説明

冷却路内蔵部材および冷却路内蔵部材の製造方法

【課題】生産工数を削減できると共に、設計の自由度を大きくできる冷却路内蔵部材および冷却路内蔵部材の製造方法を提供すること。
【解決手段】冷却路内蔵部材は、摩擦撹拌接合用工具1を用いて一体化された二つの被接合材2,3の接合部5に流路(冷却路)が形成されている。このため、従来のように管壁の厚い特殊な矩形パイプ(原材料)を生産する工数を削減でき、原材料の生産を開始してから冷却路内蔵部材が得られるまでの生産工数の総和を削減できる。また、摩擦撹拌接合用工具1を曲線的に移動させて接合部5を形成することで、流路(冷却路)を曲線的に設けることができる。このため、設計の自由度を大きくできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却路内蔵部材および冷却路内蔵部材の製造方法に関し、特に、生産工数を削減できると共に、設計の自由度を大きくできる冷却路内蔵部材および冷却路内蔵部材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子を加速して高エネルギー粒子ビームとする加速装置の加速性能を高めるためには、安定な加速電場を形成する必要がある。加速電場の安定化のためには、加速装置の加速管の温度を時間的に一定にし、且つ加速管全体の温度分布を均一にすると共に、熱負荷分布も均一にする必要がある。このため、加速管を構成する部品の一つである加速器電極板は、温度上昇を抑える目的で、各種の冷却手段が必要である。加速器電極板に限らず、半導体用ヒートシンクにおいても、同様の冷却手段が必要となる。これら以外にも、例えば、ジュール熱の発生により過熱される各種の機械部品や金型においても、各種の冷却手段が必要とされる。このような冷却手段の一つとして、板状の躯体に冷却路を内蔵させ、冷却路に冷媒を流通させることにより躯体を冷却するものがある。
【0003】
板状の躯体に冷却路を内蔵させた冷却路内蔵部材を製造する方法として、例えば、空間部を備えた矩形パイプと中実の矩形材とを、摩擦撹拌接合方法により一体に接合する技術が知られている。矩形パイプと中実の矩形材との接合線に沿って摩擦撹拌接合用工具を加圧しながら移動させると、摩擦撹拌接合用工具の周辺の軟化した矩形パイプの管壁及び矩形材が塑性流動し接合金属となって、矩形材と矩形パイプとが一体に接合される。この結果、予め矩形パイプに作られた空間部を、冷却路とすることができる(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−122221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示される技術では、矩形パイプの管壁の厚さが薄い場合、管壁が軟化して塑性流動すると、管壁が失われ、摩擦撹拌接合用工具の加圧力によって塑性流動した接合金属が矩形パイプの空間部に押し出されてしまう。こうなると、接合部を形成する接合金属の体積が減るため、接合部の表面が窪んでしまい、冷却路内蔵部材の表面を平滑にできない。矩形パイプの管壁を十分厚くすれば、管壁が失われることを防止できるが、管壁の厚い特殊な矩形パイプは製造が困難なため、製造に多くの工数を要する。このため、原材料となる矩形パイプの生産を開始してから、その矩形パイプを用いて冷却路内蔵部材の生産を終了するまでの生産工数の総和が長くなるという問題点があった。
【0006】
また、冷却路内蔵部材は、予め矩形パイプに作られた空間部が冷却路となるので、冷却路が矩形パイプと同じ直線的となり、冷却路を曲線的に設けることが難しく、設計の自由度が乏しいという問題点があった。
【0007】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、生産工数を削減できると共に、設計の自由度を大きくできる冷却路内蔵部材および冷却路内蔵部材の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的を達成するために、請求項1記載の冷却路内蔵部材は、二つの被接合材と、それらの二つの被接合材を突き合わせた突合せ部または重ね合わせた重合部に押し込まれた摩擦撹拌接合用工具の回転時の摩擦熱により前記突合せ部または前記重合部が塑性変形され前記二つの被接合材が一体化された接合部と、その接合部の内部に前記突合せ部または前記重合部に沿って連続した内部空間として形成された流路と、その流路の一端側に開口し冷媒を流入させる冷媒流入口と、前記流路の他端側に開口し前記冷媒を流出させる冷媒流出口とを備えている。
【0009】
請求項2記載の冷却路内蔵部材の製造方法は、冷媒が流通される流路が躯体に内蔵された冷却路内蔵部材の製造方法において、二つの被接合材を突き合わせた突合せ部または重ね合わせた重合部に回転させた摩擦撹拌接合用工具を押し込み、その摩擦撹拌接合用工具を前記突合せ部または前記重合部に沿って所定の回転数および移動速度で相対的に移動させて、前記被接合材間に接合部を形成する接合部形成工程と、その接合部形成工程により形成された前記接合部の長手方向に交差する断面に、前記被接合材または前記接合部の表面もしくは裏面に開口する欠陥、及び、前記被接合材または前記接合部で閉鎖された内部空間があるかを確認する確認工程と、その確認工程により前記欠陥および前記内部空間がないと判断される場合には前記回転数を低下または前記移動速度を増加させる条件変更工程と、前記確認工程により前記欠陥がなく前記内部空間があると判断される場合には、直前の前記接合部形成工程における回転数および移動速度のもとで、前記摩擦撹拌接合用工具を用いて二つの被接合材間に接合部を形成し、前記接合部に前記摩擦撹拌接合用工具の移動方向に沿って連続した内部空間としての流路を形成する流路形成工程とを備え、前記条件変更工程は、前記確認工程により前記欠陥がなく前記内部空間があると判断されるまで、前記接合部形成工程および前記確認工程と共に行われる。
【0010】
請求項3記載の冷却路内蔵部材の製造方法は、冷媒が流通される流路が躯体に内蔵された冷却路内蔵部材の製造方法であり、二つの被接合材を突き合わせた突合せ部または重ね合わせた重合部に回転させた摩擦撹拌接合用工具を押し込む押込工程と、その押込工程により前記突合せ部または前記重合部に押し込まれた前記摩擦撹拌接合用工具を前記突合せ部または前記重合部に沿って所定の回転数および移動速度で相対的に移動させて、前記被接合材間に接合部を形成すると共に、前記接合部の内部に連続した内部空間としての流路を形成する流路形成工程とを備え、前記二つの被接合材は、少なくとも一方の被接合材の材質がアルミニウム若しくはアルミニウム合金または銅若しくは銅合金であり、前記流路形成工程における前記回転数は1000〜6000rpm、前記移動速度は800〜1500mm/分である。
【発明の効果】
【0011】
請求項1記載の冷却路内蔵部材によれば、摩擦撹拌接合用工具を用いて一体化された二つの被接合材の接合部に流路(冷却路)が形成されている。そのため、冷却路となる空間部が予め形成された矩形パイプ(原材料)は不要である。よって、管壁の厚い特殊な矩形パイプ(原材料)を生産する工数を削減でき、原材料の生産を開始してから冷却路内蔵部材が得られるまでの生産工数の総和を削減できるという効果がある。
【0012】
また、冷却路内蔵部材は、流路(冷却路)が摩擦撹拌接合用工具を用いて二つの被接合材が一体化された接合部に形成されているので、摩擦撹拌接合用工具を曲線的に移動させて接合部を形成することで、流路(冷却路)を曲線的に設けることができる。このため、設計の自由度を大きくできるという効果がある。
【0013】
請求項2記載の冷却路内蔵部材の製造方法によれば、接合部形成工程で作られた接合部に欠陥または内部空間があるかを確認する確認工程と、その確認工程の結果に基づき回転数または移動速度を変更する条件変更工程とを備え、その条件変更工程は、確認工程により接合部に欠陥がなく内部空間があると判断されるまで接合部形成工程および確認工程と共に行われる。その結果、その被接合材や摩擦撹拌接合用工具に応じた接合条件を設定して、接合部に流路(冷却路)を形成できる。よって、生産工数を削減できると共に設計の自由度を大きくでき、さらに高い歩留で安定して冷却路内蔵部材を製造できるという効果がある。
【0014】
請求項3記載の冷却路内蔵部材の製造方法によれば、二つの被接合材の突合せ部または重合部に沿って、摩擦撹拌接合用工具を所定の回転数及び移動速度で相対的に移動させる流路形成工程を備え、少なくとも一方の被接合材の材質がアルミニウム若しくはアルミニウム合金または銅若しくは銅合金であり、流路形成工程における回転数は1000〜6000rpm、移動速度は800〜1500mm/分であることにより、接合部に流路(冷却路)を高い歩留まりで安定して形成できる。よって、生産工数を削減できると共に設計の自由度を大きくでき、さらに熱伝導率が高く冷却性能に優れる冷却路内蔵部材を製造できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1実施の形態における冷却路内蔵部材の製造方法を適用して接合される被接合材と摩擦撹拌接合用工具とを示した斜視図である。
【図2】(a)接合前における被接合材と摩擦撹拌接合用工具との断面図であり、(b)は接合部を形成中の被接合材と摩擦撹拌接合用工具との断面図であり、(c)は接合後における被接合材および接合部の断面図である。
【図3】摩擦撹拌接合用工具の回転数および移動速度と内部空間の形成可能領域との関係を示した図である。
【図4】冷却路内蔵部材の平面図である。
【図5】(a)本発明の第2実施の形態における冷却路内蔵部材の製造方法を適用した接合前における被接合材と摩擦撹拌接合用工具との断面図であり、(b)は接合部を形成中の被接合材と摩擦撹拌接合用工具との断面図であり、(c)は接合後における被接合材および接合部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、添付図面を参照して説明する。図1は本発明の第1実施の形態における冷却路内蔵部材の製造方法を示した斜視図である。図1に示すように、本発明の第1実施の形態における冷却路内蔵部材の製造方法は、二つの被接合材2,3を突き合わせて、被接合材2,3の突合せ部4の裏面に裏当て材10を当接させ、被接合材2,3の表面の突合せ部4に回転する摩擦撹拌接合用工具1を押し込み、次いで、摩擦撹拌接合用工具1を突合せ部4に沿って所定の回転数および移動速度で相対的に移動させ、接合部5を形成することで二つの被接合材2,3を一体化させながら、接合部5に連続した内部空間としての流路(冷却路)を形成する方法である。
【0017】
ここで、図2を参照して、本発明の第1実施の形態における冷却路内蔵部材の製造方法の詳細について説明する。図2(a)は接合前における被接合材2,3と摩擦撹拌接合用工具1との断面図であり、図2(b)は接合部5を形成中の被接合材2,3と摩擦撹拌接合用工具1との断面図であり、図2(c)は接合後における被接合材2,3及び接合部5の断面図である。なお、図2では、被接合材2,3の突合せ部4の裏面に当接する裏当て材10の図示は省略している。
【0018】
図2(a)に示すように、本発明の第1実施の形態における冷却路内蔵部材の製造方法では、まず、被接合材2,3の接合する面2a,3a同士を突き合わせて突合せ部4を形成し、接合する面2a,3a同士を密着させた状態で固定する。本実施の形態においては、被接合材2はアルミニウム合金製であり、被接合材3は一般構造鋼材製である。摩擦撹拌接合用工具1は円柱状であり、肩部1aから突設したピン1bを備え、肩部1a及びピン1bは工具鋼製や超硬合金製で一体に形成されている。
【0019】
次に、摩擦撹拌接合用工具1を回転させながら、ピン1bを突合せ部4に所定の加圧力で押し付ける。これにより、摩擦撹拌接合用工具1のピン1bと被接合材2,3との間に摩擦熱が発生して、この摩擦熱で被接合材2,3が軟化する。さらに、摩擦撹拌接合用工具1は所定の加圧力で被接合材2,3に押し付けられているので、軟化した被接合材2,3中にピン1bが押し込まれていき、最終的には図2(b)に示すように、ピン1bが被接合材2,3に埋没した状態になる。ピン1b周辺の被接合材2,3は、被接合材2,3と肩部1a及びピン1bとの摩擦によって発生した摩擦熱で軟化し粘性が低下するので、摩擦撹拌接合用工具1の回転に引きずられるように撹拌されて塑性流動を起こし、塑性変形する。
【0020】
次いで、摩擦撹拌接合用工具1の回転と加圧とを維持しながら、突合せ部4に沿って所定の移動速度で相対的に移動させると、突合せ部4に沿って次々と塑性流動が起こり、これが接合金属となって突合せ部4に沿って接合部5が形成され、被接合材2,3が一体化される。
【0021】
なお、本実施の形態において、突合せ部4においてピン1bを押し付ける位置は、ピン1bの先端と被接合材2との当接面積が、ピン1bの先端と被接合材3との当接面積より広くなる位置である。被接合材3と比べて降伏応力の低い被接合材2とピン1bの先端との当接面積が、被接合材3とピン1bの先端との当接面積より広いため、塑性流動する金属量は、被接合材2が被接合材3に比べて多くなる。この結果、塑性流動した被接合材2が大きな圧縮力を受けて、ピン1bによって新しく露出した被接合材3の界面との間で接合される。
【0022】
ここで、摩擦撹拌接合用工具1を移動させて被接合材2,3の間に接合部5を形成する場合の主な施工パラメータは、摩擦撹拌接合用工具1の前進角(摩擦撹拌接合用工具1の肩部1aと被接合材2,3の表面とのなす角)、回転数、加圧力および移動速度(接合速度)の4つである。このうち、前進角は数度以下に固定して設定され(本実施の形態においては0°)、加圧力は0.1〜1PMaの範囲で設定される(本実施の形態においては0.3MPa)。
【0023】
本発明は、残る2つの施工パラメータである摩擦撹拌接合用工具1の回転数および移動速度(接合速度)を、後述する条件に設定することにより、図2(c)に示すように、接合金属が行き渡らない部分(内部空間6)を接合部5の内部に形成し、流路(冷却路)とするものである。
【0024】
ここで、摩擦撹拌接合法は、被接合材2,3をその融点以下の低温で接合する方法であるため、融点を超える温度下で行う接合法(例えばアーク溶接)でみられる気泡や割れ等の接合欠陥は生じない。しかし、摩擦撹拌接合法は、被接合材2,3と摩擦撹拌接合用工具1との摩擦熱で被接合材2,3を軟化させ塑性流動させるので、過剰な摩擦熱が生じて塑性流動が過剰となった場合には、摩擦撹拌接合用工具1の加圧力で接合部5の外に排出される金属量が増加し、接合部5の接合金属の体積が不足する。このため、被接合材2,3の表面から厚さ方向にかけて、位置や形状が不規則な欠陥(被接合材2,3又は接合部5の表面に開口する欠陥)が生じ易くなる。一方、摩擦熱が不足した場合には、接合部5の温度が低くなるため、接合金属の粘性が増加し、接合金属が行き渡らない部分(断面視して被接合材2,3又は接合部5で閉鎖された内部空間6)が生じ易くなる。
【0025】
次いで、図3を参照して、摩擦撹拌接合用工具1の回転数および移動速度と内部空間6の形成可能領域との関係を説明し、併せて本発明の冷却路内蔵部材の製造方法について説明する。図3は摩擦撹拌接合用工具1の回転数および移動速度と内部空間6の形成可能領域との関係を示した図である。図3の横軸は摩擦撹拌接合用工具1の相対的な移動速度を示し、縦軸は摩擦撹拌接合用工具1の回転数を示している。なお、本実施の形態における以下の説明では、摩擦撹拌接合用工具1の回転数および移動速度以外の条件は固定されているものとする。
【0026】
図3において、P3,P4,P5,P8で囲まれた領域は、接合部5の長手方向に交差する断面の検査(顕微鏡や超音波等を用いた探傷検査)において、被接合材2,3又は接合部5の表面に開口する欠陥、及び、被接合材2,3又は接合部5で閉鎖された内部空間6が確認されない条件を示す領域である。P1,P3,P8,P5,P7,P10で囲まれた領域は、内部空間6を形成できる条件(内部空間の形成可能領域)である。また、内部空間6の形成可能領域のうち、P1,P2,P9,P6,P7,P10で囲まれた領域は、90%以上の歩留まりで連続した内部空間6を形成できる条件(内部空間6の形成推奨領域)であり、P2,P3,P8,P5,P6,P9で囲まれた領域は、50%以上の歩留まりで連続した内部空間6を形成できる条件である。これらの領域(条件)は、被接合材2,3の材質、厚さ及び摩擦撹拌接合用工具1のピン1bの外径等により変動する。
【0027】
ここで、図3において、摩擦撹拌接合用工具1の移動速度がS1〜S4の場合に、摩擦撹拌接合用工具1の回転数が、P4とP7とを結ぶ線が示す回転数より高回転数になると、発生する摩擦熱が増加して接合部5の温度が高くなる。この結果、接合金属の粘性が低下し、摩擦撹拌接合用工具1の肩部1aの圧力で接合部5の外に排出される接合金属の量が増加する。このため、接合部5の接合金属の体積が不足し、被接合材2,3の表面に開口した、形状が不規則な欠陥が生じる。この欠陥は被接合材2,3の表面に開口しているため、冷媒を流通させた場合に冷媒が漏れてしまう。このため、冷却路を形成できない。
【0028】
また、摩擦撹拌接合用工具1の移動速度がS1〜S2の場合に、摩擦撹拌接合用工具1の回転数が、P3とP8とを結ぶ線が示す回転数より低回転数、かつ、P1とP10とを結ぶ線が示す回転数より高回転数になると、発生する摩擦熱が低下して接合部5の温度が低くなる。この結果、接合金属の粘性が増加し、接合金属が行き渡らない部分(内部空間6)を接合部5の内部(被接合材2,3の裏面近傍)に形成し、冷却路となる連続した内部空間6を形成できる。しかし、摩擦撹拌接合用工具1の回転数が、P1とP10とを結ぶ線が示す回転数より低回転数になると、発生する摩擦熱がさらに低下して接合部5の温度がさらに低くなる。この結果、接合金属の塑性流動が不十分となり、被接合材2,3の接合強度が低下するため好ましくない。
【0029】
一方、摩擦撹拌接合用工具1の回転数がP3,P4,P5,P8を結ぶ領域にあって、摩擦撹拌接合用工具1の移動速度が、P3とP4とを結ぶ線が示す移動速度(S1)より低速度になると、発生する摩擦熱が増加して接合部5の温度が高くなる。この結果、接合金属の粘性が低下し、摩擦撹拌接合用工具1の肩部1aの圧力で接合部5の外に排出される接合金属の量が増加する。このため、接合部5の接合金属の体積が不足し、被接合材2,3の表面に開口した、形状が不規則な欠陥が生じる。このため、冷却路となるような連続した内部空間6を形成できない。
【0030】
また、摩擦撹拌接合用工具1の回転数がP3,P4,P5,P8を結ぶ領域にあって、摩擦撹拌接合用工具1の移動速度が、P5とP8とを結ぶ線が示す移動速度(S2)より高速度、かつ、P7とP10とを結ぶ線が示す移動速度(S4)より低速度になると、発生する摩擦熱が低下して接合部5の温度が低くなる。この結果、接合金属の粘性が増加し、接合金属が行き渡らない部分(内部空間6)を接合部5の内部(被接合材2,3の裏面近傍)に形成し、冷却路となる連続した内部空間6を形成できる。しかし、摩擦撹拌接合用工具1の移動速度が、P7とP10とを結ぶ線が示す移動速度(S4)より高速度になると、発生する摩擦熱がさらに低下して接合部5の温度がさらに低くなる。この結果、接合金属の塑性流動が不十分となり、被接合材2,3の接合強度が低下するため好ましくない。
【0031】
また、実験の結果、内部空間6の形成可能領域の下限回転数(P1とP10とを結ぶ線が示す回転数)は、内部空間6の形成可能領域の上限回転数(P3とP8とを結ぶ線が示す回転数)に対して1/2であり、内部空間の形成推奨領域の上限回転数(P2とP9とを結ぶ線が示す回転数)は、内部空間6の形成可能領域の上限回転数(P3とP8とを結ぶ線が示す回転数)に対して2/3であることがわかった。
【0032】
同様に実験の結果、内部空間6の形成可能領域の上限移動速度(P7とP10とを結ぶ線が示す移動速度)は、内部空間6の形成可能領域の下限移動速度(P5とP8とを結ぶ線が示す移動速度)に対して2.5倍であり、内部空間6の形成推奨領域の下限移動速度(P6とP9とを結ぶ線が示す移動速度)は、内部空間6の形成可能領域の下限移動速度(P5とP8とを結ぶ線が示す移動速度)に対して1.5倍であることがわかった。
【0033】
図1に戻って、本発明の冷却路内蔵部材の製造方法について説明する。まず、接合部形成工程において、二つの被接合材2,3を突き合わせた突合せ部4に回転させた摩擦撹拌接合用工具1を押し込み、その摩擦撹拌接合用工具1を突合せ部4に沿って所定の回転数R1及び移動速度S1で相対的に移動させて、被接合材2,3間に接合部5を形成し被接合材2,3を一体化させる。
【0034】
次いで、図2(c)を参照して、確認工程において、顕微鏡や超音波等を用いた探傷検査により、接合部5の長手方向に交差する断面に、被接合材2,3または接合部5の表面に開口する欠陥、及び、被接合材2,3又は接合部5で閉鎖された内部空間6があるかを確認する。顕微鏡を用いる場合は、接合部5の長手方向に交差する断面の研磨面を観察するのが、精度が高いため好ましい。これにより、接合部形成工程における接合条件(回転数R1及び移動速度S1)が、図3に示すいずれの領域にあるかを確認する。
【0035】
次に、条件変更工程では、確認工程により接合部5に欠陥および内部空間6がないと判断される場合には、図3を参照して、接合条件がP3,P4,P5,P8を結ぶ領域にあると判断されるため、回転数R1を低下または移動速度S1を増加させる。なお、欠陥及び内部空間6がないと判断される接合部5が形成される回転数および移動速度を(図3においてP3,P4,P5,P8を結ぶ領域における回転数および移動速度)、回転数R0及び移動速度S0とする。
【0036】
また、条件変更工程では、確認工程により欠陥があると判断される場合には、直前の接合部形成工程における回転数R1及び移動速度S1と、回転数R0及び移動速度S0とを比較する。回転数R1が回転数R0より高い場合は、回転数がP4とP7とを結ぶ線が示す上限回転数を超えていると判断されるため、回転数R1を低下させる。また、移動速度S1が移動速度S0より遅い場合は、移動速度がP1とP4とを結ぶ下限移動速度を下回っていると判断されるため、移動速度S1を増加させる。
【0037】
また、条件変更工程では、回転数R1が回転数R0より低い場合、或いは、移動速度S1が移動速度S0より速い場合であって、確認工程により接合部5に欠陥があると判断される場合には、接合条件がP1とP10とを結ぶ線より下側の領域にある(回転数が遅い)か、P7とP10とを結ぶ線より右側の領域にある(移動速度が速い)と判断されるため、回転数R1を増加または移動速度S1を低下させる。なお、条件変更工程は、確認工程により接合部5に欠陥がなく内部空間6があると判断されるまで、接合部形成工程および確認工程と共に行われる。
【0038】
次いで、確認工程により欠陥がなく内部空間6があると判断される場合には、流路形成工程において、直前の接合部形成工程における接合条件(回転数R1又は移動速度S1)のもとで、二つの被接合材2,3間に摩擦撹拌接合用工具1を用いて接合部5を形成し、接合部5に摩擦撹拌接合用工具1の移動方向に沿って連続した内部空間6を形成する。
【0039】
以上のように、条件変更工程は、確認工程により接合部5に欠陥がなく内部空間6があると判断されるまで、接合部形成工程および確認工程と共に行われるため、摩擦撹拌接合法によって接合できる被接合材2,3であれば、回転数R1または移動速度S1を変更しながら、その被接合材2,3や摩擦撹拌接合用工具1に応じた接合条件を特定できる。連続した内部空間6としての流路(冷却路)は、被接合材2,3の接合と共に形成されるため、冷却路内蔵部材の生産工数の総和を削減できる。
【0040】
次いで、図4を参照して、本発明の製造方法で製造された冷却路内蔵部材11について説明する。図4は、冷却路内蔵部材11の平面図である。冷却路内蔵部材11は、上述のように、二つの被接合材11a,11aに回転させた摩擦撹拌接合用工具を押し込み、次いで移動させることにより接合部11bを形成し、接合部11bで被接合材11a,11aを一体化することにより製造されている。本実施の形態においては、冷却路内蔵部材11は加速器電極板である。被接合材11a,11aには、各々ビーム孔部12が穿設されており、接合部11bはビーム孔部12の間をぬうように、平面視において略S字状の曲線状に形成されている。接合部11bの内部には、連続した内部空間としての流路(冷却路)が形成されている。なお、冷却路内蔵部材11(加速器電極板)は、冷却路内蔵部材11に電位を付与することにより、ビーム孔部12を通過する荷電粒子を加速するものである。
【0041】
また、冷却路内蔵部材11は、接合部11bの接合開始部に冷媒流入口11cが形成されている。冷媒流入口11cは、流路の一端側に開口している。冷媒流入口11cは、流路に冷媒を流入させる冷媒流入管(図示しない)が接続される。さらに、冷却路内蔵部材11は、接合部11bの接合終端部に冷媒流出口11dが形成されている。冷媒流出口11dは、流路の他端側に開口している。冷媒流出口11dは、冷媒流入口11cから流入された冷媒を、流路の外に流出させる冷媒流出管(図示しない)が接続される。冷媒流入口11c及び冷媒流出口11dは、接合部11bの表面から内部空間に向かって穿孔することにより形成されている。冷媒流入口11c及び冷媒流出口11dに、管継手(図示しない)を接続することも可能である。
【0042】
このように、流路(冷却路)は、被接合材11a,11aの接合と共に形成されるため冷却路内蔵部材の生産工数の総和を削減できる。また、冷却路内蔵部材11は、流路(冷却路)が摩擦撹拌接合用工具を用いて二つの被接合材が一体化された接合部11bに形成されているので、摩擦撹拌接合用工具を曲線的に移動させて接合部11bを形成することで、流路(冷却路)を曲線的に設けることができる。よって、設計の自由度を大きくすることができる。このため、流路(冷却路)をビーム孔部12の間をぬうように形成することができ、冷却路内蔵部材11の冷却効率を高めることができる。
【0043】
次いで、図5を参照して、第2実施の形態について説明する。第1実施の形態では、摩擦撹拌接合用工具1のピン1bを突合せ部4に押し込み、摩擦撹拌接合用工具1を突合せ部4に沿って移動させる場合について説明したが、第2実施の形態では、摩擦撹拌接合用工具21のピン21bを重合部24に押し込み、摩擦撹拌接合用工具21を重合部24に沿って移動させる場合について説明する。
【0044】
図5は本発明の第2実施の形態における冷却路内蔵部材の製造方法を適用して接合される被接合材22,23及び摩擦撹拌接合用工具21の断面図であり、図5(a)は接合前における被接合材22,23及び摩擦撹拌接合用工具21の断面図であり、図5(b)は接合部25の形成中における被接合材22,23及び摩擦撹拌接合用工具21の断面図であり、図5(c)は接合後における被接合材22,23及び接合部25の断面図である。なお、図5では、被接合材22,23の重合部24の裏面に当接する裏当て材の図示は省略している。
【0045】
図5(a)において、まず、被接合材22,23の接合する面同士を重ね合せて重合部24を形成し、被接合材22,23同士を密着させた状態で固定する。本実施の形態においては、被接合材22,23はいずれも銅合金である。摩擦撹拌接合用工具21は円柱形状であり、肩部21aから突設したピン21bを備え、肩部21a及びピン21bは工具鋼製や超硬合金製で一体に形成されている。
【0046】
まず、摩擦撹拌接合用工具21を回転させながら、ピン21bを重合部24に所定の加圧力で押し付ける。これにより、摩擦撹拌接合用工具21のピン21bと被接合材22との間に摩擦熱が発生して、この摩擦熱で被接合材22が軟化する。さらに、摩擦撹拌接合用工具21は所定の加圧力で被接合材22に押し付けられているので、軟化した被接合材22中にピンが押し込まれていき、ピン21bが被接合材23に達すると、同様に被接合材23も軟化する。この結果、最終的には図5(b)に示すように、ピン21bが被接合材22,23に埋没した状態になる。埋没したピン21b周辺の被接合材22,23は、被接合材22,23と肩部21a及びピン21bとの摩擦によって発生した摩擦熱で軟化し粘性が低下するので、摩擦撹拌接合用工具21の回転に引きずられるように撹拌されて塑性流動を起こし、塑性変形する。
【0047】
次いで、摩擦撹拌接合用工具21の回転と加圧を維持しながら、重合部24に沿って摩擦撹拌接合用工具21を所定の移動速度で相対的に移動させると、重合部24に沿って次々と塑性流動が起こり、これが接合金属となって重合部24に沿って接合部25が形成される。第2実施の形態においても、第1実施の形態で説明したように、接合部形成工程、第2検査工程、条件変更工程を経て、回転数R1及び移動速度S1を設定する。流路形成工程において、直前の接合部形成工程における接合条件(回転数R1及び移動速度S1)で接合を行うことにより、図5(c)に示すように、接合部25に連続した内部空間26として流路を形成することができる。
【0048】
なお、内部空間26が接合部25と被接合材22,23との界面に形成されると、内部空間26が二つの被接合材22,23の界面と連通して、内部空間26に冷媒を流通させた場合に、接合部25と被接合材22,23との界面を冷媒が伝って漏れることがある。これを防ぐため、内部空間26は、重合部24の裏面近傍(被接合材23の厚さの範囲内)に形成することが好ましい。
【0049】
本発明では、条件変更工程を接合部形成工程および確認工程と共に行うから、内部空間26を重合部24の裏面近傍(被接合材23の厚さの範囲内)に安定して形成できる接合条件を設定できる。このため、冷媒を流通させた場合に、冷媒が接合部25と被接合材22,23との界面を伝って漏れることを防止できる。
【実施例】
【0050】
以下に、実験例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実験例に基づいて限定されるものではない。なお、以下の実験例は、第1実施の形態における冷却路内蔵部材の製造方法を適用したものである(図1及び図2参照)。
【0051】
一方の被接合材2としては、アルミニウム合金を用い、他方の被接合材3としては、機械構造用炭素鋼鋼材を用いた。これらを、共に幅50mm×長さ300mm×厚さ6mmの寸法に切断し、被接合材とした。また、摩擦撹拌接合用工具1は、円筒状の肩部1a及びピン1bを超硬合金製で一体に形成したものを用いた。なお、摩擦撹拌接合用工具の肩部1aは直径30mmの円筒状であり、ピン1bは長さ5mm及び直径5mmの円筒状とした。
【0052】
二つの被接合材2,3を常温下で突き合わせ、摩擦撹拌接合用工具を4000rpmの回転数で回転させながら、被接合材2,3の一面側から、突合せ部4に0.3MPaの圧力で押し付けた。なお、摩擦撹拌接合用工具1は、ピン1bの外縁が突合せ部4から被接合材2(アルミニウム合金)側に0.05mm入り込んだ位置に押し付けた。
【0053】
次いで、摩擦撹拌接合用工具1のピン1bを押し込んだ後、摩擦撹拌接合用工具1を4000rpmの回転数で回転させながら、500mm/分の移動速度で、突合せ部4に沿って被接合材2,3の端から端まで平行に移動させて、被接合材2,3の端まで接合部5を形成して被接合材2,3を接合した。なお、摩擦撹拌接合用工具の前進角は0°とした(以上、接合部形成工程)。
【0054】
次に、被接合材2,3を接合部5の長手方向に直交する方向に複数個所で切断して、切断面の研磨面を顕微鏡で観察したところ、接合部5には内部空間6および欠陥は確認されなかった(以上、確認工程)。この結果から、回転数を4000rpmに固定し、移動速度S1を増加させて2000mm/分とすることにした(以上、条件変更工程)。
【0055】
別の被接合材(材質は同じ)について、被接合材2,3の一面側に押し込んだ摩擦撹拌接合用工具1を、4000rpmの回転数で回転させながら、2000mm/分の移動速度S1で突合せ部4に沿って被接合材2,3の端から端まで平行に移動させて、被接合材2,3を接合した。なお、ここに記載した以外の条件は、直前の接合部形成工程における条件と同様とした(以上、接合部形成工程)。
【0056】
次いで、被接合材2,3を接合部5に直交する方向に複数個所で切断して、切断面の研磨面を顕微鏡で観察したところ、接合部5の鋼材3側に被接合材2,3の一面側に開口した切り込み状の欠陥が確認された(以上、確認工程)。この結果、移動速度が速いと判断されるため、移動速度S1を2000mm/分から900mm/分に低下させることとした(以上、条件変更工程)。
【0057】
別の被接合材(材質は同じ)について、被接合材2,3の一面側に押し込んだ摩擦撹拌接合用工具1を、4000rpmの回転数で回転させながら、900mm/分の移動速度で突合せ部4に沿って被接合材2,3の端から端まで平行に移動させて、被接合材2,3を接合した。なお、ここに記載した以外の条件は、直前の接合部形成工程における条件と同様とした(以上、接合部形成工程)。
【0058】
次いで、被接合材2,3を接合部5に直交する方向に複数個所で切断して、切断面の研磨面を顕微鏡で観察したところ、接合部5の長手方向に連続して被接合材2,3の反対面近傍の鋼材3側に内部空間6が形成されているのが確認された。欠陥は確認されなかった(以上、確認工程)。
【0059】
別の被接合材(材質は同じ)について、被接合材2,3の一面側に押し込んだ摩擦撹拌接合用工具1を、直前の接合部形成工程における接合条件である4000rpmの回転数で回転させながら、900mm/分の移動速度で突合せ部4に沿って被接合材2,3の端から端まで平行に移動させて、被接合材2,3を接合した。これにより、接合部5に、摩擦撹拌接合用工具1の移動方向に沿って流路(冷却路)を形成した。なお、ここに記載した以外の条件は、直前の接合部形成工程における条件と同様とした(以上、流路形成工程)。
【0060】
以上の実施例から、条件変更工程は、確認工程により接合部5に欠陥がなく内部空間6があると判断されるまで、接合部形成工程および確認工程と共に行われるため、摩擦撹拌接合法によって接合できる被接合材2,3であれば、移動速度S1を変更しながら、その被接合材2,3や摩擦撹拌接合用工具1に応じた接合条件を特定できる。よって、流路形成工程において、高い歩留で安定して冷却路内蔵部材を製造できる。
【0061】
また、この内部空間6は、摩擦撹拌接合用工具1を押し込んだ被接合材2,3の反対面近傍に、接合部5や被接合材2,3に囲まれて形成されているので、流通させた冷媒が漏れることなく、冷却路として使用できることが確認された。なお、摩擦撹拌接合用工具1の回転数を4000rpm、移動速度を800mm/分とした場合も、内部空間6(流路)を形成できることを確認した。
【0062】
本実施例では、回転数を固定して移動速度S1を変更する場合について説明したが、移動速度を固定して回転数R1を変更することも可能である。確認工程により接合部5に欠陥がなく内部空間6があると判断されるまで条件変更工程において回転数を変更し、この条件変更工程を、接合部形成工程および確認工程と共に行うことにより、流路が形成できることも確認した。摩擦撹拌接合用工具1の移動速度を1000mm/分に固定して実験を行ったところ、回転数が1000〜6000rpmの場合に、内部空間6(流路)を接合部5に形成できることを確認した。なお、回転数が1000rpmより小さくなるか6000rpmより大きくなると、接合部5に欠陥が形成され易くなる傾向となることも確認した。また、同様に、回転数及び移動速度の両方を変更しても、流路が形成できることを確認した。また、被接合材22,23を重ね合せた重合部24に、回転させた摩擦撹拌接合用工具21を押し込み移動させることにより、連続した内部空間25としての流路を形成できることも確認した。
【0063】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、上記実施の形態で挙げた数値や材質は一例であり、他の数値や材質を採用することは当然可能である。
【0064】
上記第1実施の形態では、被接合材2としてアルミニウム合金を、被接合材3として一般構造鋼材を用いる場合について説明したが、必ずしも異種材を接合する場合に限られるものではなく、上記第2実施の形態で説明したように、同種の材料を接合することが可能である。
【0065】
上記第1実施の形態では、被接合材2としてアルミニウム合金を、被接合材3として一般構造鋼材を用いる場合について説明した。また、上記第2実施の形態では、被接合材22,23として銅合金を用いる場合について説明した。しかし、必ずしもこれらに限られるものではなく、他の材質を採用することが可能である。
【0066】
他の材質としては、例えば、アルミニウム、マグネシウム合金、チタンとその合金、銅、軟鋼、亜鉛、鉛などの降伏応力が低い金属を用いることができる。また、金属に限られるものではなく、合成樹脂を用いることもできる。これらの場合も、連続した内部空間としての流路を形成できる。
【0067】
また、接合部形成工程および流路形成工程において、被接合材2,3(又は22,23)を融点以下の温度で予熱しておくことも可能である。被接合材2,3(又は22,23)を予熱することにより被接合材2,3(又は22,23)の降伏応力を低下させ、少ない摩擦熱で被接合材2,3(又は22,23)を塑性変形させることができる。この結果、予熱を行わない場合の条件と比較して、より低い回転数、又は、より高速度の移動速度で、接合部5(又は25)に内部空間6(又は26)を形成することができる。
【0068】
上記実施の形態では、冷却路内蔵部材11がビーム孔部12を有する加速器電極板である場合について説明した。また、接合部11bが平面視において略S字状である場合について説明した。しかし、必ずしもこれに限られるものではなく、用途に応じて、半導体用ヒートシンクやその他の機械部品或いは金型とすることが可能である。また、接合部の平面視における形状も略S字状に限らず、要求に応じて適宜変えることが可能である。
【0069】
上記実施の形態では、冷却路内蔵部材11の冷媒流入口11c及び冷媒流出口11dは、接合部11bの表面から穿孔することにより形成された場合について説明した。しかし、必ずしもこれに限れられるものではなく、接合部11bの裏面から穿孔したり、被接合材11aや接合部11bの端面から穿孔したりすることも可能である。また、穿孔する代わりに、切削や切断することにより流路を開口させて、冷媒流入口11c及び冷媒流出口11dを形成することも可能である。
【符号の説明】
【0070】
11 冷却路内蔵部材
1,21 摩擦撹拌接合用工具
2,3,11a,22,23 被接合材
4 突合せ部
24 重合部
5,11b,25 接合部
6,26 内部空間(流路)
11c 冷媒流入口
11d 冷媒流出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二つの被接合材と、
それらの二つの被接合材を突き合わせた突合せ部または重ね合わせた重合部に押し込まれた摩擦撹拌接合用工具の回転時の摩擦熱により前記突合せ部または前記重合部が塑性変形され前記二つの被接合材が一体化された接合部と、
その接合部の内部に前記突合せ部または前記重合部に沿って連続した内部空間として形成された流路と、
その流路の一端側に開口し冷媒を流入させる冷媒流入口と、
前記流路の他端側に開口し前記冷媒を流出させる冷媒流出口とを備えていることを特徴とする冷却路内蔵部材。
【請求項2】
冷媒が流通される流路が躯体に内蔵された冷却路内蔵部材の製造方法において、
二つの被接合材を突き合わせた突合せ部または重ね合わせた重合部に回転させた摩擦撹拌接合用工具を押し込み、その摩擦撹拌接合用工具を前記突合せ部または前記重合部に沿って所定の回転数および移動速度で相対的に移動させて、前記被接合材間に接合部を形成する接合部形成工程と、
その接合部形成工程により形成された前記接合部の長手方向に交差する断面に、前記被接合材または前記接合部の表面に開口する欠陥、及び、前記被接合材または前記接合部で閉鎖された内部空間があるかを確認する確認工程と、
その確認工程により前記欠陥および前記内部空間がないと判断される場合には前記回転数を低下または前記移動速度を増加させる条件変更工程と、
前記確認工程により前記欠陥がなく前記内部空間があると判断される場合には、直前の前記接合部形成工程における回転数および移動速度のもとで、前記摩擦撹拌接合用工具を用いて二つの被接合材間に接合部を形成し、前記接合部に前記摩擦撹拌接合用工具の移動方向に沿って連続した内部空間としての流路を形成する流路形成工程とを備え、
前記条件変更工程は、前記確認工程により前記欠陥がなく前記内部空間があると判断されるまで、前記接合部形成工程および前記確認工程と共に行われることを特徴とする冷却路内蔵部材の製造方法。
【請求項3】
冷媒が流通される流路が躯体に内蔵された冷却路内蔵部材の製造方法において、
二つの被接合材を突き合わせた突合せ部または重ね合わせた重合部に回転させた摩擦撹拌接合用工具を押し込む押込工程と、
その押込工程により前記突合せ部または前記重合部に押し込まれた前記摩擦撹拌接合用工具を前記突合せ部または前記重合部に沿って所定の回転数および移動速度で相対的に移動させて、前記被接合材間に接合部を形成すると共に、前記接合部の内部に連続した内部空間としての流路を形成する流路形成工程とを備え、
前記二つの被接合材は、少なくとも一方の被接合材の材質がアルミニウム若しくはアルミニウム合金または銅若しくは銅合金であり、
前記流路形成工程における前記回転数は1000〜6000rpm、前記移動速度は800〜1500mm/分であることを特徴とする冷却路内蔵部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−253534(P2010−253534A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−109094(P2009−109094)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(000103367)オーエスジー株式会社 (180)
【Fターム(参考)】