説明

円筒状モールド

【課題】被転写材の外縁部に生じる不使用領域を削減でき、被転写材の利用効率を向上できる円筒状モールドを提供すること。
【解決手段】本発明の円筒状モールド(10)は、一対角が鈍角であり他対角が鋭角である平行四辺形状の基材(11)の一対の斜辺(11c,11d)を接合して円筒状にしてなる円筒状モールド(10)であって、一対の対辺(11c,11d)が接合された接合辺部(11c)は、基材(11)上において、円筒状モールド(10)の筒軸方向(D1)に対して所定の角度(θ1)を持つことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒状モールドに関するものである。更に詳しくは、凹凸基材の製造に用いられる円筒状モールド、この円筒状モールドを用いて得られた凹凸基材、ワイヤグリッド偏光板、及び円筒状モールドの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、偏光を利用する光学装置の一つとして、液晶表示素子を利用した液晶ディスプレイが用いられている。多くの液晶ディスプレイの形状は長方形であり、液晶ディスプレイに用いられる偏光板の形状もまた長方形である。液晶ディスプレイによっては、用いる偏光板の任意の辺に対して、透過軸の方向が斜めとなるように設計する場合がある。特に、携帯型機器に用いられる中小型の液晶ディスプレイは、偏光サングラスを着用した視聴者が様々な方向から液晶ディスプレイを視聴することを考慮して、液晶ディスプレイに用いられる偏光板の透過軸の方向が、偏光板の任意の辺に対し、5°から85°の範囲で斜めになるように設計されている。液晶ディスプレイに用いられる偏光板としては、特定方向に延在する凹凸構造が形成された凹凸基材と、この凹凸基材上に設けられた金属ワイヤとを備えたワイヤグリッド偏光板が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ワイヤグリッド偏光板の製造方法としては、外周面に凹凸構造が形成された円筒状モールドを使用するロール・ツー・ロール方式による製造方法が提案されている。このワイヤグリッド偏光板の製造方法においては、繰り出しロールから繰り出されたフィルム上に光硬化樹脂を塗布し、この光硬化樹脂に円筒状モールド(スタンパ)の外周面上に形成された凹凸構造を転写し、凹凸構造が転写されたフィルムを巻き取りロールで巻き取ることによりシート状の凹凸基材(以下、「被転写材」ともいう)を製造する。そして、シート状の被転写材の凹凸構造に対して特定の方向から金属を蒸着して金属ワイヤを形成した後、長方形のワイヤグリッド偏光板を、その任意の辺がシート状の被転写の長手方向に対して平行となるようにシート状の被転写材から切り出すことによりワイヤグリッド偏光板を製造する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−83656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述したロール・ツー・ロール方式の製造方法を用いて製造されたシート状の被転写材は、凹凸構造の延在方向がシート状の被転写材の短手方向と一致する。このシート状の被転写材を用いて製造されたワイヤグリッド偏光板においては、透過軸の方向がシート状の被転写材の長手方向と略一致する。このため、長方形のワイヤグリッド偏光板を、その透過軸の方向が任意の辺に対して斜めとなるようにシート状の被転写材から切り出すためには、シート状の被転写材の長手方向に対して斜めに長方形のワイヤグリッド偏光板を切り出す必要がある。
【0006】
しかしながら、長方形のワイヤグリッド偏光板を、その任意の各辺がシート状の被転写材の長手方向に対して斜めとなるように切り出す場合、シート状の被転写材の外縁部に長方形のワイヤグリッド偏光板を切り出すことができない不使用領域が生じる問題がある。このため、上述したロール・ツー・ロール方式のワイヤグリッド偏光板の製造方法においては、凹凸基材の製造に使用したフィルムの総面積に対して、不使用領域の面積に応じて被転写材の利用効率が低下する場合があった。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、被転写材の外縁部に生じる不使用領域を削減でき、被転写材の利用効率を向上できる円筒状モールドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の円筒状モールドは、一対角が鈍角であり他対角が鋭角である平行四辺形状の基材の一対の対辺を接合して円筒状にしてなる円筒状モールドであって、前記一対の対辺が接合された接合辺部は、前記基材上において、前記円筒状モールドの筒軸方向に対して所定の角度を持つことを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、接合辺部が基材上において円筒状モールドの筒軸方向に対して所定の角度をなすので、略矩形形状の被転写材を、その一対の対辺が接合辺部に対して平行になるように切り出すことができる。これにより、被転写材の外周縁部に生じる不使用領域を削減できるので、被転写材の利用効率を向上できる。
【0010】
本発明の円筒状モールドにおいては、前記所定の角度が5°〜85°の範囲内であることが好ましい。
【0011】
本発明の円筒状モールドにおいては、表面にグリッド構造が設けられたことが好ましい。
【0012】
本発明の円筒状モールドにおいては、前記グリッド構造が、前記筒軸方向に対して0°〜±35°の角度をなすことが好ましい。
【0013】
本発明の円筒状モールドにおいては、表面に微細構造が設けられたことが好ましい。
【0014】
本発明の凹凸基材は、上記円筒状モールドを用いて得られたことを特徴とする。
【0015】
本発明の凹凸基材は、上記円筒状モールドを用いて得られたことを特徴とする。
【0016】
本発明のワイヤグリッド偏光板は、上記凹凸基材と、前記凹凸基材上に設けられた金属ワイヤとを備えたことを特徴とする。
【0017】
本発明の円筒状モールドの製造方法は、凹凸構造が設けられた原版から、一対角が鈍角であり他対角が鋭角であって一対の対辺を有する平行四辺形状の基材を切り出す切り出し工程と、前記基材の一対の対辺を接合して前記基材を円筒状にする接合工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、被転写材の外縁部に生じる不使用領域を削減でき、被転写材の利用効率を向上できる円筒状モールドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施の形態に係る円筒状モールドの模式図である。
【図2】本実施の形態に係る円筒状モールドの展開図である。
【図3】本実施の形態に係る円筒状モールドの製造工程の概略を示す図である。
【図4】本実施の形態に係る円筒状モールドの製造工程の概略を示す図である。
【図5】本実施の形態に係る転写装置の一例を示す図である。
【図6】実施例に係るワイヤグリッド偏光板シートの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明者らは、ロール・ツー・ロール方式で製造されたシート状の被転写材を用いて長方形のワイヤグリッド偏光板を作製する場合、透過軸がその任意の辺に対して斜めとなるように切り出す際に、シート状の被転写材の外縁部に不使用領域が生じ、この不使用領域がワイヤグリッド偏光板の収率を低下させる要因となることに着目した。そして、本発明者らは、平行四辺形状の基材の一対の斜辺を接合して円筒状とし、その一対の斜辺を接合した接合辺部を筒軸方向に対して所定の角度を持つようにした円筒状モールドにより、シート状の被転写材の外縁部に生じる不使用領域を削減でき、シート状の被転写材の利用効率を向上できることを見出し、本発明を完成させるに至った。以下、本発明の一実施の形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。
【0021】
(円筒状モールド)
図1は、本発明の一実施の形態に係る円筒状モールド10の模式図である。図1Aは、本実施の形態に係る円筒状モールド10の外観模式図であり、図1Bは、本実施の形態に係る円筒状モールド10の平面模式図である。
【0022】
図1A,図1Bに示すように、本実施の形態に係る円筒状モールド10は、一対角が鈍角であり他対角が鋭角である平行四辺形状の基材11(図1において不図示、図2参照)の一対の対辺を接合して円筒状にすることで作製される。この円筒状モールド10は、筒軸方向D1における一方端10aから他方端10bに向けて設けられた円弧状の接合辺部10c(図1A及び図1Bの一点鎖線参照)を有する。この接合辺部10cは、基材11の一対の対辺(斜辺11c,11d、図1において不図示、図2参照)が接合されたものであり、基材11上において、円筒状モールド10の筒軸方向D1に対して所定の角度θ1を持つように、斜めに設けられる。この円筒状モールド10の表面(外周面上)には、筒軸方向D1に延在する凹凸構造が設けられている。この円筒状モールド10においては、周方向D2に回転しながら外周面上に設けられた凹凸構造を被転写材に転写する。
【0023】
図2は、本実施の形態に係る円筒状モールド10の展開図である。図2Aは、接合辺部10cに沿う直線で円筒状モールド10を切断した展開図を示し、図2Bは、筒軸方向D1に沿う直線X(図1の二点鎖線参照)で円筒状モールド10を切断した展開図を示している。
【0024】
図2Aに示すように、本実施の形態に係る円筒状モールド10においては、一対角が鈍角であり他対角が鋭角である平行四辺形状の基材11が用いられる。この基材11は、略平行な一対の対辺11a,11bと、この一対の対辺11a,11bに対して所定の角度θ1(図2Aの例では、45°)をなす略平行な一対の対辺(斜辺11c,11d)と、を有する。基材11の一方の表面には、一対の対辺11a,11bに対して直交する方向に延在する凹凸構造が形成される。この凹凸構造は、シート状の被転写材の搬送方向(MD方向)に対して略直交する方向(TD方向)に延在するように形成されている。円筒状モールド10は、凹凸構造が形成された表面が外周面となるように折り曲げ加工した状態で、基材11の略平行な一対の斜辺11c,11dを互いに接合することにより作製される。一対の斜辺11c,11dの接合部分は、円筒状モールド10の接合辺部10cとなる(図1A,図1B参照)。
【0025】
本実施の形態に係る円筒状モールド10においては、平行四辺形状の基材11を用いるので、一対の斜辺11c,11dに対して凹凸構造の延在方向(TD方向)が斜めとなる。このため、略矩形形状の領域Aを、その一対の対辺が一対の斜辺11c,11dに対して、平行となるように設けることにより、凹凸構造の延在方向(TD方向)が領域Aの任意の辺に対して斜めとなる。このため、本実施の形態に係る円筒状モールド10を用いて得られたシート状の被転写材においては、略矩形形状の領域Aを切り出すことにより、その凹凸構造の延在方向が任意の各辺に対して斜めとなる略矩形形状の被転写材を領域Aの数に応じて切り出すことができる。
【0026】
一方で、図2Bに示すように、筒軸方向D1に沿う直線Xで円筒状モールド10を切断して展開した場合、基材11の形状は、平面視にて略矩形形状となる。このような略矩形形状の基材11においては、図2Aに示した例と同様に、凹凸構造の延在方向(TD方向)が任意の辺に対して斜めとなるように略矩形形状の複数の特定領域Aを設けた場合、シート状の被転写材の搬送方向(MD)における両端部における不使用領域が増大する。
【0027】
このように、本実施の形態に係る円筒状モールド10においては、一対角が鈍角であり他対角が鋭角である平行四辺形状の基材11のこの基材11の一対の斜辺11c,11dを接合して円筒状にすることにより、円筒状モールド10を作製する。このように円筒状モールド10を作製することにより、略矩形形状の被転写材を、その凹凸構造の延在方向が任意の辺に対して斜めとなるように切り出す場合であっても、シート状の被転写材の外縁部における不使用領域を削減できるので、被転写材の利用効率を向上できる。
【0028】
また、本実施の形態に係る円筒状モールド10においては、基材11上において、円筒状モールド10の筒軸方向D1に対して所定の角度θ1を持つように接合辺部10cを設けるので、円筒状モールド10を周方向D2に回転させて使用する際に、被転写材の搬送方向(MD方向)に対して接合辺部10cが斜めに延在する。これにより、円筒状モールド10により強い力を印加しても、円筒状モールド10が破断しにくくなるので、円筒状モールド10の張り出しを強くすることが可能となり、真円度の高い円筒状モールド10を作製することが可能となる。このように真円度が高い円筒状モールド10を作製できるので、転写後の被転写体の膜厚のバラつきを低減することが可能となり、その結果、製品の光学性能のバラつきを低減することができる。
【0029】
なお、上述した実施の形態においては、所定の角度θ1が45°である場合について説明したが、所定の角度θ1は、製造する偏光板の偏光特性に応じて、本発明の効果を奏する範囲で適宜変更することが可能である。これらの中でも、所定の角度θ1としては、5°〜85°の範囲内であることが好ましい。
【0030】
本実施の形態に係る円筒状モールド10においては、表面に設けられた凹凸構造が、特定方向に延在するグリッド構造であることが好ましい。これにより、ワイヤグリッド偏光板に用いられる凹凸基材を高収率で製造することが可能となる。なお、グリッド構造としては、図2Aに示したように、円筒状モールド10の筒軸方向(TD方向)に対して略平行に設けてもよく、図2Cに示すように、円筒状モールド10の筒軸方向に対して所定の角度θ2をなすように設けてもよい。この場合、所定の角度θ2としては、得られるワイヤグリッド偏光板の光学性能の観点から、0°〜±35°の範囲内であることが好ましく、0°〜±10°の範囲内であることが更に好ましい。
【0031】
また、本実施の形態に係る円筒状モールド10においては、表面に設けられた凹凸構造が、微細構造であることが好ましい。これにより、光学素子などに用いられる微細構造を有する凹凸基材を高収率で製造することが可能となる。
【0032】
(モールドの製造方法)
次に、本実施の形態に係る円筒状モールド10の製造方法について説明する。本実施の形態に係る円筒状モールド10の製造方法は、凹凸構造が設けられた原版から一対角が鈍角であり他対角が鋭角であって一対の斜辺11c,11dを有する平行四辺形状の基材を切り出す切り出し工程と、この基材11の一対の斜辺11c,11dを接合して基材11を円筒状にする接合工程と、を含む。
【0033】
図3,図4は、本実施の形態に係る円筒状モールド10の製造方法の概略を示す図である。切り出し工程では、原版12としては、例えば、マスター型から無電解Ni電解などにより凹凸構造が転写されたNi電鋳薄板を用いる(図3A参照)。このNi電鋳薄板から凹凸構造が設けられた原版から一対角が鈍角であり他対角が鋭角である平行四辺形状の基材11を切り出す(図3B参照)。転写する凹凸構造の高さが1μm以下の場合には、Ni電鋳薄板に代えて、Ni/B、Ni/P、Ni/CoなどのNi合金を用いることができる。
【0034】
接合工程では、切り出した平行四辺形状の基材11を折り曲げ加工して一対の斜辺11c,11dを溶接により接合して基材11を円筒状にする。このとき、図4A,図4Bに示すように、基材11上に設けられた凹凸構造が外周面側に位置すると共に、一対の斜辺11c,11dを同一平面内で重ね合わせるように折り曲げ加工してから、一対の斜辺11c,11dを溶接して接合辺部10cを形成する。溶接方法としては、例えば、レーザー溶接法や、マイクロプラズマ溶接法を用いることができる。マイクロプラズマ溶接法を用いる場合においては、電流値、プラズマガス、シールドガス、電極径、ノズル径、キャップ径、トーチ角度、アーク長さ、溶接スピードなどを微調整することにより、基材11の一対の斜辺11,11dを溶接でき、接合辺部10cを形成することができる。次に、図4Cに示すように、一対の斜辺11c,11dを接合した基材11を真円状に加工することにより、円筒状モールド10が作製される。
【0035】
ここで、マイクロプラズマ溶接法とは、水冷ノズル内で発生させた低電流(3A程度)のアーク(非移行型プラズマアーク)をノズル先端の細穴を通し、熱ピンチ効果によりさらに細くなったアーク柱を発生させ、そのアーク柱を細いままで溶接ワークに届かせるためシールドガスに少量のH(水素)を加え、その乖離熱でアーク柱表面に冷却ピンチ効果を持続させる溶接方法である。そして、この溶接方法で得られるアーク柱は極めて低電流でも発生可能で、0.1Aといった極小電流でも安定したアークが得られるものである。このようなマイクロプラズマ溶接法を用いれば、その溶接熱によってその基材11が溶け落ちてしまうようなことがなく、確実に突き合わせ溶接することが可能となる。基材11として、ステンレス鋼や耐熱耐蝕合金鋼、チタン鋼を用いる場合には、板厚が0.01mm(10μm)程度でも溶接が可能である。
【0036】
<凹凸基材>
本実施の形態に係る凹凸基材は、上記実施の形態に係る円筒状モールド10を用いて得られる。表面にグリッド構造が設けられた円筒状モールド10を用いて得られた凹凸基材は、ワイヤグリッド偏光板の基材として好適に用いることができる。特に、上記実施の形態に係る円筒状モールド10においては、円筒状モールド10の張り出しを強くすることができるので、円筒状モールド10のグリッド構造を精度良く転写することが可能となる。
【0037】
また、表面に微細構造が設けられた円筒状モールド10を用いて得られた凹凸基材は、光学素子として好適に用いることができる。この場合、微細構造としては、例えば、凹凸構造の周期が可視光の波長以下に制御された微細な凹凸パターンが表面に形成されたモスアイ構造などを用いることができる。
【0038】
凹凸基材の材料としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、シクロオレフィン樹脂(COP)、架橋ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂などの非晶性熱可塑性樹脂や、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂などの結晶性熱可塑性樹脂や、アクリル系、エポキシ系、ウレタン系などの紫外線(UV)硬化性樹脂や熱硬化性樹脂等が挙げられる。また、紫外線硬化性樹脂や熱硬化性樹脂と、無機材料、上記熱可塑性樹脂等とを組み合わせて用いてもよく、単独で用いてもよい。これらの中でも、トリアセチルセルロース系樹脂からなるTACフィルムやシクロオレフィン系樹脂からなるCOP、COC樹脂フィルムは、低複屈折性にでき、高透過率であることから、凹凸基材をワイヤグリッド偏光板の基板として用いる場合に好適に用いることができる。
【0039】
<凹凸基材の製造方法>
次に、上記実施の形態に係る円筒状モールド10を用いた凹凸基材の製造方法について説明する。図5は、本実施の形態に係る円筒状モールド10を備えた転写装置100の模式図である。この転写装置100においては、円筒状モールド10の外周面に形成された凹凸構造を被転写材に転写して凹凸基材を製造する。
【0040】
図5に示すように、この転写装置100は、ロール状に巻き付けられたフィルム状の基材F1を連続して繰り出す繰り出しロール101と、この基材F1を巻き取る巻き取りロール102とを備えている。繰り出しロール101と巻き取りロール102との間には、基材F1の搬送方向の上流側から下流側に向けて、基材F1の一方の面に転写用の樹脂Jを塗布する塗工部103と、外周面に上記実施の形態に係る円筒状モールド10が配置され、塗工部103によって塗布された転写用の光硬化性樹脂Jに凹凸構造を連続して転写する賦形ロール104と、この賦形ロール104で凹凸構造が転写された光硬化性樹脂を光硬化する光源105と、が複数の搬送ロール106を介して設けられている。
【0041】
次に、転写装置100による凹凸基材の製造工程の概略について説明する。繰り出しロール101は、合紙Pを介して巻き取られた光透過性の基材F1を繰り出す。繰り出しロール101から繰り出された基材F1は、合紙Pが巻き取りロール107によって巻き取られると共に、複数の搬送ロール106を介して塗工部103に搬送され、基材F1の片面に光硬化性樹脂(例えば、紫外線硬化樹脂)が塗布される。次に、基材F1は、光硬化性樹脂が塗布された片面が賦形ロール104の外周面(円筒状モールド10の外周面)と接触するように搬送され、光硬化性樹脂に円筒状モールド10の表面に設けられた凹凸構造が押圧される。ここで、上述したように、円筒状モールド10においては、円筒状モールド10を接合辺部10cが、基材11上において、円筒状モールド10の筒軸方向D1に対して所定の角度θ1を持つように設けているので、基材F1を円筒状モールド10の外周面に強く押し当てた場合にも、円筒状モールド10の破損を抑制できる。これにより、凹凸構造を精度良く転写することができる。
【0042】
次に、円筒状モールド10表面の凹凸構造が基材F1上の光硬化性樹脂に押し当てられた状態で、光源105から円筒状モールド10の外周面に対して露光し、光硬化樹脂を光硬化する。ここで、上述したように、円筒状モールド10においては、張り出しを強くでき、真円度を高めることができるので、凹凸構造が転写された光硬化性樹脂の膜厚のばらつきを低減することが可能となる。これにより、光学性能のバラつきの小さい凹凸基材が得られる。
【0043】
次に、凹凸構造が転写された基材F1は、繰り出しロール108から繰り出されたフィルム状の保護層F2が凹凸構造上に貼着された後、巻き取りロール102に巻き取られる。以上のようにして凹凸基材が製造される。
【0044】
<ワイヤグリッド偏光板>
本実施の形態に係るワイヤグリッド偏光板は、上記実施の形態に係る円筒状モールド10を用いて得られた凹凸基材と、この凹凸基材上に設けられた金属ワイヤと、を備える。このワイヤグリッド偏光板は、円筒状モールド10を用いて作成されたグリッド構造の凹凸構造を有する凹凸基材上にAlなどの金属を蒸着し、不要な金属をエッチングにより除去して金属ワイヤを形成することにより製造される。なお、必要に応じて、凹凸基材と金属ワイヤとの間に、凹凸基材と金属ワイヤとの間の接着性を向上する誘電体層を設けてもよい。
【0045】
金属ワイヤの形成方法としては、例えば、生産性や光学特性等を考慮し、凹凸基材の凹凸構造形成面の表面に対して傾斜した方向から蒸着を行う、斜め蒸着法などを用いることができる。斜め蒸着法を用いることにより、生産効率の良いロール・ツー・ロール方式でワイヤグリッド偏光板を製造することができる。
【0046】
エッチング方法は、凹凸基材に悪影響を及ぼさず、導電体部分が選択的に除去できる方法であれば特に限定は無いが、生産性の観点からアルカリ性の水溶液に浸漬させる方法が好ましい。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の効果を明確にするために行った実施例及び比較例について説明する。なお、本発明は、これらの実施例及び比較例によって何ら限定されるものではない。
【0048】
以下の実施例及び比較例においては、円筒状モールドを作製し、作製した円筒状モールドをロールスタンパとして使用してワイヤグリッド偏光板シートを作製した。そして、作製したワイヤグリッド偏光板シートから液晶ディスプレイなどに使用される略矩形形状のワイヤグリッド偏光板を切り出し、その収量及び光学性能を評価した。
【0049】
(実施例)
(円筒状モールドの作製)
まず、ピッチ140nmのL/Sの微細凹凸パターンを有するNi電鋳金型を用い、微細凹凸パターンをシクロオレフィン樹脂板(COP樹脂板)に熱転写した。この樹脂板の表面に導電化処理としてNiをスパッタリングした後、Niを電気めっきし、幅210mm×長さ500mm、厚さ0.2mmの原版(Ni電鋳板)を作製した。次に、このNi電鋳板を幅210mm×長さ470mmの平行四辺形に裁断して基材を切り出した。次に、基材を筒状に曲げ加工すると共に、両端部(斜辺)をマイクロプラズマ溶接によって突き合わせ溶接して、内径82.5mmの円筒状モールド(ロールスタンパ)を作製した。このとき、凹凸パターンの延在方向はロールスタンパのTD方向(筒軸方向)と略平行であり、ロールスタンパの接合辺部は、基材上においてロールスタンパの筒軸方向(凹凸パターンの延在方向)から45度傾いた状態であった。
【0050】
(凹凸基材の作製)
作製したロールスタンパを、その外径が80mm〜85mmの範囲で拡縮自在な回転軸上に挿着し、回転軸を拡径してロールスタンパをその回転軸上に固定した。回転軸は拡径時外径が82.5mmで、固定後のロールスタンパの真円度が15μmになるように加工した。これを図5で表される転写装置100の賦形ロール104としてセットし、連続UV転写により格子状凸部を転写して凹凸基材を作製した。基材フィルムF1として、膜厚80μmのTACフィルム(TD80UL−H:富士フイルム社製)を用い、#225斜線、パターン部幅180mmのグラビアロール(塗工部103)によってその片面にアクリル系紫外線硬化樹脂(屈折率1.52)を幅180mm×塗布厚2μm−3μmとなるように塗布した。アクリル系紫外線硬化樹脂を硬化させるための装置としてUVランプ(光源105)を用い、これを回転軸上に固定したロールスタンパの頂点(基材フィルムF1再接近時)に配置し、200mW/cmの照度で照射した。作製したフィルム状の凹凸基材は、巻き取りロール102によってロール状に巻き取った。
【0051】
(凹凸基材の乾燥)
以上のようにして得られた凹凸基材に含まれる水分を乾燥するために、ロール状の凹凸基材を200Wの赤外線ヒーターが3台設けられた真空槽に移し、ロール状の凹凸基材のフィルムを真空中でほどきながら2m/分で走行させ、加熱後、ロール状に巻き取った。フィルム走行停止時の真空度は0.03Paであり、フィルム走行中(乾燥中)の真空度は0.15Paであった。また、赤外線ヒーター通過後の凹凸基材のTACフィルムの表面温度を知るためにTACフィルム上には予めサーモラベルを貼っておいた。ヒーター通過後のTACフィルムの表面温度は60℃から110℃の間であった。
【0052】
(スパッタリング法を用いた誘電体層の形成)
乾燥後の凹凸基材を乾燥機の真空槽中に12時間放置し、凹凸基材のTACフィルムの温度を23℃まで下げた。その後、凹凸基材を誘電体層形成及び金属ワイヤ形成用の真空槽へと移し、格子状凸部の転写面に誘電体層及び金属ワイヤを設けた。誘電体層の形成には反応性ACマグネトロンスパッタリング法を用いた。ターゲットサイズ127mm×750mm×10mmtのシリコンターゲットを2枚並べ、基板〜ターゲット距離80mm、アルゴンガス流量200sccm、窒素ガス流量300sccm、出力11kW、周波数37.5kHz、走行速度5m/分の条件下、ロール状の凹凸基材をほどきながら、フィルム搬送用ロール(メインローラー)で巻き取りロール側に搬送して誘電体層としての窒化珪素層を設けた。その後、誘電体層を設けた凹凸基材をロール状に巻き取った。スパッタリングの際の張力は30N、メインローラー温度は30℃、スパッタリング開始前のバックグラウンドの真空度は0.005Pa、スパッタリング中の真空度は0.38Paであった。同じ条件でSiチップに窒化珪素を成膜し、エリプソメーターにて窒化珪素層の厚みを算出したところ、厚みは3nmであった。
【0053】
(アルミニウム蒸着)
凹凸基材の格子状凸部の転写面に誘電体層として窒化珪素層をスパッタリング法にて形成した後、凹凸基材のフィルムを窒化珪素層のスパッタリング時と逆方向にメインローラーで送り、抵抗加熱蒸着法にて金属ワイヤを形成し、金属ワイヤを形成した凹凸基材をロール状に巻き取った。なお、本実施例では、金属としてアルミニウム(Al)を用いた。
【0054】
アルミニウムの蒸着には斜め蒸着法を用い、格子の長手方向と垂直に交わる平面内において基材面の法線蒸着源とのなす角が32°(θd)からはじまり15°(θs)で終わるようにマスクを配置して行った。マスクの開口幅は60mmであり、マスク開口部の中心と蒸着ボート(蒸着材)との距離は400mmであった。蒸着ボート加熱前の真空度は0.005Paであった。張力は30N、メインローラーの温度は30℃とした。以上のような条件にて、フィルム送り速度3.5m/分で格子状凸部を転写した凹凸基材のフィルムを走行させながら、加熱されたボート上に純度99.9%以上、線径1.7mmのアルミワイヤを送り速度200mm/分でフィードし、アルミニウムを蒸着した。その後、アルミニウムを蒸着した凹凸基材をロール状に巻き取った。得られた凹凸基材について、蒸着後期のフィルム部を切り出し、アルミニウムの膜厚を蛍光X線の発光強度より換算したところ、130nmであった。
【0055】
(アルミニウムのエッチング)
窒化珪素層及び金属ワイヤ(アルミニウム)が成膜された格子状凸部を転写した凹凸基材のフィルムロールを、凹凸基材のフィルムをほどきながら温度23℃の0.5重量%のNaOH水溶液槽内を65秒間走行させた。次に、水洗・風乾し、目的とするワイヤグリッド偏光板のロールを得た。
【0056】
(ワイヤグリッド偏光板の製造)
ワイヤグリッド偏光板のロールから液晶ディスプレイに用いられる略矩形形状のワイヤグリッド偏光板の切り出しに用いられるワイヤグリッド偏光板シートを作製し、作製したワイヤグリッド偏光板から略矩形形状のワイヤグリッド偏光板を切り出して収率(理論値)を計算した。液晶ディスプレイに用いられるワイヤグリッド偏光板の透過軸の方向は、ワイヤグリッド偏光板の幅方向に対して45度傾いたものとした。液晶ディスプレイに用いられるワイヤグリッド偏光板の大きさは、長さ200mm、幅40mmとした。
【0057】
ロールスタンパの筒軸方向(TD方向)に対して、ロールスタンパの接合辺部となる一対の斜辺が45度傾いた平行四辺形状のワイヤグリッド偏光板シートを用い、液晶ディスプレイに用いられる略矩形形状のワイヤグリッド偏光板の作製を行った。まず、図6Aに示すように、ワイヤグリッド偏光板のロールから、幅210mm、長さ470mmの平行四辺形状のワイヤグリッド偏光板シート200を切り出した。なお、ワイヤグリッド偏光板シート200の一対の斜辺の方向は、MD方向から45度(θ1参照)傾いた方向とした。続いて、ワイヤグリッド偏光板シート200から、長さ200mm、幅40mmの液晶ディスプレイに用いられる略矩形形状のワイヤグリッド偏光板201を切り出したところ、4個の液晶ディスプレイに用いられる略矩形形状のワイヤグリッド偏光板201が得られた。得られた略矩形形状のワイヤグリッド偏光板201の光学特性を下記表1に示す。
【0058】
(比較例)
ロールスタンパの筒軸方向(TD方向)に対して、接合辺部となる一対の対辺が略平行であるロールスタンパを用いてワイヤグリッド偏光板シートを作製し、作製したワイヤグリッド偏光板シートから液晶ディスプレイに用いられるワイヤグリッド偏光板を切り出した。実施例と同様にして、ワイヤグリッド偏光板のロールから、長さ260mm、幅210mmのワイヤグリッド偏光板シート300を作製し、このワイヤグリッド偏光板シート300から、長さ200mm、幅40mmの液晶ディスプレイに用いられる略矩形形状のワイヤグリッド偏光板201を切り出した。なお、比較例においては、図6Bに示すように、ワイヤグリッド偏光板シート300の長手方向は、MD方向と一致するようにし、ワイヤグリッド偏光板シート300の面積は実施例に係るワイヤグリッド偏光板シート200と同じとなるようにした。ワイヤグリッド偏光板シート300からは、3個の液晶ディスプレイに用いられる略矩形形状のワイヤグリッド偏光板201が得られた。得られたワイヤグリッド偏光板201の光学特性を下記表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
表1から分かるように、シートサイズ260mm×210mmという単位面積あたりから切り出すことが可能な液晶ディスプレイに用いられる略矩形形状のワイヤグリッド偏光板201の数量を比較すると、実施例に係るワイヤグリッド偏光板シート200を用いた場合には4個であり、比較例に係るワイヤグリッド偏光板シート300を用いた場合には3個であった。ワイヤグリッド偏光板シート200は、MD方向に対してロールスタンパの接合辺部が斜めに設けられており、液晶ディスプレイに用いられるワイヤグリッド偏光板201の一辺と平行に切り出すことが可能なため、切り出し時に発生する不使用部分を大幅に減少することができ、ワイヤグリッド偏光板シート200の製造量に対する製品(ワイヤグリッド偏光板201)の高収量化が達成できた。また、実施例及び比較例に係るワイヤグリッド偏光板の光学特性に関しては、略同等であり、有意差は見られなかった。
【0061】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することが可能である。上記実施の形態において、添付図面に図示されている大きさや形状などについては、これに限定されず、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。例えば、上記実施の形態においては、平面視にて平行四辺形状の基材を円筒形状に接合した例について説明したが、基材としては、本発明の効果を奏する範囲で異なる形状のものを用いてもよい。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、凹凸基材の収率を向上できるモールド及びそれを用いた凹凸基材を実現できるという効果を有し、例えば、液晶ディスプレイ、偏光ビームスプリッター、赤外線通信機器、センサー、医療関連の検査装置などに用いられるワイヤグリッド偏光板や、ディスプレイ装置、太陽電池、各種照明、複写機などの反射防止フィルムとして用いられる光学素子などの製造に好適に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0063】
10 円筒状モールド
10a 一方端
10b 他方端
10c 接合辺部
11 基材
11a,11b 対辺
11c,11d 斜辺
12 原版
100 転写装置
101,108 繰り出しロール
102,107 巻き取りロール
103 塗工部
104 賦形ロール
105 光源
106 搬送ロール
200 ワイヤグリッド偏光板シート
201 ワイヤグリッド偏光板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対角が鈍角であり他対角が鋭角である平行四辺形状の基材の一対の対辺を接合して円筒状にしてなる円筒状モールドであって、前記一対の対辺が接合された接合辺部は、前記基材上において、前記円筒状モールドの筒軸方向に対して所定の角度を持つことを特徴とする円筒状モールド。
【請求項2】
前記所定の角度が5°〜85°の範囲内であることを特徴とする請求項1記載の円筒状モールド。
【請求項3】
表面にグリッド構造が設けられたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の円筒状モールド。
【請求項4】
前記グリッド構造が、前記筒軸方向に対して0°〜±35°の角度をなすことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の円筒状モールド。
【請求項5】
表面に微細構造が設けられたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の円筒状モールド。
【請求項6】
請求項3又は請求項4記載の円筒状モールドを用いて得られたことを特徴とする凹凸基材。
【請求項7】
請求項5記載の円筒状モールドを用いて得られたことを特徴とする凹凸基材。
【請求項8】
請求項6記載の凹凸基材と、前記凹凸基材上に設けられた金属ワイヤとを備えたことを特徴とするワイヤグリッド偏光板。
【請求項9】
凹凸構造が設けられた原版から、一対角が鈍角であり他対角が鋭角であって一対の対辺を有する平行四辺形状の基材を切り出す切り出し工程と、前記基材の一対の対辺を接合して前記基材を円筒状にする接合工程と、を含むことを特徴とする円筒状モールドの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−97286(P2013−97286A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241954(P2011−241954)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【Fターム(参考)】