説明

凸版印刷装置及びパターン形成方法、電子デバイスの製造方法、有機EL素子の製造方法

【課題】本発明は欠陥がなく印刷品位の高い、高精細な印刷パターンを形成する凸版印刷機を提供することを目的とする。
【解決手段】回転式の版胴11の周面に発光パターン形成用の凸版が装着されている。定盤14に被印刷基板15が取り付けられている。支持基台13は、版胴11を回転可能に支持し凸版12と被印刷基板15とが接する方向に版胴11または定盤14の一方または双方を相対的に移動可能に支持している。アニロックスロール161は、凸版12の表面にインキを供給する。凸版12の版面12bに塗布されたインキは、凸版12が被印刷基板15と接点をもった時点で被印刷基板15上に転写される。定盤は、凸版12と被印刷基板15の接点(接触点)Pが、版胴11の中心Oを通り水平方向に延在する仮想直線L上または仮想直線Lの上方に位置するように配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶剤に溶解してなるインキを被印刷基板上に印刷することにより高精細なパターンを形成するための印刷機に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機、PDA(携帯情報端末)、モバイルパソコン、車載用ナビゲーションシステム等における表示素子として、薄型、低電力、高輝度表示等の特徴を備える有機EL素子が注目されている。この有機EL素子は、例えば陽極(透明導電膜、ITO膜)と、有機発光体を含有する発光層と、陰極(金属電極)とを透明基板上に積層したものである。
【0003】
有機EL素子の発光層は、通常、低分子有機発光体を真空蒸着させることによって形成される。この場合、蒸着装置の観点から素子の大型化に限界がある。そこで、高分子有機発光体を溶剤に溶解し分散させてインキ化し、公知の印刷方式にて発光層を形成する試みが提案されている(例えば特許文献1参照)。この印刷法は、量産性に優れ、製造コストを低く抑えることが可能であり、具体的な印刷方式としては、オフセット印刷やグラビア印刷等が挙げられている。
【0004】
フレキソ印刷は、ゴム又は樹脂からなるフレキシブルな凸版と、アニロックスロールと呼ばれる表面に細かい凹部が彫刻されたインキ付けロールと、溶剤乾燥型のインキとを用いた印刷方式であり、従来から包装紙等の簡単な印刷物の印刷に広く使用されている。このフレキソ印刷は、特に膜厚が0.01〜0.2μm程度の薄くて安定した印刷層を形成するのに適している。
また、フレキソ印刷は印圧がかかる凸版部に柔軟性があり、更に、キスタッチと呼ばれるごく低印圧での印刷であることから、ガラス基板や高圧をかけることによって特性が破壊される透明電極等が成膜された基板に対する印刷にも適している。このため、有機EL素子の発光層の形成に特に適した印刷方法である。
【0005】
有機EL素子の発光層を印刷する印刷機のインキ供給装置では、インキ溶剤の揮発を抑えるためにインキの供給を密閉系で行い、かつアニロックスロール表面でのインキの乾燥を防ぐためにアニロックスロールの下部周面をインキ壷のインキ溜りに浸漬しつつ回転させ、常にアニロックスロール表面を濡らしておく必要がある。このために、クローズドチャンバーと呼ばれる密閉構造のインキ壷にインキを供給して、その中にアニロックスロールの下部周面を浸漬しつつ回転させ、かつクローズドチャンバーから露出したアニロックスロールの上部周面において、余分なインキをドクターにて掻き取ってフレキソ版上にインキを塗布する方式が用いられていた。
【0006】
また、クローズドチャンバー内のインキ濃度を一定に保つために、定期的に新インキを供給して古いインキを回収する循環機構を設ける方式が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−185352号
【特許文献2】特開2005−59348号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
これまでの機構では、被印刷基板上に異物が発生するといった問題が生じていた。
【0009】
このような問題は、被印刷基板が発塵源である回転式の版胴の下を通過することに原因があると突き止めた。
【0010】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたもので、その目的は、画素欠陥のない、高精細な印刷パターンを形成することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明は、回転式の版胴と、前記版胴の周面に取り付けられる凸版と、被印刷基板が取り付けられる定盤と、前記版胴を回転可能に支持し前記凸版と前記被印刷基板とが接する方向に前記版胴または前記定盤の一方または双方を相対的に移動可能に支持する支持基台と、前記凸版の表面にインキを供給するアニロックスロールと、前記アニロックスロールにインキを供給するためのクローズドチャンバーとを備え、前記凸版を介して前記被印刷基板に微細パターンを印刷する印刷機において、前記定盤は、前記凸版と前記被印刷基板の接点が、前記版胴の中心を通り水平方向に延在する仮想直線上または前記仮想直線の上方に位置するように配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の印刷機においては、被印刷基板が回転式の版胴の下を通過しないために、被印刷基板上に異物がのるといった問題を解消し、画素欠陥のないパネルを製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】有機EL素子の構成例を示す概略図である。
【図2】本発明にかかる有機EL用印刷機を有機EL表示素子の発光層印刷に好適なフレキソ印刷機に適用した場合のフレキソ印刷機の全体構成を示す概略図である。
【図3】本実施の形態における印刷機のインキ転写時の動作を示す概略図である。
【図4】有機ELディスプレイの表示状態の評価結果である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明にかかる印刷機の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、本発明にかかる印刷機は、以下に説明する実施の形態に限定されるものではない。
まず、本発明の実施の形態におけるフレキソ印刷機の全体構成について説明する。
この実施の形態に示すフレキソ印刷機は、図2及び図3に示すように、回転式の版胴11と、版胴11の周面に装着された発光パターン形成用の凸版(フレキソ版)12と、支持基台13と、定盤14と、定盤14に取り付けられた被印刷基板15と、アニロックスロール161と、クローズドチャンバー162と、インキ供給手段16と、インキ補充手段17とを備える。
支持基台13は、版胴11を回転可能に支持し凸版12と被印刷基板15とが接する方向に版胴11または定盤14の一方または双方を相対的に移動可能に支持するものである。
本実施の形態では、版胴11の位置は固定され、定盤14が水平方向に直線移動される。
アニロックスロール161は、凸版12の表面(版面12b)にインキを供給するものである。
凸版12の版面12bに塗布されたインキは、凸版12が被印刷基板15と接点をもった時点で被印刷基板15上に転写される。
クローズドチャンバー162は、アニロックスロール161にインキを供給するものである。
インキ供給手段16はクローズドチャンバー162に発光層用のインキを供給するものである。
インキ補充手段17はインキ供給手段16にインキを定期的に補充するものである。
【0015】
そして、定盤は、図3に示すように、凸版12と被印刷基板15の接点(接触点)Pが、版胴11の中心Oを通り水平方向に延在する仮想直線L上または仮想直線Lの上方に位置するように配置されている。
言い換えると、凸版12の表面のインキパターンの被印刷基板15への転写が、凸版12と被印刷基板15の接点Pを、版胴11の中心Oを通り水平方向に延在する仮想直線L上または仮想直線Lの上方に位置させた状態で行なわれるように構成されている。
このような構成とすることにより、印刷部が版胴11の可動部よりも常に上側に位置しているために、印刷機の動作によって生じる塵埃が印刷物に落下し、異物が混入することを防ぐことができる。
本実施の形態では、版胴11はその軸心が水平方向に延在しており、接点Pは、版胴11の最上位に位置する凸版12の箇所と、被印刷基板15の下方に向けられ水平面上を延在する被印刷面との接触点となっており、定盤14は水平方向に移動される。
【0016】
また、インキ供給手段16は、凸版12と被印刷基盤15との接触点Pから版胴11の回転方向と反対の方向に90°の角度範囲内に位置して版胴11の回転軸線と平行にかつ凸版12の版面12bと接触するように配置され発光層用のインキ10を凸版12の版面12bに供給するアニロックスロール161と、このアニロックスロール161の全周面のうちの下方に位置する周面部分を浸漬状態に維持するクローズドチャンバー162を備える構成になっている。
前記アニロックスロール161と凸版12とが当接する位置は、インキ供給手段16が定盤14及び基板15と干渉しない限り、出来るだけ版胴11の直下、すなわち版胴11の回転に伴い凸版12と被印刷基板15との接触点Pに近い方が、凸版15へのインキ供給位置から接触点Pまでの間の距離を短くできると同時に凸版12の版面12bにインキが塗布されている時間が短くなるため有利である。
【0017】
前記アニロックスロール161は版胴11の周速と同一の周速で回転されるものであり、このアニロックスロール161の外周面には、図3に示すように、インキを保持するための細かいレリーフ(凹部)161aが彫刻されている。
アニロックスロール161と版胴11との周速を同一にする理由は、アニロックスロール161の外周面にレリーフ161aが彫刻されているため、版胴12との周速が異なると凸版12の版面12bにダメージを与えるのを防止するためである。
【0018】
前記インキ補充手段17は、インキタンク171及びインキ補充ポンプ172を備え、このインキタンク171とクローズドチャンバー162との間はインキ補充ポンプ172を介してインキ補充用チューブ173により接続されている。そして、インキ補充ポンプ172を印刷回数に応じて定期的に駆動することによりクローズドチャンバー162にインキタンク173からインキを供給し、クローズドチャンバー162のインキ量や粘度を一定に維持できるようになっている。また、逆にクローズドチャンバー162のインキを吸い出す機構も設けて、クローズドチャンバー162のインキを交換できるようになっている。
【0019】
次に、本発明の印刷機のパターン形成方法について図2及び図3を用いて説明する。
被印刷基板15へのインキ転写に際しては、図2に示すように、インキを転写される被印刷基板15は定盤14に固定され、この被印刷基板15は凸版12の接線上を移動する。これと同時に版胴11は定盤14の移動速度と同じ周速で回転する。
この時、版胴11に設置された凸版12は、版胴11の回転に伴ってアニロックスロール161と当接し、アニロックスロール161表面のレリーフ161a内のインキが凸版12の版面12bに塗布される。
その後、凸版12の版面12bに塗布されたインキは、凸版12が被印刷基板15と接点をもった時点で被印刷基板15上に転写される。これにより、インキ供給手段16から凸版12へのインキ10の転移と凸版12から被印刷基板15へのインキ10の転写を同時に行うことができる。
【0020】
上記フレキソ印刷機の印刷において、クローズドチャンバー162から露出したアニロックスロール161の表面は乾燥し易く、レリーフ161a内のインキが固まると、インキ供給量にムラが生じる。このため、アニロックスロール161の表面を周期的にインキ溜り162aに浸漬して濡らしておくように、インキ転写時以外の待機時間もアニロックスロール161の回転を続けるのが望ましい。そこで、インキ転写時以外で凸版12の版面12bにインキを塗布しないように、アニロックスロール161もしくはインキ供給手段16全体が、版胴11から退避する機構を設けると良い。または、凸版12が設置されていない版胴11の面をアニロックスロール161に当接されない形状に構成し、待機時間中は、この当接されない形状部分をアニロックスロール161に対面させる方式にするか、あるいは版胴11を昇降できる構成にし、インキ転写時以外の待機時間中は版胴11を上昇させて凸版12をアニロックスロール161から離間し、インキ転写時は版胴11を下降して凸版12をアニロックスロール161と当接する方式などであってもよい。また、本実施の形態では、版胴11が固定され、定盤14が移動する方式について説明したが、本発明はこれに限らず、定盤14が固定され、版胴11とインキ供給手段16が移動する方式でも同様にインキの転写ができる。
本発明の、パターン形成方法によれば、版胴11の回転軸(中心)おに対して、凸版12表面と被印刷基板15の接触する接触面が常に上側の状態でインキが転写されるため、版胴11の回転に伴うインキ塗膜への異物の混入を抑制できる。
【0021】
以上のように、本発明の印刷機及びパターン形成方法を用いれば、印刷機に起因する塵埃によるパターンの汚染を抑制し、異物の少ないパターンを形成することができる。したがって、有機EL素子や有機薄膜トランジスタ、有機太陽電池などの電子機能デバイスに含まれる層(機能層)等の異物に敏感な印刷物に対して特に有効であり、電子材料を含む塗工液を用いて印刷法にて形成する場合に適用することができる。
【0022】
以下、本発明の実施の形態を、パッシブマトリックスタイプの有機EL素子に適用した例について説明する。有機EL素子の駆動方法としては、パッシブマトリックスタイプとアクティブマトリックスタイプがあるが、本発明の有機EL素子はパッシブマトリックス方式の有機EL素子、アクティブマトリックス方式の有機EL素子のどちらにも適用可能である。
パッシブマトリックス方式とはストライプ状の電極を直交させるように対向させ、その交点を発光させる方式であるのに対し、アクティブマトリックス方式は画素毎にトランジスタを形成した、いわゆる薄膜トランジスタ(TFT)基板を用いることにより、画素毎に独立して発光する方式である。
この有機EL素子が基板側から光を取り出すボトムエミッション方式の有機EL素子とする場合には、基板として透明なものを使用する必要があるが、基板と反対側から光を取り出すトップエミッション方式の場合は、基板は透光性を有する必要はない。
基板1としては、ガラス基板やプラスチック製のフィルムまたはシートを用いることができる。プラスチック製のフィルムを用いれば、巻取りにより高分子EL素子の製造が可能となり、安価にディスプレイパネルを提供できる。また、その場合のプラスチックとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ポリアミド、ポリエーテルスルホン、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート等を用いることができる。また、これらのフィルムは水蒸気バリア性、酸素バリア性を示す酸化ケイ素といった金属酸化物、窒化ケイ素といった酸化窒化物やポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体鹸化物からなるバリア層が必要に応じて設けられる。
【0023】
また、基板1の上には陽極としてパターニングされた画素電極2が設けられる。画素電極2の材料としては、ITO(インジウム錫複合酸化物)、IZO(インジウム亜鉛複合酸化物)、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化アルミニウム複合酸化物等の透明電極材料が使用できる。なお、低抵抗であること、耐溶剤性があること、透明性があることなどからITOが好ましい。ITOはスパッタ法により基板上に形成されフォトリソ法によりパターニングされライン状の画素電極2となる。
そして、このライン状の画素電極2を形成後、隣接する画素電極の間に感光性材料を用いて、フォトリソグラフィ法により絶縁層3が形成される。
【0024】
本実施の形態における絶縁層3は、厚みが0.5umから5.0umの範囲にあることが望ましい。また、絶縁層を隣接する画素電極間に設けることによって、各画素電極上に印刷された正孔輸送インキの広がりを抑え、ディスプレイ化した際に正孔輸送層が絶縁層上にあることによるリーク電流の発生を防ぐことができる。なお、絶縁層が低すぎるとインキの広がりを防止できずに絶縁層上に正孔輸送層が形成されることとなる。
【0025】
また、例えばパッシブマトリックスタイプの有機EL素子において、画素電極の間に絶縁層を設けた場合、絶縁層を直行して陰極層を形成することになる。このように絶縁層をまたぐ形で陰極層を形成する場合、絶縁層が高すぎると陰極層の断線が起こってしまい表示不良となる。絶縁層の高さが5.0μmを超えると陰極の断線が起きやすくなってしまう。
【0026】
また、絶縁層を形成する感光性材料としてはポジ型レジスト、ネガ型レジストのどちらであってもよく、市販のもので構わないが、絶縁性を有する必要がある。なお、隔壁が十分な絶縁性を有さない場合には隔壁を通じて隣り合う画素電極に電流が流れてしまい表示不良が発生してしまう。具体的にはポリイミド系、アクリル樹脂系、ノボラック樹脂系、フルオレン系といったものが挙げられるが、これに限定するものではない。また、有機EL素子の表示品位を上げる目的で、光遮光性の材料を感光性材料に含有させても良い。
【0027】
また、絶縁層3を形成する感光性樹脂はスピンコーター、バーコーター、ロールコーター、ダイコーター、グラビアコーター等の塗布方法を用いて塗布され、フォトリソ法によりパターニングされる。また、感光性樹脂を用いずにグラビアオフセット印刷法、反転印刷法、フレキソ印刷法等を用いて絶縁層を形成してもよい。
【0028】
以上のようにして絶縁層3を形成した後、次に正孔輸送層4を形成する。正孔輸送層4を形成する正孔輸送材料としては、ポリアニリン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリビニルカルバゾール(PVK)誘導体、ポリ(3,4―エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)等が挙げられる。これらの材料は溶媒に溶解または分散させ、正孔輸送材料インキとなり、本実施の形態による凸版印刷方法を用いて形成される。その場合、選択される正孔輸送材料は、発光材料との相性が重要で、前記正孔輸送材料は、発光材料とのイオン化ポテンシャル(IP)の差が0.2eV以下であることが重要である。なお、形成される正孔輸送層の体積抵抗率は発光効率の点から1x106 Ω・cm以下のものが好ましい。
【0029】
また、正孔輸送材料を溶解または分散させる溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、酢酸メチルセロソルブ、酢酸エチルセロソルブ、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、乳酸エチル、エチレングリコールジエチルエーテル、1−プロパノール、メトキシプロパノール、エトキシプロパノール、水等の単独またはこれらの混合溶媒などが挙げられる。また、必要に応じて、界面活性剤、酸化防止剤、粘度調整剤、紫外線吸収剤等が添加されていても良い。
【0030】
また、正孔輸送層インキの粘度としては5〜100mPa・sであることが好ましい。これは、本実施の形態で用いる凸版印刷法ではアニロックスから凸版上へのインキの転写が最初に行われるが、100mPa・s以上の粘度ではアニロックスから凸版上へインキが転写した後、凸版上で十分インキがレベリングせず、ムラの原因になる。また、5mPa・s以下では、画素内ではじきムラが発生しやすく、ムラの原因になる。
【0031】
また、正孔輸送層インキの固形分濃度としては0.5〜4.0%であることが好ましい。これは、本実施の形態で用いる正孔輸送インキでは、4.0%以上の濃度ではインキの安定性が悪くなり、インキ凝集や正孔輸送層のムラの原因になる。
【0032】
次に、以上のような正孔輸送層4の形成後、有機発光層5を形成する。有機発光層は電流を通すことにより発光する層であり、有機発光層を形成する有機発光材料は、例えば、クマリン系、ペリレン系、ピラン系、アンスロン系、ポルフィレン系、キナクリドン系、N,N’−ジアルキル置換キナクリドン系、ナフタルイミド系、N,N’−ジアリール置換ピロロピロール系、イリジウム錯体系等の発光性色素をポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルカルバゾール等の高分子中に分散させたものや、ポリアリーレン系、ポリアリーレンビニレン系やポリフルオレン系の高分子材料が挙げられる。
【0033】
これらの有機発光材料は溶媒に溶解または安定に分散させ有機発光インキとなる。有機発光材料を溶解または分散する溶媒としては、トルエン、キシレン、アセトン、アニソール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等の単独またはこれらの混合溶媒が挙げられる。中でも、トルエン、キシレン、アニソールといった芳香族有機溶剤が有機発光材料の溶解性の面から好適である。また、有機発光インキには、必要に応じて、界面活性剤、酸化防止剤、粘度調整剤、紫外線吸収剤等が添加されても良い。
【0034】
有機発光層5の形成方法としては、凸版印刷法を用いる場合は、有機発光インキに適した樹脂凸版を使用することができ、中でも水現像タイプの感光性樹脂凸版が好適である。
【0035】
また、有機発光インキの粘度としては5〜100mPa・sであることが好ましい。これは、本実施の形態で用いる凸版印刷法ではアニロックスから凸版上へのインキの転写が最初に行われるが、100mPa・s以上の粘度ではアニロックスから凸版上へインキが転写した後、凸版上で十分インキがレベリングせず、ムラの原因になる。また、5mPa・s以下では、画素内ではじきムラが発生しやすく、ムラの原因になる。
【0036】
次に、以上のような有機発光層5の形成後、陰極層6を画素電極のラインパターンと直交するラインパターンで形成する。この陰極層6の材料としては、有機発光層の発光特性に応じたものを使用でき、例えば、リチウム、マグネシウム、カルシウム、イッテルビウム、アルミニウムなどの金属単体やこれらと金、銀などの安定な金属との合金などが挙げられる。また、インジウム、亜鉛、錫などの導電性酸化物を用いることもできる。陰極層の形成方法としてはマスクを用いた真空蒸着法による形成方法が挙げられる。
【0037】
なお、本実施の形態の有機EL素子は、陽極である画素電極と陰極層の間に陽極層側から正孔輸送層と有機発光層を積層した構成であるが、陽極層と陰極層の間において正孔輸送層、有機発光層以外に正孔ブロック層、電子輸送層、電子注入層といった層を必要に応じ選択した積層構造をとることができる。また、これらの層を形成する際にも本発明の形成方法を使用できる。
【0038】
最後に、これらの有機EL構成体を、外部の酸素や水分から保護するために、ガラスキャップ7と接着剤8を用いて密閉封止し、有機EL素子を得ることができる。また、基板が可撓性を有する場合には、封止剤と可撓性フィルムを用いて封止を行っても良い。
【実施例】
【0039】
(実施例1)
次に、本発明の実施例について説明する。
ここでは、以下のような実施例1と比較例1について試作と測定を行った。まず、300mm角のガラス基板の上に、スパッタ法を用いてITO(インジウム-錫酸化物)薄膜を形成し、フォトリソ法と酸溶液によるエッチングでITO膜をパターニングして、対角5インチサイズのディスプレイが2面取れるように画素電極を形成した。ディスプレイ1面当たりの画素電極のラインパターンは、線幅40μm、スペース20μmでラインが1950ライン形成されるパターンとした。
【0040】
次に絶縁層を以下のように形成した。まず、画素電極を形成したガラス基板上にポリイミド系のレジスト材料を全面スピンコートした。スピンコートの条件を150rpmで5秒間回転させた後、500rpmで20秒間回転させ1回コーティングとし、絶縁層の高さを1.5μmとした。全面に塗布したフォトレジスト材料に対し、フォトリソ法により画素電極の間にラインパターンを有する絶縁層を形成した。
【0041】
次に、正孔輸送インキとしてPEDOT溶液であるバイトロンCH−8000を用いて調液しインキの固形分濃度1.5%、粘度15mPa・S、蒸気圧1.1kPaのインキを用意した。インキ及び版を用いて湿度45%、温度25℃の条件下において、スリット法にて基板全面に正孔輸送層を形成した。その後、画素領域外の不要部をウエスで拭き取り、200°C、30分大気中で乾燥を行い正孔輸送層を形成した。このときの膜厚は50nmとなった。
【0042】
次に、有機発光材料であるポリフェニレンビニレン誘導体をトルエンに溶解させて、濃度2%粘度50mPa・sの有機発光インキを、絶縁層に挟まれた画素電極の真上にそのラインパターンにあわせて有機発光層を凸版印刷法で印刷を行った。
その際の印刷は、版胴11の軸心が水平方向に延在しており、接点Pは、版胴11の最上位に位置する凸版12の箇所と、定盤14に吸着された被印刷基板15の下方に向けられた面との接触点となっており、版胴11を回転させ定盤14を水平方向に移動することによって行なった。
このとき750線/インチのアニロックスロール及び水現像タイプの感光性樹脂版を使用した。この結果、印刷、乾燥後の有機発光層の膜厚は80nmとなった。
【0043】
同様にして、連続的に有機発光層の印刷を100回繰り返し形成した。そして、100回目に形成された有機発光層に対し、異物の個数の確認を行った。
【0044】
その上にCa、Alからなる陰極層を画素電極のラインパターンと直交するようなラインパターンで抵抗加熱蒸着法によりマスク蒸着して形成した。最後にこれらの有機EL構成体を、外部の酸素や水分から保護するために、ガラスキャップと接着剤を用いて密閉封止し、有機ELディスプレイパネルを作製した。これにより得られた有機ELディスプレイパネルの表示部の周辺部には各画素電極に接続されている陽極側の取り出し電極と、陰極側の取り出し電極があり、これらを電源に接続することにより、得られた有機ELディスプレイパネルの点灯表示確認を行い、異物起因で発生するダークスポットの個数を数えた。
[比較例1]
定盤を版胴の直下支持基台上に版胴の回転軸線と直角な水平方向に移動可能に設置させた以外は実施例1と同様とした。
【0045】
以上のような実施例1及び比較例1でのパネル内に見られる異物の数を比較した評価結果を図4に示している。図示のように、比較例に比べて本発明の実施例で良好な結果が得られることが分かる。
【符号の説明】
【0046】
1……基板、2……画素電極、3……絶縁層、4……正孔輸送層、5……有機発光層、6……陰極層、7……ガラスキャップ、8……接着剤、10……インキ、11……版胴、12……凸版、P……凸版と被印刷基板との接触点、12b……版面、13……支持基台、14……定盤、15……被印刷基板、16……インキ供給手段、161……アニロックスロール、161a……レリーフ(凹部)、162……クローズドチャンバー、17……インキ補充手段、171……インキタンク、172……インキ補充ポンプ、173……インキ供給用チューブ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転式の版胴と、前記版胴の周面に取り付けられる凸版と、被印刷基板が取り付けられる定盤と、前記版胴を回転可能に支持し前記凸版と前記被印刷基板とが接する方向に前記版胴または前記定盤の一方または双方を相対的に移動可能に支持する支持基台と、前記凸版の表面にインキを供給するアニロックスロールと、前記アニロックスロールにインキを供給するためのクローズドチャンバーとを備え、前記凸版を介して前記被印刷基板に微細パターンを印刷する印刷機において、
前記定盤は、前記凸版と前記被印刷基板の接点が、前記版胴の中心を通り水平方向に延在する仮想直線上または前記仮想直線の上方に位置するように配置されている、
ことを特徴とする印刷機。
【請求項2】
前記版胴の軸心は水平方向に延在しており、
前記被印刷基板の被印刷面は水平面上に位置して下方に向いており、
前記接点は、前記版胴の最上位に位置する前記凸版の箇所と前記被印刷面との接点である、
請求項1記載の印刷機。
【請求項3】
回転式の版胴の周面に取り付けられた凸版の表面にインキを供給し、前記版胴を回転させることにより被印刷基板に前記凸版の表面のインキのパターンを転写するパターン形成方法であって、
前記転写を、前記凸版と前記被印刷基板の接点を前記版胴の中心を通り水平方向に延在する仮想直線上または前記仮想直線の上方に位置させた状態で行なう、
ことを特徴とするパターン形成方法。
【請求項4】
基板の上に互いに異なる複数層を積層しそれら複数層のうち少なくとも1層を印刷法で形成した電子機能デバイスの製造方法であって、
請求項3に記載のパターン形成方法により前記1層を形成したことを特徴とする電子機能デバイスの製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の電子機能デバイスの製造方法において、前記電子機能デバイスが、有機EL素子であることを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【請求項6】
前記パターン形成方法により形成される1層が、発光層であることを特徴とする請求項4に記載の有機EL素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−228202(P2010−228202A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−76738(P2009−76738)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】