説明

円錐形プーリ式巻掛け変速機、該円錐形プーリ式巻掛け変速機を製造するための方法ならびにこのような円錐形プーリ式巻掛け変速機を備えた車両

本発明は、円錐形プーリ式巻掛け変速機に関する。本発明の構成では、入力側のシャフトと出力側のシャフトとが設けられており、該シャフトのうちの少なくとも一方のシャフトが、該シャフトの長手方向に延びる少なくとも1つの孔を有しており、該孔を起点として斜孔または横方向孔が設けられており、該斜孔または横方向孔の、前記シャフトの外周面における出口が、可動プーリの軸方向位置とは無関係に可動プーリによってカバーリングされる範囲に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえばドイツ連邦共和国特許第102004号明細書、ドイツ連邦共和国特許第015215号明細書およびその他の刊行物に基づき公知であるような円錐形プーリ式巻掛け変速機の形の自動変速機ならびに該円錐形プーリ式巻掛け変速機を製造するための方法ならびにこのような円錐形プーリ式巻掛け変速機を備えた車両に関する。
【0002】
広義の意味での自動変速機とは、パラメータ変換器(Kennungswandler)である。このパラメータ変換器の目下の変速比は目下の運転状態または予想され得る運転状態、たとえば部分負荷、エンジンブレーキおよび周辺パラメータ、たとえば温度、空気圧、空気湿度に関連して自動的に段階式または無段式に変化する。このようなパラメータ変換器には、電気的、ニューマチック的、ハイドロダイナミック的、ハイドロスタティック的な原理またはこれらの原理から混合された原理に基づいたパラメータ変換器が所属している。
【0003】
自動化は、種々の機能、たとえば始動、変速比セレクト、種々の運転状況における変速比変更形式に関係する。この場合、「変速比変更形式」とは、たとえば個々の変速段の順次シフト、変速段の飛び越えシフトおよび調節の速度であると理解することができる。
【0004】
快適性、安全性および許容可能な構成手間を求める要望は自動化度、つまりどれ程多くの機能が自動的に進行するのかを決定する。
【0005】
一般に、運転者は自動的な進行にマニュアル式に干渉することができるか、または自動的な進行を個々の機能に関して制限することができる。
【0006】
現在とりわけ車両製造において使用されるような狭義の意味での自動変速機とは、一般に以下のような構造を有している:
変速機の駆動側もしくは入力側には、制御可能なクラッチ、たとえば湿式または乾式の摩擦クラッチ、ハイドロダイナミック式のクラッチまたはハイドロダイナミック式のコンバータの形の始動ユニットが設けられている。
【0007】
ハイドロダイナミック式のコンバータには、しばしばポンプ部分とタービン部分とに対して並列にロックアップクラッチが接続される。ロックアップクラッチは直接的な動力伝達により効率を向上させ、そして臨界的な回転数における規定されたスリップにより振動を減衰する。
【0008】
この始動ユニットは機械的な無段式または段階式の変速装置を駆動する。この変速装置は前進/後退走行ユニット、メイントランスミッショングループ、レンジグループ、スプリッタグループおよび/またはバリエータ(Variator)を有していてよい。歯車伝動装置グループは、エンジン回転安定性、スペース事情および伝達手段に課せられた要求に応じて、直歯列または斜歯列を備えた平行軸歯車式(カウンタシャフト式)または遊星歯車式に設計される。
【0009】
機械式の変速機の出力エレメントであるシャフトまたは歯車は直接にまたは間接的に中間シャフトもしくは中間段を介して一定の変速比を持ってディファレンシャル変速機へ駆動力を伝達する。このディファレンシャル変速機は別個の変速機として形成されていてよいか、または自動変速機に組み込まれた構成要素である。基本的に、この変速機は車両内での縦向き組込みおよび横向き組込みのために適している。
【0010】
機械式の変速機における変速比を調節するためには、ハイドロスタティック式、ニューマチック式および/または電気式のアクチュエータが設けられている。押しのけ原理に基づいて作動するハイドロリックポンプは始動ユニット、特にハイドロダイナミック式のユニット、機械式の変速機のハイドロスタティック式の作動エレメントのために、かつシステムの潤滑および冷却のために圧力オイルを供給する。必要とされる圧力および圧送容量に応じて、歯車ポンプ、スクリュポンプ、ベーンポンプおよびピストンポンプ(ただしたいていはラジアル構造)が使用される。実際の使用では、歯車ポンプおよびラジアルピストンポンプがこの目的のために普及している。この場合、歯車ポンプはその僅かな構成手間に基づき、そしてラジアルピストンポンプは、より高い圧力レベルおよび一層良好な制御可能性に基づき、それぞれ利点を提供する。
【0011】
ハイドロリックポンプは変速機の任意の個所で、駆動ユニットにより常時駆動されるメインシャフトまたはセカンダリシャフトに配置されていてよい。
【0012】
始動ユニットと、前進/後進走行ユニットである遊星式前後進切換伝動装置と、ハイドロリックポンプと、バリエータと、中間シャフトと、ディファレンシャルとから成る無段式の自動変速機が知られている。バリエータは2つの円錐形プーリペアと、1つの巻掛け機構とから成っている。各円錐形プーリペアは軸方向にスライド可能な第2の円錐形プーリを有している。これらの円錐形プーリペアの間では、巻掛け機構、たとえば推進用コマ付ベルト、引張チェーンまたはベルトが走行する。第2の円錐形プーリの調節を介して、巻掛け機構の回転半径が変化し、ひいてはこの無段式の自動変速機の変速比が変化する。
【0013】
無段式の自動変速機は、バリエータの円錐形プーリを全ての運転点において所望の速度で調節し得るようにし、さらに十分な基本押付け圧を用いて十分に摩耗なしにトルクを伝達するために高い圧力レベルを必要とする。
【0014】
本発明の根底を成す1つの部分課題は、ハイドロリック的な媒体によって形成された動力伝達を改善することにある。別の部分課題は、構成部分製作を簡単にし、ひいては製造コストにも好都合な影響を与えることにある。本発明のさらに別の部分課題は、各構成部分の運転強度を高め、ひいてはこのような自動変速機の寿命を延長することにある。本発明のさらに別の部分課題は、このような自動変速機のトルク伝達能力を高めるか、もしくは自動変速機の各構成部分により、一層大きな力を伝達することができるようにすることにある。
【0015】
これらの課題部分は、特許請求の範囲に記載されかつ明細書中で図面に関連して説明される本発明の構成ならびにその改良形によって解決され、特に入力側の円錐形プーリペアと出力側の円錐形プーリペアとが設けられており、両円錐形プーリペアが、それぞれ1つの固定プーリと1つの可動プーリとを有しており、該固定プーリと該可動プーリとが、それぞれ入力側および出力側のシャフトに配置されていて、トルク伝達のための巻掛け手段を介して結合可能である形式の円錐形プーリ式巻掛け変速機において、前記シャフトのうちの少なくとも一方のシャフトが、該シャフトの長手方向に延びる少なくとも1つの孔を有しており、該孔を起点として、前記シャフトの外周面にまで延びる少なくとも1つの斜孔または横方向孔のような孔が設けられており、該孔の、前記シャフトの外周面における出口が、可動プーリの軸方向位置とは無関係に、つまり可動プーリがいかなる軸方向位置をとっても、可動プーリによってカバーリングされる範囲に配置されていることを特徴とする円錐形プーリ式巻掛け変速機により解決される。
【0016】
これにより、たとえばハイドロリック媒体のための供給孔を短縮することが達成される。こうして、この供給孔を一層経済的にかつ高められたプロセス確実性を持って製作することができる。
【0017】
一般に、本発明による円錐形プーリ式巻掛け変速機では、少なくとも1つの固定プーリがシャフトとワンピースに、つまりシャフトと一体に結合されていると有利になり得る。
【0018】
さらに、可動プーリが、相対回動不能に、ただし軸方向移動可能に歯列を介してシャフトに結合されていると有利になり得る。
【0019】
シャフトの外周面から進出する前記孔の出口が前記歯列の範囲に配置されていると特に有利になり得る。
【0020】
このように差込み歯列の真ん中に孔を配置することにより、差込み歯列は高負荷された孔の周囲に一種のリブを形成しており、これにより著しい強度向上が得られる。なぜならば、シャフトの外周面から進出する孔出口周囲における、歯と歯の間の臨界的な範囲における応力が著しく低減されるからである。
【0021】
孔出口の範囲で歯が欠落していると有利であることが判っている。この場合、可動プーリの内径に沿って設けられた歯のうち、孔出口に隣接した2つの歯を欠落させることがさらに有利になり得る。
【0022】
一般に、本発明による円錐形プーリ式巻掛け変速機では、全周にわたって複数の孔出口が設けられていると有利になり得る。この場合、これらの孔出口は全周にわたって均一に分配されて配置され得ると有利である。
【0023】
本発明による円錐形プーリ式巻掛け変速機では、1つの円錐形プーリペアの可動プーリと固定プーリとが周方向で互いに対応付けられて配置されると有利である。
【0024】
このためには、可動プーリに設けられた内歯列の範囲に、シャフトの欠落した歯の個所に係合する隆起部が設けられており、かつ/またはシャフトの外径の範囲に、可動プーリの欠落した歯の範囲に位置することになる少なくとも1つの隆起部が設けられていると有利になり得る。これにより、構造的に誤組付けを排除することができる。
【0025】
さらに、本発明は、本発明による円錐形プーリ式巻掛け変速機を製造するための方法に関する。この場合、シャフトの外歯列および/または可動プーリの内歯列を製作するための工具が、周方向で見てプロファイル(歯列輪郭)の一部しか形成せず、別の部分を製作するためには所定の角度だけ回転させられる。さらに、本発明は本発明による円錐形プーリ式巻掛け変速機を備えた車両に関する。
【0026】
以下に、本発明の実施例を図面につき詳しく説明する。
【0027】
図1は、円錐形プーリ式巻掛け変速機の部分図であり、
図2は、本発明の1実施例を示す、ほぼ図1に相当する図であり、
図3は、図2のIII−III線に沿った部分的な断面図であり、
図4は図3のIVで示した範囲の拡大図であり、
図5は、図3のVで示した範囲の拡大図であり、
図6は、別の実施例を示す、III−III線に沿った断面図である。
【0028】
図1には、円錐形プーリ式巻掛け変速機の一部、つまり円錐形プーリ式巻掛け変速機1の、原動機、たとえば内燃機関により駆動される駆動側または入力側の部分しか図示されていない。完全に構成された円錐形プーリ式巻掛け変速機においては、この入力側の部分に、無段調節可能な円錐形プーリ式巻掛け変速機の、相補的に形成された対応する出力側の部分が対応しており、この場合、両部分は、トルク伝達のための、たとえばリンクプレートチェーン2の形の巻掛け手段を介して互いに結合されている。円錐形プーリ式巻掛け変速機1は入力側にシャフト3を有しており、このシャフト3は図示の実施例では、定位置の円錐形プーリまたは固定プーリ4とワンピースに、つまり一体に形成されている。この軸方向位置固定の円錐形プーリ4はシャフト3の軸方向長手方向で、軸方向スライド可能な円錐形プーリまたは可動プーリ5に隣接して向かい合って位置している。
【0029】
図1には、リンクプレートチェーン2が入力側の円錐形プーリペア4,5において半径方向外側の位置で図示されている。この半径方向外側の位置は、軸方向移動可能な円錐形プーリ5が図面で見て右側へ向かって移動させられて、軸方向移動可能な円錐形プーリ5のこの移動運動が、半径方向外側へ向かうリンクプレートチェーン2の運動を生ぜしめることにより得られる。これにより、増速方向への変速機の変速比変更が生ぜしめられる。
【0030】
軸方向移動可能な円錐形プーリ5は自体公知の形式で図平面で見て左側へ向かっても移動され得る。この場合、この位置ではリンクプレートチェーン2が半径方向内側の位置に位置する(符号2aで示す)。この半径方向内側の位置では、減速方向への円錐形プーリ式巻掛け変速機1の変速が生ぜしめられる。
【0031】
原動機(図示しない)により提供されたトルクは、円錐形プーリ式巻掛け変速機1の図1に示した入力側の部分において、シャフト3に支承された歯車6を介して導入される。この歯車6はシャフト3に、軸方向の力と半径方向の力とを受け止める玉軸受け7の形の転がり軸受けを介して支承されている。この玉軸受け7はシャフト3に、ディスク8とシャフトナット9とを介して位置固定される。歯車6と、軸方向移動可能な円錐形プーリ5との間には、トルクセンサ10が配置されている。このトルクセンサ10には、軸方向で定位置の拡開ディスク11と、軸方向移動可能な拡開ディスク12とを備えた拡開ディスク機構13が対応している。両拡開ディスク11,12の間には、転動体が、たとえば図示のボール14の形で配置されている。
【0032】
歯車6を介して導入されたトルクは、軸方向で定位置の拡開ディスク11と、軸方向移動可能な拡開ディスク12との間の回転角度の形成をもたらす。このことは、拡開ディスク12に配置された転動斜面に基づいて拡開ディスク12の軸方向移動を生ぜしめる。この場合、転動斜面に沿ってボール14が転動し、こうして両拡開ディスク11,12の互いに相対的な軸方向のずれを生ぜしめる。
【0033】
トルクセンサ10は2つの圧力室15,16を有している。両圧力室15,16のうち第1の圧力室15は導入されたトルクに関連した圧力媒体による負荷のために設けられており、第2の圧力室16には、変速機の変速比に関連して圧力媒体が供給される。
【0034】
軸方向で定位置の円錐形プーリ4と、軸方向移動可能な円錐形プーリ5との間でリンクプレートチェーン2を法線力(Normalkraft)によって負荷するために用いられる押圧力を形成するためには、ピストンシリンダユニット17が設けられている。このピストンシリンダユニット17は2つの圧力室18,19を有している。第1の圧力室18はリンクプレートチェーン2の負荷を変速比に関連して変えるために働き、第2の圧力室19はトルクセンサ10の、トルクに関連して制御される圧力室15と相まって、両円錐形プーリ4,5の間でリンクプレートチェーン2を負荷するために用いられる押圧力を増大させるか、または減少させるために働く。
【0035】
シャフト3は前記圧力室への圧力媒体供給のために3つの通路20を有している。これらの通路20を介して、ポンプ(図示しない)によって前記圧力室内に圧力媒体が供給される。流出側の通路21を介して圧力媒体はシャフト3から流出して、循環路に再び供給され得る。
【0036】
圧力室15,16,18,19を負荷することにより、軸方向移動可能な円錐形プーリ5はシャフト3に沿ってトルクおよび変速比に関連してスライドさせられる。シャフト3は軸方向移動可能な円錐形プーリ5を装着するためにセンタリング面22を有している。これらのセンタリング面22は軸方向移動可能な円錐形プーリ5のためのスライドシート(滑り嵌め)として働く。
【0037】
図1から容易に判るように、円錐形プーリ式巻掛け変速機1はシャフト3における円錐形プーリ5の支承個所の範囲にそれぞれ1つの騒音減衰装置23を有している。このためには、騒音減衰装置23が環状体と、減衰性の封入物とを有しているか、または減衰性の封入物からのみ成っていてよい。
【0038】
図1で使用された符号は、図2の比較可能な特徴にも適用される。すなわち、図面はこの点では単一体であるとみなされ得る。図面を見易くするために、図2では、図1における符号を越える符号しか使用されていない。
【0039】
図2に示した実施例では、3つの通路20のうちの真ん中の通路が本発明により形成されている。図面から判るように、図1および図2で見て右側から盲孔として製作される、真ん中の通路20を形成する孔24は、図1の実施例におけるよりも著しく短く形成されている。このような盲孔は製造に手間がかかり、しかも製作において極めて高い精度を要求する。この場合、製造手間ならびにプロセス確実性に関する要求は長さと共に過比例的に増大する。すなわち、このような孔を短くすることは、たとえば製造コストに好都合に作用する。
【0040】
この孔24の底部の範囲では、横方向孔25が分岐している。複数の横方向孔25が全周にわたり分配されて配置されていてよい。図示の事例では、この横方向孔25が半径方向の孔として図示されているが、しかし別の角度で斜孔としても製作され得る。横方向孔25はシャフト3の外周面を、運転状態とは無関係に、つまりたとえば調節された変速比とは無関係に、可動プーリ5によって常時カバーリングされる範囲に位置している個所において貫通している。
【0041】
横方向孔25を可動プーリ5のカバーリング範囲へ移すことにより、シャフト3を軸方向で一層短く形成することができる。これにより構成スペースを節約することができる。さらに、シャフト3の短縮によって負荷低減を得ることもできる。
【0042】
通路もしくは横方向孔25の開口部は、たとえば旋削加工部26の、シャフトに設けられたセンタリング面22に隣接した範囲に配置され得る。このことは、可動プーリ5を軸方向移動可能に、ただし相対回動不能にシャフト3に結合している歯列27が、たとえばトルク伝達によって高度に負荷されている場合に特に有利になり得る。
【0043】
しかし多くの場合には、歯列27の負荷は臨界的な設計基準にはならないので、図2に図示されているように横方向孔25の開口部をこの歯列27の範囲に設置することができる。横方向孔25を旋削加工部26ではなく歯列27に配置することにより、より大きな抵抗モーメントが提供されるという利点が得られる。これにより、縁面(Randfaser)、つまり断面の最上層もしくは最下層における曲げ応力が減じられる。さらに、この個所における断面二次モーメントは一層大きくなり、それに対して、横方向孔25により妨げられている臨界的な面はほぼ不変の半径に留まっている。これにより、歯列27の各歯の間での横方向孔25の開口部周辺の臨界的な範囲における応力の著しい低減が得られる。ハイドロリック流体の供給は図1の実施例の場合と図2の実施例の場合とでは同一である。なぜならば、圧力室15,19が互いに接続されていて、可動プーリ5が、歯列27の範囲と圧力室19とを接続する接続孔28を有しているからである。図面では、可動プーリ5が、始動変速比もしくはアンダドライブに相当する最も左側の位置で図示されている。可動プーリ5が図面で見て右側へ向かって固定プーリ4の方向に移動させられても、中空室の一部もしくはチャンバ29の一部は常に横方向孔25もしくは通路の開口部に被さって位置するので、図1に示した実施例の場合と同様に所要の流体供給が常に保証されている。図1に示した実施例の場合と同様に、圧力室16のためには、可動プーリ5の軸方向位置に関連した2つの切換状態が存在する。図示の位置では、制御孔30が露出されているので、この制御孔30に接続された、栓体31によって軸方向で閉鎖された通路20と、この通路20に、図示されていない別の通路を介して接続された圧力室16とは無圧状態であるか、もしくは周辺圧しか有していない。次いで可動プーリ5が固定プーリ4に接近する方向に運動させられると、可動プーリ5は制御孔30に乗り上げ、この場合、規定のストロークを越えるとチャンバ29が制御孔30の開口部に重なる。しかし、チャンバ29内には、トルクに関連した高い圧力が形成されており、この圧力は次いで制御孔30と通路20とを介して圧力室16内へももたらされるので、圧力室16内にも高い圧力が加えられる。こうして、変速比に関連して押圧力を制御する2つの切換状態が実現される。
【0044】
さらに図2に示した実施例では、皿ばね32が設けられている。この皿ばね32は円錐形プーリ式巻掛け変速機1の無圧状態において可動プーリ5を、予め規定された軸方向位置へもたらす。これにより、たとえば車両のレッカ移動等の牽引時における過剰負荷を阻止する円錐形プーリ式巻掛け変速機1の変速比を調節することができる。
【0045】
図3には、図2のIII−III線に沿った断面図が示されている。この場合、図面の上半部と下半部とには、それぞれ横方向孔25もしくは通路25の互いに異なる実施例が図示されている。
【0046】
下側の範囲の一部IVは図4にもう一度拡大されて図示されている。この下側の範囲では、シャフト3の外周面に対する横方向孔25の開口部の範囲に位置する歯が除去されているか、もしくは形成されていないので、シャフトの軸方向で見て通路33が形成されている。この通路33はハイドロリック流体によって通流され得る。
【0047】
通路33のこのような横断面が不十分であると、範囲Vに示したように付加的に、可動プーリ5に設けられた歯のうち隣接した、半径方向内側へ向かって突出した2つの歯が欠落していてよい(図5に範囲Vの拡大図を示す)。
【0048】
所要の全流過横断面を形成し得るようにするために、それぞれ通路33当たりに欠落する最大3つの歯の欠歯を周面の数カ所において行うことができる。このことは、たとえば周面の3個所で均一な角度ピッチを持って、3で割り切れる歯数、たとえば30個の歯において行われると有利である。
【0049】
シャフト3に可動プーリ5を組み付ける際には、通路33の所要の横断面を確保するために、可動プーリ5を固定プーリ4に対して正しい角度位置で対応させるように注意しなければならない。
【0050】
図6には、3つの互いに異なる通路配置が図示されている。この場合、Aでは正しい組付けが行われるように注意しなければならないが、BおよびCの場合には構造的な手段によって誤組付けを阻止することができる。
【0051】
Aの場合には、もう一度図5に示した配置が図示されている。Aの実施態様は既に説明したように、所要の流過横断面を得るために周面の数カ所に分配されていてよい。このことはBおよびCの実施態様にも云える。
【0052】
Bの場合には、組付け時における誤った対応関係を排除する構造的な解決手段が示されている。このためには、本発明によれば、可動プーリ5の内歯列において、正確にもともと存在していた2つの歯の間の個所に隆起部34が設けられている。誤った組付けが行われると、この隆起部34にシャフト3の1つの歯が当たる。
【0053】
Cに示された解決手段の場合には、シャフト3に1つまたは2つの隆起部35が、対応する個所で歯すき間2つ分のスペースに設けられる。誤った組付けが試みられると、当該隆起部35に可動プーリ5の歯が当たる。
【0054】
本発明によれば、可動プーリ5の内歯列を歯車形削り(Abwaelzstossen)するための工具が、欠落した両歯のための工具デザイン、つまり歯2つ分を加えて10歯しか有しておらず、かつ相応して小さな直径しか有していないので、製作時にこの工具はプラネタリピニオンのように可動プーリ5の孔内で3回転しながら転動し、このときに両歯が存在していた場合に得られるはずの合計30の歯から、周面に3回形成された特別なデザインを差し引いた数の歯をもたらす(歯の数は例として挙げているに過ぎない)ことにより、上記圧刻部を特に経済的に実現することができる。
【0055】
同様に、シャフト3の外歯列の製作のためには、欠落した歯の分も含めて10、20、30または相応してそれ以上の数の歯を有する工具が使用される。これによって、一度きりの工具コスト以外には実質的に付加的なパーツコストはかからない。
【0056】
本発明は、特に高い変速機トルクにおいて、歯列27の範囲において可動プーリ5を通ってピストンシリンダユニット17へオイルを案内するオイル案内を有するあらゆるCVTプーリセットにおいて使用可能であるので有利である。
【0057】
本発明は、図示されていない出力側の円錐形プーリセットの相応する個所に対しても同じく適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】円錐形プーリ式巻掛け変速機の部分図である。
【図2】本発明の1実施例を示す、ほぼ図1に相当する図である。
【図3】図2のIII−III線に沿った部分的な断面図である。
【図4】図3のIVで示した範囲の拡大図である。
【図5】図3のVで示した範囲の拡大図である。
【図6】別の実施例を示す、III−III線に沿った断面図である。
【符号の説明】
【0059】
1 円錐形プーリ式巻掛け変速機
2 リンクプレートチェーン
2a リンクプレートチェーンの半径方向内側の位置
3 シャフト
4 固定プーリ
5 可動プーリ
6 歯車
7 玉軸受け
8 ディスク
9 シャフトナット
10 トルクセンサ
11 軸方向で定位置の拡開ディスク
12 軸方向で移動可能な拡開ディスク
13 拡開ディスク機構
14 ボール
15 第1の圧力室
16 第2の圧力室
17 ピストンシリンダユニット
18 第1の圧力室
19 第2の圧力室
20 (3つの)通路(供給部)
21 通路(流出側)
22 センタリング面
23 騒音減衰装置
24 (真ん中の)孔
25 横方向孔
26 旋削加工部
27 歯列
28 接続孔
29 中空室/チャンバ
30 制御孔
31 栓体
32 皿ばね
33 通路
34 隆起部
35 隆起部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円錐形プーリ式巻掛け変速機(1)であって、入力側の円錐形プーリペアと出力側の円錐形プーリペアとが設けられており、両円錐形プーリペアが、それぞれ1つの固定プーリ(4)と1つの可動プーリ(5)とを有しており、該固定プーリ(4)と該可動プーリ(5)とが、それぞれ入力側および出力側のシャフト(3)に配置されていて、トルク伝達のための巻掛け手段(2)を介して結合可能である形式のものにおいて、前記シャフト(3)のうちの少なくとも一方のシャフト(3)が、該シャフト(3)の長手方向に延びる少なくとも1つの孔(20)を有しており、該孔(20)を起点として、前記シャフト(3)の外周面にまで延びる少なくとも1つの斜孔または横方向孔のような孔(25)が設けられており、該孔(25)の、前記シャフト(3)の外周面における出口が、可動プーリ(5)の軸方向位置とは無関係に可動プーリ(5)によってカバーリングされる範囲に配置されていることを特徴とする円錐形プーリ式巻掛け変速機。
【請求項2】
少なくとも1つの固定プーリ(4)が、シャフト(3)とワンピースに結合されている、請求項1記載の円錐形プーリ式巻掛け変速機。
【請求項3】
可動プーリ(5)が、相対回動不能に、ただし軸方向移動可能に歯列(27)を介してシャフト(3)に結合されている、請求項1または2記載の円錐形プーリ式巻掛け変速機。
【請求項4】
前記シャフト(3)の外周面における前記孔(25)の出口が、前記歯列(27)の範囲に配置されている、請求項3記載の円錐形プーリ式巻掛け変速機。
【請求項5】
孔出口の範囲で歯が欠落している、請求項1から4までのいずれか1項記載の円錐形プーリ式巻掛け変速機。
【請求項6】
可動プーリ(5)の内径に沿って設けられた歯のうち、孔出口に隣接した2つの歯が欠落している、請求項1から5までのいずれか1項記載の円錐形プーリ式巻掛け変速機。
【請求項7】
全周にわたって複数の孔出口が設けられている、請求項1から6までのいずれか1項記載の円錐形プーリ式巻掛け変速機。
【請求項8】
複数の孔出口が、全周にわたって均一に分配されている、請求項7記載の円錐形プーリ式巻掛け変速機。
【請求項9】
1つの円錐形プーリペアの可動プーリ(5)と固定プーリ(4)とが、周方向で互いに対応付けられて配置されている、請求項1から8までのいずれか1項記載の円錐形プーリ式巻掛け変速機。
【請求項10】
可動プーリに設けられた内歯列の範囲に、シャフト(3)の欠落した歯の個所に係合する隆起部(34)が設けられている、請求項9記載の円錐形プーリ式巻掛け変速機。
【請求項11】
シャフト(3)の外径の範囲に、可動プーリ(5)の欠落した歯の範囲に係合する少なくとも1つの隆起部(35)が設けられている、請求項9または10記載の円錐形プーリ式巻掛け変速機。
【請求項12】
請求項1から11までのいずれか1項記載の円錐形プーリ式巻掛け変速機(1)を製造するための方法において、シャフト(3)の外歯列および/または可動プーリ(5)の内歯列を製作するための工具が、周方向で見てプロファイルの一部しか製作せず、別の部分を製作するためには所定の角度だけ回転させられることを特徴とする、円錐形プーリ式巻掛け変速機を製造するための方法。
【請求項13】
請求項1から11までのいずれか1項記載の円錐形プーリ式巻掛け変速機が設けられていることを特徴とする車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2008−510112(P2008−510112A)
【公表日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−526198(P2007−526198)
【出願日】平成17年8月11日(2005.8.11)
【国際出願番号】PCT/DE2005/001413
【国際公開番号】WO2006/018010
【国際公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【出願人】(390009070)ルーク ラメレン ウント クツプルングスバウ ベタイリグングス コマンディートゲゼルシャフト (236)
【氏名又は名称原語表記】LuK Lamellen und Kupplungsbau  Beteiligungs KG
【住所又は居所原語表記】Industriestrasse 3, D−77815 Buehl, Baden, Germany
【Fターム(参考)】