説明

冷却器

【課題】ハイブリッド自動車のパワーコントロールユニットなどに組み込まれる発熱体を冷却する冷却器において、寸法を縮小化しても伝熱性能が維持できる搭載性能を向上させた冷却器を提供する。
【解決手段】複数の冷却管6と、該冷却管の内部に冷却媒体を供給するための冷媒供給管7と、該冷却管の外部に冷却媒体を排出するための冷媒排出管7’とからなる冷却器であって、前記冷却管は、仕切り板3と、該仕切り板に対向して配置される一対の外装部材2、4と、仕切り板と外装部材との間に波状部材1を配置して形成される冷媒流路5で構成され、少なくとも前記仕切り板と前記一対の外装部材はアルミ系めっき鋼板からなり、ろう付けにより一体化されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド自動車に搭載されるパワーコントロールユニット等に用いられる発熱体を冷却するための冷却器に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のエンジンや精密機器等には、発熱するエンジンや部品を冷却するための冷却器が設置されており、それらの冷却器は発熱体に直接冷媒体を接触させない間接的な冷却システムとして使用されている。各種の装置に組み込まれている冷却器は、装置の長期的な性能安定を保つ上で欠かせないものとなっている。特に自動車分野においては、近年の地球温暖化対策として従来のガソリンをエネルギーとした内燃機関のみのシステムから、ハイブリッド自動車や電気自動車のようなモーターとの併用あるいはモーターのみのエンジンシステムに切り替える傾向が強くなっている。
【0003】
ハイブリッド自動車や電気自動車では、モーターを駆動させるために直流電力と交流電力との間で双方向変換する大容量のインバータを備えたパワーコントロールユニットが設置されている。このパワーコントロールユニットは、特許文献1に示されているように変換機能を持つ半導体ユニットが発熱するために、半導体ユニットの両面に冷却管を設置・接触させて、半導体ユニットを間接的に冷却する機構となっている。この冷却管は、素材として銅やアルミニウムを用いており、図1に示すように、これらの素材を波状に加工した波状部材1と外装部材2、4と仕切り板3をろう付けしている。この波状加工した凹凸部が、冷媒体を流動させる流路5となっている。また、冷媒体はその冷却管6の両側に接合させた冷媒供給管7から供給して、冷却管を経由して冷媒排出管7´より排出しており、流路を流動する冷媒体との熱交換により半導体ユニットを冷却するしくみとなっている。
【0004】
このような機構のパワーコントロールユニットであるが、搭載性をより一層向上させるために小型化することが望まれており、これによって冷却器の小型化も必要となってきている。冷却器を小型化する方法としては、冷却管を形成している仕切り板の板厚を低減することが考えられる。しかし、現状品の素材である銅やアルミニウムを薄肉化した場合は、冷却管の製造工程である、ろう付けにおいて問題が発生してしまう。このろう付けは、図2に示すように、波状部材1と外装部材2、4と仕切り板3との間にろう材8を塗布し、仕切り板3と一対の外装部材2、4との間に二個の波状部材1を設置するとともに、上側の外装部材2に重石9を載せた状態で加熱・空冷する方法が取られている。このろう付け工程において、銅やアルミニウムを薄肉化すると剛性が低下するために、ろう付け時に仕切り板3と外装部材2,4が変形してしまうという懸念がある。また、銅については、レアメタルであるため価格が変動しやすく、コスト面で使いにくいという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−261125号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような問題点を解消するために案出されたものであり、冷却器を製造するろう付け工程において、冷却管の仕切り板および外装部材が変形することなく、流路を形成できるような素材を用いた冷却器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の冷却器は、その目的を達成するために、複数の冷却管と、該冷却管の内部に冷却媒体を供給するための冷媒供給管と、該冷却管の外部に冷却媒体を排出するための冷媒排出管とからなる冷却器において、前記冷却管は、仕切り板と、該仕切り板に対向して配置される一対の外装部材と、仕切り板と外装部材との間に波状部材を配置して形成される冷媒流路で構成され、少なくとも前記仕切り板と前記一対の外装部材はアルミ系めっき鋼板からなり、ろう付けにより一体化されていることを特徴とする。 また、前記アルミ系めっき鋼板は、普通鋼(SPCC等)にアルミ系めっきを行なったものでもよいし、ステンレス鋼にアルミ系めっきを行なったものであってもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の冷却器においては、構成する仕切り板や外装部材及び波状部材の素材に、銅やアルミニウムよりも高温時において降伏応力が高い普通鋼やステンレス鋼などにアルミ系めっきを行なったアルミ系めっき鋼板を用いているため、ろう付け時において仕切り板や外装部材が変形することがない。また、波状部材もアルミ系めっきを行なった普通鋼やステンレス鋼を用いることで、より一層仕切り板の変形を防止することが可能となる。さらに、表面にアルミ系めっきを行っていることから、現行のアルミニウムを素材とした冷却器の製造に用いられるろう材と同じものを使用することができるため、流通性のない特殊なろう材を用意することがないことからコスト上昇に繋がることもない。 これらの効果から、所定寸法の流路を確保することが可能であり、冷却器を安定して製造することができる。 なお、アルミ系めっき鋼板に用いるステンレス鋼は、オーステナイト系ステンレス鋼でもフェライト系ステンレス鋼でも良いが、コスト面に優れるフェライト系ステンレス鋼を用いるのが好ましい。ステンレス鋼を用いることで、耐食性に優れた冷却器が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】パワーコントロールユニットに用いられる冷却器に関して、(a)全体構成と、(b)冷却管の流路の構造を示す概略図((a)のA−A断面)
【図2】冷却器の流路の組み立て工程を示す図
【図3】本実施例における冷却器の流路構造の概略図
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者等は、冷却器の小型化を図るために、仕切り板、外装部材及び波状部材の板厚を薄くすることを主眼として種々検討を重ねた。 現状の冷却器の仕切り板、外装部材及び波状部材は、銅やアルミニウムを素材としているが、それらの部品を薄肉化した場合には、剛性が低下するためにろう付け時に仕切り板、外装部材及び波状部材が変形して所定寸法の流路を確保することが難しい状態となる。そのため、ろう付けの高温下においても降伏応力を比較的高い状態が維持でき、なおかつ、ろう付けでの接合安定性を考慮してめっき鋼板で検討し、その鋼板の原板としては普通鋼やフェライト系ステンレス鋼とした。この検討においては、パワーコントロールユニットの冷却器として比較的多く使用されているアルミニウムを素材としたものと比較して進めた。
【0011】
アルミ系めっき鋼板をろう付けする場合は、ろう材もアルミ系の品種が使用されるためろう材の融点としては、600℃程度となる。アルミ系めっき鋼板の原板である普通鋼やフェライト系ステンレス鋼は、600℃の高温下においてもアルミニウムと比較して約10倍以上の降伏応力を維持していることから、剛性だけを考慮すれば現行冷却器の仕切り板、外装部材及び波状部材の板厚の約1/10まで薄肉化することが可能であり、十分に薄肉化することができる。 しかし、普通鋼やフェライト系ステンレス鋼の場合は、アルミニウムの熱伝導率と比べて各々約1/3と約1/6であり、冷却器の冷却能力、つまりは伝熱性能を考慮すると、現行アルミニウムの板厚に対して約1/3以下に薄肉化する必要がある。そのため、普通鋼やフェライト系ステンレス鋼の薄肉化の制限は、伝熱性能に左右されることになる。
【0012】
伝熱性能を考慮した普通鋼やステンレス鋼の板厚を検討するため、各々の素材で流路を形成して伝熱性能を比較した。詳細は、実施例において記載するが、現行のアルミニウムの板厚に対して普通鋼で1/3、フェライト系ステンレス鋼で1/6にすることによりほぼ同等の伝熱性能を得ることが分かった。また、ろう付け時の変形も発生せず、所定寸法の流路を確保できた。
【0013】
表面にアルミ系めっきした普通鋼やステンレス鋼を素材として冷却器を製造する場合には、仕切り板、外装部材及び波状部材を先ず用意する。波状部材1は、板状やコイル状の素材をプレスや圧延等で所定寸法の波状に塑性加工した後に、必要長さに切断していく。また、仕切り板3、外装部材2、4も、板状やコイル状の素材を所定形状・寸法にプレス等で成形して、切断機等で所定の長さに切断して得ることができる。次に、図2に示したように、二個の波状部材1と仕切り板3、外装部材2、4の間にろう材8を塗布し、その状態で上側の外装部材2に重石9を載せて固定する。その状態で加熱炉に入れて所定のろう付け条件で加熱、空冷することによって製造することができる。
【0014】
アルミ系めっき鋼板の表面にめっきされているめっき層の膜厚は、原板が普通鋼やステンレス鋼の何れの場合も、特に限定するものではないが、耐食性やろう付け性を考慮して片面で5μm以上にすることが望ましい。
【0015】
また、アルミ系めっき鋼板の原板である普通鋼やステンレス鋼の鋼種も特に限定するものでなく、波状に加工できる変形抵抗となる成分、機械的性質のものであれば、何れの鋼種でも使用することができる。
【実施例】
【0016】
供試材としては、表面にアルミニウムをめっきした普通鋼とフェライト系ステンレス鋼で、各々の板厚を0.1mmと0.07mmとした素材を用い、それらの素材を使った冷却器にて伝熱性能とろう付け時の変形状態を確認した。素材のめっき膜厚は、片面で5μmである。冷却管6の流路5としては、図3に示すように矩形断面の形状とし、高さHpが2mm、幅wpを1mmとした。この流路形状、寸法となるように、各々の素材をプレス加工し、所定に寸法に切断した。冷却器の全体寸法は、表1に示す通りである。ここで長さLは、図1に示したように冷媒供給管7と冷媒排出管7´の中心間の距離である。波状部材1と仕切り板3と外装部材2、4の接合は、仕切り板3と外装部材2、4にAl−Si−Mg系のろう材を厚さ0.1mmで塗布し、上側の外装部材2の上に質量5kgの重石を載せて固定した。この状態で真空加熱炉に投入して表2に示す条件でろう付けを行った。 冷却器の伝熱性能については、冷却器に流動させる冷媒体として温度20℃の水を用い、速度0.1m/sで供給するとともに、仕切り板3と外装部材2、4の両面から全面に渡って温度100℃一定で加熱して、流動する水の温度変化を測定して抜熱量を算出した。 比較として現行のパワーコントロールユニットで使用されている素材の一例としてAl−Mn系アルミニウムを用い、それを素材とした場合についても冷却器を製作して性能を評価した。板厚としては、0.4mmと0.1mmとし、冷却器の製作方法および伝熱性能の評価はアルミめっき鋼板の場合と同じとした。
【0017】

【0018】

【0019】
冷却器を製作した結果、アルミめっき鋼板を素材とした場合には、原板が普通鋼やフェライト系ステンレス鋼の何れの場合も、ろう付け時に変形を起こすことなく所定寸法の流路を得ることができた。 しかし、Al−Mn系アルミニウムを素材とした場合は、板厚0.4mmではろう付け時で変形は起こさなかったが、板厚が0.1mmでは変形してしまい所定寸法の流路を得ることができなかった。
【0020】
伝熱性能については、板厚0.4mmのAl−Mn系アルミニウムを素材した場合と普通鋼やフェライト系ステンレス鋼を原板としたアルミめっき鋼板を素材とした場合とで、抜熱量がほとんど同じであり、アルミめっき鋼板を素材とした場合でも板厚を薄肉化することによって伝熱性能も維持できることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の冷却管と、該冷却管の内部に冷却媒体を供給するための冷媒供給管と、該冷却管の外部に冷却媒体を排出するための冷媒排出管とからなる冷却器において、前記冷却管は、仕切り板と、該仕切り板に対向して配置される一対の外装部材と、仕切り板と外装部材との間に波状部材を配置して形成される冷媒流路で構成され、少なくとも前記仕切り板と前記一対の外装部材はアルミ系めっき鋼板からなり、ろう付けにより
一体化されていることを特徴とする冷却器。
【請求項2】
前記アルミ系めっき鋼板は、ステンレス鋼にアルミ系めっきを行なったものであることを特徴とする請求項1記載の冷却器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−17954(P2012−17954A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−157055(P2010−157055)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】