説明

円柱状ボンド磁石およびその製造方法並びに製造装置

【課題】表面磁束密度を向上させた交互多極の円柱状ボンド磁石を製造する。
【解決手段】磁性粉末と樹脂を混練しコンパウンドを得る工程と、配向磁場を印加しながらコンパウンドを柱状ボンド磁石に成形する工程とを含む円柱状ボンド磁石の製造方法であって、配向磁場は、同種の磁極が対向するように複数の永久磁石を接合させた配向用磁石により形成され、その配向用磁石が、円柱状ボンド磁石に成形するキャビティを取り囲むように配置されており、配向用磁石とキャビティは、非磁性材料からなる隔壁によって隔てられ、その隔壁の厚みが、0.1mm以上、2.5mm以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸方向にN極とS極が交互に多極磁化された円柱状ボンド磁石およびその製造方法並びに製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
同種の磁極が対向するように複数の永久磁石を配置させた柱状磁石および筒状磁石は、様々な分野で使用されている。例えば、食品から鉄粉等を除去するための異物除去装置やリニアモータの固定子や可動子に用いられている(特許文献1または特許文献2)。このような柱状磁石および筒状磁石は、その外周面において磁石の軸方向にN極とS極が放射状に交互に形成されている。このような磁石の外周面に発生した磁極は、例えばN極については、N極から軸方向に対して直交する方向に放射状に磁力線が伸び、そのN極と隣接するS極へと磁力線が大きな弧を描く。その結果、柱状磁石および筒状磁石の外周面に効果的に多くの磁場を形成することができる。そのため、このような磁石を異物除去装置に利用すると、異物の捕集能力を高くすることができる。例えば、リニアモータや振動モータに利用した場合には、強い推進力を得ることができる。以下、このような磁石のことを柱状または筒状の交互多極磁石と呼ぶ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−303714号公報
【特許文献2】特開2005−73466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、柱状または筒状の交互多極磁石を製造する場合には、軸方向に着磁された、柱状および筒状の焼結磁石の複数ピースを同極が対向するように配置しながら、接着剤により接着する必要があった。この方法では、磁石を組み立てる際に、同種の磁極同士を対向させなければならず、大きな反発力を受けるため非常に危険であり、作業性が悪く、また、接着剤が固化するまでの間、冶具で磁石を固定する必要があり、生産性が低いという問題があった。その上、接着剤を用いた場合、接着剤の量や、塗布のされ方によって、接着面の寸法がばらつくという問題が発生していた。この問題は、磁極数の多い交互多極磁石を作製する場合、接着箇所が増えるので、その問題は一層深刻なものとなる。このため、最終的な柱状および筒状の交互多極磁石の全長を、目的の寸法にすることが非常に困難であった。
【0005】
これに対して、射出成形を利用して磁石の材料を成形する方法は、柱状または筒状の交互多極磁石を一体的な成形体として得ることができ、一度の射出成形で、N極とS極が交互に多極磁化された成形体が容易に得られる。そのため、接着剤を使って複数の磁石を組立てる方法と比べて、安全かつ効率的に作製でき、しかも割れや欠けが少なく、寸法精度が高いという利点がある。
【0006】
しかしながら、射出成形を利用して磁石の材料を成形する方法は、上述した焼結磁石とは異なり、磁性粉末を樹脂で希釈した原料をボンド磁石とする方法である。そのため、射出成形を利用して成形されたボンド磁石は、焼結磁石を使った組立てによる交互多極磁石と比べて磁気特性が低いという課題があった。特に、柱状磁石を円筒型のコイルと組み合わせてリニアモータを構成する場合には、十分な推進力を得るため、磁石表面での表面磁束密度が少なくとも200mTを超える必要があった。
【0007】
本発明は、このような要求に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、磁気特性を向上させた交互多極磁石を一体的に形成した円柱状ボンド磁石およびその製造方法並びに製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の第1の側面に係る円柱状ボンド磁石によれば、長手方向に沿ってN極とS極とが交互に出現するように形成された円柱状ボンド磁石であって、円柱状ボンド磁石の円周に沿って表面磁束密度を測定した表面磁束密度分布プロファイルにおいて、最大表面磁束密度が200mT以上であり、表面磁束密度の最大値と表面磁束密度の最小値との比が1.7以上2.0未満とすることができる。これにより、磁力線プロファイルの均一性を維持しつつ、一方向において特に強い磁束密度を得ることができ、全体としての磁束密度を向上した円柱状ボンド磁石を得ることができる。
【0009】
また本発明の第2の側面に係る円柱状ボンド磁石によれば、前記表面磁束密度プロファイルが、円柱状ボンド磁石の円状断面において中心を通る第一方向に長く、前記第一方向と略直交する第二方向に短い窪み状を示す眼鏡状に形成することができる。これにより、磁束密度が一方向に高い円柱状ボンド磁石を得ることができる。
【0010】
さらに本発明の第3の側面に係る円柱状ボンド磁石によれば、端面に貫通孔を有しない中実の円柱状に外観を形成することができる。これにより、中心軸に軸穴がないため、強度的にも安定した信頼性の高い円柱状ボンド磁石を得ることができる。
【0011】
さらにまた本発明の第4の側面に係る円柱状ボンド磁石によれば、円柱状側面を一体的に成形することができる。これにより、長手方向に沿ってN極とS極とが交互に出現する境界部分に継ぎ目のないシームレスな外観とでき、従来の貼り合わせ型の焼結磁石と比べ機械的強度が高く、耐久性の面でも優れたボンド磁石とすることができる。なおここでいうシームレスとは、別部材同士の接合でなく一体成形であることを意味するものであって、パーティングラインを含むことを妨げない。
【0012】
さらにまた本発明の第5の側面に係る円柱状ボンド磁石の製造方法によれば、磁性粉末と樹脂を混練しコンパウンドを得る工程と、配向磁場を印加しながら前記コンパウンドを柱状ボンド磁石に成形する工程とを含む円柱状ボンド磁石の製造方法であって、前記配向磁場は、同種の磁極が対向するように複数の永久磁石を接合させた配向用磁石により形成され、その配向用磁石が、前記円柱状ボンド磁石に成形するキャビティを取り囲むように配置されており、前記配向用磁石と前記キャビティは、非磁性材料からなる隔壁によって隔てられ、その隔壁の厚みが、0.1mm以上、2.5mm以下とすることができる。これにより、隔壁を破損させることなく、表面磁束密度の高い柱状ボンド磁石を安定して得ることができる。
【0013】
さらにまた本発明の第6の側面に係る円柱状ボンド磁石の製造方法によれば、前記隔壁の厚みを、0.2mm以上、2.2mm以下とすることができる。このように構成することで、一体ものの成形体で、交互に多極磁化され、しかも表面磁束密度の高い、柱状ボンド磁石を安定して得ることができる。
【0014】
さらにまた本発明の第7の側面に係る円柱状ボンド磁石の製造装置によれば、長手方向に沿ってN極とS極とが交互に出現するように形成された円柱状ボンド磁石の製造装置であって、円柱状ボンド磁石を構成するコンパウンドを注入するための、内面を成形面とし、かつ成形面の一部に凹部を設けた金型と、前記金型の成形面で長手方向に沿って配向磁場を印加するよう、前記凹部に挿入される、N極とS極とが交互に出現するように積層された配向用磁石と、前記配向用磁石を前記凹部に挿入した状態で、前記金型の成形面を閉塞する隔壁と、を備え、前記金型、配向用磁石及び隔壁を一対に対向させて、円柱状ボンド磁石を構成するコンパウンドを注入するための成形面を形成するよう構成することができる。
【0015】
さらにまた本発明の第8の側面に係る円柱状ボンド磁石の製造装置によれば、前記隔壁の厚みを、0.1mm以上、2.5mm以下とすることができる。
【0016】
さらにまた本発明の第9の側面に係る円柱状ボンド磁石の製造装置によれば、前記配向用磁石を前記凹部に挿入した状態で、前記配向用磁石及び金型の表面の少なくとも一部が、略同一面の円弧状を形成し、さらに前記隔壁が、該円弧状と略一致する円弧状に少なくとも一部を形成することができる。これにより、円弧状の内面を形成して、一対の金型の間で円柱状のボンド磁石を成形できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態に係る柱状ボンド磁石を成形するための装置の模式的な断面図を示す。
【図2】一実施の形態に係る柱状ボンド磁石を構成する磁性材料を配向させるための配向用磁石の模式的な斜視図を示す。
【図3】一実施の形態に係る柱状ボンド磁石を成形する装置の模式的な断面図を示す。
【図4】一実施の形態に係る配向用磁石を金型の内部に配置する際の説明図を示す。
【図5】一実施例における製造方法で使用する着磁コイルの模式的な斜視図を示す。
【図6】一実施例に係る柱状ボンド磁石の模式的な斜視図を示す。
【図7】図7(a)〜図7(f)は、本発明の各実施例および比較例に係る柱状ボンド磁石を成形するためのキャビティと配向用磁石の内面との距離(隔壁の厚み)を説明するための断面図である。
【図8】本発明の各実施例および比較例に係る柱状ボンド磁石で外周方向に測定した表面磁束密度分布を示すグラフである。
【図9】本発明の各実施例および比較例に係る隔壁の厚みを横軸に、各厚みで成形された柱状ボンド磁石における、(最大表面磁束密度)と(最小表面磁束密度)の比を縦軸に示したグラフである。
【図10】本発明の各実施例および比較例に係る隔壁の厚みを横軸に、各厚みで成形された柱状ボンド磁石における、最大表面磁束密度の値を縦軸に示したグラフである。
【図11】本発明の各実施例および比較例に係る隔壁の厚みを横軸に、各厚みで成形された柱状ボンド磁石における磁束量(フラックス)を縦軸に示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を実施するための最良の形態を、以下に図面を参照しながら説明する。ただし、以下に示す形態は、本発明の技術思想を具体化するための円柱状ボンド磁石およびその製造方法並びに製造装置を例示するものであって、本発明は円柱状ボンド磁石およびその製造方法並びに製造装置を以下に限定するものではない。
【0019】
また、本明細書は特許請求の範囲に示される部材を、実施の形態の部材に特定するものでは決してない。実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。さらに以下の説明において、同一の名称、符号については同一もしくは同質の部材を示しており、詳細な説明を適宜省略する。さらに、本発明を構成する各要素は、複数の要素を同一の部材で構成して一の部材で複数の要素を兼用する態様としてもよいし、逆に一の部材の機能を複数の部材で分担して実現することもできる。また、一部の実施例、実施形態において説明された内容は、他の実施例、実施形態等に利用可能なものもある。
【0020】
図1は、本発明の一実施の形態に係る柱状ボンド磁石を製造するための製造装置を示す模式的な断面図である。図2は、図1の装置を構成する金型に配置された配向用磁石の模式的な斜視図を示す。なお、図2では、簡単のため、図1で示したエジェクタピン103や金型104に配置された隔壁107は図示していない。図3は、図1内の金型104、配向用磁石101、102、隔壁107およびキャビティ105の位置関係を説明するための、模式的な断面図である。また、図4は、本発明で用いる配向用磁石101、102を金型104に組み込む際の図を示す。図8は、本発明の柱状ボンド磁石の外周方向に測定した表面磁束密度分布のグラフを示す。
【0021】
本発明に係る柱状ボンド磁石の製造方法は、従来のように磁石ピースを一つずつ組上げていく方法でなく、磁性材料を一度の成形で単一の成形体として成形することができる。しかも、柱状ボンド磁石の製造方法により、柱状ボンド磁石の側面の軸方向にN極とS極とを交互に発生させることができる。
【0022】
すなわち、図1に示されるように、異方性の磁性粉末と樹脂からなるコンパウンドをゲート106からキャビティ105の内部に充填し、配向用磁石101、102により囲まれたキャビティ105の内部で成形する。これにより、コンパウンド中の磁性粉末は、配向用磁石101、102によってキャビティ105の内部に形成される磁力線によって配向され、柱状ボンド磁石の軸方向の側面にN極とS極が交互に形成された柱状の交互多極磁石が得られる。
【0023】
図1および図4に示されるように、これらの配向用磁石101、102は、金型104の内部で同種の磁極が対向するように配置されているので、キャビティ内部には、異方性磁性粉末を十分に配向させるだけの磁場が発生している。これにより、磁気特性に優れた上、一度の成形で単一の交互多極磁石を作製できるので、この製造方法は生産性および寸法精度に非常に優れる。
【0024】
本形態の配向用磁石は、図2に示されるように、2つの配向用磁石101と配向用磁石102とに分割することができ、図4は、それらのうちの一方の配向用磁石を金型に組み込む様子を描いている。図4に示されるように、配向用磁石と略同寸の大きさに形成された金型104の凹部の中に、配向用磁石を構成する小磁石を一つずつ挿入していく。このとき、小磁石は、同種の磁極が対向するように挿入する必要があるので、強烈な反発力を受けている。複数の小磁石を、互いに反発力が発生するように、一つずつ凹部の中に嵌め込んでいき、全ての小磁石を嵌め込んだ後、プレート状の隔壁107で蓋をする。
【0025】
キャビティ105は、隔壁107を介して一対の半割れの配向用磁石101、102によって、片側ずつ覆われることによって構成されている。そのため、2つの金型104の合わさり目となるパーティングライン108の部分では、配向用磁石によって覆われていない箇所が形成されてしまう。例えば、図3に示されるように、キャビティ105の上と下にパーティングライン108が形成される。したがって、図8に示されるように、柱状ボンド磁石の外周に沿った磁束密度分布は、柱状ボンド磁石の軸方向に2本形成されるパーティングライン108に対応する個所において、凹みを持った特長的な磁束密度分布を有している。
【0026】
また、図3に示すように、キャビティ105は、隔壁107を介して、配向用磁石101、102によって取り囲まれているため、成形体の外周において磁性粉末は効率よく配向することができる。その一方で、プレート状の隔壁107の厚みが大きくなるほど、キャビティ105の最表面と配向用の磁石との距離が大きくなるので、コンパウンド中の磁性粉末の配向度が下がり、得られる柱状ボンド磁石の表面磁束密度の絶対値も小さいものとなってしまう。
【0027】
このような問題を解決するため、柱状ボンド磁石の製造方法において、配向用磁石は、図2に示すような一対の配向用磁石が柱状ボンド磁石用キャビティを取り囲むように配置する。図2に示されるように、配向用磁石101、102は、少なくとも複数の小磁石101a、101b、102a、102bの集合体からなる。これらの小磁石は、それぞれキャビティ105の外周を形作る半円形状の切り欠き部を有しており、全体の外形がほぼ直方体形状である。これらの小磁石101a、101b、102a、102bは、小磁石101a(102a)と小磁石101b(102b)の同種の磁極が対向するように配列され、固定された一対の接合体101、102として構成される。さらに、接合体101は、接合体102と、同種の磁極が対向するように向かい合わせに配置されて、切り欠き部の形状によりキャビティ105の形状が形作られる。このように配向用磁石を一対の接合体101、102にて構成することで、目的とする柱状の成形体が比較的長いものでも、小磁石の数を増やしてキャビティの長さを調整することにより成形することができる。
【0028】
さらに、配向用磁石101、102と柱状ボンド磁石を成形するためのキャビティ105とを、非磁性材からなる隔壁107によって隔てる。この非磁性材からなる隔壁の厚みは、0.1mm以上、2.5mm以下にする。さらに好ましい隔壁の厚みは、0.2mm以上、2.2mm以下である。
【0029】
隔壁プレートの厚みが、薄ければ薄いほど、キャビティ周辺を配向用磁石でほぼ完全に覆うことができる。しかも、キャビティ内部に強い磁場を発生させることができるため好ましい。
【0030】
しかし、配向用磁石は、同種の磁極が対向するように金型の内部に収納されており、配向用磁石を構成する小磁石同士が強い反発力を受けながら隔壁プレートにより固定されている。そのため、この隔壁プレートが薄すぎると、配向用磁石が、隔壁を変形させたり突き破ってしまったりすることにより、金型が破損して成形不可能となる。また、成形可能であっても、繰り返される成形によって蓄積した疲労により、金型の寿命が短くなってしまう。したがって、隔壁の厚みは、0.1mm以上であることが好ましい。より好ましい隔壁の厚みは、0.2mm以上である。
【0031】
これにより、金型により一体的に成形された柱状ボンド磁石であり、その側面が交互に多極磁化され、しかも表面磁束密度が高く、外部に大きな磁束を発生しうる柱状ボンド磁石を安定して得ることができる。なお、本明細書中では、円柱状の磁石の成形品について説明するが、本発明は、円柱状の磁石に限定されることなく、柱状でありさえすれば、三角、四角または多角形の形状の柱状でもよい。
【0032】
柱状ボンド磁石の製造方法において、上記隔壁は非磁性材であれば、鋼、セラミックス等、どのような材質を使用しても構わないが、金型の寿命を考慮して、材料の使用硬さが大きいものが好ましい。具体的には、HRC硬度が40以上のものが好ましい。
【0033】
なお、本明細書で示した配向用磁石の配置は、柱状のキャビティ側面に対して、両側から覆うような構造としたが、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、両側から覆うことによってキャビティを形成する代わりに、柱状のキャビティを、配向用磁石で完全に囲む形をとっても構わない。これは、原料となる磁性コンパウンドの収縮率よって適宜変更すれば良い。柱状ボンド磁石の原料となる磁性コンパウンドは、溶融状態にされて、キャビティの内部に充填され、その後冷却固化した後に、エジェクタピン103によって金型104の内部から突き出される。そのため得られる柱状ボンド磁石は、径方向に若干収縮し、金型のキャビティ105の内径寸法よりも、得られる柱状ボンド磁石の外径寸法は、小さくなる。収縮率が大きい場合には、キャビティと柱状ボンド磁石との間に十分な隙間ができるので、上述のように、配向用磁石が半割れの配置でなくても、柱状ボンド磁石をキャビティから取り出すことができる。
【0034】
配向用磁石は、永久磁石とすることが好ましい。配向用磁石の材料は、残留磁束密度Brが1T以上のものが好ましく、例えば、NdFeB焼結磁石を用いることができる。磁力の大きい磁石を使うと、キャビティの内部に発生する磁力が強くなり、柱状のボンド磁石の磁力も強くなる。
【0035】
射出成形で得られる柱状の交互多極磁石は、金型内で配向磁化されているのでそのまま使用することもできるが、成形後に着磁工程を行っても良い。着磁を行うことで、柱状のボンド磁石の磁力をより強力なものとすることができる。
【0036】
本発明で用いられる成形方法としては、特に制限はなく、例えば、押出成形、圧縮成形、射出成形が適用可能である。生産性、配向設備の設置の容易性から、特に射出成形によって成形することが好ましい。
【0037】
本発明で用いられる磁性粉末は、異方性又は、等方性の磁性粉末が適用可能である。例えば、異方性磁性粉末としては、フェライト系、SmCo系、NdFeB系、SmFeN系が挙げられる。等方性磁性粉末としては、SmCo系、NdFeB系等が挙げられる。磁力の強い円柱状ボンド磁石を作製する必要がある場合には、異方性磁性粉末を用いることが好ましく、特に、成形性を考慮するとSmFeN系が好ましい。これは、異方性磁性粉末は、配向の際に印加される磁場によって、磁化方向が非常に揃い易く、結果的に円柱状ボンド磁石の磁力が強くなるためである。成形性の優れる材料は、配向もしやすい。上記の磁性粉末は、一種単独でも二種以上を混合物として使用しても使用可能である。また必要に応じて耐酸化処理やカップリング処理を施しても良い。
【0038】
本発明で用いられる樹脂としては、特に制限はなく、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイド、アクリル樹脂等の熱可塑性樹脂や、エステル系、ポリアミド系等の熱可塑性エラストマー、エポキシ樹脂やフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂を使用することができる。また、これらを適宜混合して使用することもできる。
【0039】
磁性粉末の配合比率は、樹脂の種類にもよるが、円柱状ボンド磁石全体に対する磁性粉末の割合が45〜75Vol%とすることが好ましい。また、酸化防止剤、滑剤等をさらに混合することもできる。
【0040】
以下、本発明に係る実施例について詳述する。なお、本発明は以下に示す実施例のみに限定されないことは言うまでもない。
【実施例】
【0041】
1.コンパウンドの準備
異方性SmFeN磁性粉末をエチルシリケートおよびシラン系のカップリング剤で表面処理をする。表面処理を施したSmFeN磁性粉末9137gと12ナイロン863gをミキサーで混合する。得られた混合粉を、混練機を用いて220℃で混練し、ストランド状のコンパウンドを押出し、冷却後、適当なサイズに切断してコンパウンドを得る。
【0042】
2.円柱状交互多極ボンド磁石の作製
上記で作製したコンパウンドを原料として、射出成形機で、円柱状の交互多極磁石を作製する。キャビティは、直径5mm、高さ30mmとする。図1および図2および図3に示されるように、各実施例で使用した金型104は、内部に配向用の永久磁石を配置しており、配向用の永久磁石とキャビティ105を隔てる隔壁の厚み(t)を変更した以外は、全て同じ金型を使用した。各実施例および比較例の隔壁の厚みは、以下の表1に示す通りである。各実施例および比較例の隔壁の厚みにおける、キャビティ、配向用磁石および隔壁の位置関係は、図7(a)〜図7(f)に示す通りである。
【0043】
配向用の永久磁石には、市販のNdFeB焼結磁石(Br=1.35T)を使用し、個々の磁石の幅は5mmである。図4に金型内部に配向用の磁石を組み込む際の説明図を示す。同種の磁極が対向するように磁石を金型内部にセットし、全ての磁石が入ったら、表1に示す各厚みの隔壁プレートで蓋をする。これを2セット作製し、向かいあわせに配置することで、キャビティ105を形成している。成形の条件を、シリンダー温度を230℃、金型温度を90℃とし、溶融されたコンパウンドをゲート106よりキャビティ105に充填することによる射出成形を行うことで、5mm間隔にN極とS極とに交互に磁化された、直径5mm、高さ30mmの円柱状のボンド磁石を得る。
【0044】
3.着磁処理
図5に示した着磁コイルを用いて、上記で得た、円柱状のボンド磁石を着磁する。着磁ピッチは、成形時の配向ピッチと同じ5mmとする。本実施例における着磁の条件は、静電容量が500μF、充電電圧が1500V、パルス着磁である。本実施例における着磁コイルは、図5に示されるように、非磁性のボビン109の側面に被覆銅線110を巻回した後、一定の間隔をおいて、先に巻回した被覆銅線とは逆方向に巻回して形成させたものである。
【0045】
4.評価
表1に示したように、金型内部のキャビティと配向用永久磁石を隔てる隔壁の厚みを変更して、各実施例および比較例それぞれで円柱状のボンド磁石を得た。隔壁の厚みが0.08mmでは、成形を試みたものの、隔壁が破損してしまい成形ができなかった。図6に得られた円柱状ボンド磁石の概略正面図を示した。得られた円柱状ボンド磁石は、N極とS極が交互に多極着磁されている。各実施例および比較例で得た円柱状のボンド磁石の全てに対して、図6の点P(N極)での外周360度の表面磁束密度を測定する。図8に、各実施例および比較例で得た円柱状ボンド磁石に対する表面磁束密度分布をグラフで示す。図8によれば、外周において2箇所、表面磁束密度が小さくなる箇所が見られた。これは、パーティングライン108(金型の合わさり目)に対応しており、配向用の永久磁石が存在しないためである。隔壁が小さくなっても、この部分の表面磁束密度は大きな増加は見られなかった。一方で、隔壁の厚みが小さくなるにつれてパーティングライン108から90°ずれた位置での表面磁束密度は大きくなり、磁力向上の効果が見られた。
【0046】
【表1】

【0047】
図8の結果を元に、各隔壁厚みに対する、最小表面磁束密度値に対する最大表面磁束密度値の比をグラフで図9に示す。図9によれば、隔壁が2.5mmよりも小さい領域で、表面磁束密度の最小値に対する最大値の比が急激に大きくなっている。これは、隔壁が2.5mmよりも小さい領域において、パーティングライン108から90°ずれた位置での磁性粉末の配向が効果的に行われていることを表している。
【0048】
また、図10は、各隔壁の厚みに対する最大表面磁束密度の値をグラフで示す。図10によれば、隔壁が2.5mm以下の領域で最大表面磁束密度が200mTを超えており、磁力向上の効果が顕著である。このような磁力を有する柱状磁石は、特にリニアモータの用途において実用的な磁石とされている。
【0049】
また、0.2mmのエナメル線で内径5.2mmの探りコイルを作製し、電磁誘導の原理に基づいて、実施例および比較例で得た円柱ボンド磁石から発生する磁束量(フラックス)を比較した。
【0050】
図11に、実施例および比較例の円柱状ボンド磁石の磁壁厚みに対する磁束量(フラックス)をグラフで示した。図11によれば、隔壁が2.5mmよりも小さい領域でフラックスが大幅に増加している。
【0051】
以上の結果から、配向用磁石を、円柱状ボンド磁石用キャビティを取り囲むように配置し、さらに、上記配向用磁石と上記円柱状ボンド磁石用キャビティを隔てる隔壁を非磁性材とし、上記非磁性材からなる隔壁の厚みが、0.1mm以上、2.5mm以下(より好ましくは、0.2mm以上、2.2mm以下)にする。このような隔壁の厚みとすることで、磁力の優れた円柱状交互多極のボンド磁石を安定して提供することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の円柱状ボンド磁石およびその製造方法並びに製造装置は、異物除去装置やリニアモータ用の永久磁石材料として好適に利用できる。
【符号の説明】
【0053】
101、102…配向用磁石
101a、101b、102a、102b…小磁石
103…エジェクタピン
104…金型
105…キャビティ
106…ゲート
107…隔壁
108…パーティングライン
109…ボビン
110…被覆銅線
111…柱状ボンド磁石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に沿ってN極とS極とが交互に出現するように形成された円柱状ボンド磁石であって、
円柱状ボンド磁石の円周に沿って表面磁束密度を測定した表面磁束密度分布プロファイルにおいて、最大表面磁束密度が200mT以上であり、表面磁束密度の最大値と表面磁束密度の最小値との比が1.7以上2.0未満であることを特徴とする円柱状ボンド磁石。
【請求項2】
請求項1に記載の円柱状ボンド磁石であって、
前記表面磁束密度分布プロファイルが、前記円柱状ボンド磁石の円状断面において中心を通る第一方向に長く、前記第一方向と略直交する第二方向において窪み状を示す眼鏡状に形成されてなることを特徴とする円柱状ボンド磁石。
【請求項3】
請求項1または2に記載の円柱状ボンド磁石であって、
端面に貫通孔を有しない中実の円柱状に形成してなることを特徴とする円柱状ボンド磁石。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一に記載の円柱状ボンド磁石であって、
円柱状側面を一体的に成形してなることを特徴とする円柱状ボンド磁石。
【請求項5】
磁性粉末と樹脂を混練しコンパウンドを得る工程と、
配向磁場を印加しながら前記コンパウンドを柱状ボンド磁石に成形する工程と、
を含む円柱状ボンド磁石の製造方法であって、
前記配向磁場は、同種の磁極が対向するように複数の永久磁石を接合させた配向用磁石により形成され、その配向用磁石が、前記円柱状ボンド磁石に成形するキャビティを取り囲むように配置されており、
前記配向用磁石と前記キャビティは、非磁性材料からなる隔壁によって隔てられ、その隔壁の厚みが、0.1mm以上、2.5mm以下であることを特徴とする円柱状ボンド磁石の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の円柱状ボンド磁石の製造方法であって、
前記隔壁の厚みが、0.2mm以上、2.2mm以下であることを特徴とする円柱状ボンド磁石の製造方法。
【請求項7】
長手方向に沿ってN極とS極とが交互に出現するように形成された円柱状ボンド磁石の製造装置であって、
円柱状ボンド磁石を構成するコンパウンドを注入するための、内面を成形面とし、かつ成形面の一部に凹部を設けた金型と、
前記金型の成形面で長手方向に沿って配向磁場を印加するよう、前記凹部に挿入される、N極とS極とが交互に出現するように積層された配向用磁石と、
前記配向用磁石を前記凹部に挿入した状態で、前記金型の成形面を閉塞する隔壁と、
を備え、
前記金型、配向用磁石及び隔壁を一対に対向させて、円柱状ボンド磁石を構成するコンパウンドを注入するための成形面を形成するよう構成してなることを特徴とする円柱状ボンド磁石の製造装置。
【請求項8】
請求項7に記載の円柱状ボンド磁石の製造装置であって、
前記隔壁の厚みが、0.1mm以上、2.5mm以下であることを特徴とする円柱状ボンド磁石の製造装置。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の円柱状ボンド磁石の製造装置であって、
前記配向用磁石を前記凹部に挿入した状態で、前記配向用磁石及び金型の表面の少なくとも一部が、略同一面の円弧状を形成し、
さらに前記隔壁が、該円弧状と略一致する円弧状に少なくとも一部を形成してなることを特徴とする円柱状ボンド磁石の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−114101(P2011−114101A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−268143(P2009−268143)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【出願人】(000226057)日亜化学工業株式会社 (993)
【出願人】(394021546)アイ・アンド・ピー株式会社 (9)
【Fターム(参考)】