分解能増進顕微鏡法
本発明はPAL顕微鏡法のための方法に関し、個々の像が組み合わされて全体像にされる。個々の像のうち少なくとも一部又は個々の像のうち少なくとも一群が評価されるという点と、個々の像露光の少なくとも1つの変数が後続の個々の像露光のために調整されるという点において、個々の像の露光の規制が行われる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
サンプルの、空間的に高分解能のルミネセンス顕微鏡法のための方法であって、
前記サンプルは、ラベル分子を用いて活性化され、
前記ラベル分子は、活性化状態でのみ特定のルミネセンス放射を放出するように励起することができるように、スイッチング信号によって活性化することができ、
前記方法は、次の各ステップ、すなわち、
a)前記サンプルに存在する前記ラベル分子のサブセットのみが活性化されるように前記スイッチング信号を前記サンプル上に導入するステップであって、
前記サンプル内にエリアの各部分が存在し、
前記各部分において、活性化されたラベル分子が、最も近い近傍の活性化されたラベル分子まである距離を有し、前記ある距離は、少なくとも所定の光学分解能に起因する長さ以上である、
前記スイッチング信号を前記サンプル上に導入するステップと、
b)前記活性化された分子をルミネセンス放射を放出するように励起するステップと、
c)前記ルミネセンス放射を前記所定の光学分解能で検出するステップと、
d)ステップc)において記録された前記ルミネセンス放射からフレームを生成するステップであって、
ルミネセンス放射を放出する前記ラベル分子の幾何学的ロケーションが、前記所定の光学分解能を超えて増進された空間分解能で特定される、
フレームを生成するステップと、
を有し、
これらのステップは、数回繰り返され、
そのようにして得られたそれらいくつかの前記フレームが組み合わされて全体像にされる
方法において、
前記各フレームの取得の制御は、
ステップd)の後に、前記フレームのうち少なくとも1つを評価すること、又は、一群の前記フレームを評価することと、
ステップa〜dの少なくとも1つの変数を、ステップa〜dの後続の繰り返しのために変更することと
によって行われることを特徴とする、方法。
【背景技術】
【0002】
生物学的標本を検査するための光学顕微鏡法の標準的な使用分野が、ルミネセンス顕微鏡法である。この過程では、サンプル、たとえば、細胞の一部を特異的にラベル付けするために、特定の染料(いわゆる、燐光体又は蛍光体)が用いられる。そのサンプルは、記述されるように、励起放射を実現する照明放射を照射され、これにより励起されたルミネセンス放射が適切な検出器によって記録される。このために、通常、顕微鏡内に、ブロックフィルターと組み合わせてダイクロイックビームスプリッターが設けられており、それによりルミネセンス放射を励起放射から分離し、別々に観察できるようにする。この手順によれば、異なる色に着色される個々の細胞部分の像を顕微鏡により形成することができる。当然ながら、標本の異なる構造に対して特異的に付着する異なる染料を用いて、標本のいくつかの部分を同時に着色することもできる。この方法は、多重ルミネセンスと呼ばれる。サンプル自身がルミネセンスを生じるものは、それゆえ染料を添加せずに調査することもできる。
【0003】
ここで、ルミネセンス(luminescence)とは、概ね通常通りに、燐光(を発すること)(phosphorescence)及び蛍光(を発すること)(fluorescence)の総称として理解されており、それゆえ、両方の過程を含む。本明細書において蛍光に言及するとき、これは全体を代表する一部分(pars pro toto)であり、限定するものではないことが理解されるべきである。
【0004】
サンプルを検査するために、レーザー走査型顕微鏡(略して、LSMともいう)を用いることも知られており、レーザー走査型顕微鏡は、3次元で照明される像から、共焦点検出構成によって(共焦点LSMと呼ばれる)、又は非線形サンプル相互作用(いわゆる、多光子顕微鏡法)によって、対物レンズの焦点面内に位置する平面のみを結像する。光学的断面が生成され、その後、サンプルの異なる深度にあるいくつかの光学的断面を記録することによって、適切なデータ処理デバイスの助けを借りて、異なる光学的断面から構成される、サンプルの3次元像を生成できるようになる。したがって、レーザー走査型顕微鏡法は、厚い標本を検査するのに適している。
【0005】
当然ながら、ルミネセンス顕微鏡法及びレーザー走査型顕微鏡法の組み合わせも用いられ、その組み合わせによれば、ルミネセンスを生じるサンプルが、LSMの助けを借りて異なる深さの平面において結像される。
【0006】
原理的に、光学顕微鏡の光学分解能は、LSMの光学分解能と同様に、物理法則により、回折が限界となる。これらの限界内における最適な分解能を得るために、たとえば4Pi配置又は定在波場を有する配置等の特定の照明構成が知られている。この場合、分解能を、特に軸方向で標準的なLSMの分解能よりも明らかに改善することができる。非線形デポピュレーション(non-linear depopulation)プロセスを用いると、回折が限界となる共焦点LSMと比較して最大10倍に分解能をさらに増進させることができる。このような方法は、たとえば特許文献1に記載されている。たとえば、特許文献2、特許文献3、又は特許文献4に記載されているように、デポピュレーションプロセスについてさまざまな手法が知られている。
【0007】
分解能を増進させるさらなる方法は、特許文献5で検討されている。この特許文献では、非線形プロセスが構造化照明によって利用されている。この文献は、非線形としての蛍光の飽和に触れている。記載された方法は、構造化照明を通じて、光学系の透過関数に対して物体空間スペクトルをシフトすることを実現することを主張している。具体的には、スペクトルのシフトとは、物体空間周波数V0が空間周波数V0〜Vmで透過されることを意味する。ここで、Vmは構造化照明の周波数である。これによって、系により最大限に透過可能な所与の空間周波数において、シフト周波数Vmによる透過関数の最大周波数を超える物体の空間周波数の伝達が可能になる。この手法には、像生成用の再構成アルゴリズム及び像用のいくつかのフレームの利用が必要とされる。また、この方法では、必要な構造化照明がサンプルの体積全体を覆うので、サンプルが、検出される焦点の外側のエリアで放射によるストレスを不必要に受けることが不利であると考えられる。さらに、この方法は、現在のところ、サンプルが厚い場合には用いることができない。これは、焦点外の励起蛍光も背景信号として検出器に達し、したがって、検出される放射のダイナミックレンジを劇的に低減させるからである。
【0008】
レーザー走査型顕微鏡法とは関係なく、回折の限界を超える解像度を達成する方法も、特許文献6及び特許文献7から知られている。略してPALM(光活性化光学顕微鏡法)と呼ばれるこの方法は、光学活性化信号によって活性化することができるラベル物質を使用する。ラベル物質は、特定の蛍光放射を放出するように励起放射によって励起することができるが、この励起は活性化状態においてのみ可能となる。また、ラベル物質の活性化されない分子は、励起放射の照射後に、全く、又は少なくとも目立つほどの蛍光放射を放出しない。したがって、活性化放射は、ラベル物質を蛍光励起させることができる状態にスイッチングする。異なる活性化、たとえば熱式の活性化も可能である。したがって、一般的な用語であるスイッチング信号が用いられる。PALM法では、活性化されるラベル分子の少なくともある割合が、隣接する活性化された分子から離隔して配置され、その結果として顕微鏡法の光学解像度によって測定されるように分離されるか、又は後に分離することができるように、スイッチング信号が加えられる。こうして、活性化された分子は少なくとも大まかに分離される。ルミネセンス放射を記録した後、次に、これらの分離された分子について、解像限界であるように生成される放射分布の中心が特定され、そこから、光学的結像そのものによって可能である精度よりも高い精度で、分子の位置が計算によって求められる。回折分布の中心を計算で求めることによってこのように高められる解像度は、最先端技術において「超解像」とも呼ばれる。その場合、活性化されるラベル分子のうちの少なくともいくつかは、ルミネセンス放射が検出される光学解像度で、サンプル内で区別可能である必要があり、それゆえ、分離される必要がある。そのような分子の場合に、その後、高められた解像度で位置情報をもたらすことができる。
【0009】
個々のラベル分子を分離するために、PALM法は、所与の強度のスイッチング信号(たとえば活性化放射の光子)を受け取った後にラベル分子が活性化される確率は全ての分子について同じであるという事実を利用する。スイッチング信号の強度、それゆえ、サンプルの単位面積当たりに衝突する光子の数によって、サンプルの所与の単位面積内に存在するラベル分子を活性化する確率を非常に小さくし、光学解像度の範囲内で、区別可能なラベル分子のみが蛍光放射を放出するのに十分な面積が存在するのを確実にすることができる。スイッチング信号の強度(たとえば光子密度)を適切に選択する結果として、可能な限り、光学解像度に対して分離されるラベル分子のみが活性化され、その後、蛍光放射を放出する。これらの分離される分子について、その後、回折を条件とする強度分布の中心が、それゆえラベル分子の位置が、高められた解像度で計算によって特定される。サンプル全体の像を形成するために、活性化放射を導入し、その後、励起して、蛍光放射で像を形成することによって、サブセットのラベル分子を分離することが繰り返される。これは、可能な場合には、全てのラベル分子がサブセット内に一度含まれ、像を形成する解像度において分離されるまで繰り返される。
【0010】
PALM法は、活性化のためにも、励起のためにも高い局所解像度が不要であるという利点がある。代わりに、広視野照明において、活性化及び励起の両方を行なうことができる。
【0011】
結果として、活性化放射の強度を適切に選択することによって、ラベル分子は部分的な量において統計的に活性化される。それゆえ、サンプルの完全な像を生成する(たとえば、回折の限界を超える解像度で、全てのラベル分子のロケーションを計算によって求めることができる)ために、複数のフレームが評価されなくてはならない。フレームは最大10,000個になる可能性がある。この結果、大量のデータが処理され、測定は、それに応じて長い時間続く。完全な像を取得するだけでも数分を要する。これは、本質的には、用いられるカメラの読み出しレートによって決定される。フレーム内における分子の位置の決定は、たとえば、Egner他著、Biophysical Journal, pp. 3285-3290, volume 93, November 2007に記載されているような手の込んだ計算手順によって行われる。すべてのフレームを処理し、それらのフレームを組み合わせて高分解能の完全な像にすること、したがって、ラベル分子のロケーションが回折の限界を超える分解能で与えられる像にすることは、通常、4時間続く。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第5866911号明細書
【特許文献2】独国特許第4416558号明細書
【特許文献3】米国特許第6633432号明細書
【特許文献4】独国特許出願公開第10325460号明細書
【特許文献5】欧州特許第1157297号明細書
【特許文献6】国際公開第2006/127692号パンフレット
【特許文献7】独国特許第102006021317号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、より高速な像形成が達成されるようなPAL顕微鏡法を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的は、冒頭にある名称のタイプの方法によって達成される。この方法では、ステップd)を実行した後に、少なくとも1つのフレームを評価すること又は一群のフレームを評価することと、ステップa〜dの少なくとも1つの変数を、ステップa〜dの後続の繰り返しのために変更することとによって、いくつかのフレームの取得の調整が行われる。
【0015】
本発明によれば、フレームの取得は、このとき、フレーム又は一群のフレームを評価することと、フレーム取得に関連するある変数の変化を該評価から導出することと、対応する変数をそれに応じて変更することとによって、閉ループ制御された方法で実行される。
【0016】
したがって、本発明は、ロケーションを特定する分子のサブセットをそれぞれ含むフレームから高分解能像を漸進的に構成するPALM法において結像の特定の性質を用いる。像取得のための少なくとも1つのパラメーターが、フレームの分析によって最適化され、その結果、像全体の取得がより高速に進む。
【0017】
PALM顕微鏡法プロセスの開始前に可能な限り最適に事前に設定される多くのパラメーターが最先端技術において知られている。ここで、フレーム又は一群のフレームを評価することにより、像取得中にパラメーター最適化の導出を通じて、取得速度がより高くなる像取得の調整が行われる。
【0018】
これは、像取得が全体的により高速に進むだけでなく、像の取得のための準備時間も低減されるという利点を有する。最初から像取得パラメーターを最適な値に設定するために、測定前に動作パラメーターの基本条件を注意深く特定するのに必要な作業が少なくなる。このとき、最適な値は、像取得中の進歩的な調整に由来するものである。
【0019】
本発明による方法のさらなる利点は、最適な像取得パラメーターに影響を与える境界条件が、ここでは、取得持続時間に影響を与えることなく像取得中に変化することができるということにもある。この簡単な例は、異なる像断面(image section)を選ぶためにサンプルをシフトさせることである。これによって、異なる濃度のラベル分子を有するサンプルエリアを持ってくることができ、したがって、必然的に異なる最適なスイッチング信号強度を現在の像場内に持ってくることができる。本発明による動的な最適化方法により、境界条件が変動する場合であっても、フレーム分析の結果としての像取得パラメーターの調整を通じて、最適な像取得パラメーターが常に高速に得られ、したがって、像取得持続時間が全体的に低減されることが保証される。
【0020】
境界条件の変動は、もちろん、アパーチャ又はサンプルの安定限界、たとえば焦点ドリフト又は温度変化に起因しても起こる可能性がある。これらも、ここでは、像取得が調整中に自動的に対応するので、取得持続時間に影響を与えない。
【0021】
本発明による制御によって、最適化だけでなく機器保護機能も保証することができる。すなわち、通常用いられる高感度の検出器又はカメラは、何らかの正しくないフィルター設定、蛍光に対する正しくない励起出力等に起因して偶然に損傷を受け易い。全体像の取得中の調整によって、このような損傷が防止される。
【0022】
PALM像取得の場合、ラベル分子の(たとえばブリーチングによる)活性化から非活性化への比が、全体的な像取得速度に密接に関連する。非同期の活性化及び蛍光励起が速度を最適化するのに役立つことができることが、国際公開第2006/127692号パンフレットにすでに説明されている。独国特許出願公開第102006021317号明細書は、互いに隔てられ、したがって顕微鏡の光学分解能に対して分離している転化分子の部分に関連する割合をも与える。これらの固定された事前設定は、本発明では不要であり、開始値にすぎない。
【0023】
最適な測定パラメーターの値は、フレームから導出され、後続のフレーム取得中に変数を訂正する際の対応する変更により、像取得速度又は他の基準(たとえば上述した装置保護)について調整される。したがって、新しいフレーム取得サイクルは、以前のフレーム分析に基づいて変更されてより最適な(たとえば、より高速な)取得をもたらす設定を用いて実行される。
【0024】
フレームレベルの高速化は必ずしも起こる必要はない。取得持続時間の短縮は、たとえば、とりわけ、部分的な量への分割が改善されることから、必要なフレームを少なくすることによっても達成することができる。
【0025】
部分的な量にわたる活性化されたラベル分子(及び後に蛍光ラベル分子)の分布は、全体像取得の高速化にとって必要不可欠である(各サブセットは、この場合、1つのフレームに対応する)。したがって、本発明の一実施の形態では、調整のために、品質関数が評価され、その値が最大にされることが提供される。この品質関数は、直接又は間接的に、ラベル分子の比率の尺度となる。この比率は、活性化されたラベル分子であって、その最も近い近傍の活性化されたラベル分子までの距離が、少なくとも所定の光学分解能で解像することができる距離となる、そのようなラベル分子の比率である。この品質関数は、特に、活性化された分子、したがって蛍光分子の密度測定値とすることができる。フレームにおける蛍光分子の明度が可能な限り均質であることが、像取得速度に関して適した像取得の指標となり、したがって可能な品質基準となる。
【0026】
以下の検討によって、特に適した品質関数がもたらされる。すなわち、理想的には、単一のラベル分子のみが、空間的に解像可能なエリア/体積内のルミネセンスに寄与する。原理的には、局所的に解像可能な体積には整数個の量の分子しか存在し得ない。したがって、空間分解能によって規定される領域内には、1つのラベル分子、2つのラベル分子、3つのラベル分子、等のいずれかから発するルミネセンス放射しか起こり得ない。したがって、近傍のルミネセント領域から分離されたルミネセント領域内のルミネセンス評価によって、そのルミネセント領域には1つのラベル分子が存在したのか又は2つ以上のラベル分子が存在したのかを、しきい値分析によって認識することが可能になる。したがって、発展形においては、近傍のルミネセント領域から分離されたルミネセント領域が、評価されたフレームのそれぞれにおける品質関数の評価用に特定され、分離されたルミネセント領域のそれぞれによって放出されたルミネセンス放射の量の尺度が、各分離されたルミネセント領域について特定され、測定値がしきい値未満であると特定されている領域の比率が、品質関数の値として与えられることが好ましい。しきい値は、便宜上、1つのラベル分子しかルミネセンス放射を放出しなかった領域に対応するルミネセンス量測定値をわずかに上回るように選ぶことができる。
【0027】
放出されたルミネセンス放射の尺度は、特定された領域にわたるルミネセンス強度の積分とすることができる。他のパラメーターも等しく可能である。ルミネセント領域で発生するルミネセンス強度の最大値が尺度として用いられる場合、本方法は特に焦点ぼけによる影響を受けないことが示される。
【0028】
当然ながら、背景雑音が像の取得中に常に影響を与える。したがって、この明細書本文で分離された領域に言及している箇所では、これは、記録された強度がしきい値未満に低下したが、背景雑音のために必ずしもゼロである必要はないことを意味するものと理解されるべきである。
【0029】
したがって、放出されたルミネセンス放射の量の尺度は、いずれの場合にも、特定されている分離されたルミネセント領域におけるルミネセンス放射強度の積分又はルミネセンス放射強度の最大値であることが好ましい。
【0030】
ルミネセントラベル分子の密度のさらなる可能な指標は、最も近い近傍のルミネセント領域までの、ルミネセント領域が有する距離である。この距離は、たとえば、特定されたルミネセント領域の周りに適切な円をフィットさせることによって測定することができる。
【0031】
好ましくは、特定された分離ルミネセント領域の、最も近い近傍のルミネセント領域までの最小距離が求められ、そして、領域間の最小距離が、所定の光学分解能によって事前に設定された解像可能最小距離よりも、又は、この解像可能最小距離の事前に設定された倍数よりも、大きくなる領域の比率が、品質関数の値として取得される。
【0032】
一代替的な手法は、局所的な蛍光強度最大値の周囲の記録された全放射が、局所的な最大値の周囲の特定の距離内にあるか否かをチェックすることである。局所的な強度最大値が1つのルミネセントラベル分子からのものであり、このラベル分子が分離されている場合、ルミネセンス強度は、分解能限界を超えて、背景雑音によって規定される最小値に下がっていることになる。他方、局所的な最大値の周囲の所与の距離でそのようなしきい値にまだ達していない場合、最大値が2つ以上のルミネセントラベル分子からのものであるか、又は光学的に解像可能な距離にないルミネセントラベル分子がさらに存在する。
【0033】
したがって、品質関数を評価するために、近傍のルミネセント領域から分離されたルミネセント領域が、評価されるフレームのそれぞれにおいて特定され、これらの分離されたルミネセント領域のそれぞれについて、このルミネセント領域のサイズが、光学分解能に基づいて事前に設定された尺度を基準にして特定されることが好ましい。また、フレームの全表面の比率が品質関数の尺度として用いられ、ルミネセント領域の局所的な最大値の周囲の範囲が、光学分解能から導出されたサイズよりも小さく、特に最小の解像可能な長さの事前に設定された倍数よりも小さくなることが好ましい。
【0034】
これらの2つの変形形態について、ルミネセント領域のそれぞれについて、幾何学的中心又は局所的な強度最大値の周りに1つの円を配置することができる。その円内では、ルミネセンス強度は、特定の最小値に下がっていなければならないか、又はその円は最も近い近傍のルミネセント領域まで延びている。ルミネセンスが、事前に設定された円半径内において最大値未満に低下している領域の比率が、品質関数の値として取得される。あるいは、円半径が、解像可能最小距離よりも大きくなる領域の比率、または、最小距離の事前に設定された倍数となる領域の比率が、品質関数の値として選ばれる。
【0035】
原理的に、本方法は、すべてのフレームを個々に分析することができる。すなわち、本方法は、説明した画像評価手法をフレームごとに切り換えることができる。しかしながら、制御の安定性の観点から、同じタイプのフレーム評価を定常的に実行することが好ましい。さらに有利には、安定性の点で、連続したフレームのバッチが評価され、近傍のルミネセント領域から分離されたルミネセント領域が、評価されるフレームのそれぞれにおいて分離され、一群のうちただ1つのみのフレームでルミネセンスするルミネセント領域の比率が、品質関数の値として取得される。
【0036】
制御される補正変数は、以下のパラメーター、すなわち、フィルタリング、偏光フィルタリング、増幅、検出器温度、積分持続時間、検出場の選択、ルミネセンス放射の検出中の焦点の位置及びサイズ、出力、パルス形状、パルス周波数、波長、放射持続時間、放射場の選択、TIRF照明の侵入深さ、スイッチング信号の導入中又は活性化された分子の励起中の焦点の位置及びサイズ、のうちの少なくとも1つを含むことができる。
【0037】
次の変数、すなわち、ラベル分子のブリーチングレート、ラベル分子の励起スペクトル及び放出スペクトル、ラベル分子のルミネセンス状態の寿命、ラベル分子の活性化しきい値、ラベル分子のフラッシュ頻度(flash frequency)、個々のラベル分子が平均して可視的である期間、光学分解能の範囲内を同時に占めるルミネセントラベル分子の数、1ルミネセントラベル分子当たりの収集された光子の数、1フレーム当たりの活性化されたラベル分子の数、1フレーム当たりのラベル分子の平均ロケーション特定精度、のうちの少なくとも1つを記録し、像評価において評価することができる。
【0038】
閉ループ制御の枠内のさらなる最適化手法は、分子がどれくらいの間蛍光するのかをチェックする。理想的には、活性化され励起されたラベル分子は、ただ1つのみのフレームに寄与する。その理由は、可能な限り多くのラベル分子が分離している確率がその時最大であるからである。2フレーム以上にわたってルミネセンス放射に励起することができる分子は、次のステップに現れるラベル分子、すなわち新しく活性化されたラベル分子と組み合わされ、分離不能なルミネセント領域を形成する可能性がある。これは望ましくない。したがって、説明する変形形態は、ただ1つのフレームにわたってのみルミネセンス放射を放出する個々の分子の数を最適化する。ブリーチングによって(すなわち、非常に強い励起であるので、ラベル分子が永久的又は少なくとも一時的にルミネセンスに再び励起することができない励起によって)、ラベル分子を不活性化している間、或るフレームの間、ルミネセンス放射を放出するラベル分子の最適化を、励起強度を増加させることによって達成することができる。この変形形態は、変数の補正をラベル分子の活性化に自動的に関与させる必要はないが、変数の補正が励起にも確かに影響を与えることができることを示す一例である。
【0039】
像取得速度を増加させるのに特に有利なさらなる変形例は、検出の同期と、活性化又は励起の同期である。特に、たとえば、染料特性(ブリーチングレート、スイッチングサイクル、励起スペクトル及び放出スペクトル、寿命、等)が、最適なPALM像取得には重要である。平均すると、個々のラベル分子をルミネセンスに励起させることができる状態に該個々のラベル分子が留まっている持続時間は、ステップc)におけるルミネセンス放射の検出に整合されるべきである。ステップc)では、特に、ラベル分子が検出ステップc)内でそのルミネセンス放射を可能な限り多く放出し、時として2つの連続したフレームの間検出ステップに対応しないように、照明持続時間に整合されるべきである。ルミネセントラベル分子のほとんどは、最適化された像取得速度では、検出ステップの非常にわずかなフレームにおいてしか可視的でないので、2つの境界フレーム(分子がルミネセンスを開始又は終了するフレーム)は、全体的に収集されるルミネセンス信号のかなりの比率を表す。像取得中に(したがって、たとえばCCDカメラの積分時間中に)、フレームをできるだけ有効に利用するために、活性化放射の時間変調された強度が、その結果、ステップc)において検出器に同期して(たとえばカメラの動作に同期して)実行されることなり、その結果、分子の励起の確率は、可能な限りフレームの開始時に存在する。
【0040】
いくつかのタイプの光スイッチング可能たんぱく質の場合、可逆的又は不可逆的な不活性化の前のそれらの平均励起性範囲(average excitability range)は照明条件の関数である。光スイッチング可能タンパク質のルミネセンス放射は、該タンパク質のブリーチングの挙動における背景信号とは異なる。したがって、事前に特定されているブリーチングの挙動を用いて、ラベル分子を背景放射と区別することができる。代替的に、寿命を用いることもできる。この情報を用いて、調整範囲の限界を事前に設定することができる。
【0041】
上記の特徴、そして後にさらに説明されることになる特徴は、本発明の枠組みから逸脱することなく、与えられた組み合わせにおいてだけではなく、他の組み合わせにおいても、又は単独でも用いることができることは理解されたい。
【0042】
本発明は、本発明に不可欠である特徴も開示する添付の図面を用いて、例として以下に詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】分解能が限界となる体積における活性化されたラベル分子の概略図である。
【図2】さまざまな活性化されたラベル分子及び非活性化されたラベル分子を空間分解検出器上に結像させたものの概略図である。
【図3】PALM法での像生成のフローチャートである。
【図4】図2の検出器上に結像されたラベル分子に関する図3のフローチャートに関連した説明図である。
【図5】PAL顕微鏡法の顕微鏡の概略図である。
【図6】像形成パラメーターの調整を有するPALM法での像生成のフローチャートである。
【図7】サンプルエリアの選択用に開発された、図4の顕微鏡と同様の顕微鏡を示す図である
【発明を実施するための形態】
【0044】
図1は、蛍光励起されたラベル分子1を概略的に示している。もちろん、各励起は正確に1つの蛍光光子を放出し、放射検出には多くの蛍光光子のすべての積分を要するので、蛍光検出には複数の励起を要する。物理法則により、ラベル分子1によって放出された蛍光放射の顕微鏡における検出には、光学的な分解能の限界がある。その顕微鏡が回折という光学分解能の限界に達しても、蛍光ラベル分子1の光子は、依然として常に回折に起因して散乱されるので、エアリーディスク2として検出される。したがって、顕微鏡は、原理的には、黒色の円として図1に概略的に描かれるラベル分子1の幾何学的な大きさではなく、エアリーディスク2によって図1に示されるような、より大きな物体を描く。エアリーディスク2のサイズは、用いられる顕微鏡装置の品質に依存し、光学結像の点像分布関数(point-spread function)の半値幅によって規定される。もちろん、エアリーディスク2は、実際には2次元物体ではなく、蛍光光子が入射する回折体積である。しかしながら、図1の2次元図では、この体積はディスクとして現れる。したがって、エアリーディスクという用語は、使用するレンズ系が達成し得る最大分解能体積を意味するものと、ここではかなり一般的に解釈される。しかしながら、使用するレンズ系は、回折の限界で動作することが好ましい場合であっても、必ずしも回折の限界で動作しなくてもよい。
【0045】
次にエアリーディスク2内においてラベル分子1をより正確に突き止めることができるようにするために、上記で一般的に記述したPALM法が用いられる。この方法は、個々のラベル分子を活性化する。ここで、「活性化」という用語は、この明細書本文ではかなり一般的に、ラベル分子の特定のルミネセンス特性の活性化を意味し、したがって、ルミネセンス励起可能性のスイッチングオン及びルミネセンス放出スペクトルの変化の双方を意味し、特定のルミネセンス特性のスイッチングオンに対応する。ここで説明する実施形態では、活性化は光学活性化放射によってもたらされる。しかしながら、他の非光学な活性化メカニズムも等しく可能である。
【0046】
この時、活性化は、他の活性化された分子のエアリーディスク内に中心が存在しない分子が少なくとも数個存在するように行われる。すなわち、それらの分子は所与の光学分解能の下であっても正しく区別することができる。
【0047】
図2は、光子を局所的に解像する方法で積分する検出器5の一例示の状況を概略的に示している。見て分かるように、近傍のラベル分子のエアリーディスクが重なり合うエリア3が存在する。しかしながら、図2内の左側の各エリア3で見て分かるように、前もって活性化済みのラベル分子しかここには関連しない。非活性化ラベル分子1’は、マトリックス検出器5上に収集される特定の蛍光放射を放出しないので、影響を与えない。
【0048】
ラベル分子1は、それらのエアリーディスク2が他の活性化ラベル分子1のエアリーディスクと重なり合わないようなエリア4(たとえば、マトリックス検出器5の中央に位置するエリア4)に存在する。マトリックス検出器5における右側エリアは、活性化ラベル分子のエアリーディスクが重なり合う各エリア3が、これに該当しないエリア4に隣接して明確に位置している可能性があることを示している。右側のエリア4は、活性化ラベル分子1が非活性化ラベル分子1’に隣接していることが検出に影響を与えないということも明らかにしている。そのようなラベル分子1’は、マトリックス検出器5によって検出される蛍光放射を放出せず、したがって蛍光しないからである。
【0049】
次に、機器によってあらかじめ決まっている光学分解能が可能とする細部よりも詳細な細部を含む像を取得するために、図3に概略的に表すステップを用いる。この像は、本明細書における意味での高分解能像である
【0050】
第1のステップS1において、ラベル分子のサブセットがスイッチング信号によって活性化される。したがって、これらのラベル分子は、特定の蛍光放射を放出するように励起することができない第1の状態から、特定の蛍光放射を放出するように励起することができる第2の状態にスイッチングされる。もちろん、活性化信号は、選択的な不活性化を行うこともでき、したがって、逆手順(reverse procedure)をステップS1において用いることもできる。ステップS1の後、励起されて特定の蛍光放射を放出できるのはラベル分子のサブセットのみであるということが必要不可欠である。用いられるラベル分子に応じて、活性化又は不活性化が起こる(以下では、簡潔にするために活性化の場合のみが説明される)。たとえばDRONPA、PA−GFP、又は可逆的にスイッチング可能な合成染料(Alexa/Cyan構成物等)等の染料を用いると、活性化は光放射によって起こるので、スイッチング信号はスイッチング放射となる。
【0051】
図4は、ステップS1後の状態を部分像aに示している。ラベル分子のサブセットl_nのみが活性化されている。このサブセットのラベル分子は黒一色のスポットによって表されている。ラベル分子のうちの残りのものは、このステップでは活性化されていない。これらの残りのものは、図4の部分像aにおいてl_n+1によって示されている。
【0052】
活性化済みのラベル分子は、その後、第2のステップS2において励起されて、蛍光放射を放出することができる。蛍光染料としては、最先端技術から判明している蛍光タンパク質(好ましくはPA−GFP又はDRONPA等)が用いられる。このような分子の場合には、405nmの範囲の放射で活性化が起こり、約488nmの波長において蛍光放射への励起が起こり、蛍光放射は490nmを超える範囲にある。
【0053】
第3のステップS3において、たとえば記録された蛍光光子をすべて積分することにより、放出された蛍光放射が検出される。その結果、図4の部分像bに表される状況がマトリックス検出器5上で生じる。見て分かるように、活性化ラベル分子l_nのエアリーディスクは重なり合っていない。エアリーディスクのサイズは、マトリックス検出器5上への結像の光学分解能によって決まる。加えて、非活性化サブセットl_n+1に属する蛍光分子の(理論上の)エアリーディスクが、図4の部分像bに示されている。これらの非活性化ラベル分子は蛍光放射を放出しないので、それらの(理論上の)エアリーディスク内にある蛍光放射は、活性化ラベル分子のサブセットl_nの蛍光放射の検出と干渉しない。
【0054】
サブセットl_nにおいて重なり合うエアリーディスク(各ラベル分子を実際にはもはや区別することができないようなもの)をできるだけ少なくするために、活性化エネルギーは、サブセットl_nがラベル分子の総量の比較的少ない割合しか占めないように調整される。その結果、光学装置で解像可能な体積に比べて統計的に多くのラベル分子を区別することができる。
【0055】
第4のステップS4において、蛍光ラベル分子の位置が、蛍光ディスクの回折分布から計算により特定され、それによって、活性化ラベル分子の位置が判明する分解能は、図4の部分像cが示すように、光学装置の分解能を超えて鮮鋭化される。
【0056】
計算により求めることの一代替形態として、記録された蛍光放射を非線形に増幅し、したがって、より少ない手間で、光学装置を超えて分解能を鮮鋭化することが原理的に完全に可能である。非線形増幅は、たとえば関数S=A・FN(式1)又はS=A・expF/w(ただしw=10-N(式2))によって記述することができる。ここで、Fは蛍光信号の振幅であり、Aは倍率であり、Nは1よりも大きな整数である。パラメーターSがFに非線形に強く依存することが特に有利であり、したがって、たとえば式1又は式2におけるNの値が大きいことが特に有利である。もちろん、他の関数も用いることができる。原理的には、非線形性は、好ましくは、エアリーディスクの半値幅が、ラベル分子のロケーション情報について要求される空間分解能に対応するように選ばれる。非線形増幅に加えて、非線形減衰も用いることができる。この際、振幅又は強度が小さい蛍光信号は減衰されるのに対して、強い信号は少なくとも大幅には減衰されないまま維持される。もちろん、非線形増幅及び非線形減衰の組み合わせを用いることもできる。
【0057】
次に、第5のステップS5が、位置情報が正確に判明しているラベル分子を組み合わせてフレームにする。このフレームは、その空間分解能が光学分解能を超えて増進するものである。しかしながら、このフレームは、ラベル分子の前もって活性化されたサブセットに関する情報しか含まない。
【0058】
第6のステップS6において、このフレームは、既知の方法で全体像にされる。次に、この方法はステップS1に戻る。ステップS1において、これまでの蛍光分子を再び不活性化しなければならない。不活性化は、ラベル分子のタイプに応じて、別個の放射によって又は活性化状態の減退(fading)によって達成することができる。すでに結像されたラベル分子を励起放射によってブリーチング(漂白)することも可能である。
【0059】
全体像に寄与するさらなるフレームがこのようにして各パス(pass)で取得される。次のパスにおいて、ラベル分子の異なるサブセット、たとえば図4に表されるサブセットl_n+1が活性化される。
【0060】
ステップS1〜S6のパスを繰り返すことによって、光学的結像の分解能と比較して鮮鋭化されている空間分解能を有するラベル分子のロケーションを示す個々のパスのフレームから、全体像が構築される。このように、高分解能の全体像が、対応する回数の繰り返しを通じて、漸進的に構築されていく。z方向に離間されるいくつかの像スタックが記録される場合、この方法では、好ましくは3つすべての空間的次元でエアリーディスクの縮小が起こる。この場合、完全な像は、3つすべての空間的方向において高度に解像されたラベル分子のロケーション情報を含む。
【0061】
図5は、サンプル7を高分解能で結像する顕微鏡6を概略的に示している。このサンプルは、たとえば染料DRONPA(国際公開第2007/009812号パンフレット参照)でラベル付けされる。活性化及び蛍光励起のために、顕微鏡6は個々のレーザー9及び10を有する放射源8を有し、レーザー9及び10のビームはビームマージャー11を介して組み合わされる。レーザー9及び10は、たとえば405nm(活性化放射)及び488nm(蛍光励起及び不活性化)の放射を放出することができる。活性化及び蛍光励起を1つの同じ波長で起こすことができる染料(たとえば、DENDRAと呼ばれる染料(Gurskaya他著、Nature Biotech(volume 24, pp. 461-465, 2006)参照)も知られている。この場合、1つのレーザーで十分である。
【0062】
音響光学フィルター12が、波長選択及び個々のレーザー波長の高速スイッチング又は減衰に用いられる。レンズ系13は、ダイクロイックビームスプリッター14を介して放射を対物レンズ15の瞳内に合焦させ、その結果、放射源8の放射は広視野照明としてサンプル7に入射する。
【0063】
サンプル7において起こる蛍光放射は対物レンズ15を介して収集される。ダイクロイックビームスプリッター14は、蛍光放射が通過することを可能にするように設計され、その結果、蛍光放射はフィルター16を通過してチューブレンズ17内に入り、その結果、蛍光サンプル7が検出器5上に全体として結像される。
【0064】
顕微鏡6の動作を制御するために、制御装置が設けられ、ここではディスプレイ19及びキーボード20を有するコンピューター18として形成されている。本方法のステップS2〜S6はコンピューター18内で行われる。マトリックス検出器の像レートは、全測定時間にとって決定的であり、その結果、可能な限り高い像レートを有するマトリックス検出器5が、測定時間を短縮するのに有利である。
【0065】
説明した方法は、顕微鏡6を用いて、たとえば空間分解能が該顕微鏡の光学分解能と比較して10倍増進した完全な像を実現する。顕微鏡6の光学分解能は、たとえば横方向に250nm及び軸方向に500nmとすることができる。
【0066】
PAL顕微鏡法の顕微鏡6の動作については、もちろん、分離されるラベル分子1の割合が可能な限り高いことが必要不可欠である。その理由は、その場合、わずかなフレームしか必要ではなく、像取得速度が最適であるからである。したがって、コンピューター18の形態の制御装置は、図3を用いて説明した方法の枠内で、図6を参照して説明することができる閉ループ制御を実行する。
【0067】
図6は方法を示している。この方法において、図3ですでに表されたステップであってこの図を用いて説明されるものには同じ参照番号が提供されており、したがって、説明を繰り返す必要を回避している。図6は、開始ステップS0及び終了ステップS9と、像取得が完了したか否かに関する照会S7(本方法の図3でも暗黙的に設けられていたもの)に加えて、フレーム評価及び変数変更を表すステップS8も示している。このステップS8において、以前に生成されたフレームが評価され、この評価の結果、スイッチング信号の導入(ステップS1)中の、蛍光励起(ステップS2)中の、及び/又は、蛍光検出(ステップS3)中の、動作パラメーターの変更が行われる。ステップS8は、各フレームの生成ごとに実行される必要はない。要求される制御速度及び正当な制御努力に応じて、ステップS8は、パス2回ごとに1回のみ、パス3回ごとに1回のみ、等行うこともできる。この場合、ステップS8が最後に実行されてから生成された単一のフレーム又はフレーム群全体を評価に用いることができる。
【0068】
フレーム評価によって、たとえば蛍光ラベル分子の分離の尺度である品質関数が生成される。包括的に前述した各手法を、このフレーム評価において個々に又は任意の所望の組み合わせで用いることができる。
【0069】
加えて、フレーム評価は、サンプルに明示的に付加される標識(ただし、分析すべきサンプル要素を標識付けする働きをするものではなく、フレーム取得を最適化するためにのみ評価されるもの)を対象とすることができることに触れておくこともできる。
【0070】
図7には、図5の顕微鏡6の発展形が表されている。この発展形では、説明したPALM法に加えて、標準的な顕微鏡法、すなわち回折が限界となる分解能を有する顕微鏡法も、同時に実行することができる。顕微鏡6の各要素に対応する、図7に示す顕微鏡21の各要素には、同じ参照番号が提供されている。上記説明は、特に断りのない限り、図7に示す要素にも同じく当てはまる。
【0071】
顕微鏡21は、構造がモジュール形式であり、本発明をより良く示すためにかなり完全なバージョンで説明される。しかしながら、わずかなモジュールしか有しない縮小構造も可能である。モジュール構造も必要ではなく、一体型の設計又は非モジュール形式の設計も同様に可能である。顕微鏡21は、従来のレーザー走査顕微鏡に基づいて構成され、サンプル7を記録する。
【0072】
すべての顕微鏡法について、放射は対物レンズ15を通過する。ビームスプリッター14を介して、対物レンズ15は、チューブレンズ17と共に、サンプル7を検出器5(一般的には面検出器)上に結像する。この点で、顕微鏡21は、従来の光学顕微鏡モジュールを有し、サンプル7から対物レンズ15及びチューブレンズ17を通って検出器5へのビーム経路は、従来の広視野検出ビーム経路に対応する。ビームスプリッター14は、好ましくは、異なるダイクロイック特性を有するビームスプリッター又は米国特許出願公開第2008/0088920号明細書による色消しビームスプリッター(achromatic beam splitter)の間でスイッチングすることができるように交換可能である。
【0073】
対物レンズ21へのビーム経路には、レーザー走査モジュール22も接続されている。このレーザー走査モジュール22のLSM照明及び検出ビーム経路は、同様の(好ましくは交換可能な)さらなるビームスプリッター23を介して、対物レンズ15へのビーム経路内に連結されている。レーザー走査モジュール22はいくつかの構成要素を有する。レーザー装置24は、駆動された位相変調器26に基づいて動作するレーザー25を備える。次に、レンズ系27は放射をDMD28上に合焦する。LSMモジュールの検出アームについて、LSM検出器29は、中間像面に配置されている共焦点絞り30と共に、図4に例として示されている。検出アームは、ビームスプリッター23を通じて内部に連結されている。ビームスプリッター14及び23は、任意選択として、組み合わされて1つのビームスプリッターモジュール12にされ、その場合、それにより、用途に応じてそれらのスプリッターをスイッチングすることができる。
【0074】
レーザー走査モジュール22のレーザー装置24は、放射源8と同様に、PALM動作に必要な放射を生成し、したがって、さまざまな波長の放射を放出することができるか、又はいくつかのレーザー源を備える。
【0075】
オンにスイッチングすることができるTIRF照明を実現する任意選択のTIRF照明モジュール31が、さらなる照明モジュールとして設けられる。このTIRF照明モジュール31は、放射を生成するか、又は、放射源(たとえばレーザー)から光ファイバーを介して放射を得る。TIRF照明モジュール31は、対物レンズ15において、対物レンズ13の光学軸に対して調整可能な角度でTIRF照明を放射するように形成される。このように、カバーガラスにおける全反射の角度を容易に保証することができる。TIRF照明モジュール31は、光学軸上で照明ビームを放射する場合、広視野照明源として動作することもできる。
【0076】
顕微鏡1のモジュール及びドライブ並びに検出器はすべて、あまり正確には特定されていないライン(破線として描かれている)を介して制御装置32に接続されている。この接続は、たとえばデータ及び制御ネットワーク33を介して行うことができる。制御装置32は、さまざまな動作モードで顕微鏡21を制御する。
【0077】
制御装置32は、標準的な顕微鏡法(すなわち、広視野顕微鏡法(WF)、レーザー走査顕微鏡法(LSM)、全反射蛍光顕微鏡法(TIRF))を顕微鏡21において実行し、これらを高分解能顕微鏡法PALMと組み合わせるように形成される。
【0078】
図7には、ディスプレイ19を有するコンピューターも例としてさらに表される。このコンピューターは、データ及び制御ネットワーク33にも接続されている。制御装置32は、データ及び制御ネットワーク33を介して、組み合わせ顕微鏡21の個々の構成要素に接続される。
【0079】
サンプル7を制御装置32の制御下で移動させることができるサンプルステージ42も図7には示されている。このようなサンプルステージも、もちろん図7の他のすべての細部と同様に、図5の顕微鏡6においても可能である。
【0080】
顕微鏡21は、改善された活性化及び/又は励起もさらに可能にする。
【0081】
第1に、特定関心領域(ROI(region of particular interest))を、ユーザーが自ら選択してもよく、コンピューターによってサポートされて選択してもよく、又は自動的に選択されてもよく、これに従って、レーザー装置24からの活性化放射の制御が影響を受ける。このため、レーザー24からのレーザー放射によってその表面全体にわたって照明されるDMD28が用いられる。このとき、選択されたROIのみが照明され、このためラベル物質(たとえばDRONPA又はEOS−FP)の光学的活性化がこれらの領域においてのみ行われるように、DMDの個々のミラーが設定される。DMD28の残りのミラーは、オフにスイッチングされた位置のままであり、それらのミラーに向けられた放射は、ビームトラップ(図示せず)に吸収される。
【0082】
第2に、活性化出力を連続的に減衰させるために、オンにスイッチングされたDMDミラーを時間変調することができる。それによって、特にPALM法にとって有利なことに、活性化出力を分子濃度に効率的に整合させることができ、その結果、局所的なラベル分子の濃度にかかわらず、活性化された分子は、それぞれ、顕微鏡21の光学分解能よりも大きな距離で配置される。したがって、特に、活性化強度及び/又は空間分布を、説明した制御の枠内で適切に設定することができるので、サンプル7を特に高速に検査することができる。局所的な調整は、強い局所的な濃度変化が発生した場合、たとえば、淡く染色されたエリアに明るいエリアが隣接している場合に特に有利である。たとえばラベル物質の局所的に異なるブリーチング(これは、サンプル7の構造的な変動のために起こる可能性がある)によって、このとき、活性化制御と特に有利にバランスさせることができる局所的な濃度変化をさらにもたらすことができる。
【0083】
事前に規定されたROIを任意選択の位相変調器26によって活性化する場合、DMD28の全体に代替的又は付加的にROIパターンを結像実行することができる。DMD28は、その後、微調節のみを行う。したがって、レーザー25の出力は、サンプル7のラベル分子を活性化するためにほぼ完全に用いられる。その目的のために、位相変調器26は、(レーザー25から見て)DMD28の前の瞳面に配置され、レンズ系27(個別のレンズによって実現することもできる)の焦点距離への距離に配置される。DMD28は、レンズ系27の後ろの同じ距離に配置される。代替的に、たとえば、ROI選択が位相変調器26を通じて行われ、レーザー源25の強度がたとえばレーザーの下流にある強度変調器又はレーザー25の直接的な強度変調によって全体的に調整される場合、DMD28を省略することもできる。この強度変調は、もちろん、異なる設計の顕微鏡を用いても、説明した調整において原理的に十分に可能である。
【0084】
図5又は図7の組み合わせ顕微鏡の助けにより、LSM顕微鏡像及びPAL顕微鏡像を順次又は同時に記録すると共に、1つ又は複数のPALMフレームから得られた情報によるだけでなく、LSM顕微鏡像から生成されたデータを用いてもPAL顕微鏡像の取得を調整することがさらに可能である。
【0085】
フレーム取得を調整するのに用いられる変数は、次のものとすることができる。
1.検出側:
a.周波数帯域/フィルター;
b.増幅率(たとえばプリアンプ利得、EMCCD利得);
c.検出器の温度;
d.検出の積分時間;
e.検出の検出モード(たとえば光子カウント、ベースラインクランプ);
f.特定のROIのみの読み出し;
g.検出された放射の偏光;
h.焦点。
2.励起側:
a.放射励起及び/又は活性化励起;
i.パルス形状又はCW;
ii.出力及びパルス周波数;
iii.波長;
b.放射持続時間;
c.局所的に特定の(ピクセルごとの)励起、又は特定のROIの励起、又はエリア全体にわたる励起;
d.照明場のサイズ;
e.TIRF照明の場合の侵入深さ;
f.焦点位置。
3.サンプル側:
サンプル内の観測領域の位置。
【0086】
フレーム評価は、特に、以下のパラメーターに関する情報を提供することができる。
1.染料特性:
a.ブリーチングレート;
b.励起/放出スペクトル;
c.寿命;
d.活性化しきい値;
e.1分子当たりの光子レート;
f.フラッシュ頻度;
2.結像/像特性:
a.個々の活性化された分子の測定された点像分布関数の形状及び強度だけでなく、サンプルに組み込まれる可能性のある標識(たとえば金のビード)の測定された点像分布関数の形状及び強度、さまざまな色で測定されたPSFの形状及び強度の差;
b.個々の分子が平均して可視的である期間;
c.1つの点像分布関数当たりの、空間的かつ時間的に重なり合う活性化された分子の数(「活性化密度」の尺度);
d.(局所的に規定された)ラベル分子密度。たとえばさらに別の波長の蛍光の強度によって測定されたラベル分子密度。これは、(たとえばtdEosのような)2つの蛍光状態間でスイッチング/変換する染料について可能である。ラベル分子密度は、たとえば早期像(すでに変換されたがブリーチングされていなさまざまなラベル分子を見ることができるもの)によって、測定波長の蛍光を介して求めることもできる。加えて、さらに別の相関着色又は他のコントラスト方法を介してラベル密度も推定することもできる。
e.1分子当たりの収集された光子の数;
f.1フレーム当たりの活性化された分子の数;
g.1フレーム当たりの分子の平均ロケーション精度;
h.カメラを保護するために、一つには、用いられるフィルターと個々のレーザー波長の励起線との組み合わせを用いることができ、また、もう一つには、他の波長で検出される蛍光の測定強度を用いることもできる。
i.異なり得る励起波長を用いて取得された各蛍光像の相関、又は、たとえばDIC等のさらに別のコントラスト方法からの像との相関。
【技術分野】
【0001】
サンプルの、空間的に高分解能のルミネセンス顕微鏡法のための方法であって、
前記サンプルは、ラベル分子を用いて活性化され、
前記ラベル分子は、活性化状態でのみ特定のルミネセンス放射を放出するように励起することができるように、スイッチング信号によって活性化することができ、
前記方法は、次の各ステップ、すなわち、
a)前記サンプルに存在する前記ラベル分子のサブセットのみが活性化されるように前記スイッチング信号を前記サンプル上に導入するステップであって、
前記サンプル内にエリアの各部分が存在し、
前記各部分において、活性化されたラベル分子が、最も近い近傍の活性化されたラベル分子まである距離を有し、前記ある距離は、少なくとも所定の光学分解能に起因する長さ以上である、
前記スイッチング信号を前記サンプル上に導入するステップと、
b)前記活性化された分子をルミネセンス放射を放出するように励起するステップと、
c)前記ルミネセンス放射を前記所定の光学分解能で検出するステップと、
d)ステップc)において記録された前記ルミネセンス放射からフレームを生成するステップであって、
ルミネセンス放射を放出する前記ラベル分子の幾何学的ロケーションが、前記所定の光学分解能を超えて増進された空間分解能で特定される、
フレームを生成するステップと、
を有し、
これらのステップは、数回繰り返され、
そのようにして得られたそれらいくつかの前記フレームが組み合わされて全体像にされる
方法において、
前記各フレームの取得の制御は、
ステップd)の後に、前記フレームのうち少なくとも1つを評価すること、又は、一群の前記フレームを評価することと、
ステップa〜dの少なくとも1つの変数を、ステップa〜dの後続の繰り返しのために変更することと
によって行われることを特徴とする、方法。
【背景技術】
【0002】
生物学的標本を検査するための光学顕微鏡法の標準的な使用分野が、ルミネセンス顕微鏡法である。この過程では、サンプル、たとえば、細胞の一部を特異的にラベル付けするために、特定の染料(いわゆる、燐光体又は蛍光体)が用いられる。そのサンプルは、記述されるように、励起放射を実現する照明放射を照射され、これにより励起されたルミネセンス放射が適切な検出器によって記録される。このために、通常、顕微鏡内に、ブロックフィルターと組み合わせてダイクロイックビームスプリッターが設けられており、それによりルミネセンス放射を励起放射から分離し、別々に観察できるようにする。この手順によれば、異なる色に着色される個々の細胞部分の像を顕微鏡により形成することができる。当然ながら、標本の異なる構造に対して特異的に付着する異なる染料を用いて、標本のいくつかの部分を同時に着色することもできる。この方法は、多重ルミネセンスと呼ばれる。サンプル自身がルミネセンスを生じるものは、それゆえ染料を添加せずに調査することもできる。
【0003】
ここで、ルミネセンス(luminescence)とは、概ね通常通りに、燐光(を発すること)(phosphorescence)及び蛍光(を発すること)(fluorescence)の総称として理解されており、それゆえ、両方の過程を含む。本明細書において蛍光に言及するとき、これは全体を代表する一部分(pars pro toto)であり、限定するものではないことが理解されるべきである。
【0004】
サンプルを検査するために、レーザー走査型顕微鏡(略して、LSMともいう)を用いることも知られており、レーザー走査型顕微鏡は、3次元で照明される像から、共焦点検出構成によって(共焦点LSMと呼ばれる)、又は非線形サンプル相互作用(いわゆる、多光子顕微鏡法)によって、対物レンズの焦点面内に位置する平面のみを結像する。光学的断面が生成され、その後、サンプルの異なる深度にあるいくつかの光学的断面を記録することによって、適切なデータ処理デバイスの助けを借りて、異なる光学的断面から構成される、サンプルの3次元像を生成できるようになる。したがって、レーザー走査型顕微鏡法は、厚い標本を検査するのに適している。
【0005】
当然ながら、ルミネセンス顕微鏡法及びレーザー走査型顕微鏡法の組み合わせも用いられ、その組み合わせによれば、ルミネセンスを生じるサンプルが、LSMの助けを借りて異なる深さの平面において結像される。
【0006】
原理的に、光学顕微鏡の光学分解能は、LSMの光学分解能と同様に、物理法則により、回折が限界となる。これらの限界内における最適な分解能を得るために、たとえば4Pi配置又は定在波場を有する配置等の特定の照明構成が知られている。この場合、分解能を、特に軸方向で標準的なLSMの分解能よりも明らかに改善することができる。非線形デポピュレーション(non-linear depopulation)プロセスを用いると、回折が限界となる共焦点LSMと比較して最大10倍に分解能をさらに増進させることができる。このような方法は、たとえば特許文献1に記載されている。たとえば、特許文献2、特許文献3、又は特許文献4に記載されているように、デポピュレーションプロセスについてさまざまな手法が知られている。
【0007】
分解能を増進させるさらなる方法は、特許文献5で検討されている。この特許文献では、非線形プロセスが構造化照明によって利用されている。この文献は、非線形としての蛍光の飽和に触れている。記載された方法は、構造化照明を通じて、光学系の透過関数に対して物体空間スペクトルをシフトすることを実現することを主張している。具体的には、スペクトルのシフトとは、物体空間周波数V0が空間周波数V0〜Vmで透過されることを意味する。ここで、Vmは構造化照明の周波数である。これによって、系により最大限に透過可能な所与の空間周波数において、シフト周波数Vmによる透過関数の最大周波数を超える物体の空間周波数の伝達が可能になる。この手法には、像生成用の再構成アルゴリズム及び像用のいくつかのフレームの利用が必要とされる。また、この方法では、必要な構造化照明がサンプルの体積全体を覆うので、サンプルが、検出される焦点の外側のエリアで放射によるストレスを不必要に受けることが不利であると考えられる。さらに、この方法は、現在のところ、サンプルが厚い場合には用いることができない。これは、焦点外の励起蛍光も背景信号として検出器に達し、したがって、検出される放射のダイナミックレンジを劇的に低減させるからである。
【0008】
レーザー走査型顕微鏡法とは関係なく、回折の限界を超える解像度を達成する方法も、特許文献6及び特許文献7から知られている。略してPALM(光活性化光学顕微鏡法)と呼ばれるこの方法は、光学活性化信号によって活性化することができるラベル物質を使用する。ラベル物質は、特定の蛍光放射を放出するように励起放射によって励起することができるが、この励起は活性化状態においてのみ可能となる。また、ラベル物質の活性化されない分子は、励起放射の照射後に、全く、又は少なくとも目立つほどの蛍光放射を放出しない。したがって、活性化放射は、ラベル物質を蛍光励起させることができる状態にスイッチングする。異なる活性化、たとえば熱式の活性化も可能である。したがって、一般的な用語であるスイッチング信号が用いられる。PALM法では、活性化されるラベル分子の少なくともある割合が、隣接する活性化された分子から離隔して配置され、その結果として顕微鏡法の光学解像度によって測定されるように分離されるか、又は後に分離することができるように、スイッチング信号が加えられる。こうして、活性化された分子は少なくとも大まかに分離される。ルミネセンス放射を記録した後、次に、これらの分離された分子について、解像限界であるように生成される放射分布の中心が特定され、そこから、光学的結像そのものによって可能である精度よりも高い精度で、分子の位置が計算によって求められる。回折分布の中心を計算で求めることによってこのように高められる解像度は、最先端技術において「超解像」とも呼ばれる。その場合、活性化されるラベル分子のうちの少なくともいくつかは、ルミネセンス放射が検出される光学解像度で、サンプル内で区別可能である必要があり、それゆえ、分離される必要がある。そのような分子の場合に、その後、高められた解像度で位置情報をもたらすことができる。
【0009】
個々のラベル分子を分離するために、PALM法は、所与の強度のスイッチング信号(たとえば活性化放射の光子)を受け取った後にラベル分子が活性化される確率は全ての分子について同じであるという事実を利用する。スイッチング信号の強度、それゆえ、サンプルの単位面積当たりに衝突する光子の数によって、サンプルの所与の単位面積内に存在するラベル分子を活性化する確率を非常に小さくし、光学解像度の範囲内で、区別可能なラベル分子のみが蛍光放射を放出するのに十分な面積が存在するのを確実にすることができる。スイッチング信号の強度(たとえば光子密度)を適切に選択する結果として、可能な限り、光学解像度に対して分離されるラベル分子のみが活性化され、その後、蛍光放射を放出する。これらの分離される分子について、その後、回折を条件とする強度分布の中心が、それゆえラベル分子の位置が、高められた解像度で計算によって特定される。サンプル全体の像を形成するために、活性化放射を導入し、その後、励起して、蛍光放射で像を形成することによって、サブセットのラベル分子を分離することが繰り返される。これは、可能な場合には、全てのラベル分子がサブセット内に一度含まれ、像を形成する解像度において分離されるまで繰り返される。
【0010】
PALM法は、活性化のためにも、励起のためにも高い局所解像度が不要であるという利点がある。代わりに、広視野照明において、活性化及び励起の両方を行なうことができる。
【0011】
結果として、活性化放射の強度を適切に選択することによって、ラベル分子は部分的な量において統計的に活性化される。それゆえ、サンプルの完全な像を生成する(たとえば、回折の限界を超える解像度で、全てのラベル分子のロケーションを計算によって求めることができる)ために、複数のフレームが評価されなくてはならない。フレームは最大10,000個になる可能性がある。この結果、大量のデータが処理され、測定は、それに応じて長い時間続く。完全な像を取得するだけでも数分を要する。これは、本質的には、用いられるカメラの読み出しレートによって決定される。フレーム内における分子の位置の決定は、たとえば、Egner他著、Biophysical Journal, pp. 3285-3290, volume 93, November 2007に記載されているような手の込んだ計算手順によって行われる。すべてのフレームを処理し、それらのフレームを組み合わせて高分解能の完全な像にすること、したがって、ラベル分子のロケーションが回折の限界を超える分解能で与えられる像にすることは、通常、4時間続く。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第5866911号明細書
【特許文献2】独国特許第4416558号明細書
【特許文献3】米国特許第6633432号明細書
【特許文献4】独国特許出願公開第10325460号明細書
【特許文献5】欧州特許第1157297号明細書
【特許文献6】国際公開第2006/127692号パンフレット
【特許文献7】独国特許第102006021317号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、より高速な像形成が達成されるようなPAL顕微鏡法を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的は、冒頭にある名称のタイプの方法によって達成される。この方法では、ステップd)を実行した後に、少なくとも1つのフレームを評価すること又は一群のフレームを評価することと、ステップa〜dの少なくとも1つの変数を、ステップa〜dの後続の繰り返しのために変更することとによって、いくつかのフレームの取得の調整が行われる。
【0015】
本発明によれば、フレームの取得は、このとき、フレーム又は一群のフレームを評価することと、フレーム取得に関連するある変数の変化を該評価から導出することと、対応する変数をそれに応じて変更することとによって、閉ループ制御された方法で実行される。
【0016】
したがって、本発明は、ロケーションを特定する分子のサブセットをそれぞれ含むフレームから高分解能像を漸進的に構成するPALM法において結像の特定の性質を用いる。像取得のための少なくとも1つのパラメーターが、フレームの分析によって最適化され、その結果、像全体の取得がより高速に進む。
【0017】
PALM顕微鏡法プロセスの開始前に可能な限り最適に事前に設定される多くのパラメーターが最先端技術において知られている。ここで、フレーム又は一群のフレームを評価することにより、像取得中にパラメーター最適化の導出を通じて、取得速度がより高くなる像取得の調整が行われる。
【0018】
これは、像取得が全体的により高速に進むだけでなく、像の取得のための準備時間も低減されるという利点を有する。最初から像取得パラメーターを最適な値に設定するために、測定前に動作パラメーターの基本条件を注意深く特定するのに必要な作業が少なくなる。このとき、最適な値は、像取得中の進歩的な調整に由来するものである。
【0019】
本発明による方法のさらなる利点は、最適な像取得パラメーターに影響を与える境界条件が、ここでは、取得持続時間に影響を与えることなく像取得中に変化することができるということにもある。この簡単な例は、異なる像断面(image section)を選ぶためにサンプルをシフトさせることである。これによって、異なる濃度のラベル分子を有するサンプルエリアを持ってくることができ、したがって、必然的に異なる最適なスイッチング信号強度を現在の像場内に持ってくることができる。本発明による動的な最適化方法により、境界条件が変動する場合であっても、フレーム分析の結果としての像取得パラメーターの調整を通じて、最適な像取得パラメーターが常に高速に得られ、したがって、像取得持続時間が全体的に低減されることが保証される。
【0020】
境界条件の変動は、もちろん、アパーチャ又はサンプルの安定限界、たとえば焦点ドリフト又は温度変化に起因しても起こる可能性がある。これらも、ここでは、像取得が調整中に自動的に対応するので、取得持続時間に影響を与えない。
【0021】
本発明による制御によって、最適化だけでなく機器保護機能も保証することができる。すなわち、通常用いられる高感度の検出器又はカメラは、何らかの正しくないフィルター設定、蛍光に対する正しくない励起出力等に起因して偶然に損傷を受け易い。全体像の取得中の調整によって、このような損傷が防止される。
【0022】
PALM像取得の場合、ラベル分子の(たとえばブリーチングによる)活性化から非活性化への比が、全体的な像取得速度に密接に関連する。非同期の活性化及び蛍光励起が速度を最適化するのに役立つことができることが、国際公開第2006/127692号パンフレットにすでに説明されている。独国特許出願公開第102006021317号明細書は、互いに隔てられ、したがって顕微鏡の光学分解能に対して分離している転化分子の部分に関連する割合をも与える。これらの固定された事前設定は、本発明では不要であり、開始値にすぎない。
【0023】
最適な測定パラメーターの値は、フレームから導出され、後続のフレーム取得中に変数を訂正する際の対応する変更により、像取得速度又は他の基準(たとえば上述した装置保護)について調整される。したがって、新しいフレーム取得サイクルは、以前のフレーム分析に基づいて変更されてより最適な(たとえば、より高速な)取得をもたらす設定を用いて実行される。
【0024】
フレームレベルの高速化は必ずしも起こる必要はない。取得持続時間の短縮は、たとえば、とりわけ、部分的な量への分割が改善されることから、必要なフレームを少なくすることによっても達成することができる。
【0025】
部分的な量にわたる活性化されたラベル分子(及び後に蛍光ラベル分子)の分布は、全体像取得の高速化にとって必要不可欠である(各サブセットは、この場合、1つのフレームに対応する)。したがって、本発明の一実施の形態では、調整のために、品質関数が評価され、その値が最大にされることが提供される。この品質関数は、直接又は間接的に、ラベル分子の比率の尺度となる。この比率は、活性化されたラベル分子であって、その最も近い近傍の活性化されたラベル分子までの距離が、少なくとも所定の光学分解能で解像することができる距離となる、そのようなラベル分子の比率である。この品質関数は、特に、活性化された分子、したがって蛍光分子の密度測定値とすることができる。フレームにおける蛍光分子の明度が可能な限り均質であることが、像取得速度に関して適した像取得の指標となり、したがって可能な品質基準となる。
【0026】
以下の検討によって、特に適した品質関数がもたらされる。すなわち、理想的には、単一のラベル分子のみが、空間的に解像可能なエリア/体積内のルミネセンスに寄与する。原理的には、局所的に解像可能な体積には整数個の量の分子しか存在し得ない。したがって、空間分解能によって規定される領域内には、1つのラベル分子、2つのラベル分子、3つのラベル分子、等のいずれかから発するルミネセンス放射しか起こり得ない。したがって、近傍のルミネセント領域から分離されたルミネセント領域内のルミネセンス評価によって、そのルミネセント領域には1つのラベル分子が存在したのか又は2つ以上のラベル分子が存在したのかを、しきい値分析によって認識することが可能になる。したがって、発展形においては、近傍のルミネセント領域から分離されたルミネセント領域が、評価されたフレームのそれぞれにおける品質関数の評価用に特定され、分離されたルミネセント領域のそれぞれによって放出されたルミネセンス放射の量の尺度が、各分離されたルミネセント領域について特定され、測定値がしきい値未満であると特定されている領域の比率が、品質関数の値として与えられることが好ましい。しきい値は、便宜上、1つのラベル分子しかルミネセンス放射を放出しなかった領域に対応するルミネセンス量測定値をわずかに上回るように選ぶことができる。
【0027】
放出されたルミネセンス放射の尺度は、特定された領域にわたるルミネセンス強度の積分とすることができる。他のパラメーターも等しく可能である。ルミネセント領域で発生するルミネセンス強度の最大値が尺度として用いられる場合、本方法は特に焦点ぼけによる影響を受けないことが示される。
【0028】
当然ながら、背景雑音が像の取得中に常に影響を与える。したがって、この明細書本文で分離された領域に言及している箇所では、これは、記録された強度がしきい値未満に低下したが、背景雑音のために必ずしもゼロである必要はないことを意味するものと理解されるべきである。
【0029】
したがって、放出されたルミネセンス放射の量の尺度は、いずれの場合にも、特定されている分離されたルミネセント領域におけるルミネセンス放射強度の積分又はルミネセンス放射強度の最大値であることが好ましい。
【0030】
ルミネセントラベル分子の密度のさらなる可能な指標は、最も近い近傍のルミネセント領域までの、ルミネセント領域が有する距離である。この距離は、たとえば、特定されたルミネセント領域の周りに適切な円をフィットさせることによって測定することができる。
【0031】
好ましくは、特定された分離ルミネセント領域の、最も近い近傍のルミネセント領域までの最小距離が求められ、そして、領域間の最小距離が、所定の光学分解能によって事前に設定された解像可能最小距離よりも、又は、この解像可能最小距離の事前に設定された倍数よりも、大きくなる領域の比率が、品質関数の値として取得される。
【0032】
一代替的な手法は、局所的な蛍光強度最大値の周囲の記録された全放射が、局所的な最大値の周囲の特定の距離内にあるか否かをチェックすることである。局所的な強度最大値が1つのルミネセントラベル分子からのものであり、このラベル分子が分離されている場合、ルミネセンス強度は、分解能限界を超えて、背景雑音によって規定される最小値に下がっていることになる。他方、局所的な最大値の周囲の所与の距離でそのようなしきい値にまだ達していない場合、最大値が2つ以上のルミネセントラベル分子からのものであるか、又は光学的に解像可能な距離にないルミネセントラベル分子がさらに存在する。
【0033】
したがって、品質関数を評価するために、近傍のルミネセント領域から分離されたルミネセント領域が、評価されるフレームのそれぞれにおいて特定され、これらの分離されたルミネセント領域のそれぞれについて、このルミネセント領域のサイズが、光学分解能に基づいて事前に設定された尺度を基準にして特定されることが好ましい。また、フレームの全表面の比率が品質関数の尺度として用いられ、ルミネセント領域の局所的な最大値の周囲の範囲が、光学分解能から導出されたサイズよりも小さく、特に最小の解像可能な長さの事前に設定された倍数よりも小さくなることが好ましい。
【0034】
これらの2つの変形形態について、ルミネセント領域のそれぞれについて、幾何学的中心又は局所的な強度最大値の周りに1つの円を配置することができる。その円内では、ルミネセンス強度は、特定の最小値に下がっていなければならないか、又はその円は最も近い近傍のルミネセント領域まで延びている。ルミネセンスが、事前に設定された円半径内において最大値未満に低下している領域の比率が、品質関数の値として取得される。あるいは、円半径が、解像可能最小距離よりも大きくなる領域の比率、または、最小距離の事前に設定された倍数となる領域の比率が、品質関数の値として選ばれる。
【0035】
原理的に、本方法は、すべてのフレームを個々に分析することができる。すなわち、本方法は、説明した画像評価手法をフレームごとに切り換えることができる。しかしながら、制御の安定性の観点から、同じタイプのフレーム評価を定常的に実行することが好ましい。さらに有利には、安定性の点で、連続したフレームのバッチが評価され、近傍のルミネセント領域から分離されたルミネセント領域が、評価されるフレームのそれぞれにおいて分離され、一群のうちただ1つのみのフレームでルミネセンスするルミネセント領域の比率が、品質関数の値として取得される。
【0036】
制御される補正変数は、以下のパラメーター、すなわち、フィルタリング、偏光フィルタリング、増幅、検出器温度、積分持続時間、検出場の選択、ルミネセンス放射の検出中の焦点の位置及びサイズ、出力、パルス形状、パルス周波数、波長、放射持続時間、放射場の選択、TIRF照明の侵入深さ、スイッチング信号の導入中又は活性化された分子の励起中の焦点の位置及びサイズ、のうちの少なくとも1つを含むことができる。
【0037】
次の変数、すなわち、ラベル分子のブリーチングレート、ラベル分子の励起スペクトル及び放出スペクトル、ラベル分子のルミネセンス状態の寿命、ラベル分子の活性化しきい値、ラベル分子のフラッシュ頻度(flash frequency)、個々のラベル分子が平均して可視的である期間、光学分解能の範囲内を同時に占めるルミネセントラベル分子の数、1ルミネセントラベル分子当たりの収集された光子の数、1フレーム当たりの活性化されたラベル分子の数、1フレーム当たりのラベル分子の平均ロケーション特定精度、のうちの少なくとも1つを記録し、像評価において評価することができる。
【0038】
閉ループ制御の枠内のさらなる最適化手法は、分子がどれくらいの間蛍光するのかをチェックする。理想的には、活性化され励起されたラベル分子は、ただ1つのみのフレームに寄与する。その理由は、可能な限り多くのラベル分子が分離している確率がその時最大であるからである。2フレーム以上にわたってルミネセンス放射に励起することができる分子は、次のステップに現れるラベル分子、すなわち新しく活性化されたラベル分子と組み合わされ、分離不能なルミネセント領域を形成する可能性がある。これは望ましくない。したがって、説明する変形形態は、ただ1つのフレームにわたってのみルミネセンス放射を放出する個々の分子の数を最適化する。ブリーチングによって(すなわち、非常に強い励起であるので、ラベル分子が永久的又は少なくとも一時的にルミネセンスに再び励起することができない励起によって)、ラベル分子を不活性化している間、或るフレームの間、ルミネセンス放射を放出するラベル分子の最適化を、励起強度を増加させることによって達成することができる。この変形形態は、変数の補正をラベル分子の活性化に自動的に関与させる必要はないが、変数の補正が励起にも確かに影響を与えることができることを示す一例である。
【0039】
像取得速度を増加させるのに特に有利なさらなる変形例は、検出の同期と、活性化又は励起の同期である。特に、たとえば、染料特性(ブリーチングレート、スイッチングサイクル、励起スペクトル及び放出スペクトル、寿命、等)が、最適なPALM像取得には重要である。平均すると、個々のラベル分子をルミネセンスに励起させることができる状態に該個々のラベル分子が留まっている持続時間は、ステップc)におけるルミネセンス放射の検出に整合されるべきである。ステップc)では、特に、ラベル分子が検出ステップc)内でそのルミネセンス放射を可能な限り多く放出し、時として2つの連続したフレームの間検出ステップに対応しないように、照明持続時間に整合されるべきである。ルミネセントラベル分子のほとんどは、最適化された像取得速度では、検出ステップの非常にわずかなフレームにおいてしか可視的でないので、2つの境界フレーム(分子がルミネセンスを開始又は終了するフレーム)は、全体的に収集されるルミネセンス信号のかなりの比率を表す。像取得中に(したがって、たとえばCCDカメラの積分時間中に)、フレームをできるだけ有効に利用するために、活性化放射の時間変調された強度が、その結果、ステップc)において検出器に同期して(たとえばカメラの動作に同期して)実行されることなり、その結果、分子の励起の確率は、可能な限りフレームの開始時に存在する。
【0040】
いくつかのタイプの光スイッチング可能たんぱく質の場合、可逆的又は不可逆的な不活性化の前のそれらの平均励起性範囲(average excitability range)は照明条件の関数である。光スイッチング可能タンパク質のルミネセンス放射は、該タンパク質のブリーチングの挙動における背景信号とは異なる。したがって、事前に特定されているブリーチングの挙動を用いて、ラベル分子を背景放射と区別することができる。代替的に、寿命を用いることもできる。この情報を用いて、調整範囲の限界を事前に設定することができる。
【0041】
上記の特徴、そして後にさらに説明されることになる特徴は、本発明の枠組みから逸脱することなく、与えられた組み合わせにおいてだけではなく、他の組み合わせにおいても、又は単独でも用いることができることは理解されたい。
【0042】
本発明は、本発明に不可欠である特徴も開示する添付の図面を用いて、例として以下に詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】分解能が限界となる体積における活性化されたラベル分子の概略図である。
【図2】さまざまな活性化されたラベル分子及び非活性化されたラベル分子を空間分解検出器上に結像させたものの概略図である。
【図3】PALM法での像生成のフローチャートである。
【図4】図2の検出器上に結像されたラベル分子に関する図3のフローチャートに関連した説明図である。
【図5】PAL顕微鏡法の顕微鏡の概略図である。
【図6】像形成パラメーターの調整を有するPALM法での像生成のフローチャートである。
【図7】サンプルエリアの選択用に開発された、図4の顕微鏡と同様の顕微鏡を示す図である
【発明を実施するための形態】
【0044】
図1は、蛍光励起されたラベル分子1を概略的に示している。もちろん、各励起は正確に1つの蛍光光子を放出し、放射検出には多くの蛍光光子のすべての積分を要するので、蛍光検出には複数の励起を要する。物理法則により、ラベル分子1によって放出された蛍光放射の顕微鏡における検出には、光学的な分解能の限界がある。その顕微鏡が回折という光学分解能の限界に達しても、蛍光ラベル分子1の光子は、依然として常に回折に起因して散乱されるので、エアリーディスク2として検出される。したがって、顕微鏡は、原理的には、黒色の円として図1に概略的に描かれるラベル分子1の幾何学的な大きさではなく、エアリーディスク2によって図1に示されるような、より大きな物体を描く。エアリーディスク2のサイズは、用いられる顕微鏡装置の品質に依存し、光学結像の点像分布関数(point-spread function)の半値幅によって規定される。もちろん、エアリーディスク2は、実際には2次元物体ではなく、蛍光光子が入射する回折体積である。しかしながら、図1の2次元図では、この体積はディスクとして現れる。したがって、エアリーディスクという用語は、使用するレンズ系が達成し得る最大分解能体積を意味するものと、ここではかなり一般的に解釈される。しかしながら、使用するレンズ系は、回折の限界で動作することが好ましい場合であっても、必ずしも回折の限界で動作しなくてもよい。
【0045】
次にエアリーディスク2内においてラベル分子1をより正確に突き止めることができるようにするために、上記で一般的に記述したPALM法が用いられる。この方法は、個々のラベル分子を活性化する。ここで、「活性化」という用語は、この明細書本文ではかなり一般的に、ラベル分子の特定のルミネセンス特性の活性化を意味し、したがって、ルミネセンス励起可能性のスイッチングオン及びルミネセンス放出スペクトルの変化の双方を意味し、特定のルミネセンス特性のスイッチングオンに対応する。ここで説明する実施形態では、活性化は光学活性化放射によってもたらされる。しかしながら、他の非光学な活性化メカニズムも等しく可能である。
【0046】
この時、活性化は、他の活性化された分子のエアリーディスク内に中心が存在しない分子が少なくとも数個存在するように行われる。すなわち、それらの分子は所与の光学分解能の下であっても正しく区別することができる。
【0047】
図2は、光子を局所的に解像する方法で積分する検出器5の一例示の状況を概略的に示している。見て分かるように、近傍のラベル分子のエアリーディスクが重なり合うエリア3が存在する。しかしながら、図2内の左側の各エリア3で見て分かるように、前もって活性化済みのラベル分子しかここには関連しない。非活性化ラベル分子1’は、マトリックス検出器5上に収集される特定の蛍光放射を放出しないので、影響を与えない。
【0048】
ラベル分子1は、それらのエアリーディスク2が他の活性化ラベル分子1のエアリーディスクと重なり合わないようなエリア4(たとえば、マトリックス検出器5の中央に位置するエリア4)に存在する。マトリックス検出器5における右側エリアは、活性化ラベル分子のエアリーディスクが重なり合う各エリア3が、これに該当しないエリア4に隣接して明確に位置している可能性があることを示している。右側のエリア4は、活性化ラベル分子1が非活性化ラベル分子1’に隣接していることが検出に影響を与えないということも明らかにしている。そのようなラベル分子1’は、マトリックス検出器5によって検出される蛍光放射を放出せず、したがって蛍光しないからである。
【0049】
次に、機器によってあらかじめ決まっている光学分解能が可能とする細部よりも詳細な細部を含む像を取得するために、図3に概略的に表すステップを用いる。この像は、本明細書における意味での高分解能像である
【0050】
第1のステップS1において、ラベル分子のサブセットがスイッチング信号によって活性化される。したがって、これらのラベル分子は、特定の蛍光放射を放出するように励起することができない第1の状態から、特定の蛍光放射を放出するように励起することができる第2の状態にスイッチングされる。もちろん、活性化信号は、選択的な不活性化を行うこともでき、したがって、逆手順(reverse procedure)をステップS1において用いることもできる。ステップS1の後、励起されて特定の蛍光放射を放出できるのはラベル分子のサブセットのみであるということが必要不可欠である。用いられるラベル分子に応じて、活性化又は不活性化が起こる(以下では、簡潔にするために活性化の場合のみが説明される)。たとえばDRONPA、PA−GFP、又は可逆的にスイッチング可能な合成染料(Alexa/Cyan構成物等)等の染料を用いると、活性化は光放射によって起こるので、スイッチング信号はスイッチング放射となる。
【0051】
図4は、ステップS1後の状態を部分像aに示している。ラベル分子のサブセットl_nのみが活性化されている。このサブセットのラベル分子は黒一色のスポットによって表されている。ラベル分子のうちの残りのものは、このステップでは活性化されていない。これらの残りのものは、図4の部分像aにおいてl_n+1によって示されている。
【0052】
活性化済みのラベル分子は、その後、第2のステップS2において励起されて、蛍光放射を放出することができる。蛍光染料としては、最先端技術から判明している蛍光タンパク質(好ましくはPA−GFP又はDRONPA等)が用いられる。このような分子の場合には、405nmの範囲の放射で活性化が起こり、約488nmの波長において蛍光放射への励起が起こり、蛍光放射は490nmを超える範囲にある。
【0053】
第3のステップS3において、たとえば記録された蛍光光子をすべて積分することにより、放出された蛍光放射が検出される。その結果、図4の部分像bに表される状況がマトリックス検出器5上で生じる。見て分かるように、活性化ラベル分子l_nのエアリーディスクは重なり合っていない。エアリーディスクのサイズは、マトリックス検出器5上への結像の光学分解能によって決まる。加えて、非活性化サブセットl_n+1に属する蛍光分子の(理論上の)エアリーディスクが、図4の部分像bに示されている。これらの非活性化ラベル分子は蛍光放射を放出しないので、それらの(理論上の)エアリーディスク内にある蛍光放射は、活性化ラベル分子のサブセットl_nの蛍光放射の検出と干渉しない。
【0054】
サブセットl_nにおいて重なり合うエアリーディスク(各ラベル分子を実際にはもはや区別することができないようなもの)をできるだけ少なくするために、活性化エネルギーは、サブセットl_nがラベル分子の総量の比較的少ない割合しか占めないように調整される。その結果、光学装置で解像可能な体積に比べて統計的に多くのラベル分子を区別することができる。
【0055】
第4のステップS4において、蛍光ラベル分子の位置が、蛍光ディスクの回折分布から計算により特定され、それによって、活性化ラベル分子の位置が判明する分解能は、図4の部分像cが示すように、光学装置の分解能を超えて鮮鋭化される。
【0056】
計算により求めることの一代替形態として、記録された蛍光放射を非線形に増幅し、したがって、より少ない手間で、光学装置を超えて分解能を鮮鋭化することが原理的に完全に可能である。非線形増幅は、たとえば関数S=A・FN(式1)又はS=A・expF/w(ただしw=10-N(式2))によって記述することができる。ここで、Fは蛍光信号の振幅であり、Aは倍率であり、Nは1よりも大きな整数である。パラメーターSがFに非線形に強く依存することが特に有利であり、したがって、たとえば式1又は式2におけるNの値が大きいことが特に有利である。もちろん、他の関数も用いることができる。原理的には、非線形性は、好ましくは、エアリーディスクの半値幅が、ラベル分子のロケーション情報について要求される空間分解能に対応するように選ばれる。非線形増幅に加えて、非線形減衰も用いることができる。この際、振幅又は強度が小さい蛍光信号は減衰されるのに対して、強い信号は少なくとも大幅には減衰されないまま維持される。もちろん、非線形増幅及び非線形減衰の組み合わせを用いることもできる。
【0057】
次に、第5のステップS5が、位置情報が正確に判明しているラベル分子を組み合わせてフレームにする。このフレームは、その空間分解能が光学分解能を超えて増進するものである。しかしながら、このフレームは、ラベル分子の前もって活性化されたサブセットに関する情報しか含まない。
【0058】
第6のステップS6において、このフレームは、既知の方法で全体像にされる。次に、この方法はステップS1に戻る。ステップS1において、これまでの蛍光分子を再び不活性化しなければならない。不活性化は、ラベル分子のタイプに応じて、別個の放射によって又は活性化状態の減退(fading)によって達成することができる。すでに結像されたラベル分子を励起放射によってブリーチング(漂白)することも可能である。
【0059】
全体像に寄与するさらなるフレームがこのようにして各パス(pass)で取得される。次のパスにおいて、ラベル分子の異なるサブセット、たとえば図4に表されるサブセットl_n+1が活性化される。
【0060】
ステップS1〜S6のパスを繰り返すことによって、光学的結像の分解能と比較して鮮鋭化されている空間分解能を有するラベル分子のロケーションを示す個々のパスのフレームから、全体像が構築される。このように、高分解能の全体像が、対応する回数の繰り返しを通じて、漸進的に構築されていく。z方向に離間されるいくつかの像スタックが記録される場合、この方法では、好ましくは3つすべての空間的次元でエアリーディスクの縮小が起こる。この場合、完全な像は、3つすべての空間的方向において高度に解像されたラベル分子のロケーション情報を含む。
【0061】
図5は、サンプル7を高分解能で結像する顕微鏡6を概略的に示している。このサンプルは、たとえば染料DRONPA(国際公開第2007/009812号パンフレット参照)でラベル付けされる。活性化及び蛍光励起のために、顕微鏡6は個々のレーザー9及び10を有する放射源8を有し、レーザー9及び10のビームはビームマージャー11を介して組み合わされる。レーザー9及び10は、たとえば405nm(活性化放射)及び488nm(蛍光励起及び不活性化)の放射を放出することができる。活性化及び蛍光励起を1つの同じ波長で起こすことができる染料(たとえば、DENDRAと呼ばれる染料(Gurskaya他著、Nature Biotech(volume 24, pp. 461-465, 2006)参照)も知られている。この場合、1つのレーザーで十分である。
【0062】
音響光学フィルター12が、波長選択及び個々のレーザー波長の高速スイッチング又は減衰に用いられる。レンズ系13は、ダイクロイックビームスプリッター14を介して放射を対物レンズ15の瞳内に合焦させ、その結果、放射源8の放射は広視野照明としてサンプル7に入射する。
【0063】
サンプル7において起こる蛍光放射は対物レンズ15を介して収集される。ダイクロイックビームスプリッター14は、蛍光放射が通過することを可能にするように設計され、その結果、蛍光放射はフィルター16を通過してチューブレンズ17内に入り、その結果、蛍光サンプル7が検出器5上に全体として結像される。
【0064】
顕微鏡6の動作を制御するために、制御装置が設けられ、ここではディスプレイ19及びキーボード20を有するコンピューター18として形成されている。本方法のステップS2〜S6はコンピューター18内で行われる。マトリックス検出器の像レートは、全測定時間にとって決定的であり、その結果、可能な限り高い像レートを有するマトリックス検出器5が、測定時間を短縮するのに有利である。
【0065】
説明した方法は、顕微鏡6を用いて、たとえば空間分解能が該顕微鏡の光学分解能と比較して10倍増進した完全な像を実現する。顕微鏡6の光学分解能は、たとえば横方向に250nm及び軸方向に500nmとすることができる。
【0066】
PAL顕微鏡法の顕微鏡6の動作については、もちろん、分離されるラベル分子1の割合が可能な限り高いことが必要不可欠である。その理由は、その場合、わずかなフレームしか必要ではなく、像取得速度が最適であるからである。したがって、コンピューター18の形態の制御装置は、図3を用いて説明した方法の枠内で、図6を参照して説明することができる閉ループ制御を実行する。
【0067】
図6は方法を示している。この方法において、図3ですでに表されたステップであってこの図を用いて説明されるものには同じ参照番号が提供されており、したがって、説明を繰り返す必要を回避している。図6は、開始ステップS0及び終了ステップS9と、像取得が完了したか否かに関する照会S7(本方法の図3でも暗黙的に設けられていたもの)に加えて、フレーム評価及び変数変更を表すステップS8も示している。このステップS8において、以前に生成されたフレームが評価され、この評価の結果、スイッチング信号の導入(ステップS1)中の、蛍光励起(ステップS2)中の、及び/又は、蛍光検出(ステップS3)中の、動作パラメーターの変更が行われる。ステップS8は、各フレームの生成ごとに実行される必要はない。要求される制御速度及び正当な制御努力に応じて、ステップS8は、パス2回ごとに1回のみ、パス3回ごとに1回のみ、等行うこともできる。この場合、ステップS8が最後に実行されてから生成された単一のフレーム又はフレーム群全体を評価に用いることができる。
【0068】
フレーム評価によって、たとえば蛍光ラベル分子の分離の尺度である品質関数が生成される。包括的に前述した各手法を、このフレーム評価において個々に又は任意の所望の組み合わせで用いることができる。
【0069】
加えて、フレーム評価は、サンプルに明示的に付加される標識(ただし、分析すべきサンプル要素を標識付けする働きをするものではなく、フレーム取得を最適化するためにのみ評価されるもの)を対象とすることができることに触れておくこともできる。
【0070】
図7には、図5の顕微鏡6の発展形が表されている。この発展形では、説明したPALM法に加えて、標準的な顕微鏡法、すなわち回折が限界となる分解能を有する顕微鏡法も、同時に実行することができる。顕微鏡6の各要素に対応する、図7に示す顕微鏡21の各要素には、同じ参照番号が提供されている。上記説明は、特に断りのない限り、図7に示す要素にも同じく当てはまる。
【0071】
顕微鏡21は、構造がモジュール形式であり、本発明をより良く示すためにかなり完全なバージョンで説明される。しかしながら、わずかなモジュールしか有しない縮小構造も可能である。モジュール構造も必要ではなく、一体型の設計又は非モジュール形式の設計も同様に可能である。顕微鏡21は、従来のレーザー走査顕微鏡に基づいて構成され、サンプル7を記録する。
【0072】
すべての顕微鏡法について、放射は対物レンズ15を通過する。ビームスプリッター14を介して、対物レンズ15は、チューブレンズ17と共に、サンプル7を検出器5(一般的には面検出器)上に結像する。この点で、顕微鏡21は、従来の光学顕微鏡モジュールを有し、サンプル7から対物レンズ15及びチューブレンズ17を通って検出器5へのビーム経路は、従来の広視野検出ビーム経路に対応する。ビームスプリッター14は、好ましくは、異なるダイクロイック特性を有するビームスプリッター又は米国特許出願公開第2008/0088920号明細書による色消しビームスプリッター(achromatic beam splitter)の間でスイッチングすることができるように交換可能である。
【0073】
対物レンズ21へのビーム経路には、レーザー走査モジュール22も接続されている。このレーザー走査モジュール22のLSM照明及び検出ビーム経路は、同様の(好ましくは交換可能な)さらなるビームスプリッター23を介して、対物レンズ15へのビーム経路内に連結されている。レーザー走査モジュール22はいくつかの構成要素を有する。レーザー装置24は、駆動された位相変調器26に基づいて動作するレーザー25を備える。次に、レンズ系27は放射をDMD28上に合焦する。LSMモジュールの検出アームについて、LSM検出器29は、中間像面に配置されている共焦点絞り30と共に、図4に例として示されている。検出アームは、ビームスプリッター23を通じて内部に連結されている。ビームスプリッター14及び23は、任意選択として、組み合わされて1つのビームスプリッターモジュール12にされ、その場合、それにより、用途に応じてそれらのスプリッターをスイッチングすることができる。
【0074】
レーザー走査モジュール22のレーザー装置24は、放射源8と同様に、PALM動作に必要な放射を生成し、したがって、さまざまな波長の放射を放出することができるか、又はいくつかのレーザー源を備える。
【0075】
オンにスイッチングすることができるTIRF照明を実現する任意選択のTIRF照明モジュール31が、さらなる照明モジュールとして設けられる。このTIRF照明モジュール31は、放射を生成するか、又は、放射源(たとえばレーザー)から光ファイバーを介して放射を得る。TIRF照明モジュール31は、対物レンズ15において、対物レンズ13の光学軸に対して調整可能な角度でTIRF照明を放射するように形成される。このように、カバーガラスにおける全反射の角度を容易に保証することができる。TIRF照明モジュール31は、光学軸上で照明ビームを放射する場合、広視野照明源として動作することもできる。
【0076】
顕微鏡1のモジュール及びドライブ並びに検出器はすべて、あまり正確には特定されていないライン(破線として描かれている)を介して制御装置32に接続されている。この接続は、たとえばデータ及び制御ネットワーク33を介して行うことができる。制御装置32は、さまざまな動作モードで顕微鏡21を制御する。
【0077】
制御装置32は、標準的な顕微鏡法(すなわち、広視野顕微鏡法(WF)、レーザー走査顕微鏡法(LSM)、全反射蛍光顕微鏡法(TIRF))を顕微鏡21において実行し、これらを高分解能顕微鏡法PALMと組み合わせるように形成される。
【0078】
図7には、ディスプレイ19を有するコンピューターも例としてさらに表される。このコンピューターは、データ及び制御ネットワーク33にも接続されている。制御装置32は、データ及び制御ネットワーク33を介して、組み合わせ顕微鏡21の個々の構成要素に接続される。
【0079】
サンプル7を制御装置32の制御下で移動させることができるサンプルステージ42も図7には示されている。このようなサンプルステージも、もちろん図7の他のすべての細部と同様に、図5の顕微鏡6においても可能である。
【0080】
顕微鏡21は、改善された活性化及び/又は励起もさらに可能にする。
【0081】
第1に、特定関心領域(ROI(region of particular interest))を、ユーザーが自ら選択してもよく、コンピューターによってサポートされて選択してもよく、又は自動的に選択されてもよく、これに従って、レーザー装置24からの活性化放射の制御が影響を受ける。このため、レーザー24からのレーザー放射によってその表面全体にわたって照明されるDMD28が用いられる。このとき、選択されたROIのみが照明され、このためラベル物質(たとえばDRONPA又はEOS−FP)の光学的活性化がこれらの領域においてのみ行われるように、DMDの個々のミラーが設定される。DMD28の残りのミラーは、オフにスイッチングされた位置のままであり、それらのミラーに向けられた放射は、ビームトラップ(図示せず)に吸収される。
【0082】
第2に、活性化出力を連続的に減衰させるために、オンにスイッチングされたDMDミラーを時間変調することができる。それによって、特にPALM法にとって有利なことに、活性化出力を分子濃度に効率的に整合させることができ、その結果、局所的なラベル分子の濃度にかかわらず、活性化された分子は、それぞれ、顕微鏡21の光学分解能よりも大きな距離で配置される。したがって、特に、活性化強度及び/又は空間分布を、説明した制御の枠内で適切に設定することができるので、サンプル7を特に高速に検査することができる。局所的な調整は、強い局所的な濃度変化が発生した場合、たとえば、淡く染色されたエリアに明るいエリアが隣接している場合に特に有利である。たとえばラベル物質の局所的に異なるブリーチング(これは、サンプル7の構造的な変動のために起こる可能性がある)によって、このとき、活性化制御と特に有利にバランスさせることができる局所的な濃度変化をさらにもたらすことができる。
【0083】
事前に規定されたROIを任意選択の位相変調器26によって活性化する場合、DMD28の全体に代替的又は付加的にROIパターンを結像実行することができる。DMD28は、その後、微調節のみを行う。したがって、レーザー25の出力は、サンプル7のラベル分子を活性化するためにほぼ完全に用いられる。その目的のために、位相変調器26は、(レーザー25から見て)DMD28の前の瞳面に配置され、レンズ系27(個別のレンズによって実現することもできる)の焦点距離への距離に配置される。DMD28は、レンズ系27の後ろの同じ距離に配置される。代替的に、たとえば、ROI選択が位相変調器26を通じて行われ、レーザー源25の強度がたとえばレーザーの下流にある強度変調器又はレーザー25の直接的な強度変調によって全体的に調整される場合、DMD28を省略することもできる。この強度変調は、もちろん、異なる設計の顕微鏡を用いても、説明した調整において原理的に十分に可能である。
【0084】
図5又は図7の組み合わせ顕微鏡の助けにより、LSM顕微鏡像及びPAL顕微鏡像を順次又は同時に記録すると共に、1つ又は複数のPALMフレームから得られた情報によるだけでなく、LSM顕微鏡像から生成されたデータを用いてもPAL顕微鏡像の取得を調整することがさらに可能である。
【0085】
フレーム取得を調整するのに用いられる変数は、次のものとすることができる。
1.検出側:
a.周波数帯域/フィルター;
b.増幅率(たとえばプリアンプ利得、EMCCD利得);
c.検出器の温度;
d.検出の積分時間;
e.検出の検出モード(たとえば光子カウント、ベースラインクランプ);
f.特定のROIのみの読み出し;
g.検出された放射の偏光;
h.焦点。
2.励起側:
a.放射励起及び/又は活性化励起;
i.パルス形状又はCW;
ii.出力及びパルス周波数;
iii.波長;
b.放射持続時間;
c.局所的に特定の(ピクセルごとの)励起、又は特定のROIの励起、又はエリア全体にわたる励起;
d.照明場のサイズ;
e.TIRF照明の場合の侵入深さ;
f.焦点位置。
3.サンプル側:
サンプル内の観測領域の位置。
【0086】
フレーム評価は、特に、以下のパラメーターに関する情報を提供することができる。
1.染料特性:
a.ブリーチングレート;
b.励起/放出スペクトル;
c.寿命;
d.活性化しきい値;
e.1分子当たりの光子レート;
f.フラッシュ頻度;
2.結像/像特性:
a.個々の活性化された分子の測定された点像分布関数の形状及び強度だけでなく、サンプルに組み込まれる可能性のある標識(たとえば金のビード)の測定された点像分布関数の形状及び強度、さまざまな色で測定されたPSFの形状及び強度の差;
b.個々の分子が平均して可視的である期間;
c.1つの点像分布関数当たりの、空間的かつ時間的に重なり合う活性化された分子の数(「活性化密度」の尺度);
d.(局所的に規定された)ラベル分子密度。たとえばさらに別の波長の蛍光の強度によって測定されたラベル分子密度。これは、(たとえばtdEosのような)2つの蛍光状態間でスイッチング/変換する染料について可能である。ラベル分子密度は、たとえば早期像(すでに変換されたがブリーチングされていなさまざまなラベル分子を見ることができるもの)によって、測定波長の蛍光を介して求めることもできる。加えて、さらに別の相関着色又は他のコントラスト方法を介してラベル密度も推定することもできる。
e.1分子当たりの収集された光子の数;
f.1フレーム当たりの活性化された分子の数;
g.1フレーム当たりの分子の平均ロケーション精度;
h.カメラを保護するために、一つには、用いられるフィルターと個々のレーザー波長の励起線との組み合わせを用いることができ、また、もう一つには、他の波長で検出される蛍光の測定強度を用いることもできる。
i.異なり得る励起波長を用いて取得された各蛍光像の相関、又は、たとえばDIC等のさらに別のコントラスト方法からの像との相関。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプルの、空間的に高分解能のルミネセンス顕微鏡法のための方法であって、
前記サンプルは、ラベル分子を用いて活性化され、
前記ラベル分子は、活性化状態でのみ特定のルミネセンス放射を放出するように励起することができるように、スイッチング信号によって活性化することができ、
前記方法は、次の各ステップ、すなわち、
a)前記サンプルに存在する前記ラベル分子のサブセットのみが活性化されるように前記スイッチング信号を前記サンプル上に導入するステップであって、
前記サンプル内にエリアの各部分が存在し、
前記各部分において、活性化されたラベル分子が、最も近い近傍の活性化されたラベル分子まである距離を有し、前記ある距離は、少なくとも所定の光学分解能に起因する長さ以上である、
前記スイッチング信号を前記サンプル上に導入するステップと、
b)前記活性化された分子をルミネセンス放射を放出するように励起するステップと、
c)前記ルミネセンス放射を前記所定の光学分解能で検出するステップと、
d)ステップc)において記録された前記ルミネセンス放射からフレームを生成するステップであって、
ルミネセンス放射を放出する前記ラベル分子の幾何学的ロケーションが、前記所定の光学分解能を超えて増進された空間分解能で特定される、
フレームを生成するステップと、
を有し、
これらのステップは、数回繰り返され、
そのようにして得られたそれらいくつかの前記フレームが組み合わされて全体像にされる
方法において、
前記各フレームの取得の制御は、
ステップd)の後に、前記フレームのうち少なくとも1つを評価すること、又は、一群の前記フレームを評価することと、
ステップa〜dの少なくとも1つの変数を、ステップa〜dの後続の繰り返しのために変更することと
によって行われることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記制御中に、品質関数が評価されるとともに、前記品質関数の値が最大にされ、
前記品質関数は、直接的又は間接的に、前記ラベル分子の比率の尺度になるように選ばれ、
前記比率は、前記サンプル内における、活性化されたラベル分子であって、その最も近い近傍の活性化されたラベル分子までの距離が、少なくとも前記所定の光学分解能で解像することができる距離となる、そのようなラベル分子の比率である
ことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記品質関数は、前記活性化された分子の密度の測定値であることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
近傍のルミネセント領域から分離されたルミネセント領域が、前記評価されるフレームのそれぞれにおける前記品質関数の前記評価用に特定され、
前記分離されたルミネセント領域それぞれによって放出された前記ルミネセンス放射の量の尺度が、各分離されたルミネセント領域について特定され、
尺度がしきい値未満となる前記領域の比率が、前記品質関数の値として取得される
ことを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記放出されるルミネセンス放射の量の前記測定値は、前記ルミネセンス放射の強度の積分であるか、又は、前記ルミネセンス放射の強度の最大値であることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記品質関数を評価するために、近傍のルミネセント領域から分離されたルミネセント領域が、前記評価されるフレームのそれぞれにおいて特定され、
これらの分離されたルミネセント領域のそれぞれについて、最も近い近傍のルミネセンス領域までの最小距離が求められ、
前記最小距離が、解像可能最小距離よりも、又は、当該解像可能最小距離の事前に設定された倍数よりも、大きくなる領域の割合が、前記品質関数の値として選ばれ、
前記解像可能最小距離は、前記所定の光学分解能に基づいて規定されることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記最小距離を求めるために、各前記ルミネセント領域の幾何学的中心の周りに1つの円が配置され、
前記円は、前記最も近い近傍のルミネセント領域まで延びる
ことを特徴とし、かつ、
前記円の半径が、前記距離よりも、又は、前記距離の事前に設定された倍数よりも、大きくなる前記領域の割合が、前記品質関数の値として取得される
ことを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
一群の連続したフレームが評価され、
近傍のルミネセント領域から分離されたルミネセント領域が、前記評価されるフレームのそれぞれにおいて特定され、
前記一群のうち、ただ1つのみのフレームでルミネセンスする前記ルミネセント領域の割合が、前記品質関数の値として取得されることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記変数は、以下のパラメーター、すなわち、
‐フィルタリング、偏光フィルタリング、増幅、検出器温度、積分持続時間、検出場の選択、前記ルミネセンス放射の前記検出中の焦点の位置及びサイズと、
‐出力、パルス形状、パルス周波数、波長、放射持続時間、放射場の選択、TIRF照明の侵入深さ、前記スイッチング信号の導入中又は前記活性化された分子の前記励起中の焦点の位置及びサイズと、
のうちの少なくとも1つを含むことを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
次の変数、すなわち、
前記ラベル分子のブリーチングレート、前記ラベル分子の励起スペクトル及び放出スペクトル、前記ラベル分子のルミネセンス状態の寿命、前記ラベル分子の活性化しきい値、前記ラベル分子の点滅レート、個々のラベル分子が平均して可視的である期間、前記光学分解能の範囲内を同時に占めるルミネセントラベル分子の数、1ルミネセントラベル分子当たりの収集された光子の数、1フレーム当たりの活性化されたラベル分子の数、1フレーム当たりの前記ラベル分子の平均ロケーション精度、
のうちの少なくとも1つが記録され、前記像評価において評価されることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
通常の光学分解能を有するさらなる蛍光像がいくつかの励起波長において又はコントラスト方法を用いて記録され、
前記各フレームは、前記評価用にこれらの蛍光像と相関される
ことを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記さらなる蛍光像は、前記フレームの取得中に取得されることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項1】
サンプルの、空間的に高分解能のルミネセンス顕微鏡法のための方法であって、
前記サンプルは、ラベル分子を用いて活性化され、
前記ラベル分子は、活性化状態でのみ特定のルミネセンス放射を放出するように励起することができるように、スイッチング信号によって活性化することができ、
前記方法は、次の各ステップ、すなわち、
a)前記サンプルに存在する前記ラベル分子のサブセットのみが活性化されるように前記スイッチング信号を前記サンプル上に導入するステップであって、
前記サンプル内にエリアの各部分が存在し、
前記各部分において、活性化されたラベル分子が、最も近い近傍の活性化されたラベル分子まである距離を有し、前記ある距離は、少なくとも所定の光学分解能に起因する長さ以上である、
前記スイッチング信号を前記サンプル上に導入するステップと、
b)前記活性化された分子をルミネセンス放射を放出するように励起するステップと、
c)前記ルミネセンス放射を前記所定の光学分解能で検出するステップと、
d)ステップc)において記録された前記ルミネセンス放射からフレームを生成するステップであって、
ルミネセンス放射を放出する前記ラベル分子の幾何学的ロケーションが、前記所定の光学分解能を超えて増進された空間分解能で特定される、
フレームを生成するステップと、
を有し、
これらのステップは、数回繰り返され、
そのようにして得られたそれらいくつかの前記フレームが組み合わされて全体像にされる
方法において、
前記各フレームの取得の制御は、
ステップd)の後に、前記フレームのうち少なくとも1つを評価すること、又は、一群の前記フレームを評価することと、
ステップa〜dの少なくとも1つの変数を、ステップa〜dの後続の繰り返しのために変更することと
によって行われることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記制御中に、品質関数が評価されるとともに、前記品質関数の値が最大にされ、
前記品質関数は、直接的又は間接的に、前記ラベル分子の比率の尺度になるように選ばれ、
前記比率は、前記サンプル内における、活性化されたラベル分子であって、その最も近い近傍の活性化されたラベル分子までの距離が、少なくとも前記所定の光学分解能で解像することができる距離となる、そのようなラベル分子の比率である
ことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記品質関数は、前記活性化された分子の密度の測定値であることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
近傍のルミネセント領域から分離されたルミネセント領域が、前記評価されるフレームのそれぞれにおける前記品質関数の前記評価用に特定され、
前記分離されたルミネセント領域それぞれによって放出された前記ルミネセンス放射の量の尺度が、各分離されたルミネセント領域について特定され、
尺度がしきい値未満となる前記領域の比率が、前記品質関数の値として取得される
ことを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記放出されるルミネセンス放射の量の前記測定値は、前記ルミネセンス放射の強度の積分であるか、又は、前記ルミネセンス放射の強度の最大値であることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記品質関数を評価するために、近傍のルミネセント領域から分離されたルミネセント領域が、前記評価されるフレームのそれぞれにおいて特定され、
これらの分離されたルミネセント領域のそれぞれについて、最も近い近傍のルミネセンス領域までの最小距離が求められ、
前記最小距離が、解像可能最小距離よりも、又は、当該解像可能最小距離の事前に設定された倍数よりも、大きくなる領域の割合が、前記品質関数の値として選ばれ、
前記解像可能最小距離は、前記所定の光学分解能に基づいて規定されることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記最小距離を求めるために、各前記ルミネセント領域の幾何学的中心の周りに1つの円が配置され、
前記円は、前記最も近い近傍のルミネセント領域まで延びる
ことを特徴とし、かつ、
前記円の半径が、前記距離よりも、又は、前記距離の事前に設定された倍数よりも、大きくなる前記領域の割合が、前記品質関数の値として取得される
ことを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
一群の連続したフレームが評価され、
近傍のルミネセント領域から分離されたルミネセント領域が、前記評価されるフレームのそれぞれにおいて特定され、
前記一群のうち、ただ1つのみのフレームでルミネセンスする前記ルミネセント領域の割合が、前記品質関数の値として取得されることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記変数は、以下のパラメーター、すなわち、
‐フィルタリング、偏光フィルタリング、増幅、検出器温度、積分持続時間、検出場の選択、前記ルミネセンス放射の前記検出中の焦点の位置及びサイズと、
‐出力、パルス形状、パルス周波数、波長、放射持続時間、放射場の選択、TIRF照明の侵入深さ、前記スイッチング信号の導入中又は前記活性化された分子の前記励起中の焦点の位置及びサイズと、
のうちの少なくとも1つを含むことを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
次の変数、すなわち、
前記ラベル分子のブリーチングレート、前記ラベル分子の励起スペクトル及び放出スペクトル、前記ラベル分子のルミネセンス状態の寿命、前記ラベル分子の活性化しきい値、前記ラベル分子の点滅レート、個々のラベル分子が平均して可視的である期間、前記光学分解能の範囲内を同時に占めるルミネセントラベル分子の数、1ルミネセントラベル分子当たりの収集された光子の数、1フレーム当たりの活性化されたラベル分子の数、1フレーム当たりの前記ラベル分子の平均ロケーション精度、
のうちの少なくとも1つが記録され、前記像評価において評価されることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
通常の光学分解能を有するさらなる蛍光像がいくつかの励起波長において又はコントラスト方法を用いて記録され、
前記各フレームは、前記評価用にこれらの蛍光像と相関される
ことを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記さらなる蛍光像は、前記フレームの取得中に取得されることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4(a)】
【図4(b)】
【図4(c)】
【図4(d)】
【図5】
【図6】
【図7】
【図2】
【図3】
【図4(a)】
【図4(b)】
【図4(c)】
【図4(d)】
【図5】
【図6】
【図7】
【公表番号】特表2012−510066(P2012−510066A)
【公表日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−537868(P2011−537868)
【出願日】平成21年11月14日(2009.11.14)
【国際出願番号】PCT/EP2009/008117
【国際公開番号】WO2010/060545
【国際公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(511110692)カール・ツァイス・マイクロイメージング・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (2)
【氏名又は名称原語表記】CARL ZEISS MICROIMAGING GMBH
【住所又は居所原語表記】Carl−Zeiss−Promenade 10, 07745 Jena, Germany
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月14日(2009.11.14)
【国際出願番号】PCT/EP2009/008117
【国際公開番号】WO2010/060545
【国際公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(511110692)カール・ツァイス・マイクロイメージング・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (2)
【氏名又は名称原語表記】CARL ZEISS MICROIMAGING GMBH
【住所又は居所原語表記】Carl−Zeiss−Promenade 10, 07745 Jena, Germany
【Fターム(参考)】
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