説明

切削装置、切削装置を用いた切削方法、および部品の製造方法

【課題】板材を厚さ方向に複数段に分けて段階的にカットする技術において、各段カット時の加工負荷を従来よりも均一に近づける。
【解決手段】回転式の刃具を用い、板材を厚さ方向に複数段に分けて段階的にカットする切削装置が、刃具を回転させるモータに供給される電流値を検出する検出回路と、刃具による複数段の各段の厚さ方向の切り込みの深さである切り込み量を制御する制御装置とを備え、制御装置は、複数段の各段のカット時に検出回路が検出した電流値または電力値に基づいて、複数段の各段のカット時における刃具への加工負荷相当値を特定し、特定した各段の加工負荷相当値間の乖離量に基づいて、各段のカット時における刃具への加工負荷を均一に近づけるよう、各段の切り込み量を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削装置、切削装置を用いた切削方法、および部品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ウエハ等の板材をダイシングソー等の切削装置でカットする際、材料の材質や厚さによっては、刃具(例えばブレード)への加工負荷が大きくなり過ぎて、刃具を破損したり、その寿命を著しく短くするために一度にカットすることが困難となる場合がある。この対策として、加工負荷を下げるために厚さ方向に複数段に分けて段階的にカットすることが行われている。
【0003】
また、複数段カット時の各段の加工負荷がアンバランスになると、ブレードの切削性が早く低下するばかりか、加工品質の悪化やブレード破損のリスクが高くなる。そのため、各段の負荷を均一にして、最大加工負荷をできる限り低く抑えることが望ましい。
従来は、各段の斬り込みの深さを均一にするのが一般的である。
【0004】
例えば、0.4mm厚のSiCウエハを2段階に分けてカットしようとしたとき、一般的な考えではウエハ厚の半分(0.2mm)ずつ2段階でカットして負荷の均一化を測ろうとする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−345287号公報
【特許文献2】特開2006−59914号公報
【特許文献3】特開2006−286694号公報
【特許文献4】特開2008−130929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、各段の切り込みの深さを均一にしただけでは、各段の負荷が必ずしも均一にはならない。例えば、上記の0.4mm厚のSiCウエハの場合、実際のフルカットではウエハを保持するテープにまで切込みを入れる必要があり、2段目カット時には、このテープへの切込み負荷が加わることになる。また、ウエハの表面・裏面には、Au、Al等複数のメタル付きのものがあり、これらの有無や膜厚等の組合せにより加工負荷は大きく変動する。これら種々の要因により、各段の切り込みの深さを均一にしただけでは、各段カット時の実際の加工負荷を均一化することは容易でない。
【0007】
本発明は上記点に鑑み、板材を厚さ方向に複数段に分けて段階的にカットする技術において、各段カット時の加工負荷を従来よりも均一に近づけることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための請求項1に記載の発明は、回転式の刃具(15)を用い、板材(W1)を厚さ方向に複数段に分けて段階的にカットできる切削装置であって、前記刃具(15)を回転させるモータに供給される電流値または電力値を検出する検出回路(22)と、前記刃具(15)による前記複数段の各段の厚さ方向の切り込みの深さである切り込み量を制御する制御装置(23)と、を備え、前記制御装置(23)は、前記複数段の各段のカット時に前記検出回路(22)が検出した前記電流値または電力値に基づいて、前記複数段の各段のカット時における前記刃具(15)への加工負荷相当値を特定し、特定した前記各段間の加工負荷相当値の乖離量(G)に基づいて、複数段の各段のカット時における前記刃具(15)への加工負荷を均一に近づけるよう、前記各段の切り込み量を補正することを特徴とする切削装置である。
【0009】
このように、各段のカット時に検出された電流値または電力値といった、刃具(15)への加工負荷を反映する量に基づいて、各段の切り込み量を補正することで、各段カット時の加工負荷を従来よりも均一に近づけることができる。
【0010】
また、請求項2に記載の発明は、前記制御装置(23)は、前記複数段に加え、前記板材(W1)をカット時に保持するための基材(W2)をカットすると共に板材(W1)をカットしない追加段のカットを実行することを特徴とする請求項1に記載の切削装置である。
【0011】
一般に、板材(W1)のカット時には、板材(W1)を保持する基材(W2)の一部もカットすることになるが、基材(W2)への切り込み量が大きいこと、基材(W2)の材質の硬さや、基材(W2)がカット時に溶融し前期刃具(15)の目詰まりを誘発し切削製を低下させることなどの影響で、基材(W2)の加工負荷が占める割合が大きくなり、各段の加工負荷を均一にしようとすると、最終段の切り込み量が非常に小さくなってしまう可能性がある。しかし、上記のように、基材(W2)をカットすると共に板材(W1)をカットしない追加段のカットを実行することで、この段以外の複数段の加工負荷の均一化においても、切り込み量が非常にアンバランスになってしまう可能性を低減できる。
【0012】
また、請求項3に記載の発明は、前記制御装置(23)は、前記基材(W2)のみをカットしたときに前記検出回路(22)が検出した前記電流値または電力値に基づいて、前記基材(W2)のみのカット時における前記刃具(15)への加工負荷相当値を特定し、特定した加工負荷相当値が閾値より大きいことに基づいて、前記追加段のカットを実行し、特定した加工負荷相当値が閾値より小さいことに基づいて、前記追加段のカットを実行せず、前記複数段の最後の段で前記板材(W1)および前記基材(W2)をカットすることを特徴とする請求項2に記載の切削装置である。このようにすることで、基材(W2)のカット時の加工負荷に応じて、追加段のカットの実行、非実行を調整することができる。
【0013】
また、請求項4に記載の発明は、前記制御装置(23)は、前記各段の加工負荷相当値として、前記各段のカット時に前記検出回路(22)が検出した前記電流値または電力値の最大値を採用することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の切削装置である。このようにすることで、最大加工負荷を基にしたフィードバック制御となるため、過負荷による刃具破損のリスクを低減できる。
【0014】
また、請求項5に記載の発明は、前記制御装置(23)は、前記各段の加工負荷相当値として、前記各段のカット時に前記検出回路(22)が検出した前記電流値または電力値の平均値を採用することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の切削装置である。
【0015】
このようにすることで、1つの段における加工負荷のバラツキを平均して補正するため、補正精度が向上し、少ないフィードバック回数で加工負荷を十分均一化することができる。
【0016】
また、請求項6に記載の発明は、回転式の刃具(15)を用い、板材(W1)を厚さ方向に複数段に分けて段階的にカットする切削方法であって、前記複数段の各段のカット時に前記刃具(15)を回転させるモータに供給された電流値または電力値に基づいて、複数段の各段のカット時における前記刃具(15)への加工負荷を均一に近づけるよう、前記各段の切り込み量を補正することを特徴とする切削方法である。
【0017】
このように、各段のカット時に検出された電流値または電力値という、刃具(15)への加工負荷を反映する量に基づいて、各段の切り込み量を補正することで、各段カット時の加工負荷を従来よりも均一に近づけることができる。
【0018】
また、請求項7に記載の発明は、板材(W1)から部品を製造する製造方法であって、請求項6に記載の切削方法によって前記板材をカットする行程を含むことを特徴とする製造方法である。
【0019】
また、請求項8に記載の発明は、回転式の刃具(15)を用い、板材(W1)を厚さ方向に複数段に分けて段階的にカットする切削装置であって、前記刃具(15)を回転させるモータに供給される電流値または電力値を検出する検出回路(22)と、前記刃具(15)による前記複数段の各段のカット時における前記刃具(15)に対する前記板材(W1)の相対的な送り速度を制御する制御装置(23)と、を備え、前記制御装置(23)は、前記複数段の各段のカット時に前記検出回路(22)が検出した前記電流値または電力値に基づいて、前記複数段の各段のカット時における前記刃具(15)への加工負荷相当値を特定し、特定した前記各段間の加工負荷相当値の乖離量(G)に基づいて、複数段の各段のカット時における前記刃具(15)への加工負荷を均一に近づけるよう、前記各段の送り速度を補正することを特徴とする切削装置である。
【0020】
このように、各段のカット時に検出された電流値または電力値という、刃具(15)への加工負荷を反映する量に基づいて、各段の送り速度を補正することで、各段カット時の加工負荷を従来よりも均一に近づけることができる。
【0021】
また、請求項9に記載の発明は、回転式の刃具(15)を用い、板材(W1)を厚さ方向に複数段に分けて段階的にカットする切削方法であって、前記複数段の各段のカット時に前記刃具(15)を回転させるモータに供給された電流値または電力値に基づいて、複数段の各段のカット時における前記刃具(15)への加工負荷を均一に近づけるよう、前記各段の送り速度を補正することを特徴とする切削方法。
【0022】
また、請求項10に記載の発明は、板材(W1)から部品を製造する製造方法であって、請求項9に記載の切削方法によって前記板材をカットする行程を含むことを特徴とする製造方法である。
【0023】
なお、上記および特許請求の範囲における括弧内の符号は、特許請求の範囲に記載された用語と後述の実施形態に記載される当該用語を例示する具体物等との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態に係る切削装置1の外観を示す斜視図である。
【図2】切削装置1の制御のための構成を示す図である。
【図3】被切削物W1、W2の構造およびカットの様子を示す図である。
【図4】被切削物Wの切断ラインを示す図である。
【図5】被切削物Wのカットラインを示す図である。
【図6】制御装置が実行するカット処理のフローチャートである。
【図7】2段階でカットする場合の切り込み量F、Sを例示する図である。
【図8】3段階でカットする場合の切り込み量P、Q、Tを例示する図である。
【図9】2段階でカットした場合の1カットライン分の検出電流値31の推移例である。
【図10】3段階でカットした場合の1カットライン分の検出電流値31の推移例である。
【図11】切り込み量の補正前後の検出電流値の波形を例示する図である。
【図12】切り込み量の補正前後の検出電流値の波形を例示する図である。
【図13】検出電流値の波形を例示する図である。
【図14】自生発刃41発生時の検出電流値の波形を例示する図である。
【図15】自生発刃42、43発生時の検出電流値の波形を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の一実施形態について説明する。図1に、本実施形態に係る切削装置1の外観を示す。切削装置1は、切削対象の被切削物Wを複数段でカットする装置であり、ベース11、可動ステージ12、チャックテーブル13、ブレード駆動部14、ブレード15等を有している。
【0026】
ベース11の中央部に形成された台11aには、台11aに沿ってX方向に移動可能な可動ステージ12が取り付けられている。この可動ステージ12のX方向の位置は、ベース11内部の図示しないテーブル駆動機構によって制御される。
【0027】
可動ステージ12には、被切削物Wを保持するためのチャックテーブル13が取り付けられている。このチャックテーブル13は、ベース11内部の図示しないチャック回転機構に駆動されて、Z方向を軸として回転可能となっている。
【0028】
可動ステージ12のX方向への移動、および、チャックテーブル13のZ方向を軸とする回転により、チャックテーブル13上の被切削物Wの位置および姿勢を制御することができる。なお、チャックテーブル13と被切削物Wとの間には、被切削物W(具体的には板材W1が貼り付けられたテープW2)を保持するテープ保持フレーム16が配置されている。
【0029】
ブレード15を保持するとともに回転させるためのブレード駆動部14は、Y方向を軸としてブレード15を回転させるためのエアスピンドルモータ(図示せず)および当該エアスピンドルモータを収容するケーシングを有しており、台11aに対して垂直に立っている横壁11bから突出している。そして、ブレード15は、ベース11内部の図示しないブレード位置調整機構に駆動されて、Y方向およびZ方向に移動可能となっている。
【0030】
ブレード15は、被切削物Wをカットするための回転式の刃具である。ブレード駆動部14のY方向およびZ方向への移動により、被切削物Wに対するブレード15の位置および被切削物Wの切り込み量(厚さ方向の切り込み深さ)を調整することができる。
【0031】
このように、テーブル駆動機構、チャック回転機構、ブレード位置調整機構を制御することにより、ブレード15に対する被切削物Wの相対位置を制御することができる。
【0032】
図2に、切削装置1の制御のための構成を示す。切削装置1は、ベース11内に、電力供給回路21、電流値検出回路22、制御装置23、アクチュエータ群24(上述のテーブル駆動機構、チャック回転機構、エアスピンドルモータ、ブレード位置調整機構等を含む)を有している。
【0033】
電力供給回路21は、エアスピンドルモータに回転用の電力を供給する回路であり、その作動は、制御装置23によって制御される。電流値検出回路22は、電力供給回路21からエアスピンドルモータに供給される電流値を検出し、検出結果の検出電流値を制御装置23に出力する回路である。
【0034】
制御装置23は、電流値検出回路22から出力された検出電流値等に基づいて、電力供給回路21、アクチュエータ群24を制御する装置である。具体的には、電流値検出回路22から出力される検出電流値に基づいてブレード15への加工負荷に相当する量を検出する補正検出手段23aとしての機能を有すると共に、検出された加工負荷相当量に応じて、ブレード15の複数段のカット間の加工負荷を均一に近づけるため、アクチュエータ群24を制御して、各段の切り込み量(厚さ方向の切り込みの深さ)を変化させる補正制御手段23bとしての機能を有している。
【0035】
このような制御装置23としては、例えば、CPU、記憶媒体を備え、CPUが不揮発性記憶媒体に記録されたプログラムを実行する周知のマイクロコンピュータを採用する。以下、CPUが実行する処理を、制御装置23が実行する処理として説明する。
【0036】
なお、被切削物Wは、SiC(炭化ケイ素)等の難切削材を主成分とする板材W1(被加工物)と、チャックテーブル13と板材W1の間に介在して板材W1を保持するテープW2から成る。より具体的には、板材W1は、図3に示すように、Ti、Al、Ni、Au等から成る2層の表面電極W11、W12と、SiC層W13と、Ti、Ni、Au等から成る2層の裏面電極W14、W15とが、この順に積層されて構成されており、層W15とチャックテーブル13の間にテープW2が介在する。
【0037】
ここで、上記のような構成の切削装置1による被切削物Wのカットの作動について説明する。図4に示すように、被切削物Wには、図5紙面中横方向に複数本(例えば11本)のカットラインでカットすると共に、縦方向に複数本(例えば11本)のカットラインでカットするようになっている。以下、横方向のカットラインを第1チャンネルと呼び、縦方向のカットラインを第2チャンネルと呼ぶ。
【0038】
この切削装置1は、被切削物Wを、各カットラインにおいて被切削物W1、W2の厚さ方向(Z方向)に1段でカットする(フルカット)用途で用いられるのが基本である。しかし、本実施形態では、1段でカットした場合に加工負荷が高く、そのままカットすると加工品質面やブレード破損リスクがある場合においては、加工負荷を分割低減するため、ブレード破損リスクの少ない負荷領域では1段カットをし、負荷が一定以上になると、または、作業者が任意に複数段カットをすると選択した場合において、各カットラインで被切削物W1、W2の厚さ方向(Z方向)に複数段(たとえば2段または3段)に分けて段階的に切断する。
【0039】
例えば、2段階で切断する場合、まず図5(a)に示すように、1段目のカットにおいて、ブレード15で、板材W1の上部(例えば、層W11、12の全体および層13の一部)をカットラインに沿ってカットし、その後、2段目のカットにおいて、図5(b)に示すように、同じカットラインに沿って、板材W1の下部(例えば、層W13の一部および層W14、15の全体)およびテープW2の上部をブレード15でカットする。
【0040】
1段目のカットの切り込み量F(すなわち、厚さ方向の切り込みの深さ。以下同じ。)と2段目のカットの切り込み量Sは、本実施形態においては、フィードバック制御によって逐次補正するようになっている。
【0041】
1個の被切削物Wに対して、カットラインと段をどのような順番でカットするかについては、種々の方法を採用できる。例えば、1つのカットラインの1段目と2段目(およびあれば3段目)を連続でカットした上で、次のカットラインの1段目と2段目(およびあれば3段目)を連続でカットする手順を繰り返す方法(以下、ライン毎カット手順という)を採用して、第1チャンネルおよび第2チャンネルをカットしてもよい。
【0042】
あるいは、第1チャンネルのすべてのカットラインについてまず1段目のみをカットし、次に第1チャンネルのすべてのカットラインについて2段目のみをカットし、次に3段目があれば第1チャンネルのすべてのカットラインについて3段目のみをカットし、第1チャンネルのすべてのカットラインのすべての段のカットが終わった後、第2チャンネルのすべてのカットラインについてまず1段目のみをカットし、次に第2チャンネルのすべてのカットラインについて2段目のみをカットし、次に3段目があれば第2チャンネルのすべてのカットラインについて3段目のみをカットするという方法(以下、チャンネル毎カット手順という)を採用してもよい。また、上記では第1のチャンネルをカットした後に第2のチャンネルをカットする手順を説明したが、第2のチャンネルをカットした後に第1のチャンネルをカットする方法を採用してもよい。
【0043】
以下では、ライン毎カット手順を例に挙げて説明する。図6に、制御装置23がプログラムを実行することで実現するカット処理のフローチャートを示す。このカット処理では、各段の切り込み量をフィードバック制御で補正することで、1段目のカット時のブレードへの加工負荷と、2段目のカット時のブレードへの加工負荷とを均一に近づける。
【0044】
具体的には、切込み量の補正は、1カットラインの各段をカットする毎に切り込み量の補正を実施し、次のカットラインのカット時に補正後の切り込み量を適用するLモードと、1チャンネル分の全カットラインの全段をカットした後に切り込み量の補正を実施し、次のチャンネルのカット時に補正後の切り込み量を適用するchモードとを、ユーザが任意に選択し設定できる。この切込量補正モード(Lモード、chモード)の選択は、切削装置1に設けられた操作部(図示せず)をユーザが操作することで入力し、制御装置23は、その入力結果を記憶媒体に保持する。
【0045】
なお、制御装置23は、カットラインを2段階でカットするときの1段目、2段目の切り込み量F、S、および、カットラインを3段階でカットするときの1段目、2段目、3段目の切り込み量P、Q、Rの値を、記憶媒体に記憶するようになっている。
【0046】
これら切り込み量F、S、P、Q、Rの初期値(切削装置1の最初の使用開始時または切り込み量リセット時の値)は、どのようになっていてもよいが、例えば、板材W1の厚さhおよびテープW2の切り込み量Tをあらかじめ決めておき、切り込み量F、Sの初期値をいずれも(h+T)/2とし(図7参照)、切り込み量P、Q、Rの初期値をそれぞれh/2、h/2、Tとしてもよい(図8参照)。
【0047】
以下、図6の処理に従って、切削装置1の作動について説明する。まず制御装置23は、ステップ105で、切込量補正モードの設定がLモードであるかchモードであるかを判定し、Lモードであると判定した場合、ステップ110に進む。
【0048】
ステップ110では、被切削物Wの1ライン目(1番目のカットライン)のカットの処理を実行する。具体的には、電力供給回路21を制御することで電力供給回路21からブレード駆動部14のエアスピンドルモータに電力を供給させ、それによりブレード15を回転させる。そして、アクチュエータ群24のテーブル駆動機構、チャック回転機構、ブレード位置調整機構等を制御して、1段目から順に各段のカットを行う。1ライン目のカットの段数は、あらかじめ2段に決められていても3段に決められていてもよい。
【0049】
各段のカット時において、テーブル駆動機構、チャック回転機構、ブレード位置調整機構をどのように制御してブレード15の位置を制御するかについては、周知であるので詳細な説明は省略する。
【0050】
簡単に説明すれば、あるカットラインをカットするために、チャック回転機構およびブレード位置調整機構を制御することでブレード15の位置を当該カットラインに合わせ、当該カットラインの各段のカット時において、現在の段目の切り込み量として、記憶媒体に記録されている当該段の切り込み量(2段ならFおよびS、3段ならP、QおよびR)が実現するよう、ブレード位置調整機構を制御してブレード15の高さ(Z方向の位置)を調整し、その高さを保持したまま、テーブル駆動機構を制御して現在のカットラインに沿って、被切削物WをX方向に送る。なお、チャネルの切り替えが必要な時には、チャック回転機構を制御して、切り込み対象のカットラインがX方向に平行になるよう、チャックテーブル13を回転させる。なお、本実施形態では、カット時は、被切削物W、チャネル、ライン、段目によらず、被切削物WのX方向への送り速度およびブレード15の回転数は一定とする。
【0051】
なお、各段のカット時には、電流値検出回路22から検出電流値が常時出力されているが、制御装置23は、この検出電流値の推移を時系列に沿って(例えば所定のサンプリングレートで)記憶媒体に記録する。
【0052】
図9に、2段階でカットした場合の1カットライン分の検出電流値31の推移を例示する。図中、縦方向が電流値を示し、横方向が時間を表す。この図では、時刻t1からt2までが1段目のカットの際の検出電流値であり、時刻t2からt3までが2段目のカットの際の検出電流値である。
【0053】
なお、2段目のカットの検出電流値は、一度、値C2だけ上昇し、更にその後E2まで上昇し、更にその後C2まで減少し、その後最低値(ブレード15の空転時の検出電流値)に減少するようになっている。電流値がC2となっている時間帯は、ブレード15がテープW2のみをカットしている時間帯である。図2、図3に示したように、テープW2は、板材W1よりも広い範囲に配置されているので、1カットラインで見ると、カットの開始時付近および終了時付近には、余剰カット部にてテープW2のみがカットされる時間帯が存在する。
【0054】
図10に、3段階でカットした場合の1カットライン分の検出電流値32の推移を例示する。図中、縦方向が電流値を示し、横方向が時間を表す。この図では、時刻t4からt5までが1段目のカットの際の検出電流値であり、時刻t5からt6までが2段目のカットの際の検出電流値であり、時刻t6からt7までが3段目のカットの際の検出電流値である。
【0055】
1ライン目のカットが終了すると、続いてステップ115に進み、ステップ110で記録した検出電流値の推移に基づいて、当該1ライン目の各段のカット時における代表電流値を特定する。より具体的には、2段階でカットした場合、1段目の代表電流値D2、2段目の代表電流値E2を特定し、3段階でカットした場合、1段目の代表電流値D3、2段目の代表電流値E3、3段目の代表電流値C3を検出する。
【0056】
例えば、各段目のカット時の検出電流値の最大値を当該段目の代表電流値としてもよい。なお、ステップ110で2段階でカットしている場合は、2段目のカット時においてテープW2のみがカットされる時間帯における代表電流値C2(例えば最大値)を特定する。制御装置23は、2段階の2段目のカット時において、テープW2のみがカットされる時間帯と、板材W1も含めてカットされる時間帯とを、以下のようにして区別することができる。
【0057】
図9に示すように、板材W1も含めてカットされる時間帯αの前後に、テープW2のみがカットされる時間帯β1、β2があるが、時間帯β1の前後は検出電流値が急上昇し、時間帯β2の前後は検出電流値が急降下する。そこで、2段目カット時において、最初に検出電流値の時間微分の絶対値が第1所定基準値より大きくなり、その後第2所定基準値(第1所定基準値より小さい)より小さくなったことに基づいて、時間帯β1が始まったと判定し、次にに検出電流値の時間微分の絶対値が第1所定基準値より大きくなり、その後第2所定基準値より小さくなったことに基づいて、時間帯β1が終了したと判定する。そして、3番目に検出電流値の時間微分の絶対値が第1所定基準値より大きくなり、その後第2所定基準値より小さくなったことに基づいて、時間帯β2が始まったと判定し、次にに検出電流値の時間微分の絶対値が第1所定基準値より大きくなり、その後第2所定基準値より小さくなったことに基づいて、時間帯β2が終了したと判定する。
【0058】
なお、時間帯β1のみを対象として代表電流値C2を算出してもよいし、時間帯β2のみを対象として代表電流値C2を算出してもよいし、時間帯β1、β2の両方を対象として代表電流値C2を算出してもよい。
【0059】
続いてステップ120では、ステップ115で特定した1段目の代表電流値(D2またはD3)と2段目の代表電流値(E2またはE3)との差の絶対値G(|D2―E2|または|D3―E3|)が、所定の基準値(本例では具体的には0.1アンペア)以上であるか否かを判定し、値Gが当該基準値以上であれば、切り込み量(F、SまたはP、Q)の補正のためにステップ125に進む。値Gが当該基準値以上でなければ、各段の負荷均一化が図れているとみなし、切り込み量の補正は行わず、次のラインカットに移行するため、ステップ180に進む。
【0060】
一般に、カット時のブレード15への加工負荷が大きくなると、ブレード15を回転させるエアスピンドルモータへ供給する電流値も大きくなる。したがって、代表電流値D、Eは、カット時のブレード15への加工負荷相当値である。したがって、代表電流値D、Eの乖離量を表す値Gが大きい程、1段目と2段目の加工負荷のアンバランス度合いが大きいことになる。本実施形態では、このことを利用して、値Gが基準値と同じかまたは基準値より大きいときには切り込み量を補正し、値Gが基準値より小さいときには切り込み量を補正しない。
【0061】
ステップ180では、次のカットラインのカット処理を実行する。具体的には、ステップ110と同様にブレード15を回転させ、アクチュエータ群24を制御して、当該カットラインの1段目から順に各段のカットを行う。カットの段数は、変更の処理がない限り、前回のカットラインのカット時と同じにするが、変更があった場合は、その変更結果に従う。また、ステップ110と同様、各段のカット時には、電流値検出回路22からの検出電流値の推移を時系列に沿って記憶媒体に記録する。
【0062】
ステップ180で当該カットラインのカットが終了すると、続いてステップ115に戻り、直前のステップ180で記録した検出電流値の推移に基づいて、既に説明した通りの方法で、当該カットラインの各段のカット時における代表電流値(D2、E2またはD3、E3、C3。加工負荷相当値に相当する)を特定する。また、直前のステップ180で2段階でカットしている場合は、テープW2のみがカットされる時間帯における代表電流値C2(例えば最大値)を特定する。
【0063】
このように、値Gが基準値を超えない間は、切り込み量が補正されずにステップ115、120、180の処理が繰り返され、繰り返しの回数分だけカットラインに沿って被切削物Wがカットされていく。
【0064】
ステップ120で値Gが基準値以上であると判定された場合に実行されるステップ125では、テープ切込負荷除外補正モードの設定が、オンであるか、オフであるか、オートであるか、を特定する。テープ切込負荷除外補正モードは、カットの段数を追加(例えば3段に)して、3段目(追加段)でテープW2のみを切ることで、2段目のカットにおいてテープW2の切り込みによる負荷を除外するモードであり、ユーザがオン、オフ、オートを任意に選択し設定できる。このテープ切込負荷除外補正モードの選択は、切削装置1に設けられた操作部(図示せず)をユーザが操作することで入力し、制御装置23は、その入力結果を記憶媒体に保持する。
【0065】
まず、テープ切込負荷除外補正モードがオフに設定されている場合について説明する。この場合、ステップ130に進み、カットの段数を2に設定する。続いてステップ135では、第1切り込み補正判定を行う。具体的には、直前のステップ115で特定した1段目カット時の代表電流値(D2またはD3。図6中ではDと記載する。)と2段目カット時の代表電流値(E2またはE3。図6中ではEと記載する。)とを比較し、1段目の代表電流値が2段目の代表電流値以上の場合、ステップ140に進み、1段目の代表電流値が2段目の代表電流値より小さい場合、ステップ145に進む。
【0066】
ステップ140では、現在の1段目の切り込み量Fから正の所定量X(図7参照)を減算した結果を新たな1段目の切り込み量Fとして記憶媒体に記録し、また、現在の2段目の切り込み量Sに当該所定量Xを加算した結果を新たな2段目の切り込み量Sとして記憶媒体に記録する。つまり、1段目の切り込み量Fを減少させ、その減少分だけ、2段目の切り込み量Sを増大させることで、全体の切り込み量F+S=h+Tは変化させず、1段目と2段目の加工負荷を均一化に近づける。なお、所定量Xは、板材W1の板厚hの5%〜20%の範囲内(例えば10%)としてもよい。
【0067】
ステップ145では、現在の1段目の切り込み量Fに上記正の所定量X(図7参照)を加算した結果を新たな1段目の切り込み量Fとして記憶媒体に記録し、また、現在の2段目の切り込み量Sから当該所定量Xを減算した結果を新たな2段目の切り込み量Sとして記憶媒体に記録する。つまり、1段目の切り込み量Fを増大させ、その増大分だけ、2段目の切り込み量Sを減少させることで、全体の切り込み量F+S=h+Tは変化させず、1段目と2段目の加工負荷を均一化に近づける。ステップ140、145に続いては、ステップ180に進む。
【0068】
これにより、ステップ180では、前回も今回もカット段数が2段の場合、補正後の切り込み量F、Sで1段目、2段目の切り込みを行うので、図11に示すように、あるカットライン(Nライン目)についての1段目(時刻t1〜t2)と2段目(時刻t2〜t3)の代表電流値の差G1よりも、補正実施後の次のカットライン(N+1ライン目)についての1段目(時刻t4〜t5)と2段目(時刻t5〜t6)の代表電流値の差G2の方が、小さくなる。また、前回も今回もカット段数が3段の場合、補正後の切り込み量P、Q、Tで1段目、2段目、3段目の切り込みを行うので、図12に示すように、あるカットライン(Nライン目)についての1段目と2段目の代表電流値の差G3よりも、補正実施後の次のカットライン(N+1ライン目)についての1段目と2段目の代表電流値の差G4の方が、小さくなる。このような補正をカットライン毎に繰り返すことで、1段目と2段目の加工負荷のアンバランスが問題にならない程度まで低減される。
【0069】
なお、カットの段数が3段から2段に変化した直後のステップ140、145では、1段目、2段目の切り込み量F、Sとして、初期値を採用し、この初期値を、現在の切り込み量F、Sとして記憶媒体に記憶するようになっていてもよい。あるいは、テープ切込負荷除外補正モードがオフの場合は、ステップ110でも2段でカットするようになっていれば、ユーザがテープ切込負荷除外補正モードを切り替える操作を行わない限り、カットの段数の切り替わりは発生しない。
【0070】
次に、テープ切込負荷除外補正モードがオンに設定されている場合について説明する。2段階でカットする場合、テープW2への切り込み量Tが大きいこと、テープW2の材質が比較的硬いこと等の影響で、テープW2の加工負荷(図9の値Cに相当する)が占める割合が大きくなった場合、1段目の加工負荷(値D2に相当する)と2段目の加工負荷(値E2に相当する)を均一にしようとすると、板材W1のカット分割比(F:S−T)がアンバランスになってしまう(1より大きく乖離する)ので、そのようなことを防止するため、テープ切込み負荷除外補正によって、テープW2のみカットする追加段を有するカットを実施する。
【0071】
具体的には、テープ切込負荷除外補正モードがオンに設定されている場合、ステップ125からステップ150に進み、カットの段数を3に設定する。続いてステップ155では、第2切り込み補正判定を行う。
【0072】
具体的には、前回のカットの段数が3段であった場合、直前のステップ115で特定した1段目カット時の代表電流値D3と2段目カット時の代表電流値E3とを比較し、1段目の代表電流値D3が2段目の代表電流値E3より小さい場合、ステップ165に進み、代表電流値Dが代表電流値Eより大きい場合、ステップ165に進む。
【0073】
また、前回のカットの段数が2段であった場合、直前のステップ115で特定した2段目カット時の代表電流値E2から、2段目におけるテープW2のみカット時の代表電流値C2を減算した値E2−C2を算出する。そして、1段目カット時の代表電流値D2と、上記減算値E2−C2とを比較し、前者D2が後者E2−C2より小さい場合、ステップ165に進み、前者D2が後者E2−C2より大きい場合、ステップ160に進む。
【0074】
ステップ160では、前回のカットの段数が3段であった場合、現在の1段目の切り込み量Pから上記正の所定量X(図8参照)を減算した結果を新たな1段目の切り込み量Pとして記憶媒体に記録し、また、現在の2段目の切り込み量Qに当該所定量Xを加算した結果を新たな2段目の切り込み量Qとして記憶媒体に記録する。つまり、1段目の切り込み量Pを減少させ、その減少分だけ、2段目の切り込み量Qを増大させることで、1段目と2段目の切り込み量の和P+Q=hは変化させず、1段目と2段目の加工負荷を均一化に近づける。なお、3段目の切り込み量Rはあらかじめ定められた固定値Tとする。また、ステップ160で前回のカットの段数が2段であった場合も、2段階カット用の1段目の切り込み量Fを3段階カット用の1段目の切り込み量Pに代入し、2段階カット用の2段目の切り込み量Sから上記固定値T(テープW2の切り込み量)を減算した値を3段階カット用の2段目の切り込み量Qに代入した後、上記の処理を行う。
【0075】
ステップ165では、現在の1段目の切り込み量Pに上記正の所定量X(図8参照)
を加算した結果を新たな1段目の切り込み量Pとして記憶媒体に記録し、また、現在の2段目の切り込み量Qから当該所定量Xを減算した結果を新たな2段目の切り込み量Qとして記憶媒体に記録する。つまり、1段目の切り込み量Pを増加させ、その増加分だけ、2段目の切り込み量Qを減少させることで、1段目と2段目の切り込み量の和P+Q=hは変化させず、1段目と2段目の加工負荷を均一化に近づける。なお、3段目の切り込み量Rはあらかじめ定められた固定値Tとする。なお、ステップ165で前回のカットの段数が2段であった場合も、2段階カット用の1段目の切り込み量Fを3段階カット用の1段目の切り込み量Pに代入し、2段階カット用の2段目の切り込み量Sから上記固定値T(テープW2の切り込み量)を減算した値を3段階カット用の2段目の切り込み量Qに代入した後、上記の処理を行う。
【0076】
これにより、ステップ180では、補正後の切り込み量P、Q、R(=T)で1段目、2段目、3段目の切り込みを行うので、あるカットラインについての1段目と2段目の代表電流値の差G1よりも、次のカットラインについての1段目と2段目の代表電流値の差G2の方が、小さくなる。このような補正をカットライン毎に繰り返すことで、1段目と2段目の加工負荷のアンバランスが問題にならない程度まで低減される。また同様に、2段目の加工負荷からテープW2の加工負荷が除外されるので、1段目と2段目の加工負荷を均一化しても、1段目と2段目の切り込み量がアンバランスになり過ぎるということはない。
【0077】
また、2段目の加工負荷からテープW2の加工負荷を除外することで、全体の加工負荷からテープ切込み分の負荷が除外されたことにより、1段目および2段目の加工負荷を共に低くすることができる。これにより、ブレード加工負荷限界まで余裕ができるので、その分1段目および2段目のカット時の送り速度を上げることができる。また、3段目のカット時(テープW2のみカット時)は、加工品質に影響を及ぼすことが少ないため、ここだけより送り速度を早くすることで、カット段数が増えたことによる時間的デメリットを最小限に止められる。このように、テープW2のみカットする3段目を設けることで、切削条件設定にゆとりができる上、加工速度を上げることもできる。
【0078】
なお、カットの段数が2段から3段に変化した直後のステップ140、145では、1段目、2段目の切り込み量P、Qとして、初期値を採用し、この初期値を、現在の切り込み量P、Qとして記憶媒体に記憶するようになっていてもよい。あるいは、テープ切込負荷除外補正モードがオフの場合は、ステップ110でも3段でカットするようになっていれば、ユーザがテープ切込負荷除外補正モードを切り替える操作を行わない限り、カットの段数の切り替わりは発生しない。
【0079】
次に、テープ切込負荷除外補正モードがオートに設定されている場合について説明する。テープ切込負荷除外補正モードがオートの場合は、ステップ125からステップ170に進み、ステップ170では、直前のステップ115で検出した値C(テープW2のカット時の加工負荷相当値)が所定の閾値を超えているか否かを判定する。この所定の閾値は、あらかじめ定められた固定値であってもよいし、前回の2段目のカット時の代表電流値Eに所定の係数(例えば0.5)を乗算した値であってもよい。
【0080】
超えていれば、テープW2のカット時の加工負荷が高いとみなして、テープ切込負荷除外補正モードがオンの場合と同じ処理を行うため、ステップ150に進む。超えていなければ、テープW2のカット時の加工負荷が高くないとみなして、テープ切込負荷除外補正モードがオフの場合と同じ処理を行うため、ステップ130に進む。このようにすることで、テープW2のカット時の加工負荷に応じて、自動的にカットの段数を調整することができる。
【0081】
ここで、ステップ105でchモードであると判定した場合について説明する。この場合も、Lモードの場合のステップ110〜180と同様の作動を行う。ただし、ステップ110、180では、1カットラインのみならず、1チャンネル分のカットラインすべてをカットする点が異なる。
【0082】
以上説明した通り、切削装置1は、複数段(2段)の各段のカット時に電流値検出回路22が検出した電流値に基づいて、当該複数段の各段のカット時におけるブレード15への加工負荷相当値を特定し、特定した当該各段の加工負荷相当値間の乖離量Gに基づいて、各段のカット時における刃具15への加工負荷を均一に近づけるよう、各段(1段目、2段目)の切り込み量を補正する。
【0083】
このように、各段のカット時に検出された電流値または電力値という、ブレード15への加工負荷を反映する量に基づいて、各段の切り込み量を補正することで、各段カット時の加工負荷を従来よりも均一に近づけることができる。
【0084】
また、当該複数段(2段)に加え、追加段(3段目)のカット(板材W1をカット時に保持するためのテープW2をカットすると共に板材W1をカットしないようなカット)を実行する。
【0085】
一般に、板材W1のカット時には、板材W1を保持する基材W2の一部もカットすることになるが、基材W2への切り込み量が大きいこと、基材W2の材質が比較的硬いこと等の影響で、基材W2の加工負荷が占める割合が大きくなり、各段の加工負荷を均一にしようとすると、最終段の切り込み量が非常に小さくなってしまう可能性がある。しかし、上記のように、基材W2をカットすると共に板材W1をカットしない段を実行することで、この段以外の複数段の加工負荷の均一化においても、切り込み量が非常にアンバランスになってしまう可能性を低減できる。
【0086】
また、テープW2のみをカットしたときに電流値検出回路22が検出した電流値に基づいて、テープW2のみのカット時におけるブレード15への加工負荷相当値を特定し、特定した加工負荷相当値が閾値より大きいことに基づいて、追加段を実行し、特定した加工負荷相当値が閾値より小さいことに基づいて、追加段のカットを実行せず、複数段の最後の段(2段目)で板材W1およびテープW2をカットする。このようにすることで、基材(W2)のカット時の加工負荷に応じて、追加段の実行、非実行を調整することができる。
【0087】
なお、上記実施形態において、制御装置23が、ステップ115を実行することで補正検出手段23aの一例として機能し、ステップ125〜180を実行することで補正制御手段23bの一例として機能する。また、このような板材W1のカットの工程は、カットされた板材W1からできる複数の部品(例えば集積回路等の半導体部品)の製造工程に含まれる。
【0088】
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の範囲は、上記実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の各発明特定事項の機能を実現し得る種々の形態を包含するものである。例えば、以下のような形態も許容される。
【0089】
(1)上記実施形態においては、図6のステップ115において、各段における代表電流値D、Eとして、ブレード15への加工負荷相当値として、各段目のカット時の検出電流値の最大値を採用している。
【0090】
実際のカットにおいては、ブレード15の劣化等の要因により、図13に示すように、1ラインの各段のカット中の切り始め(ta、tc)から切り終わり(tb、td)までに、それぞれ電流検出値がH1、H2だけ増加したり、逆に、図14、図15に示すように、カット中にブレードの自生発刃41〜43等によりブレードの切削力が回復し、途中から電流値が減少することがある。この場合、代表電流値は、上記実施形態のように、それぞれの変動範囲内での最大値としてもよいが、各変動範囲H1、H2内の平均値を採用してもよい。どちらを採用するかは、あらかじめユーザが切削装置1の操作部を用いて選択できるようになっていてもよい。
【0091】
最大値を採用するメリットとしては、カット対象のカットラインの最大加工負荷を基にしたフィードバック制御となるため、過負荷によるブレード15破損のリスクを低減できるというものがある。一方、平均値を採用するメリットとしては、変動範囲H1、H2の内でのバラツキを平均して補正するため、補正精度が向上し、少ないフィードバック回数で加工負荷を十分均一化することができるというものがある。
【0092】
この変動範囲H1、H2のバラツキは、被切削物Wの材質、ブレードの種類、カット条件により異なる。したがって、ユーザが任意に最大値採用と平均値採用とを選択設定できることで、補正精度重視、ブレード破損リスク回避、ブレード長寿命化など、目的に適した補正制御が可能となる。また予め設定した条件をカット結果によりユーザが最大値採用と平均値採用との間で途中切り替えできることで、更に最適補正が可能となる。
【0093】
(2)また、上記実施形態では、ステップ115で特定する各段の加工負荷相当値として、各段のカット時における検出電流値の代表値(代表電流値)を採用しているが、各段の加工負荷相当値としては、検出電流値の代表値ではなく、電流値検出回路22からエアスピンドルモータに印加される検出電圧値の代表値でもよいし、電流値検出回路22からエアスピンドルモータに供給される検出電力値の代表値でもよい。つまり、ステップ115で特定する各段の加工負荷相当値は、電流値検出回路22からエアスピンドルモータへの電力供給に関する電気的量であればよい。
【0094】
(3)また、ブレード15を回転させるモータは、エアスピンドルモータに限らず、どのようなモータでもよい。
【0095】
(4)また、上記実施形態では、制御装置23が各段の加工負荷相当値に基づいて自動で切り込み量をフィードバック補正するようになっているが、このようなフィードバックの手順に人の判断が介在していてもよい。例えば、制御装置23(あるいはデータロガー)が各段の加工時の検出電流値をユーザに表示し、ユーザは、この表示された検出電流値に基づいて各段の切り込み量の補正量を決定し、その決定したユーザ補正量を制御装置23に入力することで、制御装置23が当該補正量を実現するようになっていてもよい。
【0096】
(5)上記実施形態では、切り込み量の補正に用いる所定量Xは固定値となっているが、所定量Xは可変でもよい。例えば、時間の経過と共に徐々に大きくしていってもよい。これは、ブレード15の摩耗が進むにつれ、加工負荷が高くなるからである。また例えば、値Gが小さくなるほど所定量Xが小さくなるようになっていてもよい。
【0097】
(6)上記実施形態においては、カットの段数が2段の場合は、2段目のカット時の検出電流値から、テープW2のみのカット時の代表電流値Cを特定するようになっている。この代表電流値Cは、1カットライン中の被切削物Wの両サイドの余剰カット部でテープのみをカットしているタイミングにおける負荷を用いて特定するが、余剰カット長が短いなどの理由により、テープW2のカット時における検出電流値が板材W1のカット時の検出電流値に埋もれてしまい明確な差が検出できない場合は、予めウエハ貼付け部外周のテープのみの部分をカットしその検出値をC値としてもよい。
【0098】
(7)また、上記実施形態では、1個の被切削物Wの或る(1つまたは複数の)カットラインにおける各段の加工負荷相当値に基づいて、各段の切り込み量を補正し、補正後の切り込み量を同じ被切削物Wの他のカットラインのカットに反映している。
【0099】
(8)しかし、同種の製品を大量製造する場合には、必ずしもこのようになっておらずともよく、例えば、1個の被切削物Wの或る(1つまたは複数の)カットラインにおける各段の加工負荷相当値に基づいて、各段の切り込み量を補正し、補正後の切り込み量を同種の他の被切削物Wのカットラインのカットに反映するようになっていてもよい。同種の被切削物Wの場合、厚さ方向の構造はほぼ同じであるので、ある被切削物Wのカットに他の被切削物Wのカット結果を用いた補正量を適用しても、各段の加工負荷を均一に近づけることができる。
【0100】
(9)被切削物Wがウエハ等である場合、上記実施形態のステップ120で、値Gが基準値より小さいと一旦判定した後に、パス間の負荷の不均衡が再発生するのは、ほとんどの場合偶々(何らかの突発的な異常)であると考えられる。特に、各段のカット時の代表電流値を、当該段のカット時に検出した最大電流値とした場合、瞬間、突発的なノイジーな値が、代表電流値として検出されやすい。そこで、ステップ120で値Gが基準値より小さいと一旦判定した後は、ステップ120で値Gが基準値以上であると2回連続で判定した場合に限り、ステップ125に進み、それ以外の場合は、ステップ180に進むようになっていてもよい。
【0101】
(10)また、上記実施形態では、板材W1を複数段でカットする際の各段(1段目、2段目)のカットにおいて、各段のカット時の加工負荷相当値に基づいて、各段の切り込み量を補正するようになっているが、各段の切り込み量に代えて、各段の送り速度(板材W1のブレード15に対するカットラインに沿った相対的な送り速度)を補正するようになっていてもよい。具体的には、上記実施形態の「切り込み量」を、「板材W1のブレード15に対するカットラインに沿った相対的な送り速度」に置き換えた作動を行えばよい。この際、加工負荷の高い段の負荷を軽減するために送り速度を低減し、加工負荷の低い段の送り速度を増加させることで、全体の加工時間を一定に保つことができる。なお、この場合、正の所定量Xは、負の補正量Yに置き換える。この負の補正量Yは、例えば、現在の送り速度の正負を反転し、反転した値に0.1を乗算した値とするようになっていてもよい。またこの場合、各段の切り込み量は補正せず一定とするようにしてもよい。
【0102】
このように、板材W1のブレード15に対するカットラインに沿った相対的な送り速度を制御して各段のカット時の加工負荷を均一に近づけることも可能であるが、これに対し、各段の切り込み量を制御して各段のカット時の加工負荷を均一に近づける方法は、カットにかかる時間の変動が少なくなる(加工時間の安定性)という点で有利である。
【0103】
(11)また、上記実施形態では、各段のカット時に電流値検出回路22によって検出された検出電流値に基づいて、各段の加工負荷相当値を特定するようになっているが、電流値検出回路22を、電力値検出回路(電力供給回路21からエアスピンドルモータに供給される電力値を検出し、検出結果の検出電力値を制御装置23に出力する回路)に置き換え、制御装置23は、この検出電流値に基づいて、各段の加工負荷相当値を特定するようになっていてもよい。この際、制御装置23は、上記実施形態において、「電流」を「電力」に置き換えた作動を行えばよい。
【0104】
(12)また、制御装置23が自動的に切り込み量を補正する場合においても、電流値検出回路22が出力する検出電流値をユーザに表示するようになっていてもよい。
【0105】
(13)上記実施形態では、板材W1に関しては常に1カットラインを2段階でカットするようになっているが、板材W1を3段階以上でカットするようになっていてもよい。その場合は、当該3段階以上の各段階で加工負荷が均一化するよう、各段階の加工負荷相当値に基づいて当該段階の切り込み量を補正するようになっていてもよい。
【0106】
(14)上記実施形態では、3段階でカットを実施する場合、2段目の切り込みQ(図8参照)の深さ方向テープW2側の端部位置は、板材W1とテープW2の境界となる場合もあるが、必ずしも板材W1とテープW2の境界とならなくともよい。具体的には、上記端部位置は、テープW2内に少し切り込んだ位置としてもよい。これは、2段目の切り込みQの上記端部位置を境界付近にすると、板材W1がぎりぎり切り離されるかどうかの瀬戸際のカットとなり、チッピングなどの裏面側の加工品質悪化要因となるためである。
【0107】
このようにした場合、2段階の2段目でテープW2のみをカットする場合と、3段階の3段目でテープW2のみをカットする場合を比べると、前者ではテープW2の上端からカットするのに対し、後者では、前者ではテープW2の上端が一部カットされている点が異なる。
【0108】
(15)また、上記実施形態のテープW2は、シートに置き換えてもよい。つまり、テープW2は、板材W1を保持するために粘着剤が付着したシート状の基材であれば、どのようなものでもよい。
【0109】
(16)また、上記の実施形態において、制御装置23がプログラムを実行することで実現している各機能は、それらの機能を有するハードウェア(例えば回路構成をプログラムすることが可能なFPGA)を用いて実現するようになっていてもよい。
【符号の説明】
【0110】
1 切削装置
11 ベース
12 可動ステージ
13 チャックテーブル
14 ブレード駆動部
15 ブレード
16 テープ保持フレーム
21 電力供給回路
22 電流値検出回路
23 制御装置
23a 補正検出手段
23b 補正制御手段
24 アクチュエータ群

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転式の刃具(15)を用い、板材(W1)を厚さ方向に複数段に分けて段階的にカットする切削装置であって、
前記刃具(15)を回転させるモータに供給される電流値または電力値を検出する検出回路(22)と、
前記刃具(15)による前記複数段の各段の厚さ方向の切り込みの深さである切り込み量を制御する制御装置(23)と、を備え、
前記制御装置(23)は、前記複数段の各段のカット時に前記検出回路(22)が検出した前記電流値または電力値に基づいて、前記複数段の各段のカット時における前記刃具(15)への加工負荷相当値を特定し、特定した前記各段の加工負荷相当値間の乖離量(G)に基づいて、複数段の各段のカット時における前記刃具(15)への加工負荷を均一に近づけるよう、前記各段の切り込み量を補正することを特徴とする切削装置。
【請求項2】
前記制御装置(23)は、前記複数段に加え、前記板材(W1)をカット時に保持するための基材(W2)をカットすると共に板材(W1)をカットしない追加段のカットを実行することを特徴とする請求項1に記載の切削装置。
【請求項3】
前記制御装置(23)は、前記基材(W2)のみをカットしたときに前記検出回路(22)が検出した前記電流値または電力値に基づいて、前記基材(W2)のみのカット時における前記刃具(15)への加工負荷相当値を特定し、特定した加工負荷相当値が閾値より大きいことに基づいて、前記追加段のカットを実行し、特定した加工負荷相当値が閾値より小さいことに基づいて、前記追加段のカットを実行せず、前記複数段の最後の段で前記板材(W1)および前記基材(W2)をカットすることを特徴とする請求項2に記載の切削装置。
【請求項4】
前記制御装置(23)は、前記各段の加工負荷相当値として、前記各段のカット時に前記検出回路(22)が検出した前記電流値または電力値の最大値を採用することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の切削装置。
【請求項5】
前記制御装置(23)は、前記各段の加工負荷相当値として、前記各段のカット時に前記検出回路(22)が検出した前記電流値または電力値の平均値を採用することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の切削装置。
【請求項6】
回転式の刃具(15)を用い、板材(W1)を厚さ方向に複数段に分けて段階的にカットする切削方法であって、
前記複数段の各段のカット時に前記刃具(15)を回転させるモータに供給された電流値または電力値に基づいて、複数段の各段のカット時における前記刃具(15)への加工負荷を均一に近づけるよう、前記各段の切り込み量を補正することを特徴とする切削方法。
【請求項7】
板材(W1)から部品を製造する製造方法であって、
請求項6に記載の切削方法によって前記板材をカットする行程を含むことを特徴とする製造方法。
【請求項8】
回転式の刃具(15)を用い、板材(W1)を厚さ方向に複数段に分けて段階的にカットする切削装置であって、
前記刃具(15)を回転させるモータに供給される電流値または電力値を検出する検出回路(22)と、
前記刃具(15)による前記複数段の各段のカット時における前記刃具(15)に対する前記板材(W1)の相対的な送り速度を制御する制御装置(23)と、を備え、
前記制御装置(23)は、前記複数段の各段のカット時に前記検出回路(22)が検出した前記電流値または電力値に基づいて、前記複数段の各段のカット時における前記刃具(15)への加工負荷相当値を特定し、特定した前記各段の加工負荷相当値間の乖離量(G)に基づいて、複数段の各段のカット時における前記刃具(15)への加工負荷を均一に近づけるよう、前記各段の送り速度を補正することを特徴とする切削装置。
【請求項9】
回転式の刃具(15)を用い、板材(W1)を厚さ方向に複数段に分けて段階的にカットする切削方法であって、
前記複数段の各段のカット時に前記刃具(15)を回転させるモータに供給された電流値または電力値に基づいて、複数段の各段のカット時における前記刃具(15)への加工負荷を均一に近づけるよう、前記各段の送り速度を補正することを特徴とする切削方法。
【請求項10】
板材(W1)から部品を製造する製造方法であって、
請求項9に記載の切削方法によって前記板材をカットする行程を含むことを特徴とする製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−206191(P2012−206191A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−72490(P2011−72490)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】