説明

分岐フルオロポリマー

本発明は、過硫酸塩及び随意としての多官能性開始剤を用いた高温における重合を伴う方法による、長鎖分岐を有し、ゲルが殆ど又は全くない分岐フルオロポリマーの調製に関する。 本発明はまた、この方法によって製造される、ゲルがない歪み硬化性分岐ポリマーにも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過硫酸塩及び随意としての補助開始剤(共開始剤とも言う)を用いた高温における重合を伴う方法による、長鎖分岐を有し、ゲルが殆ど又は全くない分岐フルオロポリマーの製造に関する。本発明はまた、前記の方法によって製造される歪み硬化性(strain hardening)のゲルなし分岐ポリマーにも関する。
【背景技術】
【0002】
フルオロポリマーは、押出、射出成形、紡糸、押出ブロー成形及び吹込みフィルムのような多くの様々な方法によってポリマー構造に成形することができる溶融加工可能な樹脂である。これらはまた、低い表面エネルギー及び相挙動のせいで、ポリマー加工助剤としても用いられる。
【0003】
加工の際のポリマー樹脂の性能、特に加工容易性、安定性及び信頼性は、本質的にそれらの粘弾性に支配される。特に、ポリマーは歪み硬化性、ずり減粘挙動、及び溶融強度とドローダウン比との間の良好なバランスを示すべきである。さらに、ポリマーは良好な物性(ソリッドステート特性)を維持しなければならない。
【0004】
一般的に乳化プロセスによって作られたフルオロポリマーは、並みのずり減粘挙動を示し、低分子量樹脂について劣った溶融強度を示す。これらは一般的に線状であり、小さい割合での伸び変形の際に歪み硬化性を示さない。従ってこれらは、吹込みフィルム、押出ブロー成形、熱成形及び硬質発泡体のような用途にはそれほど有用ではない。
【0005】
フルオロポリマーの分子量が大きくなると溶融強度が向上するが、しかしドローダウン比は低下する場合が多い。従って、ポリマーの構造を化学的に変化させることなく溶融強度とドローダウン比とのパラメーター間のバランスを取るのは難しい。架橋ポリマーは溶融強度を向上させることができるが、しかしこれらは加工が容易でなく、しかも多量のゲルを含有することが多いという事実によって、制約を受ける。
【0006】
このような特性のバランスを達成するための1つのアプローチは、ポリマー主鎖上に長鎖分岐を導入するものである。これは、広範囲の構造を可能にし、従って広範囲の溶融流動学的(メルトレオロジー)特性を可能にする。ポリマー主鎖上に長鎖分岐(LCB)を導入するための様々な既知の方法がある。
【0007】
オレフィン重合においては、国際公開WO96/12744号パンフレット及びMacromolecules (2003), 36(24), 9014-9019に記載されたように、エチレンと高級α−オレフィンとの共重合によって制御された長鎖分岐ポリエチレンを製造するために、触媒が用いられる。
【0008】
重縮合ポリマーについては、国際公開WO2001/066617号パンフレットに記載されたようにLCBを作るために又はPolymer Preprints (ACS Polymer Chemistry) (2002), 43(2), 472-473に記載されたように分岐二酸鎖を製造するために官能性モノマーが用いられる。
【0009】
乳化重合によってゲルがない高度に分岐したポリマーを得るのは難しいということが示されている{Journal of Polymer Science, Part A: Polymer Chemistry (1997), 35(5), 827-858}。
【0010】
ポリスチレンにおいては、Luperox JWEB(Kasehagen et al., Society of Plastics Engineering, 2002 proceedings)のような多官能性開始剤を用いることによって長鎖分岐が達成される。
【0011】
フルオロモノマーは水素抽出に対して非常に敏感であり、上記のような他のモノマー系における分岐への従来のアプローチは必ずしも利用できない。
【0012】
フルオロポリマーにおける長鎖分岐を改善するために、いくつかの方法が用いられている。Macromolecular Symposia (2004), 206(Polymer Reaction Engineering V), 347-360には、ポリマー中に長い分岐を形成させるためにヨウ素をベースとする可逆的連鎖移動剤を用いることが開示されている。分岐は、重合の間に2個の異なるポリマー鎖を互いに結合させることができる二官能性分子を用いることによって、もたらすことができる。これは2工程プロセスであり、テロマーを別々に調製しなければならない。本発明は、かかるテロマーを用いることなく所望の結果を達成する。
【0013】
Macromolecules (2000), 33(5), 1656-1663には、トランスファー・トゥ・ポリマー(transfer-to-polymer)メカニズムによって三官能性長鎖分岐が生じるフルオロポリマーが開示されている。
【0014】
本発明においてはフッ素化ジオレフィンを用いることなく分岐が達成される。米国特許第5612419号明細書及び米国特許第5585449号明細書にはフッ素化熱可塑性エラストマーを調製するためのビスオレフィンを用いた2工程プロセスが開示されている。
【0015】
米国特許出願第11/157225号明細書には、低レベルの放射線を用いた分岐が開示されている。
【特許文献1】国際公開WO96/12744号パンフレット
【特許文献2】国際公開WO2001/066617号パンフレット
【特許文献3】米国特許第5612419号明細書
【特許文献4】米国特許第5585449号明細書
【特許文献5】米国特許出願第11/157225号明細書
【非特許文献1】Macromolecules (2003), 36(24), 9014-9019
【非特許文献2】Polymer Preprints (ACS Polymer Chemistry) (2002), 43(2), 472-473
【非特許文献3】Journal of Polymer Science, Part A: Polymer Chemistry (1997), 35(5), 827-858
【非特許文献4】Kasehagen et al., Society of Plastics Engineering, 2002 proceedings
【非特許文献5】Macromolecular Symposia (2004), 206(Polymer Reaction Engineering V), 347-360
【非特許文献6】Macromolecules (2000), 33(5), 1656-1663
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
良好な物性を維持しつつ、低い(遅い)ずり減粘開始及び溶融強度とドローダウン比との間の良好なバランスを示す分岐フルオロポリマーに対する要望がある。
【0017】
驚くべきことに、非常に高温においてある種の過硫酸塩開始剤(過硫酸塩から成る開始剤)を用いることによって、上に列挙した特性を備えた長鎖分岐含有フルオロポリマーを得ることができることがわかった。分岐は、補助開始剤を用いることによって最適化することができる。この方法の1つの追加の利点は、分岐フルオロポリマーがゲルを殆ど又は全く含有しないことである。これらの新規の材料は、吹込みフィルム、紡糸、押出ブロー成形、熱成形及び硬質発泡体のような良好な溶融流動学的特性が要求される分野において用いられる。
【課題を解決するための手段】
【0018】
発明の概要
本発明は、
(1)1種以上のフルオロモノマー、過硫酸塩開始剤及び液状キャリアーを一緒にして反応混合物を形成させ;
(2)この反応混合物を100℃超の温度に加熱し;そして
(3)重合の進行中はこの反応混合物への過硫酸塩開始剤の一定供給を引き延ばす:
ことによって、長鎖分岐を有し且つゲル含有率が5重量%未満の分岐フルオロポリマーを生産することを含む分岐フルオロポリマーの生成方法に関する。
【0019】
本発明はさらに、
(4)絡み合いの間の臨界分子量以上の分岐;
(5)歪み硬化性;
(6)1未満の回転半径比(ここで、回転半径比は、分岐フルオロポリマーの回転半径を同じ化学組成及び分子量の線状フルオロポリマーの回転半径で割ることによって決定される);
(7)5重量%未満のゲル:
を有し、20000〜2000000g/モルの重量平均分子量を有する分岐フルオロポリマーに関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
発明の詳しい説明
本明細書において用語「ドローダウン比」とは、溶融状態において引っ張ることができるポリマーの量対その押出速度の比を指す。
【0021】
本明細書において用語「ずり減粘」とは、ずり速度につれての粘度低下を指す。分岐ポリマーは線状ポリマーより低いずり減粘開始を示すことが知られている。場合によっては、粘度−ずり速度の曲線の勾配が線状ポリマーのものより急であり得る。
【0022】
本発明は、過硫酸塩及び随意としての多官能性補助開始剤を用いた高温における重合を伴う方法による、長鎖分岐を有し、ゲルが殆ど又は全くない分岐フルオロポリマーの調製に関する。
【0023】
本発明は、分岐フルオロポリマーを製造するために、高い重合温度において過硫酸塩開始剤を用いる。本発明において有用な過硫酸塩開始剤の非限定的な例には、過硫酸のナトリウム塩、カリウム塩及びアンモニウム塩がある。過硫酸カリウムがフルオロモノマー用の開始剤として用いられてきており、得られるフルオロポリマーに分岐を引き起こさないことが一般的に知られている。過硫酸カリウムを80℃においてフッ化ビニリデンの重合用に用いた場合、分岐は起こらない。驚くべきことに、過硫酸カリウムを120℃においてフルオロモノマーに対する開始剤として用いた場合には、得られるフルオロポリマー中に有意の長鎖分岐が見出されることがわかった。
【0024】
反応混合物に添加される過硫酸塩の量は、(反応混合物に添加されるモノマーの総重量を基準として)約0.01〜1.0重量%、好ましくは0.01〜0.4%とする。高温における過硫酸塩開始剤の半減期は短いので、本発明の方法は反応器に開始剤を連続的に添加することを伴う。
【0025】
過硫酸塩開始剤を唯一の開始剤として用いて分岐が達成可能であるが、1種以上の補助開始剤を用いるのが有益であり得る。補助開始剤の使用は、フルオロポリマー中で起こる分岐の量及びタイプに対する追加の制御を提供する。1つの実施形態において、補助開始剤は二官能性のものであるが、一官能性及び多官能性補助開始剤を本発明において用いることも可能である。本発明において補助開始剤として有用な開始剤の非限定的な例には、過酸化ジ−t−アミル及び4,4−ビス(t−ブチルペルオキシ)吉草酸n−ブチルのようなジペルオキシド開始剤が包含される。補助開始剤は、全モノマーを基準として0〜1%、好ましくは0.01〜0.3%の割合で用いられる。
【0026】
用語「フルオロモノマー」又は「フッ素化モノマー」とは、重合を受けるアルケンの二重結合に結合した少なくとも1個のフッ素原子、フルオロアルキル基又はフルオロアルコキシ基を含有する重合可能なアルケンを意味する。用語「フルオロポリマー」は、少なくとも1種のフルオロモノマーの重合によって生成されるポリマーを意味し、熱可塑性の性状である(これは、型成形及び押出プロセスにおいて行われるように熱を加えられた際に流動することによって有用な部品に成形することができることを意味する)ホモポリマー、コポリマー、ターポリマー及びそれより多元のポリマーを包含する。熱可塑性ポリマーは一般的に結晶融点を示す。
【0027】
本発明において有用な熱可塑性ポリマーは、フッ化ビニリデン(VDF)を重合させることによって得られるホモポリマー、並びにフッ化ビニリデン単位がポリマー中の全モノマー単位の総重量の70%超(より一層好ましくは前記単位の総重量の75%超)を占めるフッ化ビニリデンのコポリマー、ターポリマー及びより多元のポリマーである。フッ化ビニリデンのコポリマー、ターポリマー及びより多元のポリマーは、フッ化ビニリデンと以下のもの:フッ化ビニル、トリフルオロエテン、テトラフルオロエテン、1種以上の一部又は完全フッ素化α−オレフィン類、例えば3,3,3−トリフルオロ−1−プロペン、1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン、3,3,3,4,4−ペンタフルオロ−1−ブテン及びヘキサフルオロプロペン、一部フッ素化オレフィンのヘキサフルオロイソブチレン、ペルフッ素化ビニルエーテル類、例えばペルフルオロメチルビニルエーテル、ペルフルオロエチルビニルエーテル、ペルフルオロ−n−プロピルビニルエーテル及びペルフルオロ−2−プロポキシプロピルビニルエーテル、フッ素化ジオキソール類、例えばペルフルオロ(1,3−ジオキソール)及びペルフルオロ(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール)、アリルモノマー類、一部フッ素化アリルモノマー類又はフッ素化アリルモノマー類、例えば2−ヒドロキシエチルアリルエーテル又は3−アリルオキシプロパンジオール、並びにエテン又はプロペン:より成る群から選択される1種以上のモノマーとを反応させることによって得ることができる。好ましいコポリマー又はターポリマーは、フッ化ビニル、トリフルオロエテン、テトラフルオロエテン(TFE)及びヘキサフルオロプロペン(HFP)を用いて生成させたものである。
【0028】
特に好ましいコポリマーは、約71〜約99重量%のVDFとそれに応じて約1〜約29重量%のTFEとを含むVDFのコポリマー;約71〜99重量%のVDFとそれに応じて約1〜29重量%のHFPとを含むVDFのコポリマー(例えば米国特許第3178399号明細書に開示されたもの);及び約71〜99重量%のVDFとそれに応じて約1〜29重量%のトリフルオロエチレンとを含むVDFのコポリマーである。
【0029】
特に好ましい熱可塑性ターポリマーは、VDFとHFPとTFEとのターポリマー、及びVDFとトリフルオロエテンとTFEとのターポリマーである。これらの特に好ましいターポリマーは、VDFを少なくとも71重量%有し、その他のコモノマーは様々な割合で存在していてよいが一緒になってターポリマーの29重量%までを占めるものである。
【0030】
フルオロモノマー及び開始剤に加えて、その他の代表的な補助剤(アジュバント)及びプロセス助剤を反応混合物に添加することができ、これらは界面活性剤及び乳化剤、補助界面活性剤、連鎖移動剤、緩衝剤及び防汚剤を包含するが、これらに限定されるわけではない。これらは、反応開始時に一度に重合に添加することもでき、反応の間を通じてだんだんに又は連続的に添加することもできる。
【0031】
界面活性剤及び乳化剤は、一般的に全モノマーに対して約0.02〜約1.0重量%の量で用いられる。好ましくは、これらは全モノマーに対して約0.05〜約0.5重量%の量で用いられる。界面活性剤は、取扱い上の便利さのために、水溶液状のような溶液状で用いることができる。本発明において有用な界面活性剤には、フルオロ界面活性剤、3−アリルオキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸塩、ポリビニルホスホン酸、ポリアクリル酸、ポリビニルスルホン酸及びそれらの塩、ポリエチレングリコール及び/又はポリプロピレングリコール、アルキルホスホネートがある。
【0032】
連鎖移動剤は、生成物の分子量を調節するために重合に添加される。連鎖移動剤の添加量及び添加態様は、用いる連鎖移動剤の活性及びポリマー生成物の所望の分子量に依存する。重合反応への連鎖移動剤の添加量は、反応混合物に添加されるモノマーの総重量を基準として好ましくは約0.05〜約5重量%、より一層好ましくは約0.1〜約2重量%とする。本発明において有用な連鎖移動剤の例には酸素含有化合物が包含され、例えばアルコール類、カーボネート類、ケトン類、エステル類及びエーテル類が連鎖移動剤としての働きをすることができる。また、エタン、プロパン、並びにハロカーボン類及びヒドロハロカーボン類、例えばクロロカーボン類、ヒドロクロロカーボン類、クロロフルオロカーボン類及びヒドロクロロフルオロカーボン類も、連鎖移動剤として用いることができる。
【0033】
重合反応混合物には、重合反応を通じて制御されたpHを維持するために、緩衝剤を随意に含有させることができる。生成物の望ましくない発色を最小限に抑えるためには、pHを約4〜約8の範囲内に調節するのが好ましい。
【0034】
反応へのパラフィンワックス又は炭化水素油の添加は、反応器部品にポリマーが付着するのを最小限に抑え又は防止するための防汚剤としての働きをする。任意の長鎖飽和炭化水素ワックス又は油がこの機能を果たすことができる。反応器に添加される油又はワックスの量は、反応器部品へのポリマー付着物の形成を最小限に抑える働きをする量とする。この量は一般的に反応器の内部表面積に比例し、反応器内部表面積1cm2当たり約1〜約40mgの範囲にすることができる。パラフィンワックス又は炭化水素油の量は、反応器内部表面積1cm2当たり約5mgであるのが好ましい。
【0035】
本発明の重合プロセスは、液状キャリアー媒体中で、水性媒体(乳化重合若しくは懸濁重合)又は超臨界二酸化炭素のいずれかの中で、実施される。好ましいプロセスは、乳化重合によるものである。
【0036】
長鎖分岐を製造するために重要なことは、100℃超、好ましくは110℃超、特に好ましくは120〜150℃の高温において反応を行うことである。過硫酸塩開始剤はこれらの高温において短い半減期を有し、重合が行われている間、連続的に添加しなければならない。反応に用いられるモノマー、コモノマー及びその他の補助剤は、初期装填物に添加してもよく、一部を初期装填物に添加し、残りを後から反応器に供給することもできる。
【0037】
重合のために採用する圧力は、反応装置の能力、選択した開始剤系及び選択したモノマーに応じて、280〜20000kPaの範囲であることができる。この重合圧力は、2000〜11000kPaであるのが好ましく、2750〜7000kPaであるのが特に好ましい。
【0038】
本発明の方法によって製造されるフルオロポリマーは、ゲルがない長鎖分岐含有ポリマーである。本明細書において「ゲルがない」とは、ポリマーの総重量を基準としたフルオロポリマーのゲル含有率が5重量%未満、好ましくは2重量%未満、特に好ましくは1重量%未満であることを意味する。ゲルとは、ポリマー中の、アセトンやN−メチルピロリドン(NMP)、DMSOのような慣用のフルオロポリマー溶剤中において標準的溶解条件下で可溶でない部分を意味する。
【0039】
フルオロポリマーの分岐の量及び分子量は、温度、開始剤供給速度及び補助開始剤の量を調節することによって制御することができる。本明細書において「長鎖」分岐とは、平均分岐が絡み合いの間の臨界分子量より大きいことを意味する。ポリフッ化ビニリデンポリマーについては、これは約2500g/モルであろう。長鎖分岐に加えて、短鎖分岐も存在することが予想される。フルオロポリマーの重量平均分子量は、20000〜2000000g/モルの範囲である。溶融加工可能な用途のためには100000〜600000の範囲の平均分子量が好ましいが、プロセス助剤としてはそれより低分子量の分岐フルオロポリマーを用いることができる。
【0040】
乳化重合による重合生成物はラテックスであり、その形で(通常は重合プロセスからの固体状副生成物を濾過した後に)用いることができ、又は凝固させて固形分を単離し、次いでこれを洗浄し、乾燥させてもよい。ラテックスの形で用いるためには、さらなる界面活性剤をさらに添加することによってラテックスを安定化させることができ、この界面活性剤は同一の又は異なるイオン性界面活性剤であってもよく、非イオン性界面活性剤のような異なるタイプのものであってもよい。固体状生成物については、ラテックスを機械的に又は塩若しくは酸を添加することによって凝固させ、次いで濾過のようなよく知られた手段によって単離することができる。単離したら、固体状生成物を洗浄又は他の技術によって精製することができ、これは粉末として用いるために乾燥させることができ、この粉末はさらに加工して粒体にすることができる。固体状生成物はまた、溶剤と一緒にして溶剤分散体又は溶液として用いることもできる。
【0041】
本発明の方法によって製造される分岐フルオロポリマーは、線状フルオロポリマーと比較して高められた流動学的特性を有する。これらの特性は、より低いずり減粘開始、より低いベキ乗則指数「n」、同等分子量についてのより高い溶融強度及びより高いドローダウン比を示す粘度特徴によって特徴付けられる。さらに、弾性率及び引張強さのような物性は、慣用のVF2モノマー含有フルオロポリマーと同様のままである。
【0042】
本発明のフルオロポリマーは、同様の組成で同じ重量平均分子量の線状フルオロポリマーの回転半径より小さい回転半径を有する。
【0043】
さらに、本発明のフルオロポリマーは、歪み硬化性を示す。本明細書において用語「歪み硬化性」とは、材料が所定歪み値を超える一軸又は二軸引張に耐える能力を指し、そのポリマーが分岐を含有することを指し示す。
【0044】
本発明のフルオロポリマーは、高められた流動学的特性を有するので、吹込みフィルム、紡糸、押出ブロー成形、熱成形及び硬質発泡体のような溶融流動学的特性を必要とする分野において有用であり得る。
【0045】
本発明のフルオロポリマーは、0.25〜0.5の範囲の低いベキ乗則指数「n」を有する。本発明のフルオロポリマーは、5〜80の範囲の最大DDRを示す。DDRは、引張速度と押出速度との間の比と定義される。
【実施例】
【0046】
一般:脱イオン水を用いた。SURFLON 111はAsahi社から供給された。LUPEROX DTAは過酸化ジ−t−アミル(CAS# 10508-09-5)である。LUPEROX 230は4,4−ビス(t−ブチルペルオキシ)吉草酸n−ブチル(CAS # 995-33-5)である。
【0047】
比較例1、2及び3はArkema社製の工業等級KYNARポリマーであり、フッ素化界面活性剤及び開始剤としてのイソプロピルペルオキシジカーボネートを用いた標準的乳化重合によって製造されたものである(米国特許第32475396号、同第4569978号及び同第6187885号の各明細書に教示され、後に米国特許第号明細書3857827号、同第4076929号、同第4360652号、同第4569978号及び同第6187885号の各明細書において改良)(これらを参考用に本明細書に取り入れる)。これらは組成及び分子量が下記の例の分岐フルオロポリマーに一致した線状ポリマーである。
【0048】
例1
【0049】
Surflon 111(Asahi社)を開始剤としての過硫酸カリウム及びLuperox 230と共に用いてフッ化ビニリデンホモポリマーを製造した。2ガロン(7.6リットル)のステンレス鋼製反応器に、4300gの水、75gの15重量%水性Surflon 111界面活性剤溶液、5.5gの酢酸エチル、1.68gのLuperox 230を添加した。この混合物をアルゴンでパージし、10分間撹拌した。この反応器を密封し、撹拌を続け、反応器を135℃に加熱した。この反応器にフッ化ビニリデンを4600kPaの圧力に達するまで装填した。次いで過硫酸カリウムの1.6重量%溶液を2〜120g/時間の速度で連続的に供給し、次いで30分後に60g/時間に減らした。反応温度を125℃に保ち、必要に応じてフッ化ビニリデンを添加することによって反応圧を保った。2.5時間後に、フッ化ビニリデンの供給を停止した。10分間撹拌を続け、開始剤の供給及び温度を保った。次いで開始剤の供給を停止し、15分後に撹拌及び加熱を止めた。室温まで冷ました後に、余分な気体を排気し、反応器からステンレス鋼メッシュを通してラテックスを取り出した。ラテックスの重量測定による固形分の測定は、固体状ポリマー22重量%を示した。
【0050】
例2
【0051】
例2は、Luperox 230補助開始剤の量を変えたことを除いて、例1と同様である。2ガロン(7.6リットル)のステンレス鋼製反応器に、4300gの水、75gの15重量%水性Surflon 111界面活性剤溶液、5.5gの酢酸エチル、1.40gのLuperox 230を添加した。この混合物をアルゴンでパージし、10分間撹拌した。この反応器を密封し、撹拌を続け、反応器を135℃に加熱した。この反応器にフッ化ビニリデンを4600kPaの圧力に達するまで装填した。次いで過硫酸カリウムの1.6重量%溶液を2〜120g/時間の速度で連続的に供給し、次いで30分後に60g/時間に減らした。反応温度を125℃に保ち、必要に応じてフッ化ビニリデンを添加することによって反応圧を保った。2.5時間後に、フッ化ビニリデンの供給を停止した。10分間撹拌を続け、開始剤の供給及び温度を保った。次いで開始剤の供給を停止し、15分後に撹拌及び加熱を止めた。室温まで冷ました後に、余分な気体を排気し、反応器からステンレス鋼メッシュを通してラテックスを取り出した。ラテックスの重量測定による固形分の測定は、固体状ポリマー22重量%を示した。
【0052】
例3
【0053】
例3は、Luperox 230を用いなかったことを除いて、例1と同様である。2ガロン(7.6リットル)のステンレス鋼製反応器に、4300gの水、75gの15重量%水性Surflon 111界面活性剤溶液を添加した。この混合物をアルゴンでパージし、10分間撹拌し、次いで5.5gの酢酸エチルを添加した。この反応器を密封し、撹拌を続け、反応器を135℃に加熱した。この反応器にフッ化ビニリデンを4600kPaの圧力に達するまで装填した。次いで過硫酸カリウムの1.6重量%溶液を2〜120g/時間の速度で連続的に供給し、次いで30分後に60g/時間に減らした。反応温度を125℃に保ち、必要に応じてフッ化ビニリデンを添加することによって反応圧を保った。2.5時間後に、フッ化ビニリデンの供給を停止した。10分間撹拌を続け、開始剤の供給及び温度を保った。次いで開始剤の供給を停止し、15分後に撹拌及び加熱を止めた。室温まで冷ました後に、余分な気体を排気し、反応器からステンレス鋼メッシュを通してラテックスを取り出した。ラテックスの重量測定による固形分の測定は、固体状ポリマー20.5重量%を示した。
【0054】
例4
【0055】
例4は、HFPをコモノマーとして用いたことを除いて、例1と同様である。2リットルのステンレス鋼製反応器に、600gの水、250gの1重量%水性Surflon 111界面活性剤溶液、0.5gの酢酸エチル、0.30gのLuperox 230を添加した。この混合物をアルゴンでパージし、10分間撹拌した。この反応器を密封し、撹拌を続け、反応器を125℃に加熱した。この反応器にフッ化ビニリデン及びヘキサフルオロプロペン(比7/1)を640psi(4400kPa)の圧力に達するまで装填した。次いで過硫酸カリウムの0.5重量%溶液を2〜5ミリリットル/分の速度で連続的に供給した。反応温度を125℃に保ち、必要に応じてフッ化ビニリデン及びヘキサフルオロプロペン(比7/1)を添加することによって反応圧を保った。2.5時間後に、フッ化ビニリデン及びヘキサフルオロプロペンの供給を停止した。10分間撹拌を続け、開始剤の供給及び温度を保った。次いで開始剤の供給を停止し、15分後に撹拌及び加熱を止めた。室温まで冷ました後に、余分な気体を排気し、反応器からステンレス鋼メッシュを通してラテックスを取り出した。ラテックスの重量測定による固形分の測定は、固体状ポリマー21重量%を示した。
【0056】
例5
【0057】
例5は、Luperox DTAを補助開始剤として用いたことを除いて、例1と同様である。2リットルのステンレス鋼製反応器に、645gの水、200gの1重量%水性Surflon 111界面活性剤溶液、2gの酢酸エチル、0.38gのLuperox DTAを添加した。この混合物をアルゴンでパージし、10分間撹拌した。この反応器を密封し、撹拌を続け、反応器を135℃に加熱した。この反応器にフッ化ビニリデンを4600kPaの圧力に達するまで装填した。次いで過硫酸カリウムの0.5重量%溶液を2〜5ミリリットル/分の速度で連続的に供給した。反応温度を135℃に保ち、必要に応じてフッ化ビニリデンを添加することによって反応圧を保った。2.5時間後に、フッ化ビニリデンの供給を停止した。10分間撹拌を続け、開始剤の供給及び温度を保った。次いで開始剤の供給を停止し、15分後に撹拌及び加熱を止めた。室温まで冷ました後に、余分な気体を排気し、反応器からステンレス鋼メッシュを通してラテックスを取り出した。ラテックスの重量測定による固形分の測定は、固体状ポリマー21重量%を示した。
【0058】
下記の表は、ここに記載した例の分子量数を示す。試験方法は、標準的伝統的サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)と多角度光散乱(MALS)との組合せである。また、2回目の加熱の際に標準DSC技術によって測定した融点及び融解熱も報告する。
【表1】

【0059】
図1は、230℃において振動歪み(oscillatory strain)レオメーターによって測定した複合粘度対振動数を表わす。例1、2及び3は比較例と比較して粘度曲線の回転を示す。かかる回転は、低振動数において粘度がより高く、高振動数において粘度がより低いことによって特徴付けられる。この現象は、ずり減粘と称される。これは、線状から分岐へのポリマー構造の変化を指し示す。分岐ポリマーはより低いずり減粘開始を示すことがわかる。
【0060】
図2は、230℃において振動歪みレオメーターによって測定した貯蔵弾性率対振動数を示す。例1、2及び3は、鎖分岐が存在するせいで、弾性が高いことを指し示す低振動数における高められた貯蔵弾性率を示す。
【0061】
図3は、フィラメント引張装置と毛細管レオメーターとの組合せによって測定したドローダウン比の関数としての溶融強度を示す。ダイオリフィスから180℃においてフィラメントを押出し、次いで一定加速度で引っ張る。分岐サンプルは、同等の分子量又は粘度について、より高い溶融強度及びより低いドローダウン比を示す。
【0062】
表2に、最大引張力及びドローダウン比の値を示す。
【表2】

【0063】
図4は、180℃において伸張レオメーターによって測定した伸張粘度対時間を示す。振動歪みレオメーターによってLVE測定を行ってゼロ剪断粘度を測定し、これをトルートンの法則を用いてゼロ伸張粘度に変換した。伸張粘度測定は、伸張レオメーターによって5秒-1の伸張率で行った。Kynar比較例1、2及び3のような線状ポリマーがゼロ伸張粘度過渡(transient)において変化を示さないということは、当技術分野において定着している。本発明の分岐ポリマーはゼロ伸張粘度過渡において変化を示し、これは歪み硬化性挙動を指し示す。
【0064】
図5は、標準条件下で30/1のオリフィスダイ比を用いて毛細管レオメーターによって測定した見掛けずり速度の関数としての見掛け粘度を示す。
【0065】
表3に、180℃、110秒-1における溶融粘度を示す。膨潤比は、レーザービームを用いて動力学的モードで測定した。分岐PVDFの膨潤比が高いほど高弾性であることを指し示し、これは分岐の存在の結果である。
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の分岐ポリマー及び比較例の線状ポリマーについて230℃において振動レオメーターによって測定した複合粘度対振動数のグラフである。
【図2】本発明の分岐ポリマー及び比較例の線状ポリマーについて230℃において振動歪みレオメーターによって測定した貯蔵弾性率対振動数のグラフである。
【図3】本発明の分岐ポリマー及び比較例の線状ポリマーについて180℃においてフィラメント引張装置と毛細管レオメーターとの組合せによって測定したドローダウン比の関数としての溶融強度を示すグラフである。
【図4】本発明の分岐ポリマー及び比較例の線状ポリマーについて180℃において伸張レオメーターによって測定した伸張粘度対時間のグラフである。
【図5】本発明の分岐ポリマー及び比較例の線状ポリマーについて標準条件下で30/1のオリフィスダイ比を用いて毛細管レオメーターによって測定した、見掛けずり速度の関数としての見掛け粘度のグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)1種以上のフルオロモノマー、過硫酸塩開始剤及び液状キャリアーを一緒にして反応混合物を形成させ;
(b)この反応混合物を100℃超の温度に加熱し;そして
(c)重合の進行中はこの反応混合物への過硫酸塩開始剤の一定供給を引き延ばす:
ことによって、長鎖分岐を有し且つゲル含有率が5重量%未満の分岐フルオロポリマーを生産することを含む、分岐フルオロポリマーの生成方法。
【請求項2】
前記反応混合物にさらに補助開始剤を含ませる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記補助開始剤がジペルオキシド開始剤である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記過硫酸塩開始剤が過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム及び過硫酸アンモニウムより成る群から選択される、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記液状キャリアーが水又は超臨界二酸化炭素である、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
重合温度が110℃超である、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
重合温度が120℃〜150℃の範囲である、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記フルオロモノマーがフッ化ビニリデンを少なくとも70重量%含む、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記反応混合物に界面活性剤、乳化剤、補助界面活性剤、連鎖移動剤、緩衝剤及び防汚剤より成る群から選択される1種以上の添加剤をさらに含ませる、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
(a)絡み合いの間の臨界分子量以上の分岐;
(b)歪み硬化性;
(c)1未満の回転半径比(ここで、回転半径比は、分岐フルオロポリマーの回転半径を同じ化学組成及び分子量の線状フルオロポリマーの回転半径で割ることによって決定される);
(d)5重量%未満のゲル;並びに
(e)20000〜2000000g/モルの重量平均分子量:
を有する、分岐フルオロポリマー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−516018(P2009−516018A)
【公表日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−540021(P2008−540021)
【出願日】平成18年9月15日(2006.9.15)
【国際出願番号】PCT/US2006/035999
【国際公開番号】WO2007/061488
【国際公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(500307340)アーケマ・インコーポレイテッド (119)
【Fターム(参考)】