説明

分離回収装置および分離回収方法

【課題】コンパクトで且つ簡易な構造を有し、複合材の分離効率が高く、連続的な処理が可能で、環境性に優れた分離回収装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る分離回収装置は、複合2材が収容される第1のケース11と、第1のケース11が収容される第2のケース12と、第2のケース12が収容される分離槽10と、分離層10内の複合材2を加熱する一または複数の加熱手段と、を備え、第1のケース11は、少なくとも底部に、前記加熱手段の加熱によって融解した熱可塑性樹脂材料が通過可能な貫通孔11aが設けられ、第2のケース12は、融解した熱可塑性樹脂材料を貯留可能な貯留部13が設けられ、分離槽10は、第2のケース12を支持して回転させる回転体15が設けられ、複合材2が前記加熱手段によって加熱された状態でもしくは加熱された後、回転体15によって第2のケース12が回転される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離回収装置および分離回収方法に関し、さらに詳細には、熱可塑性樹脂材料と金属材料とを用いて形成された複合材から、該熱可塑性樹脂材料と該金属材料とを分離して回収する分離回収装置、および当該分離回収装置を使用する分離回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック(熱可塑性樹脂)材料と金属材料とを用いて形成される複合材は、例えば、自動車、家電、OA機器、医療機器、玩具、日用品等、多種多様な製品・部品を生産する場合において、経済性、利便性等の視点から生産性を飛躍的に向上させる手段として取り入れられ、今日の大量生産体制の確立に大きく貢献してきた。
その一方で、環境問題、省エネ、省資源、リサイクル、CO2排出削減が世界的課題として大きく取り上げられるようになった現在、複合材を廃棄する場合の機械的処理方法を確立することが重要な課題となっている。
【0003】
現状において、複合材を廃棄する場合に採られている主たる処理方法としては、
(1)刃物あるいは加熱手段を用いて人手により分離・回収する方法(2)産業廃棄物として埋め立て処理をする方法(3)焼却が許可された施設において焼却処理をする方法が挙げられる。
【0004】
しかしながら、それぞれの処理方法においては、次のような課題がある。方法(1)については、大量に生産され続ける複合材を処理するのは物理的、コスト的に不可能に近い。方法(2)については、埋立地の確保が困難になってきており、また、反省資源、反リサイクルとなる方法である。方法(3)については、反環境性、反リサイクル、反省エネとなる方法である。
【0005】
一方、廃棄を行う場合のみならず、熱可塑性樹脂材料と金属材料とを分離する技術が確立されていないことは、インサート・アウトサート成形品の試作を行う場合においても大きな課題を生んでいる。
具体的には、(1)インサート・アウトサート成形品の金型の立ち上げは、金型と同時に試作用の金属部品が必要となるが、形状が決定して量産に至るまでは当該金属部品は試作毎に手作りとなる。したがって、金属部品が分離できなければ再利用ができないため、試作を繰り返す中での費用・時間の損失が多大なものとなってしまう。(2)量産開始後においても、大量の成形品に成形不良が発生した場合に、金属部品が分離できなければ再利用ができないため、特に高価な金属等を用いる製品になる程、費用の損失が多大なものとなってしまう。(3)上記の(1)、(2)の理由によって、機能面・加工性に劣っていても、低コストの金属材料を採用せざるを得ない場合が多く生じている。
【0006】
以上に述べたような課題の解決を図るべく、熱可塑性樹脂材料と金属材料とを用いて形成された複合材の廃棄物から有価物を回収するマテリアルリサイクルシステムに関する技術開発が行われている。
ここで、マテリアルリサイクルシステムに用いられる複合材の処理装置の一例として、特許文献1記載の処理装置100が提案されている(図5参照)。この処理装置100は、過熱蒸気を熱源として熱可塑性プラスチックと金属からなる複合材の廃棄物を酸素の不存在下で加熱する乾留炉101と、乾留炉101で生じた分解ガスを燃焼する燃焼炉111とを備え、燃焼炉111の加熱手段として電気ヒータ142が設けられ、燃焼炉111に、炉内の熱伝達を向上させる炭化けい素充填層143が設けられている。これによれば、複合材を構成する有価金属と熱可塑性プラスチックを分離し、これらをそれぞれ再利用できる形態で回収することができるというものである。
【0007】
その他にも、マテリアルリサイクルシステムに用いられる、複合材の処理装置・処理方法の例として、特許文献2〜4に記載の処理装置・処理方法等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−76979号公報
【特許文献2】特開2004−89791号公報
【特許文献3】特開平10−211480号公報
【特許文献4】特開平11−70373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1記載の処理装置に例示されるように、ガス化した熱可塑性樹脂材料を焼却する処理を行う場合には、環境保護、省エネ、CO2削減の観点で課題が生じる。また、大型で複雑な機構を有する装置は、装置の製造コストが上昇してしまう課題が生じ、また、移動が不可能なだけでなく設置場所が制約されてしまう課題が生じる。
【0010】
一方、特許文献2記載の処理装置に例示されるように、複合材を加熱して溶融した熱可塑性樹脂材料を自然落下させて分離する装置の場合、分離に時間がかかり効率が悪いだけでなく、加熱に必要なエネルギーが多大となる課題が生じる。また、連続的な処理を前提とするシステム化が困難であり、大量処理に不向きであるという課題が生じる。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされ、コンパクトで且つ簡易な構造を有し、複合材の分離効率が高く、連続的な処理が可能で、環境性に優れた分離回収装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、以下に記載するような解決手段により、前記課題を解決する。
【0013】
この分離回収装置は、熱可塑性樹脂材料と金属材料とを用いて形成された複合材から、該熱可塑性樹脂材料と該金属材料とを分離して回収する分離回収装置であって、前記複合材が収容される第1のケースと、前記第1のケースが着脱自在に収容される第2のケースと、前記第2のケースが着脱自在に収容される分離槽と、前記分離層内の前記複合材を加熱する一または複数の加熱手段と、を備え、前記第1のケースは、少なくとも底部に、前記加熱手段の加熱によって融解した熱可塑性樹脂材料が通過可能な貫通孔が設けられ、前記第2のケースは、前記貫通孔を通過して流出した前記融解した熱可塑性樹脂材料を貯留可能な貯留部が設けられ、前記分離槽は、前記第2のケースを支持して回転させる回転体が設けられ、前記複合材が前記加熱手段によって加熱された状態でもしくは加熱された後、前記回転体によって前記第2のケースが回転されることを要件とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、コンパクトで且つ簡易な構造を有し、複合材の分離効率が高く、連続的な処理が可能で、環境性に優れた分離回収装置が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第一の実施形態に係る分離回収装置の例を示す概略図である。
【図2】本発明の第二の実施形態に係る分離回収装置の例を示す概略図である。
【図3】本発明の第三の実施形態に係る分離回収装置の例を示す概略図である。
【図4】本発明の第四の実施形態に係る分離回収装置の例を示す概略図である。
【図5】従来の実施形態に係る分離回収装置の例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第一の実施形態)
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳しく説明する。図1は、本発明の第一の実施形態に係る分離回収装置1の例を示す正面断面図(概略図)である(部分的に断面図として図示している)。
この分離回収装置1は、熱可塑性樹脂材料と金属材料とを用いて形成された複合材2から、該熱可塑性樹脂材料と該金属材料とを分離して回収する装置である。当該複合材2として想定されるものは、自動車、家電等の製品・部品として製造・使用されて廃棄されたもの、あるいはそれらの製品・部品の試作品として製造されたもの等である。
複合材2を構成する熱可塑性樹脂材料および金属材料は、いずれも材料が限定されるものではないが、例えば、熱可塑性樹脂材料として、POM(ポリアセタール樹脂)、PC(ポリカーボネート樹脂)、ABS(共重合合成樹脂)、PBT(ポリブチレンテレフタレート樹脂)等が挙げられる。
【0017】
本実施形態において、熱可塑性樹脂材料と金属材料とを分離する方法の概略を説明すると、分離槽10(後述)内に収容された複合材2を加熱手段によって加熱することによって、複合材2を形成している熱可塑性樹脂材料を融解させて分離するものである。
【0018】
本実施形態に係る分離回収装置1は、図1に示すように、複合材2が収容される第1のケース11と、第1のケース11が着脱自在に収容される第2のケース12と、第2のケース12が着脱自在に収容される分離槽10とを備えている。さらに上記加熱手段の一つとして、分離層10内の複合材2に向けて高温気体Hを噴射する噴射ノズル21と、高温気体Hを発生させると共に噴射ノズル21に向けて圧送する高温気体発生手段20とを備えている。
これによれば、複合材2に対して噴射ノズル21から高温気体Hを噴射することによって、当該複合材2を形成している熱可塑性樹脂材料を融解させて分離させることができる。
【0019】
ここで、第1のケース11は、一端側が開口する有底円筒形状に形成され、内部に複合材2を収容することが可能となっている。少なくとも、底部に、融解した熱可塑性樹脂材料が通過可能な貫通孔11aが設けられている構成が必要であるが、本実施形態においては、第1のケース11は、ステンレス合金からなるメッシュ状材料を用いて形成されている。これによれば、収容された複合材2から融解した熱可塑性樹脂材料がメッシュ状の隙間(前記貫通孔11aに相当)を通過して、底部のみならず側面からも外部へ(後述する第2のケース12へ)向けて流出することが可能となる。一方、融解した熱可塑性樹脂材料が流出した後の金属材料が第1のケース11内に残留する作用が得られる。
なお、形成材料は、ステンレス合金に限定されるものではない。また、メッシュ状材料に代えて、パンチング等により加工された材料を用いてもよい。
【0020】
本実施形態においては、第1のケース11として、メッシュ状材料の網目の大きさが異なる複数種類のケースを準備し、当該複数種類のケースの中から金属材料の大きさに見合った最適な網目を有するものを択一的に用いる構成としている。より具体的には、相対的に小さな大きさの金属材料が用いられている複合材2に対しては、当該金属材料が通過しない大きさの網目(メッシュ)を有する小物用ケースを選択することが好適である。また、相対的に中程度の大きさの金属材料が用いられている複合材2に対しては、当該金属材料が通過しない大きさの網目(メッシュ)を有する中物用ケースを選択することが好適である。また、相対的に大きな大きさの金属材料が用いられている複合材2に対しては、当該金属材料が通過しない大きさの網目(メッシュ)を有する大物用ケースを選択することが好適である。このように、金属材料の大きさに見合った最適な網目を有する第1のケース11を選択して用いることによって、当該金属材料を第1のケース11から第2のケース12へ流出させることなく、当該第1のケース11内に残留させて取り出すことが可能となる。
なお、第1のケース11は、上記の三種類に限定されるものではなく、複合材2を構成している金属材料の大きさに応じて複数種類用意しておくことが好適である。より具体的には、極小小物用として網目が相対的に極めて小さなケース、一例として、注射針が通過しない網目の大きさに形成されたメッシュ状ケースを用意すれば、廃棄方法が課題となっている注射器を注射針と樹脂とに分離してそれぞれ回収することが可能となる。また、加熱手段により加熱を行っていることから、殺菌作用を得ることもできるため、非常に取扱いが安全・容易となる効果も得られる。
【0021】
一方、第2のケース12は、一端側が開口する有底円筒形状に形成されており、前記第1のケース11の貫通孔11aを通過して流出する融解した熱可塑性樹脂材料を貯留可能な貯留部13が設けられている。本実施形態においては、第2のケース12の内底部に貯留部13としての複数の凹状部13aが設けられている。
【0022】
また、分離槽10は、本体部10bおよび開閉可能な蓋部10aを備えて構成されている。また、分離槽10(ここでは、本体部10b)には噴射された高温気体Hを排気する排気口10cが設けられている。一例として、分離槽10(蓋部10aと本体部10b)は、セラミックス等の材料を用いて断熱構造として形成することが好適である。
【0023】
ここで、本実施形態における特徴的な構成として、分離槽10には、第2のケース12を支持して回転させる回転体としてのターンテーブル15が設けられている。当該ターンテーブル15は、駆動手段(本実施形態では、モータ)3によって回転駆動される。このとき、制御部(不図示)によって回転速度が可変に制御できる。
これによれば、第2のケース12を回転させることができ、その結果、第1のケース11および収容された複合材2を回転させることができる。したがって複合材2を回転させながら、当該複合材2に対して高温気体Hを噴射することができる。その結果、複合材2から、融解した熱可塑性樹脂材料を遠心分離作用によって、分離させることができ、分離効率を大幅に向上させることが可能となる。
また、回転速度が可変であることによって、複合材2の形状、形成材料(すなわち熱可塑性樹脂材料)の種類等に応じて、熱可塑性樹脂材料の融解作用を最適化することが可能となる。
なお、回転体はターンテーブルに限定されるものではなく、例えば、上方からの吊下げ式回転機構等を用いることも考えられる(不図示)。
【0024】
本実施形態においては、高温気体Hとして過熱水蒸気を用いている。ここで、「過熱水蒸気」とは、水を沸騰させて発生した水蒸気をさらに加熱して、100〜450[℃]の高温状態にした無色透明の気体である。過熱水蒸気は、加熱空気や水蒸気と比較して熱伝達係数が大きいため、熱を効率よく伝える性質を有し、物質を乾燥させる能力が高い。
【0025】
高温気体Hとしての過熱水蒸気を発生させる高温気体発生手段20は、例えば特許文献2等において開示されている公知の過熱水蒸気発生装置を用いることができる。装置構成についての詳細な説明は省略するが、基本的に水と電気とが供給されれば過熱水蒸気を発生させることができるため、装置(分離回収装置)の設置場所に対する制約が大幅に緩和される効果が得られる。
また、発生した過熱水蒸気を圧送する手段についても種々の公知技術を用いることができるため、説明を省略する。
【0026】
なお、高温気体Hの例としては、前述の過熱水蒸気の他に、加熱不活性ガス等が考えられる。また、噴射被対象物の複合材2の構成材料によっては、加熱空気を用いることも考えられる。
【0027】
ここで前述の通り、分離槽10には、開閉可能な蓋部10a、および噴射された高温気体Hを排気する排気口10cが設けられているため、分離槽10を密閉した状態で、分離層10内に高温気体Hを噴射し、排気することができる。
【0028】
また、噴射ノズル21は、例えば蓋部10aに配設されて、分離層10内の複合材2に向けて高温気体Hを噴射することが可能となっている。
ここで、噴射ノズル21は、噴射角度が可変に構成されている(角度可変機構については図示省略)。これによれば、複合材2の形状、形成材料(すなわち熱可塑性樹脂材料)の種類等に応じて、熱可塑性樹脂材料の融解作用を最適化することが可能となる。
【0029】
ところで、高温気体Hとして、過熱水蒸気を用いる場合には、次のような課題が生じる。すなわち、噴射の被対象物である複合材2の温度が低い場合には、噴射された過熱水蒸気が複合材2に触れて水滴化してしまう現象が生じて、熱可塑性樹脂材料が十分に加熱されない、あるいは加熱されるまでに長時間を要するという課題である。
【0030】
この課題に対して、本実施形態に係る分離回収装置1においては、さらに別の加熱手段として、分離槽10に、内部に収容される複合材2の金属材料を電磁誘導加熱によって加熱させる誘導コイル14が設けられている。
これによれば、複合材2を加熱することが可能となる。すなわち、金属材料を電磁誘導加熱することで周囲の熱可塑性樹脂材料も加熱することができるため、噴射された過熱水蒸気が複合材2に触れて水滴化してしまう現象を防止でき、熱可塑性樹脂材料の融解を省エネルギーで且つ効率的に行うことが可能となる。
また、熱可塑性樹脂材料の種類によって、融解時に発生するガスは高熱のヒータに触れると発火するおそれがあるが、上記構成によれば、槽内にヒータ等の熱源を直接設ける必要がないため、ガスがヒータに触れて発火することが防止できる。
なお、誘導コイル14と共に他の加熱手段を併設する構造も考えられる。
【0031】
以上のように、本実施形態に係る分離回収装置1によれば、特許文献1に例示される装置のように大型で複雑な機構を必要とせず、コンパクトで且つ簡易な構造が実現できるため、装置コストを低廉に抑えることができる。また、キャスター22を取り付けることによって、移動、設置も容易となる。
【0032】
続いて、上記構成を備える分離回収装置1を用いた分離回収方法の例(第1実施例)について説明する。
先ず、収容工程を実施する。具体的には、第2のケース12内に、第1のケース11を収容して、当該第1のケース11内に、熱可塑性樹脂材料と金属材料とを用いて形成された複合材2を収容する。もちろん、先に第1のケース11内に複合材2を収容してから、当該第1のケース11を第2のケース12内に収容しても構わない。
【0033】
次いで、固定工程を実施する。具体的には、複合材2、第1のケース11が収容された状態の第2のケース12を、分離槽10内のターンテーブル15に固定する。固定方法は特に限定されるものではなく、ターンテーブルの回転力が第2のケースに伝達可能な構成を有していればよい。
【0034】
次いで、回転・加熱工程を実施する。具体的には、ターンテーブル15を回転させて第2のケース12を回転させることによって、当該第2のケース12に収容されている第1のケース11、および当該第1のケース11に収容されている複合材2を回転させながら、誘導コイル14に通電を行い、複合材2を構成している金属材料を電磁誘導加熱によって加熱する。
これによれば、金属材料が電磁誘導加熱されることで、金属材料の周囲の熱可塑性樹脂材料に伝熱が行なわれて加熱される効果が生じる。
【0035】
次いで、高温気体噴射工程を実施する。具体的には、ターンテーブル15を回転させている状態で、分離層10内(第1のケース11内)の複合材2に対して高温気体(本実施形態では、過熱水蒸気)Hを噴射する。
これによれば、過熱水蒸気Hを噴射することによって、複合材2を形成している熱可塑性樹脂材料を融解させることができる。一方、金属材料は熱可塑性樹脂材料よりも融点が高いため、融解することなく、第1のケース11内に残留する。
このとき、上記工程により熱可塑性樹脂材料が加熱された状態となっているため、噴射された過熱水蒸気が熱可塑性樹脂材料に触れて水滴化してしまう現象が防止できる。
また、遠心分離作用によって、融解した熱可塑性樹脂材料を複合材2から分離させることができ、分離効率を大幅に向上させることが可能となる。
ここで、本実施形態では、第1のケース11が、ステンレス合金からなるメッシュ状材料を用いて形成されている。これによれば、収容された複合材2から融解した熱可塑性樹脂材料がメッシュ状の隙間(前記貫通孔11aに相当)を通過して、底部のみならず側面からも外部へ(第2のケース12へ)向けて流出することが可能となる。
【0036】
次いで、分離回収工程を実施する。具体的には、ターンテーブル15の回転を停止し、遠心分離作用によって分離させた熱可塑性樹脂材料を、第1のケース11の底部の貫通孔(本実施形態ではメッシュ状の隙間)11aから第2のケース12へ向けて流出させて、当該第2のケース12の貯留部13に貯留させる。
このようにして、熱可塑性樹脂材料と金属材料とを用いて形成された複合材2から、熱可塑性樹脂材料と金属材料とを分離することができる。さらに、分離された熱可塑性樹脂材料は第2のケース12の貯留部13から回収することができ、また、金属材料は第1のケース11から回収することができる(詳細は後述)。
【0037】
次いで、取出工程を実施する。具体的には、第1のケース11および第2のケース12を取り外し、これに代えて、未処理の複合材が収容された別の第1のケース11および第2のケース12を分離層10内に固定して、上記と同様の一連の作業を開始する。
このように、第1のケース11が第2のケース12に対して着脱自在であり、且つ、第2のケース12が分離槽10に対して着脱自在である構成によって、熱可塑性樹脂材料の分離作業が終了した時点で、即、未処理の別の複合材2に対して処理を開始することができるため、連続処理が可能となり、作業時間を短縮して、作業効率を高めることが可能となる。
【0038】
一方、上記工程において取り外した第1のケース11および第2のケース12については、第2のケース12から第1のケース11を取り外し、第2のケース12の貯留部13に貯留させた熱可塑性樹脂材料を冷却して固化させる。なお、第1のケース11を第2のケース12に取り付けた状態で、熱可塑性樹脂材料を冷却して固化させてもよい。
ここで、本実施形態では、貯留部13としての複数の凹状部13aが設けられており、融解した熱可塑性樹脂材料を小分けに個片化した状態で冷却・固化させることができるため、取り出しが非常に容易となる効果が得られる。このようにして、熱可塑性樹脂材料および金属材料をそれぞれ回収することができる。
【0039】
続いて、上記構成を備える分離回収装置1を用いた分離回収方法の他の例(第2実施例)について説明する。この方法は、特に、複数種類の熱可塑性樹脂材料が金属材料と結合している複合材2に対して好適な方法である。
【0040】
先ず、第1分離回収工程を実施する。具体的には、第1のケース11および収容された複合材2を第2のケース12に収容したうえで分離層10内に収容して、前記の加熱手段によって複合材2を250〜260℃程度で加熱して、回転体(ここでは、ターンテーブル15)によって第2のケース12、第1のケース11および収容された複合材2を回転させた後、分離層10から第2のケース12、第1のケース11および収容された複合材2を取り出す工程を実施する。これら一連の工程の詳細については、前述の分離回収方法(第1実施例)における、収容工程、固定工程、回転・加熱工程、高温気体噴射工程、分離回収工程、および取出工程と同様に実施すればよいため、繰り返しの説明を省略する。
【0041】
第1分離回収工程によれば、複合材2を構成している複数種類の熱可塑性樹脂材料の中から、融解温度が250〜260℃程度以下である熱可塑性樹脂材料(例えば、POM等)を融解させて分離回収することができる。
【0042】
次いで、第2分離回収工程を実施する。具体的には、第1分離工程の後、第1のケース11および収容された複合材2を別の第2のケース12に収容したうえで分離層10内に収容して、前記の加熱手段によって複合材2を300℃程度で加熱して、回転体(ここでは、ターンテーブル15)によって第2のケース12、第1のケース11および収容された複合材2を回転させた後、分離層10から第2のケース12、第1のケース11および収容された複合材2を取り出す工程を実施する。なお、第2分離回収工程についても、第1分離回収工程と同様に実施すればよい。
【0043】
第2分離回収工程によれば、複合材2を構成している複数種類の熱可塑性樹脂材料の中から、融解温度が260℃程度よりも大きく且つ300℃程度以下である熱可塑性樹脂材料(例えば、ABS等)を融解させて分離回収することができる。
【0044】
次いで、第3分離回収工程を実施する。具体的には、第2分離工程の後、第1のケース11および収容された複合材2を別の第2のケース12に収容したうえで分離層10内に収容して、前記の加熱手段によって複合材2を350℃程度で加熱して、回転体(ここでは、ターンテーブル15)によって第2のケース12、第1のケース11および収容された複合材2を回転させた後、分離層10から第2のケース12、第1のケース11および収容された複合材2を取り出す工程を実施する。なお、第3分離回収工程についても、第1分離回収工程と同様に実施すればよい。
【0045】
第3分離回収工程によれば、複合材2を構成している複数種類の熱可塑性樹脂材料の中から、融解温度が300℃程度よりも大きく且つ350℃程度以下である熱可塑性樹脂材料(例えば、PBT等)を融解させて分離回収することができる。
【0046】
次いで、第4分離回収工程を実施する。具体的には、第3分離工程の後、第1のケース11および収容された複合材2を別の第2のケース12に収容したうえで分離層10内に収容して、前記の加熱手段によって複合材2を450〜500℃程度で加熱して、回転体(ここでは、ターンテーブル15)によって第2のケース12、第1のケース11および収容された複合材2を回転させた後、分離層10から第2のケース12、第1のケース11および収容された複合材2を取り出す工程を実施する。なお、第4分離回収工程についても、第1分離回収工程と同様に実施すればよい。
【0047】
第4分離回収工程によれば、複合材2を構成している複数種類の熱可塑性樹脂材料の中から、融解温度が350℃程度よりも大きく且つ450〜500℃程度以下である熱可塑性樹脂材料(例えば、PC等)を融解させて分離回収することができる。
【0048】
このように、上記の分離回収方法(第2実施例)によれば、複数種類の熱可塑性樹脂材料が金属材料と結合している複合材2であっても、それぞれの熱可塑性樹脂材料毎に、もしくは、融解する温度(融点)が一定の温度領域内にある複数の熱可塑性樹脂材料毎に、複合材2から分離させて回収することが可能となる。
また、融解する温度(融点)が相対的に高温である熱可塑性樹脂材料の分離回収を行うためには当該高温で加熱を行う必要があるが、その際に、融解する温度(融点)が相対的に低温である熱可塑性樹脂材料の構成分子が分解されてしまうという課題を解決することが可能となる。
【0049】
(第二の実施形態)
続いて、本発明の第二の実施形態に係る分離回収装置1について説明する。第二の実施形態に係る分離回収装置1は、前述の第一の実施形態と基本的な構成および分離・回収作用については同様であるが、特に複合材2を加熱する加熱手段において相違点を有する。図2に第二の実施形態に係る分離回収装置1の例を示す。
【0050】
前述の第一の実施形態においては、加熱手段の一つとして、分離層10内(第1のケース11内)の複合材2の金属材料を電磁誘導加熱によって加熱させる誘導コイル14が設けられて、複合材2を加熱する構成であった。これに対し、本実施形態においては、加熱手段の一つとして、分離層10の周壁部を加熱させることによって内部の温度を上昇させる槽加熱ヒータ16が設けられている。これによって、分離層10内(第1のケース11内)の複合材2を加熱することができる構成としている。
なお、槽加熱ヒータ16は、前述の誘導コイル14、後述の気体加熱ヒータ18等の他の加熱手段と併設してもよい。
【0051】
(第三の実施形態)
続いて、本発明の第三の実施形態に係る分離回収装置1について説明する。第三の実施形態に係る分離回収装置1は、前述の第一の実施形態と基本的な構成および分離・回収作用については同様であるが、特に複合材2を加熱する加熱手段において相違点を有する。図3に第三の実施形態に係る分離回収装置1の例を示す。
【0052】
前述の第一の実施形態においては、加熱手段の一つとして、分離層10内(第1のケース11内)の複合材2の金属材料を電磁誘導加熱によって加熱させる誘導コイル14が設けられて、複合材2を加熱する構成であった。これに対し、本実施形態においては、加熱手段の一つとして、排気口10cから排気された高温気体Hを再加熱する気体加熱ヒータ18と、再加熱された高温気体Hを再度、分離槽10内へ導入させる気体循環路17とが設けられている。これによって、分離層10内(第1のケース11内)の複合材2を加熱することができる構成としている。
なお、気体加熱ヒータ18は、前述の誘導コイル14、槽加熱ヒータ16等の他の加熱手段と併設してもよい。
【0053】
(第四の実施形態)
続いて、本発明の第四の実施形態に係る分離回収装置1について説明する。第四の実施形態に係る分離回収装置1は、前述の第一の実施形態と基本的な構成および分離・回収作用については同様であるが、特に複合材2を加熱する加熱手段において相違点を有する。図4に第四の実施形態に係る分離回収装置1の例を示す。
【0054】
前述の第一の実施形態においては、加熱手段の一つとして、分離層10内(第1のケース11内)の複合材2の金属材料を電磁誘導加熱によって加熱させる誘導コイル14が設けられて、複合材2を加熱する構成であった。さらに、加熱手段の一つとして、分離層10内の複合材2に向けて高温気体Hを噴射する噴射ノズル21と、高温気体Hを発生させると共に噴射ノズル21に向けて圧送する高温気体発生手段20とを備える構成であった。
これに対し、本実施形態は、加熱手段として、分離層10内(第1のケース11内)の複合材2の金属材料を電磁誘導加熱によって加熱させる誘導コイル14が設けられている一方、噴射ノズル21および高温気体発生手段20は設けられていない構成であることを特徴とする。なお、誘導コイル14は、前述の槽加熱ヒータ16、気体加熱ヒータ18等の他の加熱手段と併設してもよい。また、図示しないが、分離層10内の換気や圧力調整を行う機構を設けてもよい。
【0055】
本実施形態によれば、例えば、複合材2を構成している熱可塑性樹脂材料が単一の種類である場合等において、当該樹脂材料が融解する所定の温度となるように電磁誘導加熱を行い、回転体(ここでは、ターンテーブル15)で回転させることによって、当該樹脂材料を分離させて回収することが可能となる。すなわち、前述の分離回収方法(第1実施例)における高温気体噴射工程を省略することが可能となるため、装置の簡素化およびコストダウンが可能となり、また、省エネルギーの観点からも大きな効果が得られる。
【0056】
以上、説明した通り、本発明に係る分離回収装置によれば、コンパクトで且つ簡易な構造が実現できるため、装置コストを低廉に抑えることができ、移動、設置も容易である。また、過熱水蒸気の利用によって、安全性の高い装置が実現できる。
【0057】
また、電磁誘導加熱の併用によって、エネルギー消費量を抑制することができ、環境性に優れた装置が実現できる。
【0058】
また、複合材の分離効率が高く、さらに、連続処理が可能であることによって、作業時間を短縮して、作業効率を高めることが可能となる。
特に、複数種類の熱可塑性樹脂材料が金属材料と結合している複合材において、それぞれの熱可塑性樹脂材料毎に、もしくは、融解する温度(融点)が一定の温度領域内にある複数の熱可塑性樹脂材料毎に、複合材から分離させて回収することが可能となる。
【0059】
なお、本発明は、以上説明した実施例に限定されることなく、本発明を逸脱しない範囲において種々変更が可能である。
【符号の説明】
【0060】
1 分離回収装置
2 複合材
3 駆動手段
10 分離層
11 第1のケース
12 第2のケース
13 貯留部
14 誘導コイル
15 回転体(ターンテーブル)
16 槽加熱ヒータ
17 気体循環路
18 気体加熱ヒータ
20 高温気体発生手段
21 噴射ノズル
22 キャスター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂材料と金属材料とを用いて形成された複合材から、該熱可塑性樹脂材料と該金属材料とを分離して回収する分離回収装置であって、
前記複合材が収容される第1のケースと、
前記第1のケースが着脱自在に収容される第2のケースと、
前記第2のケースが着脱自在に収容される分離槽と、
前記分離層内の前記複合材を加熱する一または複数の加熱手段と、を備え、
前記第1のケースは、少なくとも底部に、前記加熱手段の加熱によって融解した熱可塑性樹脂材料が通過可能な貫通孔が設けられ、
前記第2のケースは、前記貫通孔を通過して流出した前記融解した熱可塑性樹脂材料を貯留可能な貯留部が設けられ、
前記分離槽は、前記第2のケースを支持して回転させる回転体が設けられ、
前記複合材が前記加熱手段によって加熱された状態でもしくは加熱された後、前記回転体によって前記第2のケースが回転されること
を特徴とする分離回収装置。
【請求項2】
前記加熱手段の一つとして、前記分離槽には内部に収容される前記複合材の前記金属材料を電磁誘導加熱によって加熱させる誘導コイルが設けられていること、
を特徴とする請求項1記載の分離回収装置。
【請求項3】
前記加熱手段の一つとして、前記分離層内の前記複合材に向けて高温気体を噴射する噴射ノズルと、前記高温気体を発生させると共に前記噴射ノズルに向けて圧送する高温気体発生手段と、を有し、
前記分離槽は、開閉可能な蓋部、および噴射された前記高温気体を排気する排気口が設けられていること
を特徴とする請求項1または請求項2記載の分離回収装置。
【請求項4】
前記噴射ノズルは、噴射角度が可変であり、且つ、前記回転体は、回転速度が可変であること
を特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の分離回収装置。
【請求項5】
前記第2のケースは、一端側が開口する筒状に形成されており、内底部に前記貯留部としての複数の凹状部が設けられていること
を特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載の分離回収装置。
【請求項6】
前記第1のケースは、ステンレス合金からなるメッシュ状材料を用いて、一端側が開口する筒状に形成されていること
を特徴とする請求項1〜5のいずれか一項記載の分離回収装置。
【請求項7】
前記第1のケースとして、前記メッシュ状材料の網目の大きさが異なる複数種類のケースを択一的に用いること
を特徴とする請求項6記載の分離回収装置。
【請求項8】
前記加熱手段の一つとして、前記分離槽には周壁部を加熱させることによって内部の温度を上昇させる槽加熱ヒータが設けられていること
を特徴とする請求項1記載の分離回収装置。
【請求項9】
前記加熱手段の一つとして、前記排気口から排気された前記高温気体を再加熱する気体加熱ヒータと、前記再加熱された高温気体を再度、前記分離槽内へ導入させる気体循環路と、を有すること
を特徴とする請求項1記載の分離回収装置。
【請求項10】
前記高温気体は、過熱水蒸気もしくは加熱不活性ガスであること
を特徴とする請求項1〜9のいずれか一項記載の分離回収装置。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項記載の分離回収装置を使用して、熱可塑性樹脂材料と金属材料とを用いて形成された複合材から、該熱可塑性樹脂材料と該金属材料とを分離して回収する分離回収方法であって、
前記第1のケースおよび収容された前記複合材を前記第2のケースに収容したうえで前記分離層内に収容して、前記加熱手段によって前記複合材を250〜260℃程度で加熱して、前記回転体によって前記第2のケース、前記第1のケースおよび収容された前記複合材を回転させた後、前記分離層から前記第2のケース、前記第1のケースおよび収容された前記複合材を取り出す第1分離回収工程と、
前記第1分離工程の後、前記第1のケースおよび収容された前記複合材を別の第2のケースに収容したうえで前記分離層内に収容して、前記加熱手段によって前記複合材を300℃程度で加熱して、前記回転体によって前記第2のケース、前記第1のケースおよび収容された前記複合材を回転させた後、前記分離層から前記第2のケース、前記第1のケースおよび収容された前記複合材を取り出す第2分離回収工程と、
前記第2分離工程の後、前記第1のケースおよび収容された前記複合材を別の第2のケースに収容したうえで前記分離層内に収容して、前記加熱手段によって前記複合材を350℃程度で加熱して、前記回転体によって前記第2のケース、前記第1のケースおよび収容された前記複合材を回転させた後、前記分離層から前記第2のケース、前記第1のケースおよび収容された前記複合材を取り出す第3分離回収工程と、
前記第3分離工程の後、前記第1のケースおよび収容された前記複合材を別の第2のケースに収容したうえで前記分離層内に収容して、前記加熱手段によって前記複合材を450〜500℃程度で加熱して、前記回転体によって前記第2のケース、前記第1のケースおよび収容された前記複合材を回転させた後、前記分離層から前記第2のケース、前記第1のケースおよび収容された前記複合材を取り出す第4分離回収工程と、を備えること
を特徴とする分離回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−106231(P2012−106231A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225958(P2011−225958)
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【出願人】(310017839)有限会社サンプラスチック (1)
【Fターム(参考)】