説明

分離性向上剤

【課題】 生理活性物質水溶液を膜分離及び/又はろ過する際に、目的物質を分離精製でき、膜の透過速度低下させることが極めて少ない分離性向上剤を提供すること。
【解決手段】 少なくとも1つのチオール基を分子内に含有し、少なくとも1つのそれ以外の親水性基分子内に含有する化合物(A)を含有することを特徴とするろ過性向上剤。化合物(A)としては、式(1)で示される化合物が好ましい。
【化1】


[mは1〜10の整数を表し、nは1〜20の整数を表す。Bm+はm価のカチオンを表す。異なるm個の{}内の式で表される基において、nは同一でも異なっていてもよい。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離性向上剤に関する。さらに詳しくは、酵素、組み換えタンパク質、抗体、ペプチド等の生理活性物質を含有する水溶液を膜分離及び/又はろ過する際に使用する分離性向上剤に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオテクノロジーの発達により、タンパク質、核酸、ビタミン類、ホルモン、糖類等の生理活性物質を微生物を用いて製造することが盛んに行われている。微生物を用いた大量培養は、生理活性物質を大量に得ることができるため非常に有用であるが、製造コストが高く、各社さまざまな方法で改良をおこなっているのが現状である。製造コストのほとんどは、精製コストが占めるとも言われており、特に精製コストの低減が急務となっている。
【0003】
例えば、大腸菌を用いて遺伝子組換えタンパク質を発現した場合、超音波等の物理的破砕、溶菌酵素による溶解及び界面活性剤による膜破壊等で、菌体から目的タンパク質を含む画分を抽出する。その後、膜分離及び/又はろ過で精製することで目的タンパク質の分離を行う。
【0004】
しかしながら、この膜分離及びろ過工程で分離膜及びろ過膜が目詰まりする問題がある。膜が目詰まりすると、分離に時間を要するだけでなく、例えば限外ろ過の場合、必要以上の圧力がかかることによって膜が破れるといった問題がある。分離が不十分であった場合、混入した夾雑物によりタンパク質の安全性が著しく低下する等の危険性があるため、膜分離及びろ過工程は確実に迅速に行われる必要がある。
【0005】
このような課題に対し、従来から膜が目詰まりする度に膜を取り替える方法がおこなわれてきた。また、コストを低減するために酸やアルカリで膜を洗浄して再生することが行われてきた。近年、膜分離及び/又はろ過をおこなう前にポリエチレングリコール水溶液で処理する方法(例えば特許文献1)が報告されている。
しかし、膜を取り替える方法では、時間がかかることと、大量の廃水が発生するので根本的な解決法にはなっておらず、ポリエチレングリコール水溶液で処理する方法は、効果が一時的なものであり持続性がない。
【0006】
【特許文献1】特開2007−289922号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、生理活性物質水溶液を膜分離及び/又はろ過する際に、目的物質を分離精製でき、膜及び/又はフィルターの透過速度を低下させることが極めて少ない分離性向上剤を提供することが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の目的を達成するべく検討を行った結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、タンパク質及び水を含んでなる生理活性物質水溶液を膜分離及び/又はろ過する際に使用する分離性向上剤であって、少なくとも1つのチオール基を分子内に含有し、少なくとも1つのそれ以外の親水性基を分子内に含有する化合物(A)を含有することを特徴とする分離性向上剤;その分離性向上剤の存在下で膜分離及び/又はろ過を行う工程を含む生理活性物質の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の分離性向上剤は、生理活性物質水溶液を膜分離及び/又はろ過する際に、膜及び/又はフィルターの目詰まりを抑制することができ、膜及び/又はフィルターの透過速度が低下することが極めて少なく、目的の生理活性物質を容易に分離精製することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明において分離性向上剤とは、膜及び/又はフィルターを使用して膜分離又はろ過をおこなう際に、被分離液が膜及び/又はフィルターを通過する際の透過速度が低下しないようにする目的で添加する薬剤のことを示す。分離性向上剤を使用することにより、膜分離及び/又はろ過中の膜及び/又はフィルターの目詰まりが低減され、十分な透過速度を確保することができる。その結果、例えば限外ろ過の場合、水及び低分子化合物を分離することができ、透析の場合、透析膜内の低分子化合物の濃度を低下させることができる。
【0011】
ここで膜分離とは、膜を介した液/液界面で分離する操作を示し、このような方法の1例として透析が挙げられる。透析では、低分子の塩とタンパク質が溶解した水溶液から透析膜を通じて低分子の塩を分離することができる。ろ過とは、流動相をフィルター(例えば、膜)に通過させ、固相及び/又は半固相と、流動相とを分離する操作を示し、このような方法の1例として限外ろ過が挙げられる。限外ろ過では、低分子の塩とタンパク質が溶解した水溶液を限外ろ過膜に通じると、低分子の塩と水が通過しタンパク質だけを得ることができる。
【0012】
ろ過に使用するフィルターとしては、ろ過膜が含まれる。
膜分離及びろ過に使用する膜としては、限外ろ過膜、精密ろ過膜、逆浸透膜、イオン交換膜及びゲルろ過膜等が挙げられ、市販されている膜を使用できる。
【0013】
本発明の分離性向上剤は、タンパク質及び水を含む生理活性物質水溶液を膜分離及び/又はろ過する際に使用するものであり、少なくとも1つのチオール基を分子内に含有し、少なくとも1つのそれ以外の親水性基を含有する化合物(A)を含有する。
【0014】
生理活性物質としては限定されないが、酵素、組み換えタンパク質、抗体、ペプチド、アミノ酸、核酸、ビタミン類及び糖類等が含まれる。
【0015】
酵素としては、酸化還元酵素(コレステロールオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼ及びペルオキシダーゼ等)、加水分解酵素(リゾチーム、プロテアーゼ、セリンプロテアーゼ、アミラーゼ、リパーゼ、セルラーゼ及びグルコアミラーゼ等)、異性化酵素(グルコースイソメラーゼ等)、転移酵素(アシルトランスフェラーゼ及びスルホトランスフェラーゼ等)、合成酵素(脂肪酸シンターゼ、リン酸シンターゼ及びクエン酸シンターゼ等)及び脱離酵素(ペクチンリアーゼ等)等が挙げられる。
【0016】
組み換えタンパク質としては、タンパク製剤{インターフェロンα、インターフェロンβ、インターロイキン1〜12、成長ホルモン、エリスロポエチン、インスリン、顆粒状コロニー刺激因子(G−CSF)、組織プラスミノーゲン活性化因子(TPA)、ナトリウム利尿ペプチド、血液凝固第VIII因子、ソマトメジン、グルカゴン、成長ホルモン放出因子、血清アルブミン及びカルシトニン等}及びワクチン(A型肝炎ワクチン、B型肝炎ワクチン及びC型肝炎ワクチン等)等が挙げられる。
【0017】
抗体としては、モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体等が挙げられる。
【0018】
ペプチドとしては、特にアミノ酸組成を限定するものではなく、ジペプチド及びトリペプチド等が挙げられる。
【0019】
アミノ酸としては、グルタミン酸、トリプトファン及びアラニン等が挙げられる。
【0020】
核酸としては、イノシン酸等が挙げられる。
【0021】
ビタミン類としては、ビタミンK等が挙げられる。
【0022】
糖類としては、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸及びオリゴ糖等が挙げられる。
【0023】
これらの生理活性物質のうち、生理活性維持の観点から、酵素及び組み換えタンパク質が好ましく、さらに好ましくは酵素である。
また、これらの生理活性物質は、2種以上を併用してもよい。
【0024】
水としては、特に限定されない。水の電気伝導率(μS/cm;25℃)は、安全性の観点から、0.055〜1が好ましく、さらに好ましくは0.056〜0.1、特に好ましくは0.057〜0.08である。このような電気伝導率が小さい水としては、イオン交換水等が使用できる。
【0025】
本発明において、化合物(A)は少なくとも1つのチオール基を分子内に含有する。分子内のチオール基の数は、透過速度の低下抑制の観点から、1〜4が好ましく、さらに好ましくは1〜3、次にさらに好ましくは1〜2である。
【0026】
本発明において、化合物(A)は、さらに、少なくとも1つのチオール基以外の親水性基を分子内に含有する。
チオール基以外の親水性基としては、カルボキシル基、カルボキシレート基、硫酸基、サルフェート基、スルホン酸基、スルホネート基、リン酸基及びホスフェート基等が含まれる。親水性基の種類としては1種のみでもよく、2種以上でもよい。
カルボキシレート基、サルフェート基、スルホネート基及びホスフェート基には塩及びエステルが含まれる。塩としては無機塩基及び有機塩基との塩等が挙げられ、無機塩基及び有機塩基としては、後述の金属カチオン及び有機塩基カチオンが使用できる。エステルとしては脂肪族アルコールとのエステル等が挙げられる。
【0027】
これらのうち、透過速度の低下抑制の観点で、カルボキシル基及びカルボキシレート基が好ましく、さらに好ましくはカルボキシレート基である。
【0028】
分子内のチオール基以外の親水性基の数は、透過速度の低下抑制の観点から、1〜4が好ましく、さらに好ましくは1〜3、次にさらに好ましくは1〜2である。
【0029】
本発明において、化合物(A)は分子内にチオール基を少なくとも1つ有し、チオール基以外の親水性基を少なくとも1つ有する化合物であり、透過速度の低下抑制の観点から、チオール基を1つ有し、カルボキシレート基又はカルボキシル基を1つ有する化合物が好ましい。
【0030】
化合物(A)として、一般式(1)で示される化合物が挙げられ、透過速度の低下抑制の観点から、好ましい。
【化1】

【0031】
式中、mは1〜10の整数を表し、nは1〜20の整数を表す。Bm+はm価のカチオンを表し、金属カチオン又は有機塩基カチオンが含まれる。異なるm個の{}内の式で表される基において、nは同一でも異なっていてもよい。
mは、透過速度の低下抑制の観点から、1〜4が好ましく、さらに好ましくは1〜3であり、特に好ましくは1〜2、最も好ましくは1である。
nは、透過速度の低下抑制の観点から、1〜8が好ましく、さらに好ましくは1〜3であり、最も好ましいのは1〜2である。
【0032】
式(1)中の{}内の式で表されるアニオンは、チオール基を有する脂肪酸からプロトンを除いたアニオンであり、具体的には、メルカプトグリコール酸アニオン、メルカプトプロピオン酸アニオン、メルカプトブタン酸アニオン、メルカプトペンタン酸アニオン及びメルカプトヘキサン酸アニオンが挙げられる。透過速度の低下抑制の観点からメルカプトグリコール酸及びメルカプトプロピオン酸が好ましく、さらに好ましくはメルカプトプロピオン酸である。
【0033】
これらのアニオンは1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0034】
金属カチオンとしては、アルカリ金属イオン(ナトリウムイオン及びカリウムイオン等)及びアルカリ土類金属イオン(カルシウムイオン及びマグネシウムイオン等)等が挙げられる。
【0035】
有機塩基カチオンとしては、1級アミンカチオン、2級アミンカチオン、3級アミンカチオン及び4級アンモニウムカチオンが挙げられる。
1級アミンカチオンとして具体的に、グアニジンカチオン、炭素数が1〜22のモノアルキルアミンカチオン、炭素数が1〜12のモノアルカノールアミンカチオン、アルギニンカチオン及びリシンカチオン等が挙げられる。
2級アミンカチオンとしては、炭素数が1〜22のジアルキルアミンカチオン及び炭素数が1〜12のジアルカノールアミンカチオン等が挙げられる。
3級アミンカチオンとしては、炭素数が1〜22のトリアルキルアミンカチオン及び炭素数が1〜12のトリアルカノールアミンカチオン等が挙げられる。
4級アンモニウムカチオンとしてはテトラメチルアンモニウムカチオン、テトラエチルアンモニウムカチオン及びテトラプロピルアンモニウムカチオン等が挙げられる。
【0036】
これらのカチオンは単独で使用しても2種以上を併用しても良い。透過速度低下抑制の観点から、有機塩基カチオンが好ましく、さらに好ましくは1級アミンカチオン、次にさらに好ましくはグアニジンカチオンである。
一般式(1)で示される化合物としては、具体的には、メルカプトグリコール酸グアニジン塩、メルカプトプロピオン酸グアニジン塩、メルカプトブタン酸グアニジン塩、メルカプトペンタン酸グアニジン塩、メルカプトヘキサン酸グアニジン塩、メルカプトグリコール酸ナトリウム塩、メルカプトプロピオン酸ナトリウム塩、メルカプトブタン酸ナトリウム塩、メルカプトペンタン酸ナトリウム塩、メルカプトヘキサン酸ナトリウム塩、トリ(メルカプトグリコール酸)ジエチレントリアミン塩、トリ(メルカプトプロピオン酸)ジエチレントリアミン塩、トリ(メルカプトブタン酸)ジエチレントリアミン塩、トリ(メルカプトペンタン酸)ジエチレントリアミン塩、トリ(メルカプトヘキサン酸)ジエチレントリアミン塩、メルカプトプロパンスルホン酸グアニジン塩、メルカプトプロパンスルホン酸ナトリウム塩及びトリ(メルカプトプロパンスルホン酸)ジエチレントリアミン塩が挙げられる。
【0037】
これらのうち、透過速度の低下抑制の観点から、メルカプトグリコール酸グアニジン塩及びメルカプトプロピオン酸グアニジン塩が好ましい。
【0038】
本発明の分離性向上剤中の化合物(A)の含有量(重量%)は、ハンドリング性の観点から、分離性向上剤の重量に対して50〜100が好ましく、さらに好ましくは75〜100、次に更に好ましくは90〜100である。
【0039】
本発明の分離性向上剤には、性能に悪影響を与えない範囲内で、化合物(A)以外に界面活性剤、キレート剤、多価アルコール及び酵素等を含んでも良い。
【0040】
界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤及び両イオン性界面活性剤が挙げられ、具体的にはTWEEN(登録商標)20、TWEEN(登録商標)80、ドデシル硫酸ナトリウム及びコールアミドプロピルプロパンスルホン酸(CHAPS)等の市販の界面活性剤が使用できる。含有量(重量%)は、化合物(A)の重量に対し、透過速度の低下抑制の観点から、0〜100が好ましく、さらに好ましくは0〜50である。
【0041】
キレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸等が挙げられる。含有量(重量%)は、化合物(A)の重量に対し、透過速度の低下抑制の観点から、0〜30が好ましく、さらに好ましくは0〜10である。
【0042】
多価アルコールとしては、グリセリン及びソルビトールが挙げられる。含有量(重量%)は、化合物(A)の重量に対し、透過速度の低下抑制の観点から、0〜100が好ましく、さらに好ましくは0〜30である。
【0043】
酵素としては、プロテアーゼ(トリプシン等)が挙げられる。含有量(重量%)は、化合物(A)の重量に対し、透過速度の低下抑制の観点から、0〜10が好ましく、さらに好ましくは0〜5である。
【0044】
本発明の分離性向上剤は、化合物(A)以外に、必要により界面活性剤、キレート剤、多価アルコール及び酵素等を含有する場合、(A)とそれ以外の成分を混合することで容易に製造できる。
【0045】
本発明の別の実施態様は、上記分離性向上剤の存在下で生理活性物質水溶液を膜分離及び/又はろ過する工程を含む生理活性物質の製造方法である。
【0046】
本発明の分離性向上剤の存在下で、生理活性物質水溶液を膜分離及び/又はろ過する工程を含む生理活性物質の製造方法について1例を以下に示す。
(1)培養した遺伝子組換え大腸菌を集菌後、超音波ホモジナイザーを用いて破砕する。
(2)遠心分離機で菌体破砕物を分離し、生理活性物質が溶解している上清を回収する。
(3)上清に分離性向上剤を加えて均一に混ぜる。
(4)透析チューブに(3)の水溶液を加え、透析を行う。
(5)透析チューブ内の水溶液をゲルろ過カラムにかけ、目的の生理活性物質が溶解した 画分を分取する。
【0047】
分離性向上剤の使用量は、透過速度の低下抑制の観点から、生理活性物質の重量に対する分離性向上剤中の化合物(A)の重量比が0.001〜100となるようにするのが好ましく、さらに好ましくは0.01〜10である。
【0048】
本発明の分離性向上剤は、必要に応じて水で希釈して使用しても良い。水で希釈する場合、水の使用量は、分離性向上剤中の化合物(A)の重量に基づき、5〜10,000(重量比)であり、ハンドリング性の観点から5〜100が好ましい。水はイオン交換水が使用できる。
【0049】
本発明の分離性向上剤は、その存在下で膜分離及び/又はろ過を行えばよく、膜分離及び/又はろ過を行う工程の直前に分離性向上剤を生理活性物質水溶液に加えても、膜分離及び/又はろ過の工程よりも前の工程で加えても、あるいは膜分離及び/又はろ過を行う工程で加えても良い。
【0050】
本発明の分離性向上剤の存在下で膜分離及び/又はろ過を行う際、透過速度の低下抑制の観点から、4〜10℃で行うことが好ましい。
【0051】
本発明の生理活性物質の製造方法は、膜分離及び/又はろ過工程での膜詰まりが少ないので、容易に目的物質を精製することができる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により、本発明を更に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、特記しない限り部は重量部を意味し、%は重量%を意味する。
【0053】
<実施例1>
(メルカプトプロピオン酸グアニジン塩の合成)
メルカプトプロピオン酸5.3gを200mLのビーカーに入れ、イオン水100gを加えて溶解させ、炭酸グアニジン3.9gを少量ずつ加え、マグネチック攪拌子を用いて40℃で10分間攪拌した。その後、エバポレーターで乾固させて、メルカプトプロピオン酸グアニジン塩(A−1)を得た。
【0054】
<実施例2>
(メルカプトプロピオン酸ナトリウム塩の合成)
実施例1において、炭酸グアニジン3.9gを水酸化ナトリウム1.8gに変更する以外は実施例1と同様におこない、メルカプトプロピオン酸ナトリウム塩(A−2)を得た。
【0055】
<実施例3>
(メルカプトグリコール酸グアニジン塩の合成)
実施例1において、メルカプトプロピオン酸5.3gをメルカプトグリコール酸4.7gに変更する以外は実施例1と同様におこない、メルカプトグリコール酸グアニジン塩(A−3)を得た。
【0056】
<実施例4>
(トリス−(メルカプトプロピオン酸)ジエチレントリアミン塩の合成)
実施例1において、メルカプトプロピオン酸5.3gをメルカプトグリコール酸4.7gに変更し、炭酸グアニジン3.9gをジエチレントリアミン1.9gに変更する以外は実施例1と同様におこない、トリス−(メルカプトプロピオン酸)ジエチレントリアミン塩(A−4)を得た。
【0057】
<実施例5>
(メルカプトプロパンスルホン酸グアニジン塩の合成)
実施例1において、メルカプトプロピオン酸5.3gをメルカプトプロパンスルホン酸7.6gに変更する以外は実施例1と同様におこない、メルカプトプロパンスルホン酸グアニジン塩(A−5)を得た。
【0058】
<実施例6>
大腸菌E.coli(BL−21株)を培養し、室温で遠心分離(13000rpm、10分)をおこない上清を捨て、集菌した。大腸菌のウェットセル5gに対し、バッファー(50mMPBS、50mM塩化ナトリウムを含む水溶液)20gを加えて再懸濁させた。
大腸菌懸濁液を200mlのガラス製ビーカーに移し、氷水で冷却しながら超音波ホモジナイザー(130W、10分)で菌体を破砕した。その後、4℃で遠心分離(13000rpm、20分)し、上清を回収した。
上記大腸菌破砕液上清1g(タンパク質含量1mg)に対し、実施例1で製造した化合物(A−1)を0.1mg添加し、マグネチックスターラーで撹拌し均一混合し、測定用生理活性物質水溶液を得た。
【0059】
<実施例7〜10>
実施例6において、(A−1)の代わりに(A−2)〜(A−5)を使用する以外は、実施例6と同様におこなった。
【0060】
<実施例11>
実施例6において、(A−1)の添加量を0.001mgに変更する以外は実施例6と同様におこなった。
【0061】
<実施例12>
実施例6において、(A−1)の添加量を100mgに変更する以外は実施例6と同様におこなった。
【0062】
<比較例1>
実施例6において、(A−1)をポリエチレングリコール(和光純薬工業社製、ポリエチレングリコール4000)0.1mgに変更する以外は実施例6と同様におこなった。
【0063】
<比較例2>
比較例1において、ポリエチレングリコールの添加量を10mgに変更する以外は比較例1と同様におこなった。
【0064】
<比較例3>
添加剤を何も加えないこと以外は比較例1と同様におこなった。
【0065】
実施例6〜12及び比較例1〜3で得られた測定用生理活性物質水溶液を使用して、下記評価方法により透析における透過速度及び限外ろ過における透過速度を評価した。結果を表1に示す。
【0066】
[透析における透過速度]
透析よるナトリウムイオンの濃度低下の度合いを下記の方法で測定した。
上記の測定用生理活性物質水溶液1gを透析チューブ(和光純薬工業社製、商品名:ワコーダイアライシス サイズ20)に入れ、100mlのイオン水が入った200mlビーカー内で透析をおこなった。1時間経過後の透析チューブ内の生理活性物質水溶液中のナトリウムイオン濃度をICP発光分析装置(島津製作所社製、ULTIMA2)で測定した。
また、透析する前の生理活性物質水溶液中のナトリウムイオン濃度を同様に測定した。
【0067】
透析における透過速度の評価を下記式で得られた数値を使用して下記基準に従っておこなった。
【0068】
【数1】

【0069】
5: 0.95以上
4: 0.90以上〜0.95未満
3: 0.80以上〜0.90未満
2: 0.70以上〜0.80未満
1: 0.70未満
【0070】
[限外ろ過における透過速度]
限外ろ過よるナトリウムイオンの濃度低下の度合いを下記の方法で測定した。
上記の測定用生理活性物質水溶液5gを4℃に冷却し、限外ろ過膜{日本ジェネティクス社製、商品名:スペクトラポア1(分画分子量6000〜8000)}に通し、5倍濃縮した。5倍に濃縮できた時点で液を回収した。5倍濃縮後の生理活性物質水溶液中のナトリウムイオン濃度をICP発光分析装置(島津製作所社製、ULTIMA2)で測定した。
また、限外ろ過で濃縮する前の生理活性物質水溶液中のナトリウムイオン濃度を同様に測定した。
【0071】
限外ろ過における透過速度の評価を下記式で得られた数値を使用して下記基準に従っておこなった。
【0072】
【数2】

【0073】
5:0.99以上
4:0.98以上〜0.99未満
3:0.95以上〜0.98未満
2:0.90以上〜0.95未満
1:0.90未満
【0074】
【表1】

【0075】
表1より、従来提案されているポリエチレングリコールは透析及び限外ろ過において、透過速度の低下を抑制できず、透過速度が小さかった。一方で、本発明の分離性向上剤を添加すると、透析及び限外ろ過のどちらの場合でも透過速度が低下せず、透過速度が大きかった。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の分離性向上剤は、膜分離及び/又はろ過における膜の目詰りを起こしにくく、透過速度の低下を抑制することができる。そのため、生理活性物質の発酵生産等において、分離精製工程に特に好適に使用することができる。
また、乳製品等の生産工場でのろ過フィルターを洗浄する洗浄剤としても使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質及び水を含んでなる生理活性物質水溶液を膜分離及び/又はろ過する際に使用する分離性向上剤であって、少なくとも1つのチオール基を分子内に含有し、少なくとも1つのそれ以外の親水性基を分子内に含有する化合物(A)を含有することを特徴とする分離性向上剤。
【請求項2】
親水性基がカルボキシル基及び/又はカルボキシレート基である請求項1に記載の分離性向上剤。
【請求項3】
化合物(A)が下記一般式(1)で表される化合物である請求項1に記載の分離性向上剤。
【化1】

[mは1〜10の整数を表し、nは1〜20の整数を表す。Bm+はm価のカチオンを表す。異なるm個の{}内の式で表される基において、nは同一でも異なっていてもよい。]
【請求項4】
m+がグアニジンカチオンである請求項3に記載の分離性向上剤。
【請求項5】
タンパク質及び水を含んでなる生理活性物質水溶液を膜分離及び/又はろ過する際に、請求項1〜4のいずれかに記載の分離性向上剤の存在下で膜分離及び/又はろ過を行う工程を含むことを特徴とする生理活性物質の製造方法。

【公開番号】特開2009−263296(P2009−263296A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−116694(P2008−116694)
【出願日】平成20年4月28日(2008.4.28)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】