説明

円筒ころ軸受及び円筒ころ軸受装置

【課題】円筒ころ軸受としての高い負荷容量を保持する一方、ある程度の自動調心性を持ち、しかも、研削加工によらずに製作できる円筒ころ軸受を提供することを課題とする。
【解決手段】外輪22の両端部の外径面、内輪23の両端部の内径面にそれぞれテーパ35,38面が形成され、前記外輪22及び内輪23の両端部に1個所以上の軸方向のスリット36、39が設けられ、外輪22、内輪23の各テーパ面35、38にそれぞれ外輪加圧手段29の外輪加圧リング42及び内輪加圧手段31の内輪加圧リング47が嵌合され、前記外輪加圧リング42及び内輪加圧リング47にそれぞれ外輪押圧部材43A及び内輪押圧部材48Aを作用させることにより外輪22及び内輪23の両端部を径方向に弾性変形させ、前記各加圧手段29、31によって各軌道面27、28を湾曲状態に維持した構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、円筒ころ軸受及び円筒ころ軸受装置に関し、特に内外輪の軌道面の形成に関するものである。
【背景技術】
【0002】
円筒ころ軸受は、転動体である円筒ころと軌道面が線接触しているため、ラジアル荷重の負荷能力が大きい特性がある一方、自動調心性はないため、ハウジングに対する取付誤差又は軸の撓みによって生じる内外輪の傾きが生じる部分に使用することはできない。
【0003】
円筒ころ軸受の前記の特性を活かし、さらに自動調心性を付与した軸受として、調心輪付円筒ころ軸受が知られている(特許文献1)。この調心輪付円筒ころ軸受1は、図12に示したように、外輪2と内輪3、これらの軌道面間に介在された円筒形の転動体4及び調心輪5とにより構成される。外輪2の外径面が凸球面に形成され、その外輪2が調心輪5の内径面に形成された凹球面に嵌合される。これらの各球面は軸受中心を中心とした同一の曲率半径を持つように形成される。
【0004】
前記の調心輪付き円筒ころ軸受1は、円筒ころ軸受の特性を持つと同時に自動調心性も有するが、調心輪5を必要とするために、軸受の外径が大きくなることが避けられない。
【0005】
一方、図13に示したように、前記の調心輪5を用いることなく、ある程度の自動調心性を付与した円筒ころ軸受6が知られている(非特許文献1)。この円筒ころ軸受6の外輪7と内輪8の軌道面9、10は、通常の自動調心ころ軸受の曲率半径の2倍程度の大きい曲率半径を持った球面に形成される。転動体11は単列であり、軌道面9、10に対応した緩やかな球面を持ったたる形に形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−82495号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】http://www.skf.com/portal/skf_jp/home 製品情報「トロイダルころ軸受」の項
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記の図13に示した円筒ころ軸受6は、外輪7及び内輪8の幅、転動体11の軸方向長さが通常の円筒ころ軸受より大きく形成されるため、高い負荷容量が得られ、また、軌道面9、10が緩やかな球面に形成されているので、ある程度の自動調心性を具備する。
【0009】
しかしながら、外輪7の軌道面9を加工する場合において、砥石形状をR形状のロータリドレッサーによって成形し、そのR形状に形成された砥石を外輪の一定位置に押し付けて研削加工する必要がある。
【0010】
この場合、軸受幅以上の幅広の研削砥石が必要である。また、砥石をトラバースさせて研削加工する場合と比較し、発熱し易く、放熱が困難であり、かつ加工に多くの時間を要する。これらのことから、加工コストが高くなる可能性がある。内輪8の軌道面10の加工においても、同様のことがいえる。
【0011】
そこで、この発明は、円筒ころ軸受としての高い負荷容量を保持する一方、ある程度の自動調心性を持ち、しかも、前記のような研削加工によらずに製作できる円筒ころ軸受及び円筒ころ軸受装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の課題を解決するために、円筒ころ軸受に係る発明は、外輪と内輪の軌道面間に単列の円筒ころ形の転動体が介在され、前記転動体にクラウニングが施された円筒ころ軸受において、前記外輪と内輪はそれぞれ中間部から軸方向に延びた左右両端部を有し、外輪においてはその両端部の外径面、内輪においてはその両端部の内径面にそれぞれテーパ面が形成され、前記テーパ面が形成された外輪及び内輪の両端部に1個所以上の軸方向のスリットが設けられ、前記外輪及び内輪ごとに外輪加圧手段及び内輪加圧手段がそれぞれ設けられ、前記外輪加圧手段は前記外輪の各テーパ面に嵌合された一対の外輪加圧リングと各加圧リングを相互に接近する方向に押圧する外輪押圧部材とにより構成され、前記内輪加圧手段は前記内輪の各テーパ面に嵌合された一対の内輪加圧リングと各加圧リングを相互に接近する方向に押圧する内輪押圧部材とにより構成され、前記外輪押圧部材及び内輪押圧部材を操作することにより前記外輪及び内輪の両端部を径方向に弾性変形させ、前記外輪及び内輪の軌道面を前記転動体のクラウニングに沿うよう湾曲させ、その湾曲状態を前記各押圧部材によって維持した構成としたものである。
【0013】
前記構成の円筒ころ軸受は、組立途中において、外輪押圧部材及び内輪押圧部材を操作することによって、外輪の両端部には縮径方向の荷重、内輪の両端部には拡径方向の荷重をそれぞれ加えて外輪及び内輪の軌道面を湾曲状態に弾性変形させる。その弾性変形した湾曲状態をそれぞれ外輪押圧部材及び内輪押圧部材によって維持し、その状態で使用に供される。
【0014】
前記の外輪押圧部材及び内輪押圧部材を、複数本のボルト・ナットにより構成することができる。外輪側においては、ボルトを両側の外輪加圧リングに貫通させてナットを締め付けることにより外輪両端部に縮径方向の荷重を加える。また、内輪側においては、ボルトを両側の内輪加圧リングに貫通させてナットを締め付けることにより内輪両端部に拡径方向の荷重を加える。
【0015】
また、ころ軸受装置に係る発明は、外輪と内輪の軌道面間に単列の円筒ころ形の転動体が介在され、前記転動体にクラウニングが施され、前記外輪が軸受箱に収納され、前記内輪が軸に嵌合された円筒ころ軸受装置において、前記外輪と内輪はそれぞれ中間部から軸方向に延びた左右両端部を有し、外輪においてはその両端部の外径面、内輪においてはその両端部の内径面にそれぞれテーパ面が形成され、前記テーパ面が形成された外輪及び内輪の両端部に1個所以上の軸方向のスリットが設けられ、前記外輪及び内輪ごとに外輪加圧手段及び内輪加圧手段がそれぞれ設けられ、前記外輪加圧手段は前記外輪の各テーパ面に嵌合された一対の外輪加圧リングと各加圧リングを相互に接近する方向に押圧する外輪押圧部材とにより構成され、前記内輪加圧手段は前記内輪の各テーパ面に嵌合された一対の内輪加圧リングと各加圧リングを相互に接近する方向に押圧する内輪押圧部材とにより構成され、前記外輪押圧部材は前記軸受箱の内径面に、前記内輪押圧部材は前記軸の外径面にそれぞれねじ結合され、前記外輪押圧部材及び内輪押圧部材を外部から操作することにより前記外輪及び内輪の両端部を径方向に弾性変形させ、前記外輪及び内輪の軌道面を前記転動体のクラウニングに沿うよう湾曲させ、その湾曲状態を前記各押圧部材によって維持した構成としたものである。
【0016】
この場合は、外輪押圧部材及び内輪押圧部材を押し進める構成として、前者は軸受箱の内径面に、また後者は軸の外径面にそれぞれねじ結合させた構成を採用したところに前記のころ軸受と相違点がある。また、軸受箱及び軸が発明の構成要素となることから、装置の発明となっている。
【0017】
なお、前記外輪押圧部材及び内輪押圧部材の具体的な構成としては、それぞれ外輪押圧ねじリング及び内輪押圧ねじリングにより構成され、前記外輪押圧ねじリングはその外径面に雄ねじ、前記内輪押圧リングはその内径面に雌ねじがそれぞれ形成された構成をとることができる。
【発明の効果】
【0018】
円筒ころ軸受及び円筒ころ軸受装置のいずれの発明においても、組立途中において外輪押圧部材及び内輪押圧部材を外部から操作することによって外部から荷重を加え、外輪及び内輪の軌道面を湾曲状態に弾性変形させ、その変形状態を維持するようにしている。
【0019】
このため、研削加工によることなく、湾曲形状をもった軌道面を形成することができる。また、軌道面の曲率半径の大きさを押圧部材の押圧力の調整により容易にコントロールすることができる。
【0020】
また、その軌道面及び転動体のクラウニングの曲率半径は、ある程度の大きさの曲率半径を持った湾曲面に形成されるので、軸受の取付誤差、軸撓みに対し調心性を有し、かつ、軸方向変位を可能とし自由側軸受としての信頼性が向上する。さらに、同一断面寸法の従来の自動調心ころ軸受と比べ、同等以上の負荷容量を有する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、実施形態1の円筒ころ軸受の組立途中における一部省略断面図である。
【図2】図2は、図1のX1−X1線の断面図である。
【図3】図3は、図1のX2−X2線の断面図である。
【図4】図4は、実施形態1の円すいころ軸受の組立完了後における一部省略断面図である。
【図5】図5(a)は、同上の外輪の斜視図、図5(b)は外輪の断面図である。
【図6】図6(a)は、同上の内輪の斜視図、図6(b)は内輪の断面図である。
【図7】図7は、実施形態2の円筒ころ軸受装置の組立途中における一部省略断面図である。
【図8】図8は、図7のX3−X3線の断面図である。
【図9】図9は、図7のX4−X4線の断面図である。
【図10】図10(a)は、外輪押圧ねじリングの斜視図、図10(b)は、内輪押圧ねじリングの斜視図である。
【図11】図11は、実施形態2の円すいころ軸受装置の組立完了後における一部省略断面図である。
【図12】図12は、従来例の円筒ころ軸受一部省略断面図である。
【図13】図13は、他の従来例の円筒ころ軸受一部省略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。図1から図6は実施形態1に関し、図7から図11は実施形態2に関する。
[実施形態1]
【0023】
図1から図3は実施形態1の円筒ころ軸受21の組立途中の状態を示し、図4は組立完了後の状態を示している。
【0024】
この円筒ころ軸受21は、外輪22と内輪23及びこれらの間に介在された円筒ころ形の転動体24及びその転動体24の保持器25を有する。外輪22と内輪23の軌道面27、28は変形前の円筒状態にある。
【0025】
また、前記外輪22及び内輪23に強制的に荷重を加え、それらの軌道面27、28を湾曲状態に変形させる外輪加圧手段29及び内輪加圧手段31、その他外輪荷重受けリング32、内輪荷重受けリング33を有する。外輪22及び内輪23の素材は軸受鋼である。
【0026】
前記の外輪22は、図5(a)(b)に示したように、中間部34が円筒状に形成され、その中間部34の左右両端部30の外径面にテーパ面35が形成される。前記外輪22の両端部30において、それぞれ端面からテーパ面35の範囲内において軸方向のスリット36が形成される。このスリット36は、図示の場合、周方向等配位置の4個所に形成したものを示しているが、1個所以上複数個所に形成すればよい。また、各スリット36の終端部は部分的に中間部34に入る場合もある。
【0027】
前記の内輪23も、図6(a)(b)に示したように、外輪22と同様に、中間部37が円筒状に形成され、両端部40の内径面にテーパ面38が形成される。また、両端部40において、それぞれの端面からテーパ面38の範囲内において、軸方向のスリット39が形成される。このスリット39も、周方向等配位置の4個所に形成したものを示しているが、1個所以上複数個所に形成すればよい。また、各スリット39の終端部は部分的に中間部37に入る場合もある。
【0028】
前記の転動体24は、その外周面の全体にクラウニング41(図1参照)が施されたものである。転動体24は、外輪22の内径面に形成された円筒状の軌道面27及び内輪23の外径面に形成された円筒状の軌道面28に対して、中間部が接触するが、それ以外の部分はすき間を生じている。
【0029】
後述のように、外輪加圧手段29及び内輪加圧手段31の作用によって、各軌道面27、28が湾曲状態に変形され、前記のすき間は組立完了状態においては狭くなるか又は密着する(図4参照)。
【0030】
前記の外輪加圧手段29は、左右一対の外輪加圧リング42と外輪押圧部材43A(図1、図4参照)とにより構成される。図示の場合、外輪押圧部材43Aは複数本のボルト43及びナット44により構成される。外輪加圧リング42の内径は、外輪22の内径と同程度の大きさに形成され、またその外輪加圧リング42の外径は、外輪22の外径より大きく形成される。左右の外輪加圧リング42の対向面の内径側のコーナ部に、そのコーナ部をそぎ落とす形状のテーパ面45が形成される。そのテーパ面45の角度は、外輪22のテーパ面35に合致する角度に設定される。
【0031】
左右の外輪加圧リング42のテーパ面45を外輪22のテーパ面35に合致させた状態で、各外輪加圧リング42の外径面は外輪22の外径面より大きく外径方向に突き出す。
【0032】
前記の左右の外輪加圧リング42の間において、外輪22の中間部34の外径面に外輪荷重受けリング32が嵌合される。この外輪荷重受けリング32の外径は、外輪加圧リング42の外径に一致する。また、各外輪加圧リング42のテーパ面45を外輪22のテーパ面35に押し当てた状態(図1の状態)で、各外輪加圧リング42と外輪荷重受けリング32との間に軸方向の一定の間隔dが存在する。
【0033】
各外輪加圧リング42が外輪22の外径側へ突き出した部分と、前記外輪荷重受けリング32に前記ボルト43が軸方向に貫通される。ボルト43は、周方向の等配位置の複数個所において同様に貫通され、端部にナット44がねじ止めされる。
【0034】
一方、内輪加圧手段31も、前記の場合と同様に、左右一対の内輪加圧リング47と内輪押圧部材48Aとによって構成される。図示の場合、内輪押圧部材48Aは複数本のボルト48及びナット49により構成される。内輪加圧リング47の外径は、内輪23の外径と同程度の大きさに形成され、また内輪加圧リング47の内径は、内輪23の内径より大きく形成される。左右の内輪加圧リング47の対向面の外径側のコーナ部に、そのコーナ部をそぎ落とす形状のテーパ面51が形成される。そのテーパ面51の角度は、内輪23のテーパ面38に合致する角度に設定される。
【0035】
左右の内輪加圧リング47のテーパ面51を内輪23のテーパ面38に重ねた状態で、各内輪加圧リング47の内径面は内輪23の内径面より大きく内径方向に突き出す。
【0036】
図示の場合、左右の内輪加圧リング47の間において、内輪23の中間部37の外径面に内輪荷重受けリング33が嵌合される。この内輪荷重受けリング33の外径は、内輪加圧リング47の外径に一致する。また、各内輪加圧リング47のテーパ面51を内輪23のテーパ面38に押し当て、軸方向内側に最も押し込んだ図1の状態で、各内輪加圧リング47と内輪荷重受けリング33との間に軸方向に一定の間隔dが存在する。
【0037】
左右の内輪加圧リング47が内輪23の内径側へ突き出した部分と、前記内輪荷重受けリング33に前記ボルト48が軸方向に貫通される。ボルト48は、周方向の等配位置の複数個所において軸方向に貫通され、端部にナット49がねじ止めされる。
【0038】
図1は、ボルト43、48を貫通し、ナット44、49をねじ止めした仮組状態を示す。この状態から、各ボルト43、48のナット44、49を順次均等に締め付けることにより、外輪加圧リング42及び内輪加圧リング47を相互に接近する方向に推し進める(図1の白抜き矢印参照)。これにより、外輪22側においてはそのテーパ面35に縮径方向の荷重が加えられる。同様に、内輪23側においては、内輪23のテーパ面38に拡径方向の荷重が加えられる。
【0039】
その結果、外輪22においては、両端部30のスリット36によって分割された部分が縮径し、その縮径に伴い中間部34も若干縮径する。これによって外輪22の軌道面27は、全体に湾曲状態に弾性変形する(図4、図5(b)の二点鎖線参照)。同様に、内輪23においても、両端部40のスリット39によって分割された部分が拡径し、その拡径に伴い中間部37も若干拡径する。これによって内輪23の軌道面28が全体に湾曲状態に弾性変形する(図4、図6(b)の二点鎖線参照)。
【0040】
各軌道面27、28の曲率半径の大きさは、ナット44、49の締付け具合によってコントロールされる。通常、転動体24のクラウニング41の曲率半径より若干大きい程度の曲率半径を持つようにコントロールされ、図4の組立完了状態となる。組立完了状態において、前記のすき間dは、当初より小さくなるが、一定の大きさを保持している。
【0041】
軌道面27、28の湾曲変形は弾性変形であるので、この円筒ころ軸受21は、前記のような外輪加圧手段29及び内輪加圧手段31を装着したまま軸受として使用に供される。軌道面27、28の弾性変形状態は、外輪加圧手段29及び内輪加圧手段31によって維持される。
【0042】
なお、以上の説明では、転動体24を保持器25によって等間隔に配列保持したものを示しているが、保持器を用いず転動体相互を接触させて配列した、いわゆる総ころタイプのものであってもよい。
【0043】
実施形態1に係る円筒ころ軸受21は、以上のようなものであり、外輪22及び内輪23の軌道面27、28は、組立の途中において湾曲状態に弾性変形され、その変形状態を維持するようにしているので、研削加工によることなく、湾曲形状をもった軌道面27、28が形成される。その軌道面27、28及び転動体24のクラウニング41の曲率半径は、ある程度の大きさの曲率半径を持った湾曲面に形成することができるので自動調心性を有する。
【0044】
軸に作用するラジアル荷重は、内輪荷重受けリング33及び一対の内輪加圧リング47を介して内輪23、転動体24に伝達され、さらに外輪22、外輪荷重受けリング32及び一対の外輪加圧リング42を介して軸受箱に負荷される。
【0045】
この円筒ころ軸受21の用途としては、アキシアル荷重の作用しない部分、例えば、製紙機械の主ロール(サクションクーチロール、プレスロール、ドライヤーロール、カレンダーロールなど)の自由側(操作側をいう。以下、同じ)軸受、風力発電機の主軸軸受における自由側軸受等がある。
[実施形態2]
【0046】
次に、図7から図11に示した実施形態2は、円筒ころ軸受装置52に関するものである。実施形態1の場合と比べ、外輪加圧手段29及び内輪加圧手段31の構成において相違があり、これらの加圧手段29、31が軸受箱53及び軸54を利用することから、単なる円筒ころ軸受ではなく、円筒ころ軸受装置52を構成している。
【0047】
即ち、実施形態2に係る円筒ころ軸受装置52は、前記の場合と同様に、外輪22と内輪23及びこれらの間に介在された円筒ころ形の転動体24及び転動体24の保持器25を有する。また、前記外輪22及び内輪23に強制力を加えてその円筒形の軌道面27、28を湾曲させる外輪加圧手段29及び内輪加圧手段31、外輪荷重受けリング32、内輪荷重受けリング33を有する。
【0048】
前記の外輪22、内輪23、転動体24の具体的な構成は実施形態1の場合と同様であるので、図面上、同一部分には同一符号を付して示すにとどめその説明を省略し、以下主として相違する部分について詳述する。
【0049】
外輪加圧手段29は、左右一対の外輪加圧リング42と、外輪押圧部材としての外輪押圧ねじリング55により構成される。外輪押圧ねじリング55の内外径は、外輪加圧リング42のそれと一致し、外輪押圧ねじリング55は外輪加圧リング42の外端面に軸方向内向きに押し当てられる。また、外輪押圧ねじリング55の外径面に雄ねじ56が形成される(図10(a)参照)。前記外輪押圧ねじリング55の外端面には、周方向の複数個所にスパナ掛け穴57が設けられる。
【0050】
軸受箱53の内径面において、左右の外輪押圧ねじリング55をねじ結合するための雌ねじ58が設けられ、各外輪押圧ねじリング55の雄ねじ56がその雌ねじ58にねじ結合される。スパナ掛け穴57にスパナを掛けて回し、外輪押圧ねじリング55を外輪加圧リング42の外端面に押し当てる。
【0051】
また、内輪加圧手段31は、左右一対の内輪加圧リング47と、内輪押圧部材としての内輪押圧ねじリング59とにより構成される。
【0052】
内輪押圧ねじリング59の内外径は、内輪加圧リング47のそれと一致し、内輪押圧ねじリング59は内輪加圧リング47の外端面に軸方向内向きに押し当てられる。また、内輪押圧ねじリング59の内径面に雌ねじ60が形成される(図10(b)参照)。前記内輪押圧ねじリング59の外端面には、周方向の複数個所にスパナ掛け穴61が設けられる。
【0053】
軸54の外径面において、左右の内輪押圧ねじリング59をねじ結合するための雄ねじ62が設けられ、各内輪押圧ねじリング59の雌ねじ60が軸54の雄ねじ62にねじ結合される。スパナ掛け穴61にスパナを掛けて回し、内輪押圧ねじリング59を内輪加圧リング47の外端面に押し当てる。
【0054】
以上のように組み立てることにより、図7に示したように、外輪22側においては外輪加圧リング42と外輪荷重受けリング32の間に間隔dが生じ、同様に、内輪23側においては内輪加圧リング47と内輪荷重受けリング33の間に間隔dを生じた仮組状態となる。
【0055】
前記の仮組状態から、外輪押圧ねじリング55及び内輪押圧ねじリング59の各スパナ掛け穴57、61にスパナを掛けてこれらのねじリング55、59を介してそれぞれ外輪加圧リング42及び内輪加圧リング47を押し進める(図7の白抜き矢印参照)。これにより、外輪22のテーパ面35に縮径方向の荷重を加える。同様に、内輪23側においては、内輪23のテーパ面38に拡径方向の力を加える。
【0056】
その結果、外輪22においては、両端部のスリット36によって分割された部分が縮径し、その縮径に伴い中間部34も若干縮径する。これによって外輪22の軌道面27は、全体に湾曲状態に弾性変形する(図5(b)の二点鎖線参照)。同様に、内輪23においても、両端部のスリット39によって分割された部分が拡径し、その拡径に伴い中間部37も若干拡径する。これによって内輪23の軌道面28が全体に湾曲状態に弾性変形する(図6(b)の二点鎖線参照)。
【0057】
前記の実施形態1の場合と同様に、軌道面の湾曲状態は、外輪押圧ねじリング55及び内輪押圧ねじリング59の締付け具合によってコントロールされる。通常、転動体24のクラウニング41の曲率半径より若干大きい程度の曲率半径を持つようにコントロールされ、図11の組立完了状態となる。組立完了状態において、前記のすき間dは、当初より小さくなるが、一定の大きさを保持している。
【0058】
軌道面27、28の湾曲変形は弾性変形であるので、外輪加圧手段29及び内輪加圧手段31である軸受箱53及び軸54を含んだ円筒ころ軸受装置52として使用に供され、軌道面27、28の湾曲変形状態が維持される。
【0059】
実施形態2に係る円筒ころ軸受装置52は、以上のようなものであり、前述の実施形態1に係る円筒ころ軸受21と同様に、外輪22及び内輪23の軌道面27、28は、組立の途中において湾曲状態に弾性変形され、その変形状態を維持するようにしているので、研削加工によることなく、湾曲形状を持った軌道面27、28が形成される。その軌道面27、28及び転動体24のクラウニング41の曲率半径は、ある程度の大きさの曲率半径を持った湾曲面に形成することができるので自動調心性を有する。
【0060】
なお、この円筒ころ軸受装置52の用途としては、前記の場合と同様に、アキシアル荷重の作用しない部分、例えば、製紙機械の主ロール(サクションクーチロール、プレスロール、ドライヤーロール、カレンダーロールなど)の自由側軸受、風力発電機の主軸軸受における自由側軸受等がある。
【符号の説明】
【0061】
21 円筒ころ軸受
22 外輪
23 内輪
24 転動体
25 保持器
27 軌道面
28 軌道面
29 外輪加圧手段
30 端部
31 内輪加圧手段
32 外輪荷重受けリング
33 内輪荷重受けリング
34 中間部
35 テーパ面
36 スリット
37 中間部
38 テーパ面
39 スリット
40 端部
41 クラウニング
42 外輪加圧リング
43A 外輪押圧部材
43 ボルト
44 ナット
45 テーパ面
47 内輪加圧リング
48A 内輪押圧部材
48 ボルト
49 ナット
51 テーパ面
52 円筒ころ軸受装置
53 軸受箱
54 軸
55 外輪押圧ねじリング
56 雄ねじ
57 スパナ掛け穴
58 雌ねじ
59 内輪押圧ねじリング
60 雌ねじ
61 スパナ掛け穴
62 雄ねじ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪と内輪の軌道面間に単列の円筒ころ形の転動体が介在され、前記転動体にクラウニングが施された円筒ころ軸受において、前記外輪と内輪はそれぞれ中間部から軸方向に延びた左右両端部を有し、外輪においてはその両端部の外径面、内輪においてはその両端部の内径面にそれぞれテーパ面が形成され、前記テーパ面が形成された外輪及び内輪の両端部に1個所以上の軸方向のスリットが設けられ、前記外輪及び内輪ごとに外輪加圧手段及び内輪加圧手段がそれぞれ設けられ、前記外輪加圧手段は前記外輪の各テーパ面に嵌合された一対の外輪加圧リングと各加圧リングを相互に接近する方向に押圧する外輪押圧部材とにより構成され、前記内輪加圧手段は前記内輪の各テーパ面に嵌合された一対の内輪加圧リングと各加圧リングを相互に接近する方向に押圧する内輪押圧部材とにより構成され、前記外輪押圧部材及び内輪押圧部材を外部から操作することにより前記外輪及び内輪の両端部を径方向に弾性変形させ、前記外輪及び内輪の軌道面を前記転動体のクラウニングに沿うよう湾曲させ、その湾曲状態を前記各押圧部材によって維持したことを特徴とする円筒ころ軸受。
【請求項2】
前記外輪押圧部材が複数のボルトとナットによって構成され、前記ボルトが両側の外輪加圧リングの前記外輪より大径の部分に貫通され、その貫通したボルト端部に前記ナットがねじ結合され、当該ナットを締め付けることにより前記外輪加圧リングを外輪のテーパ面に押し当て外輪を縮径方向に加圧するようにした請求項1に記載の円筒ころ軸受。
【請求項3】
前記外輪加圧リングは、前記外輪のテーパ面に合致するテーパ面を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の円筒ころ軸受。
【請求項4】
前記外輪の外径面において、前記両側の外輪加圧リングの大径部分の間に外輪荷重受けリングが軸方向に所定の間隔をおいて介在され、前記外輪加圧手段を構成するボルトが前記外輪荷重受けリングにも貫通されたことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の円筒ころ軸受。
【請求項5】
前記内輪押圧部材が、複数のボルトとナットによって構成され、前記ボルトが両側の内輪加圧リングの前記内輪内径より小径の部分に貫通され、その貫通したボルト端部に前記ナットがねじ結合され、前記ナットを締め付けることにより前記内輪加圧リングを内輪のテーパ面に押し当て拡径方向に加圧するようにした請求項1から4のいずれかに記載の円筒ころ軸受。
【請求項6】
前記内輪加圧リングは、前記内輪のテーパ面に合致するテーパ面を有することを特徴とする請求項5に記載の円筒ころ軸受。
【請求項7】
前記内輪の内径面において、前記両側の内輪加圧リングの小径部分の間に内輪荷重受けリングが軸方向に所定の間隔をおいて介在され、前記内輪加圧手段を構成するボルトが前記内輪荷重受けリングにも貫通されたことを特徴とする請求項5又は6のいずれかに記載の円筒ころ軸受。
【請求項8】
前記外輪及び内輪の湾曲後の軌道面における曲率半径が、前記円筒ころのクラウニングの曲率半径と等しいか、これより大であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の円筒ころ軸受。
【請求項9】
外輪と内輪の軌道面間に単列の円筒ころ形の転動体が介在され、前記転動体にクラウニングが施され、前記外輪が軸受箱に収納され、前記内輪が軸に嵌合された円筒ころ軸受装置において、前記外輪と内輪はそれぞれ中間部から軸方向に延びた左右両端部を有し、外輪においてはその両端部の外径面、内輪においてはその両端部の内径面にそれぞれテーパ面が形成され、前記テーパ面が形成された外輪及び内輪の両端部に1個所以上の軸方向のスリットが設けられ、前記外輪及び内輪ごとに外輪加圧手段及び内輪加圧手段がそれぞれ設けられ、前記外輪加圧手段は前記外輪の各テーパ面に嵌合された一対の外輪加圧リングと各加圧リングを相互に接近する方向に押圧する外輪押圧部材とにより構成され、前記内輪加圧手段は前記内輪の各テーパ面に嵌合された一対の内輪加圧リングと各加圧リングを相互に接近する方向に押圧する内輪押圧部材とにより構成され、前記外輪押圧部材は前記軸受箱の内径面に、前記内輪押圧部材は前記軸の外径面にそれぞれねじ結合され、前記外輪押圧部材及び内輪押圧部材を外部から操作することにより前記外輪及び内輪の両端部を径方向に弾性変形させ、前記外輪及び内輪の軌道面を前記転動体のクラウニングに沿うよう湾曲させ、その湾曲状態を前記各押圧部材によって維持したことを特徴とする円筒ころ軸受装置。
【請求項10】
前記外輪押圧部材及び内輪押圧部材はそれぞれ外輪押圧ねじリング及び内輪押圧ねじリングにより構成され、前記外輪押圧ねじリングはその外径面に雄ねじ、前記内輪押圧リングはその内径面に雌ねじがそれぞれ形成されたことを特徴とする請求項9に記載の円筒ころ軸受装置。
【請求項11】
前記外輪の外径面において、前記両側の外輪加圧リングの大径部分の間に外輪荷重受けリングが軸方向に所定の間隔をおいて介在され、前記内輪の内径面において、前記両側の内輪加圧リングの小径部分の間に内輪荷重受けリングが軸方向に所定の間隔をおいて介在されたことを特徴とする請求項9又は10に記載の円筒ころ軸受装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−97800(P2012−97800A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−245311(P2010−245311)
【出願日】平成22年11月1日(2010.11.1)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】