説明

再生パワー調整方法および光情報記録再生装置および情報記録媒体

【課題】 光ディスクの超解像技術では、媒体の光吸収率のむら,再生線速,周囲の温度といった再生条件に応じて最適な再生パワーが異なるため、常に最適な再生信号を得るためには再生動作中に再生パワーを調整する必要がある。再生パワーの調整は、再生動作中に取得可能な信号と媒体固有のパラメータを用いて行う方法があるが、媒体固有のパラメータを固定値として再生パワー調整を行う場合、再生条件の変化の種類によっては、再生パワー調整で誤った最適再生パワーを算出してしまい、最適な再生が実現できない。
【解決手段】 光ディスク又は光ディスク装置に保持してある、および/又は光ディスク装置が生成する、再生条件と媒体固有のパラメータのテーブルを参照し、再生条件に応じて再生パワー調整に用いる媒体固有のパラメータを変更し、再生パワー調整を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は再生パワー調整方法および光情報記録再生装置および情報記録媒体に関し、特に、光学分解能よりも小さいサイズのピットをレーザ照射による熱を利用して再生する超解像技術における再生パワー調整方法、ならびに再生パワーを調整する手段を有する光情報記録再生装置、ならびに再生パワー調整に用いる情報を保持している情報記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
情報記録媒体として、光ディスクが広く普及している。光ディスクにおいては、レーザ光を対物レンズで集光し、光ディスクの情報記録層に照射することで信号の記録及び記録された信号の再生が行われる。光ディスクへの集光スポットのサイズはレーザ光の波長λと対物レンズのレンズ開口数NAを用いたλ/NAで表され、このスポットサイズを用いて同じ長さのデータピットとスペースの繰り返しパターンを再生した場合、有限の再生信号振幅が得られるデータピットの最小サイズはλ/4NAである。よって、このλ/4NAよりも小さいサイズは光学分解能よりも小さいと呼ばれる。CD,DVD,HD-DVD,Blu-ray Disc(BD)に代表される従来の光ディスク技術では、データピットの最小サイズは光学分解能以上となるように設定されている。従来の光ディスクの高記録密度化は、レーザ光の短波長化により達成されてきた。例えば、記憶容量0.65GBのCDではレーザ光の波長は780nmであり、記録容量25GBのBDでは、レーザ光の波長は405nmである。これに加えて、対物レンズのレンズ開口数NAを0.5から0.85へと大きくすることで、集光スポットのサイズを小さくし、高記録密度化が実現された。また、DVD,HD-DVD,BDでは光ディスク一枚あたりの容量を増加させるために、情報記録層を二層設ける多層化も行われ、それぞれ8.5GB,30GB,50GBの大容量化を実現した。多層ディスクの再生は、それぞれの層に照射レーザの焦点を合わせることで行われる。
【0003】
上記以外の高記録密度化を実現方法の一つとして、超解像技術が提案されている。超解像技術では、光ディスクの媒体に何らかの機構を設けることで、サイズが光学分解能よりも小さなピットの再生を可能とする。例えば、再生専用(ROM; Read Only Memory)型基板に相変化材料が製膜された光ディスクに対しレーザを照射すると、光スポット内に形成される熱分布により、スポット内の相変化材料の一部のみが融解し、当該一部のみの光学特性、例えば屈折率や反射率などが変化する。光学特性が変化した領域を含む箇所に再生光を照射すると、変化しない領域を含まない箇所に比べて反射光の状態が大きく変化するため、光スポットよりも小さなサイズのピット、すなわち光学分解能よりも小さなサイズのピットを再生することが可能となる。このように、超解像技術は再生時のレーザ照射の熱を利用して微小ピットの再生を行う技術である。ここで、超解像を実現するために用いられた、温度によって光学特性が変化する物質は超解像物質と呼ばれ、光ディスクに製膜した超解像物質は超解像膜と呼ばれる。また、超解像再生において、上述した光スポット照射領域内の媒体の光学特性が変化した領域は超解像スポットと呼ばれる。また、光学分解能以上のサイズのピット又は記録マークを再生する方式は常解像再生と呼ばれる。CD,DVD,HD-DVD,BDなど、従来商品化された光ディスク技術における再生は全て常解像再生である。
【0004】
超解像技術における超解像再生では、再生パワーによって再生信号品質が変化することが知られている。これは、再生パワーによって超解像スポットの状態、例えばサイズ,形状などが変化するためである。従って、超解像再生では超解像スポットの状態が最適となり、最適な再生を実現する最適再生パワーが存在する。最適再生パワーは、媒体の超解像物質の種類や感度、再生時の再生線速や環境温度などに応じて変化する。なぜなら、上記のいずれかが異なる場合、超解像スポットの最適な状態は異なり、それぞれの最適な超解像スポットを得るために必要な再生レーザの照射光量が異なるためである。上述の媒体の超解像物質の種類や感度、再生時の再生線速や環境温度のように、超解像再生の最適再生パワーを変化させる要因を総じて、以降では再生条件と呼ぶこととする。
【0005】
最適再生条件が決まれば、かかる再生条件における最適再生パワーを用いて超解像再生を行うことで、最適な再生が実現されるが、実際の光ディスクの再生では再生動作中に再生条件が変化することがある。例えば、光ディスクの半径に応じて媒体の感度が異なる場合があり、これは超解像膜の製膜時に内周側と外周側で膜厚が異なる場合などに起きる。このような場合、再生動作中に再生パワーを随時最適再生パワーに変更する再生パワー調整が必要となる。
【0006】
特許文献1には、光磁気記録を用いた超解像再生において、再生パワーを変えてテストデータを再生し、発生するエラーレートがエラー訂正手段によって訂正可能な程度以下になるような再生パワーと、当該再生パワーに対応する分解能(最長信号に対する最短信号の振幅比)をメモリに格納しておき、超解像再生中は再生信号から分解能を計算し、テストリード時に取得された分解能(以降、分解能目標値)と比較し、分解能が分解能目標値から変動した場合には、目標値に一致するように再生パワーを変更する。これにより、再生動作中の分解能は常に一定となり、再生パワーは常に最適再生パワーとなるため、最適な再生が実現される。
【0007】
特許文献2には、超解像再生の再生条件変動を観測する観測指標として、再生パワーで規格化したキャリアレベルを用いる再生パワー調整方法が開示されている。特許文献2に開示される発明では、再生パワーで規格化した信号レベル(キャリアレベル)が目標値と一致するように再生パワーが調整される。ここで、信号レベルも再生動作中に再生信号から取得可能な量であり、超解像再生条件の観測指標として使用可能である。
【0008】
以上のように、超解像再生では、再生パワーを再生条件に応じて常に最適再生パワーに変更する再生パワー調整を行うことで、最適な再生が実現される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002-92994
【特許文献2】特開2001-160232
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記述べたように、超解像再生では再生条件によって最適再生パワーが変化するため、最適な再生を実現するためには再生パワー調整を行う必要がある。しかし、再生条件の変化の種類によっては、上述した再生パワー調整では最適な再生を実現できない場合がある。
【0011】
超解像再生で上述した再生パワー調整を行った場合の、再生線速とbERの関係の一例を図1に示す。モニタパラメータには、最長信号と最短信号の中心値のズレ量を表すアシンメトリを用いており、図中には各再生線速におけるアシンメトリ値も示す。ここで、「モニタパラメータ」とは、分解能やキャリアレベルのように、超解像スポットの状態を反映し、再生動作中に常に取得可能な再生パワー調整に用いられるパラメータの意味である。以降では、これらのパラメータを総じてモニタパラメータと呼ぶこととする。
【0012】
図1に示す再生パワー調整は、再生線速度5m/sにおいて最適な再生信号が得られるアシンメトリ-1.5%を目標値として行った。線速5〜20m/sにおいてはbERが再生限界bER=1×10-5以下であり再生が実現できているが、線速25〜50m/sではアシンメトリは常に目標値と一致しているにも関わらずbERが再生限界bER以上であり最適な再生が実現できていない。この原因は、再生パワー調整に用いるアシンメトリの目標値に固定の値を使用したことにあり、以下に理由を述べる。
【0013】
再生線速が変化するとき、最適再生パワーにおける超解像スポットの最適な状態、特に形状は異なる。具体的には、超解像スポットは光スポット内の媒体の高温領域であるため、低線速では円形に近いが、高線速になるとスポット進行方向の後方に尾を引いた形状となる。このため、高線速では低線速に比べ符号間干渉が起こり易く、低線速と高線速で同じ長さの信号を再生した場合、信号レベルが異なる。アシンメトリは信号レベルから算出される量であるため、再生線速が異なるとアシンメトリの目標値も異なることとなる。従って、図1の再生パワー調整において、高線速で最適な再生が実現できないのは、アシンメトリの目標値を固定したいたためである。
【0014】
再生パワーの調整の用いるモニタパラメータをアシンメトリではなく、分解能,キャリアレベル,信号振幅,変調度,信号レベルなどに変更した場合も、上述と同様な理由で、再生線速が変わるとき、最適な再生が実現できないことが明らかである。
【0015】
また、上述では再生条件の変化として再生線速を変化させたが、再生線速以外の変化、例えば媒体の感度,構造や材料,環境温度が変化した場合も、モニタパラメータの目標値を一定にしたままの再生パワー調整では最適な再生が実現できない場合がある。例えば、各層の超解像膜の材料が異なる二層媒体の再生において、再生層を変更した場合を考える。この場合、各層で熱拡散速度が異なり、再生時の超解像スポットの形状は異なるため、最適な再生におけるモニタパラメータの目標値は異なり、目標値を固定値としたままでは両層で最適な再生信号を得ることができない。また、環境温度が変化した場合も、情報層の熱の拡散速度が変化し、上述と同様な理由によって、モニタパラメータの目標値を固定値とした再生パワー調整では最適な再生を実現できない。
【0016】
以上のように、超解像再生において、モニタパラメータの目標値を固定値として再生パワー調整を行うと、再生条件が変化した場合に最適な再生が実現できない場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上述した超解像再生の再生パワー調整における課題は、再生条件に応じて再生パワー調整に用いるパラメータを変更することで解決される。すなわち、光情記録再生装置及び/または光情報記録媒体が保持している再生条件と対応付けられたモニタパラメータの目標値を含むOPC(Optimum Power Control)パラメータの情報を参照し、再生条件に応じてOPCパラメータを変更し、再生パワー調整を実行することで解決される。ここで、OPCパラメータとは最適再生パワーの決定時に用いられる媒体固有の固定値のパラメータのことで、モニタパラメータの目標値、再生パワー調整に用いられるパラメータの固定値などを意味する。
【0018】
また、本発明を以下の側面から捉えることもできる。従来の再生パワー調整方法においては、超解像再生の状態を示す観測指標と再生パワーの関係が固定的であるという仮定、つまり、観測指標と再生パワーの関係が固定的な関係式で一意に表現されると仮定した上で、再生条件が変化した場合、当該固定的な関係式上で再生パワーの最適値を探索している。一方、本発明においては、超解像の再生状態が変動した場合、観測指標と再生パワーの関係そのもの、つまり関係式自体が変動すると考え、再生条件変動後の観測指標と再生パワーの関係自体を探索しなおし、再探索された関係に基づき、再生パワーを調整する。
【0019】
より具体的には、モニタパラメータと再生パワーの探索後の関係上で、モニタパラメータが再生条件の変動前の値に一致するように再生パワーを調整する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、光学分解能よりも小さなサイズのピットをレーザ照射による熱を利用して再生する超解像技術の再生において、常に最適な再生信号の得られる再生パワー調整方法、または光ディスク装置、または光ディスク媒体を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】超解像再生において、アシンメトリが固定の目標値と一致するように再生パワーを調整した場合の、再生線速と再生信号のbER及びアシンメトリ値の関係を表す一例の図。
【図2】再生条件A及びBにおける再生パワーとアシンメトリの関係を、所定の再生範囲毎に一次関数で近似した結果を表す一例の図。
【図3(A)】再生条件の変化によって、再生パワーとモニタパラメータの関係特性を表す一次関数が変化することを示す一例の図。ここで、再生条件の変化前後での一次関数は、再生パワー下限値Pmin及び再生パワー上限値Pmax及びモニタパラメータ目標値Xt及びモニタパラメータ切片Xiが等しい。
【図3(B)】再生条件の変化によって、再生パワーとモニタパラメータの関係特性を表す一次関数が変化することを示す一例の図。ここで、再生条件の変化前後での一次関数は、モニタパラメータ目標値Xt及びモニタパラメータ切片Xiが異なる。
【図4】光ディスクの管理情報領域の構成を表す一例の図。
【図5】再生条件に対応するOPCパラメータをテーブル化した、OPCパラメータテーブルを表す一例の図。
【図6】光ディスク装置の主要な構成を表す一例の図。
【図7】再生パワー調整を含む一連の再生動作のフローチャートの一例。
【図8】再生条件及びOPCパラメータが新たに追加されたOPCパラメータテーブルを表す一例の図。
【図9】光ディスクの超解像再生において、OPCパラメータを固定して再生パワー調整を行った場合と、再生条件に応じてOPCパラメータを変更して再生パワー調整を行った場合の、再生線速と再生信号のbERの関係を表す一例の図。
【図10】光ディスクの超解像再生において、OPCパラメータを固定して再生パワー調整を行った場合と、再生条件に応じてOPCパラメータを変更して再生パワー調整を行った場合の、再生条件と再生信号のbERの関係を表す一例の図。
【図11】複数のモニタパラメータを用いて再生パワー調整を実行する場合の、最適再生パワー算出の加重平均に用いる重み付け規則を表す一例の図。
【図12】超解像膜を設けた二層SIL媒体のL0層の再生において、再生パワーを一定にした場合の、媒体一周内の位置と再生信号のJitter及び振幅の関係を表す一例の図。
【図13】超解像膜を設けた二層SIL媒体のL0層の再生において、再生パワー調整を実行した場合の、媒体一周内の位置と再生信号のJitter及び振幅の関係を表す一例の図。
【図14】実施例10の媒体において、PR(1,2,-4,2,1)を用いて信号処理した場合の再生パワーPrとビットエラー率bERの関係。
【図15】実施例10の媒体において、再生パワーPr=1.6mWとした際の、PR(1,2,X,2,1)を用いて信号処理した場合のXとビットエラー率bERの関係。
【図16】実施例10を実現するドライブの信号処理システムのブロック図。
【図17】実施例11の二層媒体のL1層において、PR(1,2,2,-3,1)を用いて信号処理した場合の再生パワーPrとビットエラー率bERの関係。
【図18】実施例11の二層媒体のL1層において、再生パワーPr=1.25mWとした際の、PR(1,2,2,X,1)を用いて信号処理した場合のXとビットエラー率bERの関係。
【発明を実施するための形態】
【0022】
上述した本発明の実施形態を説明する前に、その基本構成について説明する。
【0023】
以下の実施例では、超解像再生可能な超解像光ディスクを光ディスク装置により再生する。ここで、超解像光ディスクの管理情報は常解像再生で情報が取得可能な信号で記録されており、ユーザ情報は超解像再生が必要な信号で記録されている。
【0024】
光ディスクに記録されたユーザ情報を再生するに先立ち、光ディスク装置は従来の光ディスク技術と同様な再生調整、例えばレンズチルトや球面収差等の調整を行い、光ディスクの管理情報を再生し、超解像再生動作の調整を行う上で必要な情報、少なくとも各再生条件に対応したOPCパラメータを取得する。光ディスク装置は取得した管理情報に基づいてレーザ照射位置を再生する位置へ移動し、かかる領域を超解像再生するために、上記従来の再生調整に加え、超解像再生を行うための再生パワーの調整を行う。この再生パワーの調整は、再生条件に対応した上述のOPCパラメータ及び上述のモニタパラメータ及び現在の再生パワーを用いて、モニタパラメータがモニタパラメータの目標値と一致するように行われ、再生中も必要に応じて行われる。
【0025】
モニタパラメータとしては、分解能,キャリアレベル,アシンメトリ,変調度,信号レベルのそれぞれ、またはこれらの組み合わせなどが使用できる。分解能は、例えば最長信号に対する最短信号の振幅比として算出される。キャリアレベルは、例えば最短信号のキャリアレベルを再生パワーで規格化した値として算出される。アシンメトリは、最短信号と最長信号の振幅中心の差を最長信号の振幅で割った値として算出される。変調度は、振幅を上レベルで割った値として算出される。信号レベルは、例えばスペースの最長信号の信号レベルを再生パワーで規格化した値として算出される。
【0026】
ここで、上述したモニタパラメータは、光ディスクへ照射されるエネルギーの熱効率あるいは超解像膜に吸収される熱量を反映する指標であり、モニタパラメータに基づき再生パワーを最適化することとは、超解像膜に吸収される熱量あるいは熱効率の変動量に基づき照射するエネルギーを補償することである。
【0027】
各種のモニタパラメータと再生パワーとの間には関係(以下、関係特性と称する)があり、各種の関数で表現することができる。再生条件が変化すると、関係特性を表す関数とモニタパラメータの目標値が変化する。従って、再生パワー調整は各再生条件における各関数を用い、モニタパラメータが各再生条件における目標値となるように調整する。
【0028】
上記モニタパラメータと再生パワーとの関係特性は、一次関数や二次関数などに近い場合や、より複雑な場合分けされた関数に近い場合など、モニタパラメータによって様々である。しかし、決められた再生パワーの範囲に応じて場合分けすれば、各再生パワー範囲では一次関数と近似でき、さらに再生条件が固定されていれば、各再生パワー範囲における一次関数も一意に決定される。図2は再生条件A,Bの場合における再生パワーPとアシンメトリAの関係特性を示し、図中には再生パワー範囲で場合分けした一次関数も示してある。再生パワー範囲1〜3に応じて、再生条件Aでは一次関数A1〜A3、再生条件Bでは一次関数B1〜B3が対応している。図2から、各再生パワー範囲では再生パワーとモニタパラメータの関係特性を一次関数で表現でき、この一次関数は再生条件に依存することがわかる。従って、再生パワー調整は、各再生条件に応じた再生パワー範囲と一次関数を用いて、モニタパラメータが目標値となるように実行すればよい。
【0029】
ここで、再生パワー調整のより詳細な方法について説明する。再生パワー調整方法は再生条件の変化の種類によって異なる。以下では再生条件の変化の種類に応じて2通りに分けて、再生パワーの調整方法を説明する。
【0030】
まず、再生条件がmからm’へ変化した際に、一次関数が図3(A)に示すように直線mから直線m’へ変化する場合について説明する。図中で、再生パワー下限値Pmin及び再生パワー上限値Pmaxは一次関数が定義される範囲の下限と上限を示し、X,Xt,Xiはそれぞれモニタパラメータ,モニタパラメータ目標値,一次関数のy切片を表す。それぞれの括弧内の指標は再生条件を表す。また、以降では一次関数のy切片をモニタパラメータ切片Xiと呼ぶ。図3(A)で示す再生条件変化では、再生条件変化前後の直線m及び直線m’のモニタパラメータ目標値Xt,モニタパラメータ切片Xi,再生パワー下限値Pmin,再生パワー上限値Pmaxが等しいことを特徴とする。再生条件変化直後では、モニタパラメータX(m’)が目標値Xt(m’)と異なっており最適な再生が実現できていないことが分かる。そのため、再生パワー調整ではモニタパラメータ目標値Xt(m’)を与える最適再生パワーP(m’)を算出し、再生パワーと設定し直す必要がある。ここで、図3(A)から、再生条件変化直後,再生パワー調整後は以下の式1,2の関係がある。
【0031】
【数1】

【0032】
【数2】

【0033】
αは一次関数の傾きである。図3(A)の再生条件変化においてはPmin(m)=Pmin(m’),Pmax(m)=Pmax(m’),Xt(m)=Xt(m’),Xi(m)=Xi(m’)も成り立っている。これらの関係と式1,2を用いてαを消すように整理すると、次式3が得られる。
【0034】
【数3】

【0035】
式3は再生条件変化後の最適再生パワーP(m’)を与えるため、算出されるP(m’)を再生パワーに設定し直すことで再生パワー調整は実現される。ここで、式3のP(m’)算出に用いられる再生パワーP(m)及びモニタパラメータX(m’)は再生動作中に取得でき、モニタパラメータ目標値Xt(m)及びモニタパラメータ切片Xi(m)は再生条件変化前の再生条件における固定値である。従って、図3(A)に示される再生条件の変化に対しては、再生開始時の再生条件におけるモニタパラメータ目標値Xt及びモニタパラメータ切片Xiを知っておけば、常に式3から最適再生パワーを算出でき、最適な再生が実現できることが分かる。ここで、再生開始時に設定する再生パワーは推奨再生パワーPtと呼ばれ、これは再生開始時の再生条件における最適再生パワーである。
【0036】
次に、上述した場合以外の再生条件の変化について述べる。図3(B)は再生条件変化前後で、直線nと直線n’のモニタパラメータ目標値Xt及びモニタパラメータ切片Xiが異なる場合を示す。この場合も、上述した式1,2は成り立っているが、Xt(n)≠Xt(n’),Xi(n)≠Xi(n’)であるため、式1,2を整理すると次式4となる。
【0037】
【数4】

【0038】
従って、図3(A)の場合とは異なり、再生条件変化後の最適再生パワーP(n’)の算出には、再生条件変化後のモニタパラメータ目標値Xt(n’)及びモニタパラメータ切片Xi(n’)を用いなければならない。このため、図3(B)の再生条件変化に対する再生パワー調整では、再生条件変化後に一旦モニタパラメータ目標値Xt及びモニタパラメータ切片Xiを変更し、式4に従って最適再生パワーP(n’)を算出し、P(n’)を再生パワーに設定し直すことで、再生条件変化後も最適な再生が実現される。ここではモニタパラメータ目標値Xtやモニタパラメータ切片Xiが異なる場合について述べたが、再生パワー下限値Pminや再生パワー上限値Pmaxが異なる場合も、再生条件変化後にPmin及びPmaxを変更する必要があることは言うまでもない。
【0039】
上述した図3(A),(B)の再生条件変化における最適再生パワーの算出式をまとめると次式5となる。
【0040】
【数5】

【0041】
ここで、図3(A)の再生条件変化を表す指標がm、図3(B)の再生条件変化を表す指標がnであり、それぞれ変化後の再生状態はm’,n’と表してある。式5では、再生状態n=n’であるとき(図3(B)の変化がない場合)、最適再生パワーP(n,m’)はOPCパラメータを変更せずに求まり、再生状態n≠n’であるとき(図3(B)の変化がある場合)、最適再生パワーP(n’,m’)はOPCパラメータを変更することで求まる。従って、超解像再生では、式5に基づいて算出される最適パワーを再生パワーの用いる再生パワー調整を行うことで、常に最適な再生が実現される。
【0042】
以上のように、本再生パワー調整では、特定の再生条件及び再生パワー範囲に対応した媒体固有の値、モニタパラメータ目標値Xt,モニタパラメータ切片Xi,推奨再生パワーPt,再生パワー下限値Pmin及び再生パワー上限値Pmaxを用いる。これらは、再生パワー調整における固定のパラメータであり、上述したOPCパラメータに相当する。OPCパラメータのうち、モニタパラメータの目標値Xtは、使用するモニタパラメータの種類に応じて存在し、分解能目標値Rt,キャリアレベル目標値Ct,アシンメトリ目標値At,変調度目標値Mt,信号レベル目標値Ltなどを含む。更に、モニタパラメータ切片Xiとしては、分解能切片Ri,キャリアレベル切片Ci,アシンメトリ切片Ai,変調度切片Mi,信号レベル切片Liなどを含む。
【0043】
上述した図3(B)の場合では、再生条件変化の種類によっては再生パワー調整に用いるOPCパラメータを変更する。このため、光ディスク装置は光ディスクの再生条件とかかる再生条件におけるOPCパラメータが対応付けられた情報を予め保持しているか、または光ディスク装置が再生条件に応じて試し読みを行い、再生条件に対応したOPCパラメータを生成して保持している。再生条件とOPCパラメータが対応付けられた情報とは、例えばテーブル状の情報でもあり、これはOPCパラメータテーブルと呼ぶ。
【0044】
試し読みによるOPCパラメータテーブルの生成は、各再生条件において、複数種類の再生パワーを用いて再生を行い、各再生パワーにおけるモニタパラメータ及びbERを取得し、再生パワーとbERおよびモニタパラメータの関係特性を用いて行われる。例えば再生パワー振り幅の下限値Pmin及び上限値Pmaxは、bERが所定の値と一致する再生パワーP1,P2(P1<P2)を算出し、Pmin=P1,Pmax=P2と決定する。推奨再生パワーPtは、例えばbERが最小となるときの再生パワーとする。モニタパラメータ目標値Xtは、推奨再生パワーPtにおける分解能値とする。モニタパラメータ切片Xiは、推奨再生パワーPt近傍の分解能と再生パワーの関係特性を一次関数で近似し、かかる一次関数における再生パワーがゼロの場合の分解能値とする。
【0045】
OPCパラメータテーブルは光ディスクの所定の領域、例えば管理情報領域、又は光ディスク装置の内部の所定の記憶部に格納されており、再生開始時に光ディスク装置はこれらの情報を読み出し、光ディスク装置の所定の記憶部に格納し、再生パワー調整に用いる。また、光ディスク及び光ディスク装置がOPCパラメータテーブルを保持していない場合、再生開始時に光ディスク装置は試し読みによってOPCパラメータテーブルを生成する。開始時の再生パワーや再生パワー調整に用いるOPCパラメータは、光ディスク又は光ディスク装置から取得したOPCパラメータテーブル、又は光ディスク装置が生成したOPCパラメータテーブルにおける、再生開始時の再生条件におけるOPCパラメータの値を初期値として設定し、再生を開始する。
【0046】
以上説明したモニタパラメータを観測する手段を備えることにより、本実施例の光ディスク装置は、ドライブの再生条件の変化を検出する機能や、光ディスクへ照射されるエネルギーの熱効率あるいは超解像膜に吸収される熱量の変動を検知する機能を実現することが可能となる。また、上記モニタパラメータの検出値と上記OPCパラメータを用いて再生条件変化後の再生パワーの最適値を求める演算手段と、当該演算結果に基づきレーザのパワーを制御する手段とを備えることにより、本実施例の光ディスク装置は、再生パワーを動的に変化させる機能や、指標の変動量に基づき光ディスクへ照射するエネルギーないしパワーの補償量を算出する機能および当該補償量に基づきエネルギーないしパワーを制御する機能を実現することが可能となる。さらに、再生条件に応じてOPCパラメータを変更する手段を備えることにより、常に最適な再生を実現することが可能となる。
【0047】
以上の再生パワー調整は、再生中に常時取得されるモニタパラメータを評価した結果に基づいて実行してもよい。例えば、取得したモニタパラメータとモニタパラメータ目標値との差が予め定めた値よりも大きい場合に、再生パワー調整が必要と判断し、再生パワー調整を実行する。
【0048】
上述の試し読みによるOPCパラメータの生成は、再生信号を評価した結果に基づいて実行してもよい。例えば、再生信号のbERが再生限界bER=1×10-5以上である場合にOPCパラメータの生成が必要と判断して、試し読みによるOPCパラメータの生成を行う。これにより、再生条件とOPCパラメータの対応が誤っている場合に、当該再生条件における適切なOPCパラメータを与えることができ、最適な再生が実現される。
【0049】
また、上述の試し読みによるOPCパラメータの生成は、予測される再生条件の変化に基づいて実行してもよい。例えば、アドレスAとアドレスBの連続再生において、アドレスBにおけるOPCパラメータを保持していないことが分かっている場合、アドレスBに再生位置を移動した直後に、OPCパラメータの生成が必要と判断して、試し読みによるOPCパラメータの生成を行なう。これにより、OPCパラメータの不明な再生条件においても最適な再生が実現される。
【0050】
上述のOPCパラメータテーブルは光ディスク装置または光ディスクに保持しておいてもよい。例えば、再生終了時に、光ディスク装置の情報記憶部に保持してある本再生で用いたOPCパラメータテーブルを光ディスク装置の上記とは異なる記憶部に保持しておく、または光ディスクの管理領域に保持しておく。これにより、次回同じ光ディスクを再生するとき、前回の再生条件におけるOPCパラメータを生成し直す必要が無くなり、OPCパラメータの生成にかかる時間を短縮できる。ここで、光ディスク装置および光ディスクに保持しておく情報はOPCパラメータテーブルに加え、再生した光ディスクを特定する情報を含んでいてもよい。
【0051】
なお、上述した超解像再生における再生パワー調整方法は、近接場光を用いた高密度化技術に対しても適用可能である。当該高密度化技術においては、SIL(Solid Immersion Lens)と呼ばれる、NAが1以上の対物レンズを用いて近接場光を発生させ、この近接場光のスポットサイズが小さいことを利用してサイズの小さなピットを検出する。近接場光は対物レンズと媒体の距離が数十nmと近い場合に媒体内に伝播するため、SILではギャップサーボと呼ばれるフォーカスサーボ技術によって対物レンズと媒体間の距離が厳密に制御される。SILと組み合わせて使用される記録媒体をSIL媒体と称するが、上述の再生パワー調整方法は、超解像膜を持つSIL媒体においても、最適な再生を実現できる。
【0052】
SIL媒体の再生ではフォーカスサーボにギャップサーボと呼ばれる方式を用いるため、媒体のカバー層の膜厚変動による再生信号の劣化が知られている。ギャップサーボとは対物レンズと媒体表面との距離を一定に制御するサーボ方式であり、カバー層の膜厚が変化するとデータ層のスポットはデフォーカスした状態となり、信号振幅が変化し、再生信号が劣化する。多層のSIL媒体では各層間の中間層の膜厚変動も影響するため、再生信号の劣化はさらに大きくなる。ここで、データ層に超解像膜を設けたSIL媒体では、再生パワーによって信号振幅を調整することが可能である。そのため、超解像膜を持つSIL媒体の再生において、信号振幅を一定に保つように再生パワー調整を実行することで、信号振幅は一定となり、再生信号の劣化を抑制することできる。
【0053】
以上の再生パワー調整により、光ディスク装置は光ディスクに記録されたユーザ情報を安定的に超解像再生することができ、ユーザ情報を取得できる。
【0054】
続いて本発明の実施の形態として、図面を参照しながら説明する。なお、以下の各実施例は、本発明を実施する形態の実施例の一例であって、本発明が以下の実施例に限られるものではないことは言うまでもない。
【実施例1】
【0055】
本実施例ではモニタパラメータとしてアシンメトリを使用し、再生動作中に観測されるモニタパラメータが目標値となるように再生パワーの再調整を行う光ディスク装置の構成例について示す。再生パワーの調整に用いるOPCパラメータは再生条件に応じて変更するが、本実施例における再生条件は再生層,再生位置,再生線速度,環境温度を指標として決定されるものとした。上述した再生条件における媒体の感度や超解像膜の材料など媒体の構造に起因する条件は、全て媒体内の再生層,再生位置に含まれている。
【0056】
本実施例では2層のデータ層を持つ光ディスクを用いた。2層のデータ層のうち、光入射側から見て手前側の層はL1層、奥側の層はL0層と呼ばれる。光ディスクの管理情報はL0層の管理情報領域に記録され、ユーザ情報はL0及L1層のユーザ情報領域に記録されている。ここで、管理情報領域及びユーザ情報領域のトラックピッチは320nmであり、1-7変調で信号が記録されているが、管理情報領域の最短ピット長は150nmに対しユーザ領域の最短ピット長は50nmである。このため、ユーザ情報領域の信号の少なくとも最短ピットは、従来の光ディスク技術であるBD方式の光学系で現状使用される波長405nmのレーザ及び開口数0.85の対物レンズに対して光学分解能よりも小さいため、超解像再生が必要である。一方、管理情報領域の最短ピットは光学分解能以上のサイズであるため、常解像再生で再生可能である。アドレス情報に関しては、光ディスク全領域に亘ってWobble信号で記録されているため、目標再生位置へのシーク動作は常解像再生で実行可能である。L0層の管理情報は、図4の模式図に示されるように、DI(Disc Information)情報202,アドレス情報203,OPCパラメータテーブル204,OPC実行判定情報205で構成されている。DI情報202とは光ディスクの種類や常解像再生における再生パワーなどの基本的な媒体固有の情報である。アドレス情報203とは光ディスクの各情報が記録されている領域の位置を示す情報である。OPCパラメータテーブル204とは、再生条件と対応付けられたOPCパラメータの情報であり、その一例を図5に示す。本光ディスクのOPCパラメータテーブルは再生層,再生半径,再生線速度,温度に応じた12種類の再生条件nが定義されており、それぞれの再生条件に応じて使用するOPCパラメータの値が設定されている。この再生条件の分類は、図3(B)の再生条件変化に対応する分類であり、再生条件の指標nは式5のnに対応している。本実施例におけるOPCパラメータは推奨再生パワーPt,再生パワー下限値Pmin,再生パワー上限値Pmax,アシンメトリ目標値At,アシンメトリ切片Aiとした。図5にはOPCパラメータの値が設定されていない再生条件があり、これらは他の再生条件とはOPCパラメータが異なると予想されるが、現在それらの値が未知であることを示している。管理情報のOPC実行判定情報205とは、再生パワー調整の実行の判定に用いられるモニタパラメータ誤差閾値ΔXthであるアシンメトリ誤差閾値ΔAth、及び試し読みによるOPCパラメータ生成を実行するかの判定に用いられbER閾値bth又はジッタ閾値Jthなどの情報であるが、これらの詳細は実施例の中で説明する。ここで、本実施例ではOPCパラメータテーブルやOPC実行判定情報をDI情報と分けて記載したが、これらの情報はDI情報の中に記録されてある場合もある。
【0057】
図6には、本実施例の光ディスク装置の構成例を示す。本実施例の光ディスク装置600は、光ディスク601を保持し、回転駆動させるためのディスク回転部を構成するスピンドルモータ602、光ディスク601に対して情報を読み書きするための光ピックアップ部603、光ディスク装置全体を統括制御する制御部であるデジタルシグナルプロセッサー604(DSP)及びマイコン605などにより構成される。光ディスク601はスピンドルモータ602によりCLV(Constant linear velocity)制御、あるいはCAV(Constant angle velocity)制御される。光ピックアップ部606は光ディスク601に対向して設けられ、図示されないレーザダイオード(LD)から射出したレーザ光606を同じく図示を省略した対物レンズを介して情報記録層に照射し、光ディスクへの記録再生を行う。図4に示した光ピックアップ部603に備えられたLDは波長405nm、光ピックアップ部603の光学系に備えられた対物レンズのNAは0.85であるため、光ピックアップ部の構成は、従来光ディスク技術であるBD用の光ピックアップ部とほぼ同等な構成である。図示はしていないが、光ピックアップ部603には球面収差補正,フォーカスサーボ,トラッキングサーボ用のアクチュエータが設けられており、これらアクチュエータはDSP604からの制御信号に基づいて駆動する。また、光ピックアップ部には図示しない温度センサが備えられており、環境温度を検出することが可能な構成となっている。
【0058】
DSP604は、通常LSIで構成され、LDドライバ(LDD),記録データのエンコーダ,再生信号のデコーダ,光ピックアップ部603のサーボ制御,スピンドルモータ602の回転制御,情報記憶等の機能を有す。そのため、DSP604を制御部と呼ぶ場合がある。また、マイコン605はDSP604から取得した再生信号,サーボ信号等の信号の評価及び処理を行う中央処理部(Central Processing Unit: CPU)608と記憶部(メモリユニット)607を有し、評価に基づいて生成する再生パワー,記録パワー,サーボアクチュエータ等に関する信号をDSP604にフィードバックする。メモリユニットに格納されるソフトウェアの詳細については後述する。なお、図6では、制御部をDSP604とマイコン605とに分けて構成したが、両者を1チップ化して同一のLSIで構成しても構わない。マイコン605内には、メモリ607に格納されたプログラムをCPU608が実行することにより、図6に示すような機能ブロックが実現される。便宜上、図6では、この機能ブロックがメモリ607内に展開されるように記載しているが、実際には、CPUとメモリの共同動作により実現される。本実施例の場合、マイコン605内には、モニタパラメータ及び再生信号品質を算出するモニタパラメータ及び再生信号品質演算部609、算出されたモニタパラメータ及び再生信号品質を記憶する径時情報記憶部610、モニタパラメータ及び信号品質を用いてOPCパラメータを算出するOPCパラメータ演算部613、OPCパラメータ及び再生条件及びOPC実行判定情報を記憶する固定情報記憶部612、OPC実行判定情報及びモニタパラメータ及び信号品質を用いて再生パワー調整やOPCパラメータ生成を実行するか判定する判定部611、モニタパラメータ及びOPCパラメータを用いて最適再生パワーを算出する再生パワー演算部614、算出した最適再生パワーをDSP604用の制御信号に変換する制御信号生成部615などが形成される。経時情報記憶部610には、図示しない経路によってDSP604から供給される、再生パワー及び再生条件も記憶される。
【0059】
さて、光ディスク601の信号の再生は、光ピックアップ部603内のLDから再生パワーのレーザ光606を射出することで行う。再生時、光ピックアップ部603から出力された再生信号はDSP604に供給され、DSP604内の再生信号処理部及びデコーダによってデコードされ、再生データとして出力される。このとき、DSP604は、光ピックアップ部603から供給される信号に基づいてフォーカスエラー及びトラッキングエラー信号を生成し、光ピックアップ部603内のフォーカス及びトラッキングサーボ用のアクチュエータに供給することで、フォーカスサーボ及びトラッキングサーボを制御する。また、レンズチルトアクチュエータや球面収差補正アクチュエータを含む再生光学系も光ピックアップ部603からの信号に基づいてDSP604によって制御される。さらに、光ピックアップ部603の再生パワーはDSP604によって制御され、DSP604における再生パワーの決定はマイコン605から信号に基づいて行われる。
【0060】
光ディスク601に信号を記録する場合、記録データをDSP604内のエンコーダによってエンコードして記録信号を生成し、記録信号に基づいてLDD駆動信号を生成し、光ピックアップ部603内のLDに供給して信号を記録する。また、光ディスク601の記録再生に先立ち、ディスクの膜をレーザ照射によって初期状態に変化させる必要がある場合には、LDから初期化パワーのレーザ光606を射出することで初期化を行う。更に、光ディスク601が書き換え可能な媒体である場合は、光ディスク601の既に信号が記録された領域を未記録状態に戻す消去パワーのレーザ光606をLDから射出することで信号を消去する。
【0061】
次に、図6の光ディスク装置を用いた図4の光ディスクの再生動作について、図7のフローチャートを用いて説明する。図7は再生調整を含む再生動作の手順の一例であり、主要な項目のみを記載している。また、特に断らない限り以下の制御フローは、マイコン605により実行される。
【0062】
光ディスクを光ディスク装置にセットして再生動作を開始すると(S0)、光ディスク装置は線速度4.92m/sで光ディスクをCLV(Constant Linear Velocity)回転させ、再生レーザを0.3mWのパワーで照射し、管理情報領域へ移動した(S1)。従来の光ディスク技術における再生調整と同様に、球面収差,フォーカス,トラッキング,チルトなどの再生調整を行った後(S2)、管理情報領域を再生し(S3)、管理情報であるDI情報202,アドレス情報203,OPCパラメータテーブル204,OPC実行判定情報205を取得した。ここで、取得した全ての情報は固定情報記憶部612に記憶される。取得したアドレス情報には、本実施例で再生するユーザ領域の位置を示すアドレス1,2が含まれる。取得したOPC実行判定情報は、アシンメトリ誤差閾値ΔAth=0.5%及びbER閾値bth=1×10-5である。
【0063】
再生を開始するユーザ情報領域のアドレス1へ移動し(S4)、図7のフローに従いOPCパラメータ生成の要否判定A(S5)を実行した。ここでは、判定部611によりOPCパラメータの生成が必要か判定される。具体的に判定部611は、固定情報記憶部612から供給されるOPCパラメータテーブルと経時情報記憶部610から供給される現在の再生条件を比較し、現在の再生条件におけるOPCパラメータが存在する場合には不要、存在しない場合には必要と判断する。現在の再生条件はL0層,半径30mm,線速4.92m/s,環境温度25℃であり、再生条件2(n=2)に該当し、かかる再生条件におけるOPCパラメータは存在するため、OPCパラメータ生成の要否判定Aは不要と判断される(S5)。
【0064】
続くステップS7にて再生条件2のOPCパラメータ(Pt(2),Pmin(2),Pmax(2),Xt(2),Xi(2))を現在使用するOPCパラメータとして設定し、OPCパラメータの推奨再生パワーPt(2)を再生パワーに設定し(S8)、定常再生動作を開始した(S9)。ここで、ステップS8では、再生パワー演算部614によって算出される再生パワーが制御信号生成部615及びDSP604経由で光ピックアップ部603に伝送され、LDの照射パワーとして設定される。
【0065】
以降再生動作中の各時点での再生パワーはP(n,m)、モニタパラメータはX(n,m+1)、再生パワー調整によって変更される最適再生パワーはP(n,m+1)、OPCパラメータである推奨再生パワー,再生パワー下限値,上限値,モニタパラメータ目標値,モニタパラメータ切片はそれぞれPt(n),Pmin(n),Pmax(n),Xt(n),Xi(n)と、式5に従って表記することとする。ここで、mは再生開始時ゼロとし、m’=m+1とすることで、各時点でのmは最適再生パワーを算出するステップS13を実行した回数に対応し、これは図3(A)に示す再生条件が何回起こったか示す指標となる。
【0066】
以下、ステップS10以降の説明を行うが、フロー中の分岐が複雑であるので、いくつかのパターンに分類して説明を行う。
【0067】
*パターン1(再生パワー調整なし,通常の定常再生動作)
まず、ステップS10にて動作判定が実行される。ここでは、判定部611により次に予定されている動作が判別される。具体的には、判定部611は図6に図示しない経路でDSP604から供給される情報に基づき、定常再生動作を継続するか、イベントを実行するか、再生を終了するかが判別され、図7のステップS10に示すように、それぞれ場合に応じて続くステップが変更される。ここで、イベントとは、定常再生の継続と再生の終了を除く、ドライブ自身が実行する各種動作のであり、例えば再生線速の変更,再生位置の変更などを指す。ドライブの再生条件は各種の原因によって変動しうるが、その原因としては、ドライブの外部環境が原因になる場合と、ドライブ自身の制御動作によって再生条件が変動する場合がある。前者はドライブが予測できないため、ステップS10では定常再生動作継続と判別されるが、後者であればドライブは続く再生条件を予測可能である。そのため、図7のフローではイベント発生時にイベント実行用のフローに移行し、イベント実行後の再生条件におけるOPCパラメータを設定するように、ステップS5に移行している。ドライブ自身がイベント発生と決定するのは、定常再生動作を実行している間のどこかであると考えられるが、厳密な発生位置は問題ではなく、発生予定イベントの存在有無をS10の時点でマイコン605が認識していることが重要である。現在の続く動作は定常再生動作の継続であるため、ステップS10からステップS11へ移行する。
【0068】
ステップS11ではOPCパラメータ生成の要否判定Bが実行される。ここでは、判定部611により試し読みによるOPCパラメータの生成が必要か判定される。具体的には、まず、DSP406を経由して伝送される再生信号を用いてモニタパラメータ及び再生信号品質演算部609は現在のbERを算出し、算出した現在のbERを経時情報記憶部610に伝送し、格納する。判定部611は、経時情報記憶部610経由で伝送される現在のbERと固定情報記憶部612から伝送されるOPC実行判定情報であるbER閾値bthを比較して、現在のbERがbth以下であればOPCパラメータの生成が不要、現在のbERがbthよりも大きければOPCパラメータの生成が必要と判断する。ステップS11にてbERを算出したところ、3×10-7とbth=1×10-5以下であるので、OPCパラメータの生成は不要と判断され、ステップS12に移行した。
【0069】
続くステップS12では最適再生パワー算出の要否判定が実行される。ここでは、判定部611により最適再生パワーの算出が必要か判定される。具体的には、まず、DSP406を経由して伝送される信号を用いてモニタパラメータ及び再生信号品質演算部609は現在のモニタパラメータ値Xを算出し、算出した現在のモニタパラメータ値Xを経時情報記憶部610に伝送し、格納する。判定部611は、経時情報記憶部610経由で伝送される現在のモニタパラメータ値X、及び固定情報記憶部612から伝送されるOPCパラメータであるモニタパラメータ目標値XtとOPC実行判定情報であるモニタパラメータ誤差閾値ΔXthを用いて、モニタパラメータ値Xとモニタパラメータ目標値Xtの差がモニタパラメータ誤差閾値ΔXth以下であれば最適再生パワーの算出が不要、超えていれば再生パワーの算出が必要と判断する。ステップS12にてモニタパラメータであるアシンメトリ値A(2,1)を算出したところ、0%でありアシンメトリ目標値At(2)=0%との差はアシンメトリ誤差閾値ΔAth=0.5%以下であるので、最適再生パワーの算出は不要と判断された。
【0070】
ステップS10に戻り、以降に定常再生動作の継続が予定されているため、続く動作はステップS10,S11,S12の繰り返しである。再生を継続したところ、ステップS10〜S12の繰り返しから抜けることは無く、再生信号のbERは5×10-7と良好であり、図7のフローに従うことで最適な再生が実現できていることが確認できた。
【0071】
ここで、定常再生動作中は常にS10,S11,S12を繰り返し実行している。これは、常に予定される動作の種類、OPCパラメータの生成の必要性、最適再生パワーへの再設定の必要性をチェックし続けていることに相当する。つまり、イベント発生が予定されればイベント実行と再生条件に応じたOPCパラメータの変更を行うステップS16へ、再生の終了が予定されれば再生終了を行うステップS19へ、最適再生パワーの算出が適切にできずにbERがbthより大きくなれば現在の再生条件に対応したOPCパラメータの生成を行うステップS15へ、再生パワーが最適再生パワーからずれてモニタパラメータが目標値からずれた場合には再生パワーを最適再生パワーに変更するステップS13へ移行する仕組みになっている。
【0072】
*パターン2(再生パワー調整動作あり,OPCパラメータ変更なし)
次に、ステップS12での判定で最適再生パワーの算出が必要と判断された場合の制御フローについて説明する。例えば、ステップS12で算出される現在のアシンメトリ値A(2,1)が-3.6%であり、アシンメトリ目標値At(2)=0%との誤差3.6%がアシンメトリ誤差閾値ΔAth=0.5%を超えている場合、ステップS13に移行する。
【0073】
ステップS13では最適再生パワーの算出が行われる。具体的には、経時情報記録部610に格納されている現在の再生パワーP(2,0)及びアシンメトリ値A(2,1)と、固定情報記憶部612に格納されているアシンメトリ目標値At(2)及びアシンメトリ切片Ai(2)を、再生パワー演算部614に伝送し、最適再生パワーP(2,1)が算出される。最適再生パワーの算出は式5を用いて行われ、算出された最適再生パワーは再生パワー下限値Pmin(2)及び再生パワー上限値Pmax(2)を用いて再調整される。再調整は、算出した再生パワーが現在のOPCパラメータの定義される範囲外となった場合に、過剰な再生パワー照射によって光ディスク上の情報の破壊を防ぐために行っており、Pmin(2)≦P(2,1)≦Pmax(2)を満たしていればP(2,1)はそのままの値とし、P(2,1)<Pmin(2)若しくはP(2,1)>Pmax(2)の場合はそれぞれP(2,1)=Pmin,P(2,1)=Pmaxと値を変更する。現在の再生パワーP(2,0)は2.0mW、アシンメトリ値A(2,1)は-3.6%、アシンメトリ目標値At(2)は0%、アシンメトリ切片Ai(2)は-40%であるため、式5より算出される最適再生パワーP(2,1)は2.2mWと再生パワー下限値Pmin(2)=1.2mWと上限値Pmax(2)=4.0mWの間に収まっていた。従って、ステップS13で決定した最適再生パワーP(2,1)は2.2mWである。
【0074】
続くステップS14にて決定した最適再生パワーの値を現在の再生パワーに設定し、定常再生動作を継続したところ、以降続く動作はステップS10〜S12の繰り返しであった。ステップS11及びS12において算出されるbER及びアシンメトリ値は常に1〜4×10-7及び-0.1〜0.2%であり、再生パワーをステップS13にて変更したことで最適な再生が実現できていることを確認した。
【0075】
本ケースは図3(A)に示す再生条件の変化が起こった場合に対応し、この再生条件変化に対しては正確な再生パワー調整を自動で実行できることを確認できた。
【0076】
*パターン3(OPCパラメータ変更あり,再生パワー調整なし)
次に、ステップS10での判定でイベントを実行する必要があると判断された場合の制御フローについて説明する。例えば、定常動作中に再生位置がアドレス1からアドレス2へ再生位置を変更する(アドレスジャンプ)ことが予定されている場合であり、アドレス1を再生後、ステップS10からステップS16へ移行する。ここで、アドレス2は光ディスクのL1層の半径20mm付近にある。
【0077】
ステップS16にて定常再生動作を中断し、ステップS17にてアドレス2へのアドレスジャンプを実行した。続くステップS5では、上述したように、現在の再生条件におけるOPCパラメータが固定情報記憶部612に格納されているOPCパラメータテーブルに存在するかを判定する。現在の再生条件は図5のOPCパラメータテーブルにおける再生条件8に該当し、OPCパラメータは存在する。従って、OPCパラメータの生成は不要であり、続くステップS7にて再生条件8のOPCパラメータを現在のOPCパラメータとして設定し、ステップS8にて推奨再生パワーPt(8)を再生パワーに設定し、ステップS9にて定常再生動作を開始した。
【0078】
以降続く動作はステップS10〜S12の繰り返しであった。ステップS11において算出されるbERは常に5〜8×10-7とbER閾値bth=1×10-5以下であり、ステップS12において算出されるアシンメトリ値A(8,2)とアシンメトリ目標値At(8)との差は常に0.3%以下とアシンメトリ誤差閾値ΔAth=0.5%を下回っていた。従って、再生条件の変更に伴ってOPCパラメータを変更したことで、最適な再生が実現できていることを確認した。
【0079】
本ケースは図3(B)に示す再生条件の変化が起こった場合に対応し、この再生条件変化に対しては正確な再生パワー調整を自動で実行できることを確認できた。また、本実施例ではOPCパラメータテーブルがあるために、再生条件の違いを判断でき、OPCパラメータの存在する再生条件への変更では定常再生中断から再開までを短時間で実行することが可能である。
【0080】
*パターン4(OPCパラメータ変更あり,生成必要,再生パワー調整なし)
次に、上記パターン3と同じく、ステップS10での判定でイベントを実行する必要があると判断された場合で、イベント実行後の再生条件におけるOPCパラメータが存在しない場合の制御フローについて説明する。例えば、アドレス2の定常動作中に再生線速度が4.92m/sから10倍の49.2m/sに変更することが予定されている場合であり、ステップS10からステップS16へ移行する。
【0081】
ステップS16にて定常再生動作を中断し、ステップS17にて線速度を49.2m/sに変更した。続くステップS5で、現在の再生条件におけるOPCパラメータがOPCパラメータテーブルに存在するかを判定したところ、現在の再生条件は図5のOPCパラメータテーブルにおける再生条件12に該当し、OPCパラメータは存在しない。従って、OPCパラメータの生成が必要であり、ステップS6に移行した。
【0082】
ステップS6ではOPCパラメータ生成が実行され、現在の再生条件におけるOPCパラメータが生成される。具体的には、まず、光ディスク装置は複数の再生パワー値を用いて再生を行い(試し読み)、DSP604から伝送される各再生パワーにおける再生信号を用いてモニタパラメータ及び再生信号品質演算部609がアシンメトリ値とbERを算出し、各再生パワーと対応付けられた算出結果は経時情報記憶部610を経由してOPCパラメータ生成部613に伝送される。このとき、固定情報記憶部612に格納されるbER閾値bthもOPCパラメータ演算部613に伝送される。OPCパラメータ演算部613は、供給された情報を基に再生パラー下限値Pmax(12),上限値Pmin(12),推奨再生パワーPt(12),モニタパラメータ目標値At(12),モニタパラメータ切片Ai(12)を算出し、算出結果を固定情報記憶部612に伝送する。これにより、固定情報記憶部612に格納されるOPCパラメータテーブルの再生条件12におけるOPCパラメータにはそれぞれの値が上書きされ、再生条件12のOPCパラメータは存在することとなる。ここで、再生パワー下限値Pmin(12)は、再生パワーとbERの関係特性においてbERがbER閾値bthと一致する再生パワーP1,P2(P1<P2)のP1とするという演算規則に基づいて設定され、再生パワー上限値Pmax(12)はP2とする演算規則に基づいて設定される。推奨再生パワーPt(12)は、bERが最も低いときの再生パワーとする演算規則に基づいて設定される。アシンメトリ目標値At(12)は、再生パワーとアシンメトリの関係特性において、推奨再生パワーPt(12)におけるアシンメトリ値とする演算規則に基づいて設定される。アシンメトリ切片Ai(12)は、Pmin(12)≦P≦Pmaxにおいて再生パワーとアシンメトリの関係特性を直線近似したときの、再生パワーがゼロの場合におけるアシンメトリ値とする演算規則に基づいて設定される。ここで、上述した全ての演算規則も固定情報記憶部612に格納されており、OPCパラメータ演算部613は上記の規則情報を参照して各種演算を行う。
【0083】
上記の方法でOPCパラメータを生成した結果、今回の再生パワー下限値Pmin(12)は1.5mW、上限値Pmax(12)は4.6mW、推奨再生パワーPt(12)は3.0mW、アシンメトリ目標値At(12)は1.7%、アシンメトリ切片Ai(12)は-50.7%と算出された。これら算出結果を固定情報記憶部612のOPCパラメータテーブルの再生条件12のOPCパラメータとして上書きた。
【0084】
続くステップS7にて現在の再生条件である再生条件12のOPCパラメータを現在使用するOPCパラメータとして設定し、ステップS8にて推奨再生パワーPt(12)を再生パワーに設定し、ステップS9にて定常再生動作を開始した。
【0085】
以降続く動作はステップS10〜S12の繰り返しであった。ステップS11において算出されるbERは常に4〜9×10-7とbER閾値bth=1×10-5以下であり、ステップS12において算出されるアシンメトリ値A(12,2)とアシンメトリ目標値At(12)との差は常に0.2%以下とアシンメトリ誤差閾値ΔAth=0.5%であった。従って、再生条件12におけるOPCパラメータを生成し、生成したOPCパラメータを用いて再生動作を行うことで、最適な再生が実現できていることを確認した。
【0086】
本ケースにより、図7のフローを用いて再生パワー調整を実行することで、光ディスク装置が図3(B)に示す再生条件の変化を予測し、再生条件の変化に応じて自動的に再生パワー調整を実行し、最適な再生が実現できることを確認した。ここから、光ディスク装置は未知の再生条件に対しても最適な再生を実現できることが分かる。
【0087】
*パターン5(再生パワー調整失敗,OPCパラメータ生成)
次に、ステップS11での判定でOPCパラメータの生成が必要を判定された場合の制御フローについて説明する。例えば、ステップ11で算出される現在のbERが3×10-5であり、bER閾値bth=1×10-5を超えている場合、ステップS15に移行する。
【0088】
ステップS15にて定常再生動作を中断した後、ステップS6にて現在の再生条件におけるOPCパラメータの生成を開始する。ここで、現在の再生条件12でのOPCパラメータは既に与えられ、現在使用するOPCパラメータとして設定されている。それにも関わらず、OPCパラメータを生成する理由は、現在の再生条件は再生条件12とは異なることを示している。従って、再生条件12は現在の再生条件12のOPCパラメータを使用できる範囲と、使用できない範囲に分ける必要がある。そこで、現在の再生条件12のOPCパラメータを使用できる再生条件を新たに再生条件12-1とし、使用できない再生条件を再生条件12-2とし、再生条件12-2におけるOPCパラメータを生成しなければならない。今回、半径20mmから外周に順に移動しながら再生している際、半径45mmでOPCパラメータの生成が必要と判定された。従って、再生条件12-2は、再生条件12の半径45mmから外周側を示す再生条件となる。ステップS6にて、上述したパターン4の場合と同様に、OPCパラメータを生成した結果、再生パワー下限値Pmin(12-2)は2.2mW、上限値Pmax(12-2)は5.3mW、推奨再生パワーPt(12-2)は3.6mW、アシンメトリ目標値At(12-2)は0%、アシンメトリ切片Ai(12-2)は-63%であった。算出したOPCパラメータは固定情報記憶部612に記憶される。
【0089】
ステップS7にて再生条件12-1のOPCパラメータを現在のOPCパラメータに設定し、ステップS8にて推奨再生パワーPt(12)を再生パワーに設定し、ステップS9にて定常再生動作を開始した。以降続く動作はステップS10〜S12の繰り返しであり、生成したOPCパラメータで半径55mmまで再生できることを確認した。ステップS11及びS12において算出されるbER及びアシンメトリ値は常に4〜8×10-7及び-0.2〜0.4%であり、OPCパラメータをステップS13にて変更したことで最適な再生が実現できていることを確認した。
【0090】
ここで、パターン4では再生条件12のOPCパラメータを生成し、パターン5では再生条件12を二つの再生条件12-1,12-2に分け、OPCパラメータを生成した。これらの生成結果はすべて固定情報記憶部612に記憶されており、現在記憶されているOPCパラメータテーブルは、例えば図8に示されるように、再生条件及びOPCパラメータが存在する再生条件が図5に比べ増えている。このように、光ディスク装置が新たな再生条件及びOPCパラメータを記憶しておくことで、次回同じ再生条件で再生を行う場合にも、図7のフローを用いることで、最適な再生を実現できる。
【0091】
次に、上述したOPCパラメータの生成及び変更を伴う再生パワー調整を行って再生した結果について述べる。
【0092】
まず、再生条件2,4,6についてL0層全面を再生した結果について示す。測定は、再生位置をL0層に変更した後、各再生線速でL0層全面を再生して行った。このとき、環境温度は25℃であった。図9は図7のフローに従って再生信号のbERを測定した結果である。図中には、アシンメトリ値が再生条件2におけるアシンメトリ目標値となるように再生パワー調整を実施した結果も併せて示してある。アシンメトリ目標値を固定して再生パワー調整をした結果では、再生線速が25m/s以上で再生限界のbERを超えており、最適な再生が実現できていない。一方、図7のフローに従って、アシンメトリ目標値を変更しながら再生パワー調整を行った場合は、bERは常に1×10-6以下と最適な再生が実現できていることが分かる。
【0093】
次いで、図5の再生条件及びパターン4,5で生成した再生条件12-1,12-2について、図7のフローに従って再生パワー調整を行って再生を行い、再生信号のbERを測定した結果を図10に示す。図中には比較として、アシンメトリ目標値を再生条件2で固定して再生パワー調整を実施した結果も示してある。図9の場合と同様に、アシンメトリ目標値を固定して再生パワー調整を実施した場合は、当該再生条件でしか最適な再生が実現しておらず、再生条件1,2以外では再生限界bERを超えている。一方、アシンメトリ目標値を変更して再生パワー調整を行った場合は全ての再生条件で最適な再生が実現できていることが確認できる。ここから、光ディスクのユーザ情報全てを適切に再生するには、図7のフローに従って、OPCパラメータを変更して再生パワー調整を実施すればよいことが分かる。
【0094】
所定再生領域の再生が終了すると、ステップS10で再生終了が予定されていると判定され、ステップS18へ移行する。ステップS18の再生終了動作では、まず、現在光ディスク装置が保持しているOPCパラメータテーブルを光ディスク装置の所定の記憶部(本実施例では固定情報記憶部612)に記憶させると共に、光ディスクの管理情報領域201にも記憶した。記憶したOPCテーブルは、はじめに光ディスクから取得したものと異なっている。このように生成したOPCパラメータテーブルを残しておき、次回の再生時に光ディスクの管理情報201を読み出す、または光ディスク装置に記憶してある管理情報を読み出すことで、今回再生した条件についてはOPCパラメータを生成する必要が無く、再生開始までの時間を短縮できる。ステップS18終了後はステップS19へ移行して、再生を終了した。
【0095】
以上の実施例から、超解像再生における再生動作を図7のフローに従って実行し、OPCパラメータテーブルを参照してOPCパラメータを変更しつつ、再生パワー調整を実施することで、最適な再生が実現されることが確認できた。
【実施例2】
【0096】
実施例1の再生動作における、図7のステップS11では現在のbERがOPC実行判定情報であるbER閾値bthを超える場合、OPCパラメータの生成が必要と判定し、ステップS15に移行するとしたが、ステップS11の動作方法はこれに限ったものではない。
【0097】
例えば、ステップS11においてk回(k≧2)連続でOPCパラメータの生成が必要と判定された場合に、ステップS15に移行するとしてもよい。これにより、光ディスク上欠陥などで一時的にbERが悪化した場合もOPCパラメータの生成が必要と判定されることがなくなり、誤ってステップS15へ移行することが無くなる。
【0098】
また、ステップS11ではbERを用いて判定を行っているが、再生信号から算出されるJitterを用いて判定を行っても良い。このとき、ステップS11では現在のJitterとOPC実行判定情報であるJitter閾値Jthが判定に用いられる。JitterはbERと同様に再生信号品質の指標であるので、Jitterを用いた場合も実施例1と同様な効果が得られる。さらに、JitterはbERに比べ短い信号でも評価可能であるので、Jitterを用いることでステップS11をより早く実行することが可能となる。
【実施例3】
【0099】
実施例1の再生動作における、図7のステップS12では現在のモニタパラメータXとモニタパラメータ目標値Xtとの差が、モニタパラメータ誤差閾値ΔXthを超えた場合に、最適再生パワーの算出が必要と判定したが、ステップS12の動作方法はこれに限ったものたではない。
【0100】
例えば、モニタパラメータ誤差閾値ΔXth が目標値からの百分率で表してある場合、モニタパラメータXとモニタパラメータ目標値Xtを用いて算出される (X-Xt)/Xtの絶対値がΔXthを超えた場合に、最適再生パワーの算出が必要と判定してもよい。
【実施例4】
【0101】
実施例1の再生動作における、図7のステップS6では、推奨再生パワーPtの算出を再生パワーとbERの関係を用いて行ったが、ステップS6の動作方法はこれに限ったものではない。
【0102】
例えば、再生パワーとJitterの関係特性において、Jitterが最小となる再生パワーを推奨再生パワーPtと決定してもよい。
【実施例5】
【0103】
実施例1の再生動作における、図7のステップS6では、再生パワー下限値Pmin,上限値Pmaxの算出を再生パワーとbERの関係を用いて行ったが、ステップS6の動作方法はこれに限ったものではない。
【0104】
例えば、再生パワーとJitter、又は分解能、又はキャリアレベル、又はアシンメトリ、又は変調度、又は信号レベルなどの超解像スポットの状態に応じて変化するパラメータとの関係特性を利用してもよい。どのパラメータをOPCパラメータの生成に使用するかは媒体に応じて変更すべきである。これは、媒体によってパラメータと再生パワーの関係特性は決まっており、OPCパラメータを正確に算出するには、再生パワーに対して大きな変化率を用いるパラメータを用いるべきであるからである。
【実施例6】
【0105】
実施例1ではモニタパラメータとしてアシンメトリを用いた。モニタパラメータはアシンメトリに限ったものではなく、超解像スポットの状態を反映した指標であればよい。例えば、分解能,キャリアレベル,変調度,信号レベル,環境温度などであり、これらを用いた場合には、それぞれのモニタパラメータに関するOPCパラメータテーブルが存在し、それぞれのOPCパラメータテーブルを用いることで実施例1と同様な効果が得られる。
【0106】
但し、再生パワーに対するモニタパラメータの変化率が小さい場合、光ディスク装置の検出誤差によって誤った最適再生パワーを算出してしまう場合がある。従って、媒体の特性に応じて、再生パワーに対して変化率の大きいモニタパラメータを選べばよい。
【実施例7】
【0107】
実施例1では一つのモニタパラメータを用いて再生パワー調整を実施した。本実施例では、再生パワー調整を複数のモニタパラメータを用いて実行する超解像対応光ディスク装置の構成例について説明する。本実施例で説明する光ディスク装置の全体構成は、実施例1と同一である。
【0108】
実施例1のパターン2における再生パワー調整では、モニタパラメータとしてアシンメトリが使用され、アシンメトリ値,再生パワー値,OPCパラメータを用いて最適再生パワーが算出される。一方、実施例6ではモニタパラメータとして分解能,キャリアレベル,変調度,信号レベル,環境温度などのいずれかを用いて再生パワー調整を行った場合も、実施例1と同様な効果が得られることが述べられている。
【0109】
本実施例では、実施例1における図7のステップS13実行時に、複数のモニタパラメータ値,再生パワー値,OPCパラメータを用いて最適再生パワーが算出される。例えば、モニタパラメータにアシンメトリと分解能を用いた場合、OPCパラメータテーブルは各再生条件に対してアシンメトリと分解能のOPCパラメータを持つ。複数のモニタパラメータを用いるため、ステップS13において判定部611は経時情報記憶部610及び固定情報記憶部612を参照して、式5に従い、アシンメトリと分解能のそれぞれから最適再生パワーP(n,m+1)asy,P(n,m+1)resを算出する。得られた二つの最適再生パワーを用いて所定の演算規則に基づく演算処理が行われ、再生パワーに設定する最適再生パワーが決定される。上記演算規則は、固定情報記憶部612に格納されており、判定部611は上記演算規則を参照して最終的な最適再生パワーを算出する。本実施例では、上記の演算規則として平均値を用い、(P(n,m+1)asy,P(n,m+1)res)/2として最適再生パワーを算出する。以上の演算過程においては、当然ながら、使用するモニタパラメータは二つのみに限られず、三つ以上のモニタパラメータを使用することも可能である。
【0110】
単純な平均ではなく、使用するモニタパラメータごとに重み付けを行い、モニタパラメータの加重平均を行っても良い。加重平均を行う際に判定部611が参照する、重み付けテーブルの構成例を図11に示す。例えば、X1〜X4の4種類のモニタパラメータを使用した場合、図11の左側に示すテーブルを参照すると、X1〜X4の4種類のモニタパラメータを使用する組み合わせに相当するエントリは15であるので、図11の右側に示す係数テーブルの該当エントリに対応する箇所を参照する。その結果、使用すべき重み付けの係数はa”1,a”2,a”3,a”4であるので、判定部611は最適再生パワーをa”1×P(n,m+1)X1+a”2×P(n,m+1)X2+a”3×P(n,m+1)X3+a”4×P(n,m+1)X4により算出し、得られた値を最適再生パワーP(n,m+1)として決定する。
【0111】
このように複数のモニタパラメータを用いることで、一回の再生パワー調整における算出精度を高めることができる。
【実施例8】
【0112】
実施例1では図7のフローに従い、定常再生中は常にステップS12にて最適再生パワー算出の要否判定を実行していた。
【0113】
図7におけるステップS12を省き、ステップS11からステップS13へ常に移行するようにすると、実施例1よりも最適な再生が実現される。これは、実施例1では現在のモニタパラメータ値とモニタパラメータ目標値の差がモニタパラメータ誤差閾値以下である場合には、ステップS13の最適再生パワーの算出は行わなかったため、モニタパラメータ誤差閾値の大きさに応じて最適再生パワーからずれた再生パワーで再生する場合があるが、ステップS12を省くことで、常に最適再生パワーで再生することになるためである。また、ステップS12を省くことで、判定にかかる時間を省略でき、再生条件の変化にすばやく応答できるようになる。これは、光ディスク一周において、短い周期で再生条件が変化する場合に有効である。
【0114】
ここで、問題となるのは、常にステップS13の最適再生パワーの算出し続けるため、計算量が増え、処理回路の規模が大きくなる可能性があることである。従って、再生する光ディスクの品質に応じて、ステップS12を省くかは決めればよい。また、本実施例の場合、ステップS13を実行する度に1ずつ増える指標mは、再生条件の変化した回数ではなくなり、純粋にステップS13を実行した回数となる。
【実施例9】
【0115】
本実施例では、光ディスクとして超解像膜を設けたSIL媒体を用い、光ディスク装置を用いて光ディスクを超解像再生した場合において、モニタパラメータを分解能として再生パワー調整を実行した結果について述べる。
【0116】
光ディスクは二層媒体であり、光入射側からみて手前側の情報記録層(L1層)は管理情報領域とユーザ情報領域で、奥側の層(L0層)はユーザ情報領域のみで構成される。両層には超解像膜があり、L1層にはカバー層が設けてある。L1層の管理情報は、図4と同様に、光ディスクのDI情報,各種情報の位置を示すアドレス情報,OPCパラメータテーブル,OPC実行判定情報で構成される。本実施例ではモニタパラメータとして分解能を用いるため、OPCパラメータテーブル及びOPC実行判定情報には分解能に関するパラメータが記録されている。管理情報領域及びユーザ情報領域のトラックピッチは100nmであり、1-7変調で信号が記録されているが、管理情報領域の最短ピット長は50nmであるのに対し、ユーザ情報領域の最短ピット長は25nmである。このため、光ディスクを波長405nm及びNA1.85の対物レンズを持つピックアップで再生する場合、ユーザ情報領域は超解像再生が必要であり、管理情報領域は常解像再生で再生可能である。アドレス情報に関しては、光ディスク全領域に亘ってWobble信号で記録されているため、目標再生位置へのシーク動作は常解像再生で実行可能である。
【0117】
以下本実施例の光ディスクを再生可能な光ディスク装置の構成例について説明する。本実施例の光ディスク装置はSIL用の光ディスク装置であり、情報記録層を二層持つSIL用の光ディスクが駆動される。また、光ピックアップ部に搭載される対物レンズの開口数はNA1.85と1よりも大きい。LDの波長は405nmと実施例1と同一である。光ピックアップ部以外の構成は図6に示す光ディスク装置と同一であるので、光ディスク装置の全体構成についてはこれ以上の説明を省略する。
【0118】
次に、上述した二層の光ディスクを、図7のフローに従って再生した結果について述べる。
光ディスクを光ディスク装置にセットして再生動作を開始すると(S0)、光ディスク装置は線速度4.92m/sで光ディスクをCLV(Constant Linear Velocity)回転させ、再生レーザを0.3mWのパワーで照射し、管理情報領域へ移動した(S1)。従来の光ディスク技術における再生調整と同様に、球面収差,フォーカス,トラッキング,チルトなどの再生調整を行った後(S2)、管理情報領域を再生し(S3)、管理情報であるDI情報,アドレス情報,OPCパラメータテーブル,OPC実行判定情報を取得した。取得したアドレス情報には、本実施例で再生するユーザ領域の位置を示すアドレス4,5が含まれる。取得したOPC実行判定情報は、分解能誤差閾値ΔRth=2%及びJitter閾値Jth=10%である。
【0119】
再生を開始するユーザ情報領域のアドレス4へ移動し(S4)、図7のフローに従いOPCパラメータ生成の要否判定A(S5)を実行した。ここで、アドレス4はL1層の半径30mm付近であり、現在の再生線速4.92m/s及び環境温度25℃を踏まえると、現在の再生条件は再生条件21である。取得したOPCパラメータテーブルの再生条件21におけるOPCパラメータは存在するため、ステップS5ではOPCパラメータの生成が不要と判定される。
【0120】
続くステップS7にて再生条件21のOPCパラメータを現在使用するOPCパラメータとして設定し、ステップS8にてOPCパラメータの推奨再生パワーを再生パワーに設定し、ステップS9にて定常再生動作を開始した。
【0121】
ここで、図7のフローから外れ、この時点での光ディスク一周における再生信号のJitter及び振幅を測定したところ、振幅は一周に亘って一定で、Jitterも常に5%以下とJitter閾値Jthを下回っていた。ここから、L1層のカバー層の膜厚は一周に亘って一定に作製されており、超解像再生時の超解像スポットのサイズも一周で常に一定に保たれていることを確認した。
【0122】
図7のフローに戻り、アドレス4の定常再生を行ったところ、続くステップはステップS10,S11,S12の繰り返しであった。ステップS11において算出されるJitterは常に4〜6%とJitter閾値Jth=10%以下であり、ステップS12において算出される分解能値と分解能目標値との差は常に1%以下と分解能誤差閾値ΔRth=2%を下回っていた。従って、光ディスクのL1層は、図7のフローに従って再生パワー調整することによって、最適な再生が実現できていることを確認した。
【0123】
続いて、再生位置をアドレス4からL0層の半径30mm付近にあるアドレス5へ変更した。再生位置の変更というイベントが予定された状態で、ステップS10が実行されたので、続くステップはステップS16である。
【0124】
ステップS16にて定常再生動作を中断し、ステップS17にて再生位置の変更を行い、ステップS5へ移行した。現在の再生条件は、OPCパラメータテーブルにおいて再生条件22に該当し、再生条件22におけるOPCパラメータは存在する。従って、ステップS5ではOPCパラメータの生成が不要と判定され、ステップS7にて再生条件22のOPCパラメータを現在使用するOPCパラメータとして設定し、ステップS8にて推奨再生パワーを再生パワーに設定し、ステップS9にて定常再生動作を開始した。
【0125】
ここで再び図7のフローから外れ、この時点での光ディスク一周における再生信号のJitter及び振幅を測定したところ、今度は一周で大きな変動が見られた。図12はディスク一周内の位置とJitter及び振幅の測定結果であり、再生パワーは再生条件22の推奨再生パワーの一定値である。一部の位置で信号振幅が減少しており、これに伴ってJitterが増加し、最も悪い場合Jitter閾値Jth=10%を超え、最適な再生が実現できていないことがわかる。これは、L0層とL1層の間の中間層の膜厚が光ディスクの一周内で変動しており、膜厚が最適値からずれた場合、光スポットはデフォーカスし、信号振幅が変化するためである。ここから、超解像膜を設けたSIL媒体を一定の再生パワーで再生することが困難であることを確認できる。この変動は、中間層の膜厚分布による再生スポットのデフォーカスに起因しているため、常解像再生においても起こる変動である。
【0126】
図7のフローに戻り、アドレス5の定常再生を行ったところ、続くステップはステップS10→S11→S12→S10と移行する場合と、ステップS10→S11→S12→S13→S14→S10と移行する場合の二通りであった。前者の場合、OPCパラメータの生成及び最適再生パワーの算出が不要であり、そのままの再生パワーで定常再生を継続できることを示している。一方、後者の場合、OPCパラメータの生成は不要だが、最適再生パワーの算出及び再生パワーの変更が必要であることを示している。これらの経路を通りつつ再生を行った際の、ディスク一周内の位置とJitter及び振幅の関係を図13に示す。図12とは異なり、Jitterは常に5%以下とJitter閾値Jth=10%を下回っており、振幅は一周に亘ってほぼ一定になっている。ここから、図7のフローに従って再生パワー調整を実行し続けることで、常にモニタパラメータに基づいた適切な再生パワーが設定され、再生信号の振幅が一定に保たれ、最適な再生が実現できることが確認できる。
【0127】
以上から、SILの媒体に超解像膜を用いた場合における超解像再生においても、再生パワー調整を実行することで最適な再生信号を得ることができることを確認した。更に、多層SILにおける中間層の膜厚変動による再生信号品質の劣化は、SIL媒体に超解像膜を設け、再生パワー調整を実行しながら再生することで抑制できることが分かった。これと同様に、カバー層の膜厚変動による再生信号の劣化も、媒体に超解像膜を設け、再生パワー調整を実行することで解決できることがわかる。これらの結果は、SILだけではデフォーカスによる振幅変動を抑制する手段を持たないが、超解像と組み合わせることで、超解像再生における再生パワーで振幅変動を抑制することができ、結果として再生パワー調整でデフォーカスによる振幅変動を抑制できたことを示している
【実施例10】
【0128】
本実施例では、これまでの再生パワー調整に加え、再生信号処理であるPRMLのPR係数を決定する方法について述べる。
【0129】
再生信号のビットエラー率(bit error rate; bER)は、PR係数と再生パワーに依存するため、その両方をなるべく最適な値に決定する必要がある。
【0130】
本実施例では、推奨のPR係数と再生パワーを媒体のコントロールデータ領域にエンボスデータとして記録し、そのデータを基にドライブで再生学習をすることによってPR係数と再生パワーの最適値を求める方法を採用した。
【0131】
用いた媒体は単層の再生専用(ROM)媒体であり、その構造は以下の通りである;1.1mm厚ポリカーボネート基板/Ag(100nm)/ZnS-SiO2(40nm)/GeSbTe(10nm)/ZnS-SiO2(50nm)/0.1mm厚ポリカーボネートシート。ドライブの光は、0.1mm厚ポリカーボネートシート側から入射した。ポリカーボネート基板には、ピットデータが記録されている。その変調符号は、BDで採用された1−7PPであり、1Tの長さは37.5nmであり、BDの4倍である。トラックピッチはBDと同じ320nmである。即ち、この媒体はBDの4倍である100GBの記録容量を有している。ピットの深さは35nmとした。
【0132】
1.1mm厚ポリカーボネート基板のコントロールデータ領域には、推奨のPR係数と再生パワーの値をピットのデジタルデータとして記載した。ここでは、推奨のPR係数を(1,2,-4,2,1)、再生パワーを1.5mWとした。
【0133】
ここで、上記のPR係数の中心の値の符号が、その他の値の符号と逆とした理由は2つある。一つは、このPR係数では、常解像スポットの寄与を(1,2,0,2,1)、超解像スポットの寄与を中心の値の-4としているが、常解像スポットと超解像スポットの光学位相が逆であった場合には、PR係数の中心の値の符号が逆である場合が適している。この光学位相は、ディスクの設計に依存するため、必ずしも符号が逆であるとは限らず、PR係数の最適値はディスクによって異なる。もう一つの理由は、PR(1,2,-4,2,1)によって処理された信号は、処理前の信号を時間で微分したものに類似した性質を有するが、超解像再生信号が微分信号に近くなることが考えられるからである。超解像再生中に、ROMのピットや、記録型ディスクのマークが存在すると、そのマークによる形状、熱吸収、及び熱伝導の局所的変化により、マークエッジ付近で超解像スポットのサイズや形状が変化する。このことにより、再生信号に変化が生じるが、この変化は常解像再生信号に時間的な変化を重畳するため、再生信号を時間方向に微分したものと類似した性質を有する信号となる。
【0134】
本実施例では、まずPR係数を推奨値である(1,2,-4,2,1)とし、再生パワーPrを、推奨値の1.5mWの約±30%に相当する1mWから2mWの間で0.1mW刻みで変化させた場合のbERの測定結果を図14に示す。ここで、1つの条件に対して、100万ビットのデータのエラー数を測定した。図14の結果において、10-6が得られたPr=1.6mWでは、エラーが1つも検出されなかったことを意味する。この結果から、Pr=1.6mWが最適な再生パワーであることがわかる。
【0135】
次に、Pr=1.6mWとし、PR係数を(1,2,X,2,1)として、Xを変化させた場合のXとbERの測定結果を図15に示す。図14と同様、1条件につき100万ビットを測定しており、10-6のbERはエラーが1つも検出されなかったことを意味する。この結果から、X=-4、-5、-6が最適であることがわかる。ここでは、その中心値であるX=-5を採用した。この結果から、Xを推奨値から±3程度の値の範囲で調べればいいことがわかる。
【0136】
上記の方法では、まず再生パワーを決定し、その後、PR係数を決定したが、この順番を逆にしても、同じ結果が得られた。しかし図14、図15の結果からわかるように、PR係数に対するbERのマージンよりも再生パワーマージンの方が小さいため、最初に再生パワーを決定することが望ましい。
【0137】
上記の実験結果を基に、ドライブに図16に示す構成の信号処理システムを追加した。信号処理方法としては、従来のものと同等であり、入力された再生信号(RF信号)はアナログ等化器、A/D変換器、FIRフィルターを通り、PRMLによってビタビ復号される。それと同時に、この回路の外側にPR係数を決定するためのCPUとメモリを搭載し、上記の信号処理回路と連結させる。コントロールデータから、推奨の再生パワーPr0、PR係数とその変数部分X0を読み取り、このCPUに保存しておく。ここでは仮に、コントロールデータに記載されていたPR係数を(1,2,X0,2,1)とし、変数部分をX0とした。X0は-4などの具体的な数値である。
【0138】
まず、PR(1,2,X0,2,1)で最適再生パワーPrを探索した。Pr0の周辺の2n+1個のPrを、0.1mW刻みで変化させてbERを測定し、それらのbERをメモリに保存しておく。それらのbERの中で最小のbERとなるPrを最適パワーとした。
【0139】
その後、その最適再生パワーでPR(1,2,X,2,1)のXをX0-3からX0+3としてそれぞれのbERを測定し(bER1〜bER7)、その結果をメモリに保存しておく。7つのbERの中で最小のbERが得られるXを最適なXとして選択し、その値をPRMLユニットに転送した。
【実施例11】
【0140】
本実施例では、実施例10の例を二層媒体に応用した例について述べる。
【0141】
2つの層のうち、光入射側から見て奥の層であるL0の構造は、実施例10の構造と同じとしたが、0.1mm厚ポリカーボネートシートの代わりに、25μm厚のUV樹脂とし、そのUV樹脂上に、次に作製する手前側の層(L1)のピットパターンを、ナノインプリントによって形成した。その後、次の薄膜を製膜した; Ag(10nm)/ZnS-SiO2(20nm)/GeSbTe(10nm)/ZnS-SiO2(80nm)/0.1mm厚ポリカーボネートシート。L0を再生する際の再生光がL0に効率良く到達するように、L1の透過率を約60%とした。L1のAg薄膜の厚さを薄くした理由は、そのためである。
【0142】
ここでは、再生条件であるPR係数と再生パワーを、L0とL1で異なる値とした。その理由は、GeSbTeに到達する実効的な光パワーと、超解像スポットの形状が、L0とL1で異なるからである。実施例10と同様、それぞれの層に対する推奨の再生パワーとPR係数を、L0、L1のそれぞれのコントロールデータ領域にピットデータとして記載した。ここでは、推奨再生パワーとして、L0は2.5mW、L1は1.2mWとし、推奨PR係数としては、L0は(1,2,-4,2,1)、L1は(1,2,2,-3,1)とした。ここで、L1のPR係数を非対称とした理由を述べる。L1はAg膜厚が薄いため、GeSbTeで発生した熱が拡散しにくく、超解像スポットは常解像スポットの中心よりも、光スポット進行方向から見て遅れた位置に形成される。このため、超解像スポットからの寄与は、再生信号の中で遅れを生じる。これを非対称な係数で示した。
【0143】
ドライブではまず、L1のPR係数と再生パワーを決定した。ここで実施例10と同様、PR係数は推奨値を用い、再生パワーを推奨値の±30%に相当する0.8mWから1.6mWの間で0.1mW刻みで変化させ、100万ビットのデータを再生した際のエラー数を検出した。そのビットエラー率(bER)を図17に示す。図のように、再生パワーPr=1.2mWの時に2×10-6、Pr=1.3mWで3×10-6であり、これらの再生パワーで最もエラー数が少なかったが、2〜3ビットのエラーが確認された。そこで、その中間のパワーである1.25mWで再度bERを測定したところ、エラーは検出されなかったので、L0の再生パワーは1.25mWとした。この場合に対応するために、図16のCPUに、最小bER付近でエラーが検出された場合、その最小bERが得られた2つの再生パワーの中間パワーで再度bERを測定し、その3つのパワーの中で最小のbERが得られる再生パワーを採用する機能を追加した。
【0144】
次に、L1に対するPR係数の最適化を行った。Pr=1.25mWに固定し、PR係数を(1,2,2,X,1)とし、Xを0から-6まで変化させた場合のbERの測定結果を図18に示す。この結果からX=-2、-3の時にエラーが検出されなかったことがわかる。この場合を想定し、図16のCPUに以下の機能を追加した。図18の結果より、X=-1の時よりも、X=-4の時の方が低いbERが得られたので、X=-3の方がより広いマージンが確保できると判断し、X=-3を採用する。
【0145】
次に、L0のPR係数と再生パワーを決定した。これまでと同様に、まず再生パワーPrを決定し、その後にPR係数を決定した。Prを推奨値2.5mWの±30%に相当する1.7mWから3.3mWまで0.1mW刻みで変化させたところ、2.5mWでのみエラーが検出されなかったので、Pr=2.5mWとした。その後、PR(1,2,X,2,1)のXを-1から-7で変化させたところ、X=-3、-4、-5でエラーが検出されなかったので、X=-4を採用した。
【0146】
上記の方法は層数が2よりも大きい多層媒体にも適用できる。また、ここでは推奨の再生パワーとPR係数を、それぞれの層にピットデータで記載したが、例えば一つの層に纏めて記載してもいいし、或いは全ての層に全ての層に対する推奨値を記載してもよい。
【符号の説明】
【0147】
200…光ディスク、201…管理情報領域、202…DI情報、203…アドレス情報、204…OPCパラメータテーブル、205…OPC実行判定情報、600…光ディスク装置、601…光ディスク、602…ディスク回転部、603…光ピックアップ部、604…DSP、605…マイコン、606…レーザ光、607…メモリユニット、608…CPU、609…モニタパラメータ及び信号品質演算部、610…径時情報記憶部、611…判定部,612…固定情報記憶部、613…OPCパラメータ演算部、614…再生パワー演算部、615…制御信号生成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超解像再生に用いられる再生パワー調整方法であって、
前記超解像再生の再生状態を反映する指標であるモニタパラメータと再生パワーを観測し、
超解像の再生条件が変動したと判断される場合、
変動後の再生条件に合わせて前記モニタパラメータと再生パワーとの関係性を再設定し、
当該再設定された関係性の上で、前記モニタパラメータが前記再生条件の変動後の目標値に一致するように前記再生パワーを調整することを特徴とする再生パワー調整方法。
【請求項2】
請求項1に記載の再生パワー調整方法において、
前記関係性は、
前記再生パワーと、
前記モニタパラメータと、
前記超解像再生が実行される情報記録媒体に固有なパラメータで、少なくとも当該の前記モニタパラメータの目標値を含むOPCパラメータとを含む式により表現されることを特徴とする再生パワー調整方法。
【請求項3】
請求項2に記載の再生パワー調整方法において、
前記OPCパラメータは再生条件に応じて変更されることを特徴とする再生パワー調整方法。
【請求項4】
請求項1に記載の再生パワー調整方法において、
前記再生条件は、再生する位置、再生の線速度、周囲の温度のうち、少なくとも一つ以上によって指標付けられることを特徴とする再生パワー調整方法。
【請求項5】
請求項2に記載の再生パワー調整方法において、
使用する前記モニタパラメータが二つ以上であり、
各々のモニタパラメータ、及び再生パワー、及び前記OPCパラメータを用いて算出される各々の前記最適再生パワーを用いて、
所定の規則の加重平均によって得られる平均最適再生パワーを算出し、
再生パワーを前記平均最適再生パワーに変更することを特徴とする再生パワー調整方法。
【請求項6】
請求項2に記載の再生パワー調整方法において、
前記OPCパラメータは前記再生条件と対応付けられたテーブル型の情報として取得され、
前記再生条件に応じたOPCパラメータは、前記テーブル型の情報を参照し、現在の再生条件に対応したOPCパラメータとして決定されることを特徴とする再生パワー調整方法
【請求項7】
所定の情報記録媒体に対して超解像再生を行う機能を備えた情報記録再生装置において、
前記情報記録媒体から超解像の再生信号を取得する手段と、
当該再生信号から、前記情報記録媒体に記録された情報をデジタルデータとして取得する手段と、
当該取得されたデジタルデータに対して所定の情報処理を行う情報処理手段とを備え、
当該情報処理手段は、
再生パワーと、前記超解像再生の再生状態を反映する指標であるモニタパラメータとを算出し、
超解像の再生条件が変動したと判断される場合、
変動後の再生条件に合わせて前記モニタパラメータと再生パワーとの関係性を再設定し、
当該再設定された関係性の上で、前記モニタパラメータが前記再生条件の変動後の目標値に一致するように前記再生パワーを算出することを特徴とする情報記録再生装置。
【請求項8】
請求項7に記載の情報記録再生装置において、
前記関係性は、
前記再生パワーと、
前記モニタパラメータと、
前期超解像再生が実行される情報記録媒体に固有なパラメータで、少なくとも前記モニタパラメータの目標値を含むOPCパラメータとを含む式により表現され、
前記情報処理装置は、前記OPCパラメータを再生条件に応じて変更することを特徴とする情報記録再生装置。
【請求項9】
請求項7に記載の情報再生装置において、
前記情報記録媒体の再生位置、再生線速度、温度の少なくとも一つを取得する手段を備えることを特徴とする情報再生装置。
【請求項10】
請求項8に記載の情報再生装置において、
二つ以上の前記モニタパラメータを取得する手段と
各々の前記モニタパラメータ、及び前記再生パワー、及び前記OPCパラメータを用いて各々の前記最適再生パワーを算出する手段と、
所定の規則の加重平均によって得られる平均最適再生パワーを算出する手段と、
再生パワーを前記平均最適再生パワーに変更する手段を備える、
ことを特徴とする再生パワー調整方法。
【請求項11】
請求項8に記載の情報記録再生装置において、
前記OPCパラメータを前記光情報記録媒体から取得する手段と、
取得した前記OPCパラメータを用いて前記最適再生パワーを算出する手段とを備えることを特徴とする情報記録再生装置。
【請求項12】
請求項8に記載の情報記録再生装置において、
前記OPCパラメータを前記情報記録再生装置の記憶部から取得する手段と、
取得した前記OPCパラメータを用いて前記最適再生パワーを算出する手段とを備えることを特徴とする情報記録再生装置。
【請求項13】
請求項8に記載の情報記録再生装置において、
前記OPCパラメータを、前記再生条件と対応付けられたテーブル状の情報として光情報記録装置の記憶部に保持する手段と、
前記テーブル状の情報を参照して、前記再生条件に対応した前記OPCパラメータを決定する手段とを備えることを特徴とする情報記録再生装置。
【請求項14】
請求項8に記載の情報記録再生装置において、
前記再生条件に対応し前記OPCパラメータを用いて、前記最適再生パワーを適切に算出できない場合、前記OPCパラメータを変更する手段を備えることを特徴とする情報記録再生装置。
【請求項15】
請求項13に記載の情報記録再生装置において、
前記テーブル状の情報の第一の前記再生条件に対応した前記OPCパラメータを使用して、
前記第一の再生条件に含まれる第二の前記再生条件の前記最適再生パワーを適切に算出できない場合、前記第二の再生条件におけるOPCパラメータを変更する手段を備えた、
ことを特徴とする情報記録再生装置。
【請求項16】
請求項8に記載の情報記録再生装置において、
前記OPCパラメータは、再生終了時に情報記録媒体の所定の領域及び/または情報記録再生装置の所定の記憶部に記録する手段を備える、
ことを特徴とする情報記録再生装置。
【請求項17】
超解像記録ないし超解像再生を実行するために用いられる情報記録媒体において、
当該情報記録媒体に固有なパラメータであって、超解像再生の再生状態を反映する指標であるモニタパラメータの目標値を含むOPCパラメータが格納される領域を備えたことを特徴とする情報記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3(A)】
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【図3(B)】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2010−267303(P2010−267303A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−115133(P2009−115133)
【出願日】平成21年5月12日(2009.5.12)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】