説明

分布型光ファイバセンシングシステムを用いた構造物変状モニタリング方法及びその装置

【課題】地中での掘削作業により建設されたトンネルをはじめとして、橋梁、建造物などの構造物及び岩盤、山肌等の変形、挙動を監視する技術を提供すること。とくに粉塵が浮遊している鉱山のトンネルような空間に対しても広範囲にわたって変状をモニタリングできる方法を提供すること。

【解決手段】分布型光ファイバ歪みセンシングシステムを用いた構造物変状モニタリング方法において、モニタリング対象とする地下空間の天井や壁面、岩盤にロックボルトを打ち込み、該ロックボルトに2本一対の光ファイバセンサをたすきがけに固定することを特徴とする構造物変状モニタリング方法によって解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分布型光ファイバセンシングシステムによって構造物の変状を検知する方法及びシステムに関する。本発明は、鉱山での掘削作業により建設されたトンネルをはじめとして、橋梁、建造物などの構造物、及び岩盤、山肌等の変形、挙動を監視する技術である。
【背景技術】
【0002】
地中での掘削作業により建設される地下空間は、建設工事中の掘削や、時間経過に起因する周辺地盤応力分布の不均衡によって変形や損傷を受けたり、それらが進行することによって崩壊にいたる場合がある。そのため、地下空間を健全な状態に維持管理し、建設作業の安全性や効率を向上するとともに建設後も地下空間を安全に利用し続けるためには、常にその状態をモニタリングし、その変状を検出することが重要である。
【0003】
地下空間のみならず、土砂崩れの恐れのある山肌や岩盤を対象として、モニタリング方法やシステムについての研究や開発はこれまでに多数なされている。モニタリングされる物理量は地下空間内部や周囲の岩盤に生じた変形や変位、歪み、応力、振動、温度など様々であり、歪みや応力の計測には抵抗線歪みゲージや振動ワイヤ応力計などが、変位や変形の計測には様々な計測原理に基づく伸縮計が用いられている(例えば非特許文献1〜2)。
【0004】
トータルステーション、写真測量を利用したモニタリングでは、複数の計測点に設置したターゲットの3次元座標を同時に計測でき、計測された座標の変化から計測点の変位を求めることができる利点がある。トータルステーションによる近接工事にともなう鉄道トンネルの変形モニタリングに関する研究では非特許文献3、写真測量による鉄道トンネル内壁の変形計測に関する研究では非特許文献4が報告されている。又、トータルステーションと写真測量を組み合わせたシステムの開発も行われている(非特許文献5)。
【0005】
光ファイバセンシングシステムの利用についても研究されており(特許文献1〜2)、光の干渉に基づいて光ファイバの長さ変化を計測するシステムや、光ファイバ内にブラッググレーティングを形成し、そこからの反射光の周波数が歪みや温度に依存してシフトする性質を利用したファイバブラッググレーティング(FBG)システムなどがある。これらのシステムは2点間の距離変化、グレーティング部分の歪み/温度変化を計測するもので、基本的には従来と同様にセンシングエレメント部分の情報を得るポイントセンサである。
【0006】
分布型光ファイバ歪みセンシングシステムを利用した地下空間の変状モニタリングシステムも開発されている(非特許文献6)。該システムは、歪み計測装置(BOTDR:Brillouin Optical Time Domain Reflector)と、計測対象に設置される光ファイバセンサから構成される。その具体例としては、鉱山トンネルの天井にロックボルトを打ち込み、該各ロックボルトを1本の光ファイバセンサで結び、該センサの伸縮によりトンネルの変状を検知するシステムがある。
【0007】
【特許文献1】特開2001−66117号広報
【特許文献2】特開2001−201411号広報
【非特許文献1】“Structural health monitoring ofunderground facilities – Technological issues and challenges”, S. Bhalla, Y.W. Yang,J. Zhao, C.K. Soh, Tunnelling and Underground Space Technology 20, 487-500(2005).
【非特許文献2】“Monitoring ground deformation intunneling: Current practice in transportation tunnels”, M. J. Kavvadas, EngineeringGeology 79, 93-113 (2005).
【非特許文献3】“Effect of large excavation ondeformation of adjacent MRT tunnels”, J. S. Sharma, A. M. Hefny, J. Zhao and CW.Chan, Tunnelling and Underground Space Technology 16, 93-98 (2001).
【非特許文献4】“Tunnel profile measurement by visionmetrology toward application to NATM”, S. Hattori, K. Akimoto, T. Ono, S.Miura, In: Proceeding of SPIE/IS&T 5011, Machine Vision and Applications in Industrial Inspection XI, SantaClara, California, January, 50-58 (2003).
【非特許文献5】“Europeanpractice in geotechnical instrumentation for tunnel cinstruction control”,Tunnels and Tunnelling International 33, 51-53 (2001).
【非特許文献6】“分布型光ファイバひずみセンシングシステムの地下鉱山変状モニタリングへの適用”,成瀬央,上原秀幹,出口大志,藤橋一彦,大西正敏,R. Espinoza, C. Guzman, C. Pardo, C. Ortega, M. Pinto, 信学技報,社団法人電子情報通信学会,OFT2006-66(2007-1), 71-76 (2007).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、地下空間の様々なモニタリング方法がこれまで提案されているが、各技術にはそれぞれ欠点がある。非特許文献1〜2の技術は、センサが設置された個々の点での計測であるため、多点のモニタリングを行うには多数のセンサを設置する必要があり、それぞれのセンサに対して命令や観測データを送受信するための配線も必要になる。そのため、広範囲にわたるモニタリングが要求される場合への適用は困難である。
【0009】
非特許文献3〜5のような光学的測量技術に基づくモニタリング方法は、地下空間内部に粉塵が浮遊している場合には、計測用の光が計測器とターゲットを往復する間に減衰するためモニタリング範囲が制限される問題がある。
【0010】
非特許文献6における方法では、天井の鉛直方向と水平方向の合成変位だけが求められ、水平方向に比べ鉛直方向変位の感度が低く、合成変位の方向によっては変状を検知できないという問題がある。
【0011】
本発明は、分布型光ファイバ歪みセンシングシステムを用いて、粉塵が浮遊している地下空間に対しても広範囲にわたって変状をモニタリングできる方法及び装置を提供する。更には、該モニタリング方法をコンピュータに実行させるためのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、分布型光ファイバ歪みセンシングシステムを用いた構造物変状モニタリング方法において、モニタリング対象とする地下空間の天井や壁面、岩盤にロックボルトを打ち込み、図2に示すように、該ロックボルトに2本一対の光ファイバセンサをたすきがけに固定することを特徴とする構造物変状モニタリング方法であって、隣接するロックボルト間の該光ファイバの歪みを歪み計測器にて計測し、設置時の該光ファイバセンサ長さと該歪みから該ロックボルトの鉛直方向変位を算出することを特徴とする構造物変状モニタリング方法及び装置であることを特徴とする。
【0013】
又、請求項1記載の構造物変状モニタリング方法を、コンピュータに実行させるためのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体及び該モニタリング方法をコンピュータに実行させるためのプログラムであることを特徴とする。
【0014】
光ファイバ多点計測モニタリングシステムは、隣接するロックボルト間の歪み計測の際、歪み計測値に誤差が生じる。このため、ロックボルト鉛直方向変位を算出する際、該誤差が該変位に与える影響を解消する必要がある。本発明は、分布型光ファイバ歪みセンシングシステムを用いた構造物変状モニタリング方法において、モニタリング対象とする地下空間の天井や壁面、岩盤にロックボルトを打ち込み、該ロックボルトに2本一対の光ファイバセンサをたすきがけに固定することを特徴とする構造物変状モニタリング方法であって、隣接するロックボルト間の該光ファイバの歪みを歪み計測器にて計測し、設置時の該光ファイバセンサ長さと該歪みから該ロックボルトの鉛直方向変位を算出することを特徴とする構造物変状モニタリング方法であって、モニタリング範囲両端に位置するロックボルトの鉛直方向位置を水盛式沈下計等により計測し、該歪み及び該鉛直方向位置、設置時の該光ファイバセンサ長さによって歪み補正値を算出し、該歪みに含まれる誤差を補正することを特徴とする構造物変状モニタリング方法であることを特徴とする。
【0015】
更に、該モニタリング方法をコンピュータに実行させるためのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体及び該モニタリング方法をコンピュータに実行させるためのプログラムであることを特徴とする。該モニタリング方法により、変位計測誤差を従来技術よりも低減することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、粉塵が浮遊している地下空間に対しても広範囲にわたって多点モニタリングを実現することができる。又、水盛式沈下計等により基準となるロックボルトの変位を計測し、得られた値により歪み計測値を補正することで、変位計測誤差を従来技術よりも40%低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態にかかる構造物変状モニタリング方法を示すフローチャート図である。該モニタリング方法は、「センサ設置工程」及び「変形モニタリング工程」の2つの工程から構成される。
【0019】
ステップS1は、モニタリング対象とする地下空間の天井や壁面、岩盤の変状監視区間にロックボルトを打ち込むステップである。
【0020】
ステップS2は、図2に示すように、該ロックボルトに2本一対の光ファイバセンサをたすきがけに設置するステップである。
【0021】
ステップS3は、隣接するロックボルト間のセンサ長、即ち設置時のセンサ長さを計測するステップである。
【0022】
「センサ設置工程」完了後、該変状監視区間のモニタリングを開始する。
【0023】
ステップS4では、上記光ファイバセンサ及び歪み計測装置を用いて隣接ロックボルト間におけるセンサの歪みを計測する。
【0024】
ステップS5において、制約条件を用いて歪み計測値、更にはロックボルトの鉛直方向変位を補正するステップS6へ進むか、それとも、制約条件を用いない、即ち補正を行わずステップS7に進むかを判断する。ステップS5において制約条件を用いないとした場合、ステップS7において、設置時の該センサ長及び該歪みを用いてロックボルトの鉛直方向変位を算出する。
【0025】
ステップS5において制約条件を用いると判断した場合、ステップS6において、該変状監視区間の両端に位置するロックボルトの鉛直方向位置を、水盛式沈下計等により計測し、鉛直方向相対変位を計測する。該鉛直方向相対変位及びステップS1〜ステップS4において求めたセンサ長、及び歪みを用いて、歪み補正値を算出する。そしてステップS7においては、該歪みに該歪み補正値を加算することにより得られる、補正された歪みを用いて、ロックボルトの鉛直方向変位を算出する。
【0026】
次に、上記ステップS3及びS4において計測される隣接ロックボルト間のセンサ長及び歪みを用いて、ロックボルト鉛直方向変位を算出する過程(ステップS5、S6、S7に相当)について説明する。
【0027】
地下空間岩盤へのセンサの設置の様子を図2に示す。地下空間に総数n+1本のロックボルトが打ち込まれ、ロックボルトに2本一対の光ファイバセンサが、たすきがけに、即ちx字状に交差して固定されている状態を示している。本発明におけるセンサ設置方法では、隣接するロックボルトに固定された光ファイバセンサ区間一つ一つが独立した一本の伸縮計として動作するとみなせる。これら2n本のセンサの歪みを計測することによって、ロックボルトを介して地下空間の変位が、その変位にともなって生じた各センサの伸縮から算出される。各センサの伸縮は、それぞれのセンサの長さと、BOTDRなど分布計測可能な光ファイバセンシングシステムによって計測された歪みとの積として求められる。図2を、地下空間の天井にロックボルトが鉛直方向に打ち込まれ、ロックボルトが岩盤と一体となって変位する状態を示していると考えれば鉛直方向の変位が計測され、壁面にロックボルトが打ち込まれている状態を示していると考えれば、水平方向の変位が算出される。以下では、天井にロックボルトが鉛直方向に打ち込まれ、鉛直方向の変位が計測される場合について述べる。
【0028】
ロックボルトには図2に示したように、左端から0、1、2、・・、nの番号が与えられている。左端即ち0番目のロックボルトの、センサ下側固定部の位置を原点Oとし、水平方向にx軸、鉛直方向にz軸をとる。x軸、z軸はそれぞれ右側、上側に正の符号を与える。又、i番目ロックボルトのセンサ下側固定部の水平、鉛直座標をそれぞれxi、ziとし、センサを設置した直後の初期状態における、i-1番目とi番目のロックボルト間の水平方向相対距離即ち打ち込み間隔をLi-1, iとし、鉛直方向相対距離をui-1, iとする。すると、これらの間には以下の関係が成り立つ。
【数1】

【数2】

i-1番目ロックボルトのセンサ下側固定部とi番目ロックボルトのセンサ上側固定部との間の距離即ちこの部分のセンサ長をl LH
i-1, i、それに交差するセンサ長をl HL i-1, iとすると、これらの間の幾何学的条件
【数3】

から、u i-1, iは次のように求められる。
【数4】

ここでsは、ロックボルト上でのセンサ上側固定部と下側固定部との間の距離であり、すべてのロックボルトにおいて同じであるとする。
【0029】
次に、地下空間の変形によって発生したセンサの歪みから、ロックボルト鉛直方向変位を算出する方法について述べる。初期状態と地下空間変形後の状態を図3に示す。ここでは、地下空間に生じた回転は十分小さく、ロックボルトは鉛直方向にのみ変位しているとみなせる場合について考える。水平方向変位が鉛直方向変位計測に与える影響ついての解析は後述する。地下空間が変形することによって、i-1とi番目のロックボルトの間に鉛直方向相対変位vi-1, iが生じ、それらの間に固定されている2本のセンサの長さl LH
i-1, i 、l HL i-1, iがそれぞれ
【数5】

になったとする。ここで、εLH i-1, i、εHL i-1, iは地下空間の変形によってそれぞれのセンサに生じた歪みであり、引張り、圧縮歪みには、それぞれ正、負の符号を与える。次式で表されるロックボルト変位とセンサ長についての幾何学的条件
【数6】

と数式5より、vi-1, iは次のように求められる。
【数7】

したがって、i番目ロックボルトの変位後の鉛直座標ziは、初期状態におけるロックボルトの位置u0, iと鉛直方向変位v0, iとの和として、
【数8】

と算出される。更に、数式4を考慮すると、このロックボルトの鉛直方向変位v0, iは次のように求められる。
【数9】

以上の解析では、センサの伸縮によって生じるセンサの張力変化によるロックボルトの曲がりは無視できると仮定している。補強用のロックボルトを斜めに打ち込み、それをセンサが設置されるロックボルトに溶接することによって、この仮定をみたすようにセンサを設置できる。
【0030】
上述の方法に対し、0番目とn番目即ち両端に設置されたロックボルトの鉛直方向位置を、水盛式沈下計等の別なシステムで計測し、これを制約条件として用いることによって鉛直方向変位の計測精度や検出能力の向上を図る。前述したように、地下空間変形後の各ロックボルトの鉛直方向変位や座標を、隣接する2本のロックボルトの相対変位の累積として算出しているので、算出された変位や座標には、センサの歪み計測値に含まれる誤差が蓄積される。又、モニタリング範囲の岩盤全体が一体となって変形した場合にはセンサには歪みが生じないため、それを検出することができない。更に、基準とする即ち0番目ロックボルトが変位しても、その変位を観測することができない。このような累積誤差の低減、一体変形の検出、基準位置変位の観測を実現する方法を以下に示す。
【0031】
上記のように水盛式沈下計等により計測された、0番目ロックボルトのセンサ下側固定部の初期状態における位置と変位後の位置をそれぞれA 0、A’0とし、n番目のロックボルトについてのそれぞれの位置をA n、A’ nとする。別なシステムで計測された0番目とn番目のロックボルトの鉛直方向相対変位をAとすると、A は (A’n−A’0)−(An−A 0)である。このAの値と、各センサの歪みから算出されたn番目ロックボルトの鉛直方向変位とが等しいことを制約条件に用いて、歪み計測値を補正する。歪み計測値εLH i-1, i、εHL i-1, iに対する補正値をそれぞれΔεLH i-1, i、ΔεHL i-1, iとし、鉛直方向相対変位vi-1, iを歪み計測値とその補正値の関数vi-1, iLH i-1, i+ΔεLH i-1, i, εHL i-1, i+ΔεHL i-1, i) と考えると、制約条件は
【数10】

が成り立つことを意味する。歪みの補正値は十分小さいとして、数式10を1次の項までテーラー展開すると数式11が得られる。
【数11】

更に、全ロックボルトについて数式11の総和を求めると、数式12が得られる。
【数12】

ここで、B、Δεを以下のように、
【数13】

【数14】

とおくと、数式12は
【数15】

と書けるので、この解は
【数16】

と求められる。ここで、Tは転置ベクトルを示している。したがって、各歪み計測値に対する補正値は次のように求められる。
【数17】

数式17で求められた補正値で補正された歪みの値を用いて、各ロックボルトの鉛直方向変位を求める。座標原点である0番目ロックボルトが鉛直方向にA’0−A 0だけ変位していることを考慮すると、i番目のロックボルトの鉛直座標z’iは、
【数18】

で与えられる。
【0032】
ロックボルト鉛直方向変位計測誤差は、(1)センサの歪み計測にかかわるパラメータである光ファイバセンシングシステムの歪み計測誤差、(2)センサ設置にかかわるパラメータである隣接ロックボルト間のセンサ長とロックボルト上でのセンサ固定部間距離、更に(3)モニタリング対象にかかわるパラメータであるモニタリング範囲に依存する。
【0033】
ここではまず、これらのパラメータと鉛直方向相対変位計測誤差との関係について調べる。分布型光ファイバ歪みセンシングシステムを利用する場合には、一つの計測装置で光ファイバセンサ全体を計測するので、場所によらず歪み計測誤差の統計的性質は同じであ

両者の関係は次式で与えられる。
【数19】

幾何学的条件から与えられる数式3において通常のセンサ設置では、初期状態における、i-1番目とi番目のロックボルト間の水平方向相対距離(打ち込み間隔)Li-1, iは、それらの間の鉛直方向相対距離ui-1, iとロックボルト上でのセンサ固定部間距離sに比べて大きく

じる歪みが小さいことから、数式19は次のように近似できる。
【数20】

この結果は、鉛直方向相対変位計測誤差はロックボルト打ち込み間隔の2乗と歪み計測誤差とに比例し、センサ固定部間距離に逆比例することを示している。これは、センサ設置作業の効率化のためにロックボルト打ち込み間隔Li-1, iを長くすること、設置したセンサが障害物にならないようにするためにセンサ固定部間距離sを短くすることは、いずれも相対変位計測精度を低下させることを示している。
【0034】
次に、鉛直方向変位計測誤差について調べる。以下では簡単のために、ロックボルトはすべて等間隔Lで打ち込まれているとする。i番目ロックボルトの鉛直方向変位計測誤差

【数21】

で与えられる。ここで、すべてのロックボルト打ち込み間隔、及びセンサ固定部間距離が

【数22】


【数23】


される。この場合の即ち補正した歪み計測値の標準偏差は、補正していない場合のσvの値より小さくなっている。以上の結果は、ロックボルト鉛直方向変位測誤差が、計測しているロックボルト番号の平方根に比例して増加していくことを示している。
【0035】
ここで、ロックボルト水平方向変位が、鉛直方向変位計測に与える影響について調べる。i番目のロックボルトが、鉛直方向相対変位v i-1, iに加え水平方向にもx iからw iだけ変位した場合を考える。この場合の解析モデルを図4に示す。このとき2本のセンサの長さl LH
i-1, i 、l HL i-1, iはそれぞれl’’LH i-1,
i 、l’’HL
i-1, iになり、それぞれのセンサに生じている歪みをε’LH i-1, i、ε’HL i-1, iとすると、幾何学的条件から数式5及び数式6と同様に次の関係が成り立つ。
【数24】

数式24よりv i-1, i
【数25】

と求められる。数式25は数式8と一致していることから、水平方向に変位が生じている場合でも、その影響を受けることなく鉛直方向変位を求めることができることがわかる。
【実施例】
【0036】
非特許文献6において、地下鉱山トンネルの長さ200mの区間に3m間隔でロックボルトを打ち込み、それに設置した1本の光ファイバセンサの歪みを計測することによって、トンネルの天井と壁面の変状検出を試みたフィールドトライアルについて報告がなされている。本シミュレーションでは該報告と同様に、ロックボルト打ち込み間隔Li-1, iはすべて同じL即ちxi = (i-1) Lとし、Lの値を3mとする。又、ロックボルトの総本数n+1を68即ちnを67として、モニタリング区間を201mとする。それ以外の値については、以下のように設定した。センサの上下固定部間距離sは、Lの10分の1である30cmとした。各ロックボルトの初期状態における鉛直方向座標zi (= u0,
i)は、z=0を中心として、標準偏差が15cm (Lの20分の1)の正規分布で与える。更に、各ロックボルトの初期状態からの鉛直方向変位v 0, iは、中心が0、標準偏差が1.5cm (Lの200分の1)の正規分布として与え、幾何学的条件から算出されたセンサの歪みの値を真値とした。そ

の計測値とした。この場合について、図1を用いて本発明の実施例を具体的に示す。
【0037】
ステップS1では、上述したように3m間隔でロックボルトを打ち込む。ステップS2では、図2に示すように該ロックボルトに2本一対の光ファイバセンサをたすきがけに設置する。ただし、上述したようにロックボルトにおけるセンサ上下固定部間距離は30cmとして設置する。図5の実線は、設置時、即ち変位前のロックボルトの鉛直方向座標(下側固定点の位置)を結んだ直線である。
【0038】
ステップS3では、隣接するロックボルト間のセンサ長l LH i-1, i、l HL i-1, iを測定する。
【0039】
ステップS4では、各ロックボルト間におけるセンサの歪みεLH i-1, i、εHL i-1, iを計測する。各ロックボルトに与えられた変位、及びその変位の後の鉛直方向座標を、それぞれ図6の実線、及び図5の○印で示す。ステップS5において制約条件を用いないと判断した場合、ステップS7において、設置時の該センサ長及び該歪みを用いて数式9によりロックボルトの鉛直方向変位が算出される。その結果は、図6の●印である。
【0040】
ステップS5において制約条件を用いると判断した場合、ステップS6へ進み、0番目とn番目即ち両端に設置されたロックボルトの鉛直方向位置を、水盛式沈下計等により計測し、鉛直方向相対変位Aを計測する。該鉛直方向相対変位及びステップS1〜ステップS4において求めたセンサ長l LH i-1, i、l HL i-1, i、歪みεLH i-1, i、εHL i-1, iを数式17へ代入し、歪み補正値ΔεLH i-1, i、ΔεHL i-1, iを算出する。該歪みに該歪み補正値を加算することにより得られる、補正された歪みεLH i-1, i+ΔεLH i-1, i、εHL i-1, i+ΔεHL i-1, iを、数式9へ代入し、歪み補正した場合のロックボルトの鉛直方向変位を算出する。
【0041】
このようにして求めたロックボルトの鉛直方向変位を、図6に○印で示す。制約条件を用いていない場合には歪み計測誤差の蓄積のために算出された鉛直方向変位の誤差が大きくなっていくのに対し、制約条件を用いている場合には、両端のロックボルトの誤差は0になっていること、各ロックボルトに対する変位計測誤差が小さくなっていることがわかる。
【0042】
また、計測精度を評価するためにロックボルト鉛直方向変位計測誤差の標準偏差σ'vを数式26で求める。
【数26】


状態及び変位を変えたモニタリングパターンを1000組作成し、数式26の計算を繰り

係を求めた結果を図7に示す。解析結果が示すように、変位計測誤差は制約条件の有無にかかわらずセンサの歪み計測誤差に比例していること、又、この例では、補正によって変位計測誤差を40%程度低減できることを確認した。
【産業上の利用の可能性】
【0043】
本発明は、鉱山での掘削作業により建設されたトンネルをはじめとして、橋梁、建造物などの構造物、及び岩盤、山肌等の変形、挙動を監視するシステムに用いることができ、とくに粉塵が浮遊している鉱山のトンネルような空間に対しても広範囲にわたって変状をモニタリングすることができる。又、本発明では、水盛式沈下計等により基準となるロックボルトの変位を計測し、得られた値により歪み計測値を補正することで、変位計測誤差を従来技術よりも40%低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の一実施形態にかかる分布型光ファイバ歪み計測方法を示したフローチャートである。
【図2】本発明の分布型光ファイバセンサの設置を示す図である。
【図3】本発明の光ファイバセンサ初期設置状態と変形後の状態を示す図である。
【図4】本発明における水平方向変位が鉛直方向変位に与える影響の解析モデルを示す図である。
【図5】ロックボルト鉛直方向座標の一例を示す図である。
【図6】本発明におけるロックボルト鉛直方向変位算出結果の一例を示す図である。
【図7】本発明における歪み計測誤差と変位計測誤差との関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分布型光ファイバ歪みセンシングシステムを用いた構造物変状モニタリング方法において、モニタリング対象とする地下空間の天井や壁面、岩盤にロックボルトを打ち込み、該ロックボルトに2本一対の光ファイバセンサをたすきがけに固定することを特徴とする構造物変状モニタリング方法であって、隣接するロックボルト間の該光ファイバの歪みを歪み計測器にて計測し、設置時の該光ファイバセンサ長さと該歪みから該ロックボルトの鉛直方向変位を算出することを特徴とする構造物変状モニタリング方法。
【請求項2】
分布型光ファイバ歪みセンシングシステムを用いた構造物変状モニタリング方法において、モニタリング対象とする地下空間の天井や壁面、岩盤にロックボルトを打ち込み、該ロックボルトに2本一対の光ファイバセンサをたすきがけに固定することを特徴とする構造物変状モニタリング方法であって、隣接するロックボルト間の該光ファイバの歪みを歪み計測器にて計測し、設置時の該光ファイバセンサ長さと該歪みから該ロックボルトの鉛直方向変位を算出する手段を備えた構造物変状モニタリング装置。
【請求項3】
請求項1に記載の構造物変状モニタリング方法であって、該モニタリング方法をコンピュータに実行させるためのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【請求項4】
請求項1に記載の構造物変状モニタリング方法であって、該モニタリング方法をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項5】
分布型光ファイバ歪みセンシングシステムを用いた構造物変状モニタリング方法において、モニタリング対象とする地下空間の天井や壁面、岩盤にロックボルトを打ち込み、該ロックボルトに2本一対の光ファイバセンサをたすきがけに固定することを特徴とする構造物変状モニタリング方法であって、隣接するロックボルト間の該光ファイバの歪みを歪み計測器にて計測し、設置時の該光ファイバセンサ長さと該歪みから該ロックボルトの鉛直方向変位を算出することを特徴とする構造物変状モニタリング方法であって、モニタリング範囲両端に位置するロックボルトの鉛直方向位置を水盛式沈下計等により計測し、該歪みと該鉛直方向位置、設置時の該ロックボルト鉛直方向位置、設置時の該光ファイバセンサ長さによって歪み補正値を算出し、該歪みに含まれる誤差を補正することを特徴とする構造物変状モニタリング方法。
【請求項6】
分布型光ファイバ歪みセンシングシステムを用いた構造物変状モニタリング方法において、モニタリング対象とする地下空間の天井や壁面、岩盤にロックボルトを打ち込み、該ロックボルトに2本一対の光ファイバセンサをたすきがけに固定することを特徴とする構造物変状モニタリング方法であって、隣接するロックボルト間の該光ファイバの歪みを歪み計測器にて計測し、設置時の該光ファイバセンサ長さと該歪みから該ロックボルトの鉛直方向変位を算出することを特徴とする構造物変状モニタリング方法であって、モニタリング範囲両端に位置するロックボルトの鉛直方向位置を水盛式沈下計等により計測し、該歪みと該鉛直方向位置、設置時の該ロックボルト鉛直方向位置、設置時の該光ファイバセンサ長さによって歪み補正値を算出し、該歪みに含まれる誤差を補正する手段を備えた構造物変状モニタリング装置。
【請求項7】
請求項5に記載の構造物変状モニタリング方法であって、該モニタリング方法をコンピュータに実行させるためのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【請求項8】
請求項5に記載の構造物変状モニタリング方法であって、該モニタリング方法をコンピュータに実行させるためのプログラム。














【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2009−294039(P2009−294039A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−147040(P2008−147040)
【出願日】平成20年6月4日(2008.6.4)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年12月5日 社団法人計測自動制御学会中部支部主催の「平成19年三重地区計測制御研究講演会」に文書をもって発表
【出願人】(304026696)国立大学法人三重大学 (270)
【Fターム(参考)】