説明

冷感に優れた編地および繊維製品

【課題】接触冷感に優れ、しかも発汗時や降雨時にべとつくことのない編地および該編地を用いてなる繊維製品を提供する。
【解決手段】単繊維径が10〜1000nmのポリエステルフィラメント糸Aと単繊維径が1000nmより大の糸条Bとを含む編地であって、該編地の表面および裏面のうち少なくともどちらか一方において、前記ポリエステルフィラメント糸Aが前記糸条Bよりも多く露出している編地、および該編地を用いてなる繊維製品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接触冷感に優れた編地および該編地を用いてなる繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スポーツ衣料、インナー衣料、裏地などの用途において、夏場の暑熱感を解消するために接触冷感に優れた布帛が提案されている。例えば、吸水性ポリマーを付着させた繊維や公定水分率が高い再生繊維などで布帛を構成することが提案されている(特許文献1、特許文献2参照)。
しかしながら、これらの布帛を衣料として着用すると、発汗時や降雨時に布帛そのものが吸水するため、べとつくという問題があった。
なお、衣料用途、インナー衣料、特にスポーツ衣料などの用途では、ナノファイバーと称せられる超極細繊維を用いて、超極細繊維特有の風合いを有する布帛が提案されている。(例えば、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6参照)。
【0003】
【特許文献1】特開昭63−182435号公報
【特許文献2】特開2002−235278号公報
【特許文献3】特開2003−41432号公報
【特許文献4】特開2004−162244号公報
【特許文献5】特開2005−23466号公報
【特許文献6】特開2007−2364号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、接触冷感に優れ、しかも発汗時や降雨時にべとつくことのない編地および該編地を用いてなる繊維製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、単繊維径が10〜1000nmのポリエステルフィラメント糸Aを編地の表面または裏面において特定量露出させると、ポリエステルフィラメント糸Aが扁平化し易いため、編地表面がフラットになって肌との接触面積が高まり、接触冷感に優れ、しかも発汗時や降雨時にべとつくことのない編地が得られることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
【0006】
かくして、本発明によれば「単繊維径が10〜1000nmのポリエステルフィラメント糸Aと単繊維径が1000nmより大の糸条Bとを含む編地であって、該編地の表面および裏面のうち少なくともどちらか一方において、前記ポリエステルフィラメント糸Aが前記糸条Bよりも多く露出していることを特徴とする冷感に優れた編地。」が提供される。
【0007】
その際、編地の表面および裏面のうち少なくともどちらか一方において、前記ポリエステルフィラメント糸Aのみが露出していることが好ましい。また、前記ポリエステルフィラメント糸Aのフィラメント数が500本以上であることが好ましい。一方、前記糸条Bのフィラメント数としては1〜300本の範囲内であることが好ましい。
【0008】
本発明の編地において、編地が、前記ポリエステルフィラメント糸Aと前記糸条Bとの交編により得られた編地であることが好ましい。その際、前記糸条Bが弾性糸であることが好ましい。また、編地が、編成時に弾性糸がドラフトされながら編成するベア挿入された編地であることが好ましい。また、編地に カレンダー加工が施されていることが好ましい。
【0009】
本発明の編地において、前記ポリエステルフィラメント糸Aが前記糸条Bよりも多く露出している面において、表面凹凸度が3.0以下であることが好ましい。また、前記ポリエステルフィラメント糸Aが前記糸条Bよりも多く露出している面において、温度20℃、湿度65%RHにおける接触冷感の値aが0.02以上であることが好ましい。ただし、接触冷感の値は、カトーテック社製のサーモラボIIにて測定した接触冷感(qMax値)である。また、前記ポリエステルフィラメント糸Aが前記糸条Bよりも多く露出している面において、湿潤時における接触冷感の値bが0.04以上であることが好ましい。ただし、湿潤時とは、試料重量に対して50重量%の水分をスプレー式の噴霧器により測定面に均一に噴霧し1分経過後の状態であり、接触冷感の値は、カトーテック社製のサーモラボIIにて測定した接触冷感(qMax値)である。また、前記接触冷感の値bと接触冷感の値aとの比b/aが2.0以上であることが好ましい。
【0010】
また、本発明によれば、前記の編地を用いてなる、アウター用衣料、スポーツ用衣料、インナー用衣料、靴材、おしめや介護シーツの医療・衛生用品、寝装寝具、椅子やソファーの表皮材、カーペット、カーシート地、インテリア用品、空気清浄機用や浄水器用のフィルター製品、電池セパレータなどの電気製品用材料、ワイピングクロスなどの生活資材、ハードデイスク用研磨布、および細胞吸着剤などのメデイカル材料からなる群より選択されるいずれかの繊維製品が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、接触冷感に優れ、しかも発汗時や降雨時にべとつくことのない編地および該編地を用いてなる繊維製品が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の編地には、単繊維径が10〜1000nmのポリエステルフィラメント糸Aと単繊維径が1000nmより大の糸条Bとが含まれる。
【0013】
前記ポリエステルフィラメント糸A(以下、「ナノファイバー」と称することもある。)において、その単繊維径(単繊維の直径)が10〜1000nm(好ましくは100〜800nm)の範囲内であることが肝要である。かかる単繊維径を単繊維繊度に換算すると、0.000001〜0.01dtexに相当する。該単繊維径が10nmよりも小さい場合は繊維強度が低下するため実用上好ましくない。逆に、該単繊維径が1000nmよりも大きい場合は、編地が接触冷感(以下、単に「冷感」と称することもある。)を呈さないおそれがあり好ましくない。ここで、単繊維の断面形状が丸断面以外の異型断面である場合には、外接円の直径を単繊維径とする。なお、単繊維径は、透過型電子顕微鏡で繊維の横断面を撮影することにより測定が可能である。
【0014】
前記ポリエステルフィラメント糸Aにおいて、フィラメント数は特に限定されないが、超極細繊維特有の風合いを得る上で500本以上(より好ましくは2000〜10000本)であることが好ましい。また、ポリエステルフィラメント糸Aの総繊度(単繊維繊度とフィラメント数との積)としては、5〜150dtexの範囲内であることが好ましい。
【0015】
前記ポリエステルフィラメント糸Aの繊維形態は特に限定されないが、長繊維(マルチフィラメント糸)であることが好ましい。単繊維の断面形状も特に限定されず、丸、三角、扁平、中空など公知の断面形状でよい。また、通常の空気加工、仮撚捲縮加工が施されていてもさしつかえない。
【0016】
前記ポリエステルフィラメント糸Aを形成するポリマーの種類としてはポリエステル系ポリマーであれば特に限定されず、ポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、第3成分を共重合させたポリエステルなどが好ましく例示される。かかるポリエステルとしては、マテリアルリサイクルまたはケミカルリサイクルされたポリエステルであってもよい。さらには、特開2004−270097号公報や特開2004−211268号公報に記載されているような、特定のリン化合物およびチタン化合物を含む触媒を用いて得られたポリエステルでもよい。該ポリマー中には、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、微細孔形成剤、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤、蛍光増白剤、艶消し剤、着色剤、吸湿剤、無機微粒子が1種または2種以上含まれていてもよい。
【0017】
一方、糸条Bは、その単繊維径が1000nmより大(好ましくは2〜22μm)であることが肝要である。該単繊維径が1000nm(1μm)以下であると、編地がナノファイバーのみからなる場合と同様、編地本来の伸縮性を損われ、また加工性や取扱性が低下するおそれがあり、好ましくない。ここで、単繊維の断面形状が丸断面以外の異型断面である場合には、外接円の直径を単繊維径とする。なお、単繊維径は、前記と同様、透過型電子顕微鏡で繊維の横断面を撮影することにより測定が可能である。
【0018】
前記糸条Bにおいて、フィラメント数は特に限定されないが、1〜300本の範囲内であることが好ましい。また、かかる糸条Bの繊維形態は特に限定されず、長繊維(マルチフィラメント糸)でも紡績糸でもよいが、長繊維(マルチフィラメント糸)であることが好ましい。単繊維の断面形状も特に限定されず、丸、三角、扁平、中空など公知の断面形状でよい。また、通常の空気加工、仮撚捲縮加工が施されていてもさしつかえない。
【0019】
前記糸条Bを形成する繊維の種類は特に限定されず、ポリエステル系ポリマーからなるポリエステル繊維、ウレタン繊維、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミドからなるポリアミド繊維、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンからなるポリオレフィン繊維、アクリル繊維、パラ型もしくはメタ型アラミドからなるアラミド繊維、およびそれらの変性合成繊維、さらには、天然繊維、再生繊維、半合成繊維など衣料に適した繊維であれば自由に選択できる。なかでもポリエステル系繊維が好ましく、かかるポリエステル系繊維を形成するポリマーとしては、ポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、第3成分を共重合させたポリエステル、ポリエーテルエステルなどが好ましく例示される。かかるポリエステルとしては、マテリアルリサイクルまたはケミカルリサイクルされたポリエステルであってもよい。さらには、特開2004−270097号公報や特開2004−211268号公報に記載されているような、特定のリン化合物およびチタン化合物を含む触媒を用いて得られたポリエステルでもよい。特に後記のように高い沸水収縮率を有する点で共重合ポリエステルが特に好ましい。該ポリマー中には、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、微細孔形成剤、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤、蛍光増白剤、艶消し剤、着色剤、吸湿剤、無機微粒子が1種または2種以上含まれていてもよい。
【0020】
なお、前記ポリエステルフィラメント糸Aおよび糸条Bにおいて、繊維は1種類であることが好ましいが、複数の組み合わせであってもよい。例えば、ポリウレタン繊維やポリエーテルエステル系繊維などからなる弾性繊維糸条と、ポリエステル系繊維糸条とをインターレース空気ノズルなどにより空気混繊させた複合糸や、弾性繊維糸条のまわりにポリエステル系糸条をカバリングした複合糸などや、紡績糸との複合糸でもよい。
【0021】
本発明の編地において、該編地の表面および裏面のうち少なくともどちらか一方において、前記ポリエステルフィラメント糸Aが前記糸条Bよりも多く露出している。このように、ナノファイバーが表面または裏面に露出することにより接触冷感が得られる。ここで、編地表面(裏面)に露出しているポリエステルフィラメント糸Aと糸条Bとは下記の方法で計測する。すなわち、電子顕微鏡を用いて50倍の倍率で編地表面(裏面)を撮影し、写真のなかで、ポリエステルフィラメント糸Aが占める面積AAと、糸条Bが占める面積BAとを計測し、ポリエステルフィラメント糸Aの面積割合(%)(=AA/(AA+BA)×100)の値が50%以上であるとき、ポリエステルフィラメント糸Aが前記糸条Bよりも多く露出しているとする。なお、編地の表面とは、編地を製品として使用する際、外気側に位置する面であり、裏面とは該表面と反対側の面である。
【0022】
ここで、編地の表面および裏面のうち少なくともどちらか一方(好ましくは裏面)において、前記ポリエステルフィラメント糸Aのみが露出していることが好ましい。表面または裏面にポリエステルフィラメント糸Aのみが露出していると優れた接触冷感が得られる。
【0023】
なお、前記ポリエステルフィラメント糸Aが前記糸条Bよりも多く露出している面は表面と裏面の両面でもよいし、表面および裏面のうちどちらか一方のみであってもよい。例えば、編地の表面および裏面のうちどちらか一方のみに前記ポリエステルフィラメント糸Aが露出していると、他方の面で吸収された水分が、毛細管現象により当該面に速やかに移行するため、べとつきを抑制することが可能となる。
【0024】
本発明の編地は例えば以下の製造方法により製造することができる。まず、海成分とポリエステルからなりその径が10〜1000nmである島成分とで形成される海島型複合繊維(ポリエステルフィラメント糸A用繊維)を用意する。かかる海島型複合繊維としては、特開2007−2364号公報に開示された海島型複合繊維マルチフィラメント(島数100〜1500)が好ましく用いられる。
【0025】
すなわち、海成分ポリマーとしては、繊維形成性の良好なポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリエチレンなどが好ましい。例えば、アルカリ水溶液易溶解性ポリマーとしては、ポリ乳酸、超高分子量ポリアルキレンオキサイド縮合系ポリマー、ポリエチレングルコール系化合物共重合ポリエステル、ポリエチレングリコール系化合物と5−ナトリウムスルホン酸イソフタル酸の共重合ポリエステルが好適である。なかでも、5−ナトリウムスルホイソフタル酸6〜12モル%と分子量4000〜12000のポリエチレングルコールを3〜10重量%共重合させた固有粘度が0.4〜0.6のポリエチレンテレフタレート系共重合ポリエステルが好ましい。
【0026】
一方、島成分ポリマーは、繊維形成性のポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、第3成分を共重合させたポリエステルなどのポリエステルが好ましい。該ポリマー中には、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、微細孔形成剤、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤、蛍光増白剤、艶消し剤、着色剤、吸湿剤、無機微粒子が1種または2種以上含まれていてもよい。
【0027】
上記の海成分ポリマーと島成分ポリマーからなる海島型複合繊維は、溶融紡糸時における海成分の溶融粘度が島成分ポリマーの溶融粘度よりも大きいことが好ましい。また、島成分の径は、10〜1000nmの範囲とする必要がある。その際、島成分の形状が真円でない場合は外接円の直径を求める。前記の海島型複合繊維において、その海島複合重量比率(海:島)は、40:60〜5:95の範囲が好ましく、特に30:70〜10:90の範囲が好ましい。
【0028】
かかる海島型複合繊維マルチフィラメント糸は、例えば以下の方法により容易に製造することができる。すなわち、前記の海成分ポリマーと島成分ポリマーとを用い溶融紡糸する。溶融紡糸に用いられる紡糸口金としては、島成分を形成するための中空ピン群や微細孔群を有するものなど任意のものを用いることができる。吐出された海島型断面複合繊維マルチフィラメント糸は、冷却風によって固化され、好ましくは400〜6000m/分で溶融紡糸された後に巻き取られる。得られた未延伸糸は、別途延伸工程をとおして所望の強度・伸度・熱収縮特性を有する複合繊維とするか、あるいは、一旦巻き取ることなく一定速度でローラーに引き取り、引き続いて延伸工程をとおした後に巻き取る方法のいずれでも構わない。かかる海島型複合繊維マルチフィラメント糸において、単糸繊維繊度、フィラメント数、総繊度としてはそれぞれ単糸繊維繊度0.5〜10.0dtex、フィラメント数5〜75本、総繊30〜170dtexの範囲内であることが好ましい。また、かかる海島型複合繊維マルチフィラメント糸の沸水収縮率としては5〜30%の範囲内であることが好ましい。
【0029】
一方、単繊維繊度が0.1dtex以上(好ましくは0.1〜50dtex)である糸条Bを用意する。最終的に得られる編地内の糸条Bの単繊維径を1000nmより大とする上で、単繊維繊度を前記の範囲内とすることが好ましい。
【0030】
かかる糸条Bにおいて、フィラメント数、総繊度としてはそれぞれフィラメント数1〜300本、総繊度10〜200dtexの範囲内であることが好ましい。また、かかるフィラメント糸としては、沸水収縮率10%以上(より好ましくは20〜40%)の範囲内の高収縮ポリエステルか、弾性糸であることが好ましい。なお、前記のような高い沸水収縮率を得るには、共重合ポリエステルを用いて常法により紡糸、延伸するとよい。その際、共重合ポリエステルとしては、共重合ポリエステルの主構成モノマーがテレフタル酸およびエチレングリコールであり、この主構成モノマーに共重合する第三成分が、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ビスフェノールA、およびビスフェノールスルフォンからなる群より選択されるいずれかであることが好ましい。特に、前記の共重合ポリエステルが、酸成分がモル比(テレフタル酸/イソフタル酸)90/5〜85/15のテレフタル酸およびイソフタル酸からなり、グリコール成分がエチレングリコールからなる共重合ポリエステルであることが好ましい。このような共重合ポリエステルを用いることにより高い沸水収縮率が得られる。
【0031】
次いで、前記海島型複合繊維フィラメント糸と糸条Bとを用いて、前記海島型複合繊維フィラメント糸が糸条Bよりも表面または裏面において多く露出するよう編地を編成する。その際、前記ポリエステルフィラメント糸Aと前記糸条Bとを交編することにより編地を編成することが好ましい。前記海島型複合繊維フィラメント糸と糸条Bとは混繊されていないことが好ましい。
【0032】
前記海島型複合繊維フィラメント糸と糸条Bとの総繊度比としては、90:10〜10:90の範囲内であることが好ましい。編地の編組織は特に限定されず、よこ編物(丸編物)であってもよいしたて編物であってもよい。よこ編組織としては、平編、ゴム編、両面編、パール編、タック編、浮き編、片畔編、レース編、添え毛編等が例示され、たて編組織としては、シングルデンビー編、シングルアトラス編、ダブルコード編、ハーフ編、ハーフベース編、サテン編、ハーフトリコット編、裏毛編、ジャガード編等などが例示されるがこれらに限定されない。層数も単層でもよいし、2層以上の多層でもよい。
【0033】
次いで、該編物にアルカリ水溶液処理を施し、前記海島型複合繊維の海成分をアルカリ水溶液で溶解除去することにより、海島型複合繊維フィラメント糸を単繊維径が10〜1000nmのポリエステルマルチフィラメント糸Aとすることにより、本発明の編地が得られる。その際、アルカリ水溶液処理の条件としては、濃度3〜4%のNaOH水溶液を使用し55〜65℃の温度で処理するとよい。
【0034】
また、該アルカリ水溶液による溶解除去の前および/または後に編地に染色加工を施してもよい。カレンダー加工(加熱加圧加工)を施してもよい。ポリエステルフィラメント糸Aが糸条Bよりも多く露出している面にカレンダー加工(加熱加圧加工)を施して編地の表面または裏面をフラットにするとさらに接触冷感が向上し好ましい。かかるカレンダー加工の条件としては、温度100〜200℃、線圧196〜1960N/cm(20〜200kgf/cm)の範囲が好ましい。さらに、常法の起毛加工、撥水加工、さらには、紫外線遮蔽あるいは制電剤、抗菌剤、消臭剤、防虫剤、蓄光剤、再帰反射剤、マイナスイオン発生剤等の機能を付与する各種加工を付加適用してもよい。
【0035】
かくして得られた編地において、編地の表面および裏面のうち少なくともどちらか一方において、ポリエステルフィラメント糸A(ナノファイバー)が多く露出しているので、図1に模式的に示すように編地表面がフラットになって肌との接触面積が高まり、接触冷感に優れる。しかも該ポリエステルフィラメント糸A(ナノファイバー)は疎水性なので、発汗時や降雨時にべとつくことがない。
【0036】
ここで、前記ポリエステルフィラメント糸Aが前記糸条Bよりも多く露出している面において、表面凹凸度が3.0以下(好ましくは0.1〜2.5)であることが好ましい。該表面凹凸度が3.0よりも大きいと、接触冷感が得られないおそれがある。また、前記ポリエステルフィラメント糸Aが前記糸条Bよりも多く露出している面において、温度20℃、湿度65%RHにおける接触冷感の値aが0.02以上(好ましくは0.02〜0.04)であることが好ましい。ただし、接触冷感の値は、カトーテック社製のサーモラボIIにて測定した接触冷感(qMax値)である。また、前記ポリエステルフィラメント糸Aが前記糸条Bよりも多く露出している面において、湿潤時における接触冷感の値bが0.04以上(好ましくは0.03〜0.10)であることが好ましい。ただし、湿潤時とは、試料重量に対して50重量%の水分をスプレー式の噴霧器により測定面に均一に噴霧し1分経過後の状態であり、接触冷感の値は、カトーテック社製のサーモラボIIにて測定した接触冷感(qMax値)である。さらには、前記接触冷感の値bと接触冷感の値aとの比b/aが2.0以上(好ましくは2.0〜5.0)であることが好ましい。
【0037】
次に、本発明の繊維製品は前記の編地を用いてなる、アウター用衣料、スポーツ用衣料、インナー用衣料、靴材、おしめや介護シーツの医療・衛生用品、寝装寝具、椅子やソファーの表皮材、カーペット、カーシート地、インテリア用品、空気清浄機用や浄水器用のフィルター製品、電池セパレータなどの電気製品用材料、ワイピングクロスなどの生活資材、ハードデイスク用研磨布、および細胞吸着剤などのメデイカル材料からなる群より選択されるいずれかの繊維製品である。なかでも、アウター用衣料、スポーツ用衣料、インナー用衣料、靴材、おしめや介護シーツの医療・衛生用品、寝装寝具、椅子やソファーの表皮材、カーペット、カーシート地、インテリア用品など人体の肌に直接接触する繊維製品が好ましい。かかる繊維製品は前記の編地を用いているので、接触冷感に優れ、しかも発汗時や降雨時にべとつくことがない。
【実施例】
【0038】
次に本発明の実施例及び比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例中の各測定項目は下記の方法で測定した。
【0039】
<溶融粘度>乾燥処理後のポリマーを紡糸時のルーダー溶融温度に設定したオリフィスにセットして5分間溶融保持したのち、数水準の荷重をかけて押し出し、そのときのせん断速度と溶融粘度をプロットする。そのプロットをなだらかにつないで、せん断速度−溶融粘度曲線を作成し、せん断速度が1000秒−1の時の溶融粘度を見る。
【0040】
<溶解速度>海・島成分の各々0.3φ−0.6L×24Hの口金にて1000〜2000m/分の紡糸速度で糸を巻き取り、さらに残留伸度が30〜60%の範囲になるように延伸して、84dtex/24filのマルチフィラメントを作製する。これを各溶剤にて溶解しようとする温度で浴比100にて溶解時間と溶解量から、減量速度を算出した。
【0041】
<単繊維径>
編地を電子顕微鏡で写真撮影した後、n数5で単繊維径を測定しその平均値を求めた。
【0042】
<編地の表面(裏面)に露出しているポリエステルフィラメント糸Aの面積割合>
電子顕微鏡を用いて50倍の倍率で編地表面(裏面)を撮影し、写真のなかで、ポリエステルフィラメント糸Aが占める面積AAと、糸条Bが占める面積BAとを計測し、ポリエステルフィラメント糸Aの面積割合(%)(=AA/(AA+BA)×100)を算出した。
【0043】
<表面凹凸度>
カトーテック社製KESを使用し、編地と同じ方向に切り取った試料20cm×20cm(正方形)の裏面(衣料にした際肌側に位置する面)について、試料の設定荷重を196cN(200gr)とし、接触子は径0.5mm、長さ5mmの剛性ワイヤーとして、接触荷重9.8cN(10gr)、移動速度1mm/秒の条件で布帛(試料)の経および緯方向の表面凹凸値(SMD)をそれぞれn数5で測定した後、経方向の表面凹凸値と緯方向の表面凹凸値との平均値を表面凹凸度とした。
【0044】
<接触冷感>
標準状態と湿潤時について、カトーテック社製のサーモラボIIにて接触冷感(qMax値)を測定した。ただし、標準状態とは、温度20℃、湿度65%RHであり、湿潤時とは、試料重量に対して50重量%の水分をスプレー式の噴霧器により測定面に均一に噴霧し1分経過後の状態である。
【0045】
<着用快適性>
実施例および比較例で得られた編地を用いて半そでTシャツを縫製し、6名の試験者により、温度30℃、湿度60%RHの人工気象室内にて以下の運動工程を行った際の着用快適性を評価した。評価は、運動中および運動後の暑熱感を以下の3段階で評価した。○:暑熱感をあまり感じない。△:多少暑熱感を感じる。×:暑熱感が強い。
安静(5分)→運動:自転車(20分)→安静(20分)
【0046】
[実施例1]
島成分としてポリエチレンテレフタレート(280℃における溶融粘度が1200ポイズ、艶消し剤の含有量:0重量%)、海成分として5−ナトリウムスルホイソフタル酸6モル%と数平均分子量4000のポリエチレングリコール6重量%を共重合したポリエチレンテレフタレート(280℃における溶融粘度が1750ポイズ)を用い(溶解速度比(海/島)=230)、海:島=30:70、島数=836の海島型複合未延伸繊維を、紡糸温度280℃、紡糸速度1500m/分で溶融紡糸して一旦巻き取った。
得られた未延伸糸を、延伸温度80℃、延伸倍率2.5倍でローラー延伸し、次いで150℃で熱セットして巻き取った。得られた海島型複合延伸糸(ポリエステルフィラメント糸A用繊維)は56dtex/10filであり、透過型電子顕微鏡TEMによる繊維横断面を観察したところ、島の形状は丸形状でかつ島の径は710nmであった。
他方、糸条Bとして、通常のポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント仮撚捲縮加工糸(総繊度66dtex/72fil)を用意した。
【0047】
次いで、28ゲージの丸編ダブル機を使用して、前記ポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント仮撚捲縮加工糸(総繊度66dtex/72fil、糸条B)が編地の表面側に、一方前記海島型複合延伸糸(総繊度56dtex/10fil)が編地の裏面側に位置するよう給糸し、図3に示す編組織図に従って、ハニカムメッシュ編地を編成した。次いで、海島型複合延伸糸の海成分を除去するために編地を3.5%NaOH水溶液で、70℃にて30%アルカリ減量した。その後、130℃かつ30分間の高圧染色を行い、最終セットとして170℃の乾熱セット行った。そして、該編地を用いて半そでTシャツ(スポーツ用衣料)を縫製した。
得られた編地において、ポリエステルフィラメント糸Aの単繊維径は710nm、糸条Bの単繊維径は9.5μmであった。
編地および半そでTシャツの評価結果は表1に示す通りで、非常に優れた冷感を有していた。また、べとつきもなかった。
【0048】
[実施例2]
36ゲージの丸編シングル機を使用して、実施例1と同じ海島型複合延伸糸と市販のポリウレタン弾性糸(総繊度33dtex/1fil、糸条B)を編機上で引き揃えて(ベア挿入)、図4に示す編組織図に従って、天竺組織編地を編成した。その際、前記ポリウレタン弾性糸はドラフト率2.0倍でドラフトしながら編成した。該編地を実施例1と同じ方法で、減量加工および染色加工を施した。そして、実施例1と同様に該編地を用いて半そでTシャツ(スポーツ用衣料)を縫製した。
得られた編地において、ポリエステルフィラメント糸Aの単繊維径は710nm、糸条Bの単繊維径は45μmであった。
編地および半そでTシャツの評価結果は表1に示す通りで、非常に優れた冷感を有していた。また、べとつきもなかった。
【0049】
[実施例3]
実施例1で得られた編地を、ロールカレンダー(由利ロール(株)製)機にてローラー温度160℃、ニップ圧60kgf/cmにて加熱加圧加工した。得られた編地および半そでTシャツの評価結果は表1に示す通りで、非常に優れた冷感を有していた。
【0050】
[比較例1]
実施例1において、海島型複合延伸糸のかわりに通常のポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント延伸糸(総繊度35dtex/72fil、帝人ファイバー(株)製)を用いること以外は、実施例1と同様にした。
得られた編地において、ポリエチレンテレフタレートマルチフィラメント延伸糸の単繊維径は7μmであった。
編地および半そでTシャツの評価結果は表1に示す通りで、冷感が不十分であった。
【0051】
[比較例2]
実施例1において、海島型複合延伸糸(総繊度56dtex/10fil)のみを用いて編地を編成すること以外は実施例1と同様にした。非常に加工性および取扱い性が悪いものであった。
【0052】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明によれば、接触冷感に優れ、しかも発汗時や降雨時にべとつくことのない編地および該編地を用いてなる繊維製品が提供され、その工業的価値は極めて大である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の編地を模式的に示す図である。
【図2】従来の編地を模式的に示す図である。
【図3】実施例1で用いた編組織図である。
【図4】実施例2で用いた編組織図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単繊維径が10〜1000nmのポリエステルフィラメント糸Aと単繊維径が1000nmより大の糸条Bとを含む編地であって、該編地の表面および裏面のうち少なくともどちらか一方において、前記ポリエステルフィラメント糸Aが前記糸条Bよりも多く露出していることを特徴とする冷感に優れた編地。
【請求項2】
編地の表面および裏面のうち少なくともどちらか一方において、前記ポリエステルフィラメント糸Aのみが露出している、請求項1に記載の冷感に優れた編地。
【請求項3】
前記ポリエステルフィラメント糸Aのフィラメント数が500本以上である、請求項1または請求項2に記載の冷感に優れた編地。
【請求項4】
前記糸条Bのフィラメント数が1〜300本の範囲内である、請求項1〜3のいずれかに記載の冷感に優れた編地。
【請求項5】
編地が、前記ポリエステルフィラメント糸Aと前記糸条Bとの交編により得られた編地である、請求項1〜4のいずれかに記載の冷感に優れた編地。
【請求項6】
前記糸条Bが弾性糸である、請求項1〜5のいずれかに記載の冷感に優れた編地。
【請求項7】
編地が、編成時に弾性糸がドラフトされながら編成するベア挿入された編地である、請求項6に記載の冷感に優れた編地。
【請求項8】
カレンダー加工が施されてなる、請求項1〜7のいずれかに記載の冷感に優れた編地。
【請求項9】
前記ポリエステルフィラメント糸Aが前記糸条Bよりも多く露出している面において、表面凹凸度が3.0以下である、請求項1〜8のいずれかに記載の冷感に優れた編地。
【請求項10】
前記ポリエステルフィラメント糸Aが前記糸条Bよりも多く露出している面において、温度20℃、湿度65%RHにおける接触冷感の値aが0.02以上である、請求項1〜9のいずれかに記載の冷感に優れた編地。
ただし、接触冷感の値は、カトーテック社製のサーモラボIIにて測定した接触冷感(qMax値)である。
【請求項11】
前記ポリエステルフィラメント糸Aが前記糸条Bよりも多く露出している面において、湿潤時における接触冷感の値bが0.04以上である、請求項1〜10のいずれかに記載の冷感に優れた編地。
ただし、湿潤時とは、試料重量に対して50重量%の水分をスプレー式の噴霧器により測定面に均一に噴霧し1分経過後の状態であり、接触冷感の値は、カトーテック社製のサーモラボIIにて測定した接触冷感(qMax値)である。
【請求項12】
前記接触冷感の値bと接触冷感の値aとの比b/aが2.0以上である、請求項11に記載の冷感に優れた編地。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載の編地を用いてなる、アウター用衣料、スポーツ用衣料、インナー用衣料、靴材、おしめや介護シーツの医療・衛生用品、寝装寝具、椅子やソファーの表皮材、カーペット、カーシート地、インテリア用品、空気清浄機用や浄水器用のフィルター製品、電池セパレータなどの電気製品用材料、ワイピングクロスなどの生活資材、ハードデイスク用研磨布、および細胞吸着剤などのメデイカル材料からなる群より選択されるいずれかの繊維製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−24272(P2009−24272A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−186879(P2007−186879)
【出願日】平成19年7月18日(2007.7.18)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】