分析方法及び分析装置
【課題】呈色反応のための試薬を担体に予め担持させる工程なしに物質の分析ないし情報の取得を比較的高い正確性、再現性で行なうことができる分析方法及び分析装置を提供することである。
【解決手段】分析方法ないし装置では、周波数が30GHz以上30THz以下の領域の少なくとも一部の周波数帯を含む電磁波27を用いて検体の情報を取得する。非繊維状の等方性多孔質材26に検体を保持させ、多孔質材26に保持された検体に電磁波27を照射し、多孔質材26を透過若しくは反射することによる電磁波27の伝搬状態の変化を検出し、検出結果に基づいて検体の情報を取得する。
【解決手段】分析方法ないし装置では、周波数が30GHz以上30THz以下の領域の少なくとも一部の周波数帯を含む電磁波27を用いて検体の情報を取得する。非繊維状の等方性多孔質材26に検体を保持させ、多孔質材26に保持された検体に電磁波27を照射し、多孔質材26を透過若しくは反射することによる電磁波27の伝搬状態の変化を検出し、検出結果に基づいて検体の情報を取得する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質材と電磁波を用いて、前記多孔質材に保持された検体に電磁波を照射して検体の分析(検出、同定など)を行なう分析方法にかかる技術である。特に、30GHz乃至30THzの周波数領域の少なくとも一部の周波数帯を含む電磁波(本明細書では、テラヘルツ波と呼ぶ)を用いて、対象物質の分析ないし情報の取得を行なう分析方法、及び分析装置などに係る。
【背景技術】
【0002】
これまで、多孔質材(濾紙、メンブレンフィルター、スポンジ状物体)などの担体に検体を滴下し、担体に予め担持された試薬と検体との呈色反応を光学的に検出し、検体を検査する方法が用いられてきた。
【0003】
例えば、特許文献1は、予め試薬が担持された繊維性多孔質材若しくは非繊維性多孔質材の担体に検体を滴下し、白色光源、色フィルター、光検出器により呈色反応を定量的に検出する技術を開示している。ここでは、検体を滴下した前記繊維性多孔質材若しくは非繊維性多孔質材の担体に白色光を照射し、この多孔質材によって散乱された光の波長を色フィルターによって選択する。そして、前記色フィルターを透過した光の強度を光検出器により測定することで、呈色反応の程度を見積もるというものである。
【0004】
ところで、近年、テラヘルツ波を利用した技術の開発が盛んである。特に、テラヘルツ波は、その光子エネルギーが分子の骨格振動や分子間の相互作用のエネルギーと同程度である。従って、分光学的手法によって得られるスペクトルから、物質の分析を行なう技術に用いられる。
【0005】
こうした技術に関して、特許文献2では、テラヘルツ波を用いて物質の複素屈折率を求める方法が開示されている。この方法では、物質を透過又は反射したテラヘルツ波の時間波形をフーリエ変換したものの振幅・位相と、物質が無い場合のテラヘルツ波(参照波)の時間波形をフーリエ変換したものの振幅・位相を比較する。そして、その比較結果を計算式に代入することで、物質の複素屈折率を求めている。
【0006】
この方法を用いて、グルコースなどの糖類の微結晶粉末をポリエチレン粉末と混ぜ、圧力をかけてペレット状に整形し、これにテラヘルツ波を照射することでグルコースのテラヘルツ領域における透過スペクトルを得る技術が知られている。また、DNA水溶液をサファイア基板上に滴下し乾燥させた後に、サファイア基板上に析出したDNAにテラヘルツ波を照射することでDNAの透過率を求め、透過率の差異により、DNAが一本鎖であるか二本鎖であるかを判別できる技術なども知られている。
【0007】
また、特許文献3には、硝酸(ニトロ)セルロース濾紙にグルコース水溶液を滴下し、乾燥させた後に、これにテラヘルツ波を照射し、透過したテラヘルツ波からグルコースのスペクトルを得る方法が開示されている。
【特許文献1】特開平5-209836号公報
【特許文献2】特開2002-5828号公報
【特許文献3】特表2005-517925号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上に述べた様に、特許文献1で開示されている技術は、担体に予め試薬を担持させねばならない。試薬は高価な場合もあり、また、種類によっては毒性があるため取扱が容易ではない。また、特許文献1で開示されている技術は、検体の検出のためには呈色反応が必須であり、予め担持した試薬と呈色反応を起こす検体しか検出できず、不便である。
【0009】
また、特許文献3で開示されている技術では、検体とする溶液が均一に染み込まず、不均一な分布となりやすい。これは開示されている硝酸セルロース濾紙が繊維状物質で構成されており、液体状物質を滴下した場合に不均一に吸収されるためと考えられる。この様な検体の不均一な分布は、透過テラヘルツ波に空間的不均一を与え、テラヘルツ波の時間波形をフーリエ変換すると周波数領域に雑音等、悪影響を与えることがあり、正確を期する測定には好ましくないものであった。また、2.0THz以上のテラヘルツ波に対する硝酸セルロース濾紙の振幅透過率が低く、振幅透過率に周波数依存性があり、やはり測定の精度に影響することがあった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題に鑑み、本発明の分析方法は、周波数が30GHz以上30THz以下の領域の少なくとも一部の周波数帯を含む電磁波を用いて検体の情報を取得する方法であって、次のステップを含む。非繊維状の等方性多孔質材に検体を保持させるステップ。前記多孔質材に保持された検体に前記電磁波を照射するステップ。前記多孔質材を透過若しくは反射することによる前記電磁波の伝搬状態の変化を検出し、検出結果に基づいて前記検体の情報を取得するステップ。前記非繊維状の等方性多孔質材の定義については、後述する。
【0011】
また、上記課題に鑑み、本発明の検体保持部材は、上記分析方法で情報を取得する検体を保持するための部材であって、次の特徴を有する。すなわち、検体を一定の領域に保持する隔壁とその隔壁内に前記多孔質材を備え、前記隔壁から構成される領域以外の領域には前記電磁波が透過しない部材を少なくとも有している。
【0012】
また、上記課題に鑑み、本発明の分析装置は、上記の分析方法を行なうための分析装置であって、次の手段を有する。すなわち、前記多孔質材に前記電磁波を照射するための電磁波照射手段と、前記多孔質材を透過もしくは反射することによる前記電磁波の伝搬状態の変化を検出するための電磁波検出手段を有する。例えば、図2の構成で言えば、前記電磁波照射手段は、要素21、3、25などから構成され、前記電磁波検出手段は、要素21、22、24などから構成される。
【0013】
ここで、本発明の作用原理とともに、本発明における非繊維状の等方性多孔質材について説明する。本発明において、非繊維状の等方性多孔質材として、例えば、粒状構造体からなる多孔質材がある。これは、多数の微粒子が等方性(どの領域を採っても微粒子の充填率がほぼ一定である特性)をもって分散し、微粒子同士が点又は面で接触していて、後述する様な繊維状構造体を実質的に含まないというものである。また、例えば、スポンジ状構造体からなる多孔質材がある。これは、母材中に多数の空孔が等方性(どの領域を採っても空孔の容積率がほぼ一定である特性)をもって分散していて、後述する様な繊維状構造体を実質的に含まないというものである。例示すれば、粒状構造体からなる多孔質材は、図10に示す様な粒状構造物110を含む構造をした多孔質材111である。また、スポンジ状構造体からなる多孔質材は、図11に示す様なスポンジ状構造物120を含む構造をした多孔質材121である。こうした多孔質材は、次に説明する様に液体状検体の均一分布状態をもたらし、好ましいものである。
【0014】
一方で、繊維状構造体を含む繊維状多孔質材(例えば、図12や図13に示す様なもの)は好ましくない傾向がある。図12と図13において、131は、繊維状構造体130を含む多孔質材であり、141は、繊維状構造体140や粒状構造物142を含む多孔質材である。その理由を、図14と図15を用いて説明する。図14に示す様に、液体状検体を多孔質材151に滴下したとき、前記多孔質材151が非繊維状の等方性多孔質材であれば、符号152で示す如く均一に分布して真円に近い形状を呈する。
【0015】
しかし、図15に示す様に、繊維状構造体を含む多孔質材161では、符号162で示す如く不均一に分布して楕円状になる。ここでは、繊維状構造体を含む多孔質材として、ニトロセルロース、セルロース、ガラス繊維、石英繊維などに滴下して図17の表1の様に調べ、この不均一の程度は楕円状分布の長軸÷短軸の値(離心率)が1.11以上であることが分かった。一方で、同じく表1に示す様に、ポリプロピレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ナイロンなどで非繊維状の等方性多孔質材では、上記の楕円率が1.11未満となっている。従って、より均一的な分布をもたらすことができて好ましいものとなる。
【0016】
液体状検体が不均一に分布した状態では、上述の課題のところで述べた様に、透過テラヘルツ波の電磁界分布に空間的不均一が発生し、透過テラヘルツ波時間波形をフーリエ変換する際に不要な雑音信号が発生する。従って、これは好ましくない。
【0017】
また、本発明の発明者等が行なった実験によれば、表1に示す様に、酢酸セルロース等の繊維状構造体を含む多孔質材では、振幅透過率が2.0THzの電磁波において90パーセント未満となる傾向があった。また、本明細書で定義する下記の式1で表される振幅透過率の一定性を示す値が10未満であることが分かった。こうした点は、高い正確性や再現性を期する分析にとっては、好ましいものではない。
【0018】
【数1】
【0019】
式1の値は、測定に用いるテラヘルツ波の周波数上限における振幅透過率THと下限における振幅透過率TLの差で、中間付近の周波数の振幅透過率TMから1を引いた値を除し、絶対値をとった値ν’である。この値は、周波数に対する振幅透過率の一定性の程度を示す指標となる。この値が大きいほど、振幅透過率の周波数依存性は小さくなる。例えば、一つの極限として、この値が無限大のとき、振幅透過率は周波数に依存しない。この式1で示される周波数に対する振幅透過率の一定性の指標は、光学材料の分野で用いられる屈折率の周波数依存性を示すアッベ数を参考に定義したもので、これ以降、便宜上、透過率アッベ数ν’とも述べる。
【0020】
上記繊維状構造体を含む多孔質材に対して、非繊維状の等方性の構造体からなり、且つ、例えば、ポリプロピレン、ポリスルホン、ナイロン、ポリエーテルスルホンのいずれかを含む多孔質材では、次の様になる。すなわち、振幅透過率が2.0THzにおいて90パーセント以上であり、また式1で表される振幅透過率の一定性を示す値が20以上であることが分かった(図17として示す表1参照)。表1から分かる様に、本発明に含まれるものでは、最低でも24程度であり、本発明に含まれないものでは、最高でも10程度である。従って、振幅透過率の一定性を示す値である透過率アッベ数ν’が20以上であれば、充分好ましいと言える。
【0021】
要するに、好適なものとして例示した、ポリプロピレン、ポリスルホン、ナイロン、ポリエーテルスルホンのいずれかを少なくとも含む非繊維状の等方性多孔質材は、セルロースなど繊維状構造体を含む多孔質材に比べ、次の様なものであることが分かった。すなわち、テラヘルツ波に対して広帯域(振幅透過率の高い帯域が比較的広い)な測定が可能であり、信号雑音比が高いことが分かった。
【0022】
テラヘルツ波に対して振幅透過率が高い材料を用いれば、上に挙げたポリプロピレン、ポリスルホン、ナイロン、ポリエーテルスルホン以外の材料であっても、非繊維状の等方性多孔質材であれば、好ましいと考えられる。すなわち、振幅透過率が比較的高く、且つ周波数に対する振幅透過率の一定性が高いことが推察される。例えば、テラヘルツ帯に対して損失の少ない、テフロン(登録商標)、ポリオレフィン、ポリエチレン、ポリスチレン、四フッ化エチレン樹脂などのいずれかを少なくとも含むものでも同様の効果が期待できる。
【0023】
これらの実験事実から、振幅透過率、透過率アッベ数、検体の保持均一性の観点から、検体保持手段としては、次のことが言える。バルクにおける振幅透過率が高い材料を用いた非繊維状の等方性多孔質材の方が、繊維状構造体を含む多孔質材に比べ、テラヘルツ波を用いた分光に供するには、より望ましい。そして、バルクにおける振幅透過率が高い材料としては、典型的には、ポリプロピレン、ポリスルホン、ナイロン、ポリエーテルスルホンのいずれかを含むものがある。
【0024】
故に、本発明の分析方法及び装置では、上記の如き材料を用いた非繊維状の等方性多孔質材を用いて、液体状検体を保持し、照射するテラヘルツ波の伝播状態の変化から液体状検体の分析を行なう。
【発明の効果】
【0025】
本発明の分析方法及び装置によれば、呈色反応のための試薬を担体に予め担持させる工程なしに物質の分析ないし情報の取得を行なうことができるので、簡便で経済性が良い分析方法及び装置を提供できる。また、本発明の分析方法及び装置によれば、上記の如き材料を用いた非繊維状の等方性多孔質材を用いるので、より正確性、再現性の高い分析方法及び装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に、本発明の分析方法ないし分析装置の実施の形態を述べる。本発明の一実施形態では、まず、非繊維状の等方性多孔質材に検体を保持させる。多孔質材には、マイクロフィルターメンブレンと呼ばれる精密に空孔ないし空隙が制御されたものが好適に用いられる。これは、メンブレンフィルターと呼ばれたり、スポンジ状物体と定義される場合があるが、以下で本発明の実施形態及び実施例を、図を用いて更に詳しく述べる上では、全てメンブレンフィルターと総称する。
【0027】
図1の様に、メンブレンフィルター11上にピペット12を用いて検体を含む溶液13を滴下する。その後、溶液13を乾燥させ、検体をメンブレンフィルター11に保持させる。析出しメンブレンフィルター11上に保持された検体を符号14で示す。
【0028】
本実施形態で用いたメンブレンフィルター11は薄膜状の物体であり、微視的には非繊維状の等方性多孔質材である。材質は、ポリプロピレン、ポリスルホン、ナイロン、ポリエーテルスルホンのいずれかを含む物である。一方で、比較例としての繊維状構造体を含むメンブレンフィルターは、セルロース、ニトロセルロース、セルロース混合エステル、石英繊維、ガラス繊維、ポリビニリデンジフロライドのいずれかを少なくとも含むメンブレンフィルターを用いた。
【0029】
図2は、テラヘルツ波による透過スペクトル測定の装置ないし方法の例を示す。図2に示す様に、モードロックチタンサファイアレーザ(フェムト秒レーザ)21から出射したフェムト秒パルスレーザ光は、ハーフミラー等によって分割され、一方はテラヘルツ波発生器23に集光照射される。ここで、テラヘルツ波発生器3は、例えば、低温成長ガリウム砒素上に形成された一対の電極からなる、所謂光伝導アンテナを用いる。このとき、光伝導アンテナには10V程度の電圧が印加されている。
【0030】
ハーフミラー等によって分割されたフェムト秒レーザ光のもう一方は、遅延光学系22を経た後、テラヘルツ波検出器24に集光照射される。ここで、テラヘルツ波検出器24は、テラヘルツ波発生器3と同様な、低温成長ガリウム砒素上に形成された一対の電極からなる所謂光伝導アンテナを用いる。このとき、電極に高ゲイン増幅器を接続し、テラヘルツ波による微弱な電流を増幅することで、テラヘルツ波を検出する。
【0031】
テラヘルツ波発生器23から出射したテラヘルツ波27は、放物面鏡25(a)、(b)を経ることで、メンブレンフィルター26上に集光照射される。前記メンブレンフィルター26を透過したテラヘルツ波を、放物面鏡25(c)、(d)を用いてテラヘルツ検出器24上に集光照射することで、前記メンブレンフィルター26の透過スペクトルを得る。
【0032】
ここで、例えば、ポリスルホンを主成分とし、孔径が0.45μm、膜厚が145μmのメンブレンフィルターは、図3(a)に示す様に0.5THz乃至2.0THzの範囲で振幅透過率が90パーセント以上であり、この周波数領域においてほぼ透明であることが分かる。なお、図3(a)の縦軸は振幅透過率である。また、図3(a)に記載の振幅透過率グラフは、全てメンブレンフィルター上に検体がない状態での振幅透過率である。メンブレンフィルターは検体がない状態で振幅透過率が高く且つ一定であるのが望ましい。図3(a)からは、他にも、ポリプロピレン、ポリエーテルスルホン、ナイロンは、0.5乃至2.0THzの範囲で振幅透過率がいずれも90パーセント以上であることが分かる。この様に孔径がミクロンオーダーで小さく、主に生物化学用に用いられるメンブレンフィルターは、前述した様にマイクロフィルターメンブレンと呼ぶことがある。
【0033】
一方で、図3(b)から分かる様に、ポリビニリデンジフロライド、ニトロセルロース、セルロース、ガラス繊維、セルロース混合エステル、石英繊維は、振幅透過率の周波数依存性が大きく、0.5乃至2.0THzの範囲で90パーセント以下になることもある。
【0034】
上記材料について、透過率アッベ数ν’を導入して考察する。図17である表1に示す様に、ポリプロピレン、ポリスルホン、ナイロン、ポリエーテルスルホンは透過率アッベ数が20以上である。しかし、一方で、ポリビニリデンジフロライド、ニトロセルロース、セルロース、ガラス繊維、セルロース混合エステル、石英繊維は、透過率アッベ数が10未満であることが分かる。ただし、ここでは、測定に0.5乃至2.0THzを用いることとし、上限周波数を2.0THz、下限周波数を0.5THz、中間の周波数を1.0THzとした。
【0035】
すなわち、ポリプロピレン、ポリスルホン、ナイロン、ポリエーテルスルホンのいずれかを含む材料で、非繊維状の等方性多孔質材のメンブレンフィルターにおいては、次の様になった。振幅透過率が高く(2.0THzにおいて90パーセント以上)、且つ振幅透過率の周波数依存性が小さい(透過率アッベ数20以上)という結果が得られた。
【0036】
一方で、繊維状構造体を含むセルロースのようなメンブレンフィルターにおいては、振幅透過率が低く(2.0THzにおいて90パーセント未満)、且つ振幅透過率の周波数依存性が大きい(透過率アッベ数10未満)という結果が得られた。
【0037】
実験事実より、繊維状構造体を含むセルロースの如きメンブレンフィルターより、ポリプロピレン、ポリスルホン、ナイロン、ポリエーテルスルホンのいずれかを少なくとも含む非繊維状の等方性多孔質材のメンブレンフィルターを用いる方が望ましいことが分かる。
【0038】
また、ポリプロピレン、ポリスルホン、ナイロン、ポリエーテルスルホン以外の材料であっても、バルクにおける振幅透過率が高い材料で、非繊維状の等方性多孔質材のメンブレンフィルターもまた、望ましいと考えられる。すなわち、振幅透過率が2.0THzにおいて90パーセント以上で且つ透過率アッベ数が20以上となることが推察される。そこで、以上に述べてきた好適な樹脂で、テラヘルツ波に対して振幅透過率が高く、周波数依存性が小さいことが知られているものを主成分とする非繊維状の等方性多孔質材のメンブレンフィルターを用いることが好ましい。
【0039】
液体状検体をメンブレンフィルターに滴下したとき、前記メンブレンフィルターが図10のような粒状構造体、若しくは図11のようなスポンジ状構造体であれば、図14の様に均一に分布する。しかし、図12や図13のような繊維状構造体130、140を含むメンブレンフィルターでは、図15の様に不均一に分布することが分かった。上述した様に、液体状検体が不均一に分布した状態では、透過テラヘルツ波の電磁界分布に空間的不均一が発生し、透過テラヘルツ波時間波形をフーリエ変換する際に不要な雑音信号が発生することがある。この観点からも、メンブレンフィルターには非繊維状の等方性多孔質材のものを用いるのが望ましい。
【0040】
図17の表1の一覧表に示した中では、ポリプロピレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ナイロンが非繊維状の等方性多孔質材の構造を有しており、液体状検体は均一に分布した。
【0041】
上記実験事実を総合すると、ポリプロピレン、ポリスルホン、ナイロン、ポリエーテルスルホンを含む非繊維状の等方性多孔質材の構造体からなるメンブレンフィルターは、繊維状構造物を含むメンブレンフィルターと比較して、次の様になった。振幅透過率、振幅透過率の一定性、検体分布の均一性の3項目においていずれも優れており、テラヘルツ波を用いた分光に供する検体保持手段として望ましいとの結論に至った。また、ポリプロピレン、ポリスルホン、ナイロン、ポリエーテルスルホン以外の材料であっても、バルクでの振幅透過率が高い材料であれば、非繊維状の等方性多孔質材の構造体のメンブレンフィルターは上記検体保持手段として望ましいと推察される。
【0042】
また、前記メンブレンフィルターにおいては、多孔質の平均孔径が、テラヘルツ波の散乱を回避するために、この波長以下である必要があり、波長より充分小さいほど良い。例えば、一般に電磁波波長と同程度の大きさを有する散乱体がある場合、ミー散乱の影響が支配的になり、電磁波は急速に減衰する。また、電磁波波長の10分の1の大きさを有する散乱体がある場合、レイリー散乱の影響が支配的になり、やはり電磁波は減衰する。そのため、検体透過後の電磁波の検出が困難になる。前記メンブレンフィルターの平均孔径がそれ以下であれば散乱の影響はより低減され、多孔質材は電磁波に対し均一な固体として振舞う。これらのことより、多孔質の平均孔径は、上記2つのところでは多少電磁波の減衰をもたらすが、使用する電磁波の波長以下であるのが良い。
【0043】
従って、例えば、平均孔径が0.1μm乃至2.0μm程度の多孔質材であるメンブレンフィルターなどが好適例として挙げられる。平均孔径が0.1μm乃至2.0μm程度の散乱体を有するメンブレンフィルターは、テラヘルツ波に対して均一な物体として振舞う。
【0044】
前記メンブレンフィルターに検体を保持する方法の一例としては、検体が溶解若しくは分散した液体を、メンブレンフィルターに滴下し、乾燥させるという方法が挙げられる。又は、検体を含有するガスを前記メンブレンフィルターに浸透させ、検体をメンブレンフィルターに吸着させ保持するという方法も挙げられる。
【0045】
上記の如きメンブレンフィルターを検体の担体として用いることで、表面の平坦性や厚さの均一性を確保して検体を保持しやすくなり、散乱などを抑制することができる。従って、テラヘルツ波の伝搬状態の変化の測定の信頼性、安定性、及び容易性、ひいては検査・分析結果の精度を高めることができる。また、生体などの検体を測定する際にも、検体が適当にメンブレンフィルター材の孔に絡みついて保持されやすくなるので、乾燥してもその立体構造を維持したまま保持しやすくなり、測定の信頼性を高めることができる。また、このメンブレンフィルターの振幅透過率が1に近いこと、厚さが使用するテラヘルツ波の波長程度より薄いことが多重反射を抑制する上で有効である。
【0046】
前記メンブレンフィルターに保持された検体に照射される前記テラヘルツ波の伝搬状態の変化の測定としては、例えば、テラヘルツ波の波長に応じた強度変化である透過スペクトルや反射スペクトルの測定が挙げられる。又は、時間に応じたテラヘルツ波の強度変化の測定も挙げられる。
【0047】
検体を含まない前記メンブレンフィルターのテラヘルツ波による透過若しくは反射スペクトルと、検体を含む前記メンブレンフィルターのスペクトルを比較することで、メンブレンフィルターの影響を排除した透過若しくは反射スペクトルなどを得ることができる。
【0048】
これに関連して、前記メンブレンフィルター中における異なる2点間で、透過テラヘルツ波の振幅の比を取ったものが図3(c)である。図3(c)の横軸は周波数、縦軸は振幅透過率の比である。図3(c)に示す様に、0.1THz乃至1.5THzの範囲で振幅比が約1.0であり、この周波数領域において前記メンブレンフィルターは振幅透過率の面内分布が極めて小さいことが分かる。なお、0.1THz以下及び1.5THz以上は、この実験時における使用した測定装置の有効感度範囲外であった。ただし、この帯域については、更に広帯域の測定器を用いれば1.5THz以上の分析も可能である。上記のことから、検体を含まない前記メンブレンフィルターの参照波データを得る上でも、前記メンブレンフィルターは好ましいことが分かる。
【0049】
ところで、本発明の分析方法は、生体関連分子として、DNA、RNA、たんぱく質、糖類、核酸塩基及び核酸塩基を含む化合物、アミノ酸などに好適に利用できる。ここで、DNA、RNAの分析に供するには、図17の表1に挙げたメンブレンフィルターの中では、マイナスにチャージされた修飾ポリエーテルスルホンを用いるのが良い。なぜなら、振幅透過率、透過率アッベ数が高く、且つマイナスにチャージされていることからメンブレンフィルターがDNA、RNAを効率良く捕捉するからである。
【0050】
図に沿った説明に戻って、図1に示した方法で検体14をメンブレンフィルター11に保持させた後、図2に示した測定方法ないし装置で、検体が保持されたメンブレンフィルター26をテラヘルツ波にて測定し、透過スペクトルなどを得る。
【0051】
本実施形態ではテラヘルツ波の発生手段と検出手段にフェムト秒レーザと光伝導アンテナを用いたが、これに限るものではない。例えば、インジウム砒素基板上にフェムト秒パルスレーザ光を照射するときに発生するテラヘルツ波を用いてもよい。
【0052】
また、本実施形態では、所謂テラヘルツ時間領域分光法(THz Time Domain Spectroscopy)を用いたが、テラヘルツ分光の方法もこれに限るものではない。例えば、テラヘルツ発生側には、非線形光学効果を応用した所謂テラヘルツパラメトリック発振やGaP(ガリウムリン)ラマンテラヘルツ発生器の様な、周波数可変で単一周波数のテラヘルツ光源を用いることもできる。そして、検出側には、液体ヘリウムを使用するSiボロメータを用いて透過テラヘルツ波強度の波長依存性を測定する分光方法でもよい。他に、フーリエ変換赤外線分光法(FTIR)を用いてもよい。
【0053】
検査対象である検体に用いるのは、水に溶解する物質に限らず、水(その他の液体)に溶解しない物質を用いてもよい。例えば、樹脂微粒子を液体に分散させ、メンブレンフィルターに滴下し、乾燥などによって液体を除去した後、濾し残された樹脂微粒子の集合体をメンブレンフィルターごとテラヘルツ波で分析(検出、同定など)してもよい。
【0054】
また、検体の塗布には、チャージ可能なメンブレンフィルターを用いて、エレクトロスプレー法など検体分子が静電力により吸着される方法を用いてもよい。
【実施例】
【0055】
次に、より具体的な実施例を説明する。
【0056】
(実施例1)
実施例1を説明する。本実施例では、メンブレンフィルター上にピペットを用いて、グルコース水溶液を滴下する。その後、約20時間乾燥させ、メンブレンフィルター上にグルコース水溶液の析出物を形成する。例えば、グルコース水溶液の濃度は250g/l程度であり、滴下した液滴の量は20μl程度である。
【0057】
ここで用いるメンブレンフィルターは、例えば、日本ポール社製のメンブレンフィルター(製品番号80574、材質は修飾ナイロン、孔径は0.8μm)である。
【0058】
前記グルコース水溶液の析出物を保持するメンブレンフィルターを、図2におけるメンブレンフィルター26の位置に設置する。テラヘルツ波は、メンブレンフィルターに保持されたグルコース水溶液の析出物上に集光照射する。
【0059】
グルコース水溶液の析出物を透過したテラヘルツ波の時間波形は、遅延光学系22を移動させることで得られる。得られた時間波形の一例が、図4の点線(b)である。一方、比較のために、グルコース水溶液と等量の純水を別のメンブレンフィルター上に滴下し、約20時間乾燥させた物の透過テラヘルツ波の時間波形を測定する。得られた時間波形の一例が、図4の実線(a)である。図4では、横軸が時間(単位はピコ秒ps)を表し、縦軸がテラヘルツ波の相対的な振幅の大きさを表している。
【0060】
得られたテラヘルツ波の時間波形をフーリエ変換し、周波数領域におけるテラヘルツ波の振幅と位相を計算し、上記特許文献2(特開2002-5828号公報)に記されている様な計算式を用いてグルコース水溶液の析出物の複素屈折率を求める。
【0061】
図5は、得られたグルコース水溶液の複素屈折率の実部と虚部のグラフである。ここで、複素屈折率を計算する際に必要な試料厚さは、メンブレンフィルターの厚さを用いた。厳密には析出しているグルコースの厚さを用いるべきであるが、メンブレンフィルター中のグルコースの厚さを測定するのは困難であるため、仮にメンブレンフィルターの厚さを試料厚さとして、計算した。予め取得・蓄積した各種資料の複素屈折率データと照合することで、検体の種類や量を知ることができる。
【0062】
こうして、メンブレンフィルターに試薬を担持させる必要なく物質の分析ないし情報の取得を行なうことができる。また、メンブレンフィルターは、使用したテラヘルツ波の波長と同程度の厚さであり、且つ屈折率が小さいため、内部での多重反射が極めて良く抑制されており、スペクトル分析上有利である。なぜなら、多重反射が観測される場合、データ処理段階で多重反射の影響を除去する数値計算などを行なう必要があるため、余計な手間がかかる。また、多重反射を除去できない場合は、有効な波長分解能が低下するなどの弊害がある。
【0063】
(実施例2)
実施例2を説明する。実施例2では、図6に示す様に、モードロックチタンサファイアレーザ(フェムト秒レーザ)71から出射したフェムト秒パルスレーザ光は、ハーフミラー等によって分割され、一方はテラヘルツ波発生器73に集光照射される。ここで、テラヘルツ波発生器73は、例えば、低温成長ガリウム砒素上に形成された一対の電極からなる、所謂光伝導アンテナを用いる。このとき、光伝導アンテナには10V程度の電圧が印加されている。
【0064】
ハーフミラー等によって分割されたフェムト秒レーザ光のもう一方は、遅延光学系72を経た後、テラヘルツ波検出器74に集光照射される。ここで、テラヘルツ波検出器74は、テラヘルツ波発生器73と同様な、低温成長ガリウム砒素上に形成された一対の電極からなる所謂光伝導アンテナを用いる。このとき、電極に高ゲイン増幅器を接続し、テラヘルツ波による微弱な電流を増幅することで、テラヘルツ波を検出する。
【0065】
テラヘルツ波発生器73から出射したテラヘルツ波77は、放物面鏡75(a)、(b)を経ることで、メンブレンフィルター76上に集光照射される。メンブレンフィルター76を反射したテラヘルツ波を、放物面鏡75(c)、(d)を用いてテラヘルツ検出器74上に集光照射することで、前記メンブレンフィルター76の反射スペクトルを得る。
【0066】
こうして反射スペクトルを得ることでも、検体の複素屈折率を求めることができる。反射率を高めるために、前記メンブレンフィルター76の裏側にアルミニウムなどの金属膜や金属板を貼り付けた物を使用してもよい。
【0067】
(実施例3)
実施例3を説明する。実施例3では、図7の様に、検体を滴下したメンブレンフィルター84を、平面2軸方向に駆動するための機械的XYステージ85に設置する。テラヘルツ波発生器81から出射したテラヘルツ波86は、放物面鏡82(a)、(b)を経ることで、メンブレンフィルター84上に集光照射される。
【0068】
前記メンブレンフィルター84を透過したテラヘルツ波を、放物面鏡82(c)、(d)を用いてテラヘルツ検出器83上に集光照射することで、前記メンブレンフィルター84の透過スペクトルが得られる。この際、メンブレンフィルター84に滴下した検体が乾燥すると、メンブレンフィルター24上における検体の位置が目視困難になることがある。そこで、機械的XYステージ85を用いて、前記検体を含むメンブレンフィルター84をテラヘルツ波86の進行方向に対し略垂直方向に駆動させる。
【0069】
メンブレンフィルター84上において、乾燥した検体がある位置と無い位置とでは、透過テラヘルツ波の強度や遅延時間が変化する。このとき、測定した透過テラヘルツ波の強度等をプロットすることで、前記メンブレンフィルター84に対する透過テラヘルツ波画像を得る。これにより、前記メンブレンフィルター84のテラヘルツ波画像を基に、メンブレンフィルター上における前記検体の位置を正確に把握して、正確に検体のテラヘルツ分光を行なうことができる。また、この場合、同一メンブレンフィルター上の異なる場所に複数の検体を滴下して、これらの検体を測定してもよい。
【0070】
例えば、図8に示す様な支持体91(樹脂や金属などで作製されている)に形成した複数の隔壁をもつウェル92中に夫々メンブレンフィルターを設置したものを用い、機械的XYステージを用いて支持体91を移動することで複数の検体を一度に測定してもよい。テラヘルツ波の散乱などを回避するために、ウェル92の直径は数mm乃至10mm程度を有することが望ましい。
【0071】
図9は、円筒状の空洞であるウェルを有する2つの樹脂板101でメンブレンフィルター102を挟むことで、構造を一体化させたものを示す図である。このとき、メンブレンフィルター102は撓みや弛みなどが生じない様に張ることで、テラヘルツ波の散乱や望まない方向への反射などを回避することができる。ウェル間の試料の混合を防ぐため、樹脂板101とメンブレンフィルター102を熱圧着したり、或いはウェルの周りに廻らせて配置されるOリング103等を用いたりしてもよい。Oリング103は、メンブレンフィルター102を樹脂板101で挟む際に用いる。メンブレンフィルター102は、各ウェルより一回り大きいサイズのものを用いると良い。
【0072】
また、樹脂板101を透過する不要なテラヘルツ波を除去するため、樹脂板101の一方若しくは双方をアルミなどの金属板に置き換えてもよい。こうすれば、情報を取得する検体を保持するための部材であって、検体を一定の領域に保持する隔壁とその隔壁内に多孔質材を備え、隔壁から構成される領域以外の領域には電磁波が透過しない部材を少なくとも有する検体保持部材が得られる。
【0073】
この場合は、ウェルがテラヘルツ波の絞りの役割も果たす。また更に、図8や図9の構成において、支持体91や樹脂板101は移動させるのであまり大きくできないことを考慮して、不要なテラヘルツ波が検出器に入射してくるのをより確実に防ぐために次の様にしてもよい。すなわち、支持体91または樹脂板101の上方、下方或いはその両方に、測定対象となるウェルとテラヘルツ波進行方向について揃えられた適当形状の開口を有するマスク(例えば、金属製)を備える。こうすれば、不要なテラヘルツ波がより確実にマスクで遮られて、必要なテラヘルツ波がマスク開口を通して導かれるので、より精度の良い測定が可能となる。
【0074】
また、この様な複数のウェルに検体を夫々滴下して、ウェルとテラヘルツ波の位置を相対的に移動させて、高速に複数の検体を測定することができる。この場合、1箇所のウェルは、検体を滴下せず何も保持させないか、検体を溶解させる溶媒だけを滴下させたウェルとする。そして、これをリファレンスとして、リファレンスと検体を滴下した各ウェルとの間を複数回往復させながら、その間の差分を複数回測定して平均化する。このことで、精度の高い測定が可能となる。
【0075】
(実施例4)
実施例4を説明する。実施例4では、DNA水溶液をメンブレンフィルター上に滴下する。例えば、5.4kbのベクターpcDNA3水溶液の濃度が10μg/μlで、前記DNA水溶液の量が5μlであるとする。メンブレンフィルターには、親水性ナイロンを主成分とした、孔径0.45μm程度で厚さが127μm程度のメンブレンフィルター(例えば日本ポール社製、製品番号66607)を用いる。前記DNA水溶液は、前記メンブレンフィルターの同一箇所に複数回滴下して濃度を高めてもよい。
【0076】
ここで、前記メンブレンフィルター上に滴下した前記DNA水溶液を室温にて乾燥させる。乾燥させた前記メンブレンフィルターを、実施例1に示した方法でテラヘルツ波分光を行ない、透過率スペクトルを測定する。これを、予め取得・蓄積したDNAのテラヘルツ波分光(透過率若しくは反射率スペクトル)データベースと照合することで、前記DNAに関する情報が得られる(例えば、一本鎖であるか二本鎖であるか、塩基対の長さの概算など)。この様に、本発明の分析方法を用いて、多孔質材に生体関連分子の溶液または溶解物を保持させて、乾燥後に検体の情報の取得を行うことができることが分かる。
【0077】
この様に滴下して検体を供給する方法以外にも、チャージ可能なメンブレンフィルターにエレクトロスプレー法などの静電引力を用いて溶質を塗布する方法も有効である。この場合、上記実施例3に記載のウェル構造をそのまま選択塗布のマスクとして機能させることができる。なお、メンブレンフィルターの適当な面には、静電気力を維持するために、チャージを移動させるための電極が接する構成を設けるのが良い。
【0078】
前記メンブレンフィルターのうち前記DNAを滴下した部分を切り取り、10ml程度の純水に浸すことで、メンブレンフィルターに保持されていた前記DNAを回収することができる。上記メンブレンフィルターは、乾燥後も保持されたDNAの構造を保ち、純水に浸すことで再びDNAを溶出できるという特徴がある。こうして、検体の情報の取得を行なった後、多孔質材から生体関連分子を溶出することで生体関連分子を再利用することができる。
【0079】
本実施例によって、DNA診断等がラベルフリーで行なえ、且つ検査に用いたDNAを再び取り出して別の検査に用いることができる。また、本実施例には、修飾ポリエーテルスルホンを主たる材料としたメンブレンフィルターを用いてもよい。
【0080】
(実施例5)
本発明の実施例5を以下に説明する。本実施例では、まず、アビジン水溶液(濃度0.1μg/μl程度)を、メンブレンフィルター上に滴下する。メンブレンフィルターには、親水性ナイロンを主成分とした、孔径0.45μm程度で厚さが127μm程度のメンブレンフィルター(例えば日本ポール社製、製品番号66607)を用いる。アビジン水溶液は、メンブレンフィルターの同一箇所に複数回滴下して濃度を高めてもよい。
【0081】
前記メンブレンフィルター上に滴下した前記アビジン水溶液を、室温にて乾燥させる。乾燥させた前記メンブレンフィルターを、実施例1に示した方法でテラヘルツ波分光を行ない、透過率スペクトルを得る。
【0082】
次いで、前記メンブレンフィルター上における前記アビジン水溶液の滴下箇所にビオチン水溶液を滴下する。前記メンブレンフィルターはアビジン水溶液乾燥後もアビジンの活性を維持する特徴を持つものであるので、前記メンブレンフィルター上に保持された前記アビジンは、滴下されたビオチン水溶液中のビオチンと抗原・抗体反応を起こし結合する。
【0083】
前記メンブレンフィルターに滴下したビオチン水溶液を乾燥させた後、実施例1で示した方法で前記メンブレンフィルターごと再びテラヘルツ波分光を行ない、振幅透過率スペクトルを得る。これを、予め取得・蓄積したアビジン・ビオチンの抗原抗体反応に関するデータベース(例えば、振幅透過率スペクトル)と比較照合することで、抗原・抗体反応がどの程度生じたかなどを測定することができる。
【0084】
(実施例6)
本発明の実施例6を以下に説明する。本実施例では、まず、bovine
serum albumin(BSA、牛血清アルブミン)水溶液(濃度20mg/ml)30μlを、メンブレンフィルター上に滴下する。メンブレンフィルターには、親水性のポリエーテルスルホンを主成分とした、孔径が0.45μmで厚さが140μm程度の非繊維状の等方性多孔質材のメンブレンフィルターを用いる。続いて、BSA水溶液を72℃から75℃で3分間湯せんし、変性させたBSA水溶液を、前記メンブレンフィルターの別の箇所に同じ量を滴下する。
【0085】
前記メンブレンフィルターに滴下したBSA水溶液、及び変性したBSAの水溶液を4℃の条件下で乾燥させた後、実施例1に示した方法でメンブレンフィルターごと再びテラヘルツ波分光を行い、振幅透過率スペクトルを得る。BSAの振幅透過率と変性したBSAの振幅透過率を比較した結果が図16である。図16において、「REF」とはメンブレンフィルター上の同一点における振幅透過率(同一点で2回測定したもの)の比を示し、信号の揺らぎ、実験系全体の信頼性区間の目安とする。
【0086】
図16において、「変性」、「正常」はそれぞれ正常なBSA水溶液と熱変性させたBSA水溶液の振幅透過率を示す。これより、タンパク質であるBSAの変性の有無を測定できることが分かる。この振幅透過率の違いは、BSAの立体構造が変化したことを示唆している。本実施例では、変性したBSAの振幅透過率が大きく上昇していることが確認できた。
【0087】
(実施例7)
本発明の実施例7を説明する。本実施例では、図18に示す様に、中心軸の回りに回転可能な回転部材である円盤181の8箇所に、テラヘルツ波が透過できるウェルを設け、ウェルにメンブレンフィルター182を設置する。各ウェルの位置は、円盤181上の回転中心から同一半径位置とする。少なくとも1つのメンブレンフィルターには検体(例えば、正常なBSA水溶液など)を滴下し、1つは参照用として同量の純水を滴下し、乾燥させる。実施例1に示したものと同様の方法でテラヘルツ波を発生させ、各メンブレンフィルターを透過したテラヘルツ波を検出器で検出する。そして、円盤181を回転させることで、8つのメンブレンフィルターに保持された検体等を順次検出位置にもたらして測定する。
【0088】
ところで、こうした際、ウェルにあるメンブレンフィルター182にテラヘルツ波を集光する時、テラヘルツ波の迷光がウェルを保持する部材(ここでは円盤181)の外側を回りこんで検出器に到達する場合がある。特に低周波(例えば50GHz以下)成分は、波長が長いことにより回折効果が大きく、迷光が発生しやすい。しかし、本実施例の様に円盤状の部材の同一半径上にウェルを等角度間隔で設ければ、円盤を回転させても、円盤状部材と、空間を伝搬するテラヘルツ波との相対的位置関係は変化しない。そのため、検出器に到達する迷光強度はあまりないし殆ど変化しない。このため、本実施例の方法を用いれば、迷光を除去するための絞りの数を減らせるか、或いは使用しなくてもよくなる。
【0089】
これに対して、上記実施例3では、次の様になる。実施例3では、図8や図9の様な矩形の部材に2×2個のウェルを設けた例を示したが、より多くの検体を一度に測定するために例えば3×3個のウェルを設けた場合を考える。この場合、矩形部材の端に位置するウェルを測定する時と、矩形部材の中心部に位置するウェルを測定する時では、検出器に到達する迷光の強度の異なりが比較的大きくなる。これは、空間を伝搬するテラヘルツ波(迷光や、充分集光できない成分も含めたもの)の空間分布と保持部材及び複数のウェルとの相対的位置関係が、測定するウェルの位置により変化するからである。ウェル中のメンブレンフィルターに検体を滴下しない状態では、矩形部材のどの位置にあるウェルを測定しても同じ信号が得られることが望ましい。しかし、上述した様に矩形部材を前後、左右に移動させることで検出器に届く迷光強度が変化するため、同じ信号が得られないことがある。これをより確実に回避するために、実施例3の所では、迷光を除去する絞り(開口を持つマスク)を各所に適宜配置する例を説明した。
【0090】
本実施例において、円盤状の部材に配置するウェルは、回転中心の回りに等角度間隔で配置されて回転対称であることが望ましい。なぜなら、この様に回転対称であれば、どのウェルを測定するときも、測定中以外のウェルを透過するテラヘルツ波の迷光の影響が変化しないからである。ただし、本実施例では8個のウェルを備えているが、この数に限るものではない。
【0091】
尚、測定中以外のウェルを塞ぐ機構を有していれば、ウェルの配置は、等角度間隔で配置された回転対称の形態に限らない。各ウェルが回転中心から同一半径上にあり、各回転測定位置において回転部材の外形が一致する様になっていれば、等角度間隔で配置しなくてもよい。また、本実施例では、好適な例として円盤状の部材を例に挙げたが、各回転測定位置において外形を一致させられる様な形状を持つ回転部材であればよい。例えば、正多角形などであってもよい。ただし、各ウェルが測定位置に来るときに、回転部材の外形が常に一致する様に、各ウェルは回転部材の同一半径上に適切に配置される必要はある。また、上記実施例では、回転部材をテラヘルツ波の進行方向に垂直に配したが、垂直配置に限らない。進行方向に対して平行でない面内で中心の回りに回転可能に配すればよい。要するに、本実施例では、測定中以外のウェルを塞ぐ機構を設ける場合も含んで、次の条件を満たす様な構成になっていればよい。電磁波の進行方向に対して平行でない面内で中心の回りに回転可能な回転部材上の中心から同一半径位置に、少なくとも1つが検体を保持した多孔質材を複数設置する。そして、回転部材を回転させることで多孔質材を順次検出位置にもたらすときに、回転部材の外形が常に一致する。
【0092】
以上に説明した構成の本実施例の方法で測定すれば、次の効果が奏される。メンブレンフィルターに何も滴下しない(或いは純水のみを滴下・乾燥させた)ものの参照用の信号(テラヘルツ波波形及びそのフーリエスペクトル)の測定時の迷光成分と、検体を滴下・乾燥させたウェルを測定した時の信号に含まれる迷光成分が同一となる。従って、参照用の信号と検体測定信号の間で割り算をすることで迷光成分を容易に除去できて、より正確な測定が可能となる。
【0093】
(実施例8)
本発明による実施例8について図19を用いて説明する。実施例2ではメンブレンフィルター表面から反射するテラヘルツ波を用いて検出を行った。これに対して、実施例8は、全反射プリズムカプラ202を用いてエバネッセント波を用いることで、反射波による変化の感度を向上させるものである。図19(a)は、そのプリズムカプラの平面図、(b)は、(a)の一点鎖線部における断面図である。図19において、201は、半円筒形のプリズムカプラ202の上面に貼り付けられた隔壁構成部材であり、これには複数のウェル200が設けられている。プリズムカプラ202としては、テラヘルツ波に対する損失や分散等が小さいので、高抵抗Si材料で作製されたプリズムが好ましい。ただし、この材料は、酸化マグネシウムなどの誘電体材料、テフロン(登録商標)などの樹脂材料でもよい。こうして、電磁波を全反射させる部材であるプリズムカプラ202の表面近傍に前記多孔質材を配置して多孔質材に保持された検体の情報を取得する構成となる。
【0094】
上記構成において、図19(b)に示す如くテラヘルツ波205をカプラ202に入射すると反射テラヘルツ波が出射されるが、反射面近傍にはエバネッセント波が発生している。従って、ウェル200にメンブレンフィルター204を配置して検体を供給することで、エバネッセント波と検体が相互作用して感度の高い測定ができる。
【0095】
支持体である隔壁構成部材201は、実施例3で説明した様な、複数の検体を供給するウェル200を図19(a)のように並べて高速に測定するために設けた部材である。ここでは、検体がエバネッセント波と効率良く相互作用する様に、メンブレンフィルター204は50μm程度の厚さにすることが望ましい。全体の測定系としては、実施例2で説明した図6に示すものと同様でよい。図19(b)では1つの光線経路を示しているが、検体保持部分で多重反射させる構造としてもよい。
【0096】
また、全反射を用いたエバネッセント波よりも効率が高い方法として、図19(c)に示すように導電材料206をメンブレンフィルター204とカプラ202の表面の間に挟むタイプがある。この導電材料206としては、n型Si薄膜(厚さ2.5μm)を堆積したものが好適に用いられ、3THz近傍の周波数で表面プラズモンが発生する。ただし、この導電材料206としては、InAs、GaAsなどの他の半導体に不純物ドープしたものや、Au、Alなどの金属でもよい。
【0097】
表面に上記と同様に50μm程度の厚さのメンブレンフィルター204を配置することで、検体の状態を敏感に反映して反射テラヘルツ波の吸収の強いディップが現れる角度が存在する。この角度の変化を検出する。この様な測定をすることで検体の状態を感度良く評価することができる。この例は、導電材料206を検体と全反射面との間に配置したクレッチマン配置と言われるものであるが、逆に全反射面と導電材料の間に検体を含ませたメンブレンフィルターを配置するオットー配置(不図示)と言われるタイプを用いてもよい。この場合、導電材料の厚さに制限はなくなるが、1THzで測定する場合にはメンブレンフィルターを配置する隙間としては10μm程度以下が望ましい。この場合も多重反射構造としてもよい。
【0098】
(実施例9)
本発明の実施例9を説明する。本実施例は、核酸塩基及び核酸塩基を含む化合物の評価にメンブレンフィルターを用いたものである。ここで、核酸塩基を含む化合物とは、糖が結合したヌクレオシド、更にリン酸の結合したヌクレオチドなどである。用いた材料としては、cytosine
hydrochloride(C・HCl)、deoxycytidine(dC)、deoxycytidine hydrochloride(dC・HCl)、5-methyl-deoxycytidine(M-dC)、5-methyl-cytosine
hydrochloride(MC・HCl)などのヌクレオシド系である。これを純水に溶かした2μmol前後の量をメンブレンフィルターに滴下して乾燥させた。
【0099】
このときにdC、M-dCについてはフラットな透過特性であるが、塩酸塩のサンプルの3種類については特徴的な吸収スペクトル、すなわち指紋スペクトルが図20のように観測できた。この図のHydratedと書かれたものは、水溶液であって、本発明の方法により測定されたもの、Dehydratedと書かれたものは、固体粉末をポリエチンレン粉末と混合して圧縮することで作成したペレットの測定データを示している。図20(a)より、dC・HClは0.8THz、1.1THz、1.4THz、2.1THz、2.4THz、2.8THz近傍に、図20(b)より、MC・HClは2.1THz、2.6THz近傍に、図20(c)より、C・HClは2.3THz近傍に吸収ピークが見られ、テラヘルツ波領域に特有の指紋スペクトルが観測された。なお、本測定においても、実施例3で説明した様に、リファレンス(超純粋:DDWだけを滴下したウェル)との間で複数回交互に測定し、その変化分を平均して結果を出力している。
【0100】
図20から分かる様に、これら溶解したものの指紋スペクトルとしては、同一材料を溶解させずに粉体のままポリエチレン粉末と混合させてペレット状にした後、通常の方法で透過測定した場合と同様のスペクトルが得られているものもある。そのため、その場合はHClの結合に関連した分子内の振動に由来するものがあると考えられる。この様にヌクレオシドにHCl分子が結合しただけでスペクトルの変化が大きく見られ、テラヘルツ波によるメンブレンフィルターを用いた分析が可能であることが分かる。
【0101】
本発明の方法では、既に説明したように検体が均一に分布できるメンブレンフィルターを用いたため、本実施例の様に明確な指紋スペクトルが観測された。比較例として、繊維状構造体を含むニトロセルロースを用いたメンブレンフィルターでも測定を行った。図21(a)、(b)は、それぞれdC・HCl、MC・HClについて全く同じ条件で検体を用意し、メンブレンフィルターとしてニトロセルロースを使用した場合の透過率の結果を示している。図20のデータに比較して一部の吸収ピーク、すなわちdC・HClでは1.4THz、2.1THz、2.4THz、MC・HClでは2.1THzは信号強度が低減した形で観測可能であるが、全く観測されない吸収ピークもあることが分かる。従って、本発明による液体物質の測定で、テラヘルツ分光の性能が向上することが明らかである。
【0102】
ここでは、ヌクレオシドを用いたが、ヌクレオチドやこれらが結合した形の分子でも同様に、僅かな分子結合の分析などが可能である。また、DNAやRNAは、これらが結合して構成されるものである。よって、DNA、RNAの一部の構造を判別する際に、本発明によるメンブレンフィルターに溶液を滴下して測定する方法は有効である。
【0103】
材料としては、これまでの実施例や実施形態で挙げた糖、たんぱく質、核酸塩基類、DNA、RNAやその化合物などに限らず、以下の如き生物が食する材料などで、溶解物、溶液に本発明の分析方法を適用してその成分分析等をすることが有効である。すなわち、その材料は、アミノ酸、菌体、ウィルス、血液、細胞など人体に関わる材料、食品添加物、色素、抗生物質である。また、医薬品、例えば、スタチン製剤(プラバスタチン、シンバスタチン、アドルバスタチンなど)、アンジオテシンII受容体拮抗薬(ロサルタン、カンデサルタン、バルサルタンなど)、プロトンポンプ阻害薬(オメプラゾール、ランソプラゾール、パントウラゾールなど)などである。また、その他の有機物、無機物などのあらゆる材料で、溶液、溶解物などの液体状の検体についてテラヘルツ波による分析を行う場合には、本発明によるメンブレンフィルターを用いる方法が有効である。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】メンブレンフィルターを用いた分光試料作製法を説明する図。
【図2】テラヘルツ波による物質分析を行なうための光学配置を説明する図。
【図3】各種材料のメンブレンフィルターのテラヘルツ波に対する透過率と透過率の面内分布を示すグラフの図。
【図4】テラヘルツ波時間波形のグラフの図。
【図5】複素屈折率のグラフの図。
【図6】テラヘルツ波による物質分析を行なうための反射型分光配置を説明する図。
【図7】メンブレンフィルターを機械的XYステージ上に設置した構成を説明する図。
【図8】複数のウェルを持つ部材にメンブレンフィルターを設置した例を示す斜視図。
【図9】図8の部材の一例の詳細を示す斜視図。
【図10】粒状構造体からなる多孔質材を説明する図。
【図11】スポンジ状構造体からなる多孔質材を説明する図。
【図12】繊維状構造体からなる多孔質材を説明する図。
【図13】繊維状構造体を含む多孔質材を説明する図。
【図14】液体状検体が均一に浸透・保持される様子を説明する図。
【図15】液体状検体が不均一に浸透・保持される様子を説明する図。
【図16】BSAの変性分子と正常分子の振幅透過率を比較して示すグラフの図。
【図17】各種メンブレンフィルターのテラヘルツ波に対する透過率などを示す表1の図。
【図18】回転円盤に設置されたメンブレンフィルターの例を説明する図。
【図19】全反射プリズムカプラを用いたメンブレンフィルターの例を説明する図。
【図20】核酸塩基を含む化合物の透過スペクトルを示すグラフの図。
【図21】核酸塩基を含む化合物の従来のメンブレンフィルターを用いて測定した透過スペクトルの比較例を示すグラフの図。
【符号の説明】
【0105】
11、26、76、84、102、151、182、204 非繊維状の等方性多孔質材(メンブレンフィルター)
14 検体(乾燥し析出した検体)
23、73、81 電磁波照射手段(テラヘルツ波発生器)
24、74、83 電磁波検出手段(テラヘルツ波検出器)
27、77、86、205 電磁波(テラヘルツ波)
85 機械的XYステージ
103 Oリング
110 粒状構造物
120 スポンジ状構造物
181 回転部材(回転円盤)
182、200 ウェル
201 隔壁構成部材
202 全反射部材(全反射プリズムカプラ)
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質材と電磁波を用いて、前記多孔質材に保持された検体に電磁波を照射して検体の分析(検出、同定など)を行なう分析方法にかかる技術である。特に、30GHz乃至30THzの周波数領域の少なくとも一部の周波数帯を含む電磁波(本明細書では、テラヘルツ波と呼ぶ)を用いて、対象物質の分析ないし情報の取得を行なう分析方法、及び分析装置などに係る。
【背景技術】
【0002】
これまで、多孔質材(濾紙、メンブレンフィルター、スポンジ状物体)などの担体に検体を滴下し、担体に予め担持された試薬と検体との呈色反応を光学的に検出し、検体を検査する方法が用いられてきた。
【0003】
例えば、特許文献1は、予め試薬が担持された繊維性多孔質材若しくは非繊維性多孔質材の担体に検体を滴下し、白色光源、色フィルター、光検出器により呈色反応を定量的に検出する技術を開示している。ここでは、検体を滴下した前記繊維性多孔質材若しくは非繊維性多孔質材の担体に白色光を照射し、この多孔質材によって散乱された光の波長を色フィルターによって選択する。そして、前記色フィルターを透過した光の強度を光検出器により測定することで、呈色反応の程度を見積もるというものである。
【0004】
ところで、近年、テラヘルツ波を利用した技術の開発が盛んである。特に、テラヘルツ波は、その光子エネルギーが分子の骨格振動や分子間の相互作用のエネルギーと同程度である。従って、分光学的手法によって得られるスペクトルから、物質の分析を行なう技術に用いられる。
【0005】
こうした技術に関して、特許文献2では、テラヘルツ波を用いて物質の複素屈折率を求める方法が開示されている。この方法では、物質を透過又は反射したテラヘルツ波の時間波形をフーリエ変換したものの振幅・位相と、物質が無い場合のテラヘルツ波(参照波)の時間波形をフーリエ変換したものの振幅・位相を比較する。そして、その比較結果を計算式に代入することで、物質の複素屈折率を求めている。
【0006】
この方法を用いて、グルコースなどの糖類の微結晶粉末をポリエチレン粉末と混ぜ、圧力をかけてペレット状に整形し、これにテラヘルツ波を照射することでグルコースのテラヘルツ領域における透過スペクトルを得る技術が知られている。また、DNA水溶液をサファイア基板上に滴下し乾燥させた後に、サファイア基板上に析出したDNAにテラヘルツ波を照射することでDNAの透過率を求め、透過率の差異により、DNAが一本鎖であるか二本鎖であるかを判別できる技術なども知られている。
【0007】
また、特許文献3には、硝酸(ニトロ)セルロース濾紙にグルコース水溶液を滴下し、乾燥させた後に、これにテラヘルツ波を照射し、透過したテラヘルツ波からグルコースのスペクトルを得る方法が開示されている。
【特許文献1】特開平5-209836号公報
【特許文献2】特開2002-5828号公報
【特許文献3】特表2005-517925号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上に述べた様に、特許文献1で開示されている技術は、担体に予め試薬を担持させねばならない。試薬は高価な場合もあり、また、種類によっては毒性があるため取扱が容易ではない。また、特許文献1で開示されている技術は、検体の検出のためには呈色反応が必須であり、予め担持した試薬と呈色反応を起こす検体しか検出できず、不便である。
【0009】
また、特許文献3で開示されている技術では、検体とする溶液が均一に染み込まず、不均一な分布となりやすい。これは開示されている硝酸セルロース濾紙が繊維状物質で構成されており、液体状物質を滴下した場合に不均一に吸収されるためと考えられる。この様な検体の不均一な分布は、透過テラヘルツ波に空間的不均一を与え、テラヘルツ波の時間波形をフーリエ変換すると周波数領域に雑音等、悪影響を与えることがあり、正確を期する測定には好ましくないものであった。また、2.0THz以上のテラヘルツ波に対する硝酸セルロース濾紙の振幅透過率が低く、振幅透過率に周波数依存性があり、やはり測定の精度に影響することがあった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題に鑑み、本発明の分析方法は、周波数が30GHz以上30THz以下の領域の少なくとも一部の周波数帯を含む電磁波を用いて検体の情報を取得する方法であって、次のステップを含む。非繊維状の等方性多孔質材に検体を保持させるステップ。前記多孔質材に保持された検体に前記電磁波を照射するステップ。前記多孔質材を透過若しくは反射することによる前記電磁波の伝搬状態の変化を検出し、検出結果に基づいて前記検体の情報を取得するステップ。前記非繊維状の等方性多孔質材の定義については、後述する。
【0011】
また、上記課題に鑑み、本発明の検体保持部材は、上記分析方法で情報を取得する検体を保持するための部材であって、次の特徴を有する。すなわち、検体を一定の領域に保持する隔壁とその隔壁内に前記多孔質材を備え、前記隔壁から構成される領域以外の領域には前記電磁波が透過しない部材を少なくとも有している。
【0012】
また、上記課題に鑑み、本発明の分析装置は、上記の分析方法を行なうための分析装置であって、次の手段を有する。すなわち、前記多孔質材に前記電磁波を照射するための電磁波照射手段と、前記多孔質材を透過もしくは反射することによる前記電磁波の伝搬状態の変化を検出するための電磁波検出手段を有する。例えば、図2の構成で言えば、前記電磁波照射手段は、要素21、3、25などから構成され、前記電磁波検出手段は、要素21、22、24などから構成される。
【0013】
ここで、本発明の作用原理とともに、本発明における非繊維状の等方性多孔質材について説明する。本発明において、非繊維状の等方性多孔質材として、例えば、粒状構造体からなる多孔質材がある。これは、多数の微粒子が等方性(どの領域を採っても微粒子の充填率がほぼ一定である特性)をもって分散し、微粒子同士が点又は面で接触していて、後述する様な繊維状構造体を実質的に含まないというものである。また、例えば、スポンジ状構造体からなる多孔質材がある。これは、母材中に多数の空孔が等方性(どの領域を採っても空孔の容積率がほぼ一定である特性)をもって分散していて、後述する様な繊維状構造体を実質的に含まないというものである。例示すれば、粒状構造体からなる多孔質材は、図10に示す様な粒状構造物110を含む構造をした多孔質材111である。また、スポンジ状構造体からなる多孔質材は、図11に示す様なスポンジ状構造物120を含む構造をした多孔質材121である。こうした多孔質材は、次に説明する様に液体状検体の均一分布状態をもたらし、好ましいものである。
【0014】
一方で、繊維状構造体を含む繊維状多孔質材(例えば、図12や図13に示す様なもの)は好ましくない傾向がある。図12と図13において、131は、繊維状構造体130を含む多孔質材であり、141は、繊維状構造体140や粒状構造物142を含む多孔質材である。その理由を、図14と図15を用いて説明する。図14に示す様に、液体状検体を多孔質材151に滴下したとき、前記多孔質材151が非繊維状の等方性多孔質材であれば、符号152で示す如く均一に分布して真円に近い形状を呈する。
【0015】
しかし、図15に示す様に、繊維状構造体を含む多孔質材161では、符号162で示す如く不均一に分布して楕円状になる。ここでは、繊維状構造体を含む多孔質材として、ニトロセルロース、セルロース、ガラス繊維、石英繊維などに滴下して図17の表1の様に調べ、この不均一の程度は楕円状分布の長軸÷短軸の値(離心率)が1.11以上であることが分かった。一方で、同じく表1に示す様に、ポリプロピレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ナイロンなどで非繊維状の等方性多孔質材では、上記の楕円率が1.11未満となっている。従って、より均一的な分布をもたらすことができて好ましいものとなる。
【0016】
液体状検体が不均一に分布した状態では、上述の課題のところで述べた様に、透過テラヘルツ波の電磁界分布に空間的不均一が発生し、透過テラヘルツ波時間波形をフーリエ変換する際に不要な雑音信号が発生する。従って、これは好ましくない。
【0017】
また、本発明の発明者等が行なった実験によれば、表1に示す様に、酢酸セルロース等の繊維状構造体を含む多孔質材では、振幅透過率が2.0THzの電磁波において90パーセント未満となる傾向があった。また、本明細書で定義する下記の式1で表される振幅透過率の一定性を示す値が10未満であることが分かった。こうした点は、高い正確性や再現性を期する分析にとっては、好ましいものではない。
【0018】
【数1】
【0019】
式1の値は、測定に用いるテラヘルツ波の周波数上限における振幅透過率THと下限における振幅透過率TLの差で、中間付近の周波数の振幅透過率TMから1を引いた値を除し、絶対値をとった値ν’である。この値は、周波数に対する振幅透過率の一定性の程度を示す指標となる。この値が大きいほど、振幅透過率の周波数依存性は小さくなる。例えば、一つの極限として、この値が無限大のとき、振幅透過率は周波数に依存しない。この式1で示される周波数に対する振幅透過率の一定性の指標は、光学材料の分野で用いられる屈折率の周波数依存性を示すアッベ数を参考に定義したもので、これ以降、便宜上、透過率アッベ数ν’とも述べる。
【0020】
上記繊維状構造体を含む多孔質材に対して、非繊維状の等方性の構造体からなり、且つ、例えば、ポリプロピレン、ポリスルホン、ナイロン、ポリエーテルスルホンのいずれかを含む多孔質材では、次の様になる。すなわち、振幅透過率が2.0THzにおいて90パーセント以上であり、また式1で表される振幅透過率の一定性を示す値が20以上であることが分かった(図17として示す表1参照)。表1から分かる様に、本発明に含まれるものでは、最低でも24程度であり、本発明に含まれないものでは、最高でも10程度である。従って、振幅透過率の一定性を示す値である透過率アッベ数ν’が20以上であれば、充分好ましいと言える。
【0021】
要するに、好適なものとして例示した、ポリプロピレン、ポリスルホン、ナイロン、ポリエーテルスルホンのいずれかを少なくとも含む非繊維状の等方性多孔質材は、セルロースなど繊維状構造体を含む多孔質材に比べ、次の様なものであることが分かった。すなわち、テラヘルツ波に対して広帯域(振幅透過率の高い帯域が比較的広い)な測定が可能であり、信号雑音比が高いことが分かった。
【0022】
テラヘルツ波に対して振幅透過率が高い材料を用いれば、上に挙げたポリプロピレン、ポリスルホン、ナイロン、ポリエーテルスルホン以外の材料であっても、非繊維状の等方性多孔質材であれば、好ましいと考えられる。すなわち、振幅透過率が比較的高く、且つ周波数に対する振幅透過率の一定性が高いことが推察される。例えば、テラヘルツ帯に対して損失の少ない、テフロン(登録商標)、ポリオレフィン、ポリエチレン、ポリスチレン、四フッ化エチレン樹脂などのいずれかを少なくとも含むものでも同様の効果が期待できる。
【0023】
これらの実験事実から、振幅透過率、透過率アッベ数、検体の保持均一性の観点から、検体保持手段としては、次のことが言える。バルクにおける振幅透過率が高い材料を用いた非繊維状の等方性多孔質材の方が、繊維状構造体を含む多孔質材に比べ、テラヘルツ波を用いた分光に供するには、より望ましい。そして、バルクにおける振幅透過率が高い材料としては、典型的には、ポリプロピレン、ポリスルホン、ナイロン、ポリエーテルスルホンのいずれかを含むものがある。
【0024】
故に、本発明の分析方法及び装置では、上記の如き材料を用いた非繊維状の等方性多孔質材を用いて、液体状検体を保持し、照射するテラヘルツ波の伝播状態の変化から液体状検体の分析を行なう。
【発明の効果】
【0025】
本発明の分析方法及び装置によれば、呈色反応のための試薬を担体に予め担持させる工程なしに物質の分析ないし情報の取得を行なうことができるので、簡便で経済性が良い分析方法及び装置を提供できる。また、本発明の分析方法及び装置によれば、上記の如き材料を用いた非繊維状の等方性多孔質材を用いるので、より正確性、再現性の高い分析方法及び装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に、本発明の分析方法ないし分析装置の実施の形態を述べる。本発明の一実施形態では、まず、非繊維状の等方性多孔質材に検体を保持させる。多孔質材には、マイクロフィルターメンブレンと呼ばれる精密に空孔ないし空隙が制御されたものが好適に用いられる。これは、メンブレンフィルターと呼ばれたり、スポンジ状物体と定義される場合があるが、以下で本発明の実施形態及び実施例を、図を用いて更に詳しく述べる上では、全てメンブレンフィルターと総称する。
【0027】
図1の様に、メンブレンフィルター11上にピペット12を用いて検体を含む溶液13を滴下する。その後、溶液13を乾燥させ、検体をメンブレンフィルター11に保持させる。析出しメンブレンフィルター11上に保持された検体を符号14で示す。
【0028】
本実施形態で用いたメンブレンフィルター11は薄膜状の物体であり、微視的には非繊維状の等方性多孔質材である。材質は、ポリプロピレン、ポリスルホン、ナイロン、ポリエーテルスルホンのいずれかを含む物である。一方で、比較例としての繊維状構造体を含むメンブレンフィルターは、セルロース、ニトロセルロース、セルロース混合エステル、石英繊維、ガラス繊維、ポリビニリデンジフロライドのいずれかを少なくとも含むメンブレンフィルターを用いた。
【0029】
図2は、テラヘルツ波による透過スペクトル測定の装置ないし方法の例を示す。図2に示す様に、モードロックチタンサファイアレーザ(フェムト秒レーザ)21から出射したフェムト秒パルスレーザ光は、ハーフミラー等によって分割され、一方はテラヘルツ波発生器23に集光照射される。ここで、テラヘルツ波発生器3は、例えば、低温成長ガリウム砒素上に形成された一対の電極からなる、所謂光伝導アンテナを用いる。このとき、光伝導アンテナには10V程度の電圧が印加されている。
【0030】
ハーフミラー等によって分割されたフェムト秒レーザ光のもう一方は、遅延光学系22を経た後、テラヘルツ波検出器24に集光照射される。ここで、テラヘルツ波検出器24は、テラヘルツ波発生器3と同様な、低温成長ガリウム砒素上に形成された一対の電極からなる所謂光伝導アンテナを用いる。このとき、電極に高ゲイン増幅器を接続し、テラヘルツ波による微弱な電流を増幅することで、テラヘルツ波を検出する。
【0031】
テラヘルツ波発生器23から出射したテラヘルツ波27は、放物面鏡25(a)、(b)を経ることで、メンブレンフィルター26上に集光照射される。前記メンブレンフィルター26を透過したテラヘルツ波を、放物面鏡25(c)、(d)を用いてテラヘルツ検出器24上に集光照射することで、前記メンブレンフィルター26の透過スペクトルを得る。
【0032】
ここで、例えば、ポリスルホンを主成分とし、孔径が0.45μm、膜厚が145μmのメンブレンフィルターは、図3(a)に示す様に0.5THz乃至2.0THzの範囲で振幅透過率が90パーセント以上であり、この周波数領域においてほぼ透明であることが分かる。なお、図3(a)の縦軸は振幅透過率である。また、図3(a)に記載の振幅透過率グラフは、全てメンブレンフィルター上に検体がない状態での振幅透過率である。メンブレンフィルターは検体がない状態で振幅透過率が高く且つ一定であるのが望ましい。図3(a)からは、他にも、ポリプロピレン、ポリエーテルスルホン、ナイロンは、0.5乃至2.0THzの範囲で振幅透過率がいずれも90パーセント以上であることが分かる。この様に孔径がミクロンオーダーで小さく、主に生物化学用に用いられるメンブレンフィルターは、前述した様にマイクロフィルターメンブレンと呼ぶことがある。
【0033】
一方で、図3(b)から分かる様に、ポリビニリデンジフロライド、ニトロセルロース、セルロース、ガラス繊維、セルロース混合エステル、石英繊維は、振幅透過率の周波数依存性が大きく、0.5乃至2.0THzの範囲で90パーセント以下になることもある。
【0034】
上記材料について、透過率アッベ数ν’を導入して考察する。図17である表1に示す様に、ポリプロピレン、ポリスルホン、ナイロン、ポリエーテルスルホンは透過率アッベ数が20以上である。しかし、一方で、ポリビニリデンジフロライド、ニトロセルロース、セルロース、ガラス繊維、セルロース混合エステル、石英繊維は、透過率アッベ数が10未満であることが分かる。ただし、ここでは、測定に0.5乃至2.0THzを用いることとし、上限周波数を2.0THz、下限周波数を0.5THz、中間の周波数を1.0THzとした。
【0035】
すなわち、ポリプロピレン、ポリスルホン、ナイロン、ポリエーテルスルホンのいずれかを含む材料で、非繊維状の等方性多孔質材のメンブレンフィルターにおいては、次の様になった。振幅透過率が高く(2.0THzにおいて90パーセント以上)、且つ振幅透過率の周波数依存性が小さい(透過率アッベ数20以上)という結果が得られた。
【0036】
一方で、繊維状構造体を含むセルロースのようなメンブレンフィルターにおいては、振幅透過率が低く(2.0THzにおいて90パーセント未満)、且つ振幅透過率の周波数依存性が大きい(透過率アッベ数10未満)という結果が得られた。
【0037】
実験事実より、繊維状構造体を含むセルロースの如きメンブレンフィルターより、ポリプロピレン、ポリスルホン、ナイロン、ポリエーテルスルホンのいずれかを少なくとも含む非繊維状の等方性多孔質材のメンブレンフィルターを用いる方が望ましいことが分かる。
【0038】
また、ポリプロピレン、ポリスルホン、ナイロン、ポリエーテルスルホン以外の材料であっても、バルクにおける振幅透過率が高い材料で、非繊維状の等方性多孔質材のメンブレンフィルターもまた、望ましいと考えられる。すなわち、振幅透過率が2.0THzにおいて90パーセント以上で且つ透過率アッベ数が20以上となることが推察される。そこで、以上に述べてきた好適な樹脂で、テラヘルツ波に対して振幅透過率が高く、周波数依存性が小さいことが知られているものを主成分とする非繊維状の等方性多孔質材のメンブレンフィルターを用いることが好ましい。
【0039】
液体状検体をメンブレンフィルターに滴下したとき、前記メンブレンフィルターが図10のような粒状構造体、若しくは図11のようなスポンジ状構造体であれば、図14の様に均一に分布する。しかし、図12や図13のような繊維状構造体130、140を含むメンブレンフィルターでは、図15の様に不均一に分布することが分かった。上述した様に、液体状検体が不均一に分布した状態では、透過テラヘルツ波の電磁界分布に空間的不均一が発生し、透過テラヘルツ波時間波形をフーリエ変換する際に不要な雑音信号が発生することがある。この観点からも、メンブレンフィルターには非繊維状の等方性多孔質材のものを用いるのが望ましい。
【0040】
図17の表1の一覧表に示した中では、ポリプロピレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ナイロンが非繊維状の等方性多孔質材の構造を有しており、液体状検体は均一に分布した。
【0041】
上記実験事実を総合すると、ポリプロピレン、ポリスルホン、ナイロン、ポリエーテルスルホンを含む非繊維状の等方性多孔質材の構造体からなるメンブレンフィルターは、繊維状構造物を含むメンブレンフィルターと比較して、次の様になった。振幅透過率、振幅透過率の一定性、検体分布の均一性の3項目においていずれも優れており、テラヘルツ波を用いた分光に供する検体保持手段として望ましいとの結論に至った。また、ポリプロピレン、ポリスルホン、ナイロン、ポリエーテルスルホン以外の材料であっても、バルクでの振幅透過率が高い材料であれば、非繊維状の等方性多孔質材の構造体のメンブレンフィルターは上記検体保持手段として望ましいと推察される。
【0042】
また、前記メンブレンフィルターにおいては、多孔質の平均孔径が、テラヘルツ波の散乱を回避するために、この波長以下である必要があり、波長より充分小さいほど良い。例えば、一般に電磁波波長と同程度の大きさを有する散乱体がある場合、ミー散乱の影響が支配的になり、電磁波は急速に減衰する。また、電磁波波長の10分の1の大きさを有する散乱体がある場合、レイリー散乱の影響が支配的になり、やはり電磁波は減衰する。そのため、検体透過後の電磁波の検出が困難になる。前記メンブレンフィルターの平均孔径がそれ以下であれば散乱の影響はより低減され、多孔質材は電磁波に対し均一な固体として振舞う。これらのことより、多孔質の平均孔径は、上記2つのところでは多少電磁波の減衰をもたらすが、使用する電磁波の波長以下であるのが良い。
【0043】
従って、例えば、平均孔径が0.1μm乃至2.0μm程度の多孔質材であるメンブレンフィルターなどが好適例として挙げられる。平均孔径が0.1μm乃至2.0μm程度の散乱体を有するメンブレンフィルターは、テラヘルツ波に対して均一な物体として振舞う。
【0044】
前記メンブレンフィルターに検体を保持する方法の一例としては、検体が溶解若しくは分散した液体を、メンブレンフィルターに滴下し、乾燥させるという方法が挙げられる。又は、検体を含有するガスを前記メンブレンフィルターに浸透させ、検体をメンブレンフィルターに吸着させ保持するという方法も挙げられる。
【0045】
上記の如きメンブレンフィルターを検体の担体として用いることで、表面の平坦性や厚さの均一性を確保して検体を保持しやすくなり、散乱などを抑制することができる。従って、テラヘルツ波の伝搬状態の変化の測定の信頼性、安定性、及び容易性、ひいては検査・分析結果の精度を高めることができる。また、生体などの検体を測定する際にも、検体が適当にメンブレンフィルター材の孔に絡みついて保持されやすくなるので、乾燥してもその立体構造を維持したまま保持しやすくなり、測定の信頼性を高めることができる。また、このメンブレンフィルターの振幅透過率が1に近いこと、厚さが使用するテラヘルツ波の波長程度より薄いことが多重反射を抑制する上で有効である。
【0046】
前記メンブレンフィルターに保持された検体に照射される前記テラヘルツ波の伝搬状態の変化の測定としては、例えば、テラヘルツ波の波長に応じた強度変化である透過スペクトルや反射スペクトルの測定が挙げられる。又は、時間に応じたテラヘルツ波の強度変化の測定も挙げられる。
【0047】
検体を含まない前記メンブレンフィルターのテラヘルツ波による透過若しくは反射スペクトルと、検体を含む前記メンブレンフィルターのスペクトルを比較することで、メンブレンフィルターの影響を排除した透過若しくは反射スペクトルなどを得ることができる。
【0048】
これに関連して、前記メンブレンフィルター中における異なる2点間で、透過テラヘルツ波の振幅の比を取ったものが図3(c)である。図3(c)の横軸は周波数、縦軸は振幅透過率の比である。図3(c)に示す様に、0.1THz乃至1.5THzの範囲で振幅比が約1.0であり、この周波数領域において前記メンブレンフィルターは振幅透過率の面内分布が極めて小さいことが分かる。なお、0.1THz以下及び1.5THz以上は、この実験時における使用した測定装置の有効感度範囲外であった。ただし、この帯域については、更に広帯域の測定器を用いれば1.5THz以上の分析も可能である。上記のことから、検体を含まない前記メンブレンフィルターの参照波データを得る上でも、前記メンブレンフィルターは好ましいことが分かる。
【0049】
ところで、本発明の分析方法は、生体関連分子として、DNA、RNA、たんぱく質、糖類、核酸塩基及び核酸塩基を含む化合物、アミノ酸などに好適に利用できる。ここで、DNA、RNAの分析に供するには、図17の表1に挙げたメンブレンフィルターの中では、マイナスにチャージされた修飾ポリエーテルスルホンを用いるのが良い。なぜなら、振幅透過率、透過率アッベ数が高く、且つマイナスにチャージされていることからメンブレンフィルターがDNA、RNAを効率良く捕捉するからである。
【0050】
図に沿った説明に戻って、図1に示した方法で検体14をメンブレンフィルター11に保持させた後、図2に示した測定方法ないし装置で、検体が保持されたメンブレンフィルター26をテラヘルツ波にて測定し、透過スペクトルなどを得る。
【0051】
本実施形態ではテラヘルツ波の発生手段と検出手段にフェムト秒レーザと光伝導アンテナを用いたが、これに限るものではない。例えば、インジウム砒素基板上にフェムト秒パルスレーザ光を照射するときに発生するテラヘルツ波を用いてもよい。
【0052】
また、本実施形態では、所謂テラヘルツ時間領域分光法(THz Time Domain Spectroscopy)を用いたが、テラヘルツ分光の方法もこれに限るものではない。例えば、テラヘルツ発生側には、非線形光学効果を応用した所謂テラヘルツパラメトリック発振やGaP(ガリウムリン)ラマンテラヘルツ発生器の様な、周波数可変で単一周波数のテラヘルツ光源を用いることもできる。そして、検出側には、液体ヘリウムを使用するSiボロメータを用いて透過テラヘルツ波強度の波長依存性を測定する分光方法でもよい。他に、フーリエ変換赤外線分光法(FTIR)を用いてもよい。
【0053】
検査対象である検体に用いるのは、水に溶解する物質に限らず、水(その他の液体)に溶解しない物質を用いてもよい。例えば、樹脂微粒子を液体に分散させ、メンブレンフィルターに滴下し、乾燥などによって液体を除去した後、濾し残された樹脂微粒子の集合体をメンブレンフィルターごとテラヘルツ波で分析(検出、同定など)してもよい。
【0054】
また、検体の塗布には、チャージ可能なメンブレンフィルターを用いて、エレクトロスプレー法など検体分子が静電力により吸着される方法を用いてもよい。
【実施例】
【0055】
次に、より具体的な実施例を説明する。
【0056】
(実施例1)
実施例1を説明する。本実施例では、メンブレンフィルター上にピペットを用いて、グルコース水溶液を滴下する。その後、約20時間乾燥させ、メンブレンフィルター上にグルコース水溶液の析出物を形成する。例えば、グルコース水溶液の濃度は250g/l程度であり、滴下した液滴の量は20μl程度である。
【0057】
ここで用いるメンブレンフィルターは、例えば、日本ポール社製のメンブレンフィルター(製品番号80574、材質は修飾ナイロン、孔径は0.8μm)である。
【0058】
前記グルコース水溶液の析出物を保持するメンブレンフィルターを、図2におけるメンブレンフィルター26の位置に設置する。テラヘルツ波は、メンブレンフィルターに保持されたグルコース水溶液の析出物上に集光照射する。
【0059】
グルコース水溶液の析出物を透過したテラヘルツ波の時間波形は、遅延光学系22を移動させることで得られる。得られた時間波形の一例が、図4の点線(b)である。一方、比較のために、グルコース水溶液と等量の純水を別のメンブレンフィルター上に滴下し、約20時間乾燥させた物の透過テラヘルツ波の時間波形を測定する。得られた時間波形の一例が、図4の実線(a)である。図4では、横軸が時間(単位はピコ秒ps)を表し、縦軸がテラヘルツ波の相対的な振幅の大きさを表している。
【0060】
得られたテラヘルツ波の時間波形をフーリエ変換し、周波数領域におけるテラヘルツ波の振幅と位相を計算し、上記特許文献2(特開2002-5828号公報)に記されている様な計算式を用いてグルコース水溶液の析出物の複素屈折率を求める。
【0061】
図5は、得られたグルコース水溶液の複素屈折率の実部と虚部のグラフである。ここで、複素屈折率を計算する際に必要な試料厚さは、メンブレンフィルターの厚さを用いた。厳密には析出しているグルコースの厚さを用いるべきであるが、メンブレンフィルター中のグルコースの厚さを測定するのは困難であるため、仮にメンブレンフィルターの厚さを試料厚さとして、計算した。予め取得・蓄積した各種資料の複素屈折率データと照合することで、検体の種類や量を知ることができる。
【0062】
こうして、メンブレンフィルターに試薬を担持させる必要なく物質の分析ないし情報の取得を行なうことができる。また、メンブレンフィルターは、使用したテラヘルツ波の波長と同程度の厚さであり、且つ屈折率が小さいため、内部での多重反射が極めて良く抑制されており、スペクトル分析上有利である。なぜなら、多重反射が観測される場合、データ処理段階で多重反射の影響を除去する数値計算などを行なう必要があるため、余計な手間がかかる。また、多重反射を除去できない場合は、有効な波長分解能が低下するなどの弊害がある。
【0063】
(実施例2)
実施例2を説明する。実施例2では、図6に示す様に、モードロックチタンサファイアレーザ(フェムト秒レーザ)71から出射したフェムト秒パルスレーザ光は、ハーフミラー等によって分割され、一方はテラヘルツ波発生器73に集光照射される。ここで、テラヘルツ波発生器73は、例えば、低温成長ガリウム砒素上に形成された一対の電極からなる、所謂光伝導アンテナを用いる。このとき、光伝導アンテナには10V程度の電圧が印加されている。
【0064】
ハーフミラー等によって分割されたフェムト秒レーザ光のもう一方は、遅延光学系72を経た後、テラヘルツ波検出器74に集光照射される。ここで、テラヘルツ波検出器74は、テラヘルツ波発生器73と同様な、低温成長ガリウム砒素上に形成された一対の電極からなる所謂光伝導アンテナを用いる。このとき、電極に高ゲイン増幅器を接続し、テラヘルツ波による微弱な電流を増幅することで、テラヘルツ波を検出する。
【0065】
テラヘルツ波発生器73から出射したテラヘルツ波77は、放物面鏡75(a)、(b)を経ることで、メンブレンフィルター76上に集光照射される。メンブレンフィルター76を反射したテラヘルツ波を、放物面鏡75(c)、(d)を用いてテラヘルツ検出器74上に集光照射することで、前記メンブレンフィルター76の反射スペクトルを得る。
【0066】
こうして反射スペクトルを得ることでも、検体の複素屈折率を求めることができる。反射率を高めるために、前記メンブレンフィルター76の裏側にアルミニウムなどの金属膜や金属板を貼り付けた物を使用してもよい。
【0067】
(実施例3)
実施例3を説明する。実施例3では、図7の様に、検体を滴下したメンブレンフィルター84を、平面2軸方向に駆動するための機械的XYステージ85に設置する。テラヘルツ波発生器81から出射したテラヘルツ波86は、放物面鏡82(a)、(b)を経ることで、メンブレンフィルター84上に集光照射される。
【0068】
前記メンブレンフィルター84を透過したテラヘルツ波を、放物面鏡82(c)、(d)を用いてテラヘルツ検出器83上に集光照射することで、前記メンブレンフィルター84の透過スペクトルが得られる。この際、メンブレンフィルター84に滴下した検体が乾燥すると、メンブレンフィルター24上における検体の位置が目視困難になることがある。そこで、機械的XYステージ85を用いて、前記検体を含むメンブレンフィルター84をテラヘルツ波86の進行方向に対し略垂直方向に駆動させる。
【0069】
メンブレンフィルター84上において、乾燥した検体がある位置と無い位置とでは、透過テラヘルツ波の強度や遅延時間が変化する。このとき、測定した透過テラヘルツ波の強度等をプロットすることで、前記メンブレンフィルター84に対する透過テラヘルツ波画像を得る。これにより、前記メンブレンフィルター84のテラヘルツ波画像を基に、メンブレンフィルター上における前記検体の位置を正確に把握して、正確に検体のテラヘルツ分光を行なうことができる。また、この場合、同一メンブレンフィルター上の異なる場所に複数の検体を滴下して、これらの検体を測定してもよい。
【0070】
例えば、図8に示す様な支持体91(樹脂や金属などで作製されている)に形成した複数の隔壁をもつウェル92中に夫々メンブレンフィルターを設置したものを用い、機械的XYステージを用いて支持体91を移動することで複数の検体を一度に測定してもよい。テラヘルツ波の散乱などを回避するために、ウェル92の直径は数mm乃至10mm程度を有することが望ましい。
【0071】
図9は、円筒状の空洞であるウェルを有する2つの樹脂板101でメンブレンフィルター102を挟むことで、構造を一体化させたものを示す図である。このとき、メンブレンフィルター102は撓みや弛みなどが生じない様に張ることで、テラヘルツ波の散乱や望まない方向への反射などを回避することができる。ウェル間の試料の混合を防ぐため、樹脂板101とメンブレンフィルター102を熱圧着したり、或いはウェルの周りに廻らせて配置されるOリング103等を用いたりしてもよい。Oリング103は、メンブレンフィルター102を樹脂板101で挟む際に用いる。メンブレンフィルター102は、各ウェルより一回り大きいサイズのものを用いると良い。
【0072】
また、樹脂板101を透過する不要なテラヘルツ波を除去するため、樹脂板101の一方若しくは双方をアルミなどの金属板に置き換えてもよい。こうすれば、情報を取得する検体を保持するための部材であって、検体を一定の領域に保持する隔壁とその隔壁内に多孔質材を備え、隔壁から構成される領域以外の領域には電磁波が透過しない部材を少なくとも有する検体保持部材が得られる。
【0073】
この場合は、ウェルがテラヘルツ波の絞りの役割も果たす。また更に、図8や図9の構成において、支持体91や樹脂板101は移動させるのであまり大きくできないことを考慮して、不要なテラヘルツ波が検出器に入射してくるのをより確実に防ぐために次の様にしてもよい。すなわち、支持体91または樹脂板101の上方、下方或いはその両方に、測定対象となるウェルとテラヘルツ波進行方向について揃えられた適当形状の開口を有するマスク(例えば、金属製)を備える。こうすれば、不要なテラヘルツ波がより確実にマスクで遮られて、必要なテラヘルツ波がマスク開口を通して導かれるので、より精度の良い測定が可能となる。
【0074】
また、この様な複数のウェルに検体を夫々滴下して、ウェルとテラヘルツ波の位置を相対的に移動させて、高速に複数の検体を測定することができる。この場合、1箇所のウェルは、検体を滴下せず何も保持させないか、検体を溶解させる溶媒だけを滴下させたウェルとする。そして、これをリファレンスとして、リファレンスと検体を滴下した各ウェルとの間を複数回往復させながら、その間の差分を複数回測定して平均化する。このことで、精度の高い測定が可能となる。
【0075】
(実施例4)
実施例4を説明する。実施例4では、DNA水溶液をメンブレンフィルター上に滴下する。例えば、5.4kbのベクターpcDNA3水溶液の濃度が10μg/μlで、前記DNA水溶液の量が5μlであるとする。メンブレンフィルターには、親水性ナイロンを主成分とした、孔径0.45μm程度で厚さが127μm程度のメンブレンフィルター(例えば日本ポール社製、製品番号66607)を用いる。前記DNA水溶液は、前記メンブレンフィルターの同一箇所に複数回滴下して濃度を高めてもよい。
【0076】
ここで、前記メンブレンフィルター上に滴下した前記DNA水溶液を室温にて乾燥させる。乾燥させた前記メンブレンフィルターを、実施例1に示した方法でテラヘルツ波分光を行ない、透過率スペクトルを測定する。これを、予め取得・蓄積したDNAのテラヘルツ波分光(透過率若しくは反射率スペクトル)データベースと照合することで、前記DNAに関する情報が得られる(例えば、一本鎖であるか二本鎖であるか、塩基対の長さの概算など)。この様に、本発明の分析方法を用いて、多孔質材に生体関連分子の溶液または溶解物を保持させて、乾燥後に検体の情報の取得を行うことができることが分かる。
【0077】
この様に滴下して検体を供給する方法以外にも、チャージ可能なメンブレンフィルターにエレクトロスプレー法などの静電引力を用いて溶質を塗布する方法も有効である。この場合、上記実施例3に記載のウェル構造をそのまま選択塗布のマスクとして機能させることができる。なお、メンブレンフィルターの適当な面には、静電気力を維持するために、チャージを移動させるための電極が接する構成を設けるのが良い。
【0078】
前記メンブレンフィルターのうち前記DNAを滴下した部分を切り取り、10ml程度の純水に浸すことで、メンブレンフィルターに保持されていた前記DNAを回収することができる。上記メンブレンフィルターは、乾燥後も保持されたDNAの構造を保ち、純水に浸すことで再びDNAを溶出できるという特徴がある。こうして、検体の情報の取得を行なった後、多孔質材から生体関連分子を溶出することで生体関連分子を再利用することができる。
【0079】
本実施例によって、DNA診断等がラベルフリーで行なえ、且つ検査に用いたDNAを再び取り出して別の検査に用いることができる。また、本実施例には、修飾ポリエーテルスルホンを主たる材料としたメンブレンフィルターを用いてもよい。
【0080】
(実施例5)
本発明の実施例5を以下に説明する。本実施例では、まず、アビジン水溶液(濃度0.1μg/μl程度)を、メンブレンフィルター上に滴下する。メンブレンフィルターには、親水性ナイロンを主成分とした、孔径0.45μm程度で厚さが127μm程度のメンブレンフィルター(例えば日本ポール社製、製品番号66607)を用いる。アビジン水溶液は、メンブレンフィルターの同一箇所に複数回滴下して濃度を高めてもよい。
【0081】
前記メンブレンフィルター上に滴下した前記アビジン水溶液を、室温にて乾燥させる。乾燥させた前記メンブレンフィルターを、実施例1に示した方法でテラヘルツ波分光を行ない、透過率スペクトルを得る。
【0082】
次いで、前記メンブレンフィルター上における前記アビジン水溶液の滴下箇所にビオチン水溶液を滴下する。前記メンブレンフィルターはアビジン水溶液乾燥後もアビジンの活性を維持する特徴を持つものであるので、前記メンブレンフィルター上に保持された前記アビジンは、滴下されたビオチン水溶液中のビオチンと抗原・抗体反応を起こし結合する。
【0083】
前記メンブレンフィルターに滴下したビオチン水溶液を乾燥させた後、実施例1で示した方法で前記メンブレンフィルターごと再びテラヘルツ波分光を行ない、振幅透過率スペクトルを得る。これを、予め取得・蓄積したアビジン・ビオチンの抗原抗体反応に関するデータベース(例えば、振幅透過率スペクトル)と比較照合することで、抗原・抗体反応がどの程度生じたかなどを測定することができる。
【0084】
(実施例6)
本発明の実施例6を以下に説明する。本実施例では、まず、bovine
serum albumin(BSA、牛血清アルブミン)水溶液(濃度20mg/ml)30μlを、メンブレンフィルター上に滴下する。メンブレンフィルターには、親水性のポリエーテルスルホンを主成分とした、孔径が0.45μmで厚さが140μm程度の非繊維状の等方性多孔質材のメンブレンフィルターを用いる。続いて、BSA水溶液を72℃から75℃で3分間湯せんし、変性させたBSA水溶液を、前記メンブレンフィルターの別の箇所に同じ量を滴下する。
【0085】
前記メンブレンフィルターに滴下したBSA水溶液、及び変性したBSAの水溶液を4℃の条件下で乾燥させた後、実施例1に示した方法でメンブレンフィルターごと再びテラヘルツ波分光を行い、振幅透過率スペクトルを得る。BSAの振幅透過率と変性したBSAの振幅透過率を比較した結果が図16である。図16において、「REF」とはメンブレンフィルター上の同一点における振幅透過率(同一点で2回測定したもの)の比を示し、信号の揺らぎ、実験系全体の信頼性区間の目安とする。
【0086】
図16において、「変性」、「正常」はそれぞれ正常なBSA水溶液と熱変性させたBSA水溶液の振幅透過率を示す。これより、タンパク質であるBSAの変性の有無を測定できることが分かる。この振幅透過率の違いは、BSAの立体構造が変化したことを示唆している。本実施例では、変性したBSAの振幅透過率が大きく上昇していることが確認できた。
【0087】
(実施例7)
本発明の実施例7を説明する。本実施例では、図18に示す様に、中心軸の回りに回転可能な回転部材である円盤181の8箇所に、テラヘルツ波が透過できるウェルを設け、ウェルにメンブレンフィルター182を設置する。各ウェルの位置は、円盤181上の回転中心から同一半径位置とする。少なくとも1つのメンブレンフィルターには検体(例えば、正常なBSA水溶液など)を滴下し、1つは参照用として同量の純水を滴下し、乾燥させる。実施例1に示したものと同様の方法でテラヘルツ波を発生させ、各メンブレンフィルターを透過したテラヘルツ波を検出器で検出する。そして、円盤181を回転させることで、8つのメンブレンフィルターに保持された検体等を順次検出位置にもたらして測定する。
【0088】
ところで、こうした際、ウェルにあるメンブレンフィルター182にテラヘルツ波を集光する時、テラヘルツ波の迷光がウェルを保持する部材(ここでは円盤181)の外側を回りこんで検出器に到達する場合がある。特に低周波(例えば50GHz以下)成分は、波長が長いことにより回折効果が大きく、迷光が発生しやすい。しかし、本実施例の様に円盤状の部材の同一半径上にウェルを等角度間隔で設ければ、円盤を回転させても、円盤状部材と、空間を伝搬するテラヘルツ波との相対的位置関係は変化しない。そのため、検出器に到達する迷光強度はあまりないし殆ど変化しない。このため、本実施例の方法を用いれば、迷光を除去するための絞りの数を減らせるか、或いは使用しなくてもよくなる。
【0089】
これに対して、上記実施例3では、次の様になる。実施例3では、図8や図9の様な矩形の部材に2×2個のウェルを設けた例を示したが、より多くの検体を一度に測定するために例えば3×3個のウェルを設けた場合を考える。この場合、矩形部材の端に位置するウェルを測定する時と、矩形部材の中心部に位置するウェルを測定する時では、検出器に到達する迷光の強度の異なりが比較的大きくなる。これは、空間を伝搬するテラヘルツ波(迷光や、充分集光できない成分も含めたもの)の空間分布と保持部材及び複数のウェルとの相対的位置関係が、測定するウェルの位置により変化するからである。ウェル中のメンブレンフィルターに検体を滴下しない状態では、矩形部材のどの位置にあるウェルを測定しても同じ信号が得られることが望ましい。しかし、上述した様に矩形部材を前後、左右に移動させることで検出器に届く迷光強度が変化するため、同じ信号が得られないことがある。これをより確実に回避するために、実施例3の所では、迷光を除去する絞り(開口を持つマスク)を各所に適宜配置する例を説明した。
【0090】
本実施例において、円盤状の部材に配置するウェルは、回転中心の回りに等角度間隔で配置されて回転対称であることが望ましい。なぜなら、この様に回転対称であれば、どのウェルを測定するときも、測定中以外のウェルを透過するテラヘルツ波の迷光の影響が変化しないからである。ただし、本実施例では8個のウェルを備えているが、この数に限るものではない。
【0091】
尚、測定中以外のウェルを塞ぐ機構を有していれば、ウェルの配置は、等角度間隔で配置された回転対称の形態に限らない。各ウェルが回転中心から同一半径上にあり、各回転測定位置において回転部材の外形が一致する様になっていれば、等角度間隔で配置しなくてもよい。また、本実施例では、好適な例として円盤状の部材を例に挙げたが、各回転測定位置において外形を一致させられる様な形状を持つ回転部材であればよい。例えば、正多角形などであってもよい。ただし、各ウェルが測定位置に来るときに、回転部材の外形が常に一致する様に、各ウェルは回転部材の同一半径上に適切に配置される必要はある。また、上記実施例では、回転部材をテラヘルツ波の進行方向に垂直に配したが、垂直配置に限らない。進行方向に対して平行でない面内で中心の回りに回転可能に配すればよい。要するに、本実施例では、測定中以外のウェルを塞ぐ機構を設ける場合も含んで、次の条件を満たす様な構成になっていればよい。電磁波の進行方向に対して平行でない面内で中心の回りに回転可能な回転部材上の中心から同一半径位置に、少なくとも1つが検体を保持した多孔質材を複数設置する。そして、回転部材を回転させることで多孔質材を順次検出位置にもたらすときに、回転部材の外形が常に一致する。
【0092】
以上に説明した構成の本実施例の方法で測定すれば、次の効果が奏される。メンブレンフィルターに何も滴下しない(或いは純水のみを滴下・乾燥させた)ものの参照用の信号(テラヘルツ波波形及びそのフーリエスペクトル)の測定時の迷光成分と、検体を滴下・乾燥させたウェルを測定した時の信号に含まれる迷光成分が同一となる。従って、参照用の信号と検体測定信号の間で割り算をすることで迷光成分を容易に除去できて、より正確な測定が可能となる。
【0093】
(実施例8)
本発明による実施例8について図19を用いて説明する。実施例2ではメンブレンフィルター表面から反射するテラヘルツ波を用いて検出を行った。これに対して、実施例8は、全反射プリズムカプラ202を用いてエバネッセント波を用いることで、反射波による変化の感度を向上させるものである。図19(a)は、そのプリズムカプラの平面図、(b)は、(a)の一点鎖線部における断面図である。図19において、201は、半円筒形のプリズムカプラ202の上面に貼り付けられた隔壁構成部材であり、これには複数のウェル200が設けられている。プリズムカプラ202としては、テラヘルツ波に対する損失や分散等が小さいので、高抵抗Si材料で作製されたプリズムが好ましい。ただし、この材料は、酸化マグネシウムなどの誘電体材料、テフロン(登録商標)などの樹脂材料でもよい。こうして、電磁波を全反射させる部材であるプリズムカプラ202の表面近傍に前記多孔質材を配置して多孔質材に保持された検体の情報を取得する構成となる。
【0094】
上記構成において、図19(b)に示す如くテラヘルツ波205をカプラ202に入射すると反射テラヘルツ波が出射されるが、反射面近傍にはエバネッセント波が発生している。従って、ウェル200にメンブレンフィルター204を配置して検体を供給することで、エバネッセント波と検体が相互作用して感度の高い測定ができる。
【0095】
支持体である隔壁構成部材201は、実施例3で説明した様な、複数の検体を供給するウェル200を図19(a)のように並べて高速に測定するために設けた部材である。ここでは、検体がエバネッセント波と効率良く相互作用する様に、メンブレンフィルター204は50μm程度の厚さにすることが望ましい。全体の測定系としては、実施例2で説明した図6に示すものと同様でよい。図19(b)では1つの光線経路を示しているが、検体保持部分で多重反射させる構造としてもよい。
【0096】
また、全反射を用いたエバネッセント波よりも効率が高い方法として、図19(c)に示すように導電材料206をメンブレンフィルター204とカプラ202の表面の間に挟むタイプがある。この導電材料206としては、n型Si薄膜(厚さ2.5μm)を堆積したものが好適に用いられ、3THz近傍の周波数で表面プラズモンが発生する。ただし、この導電材料206としては、InAs、GaAsなどの他の半導体に不純物ドープしたものや、Au、Alなどの金属でもよい。
【0097】
表面に上記と同様に50μm程度の厚さのメンブレンフィルター204を配置することで、検体の状態を敏感に反映して反射テラヘルツ波の吸収の強いディップが現れる角度が存在する。この角度の変化を検出する。この様な測定をすることで検体の状態を感度良く評価することができる。この例は、導電材料206を検体と全反射面との間に配置したクレッチマン配置と言われるものであるが、逆に全反射面と導電材料の間に検体を含ませたメンブレンフィルターを配置するオットー配置(不図示)と言われるタイプを用いてもよい。この場合、導電材料の厚さに制限はなくなるが、1THzで測定する場合にはメンブレンフィルターを配置する隙間としては10μm程度以下が望ましい。この場合も多重反射構造としてもよい。
【0098】
(実施例9)
本発明の実施例9を説明する。本実施例は、核酸塩基及び核酸塩基を含む化合物の評価にメンブレンフィルターを用いたものである。ここで、核酸塩基を含む化合物とは、糖が結合したヌクレオシド、更にリン酸の結合したヌクレオチドなどである。用いた材料としては、cytosine
hydrochloride(C・HCl)、deoxycytidine(dC)、deoxycytidine hydrochloride(dC・HCl)、5-methyl-deoxycytidine(M-dC)、5-methyl-cytosine
hydrochloride(MC・HCl)などのヌクレオシド系である。これを純水に溶かした2μmol前後の量をメンブレンフィルターに滴下して乾燥させた。
【0099】
このときにdC、M-dCについてはフラットな透過特性であるが、塩酸塩のサンプルの3種類については特徴的な吸収スペクトル、すなわち指紋スペクトルが図20のように観測できた。この図のHydratedと書かれたものは、水溶液であって、本発明の方法により測定されたもの、Dehydratedと書かれたものは、固体粉末をポリエチンレン粉末と混合して圧縮することで作成したペレットの測定データを示している。図20(a)より、dC・HClは0.8THz、1.1THz、1.4THz、2.1THz、2.4THz、2.8THz近傍に、図20(b)より、MC・HClは2.1THz、2.6THz近傍に、図20(c)より、C・HClは2.3THz近傍に吸収ピークが見られ、テラヘルツ波領域に特有の指紋スペクトルが観測された。なお、本測定においても、実施例3で説明した様に、リファレンス(超純粋:DDWだけを滴下したウェル)との間で複数回交互に測定し、その変化分を平均して結果を出力している。
【0100】
図20から分かる様に、これら溶解したものの指紋スペクトルとしては、同一材料を溶解させずに粉体のままポリエチレン粉末と混合させてペレット状にした後、通常の方法で透過測定した場合と同様のスペクトルが得られているものもある。そのため、その場合はHClの結合に関連した分子内の振動に由来するものがあると考えられる。この様にヌクレオシドにHCl分子が結合しただけでスペクトルの変化が大きく見られ、テラヘルツ波によるメンブレンフィルターを用いた分析が可能であることが分かる。
【0101】
本発明の方法では、既に説明したように検体が均一に分布できるメンブレンフィルターを用いたため、本実施例の様に明確な指紋スペクトルが観測された。比較例として、繊維状構造体を含むニトロセルロースを用いたメンブレンフィルターでも測定を行った。図21(a)、(b)は、それぞれdC・HCl、MC・HClについて全く同じ条件で検体を用意し、メンブレンフィルターとしてニトロセルロースを使用した場合の透過率の結果を示している。図20のデータに比較して一部の吸収ピーク、すなわちdC・HClでは1.4THz、2.1THz、2.4THz、MC・HClでは2.1THzは信号強度が低減した形で観測可能であるが、全く観測されない吸収ピークもあることが分かる。従って、本発明による液体物質の測定で、テラヘルツ分光の性能が向上することが明らかである。
【0102】
ここでは、ヌクレオシドを用いたが、ヌクレオチドやこれらが結合した形の分子でも同様に、僅かな分子結合の分析などが可能である。また、DNAやRNAは、これらが結合して構成されるものである。よって、DNA、RNAの一部の構造を判別する際に、本発明によるメンブレンフィルターに溶液を滴下して測定する方法は有効である。
【0103】
材料としては、これまでの実施例や実施形態で挙げた糖、たんぱく質、核酸塩基類、DNA、RNAやその化合物などに限らず、以下の如き生物が食する材料などで、溶解物、溶液に本発明の分析方法を適用してその成分分析等をすることが有効である。すなわち、その材料は、アミノ酸、菌体、ウィルス、血液、細胞など人体に関わる材料、食品添加物、色素、抗生物質である。また、医薬品、例えば、スタチン製剤(プラバスタチン、シンバスタチン、アドルバスタチンなど)、アンジオテシンII受容体拮抗薬(ロサルタン、カンデサルタン、バルサルタンなど)、プロトンポンプ阻害薬(オメプラゾール、ランソプラゾール、パントウラゾールなど)などである。また、その他の有機物、無機物などのあらゆる材料で、溶液、溶解物などの液体状の検体についてテラヘルツ波による分析を行う場合には、本発明によるメンブレンフィルターを用いる方法が有効である。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】メンブレンフィルターを用いた分光試料作製法を説明する図。
【図2】テラヘルツ波による物質分析を行なうための光学配置を説明する図。
【図3】各種材料のメンブレンフィルターのテラヘルツ波に対する透過率と透過率の面内分布を示すグラフの図。
【図4】テラヘルツ波時間波形のグラフの図。
【図5】複素屈折率のグラフの図。
【図6】テラヘルツ波による物質分析を行なうための反射型分光配置を説明する図。
【図7】メンブレンフィルターを機械的XYステージ上に設置した構成を説明する図。
【図8】複数のウェルを持つ部材にメンブレンフィルターを設置した例を示す斜視図。
【図9】図8の部材の一例の詳細を示す斜視図。
【図10】粒状構造体からなる多孔質材を説明する図。
【図11】スポンジ状構造体からなる多孔質材を説明する図。
【図12】繊維状構造体からなる多孔質材を説明する図。
【図13】繊維状構造体を含む多孔質材を説明する図。
【図14】液体状検体が均一に浸透・保持される様子を説明する図。
【図15】液体状検体が不均一に浸透・保持される様子を説明する図。
【図16】BSAの変性分子と正常分子の振幅透過率を比較して示すグラフの図。
【図17】各種メンブレンフィルターのテラヘルツ波に対する透過率などを示す表1の図。
【図18】回転円盤に設置されたメンブレンフィルターの例を説明する図。
【図19】全反射プリズムカプラを用いたメンブレンフィルターの例を説明する図。
【図20】核酸塩基を含む化合物の透過スペクトルを示すグラフの図。
【図21】核酸塩基を含む化合物の従来のメンブレンフィルターを用いて測定した透過スペクトルの比較例を示すグラフの図。
【符号の説明】
【0105】
11、26、76、84、102、151、182、204 非繊維状の等方性多孔質材(メンブレンフィルター)
14 検体(乾燥し析出した検体)
23、73、81 電磁波照射手段(テラヘルツ波発生器)
24、74、83 電磁波検出手段(テラヘルツ波検出器)
27、77、86、205 電磁波(テラヘルツ波)
85 機械的XYステージ
103 Oリング
110 粒状構造物
120 スポンジ状構造物
181 回転部材(回転円盤)
182、200 ウェル
201 隔壁構成部材
202 全反射部材(全反射プリズムカプラ)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数が30GHz以上30THz以下の領域の少なくとも一部の周波数帯を含む電磁波を用いて検体の情報を取得する方法であって、
非繊維状の等方性多孔質材に検体を保持させ、
前記多孔質材に保持された検体に前記電磁波を照射し、
前記多孔質材を透過若しくは反射することによる前記電磁波の伝搬状態の変化を検出し、検出結果に基づいて前記検体の情報を取得する、
ことを特徴とする分析方法。
【請求項2】
前記多孔質材が、ポリプロピレン、ポリスルホン、ナイロン、ポリエーテルスルホン、テフロン(登録商標)、ポリオレフィン、ポリエチレン、ポリスチレン、四フッ化エチレン樹脂のうち、いずれかを少なくとも含むものであることを特徴とする請求項1に記載の分析方法。
【請求項3】
前記多孔質材に、生体関連分子の溶液または溶解物を保持させて、乾燥後に前記情報の取得を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の分析方法。
【請求項4】
前記多孔質材に、生体関連分子を保持させて、前記情報の取得を行なった後、前記多孔質材から生体関連分子を溶出することで前記生体関連分子を再利用することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の分析方法。
【請求項5】
前記多孔質材を反射することによる前記電磁波の伝搬状態の変化を検出するステップにおいて、前記電磁波を全反射させる部材を用いており、前記全反射する部材において反射する面の表面近傍に前記多孔質材を配置して前記多孔質材に保持された検体の情報を取得することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の分析方法。
【請求項6】
前記電磁波の進行方向に対して平行でない面内で中心の回りに回転可能な回転部材上の該中心から同一半径位置に、少なくとも1つが前記検体を保持した前記多孔質材を複数設置し、前記回転部材を回転させることで前記多孔質材を順次検出位置にもたらし、該検出位置にもたらされた多孔質材を透過若しくは反射することによる前記電磁波の伝搬状態の変化を順次検出することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の分析方法。
【請求項7】
前記多孔質材は、2.0THzにおける電磁波振幅透過率が90パーセント以上であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の分析方法。
【請求項8】
前記電磁波の周波数帯域において、周波数に対する振幅透過率の一定性を示す指標として定義する、上限周波数での振幅透過率と下限周波数での振幅透過率の差で、前記周波数帯域の中間付近の振幅透過率と1の差を除した値の絶対値が、20以上である前記多孔質材を用いることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の分析方法。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかに記載の分析方法で情報を取得する検体を保持するための部材であって、検体を領域に保持する隔壁とその隔壁内に前記多孔質材を備え、前記隔壁から構成される領域以外の領域には前記電磁波が透過しない部材を少なくとも有していることを特徴とする検体保持部材。
【請求項10】
請求項1乃至8のいずれかに記載の分析方法を行なうための分析装置であって、
前記多孔質材に前記電磁波を照射するための電磁波照射手段と、前記多孔質材を透過もしくは反射することによる前記電磁波の伝搬状態の変化を検出するための電磁波検出手段を有することを特徴とする分析装置。
【請求項1】
周波数が30GHz以上30THz以下の領域の少なくとも一部の周波数帯を含む電磁波を用いて検体の情報を取得する方法であって、
非繊維状の等方性多孔質材に検体を保持させ、
前記多孔質材に保持された検体に前記電磁波を照射し、
前記多孔質材を透過若しくは反射することによる前記電磁波の伝搬状態の変化を検出し、検出結果に基づいて前記検体の情報を取得する、
ことを特徴とする分析方法。
【請求項2】
前記多孔質材が、ポリプロピレン、ポリスルホン、ナイロン、ポリエーテルスルホン、テフロン(登録商標)、ポリオレフィン、ポリエチレン、ポリスチレン、四フッ化エチレン樹脂のうち、いずれかを少なくとも含むものであることを特徴とする請求項1に記載の分析方法。
【請求項3】
前記多孔質材に、生体関連分子の溶液または溶解物を保持させて、乾燥後に前記情報の取得を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の分析方法。
【請求項4】
前記多孔質材に、生体関連分子を保持させて、前記情報の取得を行なった後、前記多孔質材から生体関連分子を溶出することで前記生体関連分子を再利用することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の分析方法。
【請求項5】
前記多孔質材を反射することによる前記電磁波の伝搬状態の変化を検出するステップにおいて、前記電磁波を全反射させる部材を用いており、前記全反射する部材において反射する面の表面近傍に前記多孔質材を配置して前記多孔質材に保持された検体の情報を取得することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の分析方法。
【請求項6】
前記電磁波の進行方向に対して平行でない面内で中心の回りに回転可能な回転部材上の該中心から同一半径位置に、少なくとも1つが前記検体を保持した前記多孔質材を複数設置し、前記回転部材を回転させることで前記多孔質材を順次検出位置にもたらし、該検出位置にもたらされた多孔質材を透過若しくは反射することによる前記電磁波の伝搬状態の変化を順次検出することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の分析方法。
【請求項7】
前記多孔質材は、2.0THzにおける電磁波振幅透過率が90パーセント以上であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の分析方法。
【請求項8】
前記電磁波の周波数帯域において、周波数に対する振幅透過率の一定性を示す指標として定義する、上限周波数での振幅透過率と下限周波数での振幅透過率の差で、前記周波数帯域の中間付近の振幅透過率と1の差を除した値の絶対値が、20以上である前記多孔質材を用いることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の分析方法。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかに記載の分析方法で情報を取得する検体を保持するための部材であって、検体を領域に保持する隔壁とその隔壁内に前記多孔質材を備え、前記隔壁から構成される領域以外の領域には前記電磁波が透過しない部材を少なくとも有していることを特徴とする検体保持部材。
【請求項10】
請求項1乃至8のいずれかに記載の分析方法を行なうための分析装置であって、
前記多孔質材に前記電磁波を照射するための電磁波照射手段と、前記多孔質材を透過もしくは反射することによる前記電磁波の伝搬状態の変化を検出するための電磁波検出手段を有することを特徴とする分析装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2008−83020(P2008−83020A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−349234(P2006−349234)
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年12月26日(2006.12.26)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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