説明

分光画像計測装置

【課題】 任意の単色波長を用いたin-situの分光分析計測を行う場合、従来の分光画像計測装置では、装置の巨大化や精密な光路調整の必要性などの問題があった。 さらに、分光学的な熱画像解析において、視野内の反射の影響で実際には存在しない仮想の高温領域が表示されてしまい正しい解析ができない、という欠点があった。
【解決手段】 多色カラーセンサーの全波長域における分光感度特性の違いとカラーセンサー3の色数と同数の任意の波長でピークを持つマルチバンドパスフィルター2を集光レンズ1と組み合わせ(図2)、色変換行列によって各単色成分の入射強度を算出し、分光分析を行う。 さらに、色温度によるカラースケールと輝度または放射率によるグレースケールの表示を合成して熱画像を構築する事によって、反射成分による仮想の高温域を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は分光画像計測装置に関するものである
【背景技術】
【0002】
任意の波長で対象物からの発光、反射光等による分光分析を行う場合、従来の1次元または2次元分光画像計測装置では、光センサーとレンズの間にバンドパスフィルターを搭載した回転式フィルターホイールや屈折または反射光学系などを用いて複数波長の画像を独立に取得する方法や、透過または反射型の複雑な分光光学系をセンサー前に配置し、これを持って同様に複数波長の画像を取得する(特許文献1,2)。これらの方法によって、分析に必要な目的の多波長画像から特定の物理量を算出する事で分析を行われ、蛍光による特定物質の可視化やプラズマや燃焼の分析、農作物の鮮度評価、植生などの環境診断、2色法による温度解析(特許文献3)、天体物理現象の観測など、その用途は広範囲に及ぶ。
【特許文献1】出願番号 :特許出願2001−62300 出願日 :2001年3月6日 /公開番号 :特許公開2002−271657 公開日 :2002年9月20日
【特許文献2】出願番号 :特許出願2003−273124 出願日 :2003年7月10日 /公開番号 :特許公開2005−31558 公開日 :2005年2月3日 /出願人 :株式会社ノリタケカンパニーリミテド発明者 :橋本 和久 外5名/ 発明の名称 :多波長複数画面光学系
【特許文献3】出願番号 :特許出願2001−366216 出願日 :2001年11月30日 /公開番号 :特許公開2003−166880 公開日 :2003年6月13日 /出願人 :三井 健司発明者 :三井 健司 /発明の名称 :温度計測手段を有する撮像装置
【非特許文献4】Gang Lu, Yong Yan, and Mike Colechin “A Digital Imaging Based Multifunctional Flame Monitoring System”,IEEE TRANSACTIONS ON INSTRUMENTATION AND MEASUREMENT, VOL. 53, NO. 4(2004), pp1152-1158
【非特許文献5】Mark P.B. Musculus, Satbir Singh, Rolf D. Reitz,”Gradient effects on two-color soot optical pyrometry in a heavy-duty DI diesel engine”, Combustion and Flame 153 (2008) pp. 216-227
【非特許文献6】RAHIMA K. MOHAMMED, MICHAEL A. TANOFF,* MITCHELL D. SMOOKE, ANDREW M. SCHAFFER and MARSHALL B. LONG, “COMPUTATIONAL AND EXPERIMENTAL STUDY OF A FORCED, TIME-VARYING, AXISYMMETRIC, LAMINAR DIFFUSION FLAME”, Twenty-Seventh Symposium (International) on Combustion/The Combustion Institute (1998), pp. 693-702
【非特許文献7】Hiroshi Gotoda, Kazuyuki Maeda, Toshihisa Ueda, and Robert K. Cheng, “Periodic motion of a Bunsen flame tip with burner rotation”, Combustion and Flame Volume 134 (2003), Pages 67-79
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
任意の波長で対象物からの発光、反射光等を計測する場合、従来の1次元または2次元分光画像計測装置では、光センサーとレンズの間にバンドパスフィルターを搭載した回転式フィルターホイールや屈折または反射光学系などの複雑な装置が必要であり、必然的に装置が大型化し、波長の切り替えに起因する時間分解能の低下や分岐光学系の使用によりセンサー全域を利用できないなどにより、測定すべき入射光強度のロスが生じる、また装置によっては測定前に精密な光軸調整が必要であるなどの問題があった。
【0004】
また、このような機器を熱画像分析に応用する際の代表的なものとしては2色法などが上げられるが、この方法が頻繁に用いられるガソリンやディーゼル火炎、燃焼炉などでは一般にCCDなどの可視光領域におけるRGBの色フィルターを利用した色情報を温度に換算している(非特許文献1,2)。この場合、波長の短い可視光領域を用いるためにその用途は超高温に限られ、さらに任意に波長を選択不能な広帯域色フィルターを使用しているために、対象物の放射率の分光放射率(波長依存性)の影響を大きく受け、信頼度の高い温度測定が困難である。
【0005】
燃焼炉や電気炉内など、測定対象物の周囲に反射率の高い物質が存在する場合、輝度ではなく色から温度を算出する2色法では、反射成分についてもその色によって温度を算出してしまうため、実際の温度よりはるかに高い温度としてご認識してしまうという問題が生じてしまい、このような問題が生じない一般的なサーモグラフィなどの輝度温度方式に比べて大きな欠点となってしまっていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
単一の1次元または2次元多色カラーセンサーの紫外線から赤外線領域におよぶ広い範囲の各色毎の分光感度特性の違いとカラーセンサーの色数と同数の任意の波長でピークを持つマルチバンドパスフィルターを組み合わせ、 屈折または反射光学系などの複雑な前置光学系を用いることなく、色数に応じた色変換行列による行列演算によって各単色成分の入射強度を算出し、分光画像計測をによる分光分析を可能にする。例えば、図1に示すような分光感度特性をもつ、一般的なRGBベイヤーパターンのCCDのカラーセンサーとこれに対応した3つのピークをもつようなバンドパスフィルターを組み合わせる事で、図2のようにレンズ1とセンサー3の間に光学フィルター2を挿入するだけの単純な構造が実現可能であり、装置の大幅な小型化を達成する事ができる。
【0007】
このような分光特性をもつ装置を設計した例の場合には、光学フィルターの3つの透過率ピークに対応する各波長の入射信号強度をI[i, i=1,3]、透過率をC{Ri, i=1,3]とすると、RGBの各色の観測された信号強度、R, G, Bは式1で表される事になる。この連立方程式は、式2のような逆行列による演算によって解くことが可能で、これから3つの単色波長成分の強度を算出可能である。ただし、ここでは簡単のためレンズの分光透過率は100%と仮定してあるが、実際にレンズやセンサーのカバーガラスなどの分光透過率の寄与を含めた装置定数によって前述の逆行列を構築する事で、まったく同じ手法が成り立つ。加えて、N色の色フィルターとN個のマルチピークを持った光学フィルターの組み合わせでも同様に成り立つ。この方法によって大がかりな分光光学系を用いることなく、単色強度を得ることによって対象物の分光分析を行う事が可能となる。
【0008】
算出された単色強度の情報を用いて2色法に基づいた2次元温度分布を構築する際に、マルチバンドフィルターを用いないこれまでのRGBの可視光領域を用いた色温度による温度計測では、広い波長帯域の信号強度比を用いるために対象物の放射率の波長依存性の推定が困難である事に加えて、その計測が短波長に制限されることで測定温度領域が高温域に制限されてしまう。これに対して、今回の方式では長波長の赤外線領域に及ぶ広い範囲を利用するため低温域における測定を可能とし、またマルチバンドフィルターの個々の波長の半値幅を狭くして単色化を図ることにより、放射率の波長依存性の影響を正確に推定可能である。
【0009】
2次元2色法によって熱画像計測を行う場合に問題となる、低温領域での高温成分によって生じる架空の高温部分は、低温部分の反射率に依存するが、見かけの放射率は相対的に小さい、また、燃焼場におけるすすのような高温粉体の測定の場合についても、同様に低温域における高温成分の反射や散乱の影響による誤測定の可能性が存在する。これらの問題を解決するため、計測画像を表示する際の色成分を温度に、輝度または放射率成分をグレースケールで表現し、その重みを掛けた画像表示を行う事により、反射による架空の高温域を低減させたり、高温粉体などで実際には粉体濃度が低く構成要素として寄与の低い部分を暗くすることで、興味ある部分を強調して表示し、視認性を高める事が可能となる。
【発明の効果】
【0010】
分光光学系など、センサー前に複雑な前置光学系が存在しないため、装置の小型化が可能となり、入射信号強度の減衰を低減する事が出来る。また、フィルター回転式の場合と異なり、同時性が確保できるため、高速読み出しが可能となる他、共通のノイズデータを用いてこれを除去する事ができ、S/Nの向上が可能となる。さらに、センサーとレンズの間に光学フィルターを追加するというわずかな変更で、汎用型のカラーCCD・CMOSに波長選択が可能な2次元分光分析装置としての機能を簡単に持たせる事が可能である。
【0011】
装置の大型化を行うことなく、任意の単色成分の画像情報を取り出す事が可能となるため、携帯性が重要となるような、例えば森林や農地の植生指数の可視化や農作物の鮮度評価、燃焼診断などへの応用が容易となる。
【0012】
熱画像計測の際に、長波長の赤外線領域を含む任意の多波長情報を元にして測定対象物の放射率の波長依存性を補正しつつ、可視光型の2色法カメラではできなかった低温域での測定が可能となる。
【0013】
輝度または放射率の重み掛けた色温度表示を行うことにより、反射成分に起因する架空の高温領域を排除したり、すすなどの粉体計測の際には、興味ある領域である高濃度領域を強調する事で、視認性を向上させる事が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明によって実現される多波長画像装置は、小型化可能なだけでなく、波長切り替えに伴う時間的ロスがないため、時間分解能の面でも有利である。そのため高速度カラーセンサーに適用する事によって単色成分を効率的に高速度で取り込む事が可能となり、燃焼炉やガソリン、ディーゼルエンジンなどにおける燃焼火炎中のすすの温度計測において、その威力を発揮する事が期待される。この分野では一般的に2色法が用いられるが、3波長の情報を用いることで放射率の分光特性を含めた補正をも可能とするなど、その応用範囲は広い。
【0015】
ろうそくやブンゼンバーナーなどの火炎には10Hzの周期的変動が存在する事が知られている(非特許文献3,4)が、この一周期の間の温度及び放射率を可視化するために、750nmおよび900nmのダブルピークを持つ光学フィルターを用いて、毎秒120フレームで画像取得可能なカラーCCDと組み合わせた試作機を用いて実験を行った。図3は、一周期を12分割した連続した熱画像で、カラースケールは色温度を、表示画面上の明るさは放射率(すす濃度)を表している。また、図4はろうそく火炎の温度および濃度分布を放射率の波長依存性を補正した場合の分光分析画像で、カラースケールは温度を表示輝度はすす濃度に対応している。
【0016】
さらに、すすの温度計測だけではなく、燃焼火炎中の化学発光を対応する波長に分離し、可視化する事で燃焼状態の診断などへの応用も可能であるが、図5はガスバーナー火炎中の燃料、中間生成物および反応生成物に対応する化学発光強度を可視化したものであり、これらは燃焼診断および解析の手がかりとなる。
この他、温度とともに放射率スペクトルが変化する金属やセラミックスなどの材料表面の温度計測においても、分光特性の影響を補正しながら正確な表面温度計測を可能とするため、温度計測全般においてその利点を生かすことが可能であるが、材料固有の放射率による誤差が少ない2色法で温度分布を計測する場合、これまでの方法では除算により生じてしまう大きなノイズが問題となっていた。分光画像計測の熱画像への応用に関するこのような問題を解決するために、色温度を表すカラースケールに放射率または輝度による重みを乗算して画像表示装置の画面上に表示を行うことで、S/Nの低い領域を排除する事が出来る。図6は電気コンロの電熱線表面の温度分布を測定した場合に、電熱線周辺の反射の影響で生じる実際には存在しない仮想の高温度領域をこのような画像処理によって排除した例である。
【0017】
本発明による効果としては、モノクロセンサーの一部の画素しか利用できない従来型の反射光学系に比べて、センサー上のすべての画素を利用可能であるために、相対的に高い解像度を実現出来ることが上げられるが、この特徴を生かし、旋盤のバイト先端の切削温度を計測した例が図7である。ここで、ステンレスパイプをセラミックバイトで切削した様子を50ミクロン以下の解像度で温度分布を可視化している。
【0018】
これ以外に、ヘモグロビンや葉緑素などの吸収などを利用した植生指数や食肉の分光反射率を利用した、環境モニタリングや農作物の鮮度評価などの分光学的評価などの分野への応用も期待できるが、このうち、葉緑素の700nm近傍の吸収構造を利用し、650nmおよび750nmの反射光の強度比を利用して、芝生の植生指数を可視化したの実施例が図8である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】光学フィルターの分光透過率と一般的なカラーセンサーの分光感度特性
【図2】分光画像装置の外観(レンズ1、光学フィルター2、カラーセンサー3)
【図3】ろうそく火炎の温度分布をすす濃度と合成した高速度熱画像で10Hz振動の一周期分を12分割した連続画像
【図4】ろうそく火炎のすすの放射率の波長依存性を補正した温度および濃度の合成画像
【図5】ガスバーナーによる燃焼火炎中の化学発光の可視化
【図6】電気コンロの電熱線の2色法熱画像のノイズ処理による反射成分の除去効果
【図7】旋盤のセラミックバイトの刃先温度計測による高解像度熱画像
【図8】芝生の植生指数の可視化画像
【図9】数式1
【図10】数式2
【符号の説明】
【0020】
1:レンズ、2:光学フィルター、3:カラーセンサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一の1次元または2次元多色カラーセンサーの紫外線から赤外線領域におよぶ範囲の各色毎の分光感度特性の違いとカラーセンサーの色数と同数の任意の波長でピークを持つマルチバンドパスフィルターを組み合わせ、 屈折または反射光学系などの複雑な前置光学系を用いることなく、色数に応じた色変換行列による行列演算によって各単色成分の入射強度を算出し、分光画像計測を可能にする。
【請求項2】
分光画像装置で得られた色情報から行列演算によって算出された各単色成分の強度情報を用いて、分光放射率スペクトルの影響を補正した熱画像を取得することにより放射率の誤入力や測定対象物の分光特性に依存しない正しい1次元または2次元温度分布情報を取得し、同時に得られた分光情報から、放射率や火炎中のすすの様な粉体濃度の可視化を可能とする。
【請求項3】
色行列演算の過程で計測された各色強度同士の除算などによって画像表示の際に生じる誤差伝搬の影響により、算出された単色成分の強度と無相関な見かけ上の雑音成分を低減するため、行列演算前の一次入射強度分布を用いた重みを加えたカラースケールによる表示を行う。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−43979(P2010−43979A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−208704(P2008−208704)
【出願日】平成20年8月13日(2008.8.13)
【出願人】(508246216)
【Fターム(参考)】