説明

冷却装置の製造方法

【課題】液冷式の冷却装置に関し、高効率の冷却装置を簡便なプロセスで製造しうる冷却装置の製造方法を提供する。
【解決手段】基板30に、表面から底部にかけて階段状に深くなる溝状の凹部36を形成し、基板20に、溝状の凹部36に適合した形状の階段状の土手状の凸部26を形成し、土手状の凸部26を溝状の凹部36に嵌め込むように基板20と基板30とを接合し、溝状の凹部36と土手状の凸部26との間に階段状のチャネル12を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却装置及びその製造方法に係り、特に、液冷方式の冷却装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ICチップやパッケージ、車載用パワー半導体等の電子部品や電子機器等では、動作時に発生する熱を効率的に取り除き、高い信頼性のもとに継続的に動作する機能を搭載することが求められている。例えば、サーバやPCには非常に多くの熱を発生するCPU(Central Processing Unit)が使用されているため、そこから発生する熱を効率よく取り除くとともに、筐体内部や設置場所の温度環境を適正に維持することが求められている。また、装置の小型化・高速化の進展に伴い、電流密度が増加しひいては発熱量も多くなっており、熱を効率的に取り除くことがますます求められている。
【0003】
発熱体を冷却する手法としては、例えば、ファンを備えたフィン付きヒートシンクを用いた空冷方式、機械式ポンプを用いて流体を流すことによる液冷方式等が挙げられる。現状では、技術の成熟度、ランニングコスト、信頼性等の面から、空冷方式が多く用いられている。一方、液冷方式は、液体の流量を調整することによって必要な冷却性能に制御することができ、また、取り除いた熱をまとめて所望の場所に集約できるため、設置場所の空調等を含めたシステム全体の省電力化に繋げることが可能となる。このため、今後、システムへの実装の容易性、信頼性、生産性等が向上できれば、能動的に必要な冷却性能を提供することが可能で、取り除いた熱を集約しやすい液冷方式が主流になる可能性が高い。
【0004】
液冷方式の中では、マイクロオーダのディメンジョンをもつマイクロチャネルに液体を導入する冷却方式が注目されている。マイクロスケールの流れは層流であるとともに体積力よりも表面力(流体の粘性効果)の影響が大きくなる効果が現れるため、少ない流量の流体によって熱伝達率を向上することができる。これにより、熱源から発生した熱を効率よく移動させるとともに、必要な冷却性能を得ることができる。さらに、チャネルの幅及び高さはマイクロオーダであるため、冷却装置を小型化できるメリットもある。また、流体の使用量が少ないため、流体の移動エリアや保管エリアに対する設計の自由度が向上するメリットもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−019730号公報
【特許文献2】特開2007−012719号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】D. B. Tuckerman and R. F. W. Pease, "High-performance heat sinking for VLSI", IEEE Electron Device Letters, Vol. EDL-2, No. 5, May 1981, pp. 126-129
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
液冷方式の冷却装置では、導入する流体の流量を増やすことにより、熱抵抗を減少、すなわち、より冷却することができる。しかしながら、流体の流量を増加することは、一方で、流体を流すためのエネルギー量の増大、流体が流れる配管等の部品への負荷増大による信頼性の低下、流体の保管量への信頼性低下などを引き起こすこともある。
【0008】
このため、システム全体への負荷を軽減して信頼性を高めるという観点から、より少ない流量で所望の冷却性能を得ることができる冷却装置が望まれている。また、製造コスト、ひいては製品コストの低減の観点から、より簡便なプロセスで製造しうる高効率の冷却装置が望まれている。
【0009】
本発明の目的は、高効率の冷却装置を簡便なプロセスで製造しうる冷却装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
実施形態の一観点によれば、第1の基板に、前記第1の基板の表面から底部にかけて階段状に深くなる溝状の凹部を形成する工程と、第2の基板に、前記溝状の凹部に適合した形状の階段状の土手状の凸部を形成する工程と、前記土手状の凸部を前記溝状の凹部に嵌め込むように前記第1の基板と前記第2の基板とを接合し、前記溝状の凹部と前記土手状の凸部との間に階段状のチャネルを形成する工程とを有する冷却装置の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
開示の冷却装置の製造方法によれば、2枚の基板を接合するだけの簡単なプロセスにより、冷却効率の高い階段状のチャネルを有する冷却装置を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、第1実施形態による冷却装置の構造を示す平面図及び断面図である。
【図2】図2は、冷却効果を検証するためのシミュレーションに用いた第1実施形態による冷却装置のモデルを説明する図である。
【図3】図3は、冷却効果を検証するためのシミュレーションに用いた比較例による冷却装置のモデルを説明する図である。
【図4】図4は、冷却効果についてシミュレーションを行った結果を示す図(その1)である。
【図5】図5は、冷却効果についてシミュレーションを行った結果を示す図(その2)である。
【図6】図6は、第1実施形態による冷却装置の製造方法を示す工程断面図(その1)である。
【図7】図7は、第1実施形態による冷却装置の製造方法を示す工程断面図(その2)である。
【図8】図8は、第1実施形態による冷却装置の製造方法を示す工程断面図(その3)である。
【図9】図9は、エッチング深さとフォトレジスト膜の開口幅との関係を示すグラフである。
【図10】図10は、フォトレジスト膜の開口幅の設定方法を説明するために用いた冷却装置の構造を示す概略断面図(その1)である。
【図11】図11は、フォトレジスト膜の開口幅の設定方法を説明するために用いた冷却装置の構造を示す概略断面図(その2)である。
【図12】図12は、第2実施形態による冷却装置の構造を示す概略断面図である。
【図13】図13は、第2実施形態による冷却装置の製造方法を示す工程断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[第1実施形態]
第1実施形態による冷却装置及びその製造方法について図1乃至図11を用いて説明する。
【0014】
図1は、本実施形態による冷却装置の構造を示す平面図及び断面図である。図2及び図3は、冷却効果を検証するためのシミュレーションに用いたモデルを説明する図である。図4及び図5は、冷却効果についてシミュレーションを行った結果を示す図である。図6乃至図8は、本実施形態による冷却装置の製造方法を示す工程断面図である。図9は、エッチング深さとフォトレジスト膜の開口幅との関係を示すグラフである。図10及び図11は、フォトレジスト膜の開口幅の設定方法を説明するために用いた冷却装置の構造を示す概略断面図である。
【0015】
はじめに、本実施形態による冷却装置の構造について図1を用いて説明する。図1(a)は本実施形態による冷却装置の平面図であり、図1(b)は本実施形態による冷却装置の断面図である。図1(b)は、図1(a)のA−A′線断面図である。
【0016】
本実施形態による冷却装置は、例えば図1に示すような平板状の基体10を有している。基体10内には、基体10の表面に対して平行な方向に伸びる複数のチャネル(流路)12が形成されている。チャネル12は、マイクロオーダのディメンジョンを有する、いわゆるマイクロチャネルである。基体10の表面は、冷却対象の熱源に対する接触面となる。
【0017】
チャネル12は、図1(b)に示すように、基体10表面の法線方向に対して傾いた細長い断面形状を有し側壁部分が階段形状である階段状のチャネルである。なお、図1には、7つのチャネル12を有する冷却装置を示しているが、チャネル12の数は、これに限定されるものではない。また、チャネル12の基体10表面からの深さは必ずしも一定である必要はなく、異なる深さにチャネル12を設けるようにしてもよい。
【0018】
チャネル12は、その内部に冷却用の液体を流すためのものである。例えば図1(a)に矢印で示すように、チャネル12の下側の開口部から液体を流入し、上側の開口部から流出させる。図1に示す冷却装置の前段には、複数のチャネル12に液体を流入する入口部(図示せず)と、複数のチャネル12から流出した液体を排出する出口部(図示せず)とが設けられる。
【0019】
冷却用の液体(例えば水)を入口部から導入し、複数のチャネル12を通過させる。チャネル12内を液体が通過すると、冷却装置に接触して設けられた発熱体と液体との間で熱交換が行われ、導入した液体は導入時の温度よりも高い温度となってチャネル12から流出する。複数のチャネル12から流出した液体は、出口部から流出する。これにより、発熱体の温度上昇を抑制し、冷却することができる。
【0020】
上述のように、本実施形態による冷却装置では、チャネル12を、基体10表面の法線方向に対して傾いた細長い断面形状とし、側壁部分を階段形状としている。これは、次のような理由による。
【0021】
チャネル12が発熱体の冷却に実質的に作用する幅は、基体10の表面から投影的にみたチャネル12の幅であり、例えば図1の冷却装置では、幅Wとなる。したがって、チャネル12を基体10表面の法線方向に対して傾いた断面形状とすることにより、基体10表面の法線方向に平行な断面形状とした場合と比較して、チャネル12が発熱体の冷却に実質的に作用する幅を広げることができる。また、チャネル12の断面積を大幅に増加することなく発熱体の冷却に実質的に作用する幅を広げることができるので、発熱体を、より少ない流量の液体で効率的に冷却することが可能となる。また、側壁部分を階段形状とすることにより、チャネル12の表面積を増加することができ、冷却効率を更に高めることができる。
【0022】
次に、本実施形態による冷却装置の効果を検証した結果について図2乃至図5を用いて説明する。
【0023】
冷却装置の効果を検証するためのシミュレーションにあたり、図2及び図3に示すように、幅0.49mm、厚さ0.82mm、長さ10mmの基体10に、幅70μm、高さ0.36mmのチャネル12を形成したモデルを想定した。図2に示す冷却装置は、本実施形態の冷却装置に相当するモデルであり、チャネル12の側面を、縦18μm、横12μmの階段形状とした。図3に示す冷却装置は、比較例の冷却装置に相当するモデルであり、チャネル12の断面形状は、基体10の厚さ方向に長い矩形形状とした。図2の冷却装置のチャネル12の断面積と図3の冷却装置のチャネル12の断面積は同じである。
【0024】
上記モデルを用いて冷却装置の熱抵抗をシミュレーションしたところ、図3に示す比較例の冷却装置では、チャネル12内に3.4ml/mimの流量で水を流したときの熱抵抗は、5.4℃/Wであった。これに対し、図2に示す本実施形態の冷却装置では、チャネル12内に2.5ml/mimの流量で水を流したときの熱抵抗は、4.9℃/Wであった。以上の結果から、本実施形態の冷却装置では、比較例の冷却装置と比較して、流量を約30%の減らしたにもかかわらず、熱抵抗を10%程度向上できることが判った。
【0025】
次に、同様の冷却装置のモデルに100W/cmを印加したときの温度分布をシミュレーションした結果について図4及び図5を用いて説明する。
【0026】
図4及び図5は、チャネル12の左側の開口部から右側の開口部に向けて水を流したときの、冷却装置の温度分布を示したものである。図4は、冷却装置の下面側、すなわち、100W/cmの印加面側から見た図であり、図5は、冷却装置の上面側、すなわち、100W/cmの印加面とは反対の面側から見た図である。
【0027】
図4及び図5に示すように、本実施形態の冷却装置は、比較例の冷却装置と比較して、冷却装置の温度を全体的に低くできることが判る。例えば、比較例と本実施形態の冷却装置での左側の端部の温度はそれぞれ28.9℃と27.2℃、右側の端部では58.2℃と56.2℃、下面では49.7℃と47.4℃、上面では47.5℃と44.5℃、横面では48.1℃と45.6℃であった。以上の結果から、本実施形態の冷却装置では、比較例の冷却装置と比較して、構造体の各面の温度上昇を約5%程度抑制できることが判った。
【0028】
次に、本実施形態による冷却装置の製造方法について図6乃至図8を用いて説明する。
【0029】
まず、基体10の材料となる2枚の基板20,30を用意する。基板20,30は、熱伝導性のよい材料であれば特に限定されるものではないが、例えば、シリコン基板を適用することができる。
【0030】
次いで、基板20,30上に、フォトリソグラフィにより、形成しようとするチャネル12の形状に応じたライン・アンド・スペース(L/S)パターンを有するフォトレジスト膜22,32を形成する(図6(a)、図7(a))。
【0031】
フォトレジスト膜22,32のL/Sパターンは、形成しようとするチャネル12の延在する方向に沿ったパターンであり、基本的には、深い溝を形成しようとする領域ほど開口幅の広いスペースパターンを有するL/Sパターンである。なお、フォトレジスト膜22に形成するL/Sパターンの設計方法については、後述する。
【0032】
次いで、フォトレジスト膜22をマスクとして基板20を異方性エッチングし、基板20に、複数の溝24を形成する。同様に、フォトレジスト膜32をマスクとして基板30を異方性エッチングし、基板30に、複数の溝34を形成する(図6(b)、図7(b))。基板20,30のエッチングの際に、フォトレジスト膜22,32の開口幅によってエッチングレートの異なるエッチング条件を用いることにより、フォトレジスト膜22,32の開口幅の幅に応じた深さの異なる溝24,34を形成することができる。
【0033】
基板20,30のエッチングには、例えば、DRIE(Deep Reactive Ion Etching)法を適用することができる。DRIE法は、パッシベーション膜を形成する第1のステップと異方性エッチングを行う第2のステップとを繰り返して行うエッチング法であり、アスペクト比の高い溝を形成することができる。第1のステップとしては、例えば、コイルパワーを600W、プロセスチャンバ内の圧力を14.5mTorrとした状態下にて、Cガスを例えば130sccmの流量で導入する6.3秒間の処理を適用することができる。第2のステップとしては、例えば、コイルパワーを600W、プロセスチャンバ内の圧力を14.5mTorr、基板へのRFパワーを380kHzで23Wとした状態下にて、SFガスを130sccmの流量で導入する7.5秒間の処理を適用することができる。
【0034】
次いで、フォトレジスト膜22をマスクとして、基板20を、等方的なエッチング成分を含むエッチング条件でエッチングすることにより、溝24を横方向に広げ、隣接する溝24同士を接続する。同様に、フォトレジスト膜32をマスクとして、基板30を、等方的なエッチング成分を含むエッチング条件でエッチングすることにより、溝34の幅を横方向に広げ、隣接する溝34同士を接続する(図6(c)、図7(c))。
【0035】
基板20,30のエッチングには、例えば、上記と同様のDRIE法を適用することができる。第1のステップは、例えば、コイルパワーを600W、プロセスチャンバ内の圧力を14.5mTorrとした状態下にて、Cガスを130sccmの流量で導入する6.3秒間の処理を適用することができる。第2のステップとしては、例えば、コイルパワーを600W、プロセスチャンバ内の圧力を14.5mTorr、基板へのRFパワーを380kHzで23Wとした状態下にて、SFガスを130sccmの流量で導入する8秒間の処理を適用することができる。図6(b)、図7(b)のエッチング工程よりもSFガスの導入時間を増加することにより、エッチングの進行方向を微量に変化させることができる。
【0036】
次いで、アッシング等によりフォトレジスト膜20,30を除去する。
【0037】
こうして、基板20の表面に、図6(d)に示すような、一方の側面が垂直であり、他方の側面が階段状に高くなる土手状の凸部26を形成する。また、基板30の表面に、図7(d)に示すような、一方の側面が垂直であり、他方の側面が階段状に深くなる溝状の凹部36を形成する。凸部26及び凹部36の側面とは、凸部26及び凹部36の延在方向と交差する方向の面である。
【0038】
なお、基板20に形成する土手状の凸部26と基板30に形成する溝状の凹部36とは、互いに適合する形状とする。具体的には、凸部26の高さと凹部36の深さを等しくし、階段状の段差の一段あたりの幅と高さとを等しくする。また、土手状の凸部26の幅は、溝状の凹部36の幅よりも、形成しようとするチャネル12の幅分だけ狭くする。
【0039】
次いで、基板20の凸部26と基板30の凹部36とが嵌合するように基板20,30を対向させ基板20の凸部26の垂直面と基板30の凹部36の垂直面とが接触するように基板20,30をスライドさせる(図8(a))。
【0040】
この状態で基板20,30を接合することにより、内部に階段状のチャネル12を有し、基板20,30により基体10が形成された冷却装置を製造することができる(図8(b))。基板20,30としてシリコン基板を用いた場合には、例えば1000℃程度の温度で熱処理を行うことにより、基板20,30同士を容易に接合することができる。
【0041】
次に、フォトレジスト膜22のL/Sパターンの設計方法について図9乃至11を用いて説明する。
【0042】
図9は、基板に形成される溝の深さとフォトレジスト膜の開口幅(スペース)との関係の一例を示すグラフである。図9のグラフは、シリコン基板を下記条件のDRIE法によりエッチングを行った場合の結果を示したものである。
【0043】
レシピAでは、パッシベーション膜を形成する第1のステップにおいて、コイルパワーを600W、プロセスチャンバ内の圧力を14.5mTorrとした状態下にて、Cガスを130sccmの流量で7秒間導入した。また、異方性エッチングを行う第2のステップにおいて、コイルパワーを600W、プロセスチャンバ内の圧力を14.5mTorr、基板へのRFパワーを13.56MHzで20Wとした状態下にて、SFガスを130sccmの流量で8秒間導入した。
【0044】
また、レシピBでは、パッシベーション膜を形成する第1のステップにおいて、コイルパワーを600W、プロセスチャンバ内の圧力を14.5mTorrとした状態下にて、Cガスを130sccmの流量で6.3秒間導入した。また、異方性エッチングを行う第2のステップにおいて、コイルパワーを600W、プロセスチャンバ内の圧力を14.5mTorr、基板へのRFパワーを380kHzで23Wとした状態下にて、SFガスを130sccmの流量で7.5秒間導入した。
【0045】
図9に示すように、フォトレジスト膜の開口幅とエッチング深さとの関係はエッチング条件によって異なるが、形成される溝の深さは、フォトレジスト膜の開口幅が大きくなるにつれて徐々に深くなる傾向にある。したがって、形成しようとする溝24,34の深さに応じてフォトレジスト膜22,32の開口幅を規定することにより、基板20に階段状の凸部26を、基板30に階段状の凹部を、形成することができる。
【0046】
ここで一例として、図10に示すような、深さが50μmで幅が100μmの開口部を階段状に7段積み重ねたチャネル12を有する冷却装置を形成する場合を仮定する。この場合、基板20に形成する凸部26、基板30に形成する凹部36は、それぞれ、図11(a)、図11(b)に示すような形状となる。
【0047】
基板20,30を加工するにあたり、領域A、領域B、領域C、領域D、領域E、領域F、領域Gのエッチング量は、それぞれ、50μm、100μm、150μm、200μm、250μm、300μm、350μmとなる。これらエッチング量に対応するフォトレジスト膜の開口幅は、図9のレシピBのエッチング条件を用いた場合、それぞれ、1μm、2μm、3μm、4.5μm、6μm、8.5μm、14.5μmとなる。
【0048】
したがって、領域A、領域B、領域C、領域D、領域E、領域F、領域Gに、それぞれ、1μm、2μm、3μm、4.5μm、6μm、8.5μm、14.5μmの開口幅を有するL/Sパターンを形成することにより、所望のエッチング量を実現することができる。
【0049】
L/Sパターンのラインパターン幅は、等方的なエッチング成分を含むエッチング(図6(c)、図7(c)の工程)によって隣接する溝24,34同士を互いに接続できる間隔とする。上述のエッチング条件を用いた場合、特に限定されるものではないが、例えば、1〜2μm程度に設定することができる。
【0050】
ラインパターン幅が狭すぎると、第1段階目のステップにおいて隣接する溝が接続され、所望の深さの溝を形成できなくなる虞がある。かかる観点から、ラインパターン幅は、1μm程度以上、より好ましくは2μm程度以上に設定することが望ましい。一方、ラインパターン幅を広くしすぎると、等方的なエッチング成分を含むエッチングのエッチング量が増加し、第1段階目のステップで形成した溝の形状を損なう虞がある。かかる観点から、ラインパターン幅は、5μm程度以下に設定することが望ましい。ただし、最適なラインパターン幅はエッチング条件によって異なるため、ラインパターン幅は、使用するエッチング条件に応じて適宜設定することが望ましい。
【0051】
すなわち、領域A〜領域Gにそれぞれ、1μm/1μm(25周期)、1μm/2μm(17周期)、1μm/3μm(13周期)、1μm/4.5μm(9周期)、1μm/6μm(7周期)、1μm/8.5μm(5周期)、1μm/14.5μm(13周期(基体30の凹部))のL/Sパターンを形成することにより、図11に示す形状を実現することができる。
【0052】
なお、フォトレジスト膜22の開口幅とエッチング深さとの関係は、例えば図9に示すように、エッチング条件によって異なるものである。異なる基板を用いた場合も同様である。フォトレジスト膜22に形成するL/Sパターンの開口幅は、使用するエッチング条件や形成しようとする溝の深さ等に応じて適宜設定することが望ましい。L/Sパターンのラインパターン幅についても、等方的なエッチング成分を含むエッチングのエッチング条件に応じて適宜設定することが望ましい。
【0053】
異なる深さの溝を同時に形成することが困難な場合、例えば、一番浅い溝と一番深い溝をフォトレジスト膜の開口幅の制御だけでは一度のエッチングで形成できないような場合には、複数回のエッチングによって溝を形成するようにしてもよい。例えば、深さの異なる複数の溝を、比較的浅い溝を含む第1のグループと、比較的深い溝を含む第2のグループとに分け、グループ毎にフォトレジスト膜の形成とエッチングを行うようにしてもよい。複数の溝を、3つ以上のグループに分けるようにしてもよい。
【0054】
このように、本実施形態によれば、基体10の表面の法線方向に対して傾いた断面形状のチャネルを有する冷却装置を形成するので、発熱体を、より少ない流量の液体で効率的に冷却することができる。また、チャネルの断面形状を階段状とすることにより、チャネルの表面積を増加することができ、冷却効率を更に高めることができる。
【0055】
また、階段状の側面を有する溝状の凹部を有する基板と、階段状の側面を有する土手状の凸部を有する基板とを接合することにより、階段状のチャネルを有する冷却装置を容易に製造することができる。また、階段状の側面を有する溝状の凹部や土手状の凸部は、マスクパターンの開口幅に応じてエッチング深さが異なるというエッチングの特性を利用することにより、一度に形成することができる。これにより、製造方法を複雑にすることなく、階段状のチャネルを有する冷却装置を容易に製造することができる。
【0056】
[第2実施形態]
第2実施形態による冷却装置及びその製造方法について図12及び図13を用いて説明する。図1乃至図11に示す第1実施形態による冷却装置及びその製造方法と同一の構成要素には同一の符号を付し説明を省略し又は簡潔にする。
【0057】
図12は、本実施形態による冷却装置の構造を示す概略断面図である。図13は、本実施形態による冷却装置の製造方法を示す工程断面図である。
【0058】
はじめに、本実施形態による冷却装置の構造について図12を用いて説明する。
【0059】
図12に示すように、本実施形態による冷却装置は、基本的な構造は、図1に示す第1実施形態による冷却装置と同様である。本実施形態による冷却装置では、表面に被膜28が形成された基板20と、表面に被膜38が形成された基板30とを接合することにより、基体10が形成されている。この結果、基板20と基板30とは、被膜28,38を介して接合されている。また、チャネル12の内壁は、被膜28,38により覆われている。
【0060】
基板20,30の表面に被膜28,38を形成する利点としては、例えば、基板20,30の接合を容易にすることができる点、チャネル12の内壁を覆う材料の性質(例えば、疎水性等)を変化して液体を流れ易くすることができる点、等が挙げられる。
【0061】
基板20,30の接合を容易にしうる材料としては、例えば、シリコン酸化膜等の絶縁材料や、Au膜等の金属材料が挙げられる。これらの膜の下層に下地膜を更に形成するようにしてもよい。例えば、被膜28,38としてAu膜を用いる場合、Cr膜などの下地膜を形成するようにしてもよい。
【0062】
次に、本実施形態による冷却装置の製造方法について図13を用いて説明する。
【0063】
まず、第1実施形態による冷却装置の製造方法と同様にして、凸部26が形成された基板20と、凹部36が形成された基板30を形成する。
【0064】
次いで、凸部26が形成された基板20の表面に、被膜28を形成する(図13(a))。
【0065】
また、凸部36が形成された基板30の表面に、被膜38を形成する(図13(b))。
【0066】
なお、DRIE法によるシリコンのエッチング条件によってはDRIE特有の細かな段差(一般にスキャロップと呼ばれている)が側壁に形成されるため、被膜を形成する前に、短時間のシリコンのウェットエッチングを実施してもよい。例えば、HNO(70%):HO:NHF(40%)=126:60:5の混合比で作製したエッチング液を用いた30秒間のエッチングを適用することができる。
【0067】
被膜28,38の膜厚は、チャネルのサイズの変化量を考慮し、かつ接合を容易にする膜厚が望ましく、例えば、100nm〜2μm程度とするのが好ましい。
【0068】
被膜28,38の形成方法は、特に限定されるものではなく、被膜28,38の材料等に応じて適宜選択することができる。例えば、また、被膜28,38としてシリコン酸化膜を用いる場合には、熱酸化法を適用することができる。また、被膜28,38としてAu膜(下地膜としてのCr膜)を用いる場合には、スパッタリング法等を適用することができる。
【0069】
次いで、第1実施形態の場合と同様に、基板20,30を接合し、本実施形態の冷却装置を完成する(図13(c))。
【0070】
この際、被膜28,38としてシリコン酸化膜を用いた場合には、1000℃程度の温度で加熱することにより、被膜28,38間の水素結合によって生じたOH基の脱水によるシロキサン結合によって接合することができる。このため接合部分におけるボイドの発生を抑制しつつ、安定した接合強度を保つ接合を実現することができる。
【0071】
また、被膜28,38としてAu膜を用いた場合には、圧力をかけながら400℃程度の温度で加熱することにより接合することができる。この場合、シリコン酸化膜を用いた場合の接合よりも低温化することができ、基板の昇温や冷却に要する時間を短縮することができる。
【0072】
これにより、基板20,30の接合を容易にすることができる。
【0073】
このように、本実施形態によれば、階段状の側面を有する溝状の凹部を有する基板と階段状の側面を有する土手状の凸部を有する基板とを接合する前に、これら基板の表面に被膜を形成するので、基板同士の接合を容易にすることができる。
【0074】
[変形実施形態]
上記実施形態に限らず種々の変形が可能である。
【0075】
例えば、上記実施形態では、凸部26及び凹部36の一方の側面のみを階段状にしたが、凸部26及び凹部36の両方の側面を階段状にしてもよい。この場合、一対の凸部26と凹部36との間に、逆方向に傾いた2つのチャネルを形成することができる。
【0076】
また、上記実施形態では、基板20に形成する凸部26の階段状の側面と、基板30に形成する凹部36の階段状の側面とを、互いに噛み合う形状としたが、凸部26の階段状の側面と凹部36の階段状の側面とは、必ずしも互いに噛み合う形状である必要はない。凸部26と凹部36の形状は、凹部36内に凸部26が嵌め込まれる形状であり、凸部26と凹部36との間に、基体10の法線方向に対して傾いた断面形状のチャネル12が形成できるものであればよい。
【0077】
また、上記実施形態では、フォトレジスト膜をマスクとして基板をエッチングしたが、必ずしもフォトレジスト膜をマスクに用いる必要はない。例えば、基板上に予めハードマスクとなる膜を形成しておき、フォトレジスト膜のパターンをハードマスクに転写した後、このハードマスクをマスクとして基板をエッチングするようにしてもよい。ハードマスクは、基板に対してエッチング選択性のある材料であれば、特に限定されるものではない。例えば、基板としてシリコン基板を用いる場合、シリコン酸化膜やシリコン窒化膜のハードマスクを適用することができる。
【0078】
また、上記実施形態では、基体となる基板としてシリコン基板を用いたが、基板は、熱伝導性のよい材料であれば特に限定されるものではない。シリコン基板は、ボロンなどのp型不純物やリンやアンチモンなどのn型不純物をドープして導電性を付与したシリコン基板であってもよい。
【0079】
また、基板として、SOI(Silicon On Insulator)基板を用いるようにしてもよい。この場合、最も深い溝の深さとSOI層の厚さとが同じになるように設計しておけば、最も深い溝の底部に埋め込み酸化膜層が露出した段階でエッチングを制御性よく停止することができる。また、溝の底部の平坦性を向上することができ、基板を貼り合わせる際の密着性を向上することができる。
【0080】
また、上記実施形態では、エッチング深さのマスク膜の開口幅依存性を利用して、階段状の側面を有する土手状の凸部及び溝状の凹部を形成したが、必ずしも上記方法により基板を加工する必要はない。機械加工技術、例えば、バイトを用いた切削加工、レーザ加工、マイクロブラスト加工等により、基板上に、階段状の側面を有する土手状の凸部及び溝状の凹部を形成するようにしてもよい。
【0081】
以上の実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
【0082】
(付記1) 第1の基板に、前記第1の基板の表面から底部にかけて階段状に深くなる溝状の凹部を形成する工程と、
第2の基板に、前記溝状の凹部に適合した形状の階段状の土手状の凸部を形成する工程と、
前記土手状の凸部を前記溝状の凹部に嵌め込むように前記第1の基板と前記第2の基板とを接合し、前記溝状の凹部と前記土手状の凸部との間に階段状のチャネルを形成する工程と
を有することを特徴とする冷却装置の製造方法。
【0083】
(付記2) 付記1記載の冷却装置の製造方法において、
前記階段状の側面を有する前記溝状の凹部を形成する工程及び前記階段状の側面を有する前記土手状の凸部を形成する工程は、
前記基板上に、開口幅が段階的に広くなるラインアンドスペースパターンを有するマスク膜を形成する工程と、
前記マスク膜をマスクとして前記基板を異方性エッチングし、前記基板に、前記ラインアンドスペースパターンの前記開口幅に応じて異なる深さを有する複数の溝を形成する工程と、
前記マスク膜をマスクとして等方的な成分を含むエッチング条件で前記基板をエッチングし、隣接する前記溝を接続することにより、前記階段状の側面を形成する工程とを有する
ことを特徴とする冷却装置の製造方法。
【0084】
(付記3) 付記2記載の冷却装置の製造方法において、
前記基板を異方性エッチングする工程では、パッシベーション膜を形成する第1のステップと異方性エッチングを行う第2のステップとを繰り返して行うエッチングにより、前記基板をエッチングする
ことを特徴とする冷却装置の製造方法。
【0085】
(付記4) 付記3記載の冷却装置の製造方法において、
前記等方的な成分を含むエッチング条件で前記基板をエッチングする工程では、パッシベーション膜を形成する第1のステップと、前記基板を異方性エッチングする工程の前記第2のステップよりもエッチングが進行する条件で異方性エッチングを行う第2のステップとを繰り返して行うエッチングにより、前記基板をエッチングする
ことを特徴とする冷却装置の製造方法。
【0086】
(付記5) 付記2乃至4のいずれか1項に記載の冷却装置の製造方法において、
前記基板は、シリコン酸化膜上にシリコン膜が形成されたSOI基板であり、
前記基板を異方性エッチングする工程では、最も深い前記溝のエッチングを、前記シリコン膜と前記シリコン酸化膜との界面で停止する
ことを特徴とする冷却装置の製造方法。
【0087】
(付記6) 付記1乃至5のいずれか1項に記載の冷却装置の製造方法において、
前記溝状の凹部を形成した前記第1の基板の表面及び前記土手状の凸部を形成した前記第2の基板の表面に被膜を形成する工程を更に有する
ことを特徴とする冷却装置の製造方法。
【0088】
(付記7) 付記6記載の冷却装置の製造方法において、
前記被膜は、Au膜である
ことを特徴とする冷却装置の製造方法。
【0089】
(付記8) 付記6記載の冷却装置の製造方法において、
前記第1の基板及び前記第2の基板は、シリコン基板であり、
前記被膜は、シリコン酸化膜である
ことを特徴とする冷却装置の製造方法。
【0090】
(付記9) 基体と、
前記基体に形成され、第1の方向に延在するチャネルであって、前記第1の方向と交差する方向の断面形状が階段状であるチャネルと
を有することを特徴とする冷却装置。
【符号の説明】
【0091】
10…冷却装置
12…チャネル
20,30…基板
22,32…フォトレジスト膜
24,34…溝
26…凸部
28,38…被膜
36…凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の基板に、前記第1の基板の表面から底部にかけて階段状に深くなる溝状の凹部を形成する工程と、
第2の基板に、前記溝状の凹部に適合した形状の階段状の土手状の凸部を形成する工程と、
前記土手状の凸部を前記溝状の凹部に嵌め込むように前記第1の基板と前記第2の基板とを接合し、前記溝状の凹部と前記土手状の凸部との間に階段状のチャネルを形成する工程と
を有することを特徴とする冷却装置の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の冷却装置の製造方法において、
前記階段状の側面を有する前記溝状の凹部を形成する工程及び前記階段状の側面を有する前記土手状の凸部を形成する工程は、
前記基板上に、開口幅が段階的に広くなるラインアンドスペースパターンを有するマスク膜を形成する工程と、
前記マスク膜をマスクとして前記基板を異方性エッチングし、前記基板に、前記ラインアンドスペースパターンの前記開口幅に応じて異なる深さを有する複数の溝を形成する工程と、
前記マスク膜をマスクとして等方的な成分を含むエッチング条件で前記基板をエッチングし、隣接する前記溝を接続することにより、前記階段状の側面を形成する工程とを有する
ことを特徴とする冷却装置の製造方法。
【請求項3】
請求項2記載の冷却装置の製造方法において、
前記基板を異方性エッチングする工程では、パッシベーション膜を形成する第1のステップと異方性エッチングを行う第2のステップとを繰り返して行うエッチングにより、前記基板をエッチングする
ことを特徴とする冷却装置の製造方法。
【請求項4】
請求項2又は3記載の冷却装置の製造方法において、
前記基板は、シリコン酸化膜上にシリコン膜が形成されたSOI基板であり、
前記基板を異方性エッチングする工程では、最も深い前記溝のエッチングを、前記シリコン膜と前記シリコン酸化膜との界面で停止する
ことを特徴とする冷却装置の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の冷却装置の製造方法において、
前記溝状の凹部を形成した前記第1の基板の表面及び前記土手状の凸部を形成した前記第2の基板の表面に被膜を形成する工程を更に有する
ことを特徴とする冷却装置の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−181863(P2011−181863A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−47381(P2010−47381)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】