説明

冷凍回路

【課題】本発明は、蒸発器の銅パイプと銅製配管との溶接部分の防食性を向上させた冷凍回路を提供する。
【解決手段】銅パイプ18内に冷媒を流すようにした蒸発器14を備え、その蒸発器14の銅パイプ18の両端に銅製配管15を溶接して冷媒循環路を構成すると共に、銅製配管15の外面を断熱性チューブ22で被覆した冷凍回路10において、蒸発器14の外表面には銅パイプ18のうち銅製配管15との溶接部分21を除いて焼付け塗膜20が形成され、蒸発器14側の銅パイプ18と銅製配管15との溶接部分21の外表面にはアルミニウム粒子23を含む常温硬化型の塗料により防食塗膜24が形成されている。これにより、溶接部分21の防食性を向上させることができる。また、防食塗膜24は常温硬化型塗料により形成されているから、焼付け工程が不要となり、熱による断熱性チューブ22の変質を防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍回路に関する。
【背景技術】
【0002】
冷蔵庫に取付けられる冷凍回路としては特許文献1記載のものが知られている。このものは、蒸発器、圧縮機、凝縮器、減圧器等を銅製配管で接続することで冷媒循環路を形成してなり、蒸発器内で低温の冷媒を蒸発させることで冷媒の気化熱により冷蔵庫内を冷却するようになっている。蒸発器は銅パイプ内を冷媒が流れるようになっており、この銅パイプと銅製配管とは溶接されている。また、蒸発器の銅パイプに接続される銅製配管は、蒸発器内を流れる冷媒の温度を低温に保つために断熱性チューブで被覆されている。
【特許文献1】特開2004−360069公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記のものにおいては、蒸発器の外表面には、冷蔵庫内に収容された食品から発生する腐食性ガスによる腐食を防止するために焼付け塗膜が形成されているが、銅パイプのうち銅製配管との溶接部分には焼付け塗膜が形成されておらず、銅パイプが露出している。これは、予め焼付け塗膜を形成した場合には、溶接が不完全になるためである。
また、銅製配管の端部は、蒸発器の銅パイプと溶接するために断熱性チューブから突出しており、銅製配管が露出した状態になっている。
なお、蒸発器の銅パイプ及び銅製配管に、溶接後に焼付け塗膜を形成することも考えられるが、断熱性チューブが焼付け時の熱により変質するため、この手法は採用できない。このため従来の冷凍回路においては、蒸発器の銅パイプと銅製配管との溶接部分は露出した状態のままであった。
このため、やはり腐食性ガスにより上記の溶接部分が腐食されてしまうため、その点の改良が望まれていた。
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、蒸発器の銅パイプと銅製配管との溶接部分の防食性を向上させた冷凍回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の目的を達成するための手段として、請求項1の発明は、銅パイプ内に冷媒を流すようにした蒸発器を備え、その蒸発器の前記銅パイプの両端に銅製配管を溶接して冷媒循環路を構成すると共に、前記銅製配管の外面を断熱性チューブで被覆した冷凍回路において、前記蒸発器の外表面には前記銅パイプのうち前記銅製配管との溶接部分を除いて焼付け塗膜が形成され、前記蒸発器側の銅パイプと前記銅製配管との溶接部分の外表面にはアルミニウム粒子を含む常温硬化型の塗料により防食塗膜が形成されていることを特徴とする。
請求項2の発明は、請求項1に記載のものにおいて、前記アルミニウム粒子はフレーク状粒子であることを特徴とする。
請求項3の発明は、請求項1または請求項2に記載のものにおいて、前記塗料はシランカップリング剤を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
<請求項1の発明>
請求項1の発明によれば、蒸発器の銅パイプと銅製配管との溶接部分には防食塗膜が形成されているから、この溶接部分の防食性を向上させることができる。上記の防食塗膜は常温硬化型塗料により形成されているから、焼付け工程が不要となり、熱による断熱性チューブの変質を防止できる。また、アルミニウム粒子により腐食性ガスを吸収できる。
【0006】
<請求項2の発明>
請求項2の発明によれば、アルミニウム粒子はフレーク状をなしている。これにより、蒸発器の銅パイプと銅製配管との溶接部分の外表面に塗料が塗布されたときに、各粒子は、その板面を溶接部分の外表面に対向させた状態で配向すると共に、塗膜の厚さ方向に重なるように配列する。これにより、例えば球状をなすアルミニウム粒子を用いる場合に比べて、少量の粒子で溶接部分の外表面を効率的に覆うことができる。
【0007】
<請求項3の発明>
請求項3の発明によれば、常温硬化型塗料にはシランカップリング剤が含まれている。このシランカップリング剤は、分子の一端に無機材料と結合可能であって且つ加水分解によりシラノール基を生成するメトキシ基、エトキシ基、2−メトキシエトキシ基、2−エトキシエトキシ基等を有し、他端に有機材料と結合可能なビニル基、エポキシ基、(メタ)アクリル基、(メタ)アクリルアミド基、メルカプト基、アミノ基等を有し、有機材料と無機材料とのバインダーとして働くものである。このシランカップリング剤分子の一端が蒸発器の銅パイプ及び銅製配管の外表面と結合し、他端が常温硬化型塗料の分子と結合することで、蒸発器の銅パイプ及び銅製配管の外表面と、防食塗膜との密着性を向上させることができる。これにより、溶接部分の防食性をさらに向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に係る冷凍回路10を冷蔵庫(図示せず)に適用した実施形態を図1ないし図5を参照して説明する。本実施形態に係る冷凍回路10は、冷蔵庫に配設されて、庫内の空気を冷却するようになっている。冷凍回路10は、図1に示すように、冷媒を圧縮する圧縮機11と、この圧縮機11で圧縮された冷媒を凝縮させる凝縮器12と、この凝縮器12で凝縮した冷媒を減圧又は膨張させる減圧器13と、減圧器13で減圧された冷媒を蒸発させて周囲の温度を下げる蒸発器14とを、銅製配管15で接続することで冷媒の循環経路が形成されてなる。
蒸発器14は冷蔵庫内に配設されており、蒸発器14内で低温の冷媒が蒸発する際の気化熱により、庫内の空気を冷却するようになっている。蒸発器14の入力ポート16には凝縮器12からの冷媒を供給するための銅製配管15Aで接続されており、蒸発器14の出力ポート17には蒸発器14から圧縮機11に冷媒を帰還させるための銅製配管15Bが接続されている。
蒸発器14は、図2に示すように、複数回屈曲する形態をなすと共に冷媒が流される銅パイプ18と、この銅パイプ18の外周に装着された複数のアルミニウム製のフィン19とを備えてなる。
蒸発器14を構成する銅パイプ18及びフィン19の外表面には、例えばアルミニウム粒子等の金属粒子を含む熱硬化型塗料を塗布した後、例えば180℃で20分間加熱する、いわゆる焼付け塗装を行うことにより焼付け塗膜20が形成されている。
この焼付け塗膜20により、冷蔵庫内に収容された食品から発生する腐食性ガスと銅パイプ18及びフィン19との接触を防ぎ、蒸発器14の腐食を防止できるようになっている。また、焼付け塗膜20に含まれる金属粒子により、焼付け塗膜20内に侵入する腐食性ガスが吸収されることで、一層防食性を向上させることができるようになっている。そして、金属粒子としてアルミニウム粒子を用いる場合には、アルミニウム粒子が犠牲陽極として機能し、銅パイプ18とアルミニウム製フィン19との電位差に起因する腐食の発生を防止することができる。さらに、焼付け塗膜20内に金属粒子が含まれることで、焼付け塗膜20が塗料だけで形成される場合に比べて熱伝導性が向上するから、蒸発器14の熱交換効率を向上させることができる。
【0009】
上述したように蒸発器14を構成する銅パイプ18の入力ポート16側及び出力ポート17側の両端部には、それぞれ銅製配管15A,15Bが溶接されている。蒸発器14の銅パイプ18のうち銅製配管15との溶接部分21には焼付け塗膜20が形成されていない。これは、予め溶接部分21にまで焼付け塗膜20を形成しておくと、溶接が不完全になるからである。
蒸発器14の銅パイプ18に溶接された銅製配管15の外面は合成樹脂製の断熱性チューブ22で被覆されている。これにより、外気の熱が銅パイプ18を伝って冷媒に伝わるのを防ぎ、蒸発器14の銅パイプ18内を流れる冷媒の温度を低温に保つことができる。この銅製配管15の蒸発器14側の端部は、蒸発器14の銅パイプ18と溶接するために断熱性チューブ22から突出している。
【0010】
さて、蒸発器14の銅パイプ18と、銅製配管15との溶接部分21の外表面には、フレーク状のアルミニウム粒子23を含む常温硬化型塗料により防食塗膜24が形成されている。詳細には、蒸発器14の銅パイプ18の入力ポート16側及び出力ポート17側の端部のうち焼付け塗膜20が形成されていない部分、及び、銅製配管15A,Bのうち断熱性チューブ22から突出した端部の外表面に防食塗膜24は形成されている。この防食塗膜24内においては、フレーク状のアルミニウム粒子23は、その板面が蒸発器14の銅パイプ18及び銅製配管15の外表面に対向するように配向すると共に、蒸発器14の銅パイプ18及び銅製配管15の外表面を覆うように、塗膜の厚さ方向に重なって配列している。
【0011】
常温硬化型塗料の塗装方法については、公知の方法によればよく、例えば、スプレー法、刷毛塗り法等が挙げられる。
【0012】
防食塗膜24の厚さは、15μm〜30μmが好ましい。15μmよりも薄いと、腐食性ガスが透過して溶接部分21の外表面が腐食する虞があるから好ましくない。また、30μmよりも厚いと、防食塗膜24の硬化時に、溶媒が蒸発しにくくなり、防食塗膜24の乾燥時間が長くなるから好ましくない。
【0013】
常温硬化型塗料は、主剤と、アルミニウム粒子23とを含んでなる。主剤としては、2液混合常温硬化型クリア塗料又は1液常温硬化型クリア塗料を用いることができる。このうち、主剤と硬化剤とを混合する工程を省略できるから、1液常温硬化型クリア塗料が好ましい。1液常温硬化型クリア塗料としては、ウレタン変性エポキシ樹脂、ウレタン化エポキシエステル樹脂等を用いることができる。このうち、肉持ちがよくなり、透けなどによる膜厚の不均一がなくなることから、ウレタン化エポキシエステル樹脂が好ましい。この種のウレタン化エポキシエステル樹脂としては、例えば三井化学株式会社製のエポキー505−15を用いることができる。
アルミニウム粒子23の添加量は、主剤100重量部に対して10〜30重量部が好ましい。10重量部よりも少ないと溶接部分21の外表面が十分に覆われなくなり、一方、30重量部よりも多いとコスト増を招くからである。さらに、アルミニウム粒子23の添加量は15〜25重量部がより好ましい。15重量部よりも多いと溶接部分21の外表面がアルミニウム粒子23により覆われるから溶接部分21の腐食を確実に抑制可能となり、また、25重量部よりも少ないと製造コストが過度に増加することを防止できる。
アルミニウム粒子23は、平均粒径が1μm〜99μmのものが好ましく、3μm〜50μmのものがより好ましい。アルミニウム粒子23の平均粒径が1μmよりも小さいと、溶接部分21の外表面を覆うために必要とされるアルミニウム粒子23の量が多くなりすぎ、コスト増を招くので好ましくない。また、99μmよりも大きいと、粒子間の隙間から腐食性ガスが侵入する虞があるから好ましくない。アルミニウム粒子23の平均粒径が3μm〜50μmであれば、溶接部分21の外表面を覆うためのアルミニウム粒子23の量を少なくすることができるからコスト低減を図ることが可能であり、また、上塗り塗膜21の硬化時に溶媒が蒸発しやすくなるために溶媒を蒸発させる作業時間を短縮できる。この種のアルミニウム粒子23としては、例えば、大和金属粉工業株式会社製のAl−S NO.22000(平均粒径5μm)や、Al−S NO.600(平均粒径33μm)を用いることができる。
アルミニウム粒子23の形状は、真球、回転楕円体、針状、フレーク状など、任煮の形状のものを用いることができる。このうち、溶接部分21に防食塗膜24を形成する際に、溶接部分21の外表面に沿って配向し、防食塗膜24の厚さ方向に重なるように配列して腐食性ガスが溶接部分21の外表面に到達することを抑制できることから、フレーク状のアルミニウム粒子23が好ましい。
【0014】
常温硬化型塗料には、重合促進剤、シランカップリング剤、溶剤を適宜混合してもよい。重合促進剤としては金属塩を用いることが可能であり、例えば、ナフテン酸コバルト、オクテン酸コバルト、2価のアセチルアセトンコバルト、3価のアセチルアセトンコバルト、オクテン酸カリウム、ナフテン酸ジルコニウム、ジルコニウムアセチルアセトナート、ナフテン酸バナジウム、オクテン酸バナジウム、バナジウムアセトナート、リチウムアセチルアセトナート、ナフテン酸亜鉛等が挙げられ、これらの重合促進剤は、単独で、又は二種以上を組み合わせて用いてもよい。上記金属塩の配合量は、主剤100重量部に対して0.1〜10重量部の範囲内が好ましい。この種の重合促進剤としては、例えば日本化学産業株式会社製のナフテン酸コバルトを用いることができる。
【0015】
シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリプロポキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルジメチルメトキシシラン、ビニルジメチルエトキシシラン、ビニルジメチルプロポキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、アリルメチルジエトキシシラン、ブチニルトリメトキシシラン、ヘキセニルトリメトキシシラン、ジビニルジメトキシシラン等のビニル基含有アルコキシシランや、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピル(メチル)ジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル(メチル)ジメトキシシラン等のエポキシ基含有アルコキシシランや、3−(メタ)アクリロキシメチルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン等の(メタ)アクリル基含有アルコキシシランや、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N’−ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、N,N’−メチレンビス(メタ)アクリルアミド、(N−(メタ)アクリル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン等の(メタ)アクリルアミド基含有アルコキシシランや、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン等のメルカプト基含有アルコキシシランや、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基含有アルコキシシランや、ジメチルビニル(アミノエチル)シラン、ジメチルビニル(アミノプロピル)シラン、ジメチルビニル(アミノブチル)シラン等のアミノ基ビニル基含有シランや、1,1,3,3−テトラメチル−1,3−ジビニルジシラザン、2,4,6−トリメチル−2,4,6−トリビニルシクロシラザン等のビニル基含有アルコキシシラザン類や、トリメトキシシリルエチルビニルエーテル、トリエトキシシリルエチルビニルエーテル、メチルジメトキシシリルエチルビニルエーテル、メチルジエトキシシリルエチルビニルエーテル、トリメトキシシリルプロピルビニルエーテル、トリエトキシシリルプロピルビニルエーテル、メチルジメトキシシリルプロピルビニルエーテル、メチルジエトキシシリルプロピルビニルエーテル等を用いることが可能であり、これらのシランカップリング剤は、単独で、又は二種以上を組み合わせて用いてもよい。この種のシランカップリング剤としては、例えば信越化学工業株式会社製のKBM403を用いることができる。
【0016】
シランカップリング剤の添加量は、アルミニウム粒子23の100重量部に対して0.1重量部〜10重量部が好ましく、0.5重量部〜1.5重量部がより好ましい。0.1重量部よりも少ないと、蒸発器14の銅パイプ18及び銅製配管15と、防食塗膜24との密着性が十分に向上しないため、防食塗膜24の寿命が低下するので好ましくない。また、10重量部よりも多いと、防食塗膜24の強度が低下し、やはり防食塗膜24の寿命が低下するので好ましくない。シランカップリング剤の添加量を0.5重量部〜1.5重量部とすると、蒸発器14の銅パイプ18及び銅製配管15と、防食塗膜24との密着性を向上させると共に、防食塗膜24の強度の低下を防止できるから、防食塗膜24の寿命を向上させることができる。
また、シランカップリング剤分子の一端がアルミニウム粒子23と結合し、他端が常温硬化型塗料の分子と結合することで、常温硬化型塗料とアルミニウム粒子23との親和性が向上し、常温硬化型塗料中におけるアルミニウム粒子23の分散性を向上させることができる。
【0017】
溶剤としては、トルオール、酢酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、キシロール、3−メトキシブチルアセテート、n−ブタノール、メチルエチルケトン、イソプロパノール、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、Sec−ブタノール、キシロール等を用いることができる。これらの溶剤は、単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。この種の溶剤としては、例えばローバル株式会社製のエポローバルシンナーを用いることができる。溶剤に対する希釈率は70%〜100%とすることができる。
【0018】
続いて、本実施形態に係る防食塗膜24の形成方法の一例を説明する。蒸発器14の外表面に、例えばアルミニウム粒子等の金属粒子を含む熱硬化型塗料を公知の手法で塗布し、例えば180℃で20分加熱することにより焼付けし、焼付け塗膜20を形成する。このとき、蒸発器14の銅パイプ18の両端部には、焼付け塗膜20が形成されていない露出部分を形成する。
一方、銅製配管15を断熱性チューブ22に挿通させることで、銅製配管15の外面を断熱性チューブ22で被覆する。この銅製配管15の端部は、断熱性チューブ22から突出させて外部に露出するようにする。
蒸発器14の銅パイプ18の端部と、銅製配管15の端部とを、公知の手法で溶接する。このとき、蒸発器14の銅パイプ18の端部には焼付け塗膜20が形成されていないから、焼付け塗膜20が燃焼したり、変質したりすることを防止できる。溶接法としては、例えばガス溶接や高周波溶接等、公知の手法を用いることができる。
【0019】
次に、主剤と、フレーク状のアルミニウム粒子23とを所定量混合して常温硬化型塗料を調製する。このとき、重合促進剤、シランカップリング剤、又は溶剤を適宜混合してもよい。この常温硬化型塗料を蒸発器14の銅パイプ18と、銅製配管15との溶接部分21に塗装する。その後、常温で1時間〜2時間乾燥することで、防食塗膜24を形成する。
【0020】
続いて、本実施形態の作用、効果について説明する。
冷蔵庫内に収容された食材又は食品からは腐食性ガスが発生する場合がある。例えば、ゆで卵や玉子焼き等からは硫化水素等の硫黄を含む酸性の腐食性ガスが発生し、一方、食酢、パン生地、マヨネーズ等からは酢酸を含む酸性の腐食性ガスが発生する。これらの腐食性ガスは、蒸発器14をデフロストする際に発生する水に溶け込み、この腐食性ガスの水溶液が、蒸発器14や、蒸発器14と溶接される銅製配管15と接触することになる。
蒸発器14を構成する銅パイプ18及び銅製配管15は、酸性の水溶液により腐食されやすいため、銅パイプ18及び銅製配管15が酸性の腐食性ガスを溶解する水に接触すると腐食されて孔が形成され、銅パイプ18及び銅製配管15内を循環する冷媒が漏れる虞がある。
【0021】
従来、蒸発器14に対しては金属粒子を含む熱硬化型塗料を塗装した後、焼付け工程を施すことで焼付け塗膜20が形成されており、この焼付け塗膜20により蒸発器14を腐食性ガスから保護するようになっていた。
しかしながら、蒸発器14の銅パイプ18の両端部は、銅製配管15と溶接する必要から焼付け塗膜14から露出した状態になっている。これは、予め溶接部分21にまで焼付け塗膜14を形成しておくと、溶接が不完全になるからである。一方、銅製配管15の端部は、蒸発器14の銅パイプ18と溶接するために断熱性チューブ22から突出している。
なお、この溶接部分21を腐食性ガスから保護するために、溶接後に、溶接部分21を蒸発器14と同様に焼付け塗装することが考えられるが、断熱性チューブ22が焼付け時の熱で変質するから、焼付け塗装を行うことはできない。
このため従来の冷凍回路においては、溶接部分21は露出したままになっていた。その結果、やはり腐食性ガスにより溶接部分21が腐食されてしまうことが懸念される。
【0022】
この点に鑑み、本実施形態では、溶接部分21には常温硬化型塗料により防食塗膜24を形成する構成とした。これにより、焼付け操作を行わなくとも溶接部分21に防食塗膜24を形成できるから、溶接部分21の腐食を防止できると共に、断熱性チューブ22が変質することを防止できる。
【0023】
また、常温硬化型塗料に含まれる防錆顔料としてフレーク状のアルミニウム粒子23を用いることで、蒸発器14の銅パイプ18と銅製配管15との溶接部分21の外表面に塗料が塗布されたときに、各アルミニウム粒子23は、その板面を溶接部分21の外表面に対向させた状態で配向すると共に、塗膜の厚さ方向に重なるように配列する。これにより、例えば球状をなすアルミニウム粒子を用いる場合に比べて、少量のアルミニウム粒子で溶接部分21の外表面を効率的に覆うことができる。
そして、防食塗膜24に含まれるアルミニウム粒子23により防食塗膜24内に侵入する腐食性ガスが吸収されることで、一層防食性を向上させることができる。そして、アルミニウム粒子23が犠牲陽極として機能するから、蒸発器14の銅パイプ18又は銅製配管15の腐食を防止することができる。さらに、防食塗膜24内にアルミニウム粒子23が含まれることで、防食塗膜24が塗料だけで形成される場合に比べて熱伝導性が向上するから、蒸発器14の熱交換効率を向上させることができる。
【0024】
さらに、常温硬化型塗料にシランカップリング剤を含むことにより、このシランカップリング剤分子の一端が蒸発器14の銅パイプ18及び銅製配管15の外表面と結合し、他端が常温硬化型塗料の分子と結合する。これにより、蒸発器14の銅パイプ18及び銅製配管15の外表面と、防食塗膜24との密着性を向上させることができるから、溶接部分21の防食性をさらに向上させることができる。
【0025】
以下、更に具体的な実施例を説明する。なお、本発明は下記実施例により何ら限定されるものではない。
<実施例1>
まず、エポキシ樹脂ワニス60.5重量部、エポキシ溶性フェノール樹脂ワニス31.7重量部、溶剤7.6重量部、添加剤7.6重量部とを混合、撹拌して熱硬化型塗料を調製した。この熱硬化型塗料に平均粒径33μmのフレーク状アルミニウム粒子23を30重量部とを混合し、撹拌した。
次に、蒸発器14を、上記のフレーク状アルミニウム粒子23を含む熱硬化型塗料中に浸漬し、焼付け手段により180℃で20分焼き付けることで、蒸発器14の外表面に焼付け塗膜2019を形成した。
このとき、蒸発器14の銅パイプ18の両端部を熱硬化型塗料中に浸漬しないようにすることで、銅パイプ18の両端部に焼付け塗膜20が設けられない領域を形成した。一方、銅製配管15を断熱性チューブ22内に挿入し、蒸発器14の銅パイプ18と溶接する側の端部を断熱性チューブ22から突出させた。その後、蒸発器14の銅パイプ18の端部と、銅製配管15の端部とを溶接した。
【0026】
続いて、以下のようにして1液常温硬化型塗料を調製した。まず、主剤たるウレタン化エポキシエステル系クリア塗料(三井化学株式会社製 エポキー505−15)100重量部と、重合促進剤たるナフテン酸コバルト(日本化学産業株式会社製)0.5重量部と、平均粒径33μmのフレーク状アルミニウム粒子23(大和金属粉工業株式会社製 Al−S NO.600)20重量部とを、溶剤(ローバル株式会社製 エポローバルシンナー)14重量部に混合、撹拌した。溶剤に対する希釈率は、90%であった。
上記の1液常温硬化型塗料を、蒸発器14の銅パイプ18と銅製配管15との溶接部分21に、刷毛塗りにより塗布した。その後、室温(23℃)で4時間放置して硬化させ、厚さ20μmの防食塗膜24を形成した。防食塗膜24が指触乾燥(JIS K5600)に要した時間は5分であり、硬化乾燥(JIS K5600)に要した時間は1時間であった。
【0027】
その後、更に圧縮機11、凝縮器12、減圧器13等を銅製配管15で接続して冷凍回路10を形成し、この冷凍回路10を冷蔵庫内に組付け、蒸発器14を冷蔵庫の庫内の上方に配置した。
【0028】
<実施例2>
実施例1に係る1液常温硬化型塗料に、シランカップリング剤(信越化学工業株式会社製 KBM403)0.02重量部(アルミニウム粒子23の100重量部に対して0.1重量部に相当)を混合した以外は、実施例1と同様にして冷凍回路10を形成した。防食塗膜24が指触乾燥に要した時間は4.5分であり、硬化乾燥に要した時間は55分であった。
<実施例3>
実施例1に係る1液常温硬化型塗料に、シランカップリング剤0.1重量部(アルミニウム粒子23の100重量部に対して0.5重量部に相当)を混合した以外は、実施例1と同様にして冷凍回路10を形成した。防食塗膜24が指触乾燥に要した時間は4.5分であり、硬化乾燥に要した時間は55分であった。
<実施例4>
実施例1に係る1液常温硬化型塗料に、シランカップリング剤0.3重量部(アルミニウム粒子23の100重量部に対して1.5重量部に相当)を混合した以外は、実施例1と同様にして冷凍回路10を形成した。防食塗膜24が指触乾燥に要した時間は4.5分であり、硬化乾燥に要した時間は55分であった。
<実施例5>
実施例1に係る1液常温硬化型塗料に、シランカップリング剤2重量部(アルミニウム粒子23の100重量部に対して10重量部に相当)を混合した以外は、実施例1と同様にして冷凍回路10を形成した。防食塗膜24が指触乾燥に要した時間は4.5分であり、硬化乾燥に要した時間は55分であった。
<実施例6>
実施例1に係る1液常温硬化型塗料に、シランカップリング剤4重量部(アルミニウム粒子23の100重量部に対して20重量部に相当)を混合した以外は、実施例1と同様にして冷凍回路10を形成した。防食塗膜24が指触乾燥に要した時間は4.5分であり、硬化乾燥に要した時間は55分であった。
【0029】
<実施例7>
実施例4に係る1液常温硬化型塗料において、重合促進剤として、ナフテン酸コバルト0.5重量部と、ナフテン酸亜鉛(日本化学産業株式会社製)0.5重量部とを混合した以外は、実施例4と同様にして冷凍回路10を形成した。防食塗膜24が指触乾燥に要した時間は4分であり、硬化乾燥に要した時間は50分であった。
【0030】
<比較例1>
実施例1に係る冷凍回路10において、蒸発器14の銅パイプ18と銅製配管15との溶接部分21に防食塗膜24を形成しない構成とした以外は、実施例1と同様にして冷凍回路10を形成した。
【0031】
(腐食性ガスによるガス漏れ試験)
まず、腐食性ガスである硫化水素ガス及び酢酸ガスの発生源を調製した。硫化水素ガスの発生源は、容量500mlのビーカーに水100gを注ぎ、この水に硫化ナトリウム24gを溶解し、硫化ナトリウムが完全に溶解した状態の水溶液にリン酸二水素カリウム5.44gを溶解することにより調製した。酢酸ガスの発生源は、容量500mlのビーカーに水90gを注ぎ、この水に10gの氷酢酸10gを完全に溶解することにより調製した。
次に、両腐食性ガスの発生源を、同一の冷蔵庫の庫内に同時に収容した。なお、庫内を適度な湿度に保持するために、ビーカーに水100gを入れたものを、両腐食性ガスの発生源と共に庫内に収容した。
上記の状態で、冷蔵庫を冷却運転し、蒸発器14の銅製パイプと銅製配管15との溶接部分21が腐食性ガスにより腐食して孔が開き、ガスが漏れ始めるまでの期間を調べた。なお、両腐食性ガスの発生源であるビーカーは、約200時間の運転毎に、新しく調製したものと交換した。また、冷蔵庫内の腐食性ガスの濃度は、冷却運転中、硫化水素濃度約6ppm、酢酸濃度約1ppmであった。
蒸発器14のガス漏れについては、ガス漏れ用のチェック液を塗布した蒸発器14及び銅製配管15の内部にガス圧1MPaの窒素ガスを充填し、目視により確認した。なお、冷蔵庫の冷却運転は、蒸発器14にガス漏れが確認された時点で中止するものとした。結果を表1にまとめた。
【0032】
【表1】

【0033】
(腐食性ガスによる試験結果)
表1に示すように、実施例1乃至実施例7に係る冷凍回路10において、蒸発器14の銅パイプ18と銅製配管15との溶接部分21からガス漏れが認められたのは、冷却運転開始後60日目以降であった。これに対し、比較例1に係る冷凍回路10では冷却運転開始後30日目にガス漏れが認められた。このように、蒸発器14の銅パイプ18と銅製配管15との溶接部分21に防食塗膜24を形成することで、溶接部分21の防食性を向上させることができる。
【0034】
シランカップリング剤を含まない実施例1と、シランカップリング剤を含む実施例2乃至実施例7を比較すると、実施例1に係る冷凍回路10では、冷却運転開始後60日目にガス漏れが生じたのに対し、実施例2乃至実施例7に係る冷凍回路10では、ガス漏れが生じたのは100日目以降であった。これは、シランカップリング剤分子の一端が銅パイプ18及び銅製配管15の外表面と結合し、他端が主剤の分子と結合することで防食塗膜24と銅パイプ18及び銅製配管15との密着性が向上した結果、防食塗膜24の寿命が向上したためであると考えられる。
また、シランカップリング剤を2重量部(アルミニウム粒子23の100重量部に対して10重量部)含む実施例5と、4重量部(アルミニウム粒子23の100重量部に対して20重量部)含む実施例6とを比較すると、実施例5では120日でガス漏れが生じたのに対し、実施例6では、100日と、実施例5よりも早期にガス漏れが生じた。これは、シランカップリング剤が2重量部を越えると、主剤の分子とシランカップリング剤の分子とが反応することで主剤の分子同士が反応する割合が低下し、防食塗膜24の強度が低下したためであると考えられる。
【0035】
(乾燥時間)
また、指触乾燥及び硬化乾燥に要した時間を比較すると、シランカップリング剤を含まない実施例1では指触乾燥に5分、硬化乾燥に1時間を要したのに対し、シランカップリング剤を含む実施例2乃至実施例7では、防食塗膜24は4.5分以下で指触乾燥し、55分以下で硬化乾燥した。これは、重合促進剤とシランカップリング剤との相互作用により、塗料の乾燥時間が短縮したためであると考えられる。
【0036】
以上説明したように、蒸発器14の銅パイプ18と銅製配管15との溶接部分21にアルミニウム粒子23を含む常温硬化型塗料により防食塗膜24を形成することで、溶接部分21の防食性を向上させることができる。
【0037】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
(1)本実施形態では、アルミニウム粒子23はフレーク状をなしていたが、これに限られず、球形、回転楕円体、針状等、任意の形状であってもよい。
(2)蒸発器14の両端部に溶接される銅製配管15A,15Bは一緒に断熱性チューブ22に被覆される構成としてもよい。
(3)本実施形態では1液常温硬化型塗料を用いたが、2液混合常温硬化型塗料を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本実施形態に係る冷凍回路を示す概略構成図
【図2】蒸発器を示す正面図
【図3】防食塗膜が形成される前における蒸発器の銅パイプと銅製配管との溶接部分21を示す一部拡大図
【図4】防食塗膜が形成された後における蒸発器の銅パイプと銅製配管との溶接部分を示す一部拡大図
【図5】防食塗膜が形成された後における蒸発器の銅パイプと銅製配管との溶接部分を示す一部拡大断面図
【符号の説明】
【0039】
10…冷凍回路 14…蒸発器 15…銅製配管 18…銅パイプ 20…焼付け塗膜 22…断熱性チューブ 23…アルミニウム粒子 24…防食塗膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅パイプ内に冷媒を流すようにした蒸発器を備え、その蒸発器の前記銅パイプの両端に銅製配管を溶接して冷媒循環路を構成すると共に、前記銅製配管の外面を断熱性チューブで被覆した冷凍回路において、
前記蒸発器の外表面には前記銅パイプのうち前記銅製配管との溶接部分を除いて焼付け塗膜が形成され、前記蒸発器側の銅パイプと前記銅製配管との溶接部分の外表面にはアルミニウム粒子を含む常温硬化型の塗料により防食塗膜が形成されていることを特徴とする冷凍回路。
【請求項2】
前記アルミニウム粒子はフレーク状粒子であることを特徴とする請求項1記載の冷凍回路。
【請求項3】
前記塗料はシランカップリング剤を含むことを特徴とする請求項1または請求項2記載の冷凍回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−255850(P2007−255850A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−83818(P2006−83818)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(000194893)ホシザキ電機株式会社 (989)
【Fターム(参考)】