説明

処理剤、画像形成方法、処理剤の製造方法、画像を有する布帛の製造方法および画像を有する布帛

【課題】 布帛に変色が生じることのない、布帛への画像の形成に用いられる処理剤を提供する。
【解決手段】 布帛への画像を形成に用いられる処理剤であって、樹脂エマルジョンおよび金属塩を含み、前記処理剤のpHが、5.5〜9であることを特徴とする。前記処理剤のpHは、例えば、pH調整剤を用いて調整できる。前記pH調整剤としては、例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、トリエタノールアミンおよびN−ブチルジエタノールアミン等があげられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理剤、画像形成方法、処理剤の製造方法、画像を有する布帛の製造方法および画像を有する布帛に関する。
【背景技術】
【0002】
Tシャツまたは水着等の衣類にインクをインクジェット方式により吐出して画像を形成する画像形成方法が知られている。しかし、前記画像形成方法では、前記衣類の生地表面でインクが滲んだり、生地内部にインクが染み込んだりし、画像の形成に問題が生じる。この問題を解決するものとして、生地表面でのインクの滲みおよび生地内部へのインクの浸透を抑制するために、生地への画像の形成に先立ち、前処理剤を生地に付着させる前処理方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−209493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記前処理方法では、前処理剤により生地に変色が生じる。前記変色は、生地の地色がいわゆるパステルカラー(例えば、ライトブルー、ピンク等)等の薄い色の場合に特に深刻である。前記変色の問題は、衣類の生地を含む布帛全体の問題である。
【0005】
そこで、本発明は、布帛に変色が生じることのない、布帛への画像の形成に用いられる処理剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明の処理剤は、布帛への画像の形成に用いられる処理剤であって、
樹脂エマルジョンおよび金属塩を含み、
前記処理剤のpHが、5.5〜9であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の処理剤によれば、変色を生じさせることなく、布帛に画像を形成可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1(a)および(b)は、本発明の画像形成方法による画像形成例を示す図である。
【図2】図2は、インクジェット記録装置の構成の一例を示す概略図である。
【図3】図3は、前記インクジェット記録装置のインクジェットプリンタの構成の一例を示す正面図である。
【図4】図4(a)は、前記インクジェット記録装置のプラテンに布帛をセットした状態を示す平面図であり、図4(b)は、図4(a)のA−A方向から見た断面図である。
【図5】図5は、前記インクジェット記録装置の構成を示すブロック図である。
【図6】図6は、前記インクジェット記録装置の機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の処理剤は、布帛への画像の形成に用いられる。前記布帛としては、例えば、Tシャツ、水着、トレーナー等の衣類、バック、靴、スリッパ、靴下、ソファー等の家具、旗等の布製品等があげられる。本発明において、前記布帛は、織物および編物の双方を含む。前記布帛の材質は、天然繊維であることが好ましいが、合成樹脂綿と天然綿とを混合して成形されてなることを特徴とする綿混繊維であってもよい。前記合成繊維としては、例えば、ポリエステル、ナイロン、アクリル等があげられ、ポリエステルが好ましい。前記天然繊維としては、例えば、綿、絹等があげられる。前記布帛の材質は、複数種の前記繊維を混ぜて紡績された混紡であってもよい。本発明においては、例えば、シートまたは薄い皮膜状の布帛に画像を形成し、これを衣類や布製品に縫製してもよい。
【0010】
前述のとおり、前記処理剤は、樹脂エマルジョンおよび金属塩を含む。
【0011】
前記樹脂エマルジョンは、例えば、後述の熱処理または熱定着によって、前記布帛表面に処理層(処理膜)を形成する機能を有する。前記樹脂エマルジョンは、特に限定されず、例えば、アクリル系樹脂エマルジョン、スチレン系樹脂エマルジョン等があげられる。これらの中でも、アクリル系樹脂エマルジョンが好ましい。前記樹脂エマルジョンとしては、例えば、市販品を用いてもよい。前記樹脂エマルジョンは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。前記処理剤において、前記樹脂エマルジョンの含有量は、特に制限されず、前記処理剤全量に対し、例えば、1重量%〜50重量%であり、好ましくは、5重量%〜45重量%であり、より好ましくは、10重量%〜40重量%である。
【0012】
前記金属塩は、例えば、前記処理剤と共に用いられるインクが前記処理層(処理膜)に接した際に、前記インク中の着色剤を凝集させる機能を有する。前記金属塩は、特に限定されず、例えば、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、塩化バリウム、臭化バリウム、ヨウ化バリウム、酸化バリウム、硝酸バリウム、チオシアン酸バリウム、塩化カルシウム、臭化カルシウム、ヨウ化カルシウム、亜硝酸カルシウム、硝酸カルシウム、リン酸二水素カルシウム、チオシアン酸カルシウム、乳酸カルシウム、フマル酸カルシウム、クエン酸カルシウム、塩化銅、臭化銅、硫酸銅、硝酸銅、酢酸銅、塩化鉄、臭化鉄、ヨウ化鉄、硫酸鉄、硝酸鉄、シュウ酸鉄、乳酸鉄、フマル酸鉄、クエン酸鉄、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硫酸マンガン、硝酸マンガン、リン酸二水素マンガン、酢酸マンガン、サリチル酸マンガン、安息香酸マンガン、乳酸マンガン、塩化ニッケル、臭化ニッケル、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、酢酸ニッケル、硫酸スズ、塩化チタン、塩化亜鉛、臭化亜鉛、硫酸亜鉛、硝酸亜鉛、チオシアン酸亜鉛、酢酸亜鉛等があげられる。これらの中でも、硝酸カルシウムが好ましい。前記金属塩は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。前記処理剤において、前記金属塩の含有量は、特に制限されず、前記処理剤全量に対し、例えば、1重量%〜30重量%であり、好ましくは、1重量%〜20重量%であり、より好ましくは、1重量%〜15重量%である。
【0013】
前述のとおり、前記処理剤のpHは、5.5〜9である。前記樹脂エマルジョンおよび前記金属塩を含ませ、且つ、pHを前記範囲とすることで、変色を生じさせることなく、布帛に画像を形成可能な処理剤を得ることができる。前記処理剤のpHは、好ましくは、5.5〜6.5である。
【0014】
前記処理剤のpHの調整方法は、特に制限されず、例えば、pH調整剤を用いてもよい。前記pH調整剤としては、例えば、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、2族〜12族元素の水酸化物、2族〜12族元素の炭酸塩、アミン類等があげられる。前記pH調整剤の具体例としては、例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、トリエタノールアミン、N−ブチルジエタノールアミン、クエン酸ナトリウム(クエン酸二ナトリウム、クエン酸三ナトリウム)、炭酸水素ナトリウム、リン酸カリウム(リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム)、リン酸三ナトリウム、リン酸水素ナトリウム(リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム)、ピロリン酸二水素ナトリウム等があげられる。これらの中でも、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、トリエタノールアミン、N−ブチルジエタノールアミンが好ましい。前記pH調整剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。前記処理剤において、前記pH調整剤の含有量は、前記処理剤のpHを5.5〜9に調整できる量とすればよく、前記処理剤全量に対して、例えば、0.01重量%〜15重量%であり、好ましくは、0.01重量%〜10重量%であり、より好ましくは、0.01重量%〜5重量%である。
【0015】
前記処理剤は、さらに、水を含んでもよい。前記水は、イオン交換水または純水であることが好ましい。前記処理剤全量に対する前記水の配合量は、例えば、他の成分の残部としてもよい。
【0016】
前記処理剤は、さらに、水溶性有機溶剤を含んでもよい。前記水溶性有機溶剤としては、従来公知のものを使用することができる。前記水溶性有機溶剤としては、例えば、多価アルコール、多価アルコール誘導体、アルコール、アミド、ケトン、ケトアルコール、エーテル、含窒素溶剤、含硫黄溶剤、炭酸プロピレン、炭酸エチレン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等があげられる。前記多価アルコールとしては、例えば、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、へキシレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリメチロールプロパン、1,5−ペンタンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール等があげられる。前記多価アルコール誘導体としては、例えば、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール−n−プロピルエーテル、エチレングリコール−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコール−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコール−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコール−n−ヘキシルエーテル、トリエチレングリコールメチルエーテル、トリエチレングリコールエチルエーテル、トリエチレングリコール−n−プロピルエーテル、トリエチレングリコール−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコール−n−プロピルエーテル、プロピレングリコール−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールエチルエーテル、ジプロピレングリコール−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコール−n−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールエチルエーテル、トリプロピレングリコール−n−プロピルエーテル、トリプロピレングリコール−n−ブチルエーテル等があげられる。前記アルコールとしては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、ベンジルアルコール等があげられる。前記アミドとしては、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等があげられる。前記ケトンとしては、例えば、アセトン等があげられる。前記ケトアルコールとしては、例えば、ジアセトンアルコール等があげられる。前記エーテルとしては、例えば、テトラヒドロフラン、ジオキサン等があげられる。前記含窒素溶剤としては、例えば、ピロリドン、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、シクロへキシルピロリドン、トリエタノールアミン等があげられる。前記含硫黄溶剤としては、例えば、チオジエタノール、チオジグリコール、チオジグリセロール、スルホラン、ジメチルスルホキシド等があげられる。前記処理剤全量に対する前記水溶性有機溶剤の配合量は、特に制限されない。前記水溶性有機溶剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0017】
前記処理剤は、必要に応じて、さらに、従来公知の添加剤を含んでもよい。前記添加剤としては、例えば、界面活性剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、酸化防止剤、防黴剤等があげられる。前記粘度調整剤は、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース、水溶性樹脂等があげられる。
【0018】
前記処理剤の製造方法は、特に制限されず、例えば、後述の本発明の処理剤の製造方法により製造できる。
【0019】
つぎに、本発明の画像形成方法について説明する。本発明の画像形成方法は、布帛に画像を形成する画像形成方法であって、前記布帛に処理剤を塗布する処理工程と、前記処理剤の塗布部にインクを用いて画像を印刷する画像印刷工程と、前記インクを前記布帛に熱定着させる熱定着工程とを有し、前記処理工程において、前記処理剤として、本発明の処理剤を用いることを特徴とする。
【0020】
本発明の画像形成方法において、前記処理工程および前記画像印刷工程の実施順序に制限はなく、いずれを先に実施してもよく、両工程を同時に実施してもよい。前記熱定着工程は、前記画像印刷工程後に実施する。本発明の画像形成方法は、例えば、前記3つの工程以外に、後述の熱処理工程、圧縮工程等の工程を有してもよい。
【0021】
前記処理工程において、前記処理剤の塗布は、例えば、インクジェット方式、スプレー塗布、スタンプ塗布、刷毛塗り、ローラ塗布等の方法により実施できる。
【0022】
前記処理工程において、前記処理剤の塗布は、前記布帛の画像形成面の全面でもよいし、一部でもよい。一部に塗布する場合、前記布帛の画像形成面の少なくともインクによる印刷部分が塗布部になる。一部に塗布する場合、塗布部の大きさは、印刷部分よりも大きい方がよい。例えば、図1(a)に示すように、布帛(本例では、Tシャツ)100に対し、文字(X)を印刷する場合は、前記文字の線幅よりも大きな線幅で塗布部110を形成するように処理剤を塗布することが好ましい。また、図1(b)に示すように、布帛(Tシャツ)100に対し、図柄を印刷する場合は、前記図柄よりも大きな塗布部120を形成するように処理剤を塗布することが好ましい。
【0023】
つぎに、本発明の画像形成方法は、前記処理工程後、前記処理剤の塗布部に熱処理を施し、乾燥させる熱処理工程および前記処理剤の塗布部を圧縮する圧縮工程の少なくも一方の工程を有してもよい。前記熱処理は、例えば、市販のホットプレス機、オーブン、ベルトコンベアオーブン等を用いて実施できる。前記ホットプレス機を用いる場合には、前記処理剤の塗布部上に、表面が平滑なテフロン(登録商標)シートを置いた状態で熱処理を行うことが好ましい。これにより、前記布帛のケバを抑えることができ、例えば、本工程後に前記画像印刷工程を実施する場合に、その実施がよりスムースとなる。前記熱処理の温度は、特に限定されないが、例えば、160℃〜185℃である。本発明の画像形成方法では、pHが5.5〜9に調整された本発明の処理剤を用いているため、前記熱処理を施しても、前記布帛に変色を生じることがない。前記圧縮は、例えば、市販のホットプレス機を用いて、前記熱処理と同様の条件で実施できる。
【0024】
つぎに、前記画像印刷工程は、前記処理剤の塗布部にインクを用いて画像を印刷する工程である。
【0025】
前記画像印刷工程に使用される前記インクとしては、特に限定されず、例えば、市販品を使用できる。前記インクは、染料を含むインクであってもよいが、顔料、水、水溶性樹脂エマルジョンおよび水溶性有機溶剤を含む水性インクであることが好ましい。
【0026】
前記顔料は、特に限定されず、例えば、カーボンブラック、無機顔料および有機顔料等が使用できる。前記カーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等があげられる。前記無機顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄系無機顔料およびカーボンブラック系無機顔料等があげられる。前記有機顔料としては、例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料;フタロシアニン顔料、ペリレンおよびペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等の多環式顔料;塩基性染料型レーキ顔料、酸性染料型レーキ顔料等の染料レーキ顔料;ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック昼光蛍光顔料等があげられる。また、その他の顔料であっても水相に分散可能なものであれば使用できる。これら顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブラック1、6および7;C.I.ピグメントイエロー1、2、3、12、13、14、15、16、17、55、73、74、75、83、93、94、95、97、98、114、128、129、138、150、151、154、180、185および194;C.I.ピグメントオレンジ31および43;C.I.ピグメントレッド2、3、5、6、7、12、15、16、48、48:1、53:1、57、57:1、112、122、123、139、144、146、149、166、168、175、176、177、178、184、185、190、202、221、222、224および238;C.I.ピグメントバイオレット196;C.I.ピグメントブルー1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:4、16、22および60;C.I.ピグメントグリーン7および36等があげられる。
【0027】
前記水性インク全量に対する前記顔料の固形分配合量(顔料固形分量)は、特に制限されず、例えば、所望の光学濃度または色彩等により、適宜決定できる。前記顔料固形分量は、例えば、0.1重量%〜20重量%であり、好ましくは、3.0重量%〜10重量%である。
【0028】
前記水は、イオン交換水または純水であることが好ましい。前記水性インク全量に対する前記水の配合量(水割合)は、所望のインク特性等に応じて適宜決定される。前記水割合は、例えば、他の成分の残部としてもよい。
【0029】
前記水溶性樹脂エマルジョンは、例えば、インク中で前記顔料を分散させる機能、および前記顔料を布帛に定着させるバインダーとしての機能を有する。
【0030】
前記水溶性樹脂エマルジョンとしては、例えば、ガラス転移温度が0℃以下の種々のエマルジョンを用いることができ、より具体的には、アクリル系、ウレタン系、ポリエステル系、ポリスチレン系、これらの複合系のエマルジョン等をあげることができる。これらの中でも、アクリル系のエマルジョンが好ましい。
【0031】
前記水溶性樹脂エマルジョンは、アニオン性、カチオン性、ノニオン性のいずれであってもよい。また、前記水溶性樹脂エマルジョンは、例えば、マイクロエマルジョン、グロスエマルジョン、反応型エマルジョン、常温架橋型エマルジョン、2層構造エマルジョン等、いかなる性状のものであってもよい。前記水溶性樹脂エマルジョンを構成する樹脂微粒子の平均体積粒径は、例えば、10nm〜200nmであり、好ましくは、50nm〜150nmである。
【0032】
前記水性インク全量に対する前記水溶性樹脂エマルジョンの固形分配合量(水溶性樹脂エマルジョン固形分量)は、好ましくは、4重量%〜15重量%である。前記水溶性樹脂エマルジョン固形分量を4重量%以上とすることで、インク中での顔料の分散性および布帛への顔料の定着性を向上させることが可能となる。前記水溶性樹脂エマルジョン固形分量を15重量%以下とすることで、例えば、前記画像印刷工程をインクジェット方式で実施する場合において、吐出安定性により優れた水性インクを得ることができる。
【0033】
前記水溶性有機溶剤は、例えば、前記画像印刷工程をインクジェット方式で実施する場合において、インクジェットヘッドの先端部におけるインクの乾燥を防止する湿潤剤としての機能を有する。
【0034】
前記湿潤剤は、特に限定されず、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の低級アルコール;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド;アセトン等のケトン;ジアセトンアルコール等のケトアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル;ポリアルキレングリコール、アルキレングリコール、グリセリン等の多価アルコール;2−ピロリドン;N−メチル−2−ピロリドン;1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等があげられる。前記ポリアルキレングリコールは、特に限定されず、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等があげられる。前記アルキレングリコールは、特に限定されず、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、チオジグリコール、へキシレングリコール等があげられる。これらの中でも、ポリエチレングリコール、ジエチレングリコールが好ましい。これらの湿潤剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0035】
前記水性インクは、必要に応じて、さらに、従来公知の添加剤を含んでもよい。前記添加剤としては、例えば、界面活性剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、防黴剤等があげられる。前記粘度調整剤は、特に限定されず、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース、水溶性樹脂等があげられる。
【0036】
前記水性インクは、例えば、顔料、水、水溶性樹脂エマルジョンおよび水溶性有機溶剤と、必要に応じて他の添加成分とを、従来公知の方法で均一に混合し、フィルタ等で不溶解物を除去することにより調製できる。
【0037】
一方、例えば、ポリエステルに前記染料を含むインクで画像を印刷する場合には、分散染料を含むインクを用い、高温(例えば、120℃〜130℃)条件下で染色することが好ましい。前記分散染料は、水に不溶または難溶であるが、分散剤(界面活性剤)によって水に微粒子状に分散させた状態で染色する染料である。
【0038】
前記画像印刷工程は、例えば、図2に示すインクジェット記録装置を用いて実施できる。本例のインクジェット記録装置では、前記画像印刷工程を、インクジェット記録により実施する。図示のとおり、このインクジェット記録装置は、布帛にインクを吐出して所望画像を印刷するインクジェットプリンタ1と、前記所望画像の画像データを取得し、且つ、前記インクジェットプリンタ1を制御する印刷制御装置70とがインターフェースを介して接続されて構成されている。
【0039】
前記インクジェットプリンタ1は、図3に示すように、枠体状のフレーム2を備えている。前記フレーム2は、前記プリンタ1の底部に位置する水平部2hと、前記水平部2hの両端から垂直に立ち上がる2つの垂直部2vとを有している。なお、図3において、図2と同一部分には同一符号を付しており、図4以降の図面においても同様である。
【0040】
2つの前記垂直部2vの上部同士を連結するように、スライドレール3が水平に支架されている。前記スライドレール3には、キャリッジ4が、前記スライドレール3の長手方向(主走査方向)に沿って摺動自在に備えられている。このキャリッジ4の下面には、5色のインクを吐出させるために色毎に配設された5個の圧電式のインクジェットヘッド(インク吐出手段)5が設けられている。
【0041】
2つの前記垂直部2vの上部には、それぞれ、プーリ6、7が支持され、一方のプーリ6には、前記垂直部2vによって支持されるモータ8のモータ軸が連結されている。両プーリ6、7の間には無端ベルト9が架け渡されており、前記キャリッジ4は、この無端ベルト9の適宜の部分に固定される。
【0042】
このような構成により、一方のプーリ6が、前記モータ8の駆動により正逆回転されると、それに伴って前記キャリッジ4が前記スライドレール3の長手方向(主走査方向)に沿って直線往復駆動され、この結果、前記インクジェットヘッド5の往復移動が行われる。
【0043】
2つの前記垂直部2vには、それぞれ、インクタンク20を着脱可能に搭載する搭載部10が形成されている。2つの前記搭載部10は、一方が2色の、他方が3色のインクタンク20を装着できるようになっており、このインクタンク20の内部に形成されているインク袋(図示せず)が可撓性チューブ28によって、前記インクジェットヘッド5のそれぞれの上部に位置する5つのサブタンク30と接続される。なお、5つの前記サブタンク30は、後述するように前記インクジェットヘッド5とそれぞれ連通しているため、前記インクタンク20から前記インクジェットヘッド5へとインクが供給される。
【0044】
前記フレーム2の前記水平部2hの上には、スライド機構11が設置され、このスライド機構11の上にプラテン(支持体)12が支持される。このプラテン12には、布帛を、その印刷部分が上面に来るように位置決めして、且つ、ピンと張った皺のない平坦な状態でセットできるように固定フレーム(固定手段)15が設けられている。なお、本例のインクジェットプリンタ1は、縫製済みTシャツにインクジェット記録を行うものであるが、布帛全般に適用することができる。また、本例のインクジェットプリンタ1では、前記プラテン12の数は、1つである。ただし、本発明において、前記プラテンの数は1つに限定されず、必要に応じて増やすことができる。例えば、前記プラテンを2つ有するインクジェットプリンタを用いれば、一方のプラテンに固定したTシャツに画像を印刷している間に、他方のプラテンへのTシャツの固定作業を行うことができ、作業効率を高めることができる。
【0045】
また、前記プラテン12を図3の紙面垂直方向(スライド機構11におけるスライド方向であって、前記インクジェットプリンタ1の副走査方向)に往復移動させるために、プラテン搬送機構が配設されている(図示せず)。前記プラテン搬送機構には、例えば、ラック、ピニオン機構や、無端ベルトを用いた機構等を適用できる。
【0046】
図4に、プラテンに布帛をセットした状態を示す。図4(a)は、平面図であり、図4(b)は、図4(a)のA−A方向から見た断面図である。図示のように、前記プラテン12は、平面視で前記キャリッジ4の往復移動方向と直交する方向に長手方向を有する長方形状とされるとともに、Tシャツ100を支持する支持面16を有している。また、図4(b)の紙面垂直方向奥側の前記プラテン12の下面は、それと対向する位置のスライド機構11と支持部材17とによって連結されている。また、前記プラテン12の長手方向に平行な両端上部が円弧形状とされている。
【0047】
また、前記固定フレーム15は、L字形状の断面を有するフレームが前記プラテン12の支持面16の4辺を覆うように構成されている。前記固定フレーム15の前記プラテン12の支持面16と対向する面には、前記プラテン12の支持面16の面積より若干小さい開口面積を有する開口部15aが形成されている。また、前記プラテン12の側面と対向する前記固定フレーム15の内面には、ゴム製の滑り止め部材19が設けられている。この滑り止め部材19が設けられていることで、前記プラテン12に前記Tシャツ100をセットした場合において、前記プラテン12の支持面16の長手方向(前記Tシャツ100の縦方向)と短手方向(前記Tシャツ100の横方向)の2方向に前記Tシャツ100を引き伸ばした状態でセットすることが可能となり、前記Tシャツ100を皺のない状態で保持することができる。なお、前記プラテン12に前記Tシャツ100をセットする際は、前記Tシャツ100の裾側から前記プラテン12の支持面16を覆うようにして被せ、前記固定フレーム15で固定する。また、前記固定フレーム15は、前記プラテン12の図4(b)の紙面垂直方向奥側の端部に設けられた回動部(図示せず)によって回動可能に設けられており、前記Tシャツ100を前記プラテン12に被せた後に前記固定フレーム15を前記プラテン12に嵌合するように回動させて、前記Tシャツ100を前記プラテン12と前記固定フレーム15とで挟むようにして固定している。
【0048】
また、前記インクジェットプリンタ1は、カバー13を備えており、前記インクジェットヘッド5や前記スライド機構11等を覆って保護できるようになっている。なお、図3においては、前記カバー13の内部の様子を詳細に示すために、前記カバー13を二点鎖線で描いて透視的に図示している。前記カバー13の前面の右上部には、液晶パネルや操作ボタンを備える操作パネル14が配設されている。
【0049】
図3に示す5つのインクジェットヘッド5は、5色のインク(ホワイト、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック)に対応して、前記キャリッジ4の往復移動方向に沿って並設されており、それぞれに対応した前記インクタンク20と、前記可撓性チューブ28および前記サブタンク30を介して連通されている。インクジェットヘッドにインクを供給するための構成としては、例えば、従来公知のものを使用できる(例えば、特開2004−291461号公報参照)。
【0050】
このように、前記インクタンク20と前記サブタンク30とを前記可撓性チューブ28で連結することで、前記インクタンク20内のインクを前記サブタンク30に供給することができるとともに、前記インクタンク20を取り換えやすい位置に設けることが可能となる。このため、前記インクタンク20内のインクが無くなった場合に簡単に前記インクタンク20を交換することができる。
【0051】
前記インクジェットヘッド5は、その下面が前記プラテン12の支持面16との間にわずかな隙間を形成するように配置されており、前記Tシャツ100に画像を印刷する際に前記プラテン12にセットされた前記Tシャツ100の印刷部分がその隙間に搬送される。この構成で、前記インクジェットヘッド5が前記キャリッジ4によって往復移動されつつ前記Tシャツ100上に前記インクジェットヘッド5の底面に多数並べて形成された微小径の吐出ノズルから各色のインクを吐出することで、所望のカラー画像を前記Tシャツ100に印刷できるようになっている。
【0052】
図2に示す印刷制御装置70は、例えば、汎用のパーソナルコンピュータ(PC)を用いて構成され、本体71と、表示部72としてのディスプレイと、操作部75としてのキーボード73およびマウス(ポインティングデバイス)74とを備えている。
【0053】
図5は、図2に示す印刷制御装置70の構成を示したブロック図である。前記印刷制御装置70は、CPU(Central Processing Unit)81、ROM(Read Only Memory)82、RAM(Random Access Memory)83、HD(Hard Disk)84、操作部75、表示部72、インターフェース(I/F)85を備えており、これらは、バスを介して相互に接続されている。前記CPU81、前記ROM82、前記RAM83および前記HD84は、前記印刷制御装置70の本体71内に組み込まれており、前記操作部75は、前記キーボード73および前記マウス74によって構成されている。
【0054】
前記HD84には、前記印刷制御装置70の動作を制御するために用いられる各種プログラムが格納されている。また、前記HD84には、ソフトウェアによって作成された種々の画像データやTシャツ等の布帛の種類毎の各種データが格納されている。前記CPU81は、前記操作部75によって入力された信号や、前記ROM82、前記RAM83および前記HD84内の各種プログラムやデータに基づいて各種演算や処理を行う。そして、前記インターフェース85を介して、前記インクジェットプリンタ1にデータ等を送信する。前記RAM83は、読み出し・書き込み可能な揮発性記憶装置であって、前記CPU81での各種演算結果等が記憶される。前記インターフェース85は、前記インクジェットプリンタ1のインターフェースと接続されており、前記印刷制御装置70と前記インクジェットプリンタ1との間の通信を可能にするものである。
【0055】
図6は、前記印刷制御装置70の機能ブロック図である。図示のように、前記印刷制御装置70は、画像データ取得部90と、画像データ記憶部91とを備えている。本例では、前記画像データ取得部90は、前記CPU81によって実現され、前記画像データ記憶部91は、前記RAM83または前記HD84によって構成される。
【0056】
前記画像データ取得部90は、画像データを作成するための周知の機能を備えたものであり、オペレータが前記キーボード73や前記マウス74を通じて入力した信号に基づいて、種々の画像データを作成する。前記画像データ記憶部91は、CD−ROM、FD、MO等のリムーバル型記憶媒体やインターネット等から収集した画像データや前記画像データ取得部90により取得された画像データを記憶する。
【0057】
本例のインクジェット記録装置を用いた前記Tシャツ100への所望画像の印刷は、例えば、つぎのようにして実施できる。まず、前記PCのキーボード73およびマウス74を通じて、前記Tシャツ100に印刷したい画像データを取得する。前記画像データの取得においては、前記PCにインストールされたソフトウェアを使用して画像データを作成するか、予め前記HD84に記憶された画像データを選択する。
【0058】
つぎに、前記Tシャツ100を、前記プラテン12に固定する。すなわち、前記Tシャツ100を、前記プラテン12に裾から被せ、前記プラテン12の支持面16に沿わせて皺のない状態にしつつ前記固定フレーム15で固定する。
【0059】
ついで、オペレータが印刷の実施を指示すると、前記画像データが前記インクジェットプリンタ1に前記インターフェース85を介して送信され、前記画像データに基づいて前記インクジェットヘッド5からインクが吐出されて、前記プラテン12に固定された前記Tシャツ100への印刷が実施される。
【0060】
前記インクジェット記録装置は、さらに、処理剤収容部および処理剤吐出手段を含んでもよい。前記処理剤収容部には、本発明の処理剤が収容される。本発明によれば、布帛を支持する支持面を有する支持体と、前記支持面上に布帛を固定するための固定手段と、インク収容部と、インク吐出手段とを含むインクジェット記録装置であって、さらに、処理剤収容部および処理剤吐出手段を含み、前記処理剤収容部に、本発明の処理剤が収容されており、前記処理剤収容部に収容された処理剤を前記処理剤吐出手段によって前記支持面上の布帛に吐出し、前記インク収容部に収容されたインクを前記インク吐出手段によって前記処理剤の吐出部に吐出することを特徴とするインクジェット記録装置が提供される。前記処理剤吐出手段に本発明の処理剤を供給するための構成は、前記インクジェットヘッドにインクを供給するための構成と同様とすればよい。
【0061】
本発明により提供されるインクジェット記録装置は、さらに、加熱手段を含んでもよい。前記加熱手段は、前記インクジェット記録装置内で後述の熱定着工程を実施できるものであればいかなる手段であってもよい。前記加熱手段は、例えば、ホットプレス手段等の布帛の前記印刷部分に加熱と共に加圧を施すことができる手段であることが好ましい。なお、前記加熱手段とは別に、加圧手段を設けてもよい。前記加熱および前記加圧は、いずれを先におこなってもよく、両者を同時に行ってもよい。
【0062】
前記画像印刷工程は、前記処理剤の塗布部に第1のインクを用いてベース部を形成するベース部形成工程と、前記ベース部に第2のインクを用いて画像を印刷する画像印刷工程とを有することが好ましい。前記第1のインクとして、ホワイトインクを用い、前記第2のインクとして、カラーインクを用いることが好ましい。前記ホワイトインクとしては、例えば、酸化チタン等のホワイト顔料を含むホワイトインクを使用できる。この態様によれば、地色の濃い布帛に対しても、発色性に優れたカラー画像を形成することが可能となる。なお、例えば、前記インクジェット記録装置を地色の薄い布帛への画像の形成に限定して用いる場合には、前記インクジェット記録装置は、ホワイトインク用のインクタンクおよびインクジェットヘッドを有しなくともよい。
【0063】
本例では、前記画像印刷工程をインクジェット記録により実施するが、本発明は、これに限定されない。前記画像印刷工程は、従来公知の装置または手段を用いて、スクリーン印刷、グラビア印刷、ステンシル等により実施してもよい。
【0064】
つぎに、前記熱定着工程は、布帛の前記印刷部分に熱処理を施すことで、前記インクを前記布帛に熱定着させる工程である。前記熱定着工程は、前記熱処理工程と同様の装置、条件にて実施できる。また、前記熱定着工程は、例えば、特開2009−209493号公報に記載の装置を用いて実施することもできる。この装置によれば、布帛に対して180℃の加熱と共に加圧を施すことができる。本発明の画像形成方法では、pHが5.5〜9に調整された本発明の処理剤を用いているため、前記熱定着工程において、前記布帛に変色を生じることがない。
【0065】
つぎに、本発明の処理剤の製造方法について説明する。本発明の処理剤は、例えば、前記樹脂エマルジョンと金属塩とを混合する第1の工程と、前記第1の工程で得られた混合物中に、前記金属塩がイオン化している状態で、pH調整剤を添加し、前記混合物のpHを5.5〜9に調整する第2の工程とを含む製造方法によって製造可能である。また、本発明の処理剤は、例えば、樹脂エマルジョンとpH調整剤とを混合する第1の工程と、前記第1の工程で得られた混合物に、金属塩を添加し、前記混合物のpHを5.5〜9に調整する第2の工程とを含む製造方法によっても製造可能である。ただし、これらの製造方法は例示に過ぎず、本発明の処理剤は、いかなる方法で製造されたものであってもよい。本発明の処理剤の製造方法において、前記樹脂エマルジョンの種類および含有量、前記金属塩の種類および含有量、前記pH調整剤の種類および含有量等の条件は、前述の本発明の処理剤と同様とすればよい。
【0066】
つぎに、本発明の画像を有する布帛の製造方法および画像を有する布帛について説明する。本発明の画像を有する布帛の製造方法は、本発明の画像形成方法により布帛に画像を形成する工程を含むことを特徴とする。また、本発明の画像を有する布帛は、本発明の画像を有する布帛の製造方法により製造されることを特徴とする。本発明の画像を有する布帛の製造には、pHが5.5〜9に調整された本発明の処理剤が用いられるため、変色のない布帛を得ることができる。
【実施例】
【0067】
つぎに、本発明の実施例について比較例と併せて説明する。なお、本発明は、下記の実施例および比較例により限定および制限されない。
【0068】
(処理剤の調製)
処理剤組成(表1)における各成分を、均一に混合して、処理剤1〜14を得た。
【0069】
【表1】

【0070】
(水性カラーインクの調製)
後述の4種の顔料20重量%を、それぞれ、ジエチレングリコール10重量%およびイオン交換水70重量%に、分散機(サンドグラインダー、五十嵐機械社製)を用いて30分以上撹拌分散させることにより顔料分散液を得た。前記顔料分散液に、後述の水性カラーインク組成となるように、水溶性樹脂エマルジョン(アクリル系樹脂、製品名ジョンクリル1674(固形分濃度45%)、ジョンソンポリマー社製)、ポリエチレングリコール(PEG)(分子量400)およびジエチレングリコール(DEG)(分子量106)を添加して5分間撹拌し、これを3μmメンブランフィルターまたは5μmの金属フィルターで加圧濾過することで、水性イエローインク、水性マゼンタインク、水性シアンインクおよび水性ブラックインクを得た。
【0071】
(顔料)
水性イエローインク:C.I.ピグメントイエロー74
水性マゼンタインク:C.I.ピグメントレッド122
水性シアンインク:C.I.ピグメントブルー15:3
水性ブラックインク:C .I.ピグメントブラック7
【0072】
水性カラーインク組成
顔料 4重量%
水溶性樹脂エマルジョン 8重量%(固形分濃度)
ポリエチレングリコール(PEG) 5重量%
ジエチレングリコール(DEG) 15重量%
イオン交換水 残部
(ただし、水性ブラックインクの顔料濃度は、8重量%)
【0073】
(水性ホワイトインクの調製)
〔高分子分散剤溶液の調製〕
<高分子分散剤溶液1の調製>
ガラス転移温度40℃、質量平均分子量10,000、酸価150mgKOH/gの固形アクリル酸/n−ブチルアクリレート/ベンジルメタクリレート/スチレン共重合体25質量部を、水酸化ナトリウム3.2質量部と水71.8質量部との混合溶液に溶解させ、樹脂固形分25質量%の高分子分散剤溶液1を得た。
【0074】
〔ホワイトインクベースの調製〕
<ホワイトインクベース1の調製>
36質量部の前記高分子分散剤溶液1に、水19質量部を加え混合し、二酸化チタン分散用樹脂ワニスを調製し、さらに二酸化チタン(CR−90、アルミナシリカ処理(アルミナ/シリカ≧0.5)、平均一次粒子径0.25μm、吸油量21mL/100g、石原産業(株)製)45質量部を加えて撹拌混合後、湿式サーキュレーションミルで練肉を行ない、ホワイトインクベース1(二酸化チタン/分散剤=1/0.2質量比)を得た。
【0075】
〔水性ホワイトインクの調製〕
<水性ホワイトインクの調製>
33.3質量部の前記ホワイトインクベース1に、ガラス転移温度−38℃のアニオン性アクリル系樹脂エマルジョン(商品名:モビニール952、ニチゴー・モビニール(株)製、固形分45質量%)40質量部、グリセリン15質量部、アセチレノールE100(アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物、川研ファインケミカル(株)製)1質量部、水10.7質量部を撹拌混合して水性ホワイトインクを得た。
【0076】
[実施例1]
前記処理剤1、前記水性ホワイトインクおよび前記水性カラーインクを用いて、4種のTシャツ(GILDAN社製の商品名:Ultra Cotton(ライトブルーおよびピンク)、Hanes社製の商品名:BEEFY(杢ブルーおよびサーモンピンク))に下記工程によりカラー画像を形成した。
【0077】
(処理工程)
前記処理剤1を純水を用いて重量換算で2倍に希釈し、スプレー方式で前記Tシャツの画像形成面の370mm×420mm〜420mm×470mmの範囲に対して均一に10.0g〜30.0g塗布した。各実施例および比較例における前記処理剤1の単位面積あたりの塗布量は、表2に示すとおりである。
【0078】
(熱処理工程)
前記処理工程後のTシャツを、180℃に設定したホットプレス機でホットプレスすることで、前記処理剤1の塗布部に熱処理を施し、乾燥させると共に、前記塗布部を圧縮した。
【0079】
(画像印刷工程)
前記熱処理工程後のTシャツに、図2に示すインクジェット記録装置を用いて前記水性ホワイトインクを吐出することで、前記処理剤1の塗布部にベース部を形成した。ついで、前記ベース部形成後のTシャツに、図2に示すインクジェット記録装置を用いて前記水性カラーインクを吐出することで、前記ベース部にカラー画像を印刷した。
【0080】
(熱定着工程)
前記画像印刷工程後のTシャツを、180℃に設定したホットプレス機でホットプレスすることで、前記Tシャツの印刷部分に熱処理を施し、前記水性ホワイトインクおよび前記水性カラーインクを前記Tシャツに熱定着させると共に、前記印刷部分を加圧した。
【0081】
[実施例2〜11]
処理剤2〜11を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、前記Tシャツにカラー画像を形成した。
【0082】
[比較例1]
処理剤を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして、前記Tシャツにカラー画像を形成した。
【0083】
[比較例2〜4]
処理剤12〜14を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、前記Tシャツにカラー画像を形成した。
【0084】
実施例および比較例における(a)変色評価、(b)保存安定性評価、(c)洗濯堅牢性評価および(d)総合評価を、下記方法により実施した。
【0085】
(a)変色評価
前記熱処理工程後の前記Tシャツの処理剤の塗布部と非塗布部との色差ΔEにより、下記評価基準に従って評価した。前記色差ΔEの測定には、X−Rite社製の分光測色濃度計X−Rite939(光源D65/10)を用いた。
【0086】
変色評価 評価基準
A:前記色差ΔEが、3.50未満
B:前記色差ΔEが、3.50以上6.00未満
C:前記色差ΔEが、6.00以上
【0087】
(b)保存安定性評価
実施例および比較例で用いた処理剤を60℃の環境下で2週間保存した後、処理剤の保存安定性を、下記評価基準に従って評価した。
【0088】
保存安定性評価 評価基準
G :保存前後の処理剤の粘度、表面張力およびpHの変化が、いずれも10%以内
NG:保存前後の処理剤の粘度、表面張力およびpHの変化のいずれかが、10%を超えた
【0089】
(c)洗濯堅牢性評価
AATCC test Method 135−2004 IIIAに従い、カラー画像形成後のTシャツを5回洗濯し、下記評価基準に従って洗濯堅牢性を評価した。
【0090】
洗濯堅牢性評価 評価基準
G :4種全てのTシャツについて、日本染色検定協会の等級で3級以上
NG:4種のTシャツのいずれかにおいて、日本染色検定協会の等級で3級未満
【0091】
(d)総合評価
実施例および比較例について、前記(a)〜(c)の結果から、下記評価基準に従って評価した。
【0092】
総合評価 評価基準
G :前記(a)〜(c)の評価結果が、A、BまたはGであり、CまたはNGは無かった
NG:前記(a)〜(c)の評価結果のいずれかに、CまたはNGがあった
【0093】
実施例および比較例に用いた処理剤の種類、塗布量、pHおよび評価結果を、表2に示す。
【0094】
【表2】

【0095】
表2に示すとおり、pHが5.5〜9である処理剤を用いた実施例1〜11では、変色、保存安定性および洗濯堅牢性の全ての評価結果が、良好であった。一方、処理剤を用いなかった比較例1では、洗濯堅牢性評価の結果が劣っていた。また、pHが5.5未満または9を超える処理剤を用いた比較例2〜4では、変色評価の結果が劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0096】
以上のように、本発明によれば、変色を生じさせることなく、布帛に画像を形成可能である。本発明の処理剤、画像形成方法、処理剤の製造方法、画像を有する布帛の製造方法および画像を有する布帛は、各種印刷に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0097】
1 インクジェットプリンタ
4 キャリッジ
5 インクジェットヘッド(インク吐出手段)
12 プラテン(支持体)
15 固定フレーム
16 支持面
70 印刷制御装置
71 本体
72 表示部
73 キーボード
74 マウス
90 画像データ取得部
91 画像データ記憶部
100 Tシャツ
110、120 塗布部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
布帛への画像の形成に用いられる処理剤であって、
樹脂エマルジョンおよび金属塩を含み、
前記処理剤のpHが、5.5〜9であることを特徴とする処理剤。
【請求項2】
さらに、pH調整剤を含み、前記pH調整剤が、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、2族〜12族元素の水酸化物、2族〜12族元素の炭酸塩およびアミン類からなる群から選択される少なくとも一つであることを特徴とする請求項1記載の処理剤。
【請求項3】
前記pH調整剤が、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、トリエタノールアミンおよびN−ブチルジエタノールアミンからなる群から選択される少なくとも一つである請求項1または2記載の処理剤。
【請求項4】
前記樹脂エマルジョンが、アクリル系樹脂エマルジョンであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の処理剤。
【請求項5】
前記金属塩が、硝酸カルシウムであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の処理剤。
【請求項6】
布帛に画像を形成する画像形成方法であって、
前記布帛に処理剤を塗布する処理工程と、
前記処理剤の塗布部にインクを用いて画像を印刷する画像印刷工程と、
前記インクを前記布帛に熱定着させる熱定着工程とを有し、
前記処理工程において、前記処理剤として、請求項1〜5のいずれか一項に記載の処理剤を用いることを特徴とする画像形成方法。
【請求項7】
前記画像印刷工程において、前記インクとして、顔料を含むインクを用いることを特徴とする請求項6記載の画像形成方法。
【請求項8】
さらに、前記処理工程後、下記工程aおよび下記工程bの少なくとも一方の工程を有することを特徴とする請求項6または7記載の画像形成方法。

工程a:前記処理剤の塗布部に熱処理を施し、乾燥させる熱処理工程
工程b:前記処理剤の塗布部を圧縮する圧縮処理工程

【請求項9】
前記画像印刷工程に先立ち、前記処理工程を実施することを特徴とする請求項6〜8のいずれか一項に記載の画像形成方法。
【請求項10】
前記画像印刷工程を、インクジェット記録により実施することを特徴とする請求項6〜9のいずれか一項に記載の画像形成方法。
【請求項11】
前記画像印刷工程が、
前記処理剤の塗布部に第1のインクを用いてベース部を形成するベース部形成工程と、
前記ベース部に第2のインクを用いて画像を印刷する画像印刷工程とを有することを特徴とする請求項6〜10のいずれか一項に記載の画像形成方法。
【請求項12】
前記第1のインクとして、ホワイトインクを用いることを特徴とする請求項11記載の画像形成方法。
【請求項13】
前記第2のインクとして、カラーインクを用いることを特徴とする請求項11または12記載の画像形成方法。
【請求項14】
布帛への画像の形成に用いられる処理剤の製造方法であって、
樹脂エマルジョンと金属塩とを混合する第1の工程と、
前記第1の工程で得られた混合物中に、前記金属塩がイオン化している状態で、pH調整剤を添加し、前記混合物のpHを5.5〜9に調整する第2の工程とを含むことを特徴とする処理剤の製造方法。
【請求項15】
布帛への画像の形成に用いられる処理剤の製造方法であって、
樹脂エマルジョンとpH調整剤とを混合する第1の工程と、
前記第1の工程で得られた混合物に、金属塩を添加し、前記混合物のpHを5.5〜9に調整する第2の工程とを含むことを特徴とする処理剤の製造方法。
【請求項16】
画像を有する布帛の製造方法であって、
請求項6〜13のいずれか一項に記載の画像形成方法により前記布帛に画像を形成する工程を有することを特徴とする画像を有する布帛の製造方法。
【請求項17】
請求項16記載の製造方法により製造されることを特徴とする画像を有する布帛。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−207338(P2012−207338A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−74123(P2011−74123)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】