再送リクエスト送信機構を備えるネットワーク受信装置
【課題】欠落パケットに対する複数の再送リクエスト機構を有するネットワーク受信装置において,重複した再送リクエストの送信を排除し,効率的な受信を行う。
【解決手段】欠落パケットの検出に対し,所定の再送リクエスト機構による再送リクエストが送信されると,他の再送リクエスト機構へは,送信した再送リクエストに対する応答を受信し欠落パケットを補完するまで,当該パケットを渡さない。これにより,当該他の再送リクエスト機構による欠落パケットの検出を回避し,ひいては重複した再送リクエストとの送信を回避する。
【解決手段】欠落パケットの検出に対し,所定の再送リクエスト機構による再送リクエストが送信されると,他の再送リクエスト機構へは,送信した再送リクエストに対する応答を受信し欠落パケットを補完するまで,当該パケットを渡さない。これにより,当該他の再送リクエスト機構による欠落パケットの検出を回避し,ひいては重複した再送リクエストとの送信を回避する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明はネットワーク受信装置に関し,特に,送信側に向けてデータの再送リクエストを送信する機構を備えるものに関する。
【背景技術】
【0002】
ネットワーク通信においては様々な要因から通信(パケット)の欠落が起こりうる。特に無線通信においては,電波干渉など通信に障害となる要因が多いため,欠落したパケットを再送する仕組みは必須である。
【0003】
一般的には,無線に限らず有線にとってもパケット再送は重要な機能である。これについて基本的な仕組みを提供しているのが,TCP(Transmission Control Protocol)である。TCPにおける再送メカニズムとしては,主に,受信装置からの確認応答(ACK)が所定時間内(Round Trip Time)に受信できない場合(ACK喪失)をトリガとして動作するものや,能動的に再送を要求する高速再送制御(Fast Retransmission)と呼ばれるものがある。なお,TCPはOSI参照モデルにおけるトランスポート層に位置するプロトコルであり,再送以外にも安定的通信を担保するための様々な仕組みを提供している。
【0004】
図1はネットワーク通信における代表的な階層構造である。もっとも上位の階層はアプリケーション層で,具体的にはHTTPやFTPなどのプロトコルが動作する階層である。TCPの下位にはIP(インターネットプロトコル)が位置し,さらにその下位にはデータリンク層が位置する。データリンク層と物理層は現実には所定の組み合わせのセットと考えてよい。たとえば,データリンク層がEthernet(登録商標)であれば物理層はIEEE802.3ab規格などの有線LANが用いられる。他方,無線LANは,機能的にはデータリンク層と物理層が明確に分離されているものの,呼称としては双方を一体化してIEEE802.11nなどとするのが一般的である。
【0005】
図2は無線LANを使用する場合の階層構造である。データリンク層および物理層はIEEE802.11nと呼ばれる規格に準拠する場合について例示している。前述したように,パケット再送の基本的な仕組みを提供しているのがTCPである。しかし,場合によっては,TCP以外の機構による再送が行われる場合もある。図2で例示している階層構造がそれである。このIEEE802.11n規格準拠の階層構造においては,TCPだけでなくIEEE802.11nも再送機能(ブロックACK)を有している。非特許文献1にその例を示す。なお,このブロックACKは,主に通信効率を向上させるために用いられているフレームアグリゲーション機能に付随するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献1】シスコシステムズ合同会社 ホームページ<http://www.cisco.com/web/JP/solution/netsol/mobility/ngw/literature/pdf/wlpfmc_wp.pdf>
【0007】
TCPとIEEE802.11nの再送機能は,いずれも欠落パケットの補完という目的は同じである。しかし,それぞれの機能は協調して動作しているわけではなく,欠落パケットの再送リクエストを送信するか否かの判断はそれぞれの階層において独自に行っている。このため,パケットの欠落に対して,両方の階層において再送リクエストの送信が必要と判断される場合がある。図3はこの様子を示したものである(実際には,パケットにはペイロードがあり,それぞれの階層の扱うデータの単位が異なるため,図示した様に全く同じ欠落単位に対して再送の判断がなされるわけではない)。
【0008】
図4は上述した再送リクエストが重複する様子を階層構造からみた図である。データリンク層とトランスポート層のそれぞれに欠落パケットを検出する手段がある。データリンク層には無線パケット欠落検出手段403があり,トランスポート層にはTCPパケット欠落検出手段405Tがある。それぞれの手段が検出したパケットの欠落に対し,データリンク層では無線パケット再送リクエスト手段404が再送リクエストを送信し,トランスポート層ではTCPパケット再送リクエスト手段406Tが送信する。
【0009】
このように両階層によって再送リクエストの送信が必要と判断されると,重複した再送リクエストが送信端末に送られることとなる。当然,このような通信は不効率なものであり,ネットワークの帯域を圧迫するとともに,受信端末にとっても不要な処理であるため,極力発生しないようにする必要がある。特に,TCPでの再送リクエストの処理,具体的にはヘッダ処理であるが,これは処理量(オーバーヘッド)が多いため,受信端末の動作に大きな負担となっている。
【0010】
このような問題,即ち,TCPによるヘッダ処理の負担と,異なる階層による重複した再送要求は,ネットワーク通信の階層化によって引き起こされたものである。しかし,階層化それ自体はプロトコルの開発効率などの点で必要なことである。一方で,各階層での通信効率を追求した結果,別々の階層で独自に再送機能を有するなど,異なる階層同士で協調した動作が行われないという問題が生じてきたわけである。
【0011】
言うまでもないが,ネットワーク通信における効率とは,各階層単独の効率ではなく,すべての階層を含めた全体で判断すべきである。しかし,階層構造を利用したこれまでのネットワーク通信では,必ずしもこういった視点が反映されているとはいえなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本願発明は上述した課題を解決するためのものである。すなわち,再送リクエストを送信することができる機能を複数有するネットワーク受信装置において,それぞれの機能を有機的に協調して動作させることで効率的な通信を行うことのできるネットワーク受信装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明にかかる第1の形態は,所定のネットワーク送信装置から送信されたパケットを受信するパケット受信手段と,パケット受信手段が受信したパケット(受信パケット)の再送リクエストを送信する機能を有する上位層通信手段と,上位層通信手段よりも下位に位置する下位層通信手段と,を備えるネットワーク受信装置であって,下位層通信手段は,自身である下位層通信手段の通信パラメータに基づいて受信パケットの欠落を検出する第1の欠落パケット検出手段と,上位層通信手段の通信パラメータに基づいて受信パケットの欠落を検出する第2の欠落パケット検出手段と,第1の欠落パケット検出手段によってパケットの欠落が検出された場合,自身である下位層通信手段の通信形式にて再送リクエストを送信する第1の再送リクエスト送信手段と,第2の欠落パケット検出手段によってパケットの欠落が検出された場合,上位層通信手段の通信形式にて再送リクエストを送信する第2の再送リクエスト送信手段と,を備えるネットワーク受信装置である。
【0014】
本願発明にかかる第2の形態は,所定のネットワーク送信装置から送信されたパケットを受信するパケット受信手段と,パケット受信手段が受信したパケット(受信パケット)の再送リクエストを送信する機能を有する上位層通信手段と,上位層通信手段よりも下位に位置する下位層通信手段と,を備えるネットワーク受信装置であって,下位層通信手段は,自身である下位層通信手段の通信パラメータに基づいて受信パケットの欠落を検出する第1の欠落パケット検出手段と,上位層通信手段の通信パラメータに基づいて受信パケットの欠落を検出する第2の欠落パケット検出手段と,第1の欠落パケット検出手段によってパケットの欠落が検出された場合,自身である下位層通信手段の通信形式にて再送リクエストを送信する再送リクエスト送信手段と,第2の欠落パケット検出手段によって受信パケットの欠落が検出され,かつ,再送リクエスト送信手段によって当該欠落が検出された受信パケットの再送リクエストが送信されていた場合,所定の手段によって,受信パケットに対する再送リクエストを上位層通信手段が送信しないようにする再送リクエスト送信避止手段と,を備えるネットワーク受信装置である。
【0015】
好ましくは,所定の手段は,受信パケットを上位層通信手段に渡さないよう保留パケットとすることである。
【0016】
好ましくは,下位層通信手段は,さらに,再送リクエスト送信手段が送信した再送リクエストに対する応答パケットを受信した場合,保留パケットを解除し,受信パケットを上位層通信手段に渡すことを可能とする保留パケット解除手段と,を備える。
【0017】
本願発明にかかる第3の形態は,所定のネットワーク送信装置から送信されたパケットを受信するパケット受信手段と,パケット受信手段が受信したパケット(受信パケット)の再送リクエストを送信する機能を有し,通信構造における所定の第2の層で動作する第2層通信手段と,第2層通信手段と異なる層であって,所定の第1の層で動作する第1層通信手段と,を備えるネットワーク受信装置であって,第1層通信手段は,自身である第1層通信手段の通信パラメータに基づいて受信パケットの欠落を検出する第1の欠落パケット検出手段と,第2層通信手段の通信パラメータに基づいて受信パケットの欠落を検出する第2の欠落パケット検出手段と,第1の欠落パケット検出手段によってパケットの欠落が検出された場合,自身である第1層通信手段の通信形式にて再送リクエストを送信する再送リクエスト送信手段と,第2の欠落パケット検出手段によって受信パケットの欠落が検出され,かつ,再送リクエスト送信手段によって当該欠落が検出された受信パケットの再送リクエストが送信されていた場合,所定の手段によって,受信パケットに対する再送リクエストを第1層通信手段が送信しないようにする再送リクエスト送信避止手段と,を備えるネットワーク受信装置である。
【0018】
好ましくは,所定の手段は,受信パケットを第2層通信手段に渡さないよう保留パケットとすることである。
【0019】
好ましくは,第1層通信手段は,さらに,再送リクエスト送信手段が送信した再送リクエストに対する応答パケットを受信した場合,保留パケットを解除し,受信パケットを第2層通信手段に渡すことを可能とする保留パケット解除手段と,を備える。
【発明の効果】
【0020】
本願発明によれば,TCPパケットの欠落検出をデータリンク層でも行い,検出した場合は,TCPではなくデータリンク層から直接TCPフォーマットにて再送リクエストを送信することができる。この結果,再送処理に付随するTCP処理(オーバーヘッド)を軽減でき,受信装置全体として効率の良い受信を行うことができる。
【0021】
さらに,データリンク層によって検出された,欠落を含むTCPパケットをTCP(トランスポート層)に渡さず保留しておくことにより,TCPでのパケット欠落の検出を回避するとともに,これに伴うTCPによる再送リクエストの送信を避止することができる。
【0022】
以上を総括すると,自身よりも上位の通信パラメータに基づいて欠落パケットを検出し,再送リクエストを送信するか否かを判断することで,自身と上位層の両方によって行われる再送リクエストの重複送信を減少させることができる。結果として,ネットワーク受信装置の処理量を減少させることができ,通信処理を効率化できるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下では図面を参照し本願発明に係る実施例を説明する。
[実施例1]
[ブロック図]
【0024】
図5は本実施例にかかる無線LAN受信装置のブロック図である。アンテナを介して受信した無線パケットは無線インタフェース401によってアナログデータからデジタルデータへの変換などの処理が行われる。
【0025】
受信パケット検出手段402は,無線インタフェース401がパケットを受信したかどうかを監視しており,受信を検出すると,無線パケット欠落検出手段403およびTCPパケット欠落検出手段405Dに通知する。
【0026】
無線パケット欠落検出手段403は,たとえばIEEE802.11nに規定のブロックACK機構などによるものであり,データリンク層における受信パケットの欠落を検出するものである。なお,本実施例ではIEEE802.11nを例示しているが,データリンク層によって行われる欠落検出手段であれば,他のものでも本願発明は適用可能である。
【0027】
無線パケット再送リクエスト手段404は,たとえば前述したブロックACKによって行われる再送リクエストの送信である。
【0028】
TCPパケット欠落検出手段405Dは,本来はトランスポート層で行われる処理であるが,本願発明ではデータリンク層においてもこれを行う。具体的には,上述の従来技術で説明したACKの損失をトリガとするものや高速再送制御などである。TCP自体には再送を含め多くのヘッダ処理があるが,本願発明では,再送に関するもののみデータリンク層でも行うものとする。
【0029】
データリンク層においてトランスポート層の欠落を検出する仕組みを図11に示す。一般的なネットワーク受信装置におけるデータリンク層での処理は,データリンクフレームのヘッダ部のみを解析し,データ部に関してはブラックボックスとして扱う。これに対し本願発明は,データリンクフレームのデータ部に入っているトランスポート層のヘッダ部,つまりTCPのヘッダも解析する。これにより,データリンク層においてトランスポート層の欠落も検出することができる。
【0030】
TCPパケット再送リクエスト手段406Dは,TCPパケット欠落検出手段405Dが検出した欠落パケットに対する再送のリクエストを送信する手段である。この再送リクエストは,データリンク層によって行われるが,実際に送信されるリクエストは,本来のTCPのフォーマットのものである。つまり,TCPの再送リクエストの送信をデータリンク層にて行うわけである。
[階層構造からみたブロック図]
【0031】
図6は,図5で説明したブロックを階層別に記載したものである。本願発明の特徴は,本来ならトランスポート層のTCPによって行われるTCPパケットの欠落に対する再送リクエストの処理をデータリンク層でも行うことである。つまり,図からも明らかなとおり,TCPパケット欠落検出手段およびTCPパケット再送リクエスト手段がトランスポート層だけでなくデータリンク層にも存在する。なお,それぞれの手段は機能が同じであるため同じ名前としているが,動作する階層が異なるため,トランスポート層とデータリンク層とで番号を変えている。データリンク層の手段には番号の末尾に「D」を,トランスポート層の手段には「T」を付している。
[動作フロー]
【0032】
図7は実施例1の無線LAN受信装置の動作フローである。それぞれのステップの動作主体は,図に示すとおり上述した各手段が対応している。
【0033】
ステップ701にて,受信パケットがあるかどうかを判定する。受信パケットがあれば次のステップに進み,そうでなければ受信判定処理を繰り返す。
【0034】
ステップ702にて,データリンク層のヘッダである無線パケットのヘッダを解析する。これによって,データリンク層でのパケットの欠落(無線パケットの欠落)があるかどうかがわかる。
【0035】
ステップ703にて,無線パケットの欠落があるかどうかを判定する。欠落があれば,ステップ704に進み無線パケットの再送リクエストを送信し,なければステップ705に進む。
【0036】
ステップ705にて,トランスポート層のヘッダであるTCPヘッダを解析する。これによりトランスポート層でのパケット欠落があるかどうかがわかる。
【0037】
ステップ706にて,TCPパケットの欠落があるかどうかを判定する。欠落があれば,ステップ707に進みTCPパケットの再送リクエストを送信し,そうでなければステップ701に戻る。
[本実施例の効果]
【0038】
本実施例によれば,TCPパケットの欠落検出をデータリンク層で行い,検出した場合は,TCPではなくデータリンク層から直接TCPフォーマットにて再送リクエストを送信することができる。この結果,再送処理に付随するTCP処理(オーバーヘッド)を軽減でき,受信装置全体として効率の良い受信を行うことができる。
[実施例2]
[ブロック図]
【0039】
図8は実施例2にかかる無線LAN受信装置のブロック図である。実施例1と比較して,再送リクエスト送信避止手段801が追加されている。実施例1と同じく,この手段もデータリンク層にて動作するものである。図示の通り,この手段は,無線パケット欠落検出手段403およびTCPパケット欠落検出手段405Dに接続しており,欠落パケットが存在する場合に,トランスポート層のTCPパケット再送リクエスト手段406Tによる再送リクエストの送信を回避させる手段である。
【0040】
ここでの注意点として,回避の対象となるのはトランスポート層のTCPパケット再送リクエスト手段406Tであるということである。図示していないが,データリンク層のTCPパケット再送リクエスト手段405Dも存在・機能している。
【0041】
再送リクエスト送信避止手段801の目的は,無線パケット欠落検出手段403によって無線パケットの欠落を検出し,さらにTCPパケット欠落検出手段405においても欠落を検出した場合に,トランスポート層のTCPパケット再送リクエスト手段406Tによって再送リクエストが送信されないようにすることである。
【0042】
これを実現するため,本実施例では,欠落を含む受信パケットを即座にTCPに渡さないよう保留することによりトランスポート層による欠落パケットの再送リクエストを回避する。通常のデータリンク層はこのようなことを行わないため,欠落を含むパケットを渡されたTCPは,ヘッダ解析にてTCPパケットの欠落を検出し,即座にこれに対する再送のリクエストを行う。この欠落パケットに対する再送リクエストは,場合によってはデータリンク層によっても行われ得るもの(前述したブロックACKのこと)であるため,本来ならトランスポート層に即座に渡すべきデータを保留することで重複した再送リクエストを回避することができる。
[階層構造からみたブロック図]
【0043】
図9は,図8で説明したブロックを階層別に記載したものである。本実施例の特徴は,再送リクエスト避止手段801がデータリンク層のTCPパケット欠落検出手段405Dと,トランスポート層のTCPパケット欠落検出手段405Tとの間に位置しており,TCPパケット欠落検出手段405Dの検出した欠落情報をTCPパケット欠落検出手段405Tに伝えないようにすることである。
【0044】
具体的な方法は,上述した通り,欠落を含むパケットをTCPパケット欠落検出手段405Tに与えないことにより実現する。なお,図8と同じく図示していないが,本実施例においてもデータリンク層のTCPパケット再送リクエスト手段405Dが存在しており,これによる再送リクエストの結果,欠落パケットが補完されると,補完後のパケットをTCPに渡す。
[動作フロー]
【0045】
図10は実施例2の無線LAN受信装置の動作フローである。それぞれのステップの動作主体は,図に示すとおり上述した各手段が対応している。
【0046】
ステップ1001にて,受信パケットがあるかどうかを判断する。判断の結果,パケットがあれば次のステップに進み,なければ受信判断を繰り返す。
【0047】
ステップ1002にて,受信したパケットが再送リクエストしたものに対する応答パケットかどうかを判断する。判断の結果,応答パケットであればステップ1003に進み,そうでなければステップ1004に進む。
【0048】
ステップ1003にて,欠落が存在し,上位であるTCPへ渡すことを保留されている受信パケットに設定されたフラグを解除する。これにより,後述するステップ1008にて設定される保留パケットが解除され,上位のTCPに渡すことが可能となる。
【0049】
ステップ1004にて,無線パケットの欠落があるかどうかを判断する。判断の結果,欠落があればステップ1005に進み,そうでなければステップ1006に進む。
【0050】
ステップ1005にて,受信パケットにフラグをセットして再送リクエストを送信する。ここでの再送リクエストは,無線パケットのものである。
【0051】
ステップ1006にて,TCPパケットの欠落があるかどうかを判断する。判断の結果,欠落があればステップ1007に進み,そうでなければステップ1009に進む。
【0052】
ステップ1007にて,受信パケットにフラグがセットされているかどうかを判断する。判断の結果,セットされていれば,ステップ1008に進み,そうでなければステップ1009に進む。フラグがセットされていない場合とは,つまり,TCPレベルでの欠落はあるが,無線パケットレベルでの再送リクエストが送信されていない場合である。このようなパケットの再送処理は,上位のTCPによって行われることとなる。
【0053】
ステップ1008にて,受信パケットを保留パケットとする。つまり,上位であるTCPへ渡すことを,所定の条件が満たされるまで意図的に保留するわけである。
【0054】
ステップ1009にて,受信パケットをTCPに渡す。この処理の主体は図示していないが,通常はデータリンク層,つまり本実施例ではIEEE802.11nが行う。
[本実施例の効果]
【0055】
本実施例によれば,データリンク層によって検出された,欠落を含むTCPパケットをTCP(トランスポート層)に渡さず保留しておくことにより,TCPでのパケット欠落の検出を回避するとともに,TCPによる再送リクエストの送信を避止することができる。また,データリンク層による再送リクエストの結果,補完されたパケットをTCPに渡すことにより,TCPでのヘッダ処理が簡潔になりオーバーヘッドを軽減することもできる。
[その他の実施例]
【0056】
これまでの実施例では無線LAN受信装置を例に説明してきたが,ネットワーク受信装置であって,階層構造を有し,異なる複数の階層において欠落パケットの再送リクエスト送信機能を備えるものであれば,本願発明はどのようなものでも適用可能である。
【0057】
また,本願発明は,データリンク層およびトランスポート層といった,上下関係にある層に限定されず,複数の層があり,それぞれが異なるトリガによって欠落パケットの再送リクエストを送信するものであればどのようなものでも適用可能である。
[まとめ]
【0058】
本願発明によれば,TCPパケットの欠落検出をデータリンク層で行い,検出した場合は,TCPではなくデータリンク層から直接TCPフォーマットにて再送リクエストを送信することができる。この結果,再送処理に付随するTCP処理(オーバーヘッド)を軽減でき,受信装置全体として効率の良い受信を行うことができる。
【0059】
さらに,データリンク層によって検出された,欠落を含むTCPパケットをTCP(トランスポート層)に渡さず保留しておくことにより,TCPでのパケット欠落の検出を回避するとともに,TCPによる再送リクエストの送信を避止することができる。また,データリンク層による再送リクエストの結果,補完されたパケットをTCPに渡すことにより,TCPでのヘッダ処理が簡潔になりオーバーヘッドを軽減することもできる。
【0060】
以上を総括すると,自身よりも上位の通信パラメータに基づいて欠落パケットを検出し,再送リクエストを送信するか否かを判断することで,自身と上位層の両方によって行われる重複した再送リクエストの送信を減少させることができる。結果として,ネットワーク受信装置全体としての通信処理を効率化できるという効果も奏する。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】ネットワーク通信の代表的な階層構造
【図2】無線LAN通信の階層構造通信リンクの状態
【図3】再送リクエスト送信の重複
【図4】階層構造からみた再送リクエスト送信の重複
【図5】実施例1における無線LAN受信装置のブロック図
【図6】実施例1における階層構造からみたブロック図
【図7】実施例1における無線LAN受信装置の動作フロー
【図8】実施例2における無線LAN受信装置のブロック図
【図9】実施例2における階層構造からみたブロック図
【図10】実施例2における無線LAN受信装置の動作フロー
【図11】欠落検出の様子
【符号の説明】
【0062】
402 受信パケット検出手段
403 無線パケット欠落検出手段
404 無線パケット再送リクエスト手段
405D TCPパケット欠落検出手段
406D TCPパケット再送リクエスト手段
801 再送リクエスト避止手段
【技術分野】
【0001】
本願発明はネットワーク受信装置に関し,特に,送信側に向けてデータの再送リクエストを送信する機構を備えるものに関する。
【背景技術】
【0002】
ネットワーク通信においては様々な要因から通信(パケット)の欠落が起こりうる。特に無線通信においては,電波干渉など通信に障害となる要因が多いため,欠落したパケットを再送する仕組みは必須である。
【0003】
一般的には,無線に限らず有線にとってもパケット再送は重要な機能である。これについて基本的な仕組みを提供しているのが,TCP(Transmission Control Protocol)である。TCPにおける再送メカニズムとしては,主に,受信装置からの確認応答(ACK)が所定時間内(Round Trip Time)に受信できない場合(ACK喪失)をトリガとして動作するものや,能動的に再送を要求する高速再送制御(Fast Retransmission)と呼ばれるものがある。なお,TCPはOSI参照モデルにおけるトランスポート層に位置するプロトコルであり,再送以外にも安定的通信を担保するための様々な仕組みを提供している。
【0004】
図1はネットワーク通信における代表的な階層構造である。もっとも上位の階層はアプリケーション層で,具体的にはHTTPやFTPなどのプロトコルが動作する階層である。TCPの下位にはIP(インターネットプロトコル)が位置し,さらにその下位にはデータリンク層が位置する。データリンク層と物理層は現実には所定の組み合わせのセットと考えてよい。たとえば,データリンク層がEthernet(登録商標)であれば物理層はIEEE802.3ab規格などの有線LANが用いられる。他方,無線LANは,機能的にはデータリンク層と物理層が明確に分離されているものの,呼称としては双方を一体化してIEEE802.11nなどとするのが一般的である。
【0005】
図2は無線LANを使用する場合の階層構造である。データリンク層および物理層はIEEE802.11nと呼ばれる規格に準拠する場合について例示している。前述したように,パケット再送の基本的な仕組みを提供しているのがTCPである。しかし,場合によっては,TCP以外の機構による再送が行われる場合もある。図2で例示している階層構造がそれである。このIEEE802.11n規格準拠の階層構造においては,TCPだけでなくIEEE802.11nも再送機能(ブロックACK)を有している。非特許文献1にその例を示す。なお,このブロックACKは,主に通信効率を向上させるために用いられているフレームアグリゲーション機能に付随するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献1】シスコシステムズ合同会社 ホームページ<http://www.cisco.com/web/JP/solution/netsol/mobility/ngw/literature/pdf/wlpfmc_wp.pdf>
【0007】
TCPとIEEE802.11nの再送機能は,いずれも欠落パケットの補完という目的は同じである。しかし,それぞれの機能は協調して動作しているわけではなく,欠落パケットの再送リクエストを送信するか否かの判断はそれぞれの階層において独自に行っている。このため,パケットの欠落に対して,両方の階層において再送リクエストの送信が必要と判断される場合がある。図3はこの様子を示したものである(実際には,パケットにはペイロードがあり,それぞれの階層の扱うデータの単位が異なるため,図示した様に全く同じ欠落単位に対して再送の判断がなされるわけではない)。
【0008】
図4は上述した再送リクエストが重複する様子を階層構造からみた図である。データリンク層とトランスポート層のそれぞれに欠落パケットを検出する手段がある。データリンク層には無線パケット欠落検出手段403があり,トランスポート層にはTCPパケット欠落検出手段405Tがある。それぞれの手段が検出したパケットの欠落に対し,データリンク層では無線パケット再送リクエスト手段404が再送リクエストを送信し,トランスポート層ではTCPパケット再送リクエスト手段406Tが送信する。
【0009】
このように両階層によって再送リクエストの送信が必要と判断されると,重複した再送リクエストが送信端末に送られることとなる。当然,このような通信は不効率なものであり,ネットワークの帯域を圧迫するとともに,受信端末にとっても不要な処理であるため,極力発生しないようにする必要がある。特に,TCPでの再送リクエストの処理,具体的にはヘッダ処理であるが,これは処理量(オーバーヘッド)が多いため,受信端末の動作に大きな負担となっている。
【0010】
このような問題,即ち,TCPによるヘッダ処理の負担と,異なる階層による重複した再送要求は,ネットワーク通信の階層化によって引き起こされたものである。しかし,階層化それ自体はプロトコルの開発効率などの点で必要なことである。一方で,各階層での通信効率を追求した結果,別々の階層で独自に再送機能を有するなど,異なる階層同士で協調した動作が行われないという問題が生じてきたわけである。
【0011】
言うまでもないが,ネットワーク通信における効率とは,各階層単独の効率ではなく,すべての階層を含めた全体で判断すべきである。しかし,階層構造を利用したこれまでのネットワーク通信では,必ずしもこういった視点が反映されているとはいえなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本願発明は上述した課題を解決するためのものである。すなわち,再送リクエストを送信することができる機能を複数有するネットワーク受信装置において,それぞれの機能を有機的に協調して動作させることで効率的な通信を行うことのできるネットワーク受信装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明にかかる第1の形態は,所定のネットワーク送信装置から送信されたパケットを受信するパケット受信手段と,パケット受信手段が受信したパケット(受信パケット)の再送リクエストを送信する機能を有する上位層通信手段と,上位層通信手段よりも下位に位置する下位層通信手段と,を備えるネットワーク受信装置であって,下位層通信手段は,自身である下位層通信手段の通信パラメータに基づいて受信パケットの欠落を検出する第1の欠落パケット検出手段と,上位層通信手段の通信パラメータに基づいて受信パケットの欠落を検出する第2の欠落パケット検出手段と,第1の欠落パケット検出手段によってパケットの欠落が検出された場合,自身である下位層通信手段の通信形式にて再送リクエストを送信する第1の再送リクエスト送信手段と,第2の欠落パケット検出手段によってパケットの欠落が検出された場合,上位層通信手段の通信形式にて再送リクエストを送信する第2の再送リクエスト送信手段と,を備えるネットワーク受信装置である。
【0014】
本願発明にかかる第2の形態は,所定のネットワーク送信装置から送信されたパケットを受信するパケット受信手段と,パケット受信手段が受信したパケット(受信パケット)の再送リクエストを送信する機能を有する上位層通信手段と,上位層通信手段よりも下位に位置する下位層通信手段と,を備えるネットワーク受信装置であって,下位層通信手段は,自身である下位層通信手段の通信パラメータに基づいて受信パケットの欠落を検出する第1の欠落パケット検出手段と,上位層通信手段の通信パラメータに基づいて受信パケットの欠落を検出する第2の欠落パケット検出手段と,第1の欠落パケット検出手段によってパケットの欠落が検出された場合,自身である下位層通信手段の通信形式にて再送リクエストを送信する再送リクエスト送信手段と,第2の欠落パケット検出手段によって受信パケットの欠落が検出され,かつ,再送リクエスト送信手段によって当該欠落が検出された受信パケットの再送リクエストが送信されていた場合,所定の手段によって,受信パケットに対する再送リクエストを上位層通信手段が送信しないようにする再送リクエスト送信避止手段と,を備えるネットワーク受信装置である。
【0015】
好ましくは,所定の手段は,受信パケットを上位層通信手段に渡さないよう保留パケットとすることである。
【0016】
好ましくは,下位層通信手段は,さらに,再送リクエスト送信手段が送信した再送リクエストに対する応答パケットを受信した場合,保留パケットを解除し,受信パケットを上位層通信手段に渡すことを可能とする保留パケット解除手段と,を備える。
【0017】
本願発明にかかる第3の形態は,所定のネットワーク送信装置から送信されたパケットを受信するパケット受信手段と,パケット受信手段が受信したパケット(受信パケット)の再送リクエストを送信する機能を有し,通信構造における所定の第2の層で動作する第2層通信手段と,第2層通信手段と異なる層であって,所定の第1の層で動作する第1層通信手段と,を備えるネットワーク受信装置であって,第1層通信手段は,自身である第1層通信手段の通信パラメータに基づいて受信パケットの欠落を検出する第1の欠落パケット検出手段と,第2層通信手段の通信パラメータに基づいて受信パケットの欠落を検出する第2の欠落パケット検出手段と,第1の欠落パケット検出手段によってパケットの欠落が検出された場合,自身である第1層通信手段の通信形式にて再送リクエストを送信する再送リクエスト送信手段と,第2の欠落パケット検出手段によって受信パケットの欠落が検出され,かつ,再送リクエスト送信手段によって当該欠落が検出された受信パケットの再送リクエストが送信されていた場合,所定の手段によって,受信パケットに対する再送リクエストを第1層通信手段が送信しないようにする再送リクエスト送信避止手段と,を備えるネットワーク受信装置である。
【0018】
好ましくは,所定の手段は,受信パケットを第2層通信手段に渡さないよう保留パケットとすることである。
【0019】
好ましくは,第1層通信手段は,さらに,再送リクエスト送信手段が送信した再送リクエストに対する応答パケットを受信した場合,保留パケットを解除し,受信パケットを第2層通信手段に渡すことを可能とする保留パケット解除手段と,を備える。
【発明の効果】
【0020】
本願発明によれば,TCPパケットの欠落検出をデータリンク層でも行い,検出した場合は,TCPではなくデータリンク層から直接TCPフォーマットにて再送リクエストを送信することができる。この結果,再送処理に付随するTCP処理(オーバーヘッド)を軽減でき,受信装置全体として効率の良い受信を行うことができる。
【0021】
さらに,データリンク層によって検出された,欠落を含むTCPパケットをTCP(トランスポート層)に渡さず保留しておくことにより,TCPでのパケット欠落の検出を回避するとともに,これに伴うTCPによる再送リクエストの送信を避止することができる。
【0022】
以上を総括すると,自身よりも上位の通信パラメータに基づいて欠落パケットを検出し,再送リクエストを送信するか否かを判断することで,自身と上位層の両方によって行われる再送リクエストの重複送信を減少させることができる。結果として,ネットワーク受信装置の処理量を減少させることができ,通信処理を効率化できるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下では図面を参照し本願発明に係る実施例を説明する。
[実施例1]
[ブロック図]
【0024】
図5は本実施例にかかる無線LAN受信装置のブロック図である。アンテナを介して受信した無線パケットは無線インタフェース401によってアナログデータからデジタルデータへの変換などの処理が行われる。
【0025】
受信パケット検出手段402は,無線インタフェース401がパケットを受信したかどうかを監視しており,受信を検出すると,無線パケット欠落検出手段403およびTCPパケット欠落検出手段405Dに通知する。
【0026】
無線パケット欠落検出手段403は,たとえばIEEE802.11nに規定のブロックACK機構などによるものであり,データリンク層における受信パケットの欠落を検出するものである。なお,本実施例ではIEEE802.11nを例示しているが,データリンク層によって行われる欠落検出手段であれば,他のものでも本願発明は適用可能である。
【0027】
無線パケット再送リクエスト手段404は,たとえば前述したブロックACKによって行われる再送リクエストの送信である。
【0028】
TCPパケット欠落検出手段405Dは,本来はトランスポート層で行われる処理であるが,本願発明ではデータリンク層においてもこれを行う。具体的には,上述の従来技術で説明したACKの損失をトリガとするものや高速再送制御などである。TCP自体には再送を含め多くのヘッダ処理があるが,本願発明では,再送に関するもののみデータリンク層でも行うものとする。
【0029】
データリンク層においてトランスポート層の欠落を検出する仕組みを図11に示す。一般的なネットワーク受信装置におけるデータリンク層での処理は,データリンクフレームのヘッダ部のみを解析し,データ部に関してはブラックボックスとして扱う。これに対し本願発明は,データリンクフレームのデータ部に入っているトランスポート層のヘッダ部,つまりTCPのヘッダも解析する。これにより,データリンク層においてトランスポート層の欠落も検出することができる。
【0030】
TCPパケット再送リクエスト手段406Dは,TCPパケット欠落検出手段405Dが検出した欠落パケットに対する再送のリクエストを送信する手段である。この再送リクエストは,データリンク層によって行われるが,実際に送信されるリクエストは,本来のTCPのフォーマットのものである。つまり,TCPの再送リクエストの送信をデータリンク層にて行うわけである。
[階層構造からみたブロック図]
【0031】
図6は,図5で説明したブロックを階層別に記載したものである。本願発明の特徴は,本来ならトランスポート層のTCPによって行われるTCPパケットの欠落に対する再送リクエストの処理をデータリンク層でも行うことである。つまり,図からも明らかなとおり,TCPパケット欠落検出手段およびTCPパケット再送リクエスト手段がトランスポート層だけでなくデータリンク層にも存在する。なお,それぞれの手段は機能が同じであるため同じ名前としているが,動作する階層が異なるため,トランスポート層とデータリンク層とで番号を変えている。データリンク層の手段には番号の末尾に「D」を,トランスポート層の手段には「T」を付している。
[動作フロー]
【0032】
図7は実施例1の無線LAN受信装置の動作フローである。それぞれのステップの動作主体は,図に示すとおり上述した各手段が対応している。
【0033】
ステップ701にて,受信パケットがあるかどうかを判定する。受信パケットがあれば次のステップに進み,そうでなければ受信判定処理を繰り返す。
【0034】
ステップ702にて,データリンク層のヘッダである無線パケットのヘッダを解析する。これによって,データリンク層でのパケットの欠落(無線パケットの欠落)があるかどうかがわかる。
【0035】
ステップ703にて,無線パケットの欠落があるかどうかを判定する。欠落があれば,ステップ704に進み無線パケットの再送リクエストを送信し,なければステップ705に進む。
【0036】
ステップ705にて,トランスポート層のヘッダであるTCPヘッダを解析する。これによりトランスポート層でのパケット欠落があるかどうかがわかる。
【0037】
ステップ706にて,TCPパケットの欠落があるかどうかを判定する。欠落があれば,ステップ707に進みTCPパケットの再送リクエストを送信し,そうでなければステップ701に戻る。
[本実施例の効果]
【0038】
本実施例によれば,TCPパケットの欠落検出をデータリンク層で行い,検出した場合は,TCPではなくデータリンク層から直接TCPフォーマットにて再送リクエストを送信することができる。この結果,再送処理に付随するTCP処理(オーバーヘッド)を軽減でき,受信装置全体として効率の良い受信を行うことができる。
[実施例2]
[ブロック図]
【0039】
図8は実施例2にかかる無線LAN受信装置のブロック図である。実施例1と比較して,再送リクエスト送信避止手段801が追加されている。実施例1と同じく,この手段もデータリンク層にて動作するものである。図示の通り,この手段は,無線パケット欠落検出手段403およびTCPパケット欠落検出手段405Dに接続しており,欠落パケットが存在する場合に,トランスポート層のTCPパケット再送リクエスト手段406Tによる再送リクエストの送信を回避させる手段である。
【0040】
ここでの注意点として,回避の対象となるのはトランスポート層のTCPパケット再送リクエスト手段406Tであるということである。図示していないが,データリンク層のTCPパケット再送リクエスト手段405Dも存在・機能している。
【0041】
再送リクエスト送信避止手段801の目的は,無線パケット欠落検出手段403によって無線パケットの欠落を検出し,さらにTCPパケット欠落検出手段405においても欠落を検出した場合に,トランスポート層のTCPパケット再送リクエスト手段406Tによって再送リクエストが送信されないようにすることである。
【0042】
これを実現するため,本実施例では,欠落を含む受信パケットを即座にTCPに渡さないよう保留することによりトランスポート層による欠落パケットの再送リクエストを回避する。通常のデータリンク層はこのようなことを行わないため,欠落を含むパケットを渡されたTCPは,ヘッダ解析にてTCPパケットの欠落を検出し,即座にこれに対する再送のリクエストを行う。この欠落パケットに対する再送リクエストは,場合によってはデータリンク層によっても行われ得るもの(前述したブロックACKのこと)であるため,本来ならトランスポート層に即座に渡すべきデータを保留することで重複した再送リクエストを回避することができる。
[階層構造からみたブロック図]
【0043】
図9は,図8で説明したブロックを階層別に記載したものである。本実施例の特徴は,再送リクエスト避止手段801がデータリンク層のTCPパケット欠落検出手段405Dと,トランスポート層のTCPパケット欠落検出手段405Tとの間に位置しており,TCPパケット欠落検出手段405Dの検出した欠落情報をTCPパケット欠落検出手段405Tに伝えないようにすることである。
【0044】
具体的な方法は,上述した通り,欠落を含むパケットをTCPパケット欠落検出手段405Tに与えないことにより実現する。なお,図8と同じく図示していないが,本実施例においてもデータリンク層のTCPパケット再送リクエスト手段405Dが存在しており,これによる再送リクエストの結果,欠落パケットが補完されると,補完後のパケットをTCPに渡す。
[動作フロー]
【0045】
図10は実施例2の無線LAN受信装置の動作フローである。それぞれのステップの動作主体は,図に示すとおり上述した各手段が対応している。
【0046】
ステップ1001にて,受信パケットがあるかどうかを判断する。判断の結果,パケットがあれば次のステップに進み,なければ受信判断を繰り返す。
【0047】
ステップ1002にて,受信したパケットが再送リクエストしたものに対する応答パケットかどうかを判断する。判断の結果,応答パケットであればステップ1003に進み,そうでなければステップ1004に進む。
【0048】
ステップ1003にて,欠落が存在し,上位であるTCPへ渡すことを保留されている受信パケットに設定されたフラグを解除する。これにより,後述するステップ1008にて設定される保留パケットが解除され,上位のTCPに渡すことが可能となる。
【0049】
ステップ1004にて,無線パケットの欠落があるかどうかを判断する。判断の結果,欠落があればステップ1005に進み,そうでなければステップ1006に進む。
【0050】
ステップ1005にて,受信パケットにフラグをセットして再送リクエストを送信する。ここでの再送リクエストは,無線パケットのものである。
【0051】
ステップ1006にて,TCPパケットの欠落があるかどうかを判断する。判断の結果,欠落があればステップ1007に進み,そうでなければステップ1009に進む。
【0052】
ステップ1007にて,受信パケットにフラグがセットされているかどうかを判断する。判断の結果,セットされていれば,ステップ1008に進み,そうでなければステップ1009に進む。フラグがセットされていない場合とは,つまり,TCPレベルでの欠落はあるが,無線パケットレベルでの再送リクエストが送信されていない場合である。このようなパケットの再送処理は,上位のTCPによって行われることとなる。
【0053】
ステップ1008にて,受信パケットを保留パケットとする。つまり,上位であるTCPへ渡すことを,所定の条件が満たされるまで意図的に保留するわけである。
【0054】
ステップ1009にて,受信パケットをTCPに渡す。この処理の主体は図示していないが,通常はデータリンク層,つまり本実施例ではIEEE802.11nが行う。
[本実施例の効果]
【0055】
本実施例によれば,データリンク層によって検出された,欠落を含むTCPパケットをTCP(トランスポート層)に渡さず保留しておくことにより,TCPでのパケット欠落の検出を回避するとともに,TCPによる再送リクエストの送信を避止することができる。また,データリンク層による再送リクエストの結果,補完されたパケットをTCPに渡すことにより,TCPでのヘッダ処理が簡潔になりオーバーヘッドを軽減することもできる。
[その他の実施例]
【0056】
これまでの実施例では無線LAN受信装置を例に説明してきたが,ネットワーク受信装置であって,階層構造を有し,異なる複数の階層において欠落パケットの再送リクエスト送信機能を備えるものであれば,本願発明はどのようなものでも適用可能である。
【0057】
また,本願発明は,データリンク層およびトランスポート層といった,上下関係にある層に限定されず,複数の層があり,それぞれが異なるトリガによって欠落パケットの再送リクエストを送信するものであればどのようなものでも適用可能である。
[まとめ]
【0058】
本願発明によれば,TCPパケットの欠落検出をデータリンク層で行い,検出した場合は,TCPではなくデータリンク層から直接TCPフォーマットにて再送リクエストを送信することができる。この結果,再送処理に付随するTCP処理(オーバーヘッド)を軽減でき,受信装置全体として効率の良い受信を行うことができる。
【0059】
さらに,データリンク層によって検出された,欠落を含むTCPパケットをTCP(トランスポート層)に渡さず保留しておくことにより,TCPでのパケット欠落の検出を回避するとともに,TCPによる再送リクエストの送信を避止することができる。また,データリンク層による再送リクエストの結果,補完されたパケットをTCPに渡すことにより,TCPでのヘッダ処理が簡潔になりオーバーヘッドを軽減することもできる。
【0060】
以上を総括すると,自身よりも上位の通信パラメータに基づいて欠落パケットを検出し,再送リクエストを送信するか否かを判断することで,自身と上位層の両方によって行われる重複した再送リクエストの送信を減少させることができる。結果として,ネットワーク受信装置全体としての通信処理を効率化できるという効果も奏する。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】ネットワーク通信の代表的な階層構造
【図2】無線LAN通信の階層構造通信リンクの状態
【図3】再送リクエスト送信の重複
【図4】階層構造からみた再送リクエスト送信の重複
【図5】実施例1における無線LAN受信装置のブロック図
【図6】実施例1における階層構造からみたブロック図
【図7】実施例1における無線LAN受信装置の動作フロー
【図8】実施例2における無線LAN受信装置のブロック図
【図9】実施例2における階層構造からみたブロック図
【図10】実施例2における無線LAN受信装置の動作フロー
【図11】欠落検出の様子
【符号の説明】
【0062】
402 受信パケット検出手段
403 無線パケット欠落検出手段
404 無線パケット再送リクエスト手段
405D TCPパケット欠落検出手段
406D TCPパケット再送リクエスト手段
801 再送リクエスト避止手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定のネットワーク送信装置から送信されたパケットを受信するパケット受信手段と,
前記パケット受信手段が受信したパケット(受信パケット)の再送リクエストを送信する機能を有する上位層通信手段と,
前記上位層通信手段よりも下位に位置する下位層通信手段と,を備えるネットワーク受信装置であって,
前記下位層通信手段は,
自身である下位層通信手段の通信パラメータに基づいて前記受信パケットの欠落を検出する第1の欠落パケット検出手段と,
前記上位層通信手段の通信パラメータに基づいて前記受信パケットの欠落を検出する第2の欠落パケット検出手段と,
前記第1の欠落パケット検出手段によってパケットの欠落が検出された場合,自身である下位層通信手段の通信形式にて再送リクエストを送信する第1の再送リクエスト送信手段と,
前記第2の欠落パケット検出手段によってパケットの欠落が検出された場合,前記上位層通信手段の通信形式にて再送リクエストを送信する第2の再送リクエスト送信手段と,
を備えるネットワーク受信装置。
【請求項2】
所定のネットワーク送信装置から送信されたパケットを受信するパケット受信手段と,
前記パケット受信手段が受信したパケット(受信パケット)の再送リクエストを送信する機能を有する上位層通信手段と,
前記上位層通信手段よりも下位に位置する下位層通信手段と,を備えるネットワーク受信装置であって,
前記下位層通信手段は,
自身である下位層通信手段の通信パラメータに基づいて前記受信パケットの欠落を検出する第1の欠落パケット検出手段と,
前記上位層通信手段の通信パラメータに基づいて前記受信パケットの欠落を検出する第2の欠落パケット検出手段と,
前記第1の欠落パケット検出手段によってパケットの欠落が検出された場合,自身である下位層通信手段の通信形式にて再送リクエストを送信する再送リクエスト送信手段と,
前記第2の欠落パケット検出手段によって受信パケットの欠落が検出され,かつ,前記再送リクエスト送信手段によって当該欠落が検出された受信パケットの再送リクエストが送信されていた場合,所定の手段によって,前記受信パケットに対する再送リクエストを前記上位層通信手段が送信しないようにする再送リクエスト送信避止手段と,
を備えるネットワーク受信装置。
【請求項3】
前記所定の手段は,前記受信パケットを前記上位層通信手段に渡さないよう保留パケットとすることである請求項2に記載のネットワーク受信装置。
【請求項4】
前記下位層通信手段は,さらに,
前記再送リクエスト送信手段が送信した再送リクエストに対する応答パケットを受信した場合,前記保留パケットを解除し,前記受信パケットを前記上位層通信手段に渡すことを可能とする保留パケット解除手段と,
を備える,請求項3に記載のネットワーク受信装置。
【請求項5】
所定のネットワーク送信装置から送信されたパケットを受信するパケット受信手段と,
前記パケット受信手段が受信したパケット(受信パケット)の再送リクエストを送信する機能を有し,通信構造における所定の第2の層で動作する第2層通信手段と,
前記第2層通信手段と異なる層であって,所定の第1の層で動作する第1層通信手段と,を備えるネットワーク受信装置であって,
前記第1層通信手段は,
自身である第1層通信手段の通信パラメータに基づいて前記受信パケットの欠落を検出する第1の欠落パケット検出手段と,
前記第2層通信手段の通信パラメータに基づいて前記受信パケットの欠落を検出する第2の欠落パケット検出手段と,
前記第1の欠落パケット検出手段によってパケットの欠落が検出された場合,自身である第1層通信手段の通信形式にて再送リクエストを送信する再送リクエスト送信手段と,
前記第2の欠落パケット検出手段によって受信パケットの欠落が検出され,かつ,前記再送リクエスト送信手段によって当該欠落が検出された受信パケットの再送リクエストが送信されていた場合,所定の手段によって,前記受信パケットに対する再送リクエストを前記第1層通信手段が送信しないようにする再送リクエスト送信避止手段と,
を備えるネットワーク受信装置。
【請求項6】
前記所定の手段は,前記受信パケットを前記第2層通信手段に渡さないよう保留パケットとすることである請求項5に記載のネットワーク受信装置。
【請求項7】
前記第1層通信手段は,さらに,
前記再送リクエスト送信手段が送信した再送リクエストに対する応答パケットを受信した場合,前記保留パケットを解除し,前記受信パケットを前記第2層通信手段に渡すことを可能とする保留パケット解除手段と,
を備える,請求項6に記載のネットワーク受信装置。
【請求項1】
所定のネットワーク送信装置から送信されたパケットを受信するパケット受信手段と,
前記パケット受信手段が受信したパケット(受信パケット)の再送リクエストを送信する機能を有する上位層通信手段と,
前記上位層通信手段よりも下位に位置する下位層通信手段と,を備えるネットワーク受信装置であって,
前記下位層通信手段は,
自身である下位層通信手段の通信パラメータに基づいて前記受信パケットの欠落を検出する第1の欠落パケット検出手段と,
前記上位層通信手段の通信パラメータに基づいて前記受信パケットの欠落を検出する第2の欠落パケット検出手段と,
前記第1の欠落パケット検出手段によってパケットの欠落が検出された場合,自身である下位層通信手段の通信形式にて再送リクエストを送信する第1の再送リクエスト送信手段と,
前記第2の欠落パケット検出手段によってパケットの欠落が検出された場合,前記上位層通信手段の通信形式にて再送リクエストを送信する第2の再送リクエスト送信手段と,
を備えるネットワーク受信装置。
【請求項2】
所定のネットワーク送信装置から送信されたパケットを受信するパケット受信手段と,
前記パケット受信手段が受信したパケット(受信パケット)の再送リクエストを送信する機能を有する上位層通信手段と,
前記上位層通信手段よりも下位に位置する下位層通信手段と,を備えるネットワーク受信装置であって,
前記下位層通信手段は,
自身である下位層通信手段の通信パラメータに基づいて前記受信パケットの欠落を検出する第1の欠落パケット検出手段と,
前記上位層通信手段の通信パラメータに基づいて前記受信パケットの欠落を検出する第2の欠落パケット検出手段と,
前記第1の欠落パケット検出手段によってパケットの欠落が検出された場合,自身である下位層通信手段の通信形式にて再送リクエストを送信する再送リクエスト送信手段と,
前記第2の欠落パケット検出手段によって受信パケットの欠落が検出され,かつ,前記再送リクエスト送信手段によって当該欠落が検出された受信パケットの再送リクエストが送信されていた場合,所定の手段によって,前記受信パケットに対する再送リクエストを前記上位層通信手段が送信しないようにする再送リクエスト送信避止手段と,
を備えるネットワーク受信装置。
【請求項3】
前記所定の手段は,前記受信パケットを前記上位層通信手段に渡さないよう保留パケットとすることである請求項2に記載のネットワーク受信装置。
【請求項4】
前記下位層通信手段は,さらに,
前記再送リクエスト送信手段が送信した再送リクエストに対する応答パケットを受信した場合,前記保留パケットを解除し,前記受信パケットを前記上位層通信手段に渡すことを可能とする保留パケット解除手段と,
を備える,請求項3に記載のネットワーク受信装置。
【請求項5】
所定のネットワーク送信装置から送信されたパケットを受信するパケット受信手段と,
前記パケット受信手段が受信したパケット(受信パケット)の再送リクエストを送信する機能を有し,通信構造における所定の第2の層で動作する第2層通信手段と,
前記第2層通信手段と異なる層であって,所定の第1の層で動作する第1層通信手段と,を備えるネットワーク受信装置であって,
前記第1層通信手段は,
自身である第1層通信手段の通信パラメータに基づいて前記受信パケットの欠落を検出する第1の欠落パケット検出手段と,
前記第2層通信手段の通信パラメータに基づいて前記受信パケットの欠落を検出する第2の欠落パケット検出手段と,
前記第1の欠落パケット検出手段によってパケットの欠落が検出された場合,自身である第1層通信手段の通信形式にて再送リクエストを送信する再送リクエスト送信手段と,
前記第2の欠落パケット検出手段によって受信パケットの欠落が検出され,かつ,前記再送リクエスト送信手段によって当該欠落が検出された受信パケットの再送リクエストが送信されていた場合,所定の手段によって,前記受信パケットに対する再送リクエストを前記第1層通信手段が送信しないようにする再送リクエスト送信避止手段と,
を備えるネットワーク受信装置。
【請求項6】
前記所定の手段は,前記受信パケットを前記第2層通信手段に渡さないよう保留パケットとすることである請求項5に記載のネットワーク受信装置。
【請求項7】
前記第1層通信手段は,さらに,
前記再送リクエスト送信手段が送信した再送リクエストに対する応答パケットを受信した場合,前記保留パケットを解除し,前記受信パケットを前記第2層通信手段に渡すことを可能とする保留パケット解除手段と,
を備える,請求項6に記載のネットワーク受信装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−38543(P2013−38543A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−171982(P2011−171982)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【出願人】(500112146)サイレックス・テクノロジー株式会社 (74)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【出願人】(500112146)サイレックス・テクノロジー株式会社 (74)
【Fターム(参考)】
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