
【0013】
本発明は、上記課題に鑑みて、いかなる寸法の接触角や保持器軸方向ポケット寸法においても大径側に軸受内輪に係合する引っ掛け構造とできる引っ掛け部が成形可能であり、しかも、強度低下及び応力集中を防止できる円すいころ軸受およびこの円すいころ軸受に用いることが可能な円すいころ軸受用保持器の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の円すいころ軸受用保持器の製造方法は、大径側環状部と、小径側環状部と、大径側環状部と小径側環状部とを連結する柱部とを備え、周方向に隣合う柱部間に形成されるポケットに円すいころが収容される樹脂製の円すいころ軸受用保持器の製造方法であって、周方向に隣合う柱部間のポケットを成形するポケット成形用コアを備え、ポケット成形用コアの内外径方向の出し入れを可能とした保持器製造用金型を用いて成形するものである。
【0015】
本発明の円すいころ軸受用保持器の製造方法によれば、保持器製造用金型は、ポケット成形用コアを備え、このポケット成形用コアが内外径方向の出し入れを可能としているので、保持器製造用金型のポケット成形用コアを軸方向にスライドさせる必要がなくなる。
【0016】
前記保持器製造用金型のポケット成形用コアは、外径側から、前記ポケットに収容される円すいころの小端面の傾斜角度に沿って進入するものであっても、内径側から、前記ポケットに収容される円すいころの小端面の傾斜角度に沿って進入するものであっても、内径側から、軸方向と直交する方向に沿って進入するものであってもよい。
【0017】
前記保持器は、大径側環状部側が引っ掛け構造部を介して円すいころ内輪に係合可能とされるものであってもよい。
【0018】
本発明に係る方法で使用する金型装置を用いれば、ポケット成形用コアを軸方向にスライドさせる必要がなくなるので、引っ掛け構造における径方向寸法の制約を受けなくて済む。このため、製造する保持器において引っ掛け構造を構成することができ、円すいころが小端側へ脱落するのを防止でき、この製造用金型装置にて製造された保持器を用いれば、従来において存在していた内輪の小径側の鍔部およびぬすみ部も省略したものとなる。
【0019】
前記保持器は、大径側環状部にポケットに対応する位置に内径方向へ突出して保持器内輪に係合する引っ掛け片にて構成される引っ掛け構造部を備え、前記保持器製造用金型のポケット成形用コアが引っ掛け片成形用キャビティを形成するのが好ましい。
【0020】
このように、ポケット成形用コアが引っ掛け片成形用キャビティを形成するものであれば、この金型装置によって、大径側環状部に引っ掛け片が一体に形成された保持器を成形することができる。
【0021】
本発明の円すいころ軸受は、前記製造方法にて成形される円すいころ軸受用保持器を用いた円すいころ軸受であって、小径側端面と、円すいころの小端面の外周縁とを、軸受中心軸と直交する平面上にほぼ配置、もしくは小径側端面が、円すいころ小端面の外周縁の軸受中心軸と直交する平面上よりも軸方向内方側に配置されるものである。
【0022】
本発明の円すいころ軸受によれば、小径側端面と、円すいころの小端面の外周縁とを、軸受中心軸と直交する平面上にほぼ配置、もしくは小径側端面が、円すいころ小端面の外周縁の軸受中心軸と直交する平面上よりも軸方向内方側に配置されるので、各小径側端面が円すいころの小端面より突出しない状態で、小径側同士を相対面させて配置する複列の円すいころ軸受を構成することができる。
【0023】
円すいころ軸受用保持器にポニフェルレンサルファイド樹脂(PPS)を用いることができる。ここで、PPSとは、フェニル基(ベンゼン環)とイオウ(S)が交互に繰り返される分子構造を持った高性能エンジニアリングプラスチックである。結晶性で、連続使用温度は200℃〜220℃、高荷重(1.82MPa)での荷重たわみ温度が260℃以上と耐熱性に優れ、しかも引っ張り強さや曲げ強さが大きい。成形時の収縮率は0.3〜0.5%と小さいので寸法安定性が良く、また、難燃性や耐薬品性の点でも優れている。PPSは、架橋型、直鎖型、及び半架橋型の3種に大別できる。架橋型は低分子量ポリマーを架橋して高分子量化したもので、脆く、ガラス繊維で強化したものが中心である。直鎖型は重合段階で架橋工程を省略して高分子量化したもので靭性が高い。半架橋型は、架橋型と直鎖型の特性を併せ持つ特徴を有している。
【0024】
ころ係数γが0.94を越えるようにしたり、保持器のポケットの窓角を55°以上80°以下としたりできる。ここで、ころ係数γは、次式で定義される。また、ポケット(周方向に沿って隣合う柱部間)の窓角とは、柱部の、円すいころの転動面と接する面がなす角度をいう。
【0025】
ころ係数γ=(Z・DA)/(π・PCD)
ここで、Z:ころ本数、DA:ころ平均径、PCD:ころピッチ円径
【発明の効果】
【0026】
本発明の円すいころ軸受用保持器の製造方法では、前記ポケット成形用コアは、外径側から、前記ポケットに収容される円すいころの小端面の傾斜角度に沿って進入するものであっても、内径側から、前記ポケットに収容される円すいころの小端面の傾斜角度に沿って進入するものであっても、内径側から、軸方向と直交する方向に沿って進入するものであってもよい。
【0027】
引っ掛け構造を備えた保持器を製造する場合であっても、引っ掛け構造における径方向寸法の制約を受けなくて済む。このため、確実に引っ掛け部構造を成形することができ、円すいころ軸受の組立作業において、円すいころの小端側への脱落を防止できる。すなわち、内輪と円すいころと保持器とをアセンブリ(組立ユニット体)として取り扱うことができ、軸受全体の組立性(生産性)を向上することができる。しかも、引っ掛け部構造を設けるために、保持器に切欠部等を設ける必要がなく、強度低下及び応力集中を防止でき、耐久性に優れた保持器となる。
【0028】
ポケット成形用コアが引っ掛け片成形用キャビティを形成するものであれば、この金型装置によって、大径側環状部に引っ掛け片が一体に形成された保持器を成形することができ、引っ掛け構造を安定して構成でき、組立性に優れた円すいころ軸受用保持器を形成することができる。
【0029】
この製造用金型装置にて成形された保持器を用いれば、従来において存在していた内輪の小径側の鍔部を省略することができる。このため、この省略する鍔部分、軽量化を図ることができる。さらに、省略した小径側の鍔部及びぬすみ部分だけ軌道面が大きくなり、これによって円すいころの軸心長さを長くでき、負荷容量を向上させることができて、長寿命化を達成することができる。
【0030】
小径側端面と、円すいころの小端面の外周縁とを、軸受中心軸と直交する平面上にほぼ配置等したものでは、各小径側端面が円すいころの小端面より突出しない状態で、小径側同士を相対面させて配置する複列の円すいころ軸受を構成することができる。このため、複列の円すいころ軸受のコンパクト化及び軽量化を図ることができる。
【0031】
樹脂製保持器は鉄板製に比べ保持器重量が軽く、自己潤滑性があり、摩擦係数が小さいという特徴があるため、軸受内に介在する潤滑油の効果と相俟って、外輪との接触による摩耗の発生を抑えることが可能になる。また、樹脂製保持器は重量が軽く摩擦係数が小さいため、軸受起動時のトルク損失や保持器摩耗の低減に好適である。
【0032】
この場合、油や高温、薬品に対して耐性が高いPPS(ポリフェニレンサルファイド樹脂)を保持器に採用することで、この保持器が使用される軸受装置の寿命を伸ばすことができる。
【0033】
ころ係数γが0.94を越えるようにすれば、中立状態においては外輪と保持器との接触を避けた上で、保持器の柱幅を大きくすることができる。このため、軸受寸法を変更することなく、負荷容量を総ころ軸受(保持器を用いていない軸受)のレベルまで上げることが可能となる。これによって、接触面圧を低減でき、さらに、使用サイクルの中に停止状態があるようなアプリケーションに適用した場合は面圧が緩和されることで、耐フレッティング性が向上する。
【0034】
また、保持器の窓角を55°以上としたことによって、円すいころとの良好な接触状態を確保することができ、保持器の窓角を80°以下としたことによって、半径方向への押し付け力が大きくならず、円滑な回転が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下本発明の実施の形態を図1〜図6に基づいて説明する。
【0036】
図1は本発明の第1実施形態の円すいころ軸受を示し、この円すいころ軸受は、内輪21と、外輪22と、内輪21と外輪22との間に転動自在に配された複数の円すいころ23と、円すいころ23を円周所定間隔に保持する樹脂製の保持器24とを備える。
【0037】
内輪21はその外径面に円すい状の軌道面25を有し、軌道面25の大径側に外径側へ突出する鍔部26が形成されている。すなわち、軌道面25は鍔部26から小径端まで形成され、従来の円すいころ軸受の内輪のように小径側に鍔部を有さない。軌道面25と鍔部26との間のコーナ部にはぬすみ部27を形成している。この場合の鍔部26は、円すいころ23を通じてかかるアキシャル荷重を受けて、円すいころ23を回転案内する大鍔である。また、従来において設けられている小鍔は、軸受回転中には特別な役割を果たすものでなく、このようなものを本発明では省略していることになる。
【0038】
また、軌道面25と鍔部26の内面26aとが成す角度を、ころ23の周壁23aと大端面23bとが成す角度に合わせて、ころ23の周壁23aが軌道面25に接触(当接)するとともに、円すいころ23の大端面23bが鍔部26の内面26aに接触(当接)するようにしている。外輪22はその内径面に円すい状の軌道面30を有し、この軌道面30と内輪21の軌道面25とを、保持器24で保持された複数の円すいころ23が転動することになる。
【0039】
このため、内輪21は、小径側に鍔部を有さないので、図1に示すように、円すいころ23の小端面23cを、内輪21の小径側端面21bに達するまで延ばすことができる。
【0040】
また、保持器24は、引っ掛け構造部Mを介して円すいころ内輪に係合可能とされる樹脂製の保持器であって、図1や図3に示すように、保持器本体34と、引っ掛け構造部Mを構成する引っ掛け片36とを備える。保持器本体34は、大径側環状部34aと、小径側環状部34bと、大径側環状部34aと小径側環状部34bとを連結する柱部34cとからなる。そして、周方向に沿って隣合う柱部34c、34cで仕切られたポケット34dに円すいころ23が回転自在に収容される。
【0041】
図1に示すように、この引っ掛け片36は、内輪21の最大外径部(鍔部26の外周面)を超えて内径側に延びている。内輪21の鍔部26には、鍔部26の外周面よりも内径側に突出した引っ掛け片36を収容するため、環状の係合溝(切欠溝)37が形成されている。引っ掛け片36と切欠溝37との間には軸方向および半径方向に僅かな隙間があり、これより保持器24は軸方向および半径方向に僅かな移動が可能である。引っ掛け片36の数は、少なくとも一つあれば足りるが、円周方向の複数箇所に形成してもよい。
【0042】
すなわち、引っ掛け片36は、内輪21と円すいころ23と保持器が組立状態を保てるような引っ掛かりが内輪21の鍔部26に対してあり、保持器24が軸中心Lに対し中立状態では鍔部26に非接触であり、運転中には鍔部26に非接触もしくは、鍔部26に接触する場合は、引っ掛け片内径端38と鍔部26の切欠溝37の底面39が接触状態となる。
【0043】
この引っ掛け片36は、図3に示すように、その内面36aが外径側から内径側に向かって軸方向外方へ拡開するテーパ面とされている。また、引っ掛け片36の外面36bの内径端側には切欠部40が設けられている。この内面36の傾斜は円すいころ23の大端面23bおよび小端面23aの傾斜に対応している。
【0044】
また、保持器24は、柱部34cの柱面47の窓押し角(窓角)θ(図2参照)は、例えば、55°以上80°以下とする。
【0045】
ころ係数γが0.94を越えるように設定している。ここで、ころ係数γは、次式で定義される。また、ポケット(周方向に沿って隣合う柱部間)の窓角θとは、柱部34cの、円すいころ23の転動面と接する面がなす角度をいう。
【0046】
ころ係数γ=(Z・DA)/(π・PCD)
ここで、Z:ころ本数、DA:ころ平均径、PCD:ころピッチ円径
【0047】
また、保持器24は樹脂保持器である。この樹脂としてはエンジニアリングプラスチックが好ましい。ここで、エンジニアリングプラスチックとは、合成樹脂のなかで主に耐熱性が優れ、強度が必要とされる分野に使うことができるものであって、エンプラと略される。また、エンジニアリングプラスチックは、汎用エンジニアリングプラスチックとスーパーエンジニアリングプラスチックとがあり、この保持器24に用いるエンジニアリングプラスチックには両者を含む。以下に代表的なものを掲げる。なお、これらはエンジニアリングプラスチックの例示であって、エンジニアリングプラスチックが以下のものに限定されるものではない。
【0048】
汎用エンジニアリングプラスチックには、ポリカーボネート(PC)、ポリアミド6(PA6)、ポリアミド66(PA66)、ポリアセタール(POM)、変性ポリフェニレンエーテル(m−PPE)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、GF強化ポリエチレンテレフタレート(GF−PET)、超高分子量ポリエチレン(UHMW−PE)等がある。また、スーパーエンジニアリングプラスチックには、ポリサルホン(PSF)、ポリエーテルサルホン(PES)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリアリレート(PAR)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶ポリマー(LCP)、熱可塑性ポリイミド(TPI)、ポリベンズイミダゾール(PBI)、ポリメチルベンテン(TPX)、ポリ1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート(PCT)、ポリアミド46(PA46)、ポリアミド6T(PA6T)、ポリアミド9T(PA9T)、ポリアミド11,12 (
PA11,12)、フッ素樹脂、ポリフタルアミド(PPA)等がある。
【0049】
特に、PPS(ポリフェニレンサルファイド樹脂)が好ましい。PPSとは、フェニル基(ベンゼン環)とイオウ(S)が交互に繰り返される分子構造を持った高性能エンジニ
アリングプラスチックである。結晶性で,連続使用温度は200℃〜220℃、高荷重(1.82MPa)での荷重たわみ温度が260℃以上と耐熱性に優れ,しかも引っ張り強さや曲げ強さが大きい。成形時の収縮率は0.3〜0.5%と小さいので寸法安定性が良い。難燃性や耐薬品性の点でも優れている。PPSは、架橋型、直鎖型、半架橋型の3種
に大別できる。架橋型は低分子量ポリマーを架橋して高分子量化したもので,脆く,ガラス繊維で強化したグレードが中心である。直鎖型は重合段階で架橋工程がなしに高分子量化したもので,靭性が高い。半架橋型は,架橋型と直鎖型の特性を併せ持つ特徴を持っている。
【0050】
次に、前記保持器24を成形する製造用金型装置を説明する。この製造用金型装置は、図4に示すように、第1型(図例では一部のみを図示)41と第2型42(図例では一部のみを図示)と、周方向に隣合う柱部間のポケット34dを成形するポケット成形用コア43とを備える。ポケット成形用コア43は断面台形状の半割体43a,43bから構成され、引っ掛け片36が形成されるポケット34dに対応して配置される。
【0051】
半割体43a,43bは、それぞれ、傾斜側面45と、径方向に沿って配設される径方向側面46とを備え、径方向側面46、46が相対面するように配置される。この際、各半割体43a,43bは、柱部34cの柱面47に摺動して出し入れされる。半割体43a,43bの径方向側面46、46に引っ掛け片成形キャビティが形成される。
【0052】
引っ掛け片36が形成されないポケット34dは、第1型41の突部41aと第2型42の突部42aとで構成される中子51にて成形される。
【0053】
図4に示す金型装置によれば、このポケット成形用コア43が内外径方向の出し入れを可能としているので(この場合、外径側から、ポケット34dに収容される円すいころ23の小端面23cの傾斜角度に沿って進入する)、ポケット成形用コア43を軸方向にスライドさせる必要がなくなる。
【0054】
特に、実施形態のように保持器24が引っ掛け構造Mを有するものを製造する場合、図4に示す金型装置を使用すれば、確実に引っ掛け部構造Mを成形することができ、円すいころ軸受の組立作業において、円すいころ23の小端側への脱落を防止できる。すなわち、内輪21と円すいころ23と保持器24とをアセンブリ(組立ユニット体)として取り扱うことができ、軸受全体の組立性(生産性)を向上することができる。
【0055】
しかも、引っ掛け部構造を設けるために、保持器に切欠部等を設ける必要がなく、強度低下及び応力集中を防止でき、耐久性に優れた保持器となる。さらに、前記実施形態のように、ポケット成形用コア43が引っ掛け片成形用キャビティを形成するものであれば、この金型装置によって、大径側環状部43aに引っ掛け片36が一体に形成された保持器24を成形することができ、引っ掛け構造Mを安定して構成でき、組立性に優れた円すいころ軸受を形成することができる。
【0056】
ポケット成形用コア43が引っ掛け片成形用キャビティを形成するものであれば、この金型装置によって、大径側環状部34aに引っ掛け片36が一体に形成された保持器を成形することができ、引っ掛け構造Mを安定して構成でき、組立性に優れた円すいころ軸受を形成することができる。
【0057】
樹脂製保持器は鉄板製に比べ保持器重量が軽く、自己潤滑性があり、摩擦係数が小さいという特徴があるため、軸受内に介在する潤滑油の効果と相俟って、外輪との接触による摩耗の発生を抑えることが可能になる。また、樹脂製保持器は重量が軽く摩擦係数が小さいため、軸受起動時のトルク損失や保持器摩耗の低減に好適である。
【0058】
この場合、油や高温、薬品に対して耐性が高いPPS(ポリフェニレンサルファイド樹脂)を保持器に採用することで、この保持器が使用される軸受装置の寿命を伸ばすことができる。
【0059】
ころ係数γが0.94を越えるようにすれば、中立状態においては外輪22と保持器24との接触を避けた上で、保持器24の柱幅を大きくすることができる。このため、軸受寸法を変更することなく、負荷容量を総ころ軸受(保持器を用いていない軸受)のレベルまで上げることが可能となる。これによって、接触面圧を低減でき、さらに、使用サイクルの中に停止状態があるようなアプリケーションに適用した場合は面圧が緩和されることで、耐フレッティング性が向上する。しかも、保持器24と円すいころ23とは良好な接触状態を確保することができ、ころは円滑な回転が得られる。
【0060】
また、保持器24の窓角θを55°以上としたことによって、円すいころ23との良好な接触状態を確保することができ、保持器24の窓角θを80°以下としたことによって、半径方向への押し付け力が大きくならず、円滑な回転が得られる。
【0061】
このため、本発明に係る金型装置にて成形された保持器24を用いた円すいころ軸受は自走車両の動力伝達軸を支持する軸受に最適となる。
【0062】
図5は金型装置の変形例を示し、この場合、ポケット成形用コア43は、コア本体55と、この本体55に連結されてポケット34dの一部を成形する突部56とを備える。また、本体55には、引っ掛け片36のテーパ面の内面36aに対して摺接可能な摺接面部55aが形成されている。
【0063】
このため、図5に示す金型装置のポケット成形用コア43は、内径側において矢印のように、引っ掛け片36の内面36aに沿った往復動が可能とされている。ここで、引っ掛け片36の内面36aは、ポケット34dに収容される円すいころ23の小端面23c及び大端面23bの傾斜角度に対応している。そのため、内径側から、前記ポケット34dに収容される円すいころ23の小端面23cの傾斜角度に沿って進入するものである。
【0064】
したがって、このようなポケット成形用コア43を用いても、前記図4に示したポケット成形用コア43と同様、ポケット成形用コアを軸方向にスライドさせる必要がなくなるため、前記図4の金型装置と同様の作用効果を奏する。
【0065】
次に、図6は第2実施形態を示し、この場合複列の円すいころ軸受であり、この軸受は、外周に円すい状の軌道面65a、65bを有する内輪(軸受内輪)62a、62bと、図示しないハウジングに固定され、内周に円すい状の軌道面66a、66bを有する外輪(軸受外輪)61と、内輪62a、62b及び外輪61の軌道面間に介在させた複数の円すいころ63a、63bと、複数の円すいころ63a、63bを円周方向で等間隔に保持する保持器64a、64bとを備える。内輪62a、62bの外周の大端側には、環状の鍔部(大鍔)68a、68bが形成されている。この種の円すいころ軸受では、その軸方向両端をシール装置でシールする場合が多いが、図面ではこのシール装置の図示を省略してある。
【0066】
保持器64a、64bは、前記図1の円すいころ軸受と同様、小径リング部(小径側環状部)69と、大径リング部(大径側環状部)70と、この間に配設される複数本の柱部71を備え、柱部71の相互間に円すいころ63a、63bを保持するポケット72を形成したものである。各ポケット72にそれぞれ円すいころ63a、63bが回転自在に収容されている。
【0067】
また、保持器64a、64bの大端側に内輪62a、62bの大鍔68a、68bと係合可能の係合部(引っ掛け片)36が形成される。内輪62a、62bの大鍔68a、68bには、大鍔68a、68bの外周面よりも内径側に突出した引っ掛け片36を収容するため、各内輪62a、62bには、環状の係合溝(切欠溝)37、37が形成されている。この場合の引っ掛け片36は、その内面36aは、軸受軸心Lと直交する平面とされている。
【0068】
小径側端面80が、円すいころ63a、63bの小端面81,81の外周縁の軸受中心軸Lと直交する平面S上よりも軸方向内方側に配置されている。この場合、小径側端面81と、円すいころ63a、63bの小端面81,81の外周縁とを、軸受中心軸Lと直交する平面S上にほぼ配置してもよい。すなわち、各小径側端面80、80が円すいころ63a、63bの小端面81,81より突出しない
【0069】
この図6に示す保持器64a,64bの成形は、図7に示す金型装置を使用することになる。図7の金型装置のポケット成形用コア43は、図5に示すポケット成形用コア43と同様、コア本体75と、この本体75に連結されてポケット72の一部を成形する突部76とを備える。また、本体75には、引っ掛け片36のテーパ面の内面36aに対して摺接可能な摺接面部75aが形成されている。
【0070】
このため、図5に示す金型装置のポケット成形用コア43は、内径側において矢印のように、径方向に沿った往復動(軸受軸心Lと直交する方向の往復動)が可能とされている。そのため、内径側から、軸方向と直交する方向に沿って進入することなる。
【0071】
したがって、このようなポケット成形用コア43を用いても、前記図4に示したポケット成形用コア43と同様、ポケット成形用コアを軸方向にスライドさせる必要がなくなるため、前記図4の金型装置と同様の作用効果を奏する。
【0072】
また、図6に示すように、小径側端面80、80と、円すいころ63a、63bの小端面81,81の外周縁とを、軸受中心軸Lと直交する平面上にほぼ配置したことによって、各小径側端面80、80が円すいころ63a、63bの小端面81,81より突出しない状態で、小径側同士を相対面させて配置する複列の円すいころ軸受を構成することができる。このため、複列の円すいころ軸受のコンパクト化及び軽量化を図ることができる。
【0073】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、引っ掛け片36を構成する係止片の数の増減は任意であるが、安定して円すいころ23の落下を防止する上で、周方向に沿って不等配で3個以上配置するのが好ましい。また、切欠部37として、実施形態では、内輪21の大径側の端面21aに開口しているが、この端面21aに開口させずに、鍔部26の外径面に形成される環状の凹溝にて構成してもよい。
【0074】
また、引っ掛け構造部Mは、各実施形態では、保持器24の大径側の引っ掛け片36にて構成していたが、内輪側から保持器側へ突設される引っ掛け部(引っ掛け片)にて構成してもよく、保持器側と内輪側とに引っ掛け部(引っ掛け片)を設けるものであってもよい。
【0075】
この円すいころ軸受は、従来から円すいころ軸受を用いることができる種々の部位に用いることができる。特に、自動車のデファレンシャルやトランスミッションに用いるのが、エンジンのトルクアップや多段化に対応できて好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の第1実施形態を示す円すいころ軸受の断面図である。
【図2】前記図1の円すいころ軸受の要部拡大断面図である。
【図3】前記図1の円すいころ軸受の保持器の断面図である。
【図4】本発明の円すいころ軸受用保持器の製造方法に用いる金型装置の簡略断面図である。
【図5】製造用金型装置の変形例を示す簡略断面図である。
【図6】本発明の第2実施形態を示す円すいころ軸受の断面図である。
【図7】前記図6に示す円すいころ軸受用保持器の製造方法に用いる製造用金型装置の簡略断面図である。
【図8】従来の保持器を使用した円すいころ軸受の断面図である。
【図9】従来の保持器の製造用金型装置の簡略断面図である。
【図10】他の従来の保持器を使用した円すいころ軸受の断面図である。
【図11】他の従来の保持器の製造用金型装置の簡略断面図である。
【符号の説明】
【0077】
21 内輪
23、63a,63b 円すいころ
24、64a,64b 保持器
34a 大径側環状部
34b 小径側環状部
34c 柱部
34d ポケット
36 引っ掛け片
43 ポケット成形用コア
62a 内輪
71 柱部
72 ポケット
80 小径側端面
81 小端面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大径側環状部と、小径側環状部と、大径側環状部と小径側環状部とを連結する柱部とを備え、周方向に隣合う柱部間に形成されるポケットに円すいころが収容される樹脂製の円すいころ軸受用保持器の製造方法であって、
周方向に隣合う柱部間のポケットを成形するポケット成形用コアを備え、ポケット成形用コアの内外径方向の出し入れを可能とした保持器製造用金型を用いて成形することを特徴とする円すいころ軸受用保持器の製造方法。
【請求項2】
前記保持器製造用金型のポケット成形用コアは、外径側から、前記ポケットに収容される円すいころの小端面の傾斜角度に沿って進入することを特徴とする請求項1に記載の円すいころ軸受用保持器の製造方法。
【請求項3】
前記保持器製造用金型のポケット成形用コアは、内径側から、前記ポケットに収容される円すいころの小端面の傾斜角度に沿って進入することを特徴とする請求項1に記載の円すいころ軸受用保持器の製造方法。
【請求項4】
前記保持器製造用金型のポケット成形用コアは、内径側から、軸方向と直交する方向に沿って進入することを特徴とする請求項1に記載の円すいころ軸受用保持器の製造方法。
【請求項5】
前記保持器は、大径側環状部側が引っ掛け構造部を介して円すいころ内輪に係合可能とされることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の円すいころ軸受用保持器の製造方法。
【請求項6】
前記保持器は、大径側環状部にポケットに対応する位置に内径方向へ突出して保持器内輪に係合する引っ掛け片にて構成される引っ掛け構造部を備え、前記保持器製造用金型のポケット成形用コアが引っ掛け片成形用キャビティを形成することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の円すいころ軸受用保持器の製造方法。
【請求項7】
前記請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の製造方法にて成形される円すいころ軸受用保持器を用いた円すいころ軸受であって、小径側端面と、円すいころの小端面の外周縁とを、軸受中心軸と直交する平面上にほぼ配置、もしくは小径側端面が、円すいころ小端面の外周縁の軸受中心軸と直交する平面上よりも軸方向内方側に配置されることを特徴とする円すいころ軸受。
【請求項8】
前記請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の製造方法にて成形される円すいころ軸受用保持器を用いた円すいころ軸受であって、円すいころ軸受用保持器にポニフェルレンサルファイド樹脂を用いたことを特徴とする円すいころ軸受。
【請求項9】
前記請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の製造方法にて成形される円すいころ軸受用保持器を用いた円すいころ軸受であって、ころ係数γが0.94を超えることを特徴とする円すいころ軸受。
【請求項10】
前記請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の製造方法にて成形される円すいころ軸受用保持器を用いた円すいころ軸受であって、保持器のポケットの窓角度を55°以上80°以下とすることを特徴とする円すいころ軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−204063(P2009−204063A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−46109(P2008−46109)
【出願日】平成20年2月27日(2008.2.27)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】