説明

分析方法と分析用デバイスおよび分析装置

【課題】光路長の誤差の影響を受けることなく正確な希釈倍率を算出できる分析方法と、この方法を実現できる流路構成を搭載した分析用デバイスを提供することを目的とする。
【解決手段】混合室(29)に希釈液のみを保持した状態で検出光を透過させて希釈液のみの吸光度を測定する第1ステップ(工程2の一次測光)と、混合室(29)に希釈液体試料を保持した状態で検出光を透過させて希釈液体試料の吸光度を測定する第2ステップ(工程4の二次測光)と、測定セル(40a)における希釈液体試料の反応物にアクセスして読み取った結果を、第1,第2ステップで求めた吸光度に基づいて求まる希釈倍率によって補正して成分分析の結果を計算する第3ステップ(工程9)とからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、種々の生物学的及び化学的組成物の分析に適用されるような多項目生体液分析装置(マルチバイオセンサ)の分野に関する。より具体的には、本発明は、印加される遠心力及び装置中の通路の表面特性や液体の表面張力によって生じる毛細管力を利用して液体の計量・移送・混合・攪拌等の動作を行い、分析を実施する分析方法と分析用デバイスおよび分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、試料液を内部に収集した分析用デバイスを用い、この分析用デバイスを軸中心周りに回転させながら、分析装置の光学スキャン技術を用いて、試料液の特性を分析する分析装置が実用化されている。
【0003】
近年、試料液の少量化、装置の小型化、短時間測定、多項目同時測定など、市場からの要求も多く、血液等の試料液をいろいろな分析試薬と反応させ、その混合物を検出し、短時間で各種病気の進行度合いを検査できるより高精度の分析装置が望まれている。
【0004】
通常、このような分析用デバイスでは試料液をそのまま試薬と反応させることは少なく、分析の目的に応じて緩衝液等による試料液の希釈や試料液中の微粒子の除去といった前処理が必要となる場合が多い。そして、例えば試料液の希釈を行った場合、実際の測定値算出過程においてその希釈倍率を正確に導出する必要がある。
【0005】
このような前処理および希釈倍率の導出を分析用デバイス上で光学的に行っている例として特許文献1の分析用デバイスがある。
図28は特許文献1の分析用デバイスを示す。
【0006】
ローター本体202は実質的に固体状のディスク形状になっており、その底部層204がこの図23に示されている。密封された試薬容器206が底部層204のチャンバー208内に位置していて、これは出口チャンネル210から半径方向内側へ向かっており、試薬は出口チャンネル210を通って混合チャンバー212の中へ移される。
【0007】
試薬容器206は、生物学的サンプルと混合される希釈剤を収納している。例えば、もしサンプルが血液である場合には、通常の食塩水溶液(0.5%食塩水)や、リン酸緩衝液、リンゲル乳酸液、およびその類似物のような標準希釈剤を用いてもよい。密封された試薬容器206は、ローター本体202を分析装置の中に取り付けるのに応答して開放される。開放された後は、試薬容器206内の試薬は出口チャンネル210を通って混合チャンバー212へ流れる。
【0008】
混合チャンバー212は、試験しようとしている生物学的サンプルの希釈度を規定するための測光的に検出可能なマーカー混合物を有している。
混合した後は、希釈剤は混合チャンバー212を出て、サイフォン214を通って計量チャンバー216の中へ入る。計量チャンバー216はオーバーフローチャンバー218に連結されている。計量チャンバー216の体積は試薬容器206の体積よりも小さい。希釈剤の余剰の体積は、計量チャンバー216の中に所定体積の希釈剤を残して、オーバーフローチャンバー218の中へ流入する。オーバーフローチャンバー218における希釈剤の余剰体積は、通路220を通って収集チャンバー222の中へ入る。
【0009】
次に希釈剤は、生物学的サンプルの光学的分析における参考値として用いるために、半径方向外側へ流れ、システムキュベット224の中へ流れる。計量チャンバー216内の所定体積の希釈剤はサイフォン226を通って分離チャンバー228内へ入り、分析しようとする生物学的サンプルと混合し、サンプルを希釈する。サンプルは頂部層(図示せず)における注入口を介してローター本体202に加えられる。
【0010】
サンプル計量チャンバー230は連結路234によってサンプルオーバーフローチャンバー232に連結されている。サンプル計量チャンバー230とオーバーフローチャンバー232との深さは、毛細管状の寸法になるように選択されている。計量されたサンプルは、次に、分離チャンバー228の中へ入る。分離チャンバー228は、全血液のような生物学的サンプルから細胞状の材料を除去するために用いられる。分離チャンバー228はその半径方向外側の円周部において形成された細胞トラップ236と、半径方向内側の円周に沿って形成された受け穴領域238とからなっている。遠心分離の結果として、細胞状の成分が細胞トラップ236の中へ入った後に、それが逆流するのを防ぐために、受け穴領域238と細胞トラップ236との間に毛細管領域(図示せず)が形成されている。受け穴領域238は希釈された細胞成分のない血漿を受け留めることのできる体積を有している。希釈された血漿はサイフォン242を介して分離チャンバー228から第2分離チャンバー244へ入り、そこで細胞状の成分の分離がさらに行われる。
【0011】
次に、希釈されたサンプルは通路246を介して出て収集チャンバー248の中へ入り、そこで光学的分析を行うためにキュベット250へ送られる。キュベット250はサンプルの光学的分析のために必要な試薬を収納している。上記手法にて得られた希釈剤のみの光学的測定値と希釈後のサンプルの光学的測定値から、サンプルの希釈倍率が導出可能である。
【特許文献1】特表平7−503794号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
光学的分析、具体的には上述した従来例や本発明における分析装置に採用される可視光または紫外光による吸光度測定においては下記に示すランバート・ベールの法則からも自明なように光路長が測定結果に直接的に影響している。
【0013】
A = α・L・C
α:吸光係数,L:物質の厚さ(光路長),C:サンプル濃度
である。
【0014】
すなわち、光路長の誤差(製造バラつき)は測定値の誤差としてそのまま現れる。特に、検体量の微量化のためデバイス自身が小型化・集積化している中、光路長も当然微小化しているが、光路長が小さくなればなるほどその誤差の影響が大きくなる。しかしながらこの光路長の誤差が完全にゼロになるようにシステムキュベット224とキュベット250を作製することは実質的に不可能である。そのため、それぞれの光路長の誤差の影響を確実に受けてしまい正確な希釈倍率を算出できないという課題を有している。
【0015】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、光路長の誤差の影響を受けることなく正確な希釈倍率を算出できる分析方法と、この分析方法を実現できる流路構成を搭載した分析用デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の請求項1記載の分析方法は、希釈液と液体試料とを分析用デバイスの混合室に受け入れて混合し、前記混合室で攪拌混合された希釈液体試料を前記分析用デバイスの測定セルに移送し、前記測定セルにおける前記希釈液体試料の反応物にアクセスして成分分析するに際し、前記混合室に希釈液のみを保持した状態で前記混合室に検出光を透過させて前記希釈液のみの吸光度を測定する第1ステップと、前記混合室に希釈液体試料を保持した状態で前記混合室に検出光を透過させて前記希釈液体試料の吸光度を測定する第2ステップと、前記測定セルにおける前記希釈液体試料の反応物にアクセスして読み取った結果を、前記第1,第2ステップで求めた吸光度に基づいて求まる希釈倍率によって補正して成分分析の結果を計算する第3ステップとからなる。
【0017】
本発明の請求項2記載の分析方法は、請求項1において、前記第1ステップは、希釈液を前記混合室に向かって移送中に前記混合室に受け入れた前記希釈液のみの吸光度を測定することを特徴とする。
【0018】
本発明の請求項3記載の分析方法は、請求項1において、前記第1ステップは、分析用デバイスの回転中に希釈液を計量する計量作業を有し、前記計量作業の終了後に分析用デバイスを減速させて、前記希釈液を前記混合室に移送することを特徴とする。
【0019】
本発明の請求項4記載の分析用デバイスは、希釈液を貯留する希釈液室と、液体試料を一定量保持できるように構成された液体試料室と、前記液体試料室と連結され前記液体試料を一時的に保持する液体試料保持室と、前記希釈液室と連結され希釈液を必要量定量するための希釈液定量室と、前記希釈液定量室と連結され前記希釈液定量室に移送された希釈液の余剰分を溢流させる溢流流路と、前記液体試料保持室とは第1連結流路を介して連結され前記希釈液定量室とは第2連結流路を介して連結された混合室と、前記混合室とは毛細管流路を介して連結され希釈液と液体試料とを前記混合室で攪拌混合した希釈液体試料を受け入れる測定セルとを設けたことを特徴とする。
【0020】
本発明の請求項5記載の分析用デバイスは、請求項4において、前記溢流流路が前記混合室と連結していることを特徴とする。
本発明の請求項6記載の分析用デバイスは、請求項4において、試料液保持室に所定量を超える前記液体試料を溢流させて計量できるように溢流流路を設けたことを特徴とする。
【0021】
本発明の請求項7記載の分析用デバイスは、請求項4において、前記希釈液室と前記混合室を前記希釈液定量室を介さずに分配流路で連結して、希釈液を前記希釈液定量室と前記混合室に分配できるよう構成したことを特徴とする。
【0022】
本発明の請求項8記載の分析用デバイスは、請求項4において、前記第1連結流路および前記第2連結流路がサイフォン構造を有していることを特徴とする。
本発明の請求項9記載の分析用デバイスは、請求項4において、前記混合室とサイフォン構造を有する第3連結流路を介して連通する溢流室を備えていることを特徴とする。
【0023】
本発明の請求項10記載の分析用デバイスは、請求項9において、前記混合室には、前記第3連結流路のサイフォンの最内周位置よりも更に内周側に過剰量の希釈液を溢流させる第4の溢流流路を有していることを特徴とする。
【0024】
本発明の請求項11記載の分析装置は、請求項4に記載の分析用デバイスがセットされ、希釈液と液体試料とを分析用デバイスの混合室に受け入れて混合し、前記混合室で攪拌混合された希釈液体試料を前記分析用デバイスの測定セルに移送し、前記測定セルにおける前記希釈液体試料の反応物にアクセスして成分分析する分析装置であって、前記分析用デバイスを軸心周りに回転させる回転駆動手段と、前記混合室に希釈液のみを保持した状態と前記混合室に希釈液と液体試料とを受け入れて攪拌混合した希釈液体試料を保持した状態ならびに前記混合室から前記測定セルへ移送させるよう前記回転駆動手段を制御する制御手段と、前記混合室に検出光を透過させて前記希釈液のみの吸光度と前記希釈液体試料の吸光度ならびに前記分析用デバイスの測定セルに移送された前記試料液に基づく反応物にアクセスする分析手段と、前記分析手段が前記測定セルにおける前記希釈液体試料の反応物にアクセスして読み取った結果を、前記分析手段が希釈液のみを保持した前記混合室にアクセスして読み取った吸光度と前記分析手段が希釈液体試料を保持した前記混合室にアクセスして読み取った吸光度に基づいて求まる希釈倍率によって補正して成分分析の結果を計算する演算部とを設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明の分析方法によれば、測定チャンバーの光路長バラつきに影響されず正確に希釈倍率を算出することができ、精度の良い分析を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の分析用デバイスの実施の形態を図1〜図27に基づいて説明する。
図1(a)(b)は分析用デバイス1の保護キャップ2を閉じた状態と開いた状態を示している。図2は図1(a)における下側を上に向けた状態で分解した状態を示し、図3はその組立図を示している。
【0027】
図1と図2に示すようにこの分析用デバイス1は、微細な凹凸形状を表面に有するマイクロチャネル構造が片面に形成されたベース基板3と、ベース基板3の表面を覆うカバー基板4と、希釈液を保持している希釈液容器5と、試料液飛散防止用の保護キャップ2とを合わせた4つの部品で構成されている。
【0028】
ベース基板3とカバー基板4は、希釈液容器5などを内部にセットした状態で接合され、この接合されたものに保護キャップ2が取り付けられている。
ベース基板3の上面に形成されている数個の凹部の開口をカバー基板4で覆うことによって、後述の複数の収容エリア(後述の測定セルと同じ)とその収容エリアの間を接続するマイクロチャネル構造の流路などが形成されている。収容エリアのうちの必要なものには各種の分析に必要な試薬が予め担持されている。保護キャップ2の片側は、ベース基板3とカバー基板4に形成された軸6a,6bに係合して開閉できるように枢支されている。検査しようとする試料液が血液の場合、毛細管力の作用する前記マイクロチャネル構造の各流路の隙間は、50μm〜300μmに設定されている。
【0029】
この分析用デバイス1を使用した分析工程の概要は、希釈液が予めセットされた分析用デバイス1に試料液を点着し、この試料液の少なくとも一部を前記希釈液で希釈した後に測定しようとするものである。
【0030】
図4は希釈液容器5の形状を示している。
図4(a)は平面図、図4(b)は図4(a)のA−A断面図、図4(c)は側面図、図4(d)は背面図、図4(e)は開口部7から見た正面図である。この開口部7は希釈液容器5の内部5aに、図6(a)に示すように希釈液8を充填した後にシール部材としてのアルミシール9によって密封されている。希釈液容器5の開口部7とは反対側には、ラッチ部10が形成されている。この希釈液容器5は、ベース基板3とカバー基板4の間に形成され希釈液室11にセットされて図6(a)に示す液保持位置と、図6(c)に示す液放出位置とに移動自在に収容されている。
【0031】
図5は保護キャップ2の形状を示している。
図5(a)は平面図、図5(b)は図5(a)のB−B断面図、図5(c)は側面図、図5(d)は背面図、図5(e)は開口2aから見た正面図である。保護キャップ2の内側には、図1(a)に示した閉塞状態で図6(a)に示すように、希釈液容器5のラッチ部10が係合可能な係止用溝12が形成されている。
【0032】
この図6(a)は使用前の分析用デバイス1を示す。この状態では保護キャップ2が閉塞されており、保護キャップ2の係止用溝12に希釈液容器5のラッチ部10が係合して希釈液容器5が矢印J方向に移動しないように液保持位置に係止されている。この状態で利用者に供給される。
【0033】
試料液の点着に際して保護キャップ2が図6(a)でのラッチ部10との係合に抗して図1(b)に示したように開かれると、保護キャップ2の係止用溝12が形成されている底部2bが弾性変形して図6(b)に示すように保護キャップ2の係止用溝12と希釈液容器5のラッチ部10との係合が解除される。
【0034】
この状態で、分析用デバイス1の露出した注入口13に試料液を点着して保護キャップ2を閉じる。この際、保護キャップ2を閉じることによって、係止用溝12を形成していた壁面12aが、希釈液容器5のラッチ部10の保護キャップ2の側の面5bに当接して、希釈液容器5を前記矢印J方向(液放出位置に近づく方向)に押し込む。希釈液室11には、ベース基板3の側から突出部としての開封リブ14が形成されており、希釈液容器5が保護キャップ2によって押し込まれると、希釈液容器5の斜めに傾斜した開口部7のシール面に張られていたアルミシール9が図6(c)に示すように開封リブ14に衝突して破られる。
【0035】
なお、図7は分析用デバイス1を図6(a)に示した出荷状態にセットする製造工程を示している。先ず、保護キャップ2を閉じる前に、希釈液容器5の下面に設けた溝42(図2と図4(d)参照)と、カバー基板4に設けた孔43とを位置合わせして、この液保持位置において孔43を通して希釈液容器5の溝42に、ベース基板3またはカバー基板4とは別に設けられた係止治具44の突起44aを係合させて、希釈液容器5を液保持位置に係止した状態にセットする。そして、保護キャップ2の上面に形成されている切り欠き45(図1参照)から、押圧治具46を差し入れて保護キャップ2の底面を押圧して弾性変形させた状態で保護キャップ2を閉じてから押圧治具46を解除することによって、図6(a)の状態にセットできる。
【0036】
なお、この実施の形態では希釈液容器5の下面に溝42を設けた場合を例に挙げて説明したが、希釈液容器5の上面に溝42を設け、この溝42に対応してベース基板3に孔43を設けて係止治具44の突起44aを溝42に係合させるようにも構成できる。
【0037】
また、保護キャップ2の係止用溝12が希釈液容器5のラッチ部10に直接に係合して希釈液容器5を液保持位置に係止したが、保護キャップ2の係止用溝12と希釈液容器5のラッチ部10とを間接的に係合させて希釈液容器5を液保持位置に係止することもできる。
【0038】
この分析用デバイス1を図8と図9に示すように、カバー基板4を下側にして分析装置100のロータ101にセットすることで、試料液の成分分析を行うことができる。
ロータ101の上面には溝102が形成されており、分析用デバイス1をロータ101にセットした状態では分析用デバイス1のカバー基板4に形成された回転支持部15と保護キャップ2に形成された回転支持部16が溝102に係合してこれを収容している。
【0039】
ロータ101に分析用デバイス1をセットした後に、ロータ101の回転させる前に分析装置のドア103を閉じると、セットされた分析用デバイス1は、ドア103の側に設けられた可動片104によって、ロータ101の回転軸心上の位置がバネ105の付勢力でロータ101の側に押さえられて、分析用デバイス1は、回転駆動手段106によって回転駆動されるロータ101と一体に回転する。107はロータ101の回転中の軸心を示している。保護キャップ2は注入口13の付近に付着した試料液が、分析中に遠心力によって外部へ飛散を防止するために取り付けられている。
【0040】
分析用デバイス1を構成する部品の材料としては、材料コストが安価で量産性に優れる樹脂材料が望ましい。前記分析装置100は、分析用デバイス1を透過した光を測定する光学的測定方法によって試料液の分析を行うため、ベース基板3およびカバー基板4の材料としては、PC,PMMA,AS,MSなどの透明性が高い合成樹脂が望ましい。
【0041】
また、希釈液容器5の材料としては、希釈液容器5内部に希釈液8を長期間封入しておく必要があるため、PP,PEなどの水分透過率の低い結晶性の合成樹脂が望ましい。保護キャップ2の材料としては、成形性のよい材料であれば特に問題がなく、PP,PEなどの安価な樹脂が望ましい。
【0042】
ベース基板3とカバー基板4との接合は、前記収容エリアに担持された試薬の反応活性に影響を与えにくい方法が望ましく、接合時に反応性のガスや溶剤が発生しにくい超音波溶着やレーザー溶着などが望ましい。
【0043】
また、ベース基板3とカバー基板4との接合によって両基板3,4の間の微小な隙間による毛細管力によって溶液を移送させる部分には、毛細管力を高めるための親水処理がなされている。具体的には、親水性ポリマーや界面活性剤などを用いた親水処理が行われている。ここで、親水性とは水との接触角が90°未満のことをいい、より好ましくは接触角40°未満である。
【0044】
図10は分析装置100の構成を示す。
この分析装置100は、ロータ101を回転させるための回転駆動手段106と、分析用デバイス1内の反応物にアクセスして分析する分析手段としての光学測定部108と、ロータ101の回転速度や回転方向および光学測定部108の測定タイミングなどを制御する制御手段109と、光学測定部108によって得られた信号を処理し測定結果を演算するための演算部110と、演算部110で得られた結果を表示するための表示部111とで構成されている。
【0045】
回転駆動手段106は、ロータ101を介して分析用デバイス1を回転軸心107の回りに任意の方向に所定の回転速度で回転させるだけではなく、所定の停止位置で回転軸心107を中心に所定の振幅範囲、所定の周期で左右に往復運動をさせて分析用デバイス1を揺動させることができるように構成されている。
【0046】
光学測定部108には、分析用デバイス1の測定セルにレーザー光を照射するレーザー光源112aと、レーザー光源112aから照射されたレーザー光のうち、分析用デバイス1を通過した透過光の光量を検出するフォトディテクタ113aと、分析用デバイス1の測定セルとは別の測定部にレーザー光を照射するレーザー光源112bと、レーザー光源112bから照射されたレーザー光のうち、分析用デバイス1を通過した透過光の光量を検出するフォトディテクタ113bとを備えている。
【0047】
分析用デバイス1をロータ101によって回転駆動して、注入口13から内部に取り込んだ試料液を、注入口13よりも内周にある前記回転軸心107を中心に分析用デバイス1を回転させて発生する遠心力と、分析用デバイス1内に設けられた毛細管流路の毛細管力を用いて、分析用デバイス1の内部で溶液を移送していくよう構成されており、分析用デバイス1のマイクロチャネル構造を分析工程とともに詳しく説明する。
【0048】
図11は分析用デバイス1の注入口13の付近を示している。
図11(a)は注入口13を分析用デバイス1の外側から見た拡大図を示し、図11(b)は前記マイクロチャネル構造をロータ101の側からカバー基板4を透過して見たものである。
【0049】
注入口13は、ベース基板3とカバー基板4との間に形成された微小な隙間δの毛細管力の作用する誘導部17を介して、この誘導部17と同様に毛細管力の作用する隙間で必要量の試料液18を保持できる容積の液体試料室19と接続されている。誘導部17の流れ方向と直交する断面形状(図11(b)のD−D断面)は、奥側が垂直な矩形形ではなくて、図11(c)に示すように奥端ほどカバー基板4に向かって次第に狭くなる傾斜面20で形成されている。誘導部17と液体試料室19と接続部にはベース基板3に凹部21を形成して通路の向きを変更する屈曲部22が形成されている。
【0050】
誘導部17から見て液体試料室19を介してその先には、毛細管力が作用しない隙間の試料液保持室23が形成されている。液体試料室19と屈曲部22および誘導部17の一部の側方には、一端が試料液保持室23に接続され、他端が大気に開放したキャビティ24が形成されている。
【0051】
このように構成したため、試料液18として血液を注入口13に点着すると、試料液18は誘導部17を介して液体試料室19まで取り込まれる。図12はこのようにして点着後の分析用デバイス1をロータ101にセットして回転させる前の状態を示している。このとき、図6(c)で説明したように希釈液容器5のアルミシール9が開封リブ14に衝突して破られている。25a〜25g,25h,25i1,25i2,25j〜25nはベース基板3に形成された空気孔である。
【0052】
希釈液容器5から流れ出した希釈液が通過していく流路と、希釈液または受け入れた希釈液と液体試料とを攪拌混合する混合室29の周辺を図13に示す。
希釈液室11から流れ出た希釈液を、希釈液定量室27と混合室29に分配できるよう分配流路が次のように構成されている。
【0053】
混合室29よりも内周側に配置された希釈液定量室27は、排出流路26を介して希釈液室11と連結され、流入した希釈液を必要量だけ定量して希釈液の余剰分を溢流させる。希釈液定量室27から溢流した余剰分の希釈液は、溢流流路28を介して混合室29に分配される。また、希釈液定量室27の外周側は、サイフォン構造を有している第2連結流路41を介して混合室29に連結されている。混合室29の外周側底部は、サイフォン構造を有している第3連結流路34aを介して、混合室29の外周側に流入口を設けた溢流室36bに連通している。溢流室36bは、毛細管力が作用する隙に形成された逆流防止流路35aを介して溢流室36a,36cに接続されている。また、第3連結流路34aのサイフォンの最内周位置よりも更に内周側には、混合室29での過剰量の希釈液を溢流室36aに溢流させる第4の溢流流路34bが設けられている。
【0054】
分析工程を、回転駆動手段106の運転を制御している制御手段109の構成と共に説明する。
− 工程1 −
検査を受ける試料液が注入口13に点着された分析用デバイス1は、図14(a)に示すように液体試料室19内に試料液を保持し、希釈液容器5のアルミシール9が破られた状態でロータ101にセットされる。
【0055】
− 工程2 −
ドア103を閉じた後にロータ101を時計方向(C2方向)に回転駆動すると、保持されている試料液が屈曲部22の位置で破断し、誘導部17内の試料液は保護キャップ2内に排出され、液体試料室19内の試料液18は図14(b)に示すように試料液保持室23に流入して一定量が一時的に保持される。
【0056】
希釈液容器5から流出した希釈液8は、排出流路26を介して希釈液定量室27に流入する。
なお、希釈液容器5は、アルミシール9でシールされている開口部7とは反対側の底部の形状が、図4(a)(b)に示すように円弧面32で形成され、かつ図14(b)に示す状態の希釈液容器5の液放出位置においては、図15に示すように円弧面32の中心mが回転軸心107よりも排出流路26側に近づくよう距離dだけオフセットするように形成されているため、この円弧面32に向かうように流れた希釈液8が円弧面32に沿って外側から開口部7に向かう流れ(矢印n方向)に変更されて、希釈液容器5の開口部7から効率よく希釈液室11に放出される。
【0057】
希釈液定量室27に流入した希釈液8が所定量を超えると、超えた希釈液8は溢流流路28を介して図14(b)に示すように混合室29に流れ込み、さらに混合室29に流入した希釈液8が所定量を超えると、超えた希釈液8は第3連結流路34a,第4連結流路34bおよび溢流流路38を介して溢流室36a,36b,36c,36dに流れ込む。溢流室36a,36b,36cに流入した希釈液8は逆流防止流路35a,35bの毛細管力によって溢流室36a,36b,36cから流出しないように保持される。
【0058】
本実施の形態では、試料液保持室23に一定量の試料液が保持される構成としているが、未計量の試料液を液体試料室19に供給し、試料液保持室23に移送した際に、試料液保持室から所定量を超える試料液を溢流させて計量できるように溢流流路(図示せず)を設けてもかまわない。
【0059】
ここで、希釈液8は特定の波長域で規定の吸光度を有する溶液であり、混合室29に流入した希釈液8が混合室29に滞在している間に、希釈液8の吸光度が測定(一次測光)される。具体的には、分析用デバイス1を時計方向(C2方向)に回転駆動して、希釈液8だけが入った混合室29がレーザー光源112bとフォトディテクタ113bの間を通過するタイミングに、演算部110がフォトディテクタ113bの検出値を読み取る。図14(b)のP1が一次測光の光の透過位置を表している。
【0060】
第3連結流路34aは混合室29の最外周部から内周方向に屈曲部をもつサイフォン構造を有しており、第3連結流路34aの屈曲部を超える希釈液8が流入してくると、サイフォン効果によって混合室29内の希釈液8が溢流室36a,36b,36cに排出される。また、第3連結流路34aのさらに内周位置に所定量を超えた希釈液を排出するための連結流路34bを設けることで、過剰な希釈液が流入した際に混合室29から試料液保持室23へ流入するのを防いでいる。
【0061】
混合室29に滞在していた希釈液8は、時間の経過と共に溢流室36a,36b,36cにすべて排出されて、図16(a)に示すように試料液保持室23と、希釈液定量室27にそれぞれ所定量の試料液18と希釈液8が保持された状態になる。
【0062】
− 工程3 −
次に、ロータ101の回転を停止させると、試料液18は図16(b)に示すように試料液保持室23と混合室29を連結しているサイフォン形状を有する第1連結流路30に呼び水され、同様に、希釈液8も希釈液定量室27と混合室29を連結しているサイフォン形状を有する第2連結流路41に呼び水される。
【0063】
− 工程4 −
ロータ101を反時計方向(C1方向)に回転駆動すると、試料液保持室23の試料液18と希釈液定量室27の希釈液8は図17(a)に示すように混合室29に流入するとともに、混合室29で希釈血漿成分18aと血球成分18bとに遠心分離される。18cは希釈血漿成分18aと血球成分18bとの分離界面を表している。ここで、試料液18と希釈液8はリブ31に一旦衝突してから混合室29に流入させるので、試料液18中の血漿成分と希釈液8とを均一に攪拌できる。
【0064】
そして、混合室29で遠心分離された希釈血漿成分18aの吸光度が測定(二次測光)される。具体的には、分析用デバイス1を反時計方向(C1方向)に回転駆動して、希釈血漿成分18aの入った混合室29がレーザー光源112bとフォトディテクタ113bの間を通過するタイミングに、演算部110がフォトディテクタ113bの検出値を読み取る。図17(a)のP2が一次測光の光の透過位置を表しており、混合室29における二次測光の位置P2は、図14(b)に示した一次測光の位置P1と同一場所である。
【0065】
一次測光の位置P1と二次測光の位置P2が必ずしも同一でなくても両測定が単一の混合室29を測定していることで従来に比べて測定精度の向上を期待できるが、同一位置の測定がより望ましい。
【0066】
ここで、この実施の形態では、試料液18である血液と希釈液8を直接に混合してから希釈血漿成分18aを抽出し、試薬と反応させて血漿成分中の特定成分を分析する構成としているが、血液中の血漿成分の割合は個人差があるため、直接に混合した際に血漿成分の希釈倍率が大きくばらつく。そのため、希釈血漿成分18aと試薬を反応させた際に反応濃度がばらついて測定精度に影響を与えてしまう。そのため、試料液18と希釈液8とを混合した時の希釈倍率のばらつきを補正するために、特定の波長域で規定の吸光度を有する希釈液を用いて、試料液との混合前後の吸光度を、混合室29の同一箇所にて測定して希釈倍率を算出しているため、測定部の光路長ばらつきを除くことができると共に、測定部の表面状態(うねり、表面粗さ)のばらつきによる受光量変化を除くことができるため、精度の良い希釈倍率の測定ができるとともに、測定セルにおける測定結果に対して、希釈倍率のばらつきを補正することができ測定精度が大幅に改善される。また、この補正方法は試料液18と希釈液8の液量のばらつきによる希釈倍率のばらつき補正にも有用である。
【0067】
− 工程5 −
次に、ロータ101の回転を停止させると、希釈血漿成分18aは、混合室29の壁面に形成された毛細管キャビティ33に吸い上げられ、毛細管キャビティ33と連通する毛細管流路37を介して図17(b)に示すように溢流流路38,計量流路39a,39b,39c,39d,39e,39f,39gに流れて、計量流路39a〜39gに定量が保持される。
【0068】
なお、図18(a)に毛細管キャビティ33とその周辺の斜視図を示す。図18(a)におけるE−E断面を図18(b)に示す。この毛細管キャビティ33とその周辺を詳しく説明する。
【0069】
毛細管キャビティ33は、混合室29の底部29bから内周側に向かって形成されている。換言すると、毛細管キャビティ33の最外周の位置は、図17(a)に示す希釈血漿成分18aと血球成分18bとの分離界面18cよりも外周方向に伸長して形成されている。このように毛細管キャビティ33の外周側の位置を上記のように設定することによって、毛細管キャビティ33の外周端が、混合室29において分離された希釈血漿成分18aと血球成分18bに浸かっており、希釈血漿成分18aは血球成分18bに比べて粘度が低いため、希釈血漿成分18aの方が優先的に毛細管キャビティ33によって吸い出され、毛細管流路37と溢流流路38、計量流路39a,39b,39c,39d,39e,39f,39gを介して測定セル40a〜40f,40gに向かって希釈血漿成分18aを移送できる。
【0070】
また、希釈血漿成分18aが吸い出された後、血球成分18bも希釈血漿成分18aの後を追って吸い出されるため、毛細管キャビティ33および毛細管流路37の途中までの経路を血球成分18bで置換することができ、溢流流路38および計量流路39a〜39gが希釈血漿成分18aで満たされると、毛細管流路37および毛細管キャビティ33内の液の移送も止まるため、溢流流路38および計量流路39a〜39gに血球成分18bが混入することはない。
【0071】
したがって、従来の構成よりも送液ロスを最小限に抑えることができるため、測定に必要な試料液の量を低減することができる。
− 工程6 −
更に、ロータ101を反時計方向(C1方向)に回転駆動すると、図19(a)に示すように、計量流路39a〜39gに保持されていた希釈血漿成分18aは、大気と連通する大気開放キャビティ48との連結部である屈曲部49a,49b,49c,49d,49e,49f,49gの位置で破断して測定セル40a〜40f,40gに流れ込む。ここでは測定セル40a〜40fのそれぞれに同じ量の希釈血漿成分18aが流れ込む。
【0072】
また、このとき溢流流路38の希釈血漿成分18aは、溢流室36dと逆流防止通路35bを介して溢流室36c,36aに流れ込む。また、このとき混合室29内の試料液は、サイフォン形状の第3連結流路34aと溢流室36bを介して溢流室36a,36cに流れ込む。
【0073】
測定セル40a〜40f,40gの形状は、遠心力の働く方向に伸長した形状で、具体的には、分析用デバイス1の回転中心から最外周に向かって分析用デバイス1の周方向の幅が細く形成されている。複数の測定セル40a〜40f,40gの外周側の底部は分析用デバイス1の同一半径上に配置されているため、複数の測定セル40a〜40f,40gを測定するのに同一波長のレーザー光源112aやそれに対応するフォトディテクタ113aを別の半径距離に複数個配置する必要が無く、装置のコストを削減できると共に、同一測定セル内に複数の異なる波長を用いて測定することもできるため、混合溶液の濃度に応じて最適な波長を選択することで測定感度を向上させることができる。
【0074】
さらに、各測定セル40a,40b,40d〜40fの周方向に位置する側壁の一側壁には、前記測定セルの外周位置から内周方向に伸長するように毛細管エリア47a,47b,47d,47e,47fが形成されている。図19(a)におけるF−F断面を図21(a)に示す。
【0075】
また、測定セル40cの周方向に位置する側壁の両側壁には、前記測定セルの外周位置から内周方向に伸長するように毛細管エリア47c1,47c2が形成されている。図19(a)におけるG−G断面を図21(b)に示す。
【0076】
なお、測定セル40gには測定セル40a〜40fに見られたような毛細管エリアは形成されていない。
毛細管エリア47aの吸い上げ可能な容量は、測定セル40aに保持される試料液を全て収容できる容量よりも少ない容量に形成されている。毛細管エリア47b,47d〜47fも同様に、それぞれの測定セル40b,40d〜40fに保持される試料液を全て収容できる容量よりも少ない容量に形成されている。測定セル40cの毛細管エリア47c1,47c2については、毛細管エリア47c1の吸い上げ可能な容量と毛細管エリア47c2の吸い上げ可能な容量との加算値が、測定セル40cに保持される試料液を全て収容できる容量に形成されている。測定セル40b〜40f,40gの光路長は互いに同じ長さに形成されている。
【0077】
また、図20に示すように毛細管エリア47a,47b,47c1,47c2,47d,47e,47fには、試料液と反応させる試薬T1が担持されている。測定セル40gには試薬が設けられていない。
【0078】
なお、上記の実施の形態において毛細管エリア47a,47b,47c1,47c2,47d〜47fに担持させた試薬T1は、分析する特定成分に応じて異なっており、溶けやすい試薬を毛細管エリア47a,47b,47d〜47fに担持させ、毛細管エリア47cには溶けにくい試薬を担持させる。
【0079】
− 工程7 −
次に、分析用デバイス1の回転を減速または停止、または所定の停止位置で回転軸心107を中心に所定の振幅範囲、周期で左右に往復運動をさせて分析用デバイス1を揺動させることによって、各測定セル40a〜40fに移送された試料液または試薬と試料液の混合溶液が、毛細管力によって図19(b)に示すように毛細管エリア47a〜47fに吸い上げられ、この時点で試薬T1の溶解が開始され、希釈血漿成分18a内に含まれる特定の成分と試薬の反応が開始される。
【0080】
− 工程8 −
図19(b)に示したように、試料液または試薬と試料液の混合溶液が毛細管エリア47a〜47fに吸い上げられた状態から、分析用デバイス1の回転を加速させて、分析用デバイス1を反時計方向(C1方向)または時計方向(C2方向)に回転駆動すると、図19(a)に示すように、毛細管エリア47a〜47fに保持されていた液が遠心力によって、測定セル40a〜40fの外周側に移送することで、試薬T1と希釈血漿成分18aの攪拌が行われる。
【0081】
ここでは、工程7と工程8の動作を繰り返し行うことで、試薬と希釈血漿成分18aの攪拌を促進しているため、拡散のみの攪拌に比べて確実に且つ短時間で攪拌を行うことが可能となる。
【0082】
− 工程9−
分析用デバイス1を反時計方向(C1方向)または時計方向(C2方向)に回転駆動して、各測定セル40a〜40f,40gがレーザー光源112aとフォトディテクタ113aの間を通過するタイミングに、演算部110がフォトディテクタ113aの検出値を読み取って、これを前記一次測光と二次測光の結果で補正して特定成分の濃度を算出する。
【0083】
なお、測定セル40gでの測定結果は、演算部110での計算処理に測定セル40a〜40fのリファレンスデータとして利用されている。
本実施の形態では、図24に示すように希釈液定量室27から溢流させた希釈液を溢流流路28を介して混合室29に移送し、移送された希釈液が第3連結流路34aと第4連結流路34bを介して混合室29から溢流室36(溢流室36a,36b,36c,36d,逆流防止通路35a,35b)へ排出されている間に希釈液の吸光度を測定する構成となっているが、図25に示すように図24に見られた第4連結流路34bを除いた構成でも同様の効果が得られる。
【0084】
また、図26に示すように希釈液室11と混合室29とを希釈液定量室27を介さずに連結流路301で接続して、希釈液容器5から移送される希釈液を分配して希釈液定量室27および混合室29にそれぞれ移送できるよう構成してもかまわない。302は溢流流路28を通過する希釈液を収容する溢流室である。
【0085】
さらには、図27に示すように、第1連結流路30のサイフォン屈曲部の位置を第2連結流路41のサイフォン屈曲部の位置よりも内周位置になるように構成し、希釈液が定量された後、分析用デバイス1の回転を減速させて希釈液だけがサイフォンの屈曲部を超えて混合室29に移送できるように回転数を制御することで、混合室29に希釈液だけを先に保持させて測定することができる。また、図27では、第1連結流路30のサイフォン屈曲部の位置を第2連結流路41のサイフォン屈曲部の位置よりも内周位置になるように構成しているが、第1連結流路30および第2連結流路41内に保持されたそれぞれの液に働く毛細管力と遠心力の関係を任意に設定することで、第2連結流路41内の液が先にサイフォン屈曲部を超えるように構成することができるため、必ずしも第1連結流路30および第2連結流路41のサイフォン屈曲部の位置関係に限定されるものではない。毛細管力と遠心力の関係を設定するためのパラメータとしては、流路幅、流路深さ、液体の密度、試料液保持室23および希釈液定量室27に保持される液面高さ(液量、各室の幅や深さ)、液面の半径位置、回転数等がある。
【0086】
このように、利用者が試料液を採取する際の保護キャップ2の開閉操作で希釈液容器5を開封し、希釈液を分析用デバイス1内に移送させることができるため、分析装置の簡略化、コストダウンができ、さらには利用者の操作性も向上させることができる。
【0087】
さらに、シール部材としてのアルミシール9で封止された希釈液容器5を使用し、突出部としての開封リブ14によってアルミシール9を破って希釈液容器5を開封するので、長期間の保存によって希釈液が蒸発して減少することもなく、分析精度の向上を実現できる。
【0088】
また、図6(a)に示した分析用デバイス1の出荷状態では、閉塞された保護キャップ2の係止用溝12に希釈液容器5のラッチ部10が係合して、希釈液容器5が矢印J方向に移動しないように液保持位置に係止されているため、保護キャップ2の開閉操作で希釈液容器5を希釈液室11において移動自在に構成しているにもかかわらず、利用者が保護キャップ2を開放して使用するまでの期間は、希釈液室11における希釈液容器5の位置が、液保持位置に係止されるため、利用者が使用前の輸送中に希釈液容器5が誤って開封されて希釈液が零れるようなことがない。
【0089】
また、分析用デバイス1の遠心方向(半径方向)に伸長するように形成した各測定セル40a〜40f,40gの幅(周方向の寸法)を、光学測定部108によって検出できる最小限の寸法に規定し、回転中に測定セル40a〜40f,40gに保持される液の液面高さを光学測定部108によって検出できる半径位置、すなわちレーザーの照射エリアが満たされる液面高さに規定することで、必要最小限の液量で測定することが可能となる。
【0090】
このように、測定セル40a〜40fは遠心力の働く方向に伸長して形成され、回転方向に位置する側壁の少なくとも一側壁に、測定セル40a〜40fの外周位置から内周方向に伸長するよう毛細管エリア47a〜47fを形成し、工程7〜工程9を実行するので、特許文献1に見られたような試料液と試薬を攪拌するための流入路114、測定セル115、流路117で構成されるU字形状の攪拌機構を設けなくても、十分な攪拌効果を得ることができ、分析用デバイスの小型化を実現できる。
【0091】
また、測定セル40a〜40f,40gは遠心力の働く方向に伸長して形成されているため、測定セルを満たすための試料液が特許文献1の場合よりも少なくて済み、微量な試料液で測定ができる。
【0092】
上記の実施の形態においては、試薬T1を毛細管エリア47a〜47fに担持させたが、図22に示すように、毛細管エリア47a〜47fに試薬T1とこの試薬T1とは異なる試薬T2とを担持させることもできる。また、図23に示すように、試薬T1を測定セル40a〜40fの外周側の底部付近に設け、毛細管エリア47a,47b,47c1,47c2,47d〜47fに必要に応じて仮想線で示すように試薬T2を担持させることもできる。単一の測定セルについて、測定セルの底部に試薬T1を設けると共に毛細管エリアにも試薬T2を設ける場合において、試薬T1と試薬T2は同じ成分であっても、互いに異なっていてもよい。毛細管エリアに設けた試薬T2としては、成分の異なる複数の試薬とすることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明にかかる分析方法と分析用デバイスは、血液の分析や、希釈液の長期保存が必要な医療分析検査装置などの用途にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明の実施の形態の分析用デバイスの保護キャップを閉じた状態と開いた状態の外観斜視図
【図2】同実施の形態の分析用デバイスの分解斜視図
【図3】保護キャップを閉じた状態の分析用デバイスを背面から見た斜視図
【図4】同実施の形態の希釈液容器の説明図
【図5】同実施の形態の保護キャップの説明図
【図6】同実施の形態の分析用デバイスの使用前と試料液を点着する際ならびに点着後に保護キャップを閉じた状態の断面図
【図7】出荷状態にセットする工程の断面図
【図8】分析用デバイスを分析装置にセットする直前の斜視図
【図9】分析用デバイスを分析装置にセットした状態の断面図
【図10】同実施の形態の分析装置の構成図
【図11】同実施の形態の分析デバイスの要部の拡大説明図
【図12】分析用デバイスを分析装置にセットして回転開始前の断面図
【図13】分析用デバイスのベース基板の斜視図
【図14】分析用デバイスを分析装置にセットし回転後とその後の遠心分離後の断面図
【図15】分析用デバイスの回転軸心と希釈液容器から希釈液が放出されるタイミングの希釈液容器の断面図
【図16】遠心分離後の試料液の固体成分を定量採取し希釈するときの断面図
【図17】工程4と工程5の断面図
【図18】毛細管キャビティ33とその周辺の拡大斜視図とE−E断面図
【図19】工程6と工程7の断面図
【図20】図12における測定セル40a〜40fの拡大平面図
【図21】図19におけるF−F断面図とG−G断面図
【図22】測定セル40a〜40fの別の例の拡大平面図
【図23】測定セル40a〜40fの更に別の例の拡大平面図
【図24】図13における混合室29の周辺の概略図
【図25】混合室29の周辺の別の実施の形態の概略図
【図26】混合室29の周辺の更に別の実施の形態の概略図
【図27】混合室29の周辺の更に別の実施の形態の概略図
【図28】特許文献1の分析用デバイスの要部の平面図
【符号の説明】
【0095】
1 分析用デバイス
2 保護キャップ
2a 開口
2b 底部
3 ベース基板
4 カバー基板
5 希釈液容器
5a 内部
5b ラッチ部10の面
6a,6b 軸
7 開口部
8 希釈液
9 アルミシール(シール部材)
10 ラッチ部
11 希釈液室
12 係止用溝
12a 壁面
13 注入口
14 開封リブ(突出部)
15,16 回転支持部
17 誘導部
18 試料液
18a 希釈血漿成分
18b 血球成分
19 液体試料室
20 傾斜面
21 凹部
22 屈曲部
23 試料液保持室
24 キャビティ
25a〜25h,25i1,25i2,25j〜25n 空気孔
26 排出流路
27 希釈液定量室
28 溢流流路
29 混合室
30 第1連結流路
31 リブ
32 円弧面
33 毛細管キャビティ
34a 第3連結流路
34b 第4連結流路
35a,35b 逆流防止通路
36a,36b,36c,36d 溢流室
37 毛細管流路
38 溢流流路
39a,39b,39c,39d,39e,39f,39g 計量流路
40a,40b,40c,40d,40e,40f,40g 測定セル
41 第2連結流路
42 溝
43 孔
44 係止治具
44a 突起
45 切り欠き
46 押圧治具
47a,47b,47c1,47c2,47d,47e,47f 毛細管エリア
48 大気開放キャビティ
49a,49b,49c,49d,49e,49f,49g 屈曲部
100 分析装置
101 ロータ
102 溝
103 ドア
104 可動片
105 バネ
106 回転駆動手段
107 回転軸心
108 光学測定部(分析手段)
109 制御手段
110 演算部
111 表示部
112a,112b レーザー光源
113a,113b フォトディテクタ
T1,T2 試薬
P1 一次測光の位置
P2 二次測光の位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
希釈液と液体試料とを分析用デバイスの混合室に受け入れて混合し、前記混合室で攪拌混合された希釈液体試料を前記分析用デバイスの測定セルに移送し、前記測定セルにおける前記希釈液体試料の反応物にアクセスして成分分析するに際し、
前記混合室に希釈液のみを保持した状態で前記混合室に検出光を透過させて前記希釈液のみの吸光度を測定する第1ステップと、
前記混合室に希釈液体試料を保持した状態で前記混合室に検出光を透過させて前記希釈液体試料の吸光度を測定する第2ステップと、
前記測定セルにおける前記希釈液体試料の反応物にアクセスして読み取った結果を、前記第1,第2ステップで求めた吸光度に基づいて求まる希釈倍率によって補正して成分分析の結果を計算する第3ステップと
からなる分析方法。
【請求項2】
前記第1ステップは、
希釈液を前記混合室に向かって移送中に前記混合室に受け入れた前記希釈液のみの吸光度を測定する
請求項1に記載の分析方法。
【請求項3】
前記第1ステップは、
分析用デバイスの回転中に希釈液を計量する計量作業を有し、前記計量作業の終了後に分析用デバイスを減速させて、前記希釈液を前記混合室に移送する
請求項1に記載の分析方法。
【請求項4】
希釈液を貯留する希釈液室と、
液体試料を一定量保持できるように構成された液体試料室と、
前記液体試料室と連結され前記液体試料を一時的に保持する液体試料保持室と、
前記希釈液室と連結され希釈液を必要量定量するための希釈液定量室と、
前記希釈液定量室と連結され前記希釈液定量室に移送された希釈液の余剰分を溢流させる溢流流路と、
前記液体試料保持室とは第1連結流路を介して連結され前記希釈液定量室とは第2連結流路を介して連結された混合室と、
前記混合室とは毛細管流路を介して連結され希釈液と液体試料とを前記混合室で攪拌混合した希釈液体試料を受け入れる測定セルと
を設けた分析用デバイス。
【請求項5】
前記溢流流路が前記混合室と連結している
請求項4に記載の分析用デバイス。
【請求項6】
試料液保持室に所定量を超える前記液体試料を溢流させて計量できるように溢流流路を設けた
請求項4に記載の分析用デバイス。
【請求項7】
前記希釈液室と前記混合室を前記希釈液定量室を介さずに分配流路で連結して、希釈液を前記希釈液定量室と前記混合室に分配できるよう構成した
請求項4に記載の分析用デバイス。
【請求項8】
前記第1連結流路および前記第2連結流路がサイフォン構造を有している
請求項4に記載の分析用デバイス。
【請求項9】
前記混合室とサイフォン構造を有する第3連結流路を介して連通する溢流室を備えている
請求項4に記載の分析用デバイス。
【請求項10】
前記混合室には、前記第3連結流路のサイフォンの最内周位置よりも更に内周側に過剰量の希釈液を溢流させる第4の溢流流路を有している
請求項9に記載の分析用デバイス。
【請求項11】
請求項4に記載の分析用デバイスがセットされ、希釈液と液体試料とを分析用デバイスの混合室に受け入れて混合し、前記混合室で攪拌混合された希釈液体試料を前記分析用デバイスの測定セルに移送し、前記測定セルにおける前記希釈液体試料の反応物にアクセスして成分分析する分析装置であって、
前記分析用デバイスを軸心周りに回転させる回転駆動手段と、
前記混合室に希釈液のみを保持した状態と前記混合室に希釈液と液体試料とを受け入れて攪拌混合した希釈液体試料を保持した状態ならびに前記混合室から前記測定セルへ移送させるよう前記回転駆動手段を制御する制御手段と、
前記混合室に検出光を透過させて前記希釈液のみの吸光度と前記希釈液体試料の吸光度ならびに前記分析用デバイスの測定セルに移送された前記試料液に基づく反応物にアクセスする分析手段と、
前記分析手段が前記測定セルにおける前記希釈液体試料の反応物にアクセスして読み取った結果を、前記分析手段が希釈液のみを保持した前記混合室にアクセスして読み取った吸光度と前記分析手段が希釈液体試料を保持した前記混合室にアクセスして読み取った吸光度に基づいて求まる希釈倍率によって補正して成分分析の結果を計算する
演算部と
を設けた分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【公開番号】特開2009−186247(P2009−186247A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−24623(P2008−24623)
【出願日】平成20年2月5日(2008.2.5)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】