説明

分波器

【課題】小型化が可能で、かつ信号用パッド間のアイソレーション特性を改善することが可能な分波器の提供。
【解決手段】絶縁層14と、絶縁層14の上面に設けられた上部配線層12と、下面に設けられた下部配線層30と、内部に設けられた内部配線層22と、からなる基板2と、基板2の上面に実装された少なくとも一つの弾性波フィルタチップと、上部配線層12に設けられ、弾性波フィルタチップの信号用電極と接続された複数の信号用パッドと、複数の信号用パッドの間に位置するように上部配線層12に設けられ、弾性波フィルタチップのグランド電極と接続された上部グランドパッドと、を具備し、信号用パッドと上部グランドパッドとの最短距離をD1、信号用パッドと内部配線層22の内部グランドパッド20との最短距離をD2、上部配線層12と内部配線層22との間の絶縁層14の厚さをT1としたとき、D1>D2かつD1>T1である分波器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は弾性波を用いた分波器に関し、特に複数の配線層を有する基板を用いた分波器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の情報化社会の発達に伴い、携帯電話や携帯情報端末等の移動体通信機器が普及している。携帯電話においては、800MHz〜1.0GHz帯、及び1.5〜2.0GHz帯といった高周波帯域が使用されている。これに対応するため、弾性表面波フィルタ(SAWフィルタ)や圧電薄膜共振器(FBAR)等の弾性波を利用した分波器が用いられている。また、境界弾性波フィルタを用いた分波器も検討されている。
【0003】
携帯電話ではマルチバンド・マルチモード化が進展していることに加え、無線LAN、GPSといった付属の無線インターフェースの搭載も行われている。こうした状況の中、分波器への小型化、高性能化の要求が強くなっている。特に、分波器の小型化と、パッド間のアイソレーション特性との両立が求められている。
【0004】
特許文献1には、複数の弾性表面波フィルタパターンの間にシールド電極を設け、互いのアイソレーション特性を向上させる技術が開示されている。特許文献2には、複数のフィルタ素子を実装するデバイスにおいて、入力外部端子と出力外部端子とを、デバイスの形状に対して対角線を結ぶように配置し、信号の干渉を防止する技術が開示されている。
【0005】
図1(a)及び図1(b)は分波器を示すブロック図である。図1(a)に示すように、送信用弾性波フィルタ3が送信用ノード7(Tx)に接続され、受信用弾性波フィルタ5が受信ノード9(Rx)に接続されている。送信用弾性波フィルタ3及び受信用弾性波フィルタ5の各々は、整合回路13を介してアンテナ11(Ant)に接続されている。また、図1(b)に示すように、受信用弾性波フィルタ5が整合回路13を介してアンテナ11に接続されている構成であってもよいし、図示は省略するが、送信用弾性波フィルタ3が整合回路13を介してアンテナ11に接続されている構成であってもよい。すなわち、送信用弾性波フィルタ3及び受信用弾性波フィルタ5の少なくともどちらか一方は、整合回路13を介してアンテナ11に接続される。
【0006】
送信用弾性波フィルタ3と受信用弾性波フィルタ5とは、互いに異なる通過帯域を有している。整合回路13により、送信帯域においては受信用弾性波フィルタ5がアンテナ11よりも高インピーダンスになり、また受信帯域においては送信用弾性波フィルタ3がアンテナ11よりも高インピーダンスになる。従って、受信側への送信信号の入力、及び送信側への受信信号の入力が抑制される。
【0007】
従来例として、従来技術に係る分波器について図面を用いて説明する。
【0008】
図2は従来例に係る分波器100を示す上面図である。送信用弾性波フィルタチップ32と受信用弾性波フィルタチップ34とは、外形のみを実線で示し、内部は透視して図示した。図3は、送信用弾性波フィルタチップ32、絶縁層14、受信用弾性波フィルタチップ34、上部配線層12及び内部配線層22を透視し、下部配線層30を示した上面図である。図4は図2のA−Aに沿った断面図である。
【0009】
図2及び図4に示すように、基板2は、例えばアルミナセラミック等の絶縁体からなる絶縁層14と、絶縁層14の上面に設けられた上部配線層12と、下面に設けられた下部配線層30と、内部に設けられた内部配線層22とからなる。上部配線層12、下部配線層30、及び内部配線層22は例えばW、Al等の金属からなる。上部配線層12の厚さは例えば10〜15μm、内部配線層22の厚さは例えば7〜10μmである。基板2の縦の長さL1は例えば2.5mm、横の長さL2は例えば2.0mmである。上部配線層12には送信用パッド4と受信用パッド6(共に信号用パッド)、共通端子8、上部グランドパッド10a及び10bが設けられている。上部グランドパッド10a及び10bは、送信用パッド4と受信用パッド6との間に設けられている。基板2の上面には、送信用弾性波フィルタチップ32と受信用弾性波フィルタチップ34とが、例えばAu、半田等の金属からなるバンプ36を用いて実装されている。これについては後述する。また、図2中に点線で示したのは、内部配線層22の内部グランドパッド20である。
【0010】
図3に示すように、下部配線層30には送信用パッド24、受信用パッド26、下部グランドパッド28a、28b、38、40、42及び44、共通端子46a及び46bが設けられており、これらは外部接続端子として機能する。共通端子46a及び46bはアンテナに接続される。このとき、送信用弾性波フィルタチップ32と接続される共通端子46a、及び受信用弾性波フィルタチップ34と接続される共通端子46bのうち、少なくとも一方は整合回路13を介してアンテナ11に接続される(図1(a)及び図1(b)参照)。
【0011】
図4に示すように、内部配線層22には、送信用パッド16、受信用パッド18、内部グランドパッド20、及び共通端子(不図示)が設けられている。上部配線層12と内部配線層22と下部配線層30とはビアホール15(図2では不図示)により接続されている。
【0012】
図2及び図4に示すように、上部配線層12の送信用パッド4は送信用弾性波フィルタチップ32の送信用電極(不図示)に、受信用パッド6は受信用弾性波フィルタチップ34の受信用電極(不図示)に、各々バンプ36を介して接続されている。同様に、上部グランドパッド10aは送信用弾性波フィルタチップ32のグランド電極(不図示)に、上部グランドパッド10bは受信用弾性波フィルタチップ34のグランド電極(不図示)に、各々バンプ36を介して接続されている。また、共通端子8は送信用弾性波フィルタチップ32及び受信用フィルタチップ34の共通電極(不図示)に、バンプ36を介して接続されている。
【0013】
送信用弾性波フィルタチップ32は例えばラダー型SAWフィルタであり、受信用弾性波フィルタチップ34は例えばダブルモードSAWフィルタである。送信用弾性波フィルタチップ32と受信用弾性波フィルタチップ34とでは、通過帯域が異なっている。
【0014】
図4に示すように、内部グランドパッド20の端部は、上部グランドパッド10a及び10bのほぼ真下に位置している。このとき、送信用パッド4と上部グランドパッド10aとの最短距離、及び受信用パッド6と上部グランドパッド10bとの最短距離、すなわち信号用パッドと上部グランドパッドとの最短距離をD1とする。また、送信用パッド4と内部グランドパッド20との最短距離、及び受信用パッド6と内部グランドパッド20、すなわち信号用パッドと内部グランドパッドとの最短距離をD2とすると、D2>D1である。
【特許文献1】特開2006−60747号公報
【特許文献2】特開2002−76829号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
分波器を小型化すると信号用パッド間の距離が縮まる。このことにより、信号用パッドの間において信号同士の結合が生じ、信号が漏洩するため、信号用パッド間のアイソレーション特性が悪化するという課題がある。すなわち、図2及び図4を参照すると、送信用パッド4と受信用パッド6との距離が例えば0.7〜1.0mmと小さくなることで、両パッド間で信号の漏洩が発生し、送信用パッド4と受信用パッド6とのアイソレーション特性が悪化する。
【0016】
本発明は、上記課題に鑑み、小型化が可能で、かつ信号用パッド間のアイソレーション特性を改善することが可能な分波器の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、絶縁層と、前記絶縁層の上面に設けられた上部配線層と、前記絶縁層の下面に設けられた下部配線層と、前記絶縁層の内部に設けられた内部配線層と、からなる基板と、前記基板の上面に実装された少なくとも一つの弾性波フィルタチップと、前記上部配線層に設けられ、各々が前記弾性波フィルタチップの信号用電極と接続された複数の信号用パッドと、前記複数の信号用パッドの間に位置するように前記上部配線層に設けられ、前記弾性波フィルタチップのグランド電極と接続された上部グランドパッドと、を具備し、前記信号用パッドと前記上部グランドパッドとの最短距離をD1、前記信号用パッドと前記内部配線層に設けられた内部グランドパッドとの最短距離をD2、前記上部配線層と前記内部配線層との間の前記絶縁層の厚さをT1としたとき、D1>D2かつD1>T1であることを特徴とする分波器である。本発明によれば、小型化が可能で、かつ信号用パッド間のアイソレーション特性を改善することが可能な分波器を提供することができる。
【0018】
上記構成において、前記弾性波フィルタチップは、各々が前記信号用電極と前記グランド電極とを具備する受信用弾性波フィルタチップと送信用弾性波フィルタチップであり、前記複数の信号用パッドのうち、受信用パッドは受信用弾性波フィルタチップと、送信用パッドは送信用弾性波フィルタチップと各々接続され、前記上部配線層に設けられた共通端子が前記受信用弾性波フィルタと前記送信用弾性波フィルタとに接続されている構成とすることができる。この構成によれば、小型化が可能で、かつ信号用パッド間のアイソレーション特性を改善することが可能な分波器を提供することができる。
【0019】
上記構成において、前記内部グランドパッドは、前記信号用パッドと重なる位置に設けられている構成とすることができる。この構成によれば、信号用パッド間のアイソレーション特性を、より改善することが可能となる。
【0020】
上記構成において、前記複数の信号用パッドは、少なくとも一対の平衡端子を含んでいる構成とすることができる。この構成によれば、信号用パッド間のアイソレーション特性を改善することができる。また、信号が打ち消し合うことにより、分波器の周波数特性を改善することができる。
【0021】
上記構成において、前記内部配線層と前記下部配線層との間の前記絶縁層の厚さをT2とすると、T1<T2である構成とすることができる。この構成によれば、分波器の厚さを厚くすることができるため、分波器の強度を向上させることが可能となる。
【0022】
上記構成において、前記内部配線層と前記下部配線層との間に、少なくとも一つの別の内部配線層が設けられている構成とすることができる。この構成によれば、分波器の厚さを厚くすることができるため、分波器の強度を向上させることが可能となる。
【0023】
上記構成において、前記上部配線層にインダクタンスとして機能する配線パターンが少なくとも一つ形成されている構成とすることができる。この構成によれば、インダクタを介して弾性波フィルタチップを接地することができる。
【0024】
上記構成において、前記弾性波フィルタチップは、前記基板に設けられたキャビティに実装され、前記キャビティはリッドにより封止されている構成とすることができる。この構成によれば、弾性波フィルタチップを保護することができる。
【0025】
上記構成において、前記弾性波フィルタチップは、封止材により封止されている構成とすることができる。この構成によれば、弾性波フィルタチップを保護することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、小型化が可能で、かつ信号用パッド間のアイソレーション特性を改善することが可能な分波器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
図面を用いて、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0028】
図5は実施例1に係る分波器200を示す上面図であり、図6はA−Aに沿った断面図である。図5では、送信用弾性波フィルタチップ32、受信用弾性波フィルタチップ34、ビアホール15及びバンプは省略して図示した(図10、12、14においても同様)。図6では、便宜的にT1は上部配線層12の中心と内部配線層22の中心との間における絶縁層14の厚さを図示しているが、実際には上部配線層12の下面と内部配線層22の上面との間における絶縁層14の厚さを示すものである(図4、7、8、9、13、16、19、20においても同様)。既述した構成については説明を省略する。
【0029】
図5及び図6に示すように、内部グランドパッド20が図2及び図3の場合よりも大きくなっている。このため、従来例よりも、送信用パッド4と内部グランドパッド20との最短距離、及び受信用パッド6と内部グランドパッド20との最短距離D2が小さくなっている。すなわち、信号用パッドと内部グランドパッド20との最短距離D2が小さくなっており、D1>D2となっている。これにより、信号用パッドと内部グランドパッド20との間における信号の結合、すなわち、送信用パッド4と内部グランドパッド20との間における信号の結合、及び受信用パッド6と内部グランドパッド20との間における信号の結合が、従来例の場合よりも強くなる。
【0030】
また、上部配線層12と内部配線層22との間の絶縁層14の厚さをT1、内部配線層22と下部配線層30との間の絶縁層16の厚さをT2とすると、D1>T1である。これにより、送信用パッド4と内部グランドパッド20との間における信号の結合、及び受信用パッド6と内部グランドパッド20との間における信号の結合が、さらに強くなる。
【0031】
実施例1によれば、D1>D2かつD1>T1であるため、送信用パッド4と内部グランドパッド20との間における信号の結合、及び受信用パッド6と内部グランドパッド20との間における信号の結合が、従来例の場合よりも強くなる。このため、分波器200を小型化し、送信用パッド4と受信用パッド6との距離が例えば0.7〜1.0mmと小さくなった場合でも、送信用パッド4と受信用パッド6との間における信号の漏洩を減少することができる。従って、分波器の小型化が可能で、かつ信号用パッド間のアイソレーション特性を改善することが可能となる。
【0032】
実施例1ではT1=T2としたが、T1とT2とは異なっていてもよい。実施例1の変形例として、T1とT2とが異なる例について説明する。図7は、実施例1の変形例に係る分波器210を示す断面図である。
【0033】
図7に示すように、D1>D2かつD1>T1であるため、図6の例と同様に、信号用パッド間のアイソレーション特性を改善することが可能となる。また、T1がT2よりも薄くなっている。従って、T2を厚くすることで、分波器210の厚さを厚くすることができる。これにより、分波器210の強度を向上させることが可能となる。
【実施例2】
【0034】
実施例2は、基板2の内部に別の内部配線層が設けられている例である。図8は実施例2に係る分波器300を示す断面図である。
【0035】
図8に示すように、基板2の内部配線層22と下部配線層30との間に、別の内部配線層54が設けられている。内部配線層54には、送信用パッド48と受信用パッド50と内部グランドパッド52とが設けられている。内部配線層54の厚さは例えば7〜10μmである。上部配線層12、内部配線層22及び54、並びに下部配線層30は、ビアホール15により接続されている。内部配線層54と下部配線層30との間の絶縁層14の厚さをT3とすると、T1=T2=T3である。また、D1>D2、かつD1>T1であることは実施例1と同様である。図8では、便宜的にT2は内部配線層22の中心と内部配線層54の中心との間における絶縁層14の厚さを図示しているが、実際には内部配線層22の下面と内部配線層54の上面との間における絶縁層14の厚さを示すものである(図9、13においても同様)。
【0036】
実施例2によれば、複数の内部配線層を設けることで分波器300の厚さを厚くすることができる。従って、分波器300の強度を向上させることが可能となる。また、実施例1と同様に、D1>D2、かつD1>T1とすることにより、信号用パッド間のアイソレーション特性を改善することができる。
【0037】
実施例2の変形例として、T1=T2=T3ではない例について説明する。図9は、実施例2の変形例に係る分波器310を示す断面図である。
【0038】
図9に示すように、T1=T2であり、かつT3はT1及びT2よりも厚い。従って、分波器310の厚さを厚くすることができ、分波器310の強度を向上させることが可能となる。T3のみが異なる厚さとしたが、T1、T2及びT3の少なくとも一つが他と異なる厚さであればよい。
【0039】
実施例2においては、内部配線層22と内部配線層54とは同一形状としたが、異なる形状でもよい。また、内部配線層22と下部配線層30との間に一つの内部配線層54を設けた例を示したが、一つ以上の内部配線層が設けられていてもよい。
【実施例3】
【0040】
実施例3は、上部配線層12にインダクタンスとして機能する配線パターンが形成されている例である。図10は実施例3に係る分波器400を示す上面図であり、図11は分波器400の送信用弾性波フィルタチップ32を示す回路図である。
【0041】
図10に示すように、基板2の上面に設けられた上部配線層12の、送信用弾性波フィルタチップ32が接続される上部グランドパッド10c及び10dに、インダクタとして機能する配線パターンL1及びL2が、各々設けられている。配線パターンL1及びL2には、各々ビアホール15が設けられている。送信用弾性波フィルタチップ32は、上部グランドパッド10c及び10dとバンプ36を介して接続され、さらにビアホール15を介して、下部グランドパッド28aと接続される(図2参照)。すなわち、送信用弾性波フィルタチップ32は、配線パターンL1及びL2を介して接地されることとなる。なお、図10では、送信用パッド4、受信用パッド6、共通端子8及び上部グランドパッド10bに接続されるバンプ36は省略した。
【0042】
図11に示すように、送信用弾性波フィルタチップ32は、例えば複数の弾性波共振子33を有するラダー型SAWフィルタチップである。送信用パッド4と送信用弾性波フィルタチップ32の送信用電極32aとはバンプ(不図示)を介して接続されている。同様に、共通端子8と共通電極32b、上部グランドパッド10cとグランド用電極32c、上部グランドパッド10dとグランド用電極32dとが、各々接続されている。複数の弾性波共振子34のうち、S1、S2、S3及びS4が直列に接続されており、P1、P2及びP3が並列に接続されている。並列共振子P1及びP2と上部グランドパッド10cとの間には、インダクタL1(図10の配線パターンL1に対応)が挿入される。また、並列共振子P3と上部グランドパッド310dとの間には、インダクタL2(配線パターンL2に対応)が挿入される。すなわち、実施例3によれば、送信用弾性波フィルタチップ32は、インダクタL1及びL2を介して接地される。
【0043】
インダクタとして機能する配線パターンは、受信用弾性波フィルタチップ34と接続されていてもよい。また、その数は二つに限定されず、実装される弾性波フィルタチップの構成により変更することができる。
【実施例4】
【0044】
実施例4は、信号用パッドが平衡端子を含んでいる例である。図12は実施例4に係る分波器500を示す上面図であり、図13はA−Aに沿った断面図である。
【0045】
図12及び図13に示すように、上部配線層12の受信用パッド6a及び6bが平衡端子を形成している。図13に示すように、上部配線層12の受信用パッド6aと、内部配線層22の受信用パッド18aと、内部配線層54の受信用パッド50aと、下部配線層30の受信用パッド26aとはビアホール15により接続されている。同様に、受信用パッド6bと、受信用パッド18bと、受信用パッド50bと、受信用パッド26bとはビアホール15により接続されている。
【0046】
図12に示すように、送信用パッド4と受信用パッド6a及び6bとは直線上に並んでおり、上部グランドパッド10cは送信用パッド4と受信用パッド6aとの間に位置している。
【0047】
図12及び図13に示すように、D1>T1である。また、内部グランドパッド20が送信用パッド4の下に位置している。すなわち、分波器500においては、D1>D2かつD1>T1となっている。
【0048】
実施例4によれば、D1>D2、かつD1>T1とすることにより、送信用パッド4と内部グランドパッド20との間における信号の結合を強くすることができる。従って、送信用パッド4と受信用パッド6aとの間における信号の漏洩、及び送信用パッド4と受信用パッド6bとの間における信号の漏洩を低減することができる。また、内部グランドパッド20が送信用パッド4と重なる位置に設けられているため、D2は実施例1の場合よりもさらに短くなる。このため、送信用パッド4と内部グランドパッド20との間における信号の結合をさらに強くすることができ、信号用パッド間のアイソレーション特性をより改善することができる。これにより、下部配線層30の受信用パッド26aと受信用パッド26bとから、互いに位相が反転した信号を出力することができ、分波器の周波数特性を改善することが可能となる。
【0049】
実施例4に係る分波器500の受信信号の周波数特性を測定した実験について説明する。本実験は、実施例4に係る分波器500と、従来例において受信パッドを平衡端子とした分波器510(これを比較例とする)とで、周波数特性を測定し、比較したものである。
【0050】
実施例4に係る分波器500の構成は、図12及び図13において説明した通りである。図14は比較例に係る分波器510を示す上面図であり、図15はA−Aに沿った断面図である。
【0051】
分波器500及び510において、基板2はアルミナセラミックからなり、その比誘電率は9.8である。分波器の縦の長さL1は2.0mm、横の長さL2は1.6mmである(図12及び図14参照)。送信用弾性波フィルタチップ32はラダー型SAWフィルタ、受信用弾性波フィルタチップ34はダブルモードSAWフィルタである。両者の通過帯域は異なっており、送信用弾性波フィルタチップ32の通過帯域(送信帯域)は、受信用弾性波フィルタチップ34の通過帯域(受信帯域)よりも低周波側にある。
【0052】
図12及び図13に示すように、実施例5に係る分波器500においては、送信用パッド4と上部グランドパッド10bとの最短距離D1は100μm、送信用パッド4と内部グランドパッド20との最短距離D2は50μm、送信用パッド4と内部グランドパッド20とが重なっている長さD3は205μm、内部グランドパッド20と受信用パッド18aとの最短距離D4は110μm、送信用パッド4と受信用パッド6aとの最短距離D6は330μmである。また、上部配線層12と内部配線層22との間の絶縁層4の厚さT1は50μm、内部配線層22と内部配線層54との間の絶縁層4の厚さT2は50μm、内部配線層54と下部配線層30との間の絶縁層4の厚さT3は89μmである。
【0053】
図14及び図15に示すように、比較例に係る分波器510においては、上部配線層12の受信用パッド6a及び6bが平衡端子として機能する。また、図15に示すように、受信用パッド6aと、受信用パッド18aと、受信用パッド26aとはビアホール15により接続されている。同様に、受信用パッド6bと、受信用パッド18bと、受信用パッド50bと、受信用パッド26bとはビアホール15により接続されている。
【0054】
分波器510においては、D1=100μm、D2=107μm、D4=110μm、D6=330μm、T1=89μm、T2=89μmである。また、内部グランドパッド20を基板2の上面に投影した投影図と、送信用パッド4との最短距離D5は60μmである。
【0055】
図16は、比較例において受信用パッド26a及び受信用パッド26bをアンバランス駆動させたときの、各々のアイソレーション特性の測定結果を示す図である。横軸は周波数、縦軸は減衰量を各々表す。図中の実線は、送信用パッド24と受信用パッド26aとの間のアイソレーション特性、点線は送信用パッド24と受信用パッド26bとの間のアイソレーション特性を表す。
【0056】
図16に示すように、受信用パッド26aの減衰量が受信用パッド26bの減衰量よりも小さくなった。減衰量の差は送信帯域のある低周波側において顕著であった。
【0057】
比較例においては、D2>D1であるため、送信用パッドと受信用パッドとの間で信号の漏洩が発生し、アイソレーション特性が悪化する。また、送信用パッド4と受信用パッド6aとの距離は、送信用パッド4と受信用パッド6bとの距離よりも近い。このため、送信用パッド4と受信用パッド6aとの間の信号の結合が、送信用パッド4と受信用パッド6bとの間の信号の結合より強くなる。すなわち、送信用パッド4から受信用パッド6aへと漏洩する信号が、送信用パッド4から受信用パッド6bへと漏洩する信号よりも強くなる。結果的に、受信用パッド6aと受信用パッド6bとでは、特に低周波側において、減衰量に大きな差が発生した。
【0058】
図17は、実施例4において受信用パッド26a及び受信用パッド26bをアンバランス駆動させたときの、各々のアイソレーション特性の測定結果を示す図である。図中の実線は、送信用パッド24と受信用パッド26aとの間のアイソレーション特性、点線は送信用パッド24と受信用パッド26bとの間のアイソレーション特性を表す。
【0059】
図17に示すように、図16に示した比較例に比べて、送信帯域における受信用パッド26aの減衰量が大きくなり、受信用パッド26aと受信用パッド26bとでは減衰量の差が小さくなった。
【0060】
図18は、比較例と実施例4とにおいて、受信用パッド26a及び受信用パッド26bをバランス駆動させたときの、分波器の周波数特性の測定結果を示す図である。図中の点線は比較例の周波数特性を表し、実線は実施例4の周波数特性を表す。
【0061】
図18に示すように、実施例4によれば比較例の場合よりも、820MHzから850MHzの帯域で約3dB、880MHz付近では約2dB、減衰量が大きくなった。
【0062】
比較例によれば、既述したように、送信用パッド4から受信用パッド6aへと漏洩する信号が、送信用パッド4から受信用パッド6bへと漏洩する信号よりも強くなり、減衰量に差が発生した。このため、図18に示すように、受信用パッドをバランス駆動させた場合でも信号が打ち消し合わず、分波器の周波数特性が悪化した。
【0063】
これに対し、実施例4によれば、既述したように、D1>D2、かつD1>T1であるため、送信用パッド4と内部グランドパッド20との間における信号の結合を強くすることができる。すなわち、送信用パッド4と受信用パッド6aとの間における信号の漏洩、及び送信用パッド4と受信用パッド6bとの間における信号の漏洩を低減することができる。従って、平衡端子を用いた場合でも、信号用パッド間のアイソレーション特性を改善することができた。その結果、図17に示すように、受信用パッド6a及び6bにおいて、漏洩信号は同程度の大きさとなった。これにより、図18に示すように、受信端子をバランス駆動させた場合、信号が打ち消し合うことで、分波器の周波数特性を改善することができた。
【実施例5】
【0064】
実施例5は、キャビティを有するパッケージを用いた例である。図19は、実施例5に係る分波器600を示す断面図である。既述したものと同様の構成については、説明を省略する。
【0065】
図19に示すように、基板62の上面にはキャビティ60が設けられている。基板62は、絶縁層14と、キャビティ60の上面に設けられた上部配線層12と、絶縁層14の下面に設けられた下部配線層30と、内部に設けられた内部配線層22とからなる。送信用弾性波フィルタチップ32と受信用弾性波フィルタチップ34とが、基板62の上面に設けられたキャビティ60の中に実装されている。キャビティ60は、例えばAu−Sn合金からなる接着部材58により固定されたリッド56により封止されている。
【0066】
実施例5によれば、キャビティ60内に弾性波フィルタチップを実装し、キャビティ60を封止することで、弾性波フィルタチップを保護することができる。同時に、実施例1と同様に、D1>D2かつD1>T1とすることにより、送信用パッド4と受信用パッド6との間におけるアイソレーション特性を改善することができる。
【実施例6】
【0067】
実施例6は、封止部材を用いた例である。図20は、実施例6に係る分波器700を示す断面図である。既述したものと同様の構成については、説明を省略する。
【0068】
図20に示すように、基板2の上面に実装された送信用弾性波フィルタチップ32と受信用弾性波フィルタチップ34とは、例えば半田からなる封止部材64とリッド56とにより封止されている。図20では、便宜的にリッド56と送信用弾性波フィルタチップ32の上面及び受信用弾性波フィルタチップ34の上面とが接触するように図示しているが、実際にはリッド56と送信用弾性波フィルタチップ32の上面及び受信用弾性波フィルタチップ34の上面との間には、微量の封止部材64が存在している。これは、封止工程において、弾性波フィルタチップの上面に設けられた封止部材64にリッド56を押し付けた後、封止部材64が残存したものである。また、送信用弾性波フィルタチップ32の高さと受信用弾性波フィルタ34の高さとが異なる場合は、高さが低い方の弾性波フィルタチップの上面に、多くの封止部材64を設けることで高さの調整を行い、リッド56を水平に設置することができる。
【0069】
実施例6によれば、弾性波フィルタチップを封止部材64とリッド56とで封止することで、弾性波フィルタチップを保護することができる。また、D1>D2かつD1>T1とすることにより、送信用パッド4と受信用パッド6との間におけるアイソレーション特性を改善することができる。
【0070】
図20においては、リッド56を用いたが、リッド56を使用せず、封止部材64により送信用弾性波フィルタチップ32と受信用弾性波フィルタチップ34との側面及び上面が封止されていてもよい。この場合、封止部材64には例えばエポキシ等の樹脂が用いられる。
【0071】
各実施例においては、送信用弾性波フィルタチップ32と受信用弾性波フィルタチップ34との二つのチップを用いているが、送信用フィルタと受信用フィルタとを備えた一つの弾性波フィルタチップを用いてもよい。すなわち、少なくとも一つの弾性波フィルタチップを用いればよい。
【0072】
また、送信用弾性波フィルタチップ32及び受信用弾性波フィルタチップ34は、ともにSAWフィルタを使用しているものとして説明したが、これに限定されず、FBARや弾性境界波フィルタを使用した場合でも、本発明は適用することができる。
【0073】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】図1(a)及び図1(b)は分波器を示すブロック図である。
【図2】図2は従来例に係る分波器100を示す上面図である。
【図3】図3は分波器100の下部配線層30を示す上面図である。
【図4】図4は従来例に係る分波器100を示す断面図である。
【図5】図5は実施例1に係る分波器200を示す上面図である。
【図6】図6は実施例1に係る分波器200を示す断面図である。
【図7】図7は実施例1の変形例に係る分波器210を示す断面図である。
【図8】図8は実施例2に係る分波器300を示す断面図である。
【図9】図9は実施例2の変形例に係る分波器310を示す断面図である。
【図10】図10は実施例3に係る分波器400を示す上面図である。
【図11】図11は分波器400の送信用弾性波フィルタチップ32を示す回路図である。
【図12】図12は実施例4に係る分波器500を示す上面図である。
【図13】図13は実施例4に係る分波器500を示す断面図である。
【図14】図14は比較例に係る分波器510を示す上面図である。
【図15】図15は比較例に係る分波器510を示す断面図である。
【図16】図16は比較例において受信用パッドをアンバランス駆動させたときのアイソレーション特性の測定結果を示す図である。
【図17】図17は実施例4において受信用パッドをアンバランス駆動させたときのアイソレーション特性の測定結果を示す図である。
【図18】図18は比較例と実施例4とにおいて、受信用パッドをバランス駆動させたときの、分波器の周波数特性の測定結果を示す図である。
【図19】図19は実施例5に係る分波器600を示す断面図である。
【図20】図20は実施例6に係る分波器700の断面図である。
【符号の説明】
【0075】
基板 2、62
送信用パッド 4、16、24、48
受信用パッド 6、6a、6b、18、26、26a、26b、50
共通端子 8、17、46a、46b
上部グランドパッド 10a、10b、10c、10d
上部配線層 12
ビアホール 15
内部グランドパッド 20、52
内部配線層 22、54
下部配線層 30
送信用弾性波フィルタチップ 32
受信用弾性波フィルタチップ 35
バンプ 36

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁層と、前記絶縁層の上面に設けられた上部配線層と、前記絶縁層の下面に設けられた下部配線層と、前記絶縁層の内部に設けられた内部配線層と、からなる基板と、
前記基板の上面に実装された少なくとも一つの弾性波フィルタチップと、
前記上部配線層に設けられ、各々が前記弾性波フィルタチップの信号用電極と接続された複数の信号用パッドと、
前記複数の信号用パッドの間に位置するように前記上部配線層に設けられ、前記弾性波フィルタチップのグランド電極と接続された上部グランドパッドと、を具備し、
前記信号用パッドと前記上部グランドパッドとの最短距離をD1、前記信号用パッドと前記内部配線層に設けられた内部グランドパッドとの最短距離をD2、前記上部配線層と前記内部配線層との間の前記絶縁層の厚さをT1としたとき、D1>D2かつD1>T1であることを特徴とする分波器。
【請求項2】
前記弾性波フィルタチップは、各々が前記信号用電極と前記グランド電極とを具備する受信用弾性波フィルタチップと送信用弾性波フィルタチップであり、
前記複数の信号用パッドのうち、受信用パッドは受信用弾性波フィルタチップと、送信用パッドは送信用弾性波フィルタチップと各々接続され、
前記上部配線層に設けられた共通端子が前記受信用弾性波フィルタと前記送信用弾性波フィルタとに接続されていることを特徴とする請求項1記載の分配波器。
【請求項3】
前記内部グランドパッドは、前記信号用パッドと重なる位置に設けられていることを特徴とする請求項1または2記載の分波器。
【請求項4】
前記複数の信号用パッドは、少なくとも一対の平衡端子を含んでいることを特徴とする請求項1から3いずれか一項記載の分波器。
【請求項5】
前記内部配線層と前記下部配線層との間の前記絶縁層の厚さをT2とすると、T1<T2であることを特徴とする請求項1から4いずれか一項記載の分波器。
【請求項6】
前記内部配線層と前記下部配線層との間に、少なくとも一つの別の内部配線層が設けられていることを特徴とする請求項1から5いずれか一項記載の分波器。
【請求項7】
前記上部配線層にインダクタンスとして機能する配線パターンが少なくとも一つ形成されていることを特徴とする請求項1から6いずれか一項記載の分波器。
【請求項8】
前記弾性波フィルタチップは、前記基板に設けられたキャビティに実装され、前記キャビティはリッドにより封止されていることを特徴とする請求項1から7いずれか一項記載の分波器。
【請求項9】
前記弾性波フィルタチップは、封止材により封止されていることを特徴とする請求項1から7いずれか一項記載の分波器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2009−296508(P2009−296508A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−150383(P2008−150383)
【出願日】平成20年6月9日(2008.6.9)
【出願人】(398067270)富士通メディアデバイス株式会社 (198)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】