説明

円錐摩擦車リング式無段変速装置の変速制御装置

【課題】リングの傾斜角を検知するステア角制御によっては、リングの検知ステア角に誤差及びバラツキがあり、リングの傾斜角による変速制御の精度が十分でない。
【解決手段】出力側摩擦車の回転数及びリングの軸方向位置から求めたリングの回転数と、リングの軸方向位置変化とからリングのステア角を算出し、ステア角制御のリングの検知ステア角を上記算出したステア角により補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円錐摩擦車リング式無段変速装置(コーンリング式CVT)において、リングを傾斜することにより変速する変速制御装置に係り、エンジン(内燃エンジン)若しくは電気モータ(電気自動車)、又はエンジン及び電気モータ(ハイブリッド車輌)を駆動源とする自動車に搭載して好適なコーンリング式CVTの変速制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
コーンリング式CVTは、互いに平行な軸線上に、大径側と小径側とが逆になるように配置された円錐形状の入力側摩擦車及び出力側摩擦車と、これら両摩擦車の一方(例えば入力側摩擦車)を囲むようにして両摩擦車の対向する傾斜面に挟持されるリングと、を備えており、上記リングを軸方向に移動して両摩擦車の接触位置を変更することにより無段に変速される。
【0003】
従来、上記リングの回転平面を上記軸線に対して揺動(ステア)することにより、該角度(ステア角)に基づきリングが軸方向に移動して変速する変速制御装置が提案されている(特許文献1及び2参照)。
【0004】
特許文献1及び2のコーンリング式CVTの変速操作部材は、リングを一方外側を略々180度に亘って取り囲む調節ブリッジを有しており、該調節ブリッジの両端部に配置された案内ローラに上記リングが挟持されて、上記リングは、回転方向移動自在に支持される。上記調節ブリッジは、前記円錐摩擦車(入力側摩擦車)の円錐傾斜角に沿って延びる1対のガイド棒に移動自在に支持されており、上記ガイド棒を有する保持器が、前記入力側及び出力側の両摩擦車の軸線を通り、かつ該軸線に直交する線上に配置された枢支軸に揺動自在に支持され、電気モータ等のアクチュエータが上記保持器を所定角度揺動(ステア角)することにより、上記リングの回転平面が、前記摩擦車の軸線に対して上記ステア角となって、該リングが、入力側及び出力側の両摩擦車との間で上記ステア角にて接触して、該ステア角平面でのリングの回転により該リングは自動的に軸方向に移動して、両摩擦車との接触位置を変更することにより変速する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−331935号公報
【特許文献2】特表2007−515607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記コーンリング式CVTの変速制御装置は、前記リングが目標変速比(要求レシオ)に向うようにアクチュエータに要求ステア角が出力され、アクチュエータは、該要求ステア角になるように保持器、即ちリングの回転平面を所定揺動角に操作して、変速制御される。
【0007】
この際、リングの揺動位置(ステア角)をセンサに検出しても、又はステッピングモータ等のアクチュエータの出力パルス等によりステア角を制御するものにあっても、該ステア角の誤差及び初期位置(ステア角0の位置)にバラツキにより、目標変速比(レシオ)を追従することができず、例えば車輌制御にあっては、目標とする最適なエンジン回転数を狙えずに、燃費が最良となる特性ポイントに沿う走行制御を行うことができない。
【0008】
また、上記ステア角がばらつくために要求通りの変速速度が実現できず、例えばキックダウン操作時に引き込み感を生ずる等のドライバビリティを悪くしたり、停止時前に上記リングをアンダドライブ(U/D)位置に戻しきれない状況になる場合を生ずる等、フェールセーフにも影響が出る虞がある。
【0009】
そこで、本発明は、リングの軸方向位置の移動変化量及びリング回転速度からリングのステア角を算出し、これによりアクチュエータによるステア角制御を補正し、もって上述した課題を解決したコーンリング式CVTの変速制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、互いに平行な軸線上に大径側と小径側とが逆になるように配置された円錐形状の入力側摩擦車(2)及び出力側摩擦車(3)と、これら両摩擦車の一方を囲むようにして両摩擦車の対向する傾斜面に挟持されるリング(5)と、該リングの前記軸線に対するステア角を操作して前記両摩擦車の回転に伴い該リングを軸方向移動する変速操作機構(12)と、該変速操作機構を作動するアクチュエータ(6)と、を備えてなる円錐摩擦車リング式無段変速装置(1)の変速制御装置(11)において、
前記アクチュエータ(6)を、前記リング(5)の検知ステア角(θ’)が要求ステア角になるように制御するステア角制御にあって、前記検知ステア角を、前記リングの軸方向位置変化(Δx)と前記リングの回転速度(V)から算出された前記リングのステア角(θ)により補正してなる、
ことを特徴とする円錐摩擦車リング式無段変速装置の変速制御装置にある。
【0011】
なお、上記リングの検知ステア角は、エンコーダ等のセンサにより該リングのステア角度を検出しても、例えばアクチュエータがステッピングモータであってその入力パルスにより該アクチュエータの動き量を検出してもよい。
【0012】
前記補正した値を学習してマップに格納して、該マップに基づき前記アクチュエータ(6)を制御してなる。
【0013】
前記リング(5)の検知ステア角(θ’)が、前記変速操作機構(12)に配置されたセンサにより検知した角度である。
【0014】
前記リングの軸方向位置が、前記変速操作機構(12)に配置されたセンサにより検知した軸方向位置である。
【0015】
前記リングの軸方向位置が、前記入力側摩擦車(2)及び出力側摩擦車(3)の回転数(Ni,No)に基づき算出されてなる。
【0016】
なお、該算出によるリングの軸方向位置は、上記入力側摩擦車及び出力側摩擦車の回転数による実変速比のみによるものに限らず、入力トルク、トラクションオイルの温度等により推定されるリングのスリップ率を勘案してもよい。また、上記センサによるリング軸方向位置を、上記実変速比から算出したリング軸方向位置により補正してマップ化してもよい。
【0017】
前記リングの回転速度(V)は、前記入力側摩擦車(2)又は前記出力側摩擦車(3)の回転数と、前記リング(5)の軸方向位置(x)により算出されてなる。
【0018】
前記学習によるマップは、前記リングの作用するスピントルクを考慮したマップである。
【0019】
なお、上記カッコ内の符号は、図面と対照するためのものであるが、これにより特許請求の範囲の記載に何等影響を及ぼすものではない。
【発明の効果】
【0020】
請求項1に係る本発明によると、リングの軸方向位置変化とリングの回転速度とにより算出したリングの実際のステア角に基づき検知ステア角が補正されるので、リングのステア角(傾斜角)により変速制御する変速制御装置にあって、検知ステア角の誤差及びバラツキにより変速位置の誤差を減少して、例えば車輌に本コーンリング式CVTを搭載した場合、最適燃費特性のポイントを狙ってエンジンを制御することが可能となり、また目標とする変速速度を実現して、ドライバビリティを向上すると共に、停止時に前記リングを最U/D位置に確実に戻すことが可能となる。
【0021】
請求項2に係る本発明によると、上記補正は、安定した状態での平均化処理して学習するので、検知ステア角を上記学習した補正項により補正して、安定したリングのステア角により素早く変速制御することができる。
【0022】
請求項3に係る本発明によると、リングの検知ステア角は変速操作機構に配置したエンコーダ等のセンサにより検知するので、アクチュエータは各種のものを用いることができ、かつ上記補正により該センサによる検知ステア角を容易かつ正確に補正することができる。
【0023】
請求項4に係る本発明によると、リングの軸方向位置が、変速操作機構に配置されてリングの軸方向位置を実測するセンサにより検知するので、リングの軸方向位置を素早くかつ正確に検知することができる。
【0024】
請求項5に係る本発明によると、リングの軸方向位置は、入力側及び出力側摩擦車の回転数に基づき算出するので、リングの軸方向位置を実測するセンサが不要となる。
【0025】
請求項6に係る本発明によると、リングの回転速度は、出力側摩擦車等の摩擦車の回転とリングの軸方向位置から導かれる該摩擦車のリング接触位置での半径から容易に算出することができる。
【0026】
請求項7に係る本発明によると、例えば出力側のスリップ率を0と仮定して、出力トルクからコーンリング式CVTに作用する軸力が算出され、リングに作用するスピントルクを考慮して補正した値が学習によるマップに格納されるので、より高い精度でリングのステア角を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】コーンリング式CVTの変速制御装置を示す概略図。
【図2】上記変速制御装置のモデル全体図。
【図3】リングの制御理論式を示す図。
【図4】リングステア角の誤差補正した状態を示すタイムチャート及びフローチャート。
【図5】リングステア角の誤差補正を示す図。
【図6】スピントルクによるリングステア角の誤差補正を示す図。
【図7】一部変更した実施の形態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面に沿って本発明の実施の形態について説明する。図1において、1は、車輌用の変速機構を構成する円錐摩擦車リング式無段変速装置(コーンリング式CVT)であって、ケースに支持された互いに平行な2本の軸線に回転自在に配置されかつ大径側と小径側とが逆になるように配置された円錐形状の入力側摩擦車2及び出力側摩擦車3と、これら両摩擦車の一方(本実施の形態にあっては入力側摩擦車2)を囲むようにして両摩擦車の対向する傾斜面に挟持されるリング5と、を有する。リング5は、変速操作機構12(詳しくは前述した特許文献1又は2参照)により、前記2本の軸線を含む平面においてこれら軸線を直交する軸線B上の枢支軸により揺動(ステア)するように制御され、該変速操作機構は、変速制御用アクチュエータ6により上記ステア角が制御される。該アクチュエータは、電動リニアアクチュエータ,油圧シリンダ,回転モータでもよく、かつステッピングモータのように入力信号により回転角が制御できるものでもよい。
【0029】
上記入力側摩擦車2は、クラッチ7を介して駆動源であるエンジン9に連結しており、上記出力側摩擦車3は駆動車輪10に連結している。なお、駆動源は、上記エンジンに限らず、電気モータでも、エンジンと電気モータとのハイブリッドシステムでもよく、また変速機構は、上述したコーンリング式CVT1のみからなるものに限らず、歯車等のギヤ機構を組合せたものでもよい。
【0030】
上記変速制御用アクチュエータ6を駆動制御する制御部(モデル)11には、車軸の制御からの要求レシオ(目標変速比)Rr,入力側摩擦車2の入力回転数Ni,出力側摩擦車3の出力回転数Noが入力されており、更にエンジン回転数から算出される入力トルクTi,上記コーンリング式CVT1が収納されているケースに封入されたトラクションオイルの油温O,リングの軸方向位置であるリング位置レシオx及び上記リングのステア角θ’が入力されている。なお、本実施の形態にあっては、上記リング位置レシオxは、前記変速操作機構12に配置され、リング5の軸方向位置を検知するするセンサからの信号を入力するが、上記入力回転数Niと出力回転数Noとから算出されたギヤレシオ(変速比)により求められる値でもよい。なお、入力トルクTi、入力回転数Ni及びトラクションオイルの温度Oからリングのスリップ率を推定して、上記変速比に該スリップ率を勘案してリングの軸方向位置を算出してもよい。また、上記ステア角(検知ステア角)θ’は、前記変速操作機構12に配置され、上記軸線B上の枢支軸の回転角を検出するエンコーダ等のセンサからの信号が入力されるが、例えばステッピングモータのパルス数等の変速制御用アクチュエータ6の作動量となる該アクチュエータへの制御信号値でもよい。
【0031】
従って、本実施の形態にあっては、制御部11は、要求レシオRrをリング位置レシオxに対比すると共に、それに基づくリングの要求ステア角を上記検知ステア角θに対比して、変速制御用アクチュエータ6を位置制御する。
【0032】
前記検知ステア角θ’は、エンコンダからの信号であっても、変速制御用アクチュエータ6への出力信号値であっても、誤差や初期位置(θ’=0)のバラツキがあり、これにより、上記リング5を正確なステア角により要求ステア角に沿ってステア角制御することが困難である。
【0033】
図2は、上記課題を解決した本発明に係る変速制御装置(モデル)を示す。実際の走行制御にあっては車輌側から又は試験にあっては試験装置から、目標レシオ(要求レシオ)がECU等の変速制御部11に入力される。該変速制御部11には、図1で示したものと同様に、前記リング位置から計算した現在のギヤレシオ(変速比)に上記要求レシオが対比される。
【0034】
そして、変速制御部11において、要求レシオ及びリング位置レシオにより算出された要求ステア角に基づき、ステア角センサからの検知ステア角θ’によるフィードバック制御により変速制御用アクチュエータ6が駆動され、変速操作機構によりリング5が軸線Bを中心に所定角(ステア角)揺動されて、コーンリング式CVT1は、目標エンジン回転数になるように変速制御される。
【0035】
本発明にあっては、上記変速制御部11での要求ステア角の設定に、リング位置の軸方向移動変化及びリング回転数から算出した補正値が関与する(20)。即ち、リング位置xの移動変化量を微分により検出し(x→dx/dt)、また出力側摩擦車(アウトプットコーン)の回転数Noに基づきリング回転数(リング表面速度)に変換して、リングのステア角(sinθ)を算出する。
【0036】
図3にリング制御の理論式が示されている。図3において、出力側円錐摩擦車(アウトプットコーン)3にリング5が所定傾斜角(ステア角)θで接して、変速制御している状態を示す。リング5は、アウトプットコーン3に接触しており、該リング5の外径側表面の速度Vに単位時間Δtを乗じた距離と、それによりステア角θによる単位時間Δtによるリング5の軸方向移動量Δxとの関係は、
(1/V)×(Δx/Δt)=sinθ
となる。ステア角θは、微小角であるので、sinθ≒θであり、Δxは、リング位置xと要求リング位置xreqとの差(x−xreq)となり、式1となる。リングの表面速度Vは、出力側での速度誤差率はゼロとして、インプット側のリングの表面速度VRinと同じになる。式2,式3のように展開して、上記リング表面速度VRinは、式4のようになる。
【0037】
上記単位時間Δtは、比例制御ゲインkP及び積分制御ゲインkIにより式4となり、従って、式1,4,5により、リングステア角θは、式6となる。リング位置xは、リング5の位置をセンサにより直接求めても、入力回転数Niと出力回転数Noとから求めてもよく、各コーン(摩擦車)のリング接触部での半径は、上記リング位置から求められる。
【0038】
なお、上述実施の形態では、リング接触部の回転を出力側摩擦車3の回転数で計算したが、これを入力側摩擦車2の回転数で計算してもよい。
【0039】
そして、図2に示すように、上記理論式4で求められたステア角θは、安定状態で平均化処理される。該平均化処理された上記ステア角θは、前記センサ(エンコーダ)又は変速制御用アクチュエータ6への出力信号値に基づくステア角(検知角度)θ’を補正する。該補正されたステア角が要求ステア角になるようにアクチュエータ6を直接フィードバック制御してもよいが、本実施の形態では、上記補正値が学習制御として記憶される。
【0040】
即ち、変速制御部11にはトルクと回転数による複数の変速マップが納められており、これら変速マップに前記理論式4で算出された補正値が各検知ステア角θ’に対応して格納される。更に、該マップには、前記入力トルクTi,トラクションオイル温度O,アウトプットコーン回転数Noがパラメータとして、リング5に作用するスピントルクに対する補正値並びにリングのスリップ率に対する補正値が格納される。そして、該学習された各補正マップの値が、入力要求レシオと現在レシオから変速マップにより直接導き出されて、誤差,バラツキのない正確な要求ステア角として変速制御用アクチュエータ6に出力する。
【0041】
前記学習制御のマップは、安定状態で平均化処理される。該マップは、レシオ(変速比)が一定でステア角が0である定速走行状態aでの静的補正マップと、レシオ(変速比)が変化してステア角が傾斜している変速走行状態bでの動的補正マップと、を有する。
【0042】
図4は、上述した理論式による補正した学習制御の具体化を示す図である。まず、目標とするエンジン回転数、例えば1000rpm(Nin req=1000rpm)を計算する(S2)。車速から要求レシオ、例えば1.0と計算される(S3)。現在のレシオとの差分から要求ステア角を計算する(S4)。例えば、レシオ0.9(Ratio=0.9)のときに、要求ステア角0.3(Ang req=+0.3)と計算する。走行状態に応じて、上述した理論式4に基づく学習制御により要求ステア角を補正する(S5)。例えば、入力トルク(Tin)が20Nmで、入力回転数(Nin)が900rpmのとき、補正項が−0.1°となり、従ってステア角出力値が0.2°となる。変速制御用アクチュエータ6が上記出力値に基づき作動し、リング5を所定揺動角(ステア角)に傾斜してコーンリング式CVT1を変速する(S6)。該コーンリング式CVT1の変速によりエンジン回転数が目標値(1000rpm)に到達する。
【0043】
上記フローチャートの作動を、図4のタイムチャートで説明する。ステア角において、センサ(ポテンショメータ)又はアクチュエータ6への出力値に基づく検知ステア角θ’がズレており、該検知ステア角θ’は0°を示しているにも拘ず、実際のリングステア角は上記ズレ分だけプラスの位置にある。現在、入力回転数Ninは、破線に示すように(実線と重なっている)9000rpmにあり、レシオ(変速比)は0.9、変速は40Kphにある。この状態から、上述したフローチャートに示すように、エンジン回転数(=入力回転数Nin)が目標値1000rpmになるようにするには、レシオが1.0、実際のステア角が+0.3°になるように制御する必要があるが、上述した通り、検知ステア角θ’が実際のリングのステア角とズレており、該ズレたステア角に基づき制御すると、一点鎖線に示すように、レシオは、1.0を越え、目標とする入力回転数は1000rpmを越えてしまう。本発明にあっては、実線で示すように、理論式から計算された実際のステア角に近い値がマップに格納されており、該理論値に基づく補正値(−0.1)により検知ステア角が補正される。即ち、検知ステア角+0.3に補正項−0.1°が加減され、該検知ステア角が、破線で示すように+0.2になるように、変速制御用アクチュエータ6は、該信号に基づきフィードバック制御によりリングの傾斜角(ステア角)θを制御する。
【0044】
これにより、検知ステア角θ’に誤差があるとしても、リング5は実際の目標ステア角に近い値に制御され、実線で示すように、レシオが、目標レシオ1.0になるように変速制御されて、入力回転数(エンジン回転数)は、目標とする1000rpmになる。
【0045】
図5は、上述した変速制御装置を具体化した図である。車輌等からの要求レシオに対して、車輌のECU制御部11aが、リング位置センサ15からのリングの現在軸方向位置xに基づく現在のレシオとの差分から要求ステア角が算出される。この際、出力回転センサ16からの出力回転数に基づくリング回転数とリング位置の移動変化量とから算出される理論式4に基づく学習制御により要求ステア角が設定され、該信号がCAN通信17により、ドライバ制御部11bに送信される。ドライバ制御部11bから、上記要求ステア角に基づく実ステア角信号が変速制御用アクチュエータ6に送られて、該アクチュエータ6は、リング(変速操作)機構12を介してコーンリング式CVT(変速機構)1のリング5を、前記線B上を中心に前記円錐摩擦車の軸線に対して所定傾斜角(ステア角)に駆動する。該リング5のステア角は、エンコーダ13により検出されて、該検出値がドライバ制御部11bに戻されて、アクチュエータ6は、上記要求ステア角になるようにフィードバック制御される。
【0046】
上記リンク(変速操作)機構12により傾斜されて、リング5の回転により自動的に軸方向に移動するリング5の位置は、実レシオとしてリング位置センサ15により検出され、該センサ15からの軸方向位置信号xにより、ECU制御部11aにおいて、現在のCVT1のレシオ及びリング5が接触するアウトプットコーン3の半径が算出される。
【0047】
また、変速制御用アクチュエータ6には、実験値に基づくスピントルク情報が入力される。リングに作用するスピントルクは、該リングに作用する軸力により変化する。リングは、入力側摩擦車2及び出力側摩擦車3との間に所定挟圧力の作用下で接触して、トラクションオイルを介在した極圧状態で摩擦接触するが、上記所定挟圧力の基となる軸力は、コーンリング式CVT1に作用する負荷トルクに対応するようにカムにより発生する。図6に示すように、入力(又は出力)回転数Ni(又はNo)が自動補正制御部20に入力されると共に、エンジントルク及びレシオ等により算出される出力トルクが算出される。出力側のスリップ率を0として、該出力トルクに基づき軸力が計算され、該軸力が上記自動補正制御部20に入力される。そして、軸力により、リングに作用するスピントルクが算出され、該スピントルクに基づくステア角の補正値が前記マップに格納される。また、リング軸方向位置と入力側摩擦車及び出力側摩擦車実変速比によりリングのスリップ量が算出され、該スリップ量に基づく補正値がトラクションオイルの温度と共に前記マップに格納される。該マップから前記回転数、入力トルク及びレシオから導き出されたステア角が、上述した変速制御用アクチュエータ6又はそのドライバ制御部11bに出力される。
【0048】
図7は、一部変更した図2と同様な図である。本実施の形態は、変速制御部11’(図5のECU制御部11aに相当)に変速制御用アクチュエータ6のドライバ制御部(図5の11b参照)を組込んだものである。これにより、リング軸方向位置xから計算したレシオにより要求ステア角を算出すると共に、アクチュエータ6から検知ステア角θ’がフィードバックされ、該変速制御11’からアクチュエータ6には駆動用の電流が出力される。なお、本実施の形態にあっても、理論値による補正に基づく学習制御等は、図2で示す実施の形態と同様であるので、同じ図を示すことにより説明を省略する。
【符号の説明】
【0049】
1 円錐摩擦車リング式無段変速装置(コーンリング式CVT)
2 入力側摩擦車
3 出力側摩擦車
5 リング
6 アクチュエータ
12 変速操作(リンク)機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに平行な軸線上に大径側と小径側とが逆になるように配置された円錐形状の入力側摩擦車及び出力側摩擦車と、これら両摩擦車の一方を囲むようにして両摩擦車の対向する傾斜面に挟持されるリングと、該リングの前記軸線に対するステア角を操作して前記両摩擦車の回転に伴い該リングを軸方向移動する変速操作機構と、該変速操作機構を作動するアクチュエータと、を備えてなる円錐摩擦車リング式無段変速装置の変速制御装置において、
前記アクチュエータを、前記リングの検知ステア角が要求ステア角になるように制御するステア角制御にあって、前記検知ステア角を、前記リングの軸方向位置変化と前記リングの回転速度から算出された前記リングのステア角により補正してなる、
ことを特徴とする円錐摩擦車リング式無段変速装置の変速制御装置。
【請求項2】
前記補正した値を学習してマップに格納して、該マップに基づき前記アクチュエータを制御してなる、
請求項1記載の円錐摩擦車リング式無段変速装置の変速制御装置。
【請求項3】
前記リングの検知ステア角が、前記変速操作機構に配置されたセンサにより検知した角度である、
請求項1又は2記載の円錐摩擦車リング式無段変速装置の変速制御装置。
【請求項4】
前記リングの軸方向位置が、前記変速操作機構に配置されたセンサにより検知した軸方向位置である、
請求項1ないし3のいずれか記載の円錐摩擦車リング式無段変速装置の変速制御装置。
【請求項5】
前記リングの軸方向位置が、前記入力側摩擦車及び出力側摩擦車の回転数に基づき算出されてなる、
請求項1ないし3のいずれか記載の円錐摩擦車リング式無段変速装置の変速制御装置。
【請求項6】
前記リングの回転速度は、前記入力側摩擦車又は前記出力側摩擦車の回転数と、前記リングの軸方向位置により算出されてなる、
請求項1ないし5のいずれか記載の円錐摩擦車リング式無段変速装置の変速制御装置。
【請求項7】
前記学習によるマップは、前記リングの作用するスピントルクを考慮したマップである、
請求項1ないし6のいずれか記載の円錐摩擦車リング式無段変速装置の変速制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−163181(P2012−163181A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−25469(P2011−25469)
【出願日】平成23年2月8日(2011.2.8)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】