説明

冷却ファン

【課題】 樹脂製ファン本体に異種材料製の円筒体をインサート成形で一体に結合するようにした冷却ファンにおいて、結合強度を向上させることができる冷却ファンを提供する。
【解決手段】
冷却ファン1は、環状部21の外周面から複数の羽部分20cが半径外側方向へ伸ばされた樹脂製ファン本体2と、この樹脂製ファン本体2の樹脂材料より強度が高い異種材料製で、樹脂製ファン本体2の環状部21の内周面側の突起部分21aがはまり込むことで一体化するための溝部3aが外周面に形成され、駆動軸が取り付けられるハブ状の円筒体3と、を備える。溝部3aは、円筒体3の外周面にこの厚さ方向の両端部が連通し、かつ円筒体3の幅の一部が周方向に突出した複数の凹部3bで形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動シャフトに結合する異種材料製のハブ状インサートを樹脂製ファンの中心部にインサート成形にて一体に結合させた冷却ファンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、このように樹脂製本体に異種材料製のインサートを一体結合するように成形して軽量化、低コスト化を図ったものとしては、たとえば、自動車用エア・コンディショナ・システムに用いるコンプレッサーを駆動する樹脂プーリが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
この樹脂プーリは、タイミング・ベルトが掛けられる樹脂製の樹脂プーリ本体と、この樹脂プーリ本体の内周面にインサート形成されベアリングのアウター側に圧入された円筒状のインサート部品と、から構成されている。この場合、樹脂プーリ本体とインサート部品との間における回転止めおよび抜け止めを行うため、インサートの外周面には周方向に等間隔で縦溝部と横溝部とが間隔をおいて交互に複数形成され、樹脂プーリ本体の内周面が上記各縦溝部・横溝部に入り込むようにして一体形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−279751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来技術の樹脂プーリにあっては、上記横溝部がインサート部品の外周面の厚さ方向の中央部分一部しか形成されていないので、樹脂プーリ本体とインサート部品間の相対回転止め力が弱くなってしまうといった問題がある。とりわけ樹脂部品に、強度が必要な樹脂プーリのように高強度の硬い樹脂を用いる場合と異なり、自動車用ラジエータ用冷却ファンのように柔軟性を持たせた柔らかい樹脂を用いるような場合には、その結合強度が弱くなってしまうことになる。
【0006】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、その目的とするところは、樹脂製ファン本体に、これより強度の高い異種材料製インサート部品をインサート成形で一体に結合するようにした冷却ファンにおいて、樹脂製ファン本体の樹脂強度が多少弱くともインサート部品との結合強度を向上させることができるようにした冷却ファンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的のため、請求項1に記載の本発明による冷却ファンは、
環状部の外周面から複数の羽部分が半径外側方向へ伸ばされた樹脂製ファン本体と、
この樹脂製ファン本体の樹脂材料より強度が高い異種材料製で、樹脂製ファン本体の環状部の内周面側の突起部分がはまり込むことで一体化するための溝部が外周面に形成され、駆動軸が取り付けられるハブ状の円筒体と、
を備えた冷却ファンにおいて、
溝部は、円筒体の外周面にこの厚さ方向の両端部が連通し、かつ円筒体の幅の一部で周方向に突出した複数の凹部で形成されていること、
を特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の本発明による冷却ファンは、請求項1に記載の冷却ファンにおいて、
溝部は、円筒体の外周面においてこの円筒体の厚さ方向および周方向の両方に延びる千鳥状に形成されている、
ことを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の本発明による冷却ファンは、請求項1又は2に記載の冷却ファンにおいて、
凹部は、この凹部の円筒体の外周面に沿う周方向の最大長さが、同じ厚さ方向位置における、隣り合う凹部間の凸部の円筒体の外周面に沿う周方向の長さの2倍である、
ことを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の本発明による冷却ファンは、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の冷却ファンにおいて、
異種材料は、金属系材料である、
ことを特緒とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の本発明の冷却ファンにあっては、円筒体の溝部が円筒部の厚さ方向に両端部にわたって、また、円筒体の幅の一部で周方向に突出して形成され、この溝部に樹脂製ファン本体の環状部に設けた突起部分が入り込むので、円筒体と樹脂製ファン本体との間の相対回転止め力を向上させながら、これらの軸方向の抜け力を確保することができる。また、したがって、樹脂製ファン本体により強度の低い樹脂を用いることが可能となる。
【0012】
請求項2に記載の本発明の冷却ファンにあっては、溝部が、円筒体の外周面において円筒体の厚さ方向と周方向の両方向に延びる千鳥状に形成されているので、厚さ方向の溝部を確保しながら溝部の周方向の長さをより長くすることができ、上記相対回転止め力と同時に円筒体の軸方向への抜け防止力を向上させることができる。
【0013】
請求項3に記載の本発明の冷却ファンにあっては、溝部を構成する凹部の円筒体の外周面に沿う周方向の最大長さが、同じ厚さ方向位置における、隣り合う凹部間の凸部の円筒体の外周面に沿う周方向の長さの2倍となるようにしたので、最適な相対回転止め力と軸方向への抜け防止力を容易に確保することができる。
【0014】
請求項4に記載の本発明の冷却ファンにあっては、円筒体を金属系材料で製造するようにしたので、取り付けられた駆動軸で駆動されても十分な強度を小さな円筒体で確保することができ、溝部の形状等も容易に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る実施例1の冷却ファンを示す正面図である。
【図2】図1中のS2−S2線に沿ってみた実施例1の冷却ファンの断面側面図である。
【図3】実施例1の冷却ファンで用いられる円筒体の拡大斜視図である。
【図4】本発明に係る実施例2の冷却ファンで用いられる円筒体の拡大斜視図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
【実施例1】
【0017】
まず、実施例1の冷却ファンの全体構成を説明する。
この実施例1の冷却ファンは、自動車のラジエータ等の熱交換器を冷却する電動モータで駆動されるのに利用される。
【0018】
図1、2に示すように、冷却ファン1は、樹脂製のファン本体2と金属材料製の円筒体(インサート部品に対応)3とがインサート成形で一体に形成されたものである。樹脂製のファン本体2は、図示しないエンジンの後方に取り付けられたファンシュラウドに形成した貫通穴に取り付けられ、図示しない電動モータで駆動される。冷却ファン1は車両に1個でもあるいは並列に2個配置しても良い。
【0019】
まず、樹脂製ファン本体2の構成を詳しく説明すると、ファン本体2は、羽根体20とこの内周側に一体形成された環状部21で構成され、いずれも樹脂製である。
羽根体20は最外周の円筒形状の外側円筒枠部分20aと、その内側の内側円筒枠部分20bと、これら円筒枠部分20a、20b間にこれらを連結するように一体形成された複数の羽根部分20cと、からなる。隣り合う羽根部分20c間は貫通する。内側円筒枠部分20bの一方の外周側端部からは、半径内側方向へ縦壁が伸ばされ、その先端部分が円形の貫通穴を形成している。
内側円筒枠部分20bの内周面には半径内側へ延びる環状部21が一体形成されている。
【0020】
環状部21は、円盤状の形状でこの一方の面に変形方向に延びる複数のリブが形成されている。また、環状部21の内周面側に後述の円筒体3の溝部3aを構成する凹部3b内に入り込む複数の凸部21aが形成されている。なお、この凸部21aは、インサート成形により溝部3aに入って固まり、環状部21が円筒体3と一体化される。
【0021】
一方、円筒体3は、金属系材料で図3に示すような形状に形成される。
すなわち、同図に示すように、円筒体3は半径方向内側へ凹んだ凹部3bで溝部3aが形成される大径部30と、この大径筒部30の一方の側面の中心部分から軸方向外側へ突出する小径筒部31とを有する。大径筒部30と小径筒部31との内周面は面一とされ、弦部分(直線部分)を一部に残した円形断面の孔に形成されて、図示しない電動モータの出力軸(本発明の駆動軸に相当)が挿入・嵌合される。この出力軸も円形断面の一部をフラットに切り欠いて円筒体3の弦部分に当接させられ、円筒体3、ひいてはファン本体2に対する相対回転止めとされる。
【0022】
円筒体3の大径部31の外周側には複数の凹部3bからなる溝部3aが形成されているが、この凹部3bは、円筒体3の半径方向外側からその中心側へ向かって外周面をみたとき、T字状になっており、そのT字の縦成分"I"が円筒体3の厚さ方向に沿ってその両端部、すなわち円筒体3の両側面側を連通するようにされるとともに、T字の上横成分"−"が一方の端部、すなわち一方の側面に沿うように(円筒体3の厚さの一部で周方向へ突出するように)形成される。そして、逆T字状の突部分が残って、凹部3bと突部分とが交互に円筒体3の外周面に沿って形成される。
【0023】
したがって、ファン本体2の環状部21の凸部21aは、インサート成形時にT字状になって凹部3bに入り込み、互いに固着することになる。 なお、本実施例では、凹部3bの円筒体の外周面に沿う最大長さが、同じ厚さ方向位置における、隣り合う凹部3b間の凸部21aの円筒体の外周面に沿う長さの2倍となるように設定してある。
【0024】
上記のように構成した冷却ファン1の作用につき説明する。
電動モータで駆動軸を介して円筒体3に回転力を伝えると、これと一体の羽根部分20cを回転させることで、空気流を起こし、図示しないラジエータ等のコア部を通過して冷却媒体と空気との間で熱交換を行い、冷却媒体から熱を奪ってこれを冷却する。したがって、エンジンの過熱を防ぐことができる。
【0025】
より詳細には、この冷却ファン1の回転中、駆動軸からの円筒体3へ伝わった回転力は環状部21に伝わり、これと一体の羽根部分20cを回転する。ここで、回転力は、厚さ方向両端部を連通する円筒体3の凹部3bの部分(T時の縦成分"I"の面)および環状部21の内周面の凸部21aの両端部を結ぶ面(逆Tの厚さ方向面)間の全厚さで伝えられる。したがって、これら間の強度が高くなる。
一方、羽根部分20cの回転により、羽根部分20cには空気流の反作用として軸方向にスラストが作用する。しかしながら、このスラストは、上記固着面のT字の横成分"−"にて受けるので、冷却ファン1の出力軸からの抜け止めがなされることになる。
【0026】
上記のように構成した実施例1の冷却ファン1は、以下の効果を有する。
すなわち、樹脂製ファン本体2の環状部21の内周面に形成した凸部21aと円筒体3の外周面に形成した凹部3bとが、円筒体3の全厚さ長さにわたって固着するので、これら間の固着強度が向上し、これらの相対回転止めを確実にする。したがって、より強度が弱い樹脂を環状部21に用いることも可能となる。
【0027】
また、樹脂製ファン本体2の環状部21の内周面に形成した凸部21aと円筒体3の外周面に形成した凹部3bとがT字状をしているので、上記相対回転止めが行われるのと同時に、これらの円筒体3の軸方向への抜け止めもなされる。
【0028】
そして、凹部3bの円筒体の外周面に沿う最大長さが、同じ厚さ方向位置における、隣り合う凹部3b間の凸部21aの円筒体の外周面に沿う長さの2倍となるように設定してあるので、ファン本体2と円筒体3との間における最適な相対回転止め力と軸方向への抜け防止力を確保することができる。
【0029】
次に、他の実施例について説明する。この他の実施例の説明にあたっては、前記実施例1と同様の構成部分については図示を省略し、もしくは同一の符号を付けてその説明を省略し、相違点についてのみ説明する。
【実施例2】
【0030】
実施例2においては、円筒体3の溝部3aを構成する凹部3bの形状、したがって環状部21の凸部21aの形状が実施例1と異なる。
すなわち、実施例2にあっては、円筒体3の凹部3bが厚さ方向に両端部が連通するとともに、これら両端部からそれぞれ周方向へ所定の長さだけ端部側が切り取られた形状とされて、これら凹部3bが千鳥状に配置される。
環状部21の凸部21aは上記凹部3bに対応した形状とされている。
その他の構成は実施例1と同様である。
【0031】
実施例2の冷却ファンにおいても、実施例1と同様に作用し、同様の効果を得ることができる。
なお、この場合にも、実施例1と同様に、凹部3bの円筒体の外周面に沿う最大長さが、同じ厚さ方向位置における、隣り合う凹部3b間の凸部21aの円筒体の外周面に沿う長さの2倍となるように設定するとよい。
【0032】
以上、本発明を上記各実施例に基づき説明してきたが、本発明はこれらの実施例に限られず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で設計変更等があった場合でも、本発明に含まれる。
【0033】
たとえば、冷却ファン1で冷却するのはラジエータに限られず、コンデンサ等であってもよい。
【0034】
また、溝部3aの凹部3bは、第1実施例のT字状、第2実施例の千鳥状の形状の他に、十字状、H字状などのように形成してもよい。もちろん、T字状を千鳥状に配置してもよい。
【符号の説明】
【0035】
1 冷却ファン
2 ファン本体
20 羽根体
20a 外側環状筒部分
20b 内側環状筒部分
20c 羽根部分
21 環状部
21a 凸部
3 円筒体
3a 溝部
3b 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状部の外周面から複数の羽部分が半径外側方向へ伸ばされた樹脂製ファン本体と、
該樹脂製ファン本体の樹脂材料より強度が高い異種材料製で、前記樹脂製ファン本体の環状部の内周面側の突起部分がはまり込むことで一体化するための溝部が外周面に形成され、駆動軸が取り付けられるハブ状の円筒体と、
を備えた冷却ファンにおいて、
前記溝部は、前記円筒体の外周面にこの厚さ方向の両端部が連通し、かつ前記円筒体の幅の一部が周方向に突出した複数の凹部で形成されていること、
を特徴とする冷却ファン。
【請求項2】
請求項1に記載の冷却ファンにおいて、
前記溝部は、前記円筒体の外周面において該円筒体の厚さ方向および周方向の両方向に延びる千鳥状に形成されている、
ことを特徴とする冷却ファン。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の冷却ファンにおいて、
前記凹部は、該凹部の前記円筒体の外周面に沿う周方向の最大長さが、同じ厚さ位置における、隣り合う凹部間の凸部の前記円筒体の外周面に沿う周方向の長さの2倍である、
ことを特徴とする冷却ファン。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の冷却ファンにおいて、
前記異種材料は、金属系材料である、
ことを特徴とする冷却ファン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−219619(P2012−219619A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−82427(P2011−82427)
【出願日】平成23年4月4日(2011.4.4)
【出願人】(000004765)カルソニックカンセイ株式会社 (3,404)
【Fターム(参考)】