説明

処理木材製造方法、及びこの処理木材を用いた木質板状建材

【課題】均質な処理木材を製造し得る処理木材製造方法、及びこの処理木材を用いた木質板状建材を提供する。
【解決手段】蒸気釜20内において被処理木材1を加熱処理して処理木材1Aを製造する方法であって、前記蒸気釜内に、高圧高温水蒸気を間欠的に供給することで該蒸気釜内を急昇圧させる状態を繰り返し生じさせて、前記被処理木材を高圧高温水蒸気で加熱処理するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気釜内において被処理木材を加熱処理する処理木材製造方法、及びこの処理木材を用いた木質板状建材に関する。
【背景技術】
【0002】
木材の木質感、意匠性等を高めるために、従来より、蒸気釜内に収容させた木材に対して高圧高温水蒸気を供給し、加熱処理することにより、木材を熱着色することがなされている。
例えば、下記特許文献1では、オートクレーブの中に木材を入れて密閉し、このオートクレーブ中に高圧水蒸気を供給して、木材を加熱着色処理し、さらにオートクレーブ内でプレスして圧密化等の処理を施した後、その木材をスライスして得た突板を、板状基材に積層接着して木質化粧材を製造する方法が提案されている。このような製法によれば、未処理のものに比べ、淡褐色から黒褐色に着色され、表面硬度が著しく向上し、さらに木目の詰まった高級突板となる、と説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−329018号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1のように、オートクレーブ(蒸気釜)内に高圧高温水蒸気を供給して被処理木材を加熱処理する場合、被処理木材の表面に水蒸気が接触した際に、水蒸気の熱エネルギーが被処理木材に奪われるとともに、その表面と水蒸気との温度差により被処理木材の表面には結露が発生する。
このような状態で高圧高温水蒸気を供給し続ければ、結露した水分により被処理木材の表面には次第に水溜まりが形成され、これにより、被処理木材内部への水蒸気の浸透が妨げられる。
この結果、被処理木材内部が十分に加熱処理されず、被処理木材の均質化が阻害され、加熱処理後の処理木材の内部において着色不足や耐光性不足等が生じる問題があった。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、均質な処理木材を製造し得る処理木材製造方法、及びこの処理木材を用いた木質板状建材を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明に係る処理木材製造方法は、蒸気釜内において被処理木材を加熱処理して処理木材を製造する方法であって、前記蒸気釜内に、高圧高温水蒸気を間欠的に供給することで該蒸気釜内を急昇圧させる状態を繰り返し生じさせて、前記被処理木材を高圧高温水蒸気で加熱処理することを特徴とする。
【0007】
上記構成とされた本発明では、高圧高温水蒸気を間欠的に供給して、蒸気釜内を急昇圧させる状態を生じさせることで、被処理木材の表面において結露した水分を被処理木材の表面から内部に浸透させることができるとともに、その新たな水蒸気の供給により被処理木材を昇温させることができる。これが繰り返される結果、被処理木材は、その内部まで十分に加熱処理がなされるので、均質な処理木材を製造することができる。
このような本発明によれば、加熱処理後の処理木材は、その内部まで十分に熱着色されるとともに、耐光性が付与される。この高圧高温水蒸気の加熱処理による熱着色、耐光性の付与は、木材組成成分の主成分であるセルロース、ヘミセルロース及びリグニンのうち、ヘミセルロースが選択的に熱分解し、変質することによりなされる。すなわち、このヘミセルロースの熱分解による変質によって、耐光性の高い重合性着色物が木材繊維細胞組織の全体に均一に生成されることで、細胞組織の粗密により木目が強調されて熱着色されるとともに、耐光性が付与される。この際、加熱処理後の処理木材の表面には、僅かにリグニンに含まれるフェノール類似の低分子樹脂が変質した耐光性の低い酸化着色物が副生成して析出する場合があるが、このような場合は、表面析出物を除去するようにしてもよい。
【0008】
本発明においては、前記被処理木材の厚さを180mm以下とし、厚さ方向に桟部材を介在させて積層させた状態で、前記加熱処理を実行するようにしてもよい。
このような構成とすれば、前記被処理木材の厚さを180mm以下とすることと相俟って、桟部材により、被処理木材間には、水蒸気の供給経路、及び被処理木材の周囲に溜まる結露水の排出経路が形成されるので、被処理木材への水蒸気の浸透性をより効率的に向上させることができ、より効率的に加熱処理を施すことができる。
【0009】
また、本発明においては、高圧高温水蒸気の供給開閉弁を、間欠的に開放させることで、前記高圧高温水蒸気を間欠的に供給するようにしてもよい。
このような構成とすれば、製造装置(蒸気釜)の低コスト化が図れるとともに、簡易な制御により同製造方法を実行することができる。
【0010】
また、前記目的を達成するために、本発明に係る木質板状建材は、前記いずれかの本発明に係る処理木材製造方法により製造された処理木材をスライスして作製されたスライス単板を、基材の表面に積層してなることを特徴とする。
このような構成とすれば、上述のように、上記処理木材は、内部まで十分に熱着色が施されるので、スライスして作製されたスライス単板に、着色不足による色ムラ等が生じず、見栄えが良く、また、耐光性に優れた木質板状建材となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る処理木材製造方法によれば、上述のような構成としたことで、均質な処理木材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】(a)は、本発明に係る処理木材製造方法の一実施形態について説明するための概略フローチャート、(b)は、同製造方法の昇温昇圧工程実行時における圧力変動の一例を模式的に示すグラフ、(c)は、同製造方法の保持工程実行時における圧力変動の一例を模式的に示すグラフである。
【図2】(a)は、同製造方法に用いられる加熱処理装置のシステム構成の一例を模式的に示す概略側面図、(b)は、同加熱処理装置で加熱処理される被処理木材を積層した状態を模式的に示す概略斜視図、(c)は、同加熱処理装置に被処理木材を収納した状態を模式的に示す概略正面図である。
【図3】(a)は、同製造方法により製造された処理木材の実施例の一例と比較例とを評価試験の結果とともに示す表、(b)は、同製造方法により製造された処理木材を模式的に示す概略斜視図、(c)は、同製造方法により製造された処理木材を用いた木質板状建材を模式的に示す概略拡大縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
本実施形態では、加熱処理対象としての被処理木材を、図2(b)に示すように、角柱状に加工されたフリッチ材1とし、これを図2(a)に示す加熱処理装置としての高圧高温水蒸気釜(以下、蒸気釜と略す。)20内に収容して加熱処理を施すようにしている。
まず、本実施形態に係る処理木材製造方法に用いられる加熱処理装置の一例の概略構成について図2に基づいて説明する。
【0014】
蒸気釜20は、図2(a)に示すように、横長円筒形状の容器本体21の開口を開閉蓋22で閉止して構成され、この開閉蓋22は、フェルール継手やクランプ継手、ボルトナット機構等の緊締手段29により、容器本体21を気密的に封止し、かつ容器本体21に対して着脱自在または開閉自在とされている。尚、図2(c)では、開閉蓋22を取り外した状態を示している。
これら容器本体21及び開閉蓋22は、被処理木材としてのフリッチ材1(図2(c)参照)への金属汚染を防止する観点からステンレス等の汚染性が少なく、かつ耐圧性のある金属材料で製されたものとしてもよい。
【0015】
この容器本体21の内部には、図2(c)に示すように、容器本体21の両側部に回転自在に支持されたローラー部材21aが、開口部側から奥側に向けて複数本、設けられている。このローラー部材21aには、被処理物が載置される載置プレート8が配置され、フリッチ材1の出し入れが容易に可能となっている。
容器本体21の下部には、高圧高温水蒸気供給源3からの高圧高温水蒸気を蒸気釜20内に供給する水蒸気供給管23と、加圧水供給源4からの加圧水を蒸気釜20内に供給する加圧水供給管24と、液化した水蒸気等を蒸気釜20内から排出するドレン管27と、排水管28とが接続されている。
【0016】
また、容器本体21の上部には、加圧エアー供給源5からの加圧エアーを蒸気釜20内に供給する加圧エアー管25と、蒸気釜20内からの蒸気乃至はガスを排出する排気管26とが接続されている。
高圧高温水蒸気供給源3としては、高圧ボイラーなどを採用するようにしてもよい。
加圧水供給源4としては、高圧水タンクや高圧ポンプなどを採用するようにしてもよい。
加圧エアー供給源5としては、エアーコンプレッサーなどを採用するようにしてもよい。
上記した各配管23,24,25,26,27,28には、それぞれの管路途中に、開閉バルブ23a,24a,25a,26a,27a,28aが設けられている。
このうち、水蒸気供給管23に設けられた水蒸気供給バルブ23aは、本実施形態では、開閉弁(ON/OFF弁)としている。
また、ドレン管27には、管路途中の適所に、フィルタやスチームトラップ等が設けられている。
【0017】
また、容器本体21には、蒸気釜20内の温度を検出する温度検出手段としての温度センサー31と、蒸気釜20内の圧力を検出する圧力検出手段としての圧力センサー32とが設けられている。尚、この圧力センサー32は、容器本体21ではなく、水蒸気供給管23の水蒸気供給バルブ23aの下流側(容器本体21側)に設けるようにしてもよい。
上記した各開閉バルブ23a,24a,25a,26a,27a,28a、及び各センサー31,32は、信号線等を介して制御盤30に接続されている。
この制御盤30には、当該蒸気釜20の上記した各機器を制御する制御部としてのCPU(Central Processing Unit)や、このCPUに信号線を介して接続され、各種設定などを設定したり、表示したりするための表示操作部、この表示操作部の操作により設定された設定条件や後記する処理木材製造方法の一例を実行するための制御プログラムなどの各種プログラム、予め設定された各種動作条件等が格納される記憶部などが設けられている。
尚、蒸気釜20の具体的構成は、図示したものに限られず、高圧高温水蒸気による被処理木材の加熱処理が可能な構成であれば、どのようなものでもよい。
【0018】
次に、本実施形態に係る処理木材製造方法の一例について、図1及び図2に基づいて説明する。
<木材配置工程>
まず、図2(b)に示すように、被処理木材としての複数(図例では、12本)のフリッチ材1,1・・・を、横方向に並べるとともに、高さ方向(厚さ方向)に桟部材6を介在させて積層したものを、図2(c)に示すように、桟部材6を介在させて載置プレート8に載置し、蒸気釜20内に配置する。
【0019】
この加熱処理対象としての被処理木材(本例では、フリッチ材1)は、乾燥処理をしていない、生材や煮沸または蒸煮木材等の相当の水分を含んだものとすることが高圧高温水蒸気の内部への浸透性の観点から好ましく、その含水率が、30%(ドライベース)以上程度の生材としてもよい。
また、その原料樹種としては、ブナやナラ、スギ、マカバ、ビーチ、オーク、チーク、ハードメープル、チェリー、ウォールナット、ホワイトアッシュ、マホガニー、その他の種々の樹種が挙げられる。ブナ材等の散孔材は、ナラ材等の環孔材に比べて、木目を強調することが困難な樹種であるが、このような散孔材にも、高圧高温水蒸気による加熱処理を施すことで、熱着色され、木目を強調することができる。
【0020】
フリッチ材1は、角柱状に加工されており、本実施形態では、図2(c)に示すように、積層方向の厚さTを、180mm以下のものとしている。
このように、被処理木材を、縦(厚さ)、横(幅)、及び長さのうちの少なくともいずれか一つ(本実施形態では、厚さT)を、180mm以下のものとすることで、後記する加熱処理工程及び冷却工程において、木材の表面と心部との温度上昇差(温度下降差)を効率的に低減でき、木材の表面割れや強度劣化等を効率的に低減できるとともに、効率的な加熱処理及び冷却を実行することができる。
【0021】
また、後記する冷却工程において加圧水を供給して水没させる際に、蒸気釜20内に配置した各フリッチ材1が浮き上がらないよう、適宜の浮き上がり防止手段7を配置する。
この浮き上がり防止手段7としては、図例では、蒸気釜20内に配置されたフリッチ材1に見合った重し7としているが、適宜重量とされた金属製の網籠等により、浮き上がり防止手段7を構成するようにしてもよい。または、最上段のフリッチ材1(または、その上方に配された桟部材6)と、載置プレート8とを、金属製のワイヤーロープなどを巻回して固定保持するなど、フリッチ材1の浮き上がりを防止し得るものであればどのようなものでもよい。
【0022】
フリッチ材1間に介在させる桟部材6としては、蒸気釜20と同様のステンレスなどの金属材料から製造されたもの、または、木質系材料からなるものとしてもよい。このような桟部材6は、加熱処理対象としての木材(本例では、フリッチ材1)のサイズに応じて、設けないようにしてもよいが、フリッチ材1間に介在させることで、高圧高温水蒸気との接触表面積が拡大し、高圧高温水蒸気を木材内部に比較的、迅速に浸透させることができ、効率的な加熱処理を実行することができる。
【0023】
また、この桟部材6の厚さ寸法は、厚さ方向に積層されたフリッチ材1間に、高圧高温水蒸気の供給経路、及びフリッチ材1の周囲に溜まる結露水の排出経路としての隙間が形成されるように、3.0mm以上程度の厚さのものとすることが好ましい。また、桟部材6は、フリッチ材1との接触面に、閉ループ状の接触部位が形成されないような棒状乃至は板状の部材とすることが好ましい。つまり、リング形状やメッシュ形状のもののように、フリッチ材1の表面に結露水の溜まる堰が形成されるようなものではなく、図例のように、フリッチ材1の幅方向(または長さ方向、斜め方向)に通し状に配置されるような形状のものとすることが好ましい。また、このような棒状乃至は板状の桟部材とした場合は、幅寸法が180mm以下のものとすることが好ましい。
【0024】
桟部材6を上記のような構成とするとともに、フリッチ材1の厚さTを180mm以下のものとすることで、蒸気釜20内に後記するように間欠的に供給される高圧高温水蒸気のフリッチ材1への加熱処理作用がより効率的になされる。つまり、供給された水蒸気により、フリッチ材1の周囲には、過剰な結露水が溜まる傾向があるが、この桟部材6により、結露水をフリッチ材1間から排出させ、蒸気釜20の下部へと脱落させることができ、また、フリッチ材1の厚さTを180mm以下とすることと相俟って、フリッチ材1への高圧高温水蒸気の浸透性をより効率的に向上させることができる。この結果、フリッチ材1に対して、より効率的に加熱処理を施すことができる。
【0025】
また、本実施形態では、桟部材6を、蒸気釜20内に配置されたフリッチ材1が蒸気釜20の内壁(図例では、載置プレート8)に接触しないよう、最下段のフリッチ材1と、載置プレート8との間にも介在させるようにしている。また、浮き上がり防止手段7を図例のように、重し7とした場合には、この重し7と、最上段のフリッチ材1とが接触しないよう、これらの間にも桟部材6を介在させるようにしてもよい。
尚、各フリッチ材1を横方向に並べる際に、各フリッチ材1間に所定の隙間を設けて配置するようにしてもよい。この所定の隙間は、上記同様、高圧高温水蒸気の供給経路、及びフリッチ材1の周囲に溜まる結露水の排出経路が形成されるように、3.0mm以上程度としてもよい。
このようなフリッチ材1間に形成する供給経路及び排出経路の大きさは、大きいほど効果的に高圧高温水蒸気の供給及び結露水の排出が可能となるが、フリッチ材1を蒸気釜20内に効率的に収容するために、上記程度以上とすればよい。
【0026】
<加熱処理工程:昇温昇圧工程>
上記のように、蒸気釜20内に、フリッチ材1を配置した後、開閉蓋22により蒸気釜20を密閉し、上記した各バルブのうち、水蒸気供給バルブ23a、排気バルブ26a及びドレンバルブ27aを開とし、その他のバルブ24a,25a,28aを閉とし、蒸気釜20内に、高圧高温水蒸気を供給して、蒸気釜20内の空気を水蒸気に置換する。
【0027】
次いで、上記状態から排気バルブ26aを閉とし、昇温昇圧工程を実行する。
この昇温昇圧工程は、予め設定された昇圧時目標設定圧力値と、蒸気釜20内の実測圧力値(圧力センサー32の測定信号(検出圧力値))とに基づいて、予め設定されたプログラムに従って、制御盤30の上記CPUにより、水蒸気供給バルブ23aが開閉制御されることでなされる。
昇圧時目標設定圧力値としては、例えば、1℃/分〜5℃/分程度の昇温値に応じた値としてもよく、また、その最終目標設定圧力値は、所定の処理温度に応じた値となるようにすればよい。
【0028】
この加熱処理条件としての所定の処理温度(蒸気釜20内の雰囲気温度)は、105℃以上、160℃以下(圧力範囲で、0.2kgf/cmG(約0.02MPaG)以上、5.3kgf/cmG(約0.52MPaG)以下)程度、好ましくは、150℃(3.9kgf/cmG(約0.37MPaG))以下程度としてもよい。
この所定の処理温度が、上記下限温度未満であれば、木材組成成分のヘミセルロースが十分に熱分解されず、被処理木材の均質化並びに被処理木材への熱着色及び耐光性の付与が十分になされない傾向がある一方、上記上限温度を超えれば、被処理木材のサイズや処理時間によっては、ヘミセルロースの熱分解が過剰となり木材繊維細胞組織が劣化する傾向があり、被処理木材の強度が低下する傾向がある。
この処理温度は、被処理木材(本例では、フリッチ材1)の着色度合いに大きく寄与し、この処理温度を上記範囲内で適宜、設定することで、被処理木材の着色度を容易にコントロールすることができる。
【0029】
水蒸気供給バルブ23aの開閉制御は、図1(a)、(b)に示すように、昇圧時目標設定圧力値よりも蒸気釜20内の実測圧力値が、所定値P1以上、小さいときには(ステップ100参照)、水蒸気供給バルブ23aを開とし、高圧高温水蒸気を供給して、蒸気釜20内を所定値P1以上、急昇圧させ、水蒸気供給バルブ23aを閉とする(急昇圧処理、ステップ101参照)。
所定値P1は、上記最終目標設定圧力値や各フリッチ材1のサイズにもよるが、0.005MPa〜0.02MPa程度としてもよい。
また、この高圧高温水蒸気の供給による、蒸気釜20内の圧力変動は、急激に高圧高温水蒸気を供給することで、瞬時になされる態様とすることが好ましく、蒸気釜20の容量やフリッチ材1の収容量等にもよるが、例えば、供給前の蒸気釜20内の雰囲気圧力を、10秒以内に、より好ましくは5秒以内に上記所定値P1以上、急昇圧させる態様とすることが好ましい。
【0030】
上記のように新たな高圧高温水蒸気を蒸気釜20内に供給し、蒸気釜20内を急昇圧させることで、その瞬時の圧力変動により、フリッチ材1の表面において結露した水分が、ポーラスな構造のフリッチ材1の内部に向けて吸い込まれるようにして浸透して水蒸気の通り道を形成するとともに、供給された高圧高温水蒸気によりフリッチ材1が昇温される。また、この新たに供給された高圧高温水蒸気の熱エネルギーは、フリッチ材1に奪われ、フリッチ材1の表面において結露し、次回の高圧高温水蒸気の供給がなされるまでは、蒸気釜20内の実測圧力値は、図1(b)に示すように、徐々に低下する。特に、昇温昇圧時には、フリッチ材1の温度(特に、表層部の温度)が昇温途中であるため、その初期では、比較的、急速に低下する。
【0031】
蒸気釜20内の実測圧力値が、昇圧時目標設定圧力値よりも所定値P1以上、低下すれば(ステップ100参照)、上記同様の急昇圧処理、すなわち、水蒸気供給バルブ23aを開とし、高圧高温水蒸気を供給して、蒸気釜20内を所定値P1以上、急昇圧させ、水蒸気供給バルブ23aを閉とする(ステップ101参照)。
このように、昇温昇圧工程実行時には、蒸気釜20内の実測圧力値が、昇圧時目標設定圧力値よりも所定値P1以上、低下する毎に高圧高温水蒸気を供給、すなわち、高圧高温水蒸気を間欠的に供給して蒸気釜20内を所定値P1以上、急昇圧させる状態を繰り返し生じさせるようにしている。
これにより、フリッチ材1は、その表面において結露した水分がフリッチ材1の内部に向けて吸い込まれるようにして浸透することで昇温されるとともに、その表面に結露を生じさせる状態を繰り返しながら、徐々に昇温される。また、これに伴い、蒸気釜20内の実測圧力値も新たな高圧高温水蒸気の供給による急昇圧と低下とを繰り返しながら徐々に昇圧する(図1(b)参照)。
【0032】
<加熱処理工程:保持工程>
上記のように蒸気釜20内の実測圧力値が徐々に昇圧し、最終目標設定圧力値に近づき、蒸気釜20内の実測温度が、上記所定の処理温度に達すれば、制御盤30の上記CPU等に内蔵されているタイマーを起動させ、所定の処理時間が経過するまで、保持工程を実行する(ステップ102参照)。尚、このような自動制御により、保持工程への移行及び保持工程を終了させる態様に代えて、蒸気釜20内の実測圧力値や実測温度を上記表示操作部等で確認し、操作者側で処理時間を入力するような態様としてもよい。或いは、このように保持工程への移行等を判断することなく、当該装置の起動後から昇温昇圧工程の処理時間を含んだ全体の処理時間を、所定の処理時間として予め設定しておくようにしてもよい。
【0033】
上記所定の処理時間は、被処理木材(本例では、フリッチ材1)の表面温度(実質的には釜内の雰囲気温度と同程度)と、被処理木材心部の温度との温度差が、10℃以内となるように設定するようにしてもよい。好ましくは、上記温度差が10℃以内となった後、10分以上程度の保持時間を設けるようにしてもよい。より好ましくは、被処理木材心部の温度が、上記処理温度と同程度(105℃以上、160℃以下、好ましくは150℃以下)となるまで、または、同程度となった後に10分以上程度の保持時間を設けるようにしてもよい。
【0034】
このような処理時間とすることで、被処理木材内部における色ムラを、より効率的に低減できるとともに、被処理木材の均質化をより向上させることができ、歩留まり、生産性を向上させることができる。
上記所定の処理温度に達した後の処理時間は、木材の樹種や、サイズ、釜内温度等にもよるが、上記程度の厚さとされたフリッチ材1で、ブナやナラ材等の場合には、1時間〜4時間程度としてもよい。
尚、上記処理温度を設定する態様に代えて、この処理時間を適宜、設定することで、木材の着色度をコントロールするようにしてもよい。
【0035】
この保持工程実行時には、上記昇温昇圧工程の実行により、フリッチ材1の外周の表層部がある程度、昇温されているので、図1(c)に示すように、蒸気釜20内の実測圧力値は、次回の高圧高温水蒸気の供給がなされるまでは、上記昇温昇圧工程時よりも緩やかに低下する。この蒸気釜20内の実測圧力値が、図1(a)、(c)に示すように、最終目標設定圧力値よりも、所定値P1以上、低下すれば(ステップ100参照)、上記同様の急昇圧処理を実行する(ステップ101参照)。すなわち、水蒸気供給バルブ23aを開とし、高圧高温水蒸気を供給して、蒸気釜20内を所定値P1以上、急昇圧させ、水蒸気供給バルブ23aを閉とする。
【0036】
また、本実施形態では、図1(a)、(c)に示すように、この保持工程実行時に、蒸気釜20内の実測圧力値が、最終目標設定圧力値よりも、所定値P1以上、低下することなく、前回の高圧高温水蒸気の供給後から所定時間T1以上、経過すれば(ステップ100,103参照)、排気バルブ26aを開とし、蒸気釜20内を強制的に所定値P1以上、降圧させ、排気バルブ26aを閉とする強制降圧処理を実行するようにしている(ステップ104)。
この所定時間T1は、蒸気釜20内に収容する被処理木材の量やサイズ等にもよるが、30秒〜10分程度としてもよく、好ましくは、5分以下程度としてもよい。
このように蒸気釜20内を強制的に降圧した後、上記同様の急昇圧処理を実行する(ステップ101参照)。
【0037】
つまり、本実施形態では、図1(a)に示すように、蒸気釜20内の実測圧力値が、予め設定された目標設定圧力値よりも所定値P1以上、低下すれば(ステップ100)、上記急昇圧処理を実行し(ステップ101)、これを、所定の処理時間が経過するまで繰り返す(ステップ102,100,101)。
また、高圧高温水蒸気の供給後からの経過時間を制御盤30の上記CPU等に内蔵させたタイマー等によりカウントし、蒸気釜20内の実測圧力値が、最終目標設定圧力値よりも、所定値P1以上、低下することなく(ステップ100)、前回の高圧高温水蒸気の供給後から所定時間T1以上、経過すれば(ステップ103)、上記強制降圧処理を実行し(ステップ104)、さらに、上記急昇圧処理を実行するようにしている(ステップ101)。
【0038】
このように、蒸気釜20内に、上記保持工程実行時にも急昇圧させる状態を繰り返し生じさせることで、蒸気釜20内に収容されたフリッチ材1は、その内部まで効率的かつ確実に昇温し、十分な加熱処理が施される。この結果、フリッチ材1は、均質化され、その内部まで十分に熱着色されるとともに、耐光性が付与される。
特に、本実施形態では、蒸気釜20内の実測圧力値が、最終目標設定圧力値よりも、所定値P1以上、低下しない状態が、所定時間T1継続するような際には、その所定時間T1が経過すれば、上記強制降圧処理を実行し、さらに、上記急昇圧処理を実行するようにしているので、より効率的かつ確実に、各フリッチ材1への加熱処理を施すことができる。すなわち、保持工程実行時には、フリッチ材1(特に表層部)がある程度、昇温されているので、蒸気釜20内の実測圧力値が比較的、緩やかに低下し、この状態が長く継続すれば、フリッチ材の内部の昇温が迅速になされない傾向がある。一方、本実施形態によれば、少なくとも上記所定時間T1を経過する毎に、蒸気釜20内には、新たな高圧高温水蒸気が供給され、蒸気釜20内が急昇圧する状態が繰り返し生じることとなるので、より効率的かつ確実な加熱処理を実行することができる。
以上の加熱処理工程を経て高圧高温水蒸気による加熱処理が施された処理フリッチ材1A(図3(b)参照)が製造される。
【0039】
<木材冷却、釜内降圧工程>
上記のように加熱処理工程を実行した後、以下のように、処理木材(処理フリッチ材1A(図3(b)参照))の冷却、及び蒸気釜20内を降圧するようにしてもよい。
この蒸気釜20の降圧処理は、処理木材の心部が所定温度以下となるまで冷却された後に、実行することが処理木材の乾燥割れ等を防ぐ観点から好ましい。
この所定温度は、100℃以下程度、好ましくは、90℃以下程度としてもよい。
冷却工程の効率化及び処理木材の乾燥割れをより効率的に防止するために、降圧処理を実行する前に、蒸気釜20内を所定の高圧状態に維持した状態で処理木材を水没させて冷却するようにしてもよい。
【0040】
例えば、上記加熱処理工程を実行した後、水蒸気供給バルブ23aを閉とし、加圧水供給バルブ24a及び加圧エアー供給バルブ25aを開として、蒸気釜20内の圧力が低下しないように高圧状態を保ちながら、蒸気釜20内の処理木材を水没させて冷却する。好ましくは、この冷却の際、蒸気釜20内の圧力が上記加熱処理時における圧力以上となるように高圧状態を保ちながら実行するようにしてもよい。或いは、加熱処理時における圧力にもよるが、急激な圧力変動が生じて加熱処理後の木材の表面に乾燥割れ等が生じない程度に、加熱処理時における圧力を少し下回った程度の高圧状態を保ちながら、水没させて冷却するようにしてもよい。
【0041】
この冷却工程実行時における蒸気釜20内の所定の高圧状態は、加圧水供給バルブ24a及び加圧エアー供給バルブ25aを開として、加圧水、加圧エアーを供給しながら、圧力センサー32等の計測値に基づいて、排気バルブ26aを開閉制御乃至は開度制御することで調整するようにしてもよい。
また、上記加圧水の供給は、蒸気釜20内における圧力変動や蒸気釜20自体の劣化(金属疲労)を抑えるために、蒸気釜20内に供給された加圧水が蒸気釜20内において飛散等しないよう、蒸気釜20内の下方から徐々に、かつ穏やかに供給することが好ましい。
さらに、冷却効率を向上させるために、この冷却工程を実行する際には、加圧水供給バルブ24a及び排水バルブ28aを開閉制御乃至は開度制御することで、蒸気釜20内の冷却用水の入れ替えを行うようにしてもよい。
【0042】
尚、上記冷却工程において、蒸気釜20内に直接、冷却用水(加圧水)を供給する態様に代えて、蒸気釜20内に、フリッチ材1を収容可能で、かつ貯水可能な容器を設置し、この容器内に加圧水を供給するようにしてもよい。この場合は、この容器の下部に水蒸気供給管23、加圧水供給管24、ドレン管27及び排水管28を接続するようにすればよい。また、この場合、ドレン管27及び排水管28をさらに蒸気釜20の下部に接続するようにしてもよい。この容器は、蒸気釜20に対して出し入れ自在とされたものとしてもよい。
このように、フリッチ材1を冷却するための加圧水が供給される容器を蒸気釜20内に設置することで、蒸気釜20の劣化を効率的に低減できる。また、この場合は、容器を上記したような汚染性の少ないステンレス製等とし、蒸気釜を耐圧性のある鉄製等としてもよい。これによれば、より効率的に蒸気釜20の劣化を低減できる。
また、上記冷却工程実行時に蒸気釜20内に導入する加圧エアーは、処理木材の酸化抑制の観点から窒素ガスを使用するようにしてもよい。
【0043】
さらに、上述のように冷却用水を供給して強制的に処理木材を冷却する態様に代えて、上記加熱処理工程の後、水蒸気供給バルブ23aを閉とし、処理木材の心部が上記所定温度以下となるまで自然冷却するようにしてもよい。または、水蒸気供給バルブ23aを閉とし、蒸気釜20内を所定の高圧状態に維持した状態で、加圧エアー供給バルブ25a及び排気バルブ26aを開閉制御乃至は開度制御することで、蒸気釜20内のガスの入れ替えを行い、冷却するような態様としてもよい。
【0044】
上記冷却工程を実行した後、加圧水供給バルブ24a及び加圧エアー供給バルブ25aを閉とし、排気バルブ26a及び排水バルブ28aを開として、蒸気釜20内の圧力を大気圧に復帰させ、蒸気釜20内の冷却用水を蒸気釜20外に排出する(釜内降圧工程)。
この蒸気釜20内の圧力を大気圧に復帰させる際にも、急激な圧力変動が生じないよう、徐々に大気圧に復帰させるようにしてもよい。
尚、蒸気釜20内の降圧は、蒸気釜20内の冷却用水を蒸気釜20外に排出する前に、排気バルブ26aを開にして行うようにしてもよく、または、排気バルブ26a及び排水バルブ28aの両方を開として冷却用水を排出しながら行うようにしてもよく、さらには、冷却用水を排出した後(実質的には、冷却用水の排出により蒸気釜20内はある程度、降圧する)に、排気バルブ26aを開にして行うようにしてもよい。
【0045】
次に、本発明に係る製造方法により製造された処理木材の実施例の一例と比較例とを図3(a)の表に基づいて説明する。
各例では、含水率が45〜65%(ドライベース)程度の生材のブナ材を所定サイズの角柱状に加工した9本のフリッチ材を被処理木材とし、横方向に3列、厚さ方向に桟部材を介在させて3列となるように積層した。
【0046】
桟部材は、各例では、厚さが4.0mm、幅が20.0mm、長さが320.0mmの平板状のステンレス桟とし、これを上記したように、通し状に配置した。
また、各フリッチ材のサイズは、実施例1及び比較例1では、厚さが80mm、幅が107mm、長さが450mmとし、実施例2では、厚さが180mm、幅が107mm、長さが450mmとした。
【0047】
各例の加熱処理条件は、上記処理温度を、135℃とし、上記昇圧時目標設定圧力値を、3℃/分の昇温値に応じた値とし、上記保持工程実行時間を60分とした。
また、実施例1,2では、上記所定値P1を0.01MPaとし、上記所定時間T1を5分として、上記同様の昇温昇圧工程及び保持工程を実行した。
一方、比較例1では、昇温昇圧工程時及び保持工程時において、急昇圧させる状態を生じさせることなく、水蒸気供給バルブを開度調整可能な比例制御弁として、この比例制御弁を、蒸気釜内の実測圧力値に基づいて、各目標設定圧力値に追従させて制御することで、蒸気釜内への高圧高温水蒸気の供給量を細かく制御し、急激な圧力変動を生じさせない処理とした。
【0048】
上記のように加熱処理されて製造された各例に係る処理木材を、横突きスライサーによりスライス加工して、厚さが0.25mmのスライス単板をそれぞれ複数枚、作製し、乾燥後、以下の評価試験を行った。
【0049】
<評価試験1 外観目視観察>
上記各実施例1,2及び比較例1の各例に係る処理木材から作製された各スライス単板の表面を目視観察した。
結果は、図3(a)の表に示す通りであり、実施例1,2では、各処理木材から作製された複数枚のスライス単板に色ムラ等が見られず、良好な結果であった。
一方、比較例1では、処理木材の表層部から作製されたスライス単板には、それ程の色ムラ等は見受けられなかったが、その内層部(処理木材の心部付近)から作製されたスライス単板の中心部と、外部周辺とに色調の差異が見られ、中心部の着色不足が目立つ結果となった。
【0050】
<評価試験2 色差測定>
上記各実施例1,2及び比較例1の各例に係る処理木材から作製されたスライス単板のうち、内層部(各処理木材の心部付近)の各スライス単板の外部周辺と、中心部とを、分光測色計(コニカミノルタ CM−2500d)で測定し、外部周辺と中心部との色差ΔE(L表色系)が、3.0以下を合格基準として判断した。
結果は、図3(a)の表に示す通りであり、実施例1では、色差ΔE=1.25、実施例2では、色差ΔE=2.31であり、良好な結果であった。
一方、比較例1では、色差ΔE=4.65であり、外部周辺と中心部とに色調の差異が認められる結果となった。
【0051】
以上のように、本発明に係る処理木材製造方法によれば、被処理木材の内部まで十分に高圧高温水蒸気による加熱処理が施され、均質な処理木材を製造できることが示された。
【0052】
次に、上記のように製造された処理フリッチ材1Aを用いた木質板状建材の製造方法の一例について図3(b)、(c)に基づいて説明する。
上記釜内降圧工程を実行した後、処理フリッチ材1Aを蒸気釜20から取り出し、必要により、精寸仕上げを行う。
このような処理フリッチ材1Aの全面の精寸処理により、上記加熱処理工程において、木材の組成成分であるリグニンに含まれるフェノール類似の低分子樹脂が変質し、副生成されて処理フリッチ材1Aの表面に析出した耐光性の低い酸化着色物が除去されるとともに、処理フリッチ材1Aの全面が平滑となる。
【0053】
上記のように各処理フリッチ材1Aを精寸処理した後、図3(b)に示すように、処理フリッチ材1Aの厚さ面を隣接する処理フリッチ材1Aに対面させるようにして集成接着し、フリッチ集成体2を作製する。
図例では、長手方向にそれぞれ4つの処理フリッチ材1Aを接合し、短手方向が三列となるように集成接着しており、さらに、長手方向には、集成接着された処理フリッチ材1Aが千鳥状にずれて配置されるように、適宜長さに切断した処理フリッチ材1Aを振り分けて集成接着するようにしている。
上記集成接着に使用される接着剤としては、湿潤状態の処理フリッチ材1Aの接着が可能な接着剤とすればよく、例えば、湿気硬化型ウレタン接着剤等を採用するようにしてもよい。
【0054】
次いで、上記のように作製されたフリッチ集成体2を、湿潤状態のままで横突きスライサー機に導入し、所定厚さとなるようスライス加工して、図3(b)に示すように、スライス単板11を作製する。
ここに、湿潤状態とは、上記加熱処理工程の後のスライス加工対象としてのフリッチ集成体2の含水率が所定程度以上の状態を指しており、このフリッチ集成体2の含水率は、30%以上程度とすることがスライス加工性の観点から好ましい。
上記のように高圧高温水蒸気による加熱処理を施した木材(本例では、フリッチ集成体2)は、均質化されているので、その木材を湿潤状態のままでスライスしてスライス単板11を作製することで、スライス加工性が向上し、比較的、肉厚のスライス単板を作製することもできる。例えば、このスライス単板11の厚さは、0.10mm〜2.50mm程度としてもよい。
【0055】
また、本実施形態のように、加熱処理された処理木材を処理フリッチ材1Aとし、この処理フリッチ材1Aを集成接着したフリッチ集成体2をスライス加工してスライス単板11を作製する態様とすることで、意匠性の高い木質板状建材を容易に製造できる。すなわち、上記した加熱処理工程時における、各フリッチ材1の加熱処理条件(上記処理温度や上記処理時間など)を適宜、設定し、各フリッチ材1の着色度合いを調整することで、色調の異なる処理フリッチ材1Aを作製することができる。この色調の異なる処理フリッチ材1Aを、趣向等に応じて組み合わせて集成接着し、スライスすることで、種々の柄パターン(乱貼り状、パーケット状、市松状等)のスライス単板11を容易に作製できる。
【0056】
尚、本実施形態では、処理木材を処理フリッチ材1Aとし、この処理フリッチ材1Aを上記のように集成接着したフリッチ集成体2をスライス加工してスライス単板11を作製する態様について示しているが、このような態様に限られない。例えば、加熱処理対象を、所望する木質板状建材の大きさに合わせた形状の肉厚の板材とし、この板材に対して上記各工程を必要に応じて実行した後、この板材をスライス加工してスライス単板を作製するようにしてもよい。換言すれば、フリッチ材の一つを、所望する木質板状建材の大きさに応じた形状とし、上記各工程を必要に応じて実行した後、集成等することなく、このフリッチ材からスライス単板を作製するようにしてもよい。
【0057】
上記のように作製されたスライス単板11を、図3(c)に示すように、木質基材12に貼着して積層構造の木質板状建材10を製造する。
この積層接着に使用される接着剤としては、各種水性接着剤やエマルション接着剤等としてもよく、例えば、ゴムラテックス系エマルション接着剤としてもよい。
また、接着剤を介して木質基材12とスライス単板11とを積層した後、適宜、熱プレス機(ホットプレス機)に導入し、加熱圧締して乾燥硬化させるようにしてもよい。
尚、木質基材12とスライス単板11との間に、熱プレス時における接着剤やスライス単板等からの水蒸気の放出を促すために、紙材等を介在させて積層接着するようにしてもよい。
また、接着剤の種類に応じて、加熱圧締する態様に代えて、コールドプレスとしてもよく、自然乾燥としてもよい。
【0058】
上記した木質基材12としては、合板やLVL(単板積層材)等の木質積層板、パーティクルボード等の木質ボード、またはインシュレーションボードやMDF(中密度繊維板)等の木質繊維板などの木質系材料を板状に加工したものが挙げられる。または、合成樹脂系材料に、木粉や無機フィラー、相溶化剤、着色剤などを所定の含有割合で含有させた木粉・プラスチック複合材(WPC)を板状に加工したものとしてもよい。これらは、適宜、組み合わせて積層し、木質基材12を構成するようにしてもよい。例えば、合板やパーティクルボード等の表面に、比較的、表面硬度の高いMDFやWPC等を積層して木質基材12を構成するようにしてもよい。
以上のように製造された木質板状建材10は、上記のように、その表層側のスライス単板11が、上記加熱処理により、熱着色がなされているので、見栄えが良く、また、耐光性に優れた木質板状建材となる。
【0059】
尚、上記のように製造された木質板状建材10の表面に、適宜、溝部や面取り部を形成したり、木質板状建材10の四周端部に、隣接して施工される他の木質板状建材との接合部としての実部等を形成するようにしたりしてもよい。
また、木質板状建材10の表面に、クリアー塗装や当該木質板状建材の色調を阻害しない程度の薄い着色塗装を施すようにしてもよい。特に、本実施形態では、スライス単板11には、上記加熱処理によって、熱着色が施されるとともに、耐光性が付与されているので、クリアー塗装のみを仕上げ塗装として施すようにしてもよい。このようなクリアー塗装のみによる仕上げ塗装によれば、塗装後の木質板状建材10の表面の木質感が阻害されることがなく、意匠性を向上させることができる。
また、木質板状建材の使用態様としては、床材や壁材、天井材などの内装材としてもよい。または、その他の内装パネル材や扉材、各種造作部材、家具材等として使用するようにしてもよい。
【0060】
尚、上記した本実施形態に係る処理木材製造方法では、上記昇温昇圧工程実行時、及び上記保持工程実行時において、高圧高温水蒸気を間欠的に供給して、蒸気釜内を急昇圧させる状態を繰り返し生じさせる態様を例示したが、上記昇温昇圧工程、及び上記保持工程のうちのいずれか一方を実行時のみに、高圧高温水蒸気を間欠的に供給して、蒸気釜内を急昇圧させる状態を繰り返し生じさせる態様としてもよい。この場合は、他方を実行時には、蒸気釜内に急激な圧力変動が生じないよう、高圧高温水蒸気の供給量を調整して、蒸気釜内の実測圧力値を目標設定圧力値に常時、近づけるような制御を実行する態様としてもよい。
【0061】
また、本実施形態では、前回の高圧高温水蒸気の供給後から所定時間以上、経過すれば、上記強制降圧処理を実行し、さらに、上記急昇圧処理を実行するようにした例を示しているが、このような強制降圧処理を実行せずに、蒸気釜内の実測圧力値と予め設定された目標設定圧力値とに基づいて上記急昇圧処理を繰り返し実行する態様としてもよい。
さらに、本実施形態では、目標設定圧力値と、蒸気釜内の実測圧力値とに基づいて、水蒸気供給バルブを開閉制御することで、高圧高温水蒸気を間欠的に供給して、蒸気釜内を急昇圧させる状態を繰り返し生じさせる態様を例示したが、目標設定温度と、蒸気釜内の実測温度とに基づいて、水蒸気供給バルブを開閉制御することで、高圧高温水蒸気を間欠的に供給して、蒸気釜内を急昇圧させる状態を繰り返し生じさせる態様としてもよい。
【0062】
さらにまた、上記した例では、本実施形態に係る処理木材製造方法により製造された処理木材を、スライスしてスライス単板を作製し、そのスライス単板を、木質基材の表面に積層接着して木質板状建材を製造した例を示しているが、このような態様に限られない。例えば、上記処理木材を他の加工方法により、単板化して単板を製造するようにしてもよく、単板に限られず、適宜の形状に加工して、適宜形状の木材製品を製造するようにしてもよい。
また、上記した例では、被処理木材を、高圧高温水蒸気によって着色処理して処理木材を製造する例を示しているが、本発明に係る処理木材製造方法は、被処理木材の寸法安定性を高めるための高圧高温水蒸気処理等、各種の水蒸気処理に適用することができる。
【符号の説明】
【0063】
1 フリッチ材(被処理木材)
1A 処理フリッチ材(処理木材)
6 桟部材
10 木質板状建材
11 スライス単板
12 木質基材(基材)
20 蒸気釜
23a 水蒸気供給バルブ(高圧高温水蒸気の供給開閉弁)
T フリッチ材の厚さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸気釜内において被処理木材を加熱処理して処理木材を製造する方法であって、
前記蒸気釜内に、高圧高温水蒸気を間欠的に供給することで該蒸気釜内を急昇圧させる状態を繰り返し生じさせて、前記被処理木材を高圧高温水蒸気で加熱処理することを特徴とする処理木材製造方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記被処理木材の厚さを180mm以下とし、厚さ方向に桟部材を介在させて積層させた状態で、前記加熱処理を実行するようにしたことを特徴とする処理木材製造方法。
【請求項3】
請求項1または2において、
高圧高温水蒸気の供給開閉弁を、間欠的に開放させることで、前記高圧高温水蒸気を間欠的に供給するようにしたことを特徴とする処理木材製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の処理木材製造方法により製造された処理木材をスライスして作製されたスライス単板を、基材の表面に積層してなる木質板状建材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−67996(P2011−67996A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−219940(P2009−219940)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】