説明

処理装置、処理方法、及びパターン基板の製造方法

【課題】簡便かつ確実に汚染物質に対する処理を行うことができる処理装置、処理方法、並びにパターン基板の製造方法を提供する。
【解決手段】ペリクルフレーム11を介してペリクル膜12が装着されたマスク10上の汚染物質15に対して処理を行う処理装置であって、前記マスクを載置するステージ21と、前記ステージに載置された前記マスクに前記ペリクル膜を介して赤外光を照射する光源23と、を備えるものである。また、マスクを冷却する冷却手段27を設け、マスクのパターン面に水を凝集してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は処理装置、処理方法、及びマスクの製造方法に関し、特に詳しくは、光を照射することによって汚染物質に対して処理を行う処理方法、処理方法、及びそれを用いたパターン基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の製造工程で使用されるフォトマスク(レチクルを含む)を洗浄する方法が開示されている(特許文献1)。特許文献1、2の方法では、ペリクル膜(単にペリクルともいう)を介して紫外光を照射することで、異物を除去している。また、特許文献1には、紫外光はペリクル膜に適したものであること好ましいと記載されている(段落0075)。ペリクル膜の劣化につながるため、ペリクル膜による吸収が最も少ない、すなわち、透過率が最も高い波長の光を用いることが好ましいと記載されている。
【0003】
特許文献2の方法では、マスクとペリクル膜とペリクルフレームとで形成されるペリクル内部空間に、ガスを導入している。具体的には、ペリクルフレームに、空気、窒素ガス、希ガスなどを導入するガス導入孔と、そのガスを排出するガス排出孔を設けている。ガス導入孔からガスを導入しながら、異物を置換性物質により置換して、ガス排出孔から排出している。その後、ガスを導入しながら、紫外線を照射している。これにより、マスクに付着した置換性物質が光分解してガス状になり、ガス排出孔から排出される。
【0004】
また、ペリクル膜の検査を行う装置が特許文献3に開示されている。この欠陥検査装置では、マスクに装着される前のペリクル膜付きペリクルフレームをステージ上に載置している。そして、ステージ表面に凹凸を形成して、ペリクルフレーム、ペリクル膜、ステージで形成された内部空間と接続する通気手段を設けている。ペリクル膜に光ビームを照射して、ペリクル膜で反射した反射光を受光する検出手段を設けている。検出手段で検出された光ビームの歪みに基づいて、通気手段における気体の供給量、又は吸引量を制御している。このようにして、ペリクル膜の膜面が膨らむのを防止している。
【0005】
さらに、特許文献4には、パルスレーザ光を用いたレチクルの異物除去装置が開示されている。基板表面に水滴を付着させた状態で、レーザ光を照射している。具体的には、処理室内に設けられた冷却ステージ上にマスクを載置する。そして、冷却ステージでマスクを冷却すると、基板表面に水滴が付着する。こうすることで、パルスレーザ光が水滴に吸収され、水滴が急激に蒸発する。そして、水滴が蒸発する際に発生する力によって、異物が基板表面から引き離され除去される(段落0012)。また、YAGレーザや二酸化炭素レーザを用いて、水に吸収される波長2.5〜10μmの光を照射している(段落0010)。
【0006】
さらに、非特許文献1には、シリコンの表面に水の膜を形成した状態で、レーザ光を照射するクリーニング方法が開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開2005−191184号公報
【特許文献2】特開2008−51986号公報
【特許文献3】特開平10−38814号公報
【特許文献4】特開2000−176671号公報
【非特許文献1】Andrew C.Tam et.al. "Laser−cleaning Techniques for removal of surface particulates" J.Appl.Phys.71(7),pp3515−3523, 1 April,1992
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非特許文献1では、波長248nmのKrFレーザ、波長10、6μmのTEA−COレーザ、2.94μmのEr:YAGレーザを用いる点が記載されている。そして、0.1μm程度の大きさの異物をSi基板から除去している。また、レーザを照射する前に、Si基板に水の膜を形成している。そして、レーザ照射によって、水を沸騰させることで、水中の異物を除去している。また、紫外光を用いた方が、効果的であるとの記載がある。なお、非特許文献1では、水に溶解しない大きな異物15を除去している(FIG.3)。このため、水を透過する紫外光を照射して、Si基板と水の膜との界面から水を沸騰させることが効果的となっている。すなわち、Si基板を加熱することで、水を沸騰させている。
特許文献1、2の方法では、ペリクル膜越しに紫外光を照射している。このため、光のエネルギーが高くなってしまうおそれがある。特に、光学的に検出することができる異物よりも微小な汚染物質がマスク表面に付着している場合、紫外光では、この微小な汚染物質を分解するのに必要なエネルギーが高くなってしまう。光エネルギーが高くなると、マスクのパターンにダメージが生じてしまうこともある。特許文献1の方法では、パーティクル異物の除去のみを対象としている。特許文献3の方法はペリクル膜の欠陥を除去するのみであり、マスクに付着した汚染物質を分解することができない。
【0009】
このように上記の技術では、ペリクル付きマスクのパターン面に付着した汚染物質の影響を低減することが困難であるという問題点がある。
本発明は上述の問題点に鑑みてなされたものであって、簡便かつ確実に汚染物質の影響を低減することができる処理装置及び処理方法、並びにそれを用いたパターン基板の製造方法を提供することを目的とする。特に、本発明は、パーティクル以外の汚染物質等の異物の除去に対して有効に作用することを特徴としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様にかかる処理方法は、ペリクルフレームを介してペリクル膜が装着されたマスク上の水溶性の汚染物質に対して処理を行う処理方法であって、前記マスクをステージ上に載置するステップと、前記汚染物質を水に溶解させるステップと、前記汚染物質が溶解した水に前記ペリクル膜を介して赤外光を照射するステップと、を備えるものである。これにより、簡便かつ確実に汚染物質をマスクから分離させることができる。
【0011】
本発明の第2の態様にかかる処理方法は、上記の処理方法であって、前記ペリクル膜と前記マスクと前記ペリクルフレームで囲まれた空間内に有機物を導入して、前記汚染物質が溶解する水の表面張力を低下させているものである。これにより、確実に水の膜を形成することができるため、簡便に汚染物質をマスクから分離させることができる。
【0012】
本発明の第3の態様にかかる処理方法は、上記の処理方法であって、前記マスクを冷却して、前記マスクの表面に水を凝集させるステップをさらに備え、前記凝集した水に赤外光を照射して、前記水とともに汚染物質をマスク表面から取り除くものである。水とともに汚染物質を取り除くことで、確実に汚染物質に対する処理を行うことができる。
【0013】
本発明の第4の態様にかかる処理方法は、上記の処理方法であって、前記赤外光が照射される領域の周辺を加熱するものである。これにより、光が照射される領域周辺では水が凝集しないため、効率よく水を凝集させることができる。
【0014】
本発明の第5の態様にかかる処理方法は、上記の処理方法であって、前記冷却手段によって水が凝集した領域よりも広い領域に前記赤外光を照射するものである。これにより、水が凝集した領域にシミが形成されるのを防ぐことができる。
【0015】
本発明の第6の態様にかかる処理方法は、上記の処理方法であって、前記水を凝集する前に、表面処理を行って水に対する接触角を低下させることを特徴とするものである。これにより、水の膜厚を均一にすることができるため、効率よく異物を除去することができる。
【0016】
本発明の第7の態様にかかる処理方法は、上記の処理方法であって、前記ペリクルフレームを冷却するペリクルフレーム冷却手段をさらに備え、前記マスク上の汚染物質を、冷却された前記ペリクルフレームに付着させるものである。これにより、マスク上に汚染物質が再付着するのを防ぐことができる。
【0017】
本発明の第8の態様にかかる処理方法は、上記の処理方法であって、前記ペリクル膜、前記ペリクルフレーム、及び前記マスクで囲まれた空間に、前記ペリクルフレームに設けられた供給口から気体を供給するステップと、前記ペリクル膜、前記ペリクルフレーム、及び前記マスクで囲まれた空間の気体を前記ペリクルフレームに設けられた排気口から排気するステップと、前記マスクの前記汚染物質が付着した箇所に光を照射して、前記汚染物質を前記マスクから離脱させるステップと、前記供給口から供給される気体によって、前記マスクから離脱した汚染物質を前記排気口から吸引するステップと、をさらに備えるものである。ペリクルフレームに設けられた供給口、及び排気口を利用しているため、容易に気体の流れを形成することができる。これにより、簡便かつ確実に処理することができる。
【0018】
本発明の第9の態様にかかる処理方法は、上記の処理方法であって、前記供給口から前記空間内に、前記汚染物質が溶解する水の表面張力を低下させるための有機物を導入することを特徴とするものである。これにより、確実に水の膜を形成することができるため、簡便に汚染物質をマスクから分離させることができる。
【0019】
本発明の第10の態様にかかるパターン基板の製造方法は、マスクにペリクル膜を装着するステップと、上記の異物除去方法を用いて、ペリクル膜が装着されたマスク上の汚染物質に対して処理を行うステップと、を備えるものである。これにより、汚染物質の影響を低減することができるため、生産性を向上することができる。
【0020】
本発明の第11の態様にかかる処理装置は、ペリクルフレームを介してペリクル膜が装着されたマスク上の汚染物質に対して処理を行う処理装置であって、前記マスクを載置するステージと、前記汚染物質が溶解した水に前記ペリクル膜を介して赤外光を照射する光源と、を備えるものである。これにより、簡便かつ確実に汚染物質をマスクから分離させることができる。
【0021】
本発明の第12の態様にかかる処理装置は、上記の処理装置であって、前記ペリクル膜と前記マスクと前記ペリクルフレームで囲まれた空間内に有機物を導入して、前記汚染物質が溶解する水の表面張力を低下させているものである。これにより、確実に水の膜を形成することができるため、簡便に汚染物質をマスクから分離させることができる。
【0022】
本発明の第13の態様にかかる処理装置は、上記の処理装置であって、前記マスクを冷却して、前記マスクの表面に水を凝集させる冷却手段をさらに備え、前記凝集した水に赤外光を照射して、前記水とともに汚染物質をマスク表面から取り除くものである。水とともに汚染物質を取り除くことで、確実に汚染物質に対する処理を行うことができる。
【0023】
本発明の第14の態様にかかる処理装置は、上記の処理装置であって、前記冷却手段によって凝集した水の厚さを測定するセンサと、前記センサでの測定結果に応じて、前記光源を制御する制御部と、をさらに備えるものである。水の量に応じて光源を制御しているため、確実かつ簡便に処理することができる。また、効率的に処理することができる。
【0024】
本発明の第15の態様にかかる処理装置は、上記の処理装置であって、前記赤外光が照射される領域の周辺を加熱する加熱手段をさらに備えるものである。これにより、光が照射される領域周辺では水が凝集しないため、効率よく水を凝集させることができる。
【0025】
本発明の第16の態様にかかる処理装置は、上記の処理装置であって、前記水を凝集する前に、表面処理を行って水に対する接触角を低下させることを特徴とするものである。これにより、水の膜厚を均一にすることができるため、効率よく異物を除去することができる。
【0026】
本発明の第17の態様にかかる処理装置は、上記の処理装置であって、前記ペリクルフレームを冷却するペリクルフレーム冷却手段をさらに備え、前記マスク上の汚染物質を、冷却された前記ペリクルフレームに付着させるものである。これにより、マスク上に汚染物質が再付着するのを防ぐことができる。
【0027】
本発明の第18の態様にかかる処理装置は、上記の処理装置であって、前記ペリクル膜、前記ペリクルフレーム、及び前記マスクで囲まれた空間に、前記ペリクルフレームに設けられた供給口から気体を供給する供給手段と、前記ペリクル膜、前記ペリクルフレーム、及び前記マスクで囲まれた空間の気体を前記ペリクルフレームに設けられた排気口から排気する排気手段と、をさらに備えるものである。ペリクルフレームに設けられた供給口、及び排気口を利用しているため、容易に気体の流れを形成することができる。これにより、簡便かつ確実に処理することができる。
【0028】
本発明の第19の態様にかかる処理装置は、上記の処理装置であって、前記供給口から前記空間内に、前記汚染物質が溶解する水の表面張力を低下させるための有機物を導入することを特徴とするものである。これにより、確実に水の膜を形成することができるため、簡便に汚染物質をマスクから分離させることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明は、簡便かつ確実に汚染物質の影響を低減することができる処理装置及び処理方法、並びにそれを用いたパターン基板の製造方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明の実施例について以下に図面を参照して説明する。以下の説明は、本発明の好適な実施例を示すものであって、本発明の範囲が以下の実施例に限定されるものではない。以下の説明において、同一の符号が付されたものを実質的に同様の内容を示している。
【0031】
実施の形態1.
本実施形態にかかる処理装置について図1を用いて説明する。図1は、処理装置の構成を模式的に示す側面図である。処理装置は、ペリクル膜12付きマスク10のパターン面に付着した汚染物質15に対する処理を行う。
【0032】
まず、処理対象となるマスク10の構成について説明する。マスク10は、半導体等の露光工程で使用されるフォトマスクであり、レチクルなどを含むものとする。マスク10上には、露光時に転写されるパターン14が形成されている。このパターン14は、石英などの透明基板上に形成されている。パターン14は、遮光パターンの他、ハーフトーンパターンや、位相シフトパターンなどであってもよい。マスク10のパターン面には、枠状のペリクルフレーム11が装着されている。マスク10のパターン14が形成されている領域を囲むように、ペリクルフレーム11が貼着されている。そして、ペリクルフレーム11のパターン面側と反対側には、ペリクル膜12が設けられている。ペリクルフレーム11を介してマスク10にペリクル膜12が装着される。ペリクルフレーム11の高さが、パターン面からペリクル膜12までの高さ(ペリクル高さ)になる。
【0033】
従って、パターン面上の空間がマスク10、ペリクルフレーム11、及びペリクル膜12で囲まれている。外部から飛来する異物がパターン面に付着するのを防ぐことができる。マスク10、ペリクルフレーム11、及びペリクル膜12で囲まれた空間をペリクル空間とする。処理装置は、ペリクル膜12を装着した後に、マスク上の汚染物質に対して処理を行う。すなわち、汚染物質15の影響を軽減するための処理をペリクル膜越しに行う。具体的には、赤外光を照射することによって、パターン面上の汚染物質15をマスク表面から取り除く。なお、汚染物質15は、水溶性のものである。
【0034】
なお、汚染物質15には、マスク10上で異物として光学的に検出される大きさまで成長する前のものを含むものとする。例えば、硫酸アンモニウムなどの無機物や、微小な有機物が汚染物質となる。このような汚染物質は露光光の照射等によって徐々に成長していき、長時間経過後に異物となる。汚染物質には、光学的に検出することができる異物だけでなく、光学的に検出することが困難である微小な物質が含まれている。すなわち、数μm程度の大きさの異物に限らず、分子レベルまで小さい物質が汚染物質15となる。このような微小な汚染物質15が成長していくと、露光に問題となってしまう。従って、汚染物質15が露光に問題となる大きさに成長する前に、赤外光を照射して汚染物質15をマスク表面から取り除く。あるいは、露光に問題となる大きさの汚染物質15に、赤外光を照射して、汚染物質15をマスク表面から取り除く。汚染物質15が成長して露光に問題となるのを防ぐことができる。露光に対する汚染物質15の影響を軽減することができ、マスク10の寿命を延ばすことができる。
【0035】
次に、処理装置の構成について説明する。処理装置は、ステージ21、光源23、膜厚計39、制御部40、加熱手段26、及び冷却手段27を備えている。ステージ21には、マスク10が載置される。すなわち、マスク10のパターン面と反対面がステージ21に当接する。ステージ21は、中空のXYステージであり、マスク10の端部を支持する。ステージ21を駆動すると、ステージ21上のマスク10が横方向に移動する。すなわち、マスク10がステージ21とともに、パターン面に沿った方向に移動する。そして、光の照射位置を汚染物質15が付着した箇所に位置合わせすることができる。
【0036】
また、マスク10の上方には、光源23が設けられている。光源23としては、COレーザ光源等を用いることができる。特に、マルチモードのTEA(Transversely Excited Atmospheric)COレーザ光源を用いることが好ましい。なお、水に対する吸収係数が高い波長の光を出射する光源であればよい。従って、赤外光を出射する赤外光源を用いることができる。水に対する吸収係数は、図2に示すように長波長側で高くなっている。1μm以上の光を出射する赤外光源を用いることが好ましい。
【0037】
赤外光を用いることで、ペリクル膜12がダメージを受けるのを防ぐことができる。すなわち、ペリクル膜12は、赤外光の吸収係数が小さい。このため、ペリクル膜12が加熱されて、変形、破損するのを防ぐことができる。さらに、ペリクル空間内に光化学生成物が形成されるのを防ぐことができる。すなわち、空気中に含まれる有機汚染物質が存在する場合、これらの有機汚染物質に紫外線を照射すると重合又は分解し、固体物質となることがある。しかしながら、1フォトンのエネルギーが小さい赤外光では、有機汚染物質が固体物質とならない。赤外光を用いることで、新たな異物が発生するのを防ぐことができる。これにより、露光に対する影響を低減することができる。よって、マスク10の寿命を長くすることができる。
【0038】
マスク10の裏面側には、冷却手段27が設けられている。すなわち、マスク10のパターン面と反対側の面に、冷却手段27が設置されている。冷却手段27は、裏面側から、マスク10を冷却する。また、冷却手段27は、汚染物質15が付着した箇所の直下に配置されている。冷却手段27としては、コールドプレート、液体窒素ノズル、ボルテックスチューブなどを用いることができる。そして、冷却手段27がマスク10を冷却することで、汚染物質15、及びその近傍が冷却される。すなわち、汚染物質15箇所が部分的に冷却される。すると、汚染物質15近傍の水分が凝集して、水の膜となる。ペリクル空間内の水分がパターン面上に凝集する。すなわち、マスク10が結露して、パターン面に水の膜が形成される。マスク10のパターン面では、汚染物質15を含む領域に水が付着する。すると、汚染物質15が水に溶解する。汚染物質15が分解している水に赤外光を照射して、水を蒸発させる。
【0039】
すなわち、赤外光照射によって、溶解した汚染物質15を水ともに飛散させる。これにより、汚染物質15が異物として検出される大きさまで成長する前に、汚染物質15を分解させることができる。このように、水溶性の汚染物質15を水に溶解させた状態で、レーザ光を照射する。これにより、汚染物質15を確実に分散させることができる。また、水に対する吸収が高い赤外光を照射している。マスクの透明部分に汚染物質15が付着した場合でも、水に、光エネルギーが吸収される。よって、汚染物質15が水とともに飛散して、確実に汚染物質15を分散させることができる。
【0040】
例えば、汚染物質15が可溶性の無機塩化合物、特に硫酸アンモニウムの場合、汚染物質は容易に水に溶解する。そのため一箇所に局在していてマスク欠陥となる異物サイズであった汚染物質、あるいはマスク欠陥とはならない異物サイズではあるが、複数の箇所に小さな異物として局在していた汚染物質は、固体状態の異物形状から水に溶解した水溶液状態となる。しかも凝集した水の膜全体に広く分散して存在することになる。そして、レーザ光を照射して、溶解した塩を水と共に気化させる。すなわち、レーザ光のエネルギーによって水を高温にして、蒸発させる。通常は水が水蒸気として気化すると共に水に溶解している汚染物質15は再結晶化して再び異物となる。本発明においては、多くの水分子の中に汚染物質がわずかに溶解している水溶液にして、レーザ光強度を水が一瞬で気化するに充分な高いエネルギー密度で照射する。すると、溶解していた汚染物質の多くは水と共に飛散する。飛散した汚染物質の結晶化した異物サイズはきわめて小さいものになる。また、水が蒸発したことでマスク表面で再結晶化する汚染物質の異物サイズも極めて小さい。すなわち、当初、局在していた異物は、極めて小さな異物になった上、マスク表面およびペリクルフレーム、ペリクル膜等に広く分散する。しかもその異物サイズは極めて小さく、マスク欠陥となる恐れはない。そのため、露光工程に問題となることはない。
【0041】
汚染物質15が有機物の場合は、赤外光の照射エネルギーを吸収して、気化したり、より低分子の有機物に分解したりして、汚染物質としては、無害化される場合が多いので、水を凝集させる前に、まず、赤外光を照射することが望ましい。その後、水を凝集させ、無機物や有機物の汚染物質を水と一緒に無害化させる。そして、実施の形態1と同様に、光を照射して、汚染物質15を除去する。本実施の形態では、光エネルギーによって水が急激に加熱される。このとき、汚染物質15が分解するため、露光工程に問題となることはない。また、マスク10を冷却して、汚染物質15の付着箇所に水を形成することで、有機物、及び無機物のいずれの汚染物質15であっても、確実に除去することができる。
【0042】
また、汚染物質15を分解することで、汚染物質15をより小さくすることができる。ペリクル空間中の汚染物質15が再度マスクの表面に付着したとしても、汚染物質15が十分小さくなっていれば、露光に影響することはない。すなわち、赤外光照射によって、汚染物質15を露光に影響がない大きさまで分解することができる。定期的に赤外光を照射することで、汚染物質15が成長して露光に影響する大きさとなる前に、汚染物質をマスクから分離することができる。マスク10からペリクル膜12、及びペリクルフレーム11を取り外して、洗浄する回数を減らすことができる。酸などの薬液を用いた洗浄の洗浄サイクルを延ばすことができる。また、酸などの薬液を用いると長時間経過後に異物が発生してしまうが、洗浄サイクルを延ばすことで、この異物発生を防ぐことができる。このように、赤外光を照射することで、マスク10の長寿命化を図ることができる。
【0043】
さらに、水を付着させる前に、水の表面張力を低下させるための有機物をペリクル空間内に導入することが好ましい。例えば、ペリクルフレーム11に設けられている気体の供給口から、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコールを導入する。すると、水が凝集する際に、水溶性のアルコールが水に取り込まれる。すなわち、有機物を含有する水がマスク10に付着する。この有機物が界面活性剤となって、水の表面張力が低下する。これにより、濡れ性が高くなるので、確実に水の膜を形成することができる。すなわち、マスク10の表面状態によらず、水を付着させることができる。なお、気体の供給口については、後述する実施の形態3に示すような構成を利用することができる。このように、アルコールを含む水の膜を形成することで、確実に汚染物質15を分解させることができる。
【0044】
また、水を付着させる手段は、冷却手段27に限られるものではない。例えば、ペリクル空間内に水蒸気を導入してもよい。すなわち、ペリクルフレーム11に設けられた供給口から湿度の高い気体を供給してもよい。そして、水の表面張力が低下するための有機物をその気体に含有させる。これにより、マスク10に水の膜を確実に形成することができる。
【0045】
水を気化させるための気化エネルギーを光照射によって与えている。従って、水の量に応じて、気化に必要なエネルギーが変化する。すなわち、水の膜厚が厚い場合、照射する光エネルギーが高くなってしまう。そのため、光学的に水の膜厚を測定する膜厚計39を設けている。膜厚計39は、マスク10の上方に配置される。そして、膜厚計39は、ペリクル膜越しに水の膜厚を測定する測定器である。例えば、膜厚計39はペリクル膜12を介して白色光をマスク10に照射する。白色光はパターン面に対して斜めに照射される。膜厚計39は、その反射光を分光して、スペクトルを測定する。膜厚計39の分光検出器は、反射光を検出可能な位置に配置される。非接触で水の厚さを測定することができる。もちろん、膜厚計39は、光源23よりも低パワーの光を照射してる。
【0046】
制御部40は、膜厚計39での測定結果に基づいて、光源23を制御する。すなわち、測定結果に応じて光が照射される。例えば、膜厚計39によって水の膜厚が所定の膜厚になったときに、パルス光を照射する。これにより、水の気化に必要な光エネルギーが一定になる。換言すると、水の気化に必要なエネルギーのパルス光を照射すればよい。これにより、付着した水が完全に気化するため、パターン面には水が残らない。よって、確実に汚染物質15を分解、除去することができる。あるいは、水の膜厚に応じて、パルス光のエネルギーを変えてもよい。パルス光のエネルギーを最適化することができるため、効率よく汚染物質15をすることができる。
【0047】
具体的には、膜厚計39で膜厚を測定しながら、冷却手段27で汚染物質15が付着した箇所を冷却する。こうすることによって、汚染物質15とその近傍に水が形成される。さらに、水が0℃以下になるまで冷却すると、水が凝固して氷になる。ここでは、汚染物質15の溶解に十分な量の水を凝集する。すなわち、一度0℃以下にすることで、十分な量の水を凝集することができる。そして、冷却を停止すると、温度が0℃以上に上昇していく。すなわち、常温に戻っていく間に氷が溶解して、水に変化していく。さらに、0℃以上に保ち、水を徐々に蒸発させる。すなわち、空気中の熱で水が蒸発していく。これにより、水の膜中の塩が濃縮されていく。このように、凝集させた水が凝固して氷となった後、氷が融解するまで待つ。そして、水を徐々に蒸発させていき、水の膜厚を薄くしていく。
【0048】
上記の処理を膜厚計39で膜厚をモニタしながら行なう。そして、膜厚計39での測定された膜厚が100nm程度になったときに、レーザ光を照射する。すなわち、膜厚が100nmよりも厚いときには、レーザ光を照射せず、所定の膜厚(例えば1μm)になったタイミングでレーザ光の照射を開始する。これにより、水が急激に加熱されて、気化する。水とともに、汚染物質15が除去される。このようにすることで、確実に汚染物質15を除去することができる。また、水が残らないため、露光工程に対する影響を低減することができる。もちろん、膜厚計39での測定結果に応じて、照射される光のエネルギーを変えてもよい。すなわち、膜厚に応じてパルス光のパワーを変えるようにしてもよい。また、膜厚に応じて、タイミングとパワーの両方を制御してもよい。水を蒸発させている間では、膜厚の変化速度が小さい。このため、精度よく制御することができる。
【0049】
なお、本実施の形態では、光源23として、水に吸収される光を出射するCOレーザが用いられている。あるいは、Er:YAGレーザやNd:YAGレーザ等を用いてもよい。そして、水に対して吸収係数が大きい、赤外線などを照射する。具体的には、波長1μm〜10μm程度のレーザ光を照射することが好ましい。例えば、水に吸収される10μm帯のレーザ光を照射する。水に吸収される波長の光を用いることで、低パワーのレーザ光で、汚染物質15を分解、除去することが可能になる。よって、パターン14やペリクル膜12に対するダメージを低減することができる。もちろん、ペリクル膜12などに対して吸収の小さい波長を選択してもよい。また、汚染物質15の種類や、汚染物質15の直下のパターン14に関係なく、確実に汚染物質15を除去することができる。パターン14上に汚染物質15が付着している場合は、水に対する吸収係数が大きい波長ではなく、パターン14に対する吸収係数が大きい波長の光を用いてもよい。
【0050】
また、結露により水が付着した領域よりも広い領域にレーザ光を照射することが好ましい。すなわち、冷却する領域よりも広い領域に、パルス光を照射する。これにより、水の付着によって、パターン面に新たなシミが生じるのを防ぐことができる。すなわち、水の膜全体が急激に加熱されて蒸発するため、パターン面上にシミが発生するのを防ぐことができる。これにより、露光に対する影響を軽減することができる。この場合、レーザ光のスポットを所定の大きさに成形して、マスク10に照射する。また、水に対する吸収係数が高い赤外光を用いることで、効率よく、汚染物質15をマスクのパターン面から分離することができる。
【0051】
水に対する吸収係数が高い波長の光を用いているため、効率よく水を気化させることができる。エネルギー密度が低い光を用いることが可能になる。よって、パターン面上での光のエネルギー密度高くするために、レーザ光をレンズで絞り込んで使用する必要がなくなる。すなわち、低エネルギー密度での使用が可能となる。よって、パターン面上における温度上昇を抑制することができ、パターン14の劣化を低減することができる。さらに、レーザ光をパターン面上に集光するためのレンズが不用となり、装置構成を簡素化することができる。汚染物質15が光学的な検出が困難であるほど微小である場合、赤外光をパターン面全面に照射してもよい。すなわち、汚染物質15箇所だけでなく、マスク10全体に光を照射する。こうすることで、確実にパターン面上から汚染物質15を分離することができる。具体的には、ステージ21を駆動することで、赤外光をマスク10全面に照射することが可能になる。この場合、レーザ光を絞り込む必要がないため、速やかにパターン面全面に赤外光を照射することができる。これにより、処理時間を短縮化することができる。スポットが大きいレーザ光を用いることで、基板全面を走査する時間を短縮することができる。この場合、マルチモードのレーザ光源を用いることが好ましい。よって、TEA−COレーザ光源を用いることが好ましい。また、パターン面全面に赤外光を照射する場合、ランプ光源などの他の光源を用いてもよい。
【0052】
さらに、マスク10の裏面側には、加熱手段26が配設されている。加熱手段26は、例えば、ホットプレートなどのヒータであり、裏面側からマスク10を加熱する。加熱手段26は、ペリクル膜12がペリクルフレーム11から剥がれないような温度までマスク10を加熱する。加熱手段26は、マスク10の光が照射される箇所の周辺を加熱する。従って、汚染物質15箇所のみが冷却手段27によって部分的に冷却され、その周辺が加熱手段26で加熱される。レーザ光が照射される領域の外側は加熱される。汚染物質15の周辺の領域では、水が凝集されなくなる。汚染物質の外側部分では、水が付着しなくなる。汚染物質の付着箇所のみに対して、水の膜が形成されるようになる。すなわち、汚染物質15箇所以外では、水が凝集されず、汚染物質15箇所のみに、効率よく水を凝集させることができる。よって、ペリクル空間内の水分を効率よく、凝集させることができる。よって、十分な厚さの水の膜を容易に形成することができる。また、シミの発生を防ぐことができる。
【0053】
上記のように、水が凝固するまで冷却した場合、氷を融解した後に、汚染物質15を水とともに除去することが好ましい。氷が溶解すると、汚染物質15が水に溶解する。汚染物質15が水に溶解した後に、光照射する。こうすることで、汚染物質15の溶解に十分な量の水を凝集することができる。すなわち、十分に低い温度まで冷却することで、凝集する水の膜厚を増加することができる。これにより、汚染物質15の溶解に十分な量の水を容易に得ることができる。あるいは、付着力を十分に低下させることができる。よって、確実に汚染物質15を取り除くことができる。そして、十分な量の水の膜を形成した後、冷却を停止して、徐々に水を蒸発させていく。蒸発させていく途中で所定の膜厚になったタイミングで、レーザ光を照射する。あるいは、水の膜厚に応じたエネルギーのレーザ光を照射する。これにより、汚染物質15を粉々に分解することができる。
【0054】
さらに、水の接触角を小さくするために、表面処理を行ってもよい。例えば、冷却手段27によって冷却する前に、汚染物質15が付着した箇所、あるいは、マスク全面にUV光を照射する。これにより、マスク10表面の濡れ性が変化する。そして、UV照射をした後、冷却して、水を凝集する。このような光洗浄をレーザ光照射の前処理として行うことで、接触角を制御することができる。接触角の小さい水の膜にレーザ光が照射される。もちろん、紫外光以外を用いて接触角を低下させてもよい。表面処理後に赤外光を照射して、水とともに汚染物質15を除去する。この場合、光源23を2つ設けてもよい。すなわち、処理用の光源23と表面処理用の光源23をそれぞれ設けてもよい。あるいは、光源23からの光を波長変換して、両方の処理を行ってもよい。具体的には、表面処理用の光源として、波長172nmのキセノンランプ等を用いることができる。
【0055】
本実施形態にかかる処理装置はペリクル膜が装着されていないマスクに対しても利用することができる。さらには、マスク以外の対象についても利用することができる。すなわち、処理対象となる基板を冷却して、基板上に水の膜を形成する。そして、汚染物質付着箇所に形成された水に対してレーザ光を照射する。このとき、水膜の厚さをモニタすることで、汚染物質15が分解され、確実に汚染物質15の影響を低減することがでできる。水とともに汚染物質15が除去されるため、確実に汚染物質15をマスク10から分離することができる。さらに、水の厚さ、すなわち、凝集した水の量を測定している。そして、その測定結果に応じて、制御部40が光源23を制御している。これにより、適切なタイミングで、適切なエネルギーの光を照射することができる。よって、確実に汚染物質の影響を低減することが可能となる。
【0056】
汚染物質15が沸点の低い物質、あるいは赤外光を吸収することで低分子物質に分解して気化する物質の場合、冷却手段27によって、パターン面上に水の膜を形成しなくてもよい。すなわち、ペリクル膜12を介して、汚染物質15に直接、赤外光を照射する。このようにしても汚染物質15を除去することができる。例えば、汚染物質15が沸点の低い有機物である場合、冷却せずに、処理することが可能である。すなわち、水の膜を形成せずに、有機物からなる汚染物質15にパルスレーザ光を照射すればよい。なお、汚染物質15は赤外光の照射によっては気化しない有機物や無機物である場合もある。この場合、冷却手段27によって汚染物質の周囲に水を凝集させ、水を一気に蒸発させることで、汚染物質をマスク表面から離脱させることが出来る。これにより、確実に汚染物質15の影響を低減することができる。
【0057】
実施の形態2
本実施の形態に係る処理装置について、図3を用いて説明する。図3は、処理装置の構成を模式的に示す上面図である。本実施の形態に係る処理装置には、実施形態1の処理装置に加えて、フレーム冷却手段29が設けれている。なお、フレーム冷却手段29以外の構成については、実施の形態1と同様であるため、説明を省略する。従って、図3では、加熱手段26、及び冷却手段27等の構成を省略して図示している。
【0058】
フレーム冷却手段29は、ペリクルフレーム11を冷却する。例えば、フレーム冷却手段29は、ペリクルフレーム11の外側から冷たい気体を噴出する。フレーム冷却手段29は、冷気を噴出する配管やノズルを有している。フレーム冷却手段29からの冷気は、図3中の矢印のように噴出される。フレーム冷却手段29はペリクルフレーム11全体を冷却している。フレーム冷却手段29からペリクルフレーム11に冷たい気体が噴出され、ペリクルフレーム11の温度が低下する。フレーム冷却手段29は、矩形状のペリクルフレーム11と対向するように設けられている。すなわち、フレーム冷却手段29をペリクルフレーム11の四辺のそれぞれと対向配置されている。これにより、ペリクルフレーム11の外周全体に冷たい空気を噴出することができる。
【0059】
このようにペリクルフレーム11を冷却すると、光照射によって分解された汚染物質15がペリクルフレーム11の付着する。すなわち、冷却されているペリクルフレーム11の内壁面に、分解した汚染物質15がトラップされる。よって、一度取り除かれた汚染物質15がペリクルフレーム11に吸着される。これにより、マスク10の表面に再付着するのを防止することができる。ペリクルフレーム11の内壁面で汚染物質15が成長したとしても、露光に対する影響はない。よって、汚染物質15の影響を低減することができ、マスク10の寿命を延ばすことが可能になる。さらに、ペリクルフレーム11の内壁面が粘着性を有していることが好ましい。こうすることで、付着した汚染物質15が取れるのを防止することができる。なお、ペリクルフレーム11には、水が凝集しないように、冷却することが好ましい。また、本実施の形態では、光源23が赤外光以外の光を照射するものであってもよい。
【0060】
実施の形態3.
本実施の形態にかかる処理装置について、図4を用いて説明する。図4は、処理装置の構成を模式的に示す側面断面図である。本実施の形態にかかる処理装置には、実施の形態1の処理装置に加えて、供給配管31、可変バルブ32、供給手段33、排気管35、可変バルブ36、排気手段37、及びペリクル高さセンサ38が設けられている。
【0061】
さらに、ペリクルフレーム11の側壁には、供給口30、及び排気口34が設けられている。供給口30、及び排気口34は、ペリクルフレーム11の側壁を貫通している。すなわち、供給口30、及び排気口34は、ペリクル空間外からペリクル空間内に到達している。ペリクル空間は、供給口30、及び排気口34を除いて、閉じた空間となる。供給口30からペリクル空間内に気体を供給する。また、排気口34からは、ペリクル空間内の気体を排気する。供給口30には、供給配管31を接続するためのジョイントやフィッティング等が設けられている。また、排気口34には、排気管35を接続するためのジョイントやフィッティング等が設けられている。すなわち、ジョイントなどの接続手段によって、ペリクルフレーム11に各配管を接続する。従って、供給口30、及び排気口34がパージ用のポートとなる。
【0062】
光源23は、実施の形態1と同様のものを用いることができる。あるいは、パルス光を出射するキセノンフラッシュランプ光源などを用いてもよい。また、YAGレーザの高調波や、エキシマレーザ等を用いてもよい。光源23はマスク10のペリクル膜側に配置されている。すなわち、ペリクル膜12を介してマスク10のパターン面上に付着した汚染物質15に光を照射する。よって、ペリクル膜12に影響が小さい波長の光を用いることが好ましい。パルス光がパターン面に付着した汚染物質15に照射される。例えば、レーザアブレーションによって、汚染物質15が反跳して、マスク10から離脱する。すなわち、汚染物質15がパターン面から浮上する。あるいは、汚染物質15が分解して、パターン面から浮上する。
【0063】
そして、マスク10から離脱した汚染物質15を、気体の流れによって、ペリクル空間の外側に排出する。そのため、処理装置には、ペリクル空間に気体を供給する供給手段33と、ペリクル空間内の気体を排気する排気手段37が設けられている。供給手段33は、例えば、ガスボンベ、ガスタンク、又はコンプレッサ等であり、高圧の気体を供給配管31に噴出する。この気体は、供給配管31を通じて、ペリクル空間に供給される。すなわち、供給口30には、供給配管31を介して、供給手段33が接続されている。従って、供給手段33から供給された気体が、供給口30からペリクル空間内に供給される。さらに、供給配管31の途中には、気体の供給量を調整する可変バルブ32が設けられている。この可変バルブ32の開度を調整することで、コンダクタンスが変わり、気体の供給量が調整される。すなわち、ペリクル空間に供給される気体の流量を変化させることができる。例えば、水蒸気を含んだ圧縮給気や窒素などの不活性ガスなどを供給してもよい。窒素などの不活性ガスを用いることで、パターン14の酸化を防ぐことができる。あるいは、圧縮空気などを供給してもよい。また、光源23からの光の吸収が小さい気体とすることが望ましい。なお、供給口30や供給配管31にフィルタ等を設けることで、新たな異物や汚染物質が付着するのを防ぐことができる。
【0064】
さらに、ペリクル空間の気体を排出する排気手段37が排気管35を介して接続されている。排気手段37は、例えば、真空ポンプなどであり、排気管35を通じて、ペリクル空間内の気体をペリクル空間外に排出する。排気管35は、ペリクルフレーム11の側壁に設けられた排気口34に接続されている。そして、排気手段37は、排気口34からペリクル空間内の気体を排気する。さらに、排気管35の途中には、排気量を調整する可変バルブ36が設けられている。この可変バルブ36の開度を調整することで、コンダクタンスが変わり、気体の排気量が調整される。すなわち、ペリクル空間から排気される気体の流量を変化させることができる。なお、排気口34や排気管35に、汚染物質を捕獲するためのフィルタ等を設けてもよい。このように、汚染物質15を排気口34から吸引することで、汚染物質15が成長して異物となるのを防ぐことができる。よって、マスク10の長寿命化を実現することができる。
【0065】
ここで、排気口34はペリクルフレーム11の供給口30が設けられている側壁とは反対側の側壁に形成されている。すなわち、枠状のペリクルフレーム11の対向する2辺の一方に排気口34が形成され、他方に供給口30が形成されている。ここでは、ペリクルフレーム11の右側の側壁に供給口30が形成され、左側の側壁に排気口34が形成されている。従って、排気手段37による排気、及び供給手段33による供給を行うと、ペリクル空間内には、右側から左側へと気体が流れる。すなわち、パターン面に沿った方向に、気体の流れが形成される。これにより、ペリクル空間内の気体を置換することができる。すなわち、ペリクル空間内に最初から存在していた気体が排気され、供給手段33から供給された気体がペリクル空間内に充満する。なお、排気口34と供給口30とは対向する位置に設けることが好ましい。さらに、平面方向において、マスク10の中心に対して点対称な位置に設けてもよい。これにより、付着箇所によらず汚染物質15を確実に除去することができる。もちろん、供給口30、及び排気口34をそれぞれ複数設けてもよい。
【0066】
例えば、排気手段37による排気、及び供給手段33による供給を行いながら、光を汚染物質に照射する。レーザ光を照射して加熱することで、汚染物質がマスク10から分離する。そして、ガス状になってペリクル空間中に分散する。マスク10から離脱した汚染物質15が気体の流れによって、排気口34へと向かう。すなわち、気体が光の光路を横切るように流れているため、マスク10から離脱した汚染物質15が気体によって排気口34まで運ばれる。汚染物質15が排気口34を通じて、ペリクル空間の外側に排出される。これにより、汚染物質15がマスク10に再度、付着するのを防ぐことができる。よって、確実に汚染物質15を除去することができる。
【0067】
さらに、ペリクルフレーム11に供給口30、及び排気口34を設けているため、簡便に気体の流れを形成することができる。すなわち、供給配管31、及び排気管35を容易にペリクルフレーム11に接続することができる。よって、簡便に異物を除去することができる。供給口30、及び排気口34が予め設けられたペリクルフレーム11を用いて、ペリクル膜12をマスク10に取り付けておけばよい。供給口30、及び排気口34には、接続するためのフィッティングを設けておく。供給口30、及び排気口34は、ペリクルフレーム11の高さ方向の中央近傍に配設されている。また、供給配管31、及び排気管35として、可撓性を有する配管を用いることが好ましい。これにより、ステージ21を移動させた場合でも、ペリクルフレーム11に力が加わるのを防ぐことができる。
【0068】
なお、ペリクル膜12は、極めて薄い高分子膜であるため、気体の供給量、及び排気量に応じて、膨らんだり、撓んだりする。すなわち、ペリクル空間内の気圧が高くなると、ペリクル膜12が膨らむ。また、ペリクル空間内の気圧が低くなると、ペリクル膜が撓む。そして、膨らみ量や撓み量が大きくなると、ペリクル膜12が延びてしまう。すなわち、ペリクル空間内の気圧に応じて、ペリクル膜12が変形してしまう。さらに、変形量が大きくなると、ペリクル膜12が破れてしまう場合もある。このような、ペリクル膜12の変形を防ぐために、ペリクル高さセンサ38が設けられている。
【0069】
ペリクル高さセンサ38は、ペリクル膜12の上方に設けられている。そして、ペリクル高さセンサ38は、ペリクル膜12から一定距離離れて固定されている。そして、ペリクル高さセンサ38は光学的にペリクル膜12の高さを測定する。すなわち、ペリクル高さセンサ38は、非接触でペリクル膜12のパターン面からの高さを測定することができる。これにより、ペリクル膜12の膨らみ量をモニタすることができる。そして、このペリクル高さセンサ38での測定結果に応じて、可変バルブ32、及び可変バルブ36の開度を制御する。すなわち、ペリクル高さが所定の高さで一定になるように、可変バルブ32、及び可変バルブ36を制御する。これにより、供給量、及び排気量が調整され、ペリクル膜12のパターン面からの距離が一定になる。
【0070】
このように、ペリクル膜12の膨らみを光学的にモニタすることで、ペリクル膜12が過度に膨らんだり、撓んだりする事を防ぐことができる。よって、ペリクル膜12の変形を防ぐことができる。もちろん、可変バルブ32、及び可変バルブ36の一方のみで、ペリクル高さの調整を行ってもよい。さらには、排気手段37や供給手段33の動作を制御して、排気量、及び供給量を制御してもよい。すなわち、排気手段37の排気速度や、供給手段33の供給速度を変化させて、ペリクル高さを一定にしてもよい。
【0071】
ペリクル空間の外側の気圧を調整して、ペリクル膜12の変形を防いでもよい。この場合、例えば、異物除去装置をチャンバー内に配設する。そして、チャンバー内の気圧を調整する調整手段を設ける。すなわち、チャンバー内の気体の供給量や排気量を制御して、気圧を調整する。ペリクル高さセンサ38での測定結果に応じて、ペリクル空間外の気圧を制御する。ペリクル膜12が膨らんでいるときは、外圧を高くし、撓んでいるときは外圧を低くする。これにより、ペリクル膜12の膨らみ量等を低減することができ、ペリクル膜12の変形を防止することができる。このように、ペリクル空間の中と外の気圧差を調整するようにすればよい。換言すると、ペリクル空間内外の気圧差を調整する調整手段を設ければよい。例えば、チャンバーに対する気体の供給量、及び排気量の少なくとも一方を制御して、気圧差を調整すればよい。そして、ペリクル空間の中と外で同じ気圧にするように、調整する。すなわち、ペリクル膜12で隔てられた空間を同圧にするように、気圧を制御する。これにより、ペリクル膜12の変形を防ぐことができる。
【0072】
その他の実施の形態.
実施形態1〜3で記載した、光の波長などの数値は、好適な一例であり、特に記載した数値に限定されるものではない。また、上記の実施形態1、2を適宜組み合わせて使用してもよい。例えば、実施の形態3の処理装置に対して、冷却手段27、加熱手段26、又は膜厚計39などを設けてもよい。マスク10の裏面側に冷却手段27などを配設する場合、ペリクル膜12側からマスク10に光を照射することが好ましい。このように、実施の形態1、2、3を組み合わせることで、確実に異物を除去することができる。水による汚染物質15の分解が不十分な場合でもあっても、残った汚染物質15がペリクル空間内に排出される。よって、汚染物質に対する処理を確実に行うことができる。また、溶液などを用いずに汚染物質を除去することで、パターンに対する影響を低減することができる。よって、マスク10の長寿命化を実現することができる。
【0073】
上記の処理方法を生産工程に組み込むことで、生産性を向上することができる。すなわち、透明基板上にパターン14を形成して、マスク10を製造する。そのマスク10にペリクルフレーム11を介してペリクル膜12を装着する。ペリクル付きマスク10を検査して、汚染物質15を検出する。そして、ペリクル付きマスク10に対して、上記のように、汚染物質に対する処理を行う。なお、汚染物質を検出しなくてもよい。この場合、例えば、マスク全体に光を照射する。もちろん、実施の形態1の異物除去装置の場合、ペリクル膜を装着しなくてもよい。異物除去を行う場合、マスク10の汚染物質15が付着した箇所に光を照射して、汚染物質15をマスク10から離脱させる。これにより、異物を確実に除去することができ、マスクの生産性を向上することができる。さらに、汚染物質15が除去されたマスク10を用いて露光を行う。これにより、汚染物質15が確実に除去されたマスク10を用いた露光が行われる。よって、半導体などのパターン基板の生産性を向上することができる。また、マスク以外の基板に付着した汚染物質に対して、処理を行ってもよい。これにより、基板上の汚染物質に対する処理を簡便にすることができる。よって、汚染物質の影響を低減するとができる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の実施形態1にかかる処理装置の全体構成を模式的に示す側面断面図である。
【図2】波長と水の吸収係数との関係を示すグラフである。
【図3】本発明の実施形態2にかかる処理装置の全体構成を模式的に示す上面図である。
【図4】本発明の実施形態3にかかる処理装置の全体構成を模式的に示す側面断面図である。
【符号の説明】
【0075】
10 マスク
11 ペリクルフレーム
12 ペリクル膜
14 パターン
15 汚染物質
21 ステージ
23 光源
24 レンズ
26 加熱手段
27 冷却手段
29 フレーム冷却手段
30 供給口
31 供給手段
32 供給配管
33 可変バルブ
34 排気口
35 排気管
36 可変バルブ
37 排気ポンプ
38 ペリクル高さセンサ
39 膜厚計
40 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペリクルフレームを介してペリクル膜が装着されたマスク上の水溶性の汚染物質に対して処理を行う処理方法であって、
前記マスクをステージ上に載置するステップと、
前記汚染物質を水に溶解させるステップと、
前記汚染物質が溶解した水に前記ペリクル膜を介して赤外光を照射するステップと、を備える処理方法。
【請求項2】
前記ペリクル膜と前記マスクと前記ペリクルフレームで囲まれた空間内に有機物を導入して、前記汚染物質が溶解する水の表面張力を低下させている請求項1に記載の処理方法。
【請求項3】
前記マスクを冷却して、前記マスクの表面に水を凝集させるステップをさらに備え、
前記凝集した水に赤外光を照射して、前記水とともに汚染物質をマスク表面から取り除く請求項1、又は2に記載の処理方法。
【請求項4】
前記赤外光が照射される領域の周辺を加熱する請求項3に記載の処理方法。
【請求項5】
前記冷却手段によって水が凝集した領域よりも広い領域に前記赤外光を照射する請求項3、又は4に記載の処理方法。
【請求項6】
前記水を凝集する前に、表面処理を行って水に対する接触角を低下させることを特徴とする請求項3乃至5のいずれか1項に記載の処理方法。
【請求項7】
前記ペリクルフレームを冷却するペリクルフレーム冷却手段をさらに備え、
前記マスク上の汚染物質を、冷却された前記ペリクルフレームに付着させる請求項1乃至6のいずれか1項に記載の処理方法。
【請求項8】
前記ペリクル膜、前記ペリクルフレーム、及び前記マスクで囲まれた空間に、前記ペリクルフレームに設けられた供給口から気体を供給するステップと、
前記ペリクル膜、前記ペリクルフレーム、及び前記マスクで囲まれた空間の気体を前記ペリクルフレームに設けられた排気口から排気するステップと、
前記マスクの前記汚染物質が付着した箇所に光を照射して、前記汚染物質を前記マスクから離脱させるステップと、
前記供給口から供給される気体によって、前記マスクから離脱した汚染物質を前記排気口から吸引するステップと、をさらに備える請求項1乃至7のいずれか1項に記載の処理方法。
【請求項9】
前記供給口から前記空間内に、前記汚染物質が溶解する水の表面張力を低下させるための有機物を導入することを特徴とする請求項8に記載の処理方法。
【請求項10】
マスクにペリクル膜を装着するステップと、
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の処理方法を用いて、前記ペリクル膜が装着されたマスク上の汚染物質に対して処理を行うステップと、を備えるパターン基板の製造方法。
【請求項11】
ペリクルフレームを介してペリクル膜が装着されたマスク上の水溶性の汚染物質に対して処理を行う処理装置であって、
前記マスクを載置するステージと、
前記汚染物質が溶解した水に前記ペリクル膜を介して赤外光を照射する光源と、を備える処理装置。
【請求項12】
前記ペリクル膜と前記マスクと前記ペリクルフレームで囲まれた空間内に有機物を導入して、前記汚染物質が溶解する水の表面張力を低下させている請求項11に記載の処理装置。
【請求項13】
前記マスクを冷却して、前記マスクの表面に水を凝集させる冷却手段をさらに備え、
前記凝集した水に赤外光を照射して、前記水とともに汚染物質をマスク表面から取り除く請求項11、又は12に記載の処理装置。
【請求項14】
前記冷却手段によって凝集した水の厚さを測定するセンサと、
前記センサでの測定結果に応じて、前記光源を制御する制御部と、をさらに備える請求項13に記載の処理装置。
【請求項15】
前記赤外光が照射される領域の周辺を加熱する加熱手段をさらに備える請求項13、又は14のいずれか1項に記載の処理装置。
【請求項16】
前記水を凝集する前に、表面処理を行って水に対する接触角を低下させることを特徴とする請求項13乃至15のいずれか1項に記載の処理装置。
【請求項17】
前記ペリクルフレームを冷却するペリクルフレーム冷却手段をさらに備え、
前記マスク上の汚染物質を、冷却された前記ペリクルフレームに付着させる請求項11乃至16のいずれか1項に記載の処理装置。
【請求項18】
前記ペリクル膜、前記ペリクルフレーム、及び前記マスクで囲まれた空間に、前記ペリクルフレームに設けられた供給口から気体を供給する供給手段と、
前記ペリクル膜、前記ペリクルフレーム、及び前記マスクで囲まれた空間の気体を前記ペリクルフレームに設けられた排気口から排気する排気手段と、をさらに備える請求項1乃至17のいずれか1項に記載の処理装置。
【請求項19】
前記供給口から前記空間内に、前記汚染物質が溶解する水の表面張力を低下させるための有機物を導入することを特徴とする請求項18に記載の処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−44310(P2010−44310A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−209680(P2008−209680)
【出願日】平成20年8月18日(2008.8.18)
【出願人】(000115902)レーザーテック株式会社 (184)
【出願人】(590002172)株式会社プレテック (41)
【Fターム(参考)】