説明

分解性組成物およびその使用方法

【課題】新規な組成物およびその使用方法を提供する。
【解決手段】下記一般式(I)で表される化合物(I)と、下記一般式(II)で表される化合物(II)とを含有することを特徴とする分解性組成物[式中、Rは水素原子、ハロゲン原子、アルキル基またはハロゲン化アルキル基であり、R,R,Rはそれぞれ独立して1価の有機基である。]。
[化1]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分解性組成物およびその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス、液晶デバイス等の各種電子デバイスにおける微細構造の製造には、リソグラフィー技術が多用されている。
リソグラフィー技術においては、従来、フォトレジストとよばれる感光性の有機材料が用いられている。フォトレジストとしては、放射線、たとえば真空紫外線等の短波長の光や電子線といった放射線の照射(露光)によりアルカリ現像液に対する溶解性(アルカリ溶解性)が変化するものが一般的に用いられている。かかるフォトレジストは、露光によって、構造の一部が分解したり、架橋を形成する等によってアルカリ溶解性が変化する。そのため、露光部と未露光部との間でアルカリ溶解性に差が生じ、これによってレジストパターンが形成可能となる。つまり、フォトレジストに対して選択的露光を行うと、当該フォトレジストのアルカリ溶解性が部分的に変化し、当該フォトレジストが、アルカリ溶解性の高い部分と、アルカリ溶解性の低い部分とからなるパターンを有するものとなる。そして、このフォトレジストをアルカリ現像すると、アルカリ溶解性の高い部分が溶解し、除去されることにより、レジストパターンが形成される。
フォトレジストには、露光部のアルカリ溶解性が増大するポジ型と、露光部のアルカリ溶解性が低下するネガ型とがある。
【0003】
近年、半導体素子や液晶表示素子の製造においては、リソグラフィー技術の進歩により急速にパターンの微細化が進んでいる。微細化の手法としては、露光光源の短波長化が一般であり、それに伴い、フォトレジストには、当該露光光源に対して感度(感光性)を有することが求められる。
短波長の露光光源に対して高い感度を有するフォトレジストの1つとして、露光により酸を発生する酸発生剤と、該酸の作用によりアルカリ溶解性が変化する基材成分とを含有する化学増幅型レジスト組成物が知られている。
現在、化学増幅型ポジ型レジスト組成物の基材成分としては、水酸基、カルボキシ基等のアルカリ可溶性基が、酸発生剤から発生した酸の作用により解離する酸解離性溶解抑制基で保護された樹脂(ベース樹脂)が一般的に用いられており、かかる化学増幅型ポジ型レジスト組成物においては、露光により酸発生剤から酸が発生すると、ベース樹脂の酸解離性溶解抑制基が解離してアルカリ溶解性が増大し、結果、ポジ型レジスト組成物全体のアルカリ溶解性が増大する。
現在、ベース樹脂としては、ポリヒドロキシスチレン(PHS)系樹脂、(メタ)アクリル酸エステルから誘導される構成単位を有する樹脂(アクリル系樹脂)等が一般的に用いられている(たとえば特許文献1〜2参照。)。なお、「(メタ)アクリル酸エステル」とは、α位に水素原子が結合したアクリル酸エステルと、α位にメチル基が結合したメタクリル酸エステルの一方あるいは両方を意味する。「(メタ)アクリレート」とは、α位に水素原子が結合したアクリレートと、α位にメチル基が結合したメタクリレートの一方あるいは両方を意味する。
酸発生剤としては、スルホニウム塩系酸発生剤、ヨ−ドニウム塩系酸発生剤等のオニウム塩系酸発生剤や、オキシムスルホネ−ト系酸発生剤、イミドスルホネ−ト系酸発生剤など様々な提案がなされている。これらの中で、オニウム塩系酸発生剤、特にスルホニウム塩系酸発生剤は、感度等に優れることから、現在、最も一般的に用いられている。
【0004】
これまで、レジストの感度向上のために様々な提案がなされている。たとえば非特許文献1には、化学増幅型レジスト組成物の感度を向上させるために、(スルホニルオキシ)メチル基を有するアセト酢酸エステルを用いる方法が提案されている。該方法によれば、化学増幅型レジスト組成物中で、酸が加速度的に増殖し、感度を向上させることが示されている。すなわち、アセト酢酸エステルが、化学増幅型レジスト組成物中で、スルホニウム塩系酸発生剤から発生する酸(スルホン酸)の作用により分解し、スルホン酸を生じる。たとえばtert−ブチル 2−メチル−2−((p−トルエンスルホニルオキシ)メチル)アセトアセテートからはp−トルエンスルホン酸が生成する。そして、このアセト酢酸エステルから生成したスルホン酸は、酸発生剤からの酸と同様、ベース樹脂の酸解離性溶解抑制基を解離させる。また、このアセト酢酸エステルは、該アセト酢酸エステルから生成したスルホン酸によって分解し、酸が増殖されることが示されている。
【0005】
近年、上述したフォトレジストを用いるリソグラフィー技術に加えて、放射線の代わりに熱を利用する熱リソグラフィー技術など、様々な技術が検討されるようになっている(たとえば非特許文献2〜3参照。)。
【特許文献1】特許第2881969号公報
【特許文献2】特開2003−241385号公報
【非特許文献1】J.Am.Chem.Soc.1998年,第120巻,第37−45頁
【非特許文献2】Jpn. J.Appl.Phys.Vol.43,No.8B(2004)pp.L1045−L1047
【非特許文献3】Jpn. J.Appl.Phys.Vol.41,No.9A/B(2002)pp.L1022−L1024
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような新たな技術においては、それらの技術に利用できる新規な材料の開発が重要となる。たとえば熱リソグラフィー法においては、熱の作用によりその性質(アルカリ溶解性等)が変化する材料が必要とされると考えられる。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、新規な分解性組成物およびその使用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
すなわち、本発明の第一の態様は、下記一般式(I)で表される化合物(I)と、下記一般式(II)で表される化合物(II)とを含有することを特徴とする分解性組成物である。
【0008】
【化1】

[式中、Rは水素原子、ハロゲン原子、アルキル基またはハロゲン化アルキル基であり、R,R,Rはそれぞれ独立して1価の有機基である。]
【0009】
本発明の第二の態様は、支持体上に、前記第一の態様の分解性組成物を用いて膜を形成する工程と、前記膜中の前記化合物(I)と前記化合物(II)とを反応させ、前記化合物(I)から下記一般式(III)で表される化合物(III)を生成させる工程と、前記化合物(III)により前記化合物(I)を分解する工程とを有することを特徴とする前記第一の態様の分解性組成物の使用方法である。
【0010】
【化2】

[式中、Rは前記一般式(I)中のRと同じである。]
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、新規な分解性組成物およびその使用方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
≪分解性組成物≫
本発明の分解性組成物は、上記一般式(I)で表される化合物(I)と、上記一般式(II)で表される化合物(II)とを含有する。
かかる分解性組成物においては、他の成分を含有するしないにかかわらず、化合物(I)の分解が進行する。
すなわち、化合物(I)は、カルボン酸(R−COOH)のエステルであり、R−COOHのカルボキシ基の水素原子が−CH(R)−ORで置換された構造の化合物である。化合物(I)は、その構造中に、−CO−O−CH(R)−O−を有することによって、カルボン酸(化合物(II))という比較的酸の強度が弱い酸の作用によっても分解可能となっており、1分子の化合物(I)が分解すると、少なくとも下記一般式(III)で表される化合物(III)を含む2分子以上の分解物が生成する。すなわち、化合物(I)においては、化合物(II)が作用すると、少なくとも、Rに隣接するカルボニル基の炭素原子に結合した酸素原子と、該酸素原子に結合した炭素原子(Rが結合した炭素原子)との間の結合が切断されて化合物(III)が生成する。
【0013】
【化3】

[式中、Rは前記一般式(I)中のRと同じである。]
【0014】
この化合物(III)は、化合物(II)と同様、化合物(I)を分解させる作用を有するものであり、かかる化合物(III)が生成することにより、化合物(I)の分解効率が向上する。
すなわち、分解性組成物中においては、最初に、化合物(II)による化合物(I)の分解が始まると、化合物(III)が生成し、該化合物(III)は、化合物(II)と同様、化合物(I)を分解させる。化合物(I)の分解が進み、化合物(I)の含有量が減少するにつれて、分解性組成物中のカルボン酸(化合物(II)および化合物(III))の量が増大していくことになり、結果、化合物(I)の分解効率が向上する。
また、このとき、分解により化合物(I)の分子量が小さくなると同時にR−COOH等が分解物として生じるため、分解性組成物の性質が変化する(アルカリ溶解性の増大、疎水性の低下等)。したがって、たとえば後述する本発明の分解性組成物の使用方法に示すように、当該分解性組成物を用いて膜を形成し、膜の一部または全部を加熱する等によって化合物(I)と化合物(II)とを反応させ、化合物(I)を分解することにより、当該膜の性質を変化させることができる。
【0015】
<化合物(I)>
化合物(I)は、上記一般式(I)で表される化合物である。
式(I)中、Rは水素原子、ハロゲン原子、アルキル基またはハロゲン化アルキル基である。
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、特にフッ素原子が好ましい。
のアルキル基としては、特に制限はなく、例えば炭素数1〜10の直鎖状、分岐状または環状のアルキル基等が挙げられる。アルキル基としては、1〜5の直鎖状または分岐状の低級アルキル基または炭素数5〜6の環状アルキル基が好ましい。直鎖状または分岐状の低級アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基等が挙げられる。環状アルキル基としては、シクロヘキシル基、シクロペンチル基等が挙げられる。
ハロゲン化アルキル基としては、上記で挙げたアルキル基の水素原子の一部または全部がハロゲン原子で置換されたアルキル基が挙げられる。
としては、特に、水素原子が好ましい。
【0016】
,Rはそれぞれ独立して1価の有機基を表し、R,Rの有機基はそれぞれ同じであっても異なっていてもよい。
ここで、「有機基」とは、炭素原子を含有する基である。
有機基は、基本的に、炭素および水素を主たる構成元素として含有する基が好ましく、たとえば炭化水素基;炭化水素基の水素原子の一部または全部が置換基で置換された基;炭化水素基の炭素原子の一部が、炭素原子および水素原子以外の他の原子または基で置換された基等が挙げられる。
炭化水素基は、鎖状の炭化水素基であってもよく、環状の炭化水素基であってもよく、また、鎖状の炭化水素基と環状の炭化水素基とからなる基であってもよい。
置換基としては、炭素原子および水素原子以外の他の原子または基であれば特に限定されず、たとえばハロゲン原子、酸素原子(=O)、カルボキシ基、水酸基、シアノ基等が挙げられる。
炭化水素基の炭素原子の一部が置換されていてもよい他の原子または基としては、たとえば酸素原子(−O−)等が挙げられる。
【0017】
の有機基として、より具体的には、1つ以上のカルボキシ基および/またはカルボン酸エステル基(カルボキシ基の水素原子が有機基で置換された基)を有する化合物から、1つのカルボキシ基またはカルボン酸エステル基を除いた基が挙げられる。
かかる化合物としては、大きく分けて、下記の2種の化合物が挙げられる。
(1)カルボキシ基および/またはカルボン酸エステル基を有する重合体。
(2)カルボキシ基および/またはカルボン酸エステル基を有する非重合体。
ここで、「重合体」とは、少なくとも1種類のモノマーを2分子以上重合させて得られる化合物(樹脂)であり、複数の繰り返し単位(構成単位)から構成される。また、「非重合体」とは重合体ではないことを意味する。
【0018】
上記(1)の重合体としては、たとえば、化学増幅型レジスト組成物のベース樹脂として提案されているもののうち、カルボキシ基および/またはカルボン酸エステル基を有する任意の樹脂が使用でき、たとえば(メタ)アクリル酸エステルから誘導される構成単位を有するアクリル系樹脂等が挙げられる。
上記(2)の非重合体としては、たとえば、一般的に有機酸として知られるもののうち、カルボキシ基を有するものが挙げられ、たとえばカルボン酸、ヒドロキシ酸およびこれらの酸のエステル等が挙げられる。
これらのうち、本発明においては、Rの有機基が、上記(2)の非重合体から1つのカルボキシ基またはカルボン酸エステル基を除いた基であることが好ましく、特に環式基を有する基が好ましい。環式基を有する基としては、後述する一般式(I−1)のR,Rの環式基を有する基として挙げる基と同様のものが挙げられる。
【0019】
の有機基としては、大きく分けて、下記の2種の基が挙げられる。
(1’)1個以上の−CO−O−CH(−R)−O−という構造(以下、アセタール構造ということがある。)を有する基[前記Rは、前記Rと同様、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基またはハロゲン化アルキル基である。]。
(2’)アセタール構造を有さない基。
化合物(I)は、アセタール構造のカルボキシ基の炭素原子にRが結合した構造を有しており、かかる化合物(I)の分解においては、上述したように、少なくとも、Rに隣接するカルボニル基の炭素原子に結合した酸素原子と、該酸素原子に結合した炭素原子(Rが結合した炭素原子)との間の結合が切断される。
したがって、Rの有機基が(1’)の基を有する場合(化合物(I)が複数のアセタール構造を有する場合)、(1’)の基におけるアセタール構造においても、Rが結合したアセタール構造と同様の結合の切断が生じるため、分解性組成物中において、化合物(I)は、少なくとも、{化合物(I)に含まれる全アセタール構造の数+1}個に分解する。
(1’)の基としては、たとえば下記一般式(IV)で表される基が挙げられる。
【0020】
【化4】

【0021】
式(IV)中、dは1〜3の整数であり、1または2が好ましく、1が最も好ましい。
31は(d+1)価の有機基であり、R32は水素原子、ハロゲン原子、アルキル基またはハロゲン化アルキル基であり、R33は1価の有機基である。
31としては、後述する一般式(I−1)のRの(d+1)価の有機基として挙げる基と同様のものが挙げられる。
32としては、上述したRと同様のものが挙げられる。
33としては、上述したRの有機基として挙げた基と同様のものが挙げられる。
【0022】
上記(2’)の基としては、たとえば低級アルキル基、脂肪族環式基等が挙げられる。
低級アルキル基は、炭素数1〜5のアルキル基であり、直鎖、分岐鎖、環状のいずれであってもよい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基等が挙げられる。
本明細書および特許請求の範囲において、「脂肪族」とは、芳香族に対する相対的な概念であって、芳香族性を持たない基、化合物等を意味するものと定義する。
「脂肪族環式基」は、芳香族性を持たない単環式基(脂肪族単環式基)または多環式基(脂肪族多環式基)であることを示す。
脂肪族環式基は、飽和又は不飽和のいずれでもよいが、飽和であることが好ましい。
脂肪族環式基としては、例えば、炭素数5〜8の単環式基、炭素数6〜16の多環式基が挙げられる。炭素数5〜8の脂肪族単環式基としては、モノシクロアルカンから1個以上の水素原子を除いた基が例示でき、具体的には、シクロペンタン、シクロヘキサンなどから1個以上の水素原子を除いた基などが挙げられる。炭素数6〜16の脂肪族多環式基としては、ビシクロアルカン、トリシクロアルカン、テトラシクロアルカンなどから1個以上の水素原子を除いた基などを例示でき、具体的には、アダマンタン、ノルボルナン、イソボルナン、トリシクロデカン、テトラシクロドデカンなどのポリシクロアルカンから1個以上の水素原子を除いた基などが挙げられる。これらの中でも、脂肪族多環式基が好ましく、工業上、アダマンチル基、ノルボルニル基、テトラシクロドデカニル基が好ましく、特にアダマンチル基が好ましい。
脂肪族環式基は、置換基を有していてもよく、有していなくてもよい。該置換基としては、炭素数1〜5の低級アルキル基、フッ素原子、フッ素原子で置換された炭素数1〜5のフッ素化低級アルキル基、酸素原子(=O)等が挙げられる。脂肪族環式基は、上記の中でも、置換基として、炭素数1〜5の低級アルキル基を有することが好ましく、メチル基を有することが特に好ましい。
脂肪族環式基は、置換基を除いた基本の環が、炭素及び水素のみで構成される炭化水素基(脂環式基)であってもよく、脂環式基の環を構成する炭素原子の一部がヘテロ原子(酸素原子、窒素原子等)で置換された複素環式基であってもよく、好ましくは脂環式基である。
(2’)の基における脂肪族環式基として、具体的には、下記化学式で示される構造のものが例示できる。
【0023】
【化5】

【0024】
式(I)中のaは1〜3の整数であり、好ましくは1又は2であり、最も好ましくは1である。aの値が上記範囲内であると、化合物(I)が、化合物(II)、化合物(III)等のカルボン酸によって分解しやすくなる。
【0025】
本発明においては、化合物(I)が、分子量500〜3000の非重合体であることが好ましい。化合物(I)の分子量は、500〜2500がより好ましく、500〜2000がさらに好ましく、500〜1600が特に好ましい。分子量が500以上であると、成膜性が良好である等の利点を有する。一方、分子量が3000以下であると、溶解コントラストが向上する。
1分子の化合物(I)は、上述したように、化合物(II)の作用により2分子以上に分解するが、化合物(I)が非重合体である場合、化合物(I)は、分解物として、分子量200以上の分解物を2分子以上生じるものであることが好ましい。該分解物の分子量の上限は、化合物(I)の分子量等によっても異なるが、1000以下であることが好ましく、900以下がより好ましい。上限値が1000以下であると、本発明の効果が良好である。生成する分解物の数としては、特に、2〜4個が好ましい。
【0026】
また、化合物(I)が非重合体である場合、化合物(I)は、スピンコート法によりアモルファス(非晶質)な膜を形成しうる材料であることが好ましい。これにより、本発明の分解性組成物を用いて膜を形成可能となり、後述する本発明の分解性組成物の使用方法に好適に使用できる。
ここで、アモルファスな膜とは、結晶化しない光学的に透明な膜を意味する。スピンコート法は、一般的に用いられている薄膜形成手法の1つであり、当該化合物がスピンコート法によりアモルファスな膜を形成しうる材料であるかどうかは、8インチシリコンウエーハ上にスピンコート法により形成した塗膜が全面透明であるか否かにより判別できる。より具体的には、例えば以下のようにして判別できる。まず、当該化合物に、一般的にレジスト溶剤に用いられている溶剤を用いて、例えば化合物(I)100質量部をプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート1570質量部の有機溶剤に溶解し、超音波洗浄器を用いて超音波処理(溶解処理)を施して溶解させ、該溶液を、ウェハ上に1500rpmにてスピンコートし、任意に乾燥ベーク(PAB,Post Applied Bake)を110℃、90秒の条件で施し、この状態で、目視にて、透明かどうかによりアモルファスな膜が形成されているかどうかを確認する。なお、透明でない曇った膜はアモルファスな膜ではない。
本発明において、化合物(I)は、上述のようにして形成されたアモルファスな膜の安定性が良好であることが好ましく、例えば上記PAB後、室温環境下で2週間放置した後でも、アモルファスな状態が維持されていることが好ましい。
【0027】
化合物(I)の好ましい具体例としては、下記一般式(I−1)で表される化合物(以下、化合物(I−1)という。)が例示できる。
【0028】
【化6】

[式中、R,Rはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、アルキル基またはハロゲン化アルキル基であり、R,Rはそれぞれ独立して環式基を有する基であり、Rは(d+1)価の有機基であり、dは1〜3の整数である。]
【0029】
化合物(I−1)は、化合物(II)の作用により、Rおよび/またはRに隣接するカルボニル基の炭素原子に結合した酸素原子と、該酸素原子に結合した炭素原子(Rおよび/またはR等が結合した炭素原子)との間の結合が切れて分解する。この分解により、分子量が小さくなると同時にR−COOH、R−COOH等のカルボン酸が分解物として生じる。
このとき、分解物としては、末端部分が分解して生じる(d+1)個のカルボン酸(1個のR−COOHおよびd個のR−COOH)と、中心部分(R等を含む部分)に由来する1個の化合物が生じると考えられる。
本発明においては、これらの分解物のうち、少なくとも2個以上の分解物の分子量が200以上であることが好ましく、特に、生成するカルボン酸の分子量がすべて200以上であることが好ましい。
【0030】
一般式(I−1)中、R,Rはそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基である。
,Rのハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基としては、前記一般式(I)中のRのハロゲン原子、アルキル基、ハロゲン化アルキル基として挙げたものと同じのものが挙げられる。
,Rとしては、特に、水素原子が好ましい。
【0031】
,Rはそれぞれ独立して環式基を有する基である。
,Rの環式基は、芳香族環式基であっても脂肪族環式基であってもよく、脂肪族環式基が好ましい。
環式基は、置換基を有していてもよいし、有していなくてもよい。置換基としては、炭素数1〜5の低級アルキル基、フッ素原子、フッ素原子で置換された炭素数1〜5のフッ素化低級アルキル基、酸素原子(=O)、水酸基等が挙げられる。
ここで、本特許請求の範囲及び明細書における「芳香族環式基」は、芳香族性を有する単環式基(芳香族単環式基)または多環式基(芳香族多環式基)であることを示す。
芳香族単環式基の具体例としては、置換基を有していてもよいし、有していなくてもよいベンゼンから1個以上の水素原子を除いた基などが挙げられる。
芳香族多環式基の具体例としては、置換基を有していてもよいし、有していなくてもよい炭素数10〜16の芳香族多環式基が挙げられる。具体的には、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ピレンなどから1個以上の水素原子を除いた基などを例示できる。具体的には、1−ナフチル基、2−ナフチル基、1−アントラセニル基、2−アントラセニル基、1−フェナントリル基、2−フェナントリル基、3−フェナントリル基、1−ピレニル基等が挙げられる。
【0032】
「脂肪族環式基」は、上述したように、芳香族性を持たない単環式基(脂肪族単環式基)または多環式基(脂肪族多環式基)であることを示す。
,Rにおいて、脂肪族環式基の、置換基を除いた基本の環の構造は、炭素および水素からなる基(炭化水素基)であることに限定はされないが、炭化水素基であることが好ましい。また、該炭化水素基は、飽和または不飽和のいずれでもよいが、通常は飽和であることが好ましい。
脂肪族単環式基の具体例としては、例えば、置換基を有していてもよいし、有していなくてもよい炭素数4〜15の脂肪族単環式基が挙げられる。具体的には、シクロペンタン、シクロヘキサン等のモノシクロアルカンから1個以上の水素原子を除いた基などが挙げられる。
脂肪族多環式基としては、たとえば、置換基を有していてもよいし、有していなくてもよいビシクロアルカン、トリシクロアルカン、テトラシクロアルカンなどのポリシクロアルカンから1個以上の水素原子を除いた基などを例示できる。具体的には、アダマンタン、ノルボルナン、イソボルナン、トリシクロデカン、テトラシクロドデカン、ペルヒドロシクロペンタフェナントレンなどのポリシクロアルカンから1個以上の水素原子を除いた基などが挙げられる。
【0033】
,Rとしては、化合物(I−1)の分解により生じる分解物のうち、RまたはRを含む分解物の分子量が200以上となる大きさを有することが好ましい。すなわち、化合物(I−1)の分解により、分解物としてR−COOHおよび/またはR−COOHが生じた際に、R−COOHおよび/またはR−COOHの分子量が200以上となる大きさを有することが好ましい。
【0034】
,Rとしては、多環式基を有する基、または少なくとも1個の単環式基を含む2個以上の環式基を有する基が好ましい。
「多環式基を有する基」における多環式基としては、芳香族多環式基であっても脂肪族多環式基であってもよい。
「多環式基を有する基」は、上述したような多環式基そのものであってもよく、また、多環式基を置換基として有する基であってもよい。
多環式基を置換基として有する基としては、直鎖または分岐のアルキル基の水素原子が多環式基で置換された基等が挙げられる。ここで、直鎖または分岐のアルキル基としては、炭素数1〜10のアルキル基が好ましく、炭素数1〜8のアルキル基がより好ましく、炭素数1〜5のアルキル基が最も好ましい。
【0035】
本発明においては、特に、R,Rが、ペルヒドロシクロペンタフェナントレン環を基本骨格とする基であることが、化合物(I)の分解性に優れることから好ましい。
ペルヒドロシクロペンタフェナントレン環は、下記式に示すように、3個の6員環および1個の5員環からなる縮合多環式炭化水素であり、胆汁酸、コレステロールなどのステロイドの基本骨格を構成するものとして知られている。
【0036】
【化7】

【0037】
ペルヒドロシクロペンタフェナントレン環は、炭素数1〜5の低級アルキル基、フッ素原子、フッ素原子で置換された炭素数1〜5のフッ素化低級アルキル基、酸素原子(=O)、水酸基等の置換基を有していてもよく、特に、工業上入手しやすい点で、メチル基および/または水酸基を有することが好ましい。
,Rにおいて、ペルヒドロシクロペンタフェナントレン環を基本骨格とする基としては、コラン酸またはコラン酸の環骨格上に水酸基、酸素原子(=O)等の置換基が結合したモノカルボン酸からカルボキシ基を除いた基が好ましく、特に、コラン酸、リトコール酸、デオキシコール酸、コール酸、α−ヒオデオキシコール酸およびデヒドロコール酸からなる群から選択される少なくとも1種のモノカルボン酸からカルボキシ基を除いた基が、それらの原料を工業的に入手しやすく好ましい。
【0038】
,Rにおける「少なくとも1個の単環式基を含む2個以上の環式基を有する基」において、単環式基としては、芳香族単環式基であっても脂肪族単環式基であってもよく、芳香族単環式基が好ましく、特に、ベンゼンから1個以上の水素原子を除いた基が好ましい。
単環式基は、置換基を有していてもよいし、有していなくてもよい。該置換基としては、炭素数6〜14のアリール基、炭素数1〜5の低級アルキル基、フッ素原子、フッ素原子で置換された炭素数1〜5のフッ素化低級アルキル基、酸素原子(=O)、水酸基等が挙げられ、特に、工業上入手しやすい点で、メチル基および/または水酸基を有することが好ましい。
少なくとも1個の単環式基を含む2個以上の環式基を有する基は、多環式基を有していても良い。多環式基としては上記と同様のものが挙げられる。
本発明において、R,Rにおける、少なくとも1個の単環式基を含む2個以上の環式基を有する基としては、芳香族単環式基を2個以上有する基が好ましく、特に芳香族単環式基を3個有する基が好ましい。
なかでも、メタンの水素原子の3つがフェニル基で置換されたトリフェニルメタン骨格を有する基が好ましい。かかる基において、フェニル基は、低級アルキル基、水酸基等の置換基を有してもよい。
【0039】
およびRは、それぞれ、同一でも異なっていてもよい。合成が容易であること等を考慮すると、RおよびRは同一であることが好ましい。
【0040】
dは1〜3の整数であり、好ましくは1または2であり、最も好ましくは1である。
なお、dが2以上の整数である場合、つまり化合物(I)が、−O−CH(R)−O−CO−Rで表される基を2以上有する場合、これらは相互に同一であってもよく、また、相互に異なっていてもよい。
【0041】
は(d+1)価の有機基である。
において、有機基としては、飽和炭化水素基が好ましい。
飽和炭化水素基としては、直鎖、分岐、環状のいずれであってもよい。ここで、環状の飽和炭化水素基には、飽和炭化水素環から水素原子を(d+1)個除いた環式基、および該環式基に直鎖または分岐のアルキレン基が結合した基等の、環構造を有する飽和炭化水素基すべてが包含される。
飽和炭化水素基は、炭素数が1〜15であることが好ましく、炭素数1〜10がより好ましく、炭素数1〜8がさらに好ましい。
飽和炭化水素基は、置換基を有していてもよく、有していなくてもよい。該置換基としては、特に制限はなく、たとえばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、炭素数1〜6の鎖状または環状のアルキル基等が挙げられる。ここで、「置換基を有する」とは、飽和炭化水素基の水素原子の一部または全部が置換基で置換されていることを意味する。
また、Rの有機基としては、上述のような飽和炭化水素基の炭素原子の一部が、酸素原子、窒素原子、硫黄原子等のヘテロ原子で置換された基も挙げられる。
【0042】
としては、特に、2価又は3価の飽和炭化水素基が好ましく、特には2価の飽和炭化水素基(アルキレン基)が好ましい。
3価の直鎖または分岐の飽和炭化水素基としては、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等から3個の水素原子を除いた基が挙げられる。
3価の環状の飽和炭化水素基としては、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、ノルボルナン、イソボルナン、アダマンタン、トリシクロデカンン、テトラシクロドデカン等の飽和炭化水素環から水素原子を3個除いた環式基、該環式基に直鎖または分岐のアルキレン基が結合した基などが挙げられる。
直鎖または分岐のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、n−ブチレン基、イソブチレン基、tert−ブチレン基、ペンチレン基、イソペンチレン基、ネオペンチレン基等が挙げられる。
環状のアルキレン基としては、シクロペンタン、シクロヘキサン、ノルボルナン、イソボルナン、アダマンタン、トリシクロデカン、テトラシクロドデカン等の飽和炭化水素環から水素原子を2個除いた環式基、該環式基に直鎖または分岐のアルキレン基が結合した基などが挙げられる。
【0043】
としては、直鎖のアルキレン基または環状のアルキレン基が好ましい。
直鎖のアルキレン基としては、炭素数1〜5のアルキレン基が好ましく、エチレン基またはプロピレン基が特に好ましい。
環状のアルキレン基としては、環式基に直鎖または分岐のアルキレン基が結合した基が好ましく、特に、下記一般式(x1)で表される基が好ましい。
【0044】
【化8】

【0045】
式(x1)中、R91,R92はそれぞれ独立に炭素数1〜5の直鎖または分岐のアルキレン基であり、該アルキレン基の炭素数は、1〜4が好ましく、1〜3がより好ましく1が最も好ましい。
式(x1)においては、特に、R92が、R91のパラ位に結合していることが好ましい。
【0046】
化合物(I−1)は、たとえば、多環式基を有するモノカルボン酸(コラン酸、リトコール酸、デオキシコール酸、コール酸、α−ヒオデオキシコール酸、デヒドロコール酸、アダマンタンモノカルボン酸、ノルボルナンモノカルボン酸、トリシクロデカンモノカルボン酸、テトラシクロデカンモノカルボン酸等)を、テトラヒドロフラン等の溶媒に溶解し、トリエチルアミン等の触媒の存在下で、下記一般式(i−1)で表されるポリクロロ化合物と反応させることにより合成できる。
【0047】
【化9】

[式中、R,R,R,dは上記と同様である。]
【0048】
<化合物(II)>
化合物(II)は、上記一般式(II)で表される化合物である。
式(II)中、Rは1価の有機基であり、該有機基としては、Rの有機基として挙げた基と同様のものが挙げられる。
の有機基としては、前記一般式(I)中のRと同じであることが好ましい。RとRとが同じであると、化合物(I)の分解性が向上する。
【0049】
本発明の分解性組成物中、化合物(I)と化合物(II)との含有量の比(質量比)は、化合物(I):化合物(II)=100:1〜100が好ましく、100:1〜30がより好ましく、100:1〜10がさらに好ましい。
化合物(I)100質量部に対する化合物(II)の割合が1質量部以上であると、化合物(I)の分解性等が向上する。化合物(I)100質量部に対する化合物(II)の割合が100質量部以下であると、溶解コントラストが良好となる。
【0050】
<任意成分>
本発明の分解性組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、化合物(I)および(II)以外の他の成分を含有してもよい。
他の成分は、たとえば、一般的にレジスト膜等の膜を形成するために用いられる材料に配合されている成分から任意に選択して用いてよい。
一般的にレジスト膜を形成するために用いられる材料(レジスト)に配合されている成分としては、たとえば、下記の成分が挙げられる。
【0051】
[放射線の照射により酸を発生する酸発生剤]
放射線の照射により酸を発生する酸発生剤としては、特に限定されず、これまで化学増幅型レジスト用の酸発生剤として提案されているものを使用することができる。このような酸発生剤としては、これまで、ヨードニウム塩やスルホニウム塩などのオニウム塩系酸発生剤、オキシムスルホネート系酸発生剤、ビスアルキルまたはビスアリールスルホニルジアゾメタン類、ポリ(ビススルホニル)ジアゾメタン類などのジアゾメタン系酸発生剤、ニトロベンジルスルホネート系酸発生剤、イミノスルホネート系酸発生剤、ジスルホン系酸発生剤など多種のものが知られている。
本発明の分解性組成物は、酸発生剤を含有することが好ましい。酸発生剤を含有すると、放射線の照射により発生した酸が、化合物(II)と同様に、化合物(I)を分解させ、化合物(I)の分解効率がさらに向上する。
【0052】
[含窒素有機化合物]
含窒素有機化合物は、環式アミン、脂肪族アミンなど、既に多種多様なものが提案されているので、公知のものから任意に用いれば良い。
ここで、脂肪族アミンとは、1つ以上の脂肪族基を有するアミンであり、該脂肪族基としては炭素数が1〜12のものが一般的である。脂肪族アミンとしては、アンモニアNHの水素原子の少なくとも1つを、炭素数12以下のアルキル基またはヒドロキシアルキル基で置換したアミン(アルキルアミンまたはアルキルアルコールアミン)が挙げられ、より具体的には、モノアルキルアミン、ジアルキルアミン、トリアルキルアミン、アルキルアルコールアミン等が挙げられる。
環式アミンとしては、たとえば、ヘテロ原子として窒素原子を含む複素環化合物が挙げられる。該複素環化合物としては、単環式のもの(脂肪族単環式アミン)であっても多環式のもの(脂肪族多環式アミン)であってもよい。
【0053】
本発明の分解性組成物には、さらに所望により、混和性のある添加剤、例えば、リンのオキソ酸(リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸等)およびその誘導体、当該分解性組成物を用いて形成される膜の性能を改良するための付加的樹脂、塗布性を向上させるための界面活性剤、溶解抑制剤、可塑剤、安定剤、着色剤、ハレーション防止剤、染料などを適宜、添加含有させることができる。
【0054】
<有機溶剤>
本発明の分解性組成物は、材料を有機溶剤(以下、(S)成分ということがある)に溶解させて用いることができる。
(S)成分としては、使用する各成分を溶解し、均一な溶液とすることができるものであればよく、特に制限はない。たとえば、従来、レジスト等の膜形成用材料の溶剤として公知のものの中から任意のものを1種または2種以上適宜選択して用いることができる。かかる溶剤としては、例えば、γ−ブチロラクトン等のラクトン類;
アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチル−n−アミルケトン、メチルイソアミルケトン、2−ヘプタノンなどのケトン類;
エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールなどの多価アルコール類;
エチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノアセテート、またはジプロピレングリコールモノアセテート等のエステル結合を有する化合物、前記多価アルコール類または前記エステル結合を有する化合物のモノメチルエーテル、モノエチルエーテル、モノプロピルエーテル、モノブチルエーテル等のモノアルキルエーテルまたはモノフェニルエーテル等のエーテル結合を有する化合物等の多価アルコール類の誘導体[これらの中では、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)が好ましい];
ジオキサンのような環式エーテル類や、乳酸メチル、乳酸エチル(EL)、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチルなどのエステル類;
アニソール、エチルベンジルエーテル、クレジルメチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、フェネトール、ブチルフェニルエーテル、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、アミルベンゼン、イソプロピルベンゼン、トルエン、キシレン、シメン、メシチレン等の芳香族系有機溶剤などを挙げることができる。
これらの有機溶剤は単独で用いてもよく、2種以上の混合溶剤として用いてもよい。
中でも、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、ELが好ましい。
また、PGMEAと極性溶剤とを混合した混合溶媒は好ましい。その配合比(質量比)は、PGMEAと極性溶剤との相溶性等を考慮して適宜決定すればよいが、好ましくは1:9〜9:1、より好ましくは2:8〜8:2の範囲内とすることが好ましい。
より具体的には、極性溶剤としてELを配合する場合は、PGMEA:ELの質量比は、好ましくは1:9〜9:1、より好ましくは2:8〜8:2である。また、極性溶剤としてPGMEを配合する場合は、PGMEA:PGMEの質量比は、好ましくは1:9〜9:1、より好ましくは2:8〜8:2、さらに好ましくは3:7〜7:3である。
また、(S)成分として、その他には、PGMEA及びELの中から選ばれる少なくとも1種とγ−ブチロラクトンとの混合溶剤も好ましい。この場合、混合割合としては、前者と後者の質量比が好ましくは70:30〜95:5とされる。
(S)成分の使用量は、特に限定されない。たとえば後述する本発明の分解性組成物の使用方法に示すように膜の形成に用いる場合には、当該分解性組成物の濃度が、支持体上に塗布可能な濃度となる量であればよく、形成しようとする膜の膜厚等を考慮して適宜設定すればよい。
本発明においては、通常、溶液中の化合物(I)および化合物(II)の合計量が、固形分濃度として、3〜50質量%の範囲内となる量が好ましく、5〜30質量%の範囲内となる量がより好ましい。
【0055】
≪分解性組成物の使用方法≫
本発明の分解性組成物の使用方法は、支持体上に、前記本発明の分解性組成物を用いて膜を形成する工程と、前記膜中の前記化合物(I)と前記化合物(II)とを反応させ、前記化合物(I)から下記一般式(III)で表される化合物(III)を生成させる工程と、前記化合物(III)により前記化合物(I)を分解する工程とを有することを特徴とする。
【0056】
【化10】

[式中、Rは前記一般式(I)中のRと同じである。]
【0057】
本発明の使用方法は、より具体的には、例えば以下の様にして行うことができる。
まず、シリコンウェーハ等の支持体上に、本発明の分解性組成物をスピンナーなどで塗布した後、ベークを行うことにより膜(以下、分解性膜ということがある。)を形成する。
このとき、支持体と分解性膜との間に、有機系または無機系の反射防止膜を設けて2層積層体とすることもできる。また、分解性膜上に、さらに有機系の反射防止膜を設けて2層積層体とすることもでき、さらにこれに下層の反射防止膜を設けた3層積層体とすることもできる。分解性膜上に設ける反射防止膜はアルカリ現像液に可溶であるものが好ましい。
ここまでの工程は、従来、リソグラフィー分野等において周知の手法を用いて行うことができる。ベーク条件(温度、時間等)等の操作条件等は、分解性組成物の組成や特性に応じて適宜設定すればよい。
【0058】
次に、膜中の化合物(I)と化合物(II)とを反応させて化合物(III)を生成させ、該化合物(III)により化合物(I)を分解する。
上記本発明の分解性組成物の項で説明したように、化合物(I)と化合物(II)とを反応させると、少なくとも、Rに隣接するカルボニル基の炭素原子に結合した酸素原子と、該酸素原子に結合した炭素原子(Rが結合した炭素原子)との間の結合が切断されて化合物(III)が生成する。
この化合物(III)は、化合物(II)と同様、化合物(I)を分解させる作用を有するものであり、かかる化合物(III)が生成することにより、化合物(I)の分解効率が向上する。
すなわち、分解性組成物中においては、最初に、化合物(II)による化合物(I)の分解が始まると、化合物(III)が生成し、該化合物(III)は、化合物(II)と同様、化合物(I)を分解させる。化合物(I)の分解が進み、化合物(I)の含有量が減少するにつれて、分解性組成物中のカルボン酸(化合物(II)および化合物(III))の量が増大していくことになり、結果、化合物(I)の分解効率が向上する。
分解性膜中における化合物(I)と化合物(II)との反応による化合物(I)の分解(化合物(III)の生成)と、化合物(III)による化合物(I)の分解とは同時進行的に生じると考えられる。
【0059】
化合物(I)と化合物(II)との反応は、分解性膜に対して、外部から、熱、放射線、イオンビーム等のエネルギーを加えることによって生じさせることができ、たとえば、分解性膜の一部または全部を加熱することにより、化合物(I)と化合物(II)とを反応させることができる。また、化合物(I)と化合物(III)とは、化合物(I)と化合物(II)とを反応させる方法と同様の方法で反応させることができる。
分解性膜を加熱する方法としては、たとえば、ホットプレート、オーブン等を用いて、当該分解性膜または該分解性膜が形成された支持体を直接ベークする方法;放射線を局所的に照射して加熱する方法等が挙げられる。放射線を用いる方法の具体例を挙げると、たとえばレーザー光を集束させてスポット照射することにより、膜を200〜600℃といった温度に加熱することができる。放射線としては、特に限定されず、たとえば一般的にフォトリソグラフィーに用いられている放射線が利用できる。かかる放射線としては、たとえば、可視光線、半導体レーザー(405nm)、g線、h線、i線、ArFエキシマレーザー、KrFエキシマレーザー、Fエキシマレーザー、EUV(極紫外線)、VUV(真空紫外線)、EB(電子線)、X線、軟X線等が挙げられる。
【0060】
<脱保護率>
本発明の分解性組成物およびその使用方法において、化合物(I)が分解したかどうか、また、化合物(I)がどの程度分解したのかは、脱保護率を解析することによって評価することができる。
ここで、「脱保護率」とは、分解前の分解性組成物中に含まれていた、化合物(I)中に由来するアセタール構造(−CO−O−CH(−R)−O−)の量に対する、分解後の分解性組成物中に含まれていた当該アセタール構造の量の割合(%)である。
上述したように、化合物(I)の分解においては、少なくとも、アセタール構造におけるカルボニル基の炭素原子に結合した酸素原子と、該酸素原子に結合した炭素原子(Rが結合した炭素原子)との間の結合が切断される。該結合が切断されると、H−NMR分析において、前記アセタール構造においてRが結合した炭素原子に結合した水素原子(以下、アセタールプロトンという。)の化学シフトが変化する。
一方、化合物(I)おいて、当該アセタール構造に結合した基(たとえばR)の構造は変化せず、Rに由来するプロトンの化学シフトも変化しない。
したがって、分解前、分解後それぞれの分解性組成物について、Rに由来するプロトンのうち、特定のプロトン(基準プロトン)のピーク面積を100とした場合の「アセタールプロトンのピーク面積」を求めると、下記式により脱保護率(%)を算出できる。
脱保護率(%)=[(分解前のA値−分解後のA値)/分解前のA値]×100
上記計算式中、A値は、化合物(I)の基準プロトンのピーク面積を100とした場合の、アセタールプロトンのピーク面積を示す。
【0061】
化合物(I)が分解すると、分解組成物中の化合物(I)の含有量が減少すると同時にR−COOH等の酸性化合物が分解物として生じるため、分解性組成物の性質(アルカリ溶解性等)が変化する。
具体的には、たとえば、このようにして得られる分解性膜の、化合物(I)の一部または全部が分解した部分は、分解前に比べて、アルカリ溶解性が増大する。そのため、たとえば分解性膜の一部を選択的に加熱すると、加熱部分のアルカリ溶解性と、非加熱部分のアルカリ溶解性との間に差(溶解コントラスト)が生じる。したがって、分解性膜を選択的に加熱した後、アルカリ性水溶液等からなるアルカリ現像液を用いて現像処理すると、分解性膜が所望の形状にパターニングされたパターンが得られる。
【0062】
本発明の分解性組成物およびその使用方法において、化合物(I)の分解は、最初に配合されていた化合物(II)によってだけでなく、該分解によって化合物(I)から生成した化合物(III)によっても生じている。すなわち、本発明の分解性組成物の分解には、自己(化合物(I))の分解により生じた化合物(化合物(III))がさらに自己の分解を進行させる自己分解機構が働いている。
【0063】
また、本発明の分解性組成物およびその使用方法において、化合物(II)は、触媒的に化合物(I)を分解させるとともに、その分解によって、当該化合物(II)と同様、化合物(I)を分解する作用を有する化合物(III)を発生させる。つまり、本発明の分解性組成物中には、分解が進むにつれて、化合物(I)を分解する作用を有する酸の量(化合物(II)および化合物(III)の合計量)が増大することとなり、化合物(I)の分解効率が高い。そのため、本発明の分解性組成物を、従来、高感度のレジスト材料として知られる化学増幅型レジスト組成物に応用することにより、当該化学増幅型レジスト組成物の感度をさらに向上させることができる。
すなわち、本発明の分解性組成物に、化学増幅型レジスト組成物に用いられている酸発生剤を配合し、当該分解性組成物を用いて膜(レジスト膜)を形成し、露光すると、また、露光後に当該レジスト膜に対してベークを行うと、酸発生剤から酸が発生し、化合物(II)と同様に、基材成分である化合物(I)を分解する。このとき、化合物(I)の分解は、酸発生剤からの酸だけでなく、化合物(II)、化合物(III)等によっても進行するため、その分解効率は、通常の化学増幅型レジスト組成物よりも優れたものとなり、結果、化学増幅型レジスト組成物の感度がさらに向上する。
【0064】
本発明の分解性組成物の好ましい応用分野の1つとして、たとえば熱リソグラフィーが挙げられる。
熱リソグラフィーとは、例えば、前記非特許文献2〜3に示されているように、熱の作用によりアルカリ溶解性が変化する材料を用いて膜を形成した後、該膜を選択的に加熱することによって微細なパターンを形成する技術である。上記非特許文献では、365nmのレーザー光又は半導体レーザー光(405nm)を用いて膜を加熱することにより、365nmのレーザー光又は半導体レーザー光を用いた場合の通常のフォトリソグラフィーでの限界解像度以上の解像性でパターンが形成できたことが示されている。本発明の分解性組成物は、上述した熱リソグラフィーにも適用することができる。
【実施例】
【0065】
以下、本発明を、実施例を示して説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
下記合成例1〜4で用いた原料化合物の構造を下記に示す。
【0066】
【化11】

【0067】
合成例1(化合物(1)(コール酸エステル)の合成)
6gのコール酸を50gのテトラヒドロフランに溶解し、3.04gのトリエチルアミンを加えて10分攪拌し、1.17gの1,2−ビス(クロロメトキシ)エタンを加え、室温で10時間攪拌した。反応終了後、水/酢酸エチルにて抽出し、酢酸エチル溶液を硫酸ナトリウムにて乾燥後、減圧濃縮した。これにより、下記式(1)で表される化合物(1)を3.5g得た。
【0068】
【化12】

【0069】
[化合物(1)の同定]
H−NMR(重DMSO、内部標準:テトラメチルシラン):δ5.21 s 4H,4.26−4.31 m 2H,4.07−4.11 m 2H,3.96−3.99 m 2H,3.74−3.81 m 2H,3.71 s 4H,3.57−3.64 m 2H,3.13−3.24 m 2H,2.31−2.72 m 2H,2.06−2.31 m 6H,1.93−2.04 m 2H,1.58−1.85 m 12H,1.11−1.51 m 22H,0.78−1.03 m 16H,0.60 s 6H。
IR(cm−1):3410,2937,2869,1740。
また、Tgは177℃であった。尚、以下の合成例において、Tg(ガラス転移点)は、熱分析装置TG/DTA6200(Seiko Instrument社製)にて10℃/分の昇温条件で測定した値である。
【0070】
合成例2(化合物(2)(コール酸エステル)の合成)
8gのコール酸を60gのテトラヒドロフランに溶解し、3.04gのトリエチルアミンを加えて10分攪拌し、2.36gの1,4−ビス(クロロメトキシ)シクロヘキサンを加え、室温で10時間攪拌した。反応終了後、水/酢酸エチルにて抽出し、酢酸エチル溶液を硫酸ナトリウムにて乾燥後、減圧濃縮した。これにより、下記式(2)で表される化合物(2)を5.0g得た。
【0071】
【化13】

【0072】
[化合物(2)の同定]
H−NMR(重DMSO、内部標準:テトラメチルシラン):δ5.19 s 4H,4.27−4.29 m 2H,4.08−4.10 m 2H,3.96−3.98 m 2H,3.76−3.80 m 2H,3.59−3.63 m 2H,3.36−3.40 m 4H,3.13−3.23 m 2H,2.29−2.40 m 2H,2.10−2.29 m 6H,1.92−2.06 m 2H,1.58−1.87 m 14H,1.07−1.52 m 30H,0.77−1.03 m 16H,0.58 s 6H。
IR(cm−1):3413,2934,2867,1740。
また、Tgは100℃であった。
【0073】
合成例3(化合物(3)(リトコール酸エステル)の合成)
6gのリトコール酸を50gのテトラヒドロフランに溶解し、3.04gのトリエチルアミンを加えて10分攪拌し、1.27gの1,2−ビス(クロロメトキシ)エタンを加え、室温で10時間攪拌した。反応終了後、水/酢酸エチルにて抽出し、酢酸エチル溶液を硫酸ナトリウムにて乾燥後、減圧濃縮した。これにより、下記式(3)で表される化合物(3)を6.5g得た。
【0074】
【化14】

【0075】
[化合物(3)の同定]
H−NMR(重DMSO、内部標準:テトラメチルシラン):δ5.21 s 4H,4.36−4.47 m 2H,3.69 s 4H,3.24−3.42 m 2H,2.30−2.41 m 2H,2.18−2.23 m 2H,1.88−1.95 m 2H,1.45−1.86 m 14H,0.95−1.43 m 32H,0.84−0.95 m 16H,0.61 s 6H。
IR(cm−1):3400,2935,2865,1743。
また、Tgは151℃であった。
【0076】
合成例4(化合物(4)(リトコール酸エステル)の合成)
8gのリトコール酸を60gのテトラヒドロフランに溶解し、3.04gのトリエチルアミンを加えて10分攪拌し、2.56gの1,4−ビス(クロロメトキシ)シクロヘキサンを加え、室温で10時間攪拌した。反応終了後、水/酢酸エチルにて抽出し、酢酸エチル溶液を硫酸ナトリウムにて乾燥後、減圧濃縮した。これにより、下記式(4)で表される化合物(4)を8.2g得た。
【0077】
【化15】

【0078】
[化合物(4)の同定]
H−NMR(重DMSO、内部標準:テトラメチルシラン):δ5.19 s 4H,4.33−4.49 m 2H,3.18−3.43 m 6H,2.28−2.39 m 2H,2.16−2.28 m 2H,1.88−1.96 m 2H,0.97−1.88 m 56H,0.80−0.96 m 16H,0.60 s 6H
IR(cm−1):3400,2935,2865,1743
また、Tgは144℃であった。
【0079】
試験例1(水懸濁液中での反応)
フラスコ内で、化合物(1)100質量部と、コール酸100質量部と、水3300質量部とを混合して分解性組成物1(分解性組成物の水懸濁液)を調製した。得られた分解性組成物1(分解前の分解性組成物1)について、H−NMR(400MHz)分析を行った。
【0080】
次に、分解性組成物1を、下記表1に示す撹拌条件で撹拌した。表1中の室温は23℃であった。
撹拌後(分解後)の分解性組成物1について、上記と同じ分析条件でH−NMR分析を行った。
【0081】
H−NMR分析の結果から、下記計算式に従って脱保護率(%)を求めた。その結果を表1に示す。
脱保護率(%)=[(分解前のA値−分解後のA値)/分解前のA値]×100
上記計算式中、A値は、化合物(1)の、ペルヒドロシクロペンタフェナントレン環の10位および13位の炭素原子に結合したメチル基の水素原子(2×3個)に由来する0.6ppm付近のピーク面積を100とした場合の、カルボニルオキシ基の酸素原子(−O−)が結合したメチレン基の水素原子(アセタールプロトン。2×2個。)に由来するピーク面積を示す。
つまり、0.6ppm付近のピークは、分解性組成物中のペルヒドロシクロペンタフェナントレン環に結合したメチル基の水素原子に由来するため、分解の有無にかかわらず一定であり、一方、アセタールプロトンのピーク面積は、化合物(1)の分解量が多いほど小さくなる。そのため、0.6ppm付近のピーク面積を基準として撹拌前後のアセタールプロトンのピーク面積を求めると、上記計算式から、脱保護率が算出できる。
実際の数値を示すと、分解性組成物1において、分解前のA値は31.66であり、室温10時間の分解後のA値は28.44、100℃3時間の分解後のA値は19.96であった。
したがって、室温10時間の反応条件での脱保護率は、[(31.66−28.44)/31.66]×100=10.17%であり、100℃3時間の反応条件での脱保護率は、[(31.66−19.96)/31.66]×100=36.96%であった。
【0082】
【表1】

【0083】
試験例2(膜中での反応)
下記表2に示す成分を混合、溶解して、分解性組成物2〜4(分解性組成物のプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)溶液)を調製した。
【0084】
【表2】

【0085】
各分解性組成物を、スピンナーを用いて直径8インチのシリコンウェーハ上に塗布し、ホットプレート上で、100℃3分間のベーク条件でベークして乾燥させることにより、膜厚200nmの膜を形成した。このとき形成された膜を目視したところ、当該膜は透明であり、アモルファスな膜が形成されたことが確認できた。また、この膜を削り取り、この削り取ったものについて、上記と同じ分析条件でH−NMR分析を行った。
【0086】
次に、上記と同様にして膜を形成した後、当該膜を、ホットプレート上で、100℃3分間または100℃10分間のベーク条件で加熱処理(脱保護処理)した。
脱保護処理後の膜について、上記と同じ分析条件でH−NMR分析を行った。
H−NMR分析の結果から、分解前のA値として脱保護処理前のA値を用い、分解後のA値として脱保護処理後のA値を用いた以外は試験例1と同様にして脱保護率(%)を求めた。表3に、脱保護処理前後のA値と脱保護率を示した。
【0087】
【表3】

【0088】
試験例3(アルカリ溶解速度の変化)
下記表4に示す成分を混合、溶解して、分解性組成5〜11(分解性組成物のPGME溶液)を調製した。
【0089】
【表4】

【0090】
各分解性組成物のPGME溶液を、スピンナーを用いて直径8インチのシリコンウェーハ上に塗布し、ホットプレート上で、90℃,1.5分間のベーク条件でベークして乾燥させることにより、膜厚500nmの膜を形成した。該膜を、23℃にて、2.38質量%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)水溶液中に60秒間浸漬した。浸漬後の膜厚を測定した。浸漬前後の膜厚の差から、90℃,1.5分間ベーク後の膜の溶解速度(Å/秒)を求めた。
次に、上記と同様にして膜を形成した後、当該膜を、ホットプレート上で、100℃3分間のベーク条件でベークした。該膜についても、上記と同様にして溶解速度(100℃,3分間ベーク後の膜の溶解速度)を求めた。
結果を表5に示す。
表5に示すように、90℃,1.5分間ベーク後の膜の溶解速度と100℃,3分間ベーク後の膜の溶解速度とを比較すると、分解性組成物5〜7においては、100℃,3分間ベーク後の膜の溶解速度の方が速く、100℃,3分間ベークにより膜のアルカリ溶解性が増大したことが確認できた。これは、100℃,3分間ベークを行うことにより、膜中の化合物(1)、(2)または(4)が分解したためと考えられる。一方、化合物(II)に相当するコール酸またはリトコール酸を含有しない分解性組成物8〜11においては、同様の処理を行ってもアルカリ溶解性は変化しなかった。
【0091】
【表5】

【0092】
上記結果から、化合物(I)に相当する化合物(1)〜(4)と、化合物(II)に相当するコール酸またはリトコール酸とを含有する分解性組成物中においては、化合物(I)が分解したことは明らかである。
また、上記分解性組成物1〜7においては、化合物(I)を分解することによって化合物(III)を生成させているが、化合物(II)と(III)とは同じコール酸またはリトコール酸であり、化合物(II)が、自身と同じコール酸またはリトコール酸を増殖させている。
したがって、これらの分解性組成物においては、化合物(I)の分解は、最初に配合されていた化合物(II)によってだけでなく、該分解によって生成したコール酸またはリトコール酸(化合物(III))によっても生じていると考えられる。このように、本発明の分解性組成物の分解には、自己(化合物(I))の分解により生じた化合物(化合物(III))がさらに自己の分解を進行させる自己分解機構が働いていると考えられる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される化合物(I)と、下記一般式(II)で表される化合物(II)とを含有することを特徴とする分解性組成物。
【化1】

[式中、Rは水素原子、ハロゲン原子、アルキル基またはハロゲン化アルキル基であり、R,R,Rはそれぞれ独立して1価の有機基である。]
【請求項2】
前記化合物(I)が、分子量500〜3000の非重合体である請求項1記載の分解性組成物。
【請求項3】
前記化合物(I)が、下記一般式(I−1)で表される化合物である請求項2記載の分解性組成物。
【化2】

[式中、R,Rはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、アルキル基またはハロゲン化アルキル基であり、R,Rはそれぞれ独立して環式基を有する基であり、Rは(d+1)価の有機基である。]
【請求項4】
前記一般式(I−1)中のR,Rにおける環式基が脂肪族多環式基である請求項3記載の分解性組成物。
【請求項5】
前記一般式(I−1)中のR,Rにおける環式基がペルヒドロシクロペンタフェナントレン環を基本骨格とする基である請求項4記載の分解性組成物。
【請求項6】
前記一般式(II)中のRが環式基を有する基である化合物である請求項1〜5のいずれか一項に記載の分解性組成物。
【請求項7】
前記一般式(II)中のRにおける環式基が脂肪族多環式基である請求項6記載の分解性組成物。
【請求項8】
前記一般式(II)中のRにおける環式基がペルヒドロシクロペンタフェナントレン環を基本骨格とする基である請求項7記載の分解性組成物。
【請求項9】
支持体上に、請求項1〜8のいずれか1項に記載の分解性組成物を用いて膜を形成する工程と、前記膜中の前記化合物(I)と前記化合物(II)とを反応させ、前記化合物(I)から下記一般式(III)で表される化合物(III)を生成させる工程と、前記化合物(III)により前記化合物(I)を分解する工程とを有することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の分解性組成物の使用方法。
【化3】

[式中、Rは前記一般式(I)中のRと同じである。]


【公開番号】特開2007−316508(P2007−316508A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−148173(P2006−148173)
【出願日】平成18年5月29日(2006.5.29)
【出願人】(000220239)東京応化工業株式会社 (1,407)
【Fターム(参考)】