説明

円筒部溶接形成方法および溶接装置

【課題】圧力容器の外周面に円筒部を形成する際に、効率良く肉盛溶接を行うことができる円筒部溶接形成方法および溶接装置を提供する。
【解決手段】圧力容器の外周面から突出する円筒部を、肉盛溶接により形成する円筒部溶接形成方法であって、形成される円筒部の軸方向は、円筒部の突出方向となっており、形成される円筒部の軸を中心として、円筒部の周方向に周回させながら、円筒部の径方向に移動させることで、圧力容器の外周面に渦巻状に肉盛溶接を行う渦巻肉盛溶接工程を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接面から突出する円筒部を、肉盛溶接により形成する円筒部溶接形成方法および溶接装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、溶接対象物となる管台を保持して回転および傾動させる旋回テーブルと、管台に溶接を行う溶接ヘッドとを制御して、管台に肉盛溶接を行う肉盛溶接方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平1−178371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の肉盛溶接方法では、溶接対象物を回転(旋回)させなければならない。このため、溶接対象物が、例えば、移動させ難い大きな構造体である場合、溶接対象物に所定の溶接を行うことは難しい。特に、溶接対象物の溶接面に、所定の厚みを有する円筒部を、肉盛溶接により形成する場合には、溶接対象物を回転させると、効率良い溶接を行うことが難しくなる。
【0005】
そこで、本発明は、溶接面に円筒部を形成する際に、効率良く肉盛溶接を行うことができる円筒部溶接形成方法および溶接装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の円筒部溶接形成方法は、溶接面から突出する円筒部を、肉盛溶接により形成する円筒部溶接形成方法であって、形成される円筒部の軸方向は、円筒部の突出方向となっており、形成される円筒部の軸を中心として、円筒部の周方向に周回させながら、円筒部の径方向に移動させることで、溶接面に渦巻状に肉盛溶接を行う渦巻肉盛溶接工程を備えたことを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、渦巻肉盛溶接工程において、所定の厚みの円筒部を肉盛溶接により形成する際、渦巻状に肉盛溶接を行うことができる。このため、渦巻肉盛溶接工程では、溶接面を移動させることなく肉盛溶接を行うことができ、また、肉盛溶接を途切れることなく行うことができる。これにより、溶接面に対し、効率良く円筒部を形成することができる。
【0008】
この場合、渦巻肉盛溶接工程前に、形成される円筒部の軸を中心として、円筒部の周方向に周回させながら、溶接面が平坦となるように、溶接面に肉盛溶接を行う平坦肉盛溶接工程をさらに備えたことが好ましい。
【0009】
この構成によれば、溶接面が平坦でない場合、平坦肉盛溶接工程において、溶接面を平坦にすることができる。これにより、渦巻肉盛溶接工程において、平坦な溶接面に対し、渦巻状の肉盛溶接を好適に行うことが可能となる。
【0010】
この場合、溶接面は、円筒部の軸を中心に点対称となる円筒形状の容器の外周面であり、平坦肉盛溶接工程では、円筒部の軸を中心に点対称となるように、溶接面に肉盛溶接を行うことが好ましい。
【0011】
この構成によれば、平坦肉盛溶接工程において、円筒形状の外周面に対し、円筒部の軸を中心に点対称となるように肉盛溶接を行うことで、外周面を簡単に平坦にすることができる。
【0012】
この場合、渦巻肉盛溶接工程前に、円筒管を溶接する円筒管溶接工程をさらに備え、円筒管溶接工程では、溶接される円筒管の軸中心が、形成される円筒部の軸中心と同軸上となるように、円筒管を溶接面に溶接することが好ましい。
【0013】
この構成によれば、形成される円筒部の同軸上に円筒管が溶接された状態で、渦巻肉盛溶接工程を行うことができる。つまり、渦巻肉盛溶接工程では、円筒管が円筒部の内壁となった状態で、渦巻状に肉盛溶接が行われる。このため、渦巻肉盛溶接工程では、円筒部の軸中心に肉盛溶接を行う必要がないため、効率良く肉盛溶接を行うことができる。また、円筒管は、円筒部の軸中心へ向かう溶接ダレを抑制することができる。
【0014】
本発明の溶接装置は、溶接面から突出する円筒部を、肉盛溶接により形成する溶接装置であって、形成される円筒部の軸方向は、円筒部の突出方向となっており、溶接面へ向けて溶接を行う溶接ヘッドと、溶接ヘッドへ向けて溶加材を供給する溶加材供給部と、溶接ヘッドを、形成される円筒部の周方向および径方向に移動可能な移動機構と、移動機構を制御可能な制御部と、を備え、制御部は、形成される円筒部の軸を中心として、溶接ヘッドを、円筒部の周方向に周回させながら、円筒部の径方向に移動させることで、溶接面に渦巻状に肉盛溶接を行う渦巻肉盛溶接制御を実行可能であることを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、所定の厚みの円筒部を肉盛溶接により形成する際、渦巻肉盛溶接制御により、渦巻状に肉盛溶接を行うことができる。このため、渦巻肉盛溶接制御を実行することで、溶接面を移動させることなく肉盛溶接を行うことができ、また、肉盛溶接を途切れることなく行うことができる。これにより、溶接面に対し、効率良く円筒部を形成することができる。
【0016】
この場合、制御部は、形成される円筒部の軸を中心として、溶接ヘッドを、円筒部の周方向に周回させながら、円筒部の軸を中心に点対称となるように、溶接面に肉盛溶接を行う点対称肉盛溶接制御を実行可能であることが好ましい。
【0017】
この構成によれば、点対称肉盛溶接制御により、円筒部の軸を中心に点対称となる溶接面に肉盛溶接を行うことができる。このため、例えば、円筒部の軸を中心に点対称となる円筒形状の外周面を平坦にする場合、点対称肉盛溶接制御を実行することにより、円筒形状の外周面に対し、円筒部の軸を中心に点対称となるように肉盛溶接を行うことで、外周面を簡単に平坦にすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の円筒部溶接形成方法および溶接装置によれば、溶接面に円筒部を形成する場合、渦巻状に肉盛溶接を行うことができるため、効率良く肉盛溶接を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本実施例に係る溶接装置の溶接対象となる圧力容器の正面図である。
【図2】図2は、圧力容器を軸方向に直交する面で切った断面図である。
【図3】図3は、円筒窓の基礎となる円筒部を、圧力容器の軸方向に直交する面で切った部分断面図である。
【図4】図4は、本実施例に係る溶接装置の正面図である。
【図5】図5は、平坦肉盛溶接制御による溶接装置の溶接動作を平面視したときの説明図である。
【図6】図6は、渦巻肉盛溶接制御による溶接装置の溶接動作を平面視したときの説明図である。
【図7】図7は、本実施例に係る円筒部溶接形成方法の第1パイプ溶接工程および平坦肉盛溶接工程を示す説明図である。
【図8】図8は、平坦肉盛溶接工程における溶接装置の溶接動作を断面側から見たときの説明図である。
【図9】図9は、本実施例に係る円筒部溶接形成方法の渦巻肉盛溶接工程を示す説明図である。
【図10】図10は、渦巻肉盛溶接工程における溶接装置の溶接動作を断面側から見たときの説明図である。
【図11】図11は、本実施例に係る円筒部溶接形成方法の肉盛加工工程を示す説明図である。
【図12】図12は、本実施例に係る円筒部溶接形成方法の第2パイプ溶接工程を示す説明図である。
【図13】図13は、本実施例に係る円筒部溶接形成方法のクラッド溶接工程を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付した図面を参照して、本発明に係る円筒部溶接形成方法および溶接装置について説明する。なお、以下の実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
【実施例】
【0021】
本実施例に係る円筒部溶接形成方法は、容器の溶接面に肉盛溶接を行うことで円筒部を形成する方法である。この円筒部溶接形成方法は、溶接装置を用いて行われており、溶接対象となる容器は、例えば、加圧水型原子炉に用いられる蒸気発生器の圧力容器である。なお、本実施例の円筒部溶接形成方法および溶接装置は、容器として圧力容器に適用して説明するが、圧力容器に限らず、いずれの容器に適用してもよい。以下、図1ないし図3を参照して、溶接対象となる圧力容器について説明する。
【0022】
図1は、本実施例に係る溶接装置の溶接対象となる圧力容器の正面図であり、図2は、圧力容器を軸方向に直交する面で切った断面図であり、図3は、円筒窓の基礎となる円筒部を、圧力容器の軸方向に直交する面で切った断面図である。圧力容器1は、鉛直方向の上部側が太径の上部胴となっており、鉛直方向の下部側が細径の下部胴となっている。圧力容器1の上部と下部との間の中部は、上部側から下部側へ向けて先細りとなるテーパー形状に形成されている。
【0023】
圧力容器1の上部胴には、圧力容器1の内部を監視したり、圧力容器1の内部を点検したり、圧力容器1の内部の状態を検出したりするために用いられる円筒窓5が、圧力容器1の周方向に複数設けられている。本実施例において、円筒窓5は、4つ設けられている。4つの円筒窓5は、周方向に90°ずつ位相をずらして、等間隔に設けられている。円筒窓5は、圧力容器1の外周面1aから突出して設けられており、円筒窓5の突出方向が、円筒窓5の軸方向となっている。
【0024】
円筒窓5は、基礎となる円筒部5aが後述する溶接装置20および円筒部溶接形成方法によって形成される。そして、円筒窓5は、形成された円筒部5aに窓材等を取り付けることで構成される。図3に示すように、この円筒部5aは、圧力容器1の外周面1aに肉盛溶接された第1肉盛部10と、第1肉盛部10に肉盛溶接された第2肉盛部11と、圧力容器1、第1肉盛部10および第2肉盛部11を貫通する貫通口12と、を有している。
【0025】
第1肉盛部10は、円筒形状に形成されており、軸方向の圧力容器側(図示下側)の外周面10aは、貫通口12側に凸となる曲面に成形されている。第2肉盛部11は、円筒形状に形成されており、第1肉盛部10と同軸上に設けられている。第2肉盛部11の直径は、第1肉盛部10の直径よりも小さい径となっている。なお、第1肉盛部10は、圧力容器1と同じ材料で構成され、第2肉盛部11は、第1肉盛部10と異なる材料で構成されている。貫通口12は、断面円形となっており、円筒部5aの軸中心、つまり、第1肉盛部10および第2肉盛部11の軸中心を貫通すると共に、圧力容器1を貫通するように形成される。貫通口12は、圧力容器1の内部側の縁部が面取りされている。
【0026】
次に、図4を参照して、円筒部5aを形成するために使用される溶接装置20について説明する。図4は、本実施例に係る溶接装置の正面図である。この溶接装置20は、サブマージアーク溶接を実行可能に構成されている。溶接装置20は、図示しないフレームに取り付けられており、溶接を行う溶接ヘッド21と、溶接ヘッド21へ向けて溶接ワイヤ(溶加材)を供給するワイヤリール(溶加材供給部)22と、溶接ヘッド21へ向けてフラックスを供給するホッパ23と、溶接ヘッド21を移動させる移動機構24と、これらを制御する制御部25とを備えている。なお、本実施例では、サブマージアーク溶接に適用して説明するが、これに限定されるものではなく、自動ティグ溶接、自動ミグ溶接や、自動マグ溶接等の自動溶接にも適用可能である。
【0027】
溶接ヘッド21は、供給される溶接ワイヤを先端から送り出し、先端から繰り出された溶接ワイヤと溶接面との間にアークを生じさせる。また、溶接ヘッド21には、溶接ヘッド21の溶接面に対する溶接角度を調整するヘッド角度調整機構28が設けられており、このヘッド角度調整機構28により、溶接面に対する溶接ヘッド21の溶接角度が適宜調整される。
【0028】
ワイヤリール22は、溶接ヘッド21による溶接に応じて、溶接ワイヤを適宜供給している。ホッパ23は、その内部にフラックスを溜めており、溶接ヘッド21の溶接部分に先行してフラックスを供給している。
【0029】
移動機構24は、溶接ヘッド21をθ方向、Y方向およびZ方向に移動させており、θ軸移動機構31と、Y軸移動機構32と、Z軸移動機構33とを有している。θ軸移動機構31は、フレームに取り付けられて、溶接ヘッド21をθ方向に回転させることができ、円筒部5aを形成する際には、溶接ヘッド21を円筒部5aの周方向に回転させることができる。Y軸移動機構32は、θ軸移動機構31に取り付けられて、溶接ヘッド21をY方向に移動させることができ、円筒部5aを形成する際には、溶接ヘッド21を円筒部5aの径方向に移動させることができる。Z軸移動機構33は、Y軸移動機構32に取り付けられて、溶接ヘッド21をZ方向に移動させることができ、円筒部5aを形成する際には、溶接ヘッド21を円筒部5aの軸方向に移動させることができる。
【0030】
制御部25は、溶接ヘッド21へ向けて供給する溶接ワイヤの供給量を調整したり、移動機構24による溶接ヘッド21の移動を制御したりしている。制御部25には、θ方向への回転角度を検出するθ軸センサ35と、Y方向への移動量を検出するY軸センサ36と、Z方向への移動量を検出するZ軸センサ37とが接続されている。そして、制御部25は、θ軸センサ35、Y軸センサ36およびZ軸センサ37の検出に基づいて、θ軸移動機構31、Y軸移動機構32およびZ軸移動機構33をそれぞれ制御している。
【0031】
従って、溶接装置20は、制御部25によって各部が制御されることにより、溶接ヘッド21に供給される溶接ワイヤの供給量を調整しながら、移動機構24により溶接ヘッド21の移動を適宜制御することで、溶接面に対し、所定の溶接を行うことが可能となる。ここで、制御部25は、点対称肉盛溶接制御と、渦巻肉盛溶接制御とを実行可能に構成されている。以下、図5および図6を参照して、点対称肉盛溶接制御と、渦巻肉盛溶接制御とについてそれぞれ説明する。
【0032】
図5は、平坦肉盛溶接制御による溶接装置の溶接動作を平面側から見たときの説明図であり、図6は、渦巻肉盛溶接制御による溶接装置の溶接動作を平面側から見たときの説明図である。図5に示すように、点対称肉盛溶接制御は、形成される円筒部5aに対し、溶接ヘッド21を円筒部5aの周方向(θ方向)に周回(移動)させながら、円筒部5aの軸を中心として点対称となるように肉盛溶接を行う制御である。
【0033】
ここで、溶接対象となる圧力容器1の外周面1aは、形成される円筒部5aの軸を中心に180°点対称となっている。つまり、円筒部5aの軸中心Pを通る圧力容器1の周方向の中心線L1上において、圧力容器1の外周面1aは、円筒部5aの軸中心Pから遠ざかるにつれて、圧力容器側(図示下方側)へ湾曲する曲面となる。また、円筒部5aの軸中心Pを通る圧力容器1の軸方向の中心線L2上において、圧力容器1の外周面1aは、円筒部5aの軸中心Pにおける面と同じ高さとなる。このとき、圧力容器1の外周面1aを平坦にするには、円筒部5aの軸を中心に180°点対称となる一対の平坦肉盛領域E1に肉盛溶接を行う。平坦肉盛領域E1は、中心線L1を中心とする円弧状の領域となっている。
【0034】
このように、溶接対象となる圧力容器1の外周面1aは平坦となっておらず、点対称肉盛溶接制御は、圧力容器1の外周面1aを平坦にするために実行される。点対称肉盛溶接制御を実行すると、溶接装置20は、中心線L2を挟む一方側の外周面1aに対し、所定の角度θ分だけ溶接ヘッド21を移動させて平坦肉盛領域E1に肉盛溶接を行い、この後、溶接ヘッド21を周回させ、中心線L2を挟む他方側の外周面1aに所定の角度θ分だけ溶接ヘッド21を移動させて平坦肉盛領域E1に肉盛溶接を行う。換言すれば、一方側の外周面1aにおける溶接ヘッド21の溶接開始位置S1と、他方側の外周面1aにおける溶接ヘッド21の溶接開始位置S2とは、180°点対称となっており、同様に、一方側の外周面1aにおける溶接ヘッド21の溶接終了位置T1と、他方側の外周面1aにおける溶接ヘッド21の溶接終了位置T2とは、180°点対称となっている。
【0035】
図6に示すように、渦巻肉盛溶接制御は、形成される円筒部5aに対し、溶接ヘッド21を円筒部5aの周方向(θ方向)に周回(移動)させながら、円筒部5aの径方向(Y方向)に移動させて渦巻状に肉盛溶接を行う制御である。渦巻肉盛溶接制御は、圧力容器1に対し、円筒部5aの第1肉盛部10を形成するために実行される。渦巻肉盛溶接制御では、第1肉盛部10を形成するために必要な略平坦となる渦巻肉盛領域E2に肉盛溶接される。渦巻肉盛領域E2は、円筒部5aの軸を中心とした円形の領域となっている。
【0036】
渦巻肉盛溶接制御を実行すると、溶接装置20は、溶接ヘッド21を、形成される円筒部5aの径方向内側を周方向に一周させることで、円筒部5aの径方向内周側を全周溶接し、この後、溶接ヘッド21を円筒部5aの径方向の外周側に移動させて、溶接ヘッド21を周方向に一周させて全周溶接する。全周溶接を行う場合、溶接ヘッド21は、肉盛溶接の始端側と後端側とが重複するオーバーラップ部40を形成し、オーバーラップ部40の形成後、円筒部5aの径方向外側に移動する。そして、溶接装置20は、渦巻肉盛領域E2の全域を肉盛溶接するまで、渦巻状に肉盛溶接を実行する。
【0037】
次に、図7ないし図13を参照して、溶接装置20を用いた円筒部溶接形成方法について説明する。円筒部溶接形成方法では、第1パイプ溶接工程(円筒管溶接工程)と、平坦肉盛溶接工程と、渦巻肉盛溶接工程と、肉盛加工工程と、第2パイプ溶接工程と、クラッド溶接工程と、円筒部加工工程とが順に行われる。
【0038】
図7は、本実施例に係る円筒部溶接形成方法の第1パイプ溶接工程および平坦肉盛溶接工程を示す説明図である。図7に示すように、第1パイプ溶接工程は、圧力容器1の外周面1aに第1パイプ(円筒管)50を溶接する工程である。第1パイプ溶接工程では、第1パイプ50の軸方向が、外周面1aに対して突出する円筒部5aの突出方向となるように、外周面1aに第1パイプ50を溶接する。このとき、第1パイプ50の軸中心が、形成される円筒部5aの軸中心と同軸上となるように溶接する。
【0039】
平坦肉盛溶接工程は、点対称肉盛溶接制御を実行して、溶接装置20により圧力容器1の外周面1aを平坦にする工程である。圧力容器1の外周面1aは、中心線L2を挟んで、圧力容器1の周方向へ湾曲する曲面となっている。このため、平坦肉盛溶接工程では、中心線L2を挟んで、圧力容器1の周方向へ湾曲する外周面1aを平坦にする。このとき、平坦肉盛溶接工程では、溶接装置20の溶接ヘッド21を、円筒部5aの周方向に周回させながら肉盛溶接を行っている。
【0040】
平坦肉盛溶接工程では、溶接装置20の溶接ヘッド21を、中心線L2を挟む一方側の外周面1aに、所定の角度θ分だけ移動させて溶接を行い、この後、溶接ヘッド21を周回させ、中心線L2を挟む他方側の外周面1aに所定の角度θ分だけ移動させて溶接を行う。つまり、平坦肉盛溶接工程では、一方側の外周面1aの溶接開始位置S1から溶接終了位置T1まで溶接ヘッド21を移動させて肉盛溶接を行った後、溶接ヘッド21を周回させ、他方側の外周面1aの溶接開始位置S2から溶接終了位置T2まで溶接ヘッド21を移動させて肉盛溶接を行う。そして、平坦肉盛溶接工程では、圧力容器1の外周面1aが平坦となるまで、平坦肉盛領域E1に対し、点対称肉盛溶接制御が複数回実行される。
【0041】
図8は、平坦肉盛溶接工程における溶接装置の溶接動作を断面側から見たときの説明図である。図8に示すように、平坦肉盛溶接工程では、例えば、点対称肉盛溶接制御が5回、実行されることで、平坦肉盛領域E1に肉盛溶接を行っている。1回目の点対称肉盛溶接制御では、平坦肉盛領域E1の最外周側となる第1位置I1に肉盛溶接され、2回目の点対称肉盛溶接制御では、第1位置I1の内周側となる第2位置I2に肉盛溶接される。3回目の点対称肉盛溶接制御では、第1位置I1の軸方向外側となる第3位置I3に肉盛溶接され、4回目の点対称肉盛溶接制御では、第3位置I3の内周側となる第4位置I4に肉盛溶接される。そして、5回目の点対称肉盛溶接制御では、第4位置I4の内周側となる第5位置I5に肉盛溶接される。
【0042】
図9は、本実施例に係る円筒部溶接形成方法の渦巻肉盛溶接工程を示す説明図である。図9に示すように、渦巻肉盛溶接工程は、渦巻肉盛溶接制御を実行して、溶接装置20により圧力容器1の外周面1aに、円筒部5aの第1肉盛部10を形成する工程である。渦巻肉盛溶接工程では、溶接装置20の溶接ヘッド21を、円筒部5aの周方向に周回させながら、円筒部5aの径方向の内側から外側へ向けて移動させることで、圧力容器1の外周面1aに渦巻状に肉盛溶接を行う。つまり、渦巻肉盛溶接工程では、溶接した第1パイプ50の外周側において、溶接ヘッド21を周方向に一周させて全周溶接し、この後、オーバーラップ部40の形成後、円筒部5aの径方向の外側に移動させ、これを繰り返すことで、渦巻肉盛領域E2に対し肉盛溶接を行う。なお、渦巻肉盛溶接工程では、軸方向(Z方向)における円筒部5aの高さが所定の高さとなるまで、渦巻肉盛溶接制御が複数回実行される。
【0043】
図10は、渦巻肉盛溶接工程における溶接装置の溶接動作を断面側から見たときの説明図である。図10に示すように、渦巻肉盛溶接工程では、円筒部5aの内側から外側へ向けて、渦巻肉盛領域E2に対し、渦巻状に肉盛溶接を行うことで1層目の肉盛溶接を形成する。そして、渦巻肉盛溶接工程では、円筒部5aの高さが所定の高さとなるまで、肉盛溶接を複数の層に亘って形成する。
【0044】
図11は、本実施例に係る円筒部溶接形成方法の肉盛加工工程を示す説明図である。図11に示すように、肉盛加工工程は、渦巻肉盛溶接工程により形成された第1肉盛部10の軸方向外側の端面に対し、機械加工により円形溝52を形成する工程である。ここで、形成される円形溝52は、その直径が第1肉盛部10の直径の略半分の長さとなっており、円筒部5aの軸を中心として、第1パイプ50および第1肉盛部10の一部を円形状に切り欠いて形成される。
【0045】
図12は、本実施例に係る円筒部溶接形成方法の第2パイプ溶接工程を示す説明図である。図12に示すように、第2パイプ溶接工程は、肉盛加工工程により形成された円形溝52を囲む第2パイプ54を、第1肉盛部10の軸方向外側の端面に溶接する工程である。第2パイプ溶接工程では、第2パイプ54の軸中心が、形成される円筒部5aの軸中心と同軸上となるように、第2パイプ54を第1肉盛部10の軸方向外側の端面に溶接する。また、第2パイプ溶接工程では、第1パイプ50の軸方向外側の開口部に、円形の蓋体56を取り付けている。
【0046】
図13は、本実施例に係る円筒部溶接形成方法のクラッド溶接工程を示す説明図である。図13に示すように、クラッド溶接工程は、第1肉盛部10の軸方向外側の端面に、第2肉盛部11を形成する工程である。つまり、クラッド溶接工程では、第2パイプ54の内側にある円形溝52に肉盛溶接を行うことで、第2肉盛部11を形成する。そして、クラッド溶接工程では、第2肉盛部11の軸方向における高さが、所定の高さとなるまで肉盛溶接を行う。なお、クラッド溶接工程は、溶接装置20を用いて行ってもよいし、溶接装置20を用いずに手作業により行ってもよい。
【0047】
円筒部加工工程は、上記工程により形成した第1肉盛部10および第2肉盛部11を所定の形状に加工して、図3に示す円筒部5aを形成する。具体的に説明すると、円筒部加工工程では、円筒部5aの軸中心に、圧力容器1の外部と内部とを連通する貫通口12を形成すると共に、第1肉盛部10および第2肉盛部11をガウジングにより所定の形状に形成する。形成される貫通口12は、その径が、第1パイプ50の直径よりも大きく、第2肉盛部11の直径よりも小さくなっている。また、貫通口12の軸中心は、円筒部5aの軸中心と同軸上となるように、第2肉盛部11、第1肉盛部10、第1パイプ50および圧力容器1を、機械加工して貫通形成する。さらに、貫通口12の圧力容器側の縁部は面取り加工される。第1肉盛部10の外周面10aは、軸方向の圧力容器側が、貫通口側に凸となる曲面に形成され、軸方向の第2肉盛部側(図示上側)が、円筒形状に形成される。第2肉盛部11の外周面11aは、第2パイプ54を取り除くように円筒形状に形成される。
【0048】
上記のように各工程を順に行うことで、圧力容器1の外周面1aに、円筒窓5の基礎となる円筒部5aを形成することができる。そして、形成した円筒部5aに窓材等を取り付けることで、円筒窓5を構成する。
【0049】
以上のように、本実施例の円筒部溶接形成方法および溶接装置20によれば、渦巻肉盛溶接工程において、渦巻肉盛溶接制御を実行して、渦巻状に肉盛溶接を行うことで、円筒部5aの第1肉盛部10を形成することができる。このため、渦巻肉盛溶接工程では、圧力容器1の外周面1aを移動させることなく肉盛溶接を行うことができ、また、肉盛溶接を途切れることなく行うことができる。これにより、渦巻肉盛溶接工程では、圧力容器1の外周面1aに対し、効率良く円筒部5aの第1肉盛部10を形成することができる。
【0050】
また、渦巻肉盛溶接工程の前に、平坦肉盛溶接工程において、点対称溶接制御を実行して、圧力容器1の外周面1aに対し、円筒部5aの軸を中心に点対称となるように肉盛溶接を行うことで、圧力容器1の外周面1aを簡単に平坦にすることができる。また、渦巻肉盛溶接工程において、平坦となった外周面1aに対し、渦巻状の肉盛溶接を好適に行うことが可能となる。
【0051】
また、渦巻肉盛溶接工程の前に、第1パイプ溶接工程において、圧力容器1の外周面1aに対し、第1パイプ50を溶接することで、渦巻肉盛溶接工程において、円筒部5aの軸中心に肉盛溶接を行う必要がないため、効率良く肉盛溶接を行うことができる。また、第1パイプ50は、渦巻肉盛溶接工程の肉盛溶接によって円筒部5aの軸中心へ向かう溶接ダレを抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
以上のように、本発明に係る円筒部溶接形成方法および溶接装置は、肉盛溶接により円筒部を形成する場合において有用であり、特に、蒸気発生器の圧力容器を溶接する場合に適している。
【符号の説明】
【0053】
1 圧力容器
5 円筒窓
5a 円筒部
10 第1肉盛部
11 第2肉盛部
12 貫通口
20 溶接装置
21 溶接ヘッド
22 ワイヤリール
23 ホッパ
24 移動機構
25 制御部
40 オーバーラップ部
50 第1パイプ
52 円形溝
54 第2パイプ
56 蓋体
E1 平坦肉盛領域
E2 渦巻肉盛領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接面から突出する円筒部を、肉盛溶接により形成する円筒部溶接形成方法であって、
形成される前記円筒部の軸方向は、前記円筒部の突出方向となっており、
形成される前記円筒部の軸を中心として、前記円筒部の周方向に周回させながら、前記円筒部の径方向に移動させることで、前記溶接面に渦巻状に肉盛溶接を行う渦巻肉盛溶接工程を備えたことを特徴とする円筒部溶接形成方法。
【請求項2】
前記渦巻肉盛溶接工程前に、形成される前記円筒部の軸を中心として、前記円筒部の周方向に周回させながら、前記溶接面が平坦となるように、前記溶接面に肉盛溶接を行う平坦肉盛溶接工程をさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載の円筒部溶接形成方法。
【請求項3】
前記溶接面は、前記円筒部の軸を中心に点対称となる円筒形状の容器の外周面であり、
前記平坦肉盛溶接工程では、前記円筒部の軸を中心に点対称となるように、前記溶接面に肉盛溶接を行うことを特徴とする請求項2に記載の円筒部溶接形成方法。
【請求項4】
前記渦巻肉盛溶接工程前に、円筒管を溶接する円筒管溶接工程をさらに備え、
前記円筒管溶接工程では、溶接される前記円筒管の軸中心が、形成される前記円筒部の軸中心と同軸上となるように、前記円筒管を前記溶接面に溶接することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の円筒部溶接形成方法。
【請求項5】
溶接面から突出する円筒部を、肉盛溶接により形成する溶接装置であって、
形成される前記円筒部の軸方向は、前記円筒部の突出方向となっており、
前記溶接面へ向けて溶接を行う溶接ヘッドと、
前記溶接ヘッドへ向けて溶加材を供給する溶加材供給部と、
前記溶接ヘッドを、形成される前記円筒部の周方向および径方向に移動可能な移動機構と、
前記移動機構を制御可能な制御部と、を備え、
前記制御部は、形成される前記円筒部の軸を中心として、前記溶接ヘッドを、前記円筒部の周方向に周回させながら、前記円筒部の径方向に移動させることで、前記溶接面に渦巻状に肉盛溶接を行う渦巻肉盛溶接制御を実行可能であることを特徴とする溶接装置。
【請求項6】
前記制御部は、形成される前記円筒部の軸を中心として、前記溶接ヘッドを、前記円筒部の周方向に周回させながら、前記円筒部の軸を中心に点対称となるように、前記溶接面に肉盛溶接を行う点対称肉盛溶接制御を実行可能であることを特徴とする請求項5に記載の溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−143769(P2012−143769A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−2482(P2011−2482)
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】