説明

切削油の再生処理方法及びその装置

【課題】回収した使用済みの切削油を再生利用可能とするとともに、使用済み切削油を減容化して産業廃棄物としての処理量を減少させ、更には回収した切削油から不純物を除去して切削油として再生利用することができる切削油の再生処理方法及びその装置を提供することを目的とする。
【解決手段】使用済みの切削油の一定量を油水分離槽4内に流入させ、上澄み液として分離した油分を除去してから油水分離槽4内に残留する切削油の一定量を真空蒸発装置8内に流入させて温水ボイラ9の稼働により使用済みの切削油中に含まれている希釈水等の水分を低温下で蒸発させ、微生物を死滅させるとともに使用済み切削油自体を減容化し、蒸発した水分は冷却器14により液化して切削油の希釈水として再生利用する一方、残留する切削油をフィルタ11で濾過することにより、該切削油から切削粉,バクテリア,汚れ等の不純物を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は切削油の再生処理方法及びその装置に関し、特には使用済みの切削油から、切削粉,バクテリア,汚れ等の不純物を除いた水分(希釈水)を回収することにより、回収した希釈水を再生利用可能とするとともに使用済み切削油を減容化し、更には希釈水を蒸発させて回収した切削油から不純物をフィルタを介して除去し、濾過された切削油に再生した希釈水,或いは他の希釈水や必要な成分を補充して切削油として再生利用するようにし、更には使用済みの切削油そのものを再生利用するようにしたものである。
【背景技術】
【0002】
従来から一般に使用されている切削油とは、各種工具及び工作機械による切削加工時に使用する潤滑油材であり、旋盤による旋削やドリルを用いた穴加工などに代表される切削加工を行う際に利用されている。工具の代わりに砥石を用いた研削加工も切削加工に含まれる。切削油の機能としては、工具・砥石寿命の延長,加工物仕上げ面粗さの向上,加工物寸法精度の維持,生産性の向上,加工コストの低減等が挙げられる。
【0003】
切削油の作用を大別すると、潤滑作用,冷却作用,反溶着作用の3つに分類される。潤滑作用とは、被削材−工具、工具−切屑間に切削油が浸透して境界面の摩擦を減少させ、工具のクレーター摩耗やフランク摩耗を減少させる作用であり、冷却作用とは、被削材−工具、工具−切屑間で発生する摩擦熱や金属のせん断熱を吸収し、被削材を冷却するとともに工具の硬度低下を防いで摩耗を減少させ、加工物の熱膨張による寸法精度のバラツキを防止して仕上げ面精度を維持する作用である。更に反溶着作用とは、構成刃先の生成や被削材−工具、工具−切屑間の溶着を防止し、構成刃先に起因する仕上げ面粗さの悪化や、加工物の寸法精度のバラツキを防止する作用を指している。
【0004】
切削油の種類としては、潤滑作用を主目的として原液で使用する「不水溶性切削油」と、冷却作用を主目的として水に希釈して使用する「水溶性切削油」に分類される。不水溶性切削油は更に不活性タイプと活性タイプに分類される。また、水溶性切削油は、エマルジョンタイプ(A1種),ソリュブルタイプ(A2種),ケミカルソリューションタイプ(A3種)に分類される。エマルジョンタイプは鉱油や脂肪油等の水に溶けない成分と界面活性剤からなり、水に加えて希釈すると外観が乳白色になる切削油であり、ソリュブルタイプは界面活性剤等の水に溶ける成分単独、又は水に溶ける成分と鉱油や脂肪油など水に溶けない成分からなり、水に加えて希釈すると外観が半透明ないし透明になる切削油である。ケミカルソリューションタイプは水に溶ける成分からなり、水に加えて希釈すると外観が透明になる切削油である。
【0005】
水溶性切削油の管理上の問題点として、該水溶性油剤を水で希釈すると水溶性クーラントと呼ばれる水溶液となるが、水溶性クーラントは油剤成分が少なくて大部分が希釈水であるため、水の特徴がもつ様々な性質により劣化しやすく、厳密な管理を必要とする。
【0006】
特許文献1には、切削加工機械からピット内へ排出された切子に付着の切削油を再使用可能とし、切削油の腐敗に伴う悪臭の発生を抑制することを目的として、切削加工機械からピット内へ切子が排出され、上記切子に付着していた切削油が切子からピットの底面上へ垂れ落ち、ピット底面上の切削油に対し切削油の下流側に向かってエアを吹きつけることにより、ピット底面上の切削油を下流側へ付勢するようにした切削油の回収システムが開示されている。
【0007】
特許文献2には、定期的な清掃作業を不要として長時間の無人運転を可能とすることを目的として、金属粉等の廃材とクーラントの混在した使用済みクーラントから廃材を濾過して再生クーラントとして再使用可能とするための濾過装置であって、使用済みクーラントを投入するための第1の開口部と前記廃材を排出するための第2の開口部とを有する濾過装置本体と、濾過装置本体内に回動駆動可能に設けられ、前記第1の開口部から投入された使用済みクーラントを濾過するコンベアと、該コンベアに所定間隔を置いて取り付けられ、廃材を掻き出すための掻き出し部材と、コンベアに載置された廃材及びそれ以外の濾過装置本体の底面に沈殿する廃材を濾過装置本体の底面とコンベアの表面との間で、掻き出し部材により掻き出しながら第2の開口部まで搬送するようにコンベアを回動駆動する駆動手段とを具備した濾過装置例が記載されている。
【特許文献1】特開平10−34488号公報
【特許文献2】特開平9−300171号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般に前記水溶性切削油は、希釈水を用いて50〜100倍程度に希釈して使用するのが通例であるが、一定期間使用をすることにより使用中に切削粉が混入し、乳化が解けて油が析出したり、その他の汚れが混入し、バクテリアが発生し、異臭が生じたりする。そのため、回収した使用済み水溶性切削油中には、切削粉,バクテリア,汚れ等の不純物が多く含まれることとなり、全量を産業廃棄物として燃焼処理しなければならない。しかし前記したように水溶性切削油は希釈水を用いて50〜100倍に希釈しているため、その殆どが水分であり、産業廃棄物としての処理量が膨大な分量となり、燃焼するための煩瑣で多大な処理工数と時間を必要とし、コストも高くなるという課題がある。
【0009】
更に水溶性切削油を一定期間使用すると、前記したように切削粉が混入することにより乳化が解けて油が析出したり、バクテリアの発生に伴う異臭が生じ、更にその他の各種汚れが混入することによって冷却効率が低下してしまい、各種工具及び工作機械を用いた切削加工時に該切削工具の摩耗及び加工品の腐食が発生するという問題が生じる。
【0010】
そこで本発明は従来の切削油が有している課題を解消して、回収した切削油中の希釈水を再生利用可能とするとともに、使用済み切削油を減容化して産業廃棄物としての処理量を減少させ、更には希釈水を蒸発させて回収した切削油から不純物を除去して、前記再生した希釈水,或いは他の希釈水や必要な成分を補充して切削油として再生利用し、更には使用済みの切削油そのものを再生利用することができる切削油の再生処理方法及びその装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記目的を達成するために、使用済みの切削油を真空蒸発装置を用いて真空蒸発させることにより、使用済みの切削油中の希釈水を貯留して再生利用を可能とするとともに使用済み切削油を減容化し、希釈水が除去された前記真空蒸発装置内の切削油から切削粉,バクテリア,汚れ等の不純物を除去した切削油に、再生した希釈水や必要な成分を補充して切削油として再生利用する切削油の再生処理方法、及び使用済みの切削油の一定量を油水分離槽内に流入させ、上澄み液として分離した油分を除去してから油水分離槽内に残留する切削油の一定量を真空蒸発装置内に流入させて温水ボイラその他の熱源の稼働により使用済みの切削油中に含まれている希釈水等の水分を低温下で蒸発させ、バクテリアを死滅させるとともに使用済み切削油自体を減容化し、蒸発した水分は冷却器により液化して切削油の希釈水として再生利用する一方、残留する切削油をフィルタで濾過することにより、該切削油から切削粉,バクテリア,汚れ等の不純物を除去した切削油に、再生した希釈水や必要な成分を補充して切削油として再生利用する切削油の再生処理方法を提供する。
【0012】
更に、使用済みの切削油を真空蒸発装置を用いて真空蒸発させることにより、使用済みの切削油から切削粉,バクテリア,汚れ等の不純物を除去して、切削油を再生切削油タンク内に貯留して再生利用を可能とするとともに、残渣を廃棄し、再生切削油タンク内に希釈水や必要な成分を補充して切削油として再生利用する切削油の再生処理方法、及び使用済みの切削油の一定量を真空蒸発装置内に流入させて温水ボイラその他の熱源の稼働により使用済みの切削油を低温下で蒸発させ、使用済みの切削油から切削粉,バクテリア,汚れ等の不純物を除去するとともに、蒸発した切削油は冷却器により液化して切削油として再生利用する一方、残渣を廃棄する方法を提供する。そして、上記温水ボイラその他の熱源の温度を約30℃〜100℃,真空蒸発装置内の真空度を約0.0067Mpa〜0.1Mpaとする。
【0013】
使用済みの切削油を真空蒸発させる真空蒸発装置と、蒸発した水分を液化して希釈水とする冷却器と、再生利用可能な希釈水を貯留する再生希釈水タンクと、残留する切削油から切削粉,バクテリア,汚れ等の不純物を除去するフィルタと、得られた切削油を貯留する再生切削油タンクとを配備した切削油の再生処理装置、及び使用済みの切削油を真空蒸発させる真空蒸発装置と、蒸発した切削油を液化する冷却器と、再生利用可能な切削油を貯留する再生切削油タンクとを配備した構成を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によって得られた切削油の再生処理方法とその装置によれば、回収した使用済みの切削油を真空蒸発装置を用いて低温下で真空蒸発させることにより、使用済みの切削油から切削粉,バクテリア,汚れ等の不純物を除いた水分(希釈水)を再生希釈水タンク内に貯留して再生利用を可能とし、かつ、使用済み切削油を大幅に減容化して産業廃棄物として燃焼処理する余分な工数と時間をなくし、処理コストを低廉化することができる。更には使用済みの切削油そのものを再生利用することができる。そして、バクテリアは低温殺菌となり、一定時間沸騰することで死滅するので、蒸発のための加温によって悪臭による工場環境の悪化の原因であるバクテリアを死滅させることができる。
【0015】
更に、希釈水を蒸発させた切削油から切削粉,バクテリア,汚れ等の不純物をフィルターを介して除去し、濾過された使用済みの切削油に再生した希釈水,或いは他の希釈水や必要な成分を補充して切削油として再生利用することができる。そのため、従来、全量を産業廃棄物として廃棄処理していた使用済み切削油を有効成分と不純物とに分離し、再生利用可能とすることによりゼロエミッション(排出ゼロ)を実現することができる。具体的にはエマルジョンタイプの切削油は油と界面活性剤成分が壊れないため希釈水を回収して他の成分は追加補充等して使用することができる。ソリュブルタイプ及びケミカルソリューションタイプの切削油は使用済みの切削油そのものを再生利用することが可能である。なお、フィルタによって除去された切削粉や分離油分(界面活性剤から分離した油)は大幅に減容化された状態で産業廃棄物として処理することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下本発明にかかる切削油の再生処理方法及びその装置の最良の実施形態を説明する。先ず第1実施形態はエマルジョンタイプの水溶性切削油を対象とするものであり、使用済みのエマルジョンタイプの水溶性切削油を真空蒸発装置を用いて真空蒸発させることにより、希釈水を再生希釈水タンク内に貯留して再生利用を可能とするとともに使用済み切削油を減容化し、前記真空蒸発装置で回収した切削油から切削粉,バクテリア,汚れ等の不純物を除去した切削油に、再生した希釈水や必要な成分を補充して切削油として再生利用するようにした切削油の再生処理方法とその装置を基本手段としている。
【0017】
図1は本発明にかかる切削油の再生処理装置の第1実施形態を全体的に示す概要図であり、水溶性のエマルジョンタイプの切削油を再生するものである。先ず主要な構成要素を説明すると、1は使用済み切削油タンク、2は開閉バルブ、3は液送ポンプ、4は油水分離槽、5は廃油タンク、6は開閉バルブ、7は液送ポンプ、8は真空蒸発装置、8aはヒータ、9は温水ボイラ、10は開閉バルブ、11はフィルタ、12は再生切削油タンク、13はブロワ、14は冷却器、15は再生希釈水タンク、16は活性炭塔、17は真空ポンプである。なお、温水ボイラ9に替えて、オイルを加熱した熱源その他の適宜の熱源を使用することができる。
【0018】
かかる再生処理装置の基本的動作は以下の通りである。先ず回収した使用済みの切削油を使用済み切削油タンク1に投入し、開閉バルブ2を開けて液送ポンプ3を駆動することによって一定量の使用済み切削油が油水分離槽4内に流入する。この油水分離槽4内に切削油を一定時間貯留することにより、表面に比重が軽い混入油等の油分が上澄み液として分離するので、この上澄み液を廃油タンク5に移して除去する。
【0019】
次に開閉バルブ6を開けて液送ポンプ7を駆動することによって油水分離槽4内に残留する切削油の一定量が真空蒸発装置8内に流入する。そして真空源としての真空ポンプ17を駆動させながら温水ボイラ9を稼働することにより、使用済み切削油中に含まれている希釈水等の水分が真空蒸発装置8内で低温下で蒸発する。これに伴ってバクテリア等の微生物が死滅し、かつ、水分のみが蒸発することによって使用済み切削油自体が大幅に減容化される。第1実施形態で再生処理するエマルジョンタイプの切削油には鉱物油が入っており、この鉱物油は蒸発温度が高く容易には分離できないため、界面活性剤等の他の薬剤成分と一緒に残したほうが処理が容易であるため、水分のみを対象として蒸発させることとした。
【0020】
そして開閉バルブ10を開けて切削油をフィルタ11で濾過することにより、該切削油から切削粉,バクテリア,汚れ等の不純物が除去され、再生切削油タンク12内に貯留される。その後、切削油の原液に含まれていない他の種類の鉱物油が含まれているかどうかを調査してから、再生利用されることとなる。必要に応じてブロワ13を稼働することにより、再生切削油タンク12内が減圧されて再生切削油の酸化が防止される。
【実施例1】
【0021】
具体的な実施例として温水ボイラ9の温度60℃,真空蒸発装置8内の真空度約0.02Mpa,水分の蒸発温度60℃,真空蒸発装置8の1回の処理量500リットル,フィルタ11のメッシュ100μmとして、水溶性のエマルジョンタイプの切削油の再生処理を行ったところ、貯留された再生希釈水量は約458リットル、再生切削油量は約40リットルとなった。
【0022】
真空蒸発装置8内で蒸発した水分は、一旦ヒータ8aにより加熱することにより、バクテリア等の微生物を完全に死滅させてから冷却器14に導入され、冷却水14a,14bを流すことにより液化して再生希釈水タンク15内に貯留される。ヒータ8aの温度設定は自在に行えばよく、このヒータ8aを用いた加熱により、他の成分を変性させることなくバクテリアのみを完全に死滅させることができる。なお、バクテリアは蒸発しないので残渣として残り、又60℃程度で死滅するのであるが、念のためヒータ8aで加熱をして蒸発した水蒸気が凝縮して真空蒸発装置8内へ戻るのを防止するとともに、バクテリアを完全に死滅させるようにしている。
【0023】
真空蒸発装置8内での切削油の蒸発温度を低く設定することもできて、処理時間に余裕があれば0℃付近での蒸発も可能となり、他の有効成分を破壊もしくは変性させることなく水分のみを分離させて、安全確実な再生希釈水を得ることができる。
【0024】
再生希釈水タンク15内の空気中に万一想定できない有機ガスが含まれているケースを考慮して、安全性の観点から真空ポンプ17を稼働することによって活性炭塔16により該有機ガスを吸着除去した後、大気中に放散する。再生希釈水タンク15内に貯留された水分は、切削油の希釈水として再生利用することができる。
【0025】
前記フィルタ11は切削粉,汚れ等の固形物を除去することが主な目的となっており、このフィルタ11によって除去された切削粉や分離油分,即ち界面活性剤から分離した油分は産業廃棄物として燃焼処理される。
【0026】
以上の動作説明から明らかなように、第1実施形態によれば使用済みの切削油を真空蒸発装置8を用いて低温下で真空蒸発させることにより、希釈水のみを再生希釈水タンク15内に貯留して再生利用を可能とするとともに使用済み切削油を減容化し、更に真空蒸発装置8で回収した切削油からフィルタ11を介して切削粉,バクテリア,汚れ等の不純物を除去し、濾過された切削油に再生した希釈水,或いは他の希釈水や必要な成分を補充して切削油として再生利用することができる。
【0027】
従って真空蒸発装置8による真空蒸発により希釈水のみが再生希釈水タンク15内に貯留されるので、使用済み切削油自体が大幅に減容化され、切削油としての有効成分と不純物とを分離して再生利用することによってゼロエミッション(排出ゼロ)を実現し、従来の産業廃棄物として燃焼処理する余分な工数と時間をなくして処理コストも低廉化されるという特徴がある。また、真空蒸発装置8による真空蒸発時に工場の悪臭の主原因であるバクテリアが死滅するので、各種切削加工を行う工場の作業環境が良好に保持される。
【0028】
なお、希釈水を分離せずにフィルタ11で不純物を除去する手段も考えられるが、フィルタだけでは細かい汚れやバクテリアを除去することができない上、切削油の油分濃度や他の化学成分濃度を一定にすることができない。
【0029】
図2は実施例1にかかる再生希釈水のGC−MSガスクロマトグラフィ分析データ、図3は切削油の原液に50倍の希釈水を加えた切削油のGC−MSガスクロマトグラフィ分析データを示しており、A:トリエタノールアミン,B:ジエタノールアミン,C:ポリオキシアルキレングリコールのピークであり、A,Bは洗浄剤、乳化剤、合成油として作用し、Cは潤滑剤として作用する。図4は第1実施形態にかかる再生切削油に50倍の再生希釈水を加えた切削油のGC−MSガスクロマトグラフィ分析データを示している。図中のTICはトータルイオンクロマトグラフィの略号であり、グラフ中のイオンのトータル量を表している。TICが少ないとイオン量も少なく、その物質の濃度が薄いものと解釈できる。横軸は時間であり、GC−MSガスクロマトグラフィに使用しているガスを分離するためのカラムの種類によってそのカラムを通過してくる時間に特有の時間があり、ガスを分離できてその種類が特定される。
【0030】
図2に示す再生希釈水はTICが5201と非常に少ないので数ppm程度の濃度で防錆剤、防腐剤などが極少量含まれているが希釈水としての再使用には全く問題のないレベルであり、希釈水として再生利用可能である。図4に示す第1実施形態にかかる再生切削油のピークAは図3に示すピークAに比してやや低くなっているが、再生希釈水中にはppmオーダーの物質A,Bが含まれており、その他は殆ど水であるため、切削油としての再生利用には問題のないレベルとなっている。
【0031】
次に切削油そのものを直接再生処理する本発明の第2実施形態を説明する。この第2実施形態は使用済みのソリュブルタイプ又はケミカルソリューションタイプの切削油を真空蒸発装置を用いて真空蒸発させることにより、使用済みの切削油から切削粉,バクテリア,汚れ等の不純物を除去して、切削油そのものを直接に再生切削油タンク内に貯留して再生利用を可能とするとともに、真空蒸発させた残渣を残渣タンクに収納して廃棄する切削油の再生処理方法とその装置を基本手段としている。
【0032】
図5は本発明にかかる切削油の再生処理装置の第2実施形態を全体的に示す概要図であり、水溶性のソリュブルタイプ又はケミカルソリューションタイプの切削油を用いたものである。前記した第1実施形態と基本的構成は共通であり、同一構成要素には同一の符号を付してその説明を省略する。相違する構成としては、第1実施形態の再生切削油タンク12が残渣タンク20に、再生希釈水タンク15が再生切削油タンク21に、ブロワ13が排出用ポンプ22に変更されているとともに、油水分離槽4,廃油タンク5,開閉バルブ6,液送ポンプ7が装備されていない。その他の構成は共通である。
【0033】
第2実施形態の再生処理装置の基本的動作は以下の通りである。先ず回収した使用済みのソリュブルタイプ又はケミカルソリューションタイプの切削油を使用済み切削油タンク1に投入し、開閉バルブ2を開けて液送ポンプ3を駆動することによって一定量の使用済み切削油が真空蒸発装置8内に流入する。そして真空源としての真空ポンプ17を駆動させながら温水ボイラ9を稼働することにより、最初に使用済み切削油中に含まれている希釈水等の水分が真空蒸発装置8内で低温下で蒸発し、水分蒸発後に更に真空ポンプ17を駆動することにより、切削油の各種成分そのものが蒸発してゆき、先に蒸発した水分とともに再生切削油タンク21に収納され、切削油として再生される。
【0034】
このとき、使用済みの切削油にふくまれる切削粉,バクテリア,汚れ等の不純物は蒸発することなく残渣となり、開閉バルブ10を開けて残渣をフィルタ11で濾過してから、残渣タンク20内に貯留される。なお、フィルタ11は装備しなくてもよい。
【0035】
真空蒸発装置8内で蒸発した水分は、一旦ヒータ8aにより加熱することにより、バクテリアを完全に死滅させてから冷却器14に導入され、冷却水14a,14bを流すことにより液化して再生切削油タンク21内に貯留される。ヒータ8aの温度設定は自在に行えばよく、このヒータ8aを用いた加熱により、他の成分を変性させることなくバクテリアのみを死滅させることができる。第2実施形態で再生処理するソリュブルタイプ又はケミカルソリューションタイプの切削油は水分とともに切削油の他の成分を蒸発させる。即ち切削油そのものを蒸発させて再生する。これはソリュブルタイプ又はケミカルソリューションタイプの切削油では、水分の蒸発が終了すれば圧力が下がり始め、その後再び温度が上がり始めるので、この時点で停止すれば切削油から水分だけ分離できるが、切削油に混入された他の薬剤の蒸発温度が比較的低いため、水分と同時に蒸発させたほうが再生利用するには便利である。
【0036】
第1実施形態で採用した油水分離槽4は、エマルジョンタイプの切削油の再生処理が界面活性剤から乖離した油や作業中に切削油に混入した界面活性剤が作用しない油を除去するのが目的であるため装備しているが、第2実施形態が対象とするソリュブルタイプ又はケミカルソリューションタイプの切削油の場合は合成油が主成分でありよく混合されているため分離せず油水分離槽では除去できない。そのため、第2実施形態では油水分離槽を装備せず、又全量を蒸発して油を分離したほうが合理的である。なお、水分のみを分離したい場合は圧力、温度の変化をみて停止すれば分離することができる。また、全量を蒸発して油をとった後、再度蒸発させ、温度、圧力変化により水分だけを分離することもできる。
【実施例2】
【0037】
具体的な実施例として温水ボイラ9の温度60℃,真空蒸発装置8内の真空度約0.02Mpa,水分の蒸発温度60℃,真空蒸発装置8の1回の処理量99.8gとしてソリュブルタイプの切削油の再生処理を行った。図6は実施例2における蒸発温度と時間の関係を示すグラフ、図7は同圧力と時間の関係を示すグラフ、表1はそれらのデータである。図6,図7に示すように40分付近で水分は全て蒸発し、その後圧力が下がり始め同時に温度が上がり始めており、水分が蒸発後に切削油の他の成分が沸点順に蒸発していることが判る。その結果、再生された切削油は98.3g、残渣1.4gとなり、0.1gが大気へ放出された。回収率は98.5%であった。
【0038】
【表1】

【0039】
図8は実施例2のソリュブルタイプの未使用の切削油のGC−MSガスクロマトグラフィ分析データ、図9は実施例2によって再生処理したソリュブルタイプの切削油のGC−MSガスクロマトグラフィ分析データである。図8,図9に示すように両者のピークは殆ど同一であって同一の成分比率となっており、原液と同様に再生処理できたことが判る。
【実施例3】
【0040】
具体的な実施例として温水ボイラ9の温度60℃,真空蒸発装置8内の真空度約0.02Mpa,水分の蒸発温度60℃,真空蒸発装置8の1回の処理量99.9gとしてケミカルソリューションタイプの切削油の再生処理を行った。図10は実施例3における蒸発温度と時間の関係を示すグラフ、図11は同圧力と時間の関係を示すグラフ、表2はそれらのデータである。図10,図11に示すように40分付近で水分は全て蒸発し、その後圧力が下がり始め同時に温度が上がり始めており、水分が蒸発後に切削油の他の成分が沸点順に蒸発していることが判る。その結果、再生された切削油は96.7g、残渣3gとなり、0.2gが大気へ放出された。回収率は96.7%であった。
【0041】
【表2】

【0042】
図12は実施例3のケミカルソリューションタイプの未使用の切削油のGC−MSガスクロマトグラフィ分析データ、図13は実施例3によって再生処理したケミカルソリューションタイプの切削油のGC−MSガスクロマトグラフィ分析データである。図12,図13に示すように両者のピークは殆ど同一であって同一の成分比率となっており、原液と同様に再生処理できたことが判る。また、これらの結果から、水分の蒸発が完了するのと切削油の他の成分が蒸発を開始するのとは区別できること(実施例2,3では40分)から水と他の成分を分離して再生することも可能である。
【0043】
なお、図8,図9,図12,図13によって検出された成分は次の通りである。
成分分析の物質名
A:トリエタノールアミン (洗浄剤、乳化剤、合成油)
B:ジエタノールアミン (洗浄剤、乳化剤、合成油)
C:ポリオキシアルキレングリコール (潤滑剤)
D:カブリル酸 (抗菌剤)
E:ベンゾトリアゾールスルフォナミドカルボン酸 (合成油)
F:トリプチルフォスフェート (消泡剤)
G:1,12デカンジカルボン酸 (抗菌剤)
【0044】
以上の動作説明から明らかなように、実施例2,3によればソリュブルタイプ又はケミカルソリューションタイプの使用済みの切削油を真空蒸発装置8を用いて低温下で真空蒸発させることにより、切削粉,バクテリア,汚れ等の不純物を除去するとともに、希釈水及び切削油成分を再生切削油タンク21内に貯留して切削油として再生利用することができる。
【0045】
また、切削粉等の不純物は残渣タンク20に貯留され、大幅に減容化されるため廃棄処理が容易となり、ゼロエミッション(排出ゼロ)を実現し、従来の産業廃棄物として燃焼処理する余分な工数と時間をなくして処理コストも低廉化されるという特徴がある。また、真空蒸発装置8による真空蒸発時に工場の悪臭の主原因であるバクテリアが死滅するので、各種切削加工を行う工場の作業環境が良好に保持される。
【産業上の利用可能性】
【0046】
以上説明したように、本発明によれば回収した使用済みの切削油を真空蒸発装置を用いて低温下で真空蒸発させることにより、希釈水のみを再生希釈水タンク内に貯留して再生利用を可能とし、更に真空蒸発装置で回収した切削油からフィルタを介して切削粉,バクテリア,汚れ等の不純物を除去し、濾過された切削油に希釈水や必要な成分を補充して切削油として再生利用をはかり、切削油としての有効成分と不純物とを分離して再生利用することによってゼロエミッションを実現し、真空蒸発時に工場の悪臭の主原因であるバクテリアが死滅して作業環境を良好に保持することができるので、潤滑油材を使用する各種工具及び工作機械による切削加工、旋盤による旋削やドリルを用いた穴加工等の切削加工、工具の代わりに砥石を用いた研削加工等に広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明にかかる切削油の再生処理装置の第1実施形態を全体的に示す概要図。
【図2】実施例1にかかる再生希釈水のGC−MSガスクロマトグラフィ分析データ。
【図3】切削油の原液に希釈水を加えた切削油のGC−MSガスクロマトグラフィ分析データ。
【図4】実施例1にかかる再生切削油に再生希釈水を加えた切削油のGC−MSガスクロマトグラフィ分析データ。
【図5】本発明にかかる切削油の再生処理装置の第2実施形態を全体的に示す概要図。
【図6】実施例2における蒸発温度と時間の関係を示すグラフ。
【図7】実施例2における圧力と時間の関係を示すグラフ。
【図8】実施例2にかかる未使用の切削油のGC−MSガスクロマトグラフィ分析データ。
【図9】実施例2にかかる再生処理した切削油のGC−MSガスクロマトグラフィ分析データ。
【図10】実施例3における蒸発温度と時間の関係を示すグラフ。
【図11】実施例3における圧力と時間の関係を示すグラフ。
【図12】実施例3にかかる未使用の切削油のGC−MSガスクロマトグラフィ分析データ。
【図13】実施例3にかかる再生処理した切削油のGC−MSガスクロマトグラフィ分析データ。
【符号の説明】
【0048】
1…使用済み切削油タンク
4…油水分離槽
5…廃油タンク
8…真空蒸発装置
8a…ヒータ
9…温水ボイラ
11…フィルタ
12,21…再生切削油タンク
13…ブロワ
14…冷却器
15…再生希釈水タンク
16…活性炭塔
17…真空ポンプ
20…残渣タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用済みの切削油を真空蒸発装置を用いて真空蒸発させることにより、使用済みの切削油中の希釈水を貯留して再生利用を可能とすることを特徴とする切削油の再生処理方法。
【請求項2】
使用済みの切削油を真空蒸発装置を用いて真空蒸発させることにより、使用済みの切削油中の希釈水を貯留して再生利用を可能とするとともに、希釈水が除去されて減容化された切削油から切削粉,バクテリア,汚れ等の不純物を除去することを特徴とする切削油の再生処理方法。
【請求項3】
使用済みの切削油を真空蒸発装置を用いて真空蒸発させることにより、使用済みの切削油中の希釈水を貯留して再生利用を可能とするとともに使用済み切削油を減容化し、希釈水が除去された前記真空蒸発装置内の切削油から切削粉,バクテリア,汚れ等の不純物を除去した切削油に、再生した希釈水や必要な成分を補充して切削油として再生利用することを特徴とする切削油の再生処理方法。
【請求項4】
使用済みの切削油の一定量を油水分離槽内に流入させ、上澄み液として分離した油分を除去してから油水分離槽内に残留する切削油の一定量を真空蒸発装置内に流入させて温水ボイラその他の熱源の稼働により使用済みの切削油中に含まれている希釈水等の水分を低温下で蒸発させ、微生物を死滅させるとともに使用済み切削油自体を減容化し、蒸発した水分は冷却器により液化して切削油の希釈水として再生利用することを特徴とする切削油の再生処理方法。
【請求項5】
使用済みの切削油の一定量を油水分離槽内に流入させ、上澄み液として分離した油分を除去してから油水分離槽内に残留する切削油の一定量を真空蒸発装置内に流入させて温水ボイラその他の熱源の稼働により使用済みの切削油中に含まれている希釈水等の水分を低温下で蒸発させ、微生物を死滅させるとともに使用済み切削油自体を減容化し、蒸発した水分は冷却器により液化して切削油の希釈水として再生利用する一方、残留する切削油をフィルタで濾過することにより、該切削油から切削粉,バクテリア,汚れ等の不純物を除去することを特徴とする切削油の再生処理方法。
【請求項6】
使用済みの切削油の一定量を油水分離槽内に流入させ、上澄み液として分離した油分を除去してから油水分離槽内に残留する切削油の一定量を真空蒸発装置内に流入させて温水ボイラその他の熱源の稼働により使用済みの切削油中に含まれている希釈水等の水分を低温下で蒸発させ、バクテリアを死滅させるとともに使用済み切削油自体を減容化し、蒸発した水分は冷却器により液化して切削油の希釈水として再生利用する一方、残留する切削油をフィルタで濾過することにより、該切削油から切削粉,バクテリア,汚れ等の不純物を除去した切削油に、再生した希釈水や必要な成分を補充して切削油として再生利用することを特徴とする切削油の再生処理方法。
【請求項7】
使用済みの切削油を真空蒸発装置を用いて真空蒸発させることにより、使用済みの切削油から切削粉,バクテリア,汚れ等の不純物を除去して、切削油を再生切削油タンク内に貯留して再生利用を可能とすることを特徴とする切削油の再生処理方法。
【請求項8】
使用済みの切削油を真空蒸発装置を用いて真空蒸発させることにより、使用済みの切削油から切削粉,バクテリア,汚れ等の不純物を除去して、切削油を再生切削油タンク内に貯留して再生利用を可能とするとともに、残渣を廃棄することを特徴とする切削油の再生処理方法。
【請求項9】
使用済みの切削油を真空蒸発装置を用いて真空蒸発させることにより、使用済みの切削油から切削粉,バクテリア,汚れ等の不純物を除去して、切削油を再生切削油タンク内に貯留し、希釈水や必要な成分を補充して切削油として再生利用することを特徴とする切削油の再生処理方法。
【請求項10】
使用済みの切削油の一定量を真空蒸発装置内に流入させて温水ボイラその他の熱源の稼働により使用済みの切削油を低温下で蒸発させることにより、使用済みの切削油から切削粉,バクテリア,汚れ等の不純物を除去するとともに、蒸発した切削油は冷却器により液化して切削油として再生利用することを特徴とする切削油の再生処理方法。
【請求項11】
使用済みの切削油の一定量を真空蒸発装置内に流入させて温水ボイラその他の熱源の稼働により使用済みの切削油を低温下で蒸発させ、使用済みの切削油から切削粉,バクテリア,汚れ等の不純物を除去するとともに、蒸発した切削油は冷却器により液化して切削油として再生利用する一方、残渣を廃棄することを特徴とする切削油の再生処理方法。
【請求項12】
温水ボイラの温度を約30℃〜100℃,真空蒸発装置内の真空度を約0.0067Mpa〜0.1Mpaとした請求項4,5,6,10又は11に記載の切削油の再生処理方法。
【請求項13】
使用済みの切削油を真空蒸発させる真空蒸発装置と、蒸発した水分を液化して希釈水とする冷却器と、再生利用可能な希釈水を貯留する再生希釈水タンクとを配備したことを特徴とする切削油の再生処理装置。
【請求項14】
使用済みの切削油を真空蒸発させる真空蒸発装置と、蒸発した水分を液化して希釈水とする冷却器と、再生利用可能な希釈水を貯留する再生希釈水タンクと、残留する切削油から切削粉,バクテリア,汚れ等の不純物を除去するフィルタと、得られた切削油を貯留する再生切削油タンクとを配備したことを特徴とする切削油の再生処理装置。
【請求項15】
使用済みの切削油を真空蒸発させる真空蒸発装置と、蒸発した切削油を液化する冷却器と、再生利用可能な切削油を貯留する再生切削油タンクとを配備したことを特徴とする切削油の再生処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−38345(P2007−38345A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−225286(P2005−225286)
【出願日】平成17年8月3日(2005.8.3)
【出願人】(593147531)大旺建設株式会社 (15)
【Fターム(参考)】