分光センサー及び角度制限フィルター
【課題】分光センサー及び角度制限フィルターを小型化する。また、任意の傾斜角度を有する光路を含む角度制限フィルターを製造する。
【解決手段】角度制限フィルターは、第1の開口部を有する第1の遮光層と、第2の開口部を有し、第1の遮光層の上方に位置する第2の遮光層と、を含み、第2の遮光層の上方から見て第1の開口部と第2の開口部とが一部重なり、且つ、ずれた位置に有するように、第1及び第2の遮光層が配置されている。分光センサーは、角度制限フィルターと、波長制限フィルターと、受光素子とを具備する。
【解決手段】角度制限フィルターは、第1の開口部を有する第1の遮光層と、第2の開口部を有し、第1の遮光層の上方に位置する第2の遮光層と、を含み、第2の遮光層の上方から見て第1の開口部と第2の開口部とが一部重なり、且つ、ずれた位置に有するように、第1及び第2の遮光層が配置されている。分光センサーは、角度制限フィルターと、波長制限フィルターと、受光素子とを具備する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分光センサー及び角度制限フィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
医療や農業、環境等の分野では、対象物の診断や検査をするために分光センサーが用いられている。例えば、医療の分野では、ヘモグロビンの光吸収を利用して血中酸素飽和度を測定するパルスオキシメーターが用いられる。また、農業の分野では、糖分の光吸収を利用して果実の糖度を測定する糖度計が用いられる。
【0003】
下記の特許文献1には、干渉フィルターと光電変換素子との間を光学的に接続する光ファイバーによって入射角度を制限することにより、光電変換素子への透過波長帯域を制限する分光イメージングセンサーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−129908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の分光センサーでは、小型化が困難であるという課題がある。そのため、センサーを所望箇所に多数設置したり、常時設置しておいたりすること等が困難となってしまう。
【0006】
本発明は、以上のような技術的課題に鑑みてなされたものである。本発明の幾つかの態様は、分光センサー及び角度制限フィルターを小型化することに関連している。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の幾つかの態様において、角度制限フィルターは、第1の開口部を有する第1の遮光層と、第2の開口部を有し、第1の遮光層の上方に位置する第2の遮光層と、を含み、第2の遮光層の上方から見て第1の開口部と第2の開口部とが一部重なり、且つ、ずれた位置に有するように、第1及び第2の遮光層が配置されている。
この態様によれば、遮光層によって光路を形成する構成により、微細なパターンの形成が可能であり、小型の角度制限フィルターの製造が可能となる。また、第1の開口部と第2の開口部とが一部重なり、且つ、ずれた位置に有するように配置することにより、任意の傾斜角度を有する光路を含む角度制限フィルターの製造が可能となる。
【0008】
上述の態様において、第3の開口部を有し、第2の遮光層の上方に位置する第3の遮光層をさらに含み、第1の開口部と第2の開口部との位置のずれ量と、第2の開口部と第3の開口部との位置のずれ量とが略同一であることが望ましい。
これによれば、光路の湾曲を低減し、角度制限フィルターによる入射角度の選択特性を向上することができる。
【0009】
上述の態様において、第1及び第2の開口部の大きさが略同一であることが望ましい。
これによれば、光路の湾曲を低減し、角度制限フィルターによる入射角度の選択特性を向上することができる。
【0010】
上述の態様において、第1及び第2の遮光層は、アルミニウムより反射率の低い物質によって構成されることが望ましい。
これによれば、光の反射率が低い物質によって遮光層を構成することにより、光路の壁面に当たって光路内を通過する光を低減できるので、小型の角度制限フィルターであっても、制限角度範囲を超える入射角の光が光路内を通過しにくいようにすることができる。
【0011】
上述の態様において、第1及び第2の遮光層が、半導体基板の上方に形成されており、半導体基板の上方における第1及び第2の遮光層を囲む領域に、第1の金属層及び第2の金属層が絶縁層を介して積層されていることが望ましい。
これによれば、半導体回路上の配線層を構成する複数の金属層を、第1及び第2の遮光層を囲む領域に形成することにより、光路内に金属層からの反射光が入射することを抑制できるので、制限角度範囲を超える入射角の光が光路内を通過しにくいようにすることができる。
【0012】
上述の態様において、第1及び第2の遮光層が、導電体によって形成され、それぞれ第1及び第2の金属層と電気的に接続されていることが望ましい。
これによれば、第1及び第2の遮光層と第1及び第2の金属層とが電気的に接続されることにより、第1及び第2の遮光層を電気回路の一部として用いることができる。
【0013】
本発明の他の態様において、分光センサーは、上述の角度制限フィルターと、角度制限フィルターを通過できる光の波長を制限する波長制限フィルターと、角度制限フィルター及び波長制限フィルターを通過した光を検出する受光素子と、を具備する。
この態様によれば、上述の角度制限フィルターを用いるので、小型の分光センサーの製造が可能となる。また、波長制限フィルターを傾斜させるための傾斜構造体を形成しなくても、角度制限フィルターの光路を傾斜させることによって、透過光の波長を選択することができる。
なお、上方とは、基板の表面を基準として裏面に向かう方向とは反対の方向を意味する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1の実施形態に係る角度制限フィルター及び分光センサーを示す図。
【図2】第1の実施形態に係る角度制限フィルターの形成工程を示す図。
【図3】第1の実施形態に係る角度制限フィルターの形成工程を示す図。
【図4】第1の実施形態に係る角度制限フィルターの形成工程を示す図。
【図5】第1の実施形態に係る角度制限フィルターの形成工程を示す図。
【図6】第1の実施形態に係る角度制限フィルターの形成工程を示す図。
【図7】第1の実施形態に係る角度制限フィルターの形成工程を示す図。
【図8】第1の実施形態に係る角度制限フィルターの形成工程を示す図。
【図9】第1の実施形態に係る角度制限フィルターの形成工程を示す図。
【図10】第1の実施形態に係る角度制限フィルターの形成工程を示す図。
【図11】第2の実施形態に係る角度制限フィルターを示す模式図。
【図12】第3の実施形態に係る角度制限フィルターを示す模式図。
【図13】第4の実施形態に係る角度制限フィルターを示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。また同一の構成要素には同一の参照符号を付して説明を省略する。
【0016】
<1.第1の実施形態>
図1は、本発明の第1の実施形態に係る角度制限フィルター及び分光センサーを示す模式図である。図1(A)は分光センサーの平面図、図1(B)は図1(A)のB−B線断面図である。
分光センサー1は、角度制限フィルター10と、波長制限フィルター20と、受光素子30とを具備している(図1(B)参照)。図1(A)においては、波長制限フィルター20を省略している。
【0017】
分光センサー1が形成される半導体基板としてのP型シリコン基板3には、受光素子30に所定の逆バイアス電圧を印加したり、受光素子30において発生した光起電力に基づく電流を検知し、当該電流の大きさに応じたアナログ信号を増幅してデジタル信号に変換したりする電子回路40が形成されている(図1(A)参照)。この電子回路40を構成する半導体素子に、図示しない配線用の複数のアルミニウム(Al)合金層が接続されることにより、電子回路40の半導体素子間の電気的接続や電子回路40の外部との電気的接続が行われている。
【0018】
複数のアルミニウム合金層の間には、図示しない導電プラグが接続されている。この導電プラグは、導電プラグを配置した箇所において、上下のアルミニウム合金層間を電気的に接続するものである。
【0019】
<1−1.角度制限フィルター>
図1(B)に示すように、角度制限フィルター10は、受光素子30が形成されたP型シリコン基板3上に形成されている。本実施形態の角度制限フィルター10においては、電子回路40上の導電プラグと同じプロセスにより形成した遮光体からなる複数の遮光層13a〜13dによって、光路を画成する壁部が形成されている。遮光層13a〜13dの各々は、少なくとも1つの開口部15を有している。遮光層13a〜13dは、タングステン(W)によって構成されているが、タングステンに限らず、受光素子30によって受光しようとする波長の光の反射率がアルミニウムの反射率より低い物質、例えば銅、窒化チタン、チタンタングステン、チタン、タンタル、窒化タンタル、クロム、モリブデンによって構成されていても良い。
【0020】
また、P型シリコン基板3上には、電子回路40上のアルミニウム合金層と同じ多層配線プロセスにより形成した複数の金属層としてのアルミニウム合金層11a〜11eが、それぞれ透光性(受光素子30によって受光しようとする波長の光に対する透光性を言う。以下同じ)を有する絶縁層としての酸化シリコン(SiO2)層12a〜12fを介して積層されている。なお、金属層として、アルミニウム合金層11a〜11eに限られず、銅(Cu)合金層が形成されても良い。
【0021】
遮光層13a〜13dは、受光素子30によって受光しようとする波長の光を実質的に透過しない材料によって構成され、P型シリコン基板3上に、例えば格子状の所定パターンで複数層にわたって連続的に形成される。これにより、遮光層13a〜13dの各々に形成された開口部15の少なくとも一部が互いに重なる。遮光層13a〜13dの各々に形成された開口部15によって、遮光層13a〜13dの積層方向に沿った光路が形成される。
【0022】
遮光層13a〜13dによって形成された壁部は、光路内を通過する光の入射角度を制限する。すなわち、光路内に入射した光が、光路の向きに対して傾いている場合には、光が遮光層13a〜13dの何れかに当たり、その光の一部は遮光層13a〜13dの何れかに吸収され、残りは反射される。光路を通過するまでの間に反射が繰り返されることによって反射光は弱くなるので、角度制限フィルター10を通過できる光は、実質的に、光路に対する傾きが所定の制限角度範囲内の光に制限される。
【0023】
遮光層13a〜13dの開口部15に相当する領域には、透光性を有する上述の酸化シリコン層12b〜12eが充填されている。
【0024】
上述の態様においては、P型シリコン基板3上に、格子状の所定パターンで複数の遮光層13a〜13dを形成することによって壁部が形成されるので、微細なパターンの形成が可能であり、小型の角度制限フィルター10の製造が可能となる。また、部材を接着材によって貼り合わせて分光センサーを構成する場合と比べて、製造プロセスを簡素化し、接着材による透過光の減少も抑制できる。
【0025】
好ましい態様においては、遮光層13a〜13dは、上述の導電プラグと同じ材料(タングステン等)によって構成される。これにより、角度制限フィルター10は、同一のP型シリコン基板3上に形成される電子回路40のための配線用のアルミニウム合金層や導電プラグを形成するのと同時に、半導体プロセスによって形成することができる。
【0026】
また、好ましい態様においては、アルミニウム合金層11a〜11eは、遮光層13a〜13dによって形成された壁部を囲む領域に形成される。また、好ましい態様においては、光路の壁面が、光の反射率の高いアルミニウム合金層11a〜11eではなく、遮光層13a〜13dのみによって形成される。これにより、光路内に入射した光が光路の壁面で反射して光路内を通過することを抑制できるので、制限角度範囲を超える入射角の光が光路内を通過しにくいようにすることができる。
【0027】
また、好ましい態様において、遮光層13a〜13dは、これらのうち下層側の遮光層の開口部15と、上層側の遮光層の開口部15とが一部重なり、且つ互いにずれた位置に有している。具体的には、最下層の遮光層13aから最上層の遮光層13dまでの各遮光層が、一定のピッチで一定方向に順次ずれた位置に形成されている。これにより、P型シリコン基板3の面に対して一定の傾斜角度で光路が形成される。開口部15の位置のずらし量Xを適宜設定することにより、任意の傾斜角度を有する光路を形成することができる。
【0028】
また、好ましい態様においては、遮光層13a〜13dは、それぞれアルミニウム合金層11a〜11dの端面を介してアルミニウム合金層11a〜11dと電気的に接続される。そして、例えば、P型シリコン基板3に形成される受光素子30と最下層の遮光層13aとが電気的に接続されることにより、受光素子30とアルミニウム合金層11a〜11eとの電気的接続を可能としている。
【0029】
<1−2.波長制限フィルター>
波長制限フィルター20は、角度制限フィルター10上に、酸化シリコン(SiO2)等の低屈折率の薄膜21と、酸化チタン(TiO2)等の高屈折率の薄膜22とを多数積層したものである。
低屈折率の薄膜21及び高屈折率の薄膜22は、それぞれ例えばサブミクロンオーダーの所定膜厚とし、これを例えば計60層程度にわたって積層することにより、全体で例えば6μm程度の厚さとする。
【0030】
波長制限フィルター20は、以上の構成により、角度制限フィルター10に所定の制限角度範囲内で入射する光(角度制限フィルター10を通過できる光)の波長を制限する。
すなわち、波長制限フィルター20に入射した入射光は、低屈折率の薄膜21と高屈折率の薄膜22との境界面において、一部は反射光となり、一部は透過光となる。そして、反射光の一部は、他の低屈折率の薄膜21と高屈折率の薄膜22との境界面において再度反射して、上述の透過光と合波する。このとき、反射光の光路長と一致する波長の光は、反射光と透過光の位相が一致して強めあい、反射光の光路長と一致しない波長の光は、反射光と透過光の位相が一致せずに弱めあう(干渉する)。
【0031】
ここで、反射光の光路長は、入射光の向きに対する低屈折率の薄膜21及び高屈折率の薄膜22の傾斜角度によって決まる。従って、上述の干渉作用が、例えば計60層に及ぶ低屈折率の薄膜21及び高屈折率の薄膜22において繰り返されると、入射光の入射角度に応じて、特定の波長の光のみが波長制限フィルター20を透過し、所定の出射角度(例えば、波長制限フィルター20への入射角度と同じ角度)で波長制限フィルター20から出射する。
【0032】
角度制限フィルター10は、所定の制限角度範囲内で角度制限フィルター10に入射した光のみを通過させる。従って、波長制限フィルター20と角度制限フィルター10とを通過する光の波長は、低屈折率の薄膜21及び高屈折率の薄膜22の各々の膜厚(光路長)と、角度制限フィルター10が通過させる入射光の制限角度範囲とによって決まる所定範囲の波長に制限される。
【0033】
波長制限フィルター20は、P型シリコン基板3に対して傾斜していても良い。傾斜した波長制限フィルター20を形成するためには、角度制限フィルター10上に透光性を有する傾斜構造体を形成し、その上に低屈折率の薄膜及び高屈折率の薄膜を成膜する。傾斜構造体の傾斜角度を適宜設定することにより、波長制限フィルター20をP型シリコン基板3や入射光に対して任意の傾斜角度に傾斜させることができる。但し、開口部15のずらし量Xの設定により、角度制限フィルター10の光路の傾斜角度を微調整する方が、傾斜構造体の傾斜角度を微調整するよりも容易であることが多い。本実施形態によれば、角度制限フィルター10の光路の傾斜角度を微調整できるため、分光フィルターの感度を向上させることができる。
【0034】
本実施形態において、波長制限フィルター20は、角度制限フィルター10上の平坦な面に、P型シリコン基板3の面と平行に形成されている。このように、波長制限フィルターを傾斜させるための傾斜構造体を形成しなくても、図1に示すように光路ごとに異なる傾斜角度を有する角度制限フィルター10を1つの基板上に形成することにより、複数の波長の光を1つの分光センサー1によって検出することができる。
【0035】
また、本実施形態においては、角度制限フィルター10の光路の傾斜角度によって、分光センサー1による検出波長を微調整できるだけでなく、分光センサー1への入射光の入射角度分布に応じて、分光センサー1の感度を最適化することができる。例えば、医療の分野で血中酸素飽和度を測定するために用いられるパルスオキシメーターにおいて、LEDなどの光源から人間の皮膚等の測定対象に光を照射し、その反射光を分光センサー1によって検出する場合、反射光はP型シリコン基板3の面に対して垂直に入射するとは限らない。垂直以外の入射角度に入射光の強度ピークを有する場合には、その強度ピークに角度制限フィルター10に入射する入射光の制限角度を合わせることにより、分光センサー1の感度を高めることができる。
【0036】
<1−3.受光素子>
受光素子30は、波長制限フィルター20及び角度制限フィルター10を通過した光を受光して光起電力に変換する素子である。
【0037】
受光素子30は、P型シリコン基板3にイオン注入等によって形成した各種の半導体領域を含んでいる。P型シリコン基板3に形成された半導体領域としては、例えば、第1導電型の第1の半導体領域(ウェル)31と、第1の半導体領域31上に、第1の半導体領域31に囲まれて形成された第2導電型の第2の半導体領域32と、が含まれる。第1導電型は例えばN型、第2導電型は例えばP型である。
【0038】
第1の半導体領域31は、図示しない第1の外部電極に接続されることができる。第2の半導体領域32は、角度制限フィルター10の下端に接続され、角度制限フィルター10はさらに図示しない第2の外部電極に接続されることができる。第1の外部電極と第2の外部電極とを介して、第1の半導体領域31と第2の半導体領域32との間で形成されたPN接合に逆バイアスの電圧を印加できるようになっている。
【0039】
角度制限フィルター10を通過してきた光が受光素子30で受光されると、第1の半導体領域31と第2の半導体領域32との間で形成されたPN接合において光起電力が発生することにより、電流が発生する。この電流を、第2の外部電極に接続された電子回路40によって検知することにより、受光素子30で受光した光を検知することができる。
【0040】
なお、図1には、P型シリコン基板3に垂直な角度制限フィルター10の光路を透過した波長(λ)の光を受光するための第1の受光素子30と、傾斜角度θ1を有する光路を透過した波長(λ1=λcosθ1)の光を受光するための第2の受光素子30と、傾斜角度θ2を有する光路を透過した波長(λ2=λcosθ2)の光を受光するための第3の受光素子30とが示されている。これらの受光素子30から生成された受光信号は、別々に設けられた第2の外部電極を介して電子回路40に出力される。これにより、複数の波長の光を別々に検出することができる。
【0041】
<1−4.第1の実施形態の製造方法>
ここで、第1の実施形態に係る分光センサー1の製造方法について説明する。分光センサー1は、最初にP型シリコン基板3に受光素子30を形成し、次に、受光素子30の上に角度制限フィルター10を形成し、次に、角度制限フィルター10の上に波長制限フィルター20を形成することによって製造する。
【0042】
最初に、P型シリコン基板3に受光素子30を形成する。例えば、まず、P型シリコン基板3にイオン注入等を行うことによってN型の第1の半導体領域31を形成する。そして、第1の半導体領域31にさらにイオン注入等を行うことによって、P型の第2の半導体領域32を形成する。この工程は、同一のP型シリコン基板3上に形成される電子回路40の形成と同時に行うことができる。
【0043】
次に、受光素子30の上に角度制限フィルター10を形成する。
図2〜図10は、第1の実施形態に係る角度制限フィルターの形成工程を示す平面図及び断面図である。図2〜図10においては、P型シリコン基板3の図示を省略している。
【0044】
(1)まず、受光素子30が形成されたP型シリコン基板3の上に酸化シリコン等によって酸化シリコン層12aを形成する。次に、アルミニウム合金層11aを、電子回路40のための配線用のアルミニウム合金層の形成と同時に形成する。アルミニウム合金層11aの下面及び上面には、それぞれ、チタン膜及び窒化チタン膜が形成されることが望ましい。次に、酸化シリコン層12aと、アルミニウム合金層11aとの上に、酸化シリコン層12bを形成する(図2)。
【0045】
(2)次に、酸化シリコン層12bの一部をエッチングすることにより、酸化シリコン層12bに溝を形成する。次に、酸化シリコン層12bに形成された溝の中にタングステンの遮光層13aを埋め込む(図3)。遮光層13aは、電子回路40のための配線用のアルミニウム合金層を接続する導電プラグの形成と同時に形成される。
なお、(2)の工程において、遮光層13aを埋め込むための溝のうち、最も外側の溝の中心に、アルミニウム合金層11aの端面が位置していることが望ましい。これにより、遮光層13aとアルミニウム合金層11aとが電気的に接続されることと、光路内にアルミニウム合金層11aの端面が露出しないようにすることとの両者を、より確実に実現することができる。
【0046】
以上の(1)及び(2)の工程を所定回数繰り返すことにより、角度制限フィルター10を形成する。なお、第2層目のアルミニウム合金層11b及び遮光層13bは、第1層目のアルミニウム合金層11a及び遮光層13aに対して面方向に所定ピッチずれた位置に形成される(図4及び図5)。第3層目以降も同様である(図6〜図10)。
遮光層の幅及び厚さは、第1層目の遮光層13aから最上層の遮光層13dまで一定であることが望ましい。また、下層の遮光層に対する上層の遮光層の位置のずれは、第3層目以降も同一のピッチを維持することが望ましい。これにより、光路の湾曲を低減し、角度制限フィルター10による入射角度の選択特性を向上することができる。
【0047】
次に、角度制限フィルター10の上に波長制限フィルター20を形成する。例えば、まず、角度制限フィルター10の上に酸化シリコン層12fを形成する。次に、図1に示すように、低屈折率の薄膜21と高屈折率の薄膜22とを交互に多数積層する。
以上の工程によって分光センサー1が製造される。
【0048】
<2.第2の実施形態>
図11は、本発明の第2の実施形態に係る角度制限フィルターを示す模式図である。図11(A)は角度制限フィルターの平面図、図11(B)は図11(A)のB−B線断面図である。
【0049】
第2の実施形態においては、アルミニウム合金層11a〜11eの端面が遮光層13a〜13dによって覆われず、アルミニウム合金層11a〜11eの端面が光路内に露出している。すなわち、遮光層13a〜13dは、それぞれアルミニウム合金層11a〜11dの上に形成されている。この構成においては、第1の実施形態より光路の壁面の反射率が高くなるので、入射角度を制限する上では不利な場合もあるが、光路の傾斜角度を大きく傾けることもできるので、設計の自由度が向上する。
他の点については第1の実施形態と同様である。
【0050】
<3.第3の実施形態>
図12は、本発明の第3の実施形態に係る角度制限フィルターを示す模式図である。図12(A)は角度制限フィルターの平面図、図12(B)は図12(A)のB−B線断面図である。
【0051】
第3の実施形態においては、アルミニウム合金層11a〜11dの一方の端面のみが遮光層13a〜13dによって覆われており、アルミニウム合金層11a〜11dの他方の端面が光路内に露出している。この構成においては、第1の実施形態に比べると光路の壁面の反射率が高くなるので、入射角度を制限する上では不利な場合もあるが、第2の実施形態に比べると光路の壁面の反射率が低くなるので、入射角度を制限する上で有利である。
他の点については第1の実施形態及び第2の実施形態と同様である。
【0052】
<4.第4の実施形態>
図13は、本発明の第4の実施形態に係る角度制限フィルターを示す模式図である。図13(A)は角度制限フィルターの平面図、図13(B)は図13(A)のB−B線断面図である。
【0053】
第4の実施形態においては、遮光層13の第1の開口部15aと第2の開口部15bとの間隔が広くなっており、第1の開口部15aと第2の開口部15bとの間に、遮光層13a〜13dだけでなくアルミニウム合金層11a〜11dが形成されている。この構成によれば、遮光層13a〜13dの第1の開口部15aと第2の開口部15bとの間隔が広い場合でも、遮光性を確保しつつ、遮光層13a〜13dの材料を削減することができる。
【0054】
他の点については第1の実施形態と同様である。
以上説明した第2〜第4の実施形態に係る角度制限フィルターは、第1の実施形態に係る分光センサーに適用することもできる。
【符号の説明】
【0055】
1…分光センサー、3…P型シリコン基板(半導体基板)、10…角度制限フィルター、11a〜11e…アルミニウム合金層(金属層)、12a〜12f…酸化シリコン層(絶縁層)、13a〜13d…遮光層、15、15a、15b…開口部、20…波長制限フィルター、21…低屈折率の薄膜、22…高屈折率の薄膜、30…受光素子、31…第1の半導体領域、32…第2の半導体領域、40…電子回路。
【技術分野】
【0001】
本発明は、分光センサー及び角度制限フィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
医療や農業、環境等の分野では、対象物の診断や検査をするために分光センサーが用いられている。例えば、医療の分野では、ヘモグロビンの光吸収を利用して血中酸素飽和度を測定するパルスオキシメーターが用いられる。また、農業の分野では、糖分の光吸収を利用して果実の糖度を測定する糖度計が用いられる。
【0003】
下記の特許文献1には、干渉フィルターと光電変換素子との間を光学的に接続する光ファイバーによって入射角度を制限することにより、光電変換素子への透過波長帯域を制限する分光イメージングセンサーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−129908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の分光センサーでは、小型化が困難であるという課題がある。そのため、センサーを所望箇所に多数設置したり、常時設置しておいたりすること等が困難となってしまう。
【0006】
本発明は、以上のような技術的課題に鑑みてなされたものである。本発明の幾つかの態様は、分光センサー及び角度制限フィルターを小型化することに関連している。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の幾つかの態様において、角度制限フィルターは、第1の開口部を有する第1の遮光層と、第2の開口部を有し、第1の遮光層の上方に位置する第2の遮光層と、を含み、第2の遮光層の上方から見て第1の開口部と第2の開口部とが一部重なり、且つ、ずれた位置に有するように、第1及び第2の遮光層が配置されている。
この態様によれば、遮光層によって光路を形成する構成により、微細なパターンの形成が可能であり、小型の角度制限フィルターの製造が可能となる。また、第1の開口部と第2の開口部とが一部重なり、且つ、ずれた位置に有するように配置することにより、任意の傾斜角度を有する光路を含む角度制限フィルターの製造が可能となる。
【0008】
上述の態様において、第3の開口部を有し、第2の遮光層の上方に位置する第3の遮光層をさらに含み、第1の開口部と第2の開口部との位置のずれ量と、第2の開口部と第3の開口部との位置のずれ量とが略同一であることが望ましい。
これによれば、光路の湾曲を低減し、角度制限フィルターによる入射角度の選択特性を向上することができる。
【0009】
上述の態様において、第1及び第2の開口部の大きさが略同一であることが望ましい。
これによれば、光路の湾曲を低減し、角度制限フィルターによる入射角度の選択特性を向上することができる。
【0010】
上述の態様において、第1及び第2の遮光層は、アルミニウムより反射率の低い物質によって構成されることが望ましい。
これによれば、光の反射率が低い物質によって遮光層を構成することにより、光路の壁面に当たって光路内を通過する光を低減できるので、小型の角度制限フィルターであっても、制限角度範囲を超える入射角の光が光路内を通過しにくいようにすることができる。
【0011】
上述の態様において、第1及び第2の遮光層が、半導体基板の上方に形成されており、半導体基板の上方における第1及び第2の遮光層を囲む領域に、第1の金属層及び第2の金属層が絶縁層を介して積層されていることが望ましい。
これによれば、半導体回路上の配線層を構成する複数の金属層を、第1及び第2の遮光層を囲む領域に形成することにより、光路内に金属層からの反射光が入射することを抑制できるので、制限角度範囲を超える入射角の光が光路内を通過しにくいようにすることができる。
【0012】
上述の態様において、第1及び第2の遮光層が、導電体によって形成され、それぞれ第1及び第2の金属層と電気的に接続されていることが望ましい。
これによれば、第1及び第2の遮光層と第1及び第2の金属層とが電気的に接続されることにより、第1及び第2の遮光層を電気回路の一部として用いることができる。
【0013】
本発明の他の態様において、分光センサーは、上述の角度制限フィルターと、角度制限フィルターを通過できる光の波長を制限する波長制限フィルターと、角度制限フィルター及び波長制限フィルターを通過した光を検出する受光素子と、を具備する。
この態様によれば、上述の角度制限フィルターを用いるので、小型の分光センサーの製造が可能となる。また、波長制限フィルターを傾斜させるための傾斜構造体を形成しなくても、角度制限フィルターの光路を傾斜させることによって、透過光の波長を選択することができる。
なお、上方とは、基板の表面を基準として裏面に向かう方向とは反対の方向を意味する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1の実施形態に係る角度制限フィルター及び分光センサーを示す図。
【図2】第1の実施形態に係る角度制限フィルターの形成工程を示す図。
【図3】第1の実施形態に係る角度制限フィルターの形成工程を示す図。
【図4】第1の実施形態に係る角度制限フィルターの形成工程を示す図。
【図5】第1の実施形態に係る角度制限フィルターの形成工程を示す図。
【図6】第1の実施形態に係る角度制限フィルターの形成工程を示す図。
【図7】第1の実施形態に係る角度制限フィルターの形成工程を示す図。
【図8】第1の実施形態に係る角度制限フィルターの形成工程を示す図。
【図9】第1の実施形態に係る角度制限フィルターの形成工程を示す図。
【図10】第1の実施形態に係る角度制限フィルターの形成工程を示す図。
【図11】第2の実施形態に係る角度制限フィルターを示す模式図。
【図12】第3の実施形態に係る角度制限フィルターを示す模式図。
【図13】第4の実施形態に係る角度制限フィルターを示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。また同一の構成要素には同一の参照符号を付して説明を省略する。
【0016】
<1.第1の実施形態>
図1は、本発明の第1の実施形態に係る角度制限フィルター及び分光センサーを示す模式図である。図1(A)は分光センサーの平面図、図1(B)は図1(A)のB−B線断面図である。
分光センサー1は、角度制限フィルター10と、波長制限フィルター20と、受光素子30とを具備している(図1(B)参照)。図1(A)においては、波長制限フィルター20を省略している。
【0017】
分光センサー1が形成される半導体基板としてのP型シリコン基板3には、受光素子30に所定の逆バイアス電圧を印加したり、受光素子30において発生した光起電力に基づく電流を検知し、当該電流の大きさに応じたアナログ信号を増幅してデジタル信号に変換したりする電子回路40が形成されている(図1(A)参照)。この電子回路40を構成する半導体素子に、図示しない配線用の複数のアルミニウム(Al)合金層が接続されることにより、電子回路40の半導体素子間の電気的接続や電子回路40の外部との電気的接続が行われている。
【0018】
複数のアルミニウム合金層の間には、図示しない導電プラグが接続されている。この導電プラグは、導電プラグを配置した箇所において、上下のアルミニウム合金層間を電気的に接続するものである。
【0019】
<1−1.角度制限フィルター>
図1(B)に示すように、角度制限フィルター10は、受光素子30が形成されたP型シリコン基板3上に形成されている。本実施形態の角度制限フィルター10においては、電子回路40上の導電プラグと同じプロセスにより形成した遮光体からなる複数の遮光層13a〜13dによって、光路を画成する壁部が形成されている。遮光層13a〜13dの各々は、少なくとも1つの開口部15を有している。遮光層13a〜13dは、タングステン(W)によって構成されているが、タングステンに限らず、受光素子30によって受光しようとする波長の光の反射率がアルミニウムの反射率より低い物質、例えば銅、窒化チタン、チタンタングステン、チタン、タンタル、窒化タンタル、クロム、モリブデンによって構成されていても良い。
【0020】
また、P型シリコン基板3上には、電子回路40上のアルミニウム合金層と同じ多層配線プロセスにより形成した複数の金属層としてのアルミニウム合金層11a〜11eが、それぞれ透光性(受光素子30によって受光しようとする波長の光に対する透光性を言う。以下同じ)を有する絶縁層としての酸化シリコン(SiO2)層12a〜12fを介して積層されている。なお、金属層として、アルミニウム合金層11a〜11eに限られず、銅(Cu)合金層が形成されても良い。
【0021】
遮光層13a〜13dは、受光素子30によって受光しようとする波長の光を実質的に透過しない材料によって構成され、P型シリコン基板3上に、例えば格子状の所定パターンで複数層にわたって連続的に形成される。これにより、遮光層13a〜13dの各々に形成された開口部15の少なくとも一部が互いに重なる。遮光層13a〜13dの各々に形成された開口部15によって、遮光層13a〜13dの積層方向に沿った光路が形成される。
【0022】
遮光層13a〜13dによって形成された壁部は、光路内を通過する光の入射角度を制限する。すなわち、光路内に入射した光が、光路の向きに対して傾いている場合には、光が遮光層13a〜13dの何れかに当たり、その光の一部は遮光層13a〜13dの何れかに吸収され、残りは反射される。光路を通過するまでの間に反射が繰り返されることによって反射光は弱くなるので、角度制限フィルター10を通過できる光は、実質的に、光路に対する傾きが所定の制限角度範囲内の光に制限される。
【0023】
遮光層13a〜13dの開口部15に相当する領域には、透光性を有する上述の酸化シリコン層12b〜12eが充填されている。
【0024】
上述の態様においては、P型シリコン基板3上に、格子状の所定パターンで複数の遮光層13a〜13dを形成することによって壁部が形成されるので、微細なパターンの形成が可能であり、小型の角度制限フィルター10の製造が可能となる。また、部材を接着材によって貼り合わせて分光センサーを構成する場合と比べて、製造プロセスを簡素化し、接着材による透過光の減少も抑制できる。
【0025】
好ましい態様においては、遮光層13a〜13dは、上述の導電プラグと同じ材料(タングステン等)によって構成される。これにより、角度制限フィルター10は、同一のP型シリコン基板3上に形成される電子回路40のための配線用のアルミニウム合金層や導電プラグを形成するのと同時に、半導体プロセスによって形成することができる。
【0026】
また、好ましい態様においては、アルミニウム合金層11a〜11eは、遮光層13a〜13dによって形成された壁部を囲む領域に形成される。また、好ましい態様においては、光路の壁面が、光の反射率の高いアルミニウム合金層11a〜11eではなく、遮光層13a〜13dのみによって形成される。これにより、光路内に入射した光が光路の壁面で反射して光路内を通過することを抑制できるので、制限角度範囲を超える入射角の光が光路内を通過しにくいようにすることができる。
【0027】
また、好ましい態様において、遮光層13a〜13dは、これらのうち下層側の遮光層の開口部15と、上層側の遮光層の開口部15とが一部重なり、且つ互いにずれた位置に有している。具体的には、最下層の遮光層13aから最上層の遮光層13dまでの各遮光層が、一定のピッチで一定方向に順次ずれた位置に形成されている。これにより、P型シリコン基板3の面に対して一定の傾斜角度で光路が形成される。開口部15の位置のずらし量Xを適宜設定することにより、任意の傾斜角度を有する光路を形成することができる。
【0028】
また、好ましい態様においては、遮光層13a〜13dは、それぞれアルミニウム合金層11a〜11dの端面を介してアルミニウム合金層11a〜11dと電気的に接続される。そして、例えば、P型シリコン基板3に形成される受光素子30と最下層の遮光層13aとが電気的に接続されることにより、受光素子30とアルミニウム合金層11a〜11eとの電気的接続を可能としている。
【0029】
<1−2.波長制限フィルター>
波長制限フィルター20は、角度制限フィルター10上に、酸化シリコン(SiO2)等の低屈折率の薄膜21と、酸化チタン(TiO2)等の高屈折率の薄膜22とを多数積層したものである。
低屈折率の薄膜21及び高屈折率の薄膜22は、それぞれ例えばサブミクロンオーダーの所定膜厚とし、これを例えば計60層程度にわたって積層することにより、全体で例えば6μm程度の厚さとする。
【0030】
波長制限フィルター20は、以上の構成により、角度制限フィルター10に所定の制限角度範囲内で入射する光(角度制限フィルター10を通過できる光)の波長を制限する。
すなわち、波長制限フィルター20に入射した入射光は、低屈折率の薄膜21と高屈折率の薄膜22との境界面において、一部は反射光となり、一部は透過光となる。そして、反射光の一部は、他の低屈折率の薄膜21と高屈折率の薄膜22との境界面において再度反射して、上述の透過光と合波する。このとき、反射光の光路長と一致する波長の光は、反射光と透過光の位相が一致して強めあい、反射光の光路長と一致しない波長の光は、反射光と透過光の位相が一致せずに弱めあう(干渉する)。
【0031】
ここで、反射光の光路長は、入射光の向きに対する低屈折率の薄膜21及び高屈折率の薄膜22の傾斜角度によって決まる。従って、上述の干渉作用が、例えば計60層に及ぶ低屈折率の薄膜21及び高屈折率の薄膜22において繰り返されると、入射光の入射角度に応じて、特定の波長の光のみが波長制限フィルター20を透過し、所定の出射角度(例えば、波長制限フィルター20への入射角度と同じ角度)で波長制限フィルター20から出射する。
【0032】
角度制限フィルター10は、所定の制限角度範囲内で角度制限フィルター10に入射した光のみを通過させる。従って、波長制限フィルター20と角度制限フィルター10とを通過する光の波長は、低屈折率の薄膜21及び高屈折率の薄膜22の各々の膜厚(光路長)と、角度制限フィルター10が通過させる入射光の制限角度範囲とによって決まる所定範囲の波長に制限される。
【0033】
波長制限フィルター20は、P型シリコン基板3に対して傾斜していても良い。傾斜した波長制限フィルター20を形成するためには、角度制限フィルター10上に透光性を有する傾斜構造体を形成し、その上に低屈折率の薄膜及び高屈折率の薄膜を成膜する。傾斜構造体の傾斜角度を適宜設定することにより、波長制限フィルター20をP型シリコン基板3や入射光に対して任意の傾斜角度に傾斜させることができる。但し、開口部15のずらし量Xの設定により、角度制限フィルター10の光路の傾斜角度を微調整する方が、傾斜構造体の傾斜角度を微調整するよりも容易であることが多い。本実施形態によれば、角度制限フィルター10の光路の傾斜角度を微調整できるため、分光フィルターの感度を向上させることができる。
【0034】
本実施形態において、波長制限フィルター20は、角度制限フィルター10上の平坦な面に、P型シリコン基板3の面と平行に形成されている。このように、波長制限フィルターを傾斜させるための傾斜構造体を形成しなくても、図1に示すように光路ごとに異なる傾斜角度を有する角度制限フィルター10を1つの基板上に形成することにより、複数の波長の光を1つの分光センサー1によって検出することができる。
【0035】
また、本実施形態においては、角度制限フィルター10の光路の傾斜角度によって、分光センサー1による検出波長を微調整できるだけでなく、分光センサー1への入射光の入射角度分布に応じて、分光センサー1の感度を最適化することができる。例えば、医療の分野で血中酸素飽和度を測定するために用いられるパルスオキシメーターにおいて、LEDなどの光源から人間の皮膚等の測定対象に光を照射し、その反射光を分光センサー1によって検出する場合、反射光はP型シリコン基板3の面に対して垂直に入射するとは限らない。垂直以外の入射角度に入射光の強度ピークを有する場合には、その強度ピークに角度制限フィルター10に入射する入射光の制限角度を合わせることにより、分光センサー1の感度を高めることができる。
【0036】
<1−3.受光素子>
受光素子30は、波長制限フィルター20及び角度制限フィルター10を通過した光を受光して光起電力に変換する素子である。
【0037】
受光素子30は、P型シリコン基板3にイオン注入等によって形成した各種の半導体領域を含んでいる。P型シリコン基板3に形成された半導体領域としては、例えば、第1導電型の第1の半導体領域(ウェル)31と、第1の半導体領域31上に、第1の半導体領域31に囲まれて形成された第2導電型の第2の半導体領域32と、が含まれる。第1導電型は例えばN型、第2導電型は例えばP型である。
【0038】
第1の半導体領域31は、図示しない第1の外部電極に接続されることができる。第2の半導体領域32は、角度制限フィルター10の下端に接続され、角度制限フィルター10はさらに図示しない第2の外部電極に接続されることができる。第1の外部電極と第2の外部電極とを介して、第1の半導体領域31と第2の半導体領域32との間で形成されたPN接合に逆バイアスの電圧を印加できるようになっている。
【0039】
角度制限フィルター10を通過してきた光が受光素子30で受光されると、第1の半導体領域31と第2の半導体領域32との間で形成されたPN接合において光起電力が発生することにより、電流が発生する。この電流を、第2の外部電極に接続された電子回路40によって検知することにより、受光素子30で受光した光を検知することができる。
【0040】
なお、図1には、P型シリコン基板3に垂直な角度制限フィルター10の光路を透過した波長(λ)の光を受光するための第1の受光素子30と、傾斜角度θ1を有する光路を透過した波長(λ1=λcosθ1)の光を受光するための第2の受光素子30と、傾斜角度θ2を有する光路を透過した波長(λ2=λcosθ2)の光を受光するための第3の受光素子30とが示されている。これらの受光素子30から生成された受光信号は、別々に設けられた第2の外部電極を介して電子回路40に出力される。これにより、複数の波長の光を別々に検出することができる。
【0041】
<1−4.第1の実施形態の製造方法>
ここで、第1の実施形態に係る分光センサー1の製造方法について説明する。分光センサー1は、最初にP型シリコン基板3に受光素子30を形成し、次に、受光素子30の上に角度制限フィルター10を形成し、次に、角度制限フィルター10の上に波長制限フィルター20を形成することによって製造する。
【0042】
最初に、P型シリコン基板3に受光素子30を形成する。例えば、まず、P型シリコン基板3にイオン注入等を行うことによってN型の第1の半導体領域31を形成する。そして、第1の半導体領域31にさらにイオン注入等を行うことによって、P型の第2の半導体領域32を形成する。この工程は、同一のP型シリコン基板3上に形成される電子回路40の形成と同時に行うことができる。
【0043】
次に、受光素子30の上に角度制限フィルター10を形成する。
図2〜図10は、第1の実施形態に係る角度制限フィルターの形成工程を示す平面図及び断面図である。図2〜図10においては、P型シリコン基板3の図示を省略している。
【0044】
(1)まず、受光素子30が形成されたP型シリコン基板3の上に酸化シリコン等によって酸化シリコン層12aを形成する。次に、アルミニウム合金層11aを、電子回路40のための配線用のアルミニウム合金層の形成と同時に形成する。アルミニウム合金層11aの下面及び上面には、それぞれ、チタン膜及び窒化チタン膜が形成されることが望ましい。次に、酸化シリコン層12aと、アルミニウム合金層11aとの上に、酸化シリコン層12bを形成する(図2)。
【0045】
(2)次に、酸化シリコン層12bの一部をエッチングすることにより、酸化シリコン層12bに溝を形成する。次に、酸化シリコン層12bに形成された溝の中にタングステンの遮光層13aを埋め込む(図3)。遮光層13aは、電子回路40のための配線用のアルミニウム合金層を接続する導電プラグの形成と同時に形成される。
なお、(2)の工程において、遮光層13aを埋め込むための溝のうち、最も外側の溝の中心に、アルミニウム合金層11aの端面が位置していることが望ましい。これにより、遮光層13aとアルミニウム合金層11aとが電気的に接続されることと、光路内にアルミニウム合金層11aの端面が露出しないようにすることとの両者を、より確実に実現することができる。
【0046】
以上の(1)及び(2)の工程を所定回数繰り返すことにより、角度制限フィルター10を形成する。なお、第2層目のアルミニウム合金層11b及び遮光層13bは、第1層目のアルミニウム合金層11a及び遮光層13aに対して面方向に所定ピッチずれた位置に形成される(図4及び図5)。第3層目以降も同様である(図6〜図10)。
遮光層の幅及び厚さは、第1層目の遮光層13aから最上層の遮光層13dまで一定であることが望ましい。また、下層の遮光層に対する上層の遮光層の位置のずれは、第3層目以降も同一のピッチを維持することが望ましい。これにより、光路の湾曲を低減し、角度制限フィルター10による入射角度の選択特性を向上することができる。
【0047】
次に、角度制限フィルター10の上に波長制限フィルター20を形成する。例えば、まず、角度制限フィルター10の上に酸化シリコン層12fを形成する。次に、図1に示すように、低屈折率の薄膜21と高屈折率の薄膜22とを交互に多数積層する。
以上の工程によって分光センサー1が製造される。
【0048】
<2.第2の実施形態>
図11は、本発明の第2の実施形態に係る角度制限フィルターを示す模式図である。図11(A)は角度制限フィルターの平面図、図11(B)は図11(A)のB−B線断面図である。
【0049】
第2の実施形態においては、アルミニウム合金層11a〜11eの端面が遮光層13a〜13dによって覆われず、アルミニウム合金層11a〜11eの端面が光路内に露出している。すなわち、遮光層13a〜13dは、それぞれアルミニウム合金層11a〜11dの上に形成されている。この構成においては、第1の実施形態より光路の壁面の反射率が高くなるので、入射角度を制限する上では不利な場合もあるが、光路の傾斜角度を大きく傾けることもできるので、設計の自由度が向上する。
他の点については第1の実施形態と同様である。
【0050】
<3.第3の実施形態>
図12は、本発明の第3の実施形態に係る角度制限フィルターを示す模式図である。図12(A)は角度制限フィルターの平面図、図12(B)は図12(A)のB−B線断面図である。
【0051】
第3の実施形態においては、アルミニウム合金層11a〜11dの一方の端面のみが遮光層13a〜13dによって覆われており、アルミニウム合金層11a〜11dの他方の端面が光路内に露出している。この構成においては、第1の実施形態に比べると光路の壁面の反射率が高くなるので、入射角度を制限する上では不利な場合もあるが、第2の実施形態に比べると光路の壁面の反射率が低くなるので、入射角度を制限する上で有利である。
他の点については第1の実施形態及び第2の実施形態と同様である。
【0052】
<4.第4の実施形態>
図13は、本発明の第4の実施形態に係る角度制限フィルターを示す模式図である。図13(A)は角度制限フィルターの平面図、図13(B)は図13(A)のB−B線断面図である。
【0053】
第4の実施形態においては、遮光層13の第1の開口部15aと第2の開口部15bとの間隔が広くなっており、第1の開口部15aと第2の開口部15bとの間に、遮光層13a〜13dだけでなくアルミニウム合金層11a〜11dが形成されている。この構成によれば、遮光層13a〜13dの第1の開口部15aと第2の開口部15bとの間隔が広い場合でも、遮光性を確保しつつ、遮光層13a〜13dの材料を削減することができる。
【0054】
他の点については第1の実施形態と同様である。
以上説明した第2〜第4の実施形態に係る角度制限フィルターは、第1の実施形態に係る分光センサーに適用することもできる。
【符号の説明】
【0055】
1…分光センサー、3…P型シリコン基板(半導体基板)、10…角度制限フィルター、11a〜11e…アルミニウム合金層(金属層)、12a〜12f…酸化シリコン層(絶縁層)、13a〜13d…遮光層、15、15a、15b…開口部、20…波長制限フィルター、21…低屈折率の薄膜、22…高屈折率の薄膜、30…受光素子、31…第1の半導体領域、32…第2の半導体領域、40…電子回路。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の開口部を有する第1の遮光層と、
第2の開口部を有し、前記第1の遮光層の上方に位置する第2の遮光層と、
を含み、
前記第2の遮光層の上方から見て前記第1の開口部と前記第2の開口部とが一部重なり、且つ、ずれた位置に有するように、前記第1及び第2の遮光層が配置されている角度制限フィルター。
【請求項2】
請求項1において、
第3の開口部を有し、前記第2の遮光層の上方に位置する第3の遮光層をさらに含み、
前記第1の開口部と前記第2の開口部との位置のずれ量と、前記第2の開口部と前記第3の開口部との位置のずれ量とが略同一である角度制限フィルター。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
前記第1及び第2の開口部の大きさが略同一である角度制限フィルター。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか一項において、
前記第1及び第2の遮光層は、アルミニウムより反射率の低い物質によって構成された角度制限フィルター。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか一項において、
前記第1及び第2の遮光層が、半導体基板の上方に形成されており、
前記半導体基板の上方における前記第1及び第2の遮光層を囲む領域に、第1の金属層及び第2の金属層が絶縁層を介して積層されている角度制限フィルター。
【請求項6】
請求項5において、
前記第1及び第2の遮光層が、導電体によって形成され、それぞれ前記第1及び第2の金属層と電気的に接続されている角度制限フィルター。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6の何れか一項記載の角度制限フィルターと、
前記角度制限フィルターを通過できる光の波長を制限する波長制限フィルターと、
前記角度制限フィルター及び前記波長制限フィルターを通過した光を検出する受光素子と、
を具備する分光センサー。
【請求項1】
第1の開口部を有する第1の遮光層と、
第2の開口部を有し、前記第1の遮光層の上方に位置する第2の遮光層と、
を含み、
前記第2の遮光層の上方から見て前記第1の開口部と前記第2の開口部とが一部重なり、且つ、ずれた位置に有するように、前記第1及び第2の遮光層が配置されている角度制限フィルター。
【請求項2】
請求項1において、
第3の開口部を有し、前記第2の遮光層の上方に位置する第3の遮光層をさらに含み、
前記第1の開口部と前記第2の開口部との位置のずれ量と、前記第2の開口部と前記第3の開口部との位置のずれ量とが略同一である角度制限フィルター。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
前記第1及び第2の開口部の大きさが略同一である角度制限フィルター。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか一項において、
前記第1及び第2の遮光層は、アルミニウムより反射率の低い物質によって構成された角度制限フィルター。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか一項において、
前記第1及び第2の遮光層が、半導体基板の上方に形成されており、
前記半導体基板の上方における前記第1及び第2の遮光層を囲む領域に、第1の金属層及び第2の金属層が絶縁層を介して積層されている角度制限フィルター。
【請求項6】
請求項5において、
前記第1及び第2の遮光層が、導電体によって形成され、それぞれ前記第1及び第2の金属層と電気的に接続されている角度制限フィルター。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6の何れか一項記載の角度制限フィルターと、
前記角度制限フィルターを通過できる光の波長を制限する波長制限フィルターと、
前記角度制限フィルター及び前記波長制限フィルターを通過した光を検出する受光素子と、
を具備する分光センサー。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
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【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−189931(P2012−189931A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−55180(P2011−55180)
【出願日】平成23年3月14日(2011.3.14)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月14日(2011.3.14)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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