説明

分析用試薬とこれを使用した分析用デバイスおよび分析用デバイスの製造方法とこの分析用デバイスを使用した分析方法

【課題】血中のコレステロール濃度測定の反応時間を改善でき、しかも、遠心力によって測定チャンバーに向かって試料液を移送する分析用デバイスに適した分析用試薬を提供することを目的とする。
【解決手段】コレステロールエステラーゼ、コレステロールデヒドロゲナーゼ、ジアホラーゼ、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド、テトラゾリウム化合物などで構成されている分析用試薬に、環状糖化合物が添加されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学的試料中のコレステロールを精度よく分析するための試薬および分析用デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、血液等の生物学的試料と分析試薬と反応させ、生物学的試料中の様々な成分を定量的に測定する大型の自動分析装置が実用化されており、医療分野においては無くてはならない存在となっている。
【0003】
しかしながら、すべての病院においてそのような装置が導入されているわけではなく、特に診療所等の小規模な医療機関においては、運用コスト等の様々な理由により、試料の分析を外部委託するという形態をとる病院も少なくない。分析を外部委託する形態をとる場合、分析結果を得るまでに時間を要し、その結果、患者は検査結果に基づく適切な治療を受けるために、必然的に再来院を余儀なくされるという不便さや、急患等の緊急を要する場合の迅速な対応が難しい等の問題がある。
【0004】
そのような背景により、医療の現場から低コスト、試料液の少量化、装置の小型化、短時間測定など、より高精度で、運用の自由度が高い分析装置の登場が望まれている。このような迅速で簡便な診断システムは、ポイント・オブ・ケア・テスティング(以下、POCT)と呼ばれ、医療の質の向上、患者の生活の質向上ということに主眼を置いた形で定義されている。
【0005】
POCTで定義されるような運用の自由度、および医療サービスの質を向上させることができるような分析装置を実現するためには、例えば、患者に負担の少ない指先採血等によって採取される少量の検体から、複数種の成分濃度を短時間で高精度に測定できるという条件を満たすことが一つの理想形である。
【0006】
しかしながら、指先採血等でストレス無く得られる検体量は、せいぜい十数マイクロリットル程度であり、そのような少量の検体から前述の条件、特に複数種の成分分析を高精度に行うことは技術的に難しい。特に、前処理を必要とする分析項目については、少量の検体に対し短時間で繰り返し精度のよい前処理を行うことが難しく、十分な測定精度を持つ製品はいまだ数少ない状況にある。
【0007】
POCTの一例としてコレステロールを測定するものがある。このコレステロールは生体の代謝過程において必須となる物質であるが、異常をきたした場合には、動脈硬化性疾患との関連性が指摘されている物質であり、予防医学的にも注目すべき指標と言える。
【0008】
コレステロールは酵素的に定量することが可能で、特許文献1に記載されているコレステロールの測定法は、コレステロールエステラーゼおよびコレステロールデヒドロゲナーゼを使用して生物学的試料中のコレステロール精度よく測定する方法が記されている。
【0009】
さらに特許文献2においては、臨床検査に応用するには反応速度的に不十分であった特許文献1の方法に、界面活性剤を加えて反応速度を向上させる方法について記されている。
【0010】
また特許文献3には、試料液を遠心力によって測定チャンバーに向かって移送するマイクロチャネル構造の流路を有し、前記測定チャンバーにおける反応液にアクセスする読み取りに使用される分析用デバイスが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特公平2−49720
【特許文献2】特公平4−7199
【特許文献3】特開2009−186247
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前記の特許文献2において、界面活性剤を添加することで反応速度的には改善が見られ、迅速性を求められるPOCTへの運用も可能と思われた。しかし液状であるものが多い界面活性剤を試薬組成に加えれば、試薬を乾燥させてセンサ基板上に担持するドライケミストリー方式とすることは非常に困難となり、特に、特許文献3に見られるように試料液を遠心力によって測定チャンバーに向かって移送するタイプの分析用デバイスの内部にセットして分析用試薬として使用しようとしても、十分に固形化させた状態で担持させることができないため、前記測定チャンバーに試料液が到着する前の分析用デバイスの試料移送中の回転中に、分析用試薬が飛散してしまってPOCTへ応用することができない。
【0013】
本発明は、POCTで定義されるような医療サービスの質、患者の生活の質の向上を実現するために、患者負担軽減のための指先採血での分析可能、かつ数分という短時間で高精度に血中の目的成分を測定できるシステムが必要であると考え、ドライケミストリー方式の装置において、極めて溶解性が高く、血中のコレステロール濃度を正確に測定できる分析用試薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の分析用試薬は、生物学的試料のコレステロールを定量する分析に使用されるコレステロール測定試薬であって、前記コレステロールと反応する試薬に環状糖化合物が添加されていることを特徴とする。具体的には、前記環状糖化合物はシクロデキストリンである。また、前記シクロデキストリンは、ヒドロキシメチル−β−シクロデキストリン、または6−O−a−D−グルコシル−β−シクロデキストリン、またはメチル−β−シクロデキストリン、または2,3,6−トリ−O−メチル−β−シクロデキストリン、またはγ−シクロデキストリン、のうち何れかまたは少なくとも一つ以上を含む。前記コレステロールと反応する試薬は、コレステロールエステラーゼ、コレステロールデヒドロゲナーゼ、ジアホラーゼ、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド、テトラゾリウム化合物で構成されている。
【0015】
また本発明の分析用デバイスは、試料液を遠心力によって測定チャンバーに向かって移送するマイクロチャネル構造の流路を有し、前記測定チャンバーにおける反応液にアクセスする読み取りに使用される分析用デバイスであって、分析対象のコレステロールと反応する試薬に環状糖化合物を添加した分析用試薬がマイクロチャネル構造の前記流路に担持されていることを特徴とする。
【0016】
また本発明の分析用デバイスの製造方法は、試料液を遠心力によって測定チャンバーに向かって移送するマイクロチャネル構造の流路を有し、前記測定チャンバーにおける反応液にアクセスする読み取りに使用される分析用デバイスを製造するに際し、分析対象のコレステロールと反応する試薬に環状糖化合物を添加した液体状態の分析用試薬をマイクロチャネル構造の前記流路に塗布して乾燥させて担持させることを特徴とする。
【0017】
また本発明の分析方法は、試料液を遠心力によって測定チャンバーに向かって移送するマイクロチャネル構造の流路を有し、前記測定チャンバーにおける反応液にアクセスする読み取りに使用される分析用デバイスを使用した分析方法であって、分析対象のコレステロールと反応する試薬に環状糖化合物を添加した分析用試薬がマイクロチャネル構造の前記流路に担持されている分析用デバイスを使用し、前記流路に取り込んだ試料液を前記分析用試薬と反応させ、この反応液に前記測定チャンバーでアクセスして定量分析することを特徴とする。
【0018】
また本発明の分析用デバイスは、試料液を遠心力によって測定チャンバーに向かって移送するマイクロチャネル構造の流路を有し、前記測定チャンバーにおける反応液にアクセスする読み取りに使用される分析用デバイスであって、分析対象のコレステロールと反応する試薬を複数の成分に分割してマイクロチャネル構造の前記流路に担持させるとともに、少なくとも何れかに環状糖化合物を添加した分析用試薬が担持されていることを特徴とする。
【0019】
また本発明の分析用デバイスの製造方法は、試料液を遠心力によって測定チャンバーに向かって移送するマイクロチャネル構造の流路を有し、前記測定チャンバーにおける反応液にアクセスする読み取りに使用される分析用デバイスを製造するに際し、試料液を遠心力によって測定チャンバーに向かって移送するマイクロチャネル構造の流路を有し、前記測定チャンバーにおける反応液にアクセスする読み取りに使用される分析用デバイスを製造するに際し、分析対象のコレステロールと反応する試薬を複数の成分に分割して少なくとも前記成分の何れかに環状糖化合物を添加した液体を塗布して乾燥させて担持させることを特徴とする。
【0020】
また本発明の分析方法は、試料液を遠心力によって測定チャンバーに向かって移送するマイクロチャネル構造の流路を有し、前記測定チャンバーにおける反応液にアクセスする読み取りに使用される分析用デバイスを使用した分析方法であって、分析対象のコレステロールと反応する試薬を複数の成分に分割して少なくとも前記成分の何れかに環状糖化合物を添加してマイクロチャネル構造の前記流路に担持した分析用デバイスを使用し、前記流路に取り込んだ試料液を前記分析用試薬と反応させ、この反応液に前記測定チャンバーでアクセスして定量分析することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
この構成によれば、患者負担軽減のための指先採血での分析可能、かつ数分という短時間で高精度に血中の目的成分を測定できるシステムが実現可能となり、前記POCTの定義に合致したコレステロールの測定が可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の分析用試薬と分析用デバイスおよび分析用デバイスを使用した分析方法を具体的な実施の形態に基づいて説明する。
(実施の形態1)
本発明を実施してコレステロールを測定する方法を詳細に説明する。
【0023】
測定する生物学的試料、例えば血漿や血清を適宜希釈し、コレステロールエステラーゼ、コレステロールデヒドロゲナーゼ、ジアホラーゼ、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(以下、NAD)、テトラゾリウム塩を配合して反応試液とする。試料を希釈する際は、リン酸緩衝液生理食塩水(pH7.4)などを使用するのが望ましい。この一連の反応の原理は図1のように示される。
【0024】
生物学的試料に含まれるエステル型コレステロールは、コレステロールエステラーゼによる加水分解を受け、遊離型コレステロールと脂肪酸とに分解される。遊離型のコレステロールは、コレステロールデヒドロゲナーゼの作用によりコレステノンとなり、この時、副反応としてNADが還元型(NADH)へと還元される。
【0025】
このNADHを使ってジアホラーゼは、テトラゾリウム塩をホルマザン色素へと変換する。生じたホルマザン色素は、分光光度計によって吸光度を測定することができる。この時、分光光度計で使用する波長は、使用するテトラゾリウム塩によって生成するホルマザン色素が異なるので、波長はそれに応じて変更することができる。
【0026】
このようにしてエステル型コレステロールを測定することにより、生物学的試料中に含まれるコレステロールを定量化できる。
この一連の反応は酵素反応を安定して進行させるため、適温でインキュベーションして行うのが望ましく、温度は酵素が失活しない程度なら良く、好ましくは30℃から40℃で行うのが良い。
【0027】
測定時のペーハーは、酵素の活性を損なわない全ペーハー範囲で可能であって、好ましくはpH6からpH10で行うのが良い。
反応に用いるコレステロールデヒドロゲナーゼがNAD依存性であれば補酵素としてNADを用いるが、他の補酵素依存性であればその酵素に応じた補酵素を使用することもできる。
【0028】
ここで言う生物学的試料中のコレステロールとは、エステル型コレステロール、遊離型コレステロールを言うのはもちろんのこと、リンタングステン酸やデキストラン硫酸、ある種の界面活性剤で処理された特定のリポタンパクコレステロールも測定することが可能である。
【0029】
(実施例1)
コレステロール試薬への添加物の反応促進効果および潮解性の比較検討を行う。
まず、コレステロール濃度が既知であるデンカ生研株式会社製「生研リキッドノーマル」を使ってコレステロール濃度が10mg/dL、30mg/dL、50mg/dLになるようにそれぞれリン酸緩衝液生理食塩水(pH7.4)で正確に希釈してコレステロール測定用の測定検体を調製する。
【0030】
調製した測定検体に、下記の組成に従って作成した8種類の試薬を混合したサンプル1〜サンプル8の反応試液を作成した。
リン酸緩衝液(pH7.2) 40mM
コレステロールエステラーゼ(旭化成ファーマ社製) 50U/mL
コレステロールデヒドロゲナーゼ(天野エンザイム社製) 70U/mL
ジアホラーゼ(東洋紡社製) 65U/mL
NAD(オリエンタル酵母社製) 4mM
WST8(同仁化学社製) 5mM
添 加 物 適 宜
比較検討した添加物は、環状糖化合物の具体例として下記の6種類のシクロデキストリンの場合と、界面活性剤の具体例としてトライトンX−100の場合と、盲検体として水の場合との8種類を実験した。
【0031】
α−シクロデキストリン、
ヒドロキシメチル−β−シクロデキストリン、
6−O−a−D−グルコシル−β−シクロデキストリン、
メチル−β−シクロデキストリン、
2,3,6−トリ−O−メチル−β−シクロデキストリン、
γ−シクロデキストリン、
添加物の添加の濃度はシクロデキストリンの場合が5mM、界面活性剤の場合が2%とした。
【0032】
このサンプル1〜サンプル8の反応試液を37℃でインキュベーションした後、460nmの吸光度を分光光度計で測定した。各反応試液のコレステロール濃度をx軸、測定で得られた吸光度をy軸にプロットして得られる直線の傾きを算出し、盲検体である水の傾きより大きい場合は反応促進効果があると判断をした。この結果を図2に示す。
【0033】
図2において反応促進の効果が認められるものを ○ 、効果が不十分であるものを △ で示した。これによると、サンプル1は反応促進の効果が不十分であったが、サンプル2〜サンプル7については反応促進の効果が認められた。
【0034】
また、各添加物の潮解性の検討を行うべく、下記の組成に従って添加物を上記の8種類に異ならせたサンプルを作成した。
NAD(オリエンタル酵母社製) 20mM
WST8(同仁化学社製) 25mM
添 加 物 適 宜
この潮解性の検討を行うための試薬を後述の分析用デバイス(図5を参照)の特定位置に乾燥した状態で担持させて、遠心を行って遠心方向への試薬の流れ出しの有無により潮解性の有無を判断した。この時の遠心力はおよそ1700Gとした。添加の濃度はシクロデキストリンの場合が25mM、界面活性剤の場合が10%とした。この結果を図2に潮解性の欄を設けて、サンプル1〜サンプル8の添加物が同じ列に、潮解性の無いものを ○ 、潮解性のあるものを × として併記した。この潮解性の有無の判断については、内部の検体移送等に遠心力を利用している分析装置において、遠心力がかかった状態で試薬が飛散しないことが重要な判断基準になることを理由としている。
【0035】
図2に反応促進の効果と潮解性の有無を総合して評価した判定の欄を設けて、有効なものには ○ 、不十分なものには △ 、有効でなかったものは × で示した。この図2より明らかなように、盲検体である水と比べてシクロデキストリンを添加したサンプル2〜サンプル6のヒドロキシメチル−β−シクロデキストリン、6−O−a−D−グルコシル−β−シクロデキストリン、メチル−β−シクロデキストリン、2,3,6−トリ−O−メチル−β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン場合には反応促進効果が見られ、加えて潮解性もなく、分析用デバイスに容易に担持することが可能である。α−シクロデキストリンは上記シクロデキストリンと比べ、反応促進効果は小さい。一方、界面活性剤であるトライトンX−100は反応促進効果を示すものの、潮解性が不十分なため遠心力を利用したシステムにおいては不適当である。
【0036】
(実施例2)
次に、コレステロール測定試薬に添加するシクロデキストリンの添加濃度による反応促進効果の差異を、γ−シクロデキストリンを添加物として使用した場合を例に挙げて検証する。
【0037】
コレステロール測定試薬にγ−シクロデキストリンを2.5mM、5mM、10mM、20mM、25mM、30mM、40mM、50mM加え、実施例1と同様に盲検体としての水の場合の傾きと比較して大きい場合は反応促進効果があると判断した。
【0038】
上記手順によるコレステロール測定で得られる検量線の傾きの比較検討結果を図3に示す。ここでは効果が認められるものを ○ で示した。
この図3より明らかなように、添加濃度が2.5mM以上であれば傾きが最大値となることが分かった。50mMを超えて添加した場合、塩濃度が高くなりすぎるため、酵素の溶解度が小さくなり、インキュベーション中に溶けきれなくなった酵素が不溶化して、測定不可能となった。このため、添加濃度は2.5mM〜50mMが妥当と考えられる。
【0039】
(実施例3)
次にこのコレステロール測定試薬を担持させて使用する分析用デバイスを、図4〜図6に基づいて説明する。
【0040】
図4は分析用デバイス1とこれを使用する分析装置100を示し、図5は分析用デバイス1の内部の具体的な流路を示している。
分析用デバイス1は、微細な凹凸形状を表面に有するマイクロチャネル構造が片面に形成されたベース基板3と、ベース基板3の表面を覆うカバー基板4とを貼り合わせたものに、試料液飛散防止用の保護キャップ2が取り付けられている。図5は、カバー基板4との貼り合わせ面から見たベース基板3を示しており、分析用デバイス1の内部には希釈液が入った希釈液容器5がセットされている。この分析用デバイス1は保護キャップ2を開いて露出した注入口13に試料液を点着した後、保護キャップ2を閉じることによって、希釈液が希釈液容器5から流出する構造となっている。
【0041】
分析用デバイス1の内部には、HDL(High Density Lipoprotein)測定用の測定チャンバー52aと、TC測定用の測定チャンバー52b,52cが設けられている。
図6は、図5の分析用デバイス1の毛細管エリアにおける試薬担持状態を示す拡大図であり、各種の分析に必要な試薬58a1,58a2,58b1,58b2,58b3,58c1,58c2が予め担持されている。なお、HDL測定用の測定チャンバー52aへの到着前のマイクロチャネル構造の流路である操作キャビティ61には、前処理のための試薬67a,67bが予め担持されている。
【0042】
分析装置100の電気制御系は図4に示すように構成されている。
この分析装置100は、回転駆動手段106と、分析用デバイス1内の溶液を光学的に測定するための光学測定手段108と、回転速度や回転方向および光学測定手段の測定タイミングなどを制御する制御手段109と、光学測定手段108によって得られた信号を処理し測定結果を演算するための演算部110と、演算部110で得られた結果を表示するための表示部111とで構成されている。
【0043】
回転駆動手段106は、分析用デバイス1を任意の方向に所定の回転速度で回転させるだけではなく、所定の停止位置で所定の振幅範囲、周期で左右に往復運動をさせて分析用デバイス1を揺動させることができるように構成されている。
【0044】
光学測定手段108には、分析用デバイス1の測定部に特定の波長光を照射するための光源112と、光源112から照射された光のうち、分析用デバイス1を通過した透過光の光量を検出するフォトディテクタ113とを備えている。
【0045】
分析用デバイス1を分析装置100にセットして回転駆動すると、注入口13から内部に取り込んだ試料液が、分析用デバイス1を回転させて発生する遠心力と、分析用デバイス1内に設けられた毛細管流路の毛細管力を用いて、分析用デバイス1の内部で移送される。この分析用デバイス1のマイクロチャネル構造を分析工程とともに詳しく説明する。
【0046】
保護キャップ2を開いて注入口13に試料液を直接に付けることによって、注入口13の付近に付着した試料液が誘導部17の毛細管力によって分析用デバイス1の内部に取り込まれる。図5の25a〜25mはベース基板3に形成された空気孔である。
【0047】
この分析用デバイス1を分析装置100にセットして回転駆動すると、保持されている試料液が毛細管キャビティ19と受容キャビティ23aを介して分離キャビティ23b,23cに流入し、分離キャビティ23b,23cで血漿成分と血球成分とに遠心分離される。この時の遠心力は全過程において最大となり、分析用デバイス1の試薬担持部でおよそ1700Gとなる。希釈液容器5から流出した希釈液は、排出流路26を介して保持キャビティ27に流入する。
【0048】
次に、分析用デバイス1の回転を停止させると、血漿成分は分離キャビティ23bの壁面に形成された毛細管キャビティ33に吸い上げられ、連結流路30を介して計量流路38に流れて定量が保持される。
【0049】
また、希釈液は保持キャビティ27と混合キャビティ39を連結しているサイホン形状を有する連結流路41内に呼び水される。
再び分析用デバイス1を回転駆動すると、計量流路38に保持されていた血漿成分は大気開放キャビティ31の位置で破断し、定量だけが混合キャビティ39に流れ込み、保持キャビティ27内の希釈液も連結流路41を介して混合キャビティ39に流れ込む。
【0050】
次に回転を停止し、±1mm程度の揺動を分析用デバイス1に与えるように制御して、混合キャビティ39内に移送された希釈液と血漿成分からなる測定対象の希釈血漿を攪拌する。
【0051】
その後に、±1mm程度の揺動を分析用デバイス1に与えるように制御して、混合キャビティ39に保持される希釈血漿を、希釈血漿の液面よりも内周側に形成された毛細管流路37の入口まで移送する。
【0052】
毛細管流路37の入口まで移送された希釈血漿は、毛細管力によって毛細管流路37内に吸い出され、毛細管流路37、計量流路47a,47b,47c、溢流流路47dに順次移送される。
【0053】
再び分析用デバイス1を回転駆動すると、計量流路47a,47b,47cに保持されていた希釈血漿は、大気と連通する大気開放キャビティ50との連結部である屈曲部48a,48b,48c,48dの位置で破断して、定量だけ測定チャンバー52b,52cおよび保持キャビティ53に流れ込む。
【0054】
図6に示した測定チャンバー52a〜52cの形状は、遠心力の働く方向に伸長した形状で、分析用デバイス1の回転中心から最外周に向かって分析用デバイス1の周方向の幅が細く形成されている。この複数の測定チャンバー52a〜52cの外周側の底部は、分析用デバイス1の同一半径上に配置されている。
【0055】
さらに、各測定チャンバー52a〜52cの周方向に位置する側壁の一側壁には、前記測定チャンバーの外周位置から内周方向に伸長するように毛細管エリア56a〜56cが形成されている。
【0056】
また、毛細管エリア56a〜56c内にはそれぞれの検査対象の成分と反応させるための試薬58a1,58a2,58b1,58b2,58b3,58c1,58c2が、毛細管エリア56a,56b,56c内に形成された試薬担持部57a1,57a2,57b1,57b2,57b3,57c1,57c2に担持されている。
【0057】
次に、±1mm程度の揺動を分析用デバイス1に与えるように制御して、保持キャビティ53に保持される希釈血漿を、この希釈血漿の液面に浸かるよう保持キャビティ53の側壁に形成された連結部59を介して毛細管力の作用により操作キャビティ61に移送する。
【0058】
さらに、±1mm程度の揺動を分析用デバイス1に与えるように制御して、操作キャビティ61に担持された試薬67a,67bと希釈血漿を攪拌して、希釈血漿内に含まれる特定の成分と試薬を反応させる。
【0059】
また、測定チャンバー52b,52cに移送された希釈血漿は、毛細管力によって毛細管エリア56b,56cに吸い上げられ、この時点で試薬58b1,58b2,58b3,58c1,58c2の溶解が開始され、希釈血漿内に含まれる特定の成分と試薬の反応が開始される。
【0060】
再び分析用デバイス1を回転駆動すると、操作キャビティ61の試薬と反応した希釈血漿が連結通路64を通過して分離キャビティ66に流れ込み、さらに高速回転を維持することで、操作キャビティ61内で生成された凝集物を遠心分離する。
【0061】
この実施の形態では、検査対象の成分と試薬を反応させる際に、前記反応を阻害する成分を前工程で排除するように、操作キャビティ61で希釈血漿を試薬67a,67bとを反応させることで、後工程の反応を阻害する特定の成分を凝集処理し、次工程で遠心分離することで前記凝集物を排除している。
【0062】
また、毛細管エリア56b,56cに保持されていた試薬と希釈血漿の混合溶液は、遠心力によって測定チャンバー52b,52cの外周側に移送することで、試薬と希釈血漿の攪拌が行われる。
【0063】
次に分析用デバイス1の回転を停止させると、希釈血漿は分離キャビティ66の壁面に形成された毛細管キャビティ69に吸い上げられ、毛細管キャビティ69と連通する連結流路70を介して計量流路80に流れて定量が保持される。また、測定チャンバー52b,52cに移送された試薬と希釈血漿の混合溶液は、毛細管力によって再び毛細管エリア56b,56cに吸い上げられる。
【0064】
再び分析用デバイス1を回転駆動すると、計量流路80に保持されていた希釈血漿は、大気と連通する大気開放キャビティ83との連結部である屈曲部84の位置で破断して、定量だけ測定チャンバー52aに流れ込む。また、毛細管エリア56b,56cに保持されていた試薬と希釈血漿の混合溶液は、遠心力によって測定チャンバー52b,52cの外周側に移送することで、試薬と希釈血漿の攪拌が行われる。
【0065】
次に分析用デバイス1の回転を停止させると、測定チャンバー52aに移送された希釈血漿は、毛細管力によって毛細管エリア56aに吸い上げられ、この時点で試薬58a1,58a2の溶解が開始され、希釈血漿内に含まれる特定の成分と試薬の反応が開始される。
【0066】
また、測定チャンバー52b,52cに移送された試薬と希釈血漿の混合溶液は、毛細管力によって再び毛細管エリア56b,56cに吸い上げられる。
再び分析用デバイス1を回転駆動すると、毛細管エリア56a,56b,56cに保持されていた試薬と希釈血漿の混合溶液は、遠心力によって測定チャンバー52a,52b,52cの外周側に移送することで、試薬と希釈血漿の攪拌が行われる。
【0067】
分析用デバイス1を回転駆動中に、各測定チャンバー52a,52b,52cが光源112とフォトディテクタ113の間を通過するタイミングに、演算部110がフォトディテクタ113の検出値を読み取って、特定成分の濃度を算出する。
【0068】
具体的には、測定チャンバー52aにおいてHDLコレステロールを定量測定する場合の試薬58a1,58a2と、測定チャンバー52cにおいて総コレステロール(以下、TC)を定量測定する場合の試薬58c1,58c2として次のように調製したものを使用している。
【0069】
− 試薬58a1および試薬58c1−
コレステロールエステラーゼ(旭化成ファーマ社製) 250U/mL
コレステロールデヒドロゲナーゼ(天野エンザイム社製) 350U/mL
ジアホラーゼ(東洋紡社製) 325U/mL
リン酸緩衝液(pH7.2) 200mM
− 試薬58a2および試薬58c2 −
NAD(オリエンタル酵母社製) 20mM
WST8(同仁化学社製) 25mM
γ―シクロデキストリン 25mM
この試薬58c1,58c2を、分析用デバイス1の試薬担持部57c1,57c2の上に固体状態で配置し、これを使用してTC濃度測定を実施した。その結果を図7に示す。試料液としては、一般人から採取した血液検体を用いた。株式会社日立ハイテクノロジーズ製7020形自動分析装置によって積水メディカル株式会社製の総コレステロールキット「コレステストCHO」を使用した測定値を参照値として示した。
【0070】
この図7に示した結果によると、本試薬を使用した分析用デバイス1によるTC濃度の測定では、参照値に対して相関係数0.998の良好な直線性を有しており、分析用デバイス1を使用して十分なTC濃度の測定能力を有していることがわかる。
【0071】
なお、試薬58a2および試薬58c2はカバー基板4を貼り合わせる前のベース基板3の該当(試薬担持部57a2,57c2)位置に、液体状態の分析用試薬を塗布して乾燥させて固体状態にして担持させた後に、ベース基板3にカバー基板4を貼り合わせて分析用デバイスを製造した。
【0072】
このように、本試薬は固体状態で分析用デバイス上に担持させることができるため、十数マイクロリットルの僅かな血液検体を遠心力によって測定チャンバーに向かって移送するタイプの分析用デバイスの内部にセットして分析用試薬として使用した場合であっても、測定チャンバーに試料液が到着する前の分析用デバイスの試料移送中の回転中に、試薬58a2,58c2が飛散してしまうことが無く、短時間に高精度でTC,HDLコレステロール濃度を自動的に測定することができるので、POCTに定める所の医療の質向上や患者負担の軽減に有用である。
【0073】
上記の実施例3では、添加物としてγ―シクロデキストリンの場合を例に挙げて説明したが、実施例1で検証した図2に示したように、ヒドロキシメチル−β−シクロデキストリン、6−O−a−D−グルコシル−β−シクロデキストリン、メチル−β−シクロデキストリン、2,3,6−トリ−O−メチル−β−シクロデキストリンでも同様に有効であることは明らかである。また、これらの何れかでなくても、少なくとも一つ以上を含むものであれば分析用デバイスの試薬に加える前記添加物として有効である。
【0074】
この実施の形態では試薬58a2,58c2に前記した特定の添加物を添加し、試薬58a1,58c1には添加しなかったが、試薬58a2,58c2,58a1,58c1に前記した特定の添加物を添加して構成することもできる。
【0075】
(実施の形態2)
上記の実施の形態では、分析対象のコレステロールと反応する試薬を、測定チャンバー52aについて試薬58a1,58a2に分割して毛細管エリア56a,56cに担持させたが、試薬を分割して担持せずに下記のようにγ―シクロデキストリンを添加した試薬を担持させて構成することもできる。
【0076】
コレステロールエステラーゼ(旭化成ファーマ社製) 250U/mL
コレステロールデヒドロゲナーゼ(天野エンザイム社製) 350U/mL
ジアホラーゼ(東洋紡社製) 325U/mL
リン酸緩衝液(pH7.2) 200mM
NAD(オリエンタル酵母社製) 20mM
WST8(同仁化学社製) 25mM
γ―シクロデキストリン 25mM
なお、この場合も添加物がγ―シクロデキストリンだけでなく、実施の形態1において有効とされたものを使用できる。また、この場合の分析用デバイスの製造に際しても、実施の形態1と同じように、毛細管エリア56a,56cに上記の液状の試薬を塗布し、これを乾燥させて担持させることができる。
【0077】
上記の各実施の形態における塗布には、滴下、刷毛塗り、インクジェット方式による液滴の付着などを含んでいる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、生物などから採取した液体の成分分析に使用する分析用デバイスの小型化ならびに高性能化に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】コレステロールの測定原理の説明図
【図2】参照試薬と参照試薬に各種の添加物を入れた試薬の実験結果の説明図
【図3】参照試薬にγ−シクロデキストリンを各濃度添加して行った実験結果の説明図
【図4】同実施の形態の分析装置の構成図
【図5】同実施の形態の分析用デバイスに点着し分析装置にセットして回転させる前の状態図
【図6】同実施の形態の分析用デバイスの毛細管エリアにおける試薬の担持状態を示す拡大平面図
【図7】同分析用デバイスによるTCの測定値の直線性の説明図
【符号の説明】
【0080】
1 分析用デバイス
2 保護キャップ
3 ベース基板
4 カバー基板
5 希釈液容器
13 注入口
19 毛細管キャビティ
23a 受容キャビティ
23b,23c 分離キャビティ
26 排出流路
27 保持キャビティ
30 連結流路
31 大気開放キャビティ
33 毛細管キャビティ
37 毛細管流路
38 計量流路
39 混合キャビティ
41 連結流路
47a,47b,47c 計量流路
52a〜52c 測定チャンバー
53 保持キャビティ
56a〜56c 毛細管エリア
57a1,57a2,57c1,57c2 試薬担持部
58a1,58a2,58c1,58c2 試薬

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物学的試料のコレステロールを定量する分析に使用されるコレステロール測定試薬であって、
前記コレステロールと反応する試薬に環状糖化合物が添加されている
分析用試薬。
【請求項2】
前記環状糖化合物はシクロデキストリンである
請求項1に記載の分析用試薬。
【請求項3】
前記シクロデキストリンは、
ヒドロキシメチル−β−シクロデキストリン、または
6−O−a−D−グルコシル−β−シクロデキストリン、または
メチル−β−シクロデキストリン、または
2,3,6−トリ−O−メチル−β−シクロデキストリン、または
γ−シクロデキストリン、
のうち何れかまたは少なくとも一つ以上を含む
請求項2に記載の分析用試薬。
【請求項4】
前記コレステロールと反応する試薬は、
コレステロールエステラーゼ、コレステロールデヒドロゲナーゼ、ジアホラーゼ、
ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド、テトラゾリウム化合物で構成されている
請求項3に記載の分析用試薬。
【請求項5】
試料液を遠心力によって測定チャンバーに向かって移送するマイクロチャネル構造の流路を有し、前記測定チャンバーにおける反応液にアクセスする読み取りに使用される分析用デバイスであって、
分析対象のコレステロールと反応する試薬に環状糖化合物を添加した分析用試薬がマイクロチャネル構造の前記流路に担持されている
分析用デバイス。
【請求項6】
試料液を遠心力によって測定チャンバーに向かって移送するマイクロチャネル構造の流路を有し、前記測定チャンバーにおける反応液にアクセスする読み取りに使用される分析用デバイスを製造するに際し、
分析対象のコレステロールと反応する試薬に環状糖化合物を添加した液体状態の分析用試薬をマイクロチャネル構造の前記流路に塗布して乾燥させて担持させる分析用デバイスの製造方法。
【請求項7】
試料液を遠心力によって測定チャンバーに向かって移送するマイクロチャネル構造の流路を有し、前記測定チャンバーにおける反応液にアクセスする読み取りに使用される分析用デバイスを使用した分析方法であって、
分析対象のコレステロールと反応する試薬に環状糖化合物を添加した分析用試薬がマイクロチャネル構造の前記流路に担持されている分析用デバイスを使用し、
前記流路に取り込んだ試料液を前記分析用試薬と反応させ、この反応液に前記測定チャンバーでアクセスして定量分析する
分析方法。
【請求項8】
試料液を遠心力によって測定チャンバーに向かって移送するマイクロチャネル構造の流路を有し、前記測定チャンバーにおける反応液にアクセスする読み取りに使用される分析用デバイスであって、
分析対象のコレステロールと反応する試薬を複数の成分に分割してマイクロチャネル構造の前記流路に担持させるとともに、少なくとも何れかに環状糖化合物を添加した分析用試薬が担持されている
分析用デバイス。
【請求項9】
試料液を遠心力によって測定チャンバーに向かって移送するマイクロチャネル構造の流路を有し、前記測定チャンバーにおける反応液にアクセスする読み取りに使用される分析用デバイスを製造するに際し、
分析対象のコレステロールと反応する試薬を複数の成分に分割して少なくとも前記成分の何れかに環状糖化合物を添加した液体を塗布して乾燥させて担持させる
分析用デバイスの製造方法。
【請求項10】
試料液を遠心力によって測定チャンバーに向かって移送するマイクロチャネル構造の流路を有し、前記測定チャンバーにおける反応液にアクセスする読み取りに使用される分析用デバイスを使用した分析方法であって、
分析対象のコレステロールと反応する試薬を複数の成分に分割して少なくとも前記成分の何れかに環状糖化合物を添加してマイクロチャネル構造の前記流路に担持した分析用デバイスを使用し、
前記流路に取り込んだ試料液を前記分析用試薬と反応させ、この反応液に前記測定チャンバーでアクセスして定量分析する
分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−109947(P2011−109947A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−268174(P2009−268174)
【出願日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】