説明

分光光度計

【課題】複数の受光素子を持った光検知器を使用する分光光度計において、光検知器に入射する分光された光の光量を最適化するためのマスクを提供し、光源の光量減少によるS/N低下の抑制を図ることである。
【解決手段】光源から放射された光を光学系によって分光し、分光された光を受光し、他波長を同時に検知する複数の受光素子からなる検知器に使用されている、前記受光素子の受光部に波長によって異なる光量を調整するためのマスクの開口部形状を、検知器にとって最適な受光感度を得られる形状に調整できる可動機構を持ったマスクを設置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分光光度計の光検知器の検知感度を最適化するものである。
【背景技術】
【0002】
分光光度計に使用している光源は発光時間、若しくは発光回数によってフィラメントや電極の劣化により光量が減少していくものであるが、通常光量が減少したら即交換するものではなく、光量が初期値の50%ほどに減少するまで使用するものである。複数の受光素子を配列した光検知器を使用した分光光度計では、光源や分光器等の特性によって、波長ごとに異なる光強度が光検知器に入射することになるが、今までの複数の受光素子を配列した光検知器を使用した分光光度計では、前記の波長によって異なる光強度を平均化するために、光量を制限する固定形状の開口部を持つマスクを光検知器の受光部前に設置していたため、光源の光量が減少した場合、光検知器が受光する光量も低下してしまい、S/Nの低下を招いてしまっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63−94126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
解決しようとする課題は、複数の受光素子を持った光検知器を使用する分光光度計において、光検知器に入射する分光された光の光量を最適化するためのマスクを提供し、光源の光量減少によるS/N低下の抑制を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の分光光度計は、光源から放射された光を光学系によって分光し、分光された光を受光し、他波長を同時に検知する複数の受光素子からなる検知器に使用されている、前記受光素子の受光部に波長によって異なる光量を調整するためのマスクの開口部形状を、検知器にとって最適な受光感度を得られる形状に調整できる可動機構を持ったマスクを設置する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の分光光度計は、光検知器の受光面に設置されたマスクの開口部形状を、可変にし、受光する光量を最適化することで、光源の発光時間や発光回数によって光量が初期値を100%として、初期値の70%,60%,50%と減少しても、マスクの開口部のサイズを調整することで、光検知器に入射する光の減少した単位面積あたりの光量を補い、S/Nを向上させることを可能にした分光光度計を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】分光光度計の実施方法を示した説明図である。
【図2】分光光度計に用いるマスクの実施方法を示した説明図である。
【図3】分光光度計に用いるマスクの実施方法を示した説明図である。
【図4】分光光度計に用いるマスクの実施方法を示した説明図である。
【図5】分光光度計に実施方法を示した説明図である。
【図6】分光光度計に用いるマスクの実施方法を示した説明図である。
【図7】分光光度計に用いるマスクの実施方法を示した説明図である。
【図8】分光光度計に実施方法を示した説明図である。
【図9】分光光度計の光量の一実施例である。
【図10】分光光度計に用いるマスクの実施方法を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の各実施例を図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0009】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。光源1から放射された光は、試料セル2に照射される。試料セル2を透過した光は回折格子3に照射され、分光される。分光された光は光量調整機構付マスク4で光量を制限され、フォトダイオードアレイ検知器5の受光部に入射する。フォトダイオードアレイ検知器5の受光部に入射した光は、信号読み出し部6によって信号として読み出される。信号読み出し部6によって読み出された信号は、中央処理装置7でデータ変換処理をされ、表示モニター8に表示される。光量調整機構付マスク4は、光を遮光する遮光板9が2枚、遮光板9を接着固定する遮光板ベース10,遮光板ベース10を保持する台座11,遮光板を駆動させるための偏心頭を持った軸12が4本、偏心頭を持った軸12を駆動させるモータ13が4つ、遮光板9をお互いに引き付け合うバネのような弾性体14が2本という構成からなっている。偏心頭を持った軸12を駆動させるモータ13はモータ制御部16を介して中央処理装置7で制御される。
【0010】
光量調節機構付マスクの可動原理は、モータ13が駆動することで、偏心頭を持った軸12が回る。偏心頭を持った軸12の軸部は偏心頭の重心位置にあり、偏心頭を持った軸12の偏心頭は遮光板ベース10のザグリ部17の内壁に接しているため、偏心頭を持った軸12が回り、遮光板ベース10のザグリ部17の内壁を押し、遮光板9はフォトダイオードアレイの配列方向を水平としたとき、上下方向に稼動する。例えば、軸12の偏心頭が4本とも図2の向きの時は開口部15の開口面積は最小であり、軸12の偏心頭が4本とも図4の向きの時は開口部15の開口面積は最大になる。
【0011】
図3は図2のA部分で、遮光板ベース10と台座11の断面をとった図である。図2〜図4において、左側がフォトダイオードアレイ検知器の短波長側、右側が長波長側とする。
【0012】
次に図5において、光量調整の実施例を示す。以下の実施例は光源にタングステンランプと重水素ランプの2つの光源と、フォトダイオードアレイ光検知器にシリコンフォトダイオードアレイ検知器を用いた例である。まず、光量調整機構付マスク4の偏心頭を持った軸12が図2の状態の光量と、中央処理装置7内のメモリ(図示せず)に格納されている光源の初期値の光量とを比較判定を行う。判定は全波長の光量が初期値光量の90%以上であれば光量調整は行われず終了する。初期値光量は未使用光源を初期点灯させたときの光量を中央処理装置7内のメモリに格納しておく。光量が初期値光量の90%より小さければ、4つのモータ13を駆動させ、偏心頭を持った軸12の偏心頭の向きを図4の状態にする。軸12の偏心頭の向きが図4の状態で、光量がサチュレイションを起こしていなければ、調整は完了となる。偏心頭を持った軸12の偏心頭の向きが図4の状態で、光量がサチュレイションを起こしていれば、サチュレイションを起こしている波長範囲に対応したそれぞれのモータ13を駆動させ、偏心頭を持った軸12の偏心頭の向きが図4の状態から図3の状態へ向かうように軸12が一定角度回転するようにモータ13を駆動させ、全波長でサチュレイションを起こさない状態までフィードバック作業を行う。サチュレイションを起こしている波長範囲に対応したモータ13の関係は表1に示す。
【0013】
【表1】

【実施例2】
【0014】
実施例1において例えば、光量調整機構付マスク4は図6のように偏心形状部を持った軸18同士をベルト19を用いて連動させることで、偏心形状部を持った軸18全てを単一のモータ13で駆動させ、光量調整機構付マスク4の開口部15の開口面積を可変することができる。図7は図6のA部分で、遮光板ベース10と台座11の断面をとった図である。次に図8において、光量調整の実施例を示す。まず、光量調整機構付マスク4を可動させない状態での光量と、中央処理装置7内のメモリ(図示せず)に格納されている光源の初期値の光量とを比較判定を行う。判定は光量が初期値光量の90%以上であれば光量調整は行われず終了する。初期値光量は未使用光源を初期点灯させたときの光量を中央処理装置7内のメモリに格納しておく。光量が初期値光量の90%より小さければ、4つのモータ13を駆動させ、偏心頭を持った軸12の偏心頭の向きを図4の状態にする。軸12の偏心頭の向きが図4の状態で、光量がサチュレイションを起こしていなければ、調整は完了となる。
【0015】
偏心頭を持った軸12の偏心頭の向きが図4の状態で、光量がサチュレイションを起こしていれば、サチュレイションを起こしている波長範囲に対応したそれぞれのモータ13を駆動させ、偏心頭を持った軸12の偏心頭の向きが図4の状態から図3の状態へ向かうように軸12が一定角度回転するようにモータ13を駆動させ、サチュレイションを起こさない状態までフィードバック作業を行う。
【実施例3】
【0016】
実施例2において例えば、光量調整機構付マスク4は偏心形状部を持った軸18同士を歯車等のギアを用いて連動させて偏心形状部を持った軸18を単一のモータ13で駆動させ、光量調整機構付マスク4の開口部15の開口面積を可変させてもよい。
【実施例4】
【0017】
実施例1〜3において例えば、遮光板の形状は、光源1から放射された光を回折格子3によって分光しフォトダイオードアレイ検知器5の受光部に入射し、信号読み出し部6によって信号として読み出され、中央処理装置7でデータ変換処理をされ、表示モニター8に表示された光量分布の近似形としてもよい。例えば、光源にタングステンランプと重水素ランプを使用した場合、図9のような光量分布を得られる。図10は光量調整機構付マスク4に図9の光量分布の近似形を簡略化した遮光板20を設置したものである。短波長と長波長の光量の少ない波長域で光量調整機構付マスク4の開口部15が大きくなるような形状になっており、光量の少ない波長でより多い光量を得ることが可能である。
【0018】
なお、本発明は、次のように表現することもできる。
【0019】
光源と、光源から放射された光を分光する分光器と、分光器により分光された光を波長ごとに光量を制限する開口部を持ったマスクと、マスクによって制限された光を受光して光電変換を行うフォトダイオード受光素子を複数個組み合わせて配列した受光部を持つ光検知器を備えた分光光度計において、前記マスクは、前記分光器と前記光検知器の間に設置されおり、前記開口部を形成するための遮光板を2枚有している。前記マスクは、前記光検知器のフォトダイオード受光素子の配列方向を水平とした場合、前記マスクの遮光板は前記光検知器の垂直方向の上下位置に向い合せに設置され、前記分光器により分光された光が遮光されない部分である遮光板間の隙間が開口部となる。前記マスクは、前記2枚の遮光板をそれぞれ独立させて可動させる駆動機構部を有し、前記駆動部を駆動させることで前記遮光板を可動させ、前記マスクの開口部の開口面積を変化させることで、前記光検知器の受光素子が受光する光量によってサチュレイションしない範囲で最大量を得ることができる分光光度計。
【0020】
光源と、光源から放射された光を分光する分光器と、分光器により分光された光を波長ごとに光量を制限する開口部を持ったマスクと、マスクによって制限された光を受光して光電変換を行うフォトダイオード受光素子を複数個組み合わせて配列した受光部を持つ光検知器を備えた分光光度計において、前記マスクは、前記分光器と前記光検知器の間に設置されおり、前記開口部を形成するための遮光板を1枚有している。前記光検知器の受光部の受光素子配列方向を水平とした場合、前記遮光板は前記光検知器の垂直方向の上位置または下位置に設置され、前記分光器により分光された光が遮光されない部分が開口部となる。前記マスクは、前記遮光板を可動させる駆動機構部を有し、前記駆動部を駆動させることで遮光板を可動させ、前記マスクの開口部の開口面積を変化させることで、前記光検知器の受光素子が受光する光量によってサチュレイションしない範囲で最大量を得ることができる分光光度計。
【0021】
上記マスクは、上記分光器と上記光検知器の間に設置されおり、上記開口部を形成するための遮光板を2枚有している。前記マスクは、前記光検知器のフォトダイオード受光素子の配列方向を水平とした場合、前記マスクの遮光板は前記光検知器の垂直方向の上下位置に向い合せに設置され、前記分光器により分光された光が遮光されない部分である遮光板間の隙間が開口部となる。前記マスクは上下位置に設置された前記遮光板を連動させて可動させる駆動機構部を有し、1つの駆動源で複数の遮光板を可動させることで、前記光検知器の受光素子が受光する光量によってサチュレイションしない範囲で最大量を得ることができる分光光度計。
【符号の説明】
【0022】
1 光源
2 セル
3 回折格子
4 光量調整機構付マスク
5 フォトダイオードアレイ光検知器(フォトダイオードアレイ検知器)
6 信号読み出し部
7 中央処理装置
8 表示モニター
9,20 遮光板
10 遮光板ベース
11 台座
12 偏心頭を持った軸
13 モータ
14 弾性体
15 開口部
16 モータ制御部
17 ザグリ部
18 偏心形状部を持った軸
19 ベルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、光源から放射された光を分光する分光器と、分光器により分光された光を波長ごとに光量を制限する開口部を持ったマスクと、マスクによって制限された光を受光して光電変換を行うフォトダイオード受光素子を複数個組み合わせて配列した受光部を持つ光検知器を備えた分光光度計において、
前記マスクは、前記開口部を形成するための複数の遮光板を有し、該遮光板が独立して移動することにより、開口部の開口面積が可変であることを特徴とする分光光度計。
【請求項2】
光源と、光源から放射された光を分光する分光器と、分光器により分光された光を波長ごとに光量を制限する開口部を持ったマスクと、マスクによって制限された光を受光して光電変換を行うフォトダイオード受光素子を複数個組み合わせて配列した受光部を持つ光検知器を備えた分光光度計において、
前記マスクは、前記開口部を形成するための1枚の遮光板を有し、該遮光板が移動することにより、開口部の開口面積が可変であることを特徴とする分光光度計。
【請求項3】
請求項1または2において、
遮光板を駆動させる駆動部を有し、
該駆動部は、前記光検知器の受光素子が受光する光量によってサチュレイションしない範囲で最大量を得るように遮光部を駆動させてマスクの開口部の開口面積を変化させることを特徴とする分光光度計。
【請求項4】
請求項1において、
遮光板を駆動させる駆動部を有し、
該駆動部は、各遮光板を連動させて駆動させることを特徴とする分光光度計。
【請求項5】
請求項1において、
前記光検知器のフォトダイオード受光素子の配列方向を水平とした場合、前記マスクの遮光板は前記光検知器の垂直方向の上下位置に向い合せに設置されていることを特徴とする分光光度計。
【請求項6】
請求項1または2において、
前記マスクの開口部の形状は、前記光源の特性と前記分光器の特性により得られる波長依存の光量の強度分布に近似した形状をしていることを特徴とする分光光度計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−17567(P2011−17567A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−161380(P2009−161380)
【出願日】平成21年7月8日(2009.7.8)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】